JP6869759B2 - 脱進機、時計用ムーブメント及び時計 - Google Patents
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Description
特に、この脱進機は機械式時計の主流を占めているクラブトゥース・レバー脱進機とは異なり、衝撃時にがんぎ車の歯先のすべりが少なくなるように設計されている。これにより、がんぎ車の歯先の摩耗を抑制することができ、耐久性を高めている。また、てんぷに対して直接的な衝撃を行う場合には、他の時計部品を介在せずにがんぎ車からてんぷに対して衝撃を伝達することができる。これにより、高効率化を図っている。
そこで、外部からの衝撃によるてんぷのほぞの変形或いは破断等を防止するために、てんぷの軸受には耐振軸受が採用されている場合が多い。耐振軸受は、てんぷに衝撃が加わったときに、てんぷが軸方向及び径方向に移動することを許容した状態で、てんぷを軸支している。これにより耐振軸受は、てんぷのほぞに加わる衝撃を吸収或いは緩和させ、耐衝撃性を確保している。
特に、がんぎ車がてんぷに先行して回転した場合、がんぎ車とアンクルとの相互の位相関係によってはアンクルの停止爪石でがんぎ車の回転を停止することができない場合があり、時計が急激に進むといった歩度の急な変化を引き起こす可能性もあった。
その直後、第1アンクルの回動に伴って第2アンクルが回動し、第2衝撃爪ががんぎ車の歯先の回転軌跡上に進入する。これにより、回転を開始したがんぎ車の歯先が第2衝撃爪に接触(衝突)する。これにより、がんぎ車に伝わった動力を、第2アンクル及び第1アンクルを介しててんぷに間接的に伝えることができ、てんぷに回転エネルギーを補充することができる。
その後、てんぷは慣性によって回転し続け、振り石が第1アンクルから離れる。そして、てんぷの回転エネルギーがひげぜんまいに全て蓄えられると、てんぷは一瞬静止した後に、ひげぜんまいに蓄えられた回転エネルギーによって逆方向に回転しはじめる。
その直後、第1アンクルの回動に伴って第2アンクルが逆方向に回動すると共に、第1衝撃爪石ががんぎ車の歯先の回転軌跡上に進入する。これにより、回転を開始したがんぎ車の歯先が第1衝撃爪石に接触(衝突)する。これにより、先ほどと同様に、がんぎ車に伝わった動力を、第1アンクルを介しててんぷに間接的に伝えることができ、てんぷに回転エネルギーを補充することができる。
この場合、第1がんぎ車の歯先が、第1アンクルの第1衝撃爪石に接触可能とされている。また、第2がんぎ車の歯先が、第1アンクルの第1停止爪石及び第2停止爪石に係脱可能とされていると共に、第2アンクルの第2衝撃爪に接触可能とされている。
ところが、例えば動力伝達の効率を考慮した場合には、第1停止爪石及び第2停止爪石が係脱可能に接触する第2がんぎ車の外径を小さくすることが望まれる。しかしながらこの場合には、それに対応して第1がんぎ車の外径も小さくせざるを得なくなってしまい、第1がんぎ車の歯先と第1衝撃爪石との隙間関係が小さくなってしまい、適切な衝突を行うことが難しくなってしまう。従って、結果的にがんぎ車全体のサイズを大きくせざるを得ず、それによって第2がんぎ車の外径が大きくなって、動力の伝達効率の低下を招いてしまうものであった。
このように、がんぎ車に伝わった動力を間接的にてんぷに伝えることができると共に、てんぷに対応した一定の振動でがんぎ車の回転を制御することができる。
さらに、がんぎ車の回転中心と衝撃アンクルユニットを構成するアンクルの回動中心との間の中心間距離や、がんぎ車の回転中心と停止アンクルユニットを構成するアンクルの回動中心との間の中心間距離を、衝撃の作用及び停止の作用を考慮して最適な距離にそれぞれ設定することができる。従って、1つの共通するアンクルに衝撃爪石及び停止爪石が組み込まれていた従来の脱進機とは異なり、第1がんぎ歯車及び第2がんぎ歯車の径比を自由に選択することが可能となる。これにより、動力の伝達効率をさらに向上させ易いうえ、二層構造のがんぎ車の設計自由度を向上することができる。
