特許文献2記載の制振装置では、復元力は、ほぼ線形に変化することが想定されていた。これに対し、特許文献1記載の免振装置は、非線形の特性を有するものである。
しかしながら、特許文献1記載の免振装置では、磁性体の転動体を利用する。ベースプレートとスライドプレートの間にあるリテーナーは、1枚のリテーナーを利用するものが原則となり、複数枚のリテーナーへ拡張することが困難であった。そのため、大きな変位に対応することが難しかった。
そこで、本願発明は、実用的な特性を有しつつ、大きな変位にも対応することが可能な支承装置等を提案することを目的とする。
本願発明の第1の観点は、水平方向の少なくとも一つの向きに変位して復元する支承装置であって、複数の沓部を備え、前記複数の沓部は、鉛直方向に重ねた状態にあって、隣接する沓部との間で摺動して水平方向に変位し、各沓部は、第1磁石部と、前記第1磁石部の側面を囲う非磁性体部を備え、上側の前記沓部の前記第1磁石部は、下面が第1極性であり、下側の前記沓部の前記第1磁石部は、上面が前記第1極性と対極の第2極性であり、上側の前記沓部の前記第1磁石部の下面と下側の前記沓部の前記第1磁石部の上面は、同じ大きさであって、中立時に重なる位置にあり、最大に変位した状態でも少なくとも一部が重なる状態にあるものである。
本願発明の第2の観点は、第1の観点の支承装置であって、前記各沓部は、前記第1磁石部に加えて第2磁石部を備え、上側の前記沓部の前記第2磁石部は、下面が前記第2極性であり、下側の前記沓部の前記第2磁石部は、上面が前記第1極性であり、前記非磁性体部は、前記第1磁石部及び前記第2磁石部の側面を囲い、上側の前記沓部の前記第2磁石部の下面と下側の前記沓部の前記第2磁石部の上面は、同じ大きさであって、中立時に重なる位置にあり、最大に変位した状態でも少なくとも一部が重なる状態にあり、上側の前記沓部の前記第1磁石部の下面と下側の前記沓部の前記第2磁石部の上面は、最大に変位した状態でも重ならず、上側の前記沓部の前記第2磁石部の下面と上側の前記沓部の前記第1磁石部の上面は、最大に変位した状態でも重ならないものである。
本願発明の第3の観点は、第2の観点の支承装置であって、最も上にある前記沓部及び最も下にある前記沓部は、それぞれ、上部及び下部に磁性体部を備えることにより、前記非磁性体部を利用して、上部の磁性体部、前記第1磁石部、下部の磁性体部及び前記第2磁石部による磁気回路を形成するものである。
本願発明の第4の観点は、第1から第3のいずれかの観点の支承装置であって、上側の前記沓部の下面及び下側の前記沓部の上面は、それぞれ、下に凸形状及び上に凹形状、又は、下に凹形状及び上に凸形状であり、前記沓部は、前記凸形状の一部に第一摺動部を備え、前記沓部は、前記凹形状の窪みの底に第二摺動部を備え、上側の前記沓部の下面の凸形状又は凹形状の部分が下側の前記沓部の上面の凹形状又は凸形状の部分に水平方向の隙間を持って嵌合することにより、最大に変位する長さが制限され、かつ、前記第一摺動部と前記第二摺動部が摺動するものである。
本願発明の第5の観点は、第1から第4のいずれかの観点の支承装置であって、前記沓部において前記凹形状が上向きのときに、前記凹形状の第二摺動部に摺動液を保持するものである。
本願発明の第6の観点は、第5の観点の支承装置であって、上側の前記沓部の下面にあり且つ下側の前記沓部の前記第二摺動部と接触せず且つ前記摺動液と接触する第一間接接触部、又は、下側の前記沓部の上面にあり且つ上側の前記沓部の前記第一摺動部と接触せず且つ前記摺動液と接触する第二間接接触部を備えるものである。
本願発明の第7の観点は、第1から第6のいずれかの観点の支承装置であって、前記少なくとも最大に変位した状態で、磁力以外によって上側の沓部と下側の沓部との間の復元力を生じる復元部を備えるものである。
本願発明の第8の観点は、第1から第7のいずれかの観点の支承装置を鉛直方向に重ね、鉛直方向に隣り合う下部の磁性体と上部の磁性体を一体化する支承システムである。
本願発明の各観点によれば、磁石部の側面を非磁性体部で囲うことにより、後の実験により具体的に説明するように、実用的な復元力の特性を実現することが可能になる。さらに、複数の沓部が互いに摺動するという簡単な構造であるため、容易に多数の沓部に拡張でき、大きな変位にも対応することが可能になる。
