JP6911522B2 - 回転体支持装置とその診断システムおよび診断方法 - Google Patents

回転体支持装置とその診断システムおよび診断方法 Download PDF

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Description

本発明は、回転体を支持するための回転体支持装置と、回転体支持装置を構成する静止側軌道の破損の予兆を検知するための診断システムおよび診断方法に関する。
たとえば、特開昭55−126846号公報には、回転体を支持するための回転体支持装置として、玉軸受、ころ軸受などの転がり軸受が記載されている。このような転がり軸受では、軌道輪や転動体の熱処理硬化組織の疲労の進行と共に、該組織中の残留オーステナイト量が減少することが知られている。
このような現象を利用して、転がり軸受の軌道面の表層部の疲労度を診断することが考えられる。たとえば、特開2004−198246号公報には、渦電流センサにより、軌道面の表層部の疲労に起因する、該表層部の残留オーステナイトの減少量を測定し、その測定結果に基づいて、軌道面の表層部の疲労度を診断する方法が開示されている。
また、たとえば、特開2004−308878号公報に記載されているように、各種センサにより転がり軸受の使用中に発生する振動などを測定し、その測定結果に基づいて、転がり軸受の軌道面などに初期破損が発生したことを検知する方法も知られている。
特開昭55−126846号公報 特開2004−198246号公報 特開2004−308878号公報
特開2004−198246号公報に記載の方法を実施するためには、転がり軸受を使用箇所から取り外して分解した後、軌道面に渦電流センサを近づける必要がある。すなわち、この方法を実施するためには、転がり軸受を使用箇所から取り外したり、分解したりするなどの、多くの手間がかかる。
一方、特開2004−308878号公報に記載の方法によれば、転がり軸受を使用箇所から取り外すことなく、転がり軸受の転動面などに初期破損が発生したことを検知することができる。しかしながら、この方法で検知できるのは、あくまでも初期破損であり、破損が生じる前にその予兆を検知することはできない。
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、静止側軌道の破損の予兆の検知を容易化できる構造および方法を提供することにある。
本発明の回転体支持装置は、静止輪と、回転輪と、複数個の転動体とを備える。
前記静止輪は、径方向一方側の軌道側周面と、径方向他方側の反軌道側周面と、前記軌道側周面に存在する静止側軌道とを有する。
前記回転輪は、周面に前記静止側軌道と対向する回転側軌道を有する。
前記複数個の転動体は、前記静止側軌道と前記回転側軌道との間に転動自在に配置されている。
特に、本発明の回転体支持装置は、前記静止輪の円周方向に関する互いの位相差が180度からずれた位置関係になっている2箇所のうちの一方の箇所に配置され、該一方の箇所から前記静止輪に音波を発信する発信器と、前記2箇所のうちの他方の箇所に配置され、前記静止輪を通じて該他方の箇所に到達した音波を受信する受信器とを、さらに備えることを特徴とする。
本発明の回転体支持装置では、前記発信器および前記受信器は、前記静止輪に保持されている構成を採用することができる。
また、前記静止輪の反軌道側周面に嵌合する嵌合側周面を有する静止輪支持体をさらに備え、前記発信器および前記受信器は、前記静止輪支持体に保持されている構成を採用することができる。
本発明の回転体支持装置の診断システムは、本発明の回転体支持装置と、診断ユニットとを備えている。
前記診断ユニットは、前記発信器により前記一方の箇所から前記静止輪に音波を発信し、該発信された音波のうちで前記静止輪の使用状態におけるラジアル荷重の負荷圏側を通過して前記他方の箇所に到達した音波である第一音波と、前記発信された音波のうちで前記静止輪の使用状態におけるラジアル荷重の非負荷圏側を通過して前記他方の箇所に到達した音波である第二音波とを、前記受信器により受信した場合に、該受信された第一音波と第二音波との双方を利用して、前記静止側軌道の破損の予兆の有無を判定する機能を有する。
さらに、本発明の回転体支持装置の診断方法は、径方向一方側の軌道側周面と、径方向他方側の反軌道側周面と、前記軌道側周面に存在する静止側軌道とを有する静止輪と、周面に前記静止側軌道と対向する回転側軌道を有する回転輪と、前記静止側軌道と前記回転側軌道との間に転動自在に配置されている複数個の転動体とを備える回転体支持装置に適用される。
特に、本発明の回転体支持装置の診断方法は、前記静止輪の円周方向に関する互いの位相差が180度からずれた位置関係になっている2箇所のうちの一方の箇所に音波の発信器を配置し、かつ、前記2箇所のうちの他方の箇所に音波の受信器を配置した状態で、前記発信器により前記一方の箇所から前記静止輪に音波を発信し、該発信された音波のうちで前記静止輪の使用状態におけるラジアル荷重の負荷圏側を通過して前記他方の箇所に到達した音波である第一音波と、前記発信された音波のうちで前記静止輪の使用状態におけるラジアル荷重の非負荷圏側を通過して前記他方の箇所に到達した音波である第二音波とを、前記受信器により受信し、該受信された第一音波と第二音波との双方を利用して、診断ユニットにより、前記静止側軌道の破損の予兆の有無を判定する。
本発明を実施する場合には、前記診断ユニットに対して、たとえば、前記受信された第一音波と第二音波との間に存在する所定の差(ピーク位置の時間差、ピーク値の差、波形の形状差など)が、閾値よりも大きい場合に、前記静止側軌道の破損の予兆ありと判定する機能を持たせることができる。
