本開示の一態様に係る車両駆動装置は、永久磁石モータを駆動するインバータを備える車両駆動装置であって、前記インバータは、複数のスイッチ素子を有する3相ブリッジ回路と、前記3相ブリッジ回路に接続されるドライブ回路と、前記ドライブ回路に接続される制御回路と、前記インバータの異常を検出する異常検出部とを備え、前記ドライブ回路は、前記永久磁石モータの3相を短絡させる3相短絡回路と、前記異常検出部から出力された異常信号を受け付ける異常受付端子と、前記3相短絡回路による3相短絡制御を実行するためのアクティブチェック信号を受け付けるチェック用端子とを有する。なお、以下の説明では、3相短絡回路による3相短絡制御を実行する動作をアクティブチェックと呼ぶ。
この構成によれば、ドライブ回路が、チェック用端子を用いてアクティブチェック信号を適宜受け付けることができる。このアクティブチェック信号によって、車両駆動装置は、3相短絡回路が3相短絡制御を実行できるか否かを適宜確認することができる。仮にこのアクティブチェックで3相短絡回路の故障が見つかった場合、インバータの制御回路は、例えば車両の上位制御部にこの異常を伝え、上位制御部がメータ表示などでドライバーに対する警告を発して修理を促す事で、より安全が確保できるように誘導するといった対応を取ることができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。上記に関する内容は、実施の形態1、2、3、4および5に記載されている。
また、前記制御回路は、車両が走行中であるときに、前記永久磁石モータが力行および回生のいずれの状態でもない場合に、前記アクティブチェック信号を出力してもよい。
このように、車両が走行中であり、かつ、永久磁石モータが力行および回生のいずれの状態でもないときに、アクティブチェックを行うことで、永久磁石モータの駆動に与える影響を抑制しつつ、アクティブチェックを行うことができる。上記に関する内容は、実施の形態1に記載されている。
また、前記制御回路は、前記永久磁石モータが回生中に、前記3相短絡制御を実行すると前記永久磁石モータに発生するトルクである3相短絡トルクに基づいて、前記チェック用端子に前記アクティブチェック信号を出力してもよい。
このように、制御回路が上記3相短絡トルクに基づいてアクティブチェック信号を出力することで、ドライブ回路はチェック用端子を用いてアクティブチェック信号を適宜受け付けることができる。これにより車両駆動装置は、3相短絡回路が3相短絡制御を実行できるか否かを適宜確認することができる。また、永久磁石モータが回生中にアクティブチェック信号を出力することで、例えば永久磁石モータが回生でもなく力行でもないときのみにアクティブチェック信号を出力する場合に比べて、3相短絡制御を実行できるか否かを確認する機会を増やすことができる。また、仮にこのアクティブチェック信号の出力によって3相短絡回路の故障が見つかった場合、インバータの制御回路は、例えば車両の上位制御部にこの異常を伝え、上位制御部がメータ表示などでドライバーに対する警告を発して修理を促す事で、より安全が確保できるように誘導するといった対応を取ることができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。上記に関する内容は、実施の形態3に記載されている。
また、前記制御回路は、前記3相短絡トルクが第1規定トルク以下である場合に、前記アクティブチェック信号を出力してもよい。
このように、3相短絡制御を行って永久磁石モータに発生するトルクが大きくなり過ぎない場合にアクティブチェック信号を出力することで、車両駆動装置を利用するユーザに違和感を与えることを抑制できる。また、例えば3相短絡回路が故障している場合であっても、永久磁石モータのトルク変動が大きくなりにくく、ユーザに違和感を与えることを抑制できる。上記に関する内容は、実施の形態3に記載されている。
また、車両駆動装置は、さらに、車両の駆動輪にトルクを付与するトルク付与装置を備え、前記制御回路は、さらに、前記3相短絡トルクが前記第1規定トルクよりも小さい第2規定トルク以上である場合に、前記永久磁石モータが回生中に発生する回生トルクと前記3相短絡トルクとのトルク差に応じたアシストトルクが前記駆動輪に付与されるように前記トルク付与装置を制御してもよい。
このように、トルク付与装置を用いて駆動輪にアシストトルクを付与することで、3相短絡制御を実行したときにユーザに与える違和感を低減することができる。上記に関する内容は、実施の形態3に記載されている。
また、車両駆動装置は、永久磁石モータが一方の駆動源であり、前記一方の駆動源と異なる他方の駆動源を、さらに備え、前記制御回路は、前記一方の駆動源を使わず前記他方の駆動源にて車両を駆動可能な場合に、前記チェック用端子に前記アクティブチェック信号を出力してもよい。
このように、制御回路が他方の駆動源にて車両を駆動可能な場合に、アクティブチェック信号を出力することで、ドライブ回路はチェック用端子を用いてアクティブチェック信号を適宜受け付けることができる。これにより車両駆動装置は、3相短絡回路が3相短絡制御を実行できるか否かを適宜確認することができる。また、他方の駆動源にて車両を駆動可能な場合に、一方の駆動源を力行でもなく回生でもない状態とすることができるので、車両駆動装置は、一方の駆動源側の3相短絡回路が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することができる。また、仮にこのアクティブチェック信号の出力によって3相短絡回路の故障が見つかった場合、インバータの制御回路は、例えば車両の上位制御部にこの異常を伝え、上位制御部がメータ表示などでドライバーに対する警告を発して修理を促す事で、より安全が確保できるように誘導するといった対応を取ることができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、信頼性の高い車両駆動装置を提供することができる。上記に関する内容は、実施の形態4に記載されている。
また、前記制御回路は、前記一方の駆動源および前記他方の駆動源の両方が力行中であると判断した後に、前記アクティブチェック信号を出力してもよい。
このように、永久磁石モータが力行中であるときにアクティブチェック信号を出力することで、例えば永久磁石モータが力行でもなく回生でもないときのみにアクティブチェック信号を出力する場合に比べて、3相短絡制御を実行できるか否かを確認する機会を増やすことができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、信頼性の高い車両駆動装置を提供することができる。上記に関する内容は、実施の形態4に記載されている。
また、前記制御回路は、前記一方の駆動源から出力される第1トルクと、前記他方の駆動源から出力される第2トルクと、前記一方の駆動源にて3相短絡制御が実行されると前記永久磁石モータに発生するトルクである3相短絡トルクとを合わせた全トルクを前記他方の駆動源で出力できる場合に、前記他方の駆動源にて車両を駆動可能であると判断してもよい。
これによれば、全トルクを前記他方の駆動源で出力できる場合にアクティブチェック信号が出力されるので、3相短絡制御を実行したときに車両の走行に与える影響を小さくすることができる。上記に関する内容は、実施の形態4に記載されている。
また、前記他方の駆動源は、前記永久磁石モータと異なる他の永久磁石モータ、および、エンジンのうち少なくとも1つを備えていてもよい。
この構成によれば、適切なトルクを車両駆動装置に付与することができ、3相短絡制御を実行したときに車両の走行に与える影響を小さくすることができる。上記に関する内容は、実施の形態4に記載されている。
また、2つの前記永久磁石モータと、2つの前記永久磁石モータのうち一方の永久磁石モータである前記一方の駆動源を駆動する一方の前記インバータと、2つの前記永久磁石モータのうち他方の永久磁石モータである前記他方の駆動源を駆動する他方の前記インバータとを備え、前記制御回路は、前記一方の駆動源を使わず前記他方の駆動源にて車両を駆動可能な場合に、一方の前記インバータに含まれる一方の前記チェック用端子に前記アクティブチェック信号を出力し、前記他方の駆動源を使わず前記一方の駆動源にて車両を駆動可能な場合に、他方の前記インバータに含まれる他方の前記チェック用端子に前記アクティブチェック信号を出力してもよい。
このように、一方の駆動源を使わず他方の駆動源にて車両を駆動可能な場合にアクティブチェック信号を出力することで、一方の駆動源の永久磁石モータにて3相短絡制御を実行したときに車両の走行に与える影響を小さくすることができる。また、他方の駆動源を使わず一方の駆動源にて車両を駆動可能な場合にアクティブチェック信号を出力することで、他方の駆動源の永久磁石モータにて3相短絡制御を実行したときに車両の走行に与える影響を小さくすることができる。上記に関する内容は、実施の形態4に記載されている。
また、前記制御回路は、車両が停車中であるときに、前記車両を発進させるまでに至らない電流が前記永久磁石モータに流れるように前記3相ブリッジ回路を用いて電流制御を行った後に、前記チェック用端子に前記アクティブチェック信号を出力する。
この構成によれば、ドライブ回路が、チェック用端子を用いてアクティブチェック信号を適宜受け付けることができる。このアクティブチェック信号によって、車両駆動装置は、3相短絡回路が3相短絡制御を実行できるか否かを適宜確認することができる。仮にこのアクティブチェック信号の出力によって3相短絡回路の故障が見つかった場合、インバータの制御回路は、例えば車両の上位制御部にこの異常を伝え、上位制御部がメータ表示などでドライバーに対する警告を発して修理を促す事で、より安全が確保できるように誘導するといった対応を取ることができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。
また上記構成のように、車両を発進させるまでに至らない電流が永久磁石モータに流れるように電流制御を行うことで、車両が停車している状態を維持しながら3相短絡回路の故障診断を行うことが可能となる。また、車両が停車中のときにアクティブチェック信号を出力することで、例えば車両が走行中でかつ所定条件を満たすときのみにアクティブチェック信号を出力する場合に比べて、3相短絡制御を実行できるか否かを確認する機会を増やすことができる。上記に関する内容は、実施の形態5に記載されている。