さらに、本願発明の第2の観点によれば、沓部の第1磁石部と第2磁石部により、磁気回路を形成することが可能になる。特に、第3の観点にあるように、支承装置の上側及び下側に磁性体部を設けることにより、閉回路となる。これにより、強力な復元作用等を実現することが可能になる。
さらに、本願発明の第4の観点によれば、上側の沓部の下面を凸形状または凹形状にし、下側の沓部の上面を凹形状または凸形状にすることにより、隣り合う沓の変位を制限することが可能となる。
さらに、本願発明の第5の観点にあるように、下側の沓部の上面が上向きに凹形状である場合に、凹形状を利用して、第二摺動部にオイル等の液体を保持させて、摺動を容易にすることができる。
本願発明の第6の観点によれば、上側の前記沓部の前記第一間接接触部と下側の前記沓部の前記第二摺動部との間にある前記摺動液又は上側の前記沓部の前記第一摺動部と下側の前記沓部の前記第二間接接触部の間にある前記摺動液の粘性を利用して、上側の前記沓部と下側の前記沓部の相対速度に応じる振動減衰力としての粘性力を生成することが可能になる。
さらに、本願発明の第7の観点によれば、実験で確認された磁石による復元力が最大変位付近で減少するところにおいて、復元部により復元力を補うことができる。
さらに、本願発明の第8の観点から、前記支承装置を鉛直方向に重ねた状態として、鉛直方向に隣り合う下部の磁性体と上部の磁性体を一体化し、支承装置内部に形成する磁気回路の磁路を短くすることにより、最大変位と復元力を大きくすることができる。
以下では、図面を参照して、本願発明の実施例について説明する。なお、本願発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
本願発明の実施の形態に係る支承装置は、複数の沓部が、鉛直方向に重ねた状態にあって、隣接する沓部との間で摺動して水平方向に変位する。最も上にある沓部を上沓、最も下にある沓部を下沓、上沓と下沓の間の沓部を中間沓という。
図1は、本願発明の実施の形態に係る支承装置の一例を示す図である。この例では、各沓にある磁石が1つであり、中間沓は1枚である。(a)は支承装置1を示し、(b)は(a)の右側部分の拡大図である。(c)は上沓3、(d)は中間沓5、(e)は下沓7の一例を示す。
図1(a)を参照して、支承装置1は、上沓3、中間沓5及び下沓7を備える。
図1(c)を参照して、上沓3は、上部磁石部11(本願発明の「第1磁石部」の一例)と、上部非磁性体部13(本願発明の「非磁性体部」の一例)と、上部摺動部15(本願発明の「第一摺動部」の一例)と、上部磁性体部17(本願発明の「磁性体部」の一例)を備える。
上部磁石部11は、円板状で、例えば上面が第2極性(例えばN極)で、下面が第2極性と対極の第1極性(例えばS極)である。
上部非磁性体部13は、例えばアルミニューム合金で、非磁性体であり、上面が円形で、上部磁石部11を囲うようにある。
上部摺動部15は、例えばフッ素樹脂シートで、滑りやすく、円板状で、少なくとも上部非磁性体部13の下を覆う。なお、上部摺動部15は、上部磁石部11の下を覆わなくてもよい。
上部磁性体部17は、例えば炭素鋼で磁性体であり、上面が円形で、上部磁石部11と上部非磁性体部13の上を覆うようにある。
上部非磁性体部13の最下面14は、上部磁性体部17の下面16よりも下方に突出している。さらに、上部摺動部15は、上部非磁性体部13の最下面14(本願発明の「第一間接接触部」の一例)よりも下方に突出している。上沓3の下面は、下に凸な形状であり、上部摺動部15は、この凸形状の突出する部分の一部を形成している。
図1(d)を参照して、中間沓5は、中間磁石部21(本願発明の「第1磁石部」の一例)と、中間非磁性体部23(本願発明の「非磁性体部」の一例)と、中間下摺動部25(本願発明の「第一摺動部」の一例)と、中間上摺動部29(本願発明の「第二摺動部」の一例)を備える。
中間磁石部21は、円板状で、例えば上面が第2極性(例えばN極)で、下面が第2極性と対極の第1極性(例えばS極)である。
中間非磁性体部23は、例えばアルミニューム合金で、非磁性体であり、中間磁石部21を囲うようにある。中間非磁性体部23は、上面が凹形状で、下面は下に突出した部分がある。
中間下摺動部25は、例えばフッ素樹脂シートで、滑りやすく、円板状で、少なくとも中間部非磁性体23の下を覆う。なお、中間下摺動部25は、中間磁石21の下を覆わなくても良い.
