JP6863068B2 - 回転体支持装置の診断方法 - Google Patents

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Description

本発明は、回転体を支持するための回転体支持装置診断方法に関する。
たとえば、特開昭55−126846号公報には、回転体を支持するための回転体支持装置として、玉軸受、ころ軸受などの転がり軸受が記載されている。このような転がり軸受では、軌道輪や転動体の熱処理硬化組織の疲労の進行と共に、該組織中の残留オーステナイト量が減少することが知られている。
このような現象を利用して、転がり軸受の軌道面の表層部の疲労度を診断することが考えられる。たとえば、特開2004−198246号公報には、渦電流センサにより、軌道面の表層部の疲労に起因する、該表層部の残留オーステナイトの減少量を測定し、その測定結果に基づいて、軌道面の表層部の疲労度を診断する方法が開示されている。
また、たとえば、特開2004−308878号公報に記載されているように、各種センサにより転がり軸受の使用中に発生する振動などを測定し、その測定結果に基づいて、転がり軸受の軌道面などに初期破損が発生したことを検知する方法も知られている。
特開昭55−126846号公報 特開2004−198246号公報 特開2004−308878号公報
特開2004−198246号公報に記載の方法を実施するためには、転がり軸受を使用箇所から取り外して分解した後、軌道面に渦電流センサを近づける必要がある。すなわち、この方法を実施するためには、転がり軸受を使用箇所から取り外したり、分解したりするなどの、多くの手間がかかる。
一方、特開2004−308878号公報に記載の方法によれば、転がり軸受を使用箇所から取り外すことなく、転がり軸受の転動面などに初期破損が発生したことを検知することができる。しかしながら、この方法で検知できるのは、あくまでも初期破損であり、破損が生じる前にその予兆を検知することはできない。
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、静止側軌道の破損の予兆の検知を容易化できる、回転体支持装置の診断方法を提供することにある。
本発明の一態様の回転体支持装置の診断方法は、径方向一方側の軌道側周面と、径方向他方側の反軌道側周面と、前記軌道側周面に存在する静止側軌道とを有する静止輪と、周面に前記静止側軌道と対向する回転側軌道を有する回転輪と、前記静止側軌道と前記回転側軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える、回転体支持装置に適用される。
特に、本発明の回転体支持装置の診断方法は、前記静止側軌道と径方向に重畳する前記反軌道側周面のうち、使用状態でのラジアル荷重の非負荷圏側の一部にひずみセンサを取り付けた状態で、該ひずみセンサを用いて、前記静止側軌道のうち使用状態でラジアル荷重の負荷圏側に疲労の進行により生じる弧長の伸びと相関を有する、前記一部のひずみ量を測定し、この測定した周方向のひずみ量または該ひずみ量の平均値を利用して、診断ユニットにより、前記静止側軌道の破損の予兆の有無を判定する工程を備える。
前記診断ユニットは、前記ひずみセンサを用いて測定した前記一部の周方向のひずみ量または該ひずみ量の平均値を表すデータを記憶するデータ記憶手段を備えており、かつ、前記ひずみ量または該ひずみ量の平均値を表すデータの値と、前記データ記憶手段に記憶された前記ひずみ量または該ひずみ量の平均値を表すデータの初期値との差が、閾値よりも大きい場合に、前記静止側軌道の破損の予兆ありと判定する機能を有する。
本発明の一態様の回転体支持装置の診断方法では、前記工程において、前記ラジアル荷重が一定の状態で、または、前記ラジアル荷重の変化に応じて前記閾値を補正しつつ、前記判定を行う。
本発明の一態様の回転体支持装置の診断方法では、前記工程において、前記回転体支持装置の停止時に、前記判定を行う。
本発明の一態様の回転体支持装置の診断方法によれば、静止側軌道の破損の予兆の検知を容易化できる。すなわち、回転体支持装置を使用箇所に組み付けたままの状態で、静止側軌道の破損の予兆を検知することができる。
図1は、本発明の実施の形態の第1例の車輪支持装置の断面図である。 図2は、図1の車輪支持装置を構成する円すいころ軸受およびその周辺部の拡大図である。 図3は、一部を省略して示した図2のA−A断面図である。 図4は、実施の形態の第1例の診断ユニットを示すブロック図である。 図5は、本発明の実施の形態の第1例における、内輪のラジアル荷重の負荷圏側の疲労度とひずみセンサの出力との関係を示す線図である。 図6は、本発明の実施の形態の第2例を示す、図3と同様の図である。 図7は、本発明の実施の形態の第2例における、内輪のラジアル荷重の負荷圏側の疲労度とひずみセンサの出力との関係を示す線図である。 図8は、本発明の実施の形態の第3例のハブユニット軸受の断面図である。 図9は、図8のB−B断面図である。
