以下に、図面を参照しながら種々の実施形態について説明する。各図は実施形態とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際と異なる個所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
実施形態に従う核酸検出方法は、試料中の標的核酸を検出する方法である。標的核酸は、第1の配列を含む。
実施形態に従う核酸検出方法の概略フローを図1に示す。
核酸検出方法は、(A)試料と、第1の配列の一端部に相補的な第1のプライマー及び第1の配列の他端部に相同な第2のプライマーを少なくとも含むプライマーセットと、対応する増幅酵素と、4mM〜30mMの濃度のマグネシウムイオンと、−0.5V〜0.5Vの酸化還元電位を有し、検出可能な電気的信号を生じるレドックスプローブであって、電気的信号の大きさが、反応場における増幅産物の存在量の増加に伴って増加するレドックスプローブとを含む反応液を、電極上に存在させて反応場を形成すること、(B)形成された反応場を増幅反応条件下に維持すること、(C)増幅反応条件下での維持中に、レドックスプローブからの電気的信号を電極によって経時的に検出すること、並びに(D)前記(C)で得られた電気的信号の大きさの経時的な変化に基づいて、標的核酸の有無又は量を決定することを含む。
(A)において、反応液を電極上に存在させて反応場を形成する。「反応場」とは、そこにおいて増幅反応が行われる領域であり、この領域は、反応液によって規定される。言い換えれば、反応場は、反応液が存在する領域であり得る。
反応液は、試料、プライマーセット、対応する増幅酵素、特定の濃度のマグネシウムイオン、及びレドックスプローブを含む。
試料は、標的核酸の存在の有無又は量が検査されるべき物質である。言い換えれば、試料は、検出対象を含み得る分析されるべき対象であればよい。例えば、試料は液体であり得る。例えば、試料は、血液、血清、血球、尿、便、汗、唾液、口腔内粘膜、喀痰、リンパ液、髄液、涙液、母乳、羊水、精液、組織、バイオプシー、培養細胞などの生体物質、又は環境から採取された環境物質、人工核酸或いはそれらの混合物などであってもよく、或いはそれらを材料として用いて調製された調製物であってもよい。例えば、上記の何れかを本実施形態に従う試料として使用するために、前処理、例えば、細切、ホモジナイズ及び抽出などそれ自身公知の何れかの手段が行われ得る。また例えば、上記の何れかを生体又は環境などから採取し、例えば、核酸検出に適切な状態に調製してもよく、例えば、何れかの手段によって核酸を抽出し、得られた核酸成分を含む液体を試料としてもよい。
標的核酸は、検出されるべき核酸であり、第1の配列を含む。第1の配列は、標的核酸の指標となり得る配列であり、標的核酸の全長に亘る配列から選択され得る。例えば、第1の配列は、標的核酸に特異的な配列であり得る。標的核酸は、一本鎖核酸である。試料中での標的核酸の状態は、一本鎖、又は標的核酸と標的核酸に相補的な核酸鎖とによって形成されている二本鎖であり得る。例えば、試験されるべき試料が、一本鎖の標的核酸と、二本鎖の状態にある標的核酸とを共に含み得る。標的核酸の長さは、例えば、50塩基〜500塩基、好ましくは100塩基〜300塩基であり得る。
第1の配列の長さは、例えば、3塩基〜10塩基、10塩基〜20塩基、20塩基〜30塩基、30塩基〜40塩基、40塩基〜50塩基、50塩基〜60塩基、60塩基〜70塩基、70塩基〜80塩基、80塩基〜90塩基、90塩基〜100塩基、好ましくは10塩基〜50塩基であり得る。
増幅又は増幅反応とは、標的核酸若しくはその相補核酸、又はそれらの増幅産物を鋳型とし、それらを連続して複製して増幅産物又は更なる増幅産物を生成することをいう。
増幅方法は、例えば、PCR、LAMP、RT−LAMP、SDA、NASBA、RCA、LCR、TMA、SmartAmp(登録商標)及びICAN(登録商標)などの増幅方法であり得る。また、所望に応じて逆転写反応を増幅反応と一緒に用いてもよく、例えば、それらを同時に行ってもよい。