中間下摺動部25は、中間非磁性体部23の最下面24(本願発明の「第一間接接触部」の一例)よりも下方に突出している。中間沓5の下面は、下に凸な形状であり、中間下摺動部25は、凸形状の突出する部分の一部を形成している。
中間上摺動部29は、例えば磨きオーステナイト系ステンレス鋼であり、中間非磁性体部の凹形状の窪みの底にある。中間沓5の上面は凹形状である。中間上摺動部29は、中間磁石21の上を覆わなくてもよい。そして、例えばシリコーンオイルのように滑りやすくする液体(本願請求項の「摺動液」の一例)が充填されている。
防溢材22が、凹形状の盛り上がった部分に形成されている。防溢材22は、例えばニトリルゴム製であり、上部に比べて下部が大きい形状であり、凹形状の盛り上がった部分に嵌めこまれたような状態で、抜けにくい構造となっている。
図1(e)を参照して、下沓7は、下部磁石部31(本願発明の「第1磁石部」の一例)と、下部非磁性体部33(本願発明の「非磁性体部」の一例)と、下部磁性体部37(本願発明の「磁性体部」の一例)と、下部摺動部39(本願発明の「第二摺動部」の一例)を備える。
下部磁石部31は、円板状で、例えば上面が第2極性(例えばN極)で、下面が第1極性(例えばS極)である。
下部非磁性体部33は、例えばアルミニューム合金で、非磁性体であり、下部磁石部31を囲うようにある。下部非磁性体部33は、上面と下面は円形である。
下部磁性体部37は、例えば炭素鋼で磁性体であり、上面が凹形状で、下面が円形で、下部磁石部31と下部非磁性体部33の下を覆うようにある。
下部摺動部39は、例えば磨きオーステナイト系ステンレス鋼であり、下部非磁性体部33の上にある。よって、下沓の上面は凹形状である。下部摺動部39は下部磁石部31の上を覆わなくても良い。そして、例えばシリコーンオイルのように滑りやすくする液体(本願請求項の「摺動液」の一例)が充填されている。
下部磁性体部の上面を凹形状とする代わりに、下部非磁性体部33の上面を凹形状として、下部摺動部39は下部非磁性体部33の凹形状の窪みの底にあってもい。
防溢材32が、凹形状の盛り上がった部分に形成されている。防溢材32は、例えばニトリルゴム製であり、上部に比べて下部が大きい形状であり、凹形状の盛り上がった部分に嵌めこまれたような状態で、抜けにくい構造となっている。
図1(b)を参照して、シリコーンオイルは、上部非磁性体部13の最下面14(本願発明の「第一間接接触部」の一例)と接触し、上沓3と中間沓5の相対速度に応じて(すなわち、最下面14と中間上摺動部29の相対速度に応じて)、振動減衰力としての粘性力が最下面14と中間上摺動部29にそれぞれ作用するように、シリコーンオイルの液面18が最下面14より高くなるまで、シリコーンオイルは中間上摺動部29に充填するのがよい。
同様に、シリコーンオイルが中間非磁性体部23の最下面24(本願発明の「第一間接接触部」の一例)と接触し、中間沓5と下沓7の相対速度に応じて(すなわち、最下面24と下部摺動部39の相対速度に応じて)、振動減衰力としての粘性力が最下面24と下部摺動部39にそれぞれ作用するように、シリコーンオイルの液面28が最下面24より高くなるまで、シリコーンオイルは下部摺動部39に充填するのがよい。
振動減衰力としての粘性力の大きさは、例えば、最下面14と最下面24のそれぞれの面積、最下面14と中間上摺動部29の鉛直方向の間隔、最下面24と下部摺動部39の鉛直方向の間隔、シリコーンオイルの粘度で調整することが可能である。