本発明によれば、回転体支持装置を使用箇所に組み付けたままの状態で、静止側軌道の破損の予兆を検知することができる。
図1は、実施の形態の第1例の車輪支持装置の断面図である。 図2は、図1の車輪支持装置を構成する円すいころ軸受およびその周辺部の拡大図である。 図3は、一部を省略して示した図2のA−A断面図である。 図4は、実施の形態の第1例の診断ユニットを示すブロック図である。 図5は、実施の形態の第1例について、発信器から内輪の負荷圏側を通過して受信器に到達した第一音波f1の波形と、発信器から内輪の非負荷圏側を通過して受信器に到達した第二音波f2の波形と、これらの合成波形と示す図である。 図6は、実施の形態の第2例を示す、図2に相当する図である。 図7は、一部を省略して示した図6のB−B断面図である。 図8は、実施の形態の第3例のハブユニット軸受の断面図である。 図9は、図8のC−C断面図である。 図10は、実施の形態の第3例についての、図5に相当する図である。
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1〜図5を用いて説明する。
本例の回転体支持装置の診断システムは、回転体支持装置である車輪支持装置1と、診断ユニット35とを備える。
車輪支持装置1は、トラック、バスなどの大型車両の従動輪用で、かつ、いわゆる外輪回転型である。車輪支持装置1は、図1〜図3に示すように、車軸2と、ハブ3と、1対の円すいころ軸受4a、4bと、発信器13a、13bと、受信器14a、14bとを備える。
静止輪支持体である車軸2は、懸架装置を構成するもので、筒状に構成されている。車軸2は、嵌合側周面である外周面の軸方向に離隔した2箇所位置に、互いに同軸に配置された円筒状の嵌合面部5a、5bを有する。軸方向外側の嵌合面部5aは、軸方向内側の嵌合面部5bよりも、外径寸法が小さくなっている。また、車軸2は、軸方向内側の嵌合面部5bの軸方向内側に隣接する位置に、軸方向外側を向いた段差面6を有している。
なお、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側を意味し、図1の左側に相当する。一方、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向内側、すなわち幅方向中央側を意味し、図1の右側に相当する。
ハブ3は、筒状に構成されたもので、軸方向中間部の径方向外側部に、使用状態で回転体である車輪および制動用回転部材を固定するためのフランジ部7を有する。ハブ3は、軸方向両側部の内周面に、互いに同軸に配置された円筒状の嵌合面部8a、8bを有する。ハブ3は、軸方向外側の嵌合面部8aの軸方向内側に隣接する位置に軸方向外側を向いた段差面9aを有しており、軸方向内側の嵌合面部8bの軸方向外側に隣接する位置に軸方向内側を向いた段差面9bを有している。
1対の円すいころ軸受4a、4bは、車軸2に対してハブ3を回転自在に支持するもので、車軸2の外周面とハブ3の内周面との間に、軸方向に離隔して、かつ、互いの接触角の方向が背面組合せとなるように配置されている。円すいころ軸受4a、4bは、使用状態で、下部側(地面側、鉛直方向下側)がラジアル荷重の負荷圏側となり、上部側がラジアル荷重の非負荷圏側となる。なお、以下、ラジアル荷重の負荷圏を、単に「負荷圏」と記することがあり、ラジアル荷重の非負荷圏を、単に「非負荷圏」と記することがある。
なお、図2は、図1の軸方向外側の円すいころ軸受4aおよびその周辺部の拡大図である。なお、図1の軸方向内側の円すいころ軸受4bおよびその周辺部は、軸方向外側の円すいころ軸受4aおよびその周辺部と実質的に対称に構成される。したがって、図2および以下の説明において、軸方向内側の円すいころ軸受4bおよびその周辺部に対応する符号も、括弧書きで同時に付する。
円すいころ軸受4a(4b)は、使用状態で回転しない静止輪である内輪10a(10b)と、使用状態で回転する回転輪である外輪11a(11b)と、それぞれが転動体である複数個の円すいころ12a(12b)とを備える。
内輪10a(10b)は、軸受鋼製で、軌道側周面である外周面と、反軌道側周面である内周面とを有する。内輪10a(10b)は、軸方向中間部外周面に、静止側軌道である部分円すい面状の内輪軌道15a(15b)を有する。また、内輪10a(10b)は、軸方向に関して内輪軌道15a(15b)の大径側に隣接する位置に大鍔部16a(16b)を有し、軸方向に関して内輪軌道15a(15b)の小径側に隣接する位置に小鍔部17a(17b)を有する。
さらに、内輪10a(10b)は、軸方向中間部内周面のうちで、使用状態で車両の前後方向(図3における左右方向)両側の2箇所に、径方向外方に凹んだ凹部18a、18b(18c、18d)を有する。なお、内輪10a(10b)の円周方向に関する凹部18a、18b(18c、18d)のより具体的な位置関係については、後述する。
内輪10a(10b)は、いわゆるズブ焼き入れにより熱処理されている。このため、内輪10a(10b)の材料は、大半がマルテンサイト化し、かつ、一般的には15容量%〜25容量%程度のオーステナイトが残留した、熱処理硬化組織になっている。
外輪11a(11b)は、軸受鋼製で、内周面に、回転側軌道である部分円すい面状の外輪軌道19a(19b)を有する。なお、外輪11a(11b)も、内輪10a(10b)と同様に、ズブ焼き入れにより熱処理されている。
