関連出願
本願は、2016年3月23日に出願された米国仮出願第63/390253号明細書、2016年8月17日に出願された米国出願第15/239733号明細書および2016年4月20日に出願された米国仮出願第62/325261号明細書の利益およびそれらに対する優先権を主張する。上記全出願の内容は、全体として本明細書に組み入れられる。
背景
大抵の車両はエンジンおよびトランスミッションを有する。エンジンおよびトランスミッションは、車両または機器の駆動軸を回転させるために使用される。駆動軸は差動装置に接続されている。差動装置は、ドライブシャフトの回転エネルギを、自動車などの車輪付き車両のための車両のアクスルおよび車輪へまたは戦車および軌道式ブルドーザなどの軌道車のための車両のアクスルおよび軌道へ伝達する。
概して、車両が直線を走行しているとき、車両の左側の軌道または車輪と、車両の右側の軌道または車輪は、同じ速度で回転する。しかしながら、車両が転回するとき、転回の外側の軌道または車輪は、転回の内側の軌道または車輪よりも多く移動しなければならない。その結果、転回の外側の軌道または車輪は、転回中に、内側の軌道または車輪よりも僅かに速い速度で回転しなければならない。差動装置の使用は、車両の反対側における反対向きの車軸を異なる速度で回転させることを可能にする。これにより、車両の軌道または車輪はそれぞれ、転回を行うために適切な速度で回転することができる。
操舵は、差動操舵を用いる車両(例えば、戦車、軌道ブルドーザ、スキッドステアローダ等)では、前輪操舵を用いる車輪を有する車両とは異なる方式で行われる。差動操舵式車両および前輪操舵式車両は両方とも、転回中に内側の車輪(または軌道)と外側の車輪(または軌道)との車輪回転速度の差を許容しかつ制御する必要性を共有する。しかしながら、この共通性にもかかわらず、これらの2つのタイプの車両の設計および制御方法は、以下に説明するように、複数の主要な違いを有する。
差動操舵式車両の場合、左側の軌道速度と右側の軌道速度または左側の車輪速度と右側の車輪速度の制御された差が、所望の転回を行うための唯一の手段を提供し、その結果、これらのタイプの車両は、差速に対する直接的な能動的制御を必要とする。この能動的制御を達成することを目的とする多くの公知の歯車設計が存在する。幾つかの設計は、一方の側を減速させるために、車両のトラクションエレメントの一方の側に摩擦を加えることによって操舵制御を達成し、これにより、車両を、減速させられた側に向かって転回させる。このような「制動式」差動操舵システムは、本来、操舵中に推進システムが克服しなければならない摩擦損失により、非効率である。これらの「減法式」設計は、差動制動によって正確な回転速度を達成することが困難であることにより、精度を欠く傾向もある。
ダブル差動歯車などのその他の設計は、差速を選択的に変化させるために、別個の操舵入力軸を提供する。このような歯車式設計は、操舵入力が、反対側のアクスルシャフトを減速させながら、一方のアクスルシャフトを等しく加速させるという意味で、回生式である。これは、摩擦式設計よりも大きな操舵オーソリティおよび精度を可能にする。しかしながら、これらの歯車式差動操舵設計は、通常、アクスルシャフトに隣接して取り付けられかつアクスルシャフトと噛み合った、複数の制御シャフトを用いる。例えば、グリースマン他に発行された米国特許第4776235号明細書に説明および描写された、スリップが課されない操舵差動装置では、これらの隣接する制御シャフトは、図1に要素22および23として表されている。このような設計は、制動式差動操舵よりも効率的かつ正確であるが、通常、別個のドライブシャフト、制御シャフトおよび逆回転アイドラシャフトを収容するために、大きくかつ重いハウジングを必要とする。さらに、(直線走行の間でさえも)より多数の逆回転する歯車要素を介して推進動力を伝達する必要性の結果、寄生動力伝達経路損失による動力伝達経路効率の低下が生じる。
前輪操舵式車両のための多くの慣用的な差動装置の場合、車両を操舵するまたは転回させるために相対的な車輪回転速度の差が利用されるのではなく、単に、車両の操舵敏捷性を保ちかつ過剰なタイヤ摩耗および動力伝達経路拘束を防止するために(オープンデフなどによって)提供される。オープンデフなどの、前輪操舵式車両のためのこれらの慣用的な差動装置は、概して、自動車の車輪が良好な道路条件に遭遇しているときには、作動中に良好に働く。しかしながら、このアプローチは、結果として、車両がスリップしやすい条件または不均一なトラクション条件に遭遇すると、望ましくない車輪スリップを受けやすい。道路は、しばしば雪、氷、土、砂利、泥等に覆われており、これらは、転回中に車輪をスリップさせるまたは滑らせる可能性がある。このような状況では、オープンデフは、スリップする車輪に大きすぎる動力を加えることがある。これは、車両の安全性に不利な影響を与える可能性がある。これを軽減するための努力において、幾つかの差動装置設計は、既にスリップしている車輪を減速させるために摩擦を加えることによって、望ましくない車輪スリップを検出しかつこれに反応するための機構を用いる。より最近の進歩は、転回中のトルクベクタリングなどを介して、または任意のトラクション条件のための専用のトラクションモードをプリエンプティブにトグリングすることによって、よりプロアクティブなスリップ制御を提供することを目的とする。それにもかかわらず、これらの方法は、操舵またはその他の入力に応答して(ブレーキングまたはクラッチを介して)差動摩擦を加えることによって、対向する車輪の間で動力をさらに再配分する。望ましくない車輪スリップを制限するための摩擦へのこの依存は、ブレーキ式の差動操舵式車両適用を困難にする、同じ固有の非効率および不正確につながる。したがって、このような摩擦式スリップ制限トラクション制御システムは、しばしば、坂を登っている間に1つの車輪が突然地面から離れるなどの、劇的なトラクションアンバランスに応答するときに運動量の損失を捕捉することが不可能であるということは、驚くべきことではない。
したがって、差動操舵式車両のための改良された差動装置システムの必要性が存在する。また、著しいスリップを許容することなく、異なるアクスルシャフトの間の回転速度差を正確に制御する、前輪操舵式車両のための改良された差動装置システムの必要性も存在する。
概要
本明細書で説明される実施の形態は、車両、システム、歯車伝動装置アセンブリ、車両の異なるアクスルシャフトの間の差動回転を制御する方法および車両の差動操舵の方法を含む。
1つの実施の形態は、車両の第1のアクスルシャフトおよび第2のアクスルシャフトに係合するように構成されかつ車両のドライブシャフトによって駆動されるように構成された差動装置と、車両の変速可逆モータによって駆動されるように構成された差動装置制御ピニオン歯車とを含む、歯車伝動装置アセンブリを含む。歯車伝動装置アセンブリは、さらに、差動装置に係合しかつ差動装置制御ピニオン歯車に係合するように構成された第1の複数の調節歯車と、差動装置に係合しかつ差動装置制御ピニオン歯車に係合するように構成された第2の複数の調節歯車とを有する。第1の複数の調節歯車は、第1の遊星歯車キャリアと、第1の遊星歯車キャリアに接続された遊星歯車の第1のセットと、第1の遊星歯車キャリアに接続された遊星歯車の第2のセットとを有する。第2の複数の調節歯車は、第2の遊星歯車キャリアと、第2の遊星歯車キャリアに接続された遊星歯車の第3のセットと、第2の遊星歯車キャリアに接続された遊星歯車の第4のセットとを有する。第1の複数の調節歯車および第2の複数の調節歯車は、変速可逆モータによって生ぜしめられる差動装置制御ピニオン歯車の回転によって、第2のアクスルシャフトの回転速度に対して第1のアクスルシャフトの回転速度を制御可能に変化させるように構成されている。
幾つかの実施の形態では、第1の複数の調節歯車および第2の複数の調節歯車は、変速可逆モータによって生ぜしめられる差動装置制御ピニオン歯車の回転により、第2のアクスルシャフトの回転速度に対して第1のアクスルシャフトの回転速度を制御するように構成されている。
幾つかの実施の形態では、第1の複数の調節歯車および第2の複数の調節歯車は、差動装置制御ピニオン歯車の回転速度が、第1のアクスルシャフトの回転速度と、第2のアクスルシャフトの回転速度との差に比例するように構成されている。
幾つかの実施の形態において、第1の複数の調節歯車は、さらに、差動装置制御ピニオン歯車と噛み合うように構成された外歯と、遊星歯車の第1のセットと噛み合うように構成された内歯とを有する第1の外歯付きリングギヤを有し、第2の複数の調節歯車は、さらに、差動装置制御ピニオン歯車と噛み合うように構成された外歯と、遊星歯車の第3のセットと噛み合うように構成された内歯とを有する第2の外歯付きリングギヤを有する。幾つかの実施の形態において、歯車伝動装置アセンブリは、差動装置制御ピニオン歯車の回転が、第1の外歯付きリングギヤの第1の回転と、第2の外歯付きリングギヤの等しくかつ反対方向の回転とを駆動するように構成されている。幾つかの実施の形態において、差動装置制御ピニオン歯車は、ベベルピニオン歯車であり、第1の外歯付きリングギヤの外歯はベベル状であり、第2の外歯付きリングギヤの外歯はベベル状である。幾つかの実施の形態において、第1の複数の調節歯車および第2の複数の調節歯車は、第1の外歯付きリングギヤのゼロ回転と、第2の外歯付きリングギヤのゼロ回転とが、第1のアクスルシャフトと、第2のアクスルシャフトとの回転速度の差が無いことに対応するように構成されている。幾つかの実施の形態において、第1の複数の調節歯車および第2の複数の調節歯車は、第1の外歯付きリングギヤの回転速度が、第1のアクスルシャフトと、第2のアクスルシャフトとの回転速度の所望の差に比例するように、構成されている。
幾つかの実施の形態において、差動装置はキャリアハウジングを有する。幾つかの実施の形態において、歯車伝動装置アセンブリは、さらに、キャリアハウジングに結合された、取り付けられたまたは一体的な第1の差動装置太陽歯車を有し、遊星歯車の第1のセットが第1の差動装置太陽歯車に係合するように構成されており、キャリアハウジングに結合された、取り付けられたまたは一体的な第2の差動装置太陽歯車を有し、遊星歯車の第3のセットが第2の差動装置太陽歯車に係合するように構成されており、第1の複数の調節歯車は第1の差動装置太陽歯車を介して差動装置と相互作用するように構成されており、第2の複数の調節歯車は第2の差動装置太陽歯車を介して差動装置と相互作用するように構成されている。幾つかの実施の形態において、キャリアハウジングは、マイタ歯車キャリアである。
幾つかの実施の形態において、歯車伝動装置アセンブリは、第1のアクスルに結合された、取り付けられたまたは一体的な第1のアクスル太陽歯車と、第2のアクスルに結合された、取り付けられたまたは一体的な第2のアクスル太陽歯車とを有し、遊星歯車の第2のセットは、第1のアクスル太陽歯車に係合するように構成されており、遊星歯車の第4のセットは、第2のアクスル太陽歯車に係合するように構成されている。
幾つかの実施の形態において、差動装置制御ピニオン歯車は、変速可逆モータによって駆動される差動装置制御シャフトに結合されており、取り付けられておりまたは一体的であり、差動装置制御シャフトおよびドライブシャフトは、同じ回転軸線を中心に回転するように構成されている。幾つかの実施の形態において、ドライブシャフトは、車両の差動装置制御シャフトを通って、差動装置制御シャフトを超えて延びている。幾つかの実施の形態において、ドライブシャフトは、少なくとも部分的に差動装置制御シャフト内に入れ子にされている。
幾つかの実施の形態において、差動装置制御ピニオン歯車は、差動装置の、ドライブシャフトとは反対側に配置されている。
幾つかの実施の形態において、歯車伝動装置アセンブリは、差動操舵式車両のための歯車伝動装置アセンブリであり、歯車伝動装置アセンブリおよび変速可逆モータは、変速可逆モータによって生じる回転に基づき第2のアクスルシャフトの回転速度に対する第1のアクスルシャフトの回転速度を制御可能に変化させることによって車両を操舵するように構成されている。幾つかの実施の形態において、歯車伝動装置アセンブリは、差動操舵式車両のための歯車伝動装置アセンブリであり、歯車伝動装置アセンブリおよび変速可逆モータは、変速可逆モータによって生じる差動装置制御ピニオン歯車の回転を使用することに基づき第2のアクスルシャフトの回転速度に対する第1のアクスルシャフトの回転速度を制御することによって車両を操舵するように構成されている。
幾つかの実施の形態において、第1の複数の調節歯車は、遊星歯車の第2のセットに係合するように構成された第1の内歯歯車をも有し、第1の内歯歯車は変速可逆モータに対して固定されており、第2の複数の調節歯車は、遊星歯車の第4のセットに係合するように構成された第2の内歯歯車をも有し、第2の内歯歯車は変速可逆モータに対して固定されている。
幾つかの実施の形態において、第1のアクスルシャフトの回転速度は、遊星歯車の第1のセットの周回速度に比例し、第2のアクスルシャフトの回転速度は、遊星歯車の第3のセットの周回速度に比例する。
幾つかの実施の形態において、第1の複数の調節歯車は、遊星歯車の第1のセットの周回速度が、変速可逆モータを使用して選択的に調節されることを可能にするように構成されており、第2の複数の調節歯車は、遊星歯車の第3のセットの周回速度が、変速可逆モータを使用して選択的に調節されることを可能にするように構成されている。
幾つかの実施の形態において、第1の複数の調節歯車および第2の複数の調節歯車は、変速可逆モータによって出力される回転速度が、変速可逆モータによって出力される回転速度に比例した、第1のアクスルシャフトと第2のアクスルシャフトとの回転速度の差を生じるように構成されている。
幾つかの実施の形態において、歯車伝動装置アセンブリは、第2のアクスルシャフトに対する第1のアクスルシャフトの回転速度を変化させるまたは維持するとき、摩擦に依存しない。
幾つかの実施の形態において、車両は差動操舵式車両であり、歯車伝動装置アセンブリは、クロスドライブトランスミッションにおいて使用するために構成されている。
別の実施の形態は、差動操舵式車両のための歯車伝動装置アセンブリを含む。歯車伝動装置アセンブリは、車両の第1のアクスルシャフトおよび第2のアクスルシャフトに係合するように構成されかつ車両のドライブシャフトによって駆動されるように構成された差動装置と、差動装置制御シャフトに接続された、取り付けられたまたは一体的な差動装置制御ピニオン歯車とを有し、ドライブシャフトは、少なくとも部分的に差動装置制御シャフトに入れ子にされており、車両の変速可逆モータによって駆動されるように構成されている。歯車伝動装置アセンブリは、さらに、差動装置制御ピニオン歯車に係合するように構成された、差動装置に係合するように構成された第1の複数の調節歯車と、差動装置制御ピニオン歯車に係合するように構成された、差動装置に係合するように構成された第2の複数の調節歯車とを有し、第1の複数の調節歯車および第2の複数の調節歯車は、変速可逆モータによって生じる差動装置制御ピニオン歯車の回転によって、第2のアクスルシャフトの回転速度に対する第1のアクスルシャフトの回転速度を制御可能に変化させるように構成されている。
幾つかの実施の形態では、第1の複数の調節歯車および第2の複数の調節歯車は、変速可逆モータによって生ぜしめられた差動装置制御ピニオン歯車の回転によって、第2のアクスルシャフトの回転速度に対して第1のアクスルシャフトの回転速度を制御するように構成されている。幾つかの実施の形態において、歯車伝動装置アセンブリは、クロスドライブトランスミッションにおいて使用するために構成されている。
別の実施の形態は、差動操舵式車両を含む。差動操舵式車両は、エンジンと、第1のアクスルシャフトと、第2のアクスルシャフトと、ドライブシャフトと、差動装置制御シャフトと、変速可逆モータと、本明細書に記載されたいずれかの実施の形態による歯車伝動装置アセンブリとを備える。