また、前記ドライブ回路は、前記アクティブチェック信号を受け付けた場合に、前記永久磁石モータにて実行されている前記電流制御を前記3相短絡制御に切り替えてもよい。
このように、ドライブ回路が、永久磁石モータにて実行されている電流制御を3相短絡制御に切り替えることで、車両駆動装置は、3相短絡回路が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。上記に関する内容は、実施の形態5に記載されている。
また、前記制御回路は、前記アクティブチェック信号を出力する際に、前記電流制御を停止してもよい。
これによれば、車両駆動装置は、3相短絡制御を実行する際に外部から新たに電流入力されることなく安定した状態で、3相短絡回路が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。上記に関する内容は、実施の形態5に記載されている。
また、前記制御回路は、前記永久磁石モータにd軸電流が流れるように前記ドライブ回路を介して前記3相ブリッジ回路を制御することで、前記電流制御を行ってもよい。
これによれば、永久磁石モータにトルクを発生させず、車両が停車している状態を維持しながら3相短絡回路の故障診断を行うことができる。上記に関する内容は、実施の形態5に記載されている。
また、前記制御回路は、前記3相短絡制御を実行した場合の前記永久磁石モータのトルクが前記車両駆動装置の駆動に影響を与えないトルク以下であるときに、1)前記3相短絡制御を実行した場合の前記永久磁石モータに流れることが予測される電流を求め、2)当該電流が前記永久磁石モータに流れるように前記ドライブ回路を介して前記3相ブリッジ回路を制御した後、3)前記チェック用端子に前記アクティブチェック信号を出力してもよい。
この構成によれば、ドライブ回路が、チェック用端子を用いてアクティブチェック信号を適宜受け付けることができる。このアクティブチェック信号によって、車両駆動装置は、3相短絡回路が3相短絡制御を実行できるか否かを適宜確認することができる。仮にこのアクティブチェック信号の出力によって3相短絡回路の故障が見つかった場合、インバータの制御回路は、例えば車両の上位制御部にこの異常を伝え、上位制御部がメータ表示などでドライバーに対する警告を発して修理を促す事で、より安全が確保できるように誘導するといった対応を取ることができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。
また上記構成のように、3相短絡制御を実行した場合の電流が永久磁石モータに流れるように制御した後にアクティブチェック信号を出力することで、3相短絡制御を実行する際に発生するトルク変動および電流変動を抑制することができる。また、トルク変動および電流変動が抑制されることで、3相短絡回路の故障有無をチェックする時間を短くすることができる。上記に関する内容は、実施の形態2に記載されている。
また、前記制御回路は、前記永久磁石モータが力行していないとき、回生していないとき、または、所定トルク以下で回生しているときに、前記3相短絡制御を実行した場合の前記永久磁石モータのトルクが前記車両駆動装置の駆動に影響を与えないトルク以下であると判断してもよい。
この構成によれば、永久磁石モータが力行していないとき、回生していないとき、または、所定トルク以下で回生しているときに、アクティブチェック信号を出力することができ、永久磁石モータの駆動に与える影響を抑制しつつ、3相短絡回路の故障判断を行うことができる。上記に関する内容は、実施の形態2に記載されている。
また、前記制御回路は、前記3相短絡制御を実行した場合の前記永久磁石モータの回転数に基づいて前記電流を求めてもよい。
これによれば、永久磁石モータの回転数に基づいて求めた電流を永久磁石モータに流した後に、アクティブチェック信号を出力することができるので、3相短絡制御を実行する際に発生するトルク変動および電流変動を適切に抑制することができる。また、トルク変動および電流変動が抑制されることで、3相短絡回路の故障有無をチェックする時間を短くすることができる。上記に関する内容は、実施の形態2に記載されている。
また、前記制御回路は、前記3相短絡回路の故障有無を判断する故障判断部を有し、前記故障判断部は、前記アクティブチェック信号の出力前後における前記永久磁石モータのd軸電流の差が規定の範囲から外れた場合、および、q軸電流の差が規定の範囲から外れた場合の少なくとも1つの場合に、前記3相短絡回路が故障していると判断してもよい。
これによれば、故障判断部は、3相短絡回路の故障有無を事前に、かつ、簡易に判断することができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。上記に関する内容は、実施の形態2に記載されている。
また、車両駆動装置は、2つの前記永久磁石モータと、2つの前記永久磁石モータのうち一方の永久磁石モータを駆動する一方の前記インバータと、2つの前記永久磁石モータのうち他方の永久磁石モータを駆動する他方の前記インバータとを備え、他方の前記インバータの前記制御回路は、前記一方の永久磁石モータが力行または回生の状態であり、かつ、前記他方の永久磁石モータにて前記3相短絡制御を実行した場合に前記他方の永久磁石モータのトルクが前記車両駆動装置の駆動に影響を与えないトルク以下であるときに、1)前記3相短絡制御を実行した場合の前記他方の永久磁石モータに流れることが予測される電流を求め、2)当該電流が前記他方の永久磁石モータに流れるように前記ドライブ回路を介して前記3相ブリッジ回路を制御した後、3)前記チェック用端子に前記アクティブチェック信号を出力してもよい。
このように、一方の永久磁石モータが力行または回生の状態のときに、他方の永久磁石モータにてアクティブチェックを行うためのアクティブチェック信号を出力することで、例えば永久磁石モータが力行でもなく回生でもないときのみにアクティブチェック信号を出力する場合に比べて、3相短絡制御を実行できるか否かを確認する機会を増やすことができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、信頼性の高い車両駆動装置を提供することができる。上記に関する内容は、実施の形態2に記載されている。
また、前記ドライブ回路は、前記制御回路から出力された前記アクティブチェック信号を、前記チェック用端子を介して受け付けた場合に前記3相短絡制御を実行してもよい。
このように、制御回路から出力されたアクティブチェック信号に基づいてドライブ回路が3相短絡制御を実行することで、車両駆動装置は、3相短絡回路が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。上記に関する内容は、実施の形態1〜5に記載されている。
また、前記制御回路は、前記3相短絡回路の故障有無を判断する故障判断部を有していてもよい。
この構成によれば、3相短絡回路の故障有無を事前に発見することができ、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。上記に関する内容は、実施の形態1〜5に記載されている。
また、前記故障判断部は、前記3相短絡制御が実行された際の、前記永久磁石モータの3相に流れる電流の変化、電流位相の変化、および、前記3相ブリッジ回路における直流電圧の変化の少なくとも1つの変化に関する情報を取得し、前記情報に基づいて前記3相短絡回路の故障有無を判断してもよい。
これによれば、故障判断部は、3相短絡回路の故障有無を適切に判断することができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。上記に関する内容は、実施の形態1〜5に記載されている。
また、前記制御回路は、前記3相短絡回路が故障していると判断した後であって、前記インバータに異常が発生した場合に、前記制御回路内のメモリに格納されているプログラムを用いて3相短絡制御を行う制御信号を前記ドライブ回路に出力してもよい。
これによれば、例えば3相短絡回路が故障している事を検出して、車両の上位制御部に異常を通知し、ドライバーが安全確保できるように誘導されている最中に、仮に3相短絡制御を必要とするような故障が発生してしまった場合にも、プログラムを用いて3相短絡制御を実行することができる。これにより、インバータに異常が発生した場合に3相短絡制御を実行する際の信頼性を向上することができる。上記に関する内容は、実施の形態1〜5に記載されている。
また、前記制御回路は、前記アクティブチェック信号の出力中に、前記永久磁石モータが力行または回生の状態となった場合に、前記アクティブチェック信号の出力を停止してもよい。
このように、永久磁石モータが力行または回生の状態であるときにアクティブチェック信号を出力しないようにすることで、例えば、車両駆動装置の駆動時に3相短絡制御が実行されてトルク変動などの車両駆動装置の駆動に影響を与えてしまうことを抑制することができる。上記に関する内容は、実施の形態1〜5に記載されている。
以下、実施の形態1〜5について、図面を参照しながら具体的に説明する。
以下で説明する実施の形態1〜5は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態1〜5で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、各図において、同じ構成部材については同じ符号を付している。また、実施の形態1〜5のうちの2つ以上の実施の形態を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
(実施の形態1)
実施の形態1の車両駆動装置について、図1〜図7を参照しながら説明する。
[1−1.車両駆動装置の構成]
まず、実施の形態1による車両駆動装置5Aの構成について、図1〜図3を参照しながら説明する。
図1は、実施の形態1による車両駆動装置5Aを備える電気車両1を例示する図である。電気車両1は、駆動輪2と、動力伝達機構3と、永久磁石モータM1と、インバータ10と、電池P1とを備えている。これらの構成のうち、車両駆動装置5Aは、永久磁石モータM1、インバータ10および電池P1によって構成されている。以下、永久磁石モータM1をモータM1と呼ぶ場合がある。
モータM1は、電気車両1の駆動輪2を駆動する3相交流式のモータであり、例えば、埋込磁石同期モータまたは表面磁石同期モータなどのモータが用いられる。