プライマーセットは、標的核酸を検出するために、標的核酸を鋳型として指標となる第1の配列を増幅するように設計及び/又は選択される。プライマーセットは、第1の配列の一端部に相補的な第1のプライマーと、第1の配列の他端部と相同な第2のプライマーとを含む。これらのプライマーによって、標的核酸上の増幅されるべき範囲が規定される。
例えば、試料中の標的核酸が一本鎖DNAであるときには、プライマーセットによって相補鎖が形成され、更にそれらを鋳型として増幅反応が進行する。また、標的核酸がRNAである場合には、逆転写反応が行われ、逆転写産物について増幅反応が行われる。
例えば、PCR用のプライマーセットの場合、1つのプライマーセットは、第1のプライマーとして1種類のフォワードプライマーと、第2のプライマーとして1種類のリバースプライマーとを含み得る。
また例えば、LAMP用のプライマーセットの場合、1つのプライマーセットは、第1のプライマーとしてのFIPプライマーと、第2のプライマーとしてのBIPプライマーとを含み得る。更にLAMPを利用する場合には、プライマーセットは、F3プライマー、B3プライマー、LPプライマー、即ち、LFプライマー及び/又はLBプライマーを含み得る。LAMP増幅産物は、一本鎖領域であるループ部分と、二本鎖領域であるステム部分とを有するステムループ構造を有する。
対応する増幅酵素は、増幅反応に用いられる増幅酵素であり、標的核酸の種類、増幅方法、プライマーセット及び逆転写反応の有無などに基づいて選択され得る。増幅酵素は、例えば、DNAポリメラーゼ、又はRNAポリメラーゼなどであり得る。例えば、DNAポリメラーゼは、例えば、Bst、Bst2.0、Bst3.0、GspSSD、GspM、Tin、Bsm、Csa、96−7、phi29、OminiAmp(登録商標)、Aac、BcaBEST(登録商標)、DisplaceAce(登録商標)、SD、StrandDisplace(登録商標)、TOPOTAQ、Isotherm2G、Taq又はこれらの何れかの組み合わせなどであり得る。増幅酵素の種類は、所望に応じて選択される。しかしながら、Bst、GspSSD又はTinを用いれば、検出の感度が高まるため、望ましい。増幅酵素に加えて、反応液は、更に何れかの逆転写酵素を含み得る。
マグネシウムイオンは、反応液に対して4mM〜30Mの濃度で反応液に含まれ得る。
本発明者らは、当該濃度のマグネシウムイオンを含む反応液中においては、反応場における増幅産物の存在量の増加に伴って、電極で検出される電気的信号の大きさが増加することを見出した。
Ahmedら(Analyst 138,907−15(2013))は、逆に増幅産物の増加によって生じる電気的信号の低下を指標にした検出を報告しているが、電気的信号の低下は増幅産物の存在量の変化のみならず、反応阻害物質などの混入によっても起こり得る。一方、本実施形態で指標としている電気的信号の増加は反応阻害物質等の影響を受け難く、増幅産物量の変化をほぼ直接的に反映することから、より精度の高い検出が可能である。
当該反応液において、マグネシウムイオン濃度が4mM以上であることにより、増幅反応が促進されると共に、増幅産物の生成に伴って生成されるピロリン酸とマグネシウムイオンとが結合したピロリン酸マグネシウムが十分に生成し、反応液中にピロリン酸マグネシウムの沈殿が発生する。詳しくは後述するが、当該沈殿の生成によって、反応場における増幅産物の存在量がレドックスプローブからの電気的信号の大きさの増加として反映される。
反応液中に含まれるマグネシウムイオン濃度が4〜12mMである場合、ピロリン酸マグネシウムがより沈殿しやすいため好ましい。マグネシウムイオン濃度は、より好ましくは、5〜10mMである。
マグネシウムイオンを反応液中に含ませることは、例えば、硫化マグネシウム又は塩化マグネシウムなどを反応液に含ませることによって行われ得る。
反応液は、4mM〜30mMの濃度のマグネシウムイオンを含むことにより、増幅反応が促進され、配列に依存せず、広い範囲の種々の配列を、例えば効率よく、増幅することが可能となる。これにより多様な配列を検出、例えば効率よく検出することが可能となる。
レドックスプローブは、検出可能な電気的信号を生じる−0.5V〜0.5Vの酸化還元電位を有する物質である。検出可能な電気的信号は、例えば、レドックスプローブの酸化還元電位又は酸化還元電流などであり得る。レドックスプローブからの電気的信号は、反応液が接触している電極によって検出される。また、レドックスプローブは、反応液中で増幅産物と静電気的に結合する。