なお、第2衝撃アンクルの衝撃爪石が、停止爪石が係脱する第1がんぎ歯車に接触するので、例えば停止に最適なレイアウトで停止アンクルユニットのアンクルと第1がんぎ歯車との位置関係を決定した場合、それによって第1がんぎ歯車に対する第2衝撃アンクルの相対位置も決定され易い。しかしながらこの場合であっても、第1衝撃アンクルが第2がんぎ歯車に対して接触可能な衝撃爪石を有しているので、例えば第1がんぎ歯車と第2がんぎ歯車との位相を変化させることで、衝撃に最適なレイアウトとなるように第1衝撃アンクルの位置を調整しながら配置することが可能である。
(5)本発明に係る時計は、上記時計用ムーブメントと、前記脱進機及び前記調速機により調速された回転速度で回転する指針と、を備えている。
以下、本発明に係る第1実施形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、時計の一例として機械式時計を例に挙げて説明する。また、各図面において、各部品を視認可能な大きさとするために、必要に応じて各部品の縮尺を適宜変更している。
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。
時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側(すなわち、文字板のある方の側)をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側(すなわち、文字板と反対の側)をムーブメントの「表側」と称する。
なお、本実施形態では、文字板からケース裏蓋に向かう方向を上方、その反対側を下方と定義して説明する。
地板11の表側には、表輪列(本発明に係る輪列)12と、表輪列12の回転を制御する脱進機13と、脱進機13を調速する調速機14と、を備えている。
てんぷ30は、てん真31、てん輪32及び図示しないひげぜんまいを備え、地板11と図示しないてんぷ受との間に軸支されている。てんぷ30は、ひげぜんまいを動力源として、回転軸線O1回りに、香箱車20の出力トルクに応じた定常振幅(振り角)で往復回転(正逆回転)する。
なお、図示の例では、回転軸線O1を中心として90度の間隔をあけて4つのアーム部33が配置されたてん輪32としているが、アーム部33の数、配置や形状はこの場合に限定されるものではなく、自由に変更して構わない。
振り座35は、大つば36、及び大つば36よりも下方(地板11側)に位置する小つば37を有している。大つば36には、ルビー等の人工宝石から形成された振り石38が例えば圧入固定されている。
振り石38は、平面視で半円形状に形成され、大つば36から下方に向けて延びるように形成されている。振り石38は、てんぷ30に伴って回転軸線O1回りに往復回転し、その途中で後述するアンクルハコ74に対して離脱可能に係合する。
なお、図3以外の各図面では、図面を見易くするために、振り座35のうち小つば37及び振り石38を主に図示している。
図4に示すように、脱進機13は、上述した振り座35と、ぜんまいから伝達される動力によって回転するがんぎ車40と、アンクルチェーン50と、第1衝撃爪石(本発明に係る衝撃爪石)60及び第2衝撃爪石(本発明に係る衝撃爪石)61と、第1停止爪石(本発明に係る停止爪石)62及び第2停止爪石(本発明に係る停止爪石)63と、を備えている。
なお、振り座35は、上述したようにてんぷ30及び調速機14を構成する構成部品であると共に、脱進機13を構成する構成部品とされている。
なお、図4において回転軸線O2を中心として時計回りに回転する方向を第1回転方向M1、その反対方向を第2回転方向M2と称している。
図示の例では、第1がんぎ歯44の歯数は8歯とされている。ただし、この場合に限定されるものではなく、第1がんぎ歯44の歯数は適宜変更して構わない。例えば6歯、10歯、12歯の第1がんぎ歯44を有する第1がんぎ歯車42としても構わない。
なお、がんぎ車40の回転に伴って第1がんぎ歯44の歯先が描く回転軌跡R1を、単に第1がんぎ歯車42の回転軌跡R1という。
なお、本実施形態では、第2がんぎ歯車45のうち、歯先部分である第2がんぎ歯46だけが第1がんぎ歯車42の歯車本体43上に一体に形成されている場合を例にしている。また、第2がんぎ歯46の歯数は、第1がんぎ歯44の歯数と同じ8歯とされている。これにより、第2がんぎ歯46は、第1がんぎ歯車42における歯車本体43と第1がんぎ歯44との接続部分に一体に形成されている。