幾つかの実施の形態において、変速可逆モータは、エンジンによって動力を提供される液圧式ポンプによって駆動される液圧式変速可逆モータである。幾つかの実施の形態において、液圧式変速可逆モータは、エンジンによって動力を提供される静水圧変速可逆モータである。
幾つかの実施の形態において、差動操舵式車両は、トランスミッションをさらに備え、歯車伝動装置アセンブリおよびトランスミッションは、車両のクロスドライブトランスミッションユニットに含まれている。幾つかの実施の形態において、差動操舵式車両は、トルクコンバータをさらに備え、変速可逆モータはトルクコンバータによって駆動される。
別の実施の形態は、差動操舵式車両のための歯車伝動装置アセンブリを含む。歯車伝動装置アセンブリは、車両の第1のアクスルシャフトおよび第2のアクスルシャフトに係合するように構成されかつ車両のドライブシャフトによって駆動されるように構成された差動装置と、車両の操舵クラッチによって駆動されるように構成された差動装置制御ピニオン歯車と、差動装置に係合しかつ差動装置制御ピニオン歯車に係合するように構成された第1の複数の調節歯車と、差動装置に係合しかつ差動装置制御ピニオン歯車に係合するように構成された第2の複数の調節歯車とを備える。第1の複数の調節歯車は、第1の遊星歯車キャリアと、第1の遊星歯車キャリアに結合された遊星歯車の第1のセットと、第1の遊星歯車キャリアに結合された遊星歯車の第2のセットとを有する。第2の複数の調節歯車は、第2の遊星歯車キャリアと、第2の遊星歯車キャリアに結合された遊星歯車の第3のセットと、第2の遊星歯車キャリアに結合された遊星歯車の第4のセットとを有する。第1の複数の調節歯車および第2の複数の調節歯車は、操舵クラッチによって生ぜしめられた差動装置制御ピニオン歯車の回転に基づき、第2のアクスルシャフトの回転速度に対して第1のアクスルシャフトの回転速度を制御可能に変化させるように構成されている。
別の実施の形態は、エンジンと、第1のアクスルシャフトと、第2のアクスルシャフトと、ドライブシャフトと、差動装置制御シャフトと、変速可逆モータと、本明細書に記載された歯車伝動装置アセンブリとを備える前輪操舵式車両を含む。幾つかの実施の形態において、変速可逆モータは、電気モータである。
別の実施の形態は、変速可逆モータと、本明細書に記載された歯車伝動装置アセンブリとを有する差動操舵式車両を提供し、変速可逆モータを使用して差動装置制御ピニオン歯車の回転を制御することで車両の第2のアクスルシャフトの回転速度に対する車両の第1のアクスルシャフトの回転速度を制御することによって車両を操舵することを含む方法である。幾つかの実施の形態において、方法は、車両のコンピュータを使用して、少なくとも部分的に、実際のドライブシャフト回転速度を示す第1のセンサ信号と、第1のアクスルと第2のアクスルとの回転速度の実際の差を示す第2のセンサ信号とに基づき、差動装置制御ピニオン歯車の回転を調節することをさらに含む。
別の実施の形態において、方法は、車両の第1のアクスルシャフトと第2のアクスルシャフトとの回転速度の所望の差動を決定することを含む。決定は、車両のマイクロプロセッサを使用して、少なくとも部分的に、車両の現在の操舵角と、車両の第1のドライブシャフトの現在の回転速度とに基づき、第1のドライブシャフトは、第1のアクスルシャフトおよび第2のアクスルシャフトが接続されている差動装置に動力を与える。方法は、回転速度の所望の差動を第1の許容範囲内に合致させるように、第1のアクスルシャフトおよび第2のアクスルシャフトの相対回転を制御するために、回転速度の所望の差動に基づき、車両の変速可逆モータに信号を送ることを含む。
別の実施の形態において、回転速度の所望の差動を決定することは、車両の検出された現在の操舵角に関する情報を受け取り、車両の第1のドライブシャフトの検出された現在の回転速度に関する情報を受け取ることを含む。
車両が前輪操舵式車両である幾つかの実施の形態において、回転速度の所望の差動を決定することは、車両の検出された現在の速度または車両の第1のドライブシャフトの検出された現在の回転速度に基づいてかつ車両の検出された現在の操舵角に基づいて固有差速を決定し、回転速度の所望の差動が固有差速より大きくなるように設定することを含む。所望の差速は、車両のオーバーステアに対応することがある。
車両が前輪操舵式車両である幾つかの実施の形態において、回転速度の所望の差を決定することは、車両の検出された現在の速度または車両の第1のドライブシャフトの検出された現在の回転速度に基づいてかつ車両の検出された現在の操舵角に基づいて固有差速を決定し、回転速度の所望の差動が固有差速より小さくなるように設定することを含む。所望の差速は、車両のアンダーステアに対応することがある。
車両が前輪操舵式車両である幾つかの実施の形態において、回転速度の所望の差動を決定することは、車両の検出された現在の速度または車両の第1のドライブシャフトの検出された現在の回転速度に基づいてかつ車両の検出された現在の操舵角に基づいて固有差速を決定し、少なくとも部分的に、車両のユーザによって選択された設定に基づいて、固有差速より小さくなるようにまたは固有差速より大きくなるように回転速度の所望の差動を設定することを含む。
車両が前輪操舵式車両である幾つかの実施の形態において、回転速度の所望の差動を決定することは、車両の検出された現在の速度または車両の第1のドライブシャフトの検出された現在の回転速度に基づいてかつ車両の検出された現在の操舵角に基づいて固有差速を決定し、少なくとも部分的に、車両の1つまたは複数のセンサから得られた情報に基づいて、固有差速より小さくなるようにまたは固有差速より大きくなるように回転速度の所望の差動を自動的に設定することを含む。幾つかの実施の形態において、車両の1つまたは複数のセンサから得られた情報は、車両の現在のヨーに関する情報を含む。
一例としての実施の形態において、変速可逆モータは、回転速度の所望の差動に比例した回転速度で制御シャフトを回転させることによって、第1のアクスルシャフトおよび第2のアクスルシャフトの相対回転を制御する。
一例としての実施の形態において、方法は、少なくとも部分的に、車両が走行しているときのセンサ入力に基づいてまたはユーザ入力に応答して第1の許容範囲を変更することをさらに含む。
一例としての実施の形態において、方法は、車両の第3のアクスルシャフトと第4のアクスルシャフトとの回転速度の第2の所望の差動を決定することをさらに含む。決定は、少なくとも部分的に、車両の現在の操舵角および車両の第2のドライブシャフトの現在の回転速度に基づき、第2のドライブシャフトは、第3のアクスルシャフトおよび第4のアクスルシャフトが接続されている第2の差動装置に動力を与える。方法は、回転速度の所望の第2の差動を第2の許容範囲内に合致させるように、第3のアクスルシャフトおよび第4のアクスルシャフトの相対回転を制御するために、回転速度の所望の第2の差動に基づいて車両の第2の変速可逆モータに信号を送信することを含み、第2の許容範囲は、第1の許容範囲と同じであるまたは第1の許容範囲と異なる。
別の例としての実施の形態において、第1および第2のアクスルシャフトは、車両のリアアクスルのシャフトであり、第3および第4のアクスルシャフトは、車両のフロントアクスルのシャフトである。方法は、車両の第1のドライブシャフトと第2のドライブシャフトとの回転速度の第3の所望の差動を決定することをさらに含む。決定は、少なくとも部分的に、車両の現在の操舵角および車両のトランスミッションまたは駆動モータによって出力された現在の回転速度に基づく。方法は、回転速度の所望の第3の差動を第3の許容範囲内に合致させるように、第1のドライブシャフトおよび第2のドライブシャフトの相対回転を制御するために、回転速度の所望の第3の差動に基づき、車両の第3の変速可逆モータに信号を送信することをさらに含む。
一例としての実施の形態において、車両の第1のアクスルシャフトおよび第2のアクスルシャフトの回転速度の所望の差動を決定することは、さらに、車両の幅および車両のホイールベースに関する情報に基づく。
一例として実施の形態において、車両の第1のアクスルシャフトと第2のアクスルシャフトとの回転速度の所望の差動を決定することは、車両非対称性に基づいて、直線走行の間に差動装置ベースラインに関連したファクタを付加することを含む。別の実施の形態において、直線走行の間の差動装置ベースラインに関連したファクタは、車両が走行しているときの所定の時間の間の所望の差速に対する検出された抵抗に基づいて決定される。
別の例としての実施の形態において、方法は、車両のマイクロプロセッサを使用して、車両の現在の操舵角の大きさが最小操舵角値より大きいかどうかを判定し、車両の第1のドライブシャフトの現在の回転速度の大きさがゼロではないかどうかを判定することを含む。現在の操舵角の大きさが最小操舵角値より大きく、ドライブシャフトの現在の回転速度の大きさが最小駆動回転速度値より大きいならば、方法は、車両の第1のアクスルシャフトと第2のアクスルシャフトとの回転速度の所望の差動を決定することを含む。決定は、車両のマイクロプロセッサを使用して、少なくとも部分的に、車両の現在の操舵角と、車両の第1のドライブシャフトの現在の回転速度とに基づき、第1のドライブシャフトは、第1のアクスルシャフトおよび第2のアクスルシャフトが接続されている差動装置に動力を与える。方法は、第2のアクスルシャフトの回転に対する第1のアクスルシャフトの回転を制御可能に変化させるために、回転速度の決定された所望の差動に基づいて、車両の変速可逆モータへ信号を送信することをさらに含む。
一例の実施の形態において、現在の操舵角の大きさが最小操舵角値より大きく、ドライブシャフトの現在の回転速度の大きさがゼロではないならば、方法は、車両の第3のアクスルシャフトと第4のアクスルシャフトとの回転速度の第2の所望の差動を決定することを含む。決定は、少なくとも部分的に、車両の現在の操舵角および車両の第2のドライブシャフトの現在の回転速度に基づき、第2のドライブシャフトは、第3のアクスルシャフトおよび第4のアクスルシャフトが接続されている第2の差動装置に動力を与える。方法は、さらに、第4のアクスルシャフトに対する第3のアクスルシャフトの回転を制御可能に変化させるために、回転速度の決定された第2の所望の差動に基づいて、車両の第2の変速可逆モータへ信号を送信することを含む。
別の実施の形態において、第1および第2のアクスルシャフトは、車両のリアアクスルのシャフトであり、第3および第4のアクスルシャフトは、車両のフロントアクスルのシャフトである。方法は、車両の第1のドライブシャフトと第2のドライブシャフトとの回転速度の第3の所望の差動を決定することをさらに含む。決定は、少なくとも部分的に、車両の現在の操舵角および車両のトランスミッションまたは駆動モータによって出力された現在の回転速度に基づく。方法は、第2のドライブシャフトの回転に対する第1のドライブシャフトの回転を制御可能に変化させるために、回転速度の決定された第3の所望の差動に基づいて、車両の第3の変速可逆モータへ信号を送信することをさらに含む。
別の実施の形態において、方法は、車両の検出された現在の操舵角に関する情報を受け取り、車両のドライブシャフトの検出された現在の回転速度に関する情報を受け取ることをさらに含む。別の実施の形態において、最小操舵角値は、0.01度から5度までの範囲である。別の実施の形態において、方法は、少なくとも部分的に、車両が走行しているときのセンサ入力に基づいてまたはユーザ入力に応答して最小操舵角を変更することをさらに含む。
幾つかの実施の形態は、第1のアクスルと第2のアクスルとの回転の差動を制御するためのシステムを含む。システムは、本明細書に説明された歯車伝動装置アセンブリと、歯車伝動装置アセンブリの制御シャフトを駆動するように構成された変速可逆モータとを有する。幾つかの実施の形態において、システムは、さらに、所望の差速を決定しかつ変速可逆モータを制御するように構成されたプロセッサまたはマイクロプロセッサを有する。
図面は、本明細書に教示された例としての実施の形態を例示することが意図されており、相対的なサイズおよび寸法を示すことまたは例または実施の形態の範囲を制限することは意図されていない。図面において、同様の特徴および同様の機能の構成部分を示すために、図面を通じて同じ番号が使用されている。
幾つかの実施の形態による歯車伝動装置アセンブリを有する差動操舵式車両の選択された電気的および機械的な構成部分を概略的に示している。
幾つかの実施の形態による前輪駆動車両の選択された電気的および機械的な構成部分を概略的に示している。
歯車伝動装置アセンブリの第1の例としての実施の形態を示す、部分的に分解された斜視図である。
図3に示された歯車伝動装置アセンブリの分解された側面図である。
図3に示された歯車伝動装置アセンブリの部分的に分解された側面図である。
図3に示された歯車伝動装置アセンブリの分解された平面図である。
歯車伝動装置アセンブリの第2の例としての実施の形態を示す分解された斜視図である。
図7に示された歯車伝動装置アセンブリの側面図である。
図7に示された歯車伝動装置アセンブリの平面図である。
図7に示された歯車伝動装置アセンブリの平面図である。
幾つかの実施の形態による車両を操作する方法のフローチャートである。
図11によるリア差動装置のための回転速度の所望の差を決定するために使用されるパラメータを示している。
幾つかの実施の形態による、第1のアクスルシャフトと第2のアクスルシャフトとの回転速度の差動を能動的に制御する方法のフローチャートである。
幾つかの実施の形態によるリア差動装置を有する車両におけるリアアクスルシャフトの間の回転速度の所望の差を決定する方法のフローチャートである。
幾つかの実施の形態によるフロント差動装置を有する車両におけるフロントアクスルシャフトの回転速度の所望の差を決定する方法のフローチャートである。
図15によるフロント差動装置のための回転速度の所望の差を決定するために使用されるパラメータを示している。
幾つかの実施の形態によるセンター差動装置を有する車両のためのフロント出力ドライブシャフトとバック出力ドライブシャフトとの回転速度の所望の差を決定するための一例としての方法のフローチャートである。
図17によるセンター差動装置のための回転速度の所望の差を決定するために使用されるパラメータを示している。
幾つかの実施の形態による差動装置システムを操作する方法のフローチャートである。
幾つかの実施の形態による差動装置システムを操作する別の方法のフローチャートである。
詳細な説明
幾つかの実施の形態は、車両、車両のための歯車伝動装置アセンブリ、推進動力を提供する方法および車両のドライブアクスルへの差速の歯車式回生制御を含む。幾つかの実施の形態は、慣用的な能動制御差動装置と比較してコンパクトな設計を有する、差動回転速度の能動制御のための回生歯車伝動装置アセンブリを含む。幾つかの実施の形態は、より単純な、慣用的な回生差動装置操舵システムよりも少ない制御シャフトを有する、(例えば、差動装置により操舵される車両のための)差動回転速度の能動制御のための回生歯車伝動装置アセンブリを含む。
歯車伝動装置アセンブリの幾つかの実施の形態は、差動装置(例えば、オープンデフ)と、各アクスルシャフトに対して1つずつの、2つの異なる複数の調節歯車とを有する。複数の調節歯車のそれぞれは、遊星歯車の内側のセットと、遊星歯車の内側のセットと歯車キャリアを共有する遊星歯車の外側の第2のセットとを有する。差動装置の両側における複数の調節歯車は、歯車の間に回転の差動を付与し、これにより、所望の操舵挙動を達成するために、同じ差動装置制御ピニオン歯車により駆動される。
幾つかの実施の形態において、差動操舵式車両のための操舵制御は、少なくとも部分的に操舵入力信号に基づき、変速可逆モータを使用して差動装置制御ピニオン歯車を回転させることにより達成される。実施の形態は、所望の操舵挙動を達成するために、差動装置制御ピニオン歯車の回転を、第1のアクスルシャフトの回転速度と第2のアクスルシャフトの回転速度との加えられた差に変換する歯車伝動装置アセンブリを使用する。この設計は回生式であるため、十分に強い変速操舵モータは、車両をニュートラルステアさせる、または幾つかの実施の形態では所定の位置においてスピンさせることを可能にする。