レドックスプローブは、例えば、錯体であり得る。当該錯体は、例えば、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、カドミウム(Cd)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、オスミウム(Os)、鉄(Fe)又は銀(Ag)などを中心金属として含み得る。当該錯体は、例えば、アミン錯体、シアノ錯体、ハロゲン錯体、ヒドロキシ錯体、シクロペンタジエニル錯体、フェナントロリン錯体及びビピリジン錯体などであり得る。
レドックスプローブは、例えば、色素であってもよい。色素は、例えば、メチレンブルー、ナイルブルー又はクリスタルバイオレットなどであり得る。
例えば、レドックスプローブがルテニウムヘキサアミン(RuHex)である場合、電極に電圧をかけることによって、RuHex3+がRuHex2+に還元され、電子が放出される。この電子が電極に流れることによって、RuHexの酸化還元電位又は酸化還元電流が電極で検出される。レドックスプローブがRuHexである場合、酸化還元電位が大きく、検出の感度が高まるため、好ましい。
レドックスプローブの反応液中の濃度は、例えば、0.1μM〜100mMであり得るが、25μM〜3mMが好ましく、更に1mMであれば、核酸検出の感度が高まるためより好ましい。特に、レドックスプローブがRuHexである場合、レドックスプローブは、25μM以上、3mM以下で含まれることが望ましい。反応液中のレドックスプローブが少なすぎると増幅産物との結合が十分ではなく、検出の感度が低下する虞がある。また多すぎると、増幅反応を阻害する虞がある。
反応液は、上述の成分に加えて、更に、増幅反応に必要な所望の成分を含み得る。そのような成分は、例えば、塩、プライマーを起点とし新たなポリヌクレオチド鎖を形成する際に必要なデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)などの基質、反応試薬としての増粘剤、pH調製用緩衝材、界面活性剤、アニーリング特異性を増大するイオン、増幅酵素のホ因子となるイオン、及び/又は逆転写を同時に行う場合には、逆転写酵素及びそれに必要な基質などであり得る。
塩は、例えば、核酸増幅反応において適切な増幅環境を維持するために用いられる公知の何れかの塩であり得る。核酸増幅反応において適切な増幅環境を維持するとは、例えば、増幅酵素が、核酸増幅活性が最適となるようにその三次構造を保つことなどであり得る。塩は、例えば、塩化カリウムであり得る。反応液中の塩の濃度は、例えば、5mol/L〜300mol/Lであることが好ましい。
電極は、電気的信号を検出可能なように構成されている。即ち、電極上に反応場が形成されており、電極の少なくとも一部分の表面が反応液に接触している。それより、そこに含まれているレドックスプローブからの電気的信号を検出する。電極は、好ましくはその表面の一部に平面を有する。この平面上に反応場が形成される場合には、例えば、反応場は、電極の当該平面全体を覆うように配置されてもよく、当該平面を含むように配置されてもよく、当該平面により区画される領域内に配置されてもよい。
例えば、電極は、反応容器の内部、例えば、底面に接して配置されてもよく、若しくは底面に埋め込まれて配置されてもよく、或いは板状の基板上に配置されてもよい。
実施形態に従う核酸検出方法における反応液と電極との関係の1例を図2に示す。
反応場は、例えば、その表面に面一に電極表面を露出している基体によって支持され得る。その場合、反応場は、基体の上面に配置された電極上に形成され得る。基体1は、固相である。基体1は、例えば、樹脂、ガラス又はシリコンなどであり得る。基体1の上面1aに、電極2が配置されている。電極2は、基体1の表面に金属膜が形成されたものなどであり得る。金属膜は、例えば、金などであり得る。感度が良好であるため、金属膜は金であることが望ましい。基体1は、電極2の他に、参照極及び対極を備えてもよい。
