本発明のゴルフボールの製造方法は、球状コアと前記球状コアと被覆する少なくとも一層のカバーとを有し、前記球状コアが、少なくとも(a)基材ゴム、(b)共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩、(c)架橋開始剤、および、(d)不飽和脂肪酸および/またはその金属塩((b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸およびその金属塩を除く)を含有するコア用ゴム組成物から形成されたゴルフボールを作製するための製造方法である。
本発明のゴルフボールの製造方法は、配合材料を混練してコア用ゴム組成物を調製する第1工程と、前記コア用ゴム組成物から球状コアを成形する第2工程と、前記球状コア上に、前記球状コアを被覆する少なくとも一層のカバーを成形する第3工程とを有する。
(1)第1工程
前記第1工程では、コア用ゴム組成物の配合材料を混練してコア用ゴム組成物を調製する。前記配合材料は、少なくとも(a)基材ゴム、(b)共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩、および、(c)共架橋剤を含有し、さらに(d1)不飽和脂肪酸および/または(d2)不飽和脂肪酸金属塩を含有する。なお、コア用ゴム組成物に、(d1)不飽和脂肪酸を配合する場合、(b)共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩を配合する。
本願発明の製造方法では、この第1工程において、(d1)不飽和脂肪酸または(d2)不飽和脂肪酸金属塩を添加した後の混練温度(Tmix)が、95℃以上、好ましくは100℃以上であり、125℃以下が好ましく、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。(d)不飽和脂肪酸および/またはその金属塩を添加した後の混練温度(Tmix)が、95℃以上であれば配合材料を均一に分散させるために要する混練時間を短縮できる。また、混練温度(Tmix)が125℃以下であれば配合材料の焼けが発生することが抑制できる。
混練時間は、1分以上が好ましく、より好ましくは1.5分以上であり、20分以下が好ましく、より好ましくは15分以下である。混練時間が前記範囲内であれば、配合材料を均一に分散できる。
配合材料の混練は、例えば、ロール、ニーダー、バンバリーミキサーなどの公知の混練機を用いて行うことができる。混練効率を高めるという観点から、剪断力の大きいニーダー、バンバリーミキサーを用いることが好ましい。なお、本発明において、「混練」とは、コア用ゴム組成物の配合に基づいて、基材ゴムに対して数種類の性状の異なる配合材料を機械的剪断力を加えて、混合分散することを意味する。
本願発明の製造方法において、第1工程には、第1態様、第2態様および第3態様が挙げられる。
(1−1)第1態様
第1態様では、配合材料が、(d1)不飽和脂肪酸を含有する。つまり、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩、(c)架橋開始剤、(d1)不飽和脂肪酸を混練してコア用ゴム組成物を調製する。
前記第1態様では、前記(d1)不飽和脂肪酸と前記(b)共架橋剤中の金属成分とから構成される不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td1+b)を、前記混練温度(Tmix)超とする。前記(d1)不飽和脂肪酸と前記(b)共架橋剤中の金属成分とから構成される不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td1+b)が前記混練温度(Tmix)超であれば、コア用ゴム組成物を調製する際に、(b)共架橋剤と(d1)不飽和脂肪酸との副生成物の生成が抑制される。そのため、副生成物の影響を受けることなく、配合材料を均一に混練することができる。よって、配合材料が有する性能を十分に発揮でき、得られる球状コアの反発性能がさらに向上する。
前記(d1)不飽和脂肪酸と前記(b)共架橋剤中の金属成分とから構成される不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td1+b)は、110℃以上が好ましく、250℃以下が好ましく、より好ましくは240℃以下、さらに好ましくは230℃以下である。
なお、第1態様において、コア用ゴム組成物に後述する(f)金属化合物を配合してもよい。この場合、前記(d1)不飽和脂肪酸と前記(f)金属化合物中の金属成分とから構成される不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td1+f)を、前記混練温度(Tmix)超とすることが好ましい。また、この場合、前記(b)共架橋剤中の金属成分と前記(f)金属化合物中の金属成分は同一であることが好ましい。
第1態様において、前記(d1)不飽和脂肪酸、(b)共架橋剤および(f)金属化合物は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのいずれかを2種以上配合する場合、前記(d1)不飽和脂肪酸と前記(b)共架橋剤中の金属成分とから構成される不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td1+b)および前記(d1)不飽和脂肪酸と前記(f)金属化合物中の金属成分とから構成される不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td1+f)は、全て前記混練温度(Tmix)超であることが好ましい。
第1態様において、前記(d1)不飽和脂肪酸と前記(b)共架橋剤または(f)金属化合物中の金属成分とから構成される不飽和脂肪酸金属塩として、融点(Td1+b)または融点(Td1+f)が混練温度(Tmix)以下となる不飽和脂肪酸金属塩が存在してもよい。この場合、前記(d1)不飽和脂肪酸と前記(b)共架橋剤または(f)金属化合物中の金属成分とから構成される不飽和脂肪酸金属塩の総量において、融点(Td1+b)または融点(Td1+f)が混練温度(Tmix)以下となる不飽和脂肪酸金属塩の含有率は、10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
融点(Td1+b)または融点(Td1+f)が混練温度(Tmix)以下となる不飽和脂肪酸金属塩の含有率は、(d1)不飽和脂肪酸の脂肪酸成分の比率、(b)共架橋剤または(f)金属化合物中の金属成分の比率から求められる。なお、第1態様において、発明の効果を損なわない程度であれば、配合材料が(d2)不飽和脂肪酸金属塩を含有してもよいが、(d2)不飽和脂肪酸金属塩を含有しないことが好ましい。
(1−2)第2態様
第2態様では、配合材料が、(d2)不飽和脂肪酸金属塩を含有する。つまり、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩、(c)架橋開始剤、(d2)不飽和脂肪酸金属塩((b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩を除く)を混練してコア用ゴム組成物を調製する。
前記第2態様では、前記(d2)不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td2)を、前記混練温度(Tmix)超とする。前記(d2)不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td2)が前記混練温度(Tmix)超であれば、コア用ゴム組成物を調製する際に、(b)共架橋剤と(d2)不飽和脂肪酸金属塩との副生成物の生成が抑制される。そのため、副生成物の影響を受けることなく、配合材料を均一に混練することができる。よって、配合材料が有する性能を十分に発揮でき、得られる球状コアの反発性能がさらに向上する。
前記(d2)不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td2)は、110℃以上が好ましく、250℃以下が好ましく、より好ましくは240℃以下、さらに好ましくは230℃以下である。
第2態様において、前記(d2)不飽和脂肪酸金属塩は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上配合する場合、全ての前記(d2)不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td2)が、前記混練温度(Tmix)超であることが好ましい。
なお、第2態様において、前記(d2)不飽和脂肪酸金属塩として、融点(Td2)が混練温度(Tmix)以下である不飽和脂肪酸金属塩が存在してもよい。この場合、前記(d2)不飽和脂肪酸金属塩の総量において、融点(Td2)が混練温度(Tmix)以下である不飽和脂肪酸金属塩の含有率は、10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。なお、第2態様において、発明の効果を損なわない程度であれば、配合材料が(d1)不飽和脂肪酸を含有してもよいが、(d1)不飽和脂肪酸を含有しないことが好ましい。