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1〜図5を用いて説明する。
本例の回転体支持装置の診断システムは、回転体支持装置である車輪支持装置1と、診断ユニット27とを備える。
車輪支持装置1は、トラック、バスなどの大型車両の従動輪用で、かつ、いわゆる外輪回転型である。車輪支持装置1は、図1〜図3に示すように、車軸2と、ハブ3と、1対の円すいころ軸受4a、4bと、ひずみセンサ13a、13bとを備える。
車軸2は、懸架装置を構成するもので、筒状に構成されている。車軸2は、外周面の軸方向に離隔した2箇所位置に、互いに同軸に配置された円筒状の嵌合面部5a、5bを有する。軸方向外側の嵌合面部5aは、軸方向内側の嵌合面部5bよりも、外径寸法が小さくなっている。また、車軸2は、軸方向内側の嵌合面部5bの軸方向内側に隣接する位置に、軸方向外側を向いた段差面6を有している。
なお、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側を意味し、図1の左側に相当する。一方、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向内側、すなわち幅方向中央側を意味し、図1の右側に相当する。
ハブ3は、筒状に構成されたもので、軸方向中間部の径方向外側部に、使用状態で回転体である車輪および制動用回転部材を固定するためのフランジ部7を有する。ハブ3は、軸方向両側部の内周面に、互いに同軸に配置された円筒状の嵌合面部8a、8bを有する。ハブ3は、軸方向外側の嵌合面部8aの軸方向内側に隣接する位置に軸方向外側を向いた段差面9aを有しており、軸方向内側の嵌合面部8bの軸方向外側に隣接する位置に軸方向内側を向いた段差面9bを有している。
1対の円すいころ軸受4a、4bは、車軸2に対してハブ3を回転自在に支持するもので、車軸2の外周面とハブ3の内周面との間に、軸方向に離隔して、かつ、互いの接触角の方向が背面組合せとなるように配置されている。円すいころ軸受4a、4bは、使用状態で、下部側(地面側、鉛直方向下側)がラジアル荷重の負荷圏側となり、上部側がラジアル荷重の非負荷圏側となる。なお、以下、ラジアル荷重の負荷圏を、単に「負荷圏」と記することがあり、ラジアル荷重の非負荷圏を、単に「非負荷圏」と記することがある。
なお、図2は、図1の軸方向外側の円すいころ軸受4aおよびその周辺部の拡大図である。なお、図1の軸方向内側の円すいころ軸受4bおよびその周辺部は、軸方向外側の円すいころ軸受4aおよびその周辺部と実質的に対称に構成される。したがって、図2および以下の説明において、軸方向内側の円すいころ軸受4bおよびその周辺部に対応する符号も、括弧書きで同時に付する。
円すいころ軸受4a(4b)は、使用状態で回転しない静止輪である内輪10a(10b)と、使用状態で回転する回転輪である外輪11a(11b)と、それぞれが転動体である複数個の円すいころ12a(12b)とを備える。
内輪10a(10b)は、軸受鋼製で、軌道側周面である外周面と、反軌道側周面である内周面とを有する。内輪10a(10b)は、軸方向中間部外周面に、静止側軌道である部分円すい面状の内輪軌道14a(14b)を有する。また、内輪10a(10b)は、軸方向に関して内輪軌道14a(14b)の大径側に隣接する位置に大鍔部15a(15b)を有し、軸方向に関して内輪軌道14a(14b)の小径側に隣接する位置に小鍔部16a(16b)を有する。さらに、内輪10a(10b)は、軸方向中間部内周面のうちで使用状態での上部側に、径方向外側に凹んだ凹部17a(17b)を有する。本例では、凹部17a(17b)は、ラジアル荷重が最も小さくなる、内輪10a(10b)における上部側(非負荷圏側)の上端部内周面に形成されている。なお、図1では凹部17a(17b)の図示は省略されている。
内輪10a(10b)は、いわゆるズブ焼き入れにより熱処理されている。このため、内輪10a(10b)の材料は、大半がマルテンサイト化し、かつ、一般的には15容量%〜25容量%程度のオーステナイトが残留した、熱処理硬化組織になっている。
外輪11a(11b)は、軸受鋼製で、内周面に、回転側軌道である部分円すい面状の外輪軌道18a(18b)を有する。なお、外輪11a(11b)も、内輪10a(10b)と同様に、ズブ焼き入れにより熱処理されている。