また、第2がんぎ歯車45は、第1がんぎ歯車42に対して回転軸線O2回りに位相が僅かにずれている。図示の例では、第2がんぎ歯46は、第1がんぎ歯44よりも第1回転方向M1側に位置するように、位相がずれている。
ただし、がんぎ車40の材料や製造方法は、上述した場合に限定されるものではなく、適宜変更して構わない。また、がんぎ車40の性能や剛性等に影響を与えない範囲で、がんぎ車40に肉抜き孔や薄肉部を適宜設けて軽量化を図っても構わない。図示の例では、第1がんぎ歯車42に肉抜き孔を複数形成している。
具体的には、アンクルチェーン50は、第1衝撃アンクル51及び第2衝撃アンクル52を有する衝撃アンクルユニット53と、停止アンクル55を有する停止アンクルユニット56と、を備えている。衝撃アンクルユニット53と停止アンクルユニット56とは互いに相対変位可能に連結されている。
つまり、第1衝撃アンクル51と第2衝撃アンクル52とが相対変位可能に互いに連結され、第1衝撃アンクル51と停止アンクル55とが相対変位可能に互いに連結されている。これにより、停止アンクル55、第1衝撃アンクル51及び第2衝撃アンクル52は、一列状に繋がるように互いに連結されている。
本実施形態では、衝撃アンクルユニット53が2つのアンクルで構成され、停止アンクルユニット56が1つのアンクルで構成されている。
図4〜図7に示すように、第1衝撃アンクル51は、平面視でがんぎ車40とてん真31との間に配置され、回動軸であるアンクル真70、アンクル体71及びアンクルアーム72を備えている。そして、第1衝撃アンクル51は、てんぷ30の往復回転に基づいて回動軸線O3回りに回動する。
なお、がんぎ車40と同様に、アンクル体71及びアンクルアーム72に肉抜き孔や薄肉部を適宜設けて軽量化を図っても構わない。図示の例では、アンクル体71及びアンクルアーム72に肉抜き孔を複数形成している。
剣先75は、アンクル体71の先端部に対して下方から例えば圧入等によって固定されている。剣先75は、平面視で一対のクワガタ73間に位置(すなわちアンクルハコ74の内側に位置)すると共に、クワガタ73よりもてん真31側に突出するように延びている。剣先75の先端部は、振り石38がアンクルハコ74から離脱している状態において、小つば37の外周面のうちツキガタ39を除いた部分に対して若干の隙間をあけて径方向に対向し、且つ振り石38がアンクルハコ74に係合している状態において、ツキガタ39内に収容される。
第1衝撃爪石60は、第1爪石保持部76よりもがんぎ車40側に突出した状態で保持されている。第1衝撃爪石60の突出部分のうち、第2回転方向M2側を向いた側面は、第2がんぎ歯46の第2作用面46aが接触する第1衝撃面60aとされている。
アンクルアーム72は、アンクル体71の基部から、第2回転方向M2側に向けて延びるように形成されている。アンクルアーム72の先端部には第2係合フォーク78が形成されている。第2係合フォーク78の先端部は、第1係合フォーク77と同様に回動軸線O3の周方向に二股状に分岐している。
具体的には、第1衝撃アンクル51は、てんぷ30の往復回転に伴って移動する振り石38によって、てんぷ30の回転方向とは反対の方向に向けて回動軸線O3回りに回動する。このとき、第1衝撃爪石60は、第1衝撃アンクル51の回動によって第2がんぎ歯車45の回転軌跡R2に対する進入と退避とを繰り返す。これにより、第2がんぎ歯46の第2作用面46aを、第1衝撃爪石60の第1衝撃面60aに対して接触(衝突)させることが可能となる。
第2衝撃アンクル52は、平面視で第1衝撃アンクル51よりも第2回転方向M2側に配置され、回動軸であるアンクル真80及びアンクル体81を備えている。そして、第2衝撃アンクル52は、第1衝撃アンクル51の回転に基づいて、第1衝撃アンクル51の回動方向とは反対の方向に向けて回動軸線O4回りに回動する。
これにより、第1衝撃アンクル51及び第2衝撃アンクル52は、相対変位可能に互いに連結され、互いに反対方向に向けて回動する。
第2衝撃爪石61は、第2爪石保持部83よりもがんぎ車40側に突出した状態で保持されている。第2衝撃爪石61の突出した部分のうち、第2回転方向M2側を向いた側面は、第1がんぎ歯44の第1作用面44aが接触する第2衝撃面61aとされている。