(1−3)第3態様
第3態様では、配合材料が、(d1)不飽和脂肪酸および(d2)不飽和脂肪酸金属塩を含有する。つまり、(a)基材ゴム、(b)共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩、(c)架橋開始剤、(d1)不飽和脂肪酸((b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸を除く)、(d2)不飽和脂肪酸金属塩((b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩を除く)を混練してコア用ゴム組成物を調製する。
前記第3態様では、前記(d1)不飽和脂肪酸と前記(b)共架橋剤中の金属成分とから構成される不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td1+b)および前記(d2)不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td2)を、前記混練温度(Tmix)超とする。前記融点(Td1+b)および融点(Td2)が前記混練温度(Tmix)超であれば、コア用ゴム組成物を調製する際に、(b)共架橋剤と(d1)不飽和脂肪酸および(d2)不飽和脂肪酸金属塩との副生成物の生成が抑制される。そのため、副生成物の影響を受けることなく、配合材料を均一に混練することができる。よって、配合材料が有する性能を十分に発揮でき、得られる球状コアの反発性能がさらに向上する。
なお、第3態様において、コア用ゴム組成物に後述する(f)金属化合物を配合してもよい。この場合、前記(d1)不飽和脂肪酸と前記(f)金属化合物中の金属成分とから構成される不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td1+f)を、前記混練温度(Tmix)超とすることが好ましい。また、この場合、前記(b)共架橋剤中の金属成分と前記(f)金属化合物中の金属成分は同一であることが好ましい。
第3態様において、前記(d1)不飽和脂肪酸、(d2)不飽和脂肪酸金属塩、(b)共架橋剤および(f)金属化合物は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのいずれかを2種以上配合する場合、前記(d1)不飽和脂肪酸と前記(b)共架橋剤中の金属成分とから構成される不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td1+b)、前記(d1)不飽和脂肪酸と前記(f)金属化合物中の金属成分とから構成される不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td1+f)および(d2)不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td2)は、全て前記混練温度(Tmix)超であることが好ましい。
第3態様において、前記(d1)不飽和脂肪酸と前記(b)共架橋剤もしくは(f)金属化合物中の金属成分とから構成される不飽和脂肪酸金属塩または(d2)不飽和脂肪酸金属塩として、融点(Td1+b)、融点(Td1+f)または融点(Td2)が混練温度(Tmix)以下となる不飽和脂肪酸金属塩が存在してもよい。この場合、前記(d1)不飽和脂肪酸と前記(b)共架橋剤もしくは(f)金属化合物中の金属成分とから構成される不飽和脂肪酸金属塩および(d2)不飽和脂肪酸金属塩の総量において、融点(Td1+b)、融点(Td1+f)または融点(Td2)が混練温度(Tmix)以下となる不飽和脂肪酸金属塩の含有率は、10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
前記コア用ゴム組成物の調製において、配合材料の混練は、全ての配合材料を一度に混練してもよいし、(d1)不飽和脂肪酸および(d2)不飽和脂肪酸金属塩以外の成分を混練して混合物を調製した後、この混合物と(d1)不飽和脂肪酸および/または(d2)不飽和脂肪酸金属塩とを混練してもよい。
以下、配合材料について説明する。本発明のゴルフボールの製造方法では、コア用ゴム組成物(以下、単に「ゴム組成物」と称する場合がある。)は、少なくとも(a)基材ゴム、(b)共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩、および、(c)架橋開始剤を含有し、さらに(d1)不飽和脂肪酸((b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸を除く)および/または(d2)不飽和脂肪酸金属塩((b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩を除く)を配合する。
(a)基材ゴム
前記(a)基材ゴムとしては、天然ゴムおよび/または合成ゴムを使用することができ、例えば、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などを使用できる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、特に、反発に有利なシス−1,4−結合を、40質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上有するハイシスポリブタジエンが好適である。
前記ハイシスポリブタジエンは、1,2−ビニル結合の含有量が2.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.7質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下である。1,2−ビニル結合の含有量が多すぎると反発性が低下する場合がある。
前記ハイシスポリブタジエンは、希土類元素系触媒で合成されたものが好適であり、特に、ランタン系列希土類元素化合物であるネオジム化合物を用いたネオジム系触媒の使用が、1,4−シス結合が高含量、1,2−ビニル結合が低含量のポリブタジエンゴムを優れた重合活性で得られるので好ましい。
前記ポリブタジエンは、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))が、30以上であることが好ましく、より好ましくは32以上、さらに好ましくは35以上、特に好ましくは50以上であり、140以下が好ましく、より好ましくは120以下、さらに好ましくは100以下、最も好ましくは80以下である。なお、本発明でいうムーニー粘度(ML1+4(100℃))とは、JIS K6300に準じて、Lローターを使用し、予備加熱時間1分間、ローターの回転時間4分間、100℃の条件下にて測定した値である。(a)基材ゴムとして、ムーニー粘度が高いポリブタジエンを用いる場合、コア用ゴム組成物を調製する際の混練温度を低く設定すると、配合材料を均一に分散させるために長時間を要することとなる。そのため、本願発明の製造方法は、コア用ゴム組成物が、高ムーニー粘度の(a)基材ゴムと不飽和脂肪酸および/またはその金属塩を含有する場合に、より好適に採用できる。
前記ハイシスポリブタジエンとしては、分子量分布Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)が、2.0以上であることが好ましく、より好ましくは2.2以上、さらに好ましくは2.4以上、最も好ましくは2.6以上であり、6.0以下であることが好ましく、より好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.0以下、最も好ましくは3.4以下である。ハイシスポリブタジエンの分子量分布(Mw/Mn)が小さすぎると作業性が低下し、大きすぎると反発性が低下するおそれがある。なお、分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(東ソー社製、「HLC−8120GPC」)により、検知器として示差屈折計を用いて、カラム:GMHHXL(東ソー社製)、カラム温度:40℃、移動相:テトラヒドロフランの条件で測定し、標準ポリスチレン換算値として算出した値である。
(b)共架橋剤
前記(b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩は、共架橋剤として、ゴム組成物に配合されるものであり、基材ゴム分子鎖にグラフト重合することによって、ゴム分子を架橋する作用を有する。共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸のみを配合する場合、ゴム組成物には、後述する(f)金属化合物をさらに配合することが好ましい。ゴム組成物中で炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸を金属化合物で中和することにより、共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩を使用する場合と実質的に同様の効果が得られる。なお、共架橋剤として、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩を配合する場合においても、任意成分として、(f)金属化合物を用いてもよい。
炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等を挙げることができる。
炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩を構成する金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。前記金属成分は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。これらの中でも、前記金属成分としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属が好ましい。炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の2価の金属塩を用いることにより、ゴム分子間に金属架橋が生じやすくなるからである。特に、2価の金属塩としては、得られるゴルフボールの反発性が高くなるということから、アクリル酸亜鉛が好適である。なお、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩は、単独でもしくは2種以上を組み合わせて使用しても良い。
(b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩の配合量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、15質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、25質量部以上がさらに好ましく、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、35質量部以下がさらに好ましい。(b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩の含有量が15質量部未満では、ゴム組成物から成形される部材を適当な硬さとするために、後述する(c)架橋開始剤の量を増加しなければならず、ゴルフボールの反発性が低下する傾向がある。一方、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩の含有量が50質量部を超えると、ゴム組成物から成形される部材が硬くなりすぎて、ゴルフボールの打球感が低下するおそれがある。
(c)架橋開始剤
前記(c)架橋開始剤は、(a)基材ゴム成分を架橋するために配合されるものである。(c)架橋開始剤としては、有機過酸化物が好適である。前記有機過酸化物は、具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でもジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。
前記(c)架橋開始剤の10時間半減期温度(T10)は90℃以上が好ましく、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは110℃以上であり、150℃以下が好ましく、より好ましくは140℃以下、さらに好ましくは130℃以下である。また、前記(c)架橋開始剤の10時間半減期温度(T10)と前記混練温度(Tmix)との温度差(T10−Tmix)は、0℃超以上が好ましく、より好ましくは5℃以上、さらに好ましくは10℃以上である。前記温度差(T10−Tmix)が上記範囲であれば、得られる球状コアの反発性能がさらに向上する。
前記不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td1+b)と前記(c)架橋開始剤の10時間半減期温度(T10)との温度差(Td1+b−T10)は−10℃以上が好ましい。また、前記不飽和脂肪酸金属塩の融点(Td2)と前記(c)架橋開始剤の10時間半減期温度(T10)との温度差(Td2−T10)は−5℃以上が好ましく、より好ましくは0℃以上、さらに好ましくは5℃以上である。前記温度差(Td1+b−T10)および温度差(Td2−T10)が上記範囲であれば、得られる球状コアの反発性能がさらに向上する。
前記(c)架橋開始剤の配合量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは0.7質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは2.5質量部以下、さらに好ましくは2.0質量部以下である。0.2質量部未満では、ゴム組成物から成形される部材が柔らかくなりすぎて、ゴルフボールの反発性が低下する傾向があり、5.0質量部を超えると、ゴム組成物から成形される部材を適切な硬さにするために、前述した(b)共架橋剤の使用量を減少する必要があり、ゴルフボールの反発性が不足したり、耐久性が悪くなるおそれがある。
(d1)不飽和脂肪酸、(d2)不飽和脂肪酸金属塩
前記(d1)不飽和脂肪酸は、炭化水素鎖に不飽和結合を少なくとも一つ有する脂肪族モノカルボン酸である。前記(d2)不飽和脂肪酸金属塩は、炭化水素鎖に不飽和結合を少なくとも一つ有する脂肪族モノカルボン酸の金属塩である。なお、(d1)不飽和脂肪酸には、共架橋剤として使用する(b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸は含まれないものとし、(d2)不飽和脂肪酸金属塩には、共架橋剤として使用する(b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸の金属塩は含まれないものとする。以下、(d1)不飽和脂肪酸および(d2)不飽和脂肪酸金属塩を合わせて、「(d)不飽和脂肪酸および/またはその金属塩」または「(d)成分」と称する場合がある。
前記(d1)不飽和脂肪酸および(d2)不飽和脂肪酸金属塩は、単位質量あたりの炭素−炭素二重結合の数が1.00mmol/g以上であることが好ましく、1.50mmol/g以上がより好ましく、2.00mmol/g以上がさらに好ましく、10.00mmol/g以下が好ましく、9.00mmol/g以下がより好ましく、8.00mmol/g以下がさらに好ましい。前記(d)成分が、単位質量あたりの炭素−炭素二重結合の数が1.00mmol/g以上であれば、球状コア成形時に(b)成分との付加反応が起こりやすくなり、得られる球状コアが高反発になる。前記(d)成分が、単位質量あたりの炭素−炭素二重結合の数が10.00mmol/g以下であれば、得られる球状コアが高反発になる。
前記(d1)不飽和脂肪酸および(d2)不飽和脂肪酸金属塩の脂肪酸成分は、炭素数が4以上が好ましく、より好ましくは5以上、さらに好ましくは8以上、特に好ましくは12以上であり、33以下が好ましく、より好ましくは30以下、さらに好ましくは27以下、特に好ましくは26以下である。前記(d)成分が、炭素数が33以下の不飽和脂肪酸および/またはその金属塩であれば、球状コア成形時に(b)成分との付加反応が起こりやすくなり、得られる球状コアが高反発になる。
前記(d1)不飽和脂肪酸および(d2)不飽和脂肪酸金属塩の脂肪酸成分は、炭素−炭素二重結合を1つ以上有する不飽和脂肪酸および/またはその金属塩であることが好ましく、4つ以下が好ましく、より好ましくは2つ以下、さらに好ましくは1つである。前記(d)成分が、炭素−炭素二重結合を4つ以下有する不飽和脂肪酸および/またはその金属塩であれば、球状コア成形時に(b)成分との付加反応が起こりやすくなり、得られる球状コアが高反発になる。
前記前記(d1)不飽和脂肪酸および(d2)不飽和脂肪酸金属塩は、式(1)で表される不飽和脂肪酸および/またはその金属塩であることが好ましい。
[式(1)中、R
1は、水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基を表す。R
2は、置換基を有していてもよい炭素数1〜28のアルキレン基を表す。R
3は、単結合または置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキレン基を表す。mは、0〜5の自然数を表す。mが2〜5の場合、複数あるR
2はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
前記R1で表される炭素数1〜30のアルキル基は、分岐構造や環状構造を有してもよいが、直鎖状アルキル基が好ましい。前記アルキル基の炭素数は、1以上が好ましく、より好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上であり、25以下が好ましく、より好ましくは23以下、さらに好ましくは21以下である。前記R1で表される炭素数1〜30のアルキル基が有する置換基としては、ヒドロキシ基が挙げられる。
前記R2で表される炭素数1〜28のアルキレン基は、分岐構造や環状構造を有してもよいが、直鎖状のアルキレン基が好ましい。前記アルキレン基の炭素数は、1以上が好ましく、より好ましくは3以上、さらに好ましくは5以上であり、25以下が好ましく、より好ましくは23以下、さらに好ましくは21以下である。前記R2で表される炭素数1〜28のアルキレン基が有する置換基としては、ヒドロキシ基が挙げられる。