動力伝達機構3は、例えば、ディファレンシャルギアおよびドライブシャフトによって構成され、モータM1と駆動輪2との間にて動力を伝達する。モータM1の回転力は、動力伝達機構3を経由して駆動輪2に伝達される。これと同様に、駆動輪2の回転力は、動力伝達機構3を経由してモータM1に伝達される。なお、電気車両1は、動力伝達機構3を備えていなくてもよく、モータM1と駆動輪2とが直結された構造であってもよい。
電池P1は、例えば、リチウムイオン電池などの直流電源である。電池P1は、モータM1を駆動させるための電力を供給し、および、この電力を蓄積する。
インバータ10は、電池P1から供給された直流電力を例えば3相の交流電力に変換して、その交流電力をモータM1に供給する。このように車両駆動装置5Aは、電池P1の電力を用いて3相交流式のモータM1を駆動するように構成されている。
図2は、車両駆動装置5Aのインバータ10、永久磁石モータM1および電池P1を例示する回路図である。
図2に示すように、車両駆動装置5Aは、モータM1と、インバータ10と、電池P1とを備えている。インバータ10は、3相ブリッジ回路40とドライブ回路30と制御回路20とを備えている。なお図2には、3相ブリッジ回路40に印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサC1も図示されている。
3相ブリッジ回路40は、電池P1から供給された直流電力をスイッチング動作により3相の交流電力に変換して、その交流電力をモータM1に供給し、モータM1を駆動する回路である。3相ブリッジ回路40の、スイッチング動作制御用の入力側はドライブ回路30に、電力の入力側は電池P1に、それぞれ接続され、出力側はモータM1に接続されている。なお、モータM1の回生時には、3相ブリッジ回路40の出力側から回生電流が導入され、電力の入力側に向かって流れるが、ここでは、電池P1が接続される側を入力側、モータM1が接続される側を出力側と定義する。
図3は、車両駆動装置5Aのインバータ10が備える3相ブリッジ回路40を例示する回路図である。なお、図3に示す電圧Vpは電源電圧であり、電圧Vgは接地電圧である。
3相ブリッジ回路40は、図3の上側に位置する上側アーム群に設けられたスイッチ素子S1、S2、S3と、図3の下側に位置する下側アーム群に設けられたスイッチ素子S4、S5、S6とを備えている。例えば、スイッチ素子S1〜S6は、電界効果トランジスタ(FET)または絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)などによって構成される。また、スイッチ素子S1〜S6は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成されてもよい。
各スイッチ素子S1、S2、S3は、モータM1の3つの端子から引き出された3つの出力線と、電池P1の正極に接続された電源線Lpとの間のそれぞれの間に接続されている。各スイッチ素子S4、S5、S6は、上記3つの出力線と電池P1の負極に接続された接地線Lgとの間のそれぞれの間に接続されている。また、各スイッチ素子S1〜S6には、還流ダイオードが並列接続されている。還流ダイオードは、スイッチ素子S1〜S6に寄生する寄生ダイオードであってもよい。
各スイッチ素子S1〜S6は、ドライブ回路30に接続され、ドライブ回路30から出力された信号によって駆動する。モータM1は、各スイッチ素子S1〜S6の駆動に基づいて、力行、回生または惰行などの状態で駆動される。
次に、ドライブ回路30について、図2を参照しながら説明する。
ドライブ回路30は、3相PWM制御および3相短絡制御を実行するため、3相ブリッジ回路40のスイッチ素子S1〜S6を駆動する回路である。ドライブ回路30の入力側は制御回路20に接続され、出力側は3相ブリッジ回路40に接続されている。
ドライブ回路30は、切替回路31と、バッファ回路32と、3相短絡回路33と、OR回路34とを備える。また、ドライブ回路30は、チェック用端子36と異常受付端子39とを備える。
異常受付端子39は、インバータ10の異常状態を告げる異常信号s2を受け付ける端子である。この異常信号s2は、後述する異常検出部29からドライブ回路30に出力される。
チェック用端子36は、3相短絡回路33による3相短絡制御を実行するためのアクティブチェック信号s1を受け付ける端子である。このアクティブチェック信号s1は、制御回路20からドライブ回路30に出力される。以下において、3相短絡回路33による3相短絡制御を試行し、3相短絡回路33が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することをアクティブチェックと呼ぶ。アクティブチェックを行うことで、3相短絡回路33の故障有無を診断することができる。
チェック用端子36および異常受付端子39に入力されたそれぞれの信号は、OR回路34に入力される。OR回路34は、チェック用端子36および異常受付端子39の少なくとも一方の端子が信号を受け付けている場合に、3相短絡回路33に信号を出力する。3相短絡回路33は、OR回路34から出力された信号に基づいて駆動する。すなわち3相短絡回路33は、異常検出およびアクティブチェックのそれぞれの入力信号に基づいて駆動する。
3相短絡回路33は、モータM1の3相のそれぞれを短絡するために用いられる回路である。具体的には、3相短絡回路33は、OR回路34から出力された信号に基づいて3相ブリッジ回路40の上側アーム群のスイッチ素子S1〜S3および下側アーム群のスイッチ素子S4〜S6のうち、一方のアーム群の各スイッチ素子を短絡し、他方のアーム群の各スイッチ素子を開放する回路である。このようにしてモータM1の3相のそれぞれを短絡することで、モータM1の巻線コイル間から誘起される電圧を0にすることができる。これにより、例えば3相ブリッジ回路40に過電圧が検出された場合に、3相短絡回路33を働かせて3相短絡制御を行い、3相ブリッジ回路40にかかる過電圧を低減することができる。
切替回路31は、3相ブリッジ回路40を、後述する駆動信号演算部23から出力された駆動信号に基づいて駆動するか、あるいは、3相短絡回路33から出力された信号を用いて駆動するかを切り替える回路である。なお、駆動信号演算部23から出力される駆動信号は、3相ブリッジ回路40を3相PWM制御する信号などの各種信号が含まれる。切替回路31による切り替えは、例えばハードロジック回路によって実現されている。本実施の形態の切替回路31は、ドライブ回路30がチェック用端子36を介してアクティブチェック信号s1を受け付けた場合に、モータM1にて実行されているスイッチング制御等を3相短絡回路33による3相短絡制御に切り替える。
バッファ回路32は、各スイッチ素子S1〜S6を駆動することができるように、3相ブリッジ回路40に出力する出力信号を増幅する回路である。バッファ回路32によって出力信号が増幅されることで、3相ブリッジ回路40の駆動が可能となる。
次に、制御回路20について、図2を参照しながら説明する。
制御回路20は、各種の演算等を行うマイクロプロセッサと、マイクロプロセッサを動作させるためのプログラムまたは情報などを記憶するメモリ24とによって構成される。
図2に示すように制御回路20は、モータ制御信号取得部21と、モータ制御信号演算部22と、駆動信号演算部23と、アクティブチェック指示部26と、故障判断部25と、3相短絡制御信号割り込み部27とを備える。また、制御回路20は、異常検出部29を備える。
モータ制御信号取得部21は、モータM1に流れる電流を検知する電流センサCSu、CSv、CSw、および、モータM1の磁極位置を検出して回転位置を検知する回転位置センサRSなどの各種センサによって検知された情報を取得する。なお、電流センサCSu、CSv、CSwは、モータM1のu相、v相、w相における電流値を検知するセンサである。また、モータ制御信号取得部21は、電源線Lpにおける電圧Vpに関する情報を取得する。また、モータ制御信号取得部21は、制御回路20の外部、例えば電気車両1のECU(Electronic Control Unit)から出力されたトルク指令などの制御指令情報を取得する。
モータ制御信号演算部22は、モータ制御信号取得部21にて取得した上記情報に基づいて、演算によりトルク指令値を電流に換算し、モータM1を電流制御するための制御信号を出力する。例えば、モータ制御信号演算部22は、車両駆動装置5Aの駆動時におけるモータM1のトルクが、トルク指令情報に示された目標トルク(例えば電気車両1のアクセルペダルまたはブレーキペダルの操作量に応じたトルク)となるように、モータM1の電流制御のための制御信号を出力する。
また、モータ制御信号演算部22は、モータ制御信号取得部21にて取得した上記情報を演算により変換して、アクティブチェックおよび故障判断を行うための制御信号を出力する。例えば、モータ制御信号演算部22は、トルク指令などの制御指令情報を上記した制御信号に変換して駆動信号演算部23およびアクティブチェック指示部26に出力する。また、モータ制御信号演算部22は、モータM1に流れる電流、モータM1の磁極の回転位置、電源線Lpにおける電圧Vpなどの情報を制御信号に変換して駆動信号演算部23および故障判断部25に出力する。
アクティブチェック指示部26は、アクティブチェック信号s1をチェック用端子36に出力する回路である。前述したようにアクティブチェックとは、3相短絡回路33による3相短絡制御を試行し、3相短絡回路33が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することである。アクティブチェック指示部26は、モータ制御信号演算部22から出力された上記制御信号に基づいて、今のタイミングでアクティブチェックを行っても車両駆動装置5Aの駆動に影響を与えないか否かを判断する。
例えば、アクティブチェック指示部26は、モータM1が力行でない状態および回生でない状態のときにアクティブチェックを行うと判断し、モータM1が力行状態または回生状態であるときにアクティブチェックを行わないと判断する。モータM1が力行でない状態および回生でない状態とは、例えば、電気車両1の加減速が小さく、モータM1が惰行している状態に相当する。これらのアクティブチェックの実行可否の判断は、定期的な時間間隔で実行される。また、アクティブチェック指示部26は、アクティブチェック信号s1を出力すると同時に、アクティブチェック中であることを示すビジー信号を故障判断部25に出力する。