回生差動制御のための既存の歯車式設計と対照的に、幾つかの実施の形態は、ほとんどの自動車において一般的な慣例であるように、1つの差動歯車アセンブリにより各ドライブアクスルに直接的に推進動力を加える。加えて、実施の形態は、中間歯車またはアイドラ歯車を介して動力を送らないので、直線走行において、逆回転するシャフトは存在しない。さらに、実施の形態は、付加的な隣接する制御シャフトを必要とすることなく、全ての駆動および操舵制御歯車を、ドライブアクスルの1つのセットに沿って対称的な配列で配置している。
その結果、幾つかの実施の形態は、組み合わされた推進および回生差速制御を達成するために、より効率的な、コンパクトな、重量節約設計を使用する。
例としての実施の形態は、システム、歯車伝動装置アセンブリ、アクスルシャフトの回転の差動の制御の方法および車両の差動操舵の方法を含む。幾つかの実施の形態は、第2のアクスルシャフトに対する第1のアクスルシャフトの回転速度を変化させるとき、摩擦に依存しない。このような実施の形態は有利であることがある。なぜならば、このような実施の形態は、アクスルおよび車輪のスリップを生じず、これにより、車両の安全性を高めるからである。摩擦に依存しない実施の形態も有利であることがある。なぜならば、摩擦に依存する構成部材を排除することは、摩擦により摩耗しやすい構成部材を排除し、これは、長期的なコストを削減することがあるからである。摩擦に依存しないまたはアクスルシャフトの回転速度の所望の差動からの僅かな逸脱のみを許容する実施の形態は、ホイールを駆動するために供給される不均一なトルクにより生じる、トルクステアの低減または排除による利益を受けることがある。付加的な態様および様々な実施の形態の利益が以下に説明される。
ここに説明される幾つかの実施の形態は、差動操舵式車両に組み込まれてもよく、または差動操舵式車両に関連して実行されてもよい。図1は、差動操舵式車両を概略的に示している。図1は、幾つかの実施の形態による、歯車伝動装置アセンブリ14を有する、差動操舵式車両8の概略図である。差動操舵式車両は、推進エンジン11と、ドライブシャフト12を回転させるトランスミッション13とを有する。ドライブシャフト12は歯車伝動装置アセンブリ14に接続されている。変速可逆モータ24により駆動される差動装置制御シャフト25も歯車伝動装置アセンブリ14に接続されている。歯車伝動装置アセンブリケース16は、歯車伝動装置アセンブリを保持および保護し、歯車伝動装置アセンブリ14の周囲にオイルを保持する。
歯車伝動装置アセンブリ14は、ドライブシャフト12からの推進のための回転を、車両8の推進のための第1のアクスルシャフト18および第2のアクスルシャフト20へ伝達し、差動装置制御シャフト25からの操舵のための回転を、車両の推進および操舵のための第1のアクスルシャフト18および第2のアクスルシャフト20へ伝達する。アクスルシャフト18,20は、車両の第1の軌道21および第2の軌道22を駆動する。歯車伝動装置アセンブリ14は、差動装置制御シャフト25の回転に基づき、第2のアクスルシャフト20の回転速度に対する第1のアクスルシャフト18の回転速度の差動を加えるように構成されている。これにより、差動装置制御シャフト25の回転は、第2の軌道22の回転速度に対する第1の軌道21の回転速度の差動を制御するために使用される。
幾つかの状況において、このことは、歯車伝動装置アセンブリ14が、車両を操舵するために、差動装置制御シャフト25の回転を、第1のアクスルシャフト18に加えられる第1の差動操舵トルクと、第2のアクスルシャフト20に加えられる第2の差動操舵トルクとに変換すると説明することができる。ほとんどの状況において、第2の差動操舵トルクは、第1の差動操舵トルクの符号と逆の符号を有する。
車両を操舵するとき、ステアリングホイール、ヨークまたはレバーなどの操舵入力装置23の移動は、変速可逆モータ24に信号を提供する操舵角センサ28によって測定される。幾つかの実施の形態において、変速可逆モータ24は、操舵角センサ28によって提供される信号によって直接的に制御される。このような実施の形態において、付加的なセンサは必要とされない。幾つかの実施の形態において、アクスル回転速度センサ30およびドライブシャフト回転速度センサ29は、閉ループおよび速度感知操舵調節を提供するために、車両のコンピュータ26に入力を提供する。
幾つかの実施の形態において、変速可逆モータ24は車両のコンピュータ26により制御される。幾つかの実施の形態において、エンジンコンピュータ26により変速可逆モータ24へ送信される制御信号は、操舵角センサ28と、ドライブシャフト回転速度センサ29と、1つまたは複数のアクスル回転速度センサ30とから受信された入力に基づく。
変速可逆モータ24は、歯車伝動装置アセンブリ14につながっている差動装置制御シャフト25を駆動する。幾つかの実施の形態において、変速可逆モータ24は、1つまたは複数のその他の歯車を介して差動装置制御シャフト25に結合されていてもよい。例えば、図1は、差動装置制御シャフト25に取り付けられた平歯車19と噛み合った、変速可逆モータ24により駆動されるピニオン歯車27を示している。幾つかの実施の形態において、変速可逆モータ24を差動装置制御シャフト25に接続するために減速歯車が使用されてもよい。ピニオン歯車27および平歯車19は、減速歯車として機能する。幾つかの実施の形態において、変速可逆モータ24が、減速歯車を有してもよい。幾つかの実施の形態において、変速可逆モータ24を差動装置制御シャフト25に結合するために減速歯車が使用されてもよい。幾つかの実施の形態において、変速可逆モータ24は、差動装置制御シャフト25と直接的に結合されてもよい。
差動操舵式車両のための幾つかの実施の形態において、速度感応式操舵機能は、車両のドライブシャフト速度が高まるに従って、同じ操舵入力信号値に対して差動装置制御ピニオン歯車の回転速度を低下させることにより提供される。幾つかの実施の形態において、トルクコンバータ(図示せず)が、トランスミッションと変速可逆モータ24との間に使用されてもよく、これにより、差動装置制御シャフト25に提供される操舵トルクの大きさは、車両の全体的速度に依存し、より低い車速ではより大きな操舵トルクが提供され、より高い車速ではより小さな操舵トルクが提供される。幾つかの実施の形態において、コンピュータ26または制御ユニットは、車速に関して、差動装置制御シャフト25に提供される操舵トルクの大きさを制御するために使用される。
差動操舵式車両は、トランスミッション13、変速可逆モータ24および歯車伝動装置アセンブリ14の機能のうちの幾つかまたは全てを、クロスドライブトランスミッションユニット31を形成する1つのエンクロージャに組み合わせてもよい。幾つかの実施の形態において、ここで説明される歯車伝動装置アセンブリ14は、最終的な駆動歯車として機能するようにクロスドライブトランスミッションユニットに組み込まれている。幾つかの実施の形態において変速可逆モータ24は、クロスドライブトランスミッションユニットの出力のうちの1つである。
差動操舵式車両のための幾つかの実施の形態において、エンジン11は、推進動力と、車両を操舵するための変速可逆モータ24を回転させるための動力との両方を提供するために使用される。しかしながら、操舵は概して推進から独立して制御されるので、このような車両は、車両を操舵することに利用されるエンジントルクの大きさを独立して調節するための方法を提供しなければならない。
このことを達成するための1つの方法は、エンジンが液圧式ポンプ(図示せず)を回転させ、液圧式ポンプ自体が、操舵トルクを制御可能に提供するために液圧式モータ(例えば、静水圧モータ)に動力を供給することである。この場合、液圧式モータは、差動装置制御シャフト25を駆動する変速可逆モータ24として機能する。液圧式モータを含む幾つかの実施の形態において、操舵入力装置23は1つまたは複数の液圧弁を移動させ、液圧弁自体は、変速可逆モータ24の回転を制御する。静水圧モータを含む幾つかの実施の形態において、操舵入力装置23は、1つまたは複数の斜板の角度を変化させ、この変化が、ひいては、変速可逆モータ24の回転を制御する。
このことを達成するための別の方法は、エンジン11によって回転させられる時計回りおよび反時計回りに回転するエレメント(図示せず)に係合するようにセットされた一対の左側および右側の操舵クラッチ(図示せず)を提供することである。これらのクラッチのうちの一方の係合は、差動装置制御シャフト25に時計回りまたは反時計回りの操舵トルクを制御可能に加える。このような実施の形態において、変速可逆モータ24の他に、一対のクラッチおよび回転するエレメントが、差動装置制御シャフト25を制御可能に駆動するために使用される。車両、歯車伝動装置アセンブリおよび差動操舵式車両に関する方法の幾つかの実施の形態および特徴がここでは変速可逆モータに関して説明されているが、代替的に、いずれの実施の形態においても、変速可逆モータの代わりに操舵クラッチおよび回転するエレメントを使用することができる。
幾つかの実施の形態において、ドライブシャフト12は、図示したように少なくとも部分的に差動装置制御シャフト25内にはめ込まれているが、差動装置制御シャフト25から独立して回転する(後述する図6も参照)。特に、幾つかの実施の形態において、差動装置制御シャフト25は中空であり、ドライブシャフト12は、車両の差動装置制御シャフト25を通ってかつ超えて延びている(後述の図6参照)。別の実施の形態において、ドライブシャフト12および差動装置制御シャフト25は、異なる側から歯車伝動装置アセンブリに進入している(例えば、後述の図2、図7、図9および図10参照)。
ここに説明される幾つかの実施の形態は、前輪操舵式車両に組み込まれてもよく、または前輪操舵式車両に関連して実行される。図2は、幾つかの実施の形態による、歯車伝動装置アセンブリ14を有する前輪操舵式車両9の概略図である。前輪操舵式車両9は、エンジン11と、歯車伝動装置アセンブリ14に接続されたドライブシャフト12を回転させるトランスミッション13とを有する。車両9は、歯車伝動装置アセンブリ14に接続された、差動装置制御シャフト25を駆動する変速可逆モータ24(例えば、変速電気可逆モータ)をも有する。変速可逆モータ、差動装置制御シャフト25および歯車伝動装置アセンブリ14は、車両の第1の車輪21’に接続された第1のアクスル18と、車両の第2の車輪22’に接続された第2のアクスル20との回転速度の差動を制御するために使用される。
一般的に言えば、前輪操舵式車両において、アクスルの回転速度の差の制御は、車両を操舵するために使用されない。その代わり、任意の転回角度および任意の車両速度のための、アクスルの回転速度の固有の差動に対応する、アクスルの回転速度の所望の差動に合致またはほぼ合致するための、アクスルの回転速度の差動の制御は、車輪のスリップを低減または防止するためにまたは理想的でない道路条件下においてスリップする車輪に動力を伝達することを低減または防止するために、使用することができる。任意の転回角度および任意の車両速度のための、アクスルの回転速度の固有の差動に対応する回転速度の所望の差動の計算の説明は、図12〜図18に関して以下に提供される。しかしながら、幾つかの前輪操舵式の実施の形態では、差動装置を、固有差速以外の速度を有するように制御することができる。この固有差速は、スリップおよび車両非対称性が存在しない理想的条件下での任意の転回角度および任意の車両速度のための理想的な差速と言ってもよい。例えば、幾つかの車両および幾つかの状況において、現在の操舵角および現在の車両速度に対応する回転速度の固有の差動より大きなアクスルシャフトの回転速度の差動を加えることが望ましいことがある。このような車両およびこのような状況において、コンピュータは、車両の能動的なヨー制御を提供するために、現在の操舵角および現在の車速のための回転速度の固有の差動よりも大きな回転速度の差動を加えるように、歯車伝動装置アセンブリに命令してもよい。
前輪操舵式車両9の場合、ステアリングホイール、ヨークまたはレバー(図示せず)などの操舵入力装置の移動は、コンピュータ26に信号を提供する操舵角センサ28により測定される。ドライブシャフト回転速度センサ29は、任意の操舵角およびドライブシャフト速度のための所望の差速を計算するために必要な付加的な信号を、コンピュータに提供する。選択的な差動装置回転センサ(例えば、アクスル回転速度センサ30)は、コンピュータ26に閉ループフィードバックを提供するために使用されてもよい。コンピュータ26は、計算された所望の差速に従って回転するように、変速可逆モータ24に命令する。幾つかの場合、任意の変速可逆モータサイズまたは動力のための所望の差動回転をより効率的に提供するために、減速歯車27が使用される。
幾つかの実施の形態において、変速可逆モータは、電気モータ(例えば、サーボモータまたはステッパモータ)である。その他の実施の形態において、変速可逆モータは、液圧式モータである。使用することができる変速可逆モータは、電気モータ(例えば、サーボモータまたはステッパモータ)および静水圧モータを含むが、これらに限定されない。
図示したように、差動装置制御シャフト25は、歯車伝動装置アセンブリ14の、ドライブシャフト12とは異なる側から延びている。しかしながら、他の前輪操舵式の実施の形態において、ドライブシャフト12は、少なくとも部分的に差動装置制御シャフト25内にはめ込まれている(例えば、後述の図6参照)。はめ込まれたシャフトを使用する実施の形態において、ドライブシャフト12は、差動装置制御シャフト25から独立して回転する。
後述のように、歯車伝動装置アセンブリ14は、第1のアクスル18と第2のアクスル20との回転速度の差動を制御するために使用される。
歯車伝動装置アセンブリ14の第1の例としての実施の形態が、図3〜図6に示されている。歯車伝動装置アセンブリ14は、車両の第1のアクスルシャフト18および第2のアクスルシャフト20に係合するように構成されかつ車両のドライブシャフト12によって駆動されるように構成された差動装置40(図3参照)を有する(図6参照)。幾つかの実施の形態において、差動装置40はオープンデフに基づく。歯車伝動装置アセンブリ14内で、ドライブシャフト12はベベルピニオン歯車32で終端している。ピニオン歯車32は、第1および第2のアクスルシャフト18,20の一次回転軸線35を中心にセットされた大きなベベルリングギヤ34を回転させる。ベベルリングギヤ34は、キャリアハウジング36に取り付けられており、キャリアハウジング36は、ギアキャリア(例えば、マイタ歯車キャリア)、差動装置ケースまたは差動装置ケージとして説明されてもよい。キャリアハウジング36は、ベベルリングギヤ34と共に回転する。キャリアハウジング36は、スパイダギアとしても知られる1つまたは2つのマイタ歯車38を支持する。図3〜図6に示された実施の形態において、2つのマイタ歯車38が示されている。マイタ歯車38は、一次回転軸線35に対して垂直に向けられている。幾つかの実施の形態において、キャリアハウジング36は、ころ軸受48a,48bを使用して歯車伝動装置アセンブリケース16内に回転可能に取り付けられている。
両アクスルシャフト18,20はベベル駆動歯車43a,43bで終端している。第1のアクスルシャフト18はキャリアハウジング36内へ延びており、キャリアハウジング36において第1のアクスルシャフトのベベル駆動歯車43aはベベルマイタ歯車38と噛み合わされている。第2のアクスルシャフト20はベベルリングギヤ34を通ってキャリアハウジング36内へ延びており、キャリアハウジング36において第2のアクスルシャフトのベベル駆動歯車43bはベベルマイタ歯車38と噛み合っている。