前記R3で表される炭素数1〜30のアルキレン基は、分岐構造や環状構造を有してもよいが、直鎖状のアルキレン基が好ましい。前記アルキレン基の炭素数は、2以上が好ましく、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上であり、25以下が好ましく、より好ましくは23以下、さらに好ましくは21以下である。前記R3で表される炭素数1〜30のアルキレン基が有する置換基としては、ヒドロキシ基が挙げられる。
前記mは、3以下が好ましく、より好ましくは2以下、さらに好ましくは1以下、特に好ましくは0である。
前記前記(d1)不飽和脂肪酸および(d2)不飽和脂肪酸金属塩の脂肪酸成分は、直鎖不飽和脂肪酸であることが好ましい。前記(d1)不飽和脂肪酸および(d2)不飽和脂肪酸金属塩の脂肪酸成分は、炭化水素鎖の末端に炭素−炭素二重結合を有する不飽和脂肪酸、トランス型配置の炭素−炭素二重結合を少なくとも一つ有する不飽和脂肪酸、シス型配置の炭素−炭素二重結合を少なくとも1つ有する不飽和脂肪酸を挙げることができる。前記(d)不飽和脂肪酸および/またはその金属塩としては、シス型配置の炭素−炭素二重結合を少なくとも一つ有する不飽和脂肪酸および/またはその金属塩であることがより好ましい。前記(d)成分が上記構造であれば、球状コア成形時に(b)成分との付加反応の反応性が高く、得られる球状コアがより高反発になる。
前記(d)不飽和脂肪酸および/またはその金属塩を構成する不飽和脂肪酸の具体例(IUPAC名)としては、ブテン酸(C4)、ペンテン酸(C5)、ヘキセン酸(C6)、ヘプテン酸(C7)、オクテン酸(C8)、ノネン酸(C9)、デセン酸(C10)、ウンデセン酸(C11)、ドデセン酸(C12)、トリデセン酸(C13)、テトラデセン酸(C14)、ペンタデセン酸(C15)、ヘキサデセン酸(C16)、ヘプタデセン酸(C17)、オクタデセン酸(C18)、ノナデセン酸(C19)、イコセン酸(C20)、ヘンイコセン酸(C21)、ドコセン酸(C22)、トリコセン酸(C23)、テトラコセン酸(C24)、ペンタコセン酸(C25)、ヘキサコセン酸(C26)、ヘプタコセン酸(C27)、オクタコセン酸(C28)、ノナコセン酸(C29)、トリアコンテン酸(C30)、ヘントリアコンテン酸(C31)、ドトリアコンテン酸(C32)、トリトリアコンテン酸(C33)などを挙げることができる。
前記(d)不飽和脂肪酸および/またはその金属塩を構成する不飽和脂肪酸の具体例(慣用名)としては、例えば、4−ペンテン酸(C5、モノ不飽和脂肪酸)、5−ヘキセン酸(C6、モノ不飽和脂肪酸)、6−ヘプテン酸(C7、モノ不飽和脂肪酸)、7−オクテン酸(C8、モノ不飽和脂肪酸)、8−ノネン酸(C9、モノ不飽和脂肪酸)、9−デセン酸(C10、モノ不飽和脂肪酸)、10−ウンデシレン酸(C11、モノ不飽和脂肪酸)などの末端に二重結合を有する不飽和脂肪酸;ミリストレイン酸(C14、cis-9-モノ不飽和脂肪酸)、パルミトレイン酸(C16、cis-9-モノ不飽和脂肪酸)、ステアリドン酸(C18、6,9,12,15-テトラ不飽和脂肪酸)、バクセン酸(C18、cis-11-モノ不飽和脂肪酸)、オレイン酸(C18、cis-9-モノ不飽和脂肪酸)、エライジン酸(C18、trans-9-モノ不飽和脂肪酸)、リノール酸(C18、cis-9-cis-12-ジ不飽和脂肪酸)、α−リノレン酸(C18、9,12,15-トリ不飽和脂肪酸)、γ−リノレン酸(C18、6,9,12-トリ不飽和脂肪酸)、ガドレイン酸(C20、cis-9-モノ不飽和脂肪酸)、エイコセン酸(C20、cis-11-モノ不飽和脂肪酸)、エイコサジエン酸(C20、cis-11-cis-14-ジ不飽和脂肪酸)、アラキドン酸(C20、5,8,11,14-テトラ不飽和脂肪酸)、エイコサペンタエン酸(C20、5,8,11,14,17-ペンタ不飽和脂肪酸)、エルカ酸(C22、cis-13-モノ不飽和脂肪酸)、ドコサヘキサエン酸(C22、4,7,10,13,16,19-ヘキサ不飽和脂肪酸)、ネルボン酸(C24、cis-15-モノ不飽和脂肪酸)などの末端以外に二重結合を有する不飽和脂肪酸;リシノール酸(C18、cis-9-モノ不飽和脂肪酸)などのヒドロキシ基を有する不飽和脂肪酸などが挙げられる。
これらの中でも、前記(d)不飽和脂肪酸および/またはその金属塩を構成する不飽和脂肪酸として好ましいのは、ウンデシレン酸(C11、モノ不飽和脂肪酸)、ミリストレイン酸(C14、モノ不飽和脂肪酸)、パルミトレイン酸(C16、モノ不飽和脂肪酸)、オレイン酸(C18、モノ不飽和脂肪酸)、リノール酸(C18、ジ不飽和脂肪酸)、エイコセン酸(C20、モノ不飽和脂肪酸)、エルカ酸(C22、モノ不飽和脂肪酸)、ネルボン酸(C24、モノ不飽和脂肪酸)、リシノール酸(C18、cis-9-モノ不飽和脂肪酸)である。
前記(d2)不飽和脂肪酸金属塩を構成する金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。前記金属成分は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。これらの中でも、前記金属成分としては、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属が好ましく、特に亜鉛が好ましい。不飽和脂肪酸の2価の金属塩を用いることにより、得られる球状コアが高反発になる。
前記(d1)不飽和脂肪酸および(d2)不飽和脂肪酸金属塩の配合量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、35質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、25質量部以下がさらに好ましく、20質量部以下が特に好ましく、17質量部以下が最も好ましい。(d)成分の含有量が1質量部以上であれば、(d)成分を添加した効果が十分に発揮され、得られる球状コアが高反発になる。(d)成分の含有量が35質量部以下であれば、球状コアが柔らかくなりすぎず、ゴルフボールの耐久性と高反発性が損なわれない。
(e)カルボン酸および/またはその金属塩
前記コア用ゴム組成物には、さらに(e)カルボン酸および/またはその金属塩を配合してもよい。なお、(e)カルボン酸および/またはその塩には、前記(b)共架橋剤として使用する炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸およびその金属塩や、前記(d)不飽和脂肪酸およびその金属塩は含まない。(d)不飽和脂肪酸および/またはその金属塩と(e)カルボン酸および/またはその金属塩を併用することにより、ドライバーショットでの飛距離がより向上する。前記(e)カルボン酸および/またはその塩としては、飽和脂肪酸、飽和脂肪酸金属塩、芳香族カルボン酸および芳香族カルボン酸金属塩が挙げられる。前記(e)カルボン酸および/またはその金属塩は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。
前記飽和脂肪酸、飽和脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸成分としては、特に限定されず、直鎖飽和脂肪酸、分岐鎖を有する飽和脂肪酸のいずれであってもよいが、直鎖飽和脂肪酸が好ましい。
前記飽和脂肪酸、飽和脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸成分の炭素数は、4以上が好ましく、より好ましくは6以上、さらに好ましくは8以上であり、30以下が好ましく、より好ましくは28以下、さらに好ましくは26以下、特に好ましくは17以下である。
前記飽和脂肪酸としては、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、ヘンイコサン酸、ドコサン酸、トリコサン酸、テトラコサン酸、ペンタコサン酸、ヘキサコサン酸、ヘプタコサン酸、オクタコサン酸、ノナコサン酸、トリアコンタン酸などが挙げられる。
前記芳香族カルボン酸としては、分子中にベンゼン環を有するもの、分子中に複素芳香環を有するものが挙げられる。ベンゼン環を有するカルボン酸としては、例えば、ベンゼン環にカルボキシ基が直接結合した芳香族カルボン酸、ベンゼン環に脂肪族カルボン酸が結合した芳香族−脂肪族カルボン酸、縮合ベンゼン環にカルボキシ基が直接結合した多核芳香族カルボン酸、縮合ベンゼン環に脂肪族カルボン酸が結合した多核芳香族−脂肪族カルボン酸などが挙げられる。前記複素芳香環を有するカルボン酸としては、例えば、複素芳香環に直接カルボキシ基が結合したものが挙げられる。
前記分子中にベンゼン環を有する芳香族カルボン酸としては、安息香酸、ブチル安息香酸、アニス酸(メトキシ安息香酸)、ジメトキシ安息香酸、トリメトキシ安息香酸、ジメチルアミノ安息香酸、クロロ安息香酸、ジクロロ安息香酸、トリクロロ安息香酸、アセトキシ安息香酸、ビフェニルカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、アントラセンカルボン酸などが挙げられる。前記分子中に複素芳香環を有する芳香族カルボン酸としては、フランカルボン酸、テノイル酸などが挙げられる。