故障判断部25は、3相短絡回路33の故障有無を判断する回路である。故障判断部25は、3相短絡制御が実行された際の、モータM1の3相に流れる電流の変化、電流位相の変化、および、3相ブリッジ回路40における直流電圧の変化の少なくとも1つの変化に関する情報を取得する。電流の変化は、電流センサCSu、CSv、CSwによって検出した電流値に基づいて求めることができる。電流位相の変化は、例えば、モータM1のd軸電流とq軸電流に基づいて求めることができる。d軸電流、q軸電流は、電流センサCSu、CSv、CSwによって検出した電流値、および、回転位置センサRSによって検出した磁極の回転位置に基づいて求めることができる。直流電圧の変化は、電源線Lpにおける電圧Vpを検出することで求めることができる。
故障判断部25は、取得した上記情報に基づいて3相短絡回路の故障有無を判断する。例えば、故障判断部25は、電流が規定の範囲から外れた場合、電流位相が規定の範囲から外れた場合、および、直流電圧が規定の範囲から外れた場合のうち少なくとも1つの場合に、3相短絡回路33が故障していると判断する。また、故障判断部25は、3相短絡回路33が故障していると判断した場合に、その故障情報を外部に報知する報知信号を出力する。
異常検出部29は、インバータ10に発生する過電圧などの異常を検出する回路である。ここでは、異常検出部29は、電源線Lpの断線などによる失陥、あるいは、スイッチ素子S1〜S6、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRSなどの故障により発生する過電圧を検出する回路であるとして説明する。異常検出部29は、電池P1のプラス側であって、3相ブリッジ回路40の電源線Lpに接続されている。異常検出部29が異常(ここでは過電圧)を検出すると、異常信号s2が異常受付端子39に出力される。これにより、3相短絡回路33が3相短絡制御を行うので、3相ブリッジ回路40の過電圧を抑制することができる。なお、ここで例示した、異常検出部29の異常である過電圧は、例えば、電池P1のプラス側配線の外れ、断線、あるいは、電池P1に設けられた図示しないメインリレーの開放などによって発生しうる。また、異常検出部29とドライブ回路30(3相短絡回路33を含む)は、いずれもハードウエアで構成されるので、異常検出部29が異常を検出して3相短絡回路33が3相短絡制御を行うまでの非常時の動作は、自動的に、かつ、迅速に行われる。また、異常検出部29は、制御回路20内に設けられている必要はなく、制御回路20の外に設けられていてもよい。また、異常検出部29は、過電圧を検出する構成に限定されるものではなく、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRSなどの出力異常(所定の出力電圧範囲を超えるなど)を直接検出するような構成を備えていてもよい。
駆動信号演算部23は、モータ制御信号演算部22から出力された制御信号に基づいて、モータM1を駆動するために必要な駆動信号を演算し、この駆動信号をドライブ回路30に出力する。駆動信号演算部23は、車両駆動装置5Aが通常駆動している際は、3相PWM制御を行うための駆動信号を出力する。
また、駆動信号演算部23は、インバータ10の異常が検出された場合、かつ、後述する故障判断部25によって3相短絡回路33が故障していると判断された場合は、メモリ24に格納されたプログラムによって3相短絡制御を行うための駆動信号を出力する。
このプログラムによる3相短絡制御は、3相短絡制御信号割り込み部27によって実行される。具体的には、3相短絡制御信号割り込み部27は、故障判断部25から3相短絡回路33が故障しているという故障情報を受け取ると、インバータ10の異常が検出された場合に駆動信号演算部23に対し、3相短絡を実行するための割り込み信号を出力する。駆動信号演算部23は、割り込み信号を受けることで、3相PWM制御の駆動信号を3相短絡制御の駆動信号に変更してドライブ回路30に出力する。
このように、制御回路20は、3相PWM制御および3相短絡制御を実行するための駆動信号をドライブ回路30に出力する。ドライブ回路30では、制御回路20から出力された駆動信号、および、3相短絡回路33から出力された信号のうちのいずれかの信号を選択し、3相ブリッジ回路40に出力する。3相ブリッジ回路40は、ドライブ回路30から出力された信号に基づいて、モータM1を駆動する。
実施の形態1の車両駆動装置5Aは、永久磁石モータM1を駆動するインバータ10を備える。インバータ10は、複数のスイッチ素子S1〜S6を有する3相ブリッジ回路40と、3相ブリッジ回路40に接続されるドライブ回路30と、ドライブ回路30に接続される制御回路20とを備える。ドライブ回路30は、永久磁石モータM1の3相を短絡させる3相短絡回路33と、異常検出部29から出力された異常信号s2を受け付ける異常受付端子39と、3相短絡回路33による3相短絡制御を実行するためのアクティブチェック信号s1を受け付けるチェック用端子36とを有する。
この構成によれば、ドライブ回路30が、チェック用端子36を用いてアクティブチェック信号s1を適宜受け付けることができる。このアクティブチェック信号s1によって、車両駆動装置5Aは、3相短絡回路33が3相短絡制御を実行できるか否かを適宜確認することができる。これにより、インバータ10において3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、信頼性の高い車両駆動装置5Aを提供することができる。
[1−2.車両駆動装置の動作]
次に、車両駆動装置5Aの動作について、図4および図5を参照しながら説明する。
図4は、車両駆動装置5Aの動作を例示するフローチャートである。図5は、図4のフローチャートに続き、車両駆動装置5Aの動作を例示するフローチャートである。
はじめに、車両駆動装置5Aは起動され、駆動されている状態にある。
この状態で、制御回路20は、外部からトルク指令情報を取得する(ステップS11)。具体的には、モータ制御信号取得部21が、電気車両1のECUから出力されたトルク指令情報を取得する。このトルク指令情報は、モータ制御信号演算部22にて変換され、制御信号として例えばアクティブチェック指示部26および駆動信号演算部23に出力される。
次に、制御回路20は、車両駆動装置5Aが力行指令を受けているか否か、または、回生指令を受けているか否かを判断する(ステップS12)。具体的には、制御回路20は、トルク指令情報に基づくモータM1のトルク変動が単位時間あたりに所定範囲内であるか否かによって、力行指令または回生指令を受けているか否かを判断する。
例えば、制御回路20は、トルク変動が所定範囲内でない場合に、モータM1が力行指令または回生指令を受けていると判断する(S12のYes)。この場合に制御回路20は、今のタイミングで3相短絡回路33の故障診断を行なわないこととし、ステップS11に戻る。一方、制御回路20は、トルク変動が所定範囲内である場合に、モータM1が力行指令または回生指令を受けていないと判断する(S12のNo)。この場合に制御回路20は、今のタイミングで3相短絡回路33の故障診断を行うこととし、次のステップに進む。
次に、制御回路20は、インバータ10のフィードバック制御を停止する(ステップS13)。具体的には、駆動信号演算部23が、3相PWM制御を行うための駆動信号の出力を停止する。
また、制御回路20は、アクティブチェック信号s1を出力する(ステップS14)。具体的にはアクティブチェック指示部26が、アクティブチェック信号s1をドライブ回路30のチェック用端子36に出力する。このアクティブチェック信号s1は、後述するステップS18またはS21にて停止されるまで継続して出力される。
次に、インバータ10は、3相短絡回路33を用いた3相短絡制御を実行する(ステップS15)。アクティブチェック信号s1を受け取ったチェック用端子36は、その信号をOR回路34に出力し、OR回路34は受け取った信号を3相短絡回路33に出力する。これによって3相短絡回路33が試行駆動される。ここで切替回路31によって、切替回路31の出力信号が、駆動信号演算部23から出力される駆動信号でなく、3相短絡回路33から出力される信号に切り替えられる。そして、3相短絡回路33から出力される信号が、バッファ回路32を介して3相ブリッジ回路40に出力される。これにより、3相短絡回路33を用いた3相短絡制御が、3相ブリッジ回路40にて試行される。
次に、制御回路20は、車両駆動装置5Aにおける電流の変化、電流位相の変化、及び、電圧の変化を取得する(ステップS16)。具体的には、モータ制御信号取得部21が、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRS、電源線Lpにおける電圧Vpなどの情報を取得する。これらの情報は、モータ制御信号演算部22にて変換され、制御信号として故障判断部25に出力される。
次に、制御回路20は、これら電流、電流位相および電圧の変化が規定の範囲内であるか否かによって、3相短絡回路33の故障有無を判断する(ステップS17)。具体的には、故障判断部25が、電流が規定の範囲から外れたか否か、電流位相が規定の範囲から外れたか否か、および、直流電圧が規定の範囲から外れたか否かを判断する。
故障判断部25は、電流、電流位相および電圧の変化のうち全てが規定の範囲内であると判断した場合に(S17のYes)、3相短絡回路33が故障しておらず正常であると判断する。そして制御回路20は、アクティブチェック指示部26から出力していたアクティブチェック信号s1の出力を停止し(ステップS18)、インバータ10のフィードバック制御を再開する(ステップS19)。そして制御回路20は、ステップS11に戻り、アクティブチェックを繰り返す。これらのアクティブチェックは、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
一方、制御回路20は、電流、電流位相および電圧の変化のうち少なくとも1つが規定の範囲から外れている場合に(S17のNo)、3相短絡回路33が故障している判断する。そして、制御回路20は、図5に示すように、3相短絡回路33が故障している場合の動作を実行する。
図5に示すように、制御回路20は、アクティブチェック指示部26から出力していたアクティブチェック信号s1の出力を停止し(ステップS21)、インバータ10のフィードバック制御を再開する(ステップS22)。