ベベルピニオン歯車32、ベベルリングギヤ34、キャリアハウジング36およびマイタ歯車38はここでは集合的に、車両の第1のアクスルシャフト18、第2のアクスルシャフト20およびドライブシャフト12に係合するように構成された差動装置40と呼ばれる。当業者は、差動装置40の構成部材が変化してもよいことを認識するであろう。例えば、ギアキャリア36は異なる形状または構成を有してもよく、ベベルリングギヤ34は、スパイラルベベルリングギヤまたは平歯車であってもよい。3つ以上または1つのマイタ歯車が存在してもよい(例えば、4つのマイタ歯車が存在してもよい)。
歯車伝動装置アセンブリ14は、さらに、車両の変速可逆モータ24により駆動されるように構成された差動装置制御ピニオン歯車33を有する(図4参照)。変速可逆モータの代わりに操舵クラッチおよび回転エレメントを使用する車両において、差動装置制御ピニオン歯車33は、操舵クラッチおよび回転エレメントにより駆動されるように構成されている。歯車伝動装置アセンブリ14は、さらに、両方とも差動装置40に係合しかつ差動装置制御ピニオン歯車33により駆動されるように構成された、第1の複数の調節歯車15aおよび第2の複数の調節歯車15bを有する(図4および図6参照)。第1の複数の調節歯車15aおよび第2の複数の調節歯車15bは、変速可逆モータ24によって生ぜしめられた差動装置制御ピニオン歯車33の回転によって、第2のアクスルシャフト20の回転速度に対して第1のアクスルシャフト18の回転速度を制御可能に変化させるように構成されている(図4および図6参照)。幾つかの実施の形態において、第1の複数の調節歯車15aは第1のアクスルシャフト18に第1の差動装置トルクを提供するように構成されており、第2の複数の調節歯車15bは、差動装置制御ピニオン歯車33の回転により第2のアクスルシャフト20に第2の差動装置トルクを提供するように構成されている。第1の複数の調節歯車15aおよび第2の複数の調節歯車15bは、変速可逆モータ24による差動装置制御ピニオン歯車33の回転に基づき第1のアクスルシャフトと第2のアクスルシャフトとの回転速度の差動を加えるように構成されている。幾つかの実施の形態において、差動装置制御ピニオン歯車33は、差動装置制御シャフト25を介して変速可逆モータ24に接続されている。
幾つかの実施の形態において、第2の複数の調節歯車15bの配置は、概して、第1の複数の調節歯車15aの配置の反転である。第1の複数の調節歯車15aおよび第2の複数の調節歯車15bの両方は、遊星歯車の2つのセット、すなわち差動装置40により近い内側のセット(遊星歯車61a,62a,63aの第1のセットおよび遊星歯車61b,62b,63bの第3のセット)と、差動装置40からより離れた外側のセット(遊星歯車64a,65a,66aの第2のセットおよび遊星歯車64b,65b,66bの第4のセット)とを有する。第1の複数の調節歯車15aおよび第2の複数の調節歯車15bの両方のために、遊星歯車の内側および外側のセットは、同じそれぞれの遊星歯車キャリアに結合されている(例えば、遊星歯車61a,62a,63aの第1のセットおよび遊星歯車64a,65a,66aの第2のセットは第1の遊星歯車キャリアに結合されており、遊星歯車61b,62b,63bの第3のセットおよび遊星歯車64b,65b,66bの第4のセットは第2の遊星歯車キャリアに結合されている)。図3〜図6に示された実施の形態において、各遊星歯車キャリアは、2つのエンドプレートおよびピンを有する(例えば、第1の遊星歯車キャリアはエンドプレート70a,72aおよびピン67a,68a,69aを有し、第2の遊星歯車キャリアはエンドプレート70b,72bおよびピン67b,68b,69bを有する)。しかしながら、他の実施の形態において、遊星歯車キャリアは、技術分野において公知の他の構成を有することができる。
遊星歯車の1セットごとに3つの遊星歯車の選択は、単に例示であり、構成部材間の機械的エネルギの前記伝達が達せられるならば、1セットごとにあらゆる数の遊星歯車を使用することができることが理解されるであろう。
遊星歯車の内側のセット(遊星歯車61a,62a,63aの第1のセットおよび遊星歯車61b,62b,63bの第3のセット)は、それぞれの複数の調節歯車15a,15bを差動装置40に結合している。例えば、幾つかの実施の形態では、歯車伝動装置アセンブリ14は、さらに、差動装置のキャリアハウジング36に結合された、取り付けられたまたは一体的な第1の差動装置太陽歯車42aと、キャリアハウジング36に結合された、取り付けられたまたは一体的な第2の差動装置太陽歯車42bとを有する。差動装置太陽歯車42a,42bは、ベベルリングギヤ34および差動装置40のキャリアハウジング36と共に回転する。遊星歯車の各内側のセット(遊星歯車61a,62a,63aの第1のセットおよび遊星歯車61b,62b,63bの第3のセット)は、それぞれの差動装置太陽歯車42a,42bに係合することにより差動装置40と係合する。
遊星歯車の内側のセットに係合しかつ駆動するための差動装置太陽歯車42a,42bを使用する実施の形態は、比較的小さな寄生抗力を有することがある。なぜならば、差動装置太陽歯車42a,42bは比較的小さいからである。
遊星歯車の外側のセット(遊星歯車64a,65a,66aの第2のセットおよび遊星歯車64b,65b,66bの第4のセット)は、それぞれの複数の調節歯車15a,15bをそれぞれのアクスルシャフト18,20に結合している。例えば、幾つかの実施の形態において、第1のアクスル太陽歯車45aは第1のアクスルシャフト18に結合されており、取り付けられておりまたは一体的であり、第2のアクスル太陽歯車45bは第2のアクスルシャフト18に結合されている、取り付けられているまたは一体的である。第1のアクスル太陽歯車45aは第1のアクスルシャフト18と共に回転し、第2のアクスル太陽歯車45bは第2のアクスルシャフトと共に回転する。遊星歯車の各外側のセット(遊星歯車64a,65a,66aの第2のセットおよび遊星歯車64b,65b,66bの第4のセット)は、それぞれのアクスル太陽歯車45a,45を介してそれぞれのアクスル18,20に係合している。
遊星歯車の内側のセット(遊星歯車61a,62a,63aの第1のセットおよび遊星歯車61b,62b,63bの第3のセットそれぞれ)および遊星歯車の外側のセット(遊星歯車64a,65a,66aの第2のセットおよび遊星歯車64b,65b,66bの第4のセットそれぞれ)を共通の遊星歯車キャリア(第1の遊星歯車キャリアおよび第2の遊星歯車キャリアそれぞれ)に結合することにより、遊星歯車の内側のセットおよび遊星歯車の外側のセットは、同じ周回速度でそれぞれの太陽歯車の周囲を周回させられる。しかしながら、内側および外側の遊星歯車は、共通の遊星歯車キャリアに取り付けられることにより同じ周回速度を共有するが、互いに独立して回転することを許容される。
遊星歯車の内側のセット(例えば、遊星歯車61a,62a,63aの第1のセットおよび遊星歯車61b,62b,63bの第3のセット)の周回速度は、それぞれのアクスルシャフト(例えば、第1のアクスルシャフト18および第2のアクスルシャフト20)の回転速度に比例する。
幾つかの実施の形態において、各複数の調節歯車15a,15bは、さらに、変速可逆モータ24に対して固定の、(例えば、歯車伝動装置アセンブリケース16に取り付けられた、結合されたまたは一体的な)歯車伝動装置アセンブリケース16に関して固定の内歯歯車46a,46bを有する。各内歯歯車46a,46bは、遊星歯車のそれぞれの外側のセット(遊星歯車64a,65a,66aの第2のセットおよび遊星歯車64b,65b,66bの第4のセットそれぞれ)に係合する内歯47aを有する。
幾つかの実施の形態において、各複数の調節歯車15a,15bは、さらに、差動装置制御ピニオン歯車33と噛み合うように構成された外歯54a,54bを有しかつ遊星歯車のそれぞれの内側のセット(遊星歯車61a,62a,63aの第1のセットおよび遊星歯車61b,62b,63bの第3のセット)と噛み合うように構成された内歯52a,52bを有する、外歯付きリングギヤ50a,50bを有する。幾つかの実施の形態において、外歯54a,54bは図示したようにベベル状である。外歯付きリングギヤ50a,50bを回転させることは、外歯付きリングギヤ50a,50bが回転させられる方向に応じて、他のアクスルに対した、それぞれのアクスルシャフト18,20の回転速度に加法的または減法的回転を付与する。両外歯付きリングギヤ50a,50bは、回転する差動装置制御ピニオン歯車33が外歯付きリングギヤ50a,50bを両方とも同じ回転速度で反対方向に回転させるように、差動装置制御ピニオン歯車33と噛み合わされており、これにより、アクスル18,20の回転速度の差を付与するために、一方のアクスルシャフトにおいて所定の大きさだけ増大した回転速度を付与しかつ他方のアクスルシャフトにおいて同じ大きさだけ減少した回転速度を付与する。
幾つかの実施の形態において、変速可逆モータ24の回転速度は、第1のアクスルシャフト18と第2のアクスルシャフト20との回転速度の所望の差に比例し、差動装置制御ピニオン歯車33の回転速度は、第1のアクスルシャフト18および第2のアクスルシャフト20の回転速度の所望の差に比例する。回転運動を変速可逆モータ24から遊星歯車のそれぞれの内側のセットへ伝達するために外歯付きリングギヤ50a,50bを使用する実施の形態において、外歯付きリングギヤ50a,50bの回転速度は、さらに、第1のアクスルシャフト18および第2のアクスルシャフト20の回転速度の所望の差に比例する。これにより、第1のアクスルシャフト18と第2のアクスルシャフト20との回転速度の所望の差が存在しないときには、外歯付きリングギヤ50a,50bの回転は生じない。第1のアクスルシャフト18と第2のアクスルシャフト20との回転速度の所望の差が存在しないときの直線走行の間、外歯付きリングギヤ50a,50b、遊星歯車の内側セットおよび遊星歯車の外側セットは全て、第2のアクスルシャフト20の回転速度の分数で回転する。外歯付きリングギヤ50a,50bは、より小さな直径を有する歯車と比較して比較的高い慣性を有するので、外歯付きリングギヤ50a,50bが、アクスルの回転速度の差が必要なときにだけ回転し、回転速度の差が必要なとき、外歯付きリングギヤ50a,50bの回転速度がそれぞれのアクスルの回転速度よりも低いと特に有利である。代わりに、外歯付きリングギヤ50a,50bが第2のアクスルシャフトより速く回転することが要求されると、システムは、外歯付きリングギヤ50a,50bからの著しい抗力を受ける。
差動装置40のキャリアハウジング36が回転すると、差動装置太陽歯車42a,42bも回転する。差動装置太陽歯車42a,42bはそれぞれ、遊星歯車のそれぞれの内側セットを回転させる。遊星歯車の内側セットの周回移動は、共通のキャリアにより遊星歯車の外側セットへ伝達される。遊星歯車の各外側セットは、それぞれのアクスルシャフト18,20におけるそれぞれのアクスル太陽歯車45a,45bを回転させる。
差動装置制御ピニオン歯車33は変速可逆モータ24により選択的に回転させられる。差動装置制御ピニオン歯車33は各外歯付きリングギヤ50a,50bの外歯54a,54bと噛み合い、外歯付きリングギヤ50a,50bを反対方向に回転させる。差動装置制御ピニオン歯車33を変速可逆モータ24により異なる速度で回転させることができるので、外歯付きリングギヤ50a,50bも異なる速度で回転させることができることが理解されるであろう。
幾つかの実施の形態において、第1の複数の調節歯車15aおよび第2の複数の調節歯車15bは、第1の外歯付きリングギヤ50aのゼロ回転と、第2の外歯付きリングギヤ50bのゼロ回転とが、第1のアクスルシャフト18と、第2のアクスルシャフト20との回転速度の差が無いことに対応するように構成されている。幾つかの実施の形態において、第1の外歯付きリングギヤ50aの回転速度は、第1のアクスルシャフト18と第2のアクスルシャフト20との回転速度の所望の差に比例する。
上述のように、第1の複数の調節歯車15aおよび第2の複数の調節歯車15bは、比較的小さな付加された抗力と、回転速度の変化に対する比較的小さな抵抗とを有する変速可逆モータを使用して、第1のアクスルシャフト18と第2のアクスルシャフト20との回転速度の差の制御を可能にする。
上述のように、差動装置制御ピニオン歯車33は変速可逆モータ24により回転させられる。幾つかの実施の形態において、変速可逆モータ24は、減速歯車56を介して差動装置制御ピニオン歯車33に接続されていてもよい(図9および図10参照)。
幾つかの実施の形態において、差動装置制御ピニオン歯車33は、変速可逆モータ24により駆動される差動装置制御シャフト25に取り付けられている。幾つかの実施の形態において、差動装置制御シャフト25は中空であり、ドライブシャフト12は差動装置制御シャフト25を通って延びており、これは、ここでは、はめ合わされたドライブシャフトおよび差動装置制御シャフトを備える実施の形態と呼ばれる。シャフトがはめ合わされているが、差動装置制御シャフト25およびドライブシャフト12は、互いに独立して自由に回転する。これらのはめ合わされたシャフトの実施の形態は、コンパクトなレイアウトを提供する。車両を操舵するために差動装置制御シャフトが使用される実施の形態のために、これは、はめ合わされたドライブシャフトおよび差動シャフトとして説明されてもよい。
他の実施の形態において、ドライブシャフト12および差動装置制御シャフト25は、歯車伝動装置アセンブリケース16の異なる側から延びていてもよい。幾つかの実施の形態において、差動装置制御ピニオン歯車33は、キャリアハウジング36の、ドライブシャフト12に接続されたベベルピニオン歯車33とは反対側に配置されている(後述の図6〜図10参照)。
ドライブシャフト12は、内燃機関およびトランスミッション、静水圧ドライブなどの車両推進システムによりまたは電気モータを介して回転させられる。差動装置制御シャフト25を回転させるための動力は、既存の推進エンジンまたはモータによりまたは別個の専用のエンジンまたは変速可逆モータを介して供給される。
図3〜図6に示したように、第1のアクスルの太陽歯車45aおよび第2のアクスルの太陽歯車42bは平歯車である。図3〜図6に示したように、第1の差動装置太陽歯車42aおよび第2の差動装置太陽歯車42bは平歯車である。他の実施の形態において、アクスル太陽歯車および差動装置太陽歯車は、その他の構成を有してもよい。例えば、幾つかの実施の形態において、差動装置太陽歯車、アクスル太陽歯車、内側遊星歯車のセットおよび外側遊星歯車のセットのうちのいずれかまたは全ては、らせん状の歯を有してもよい(図7〜図10に示された実施の形態を参照)。このような実施の形態において、外歯付きリングギヤ50a,50bの内歯52a,52bもらせん状である(図7〜図10に示された実施の形態を参照)。
図示したように、ドライブシャフトのためのピニオン歯車32はベベル状である。幾つかの実施の形態において、ドライブシャフトのためのピニオン歯車32は、スパイラルベベルピニオン歯車であってもよく、ベベルリングギヤ34は、スパイラルベベルリングギヤであってもよい(図7〜図10に示された実施の形態を参照)。
図3〜図6に示したように、第1のアクスルシャフト18は、リアアクスルのための車両の右側アクスルシャフトであり、第2のアクスルシャフト20は、リアアクスルのための車両の左側のアクスルシャフトである。しかしながら、幾つかの実施の形態において、第1のアクスルシャフト18は左側のアクスルシャフトであり、第2のアクスルシャフト20は右側のアクスルシャフトである。さらに、幾つかの実施の形態において、第1のアクスルシャフト18および第2のアクスルシャフト20は、フロントアクスルのアクスルシャフトである。幾つかの実施の形態において、第1のアクスルシャフト18および第2のアクスルシャフト20は、四輪駆動の車両における車両のフロントアクスルとリアアクスルとの差動回転速度を提供する。図3〜図6に示した実施の形態において、各内歯歯車46a,46bの内部は同じサイズであり、それぞれの外歯付きリングギヤ50a,50bの内歯52a,52bと同じ歯車伝動装置を有する。しかしながら、これらの寸法および歯車伝動装置タイプは、性能を最適化するために、車輪サイズおよび車両タイプなどの多数の要因に応じて変更することができる。