複数個の円すいころ12a(12b)は、軸受鋼製またはセラミック製で、内輪軌道15a(15b)と外輪軌道19a(19b)との間に転動自在に配置されている。
発信器13a(13b)は、音波を発信可能なものであり、内輪10a(10b)の軸方向中間部内周面に設けられた一方の凹部18a(18c)の内側に保持されている。受信器14a(14b)は、音波を受信可能なものであり、内輪10a(10b)の軸方向中間部内周面に設けられた他方の凹部18b(18d)の内側に保持されている。したがって、発信器13a(13b)および受信器14a(14b)は、内輪軌道15a(15b)と径方向に重畳している。換言すれば、発信器13a(13b)および受信器14a(14b)は、内輪軌道15a(15b)の軸方向中間部の径方向内側に位置している。
図1に示すように、軸方向外側の円すいころ軸受4aは、内輪10aが車軸2の嵌合面部5aに外嵌されており、外輪11aがハブ3の嵌合面部8aに内嵌されている。この状態で、内輪10aの大径側側面である軸方向外側面は、車軸2の軸方向外端部に螺合されたナット20の軸方向内側面に当接しており、外輪11aの大径側側面である軸方向内側面は、ハブ3の段差面9aに当接している。一方、軸方向内側の円すいころ軸受4bは、内輪10bが車軸2の嵌合面部5bに外嵌されており、外輪11bがハブ3の嵌合面部8bに内嵌されている。この状態で、内輪10bの大径側側面である軸方向内側面は、車軸2の段差面6に当接しており、外輪11bの大径側側面である軸方向外側面は、ハブ3の段差面9bに当接している。
さらに、この状態で、円すいころ軸受4a(4b)のアキシアル方向の内部隙間は、ゼロ、または、若干量の正もしくは負の値に設定されている。ここで、若干量の負の内部隙間とは、円すいころ軸受4a(4b)に車重によるラジアル荷重が負荷された時に、非負荷圏が現れる、すなわち負荷率が1未満の状態となるレベルの負の内部隙間である。
診断ユニット35は、車体側に設置されており、かつ、図示しないハーネスを通じて、発信器13a(13b)および受信器14a(14b)に接続されている。診断ユニット35は、前記ハーネスを通じて、発信器13a(13b)に対し、指令信号を送る機能を有している。発信器13a(13b)は、この指令信号を受けた場合に、内輪10a(10b)の内部に音波を発信するようになっている。また、受信器14a(14b)による音波の受信信号は、前記ハーネスを通じて、診断ユニット35に送られるようになっている。
さらに、診断ユニット35は、図4に示すような、データ入力手段36と、データ処理手段37と、予兆判定手段38と、データ記憶手段39と、結果出力手段40とを備えている。これらの機能については、後述する。
つぎに、本例の回転体支持装置の診断方法について説明する。本例では、回転体支持装置である車輪支持装置1の診断を行う際に、診断ユニット35からの指令信号に基づいて、発信器13a(13b)から単発のパルス状の音波を発信する。発信器13a(13b)から発信された音波は、内輪10a(10b)の負荷圏側を図3の時計回りに通過する第一音波f1と、内輪10a(10b)の非負荷圏側を図3の反時計回りに通過する第二音波f2とに分かれる。そして、負荷圏側を通過した第一音波f1と、非負荷圏側を通過した第二音波f2とは、それぞれ受信器14a(14b)に到達して受信される。
なお、本例では、1つの受信器14a(14b)によって、第一音波f1と第二音波f2とを識別可能な状態で受信できるようにするために、内輪10a(10b)の円周方向に関する一方の凹部18a(18c)と他方の凹部18b(18d)との位置関係、すなわち、当該円周方向に関する発信器13a(13b)と受信器14a(14b)との位置関係を、当該円周方向に関する互いの位相差が180度からずれた位置関係となるように規制している。すなわち、当該位置関係をこのように規制することによって、内輪10a(10b)の円周方向に関する発信器13a(13b)から受信器14a(14b)までの距離を、負荷圏側と非負荷圏側とで互いに異ならせることにより、第一音波f1と第二音波f2とが受信器14a(14b)に到達する時間に差をつけている。これにより、1つの受信器14a(14b)によって、第一音波f1と第二音波f2とを識別可能な状態で受信できるようにしている。
また、内輪10a(10b)の円周方向に関する発信器13a(13b)の位置(配置箇所)は、円すいころ軸受4a(4b)のアキシアル方向の内部隙間がゼロまたはその近傍(負荷率εが0.5またはその近傍)の状態で使用されることを考慮し、負荷圏の円周方向中央位置(図3における下端位置)と非負荷圏の円周方向中央位置(図3における上端位置)との間の円周方向中央位置(図3における右端位置)またはその近傍位置としている。
これに対して、内輪10a(10b)の円周方向に関する受信器14a(14b)の位置(配置箇所)は、円すいころ軸受4a(4b)のアキシアル方向の内部隙間がゼロまたはその近傍の状態で使用されることと、上述のように第一音波f1と第二音波f2とが受信器14a(14b)に到達する時間に差をつける必要があることと、後述のように疲労による音波の波形変化が第一音波f1の先頭側(進行方向前側、受信器14a(14b)に早く到達する側)に出現することとを考慮し、負荷圏の円周方向中央位置と非負荷圏の円周方向中央位置との間の円周方向中央位置(図3における左端位置)よりも、少しだけ(例えば、20度〜30度程度)負荷圏の円周方向中央側に寄った位置としている。