このような電極2の上に反応液4が持ち込まれることによって、電極2上に反応液4を存在させることで、反応場10が形成され得る。
以上に説明した反応液に含まれる成分はそれぞれ、反応場を形成している反応液に含まれていればよい。従って、例えば、これらの成分はそれぞれ、反応液が反応場となるべき領域に持ち込まれる前に反応液に含まれていてもよいし、反応液の他の成分とは別に用意され、反応液が反応場となるべき領域に持ち込まれると同時に、持ち込まれる前若しくは後に反応液中に持ち込まれてもよいし、反応場となるべき領域に反応液が持ち込まれる前に基体の反応場に接する面などの反応場に接する固相などに遊離可能に固定されていて、反応液が持ち込まれた際に反応液中に遊離して持ち込まれてもよい。
例えば、プライマーセットが予め遊離可能に固定されている場合、プライマーセットは、例えば、基体1の反応場10に接する固相などに存在するプライマー固定領域に固定され得る(図示せず)。
更なる実施形態において、基体1の全体的な形状は、例えば、容器形状、板状、球状、棒状及びそれらの一部分からなる形状であってもよい。基体1の大きさ及び形状は実施者が任意に選択すればよい。また、基体1として、流路を有する基板を用いてもよい。
更なる実施形態において、基体は、後述するようにアレイ状に配置された複数の電極を備えていてもよい。
工程(B)において、(A)において形成された反応場を増幅反応条件下に維持する。
増幅反応条件は、選択される増幅方法、プライマーセットの種類、標的核酸の種類及び/又は増幅酵素の種類などに基づいて選択され得る。例えば、増幅反応条件は、選択された増幅方法に応じて選択され、等温増幅反応条件又は変温増幅反応条件であり得るが、等温増幅反応条件であることが好ましい。等温増幅反応条件はLAMP増幅反応条件であることが好ましい。等温増幅反応条件を用いる場合、反応温度は、当該核酸検出方法に用いられる増幅酵素の種類に依存して選択され得る。当該温度は、例えば、25℃〜70℃であり得るが、55℃〜65℃であることがより好ましい。反応場を反応条件下に維持することによって、増幅反応が行われ、増幅産物が生成され得る。
(C)では、増幅反応条件下での維持中に、レドックスプローブからの電気的信号を電極によって経時的に検出する。
電気的信号は、電極によって、例えば、電流値、電位値、電気容量値又はインピーダンス値などを得ることによって検出され得る。電気的信号は、例えば、電流値及び電位値等、複数種類の電気的信号の値を測定することによって検出されてもよい。検出は、例えば、電流値、電位値、電気容量値又はインピーダンス値などを検出できる装置によって行われ得る。そのような装置は公知の何れかの装置であり得る。
電気的信号の検出は、経時的に行われ得る。経時的とは、連続的であってもよいし、間欠的、即ち所望の時間間隔で複数の時点で検出することであってもよい。例えば、電気的信号の連続的な検出は、電気的信号のモニタリングであり得る。増幅反応の開始から所望の時間に亘り経時的に検出することにより、増幅産物核酸が存在する場合には、増幅産物核酸が存在しない場合に比べて大きな値の電気的信号が得られる。或いは、より早い時点で電気的信号の増加の立ち上がりが観察される。また或いは、増幅産物の増加に伴い電気的信号が増加する前に、一度酸化還元電位のピーク電位が負方向へシフトする現象も観察されていることから、当該ピーク電位の負方向へのシフトと、電気的信号の量と、酸化還元電位のピークシフト測定とを組み合わせて、より精度の高い測定を行ってもよい。
(D)では、前記(C)で得られた電気的信号の大きさの経時的な変化に基づいて、標的核酸の有無及び/又は量を決定する。
標的核酸の有無及び/又は量の決定は、検出信号が予め定められた閾値を超えるまでに要する時間を立ち上がり時間として計測し、得られた結果に基づいて行われ得る。或いは、標的核酸の有無及び/又は量は、核酸の存在量が既知である異なる複数の標準試料核酸を用意すること、標準試料核酸を用いて測定し、各核酸の存在量に対して得られた測定結果から検量線を作成すること、及び標的核酸の測定結果と作成された検量線とを比較することによって、試料中の標的核酸の存在量を算出することによって行われてもよい。