図7〜図10は、第2の例の実施の形態による歯車伝動装置アセンブリ14'を示している。図7〜図10の歯車伝動装置アセンブリ14'は、図3〜図6の歯車伝動装置アセンブリ14に関して上述した構成部材と同じまたは類似の多くの構成部材を有するので、同じ参照符号の多くを使用する。第1の例の実施の形態に関する上記説明のほとんどが第2の例の実施の形態に当てはまる。実施の形態の幾つかの相違点を以下に説明する。
歯車伝動装置アセンブリ14'の第2の例の実施の形態において、多くのギアの歯は、第1の例の実施の形態における対応するエレメントのものと異なる構成を有する。例えば、第2の例の実施の形態において、内歯歯車46a,46bの歯47a,47bはらせん状である。外歯付きリングギヤ50a,50bの内歯52a,52bも、歯車伝動装置アセンブリ14'においてはらせん状である。アクスル太陽歯車45a,45bの歯、差動装置太陽歯車42a,42bの歯および遊星歯車61a,62a,63a,64a,65a,66a,61b,62b,63b,64b,65b,66bのセットの全ての歯は、全て歯車伝動装置アセンブリ14'においてはらせん状である。さらに、外歯付きリングギヤ50a,50bは、歯車伝動装置アセンブリ14'においては異なる形状を有し、リングの外側部分は差動装置制御ピニオン歯車33に向かって内方へ延びている。差動装置40もまた、第1の例の実施の形態の歯車伝動装置アセンブリ14と比較して、第2の例の実施の形態の歯車伝動装置アセンブリ14'においては幾つかの異なる態様を有する。キャリアハウジング36は、歯車伝動装置アセンブリ14におけるキャリアハウジング36の全体的な概して箱形と比較して、歯車伝動装置アセンブリ14'においては全体的な円筒形状を有する。さらに、ベベルリングギヤ34は、歯車伝動装置アセンブリ14'においては、ドライブシャフト12により駆動されるスパイラルベベルピニオン歯車32と噛み合うためのスパイラルベベル歯車である。さらに、差動装置40は、第1の実施の形態における2つのマイタ歯車と異なり、第2の実施の形態においては4つのマイタ歯車38を有する。
様々な歯車のためのらせん状の歯の使用は有利であることがある。なぜならば、概して、らせん状の歯車はより静かであり、直線的に切られた歯車よりも大きな荷重を支持することがあるからである。しかしながら、らせん状の歯を有する歯車は、一般的に、直線的に切られた歯車よりも高価である。
図3〜図6に示されたはめ合わされたシャフトの実施の形態と異なり、歯車伝動装置アセンブリ14'は、ドライブシャフト12のためのピニオン歯車32が、キャリアハウジング36の、差動装置制御ピニオン歯車33とは反対側に存在する構成を有する。図7〜図10に示された実施の形態において、差動装置制御シャフト25は比較的短く、変速可逆モータ24は歯車伝動装置アセンブリの近くに配置されている(図9参照)。
遊星歯車キャリアに対する遊星歯車の内側セットおよび遊星歯車の外側セットの配置は、第2の例の実施の形態においては、第1の例の実施の形態におけるものとは異なる。例えば、第1の例の実施の形態においては、各遊星歯車キャリアはそれぞれ2つのエンドプレート70a,72aおよび70b,72bを有し、遊星歯車の内側セットおよび外側セットはエンドプレートの間に配置されている。第2の例の実施の形態において、各遊星歯車キャリア71a,71bは、遊星歯車の内側セットを遊星歯車の外側セットから分離している。
上述のように、差動操舵式車両のための歯車伝動装置アセンブリの幾つかの実施の形態において、差動装置制御ピニオン歯車33は、変速可逆モータによる代わりに、車両の操舵クラッチにより駆動されるように構成されている。このような実施の形態において、操舵クラッチは、車両を操舵するために、第2のアクスル20に対する第1のアクスル18の回転速度を制御可能に変化させるために使用される。
当業者は、ここで説明された歯車伝動装置アセンブリの様々な構成部材を、変更するまたは同等の構成部材または構成部材のグループと置き換えることができ、このような置き換えおよび変更は発明の範囲に含まれることを認識するであろう。
差動装置操舵のための実施の形態の使用
差動操舵式車両において、操舵制御は、一般的に、ステアリングホイールまたはハンドルなどの操舵入力装置23を介して提供される。幾つかの実施の形態において、操舵の大きさおよび方向を測定する操舵角センサ28が、入力装置28に取り付けられている。操舵角センサにより測定される、中心からの移動の大きさおよび方向は、変速可逆モータ24により制御される差動装置制御ピニオン歯車33の回転の程度および方向を決定するための主入力を提供する。
幾つかの実施の形態において、変速可逆モータ24は、液圧式モータまたは静水圧モータである。このような実施の形態において、取り付けられた操舵角センサ28に加えてまたは代わりに、変速可逆モータ24の回転の程度および方向を制御するために、操舵入力装置が1つまたは複数の制御弁または斜板を直接的に制御してもよい。幾つかの実施の形態において、車両は遠隔で操作されてもよい。このような実施の形態において、変速操舵モータは、車両におけるドライバまたはオペレータにより制御される、車両における操舵入力装置を介する代わりに、遠隔操舵信号に応答して受信機ユニットからの信号により制御される。
幾つかの実施の形態において、特に車両が著しい走行速度(>20mph)を生じることがある場合、速度感応式操舵制御を提供することが有利であることがある。このような実施の形態において、ドライブシャフト回転速度を測定するために付加的なセンサ29が設けられる。次いで、車両のドライブシャフト速度が高まるときに変速可逆モータ24への操舵信号の大きさを減じるために、減少関数がコンピュータ26により提供される。
別の実施の形態において、変速可逆モータ24は、閉ループ操作を介してコンピュータにより制御される。フィードバックセンサは、実際の差動回転速度を測定するために、差動装置制御シャフト25または択一的に1つまたは複数のアクスルシャフト30に設けられている。1つのアクスル回転センサのみが設けられているならば、実際の差速を計算するために、ドライブシャフト回転速度センサと比較することができる。これは、差動なしのためのアクスルシャフトの予測される回転速度からのアクスル回転センサの逸脱を測定することにより行われ、これは、ドライブシャフト回転速度を車両の最終的なドライブレシオによって割ったものである。この場合の逸脱は、実際の差動回転速度である。次いで、実際の差動回転速度を、車両を操舵するための所望の差速に向かって調節するためにコンピュータにより調節が行われる。
幾つかの実施の形態は、ここで説明された歯車伝動装置アセンブリ14を有する差動操舵式車両を操舵する方法を含む。方法は、車両の変速可逆モータ24を使用して差動装置制御ピニオン歯車33の回転を制御することにより車両の第2のアクスルシャフト18に対する車両の第1のアクスルシャフト18の回転速度を制御することにより車両を操舵することを含む。幾つかの実施の形態において、方法は、さらに、車両のコンピュータ26または制御ユニットを使用して、実際のドライブシャフト回転速度を示す第1のセンサ信号(例えば、センサ29からの信号)および第1のアクスルと第2のアクスルとの回転速度の実際の差動を示す第2のセンサ信号(例えば、センサ30からの信号)に基づき、変速可逆モータ24により提供される回転を調節することを含む。
前輪操舵を備える車両における実施の形態の使用
前輪操舵式(例えば、アッカーマン)ジオメトリを備える車両に適用される、ここで説明されたシステムおよび歯車伝動装置アセンブリの幾つかの実施の形態の目標の1つは、あらゆる任意の操舵角および車速のために車両の固有の差速とほぼ一致する計算された差速を機械的に達成するために、差動装置制御ピニオン歯車33を回転させることである。この目標は、特に、車両のハンドリング挙動を変化させるために、計算された差速は変更されず、固有差速が、アッカーマンジオメトリを備えかつ車輪スリップなしに平面において回転する等しい左側および右側タイヤサイズが取り付けられた車両に生じる。このような状況において、この固有差速は、計算されかつ「望まれる」差速に対応する。
幾つかの実施の形態において、この所望の差速からの逸脱は許容されず、したがって、不均一なトラクション条件などの外部影響はシステムに効果をもたらさない。この場合、システムまたは歯車伝動装置アセンブリは、溶接されたまたはロックされたアクスルが、転回中に異なる差速を許容することができないということなく、低トラクション条件において、溶接されたアクスル(またはロックされた差動装置)と同様に機能する。
幾つかの実施の形態による歯車伝動装置アセンブリ14,14'を含む車両を操作する方法が、図2に関連した図11に関して説明される。例示のために、方法は、後輪駆動車両を示した図2に関して説明される。当業者は、方法を前輪駆動車両において実行することができ、差動装置がフロントアクスルシャフトの間にあることができることを認識するであろう。同様に、方法は、四輪駆動車両において前方および後方のドライブシャフトの間のセンター差動装置において実行することができる。変速可逆モータ24を操作することにより、差動装置回転速度を変化させることができ、特に、リアアクスルシャフト18のうちの1つ(またはフロント差動装置のためのフロントアクスルシャフトのうちの1つまたはセンター差動装置のための出力駆動シャフトのうちの1つ)の回転速度を、変速可逆モータ24が回転する方向および速度に応じて、他のアクスルシャフト20(またはフロント差動装置のための他のフロントアクスルシャフトまたはセンター差動装置のための他の出力ドライブシャフト)の回転速度に対して高めるまたは減じることができる。
操舵角センサ28を使用して、エンジンコンピュータ26は、車両9が、直線的に走行するように構成されているか、左転回で走行するように構成されているかまたは右転回で走行するように構成されているかを特定することができる。ブロック80参照。さらに、回転速度センサ29を使用して、ドライブシャフト12のRPMを特定することができる。ブロック82参照。ブロック84によって示されているように、エンジンコンピュータ26は、第1のアクスルシャフト18の回転速度と第2のアクスルシャフト20の回転速度との所望の差動回転速度を、少なくとも部分的に、車両の操舵角およびドライブシャフト12の回転速度に基づき、計算する。幾つかの実施の形態において、所望の差動回転速度は、ドライブシャフトが、ゼロではない毎分回転速度を有しかつ操舵角センサが、車両が転回で走行するように構成されていることを示した場合にのみ、計算される。次いで、所望の差動回転速度は、第1のアクスルシャフト18の回転速度と第2のアクスルシャフトの回転速度との実際の差動回転速度と比較される。ブロック86参照。
判定は、実際の差動回転速度と所望の差動回転速度との差が許容範囲にあるかどうかに関してなされる。ブロック87参照。実際の差動回転速度と所望の差動回転速度との差が許容範囲にあるならば、幾つかの実施の形態において、何もなされない。ブロック89参照。他の実施の形態において、実際の差動回転速度と所望の差動回転速度との差が許容範囲にあるならば、変速可逆モータが作動させられてもよく、これにより、モータの回転を、実際の差動回転速度と能動的に調和させ、モータ抵抗を減じ、より大きな操舵敏捷性を助ける。ブロック89参照。実際の差動回転速度と所望の差動回転速度との差が許容範囲にないならば、その差に基づく制御信号値が変速可逆モータ24へ送信される。次いで、変速可逆モータ24は、実際の差動回転速度が所望の差動回転速度により近づくように第1のアクスルシャフト18の実際の回転速度を上昇または低下させるように作動する。ブロック88参照。この方法は、連続的閉ループプロセスとして実行されてもよい。このように、第1のアクスルシャフト18と第2のアクスルシャフト20との回転の差動は、変速可逆モータ24により差動装置制御ピニオン歯車33を介して制御される。したがって、不均一なトラクション条件によるスリッピングが低減または防止される。
差速の物理的制御は、差動装置制御ピニオン歯車33により提供される。以下の表は、差動装置制御ピニオン歯車33と、ドライブシャフト12または推進シャフトと、車両の挙動との関係を示す。
アッカーマン操舵ジオメトリおよび等しいサイズのタイヤを装備する車両は、停止時または直線走行中、著しい差動動作を示さない。車両が転回を行うとき、内側および外側の車輪の異なる転回半径を許容するためにオープンデフの内歯歯車が回転する量は、車両の操舵角および速度に比例する。理想的に平坦かつ乾燥した表面においては、操舵角と、速度と、車両の差速との間に明確な関係が存在する。この比率は、任意の車両速度における任意の転回角度についての、車両の理想的差速または車両の固有差速とここでは呼ぶ。
操舵角および速度に加えて、車両の固有差速は、車両のホイールベースおよび幅にも依存する。説明のために、車両ホイールベースはlで示され、車両幅はdで示される。車両幅dは、ホイールベースlと同じ単位で、左側車輪の中心から右側車輪の中心まで測定される。同様に、説明のために、操舵角はφで示され、センターアクスルの毎分回転数はRPMである。図12は、リア差速を計算するときのこれらの変数を示す。
センターアクスルのRPMは、しばしば、回転の小さな分数を検出することができる精密かつ正確な測定である。センターアクスルのRPMは、また、大きさのみならず、回転方向をも検出することができるベクトル量、例えば、+26.215RPMまたは-0.218RPMであり、ここで、+および-は、数式において使用するための方向インジケータとして使用される。ここで使用される場合、正のRPMは前方車両運動に相当し、負のRPMは後方車両運動に相当する。
操舵角φは、シャーシに対して平行な状態からの角度として示され、したがって、直線走行はφ=0°である。適度な右転回はφ=20°であり、適度な左転回はφ=-20°である。このφ角度は、2つの転回する車輪の間の仮想車輪の角度であり、車両のステアリングコラムまたはラックから容易に測定することができる。
車両が走行していないときまたはφがゼロに等しいとき、固有差速もゼロである。これらの状況において、全ての4つの車輪の角速度は同じであり、差動運動は望まれない。前述のように、幾つかの実施の形態において、所望の(この場合はゼロ)差速からの著しい逸脱を防止することが有利であることがある。これらの実施の形態において、この逸脱は、可変ステアリングモータ24と差動装置制御ピニオン歯車33との間に高減速ギア(ウォームギアなど)などの機構を採用することによってまたは閉ループ運転において十分に強い変速可逆モータ24を使用することによって、防止されてもよい。不均一なトラクション条件が所望のゼロ差速に逆らって作用するときでさえ、機構は、これらの条件が、第1のアクスルシャフト18と第2のアクスルシャフト20との実際の差動を所望のゼロ差動から変化させることを防止する。例えば、車両が氷上に1つの車輪を、乾燥した路面に反対側の車輪を有する状況を考える。動力はドライブシャフト12に提供され、ステアリングホイールは直線走行のために配置されている。操舵角はゼロであるので、差動行動は望まれておらず、したがって、両側の車輪21',22'が等しい速度で回転することが望ましい。この場合、差動装置制御ピニオン歯車33は静止している。しかしながら、不均一なトラクション条件は、両車輪が等しい速度で回転するためには好ましくない。氷上の車輪はより速く回転しようとする。なぜならば、この車輪の摩擦はより小さいからである。しかしながら、所望の差速からのこの逸脱は、氷上の車輪が乾燥した路面上の車輪よりも速く回転することを防止するために差動装置制御ピニオン歯車33の回転を制御することにより防止される。したがって、車輪が一緒にロックされたかのように、動力は等しく提供される。