前記(e)カルボン酸金属塩のカチオン成分としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、銀などの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウム、銅、コバルト、ニッケル、マンガンなどの2価の金属イオン;アルミニウム、鉄などの3価の金属イオン;錫、ジルコニウム、チタンなどのその他のイオンが挙げられる。前記カチオン成分は、単独または2種以上の混合物として使用することもできる。
前記(e)カルボン酸および/またはその金属塩の配合量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上であり、35質量部以下が好ましく、より好ましくは30質量部以下、さらに好ましくは25質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。(e)カルボン酸および/またはその金属塩の配合量が1質量部以上であれば、ゴム組成物中における各材料の分散性がより良好となり、35質量以下であれば、(e)カルボン酸および/またはその金属塩を含有することによるゴム組成物の物性値の変化を抑えることができる。
なお、(b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩は、ゴムへの分散性を向上するためにステアリン酸亜鉛等で処理されている場合がある。このようなステアリン酸亜鉛等で表面処理された共架橋剤を使用する場合、表面処理剤であるステアリン酸亜鉛等の陽イオン成分および陰イオン成分も(e)成分の陽イオン成分および陰イオン成分に含むものとする。
(f)金属化合物
前記共架橋剤として炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸のみを配合する場合、コア用ゴム組成物に(f)金属化合物をさらに配合することが好ましい。前記(f)金属化合物としては、ゴム組成物中において(b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸を中和することができるものであれば、特に限定されない。前記(f)金属化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化銅などの金属水酸化物;酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化銅などの金属酸化物;炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸カリウムなどの金属炭酸化物が挙げられる。前記(f)金属化合物として好ましいのは、二価金属化合物であり、より好ましくは亜鉛化合物である。二価金属化合物は、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸と反応して、金属架橋を形成するからである。また、亜鉛化合物を用いることにより、反発性の高いゴルフボールが得られる。(f)金属化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。(f)金属化合物の含有量は、所望とする(b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および(d)不飽和脂肪酸の中和度に応じて、適宜調整すればよい。
(g)有機硫黄化合物
前記コア用ゴム組成物には、さらに(g)有機硫黄化合物を配合することが好ましい。前記ゴム組成物が(g)有機硫黄化合物を含有することにより、球状コアの反発性がより向上する。前記(g)有機硫黄化合物は、単独もしくは二種以上を混合して使用することができる。
前記(g)有機硫黄化合物としては、分子内に硫黄原子を有する有機化合物であれば、特に限定されず、例えば、チオール基(−SH)、または、硫黄数が2〜4のポリスルフィド結合(−S−S−、−S−S−S−、または、−S−S−S−S−)を有する有機化合物、あるいはこれらの金属塩(−SM、−S−M−S−、−S−M−S−S−,−S−S−M−S−S−,−S−M−S−S−S−など、Mは金属原子)を挙げることができる。金属塩としては、例えば、ナトリウム、リチウム、カリウム、銅(I)、銀(I)などの1価の金属塩、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン(II)、マンガン(II)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、ジルコニウム(II)、スズ(II)等の2価の金属塩が挙げられる。また、(g)有機硫黄化合物は、脂肪族化合物(脂肪族チオール、脂肪族チオカルボン酸、脂肪族ジチオカルボン酸、脂肪族ポリスルフィドなど)、複素環式化合物、脂環式化合物(脂環式チオール、脂環式チオカルボン酸、脂環式ジチオカルボン酸、脂環式ポリスルフィドなど)、および、芳香族化合物のいずれであってもよい。
前記(g)有機硫黄化合物としては、例えば、チオール類(チオフェノール類、チオナフトール類)、ポリスルフィド類、チウラム類、チオカルボン酸類、ジチオカルボン酸類、スルフェンアミド類、ジチオカルバミン酸塩類およびチアゾール類よりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
チオール類としては、例えば、チオフェノール類、チオナフトール類が挙げられる。前記チオフェノール類としては、例えば、チオフェノール;4−フルオロチオフェノール、2,5−ジフルオロチオフェノール、2,6−ジフルオロチオフェノール、2,4,5−トリフルオロチオフェノール、2,4,5,6−テトラフルオロチオフェノール、ペンタフルオロチオフェノールなどのフルオロ基で置換されたチオフェノール類;2−クロロチオフェノール、4−クロロチオフェノール、2,4−ジクロロチオフェノール、2,5−ジクロロチオフェノール、2,6−ジクロロチオフェノール、2,4,5−トリクロロチオフェノール、2,4,5,6−テトラクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノールなどのクロロ基で置換されたチオフェノール類;4−ブロモチオフェノール、2,5−ジブロモチオフェノール、2,6−ジブロモチオフェノール、2,4,5−トリブロモチオフェノール、2,4,5,6−テトラブロモチオフェノール、ペンタブロモチオフェノールなどのブロモ基で置換されたチオフェノール類;4−ヨードチオフェノール、2,5−ジヨードチオフェノール、2,6−ジヨードチオフェノール、2,4,5−トリヨードチオフェノール、2,4,5,6−テトラヨードチオフェノール、ペンタヨードチオフェノールなどのヨード基で置換されたチオフェノール類;または、これらの金属塩が挙げられる。金属塩としては、亜鉛塩が好ましい。
前記チオナフトール類(ナフタレンチオール類)としては、2−チオナフトール、1−チオナフトール、1−クロロ−2−チオナフトール、2−クロロ−1−チオナフトール、1−ブロモ−2−チオナフトール、2−ブロモ−1−チオナフトール、1−フルオロ−2−チオナフトール、2−フルオロ−1−チオナフトール、1−シアノ−2−チオナフトール、2−シアノ−1−チオナフトール、1−アセチル−2−チオナフトール、2−アセチル−1−チオナフトール、またはこれらの金属塩を挙げることができ、2−チオナフトール、1−チオナフトール、またはこれらの金属塩が好ましい。金属塩としては、好ましくは2価の金属塩、より好ましくは亜鉛塩である。金属塩の具体的としては、例えば、1−チオナフトールの亜鉛塩、2−チオナフトールの亜鉛塩が挙げられる。
ポリスルフィド類とは、ポリスルフィド結合を有する有機硫黄化合物であり、例えば、ジスルフィド類、トリスルフィド類、テトラスルフィド類が挙げられる。前記ポリスルフィド類としては、ジフェニルポリスルフィド類が好ましい。
ジフェニルポリスルフィド類としては、ジフェニルジスルフィドの他;ビス(4−フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6−テトラフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6−テトラクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6−テトラブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5,6−テトラヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタヨードフェニル)ジスルフィド等のハロゲン基で置換されたジフェニルジスルフィド類;ビス(4−メチルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリメチルフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタメチルフェニル)ジスルフィド、ビス(4−t−ブチルフェニル)ジスルフィド、ビス(2,4,5−トリ−t−ブチルフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタ−t−ブチルフェニル)ジスルフィド等のアルキル基で置換されたジフェニルジスルフィド類;などが挙げられる。