実施形態に従う核酸検出方法によれば、標的核酸を従来よりも簡便かつ高感度に検出及び定量することが可能である。また、実施形態に従う核酸検出方法によれば、従来よりも多くの種類の標的核酸を検出することができる。
以上に説明した実施形態によって、簡便に増幅産物の存在量を電気的信号の増加として反映させることができ、その結果、試料中の標的核酸を簡便に、また高精度に検出又は定量することが可能となる。
実施形態において、増幅産物の存在量を電気的信号の増加として検出できることの一つの理由として、以下のようなことが考えられる。以下、図3を参照しながら説明する。
図3(a)は、実施形態の核酸検出方法に用いられている基体及び反応場の一例を示す。基体1は、前述した通りである。反応液4によって、反応場10が形成されている。ここでは、便宜上反応液4に含まれる成分のうち、レドックスプローブ5及びマグネシウムイオン6aを図示する。増幅反応によって増幅産物7及びピロリン酸6bが生成されると(図3(b))、マグネシウムイオン6aはピロリン酸6bと結合してピロリン酸マグネシウム6を形成する。更に、レドックスプローブ5は、増幅産物7と結合して複合体8を生成し得る。複合体8は、静電気的な結合により、ピロリン酸マグネシウム6に結合し得る。マグネシウムイオン6aの濃度が4mM以上である当該反応液4中において、ピロリン酸マグネシウム6は電極上に沈殿するため、複合体8は、ピロリン酸マグネシウム6の沈殿に伴い、反応場の底面に沈殿し得る(図3(c))。増幅産物7及び/又はピロリン酸マグネシウム6の増加に従って、複合体8の沈殿量が増加し得る。複合体8の沈殿量が増加するに従って、電極2に近接する又は接触するレドックスプローブ5が増加するため、電極2によって得られる電気的信号が増加する。以上の機構によって、電極2付近に存在する増幅産物7と結合したレドックスプローブ5からの電気的信号を電極によって直接に検出することができ、簡便に増幅産物7の存在量が電気的信号の増加として反映され得る。
このような検出原理を利用することにより、実施形態に従う試料中の標的核酸を検出する方法によれば、検出されるべき標的核酸の配列に左右されることなく精度よく検出を達成することが可能となる。また、このような検出方法によれば、複数の標的核酸を簡便に高精度に検出することが可能となる。
更なる実施形態として、第1〜第nの複数種類の標的核酸を検出する方法が提供される。
第1〜第nの標的核酸は、それぞれ第11〜1nの配列をそれぞれ含む。nは2以上の整数である。
このような複数種類の標的核酸を検出する場合、複数の電極が備えられた基体、即ち、電極アレイが用いられ得る。図4に示す基体は、基体11の反応場に接する面11a上に配置されている複数の電極12と、電極12に電気的に接続されたパット9とを備える。電極12で得られた電気的信号としての情報は、パット9から取り出され得る。
1種類の試料について複数種類の標的核酸を検出する場合、例えば、測定されるべき標的核酸に対応するプライマーセットと試料とを含む反応液を、それぞれ対応する電極にそれぞれスポッティングされればよい。この場合、1つの電極上に配置される試料は、互いに接触しないように対応する電極のみに接するように配置される。そのために、電極間に仕切りが設けられてもよく、例えば更に、それぞれの電極に反応液を持ち込むための独立した流路が設けられてもよい。ここでは1種類の試料について複数種類の標的核酸を検出する例について記載したが、複数種類の試料についても同様に1種類の標的核酸又は複数種類の標的核酸を電極アレイにより検出することも可能である。複数種類の標的核酸を検出する場合は、複数種類のプライマーセットが用いられる。複数種類のプライマーセットは、第11〜1nの配列をそれぞれ増幅するためのプライマーを含み得る。
また複数種類のプライマーセットが、各反応場に接する面にアレイ状に互いに独立して配置された複数のプライマー固定領域に対して予め固定されていてもよい。
複数種類のプライマーセットが、電極アレイ上の対応する各電極上又は電極付近に固定されている場合、1種類の試料に含まれる複数種類の標的核酸は、1つの反応場を形成している反応液に接触するように配置された複数の電極により同時に検出され得る。