なお、内輪10a(10b)の円周方向に関する発信器13a(13b)の位置と受信器14a(14b)の位置との位相差が180度に近くなる程、受信器14a(14b)で受信される第一音波f1の波形と第二音波f2の波形との形状差は大きくなり、その位相差(時間差)は小さくなる。ここで、第一音波f1および第二音波f2の波形とは、音の強さと時間との関係を表す波形である。すなわち、後述するように、内輪10a(10b)の負荷圏側で疲労が進行すると、この負荷圏側を通過する音波の波形変化が生じ易くなる。一方、発信器13a(13b)の位置と受信器14a(14b)の位置との位相差が180度に近くなる程、第一音波f1が負荷圏側を通過する距離が長くなる。このため、当該位相差が180度に近くなる程、受信器14a(14b)で受信される第一音波f1の波形と第二音波f2の波形との形状差が大きくなる。ただし、当該位相差を180度に近づけすぎると、受信器14a(14b)で受信される第一音波f1と第二音波f2とが重なってしまい、両音波f1、f2の分離(識別)が困難となる可能性がある。一方、当該位相差が180度から遠くなると、両音波f1、f2の分離は容易となるが、第一音波f1の変化の度合いは小さくなる。そこで、本例では、以上の点を考慮して、内輪10a(10b)の円周方向に関する発信器13a(13b)と受信器14a(14b)との位置関係を、上述のような位置関係としている。
なお、本発明を実施する場合には、内輪の内周面に全周にわたる環状溝を設け、該環状溝の内側に発信器13a(13b)および受信器14a(14b)を保持する構成を採用することもできる。
何れにしても、本例では、受信器14a(14b)で受信された第一音波f1の波形と第二音波f2の波形とを比較し、該比較の結果に基づいて、内輪10a(10b)の負荷圏側の疲労度を把握する。この点について、以下に具体的に説明する。
図4(A)(a)は、内輪10a(10b)の負荷圏側の疲労前の状態において、受信器14a(14b)で受信される第一音波f1の波形と第二音波f2の波形とを、個別に表したものである。実際には、これらの波形は、図4(A)(b)に示すように、互いに合成された状態で受信される。
一方、図4(B)(a)は、内輪10a(10b)の負荷圏側の疲労が進行した状態において、受信器14a(14b)で受信される第一音波f1の波形と第二音波f2の波形とを、個別に表したものである。疲労前の場合と同様、実際には、これらの波形は、図4(B)(b)に示すように、互いに合成された状態で受信される。
また、本例では、内輪10a(10b)の円周方向に関する発信器13a(13b)から受信器14a(14b)までの距離が、負荷圏側で非負荷圏側よりも短くなっているため、第一音波f1は、第二音波f2よりも先に受信器14a(14b)に到達する。また、後述するように、内輪10a(10b)の負荷圏側の疲労が進行すると、該負荷圏側を通過する第一音波f1の速度が大きくなる傾向となるが、この場合でも、第一音波f1と第二音波f2とが受信器14a(14b)に到達する時間差が短くなることはない。
本例では、内輪10a(10b)の材料は、マルテンサイトと残留オーステナイトとを含む熱処理硬化組織になっている。ここで、物質を通過する音の速さは、該物質の弾性係数をM、該物質の密度をρとすると、√(M/ρ)の関係式で表されることが知られている。弾性係数Mは、マルテンサイトとオーステナイトとで互いに同じである。これに対し、密度ρは、マルテンサイトが7.83であり、オーステナイトが7.86である。すなわち、密度ρは、マルテンサイトの方がオーステナイトよりも低い。したがって、上記関係式より、マルテンサイトを通過する音は、残留オーステナイトを通過する音よりも速い。
また、本例では、前述したように、内輪10a(10b)の材料は、大半がマルテンサイト化し、かつ、一般的には15容量%〜25容量%程度のオーステナイトが残留した、熱処理硬化組織になっている。このため、発信器13a(13b)がパルス状の音波を発信すると、内輪10a(10b)の内部では、負荷圏側と非負荷圏側との何れの側を通過する音波も、大半がマルテンサイトを通過して受信器14a(14b)に早く到達し、残りの少量がオーステナイトを通過して受信器14a(14b)に遅れて到達する。このため、発信器13a(13b)から発信されるパルス状の音波の波形が、図3の右端部に示すような矩形状の波形であるのに対し、受信器14a(14b)で受信される第一音波f1および第二音波f2の波形は、図3の左端部、図4(A)(a)、および図4(B)(a)に示すような鋸歯状の波形となる。また、第一音波f1および第二音波f2には、内輪10a(10b)の表面の反射波も含まれるため、第一音波f1および第二音波f2の波形は、裾の広い波形となる。
また、本例では、内輪10a(10b)の円周方向に関する発信器13a(13b)から受信器14a(14b)までの距離が、負荷圏側で非負荷圏側よりも短くなっているが、双方の距離の差は、位相差で20度〜30度程度と小さい。このため、内輪10a(10b)の負荷圏側の疲労前の状態において、受信器14a(14b)で受信される第一音波f1の波形と第二音波f2の波形とは、図4の(A)(a)に示すように、互いにほぼ等しい波形となる。
さらに、本例の車輪支持装置1の使用状態で、内輪10a(10b)の負荷圏側では、疲労の進行と共に、残留オーステナイトがマルテンサイトに変化する。これに伴い、内輪10a(10b)の負荷圏側では、マルテンサイトを通過して受信器14a(14b)に早く到達する音波の比率が高くなる。このため、受信器14a(14b)で受信される第一音波f1の波形は、内輪10a(10b)の負荷圏側での疲労の進行に伴って、図4(A)(a)→図4(A)(b)に示すように、鋸歯状の傾向が強くなる。具体的には、波形のピーク位置での音の強さ、すなわちピーク値が大きくなり、かつ、波形内でのピーク位置が受信器14a(14b)に早く到達する側(図4における左側)へ移動する。