複数個の円すいころ12a(12b)は、軸受鋼製またはセラミック製で、内輪軌道14a(14b)と外輪軌道18a(18b)との間に転動自在に配置されている。
ひずみセンサ13a(13b)は、ひずみセンサ13a(13b)自体が取り付けられた箇所の周方向のひずみを測定可能な力学的センサであり、少なくとも1個のひずみゲージによって構成されている。ひずみセンサ13a(13b)は、全体が内輪10a(10b)の凹部17a(17b)の内側に配置され、かつ、凹部17a(17b)の底面に接着により取り付けられている。したがって、ひずみセンサ13a(13b)と内輪軌道14a(14b)とは、径方向に重畳している。換言すれば、ひずみセンサ13a(13b)は、内輪軌道14a(14b)の軸方向中間部の径方向内側に位置している。また、ひずみセンサ13a(13b)は、使用状態で、上端部、すなわち、非負荷圏の円周方向中央部に配置されている。ただし、本発明を実施する場合には、凹部17a(17b)およびひずみセンサ13a(13b)を、使用状態で非負荷圏の他の円周方向位置に配置することもできる。また、本発明を実施する場合には、内輪の内周面に全周にわたる環状溝を設け、該環状溝の内面に少なくとも1個のひずみセンサを取り付けることもできる。
図1に示すように、軸方向外側の円すいころ軸受4aは、内輪10aが車軸2の嵌合面部5aに外嵌されており、外輪11aがハブ3の嵌合面部8aに内嵌されている。この状態で、内輪10aの大径側側面である軸方向外側面は、車軸2の軸方向外端部に螺合されたナット19の軸方向内側面に当接しており、外輪11aの大径側側面である軸方向内側面は、ハブ3の段差面9aに当接している。一方、軸方向内側の円すいころ軸受4bは、内輪10bが車軸2の嵌合面部5bに外嵌されており、外輪11bがハブ3の嵌合面部8bに内嵌されている。この状態で、内輪10bの大径側側面である軸方向内側面は、車軸2の段差面6に当接しており、外輪11bの大径側側面である軸方向外側面は、ハブ3の段差面9bに当接している。
さらに、この状態で、円すいころ軸受4a(4b)のアキシアル方向の内部隙間は、ゼロ、または、若干量の正もしくは負の値に設定されている。ここで、若干量の負の内部隙間とは、円すいころ軸受4a(4b)に車重によるラジアル荷重が負荷された時に、非負荷圏が現れる、すなわち負荷率が1未満の状態となるレベルの負の内部隙間である。
診断ユニット27は、車体側に設置されており、かつ、図示しないハーネスを通じて、ひずみセンサ13a(13b)に接続されている。ひずみセンサ13a(13b)の出力信号は、前記ハーネスを通じて、診断ユニット27に送られるようになっている。
さらに、診断ユニット27は、図4に示すような、データ入力手段35と、データ処理手段36と、予兆判定手段37と、データ記憶手段38と、結果出力手段39とを備えている。これらの機能については、後述する。
以下、本例の車輪支持装置1を用いた例における、本発明の回転体支持装置の診断方法について具体的に説明する。
本例の車輪支持装置1の使用状態で、内輪10a(10b)の負荷圏側である下部側では、疲労の進行と共に、残留オーステナイトが、より低い密度を有するマルテンサイトに変化する。この結果、内輪10a(10b)の負荷圏側の周方向長さである弧長が伸びる。すなわち、オーステナイトの密度7.86とマルテンサイトの密度7.83との比は、7.86/7.83≒1.0038であるから、残留オーステナイトがマルテンサイトに変化すると、その体積が0.38%程度増加する。したがって、たとえば、内輪10a(10b)の熱処理硬化組織が、初期状態で残留オーステナイトを10容量%〜25容量%程度含んでいる場合には、内輪10a(10b)の負荷圏側の残留オーステナイトのすべてがマルテンサイトに変化すると、内輪10a(10b)の負荷圏側では、体積が0.03%〜0.1%程度増加し、弧長が0.01%〜0.03%程度増加する。
このように内輪10a(10b)の負荷圏側の弧長が伸びると、内輪10a(10b)の真円度が悪化し、内輪10a(10b)の非負荷圏側に、内周面の曲率が減少するような変形が生じる。特開昭55−126846号公報の第1図(b)に開示されているように、残留オーステナイトの減少量は疲労の進行とほぼ比例関係にあるので、当該非負荷圏側の変形量をひずみセンサ13a(13b)によりモニタリングすれば、内輪10a(10b)の負荷圏側の疲労度を把握することができる。