なお、本実施形態では第1衝撃アンクル51と第2衝撃アンクル52とは、回動方向が反対となるように連結されているが、これに限定されるものではなく、第1衝撃アンクル51と第2衝撃アンクル52とが同方向に回動するように連結されていてもよい。
停止アンクル55は、平面視で第1衝撃アンクル51よりも第1回転方向M1側に配置され、回動軸であるアンクル真90及びアンクル体91を備えている。そして、停止アンクル55は、第1衝撃アンクル51の回転に基づいて、第1衝撃アンクル51の回動方向とは反対の方向に向けて回動軸線O5回りに回動する。
従って、第1衝撃アンクル51、第2衝撃アンクル52、停止アンクル55及びがんぎ車40の高さ関係としては、がんぎ車40が最も地板11に近い最下層に位置し、その上方に第2衝撃アンクル52及び停止アンクル55が位置し、さらにその上方に第1衝撃アンクル51が位置する関係となる。
第1停止爪石62は、第3爪石保持部93よりもがんぎ車40側に突出した状態で保持されている。第1停止爪石62の突出した部分のうち、第2回転方向M2側を向いた側面は、第1がんぎ歯44の第1作用面44aが係合する第1係合面62aとされている。なお、第1停止爪石62は、いわゆる入爪石として機能する。
第2停止爪石63は、第4爪石保持部94よりもがんぎ車40側に突出した状態で保持されている。第2停止爪石63の突出した部分のうち、第2回転方向M2側を向いた側面は、第1がんぎ歯44の第1作用面44aが係合する第2係合面63aとされている。なお、第2停止爪石63は、いわゆる出爪石として機能する。
これにより、第1がんぎ歯44の第1作用面44aを、第1停止爪石62の第1係合面62a、或いは第2停止爪石63の第2係合面63aに対して係合させることが可能となる。
同様に、第2衝撃アンクル52の第2爪石保持部83の外側面85は、第2爪石保持部83よりも第2回転方向M2側に配置された他方のドテピン87に対して接触することで、第2衝撃アンクル52の回動を規制して位置決めする上記規制部として機能する。
一対のドテピン86、87は、例えば地板11から上方に向けて突出するように固定されている。
次に、上述のように構成された脱進機13の動作について説明する。
なお、以下の説明における動作開始状態では、図4に示すように、第1がんぎ歯44の第1作用面44aが第1停止爪石62の第1係合面62aに係合していると共に、第2衝撃アンクル52における外側面84が一方のドテピン86に対して接触して第2衝撃アンクル52が位置決めされている。これにより、がんぎ車40は回転が停止している。さらに、てんぷ30の自由振動によって振り石38が時計回りに移動し、アンクルハコ74の内側に進入している。
なお、アンクルハコ74と振り石38との係合時、小つば37と剣先75とは互いに接触することがないので、てんぷ30からの動力を第1衝撃アンクル51に効率よく伝えることができる。
すなわち、第1衝撃アンクル51が回動軸線O3を中心として反時計回りに回動し、第2衝撃アンクル52が回動軸線O4を中心として時計回りに回動し、停止アンクル55が回動軸線O5を中心として時計回りに回動する。
そして、第1停止爪石62が第1がんぎ歯車42の回転軌跡R1から僅かに外れた位置まで移動することで、第1停止爪石62を第1がんぎ歯44から離脱させて、第1がんぎ歯44との係合を解除することができる。これにより、がんぎ車40の停止の解除を行うことができる。
このように、がんぎ車40を瞬間的に後退させることで、表輪列12の噛み合いをより確実にすることができ、安定且つ高い信頼性で表輪列12を作動させることができる。
このように、がんぎ車40に伝わった動力を、第1衝撃アンクル51を介しててんぷ30に間接的に伝えることで、てんぷ30に回転エネルギーを補充することができる。
そして、図11に示すように、第1衝撃爪石60が第2がんぎ歯車45の回転軌跡R2から僅かに外れた位置まで移動することで、上述したてんぷ30への間接的な衝撃が終了する。
これにより、図13に示すように、振り石38は、てんぷ30の反時計回りの回転に伴って第1衝撃アンクル51に向けて接近するように移動を開始する。
そして、図15に示すように、後退したがんぎ車40が第1回転方向M1に向けて回転を再開すると、第1がんぎ歯車42の回転軌跡R1に進入していた第2衝撃爪石61の第2衝撃面61aに対して第1がんぎ歯44の第1作用面44aが接触(衝突)する。