次に、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していることを示す故障警告を外部、例えば電気車両1のECU(上位制御部)に出力する(ステップS23)。また、故障判断部25が、モニターを用いて故障情報を表示したり、スピーカを用いて故障情報を知らせる音を出力したりすることで、ユーザに故障情報を報知したりしてもよい。
また、制御回路20は、3相短絡回路33への3相短絡制御信号の出力を禁止する(ステップS24)。具体的には、アクティブチェック信号s1がアクティブチェック指示部26から出力されないようにする。また、制御回路20は、3相短絡制御のフラグを立てる(ステップS25)。このフラグが立つことで、例えば異常検出部29がインバータ10の異常を検出した場合に、3相短絡回路33を用いるのでなく、制御回路20内のメモリ24に格納されているプログラムを用いて3相短絡制御が実行される。これにより、3相短絡回路33の故障を修理するまでの間にインバータ10の異常が発生しても、3相短絡制御を実行することができる。
なお、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していると判断された場合に、以後の車両駆動装置5Aの駆動においてモータM1の回転数を制限するように、インバータ10を制御してもよい。
また、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していると判断され、かつ、アクティブチェック信号s1を出力している最中に、制御回路20内のメモリ24に格納されているプログラムを用いて3相短絡制御を行う制御信号をドライブ回路30に出力してもよい。これにより、アクティブチェック信号s1を出力している最中に、故障した3相短絡回路33により3相ブリッジ回路40を駆動することで発生してしまう3相ブリッジ回路40の過電圧を抑制することができる。
また、制御回路20は、アクティブチェック信号s1の出力中に、モータM1が力行または回生の状態となった場合に、アクティブチェック信号s1の出力を停止してもよい。制御回路20は、アクティブチェック信号s1の出力を停止した場合に、3相短絡回路33の故障有無の判断を無効としてもよい。
[1−3.実施の形態1の変形例]
次に、実施の形態1の変形例による車両駆動装置5Aについて、図6および図7を参照しながら説明する。この変形例では、モータM1の回転数が所定の閾値の範囲内である場合に、アクティブチェックを行う例について説明する。
図6は、実施の形態1の変形例による車両駆動装置5Aの動作を例示するフローチャートである。図7は、この変形例による車両駆動装置5Aの永久磁石モータM1が3相短絡された時に発生するトルクを示す図である。なお、図7の縦軸は、プラス側(上側)に向かうほど制動トルクが大きくなることを示している。
実施の形態1の変形例の車両駆動装置5Aの動作方法では、モータM1が力行指令または回生指令を受けているか否かを判断するステップS12と、インバータ10のフィードバック制御を停止するステップS13との間に、モータM1の回転数に関する判断を行い、アクティブチェックを行うか否かを決めるステップを有する。
具体的には、図6に示すように、ステップS12でYesと判定された後にモータM1の回転数を読み込む(ステップS12A)。モータM1の回転数は、回転位置センサRSの検知結果に基づいて求めることができる。
次に、モータM1の回転数が所定の閾値の範囲内か否かを判断する(ステップS12B)。具体的には、モータM1の回転数の閾値である第1閾値r1、および、第1閾値r1よりも大きな第2閾値r2を設定し、モータM1の回転数が第1閾値r1以上第2閾値r2以下であるか否かを判断する。制御回路20は、回転数が第1閾値r1以上第2閾値r2以下である場合に(S12BのYes)、アクティブチェックを行う各ステップに進む。一方、回転数が第1閾値r1以上第2閾値r2以下でない場合は(S12BのNo)、ステップS11に戻る。
このように、モータM1の回転数に基づいてアクティブチェックの実行可否を決めるのは以下に示す理由による。図7に示すように、モータM1の回転数が第1閾値r1よりも小さいときにアクティブチェックを行うと、大きな制動トルクが急に発生することがある。そこでこの変形例では、モータM1の回転数が第1閾値r1以上である場合に、アクティブチェックを実行することとしている。また、モータM1の回転数が第2閾値r2よりも大きい、つまり比較的激しい運転時であると推定されるときにアクティブチェックを行うと、モータM1へのトルク指令が急に大きく変わった場合に対応できなくなることがある。そこでこの変形例では、モータM1の回転数が第2閾値r2以下である場合に、アクティブチェックを実行することとしている。
このように実施の形態1の変形例の車両駆動装置5Aでは、モータM1の回転数に応じてアクティブチェックの実行可否を決めている。これにより、車両駆動装置5Aの駆動時における急激な変動を抑制することができる。
以上の実施の形態1は、本質的に好ましい例示であって、この開示、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
例えば、前記制御回路は、前記アクティブチェック信号を出力するアクティブチェック指示部を有していてもよい。
この構成によれば、制御回路が、アクティブチェック指示部を用いて、アクティブチェック信号を能動的に出力することができる。チェック用端子は、このアクティブチェック信号を適宜受け付け、車両駆動装置は、3相短絡回路が3相短絡制御を実行できるか否かを適宜確認することができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。
また、前記故障判断部は、前記電流が規定の範囲から外れた場合、前記電流位相が規定の範囲から外れた場合、および、前記直流電圧が規定の範囲から外れた場合のうち少なくとも1つの場合に、前記3相短絡回路が故障していると判断してもよい。
これによれば、故障判断部は、3相短絡回路の故障有無を簡易に判断することができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。
また、前記制御回路は、前記3相短絡回路の故障有無を判断した後、前記アクティブチェック信号の出力を停止してもよい。
これによれば、制御回路は、3相短絡回路の故障有無を確認するための3相短絡制御をすみやかに終わらせ、3相短絡制御と異なる通常の制御をドライブ回路に実行させることができる。これにより、制御回路は、次の力行指令、ないしは回生指令を速やかに実行する事が可能となる。
また、前記制御回路は、前記3相短絡回路が故障していると判断した後には、新たに前記アクティブチェック信号を出力しなくてもよい。
これによれば、制御回路が、アクティブチェック信号を必要以上に出力することを抑制できる。これにより、故障した3相短絡回路を用いてインバータの制御が行われてしまうことを防止することができる。
また、前記制御回路は、前記3相短絡回路が故障していると判断した後、前記永久磁石モータの回転数を制限するように、前記3相ブリッジ回路を制御してもよい。
このように、永久磁石モータの回転数を制限することで、過電圧などの異常が3相ブリッジ回路に発生することを事前に抑制することができる。
また、前記制御回路は、前記3相短絡回路が故障していると判断し、かつ、前記アクティブチェック信号を出力している最中に、前記制御回路内のメモリに格納されているプログラムを用いて3相短絡制御を行う制御信号を前記ドライブ回路に出力してもよい。
これにより、アクティブチェック信号を出力している最中に、故障した3相短絡回路により3相ブリッジ回路を駆動することで発生してしまう3相ブリッジ回路の過電圧を抑制することができる。
また、前記制御回路は、前記永久磁石モータの回転数が第1閾値以上である場合に、前記アクティブチェック信号を出力してもよい。
これによれば、例えば永久磁石モータの回転数が第1閾値よりも小さいときに、アクティブチェック信号を出力しないようにし、大きなブレーキトルクが急に発生してしまうことを抑制できる。これにより、車両駆動装置の駆動時における急激なトルク変動を抑制することができる。
また、前記制御回路は、前記永久磁石モータの回転数が、前記第1閾値よりも大きい第2閾値以下である場合に、前記アクティブチェック信号を出力してもよい。
これによれば、例えば永久磁石モータの回転数が第2閾値よりも大きい、つまり比較的激しい運転時であると推定されるときに、アクティブチェック信号を出力しないようにすることで、モータのトルク指令の急な変動に対応できなくなることを抑制できる。これにより、車両駆動装置の駆動時における急激な変動を抑制することができる。
また、前記制御回路は、前記アクティブチェック信号の出力を停止した場合に、前記3相短絡回路の故障有無の判断を無効としてもよい。
これによれば、3相短絡回路の故障有無の判断が途中になって、誤った故障判断がなされることを抑制することができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。
(実施の形態2)
実施の形態2の車両駆動装置について、図8〜図20を参照しながら説明する。
走行中における車両駆動装置の永久磁石モータの状態を大まかに分けると、力行している状態、回生している状態、ならびに、力行および回生のいずれでもない状態(車両が惰行状態、および、エンジンや他の永久磁石モータなどの他の駆動源がある場合は、他の駆動源のみで走行している状態)に分けられる。以下の実施の形態2では、永久磁石モータが力行および回生のいずれでもない状態、および、所定トルク以下の小さなトルクで回生している状態にて3相短絡回路の故障有無をチェックする例を説明する。
[2−1.車両駆動装置の構成]
まず、実施の形態2による車両駆動装置5Bの構成について、図8〜図10を参照しながら説明する。
図8は、実施の形態2による車両駆動装置5Bを備える電気車両101を例示する図である。電気車両101は、駆動輪2と、動力伝達機構3と、永久磁石モータM1と、インバータ10と、電池P1とを備えている。これらの構成のうち、車両駆動装置5Bは、永久磁石モータM1、インバータ10および電池P1によって構成されている。以下、永久磁石モータM1をモータM1と呼ぶ場合がある。
モータM1は、電気車両101の駆動輪2を駆動する3相交流式のモータであり、例えば、埋込磁石同期モータまたは表面磁石同期モータなどのモータが用いられる。
動力伝達機構3は、例えば、ディファレンシャルギアおよびドライブシャフトによって構成され、モータM1と駆動輪2との間にて動力を伝達する。モータM1の回転力は、動力伝達機構3を経由して駆動輪2に伝達される。これと同様に、駆動輪2の回転力は、動力伝達機構3を経由してモータM1に伝達される。なお、電気車両101は、動力伝達機構3を備えていなくてもよく、モータM1と駆動輪2とが直結された構造であってもよい。