すなわち、本例では、内輪10a(10b)の非負荷圏側の変形量が増大すると、図5に示すように、ひずみセンサ13a(13b)により測定される、凹部17a(17b)の底面の周方向のひずみ量が増大する。このため、このひずみ量に基づいて、内輪10a(10b)の負荷圏側の疲労度を把握することができる。なお、図5の疲労度(残留オーステナイトの減少量)とひずみ量との関係は、本来は1/3乗の関係であるため、上に凸の曲線となるが、ごく狭い範囲での変化のため、直線として扱っても差し支えなく、図5では直線として描いている。また、本例では、内輪10a(10b)に対するひずみセンサ13a(13b)の取り付け位置を、内輪軌道14a(14b)と径方向に重畳する位置としている。かかる位置では、かかる位置から軸方向にずれた位置に比べて、負荷圏側の疲労度に応じた周方向のひずみ量が大きくなる。このため、本例では、この疲労度を感度良く把握できる。
診断ユニット27は、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量が、初期値Sを基準として、閾値Tよりも大きくなった場合に、内輪10a(10b)の負荷圏側で内輪軌道14a(14b)の破損の予兆ありと判定する機能を有する。なお、初期値Sは、内輪10a(10b)に疲労が生じる前の、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量である。また、閾値Tは、実験やシミュレーションの結果に基づいて、予め適宜の大きさに設定される値である。閾値Tは、ひずみセンサ13a(13b)ごとに決められる。このような診断ユニット27の機能について、以下に具体的に説明する。
ひずみセンサ13a(13b)の出力信号、すなわち、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量を表す信号は、データ入力手段35(図4参照)に入力される。データ入力手段35は、入力された信号を、処理可能なデータに変換(たとえば、アナログデータからディジタルデータに変換)する。このように変換されたデータは、データ処理手段36を通じて、予兆判定手段37およびデータ記憶手段38に送られる。
データ記憶手段38は、前記閾値Tを記憶している。また、データ記憶手段38は、データ処理手段36を通じて送られてきた、ひずみ量を表すデータを記憶する。したがって、データ記憶手段38には、このひずみ量を表すデータの初期値Sや時系列的な変化などが記憶されることになる。データ記憶手段38に記憶されたデータは、予兆判定手段37により、適宜、利用可能とされている。
予兆判定手段37は、データ処理手段36を通じて送られてきた、ひずみ量を表すデータの値と、データ記憶手段38に記憶されている該データの初期値Sとの差が、データ記憶手段38に記憶されている閾値Tよりも大きい場合に、負荷圏側で内輪軌道14a(14b)の破損の予兆ありと判定し、そうでない場合は、該予兆なしと判定する。
結果出力手段39は、予兆判定手段37による前記判定の結果を、たとえば、ディスプレイ、ランプなどの表示器やスピーカーなどの音声発生器により出力する。これにより、前記判定の結果は、車両の運転者や点検者によって確認可能となる。
なお、診断ユニット27は、たとえば、電気回路とマイクロコンピュータとを含んで構成されており、このマイクロコンピュータ内に保持記憶されたプログラムを実行することによって、上述した各機能を発揮することができる。なお、診断ユニット27は、一体のユニットとして車体側に設置することもできるし、あるいは、複数のユニットに分散して車体側に設置することもできる。
なお、本例では、円すいころ軸受4a(4b)のアキシアル方向の内部隙間が、ゼロ、または、若干量の正もしくは負の値に設定されており、かつ、ひずみセンサ13a(13b)が内輪10a(10b)の非負荷圏側に取り付けられている。このため、次のような効果が得られる。
すなわち、車両の運転中、内輪10a(10b)には、負荷圏側の疲労に伴うひずみだけでなく、円すいころ12a(12b)の通過に伴って周期的に変動するひずみも生じる。ただし、本例では、円すいころ軸受4a(4b)のアキシアル方向の内部隙間が、ゼロ、または、若干量の正もしくは負の値に設定されている。このため、円すいころ12a(12b)の通過に伴って周期的に変動するひずみの大きさは、ひずみセンサ13a(13b)が取り付けられた非負荷圏では、負荷圏側に比べて非常に小さくなる。したがって、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量に、円すいころ12a(12b)の通過に伴う周期的な変動が生じたとしても、その変動幅は非常に小さくなる。したがって、車両の運転中、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量(データ入力手段35により変換されたデータ)をそのまま用いて前記判定を行っても、実用上の問題を生じることは殆どない。ただし、ひずみセンサ13a(13b)の出力信号の平滑化処理を行うことにより、円すいころ12a(12b)の通過に伴うひずみ量の変動をキャンセルして、ひずみ量の平均値を求め、この平均値を用いて前記判定を行えば、より信頼性の高い判定を行うことができる。なお、前記平滑化処理は、データ処理手段36によって行う。また、本例では、円すいころ12a(12b)の通過に伴って生じる、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量の変動幅は非常に小さいため、前記平滑化処理が複雑化することはない。