RPMがゼロではなく、φがゼロではない場合、所望の差速もゼロではない。この差速は、ここでは毎分回転数またはRPMDiffと呼ばれるベクトル量であり、反対側のアクスルシャフトに対する一方のアクスルシャフトの回転速度の差を表す。差動装置制御ピニオン歯車33は、第1のアクスル18に関連した第1の複数の調節歯車15aと、第2のアクスルに関連した第2の複数の調節歯車15bとに、等しいが、反対向きの回転差を提供するので、差動装置制御ピニオン歯車を回転させる効果をより良く理解するために基準アクスルシャフトを選択することが有益である。ここで説明される例では、第1のアクスルシャフト18(例えば、右側のアクスル)が基準アクスルシャフトとして選択されている。しかしながら、他の実施の形態では、これは逆であってもよい。RPMDiffの符号は、車両のその側における差動入力の回転方向を示す。正は車両の前方へのアクスル回転を示し、負は車両の逆方向へのアクスル回転を示す。例えば、差動装置制御ピニオン歯車33は、車両が前進しておりかつ左転回しているとすると、選択された右側の基準アクスルシャフトに対して正の(加法的な)調節を加えるために回転する必要がある。これは、車両の右側の車輪が、左側の車輪と比較してより大きな転回半径をカバーするために左側よりも速く移動するからであり、したがって、付加的(加法的)な回転速度がその側に提供される一方、等しい回転速度が左側から減じられる。上述のように、第1の複数の調節歯車15aを介して右側のアクスルシャフト18に正の調節を加えるのと同時に、差動装置制御ピニオン歯車33は、第2の複数の調節歯車15bを介して左側のアクスルシャフト20の回転速度に、等しい負の調節を加える。これは、歯車伝動装置アセンブリのバランスの取れた回生的態様を示す。
ここで、車両が等しい強さおよび速度の右転回を行っていることを除き同じシナリオを考える。RPMDiffの符号は、基準の右側アクスルシャフト18における負の減法的効果を示すように反転される。車両が後退走行するとき、符号も、RPMDiffの加法的または減法的性質を保存するために反転されなければならない。言い換えれば、差動装置制御ピニオン歯車33の回転方向は、車両が前進から後退へ切り替わるときに反転するが、基準のアクスルシャフトに対する差動装置制御ピニオン歯車の回転の加法的または減法的性質は維持される。
RPMDiffは、差動装置制御ピニオン歯車33のRPMと等しくなくてもよいことに留意されたい。変速可逆モータ24は、基準のアクスルシャフトのRPMがRPMDiffの量だけ増大または減少するように差動装置制御ピニオン歯車33を回転させる。差動装置制御ピニオン歯車33の実際のRPMは、歯車装置減速などの要因により異なる。しかしながら、差動装置制御ピニオン歯車33の回転はRPMDiffに正比例する。
図13は、幾つかの実施の形態による、第1のアクスルシャフトと第2のアクスルシャフトとの回転速度の差動を能動的に制御するための一例としての方法1000のフローチャートである。ステップ1002において、操舵角センサ28および回転速度センサ(例えば、ドライブシャフト回転速度センサ)29は、車両の制御ユニットに信号を送信する。制御ユニットは、車両のコンピュータ(例えば、コンピュータ26)または車両のコンピュータとは別個の制御ユニットであってもよい。ステップ1004において、制御ユニットは、(ステップ1002における)受信した信号の両方がゼロでないかどうかを判定する。幾つかの実施の形態において、制御ユニットは、代わりに、両信号が、ゼロ付近の所定の範囲の外にあるかどうかを判定する。両信号がゼロではない(またはゼロ付近の所定の範囲の外にある)ならば、方法1000は、ステップ1006へ続き、そうでなければ、方法1000はステップ1002へ戻る。
ステップ1006において、制御ユニットは、毎分差動回転(ここではRPMDiffと呼ばれる)を計算する。毎分差動回転は、ドライブシャフト角速度、操舵角および車両寸法の関数として計算される。ステップ1008において、変速可逆モータは、差動装置制御ピニオン歯車33を回転させる。ステップ1010において、差動装置制御ピニオン歯車33は、各反対向きのアクスルシャフト18,20に取り付けられたそれぞれの複数の調節歯車15a,15bの外歯付きリングギヤ50a,50bを反対方向に回転させ、これは、それぞれのアクスルシャフト18,20の回転速度の差に比例的に影響する。この方法は、適切なフィードバックセンサを使用する連続的閉ループプロセスとして実施されてもよい。
図14は、幾つかの実施の形態によるリア差動装置を有する車両においてリアアクスルシャフトの間の回転速度の所望の差を制御する方法1100のフローチャートである。図12は、図14によるリア差動装置のための回転速度の所望の差を計算するために使用されるパラメータを示している。リア差動装置の場合、RPMDiffの値を方法1100により計算することができる。ステップ1102において、(例えば、操舵角センサ28から)操舵角φを示すセンサデータが受信される。ステップ1104において、(例えば、ドライブシャフト回転センサ29からの)センターアクスルにおける回転速度(RPM)を示すセンサデータが受信される。ステップ1106において、幅(d)およびホイールベース(l)などの車両パラメータが、車両メモリから検索される。
ステップ1108において、操舵角φおよびRPMがゼロでない値である(すなわち、車両が走行および転回している)かどうかが判定される。幾つかの実施の形態において、制御ユニットは、代わりに、操舵角φおよびRPMの両方が、ゼロ付近の所定の範囲の外にあるかどうかを判定する。両値がゼロでない(またはゼロ付近の所定の範囲の外にある)ならば、方法1100はステップ1110へ続く。ステップ1110において、操舵角が正であるかまたは負であるか、すなわち、車両がそれぞれ右へ転回しているかまたは左へ転回しているかが判定される。
操舵角φが、車両が右へ転回していることを意味する正であるならば、方法1100はステップ1122へ続く。ステップ1122において、内側の車輪角度φiおよび外側の車輪角度φoが、幅dおよびホイールベースlに関して計算される。これらのパラメータは図12に示されている。アッカーマンの式(以下の数式1.1および1.2)を使用して、内側のホイールφiまたは外側のホイールφoそれぞれの角度を任意のφに基づき決定することができる。
φ>0である右転回の場合:
φ<0である左転回の場合:
内側(右側)の車輪と外側(左側)の車輪との走行距離の差は、比Rdとして表すことができる。ステップ1124において、Rdは、外側転回半径roを内側転回半径riで割ることにより以下の数式2.3に示したように計算される(riおよびroの説明については図12参照)。φ>0であるRPMDiffの右転回計算の場合、riは以下のように計算される。
roは以下のように計算される。
そして
操舵角が小さくなると、Rdが小さくなり、1に近づく。操舵角が大きいほど、内側半径と外側半径との差が大きくなり、Rdの値がより大きくなる。ステップ1126において、数式2.4においてRdおよびRPMを使用することは、右側後輪(基準車輪)のより遅い角速度を提供する。
ステップ1128において、RPMDiffは、右側車輪とミドルアクスルとのRPM差として計算される。これは、RPMiからRPMを引くことにより見つけることができる。
これは、RPMDiffの負の値を提供し、これは、この場合、適切である。なぜならば、これは、右転回の間に、右側における前方RPMから引かれるからである。
ステップ1130において、制御ユニットは、差動装置制御ピニオン歯車33、第1の複数の調節歯車15aおよび第2の複数の調節歯車15bによって右側アクスルシャフトの回転速度にRPMDiffを加えるために変速可逆モータに信号を送信する。
ステップ1110において、操舵角φが、車両が左へ転回していることを意味する負であるならば、方法1100はステップ1112へ続く。ステップ1112において、内側の車輪角度φiおよび外側の車輪角度φoが、幅dおよびホイールベースlに関して計算される。これらのパラメータは図12に示されている。ステップ1114において、Rdは、φi、φo、lおよびdに関して計算される。
ステップ1116において、RdおよびRPMを使用することは、左後輪のより遅い角速度を提供する。ステップ1118において、RPMDiffは、φ<0である左転回のために計算され、ここで、ri、roおよびRPMDiffは以下のように計算される。
RPMDiffのための減法のオーダはフリップされる。なぜならば、われわれの基準アクスルはまだ右側にあるが、内側の車輪は、今や右側ではなく、左側であるからである。
ステップ1120において、制御ユニットは、差動装置制御ピニオン歯車33、第1の複数の調節歯車15aおよび第2の複数の調節歯車15bによって右側アクスルシャフトの回転速度にRPMDiffを加えるために変速可逆モータに信号を送信する。
図15は、幾つかの実施の形態によるフロント差動装置を有する車両においてフロントアクスルシャフトの間の回転速度の差を制御する方法1300のフローチャートである。この場合の基準アクスルシャフトは、右側フロントアクスルシャフトであり、したがって、差動装置制御ピニオン歯車33は、このアクスルシャフトに対して所望のRPMDiffを達成するために回転させられる。この設計の回生性質および左側調節歯車における差動装置制御ピニオン歯車の反対方向の作用により、左側のフロントアクスルシャフトが、回転速度に対して等しくかつ反対方向の調節を受けることを思い出されたい。簡略化のために、右側アクスルはこれらの計算のための基準点である。例としての方法1300は、フロント差動装置のための回転速度の所望の差を計算するために使用することができる。図16は、図15によるフロント差動装置のための回転速度の所望の差を計算するために使用されるパラメータを示している。
フロント差動装置の場合、RPMDiffの値を、図15に示された方法により計算することができる。ステップ1302において、(例えば、操舵角センサ28から)操舵角φを示すセンサデータが受信される。ステップ1304において、(例えば、ドライブシャフト回転速度センサ29からの)センターアクスルにおける回転速度(RPM)を示すセンサデータが受信される。ステップ1306において、幅(d)およびホイールベース(l)などの車両パラメータが、車両メモリから検索される。
ステップ1308において、操舵角φおよびRPMがゼロでない値である(すなわち、車両が走行および転回している)かどうかが判定される。幾つかの実施の形態において、制御ユニットは、代わりに、操舵角φおよびRPMの両方が、ゼロ付近の所定の範囲の外にあるかどうかを判定する。これらの値がゼロでない(またはゼロ付近の所定の範囲の外にある)ならば、方法1300はステップ1310へ続く。ステップ1310において、操舵角が正であるかまたは負であるか、すなわち、車両がそれぞれ右へ転回しているかまたは左へ転回しているかが判定される。
操舵角φが、車両が右へ転回していることを意味する正であるならば、方法1300はステップ1322へ続く。ステップ1322において、内側の車輪角度φiおよび外側の車輪角度φoが、幅dおよびホイールベースlに関して計算される。これらのパラメータは図16に示されている。
内側(右側)の前輪と外側(左側)の前輪との走行距離の差は、比Rdとして表すことができる。ステップ1324において、Rdは、外側転回半径roを内側転回半径riで割ることにより以下の数式3.3に示したように計算される(riおよびroの説明については図14参照)。前輪の場合のriおよびro値は後輪の場合のそれらとは異なることに留意すべきである。φ>0であるRPMDiffの右転回計算の場合、riおよびroは以下のように計算される。
幾つかの実施の形態において、roを、ピタゴラスの定理
を使用して計算することもでき、この場合、ro
rは後輪の外側転回半径であることに留意されたい。
操舵角が小さくなると、Rdが小さくなり、1に近づく。操舵角が大きいほど、内側半径と外側半径との差が大きくなり、Rdの値がより大きくなる。Rdの調節された値を使用することは、転回中の右側前輪の異なる角速度を修正する。ステップ1326において、以下の数式においてRdおよびRPMを使用することは次のことを提供する:
ステップ1328において、RPMDiffは、アクスルの中央と右側車輪との角速度差である。これは、RPMiからRPMを引くことにより見つけることができる。
ステップ1330において、制御ユニットは、差動装置制御ピニオン歯車33、第1の複数の調節歯車15aおよび第2の複数の調節歯車15bによって右側アクスルシャフトの回転速度にRPMDiffを加えるために変速可逆モータに信号を送信する。
ステップ1310において、操舵角φが、車両が左へ転回していることを意味する負であるならば、方法1300はステップ1312へ続く。ステップ1312において、内側の車輪角度φiおよび外側の車輪角度φoが、幅dおよびホイールベースlに関して計算される。これらのパラメータは図14に示されている。ステップ1314において、Rdは、φi、φo、lおよびdに関して計算される。
ステップ1316において、RdおよびRPMを使用することは、左側前輪のより遅い角速度を提供する。ステップ1318において、RPMDiffは、φ<0である左転回のために計算され、ri、roおよびRPMDiffは以下のように計算される。
RPMDiffのための減法のオーダはフリップされる。なぜならば、基準アクスルシャフトはまだ右側であるが、内側の車輪は今や右側ではなく、左側であるからである。
ステップ1320において、制御ユニットは、差動装置制御ピニオン歯車33、第1の複数の調節歯車15aおよび第2の複数の調節歯車15bによって右側アクスルシャフトの回転速度にRPMDiffを加えるために変速可逆モータに信号を送信する。
図17は、幾つかの実施の形態によるセンター差動装置を有する車両のためのフロント出力ドライブシャフトとバック出力ドライブシャフトとの回転速度の所望の差を決定するための方法1500のフローチャートである。図18は、図17によるセンター差動装置のための回転速度の所望の差を決定するために使用されるパラメータを示している。この場合の基準アクスルシャフトは、フロント出力シャフトであり、したがって、差動装置制御ピニオン歯車33は、この出力シャフトに対して所望のRPMDiffを達成するために回転させられる。この設計の回生的性質およびリア調節歯車に対する差動装置制御ピニオン歯車の反対方向の作用により、リア出力シャフトが、回転速度に対して等しくかつ反対方向の調節を実現することを思い出されたい。簡略化のために、われわれは、これらの計算のための基準シャフトとしてフロント出力シャフトを有する。
四輪駆動用途において、転回中にフロントアクスルとリアアクスルとの異なる半径を許容するためにセンター差動装置が設けられている。フロント、リアおよびセンターの差動装置が設けられている場合、センター差動装置への入力の回転速度(トランスミッションからの出力)は、RPMとして使用され、このRPMは、計算により、あらゆる任意の操舵角および速度において、センター差動装置のフロントおよびリアの出力シャフトのRPMを提供することができる。これらの値は、次いで、上述のフロントおよびリアの差動装置のためのRPMDiff値を計算するためのRPMとして働くことができ、これにより、全ての3つの差動装置のための差速が、1つの回転速度測定から計算されることを可能にする。
センター差動装置の場合、RPMDiffの値を、図17に示された方法を使用して計算することができる。ステップ1502において、(例えば、操舵角センサ28から)操舵角φを示すセンサデータが受信される。ステップ1504において、(例えば、ドライブシャフト回転センサ12からの)センターアクスルにおける回転速度(RPM)を示すセンサデータが受信される。このRPMは、しばしば、回転の小さな分数を検出することができる正確な測定である。このRPMは、方向を示す符号(+は前方を示し、-は後方を示す)を有するベクトル量でもある。ステップ1506において、幅(d)およびホイールベース(l)などの車両パラメータが、車両メモリから検索される。