電池P1は、例えば、リチウムイオン電池などの直流電源である。電池P1は、モータM1を駆動させるための電力を供給し、および、この電力を蓄積する。
インバータ10は、電池P1から供給された直流電力を例えば3相の交流電力に変換して、その交流電力をモータM1に供給する。このように車両駆動装置5Bは、電池P1の電力を用いて3相交流式のモータM1を駆動するように構成されている。
図9は、車両駆動装置5Bのインバータ10、永久磁石モータM1および電池P1を例示する回路図である。
図9に示すように、車両駆動装置5Bは、モータM1と、インバータ10と、電池P1とを備えている。インバータ10は、3相ブリッジ回路40とドライブ回路30と制御回路20とを備えている。なお図9には、3相ブリッジ回路40に印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサC1も図示されている。
3相ブリッジ回路40は、電池P1から供給された直流電力をスイッチング動作により3相の交流電力に変換して、その交流電力をモータM1に供給し、モータM1を駆動する回路である。3相ブリッジ回路40の、スイッチング動作制御用の入力側はドライブ回路30に、電力の入力側は電池P1に、それぞれ接続され、出力側はモータM1に接続されている。なお、モータM1の回生時には、3相ブリッジ回路40の出力側から回生電流が導入され、電力の入力側に向かって流れるが、ここでは、電池P1が接続される側を入力側、モータM1が接続される側を出力側と定義する。
図10は、車両駆動装置5Bのインバータ10が備える3相ブリッジ回路40を例示する回路図である。なお、図10に示す電圧Vpは電源電圧であり、電圧Vgは接地電圧である。
3相ブリッジ回路40は、図10の上側に位置する上側アーム群に設けられたスイッチ素子S1、S2、S3と、図10の下側に位置する下側アーム群に設けられたスイッチ素子S4、S5、S6とを備えている。例えば、スイッチ素子S1〜S6は、電界効果トランジスタ(FET)または絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)などによって構成される。また、スイッチ素子S1〜S6は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成されてもよい。
各スイッチ素子S1、S2、S3は、モータM1の3つの端子から引き出された3つの出力線と、電池P1の正極に接続された電源線Lpとの間のそれぞれの間に接続されている。各スイッチ素子S4、S5、S6は、上記3つの出力線と電池P1の負極に接続された接地線Lgとの間のそれぞれの間に接続されている。また、各スイッチ素子S1〜S6には、還流ダイオードが並列接続されている。還流ダイオードは、スイッチ素子S1〜S6に寄生する寄生ダイオードであってもよい。
各スイッチ素子S1〜S6は、ドライブ回路30に接続され、ドライブ回路30から出力された信号によって駆動する。モータM1は、各スイッチ素子S1〜S6の駆動に基づいて、力行、回生または惰行などの状態で駆動される。
次に、ドライブ回路30について、図9を参照しながら説明する。
ドライブ回路30は、3相PWM制御および3相短絡制御を実行するため、3相ブリッジ回路40のスイッチ素子S1〜S6を駆動する回路である。ドライブ回路30の入力側は制御回路20に接続され、出力側は3相ブリッジ回路40に接続されている。
ドライブ回路30は、切替回路31と、バッファ回路32と、3相短絡回路33と、OR回路34とを備える。また、ドライブ回路30は、チェック用端子36と異常受付端子39とを備える。
異常受付端子39は、インバータ10の異常状態を告げる異常信号s2を受け付ける端子である。この異常信号s2は、後述する異常検出部29からドライブ回路30に出力される。
チェック用端子36は、3相短絡回路33による3相短絡制御を実行するためのアクティブチェック信号s1を受け付ける端子である。このアクティブチェック信号s1は、制御回路20からドライブ回路30に出力される。以下において、3相短絡回路33による3相短絡制御を試行し、3相短絡回路33が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することをアクティブチェックと呼ぶ。アクティブチェックを行うことで、3相短絡回路33の故障有無を診断することができる。
チェック用端子36および異常受付端子39に入力されたそれぞれの信号は、OR回路34に入力される。OR回路34は、チェック用端子36および異常受付端子39の少なくとも一方の端子が信号を受け付けている場合に、3相短絡回路33に信号を出力する。3相短絡回路33は、OR回路34から出力された信号に基づいて駆動する。すなわち3相短絡回路33は、異常検出およびアクティブチェックのそれぞれの入力信号に基づいて駆動する。
3相短絡回路33は、モータM1の3相のそれぞれを短絡するために用いられる回路である。具体的には、3相短絡回路33は、OR回路34から出力された信号に基づいて3相ブリッジ回路40の上側アーム群のスイッチ素子S1〜S3および下側アーム群のスイッチ素子S4〜S6のうち、一方のアーム群の各スイッチ素子を短絡し、他方のアーム群の各スイッチ素子を開放する回路である。このようにしてモータM1の3相のそれぞれを短絡することで、モータM1の巻線コイル間から誘起される電圧を0にすることができる。これにより、例えば3相ブリッジ回路40に過電圧が検出された場合に、3相短絡回路33を働かせて3相短絡制御を行い、3相ブリッジ回路40にかかる過電圧を低減することができる。
切替回路31は、3相ブリッジ回路40を、後述する駆動信号演算部23から出力された駆動信号に基づいて駆動するか、あるいは、3相短絡回路33から出力された信号を用いて駆動するかを切り替える回路である。なお、駆動信号演算部23から出力される駆動信号は、3相ブリッジ回路40を3相PWM制御する信号などの各種信号が含まれる。切替回路31による切り替えは、例えばハードロジック回路によって実現されている。本実施の形態の切替回路31は、ドライブ回路30がチェック用端子36を介してアクティブチェック信号s1を受け付けた場合に、モータM1にて実行されているスイッチング制御等を3相短絡回路33による3相短絡制御に切り替える。
バッファ回路32は、各スイッチ素子S1〜S6を駆動することができるように、3相ブリッジ回路40に出力する出力信号を増幅する回路である。バッファ回路32によって出力信号が増幅されることで、3相ブリッジ回路40の駆動が可能となる。
次に、制御回路20について、図9を参照しながら説明する。
制御回路20は、各種の演算等を行うマイクロプロセッサと、マイクロプロセッサを動作させるためのプログラムまたは情報などを記憶するメモリ24とによって構成される。
図9に示すように制御回路20は、モータ制御信号取得部21と、モータ制御信号演算部22と、駆動信号演算部23と、アクティブチェック指示部26と、故障判断部25と、3相短絡制御信号割り込み部27とを備える。また、制御回路20は、異常検出部29を備える。
モータ制御信号取得部21は、モータM1に流れる電流を検知する電流センサCSu、CSv、CSw、および、モータM1の磁極位置を検出して回転位置を検知する回転位置センサRSなどの各種センサによって検知された情報を取得する。なお、電流センサCSu、CSv、CSwは、モータM1のu相、v相、w相における電流値を検知するセンサである。また、モータ制御信号取得部21は、電源線Lpにおける電圧Vpに関する情報を取得する。また、モータ制御信号取得部21は、制御回路20の外部、例えば電気車両101のECU(Electronic Control Unit)から出力されたトルク指令などの制御指令情報を取得する。
モータ制御信号演算部22は、モータ制御信号取得部21にて取得した上記情報に基づいて、演算によりトルク指令値を電流に換算し、モータM1を電流制御するための制御信号を出力する。例えば、モータ制御信号演算部22は、車両駆動装置5Bの駆動時におけるモータM1のトルクが、トルク指令情報に示された目標トルク(例えば電気車両101のアクセルペダルまたはブレーキペダルの操作量に応じたトルク)となるように、モータM1の電流制御のための制御信号を出力する。
また、モータ制御信号演算部22は、モータ制御信号取得部21にて取得した上記情報を演算により変換して、アクティブチェックおよび故障判断を行うための制御信号を出力する。例えば、モータ制御信号演算部22は、トルク指令などの制御指令情報を上記した制御信号に変換して駆動信号演算部23およびアクティブチェック指示部26に出力する。また、モータ制御信号演算部22は、モータM1に流れる電流、モータM1の磁極の回転位置、電源線Lpにおける電圧Vpなどの情報を制御信号に変換して駆動信号演算部23および故障判断部25に出力する。
アクティブチェック指示部26は、アクティブチェック信号s1をチェック用端子36に出力する回路である。前述したようにアクティブチェックとは、3相短絡回路33による3相短絡制御を試行し、3相短絡回路33が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することである。アクティブチェック指示部26は、モータ制御信号演算部22から出力された上記制御信号に基づいて、今のタイミングでアクティブチェックを行っても車両駆動装置5Bの駆動に影響を与えないか否かを判断する。
例えば、アクティブチェック指示部26は、3相短絡制御を実行した場合のモータM1のトルクが車両駆動装置5Bの駆動に影響を与えないトルク以下であるときにアクティブチェックを行うと判断する。アクティブチェックの実行可否の判断は、定期的な時間間隔で実行される。なお、アクティブチェックをするか否かの判断は、アクティブチェック指示部26に限られず、制御回路20に含まれる回路であればアクティブチェック指示部26と異なる回路によって行われてもよい。
ここで、アクティブチェック信号s1を出力するまでに制御回路20にて実行される処理について説明する。この処理は、3相短絡制御を実行した場合のモータM1のトルクが車両駆動装置5Bの駆動に影響を与えないトルク以下であるときに、以下に示す(1)、(2)、(3)の順で実行される。