また、車両の運転中、内輪10a(10b)の温度は、円すいころ12a(12b)との転がり接触に伴って上昇する。ただし、本例では、円すいころ軸受4a(4b)のアキシアル方向の内部隙間が、ゼロ、または、若干量の正もしくは負の値に設定されている。このため、円すいころ12a(12b)との転がり接触に伴う内輪10a(10b)の温度上昇は、ひずみセンサ13a(13b)が取り付けられた非負荷圏では、負荷圏側に比べて大幅に小さくなる。したがって、車両の運転中、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量に、内輪10a(10b)の温度上昇に基づく誤差が生じたとしても、その誤差は十分に小さく、温度補正用のダミーセンサ(軸方向に貼るダミーゲージ)で補正可能である。したがって、当該誤差が前記判定の結果に及ぼす影響を十分に小さくできる。
一方、本例では、車両の停止中に前記判定を行えば、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量に、円すいころ12a(12b)の通過に伴う周期的な変動が生じないため、より信頼性の高い判定を行うことができる。
さらに、本例では、車両を停止してから一定時間が経過することにより、内輪10a(10b)の温度が十分に下がった状態で前記判定を行えば、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量に、内輪10a(10b)の温度上昇に基づく誤差が生じないため、より信頼性の高い判定を行うことができる。
以上のように、本例では、車輪支持装置1を使用箇所に組み付けたままの状態で、前記破損の予兆を判定、すなわち検知することができる。つまり、円すいころ軸受4a(4b)を取り出したり、分解したりするなどの、多くの手間をかけることなく、前記破損の予兆を容易に検知することができる。このため、たとえば、数か月置きに行われる定期点検の合格車両について、次回の定期点検が行われるまでの期間内の走行量が多くなり、内輪10a(10b)の負荷圏側の疲労度が大きく進行した場合でも、前記破損の予兆を確実に検知することができる。そして、破損の予兆が検知された内輪10a(10b)、または、これらの内輪10a(10b)を含む円すいころ軸受4a(4b)を、次回の定期点検で交換することが可能となる。なお、車輪支持装置1に掛かる軸重を一定にした状態で診断(たとえば、空車で停止時に診断)したり、診断時に軸重の変化に応じて補正する(たとえば、軸重検査時に診断する)ようにすれば、より正確な破損予兆の診断が可能になる。
なお、本例では、車輪支持装置1を構成する1対の円すいころ軸受4a、4bの内輪10a、10bのそれぞれに、ひずみセンサを取り付ける構成を採用した。ただし、本発明を実施する場合、1対の円すいころ軸受4a、4bの内輪10a、10bのうち、何れか一方の内輪の寿命が他方の内輪の寿命よりも短くなることが予め分かっているような場合には、当該一方の内輪にのみ、ひずみセンサを設ける構成を採用することもできる。
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図6〜図7を用いて説明する。
本例では、使用状態でのひずみセンサ13a(13b)の配置箇所が、実施の形態の第1例の場合と異なる。
すなわち、本例では、使用状態で、内輪10a(10b)の凹部17a(17b)の底面に取り付けられたひずみセンサ13a(13b)は、内輪10a(10b)の負荷圏側である下部側に配置されている。特に、本例では、ひずみセンサ13a(13b)は、ラジアル荷重の負荷圏の円周方向中央部(負荷圏のラジアル荷重が最も大きくなる円周方向位置)である、下端部に配置されている。ただし、本発明を実施する場合には、ひずみセンサ13a(13b)を、使用状態で負荷圏の他の円周方向位置に配置することもできる。
本例では、ひずみセンサ13a(13b)によって、内輪10a(10b)の負荷圏側の弧長の伸びを直接測定できるため、実施の形態の第1例の場合に比べて、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量を大きくできる。