一方、内輪10a(10b)の非負荷圏側では、疲労が進行しないため、疲労に起因する、残留オーステナイトのマルテンサイトへの変化は発生しない。また、残留オーステナイトのマルテンサイトへの変化は、疲労が進行しなくても発生するが、その変化速度は非常に遅い。このため、受信器14a(14b)で受信される第二音波f2の波形は、使用時間の経過にかかわらず、図4(A)(a)→図4(A)(b)に示すように、殆ど変化しない。
また、前述したように、実際には、受信器14a(14b)で受信される第一音波f1および第二音波f2の波形は、図4(A)(b)および図4(B)(b)に示すように、互いに合成された波形となる。ただし、第一音波f1の受信時刻と第二音波f2の受信時刻とが若干ずれているため、合成後の状態でも、第一音波f1の波形と第二音波f2の波形とは、十分に識別できる。したがって、受信器14a(14b)で受信された第一音波f1の波形と第二音波f2の波形とを比較し、該比較の結果に基づいて、内輪10a(10b)の負荷圏側の疲労度を把握することができる。すなわち、経時変化が殆ど無い第二音波f2の波形を基準(疲労が殆ど無い状態での波形)として、該第二音波f2の波形と、疲労の進行と共に変化する第一音波f1の波形と比較し、その差により内輪10a(10b)の疲労度を判定することができる。また、本例では、1つの受信器14a(14b)で第一音波f1と第二音波f2とを受信しているため、受信器14a(14b)の受信特性が経時変化した場合でも、両音波f1、f2の波形は同じように変化する。したがって、基準波形である第二音波f2の波形と、測定波形である第一音波f1の波形とを比較することにより、受信器14a(14b)の経時変化をキャンセルして、測定の安定性を確保することができる。
本例では、上述のような判定は、診断ユニット35によって行われる。受信器14a(14b)による第一音波f1および第二音波f2の受信信号は、データ入力手段36(図4参照)に入力される。
データ入力手段36は、入力された第一音波f1および第二音波f2の受信信号を、処理可能なデータに変換(たとえば、アナログデータからディジタルデータに変換)する。このように変換された第一音波f1および第二音波f2のデータは、データ処理手段37に送られる。
データ処理手段37は、データ入力手段36から送られてきた第一音波f1および第二音波f2のデータに基づいて、内輪軌道15a(15b)の疲労度の判定に必要なデータを作成する。たとえば、時系列に並んだ第一音波f1および第二音波f2のデータから、特徴となる部分を抽出する。より具体的には、たとえば、第一音波f1と第二音波f2とのピーク位置の時間差Xやピーク値の差Y(図4(B)(b)参照)に関するデータを作成する。なお、これらの差X、Yは、内輪軌道15a(15b)の疲労度と共に大きくなる。このように作成されたデータは、予兆判定手段38およびデータ記憶手段39に送られる。
予兆判定手段38は、データ処理手段37から送られてきたデータ(X、Y)と、データ記憶手段39に記憶されている閾値とを比較することによって、負荷圏側での内輪軌道15a(15b)の破損の予兆の有無を判定する。具体的には、予兆判定手段38は、前記データ(X、Yなど)が前記閾値よりも大きい場合に、負荷圏側で内輪軌道15a(15b)の破損の予兆ありと判定し、そうでない場合は、該予兆なしと判定する。なお、前記閾値は、実験やシミュレーションの結果に基づいて、予め適宜の大きさに設定される値である。前記閾値は、円すいころ軸受4a(4b)ごとに設定され、また、X、Yなどの比較対象ごとに設定される。
データ記憶手段39は、前記閾値を記憶している。また、データ記憶手段39は、データ処理手段37から送られてきたデータ(X、Y)を記憶する。したがって、データ記憶手段39には、このデータ(X、Y)の初期値や時系列的な変化などが記憶されることになる。データ記憶手段39に記憶されたデータは、予兆判定手段38により、適宜、利用可能とされている。
結果出力手段40は、予兆判定手段38による前記判定の結果を、たとえば、ディスプレイ、ランプなどの表示器やスピーカーなどの音声発生器により出力する。これにより、前記判定の結果は、車両の運転者や点検者によって確認可能となる。
なお、診断ユニット35は、たとえば、電気回路とマイクロコンピュータとを含んで構成されており、このマイクロコンピュータ内に保持記憶されたプログラムを実行することによって、上述した各機能を発揮することができる。なお、診断ユニット35は、一体のユニットとして車体側に設置することもできるし、あるいは、複数のユニットに分散して車体側に設置することもできる。
以上のように、本例では、車輪支持装置1を使用箇所に組み付けたままの状態で、前記破損の予兆を判定、すなわち検知することができる。つまり、円すいころ軸受4a(4b)を取り出したり、分解したりするなどの、多くの手間をかけることなく、前記破損の予兆を容易に検知することができる。このため、たとえば、数か月置きに行われる定期点検の合格車両について、次回の定期点検が行われるまでの期間内の走行量が多くなり、内輪10a(10b)の負荷圏側の疲労度が大きく進行した場合でも、前記破損の予兆を確実に検知することができる。そして、破損の予兆が検知された内輪10a(10b)、または、これらの内輪10a(10b)を含む円すいころ軸受4a(4b)を、次回の定期点検で交換することが可能となる。