(1)3相短絡制御を実行した場合のモータM1に流れることが予測される電流Id(d軸電流ともいう)、および電流Iq(q軸電流ともいう)を求める。
(2)電流Id、電流IqがモータM1に流れるようにドライブ回路30を介して3相ブリッジ回路40を制御する。
(3)チェック用端子36にアクティブチェック信号s1を出力する。
まず、制御回路20は、モータ制御信号演算部22から出力された制御信号に基づいて、3相短絡制御を実行した場合のモータM1のトルクが車両駆動装置5Bの駆動に影響を与えないトルク以下であるかを判断する。具体的には、制御回路20は、モータM1が力行していないとき、回生していないとき、または、所定トルク以下で回生しているときに、車両駆動装置5Bの駆動に影響を与えないトルク以下であると判断する。上記の所定トルクは、例えば、電気車両101にかかる制動時の加速度が重力加速度の−0.03倍(−0.03G)となるときのトルクである。
次に上記(1)に示すように、制御回路20は、3相短絡制御を実行した場合のモータM1に流れることが予測される電流Id、電流Iqを求める。この電流Id、電流Iqは、以下に示す(式1)、(式2)によって求められる。
(式1)、(式2)において、ωは角速度(回転数、回転速度)、φaは永久磁石による電機子鎖交磁束、Lqはq軸インダクタンス、Ldはd軸インダクタンス、Raは相抵抗である。ωは、回転位置センサRSの値に基づいて求められる。ωは、60/(2π・Pn)を乗算することでモータM1の回転速度に変換される(Pnは極対数)。φa、Lq、LdおよびRaは、モータM1の固有値である。(式1)、(式2)の導出方法については後述する。(式1)、(式2)は、メモリ24に格納され、必要に応じて読み出される。
(式1)、(式2)に示すように、電流Id、電流Iqは、モータM1の回転数に依存する値である。制御回路20は、3相短絡制御を実行した場合のモータM1の回転速度に基づいて電流Id、電流Iqを求める。
次に上記(2)に示すように、制御回路20は、前述した電流Id、電流IqがモータM1に流れるようにドライブ回路30を介して3相ブリッジ回路40を制御する。その制御の際、制御回路20は、モータM1に流れるd軸電流(電流Id)、q軸電流(電流Iq)をPI(Proportional Integral)制御等によって所定の変化率で変化させ、(式1)、(式2)で求めた電流Id、電流Iqの値に近づける。
図11は、比較例による車両駆動装置にて3相短絡制御を実行した場合に永久磁石モータに発生するトルク、d軸電流およびq軸電流を示す図である。図12は、実施の形態2による車両駆動装置5Bにて3相短絡制御を実行した場合に永久磁石モータM1に発生するトルク、d軸電流およびq軸電流を示す図である。
図11および図12には、モータM1が力行および回生のいずれでもない状態のときに3相短絡制御が実行された場合のトルク、d軸電流、q軸電流の変化が示されている。なお、モータM1の回転速度は、10000rpm(回/分)である。d軸電流は(式1)にて求められ、トルク、q軸電流のそれぞれは後述する(式11)、(式2)にて求められる。
図11に示す比較例では、上記のような電流制御が行われず、3相短絡制御の開始とともにd軸電流が0Aから−500Aに急激に変更される。そのため、3相短絡制御開始後のトルク、d軸電流、q軸電流の振れが大きく、これらの振れが所定範囲内に収まるまでに約30ms(ミリ秒)の時間を要している。
それに対し、図12に示す実施の形態では、d軸電流、q軸電流を所定の変化率で変化させるという電流制御が行われた後に3相短絡制御が実行されている。この図12では、d軸電流の現在値が0Aで、(式1)で求めた電流Idが−500Aである場合に、0Aであるd軸電流を1ms以上3ms以下の間に−500Aに変化させる電流制御が行われている。q軸電流も、1ms以上3ms以下の間に、(式2)で求めた電流Iqに変化させる電流制御が行われている。その後、3相短絡制御が実行されている。その結果、電流制御が行われた時点から約10msでトルク、d軸電流、q軸電流の振れが所定範囲内に収まっている。このように、3相短絡制御を実行する前に、モータM1に電流Id、電流Iqが流れるように電流制御することで、3相短絡制御を実行する際に発生するトルク変動および電流変動を抑制することができる。これにより、3相短絡回路33の故障有無のチェックに要する時間を短くすることが可能となる。
これらの電流制御を終えた後、上記(3)に示すように、制御回路20は、チェック用端子36にアクティブチェック信号s1を出力する(3相短絡制御の実行)。また、制御回路20は、アクティブチェック信号s1を出力すると同時に、アクティブチェック中であることを示すビジー信号を故障判断部25に出力する。
引き続き、図9を参照しながら制御回路20の各構成について説明する。
故障判断部25は、3相短絡回路33の故障有無を判断する回路である。故障判断部25は、3相短絡制御が実行された際の、モータM1の3相に流れる電流の変化、電流位相の変化、および、3相ブリッジ回路40における直流電圧の変化の少なくとも1つの変化に関する情報を取得する。電流の変化は、電流センサCSu、CSv、CSwによって検出した電流値に基づいて求めることができる。電流位相の変化は、例えば、モータM1のd軸電流とq軸電流に基づいて求めることができる。d軸電流、q軸電流は、電流センサCSu、CSv、CSwによって検出した電流値、および、回転位置センサRSによって検出した磁極の回転位置に基づいて求めることができる。直流電圧の変化は、電源線Lpにおける電圧Vpを検出することで求めることができる。
故障判断部25は、取得した上記情報に基づいて3相短絡回路の故障有無を判断する。例えば、故障判断部25は、電流が規定の範囲から外れた場合、電流位相が規定の範囲から外れた場合、および、直流電圧が規定の範囲から外れた場合のうち少なくとも1つの場合に、3相短絡回路33が故障していると判断する。また、故障判断部25は、3相短絡回路33が故障していると判断した場合に、その故障情報を外部に報知する報知信号を出力する。
異常検出部29は、インバータ10に発生する過電圧などの異常を検出する回路である。ここでは、異常検出部29は、電源線Lpの断線などによる失陥、あるいは、スイッチ素子S1〜S6、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRSなどの故障により発生する過電圧を検出する回路であるとして説明する。異常検出部29は、電池P1のプラス側であって、3相ブリッジ回路40の電源線Lpに接続されている。異常検出部29が異常(ここでは過電圧)を検出すると、異常信号s2が異常受付端子39に出力される。これにより、3相短絡回路33が3相短絡制御を行うので、3相ブリッジ回路40の過電圧を抑制することができる。なお、ここで例示した、異常検出部29の異常である過電圧は、例えば、電池P1のプラス側配線の外れ、断線、あるいは、電池P1に設けられた図示しないメインリレーの開放などによって発生しうる。また、異常検出部29とドライブ回路30(3相短絡回路33を含む)は、いずれもハードウエアで構成されるので、異常検出部29が異常を検出して3相短絡回路33が3相短絡制御を行うまでの非常時の動作は、自動的に、かつ、迅速に行われる。また、異常検出部29は、制御回路20内に設けられている必要はなく、制御回路20の外に設けられていてもよい。また、異常検出部29は、過電圧を検出する構成に限定されるものではなく、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRSなどの出力異常(所定の出力電圧範囲を超えるなど)を直接検出するような構成を備えていてもよい。
駆動信号演算部23は、モータ制御信号演算部22から出力された制御信号に基づいて、モータM1を駆動するために必要な駆動信号を演算し、この駆動信号をドライブ回路30に出力する。駆動信号演算部23は、車両駆動装置5Bが通常駆動している際は、3相PWM制御を行うための駆動信号を出力する。
また、駆動信号演算部23は、インバータ10の異常が検出された場合、かつ、後述する故障判断部25によって3相短絡回路33が故障していると判断された場合は、メモリ24に格納されたプログラムによって3相短絡制御を行うための駆動信号を出力する。
このプログラムによる3相短絡制御は、3相短絡制御信号割り込み部27によって実行される。具体的には、3相短絡制御信号割り込み部27は、故障判断部25から3相短絡回路33が故障しているという故障情報を受け取ると、インバータ10の異常が検出された場合に駆動信号演算部23に対し、3相短絡を実行するための割り込み信号を出力する。駆動信号演算部23は、割り込み信号を受けることで、3相PWM制御の駆動信号を3相短絡制御の駆動信号に変更してドライブ回路30に出力する。
このように、制御回路20は、3相PWM制御および3相短絡制御を実行するための駆動信号をドライブ回路30に出力する。ドライブ回路30では、制御回路20から出力された駆動信号、および、3相短絡回路33から出力された信号のうちのいずれかの信号を選択し、3相ブリッジ回路40に出力する。3相ブリッジ回路40は、ドライブ回路30から出力された信号に基づいて、モータM1を駆動する。
なお、前述したアクティブチェック信号s1が出力されるまでに制御回路20にて実行される処理の一部は、駆動信号演算部23にて行われてもよい。例えば駆動信号演算部23は、3相短絡制御を実行した場合のモータM1に流れることが予測される電流Id、電流Iqを求め、電流Id、電流IqがモータM1に流れるようにドライブ回路30を介して3相ブリッジ回路40を制御してもよい。
実施の形態2の車両駆動装置5Bは、モータM1を駆動するインバータ10を備える。インバータ10は、複数のスイッチ素子S1〜S6を有する3相ブリッジ回路40と、3相ブリッジ回路40に接続されるドライブ回路30と、ドライブ回路30に接続される制御回路20と、インバータ10の異常を検出する異常検出部29とを有する。ドライブ回路30は、モータM1の3相を短絡する3相短絡回路33と、異常検出部29から出力された異常信号s2を受け付ける異常受付端子39と、3相短絡回路33による3相短絡制御を実行するためのアクティブチェック信号s1を受け付けるチェック用端子36とを有する。制御回路20は、3相短絡制御を実行した場合のモータM1のトルクが車両駆動装置5Bの駆動に影響を与えないトルク以下であるときに、1)3相短絡制御を実行した場合のモータM1に流れることが予測される電流Id、電流Iqを求め、2)電流Id、電流IqがモータM1に流れるようにドライブ回路30を介して3相ブリッジ回路40を制御した後、3)チェック用端子36にアクティブチェック信号s1を出力する。