このように、がんぎ車40に伝わった動力を、第2衝撃アンクル52及び第1衝撃アンクル51を介しててんぷ30に間接的に伝えることで、てんぷ30に回転エネルギーを補充することができる。
そして、図16に示すように、第2衝撃爪石61が第1がんぎ歯車42の回転軌跡R1から僅かに外れた位置まで移動することで、上述したてんぷ30への間接的な衝撃が終了する。
従って、いわゆる間接衝撃型の脱進機13として動作させることができ、てんぷ30に対して直接的に動力を伝達する場合に比べて、安定した動作および動力の伝達を確保することができる。
そのため、がんぎ車40に対する衝撃アンクルユニット53(第1衝撃アンクル51及び第2衝撃アンクル52)の相対位置、及びがんぎ車40に対する停止アンクルユニット56(停止アンクル55)の相対位置をそれぞれ制約少なく自由に設計配置することができ、衝撃及び停止にそれぞれ最適なレイアウトで衝撃アンクルユニット53及び停止アンクルユニット56を配置することが可能である。
図18は、がんぎ車40の回転中心(すなわち回転軸線O2)と、停止アンクル55の回動中心(すなわち回動軸線O5)と、がんぎ車40の退却角と、の関係を示す。
なお、図18では、がんぎ車40の図示を省略しているが、第1がんぎ歯44の歯先が描く回転軌跡R1については図示している。よって、回転軌跡R1は第1がんぎ歯車42の外径に対応する。
これらのいずれの場合であっても、第1停止爪石62は、第1がんぎ歯44が係合する係合位置X1と、第1がんぎ歯車42の回転軌跡R1から外れた位置に移動して、第1がんぎ歯44との係合が解除される解除位置X2と、の間を停止アンクル55の回動に伴って移動する。
図18に示すように、停止アンクル55の回動中心が第1がんぎ歯車42の回転軌跡R1に対して距離L2だけ離れている状態と、停止アンクル55の回動中心が第1がんぎ歯車42の回転軌跡R1に対して距離L1だけ離れている状態と、で停止アンクル55を同じ作動角α2だけそれぞれ回動させた場合には、距離L2よりも距離L1のときの方が退却角α3を小さくすることができる。すなわち、停止アンクル55の回動中心が回転軌跡R1に近い場合の方が退却角α3を小さくすることができる。
従って、本実施形態によれば、がんぎ車40の停止解除に必要なエネルギーを小さくして、動力の伝達効率を向上させると共に、作動誤差を少なくすることができる。
図19は、第2がんぎ歯車45の第2がんぎ歯46と第1衝撃爪石60とが接触している場合の関係を示す図である。なお、図19では、第2がんぎ歯46の歯先と第1衝撃爪石60とが線接触に近い状態で接触するものとして説明する。
第2がんぎ歯46と第1衝撃爪石60との接触によって、がんぎ車40から第1衝撃爪石60に効率良く動力を伝達する際、例えば歯部同士の噛み合いにおけるピッチ点と同様に、第2がんぎ歯46と第1衝撃爪石60とのピッチ点P0で動力を伝達することが好ましい。
この場合、がんぎ車40の回転中心とピッチ点P0との間の距離L3と、第1衝撃アンクル51の回動中心とピッチ点P0との間の距離L4との比率が、がんぎ車40の作動角α4と第1衝撃アンクル51の作動角α5との比率に対して略逆比となる。つまり、(L3/L4)≒(α5/α4)をほぼ満たす関係となる。
本実施形態によれば、第1衝撃アンクル51に、停止用の爪石が取り付けられておらず、衝撃用の爪石である第1衝撃爪石60だけが取り付けられている。同様に、第2衝撃アンクル52に、衝撃用の爪石である第2衝撃爪石61だけが取り付けられている。そのため、衝撃の作用だけに着目して、第1衝撃アンクル51及び第2衝撃アンクル52の作動角を最適な角度に設定することが可能である。
従って、がんぎ車40に伝わった動力をてんぷ30に対して効率良く伝えることができる。
しかしながらこの場合であっても、第1衝撃アンクル51が、第1がんぎ歯車42とは異なる第2がんぎ歯車45の第2がんぎ歯46に対して接触可能な第1衝撃爪石60を有しているので、例えば第1がんぎ歯車42と第2がんぎ歯車45との位相を変化させることで、衝撃に最適なレイアウトとなるように第1衝撃アンクル51の位置を調整しながら配置することが可能である。従って、てんぷ30に対して効率良く動力を伝えることができる。