そのようなプライマー固定領域の位置を図5に示す。例えば、図5に示されるように、電極アレイは、1つの反応場に接するように複数個の電極22を備える。各電極22の近傍及び/又は電極22上には、プライマー固定領域30が設けられ、プライマー固定領域30に対応する複数のプライマーセット31が種類ごとに固定されている。例えば、予め電極の位置とプライマーセットとを紐づけておくことにより、複数種類の標的核酸の種類の情報と検出結果とを対応付けて得ることが可能となる。
ここで「独立して配置される」とは、反応場において実施される複数種類のプライマーセットのうちの特定のプライマーセットによって行われる増幅反応が、他の種類のプライマーセットによって行われる増幅反応の影響を受けないこと、特定のプライマーセットによって形成される増幅産物が、他の種類のプライマーセットによって形成される増幅産物と混ざらないこと、及び対応する電極によって検出されるべき特定の増幅産物の検出結果が、他の増幅産物の検出結果と識別されることが達成されるような配置である。そのために電極アレイに配置される複数の電極の間隔を調整し得る。
例えば、そのような電極間の間隔は、0.1μm〜10mmであり、対応する電極とプライマーセットの固定領域との間隔は、1μm〜10mmであり得る。
このような構成であれば、1つの反応場に存在する複数種類の標的核酸を同時に検出することが可能である。
上述において説明した実施形態によれば、配列の種類に限定されることなく、複数種類の配列を効率的に感度よく検出することが可能となる。また、実施形態に従う構成の反応液を用いることにより、より多く種類の配列を増幅、例えば、効率的に増幅することが可能となる。従って、より多くの標的核酸を検出することができ、効率的に精度よく検出することが可能であり、検査の効率が向上する。
以上に説明した実施形態によれば、核酸を簡便かつ高感度に検出できる核酸検出方法が提供される。
更なる実施形態によれば、試料中の標的核酸を検出するためのアッセイキットが提供される。標的核酸は、上述の標的核酸であり、第1の配列を含む。当該アッセイキットは、増幅反応が行われるための反応場を形成する反応液の構成成分を含む。
当該反応液の構成成分は、プライマーセット、特定の量のマグネシウムイオン及びレドックスプローブを含む。
プライマーセットは、第1の配列の一端部に相補的な第1のプライマーと、第1の配列の他端部に相同な第2のプライマーとを少なくとも含む。このようなプライマーセットは、例えば、上述のプライマーセットであり得る。
マグネシウムイオンは、反応液に含まれる最終濃度が4mM〜30mMとなる特定の量で当該アッセイキットに含まれ得る。マグネシウムイオンは、例えば、硫化マグネシウム又は塩化マグネシウムとしてキットに含まれ得る。
レドックスプローブは、−0.5V〜0.5Vの酸化還元電位を有し、検出可能な電気的信号を生じる。電気的信号の大きさは、反応場における増幅産物の存在量の増加に伴って増加する。レドックスプローブは、例えば、上述のレドックスプローブであり得る。
当該アッセイキットは、更に、反応試薬を含み得る。反応試薬は、増幅反応に必要な試薬であり得る。反応試薬は、例えば、上述の対応する増幅酵素、プライマーを起点とし新たなポリヌクレオチド鎖を形成する際に必要なデオキシヌクレオシド三リン酸などの基質、逆転写を同時に行う場合には、逆転写酵素などの酵素及びそれに必要な基質など、更に、適切な増幅環境を維持するための塩類などの緩衝剤を含み得る。また反応試薬として増粘剤が更に含まれ得る。
これらの反応液の構成成分は、それぞれが個別に当該アッセイキットに含まれていてもよいし、これらのうちの何れか又は全てが混合されて当該アッセイキットに含まれていてもよい。
当該成分を含むアッセイキットを用いて、例えば、上述の核酸検出方法を行うことによって、核酸を簡便且つ高感度に検出できる。
更なる実施形態において、アッセイキットは、基体を含む。
基体は、前記反応液を存在させて形成される増幅反応が行われるための反応場を支持するための基体である。当該基体は、表面にレドックスプローブからの電気的信号を検出するための電極を備えている。当該電極は、その上に前記反応場が形成されるように配置されている。このような基体は、例えば、一例として図2に示されるような前述の基体であり得る。