チウラム類としては、例えば、テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのチウラムモノスルフィド類、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドなどのチウラムジスルフィド類、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドなどのチウラムテトラスルフィド類が挙げられる。チオカルボン酸類としては、例えば、ナフタレンチオカルボン酸が挙げられる。ジチオカルボン酸類としては、例えば、ナフタレンジチオカルボン酸が挙げられる。スルフェンアミド類としては、例えば、N−シクロへキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドが挙げられる。
前記(g)有機硫黄化合物としては、チオフェノール類および/またはその金属塩、チオナフトール類および/またはその金属塩、ジフェニルジスルフィド類、チウラムジスルフィド類が好ましく、より好ましくは2,4−ジクロロチオフェノール、2,6−ジフルオロチオフェノール、2,6−ジクロロチオフェノール、2,6−ジブロモチオフェノール、2,6−ジヨードチオフェノール、2,4,5−トリクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノール、1−チオナフトール、2−チオナフトール、ジフェニルジスルフィド、ビス(2,6−ジフルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィドである。
前記(g)有機硫黄化合物の配合量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.05質量部以上が好ましく、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.2質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.0質量部以下、さらに好ましくは2.0質量部以下である。0.05質量部未満では、(g)有機硫黄化合物を添加した効果が得られず、ゴルフボールの反発性が向上しないおそれがある。また、5.0質量部を超えると、得られるゴルフボールの圧縮変形量が大きくなって、反発性が低下するおそれがある。
(ゴム組成物)
前記(b)炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩が有する炭素−炭素二重結合の総モル数に対する前記(d1)不飽和脂肪酸および(d2)不飽和脂肪酸金属塩の有する炭素−炭素二重結合の総モル数の比率((d1+d2)/(b))は0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上がさらに好ましく、0.20以下が好ましく、0.18以下がより好ましい。比率((d1)+(d2)/(b))が0.01以上であれば、(b)成分との付加反応が起こりやすくなり、得られる球状コアが高反発になる。一方、比率((d1)+(d2)/(b))が0.20以下であれば、球状コアの圧縮変形量を変化させず、ゴルフボールの耐久性を維持することができる。
前記ゴム組成物は、中和度(ゴム組成物中のカルボキシ基およびカルボキシレート基の酸当量を100モル%としたときの金属イオンのアルカリ当量)が、100モル%以上が好ましく、105モル%以上がより好ましく、108モル%以上がさらに好ましく、110モル%以上が特に好ましく、300モル%以下が好ましく、270モル%以下がより好ましく、250モル%以下がさらに好ましく、200モル%以下が特に好ましい。中和度が100モル%以上であれば、コアの圧縮変形量を変化させず、ゴルフボールの耐久性を維持することができる。一方、中和度が300モル%以下であれば、得られる球状コアが柔らかくなりすぎず、ゴルフボールの高反発性が損なわれない。なお、球状コアの中和度は、下記式で定義される。
[式中、Σ(陽イオン成分のモル数×陽イオン成分の価数)は、(b)成分の各金属イオンのモル数と各金属イオンの価数との積、(d)成分の各金属イオンのモル数と各金属イオンの価数との積、(e)成分の各金属イオンのモル数と各金属イオンの価数との積、(f)成分の各金属イオンのモル数と各金属イオンの価数との積の合計である。Σ(陰イオン成分のモル数×陰イオン成分の価数)は、(b)成分のカルボキシ基およびカルボキシレート基の総モル数、(d)成分のカルボキシ基およびカルボキシレート基の総モル数、(e)成分のカルボキシ基およびカルボキシレート基の総モル数の合計である。]
コア用ゴム組成物は、必要に応じて、顔料、重量調整などのための充填剤、老化防止剤、しゃく解剤、軟化剤などの添加剤を配合してもよい。また、コア用ゴム組成物は、ゴルフボールのコアや、コア作製時に発生した端材を粉砕したゴム粉末を含有してもよい。
ゴム組成物に配合される顔料としては、例えば、白色顔料、青色顔料、紫色顔料などを挙げることができる。前記白色顔料としては、酸化チタンを使用することが好ましい。酸化チタンの種類は、特に限定されないが、隠蔽性が良好であるという理由から、ルチル型を用いることが好ましい。また、酸化チタンの含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは2質量部以上であって、8質量部以下が好ましく、より好ましくは5質量部以下である。
ゴム組成物が白色顔料と青色顔料とを含有することも好ましい態様である。青色顔料は、白色を鮮やかに見せるために配合され、例えば、群青、コバルト青、フタロシアニンブルーなどを挙げることができる。また、前記紫色顔料としては、例えば、アントラキノンバイオレット、ジオキサジンバイオレット、メチルバイオレットなどを挙げることができる。
ゴム組成物に用いる充填剤としては、主として最終製品として得られるゴルフボールの重量を調整するための重量調整剤として配合されるものであり、必要に応じて配合すれば良い。前記充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。
前記老化防止剤の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下であることが好ましい。また、しゃく解剤の含有量は、(a)基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい。
(2)第2工程
前記第2工程では、前記コア用ゴム組成物から球状コアを成形する。混練して得られたコア用ゴム組成物を、押出機により棒状に押し出し、所定の長さに切断して、予備成形体(「プラグ」とも呼ばれる)を作製する。また、コア用ゴム組成物を厚みのあるシート状に成形し、これを打ち抜いてプラグにしてもよい。プラグの大きさは、圧縮成形用金型のサイズに応じて適宜変更すればよい。得られたプラグは、例えば、お互いにくっつかないように防着剤液に浸漬し、乾燥後、約8〜48時間熟成することが好ましい。
次いで、プラグをコア成型用金型に投入し、プレス成型する。球状コアに成形する際の材料温度は、120℃以上が好ましく、より好ましくは130℃以上、さらに好ましくは140℃以上であり、170℃以下が好ましく、より好ましくは160℃以下である。成形時の材料温度が170℃を超えると、コア表面硬度が低下する傾向がある。また、成形時の圧力は、2.9MPa〜11.8MPaが好ましい。成形時間は、10分間〜60分間が好ましい。
前記球状コアの直径は、34.8mm以上が好ましく、より好ましくは36.8mm以上、さらに好ましくは38.8mm以上であり、42.2mm以下が好ましく、41.8mm以下がより好ましく、さらに好ましくは41.2mm以下であり、最も好ましくは40.8mm以下である。前記球状コアの直径が34.8mm以上であれば、カバーの厚みが厚くなり過ぎず、反発性がより良好となる。一方、球状コアの直径が42.2mm以下であれば、カバーが薄くなり過ぎず、カバーの機能がより発揮される。
前記球状コアは、直径34.8mm〜42.2mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向にセンターが縮む量)が、1.90mm以上が好ましく、より好ましくは2.00mm以上、さらに好ましくは2.10mm以上であり、5.00mm以下が好ましく、より好ましくは4.80mm以下、さらに好ましくは4.60mm以下である。前記圧縮変形量が、1.90mm以上であれば打球感がより良好となり、5.00mm以下であれば、反発性がより良好となる。
(3)第3工程
前記第3工程では、前記球状コア上に、前記球状コアを被覆する少なくとも一層のカバーを成形する。カバーを成形する方法としては、例えば、樹脂成分を含有するカバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する方法(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)、あるいは、樹脂成分を含有するカバー用組成物をコア上に直接射出成形する方法を挙げることができる。