なお、本例の構造では、ひずみセンサ13a(13b)が内輪10a(10b)の負荷圏側に取り付けられているため、車両の運転中、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量は、円すいころ12a(12b)の通過に伴って周期的に変動し、かつ、その変動幅が大きくなる。したがって、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量(データ入力手段35(図4参照)により変換されたデータ)をそのまま用いて予兆判定手段37(図4参照)による判定を行うと、判定の信頼性を十分に確保することが難しくなる。そこで、実施の形態の第1例でも説明したように、車両の運転中に前記判定を行う際には、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量の変動をキャンセルするために、ひずみセンサ13a(13b)の出力信号の平滑化処理を行うことにより、ひずみ量の平均値を求め、この平均値を用いて前記判定を行うことが好ましい。また、本例では、ひずみセンサ13a(13b)が内輪10a(10b)の負荷圏側に取り付けられているため、円すいころ12a(12b)の通過に伴って生じる、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量の変動幅は、車両の積載荷重の影響を受けて大きく変化しやすい。したがって、前記平滑化処理を適切に行うために、積載荷重を別途把握しておき、この積載荷重を考慮しつつ、前記平滑化処理を行うことが好ましい。
一方、本例でも、車両の停止中に前記判定を行えば、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量に、円すいころ12a(12b)の通過に伴う周期的な変動が生じないため、より信頼性の高い判定を行うことができる。
本例では、内輪10a(10b)の負荷圏側は、運転時の温度変化が大きいため、この温度変化に基づく、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量の誤差も大きくなる。したがって、この誤差にも考慮しつつ、前記判定を行うのが好ましい。
一方、本例でも、車両を停止してから一定時間が経過することにより、内輪10a(10b)の温度が十分に下がった状態で前記判定を行えば、ひずみセンサ13a(13b)により測定されるひずみ量に、内輪10a(10b)の温度上昇に基づく誤差が生じないため、より信頼性の高い判定を行うことができる。
その他の構成および作用は、実施の形態の第1例の場合と同様である。
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、図8および図9を用いて説明する。
本例の回転体支持装置の診断システムは、回転体支持装置である車輪支持用のハブユニット軸受20と、診断ユニット27とを備える。
ハブユニット軸受20は、一般的な乗用車の従動輪用で、かつ、いわゆる内輪回転型である。ハブユニット軸受20は、静止輪である外輪21と、回転輪であるハブ22と、それぞれが転動体である複数個の玉23a、23bと、ひずみセンサ24a、24bとを備える。本例では、ハブユニット軸受20は、使用状態で、上部側がラジアル荷重の負荷圏側となり、下部側がラジアル荷重の非負荷圏側となる。
外輪21は、中炭素鋼製で、軌道側周面である内周面に、それぞれが静止側軌道である複列の外輪軌道25a、25bを有し、軸方向中間部の径方向外側部に、使用状態で懸架装置を構成するナックルに固定するための静止側フランジ26を有する。また、外輪21は、外輪軌道25a、25bの表層部に、図8および図9中に梨地で示されるような、高周波焼入れによる熱処理硬化層34a、34bを有している。
ハブ22は、外周面に、それぞれが回転側軌道である複列の内輪軌道28a、28bを有し、これらの内輪軌道28a、28bよりも軸方向外側部の径方向外側部に、車輪および制動用回転部材を固定するための回転側フランジ29を有する。本例では、ハブ22は、ハブ輪30と内輪31とを組み合わせることにより構成されている。
なお、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側を意味し、図8の左側に相当する。一方、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向内側を意味し、図8の右側に相当する。