この点、本実施形態においても、第1がんぎ歯車42と第2がんぎ歯車45との位相を変化させている。
次に、本発明に係る第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第2実施形態においては、第1実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第1実施形態では、第2衝撃爪石61が第1がんぎ歯44に対して接触する構成とされていたが、第2実施形態では、第1衝撃爪石60及び第2衝撃爪石61の両方が第2がんぎ歯46に対して接触可能とされている。
これにより、図20に示すように、第1がんぎ歯44と第1停止爪石62とが係合しているときに、第1衝撃アンクル51が一方のドテピン86に接触して位置決めされる。なお、第1がんぎ歯44と第2停止爪石63とが係合しているときに、第1衝撃アンクル51が他方のドテピン87に接触して位置決めされる。
このように構成されている本実施形態の脱進機100の場合には、第1実施形態と同様に、第1がんぎ歯44と第1停止爪石62及び第2停止爪石63との係脱を交互に繰り返し行うことができる。これに対して、衝撃に関しては、第1衝撃爪石60及び第2衝撃爪石61が、ともに第2がんぎ歯46に接触可能とされているので、第1衝撃爪石60と第2衝撃爪石61とを交互に第2がんぎ歯46に接触(衝突)させることができる。
次に、本発明に係る第3実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第3実施形態においては、第2実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第2実施形態では、第1衝撃アンクル51がてんぷ30の振り石38に追従するように回動したが、第3実施形態では、第2衝撃アンクル52がてんぷ30の振り石38に追従して回動するように構成されている。
また、本実施形態では、第2衝撃アンクル52に一対のクワガタ73が形成されていることに伴って、一対のクワガタ73よりも第2回転方向M2側に一方のドテピン86が配置され、一対のクワガタ73よりも第1回転方向M1側に他方のドテピン87が配置されている。
このように構成されている本実施形態の脱進機110の場合であっても、てんぷ30の振り石38によって第2衝撃アンクル52が最初に回動する点が第2実施形態と異なるだけで、各アンクルを第2実施形態と同様に回動させることができる。
つまり、第1がんぎ歯44と第1停止爪石62及び第2停止爪石63との係脱を交互に繰り返し行うことができると共に、第2がんぎ歯46と第1衝撃爪石60及び第2衝撃爪石61との接触を利用したてんぷ30への間接的な動力の伝達を行うことができる。
従って、例えば本実施形態の脱進機110をトゥールビヨンに適用する場合には、脱進機110を含む機構が搭載されるキャリッジユニットの小型化に貢献できる。従って、トゥールビヨンに特に適した脱進機110とすることができる。
いずれの場合であっても、第2衝撃アンクル52は、アンクルチェーン50の連結端に相当するアンクルであるので、第1がんぎ歯44が第1停止爪石62或いは第2停止爪石63に係合して、がんぎ車40の回転が停止しているときに、アンクルチェーン50全体の変位を規制することができる。
次に、本発明に係る第4実施形態について図面を参照して説明する。なお、この第4実施形態においては、第2実施形態における構成要素と同一の部分については、同一の符号を付しその説明を省略する。
第2実施形態では、第1衝撃アンクル51がてんぷ30の振り石38に追従するように回動したが、第4実施形態では、停止アンクル55がてんぷ30の振り石38に追従して回動するように構成されている。
これにより、第1衝撃アンクル51の第1係合フォーク77と停止アンクル55の係合ピン92とは、第1係合フォーク77の内面が係合ピン92の外周面に対して押し付けられた状態で互いに連結されている。
これにより、図23に示すように、第1がんぎ歯44と第1停止爪石62とが係合しているときに、停止アンクル55における外側面125が一方のドテピン86に接触して位置決めされる。また、図24に示すように、第1がんぎ歯44と第2停止爪石63とが係合しているときに、停止アンクル55における外側面126が他方のドテピン87に接触して位置決めされる。