振動減衰力としての粘性力を生成あるいは増強するために、最下面14及び最下面24に相当する部分を、それぞれ上部非磁性体部13及び中間非磁性体部23の他の部位に設けてもよい。例えば、上部摺動部15の下面より上に窪んだ状態の上部磁石部11の下面及び中間下摺動部25の下面より上に窪んだ状態の中間磁石部21の下面(それぞれ、本願発明の「第一間接接触部」の一例)をシリコーンオイルと接触させて粘性力を発生させてもよい。粘性力を生成する窪みは各磁石部の下面に限らず、例えば、上部摺動部15および中間下摺動部25に設けた窪みや溝など(本願発明の「第一間接接触部」の一例)としてもよい。
さらに、例えば、中間上摺動部29の上面より下に窪んだ状態の中間磁石部21の上面及び下部摺動部39の上面より下に窪んだ状態の下部磁石部31の上面(それぞれ、本願発明の「第二間接接触部」の一例)をシリコーンオイルと接触させて、粘性力を生成させてもよい。粘性力を生成する窪みは各磁石部の上面に限らず、例えば、中間上摺動部29および下部摺動部39に設けた窪みや溝など(本願発明の「第二間接接触部」の一例)としてもよい。
摺動部の材料と材料の組合せは任意であり、シリコーンオイルなどの液体の代わりに黒鉛などの固体潤滑剤を用いて摺動部の摩擦係数を調整してよい。また、摺動部にシリコーンオイルなどを含浸させた材料を用いてもよい。摺動部に液体を充填しない場合は、各沓の凸形状を鉛直上向きに凹形状を鉛直下向になるように各沓を鉛直方向に重ねてもよい。摺動部で発生する摩擦力は、支承装置の振動減衰要素の一つとなるので、摺動部の摩擦係数が必要とされる支承装置の振動減衰性能に合うように、摺動部の材料、摺動部の表面性状、摺動液などの組合せを適宜調整するのがよい.
また、中間沓5の防溢材22及び下沓7の防溢材32は、それぞれ、上沓3の上部磁性体部17の下面16及び中間沓5の中間非磁性体部23の下面26と接触し且つ摺動し、凸形状と凹形状が接触して支承装置1が最大変位に達する前後で、各防溢材は凹形状の中の液体が凹形状の外へ溢れ出るのを防止する。さらに、各防溢材は各摺動部への火炎の進入や埃などの進入を防止する。
上部非磁性体部13と中間非磁性体部23および下部非磁性体部33は、単一の非磁性材料で形成する必要は無く、例えば、磁石部の回りを樹脂とし、さらに樹脂の回りを他の樹脂または非鉄金属とするなど、複数の非磁性材料で形成してよい。
支承装置1の上部磁性体17と下部磁性体37(本願発明の「磁性体部」)に作用する力の全部または力の一部は、上部非磁性体部13,中間非磁性体部23,下部非磁性体部33(本願発明の「非磁性体部」)を経由して各沓の摺動部(本願発明の「第一摺動部」と「第二摺動部」)から隣り合う沓に伝達される。
図1(f)及び(g)は、それぞれ、支承装置1の中立時(すなわち、外力が働いていない状態)及び最大変位時の平面図を示す。図1(h)及び(i)は、それぞれ、(f)及び(g)のときの中間断面図を示す。
図1(f)及び(h)を参照して、上部磁石部11、中間磁石部21及び下部磁石部31は、同じ大きさであり、中立時に重なっている。
図1(g)及び(i)を参照して、上沓3と下沓7に外力Hが働いて、最大の変位となったとき、上沓3及び中間沓5が移動している。上側の凸形状と下側の凹形状により変位が制限されており、上部磁石部11、中間磁石部21及び下部磁石部31は、最大変位時にも一部は重なっている。そのため、変位中、少なくとも一部は重なったままである。上沓3の上部磁石部11の中心と下沓7の下部磁石部31の中心との変位をuとする。
図2は、本願発明の実施の形態に係る支承装置の他の例を示す図である。この例では、各沓にある磁石が1つで、上沓と下沓で構成し、簡単な構造となっている。(a)は支承装置、(b)は上沓、(c)は下沓の一例を示す。図2の(b)上沓及び(c)下沓の構成は、それぞれ、図1の(c)上沓3及び(e)下沓7と同じ構成にすることができる。