カバー用組成物が含有する樹脂成分としては、例えば、アイオノマー樹脂、BASFジャパン(株)から商品名「エラストラン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性スチレンエラストマーなどが挙げられる。
前記アイオノマー樹脂としては、例えば、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体中のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体のカルボキシル基の少なくとも一部を金属イオンで中和したもの、あるいは、これらの混合物を挙げることができる。前記オレフィンとしては、炭素数が2〜8個のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等を挙げることができ、特にエチレンが好ましい。前記炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。これらのなかでも、前記アイオノマー樹脂としては、エチレン−(メタ)アクリル酸二元共重合体の金属イオン中和物、エチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル三元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。
前記アイオノマー樹脂の具体例を商品名で例示すると、三井・デュポン・ポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミラン1555(Na)、1557(Zn)、1605(Na)、1706(Zn)、1707(Na)、AM3711(Mg)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、ハイミラン1856(Na)、1855(Zn)など)」が挙げられる。
さらにデュポン社から市販されているアイオノマー樹脂としては、「サーリン(Surlyn)(登録商標)(例えば、サーリン8945(Na)、9945(Zn)、8140(Na)、8150(Na)、9120(Zn)、9150(Zn)、6910(Mg)、6120(Mg)、7930(Li)、7940(Li)、AD8546(Li)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、サーリン8120(Na)、8320(Na)、9320(Zn)、6320(Mg)、HPF1000(Mg)、HPF2000(Mg)など)」が挙げられる。
またエクソンモービル化学(株)から市販されているアイオノマー樹脂としては、「アイオテック(Iotek)(登録商標)(例えば、アイオテック8000(Na)、8030(Na)、7010(Zn)、7030(Zn)などが挙げられ、三元共重合体アイオノマー樹脂としては、アイオテック7510(Zn)、7520(Zn)など)」が挙げられる。
なお、前記アイオノマー樹脂の商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Li、Mgなどは、これらの中和金属イオンの金属種を示している。前記アイオノマー樹脂は、単独で若しくは2種以上を混合して使用しても良い。
本発明のゴルフボールのカバーを構成するカバー用組成物は、樹脂成分として、熱可塑性ポリウレタンエラストマーまたはアイオノマー樹脂を含有することが好ましい。アイオノマー樹脂を使用する場合には、熱可塑性スチレンエラストマーを併用することも好ましい。カバー用組成物の樹脂成分中のポリウレタンまたはアイオノマー樹脂の含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がさらに好ましい。
前記カバー用組成物は、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料、赤色顔料などの顔料成分、酸化亜鉛、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの重量調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
前記白色顔料(例えば、酸化チタン)の含有量は、カバーを構成する樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1質量部以上であって、10質量部以下が好ましく、より好ましくは8質量部以下である。白色顔料の含有量を0.5質量部以上とすることによって、カバーに隠蔽性を付与することができる。また、白色顔料の含有量が10質量部超になると、得られるカバーの耐久性が低下する場合があるからである。
前記カバーを成形する方法としては、例えば、カバー用組成物から中空殻状のシェルを成形し、コアを複数のシェルで被覆して圧縮成形する方法(好ましくは、カバー用組成物から中空殻状のハーフシェルを成形し、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法)、あるいは、カバー用組成物をコア上に直接射出成形する方法を挙げることができる。
圧縮成形法によりカバーを成形する場合、ハーフシェルの成形は、圧縮成形法または射出成形法のいずれの方法によっても行うことができるが、圧縮成形法が好適である。カバー用組成物を圧縮成形してハーフシェルに成形する条件としては、例えば、1MPa以上、20MPa以下の圧力で、カバー用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みをもつハーフシェルを成形できる。ハーフシェルを用いてカバーを成形する方法としては、例えば、コアを2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法を挙げることができる。ハーフシェルを圧縮成形してカバーに成形する条件としては、例えば、0.5MPa以上、25MPa以下の成形圧力で、カバー用組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一なカバー厚みを有するゴルフボールカバーを成形できる。
カバー用組成物を射出成形してカバーを成形する場合、押出して得られたペレット状のカバー用組成物を用いて射出成形しても良いし、あるいは、基材樹脂成分や顔料などのカバー用材料をドライブレンドして直接射出成形してもよい。カバー成形用上下金型としては、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねているものを使用することが好ましい。射出成形によるカバーの成形は、ホールドピンを突き出し、コアを投入してホールドさせた後、カバー用組成物を注入して、冷却することによりカバーを成形することができ、例えば、9MPa〜15MPaの圧力で型締めした金型内に、200℃〜250℃に加熱したカバー用組成物を0.5秒〜5秒で注入し、10秒〜60秒間冷却して型開きすることにより行う。
カバーを成形する際には、通常、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。カバーに形成されるディンプルの総数は、200個以上500個以下が好ましい。ディンプルの総数が200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、ディンプルの総数が500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
前記カバーの厚みは、4.0mm以下が好ましく、より好ましくは3.0mm以下、さらに好ましくは2.0mm以下である。カバーの厚みが4.0mm以下であれば、得られるゴルフボールの反発性や打球感がより良好となる。前記カバーの厚みは、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、さらに好ましくは0.8mm以上、特に好ましくは1.0mm以上である。カバーの厚みが0.3mm未満では、カバーの耐久性や耐摩耗性が低下する場合がある。複数のカバー層の場合は、複数のカバー層の合計厚みが上記範囲であることが好ましい。
前記カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、塗膜やマークを形成することもできる。前記塗膜の膜厚は、特に限定されないが、5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。膜厚が5μm未満になると継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなり、膜厚が50μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下するからである。
[ゴルフボール]