このように構成されている本実施形態の脱進機120であっても、てんぷ30の振り石38によって停止アンクル55が最初に回動する点が第2実施形態と異なるだけで、各アンクルを第2実施形態と同様に回動させることができる。
つまり、第1がんぎ歯44と第1停止爪石62及び第2停止爪石63との係脱を交互に繰り返し行うことができると共に、第2がんぎ歯46と第1衝撃爪石60及び第2衝撃爪石61との接触を利用したてんぷ30への間接的な動力の伝達を行うことができる。
同様に、第1衝撃アンクル51の歯部122と第2衝撃アンクル52の歯部123とが、一対の弾性部124が歯部123に対して押し付けられた状態で互いに噛み合っているので、歯部122、123同士の間に隙間が生じることを抑制することができる。これにより、第1衝撃アンクル51と第2衝撃アンクル52とをがたつき少なく互いに連結させることができる。
なお、衝撃アンクルユニットを1つのアンクルで構成する場合には、例えばアンクルをがんぎ車の周方向に沿って延びる円弧状に形成し、且つ周方向の両端部ががんぎ車を挟んで径方向の反対側に位置するように形成すれば良い。そして、アンクルの両端部に衝撃爪石をそれぞれ取り付ければ良い。
このように構成することで、1つのアンクルの回動であっても、アンクルの両端部に取り付けた衝撃爪石を交互にがんぎ車に接触(衝突)させることができるので、第1実施形態と同様の作用効果を奏功することが可能となる。
4…指針
10…ムーブメント(時計用ムーブメント)
12…表輪列(輪列)
13、100、110、120…脱進機
14…調速機
40…がんぎ車
51…第1衝撃アンクル(アンクル)
52…第2衝撃アンクル(アンクル)
53…衝撃アンクルユニット
55…停止アンクル(アンクル)
56…停止アンクルユニット
60…第1衝撃爪石(衝撃爪石)
61…第2衝撃爪石(衝撃爪石)
62…第1停止爪石(停止爪石)
63…第2停止爪石(停止爪石)
Claims (5)
- 第1がんぎ歯車と、前記第1がんぎ歯車と同軸上に配置されると共に第1がんぎ歯車とは外径が異なる第2がんぎ歯車と、を有し、伝達される動力によって回転する二層構造のがんぎ車と、
相対変位可能に互いに連結され、てんぷの回転に基づいて回動する衝撃アンクルユニット及び停止アンクルユニットと、を備え、
前記停止アンクルユニットは、少なくとも1つ以上のアンクルで構成されると共に、前記第1がんぎ歯車に対して係脱可能とされた停止爪石を有し、
前記衝撃アンクルユニットは、少なくとも1つ以上のアンクルで構成されると共に、複数の衝撃爪石を有し、
複数の前記衝撃爪石のうちの少なくとも1つの衝撃爪石は、前記停止爪石の非係合時に、前記第2がんぎ歯車に対して接触可能とされ、
前記衝撃アンクルユニットは、相対変位可能に互いに連結されると共に、前記衝撃爪石をそれぞれ有する第1衝撃アンクル及び第2衝撃アンクルを備え、
前記第1衝撃アンクル及び前記第2衝撃アンクルのうちの少なくともいずれか一方の衝撃アンクルが有する前記衝撃爪石が、前記停止爪石の非係合時に前記第2がんぎ歯車に対して接触可能とされ、
前記第1衝撃アンクル及び前記第2衝撃アンクルは、前記第1衝撃アンクル及び前記第2衝撃アンクルのうちの一方の衝撃アンクルが前記がんぎ車の回転方向と同方向に回動するときに、他方の衝撃アンクルが前記がんぎ車の回転方向とは逆方向に回動するように連結されている、脱進機。 - 請求項1に記載の脱進機において、
前記第1衝撃アンクルが有する前記衝撃爪石は、前記第2がんぎ歯車に対して接触可能とされ、
前記第2衝撃アンクルが有する前記衝撃爪石は、前記第1がんぎ歯車に対して接触可能とされている、脱進機。 - 請求項1に記載の脱進機において、
前記第1衝撃アンクル及び前記第2衝撃アンクルが有する前記衝撃爪石は、ともに前記第2がんぎ歯車に対して接触可能とされている、脱進機。 - 請求項1から3のいずれか1項に記載の脱進機と、
前記てんぷを有する調速機と、
前記がんぎ車に動力を伝える輪列と、を備えている、時計用ムーブメント。 - 請求項4に記載の時計用ムーブメントと、
前記脱進機及び前記調速機により調速された回転速度で回転する指針と、を備えている、時計。
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