図2(d)及び(e)は、それぞれ、支承装置の中立時及び最大変位時の平面図を示す。図2(f)及び(g)は、それぞれ、(d)及び(e)のときの中間断面図を示す。図2の支承装置は、図1の支承装置1と同様の機能を有する。ただし、最大変位が1/2と短くなる。
図3は、図1の支承装置1の試作機の外観を示す図であり、(a)全体の外観、(b)上沓の下面側の外観、(c)中沓の上面側の外観、及び、(d)下沓の上面側の外観を示す。
図4は、試作機の(a)上沓、(b)中沓及び(c)下沓の磁束密度の分布を示す。横軸は磁石部の中心からの距離、縦軸は磁束密度を示す。
実験では、上沓と中間沓と下沓を使用した支承装置の場合(図5(a)、実施例1)と、上沓と下沓のみを使用した支承装置の場合(図5(b)、実施例2)を比較した。図5(c)は、支承装置の作動状況を示す。図5(d)は、実施例1と実施例2の支承装置の磁気吸引力Vの比較を示す。磁気吸引力は、3回の平均である。磁気吸引力は、実施例2の支承装置の方が大きかった。
図6(a)は、実施例1と実施例2の支承装置の変位と見かけの復元力(摩擦力を含む)の履歴曲線を比較する図である。(b)及び(c)は、それぞれ、実施例1及び実施例2の支承装置の変位と復元力の関係を示す。(a)は、(b)と(c)を重ねたものである。横軸は、変位を磁石直径で割った値である。縦軸は、復元力を示す。実施例1の支承装置の復元力の最大は、変異が磁石直径の約50%で生じ、変異がそれより大きくなると復元力は減少した。実施例2の支承装置の復元力の最大は、変異が磁石直径の約30%で生じ、変異がそれよりも大きくなると復元力は減少した。実施例1の支承装置は、中間沓の採用により、実施例2の支承装置の倍程度の変位ストロークが可能となった。また、非線形の復元力特性を実現していることが確認された。
図6(d)は、2011年東北地方太平洋沖地震(最大加速度675gal)での数値実験での最大地震応答の予測を示す。横軸は本願発明の支承装置および積層ゴム支承とそれぞれ併用するダンパーの粘性減衰係数であり、縦軸は最大加速度を示す。変位は、積層ゴム支承と本願発明とでは変わらず、加速度は、積層ゴム支承では下に凸なグラフで、本願発明では単調に増加している。図6(e)は、長周期地震動の最大変位応答の予測を示す。積層ゴム支承は、本願発明に比較して、最大変位が大きく、特に長周期領域での最大変位が大きくなっている。
図6(f)及び(g)は、それぞれ、実施例1及び実施例2の支承装置における非磁性体部の効果を説明するための比較例1及び比較例2の変位と見かけの復元力の履歴曲線である。
比較例1は上沓、中間沓、下沓からなり、それぞれの沓は磁石の側面を囲う黄銅製の非磁性体部と非磁性体部の側面を囲う磁性体の炭素鋼または磁性体のマルテンサイト系ステンレス鋼を備える。摺動部はフッ素樹脂シート、磨きマルテンサイト系ステンレス鋼、フッ素グリースで構成されている。
実施例1の実験結果について説明する。実施例1の磁石部のネオジム磁石の寸法は外径50mm×厚10mmであり、隣り合う沓部の最大変位は25mmである。隣り合う沓部の最大変位rmaxと磁石直径Dの比はrmax/D=0.5である。実施例1は上沓、中間沓、下沓で構成されているので、支承装置の最大変位umaxは隣り合う沓部の最大変位rmaxの2倍となる。よって、最大変位はumax=50mmであり、最大変位と磁石直径の比はumax/D=1.0である。磁石部の側面を囲う非磁性体部の外径は150mm以上であり、磁石部の側面から変位方向に測った非磁性体部の長さは75mm以上である。つまり、隣り合う沓部の最大変位25mmと磁石直径50mmを超えて、非磁性体部は磁石部の側面を囲っている。