ステップ1508において、操舵角φおよびRPMがゼロでない値である(すなわち、車両が走行および転回している)かどうかが判定される。幾つかの実施の形態において、制御ユニットは代わりに、操舵角φおよびRPMの両方が、ゼロ付近の所定の範囲の外にあるかどうかを判定する。これらの値がゼロでない(またはゼロ付近の所定の範囲の外にある)ならば、方法1500はステップ1510へ続く。
次のri(リア差動装置の転回半径)およびro(フロント差動装置の転回半径)は以下のように計算される(riおよびroの説明について図16参照):
ステップ1510において、フロントアクスルとリアアクスルの走行距離の差は、ここでは比Rdとして表される。Rdは以下のように計算される。
ステップ1512において、(より低速の)リア出力のRPMが以下の数式に従って計算される。
ステップ1514において、RPMDiffは以下のように計算される。
RPMrはここでは、上述のリア差動装置計算のためのRPM値として使用することができる。フロント出力シャフトのより速い角速度(RPMf)を以下のように計算することができる。
RPMfはここでは、上述のフロント差動装置計算のためのRPM値として使用することができる。ステップ1516において、制御ユニットは、差動装置制御ピニオン歯車33、第1の複数の調節歯車15aおよび第2の複数の調節歯車15bによってフロント出力の回転速度にRPMDiffを加えるために変速可逆モータに信号を送信する。
上記の計算は、特にφの小さな値の場合に、正確な浮動小数点数を必要とする。幾つかの実施の形態において、制御ユニット内の浮動小数点計算は、IEEE754などの適切な規格に従って行われる。
上述のように計算された差速からの著しい逸脱を許容しない実施の形態においておよび/または逸脱を防止するために、前述のような減速歯車またはウォームギヤなどの機構が使用される場合、差動装置制御ピニオン歯車を駆動するために変速可逆モータ(例えば、サーボモータまたはステッパモータ)により必要とされる動力は、大きい必要はない。ほとんどのアッカーマン操舵式車両では、変速可逆モータが差動装置制御ピニオン歯車33を回転させる最大回転速度は、ドライブシャフトの最大回転速度と比較して比較的小さい。さらに、これらの実施の形態において、理想的なトラクション条件下で、差動装置制御ピニオン歯車に加えられる計算された回転は、車両の固有差速にほとんど一致しかつこれに従う。これにより、これらの条件下では変速可逆モータは、あるとしても極めて小さな抵抗を受ける。
1つの車輪が地面から離れているなど、外部条件が固有差速にとって好ましくないとき、幾つかの実施の形態は、動力がそのスリップしている車輪から失われることを防止する減速歯車またはウォームギヤなどの機構を有する。外部条件がそれに抵抗しているにもかかわらず差動装置が固有差速を維持しているこの状況において、逸脱を防止するための減速歯車またはその他の機構は、トルク負荷の増大を受けることがある。この状況において、小さな変速可逆モータは増大した抵抗に逆らって作動し続けることは困難である可能性があり、したがって、可変モータの焼付きを防止するために、抵抗が所定のしきい値未満に戻るまで、差動装置制御ピニオン歯車を一時的に静止状態に保持するように変速可逆モータに命令することが有利であることがある。このシナリオにおいて、差動装置は、差動装置がロックされたまたは溶接された差動装置であるかのように車両へ動力を提供し続け、トラクションアンバランスからの抵抗が通常範囲へ戻ると、システムは、上述のような計算された差動速度を適用することへ戻る。
ここに開示されたシステムおよび歯車伝動装置アセンブリが提供する差動制御の程度により、固有速度とは異なるように、所望の差速を調節することができる。例えば、制御ユニットは、それぞれ差速を減少または増大させることにより車両オーバーステアまたはアンダーステアを補償するようにプログラムすることができる。このような実施の形態において、起こりえる増大した抵抗を克服するために、十分にパワフルな変速可逆モータが使用されるべきである。
幾つかの実施の形態において、十分にパワフルな変速可逆モータ24は、車両がニュートラルな転回を行うことを可能にしてもよい。これは、マルチポイントの転回を行う必要なしに、制約されたスペースにおいて、車両を180度転回させるなどの困難な操縦にとって有利であることがある。差動装置調節歯車の回生的および対称的性質により、このタイプの操縦は、推進ドライブシャフト12のいかなる関与もなしに、専ら差動装置制御ピニオン歯車33のみによって行うことができる。このような操縦において、ニュートラルな転回がステアリングホイールの意図しない動きによって影響されないように、ステアリングホイールを固定された位置にロックまたは保持する必要がある。
差動制御システムは、不均一なトレッド摩耗またはタイヤインフレーション圧力の差によるタイヤサイズの変更を調節するために較正される必要があることがある。手作業によるトリムまたは較正ノブが使用されることがあり、これは、差速を小さな量またはパーセンテージだけ増大または減少させることがある。例えば、左側および右側において異なるサイズのタイヤで走行する車両は、ステアリングホイールが直進に維持されているときでさえも一方の側へヨーイングする傾向がある場合がある。ノブは、車両が直進することを維持するために差速を調節するために使用されてもよい。特に、調節により、差動制御システムは、より小さな半径を有するタイヤの回転速度を増大させてもよく、したがって、反対側のより大きなタイヤを減速させる。この調節は、より速く回転するより小さなタイヤによってカバーされる距離が、あらゆる単位時間において、より遅く回転するより大きなタイヤによってカバーされる距離と一致するまで、行われる。幾つかの実施の形態において、このような調節は、センサ入力に基づいて自動的に行われてもよい。
図19は、一例としての実施の形態による差動システムを操作するための一例としての方法1700のフローチャートである。方法1700はステップ1702において開始し、ここで、1つまたは複数のプロセッサを有する制御ユニットは、車両の第1のアクスルシャフトと第2のアクスルシャフトとの回転速度の所望の差動を決定するようにプログラムされている。幾つかの実施の形態において、制御ユニットは、車両のメインコンピュータ26である。幾つかの実施の形態において、制御ユニットは、車両のメインコンピュータに含まれていない。幾つかの実施の形態において、制御ユニットは、車両のエンジンを操作するコンピュータ26である。幾つかの実施の形態において、制御ユニットは、車両のエンジンを操作するコンピュータ26とは別個である。幾つかの実施の形態において、制御ユニットは1つまたは複数のマイクロプロセッサを有する。制御ユニットは、コンピュータ実行可能命令を実行するためのあらゆる適切な構成を有することができる。回転速度の所望の差動は、少なくとも部分的に、(例えば、操舵角センサ28により提供される)車両の現在の操舵角と、(例えば、ドライブシャフト回転センサ29により提供される)車両の第1のドライブシャフト12の現在の回転速度とに基づき、決定される。第1のドライブシャフト12は、第1のアクスルシャフト18および第2のアクスルシャフト20が接続されている差動装置40に動力を提供する。
ステップ1704において、制御ユニットは、回転速度の所望の差動を許容範囲内に合致させるために、第1のアクスルシャフト18および第2のアクスルシャフト20の相対回転を制御するために、ステップ1702において決定された回転速度の所望の差動に基づき、車両の変速可逆モータ24に信号を送信するようにプログラムされている。
一例としての実施の形態において、許容範囲は、所望の差動値の±0%から±15%までの範囲であってもよい。別の例としての実施の形態において、許容範囲は、所望の差動値の±1%から±5%までの範囲であってもよい。
幾つかの実施の形態において、制御ユニットは、ユーザ入力に応答して許容範囲を変更するようにプログラムされていてもよい。例えば、ユーザ入力は、他の可能なオプションの中でも特に、車両のための‘オフロード’または‘ラフロード’ドライブオプションの選択を示してもよい。
幾つかの実施の形態において、制御ユニットは、少なくとも部分的に、車両が走行中のセンサ入力に基づき許容範囲を変更するようにプログラムされていてもよい。センサ入力は、重力センサまたは車両のサスペンションに関連したセンサからの入力であってもよい。許容範囲は、所定の時間にわたる1つまたは複数のセンサからの入力に基づき変更されてもよい。所定の時間は、5秒〜20秒の範囲であってもよい。別の実施の形態において、所定の時間は、1分〜10分の範囲であってもよい。
別の例において、制御ユニットは、車両が粗い地面を走行していることを示すセンサ読取りに基づき自動的に許容範囲を調節してもよい。例えば、制御ユニットは、車両の走行中に、所定の時間にわたって、加速度センサまたはサスペンションに関連したセンサからセンサ入力を受け取り、受け取ったセンサ入力に応答して許容範囲を調節してもよい。適切な所定の時間が選択されてもよい。例えば、幾つかの実施の形態において、所定の時間は、5秒〜20分の範囲であってもよい。幾つかの実施の形態において、所定の時間は、1分〜10分の範囲に該当してもよい。
一例としての実施の形態において、変速可逆モータ24は、変速可逆モータに結合された車両の歯車伝動装置アセンブリ14を使用して第1のアクスルシャフト18および第2のアクスルシャフトの相対回転を制御する。歯車伝動装置アセンブリは、ここで説明された歯車伝動装置アセンブリ14,14'のいずれであってもよい。
制御ユニットは、ステップ1702において回転速度の所望の差動を決定するために、車両の検出された現在の操舵角に関する情報を受け取り、車両の第1のドライブシャフト12の検出された現在の回転速度に関する情報を受け取る。
一例としての実施の形態において、変速可逆モータは、ステップ1702において決定された回転速度の所望の差動に比例した回転速度で差動装置制御ピニオン歯車33を回転させることによって、第1のアクスルシャフト18および第2のアクスルシャフト20の相対回転を制御してもよい。この方法は、適切なフィードバックセンサを使用する連続的閉ループプロセスとして実施されてもよい。
幾つかの実施の形態において、車両の第1のアクスルシャフト18および第2のアクスルシャフト20の回転速度の所望の差動は、さらに、車両および車両のホイールベースの幅に関する情報に基づき決定される。
幾つかの実施の形態において、車両の第1のアクスルシャフト18と第2のアクスルシャフト20との回転速度の所望の差動を決定することは、車両非対称性に基づいて直線走行の間に差動装置ベースラインに関連したファクタを付加することを含む。幾つかの実施の形態において、このファクタは、制御ユニットにより自動的に決定されてもよい。ファクタは、車両が走行しているときに所定の時間の間に所望の差速に対する検出された抵抗に基づき決定されてもよい。幾つかの実施の形態において、所定の時間は、5秒〜20分の範囲であってもよい。幾つかの実施の形態において、所定の時間は、1分〜10分の範囲であってもよい。
幾つかの実施の形態において、方法1700は、さらに、車両の第3のアクスルシャフトと第4のアクスルシャフトとの回転速度の第2の所望の差動を決定することを含んでもよい。第2の所望の差動は、少なくとも部分的に、車両の現在の操舵角と、車両の第2のドライブシャフトの現在の回転速度とに基づき決定されてもよい。第2のドライブシャフトは、第3のアクスルシャフトおよび第4のアクスルシャフトが接続されている第2の差動装置に動力を提供してもよい。方法1700は、さらに、回転速度の所望の第2の差動を第2の許容範囲内に合致させるために、第3のアクスルシャフトおよび第4のアクスルシャフトの相対回転を制御するために、回転速度の所望の第2の差動に基づき、車両の第2の変速可逆モータに信号を送信することを含んでもよい。第2の許容範囲は、ステップ1704における許容範囲と同じであっても、異なってもよい。
一例としての実施の形態において、第1および第2のアクスルシャフトは、車両のリアアクスルのシャフトであってもよく、第3および第4のアクスルシャフトは、車両のフロントアクスルのシャフトであってもよい。幾つかの実施の形態において、方法1700は、さらに、少なくとも部分的に、車両の現在の操舵角と、車両のトランスミッションまたは駆動モータによって出力された現在の回転速度とに基づき、車両の第1のドライブシャフトと第2のドライブシャフトとの回転速度の第3の所望の差動を決定することを含んでもよい。方法1700は、さらに、回転速度の所望の第3の差動を第3の許容範囲内に合致させるために、第1のドライブシャフトおよび第2のドライブシャフトの相対回転を制御するために、回転速度の所望の第3の差動に基づき、車両の第3の変速可逆モータに信号を送ることを含んでもよい。
図20は、一例としての実施の形態による差動システムを操作するための一例としての方法1800のフローチャートである。方法1800は、ステップ1802で開始し、ここでは、車両の制御ユニットは、車両の現在の操舵角の大きさが最小操舵角値よりも大きいかどうかを判定し、車両の第1のドライブシャフトの現在の回転速度の大きさがゼロではないかどうかを判定するようにプログラムされている。幾つかの実施の形態において、ゼロではないドライブシャフト回転速度条件は、回転速度が約0.002rpm未満であるときに満たされる。
これらの条件が満たされると、次いで、ステップ1804において、マイクロプロセッサは、車両の第1のアクスルシャフトと第2のアクスルシャフトとの回転速度の所望の差動を決定するようにプログラムされる。回転速度の所望の差動は、少なくとも部分的に、車両の現在の操舵角と、車両の第1のドライブシャフトの現在の回転速度とに基づき決定される。第1のドライブシャフトは、第1のアクスルシャフトおよび第2のアクスルシャフトが接続されている差動装置に動力を提供する。
ステップ1806において、車両のマイクロプロセッサは、第2のアクスルシャフトの回転に対する第1のアクスルシャフトの回転を制御可能に変化させるために、ステップ1804において決定された回転速度の所望の差動に基づいて、車両の変速可逆モータへ信号を送信するようにプログラムされている。この方法は、適切なフィードバックセンサを使用する連続的閉ループプロセスとして実施されてもよい。
一例としての実施の形態において、変速可逆モータ24は、変速可逆モータ24に結合された車両の歯車伝動装置アセンブリ14,14'を使用して第1のアクスルシャフトおよび第2のアクスルシャフトの相対回転を制御する。歯車伝動装置アセンブリは、ここで説明された歯車伝動装置アセンブリ14,14'のいずれであってもよい。
一例の実施の形態において、現在の操舵角の大きさが最小操舵角値より大きく、ドライブシャフトの現在の回転速度の大きさがゼロではないならば、車両のマイクロプロセッサは、第3のアクスルシャフトと第4のアクスルシャフトとの回転速度の第2の所望の差動を決定するようにプログラムされている。回転速度の第2の所望の差動は、少なくとも部分的に、車両の現在の操舵角と、車両の第2のドライブシャフトの現在の回転速度とに基づいてもよい。第2のドライブシャフトは、第3のアクスルシャフトおよび第4のアクスルシャフトが接続されている第2の差動装置に動力を提供してもよい。この実施の形態において、方法1800は、さらに、第4のアクスルシャフトに対する第3のアクスルシャフトの回転を制御可能に変化させるために、回転速度の決定された第2の所望の差動に基づいて、車両の第2の変速可逆モータへ信号を送信することを含んでもよい。