ハブ輪30は、中炭素鋼製である。回転側フランジ29は、ハブ輪30の軸方向外側部の径方向外側部に備えられており、軸方向外側列の内輪軌道28aは、ハブ輪30の軸方向中間部の外周面に備えられている。ハブ輪30は、軸方向内側部の外周面に、小径段部32を有する。
内輪31は、軸受鋼製で、筒状に構成されている。軸方向内側列の内輪軌道28bは、内輪31の外周面に備えられている。内輪31は、ハブ輪30の小径段部32に締り嵌めにより外嵌され、かつ、内輪31の軸方向内端部を、ハブ輪30の軸方向内端部に設けられた抑え部33により抑え付けられて、ハブ輪30に固定されている。なお、抑え部33は、ハブ輪30の中間素材の軸方向内端部を塑性加工により径方向外方に折り曲げることにより形成されている。
玉23a、23bは、軸受鋼製またはセラミック製で、軸方向外側列の外輪軌道25aと内輪軌道28aとの間、および、軸方向内側列の外輪軌道25bと内輪軌道28bとの間に、それぞれ複数個ずつ転動自在に配置されている。軸方向外側列の玉23aと軸方向内側列の玉23bとには、背面組合せ形の接触角と共に、予圧が付与されている。
ひずみセンサ24aは、外輪21の反軌道側周面である外周面のうちで、軸方向外側の外輪軌道25aと径方向に重畳し、かつ、使用状態で下端部、すなわち非負荷圏の円周方向中央部に位置する箇所に、接着により取り付けられている。同様に、ひずみセンサ24bは、外輪21の外周面のうちで、軸方向内側の外輪軌道25bと径方向に重畳し、かつ、使用状態で下端部に位置する箇所に、接着により取り付けられている。ただし、本発明を実施する場合には、ひずみセンサ24a(24b)を、使用状態で非負荷圏の他の円周方向位置に配置することもできる。
診断ユニット27は、実施の形態の第1例および第2例と同様の構成を有するもので、車体側に設置されており、かつ、図示しないハーネスを通じて、ひずみセンサ24a(24b)に接続されている。ひずみセンサ24a(24b)の出力信号は、前記ハーネスを通じて、診断ユニット27に送られるようになっている。
本例のハブユニット軸受20の使用状態で、外輪軌道25a(25b)の熱処理硬化層34a(34b)の負荷圏側では、疲労の進行と共に、残留オーステナイトが、より低い密度を有するマルテンサイトに変化する。これにより、外輪21のうち、外輪軌道25a(25b)の熱処理硬化層34a(34b)と整合する軸方向箇所の負荷圏側の弧長が伸びる。この結果、この軸方向箇所で、外輪21の真円度が悪化し、この軸方向箇所の非負荷圏側である下部側に、外周面の曲率が減少するような変形が生じる。したがって、この非負荷圏側の変形量をひずみセンサ24a(24b)によりモニタリングすれば、外輪軌道25a(25b)の熱処理硬化層34a(34b)の負荷圏側の疲労度を把握することができる。
本例では、外輪21のうち、外輪軌道25a(25b)の熱処理硬化層34a(34b)と整合する軸方向箇所の非負荷圏側の変形量が増大すると、ひずみセンサ24a(24b)により測定される、当該軸方向箇所の外周面の下端部の周方向のひずみ量が増大する(例えば図5参照)。このため、ひずみセンサ24a(24b)により測定されるひずみ量に基づいて、外輪軌道25a(25b)の熱処理硬化層34a(34b)の負荷圏側の疲労度を把握することができる。
診断ユニット27は、ひずみセンサ24aにより測定されるひずみ量が、初期値を基準として、閾値よりも大きくなった場合に、軸方向外側列の外輪軌道25aの破損の予兆ありと判定する機能を有する。また、診断ユニット27は、ひずみセンサ24bにより測定されるひずみ量が、初期値を基準として、閾値よりも大きくなった場合に、軸方向内側列の外輪軌道25bの破損の予兆ありと判定する機能を有する。なお、これらの点については、実施の形態の第1例の場合と同様である。
なお、本例のハブユニット軸受20では、軸方向外側列の玉23aと軸方向内側列の玉23bとのそれぞれに、予圧が付与されている。このため、外輪21のうち、外輪軌道25a(25b)の熱処理硬化層34a(34b)と整合する軸方向箇所の変形量は、負荷圏側だけでなく、非負荷圏側でも、玉23a(23b)の通過に伴って周期的に変化する。このため、非負荷圏側に配置されたひずみセンサ24a(24b)により測定されるひずみ量は、玉23a(23b)の通過に伴って周期的に変動する。したがって、本例の場合も、車両の運転中に前記判定を行う際には、ひずみセンサ24a(24b)により測定されるひずみ量の変動をキャンセルするために、ひずみセンサ24a(24b)の出力信号の平滑化処理を行うことにより、ひずみ量の平均値を求め、この平均値を用いて前記判定を行うことが好ましい。なお、本例のように、予圧に起因して発生するひずみセンサ24a(24b)により測定されるひずみ量の変動幅は、実施の形態の第2例のように、負荷圏でのラジアル荷重に起因して発生するにより測定されるひずみ量の振動幅に比べて、十分に小さくなる。したがって、本例では、実施の形態の第2例に比べて、前記平滑化処理を容易に行うことができる。