図6(b)より、変位/直径が0.5付近で見かけの復元力(摩擦力を含む)は最大となり、最大復元力は約220Nである。変位/直径が0.5を越えて大きくなると復元力は徐々に減少し、最大変位時の復元力は約180Nとなる。最大変位時(umax/D=1.0)の復元力は最大水平力の約80%である。摩擦力は約5Nであり、摩擦係数は約0.009である。
他方、比較例1の磁石部のネオジム磁石の寸法は外径80mm×厚5mmである。隣り合う沓部の変位に制限はない。磁石部の側面を囲う非磁性体部の直径は100mmとし、非磁性体部の側面は直径280mmの磁性体の炭素鋼で囲っている。磁石部の側面から変位方向に沿った非磁性体部の長さは10mmであり、その非磁性体部の側面の外側には磁性体がある。
図6(f)は見かけの復元力Hと変位uの関係である。復元力は変位/直径が約0.18で最大となり、最大水平力は約200Nである。変位が0.18を超えて増加すると、復元力は急激に減少する。rmax/D=0.7の復元力は約100Nであり、その水平力は最大水平力の約50%である。復元力が最大となる変位/直径=0.18の変位は約15mmである。この状態では、鉛直方向に隣り合う沓部の磁石部と非磁性体部が部分的に重なり、磁石部と磁性体は重なっていない。変位が20mmを超えると隣り合う沓の磁石部と磁性体が重なり、復元力が急激に減少する。
実施例1の非磁性体部の効果について、比較例1を用いて説明する。実施例1では、変形時には隣り合う沓部の磁石部と非磁性体部が部分的に重なるので、図6(b)に示すような復元力の減少は比較例1より少ない。
実施例2の実験結果について説明する。実施例2は実施例1の上沓と下沓で構成するので、隣り合う沓部の最大変位rmaxと支承装置の最大変位umaxは同じである。よって、最大変位はumax=25mmであり、最大変位と磁石直径の比はumax/D=0.5である。磁石部の側面を囲う非磁性体部の外径は150mm以上であり、磁石部の側面から変位方向に測った非磁性体部の長さは75mm以上である。つまり、隣り合う沓部の最大変位25mmと磁石直径50mmを超えて、非磁性体部は磁石の側面を囲っている。
図6(c)より、変位/直径が0.4付近で見かけの復元力は最大となり、最大復元力は約200Nである。変位/直径が0.5を越えて大きくなると復元力は徐々に減少し、最大変位時の復元力は最大復元力より僅かに小さい。
他方、比較例2は比較例1の上沓、下沓から構成されている。変位に制限はない。磁石の側面から変位方向に沿った非磁性体部の長さは10mmであり、その非磁性体部の外側には磁性体がある。
図6(g)は見かけの復元力Hと変位uの関係である。復元力は変位/直径=約0.1で最大となり、最大復元力は約200Nである。変位が0.1を超えて増加すると、復元力は急激に減少する。umax/D=0.5の水平力は約100Nであり、この時の復元力は最大復元力の約50%である。復元力が最大となる時の変位は約8mmである。この状態では、鉛直方向に隣り合う沓部の磁石部と非磁性体部が部分的に重なり、磁石部と磁性体は重なっていないが、変位が10mmを超えると隣り合う沓部の磁石部と磁性体が重なり、復元力が急速に減少する。
実施例2の非磁性体部の効果について、比較例2を用いて説明する。実施例2では、変形時には隣り合う沓部の磁石部と非磁性体部が部分的に重なるので、図6(c)に示すような変位の増加に伴う復元力の減少は比較例2より少ない。