アッセイキットに基体が含まれる場合、前記反応液の構成成分は、反応場に持ち込まれるように、基体の反応場に接するべき表面に遊離可能に固定されていてもよい。
例えば、当該基体の電極上に上述した反応液の構成成分を含む反応液を存在させることによって、反応場が形成され得る。当該反応場を用いれば、核酸を簡便且つ高感度に検出することが可能である。
以上に説明した実施形態によれば、核酸を簡便かつ高感度に検出できるアッセイキットが提供される。
[例]
<例1>
LAMP増幅反応におけるRuHexからの電気的信号の挙動を評価した。
・基板の作製
パイレックス(登録商標)(d=0.8mm)ガラス表面にチタン(500nm)及び金(2000nm)の薄膜をスパッタリングにより形成した。その後、レジストAZP4620を用いて金の電極(φ=200μm)を形成した。その上にメルカプトヘキサノールで被覆した。
・LAMP増幅反応
増幅産物としてパルボウイルスの人工配列(10
5コピー、1μL)(表1に配列番号1として示す)、表2に示すLAMPプライマーとしてのF3プライマー(配列番号2)、B3プライマー(配列番号3)、FIPプライマー(配列番号4)、BIPプライマー(配列番号5)及びLbプライマー(配列番号6)、レドックスプローブとしてのRuHex(25μM)、KCl(60mM)、マグネシウムイオン(8mM)、アンモニウムイオン(10mM)、ベタイン(0.8M)、dNTPs(各1.4mM)並びにポリメラーゼ(GspSSD)(8unit)を含む反応液を調製した。
ネガティブコントロールとして、パルボウイルスの人工配列を反応液に加えないサンプルを更に用意した。上述した基板の電極を有する面上に反応液を持ち込み、これらを67℃の等温で加温し、増幅反応を開始した。増幅反応と並行して、電気的信号をSWV(SquareWave voltammetry)法で測定した。
図6に、結果を示した。図6(a)は、パルボウイルスの人工配列(配列番号1)が0コピーの場合と105コピーの場合のピーク還元電流の経時的変化を示すグラフである。105コピーの場合では、ピーク還元電流の著しく増加した。図6(b)は、パルボウイルスの人工配列が0コピーの場合と105コピーの場合のピーク還元電位の経時的変化を示すグラフである。105コピーの場合では、ピーク還元電位がシフトした。この結果から、RuHexを含む反応液において、増幅産物が存在する場合、ピーク還元電流及びピーク還元電位が増加することが示唆された。
<例2>
異なるコピー数の増幅産物を含む反応液において、LAMP増幅におけるRuHexからの電気的信号の挙動を評価した。
それぞれ0コピー、102コピー、103コピー、104コピー、105コピーのパルボウイルスの人工配列(配列番号1)をそれぞれ含む例1と同じ反応液を5つ用意した。例1と同じ基板を用いて、これらの反応液をそれぞれ67℃の等温で加温し、増幅反応を開始した。増幅反応と並行して、電気的信号をSWV法で測定した。
図7、8に、結果を示した。図7(a)〜(e)は、各コピー数のパルボウイルス人工配列を含む反応液におけるピーク還元電位の経時的変化を示すグラフである。図8(f)〜(i)は、図7(b)〜(e)と図7(a)とのピーク還元電位の経時的な変化量の差を算出し、示したグラフである。ピーク還元電位の変化量が1mV/min以上シフトした時点(電位立ち上がり時間)を矢印で示した。パルボウイルス人工配列のコピー数が多いほど電位立ち上がり時間が短かった。図9は、各パルボウイルス人工配列のコピー数における電位立ち上がり時間をプロットし、検量線を引いたグラフである。検量線のR2値は、0.9143であった。これらの結果から、パルボウイルス人工配列の存在量と電位立ち上がり時間には相関があることが示された。従って、電位立ち上がり時間によって増幅反応初期の増幅産物量を定量できることが示唆された。
<例3>
レドックスプローブの量と電流及び電位立ち上がり時間の関係を調査した。
RuHexを1mM含み、他の条件は例1と同じである反応液と、例1と同じ条件の反応液とを用意した。105コピー例1と同じ基板を用いて、各反応液をそれぞれ67℃の等温で加温し、増幅反応を開始した。増幅反応と並行して、電気的信号をLSV(Linearsweep voltammetry)法で測定した(掃引速度:0.1V/s)。その結果を図10に示す。ピーク還元電流の変化量はRuHexが25μMの条件(図6(a))よりも大きかった。従って、レドックスプローブの反応液中の濃度は、25μMよりも1mMである方が、検出の感度が向上することが示唆された。RuHexの濃度を3mM以上にすると増幅反応が阻害されることから、25μM〜3mM範囲が好ましいと考えられる。