なお、本例では、前記診断を行うために、内輪10a(10b)を介して音波の発信および受信を行う。また、前記診断は、継続的に行う必要はない。このため、信頼性の高い診断を行えるようにすべく、当該音波の発信および受信は、車両のエンジンが停止している状態で行うのが好ましい。このために、たとえば、エンジンが停止している状態で車両のイグニッションキーが差し込まれた時に、当該音波の発信および受信を行うシーケンス制御などを行うのが好ましい。
なお、本例では、車輪支持装置1を構成する1対の円すいころ軸受4a(4b)の内輪10a(10b)のそれぞれに対して、発信器および受信器を設置する構成を採用した。ただし、本発明を実施する場合、1対の円すいころ軸受4a(4b)の内輪10a(10b)のうち、何れか一方の内輪の寿命が他方の内輪の寿命よりも短くなることが予め分かっているような場合には、当該一方の内輪に対してのみ、発信器および受信器を設置する構成を採用することもできる。
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図6および図7を用いて説明する。
本例では、発信器13a(13b)および受信器14a(14b)は、円すいころ軸受4c(4d)を構成する内輪10c(10d)ではなく、車軸2aに組み付けられている。このため、内輪10c(10d)の内周面は、単なる円筒面になっている。
発信器13a(13b)および受信器14a(14b)は、コイルばね、板ばねなどの付勢部材21a(21b)と共に、車軸2aの外周面に設けられた凹部22a、22b(22c、22d)の内側に配置されている。発信器13a(13b)および受信器14a(14b)は、付勢部材21a(21b)により付勢されることによって、内輪10c(10d)の内周面に押し付けられている。本例では、発信器13a(13b)および受信器14a(14b)は、何れも、内輪10c(10d)の円周方向に関して、非負荷圏の中央位置(図7における上端位置)よりも負荷圏の中央位置(図7における下端位置)に少しだけ近い位置に配置されている。
本例では、内輪10c(10d)の内周面に発信器13a(13b)および受信器14a(14b)を保持するための凹部が設けられていないため、内輪10c(10d)の強度を確保し易い。
また、円すいころ軸受4c(4d)を構成する内輪10c(10d)に発信器13a(13b)および受信器14a(14b)が保持されていないため、円すいころ軸受4c(4d)として、一般品を使用することができる。また、発信器13a(13b)および受信器14a(14b)は、車軸2aに組み付けられているため、円すいころ軸受4c(4d)を交換する際にも、発信器13a(13b)および受信器14a(14b)は、そのまま継続して使用することができる。また、内輪10c(10d)に発信器13a(13b)および受信器14a(14b)が保持されていないため、車軸2aに内輪10c(10d)を組み付ける際の円周方向の位相合わせが不要になり、該組み付けの作業を容易に行える。したがって、本例の車輪支持装置は、走行距離が長く、部品交換の頻度が高い車両に、好ましく適用することができる。
その他の構成及び作用は、実施の形態の第1例の場合と同様である。
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、図8〜図10を用いて説明する。
本例の回転体支持装置の診断システムは、回転体支持装置である車輪支持用のハブユニット軸受23と、診断ユニット35とを備える。
ハブユニット軸受23は、一般的な乗用車の従動輪用で、かつ、いわゆる内輪回転型である。ハブユニット軸受23は、静止輪である外輪24と、回転輪であるハブ25と、それぞれが転動体である複数個の玉26a、26bと、発信器13a、13bおよび受信器14a、14bとを備える。本例では、ハブユニット軸受23は、使用状態で、上部側がラジアル荷重の負荷圏側となり、下部側がラジアル荷重の非負荷圏側となる。
外輪24は、中炭素鋼製で、軌道側周面である内周面に、それぞれが静止側軌道である複列の外輪軌道27a、27bを有し、軸方向中間部の径方向外側部に、使用状態で懸架装置を構成するナックルに固定するための静止側フランジ28を有する。また、外輪24は、外輪軌道27a、27bの表層部に、図8および図9中に梨地で示されるような、高周波焼入れによる熱処理硬化層41a、41bを有している。
ハブ25は、外周面に、それぞれが回転側軌道である複列の内輪軌道29a、29bを有し、これらの内輪軌道29a、29bよりも軸方向外側部の径方向外側部に、車輪および制動用回転部材を固定するための回転側フランジ30を有する。本例では、ハブ25は、ハブ輪31と内輪32とを組み合わせることにより構成されている。
なお、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側を意味し、図8の左側に相当する。一方、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向内側を意味し、図8の右側に相当する。
ハブ輪31は、中炭素鋼製である。回転側フランジ30は、ハブ輪31の軸方向外側部の径方向外側部に備えられており、軸方向外側列の内輪軌道29aは、ハブ輪31の軸方向中間部の外周面に備えられている。ハブ輪31は、軸方向内側部の外周面に、小径段部33を有する。