実施例1と比較例1、並びに、実施例1と比較例2の実験結果の比較により、磁石部を囲う非磁性体部を、変位方向に最大変位を超えて延伸させることにより、変位時において隣り合う沓の磁石と非磁性体部が部分的に重なるようにすると、最大変位時における復元力を最大復元力の約80%とすることが可能となる。変位時において隣り合う沓部の磁石部と部分的に重なる磁性体が存在すると復元力が急激に減少するので、そのような構成は復元力の観点から実用的でない。
図7は、実際に設置したときの一例を示す図である。支承装置の両側に、鉛直方向の引張材(本願発明の「復元部」の一例)を設けている。図6の実験により、最大変位の後、復元力が減少していることが判明した。引張材により、この復元力の減少を補うことができる。具体的には引張材の軸力の水平方向分力が復元力の減少を補う。また、側面を粘弾性体で囲繞してもよい。側面を囲繞した粘弾性に発生する力を利用して復元力の減少を補ってもよい。このようにして復元力の減少を補うことができる。
図8は、本願発明の実施の形態に拘わる支承装置の他の例を示す図である。図8は、支承装置の(a)中立時及び(b)最大変位時の平面図を示す。(c)及び(d)は、それぞれ、(a)及び(b)の中間断面図を示す。
図8(e)及び(f)を参照して、各沓に配置される磁石部の極の配置の一例を説明する。(e)及び(f)は、それぞれ、沓を上及び下から見たときの極の配置の一例を示す。各沓にある磁石部は9個であり,9個の磁石部は平面的に格子状に配置される。格子状に配置された磁石部は、同じ面で、N極かS極かに統一されていない。格子状にN極とS極が平面的に隣り合うように磁石部は配置される。これにより、後述する磁気回路を形成し、大きな一つの磁石でなくとも、小さな複数の磁石部で、望ましい復元力を生じることができる。
中間沓は1枚である。上沓と中間沓と下沓の構成は、図1と同様であり、非磁性体部は、複数の磁石部の側面を囲っている。隣接する沓は、図1と同様に凸形状が凹形状に隙間を持って嵌合して、変位可能な距離が制限されている。
図8(a)及び(c)を参照して、上沓、中間沓及び下沓の磁石部は、同じ大きさであり、中立時に重なっている。図8(b)及び(d)を参照して、上沓と下沓に外力が働いて、最大の変位となったとき、上沓及び中間沓が移動している。上側の凸形状と下側の凹形状により変位が制限されており、各沓で、中位時に重なっていた磁石部は、最大変位時にも一部は重なっている。他方、各沓で、中位時に重なっていない磁石部は、最大変位時にも重なっていない。そのため、変位しているとき、中位時に重なっていた磁石部は、最大変位に至るまで少なくとも一部は重なったままである。他方、中位時に重なっていない磁石部は、最大変位に至るまで重ならない。
図9は、本願発明の実施の形態に係る支承装置の他の例を示す図である。この例では、図8の場合と同様に、各沓にある磁石部が9つで、上沓と下沓で構成し、簡単な構造となっている。上沓及び下沓の構成は、それぞれ、図8の上沓及び下沓と同じ構成とすることができる。
図9(a)及び(b)は、それぞれ、支承装置の中立時及び最大変位時の平面図を示す。図9(c)及び(d)は、それぞれ、(a)及び(b)のときの中間断面図を示す。図9の支承装置は、図8の支承装置と同様の機能を有する。ただし、最大変位が1/2と短くなる。
図10は、本願発明の実施の形態に係る支承装置の他の例を示す。この例では、各沓にある磁石が複数であり、沓に配置された磁石の中心を結ぶと正三角形網となる磁石配置であり、単位面積当たりの磁石数が最大となる磁石配置である。中間沓は複数枚である。
上沓と中間沓と下沓は、他の実施例と同様に、非磁性体部が、複数の磁石部の側面を囲っている。隣接する沓は、凸形状が凹形状に隙間を持って嵌合して、変位可能な距離が制限されている。