<例4>
アレイ状の電極を用いて、異なるコピー数の増幅産物を含む反応液における電流及び電位立ち上がり時間の経時的変化を調査した。
・チップの作製
パイレックス(登録商標)(d=0.8mm)ガラス表面にチタン(500nm)及び金(2000nm)の薄膜をスパッタリングにより形成した。その後、レジストAZP4620を用いてアレイ状の60個の金電極(φ=200μm)(作用極)を形成した。作用極2つごとにそれらに対応する参照極と対極とを形成した。電極の表面をメルカプトヘキサノールで被覆した。
・LAMP反応
0コピー、102コピー、103コピー、104コピー、105コピーのパルボウイルスの人工配列(配列番号1)をそれぞれ含む例1と同じ反応液を5つ用意した。上述した基板の電極を有する面上に反応液を持ち込み、これらの反応液をそれぞれ67℃の等温で加温し、増幅反応を開始した。増幅反応と並行して、電気的信号をLSV法で測定した(掃引速度:0.5V/s)。
結果を図11に示す。図11(a)は、電流値の経時的変化を示すグラフである。パルボウイルスの人工配列が多いほど、電流及立ち上がり時間が短かった。図11(b)は、各パルボウイルス人工配列のコピー数における電流立ち上がり時間をプロットし、検量線を引いたグラフである。検量線のR2値は、0.9071であった。これらの結果から、パルボウイルス人工配列の存在量と電流立ち上がり時間には相関があることが示された。従って、アレイ状の電極を備える基板を用いて、電流立ち上がり時間によって増幅反応初期の増幅産物量を定量できることが示唆された。
<例5>
異なる濃度のマグネシウムイオンを含む反応液におけるピーク電流値の経時的変化を調査した。
2.0mM、3.5mM、4mM、4.5mMのマグネシウムイオンをそれぞれ含み、103コピーのパルボウイルスの人工配列(配列番号1)及びRuHex(1mM)を含み、これら以外の成分は例1と同じである複数の反応液を用意した。各反応液をそれぞれ例1の基板の電極(メルカプトヘキサノール被覆なし)を有する面上に持ち込み、これらの反応液をそれぞれ65℃の等温で加温し、増幅反応を開始した。増幅反応と並行して、電気的信号をLSV法で測定した(掃引速度:0.5V/s)。
結果を図12に示す。図12は、増幅反応開始前のピーク電流値を1としたピーク電流値の相対値の経時的変化を示すグラフである。マグネシウムイオン濃度が3.5mM以下である反応液においては、電流値は増幅反応の進行とともに低下した。マグネシウムイオン濃度が4mM以上である反応液においては、一度電流値が低下した後、電流値が増加した。マグネシウムイオン濃度が4.5mMの場合では、4mMの場合よりも電流立ち上がり時間が短く、得られた電流値も高かった。
この結果により、マグネシウムイオン濃度が4mM以上であれば、電流値の増加により増幅核酸を検出できることが示唆された。また、マグネシウムイオン濃度が高いほど電流値が高いことから、ピロリン酸マグネシウムの沈殿にRuHexが結合及び濃縮され、電極表面のRuHex濃度が高まることにより電流値が高くなることが予想された。
<例6>
異なる濃度のマグネシウムイオンを含む反応液におけるLAMP増幅反応を調査した。
2.0mM〜12mMのマグネシウムイオンをそれぞれ含み、かつ103コピーのパルボウイルスの人工配列(配列番号1)を含み、これら以外の成分は例1と同じである複数の反応液を用意した。各反応液をそれぞれ0.2mLのチューブに20μL分注し、これらの反応液をそれぞれ65℃の等温で加温し、増幅反応を開始した。60分間に亘る増幅反応の後、増幅産物の有無を電気泳動で確認した。
結果を表3に示す。マグネシウムイオン濃度が4mM以上である反応液においては、LAMP反応に典型的なラダー状のバンドが確認された。
この結果により、マグネシウムイオン濃度が4mM以上であれば、LAMP反応により増幅産物が生成されることが示された。