本発明の製造方法により作製されるゴルフボールの構造は、球状コアと、前記球状コアを被覆する一層以上のカバーとを有するものであれば、特に限定されない。前記球状コアは、単層構造であることが好ましい。単層構造の球状コアは、多層構造の界面における打撃時のエネルギーロスがなく、反発性が向上するからである。また、カバーは、一層以上の構造であればよく、単層構造、あるいは、少なくとも二層以上の多層構造を有していてもよい。前記ゴルフボールとしては、例えば、球状コアと前記球状コアを被覆するように配設された単層のカバーとからなるツーピースゴルフボール;球状コアと前記球状コアを被覆するように配設された二層以上のカバーを有するマルチピースゴルフボール(スリーピースゴルフボールを含む);球状コアと前記球状コアの周囲に設けられた糸ゴム層と、前記糸ゴム層を被覆するように配設されたカバーとを有する糸巻きゴルフボールなどを挙げることができる。上記いずれの構造のゴルフボールにも本発明を好適に利用できる。
前記ゴルフボールの直径は、40mmから45mmが好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。また、前記ゴルフボールの質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
前記ゴルフボールは、直径40mm〜45mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量(圧縮方向に縮む量)は、2.0mm以上であることが好ましく、より好ましくは2.2mm以上、さらに好ましくは2.4mm以上であり、4.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは3.5mm以下、さらに好ましくは3.4mm以下である。前記圧縮変形量が2.0mm以上のゴルフボールは、硬くなり過ぎず、打球感が良い。一方、圧縮変形量を4.0mm以下にすることにより、反発性が高くなる。
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボール1が示された一部切り欠き断面図である。ゴルフボール1は、球状コア2と、球状コア2を被覆するカバー3とを有する。このカバーの表面には、多数のディンプル31が形成されている。このゴルフボール3の表面のうち、ディンプル31以外の部分は、ランド32である。このゴルフボール1は、カバー3の外側にペイント層およびマーク層を備えているが、これらの層の図示は省略されている。
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
[評価方法]
(1)コア硬度(ショアC硬度)
コアの表面部において測定した硬度をコア表面硬度とした。また、コアを半球状に切断し、切断面の中心において測定した硬度をコア中心硬度とした。硬度は、自動硬度計(H.バーレイス社製、デジテストII)を用いて測定した。検出器は、「Shore C」を用いた。
(2)圧縮変形量(mm)
コアまたはゴルフボールに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向にコアまたはゴルフボールが縮む量)を測定した。
(3)反発係数
コアまたはゴルフボールに198.4gの金属製円筒物を40m/秒の速度で衝突させ、衝突前後の前記円筒物およびコアまたはゴルフボールの速度を測定し、それぞれの速度および質量からコアまたはゴルフボールの反発係数を算出した。測定は各コアまたはゴルフボールについて12個ずつ行って、その平均値を各ゴルフボールの反発係数とした。なお、表2において、反発係数は、ゴルフボールNo.7の反発係数との差を示した。
(4)ドライバー飛距離
ゴルフラボラトリー社製のスイングロボットM/Cに、メタルヘッド製W#1ドライバー(ダンロップスポーツ社製、XXIO S ロフト11°)を取り付け、ヘッドスピード40m/秒でゴルフボールを打撃し、飛距離(発射始点から静止地点までの距離)を測定した。なお、測定は、各ゴルフボールについて12回ずつ行って、その平均値をそのゴルフボールの測定値とした。なお、各ゴルフボールの飛距離は、ゴルフボールNo.7の飛距離との差(飛距離の差=各ゴルフボールの飛距離−ゴルフボールゴルフボールNo.7の飛距離)で示した。
(5)混練作業性
混練作業性について、以下の基準(目視)に基づいて判定した。
○:混練機への付着が通常配合(製造方法No.7)と同等である。
×:混練機への付着が通常配合(製造方法No.7)よりも明らかに多い。
[ゴルフボールの作製]
(1)コア用ゴム組成物の調製
表1に示す配合材料を、ニーダーを用いて混練し、コア用ゴム組成物を調製した。なお、混練温度(材料温度)は、表1に示した温度となるように調節した。製造方法No.8〜10では、コア用ゴム組成物の調製において、配合物の混練装置への付着量が多かった。これはコア用ゴム組成物の調製時に、(b)成分と(d)成分との反応により生成したオレイン酸亜鉛に起因すると考えられる。
表1で用いた材料は下記の通りである。
ポリブタジエンゴム:JSR社製、BR730(ハイシスポリブタジエンゴム(シス−1,4−結合含有量=95質量%、1,2−ビニル結合含有量=1.3質量%、ムーニー粘度(ML1+4(100℃))=55、分子量分布(Mw/Mn)=3))
ZN−DA90S:日触テクノファインケミカル社製、アクリル酸亜鉛(ステアリン酸亜鉛を10質量%含有)
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺R」
PBDS:川口化学工業社製、ビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィド
DCP:東京化成工業社製、ジクミルパーオキサイド
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」
オレイン酸:東京化成工業社製
10−ウンデシレン酸:日東化成社製
エルカ酸:東京化成工業社製
オレイン酸ナトリウム:東京化成工業社製
(2)球状コアの作製
得られたコア用ゴム組成物を、押出機で押出し、プラグを作製した。このプラグを半球状キャビティを有する上下金型内に投入し、150℃、20分間加熱プレスすることにより球状コアを得た。得られた球状コアの圧縮変形量、反発係数、硬度を測定し、結果を表2に示した。
(3)カバーの成形
表3に示した配合材料を用いて、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状のカバー用組成物を得た。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は押出機のダイの位置で160℃〜230℃に加熱された。
ハイミラン1605:三井・デュポン・ポリケミカル社製、ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
ハイミラン1706:三井・デュポン・ポリケミカル社製、亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体系アイオノマー樹脂
酸化チタン:石原産業社製、A220
前記で得たカバー用組成物を、前述のようにして得た球状コア上に射出成形することにより、前記球状コアを被覆するカバーを成形した。カバーを成形するための成形用上下金型は、半球状キャビティを有し、ピンプル付きで、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねている。カバー成形時には、ホールドピンを突き出し、コアを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に210℃〜260℃に加熱した樹脂を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きしてゴルフボールを取り出した。
得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、クリアーペイントを塗布し、40℃のオーブンで塗料を乾燥させ、直径42.8mm、質量45.4gのゴルフボールを得た。得られたゴルフボールについて、評価した結果を表2に示した。
製造方法No.1〜5は、コア用ゴム組成物に配合される(b)共架橋剤中の金属成分と(d1)不飽和脂肪酸とから構成される不飽和脂肪酸金属塩(ウンデシレン酸亜鉛、エルカ酸亜鉛)の融点(110℃以上)が混練温度(105℃)より高い場合である。これらの製造方法により作製されたゴルフボールNo.1〜5は、反発性能に優れている。
製造方法No.6は、コア用ゴム組成物に配合される(d2)不飽和脂肪酸金属塩(オレイン酸ナトリウム)の融点(230℃)が混練温度(105℃)より高い場合である。この製造方法により作製されたゴルフボールNo.6は、反発性能に優れている。
製造方法No.8〜10は、コア用ゴム組成物に配合される(b)共架橋剤中の金属成分と(d1)不飽和脂肪酸とから構成される不飽和脂肪酸金属塩(オレイン酸亜鉛)の融点(80℃)が混練温度(105℃)未満の場合である。これらの製造方法により作製されたゴルフボールNo.8〜10は、(d1)成分および(d2)成分を配合していないゴルフボールNo.7よりも反発性能が劣る。これは、コア用ゴム組成物の調製時に生成した(b)共架橋剤中の金属成分と(d1)不飽和脂肪酸とから構成される不飽和脂肪酸金属塩(オレイン酸亜鉛)によって配合材料を均一に混練できなかったためと考えられる。