内輪32は、軸受鋼製で、筒状に構成されている。軸方向内側列の内輪軌道29bは、内輪32の外周面に備えられている。内輪32は、ハブ輪31の小径段部33に締り嵌めにより外嵌され、かつ、内輪32の軸方向内端部を、ハブ輪31の軸方向内端部に設けられた抑え部34により抑え付けられて、ハブ輪31に固定されている。なお、抑え部34は、ハブ輪31の中間素材の軸方向内端部を塑性加工により径方向外方に折り曲げることにより形成されている。
玉26a、26bは、軸受鋼製またはセラミック製で、軸方向外側列の外輪軌道27aと内輪軌道29aとの間、および、軸方向内側列の外輪軌道27bと内輪軌道29bとの間に、それぞれ複数個ずつ転動自在に配置されている。軸方向外側列の玉26aと軸方向内側列の玉26bとには、背面組合せ形の接触角と共に、予圧が付与されている。
発信器13aおよび受信器14aは、外輪24の反軌道側周面である外周面のうちで、軸方向外側の外輪軌道27aと径方向に重畳する位置に取り付けられている。また、発信器13aおよび受信器14aは何れも、実施の形態の第2例の場合と同様、外輪24の円周方向に関して、非負荷圏の中央位置(図9における下端位置)よりも負荷圏の中央位置(図9における上端位置)に少しだけ近い位置に配置されている。
発信器13bおよび受信器14bは、外輪24の外周面のうちで、軸方向内側の外輪軌道27bと径方向に重畳する位置に取り付けられている。また、発信器13bおよび受信器14bは何れも、実施の形態の第2例の場合と同様、外輪24の円周方向に関して、非負荷圏の中央位置(図9における下端位置)よりも負荷圏の中央位置(図9における上端位置)に少しだけ近い位置に配置されている。
なお、ハブユニット軸受23は、一般に実施の形態の第2例に比べて高い予圧で使用され、負荷率εが高く、残留オーステナイトがマルテンサイト変態する範囲が広い。このため、外輪24の円周方向に関する発信器13a(13b)から受信器14a(14b)までの距離については、負荷圏側の距離と非負荷圏側の距離との差を、実施の形態の第2例の場合(図7参照)よりも大きくしても良い(たとえば、位相差で30度〜40度程度としても良い)。
診断ユニット35は、実施の形態の第1例および第2例と同様の構成を有するもので、車体側に設置されており、かつ、図示しないハーネスを通じて、発信器13a(13b)および受信器14a(14b)に接続されている。診断ユニット35は、前記ハーネスを通じて、発信器13a(13b)に対し、指令信号を送る機能を有している。発信器13a(13b)は、この指令信号を受けた場合に、外輪24の内部に音波を発信するようになっている。また、受信器14a(14b)による音波の受信信号は、前記ハーネスを通じて、診断ユニット35に送られるようになっている。
本例でも、ハブユニット軸受23の診断を行う際には、診断ユニット35からの指令信号に基づいて、発信器13a(13b)から単発のパルス状の音波を発信する。発信器13a(13b)から発信された音波は、外輪24の負荷圏側を図9の反時計回りに通過する第一音波f1と、外輪24の非負荷圏側を図8の時計回りに通過する第二音波f2とに分かれる。そして、負荷圏側を通過した第一音波f1と、非負荷圏側を通過した第二音波f2とは、それぞれ受信器14a(14b)に到達して受信される。図10は、本例についての、図5に相当する図である。
本例では、外輪24は、外輪軌道27a、27bの周辺部の僅かな範囲のみが密度の低い熱処理硬化層41a、41bになっており、その他の部分が密度の高い非硬化組織になっている。このため、発信器13a(13b)がパルス状の音波を発信すると、外輪24の内部では、負荷圏側と非負荷圏側との何れの側を通過する音波も、少量が熱処理硬化層41a(41b)を通過して受信器14a(14b)に早く到達し、残りの大半が非硬化組織を通過して受信器14a(14b)に遅れて到達する。このため、発信器13a(13b)から発信されるパルス状の音波の波形が、矩形状の波形(図3の右端部参照)であるのに対し、受信器14a(14b)で受信される第一音波f1および第二音波f2の波形は、図10(A)(a)、および図10(B)(a)に示すような波形となる。具体的には、先頭側(進行方向前側、受信器14a(14b)に早く到達する側、図10における左側)の裾(α部、β部)が長い、山形の波形となる。
また、本例でも、外輪24の負荷圏側では、外輪軌道27a、27bの熱処理硬化層41a、41bの疲労の進行に伴い、熱処理硬化層41a、41b中の残留オーステナイトがマルテンサイトに変化する。これに伴い、外輪24の負荷圏側では、マルテンサイトを通過して受信器14a(14b)に早く到達する音波の比率が高くなる。このため、受信器14a(14b)で受信される第一音波f1の波形は、外輪24の負荷圏側での疲労の進行に伴って、図10(A)(a)→図10(A)(b)に示すように変化する。具体的には、先頭側の裾(α部)が、先頭側により長く伸び、かつ、より高くなる。これに対して、受信器14a(14b)で受信される第二音波f2の波形の先頭側の裾(β部)の形状は、殆ど変化しない。
このため、本例のハブユニット軸受23でも、受信器14aで受信された第一音波f1および第二音波f2の波形に基づいて、外輪軌道27aの熱処理硬化層41aの疲労度を把握することができる。同様に、受信器14bで受信された第一音波f1および第二音波f2の波形に基づいて、外輪軌道27bの熱処理硬化層41bの疲労度を把握することができる。
本例では、診断ユニット35は、データ処理手段37(図4参照)により、第一音波f1の波形の先頭側の裾(α部)と第二音波f2の波形の先頭側の裾(β部)との形状差をデータ化する。そして、予兆判定手段38(図4参照)は、この形状差のデータが、予め設定された閾値よりも大きい場合に、負荷圏側で内輪軌道15a(15b)の破損の予兆ありと判定し、そうでない場合は、該予兆なしと判定する。