以上のように、本例では、ハブユニット軸受20を使用箇所に組み付けたままの状態で、1対の外輪軌道25a、25bの破損の予兆を判定、すなわち検知することができる。したがって、少なくとも何れか一方の外輪軌道25a(25b)の破損の予兆を検知した場合には、外輪21を含むハブユニット軸受20を、次回の定期点検で交換することが可能となり、車両の安全走行を維持することができる。
なお、本例では、外輪21のうち、1対の外輪軌道25a、25bのそれぞれの径方向外側にひずみセンサを設けた。ただし、本発明を実施する場合に、1対の外輪軌道25a、25bのうち、何れか一方の外輪軌道の寿命が他方の外輪軌道の寿命よりも短くなることが予め分かっているような場合には、外輪21のうち、当該一方の外輪軌道の径方向外側にのみ、ひずみセンサを設ける構成を採用することもできる。
また、本発明を実施する場合には、外輪21の外周面の負荷圏側にひずみセンサ24a(24b)を取り付ける構造を採用することもできる。
本発明は、従動輪用の車輪支持装置やハブユニット軸受に限らず、駆動輪用の車輪支持装置やハブユニット軸受に適用することもできる。
また、本発明は、トラックや乗用車に限らず、鉄道車両、風車、圧延機、工作機械、建設機械、農業機械など、各種機械装置に組み込まれる回転体支持装置に適用することができる。
また、静止側軌道と回転側軌道と複数個の転動体とにより構成される軸受部の形式は、円すいころ軸受や玉軸受に限らず、円筒ころ軸受、ニードル軸受、自動調心ころ軸受など、各種の形式を採用することができる。
1 車輪支持装置
2 車軸
3 ハブ
4a、4b 円すいころ軸受
5a、5b 嵌合面部
6 段差面
7 フランジ部
8a、8b 嵌合面部
9a、9b 段差面
10a、10b 内輪
11a、11b 外輪
12a、12b 円すいころ
13a、13b ひずみセンサ
14a、14b 内輪軌道
15a、15b 大鍔部
16a、16b 小鍔部
17a、17b 凹部
18a、18b 外輪軌道
19 ナット
20 ハブユニット軸受
21 外輪
22 ハブ
23a、23b 玉
24a、24b ひずみセンサ
25a、25b 外輪軌道
26 静止側フランジ
27 診断ユニット
28a、28b 内輪軌道
29 回転側フランジ
30 ハブ輪
31 内輪
32 小径段部
33 抑え部
34a、34b 熱処理硬化層
35 データ入力手段
36 データ処理手段
37 予兆判定手段
38 データ記憶手段
39 結果出力手段

Claims (3)

  1. 径方向一方側の軌道側周面と、径方向他方側の反軌道側周面と、前記軌道側周面に存在する静止側軌道とを有する静止輪と、
    周面に前記静止側軌道と対向する回転側軌道を有する回転輪と、
    前記静止側軌道と前記回転側軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
    を備えた回転体支持装置の診断方法であって、
    前記静止側軌道と径方向に重畳する前記反軌道側周面のうち、使用状態でのラジアル荷重の非負荷圏側の一部にひずみセンサを取り付けた状態で、該ひずみセンサを用いて、前記静止側軌道のうち使用状態でラジアル荷重の負荷圏側に疲労の進行により生じる弧長の伸びと相関を有する、前記一部の周方向のひずみ量を測定し、この測定した周方向のひずみ量または該ひずみ量の平均値を利用して、診断ユニットにより、前記静止側軌道の破損の予兆の有無を判定する工程を備えており、
    前記診断ユニットは、前記ひずみセンサを用いて測定した前記一部の周方向のひずみ量または該ひずみ量の平均値を表すデータを記憶するデータ記憶手段を備えており、かつ、前記ひずみ量または該ひずみ量の平均値を表すデータの値と、前記データ記憶手段に記憶された前記ひずみ量または該ひずみ量の平均値を表すデータの初期値との差が、閾値よりも大きい場合に、前記静止側軌道の破損の予兆ありと判定する機能を有している、
    回転体支持装置の診断方法。
  2. 前記工程において、前記ラジアル荷重が一定の状態で、または、前記ラジアル荷重の変化に応じて前記閾値を補正しつつ、前記判定を行う、請求項1に記載の回転体支持装置の診断方法。
  3. 前記工程において、前記回転体支持装置の停止時に、前記判定を行う、
    請求項1〜2のうちのいずれか1項に記載の回転体支持装置の診断方法。
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