一例としての実施の形態において、第1および第2のアクスルシャフトは、車両のリアアクスルのシャフトであってもよく、第3および第4のアクスルシャフトは、車両のフロントアクスルのシャフトであってもよい。この実施の形態において、方法1800は、少なくとも部分的に、車両の現在の操舵角と、車両のトランスミッションまたは駆動モータによって出力された現在の回転速度とに基づき、車両の第1のドライブシャフトと第2のドライブシャフトとの回転速度の第3の所望の差動を決定することを含んでもよい。方法1800は、さらに、第2のドライブシャフトの回転に対する第1のドライブシャフトの回転を制御可能に変化させるために、回転速度の決定された第3の所望の差動に基づいて、車両の第3の変速可逆モータへ信号を送ることを含んでもよい。
制御ユニットは、車両の検出された現在の操舵角に関する情報を受け取り、車両のドライブシャフトの検出された現在の回転速度に関する情報を受け取ってもよい。
幾つかの実施の形態において、最小操舵角値は、0.01度〜5度の範囲である。幾つかの実施の形態において、方法1800は、車両が走行している間、センサ入力に基づき最小操舵角を変更することを含む。他の実施の形態において、方法1800は、ユーザ入力に応答して最小操舵角を変更することを含む。
幾つかの実施の形態において、車両において差動回転速度を制御する方法は、現在の操舵角および現在のドライブシャフト速度に関する情報を使用する必要がなく、所望の差動回転速度を計算することを含む必要がなく、操舵角センサおよびドライブシャフト速度センサは使用されない。このような実施の形態において、制御ユニットは、アクスルシャフトの回転速度の差が所定の限界を超えることを防止する。このような実施の形態は、説明した他の例としての実施の形態のうちの幾つかと比較して、不均一なトラクションの条件においてより大きな車輪スリップを可能にすることがあるが、それでも、所定の限界を超える差動装置回転値に対応する過剰な車輪スリップを防止する。
このような実施の形態は、そのアクスルのための他方のアクスルシャフト(例えば、第2のアクスルシャフト20、第4のアクスルシャフト)の回転速度に関する、アクスルシャフト(例えば、第1のアクスルシャフト18、第3のアクスルシャフト)の回転速度を連続的に測定するための1つのセンサまたは複数のセンサのセットを使用してもよい。このような実施の形態は、変速可逆モータに作用するトルクを測定するためのセンサを使用してもよい。このような実施の形態は、可変モータを、プログラムされた最大許容範囲内で、第1のアクスルシャフト18と第2のアクスルシャフト20との回転速度の差を生じるために作用するあらゆるトルクに従って回転させる。このような最大範囲は、部分的に、このような実施の形態を備える車両のための非スリップ条件においてもっともらしく達成することができる第1および第2のアクスルシャフトの回転速度の最大の差に基づいて、決定される。測定された差動速度がこの最大許容範囲を超えると、可変モータは、測定された実際の差動力とは反対に作動させられる。
所望の差速を計算および適用するために操舵角センサ28およびドライブシャフト回転センサ29を使用する実施の形態において、これらのセンサのうちの一方または両方が、完全に故障したか、もっともらしくない信号を生じるかまたはさもなければ信頼できなくなったようなシナリオに対処するための作動モードを提供することが望ましいことがある。このようなシナリオは、結果として、所望の差速を正確に計算することを不可能にし、これは、車両のハンドリング敏捷性に否定的に影響することがある。このようなセンサ故障が検出されると、通常運転においてこれらのセンサに依存するこのような実施の形態は、運転の安全モードに入り、運転の安全モードは、もっともらしい最大限界まで、第1のアクスルシャフト18と第2のアクスルシャフト20との回転速度の差を生じるように作用するあらゆる回転力に従って変速可逆モータを回転させる。このような安全モードは、現在の操舵角および現在のドライブシャフト速度に関するデータに依存しない上述の実施の形態と、作動が似ている。
所望の差動回転速度からの変化
上記説明は、差動装置によって接続された各アクスルのための所望の回転速度を決定することを含む方法、または条件の任意のセットのために差動装置によって接続されたアクスルの回転速度の所望の差を決定するための方法の幾つかの実施の形態を提供する。しかしながら、車両を操作するためのここで説明された幾つかの方法は、車両が運転される現実の条件を反映する、決定された所望の1つまたは複数の速度からの公差または逸脱を含む。さらに、当業者は、この開示を考慮して、各アクスルのための決定された所望の回転速度からの僅かな逸脱またはアクスルの回転速度の決定された所望の差からの僅かな逸脱で運転される車両が、依然として、発明の範囲に含まれることを認識するであろう。幾つかの実施の形態において、所望の差速は、以下の別のセクションで説明されるように所望の操舵挙動(例えば、オーバーステアおよびアンダーステア)を得るために、固有差速と異なるように意図的に選択または設定される。
前輪操舵式車両のための幾つかの実施の形態において、制御方法は、車両の任意の構成に基づき、許容可能な差動回転速度のための上限および下限を計算する。変速可逆モータ24は、次いで、この計算された範囲内になるように差動装置制御ピニオン歯車33を支配する。トラクションアンバランスによるあらゆる望ましくない車輪スリップは、計算された範囲から外れるので、防止される。
上述の幾つかの方法は、任意のシナリオのために所望の差速をどのように計算しかつ適用するかを開示している。しかしながら、この計算された速度は、適切に膨らまされたタイヤを備える車両での理想的な道路条件下でしか適合しないことが理解される。計算された速度が適合させられるということは、任意の入力信号のための計算された速度が、車両が実際にその瞬間に受ける差速と一致することを意味する。これは、変速可逆モータへの最小抵抗の状況でもある。現実には、車両は、非対称に膨らまされたまたは摩耗したタイヤで、差動装置サスペンション動作を生じる路面において運転されることがある。その結果、このような現実の変数に対処するため、所望の差速からの逸脱のための公差を許容する必要がある。以下に説明される複数の要因を考えなければならない。
もっともらしい上限および下限:
幾つかの実施の形態において、差動装置に接続されたモータが、以下で説明されるような予想しない条件に対応するために、決定された所望の差速と異なる、アクスルの差動回転速度を生じる速度で回転させられることが重要である。しかしながら、決定された所望の差速からの逸脱の絶対速度は、それぞれ決定された所望の速度より低いおよび高い、最小値および最大値に限定されるべきである。これは、もっともらしい上限および下限を確立し、これらを超えると、車両は、通常制御下でのこのような差速を生じないと予測することが合理的である。もっともらしさの範囲は、車両タイプ、車両の意図した性能目標および車両寸法などの多数の要因に基づき、各車両のための各製造者によって決定されるべきである。一般的に言えば、決定された所望の差速に関するより広いもっともらしい範囲は、より許容するのに対し、より狭い範囲は、より積極的に、所望の差速を達成しようとし、増大したタイヤ摩耗につながることがある。
車両非対称性による常時逸脱:
車両における非対称性による決定された所望の差速からの逸脱に対応するために、変速可逆モータが受ける抵抗を測定するために圧力センサまたは他の方法または装置を使用することができる。このセンサは、車両の一方の側におけるタイヤが不十分に膨らまされているなどの車両非対称性の結果として生じる、所望の差速からの常時逸脱を検出することができる。例えば、直線走行において、不十分に膨らまされたタイヤは、他方のタイヤと同じ距離を走行するためにより速く回転する必要があり、これにより、計算された所望の速度からの常時逸脱力を生じる(これは、直線走行ではゼロであるべきであるが、ここでは、非対称性に対応するために非ゼロでなければならない)。この状況において、アルゴリズムは、新たな‘常時’非対称性におけるファクタに合わせて自己調節し、おそらく、情報ディスプレイを通じてドライバに通知するか、またはこの条件が所定の継続時間にわたって継続するならばOBDコードをトリガする。差動装置が新規の‘ノーマル’に合わせて自己調節しなければならないこのようなシナリオ(車両非対称性による常時逸脱)は、料理用のはかりにおける風袋機能を利用することに似ていると考えることができる。上に説明したように、幾つかの実施の形態において、制御ユニットは、所定の時間にわたって所望の差速を課すことに対する検出された抵抗に基づき所望の差速への自動的な調節を行うようにプログラムされてもよい。
非対称サスペンション走行による瞬間的逸脱:
逸脱の付加的な原因は非対称サスペンション走行による。しかしながら、これは、もっともらしい上限および下限の計算に要因として含められるべきである。製造者が、極端なサスペンション走行が規則的にもっともらしい限界を超えるように、決定された所望の速度より高いおよび低いもっともらしい限界の狭い範囲を望むならば、サスペンション走行を要因とし、あるサスペンション条件下でより大きな逸脱を許容することが必要であることがある。この場合、センサは、車両のサスペンションの位置を監視し、より大きな許容可能な逸脱を提供するために使用することができる。例えば、車両の一方の側が、ひどいサスペンション移動を生じる波状の地面に接触したならば、その側における車輪は、より多くの‘地面’をカバーし、他方の側における車輪よりも僅かに速く回転させられる必要がある。上で説明したように、幾つかの実施の形態において、範囲は、ユーザ入力に基づき調節されてもよい。上でも説明したように、幾つかの実施の形態において、範囲は、走行中に所定の時間にわたってセンサ入力(例えば、加速度センサまたはサスペンションに関連したセンサからの入力)に基づき使用中に自動的に調節されてもよい。
固有差速からの所望の差速の意図的な逸脱
幾つかの実施の形態においておよび幾つかの状況下で、所望の差速は意図的に変化するまたは固有差速から逸脱する。例えば、所望の差速は、車両のハンドリングに影響するためにまたは望ましくない車両挙動の大きさを修正するまたはさもなければ低減するために、固有差速から意図的に逸脱してもよい(例えば、固有速度よりも大きな所望の速度は、増大した車両敏捷性に対応し、オーバーステアを促進する)。幾つかの実施の形態において、この意図的な逸脱は自動的であり、1つまたは複数の車両センサからの現在の入力に応答してもよい(例えば、車両のヨーを示す車両の加速に関するセンサ情報に応答してもよい)。
様々な実施の形態の態様および幾つかの利点は、例示目的のためだけに上で図1〜図10において用いられた符号に関して以下で説明される。この開示を考慮した当業者は、以下の説明が、車両の他の構成および他の歯車伝動装置アセンブリにも当てはまることを認識するであろう。
幾つかの実施の形態は、制御ユニット、コンピュータまたは車両の計算装置(例えば、エンジンコンピュータ26)によって制御される変速可逆モータ24(例えば、サーボモータ、ステッパモータ、液圧式モータ)に接続された歯車伝動装置アセンブリ14,14'を提供する。歯車伝動装置アセンブリ14,14'は、車両の第1のアクスルシャフト18および第2のアクスルシャフト20に接続された差動装置40と、変速可逆モータ24を使用して第2のアクスルシャフト20の回転速度に対して第1のアクスルシャフト18の回転速度を制御可能に変化させるように構成された第1および第2の複数の調節歯車15a,15bとを有する。上述のように、幾つかの実施の形態において、操舵クラッチは、第2のアクスルシャフト20の回転速度に対して第1のアクスルシャフト18の回転速度を制御可能に変化させるために、変速可逆モータ24の代わりに使用される。
幾つかの実施の形態において、歯車伝動装置アセンブリ14,14'は、第2のアクスルシャフト20の回転速度に対して第1のアクスルシャフト18の回転速度を変化させるとき、摩擦に依存しない。これは有利である。なぜならば、摩擦に依存する歯車伝動装置アセンブリ、例えば、前輪操舵式車両のための制限スリップ差動装置は、アクスルおよび車輪のある程度のスリップを許容し、これは、車両の安全性を減じる可能性があるからである。対照的に、第2のアクスルシャフト20に対して第1のアクスルシャフト18の回転速度を変化させるために摩擦に依存しないここに開示された歯車伝動装置アセンブリの幾つかの実施の形態は、アクスルおよび車輪のいかなるスリップも許容しない。さらに、制限スリップ差動装置は、スリップする車輪に対するトルクのある程度の損失を許容し、これは、第2のアクスルシャフトに対して第1のアクスルシャフトの回転速度を変化させるときに摩擦に依存しないここに請求された実施の形態では生じない。
アクスルシャフトの回転速度の決定された所望の差動を厳密に実施する実施の形態は、スリップを許容しない。しかしながら、小さな量のスリップを許容する、所定の上限および下限の範囲内で所望の差動から逸脱するようにアクスルの回転速度の実際の差動を許容する実施の形態でさえも、差動装置および制限スリップ差動装置のための慣用の摩擦ベースの設計と比較したとき、小さな量のスリップのみを許容する。
摩擦に依存しないまたはアクスルシャフトの回転速度の所望の差動からの僅かな逸脱のみを許容する幾つかの実施の形態の別の利点は、車輪を駆動するために供給される不均一なトルクにより生じる、トルクステアの低減または排除である。従来の制限スリップ差動装置は、実際には、左側の車輪と右側の車輪とのシフトするトルクによりトルクステアを誇張する可能性があり、左側の車輪と右側の車輪との大きなトルク差を許容する。許容可能な回転速度を支配することにより、ここに説明された方法およびギヤアセンブリは、トルクアンバランスが、加速中に左側の車輪速度と右側の車輪速度との差を生じることを防止することができる。幾つかの実施の形態において、トルクステアが最も顕著である高い加速中、回転速度の所望の差動からの許容可能な逸脱は、減じられてもよく、これにより、左側および右側の車輪が一緒に回転し、トルクステアをさらに防止することを保証する。
摩擦に依存しないまたはアクスルの回転速度の所望の差動からの僅かな逸脱のみを許容する幾つかの実施の形態の別の利点は、車輪スリップに対処するまたは車輪スリップを軽減するときの遅れ時間の短縮または排除である。多くの摩擦ベースの設計は、車輪スリップを検出するために車輪速度センサを利用し、スリップを減じるために摩擦構成部材を適用する。低トラクションの下で坂道を登るなどのある条件において、スリップを検出しかつ軽減するために必要とされる遅れは、坂道を登る車両運動量の望ましくない損失を生じる可能性がある。所定の時間にわたって各アクスルのための所望の差動回転速度を連続的に計算しかつ適用することにより、このシステムは、この望ましくない遅れを生じない。
本発明のシステムは、様々な車両においてまたは様々な車両と共に使用するために多くの方法で具体化することができるが、以下に説明される幾つかの実施の形態は、後輪駆動を有する車両に関して、例示のために説明される。後輪駆動に関する説明は、単に例示的であり、添付の請求項の範囲を解釈するときに限定と考えられるべきではない。当業者は、ここに開示されたシステム、歯車伝動装置アセンブリおよび方法の様々な態様を、後輪駆動、前輪駆動および四輪駆動を有する車両において実施することができることを認識するであろう。
ここでの教示に基づき関連分野の当業者により認識されるように、添付の請求項に定義された発明の思想から逸脱することなく本開示の上述の実施の形態およびその他の実施の形態に対して、多くの変更および修正がなされてもよい。したがって、実施の形態のこの詳細な説明は、制限する意味ではなく、例示的な意味で解釈されるべきである。当業者は、ここに記載された特定の実施の形態に対する多くの均等物を、認識するであろうまたは単なる日常的な実験を用いて確認することができるであろう。このような均等物は、以下の請求項により包含されることが意図されている。