なお、本例では、外輪24のうち、1対の外輪軌道27a、27bのそれぞれの径方向外側に発信器および受信器を設置した。ただし、本発明を実施する場合に、1対の外輪軌道27a、27bのうち、何れか一方の外輪軌道の寿命が他方の外輪軌道の寿命よりも短くなることが予め分かっているような場合には、外輪24のうち、当該一方の外輪軌道の径方向外側にのみ、発信器および受信器を設置する構成を採用することもできる。
その他の構成および作用は、実施の形態の第1例の場合と同様である。
本発明は、従動輪用の車輪支持装置やハブユニット軸受に限らず、駆動輪用の車輪支持装置やハブユニット軸受に適用することもできる。
また、本発明は、トラックや乗用車に限らず、鉄道車両、風車、圧延機、工作機械、建設機械、農業機械など、各種機械装置に組み込まれる回転体支持装置に適用することができる。
また、静止側軌道と回転側軌道と複数個の転動体とにより構成される軸受部の形式は、円すいころ軸受や玉軸受に限らず、円筒ころ軸受、ニードル軸受、自動調心ころ軸受など、各種の形式を採用することができる。
また、本発明の回転体支持装置は、反軌道側周面である外周面を有する静止輪と、反軌道側周面と嵌合する嵌合側周面である内周面を有する静止輪支持体とを備えた構成を採用することもできる。また、この場合も、発信器および受信器を、静止輪又は静止輪支持体に保持する構成を採用することができる。
1 車輪支持装置
2、2a 車軸
3 ハブ
4a〜4d 円すいころ軸受
5a、5b 嵌合面部
6 段差面
7 フランジ部
8a、8b 嵌合面部
9a、9b 段差面
10a〜10d 内輪
11a、11b 外輪
12a、12b 円すいころ
13a、13b 発信器
14a、14b 受信器
15a、15b 内輪軌道
16a、16b 大鍔部
17a、17b 小鍔部
18a〜18d 凹部
19a、19b 外輪軌道
20 ナット
21a、21b 付勢部材
22a〜22d 凹部
23 ハブユニット軸受
24 外輪
25 ハブ
26a、26b 玉
27a、27b 外輪軌道
28 静止側フランジ
29a、29b 内輪軌道
30 回転側フランジ
31 ハブ輪
32 内輪
33 小径段部
34 抑え部
35 診断ユニット
36 データ入力手段
37 データ処理手段
38 予兆判定手段
39 データ記憶手段
40 結果出力手段
41a、41b 熱処理硬化層

Claims (4)

  1. 径方向一方側の軌道側周面と、径方向他方側の反軌道側周面と、前記軌道側周面に存在する静止側軌道とを有する静止輪と、
    周面に前記静止側軌道と対向する回転側軌道を有する回転輪と、
    前記静止側軌道と前記回転側軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
    前記静止輪の円周方向に関する互いの位相差が180度からずれた位置関係になっている2箇所のうちの一方の箇所に配置され、該一方の箇所から前記静止輪に音波を発信する発信器と、
    前記2箇所のうちの他方の箇所に配置され、前記静止輪を通じて該他方の箇所に到達した音波を受信する受信器と、を備えた回転体支持装置と、
    前記発信器により前記一方の箇所から前記静止輪に音波を発信し、該発信された音波のうちで前記静止輪の使用状態におけるラジアル荷重の負荷圏側を通過して前記他方の箇所に到達した音波である第一音波と、前記発信された音波のうちで前記静止輪の使用状態におけるラジアル荷重の非負荷圏側を通過して前記他方の箇所に到達した音波である第二音波とを、前記受信器により受信した場合に、該受信された第一音波と第二音波との双方を利用して、前記静止側軌道の破損の予兆の有無を判定する機能を有する診断ユニットと、を備えた
    回転体支持装置の診断システム。
  2. 前記発信器および前記受信器は、前記静止輪に保持されている、
    請求項1に記載の回転体支持装置の診断システム。
  3. 前記静止輪の反軌道側周面に嵌合する嵌合側周面を有する静止輪支持体をさらに備え、
    前記発信器および前記受信器は、前記静止輪支持体に保持されている、
    請求項1に記載の回転体支持装置の診断システム。
  4. 径方向一方側の軌道側周面と、径方向他方側の反軌道側周面と、前記軌道側周面に存在する静止側軌道とを有する静止輪と、
    周面に前記静止側軌道と対向する回転側軌道を有する回転輪と、
    前記静止側軌道と前記回転側軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
    を備えた回転体支持装置の診断方法であって、
    前記静止輪の円周方向に関する互いの位相差が180度からずれた位置関係になっている2箇所のうちの一方の箇所に音波の発信器を配置し、かつ、前記2箇所のうちの他方の箇所に音波の受信器を配置した状態で、前記発信器により前記一方の箇所から前記静止輪に音波を発信し、該発信された音波のうちで前記静止輪の使用状態におけるラジアル荷重の負荷圏側を通過して前記他方の箇所に到達した音波である第一音波と、前記発信された音波のうちで前記静止輪の使用状態におけるラジアル荷重の非負荷圏側を通過して前記他方の箇所に到達した音波である第二音波とを、前記受信器により受信し、該受信された第一音波と第二音波との双方を利用して、診断ユニットにより、前記静止側軌道の破損の予兆の有無を判定する、
    回転体支持装置の診断方法。
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