支承装置は、内部を保護するため、側面を囲繞するように粘弾性体(本願請求項の「復元部」の一例)で囲まれている。粘弾性の上側は上沓に固定され、下側は下沓に固定されている。
図10は、支承装置の(a)中立時及び(b)最大変位時の平面図を示し、(c)中立時及び(d)最大変位時の中間断面図を示す。図10(a)及び(c)を参照して、上沓、中間沓及び下沓の磁石部は、同じ大きさであり、中立時に重なっている。
図10(b)及び(d)を参照して、上沓と下沓に外力が働いて最大の変位となったとき、上沓及び中間沓が移動している。上側の凸形状と下側の凹形状により変位が制限されており、各沓で、中位時に重なっていた磁石部は、最大変位時にも一部は重なっている。他方、各沓で、中位時に重なっていない磁石部は、最大変位時にも重なっていない。そのため、変位しているとき、中位時に重なっていた磁石部は、最大変位に至るまで少なくとも一部は重なったままである。他方、中位時に重なっていない磁石部は、最大変位に至るまで重ならない。
変形時は、粘弾性体は中立時に比べて長さが長くなり、上沓と下沓には粘弾性体が伸びた方向に引張力が作用する。この引張力の水平方向分力は、上沓と下沓の変位を元に戻す復元力として作用する。支承装置が最大変位に近くなると磁気復元力が小さくなるので、この粘弾性体の引張力の水平方向分力を磁気復元力の減少を補う復元力としてよい。
図10(e)及び(f)は、各沓の複数の磁石の極の分布の一例を示す。(e)は、沓の上側の極の分布の一例を示し、(f)は沓の下側の極の分布の一例を示す。複数の磁石は、同じ面で、N極かS極かに統一されていない。N極とS極が混在する。これにより、磁気回路を形成し、大きな一つの磁石でなくとも、小さな複数の磁石で、望ましい復元力を生じることができる。
図11は、各沓が複数の磁石部を備える場合に支承装置に形成される磁気回路を示す概念図である。
図11(a)は、上沓、中間沓及び下沓を有する場合を示す。上沓、中間沓及び下沓では、鉛直方向では極が統一し、その方向が複数存在する。そして、上沓の上側の磁性体と、下沓の下側の磁性体を利用することにより、磁気回路が形成される。このような磁気回路を利用するため、複数の磁石を利用する場合には、同じ極となる磁石を集めるのではなく、隣接する磁石がなるべく異なる極となるように配置することが望ましい。
図11(b)は、(a)の支承装置を鉛直方向に重ねた状態の支承装置の磁気回路の概念図である。上側の支承装置の下部磁性体部と下側の支承装置の上部磁性体部は一体化しているが、一体化しなくても良い。図11(a)に示した磁気回路と同様の磁気回路が形成される。非常に大きな最大変位に対応するためには、多数の中間沓を重ねて最大変位を大きくする必要がある。多数の中間沓を重ねると磁路が長くなり磁気抵抗が大きくなるので、磁場が弱くなり磁気復元力が小さくなる場合がある。このような場合には支承装置を鉛直方向に重ねることによって最大変位を大きくすることが可能で、中間沓を少なくして磁気回路の磁路を短くして磁気復元力を大きくすることが可能な図11(b)に示す支承装置が有効である。
図11(c)は、上沓及び下沓を有する場合を示す。実施例の中で最も短い磁路の磁気回路が形成される支承装置である。図11(d)は、(c)の支承装置を鉛直方向に重ねた支承装置の磁気回路の概念図である。図11(d)に示す支承装置の構成は、最も磁路が短い磁気回路を維持しながら、支承装置の多層化で最大変位を大きくできるので、図11(b)の支承装置と同様に大きな最大変位に対応する場合に有効である。
なお、これらの例では、水平方向のいずれの方向でも変位できるように、上沓、中間沓、下沓、磁石部のそれぞれの形状を円形としているが、長方形などの他の形状としても良く、変位する方向を限定したものであってもよい。