この構成によれば、ドライブ回路30が、チェック用端子36を用いてアクティブチェック信号s1を適宜受け付けることができる。このアクティブチェック信号s1によって、車両駆動装置5Bは、3相短絡回路33が3相短絡制御を実行できるか否かを適宜確認することができる。これにより、インバータ10において3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、信頼性の高い車両駆動装置5Bを提供することができる。
また、電流Id、電流IqがモータM1に流れるようにドライブ回路30を介して3相ブリッジ回路40を制御した後に、チェック用端子36にアクティブチェック信号s1を出力することで、3相短絡制御を実行する際に発生するトルク変動および電流変動を抑制することができる。また、トルク変動および電流変動が抑制されることで、3相短絡回路33の故障有無のチェックに要する時間を短くすることができる。
[2−2.d軸電流、q軸電流の導出方法]
ここで、電流Id、電流Iqに関する(式1)、(式2)を導出する過程について説明する。周知のように、モータM1の電圧方程式は、(式3)に示されるとおりである。
(式3)において、Vdはd軸電圧、Vqはq軸電圧、pは微分演算子、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、idはd軸電流、iqはq軸電流、φaは永久磁石による電機子鎖交磁束である。
(式3)は、座標変換によって(式4)のように示される。
(式4)において、Vuはu相の電圧、Vvはv相の電圧、Vwはw相の電圧である。
モータM1にて3相短絡制御が実行された時のu相、v相、w相の各電圧は等しくなるので、(式5)に示す関係が成り立つ。
(式5)を(式4)に代入することで(式6)に示す結果が得られる。
(式6)を(式3)に代入すると、(式7)および(式8)のように表される。
これらの(式7)および(式8)を解いて、(式9)および(式10)が求められる。
この(式9)、(式10)によって、それぞれ、電流Iq、電流Idに関する(式2)、(式1)が導出される。
なお、モータのトルクを求めるための一般式は(式11)のように表される。
(式11)において、Pnは極対数であり、モータM1の固有値である。
(式11)に(式9)および(式10)を代入して、LdおよびLqを消去することで、3相短絡トルクTshに関する(式12)が導出される。
[2−3.車両駆動装置の動作]
次に、車両駆動装置5Bの動作について、図13および図14を参照しながら説明する。
図13は、車両駆動装置5Bの動作を例示するフローチャートである。図14は、図13のフローチャートに続き、車両駆動装置5Bの動作を例示するフローチャートである。
はじめに、車両駆動装置5Bは起動され、駆動されている状態にある。
この状態で、制御回路20は、外部からトルク指令を読み込む(ステップS111)。具体的には、モータ制御信号取得部21が、電気車両101のECUから出力されたトルク指令情報を読み込む。このトルク指令情報は、モータ制御信号演算部22にて変換され、制御信号として例えばアクティブチェック指示部26および駆動信号演算部23に出力される。
次に、制御回路20は、読み込んだトルク指令情報に含まれるトルクが車両駆動装置5Bの駆動に影響を与えないトルク以下であるか否かを判断する(ステップS112)。具体的には、アクティブチェック指示部26は、モータM1が力行していないとき、回生していないとき、または、所定トルク以下で回生しているときに、車両駆動装置5Bの駆動に影響を与えないトルク以下であると判断する。
そして制御回路20は、取得したトルクが車両駆動装置5Bの駆動に影響を与えないトルク以下でないと判断すると(S112のNo)、今のタイミングで3相短絡回路33の故障診断を行なわないこととし、ステップS111に戻る。一方、制御回路20は、取得したトルクが車両駆動装置5Bの駆動に影響を与えないトルク以下であると判断すると(S112のYes)、今のタイミングで3相短絡回路33の故障診断を行うこととし、次のステップに進む。
次に、制御回路20は、モータM1を電流制御する(ステップS113)。具体的には、3相短絡制御を実行した場合のモータM1に流れることが予測される電流Id、電流Iqを求め、電流Id、電流IqがモータM1に予め流れるようにドライブ回路30を介して3相ブリッジ回路40をフィードバック制御する。
上記電流制御が行われた後、制御回路20は、インバータ10のフィードバック制御を停止し、アクティブチェック信号s1を出力する(ステップS114)。具体的にはアクティブチェック指示部26が、アクティブチェック信号s1をドライブ回路30のチェック用端子36に出力する。このアクティブチェック信号s1は、後述するステップS118またはS121にて停止されるまで継続して出力される。
次に、インバータ10は、3相短絡回路33を用いた3相短絡制御を実行する(ステップS115)。アクティブチェック信号s1を受け取ったチェック用端子36は、その信号をOR回路34に出力し、OR回路34は受け取った信号を3相短絡回路33に出力する。これによって3相短絡回路33が試行駆動される。ここで切替回路31によって、切替回路31の出力信号が、駆動信号演算部23から出力される駆動信号でなく、3相短絡回路33から出力される信号に切り替えられる。そして、3相短絡回路33から出力される信号が、バッファ回路32を介して3相ブリッジ回路40に出力される。これにより、3相短絡回路33を用いた3相短絡制御が、3相ブリッジ回路40にて試行される。
次に、制御回路20は、車両駆動装置5Bにおける電流の変化、電流位相の変化、及び、電圧の変化を取得する(ステップS116)。具体的には、モータ制御信号取得部21が、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRS、電源線Lpにおける電圧Vpなどの情報を取得する。これらの情報は、モータ制御信号演算部22にて変換され、制御信号として故障判断部25に出力される。
次に、制御回路20は、これら電流、電流位相および電圧の変化が規定の範囲内であるか否かによって、3相短絡回路33の故障有無を判断する(ステップS117)。具体的には、故障判断部25が、電流が規定の範囲から外れたか否か、電流位相が規定の範囲から外れたか否か、および、直流電圧が規定の範囲から外れたか否かを判断する。
故障判断部25は、電流、電流位相および電圧の変化のうち全てが規定の範囲内であると判断した場合に(S117のYes)、3相短絡回路33が故障しておらず正常であると判断する。そして制御回路20は、アクティブチェック指示部26から出力していたアクティブチェック信号s1の出力を停止し(ステップS118)、インバータ10のフィードバック制御を再開する(ステップS119)。そして制御回路20は、ステップS111に戻り、アクティブチェックを繰り返す。これらのアクティブチェックは、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
一方、制御回路20は、電流、電流位相および電圧の変化のうち少なくとも1つが規定の範囲から外れている場合に(S117のNo)、3相短絡回路33が故障している判断する。そして、制御回路20は、図14に示すように、3相短絡回路33が故障している場合の動作を実行する。
図14に示すように、制御回路20は、アクティブチェック指示部26から出力していたアクティブチェック信号s1の出力を停止し(ステップS121)、インバータ10のフィードバック制御を再開する(ステップS122)。なお、インバータ10のフィードバック制御の再開にてトルク変動および電流変動が大きくなり過ぎないように、ステップS121において、電流制御が予め行われてもよい。例えば制御回路20は、ステップS122を実行した場合のモータM1に流れることが予測される電流を求め、当該電流がモータM1に流れるようにドライブ回路30を介して3相ブリッジ回路40を制御した後に、ステップS122を実行してもよい。
次に、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していることを示す故障警告を外部、例えば電気車両101のECU(上位制御部)に出力する(ステップS123)。また、故障判断部25が、モニターを用いて故障情報を表示したり、スピーカを用いて故障情報を知らせる音を出力したりすることで、ユーザに故障情報を報知してもよい。
また、制御回路20は、3相短絡回路33への3相短絡制御信号の出力を禁止する(ステップS124)。具体的には、アクティブチェック信号s1がアクティブチェック指示部26から出力されないようにする。また、制御回路20は、3相短絡制御のフラグを立てる(ステップS125)。このフラグが立つことで、例えば異常検出部29がインバータ10の異常を検出した場合に、3相短絡回路33を用いるのでなく、制御回路20内のメモリ24に格納されているプログラムを用いて3相短絡制御が実行される。これにより、3相短絡回路33の故障を修理するまでの間にインバータ10の異常が発生しても、3相短絡制御を実行することができる。
なお、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していると判断された場合に、以後の車両駆動装置5Bの駆動においてモータM1の回転数を制限するように、インバータ10を制御してもよい。
また、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していると判断され、かつ、アクティブチェック信号s1を出力している最中に、制御回路20内のメモリ24に格納されているプログラムを用いて3相短絡制御を行う制御信号をドライブ回路30に出力してもよい。これにより、アクティブチェック信号s1を出力している最中に、故障した3相短絡回路33により3相ブリッジ回路40を駆動することで発生してしまう3相ブリッジ回路40の過電圧を抑制することができる。
また、制御回路20は、アクティブチェック信号s1の出力中に、モータM1が力行または回生の状態となった場合に、アクティブチェック信号s1の出力を停止してもよい。制御回路20は、アクティブチェック信号s1の出力を停止した場合に、3相短絡回路33の故障有無の判断を無効としてもよい。
[2−4.故障判断の他の例]
上記実施の形態2では、故障判断部25は、電流が規定の範囲から外れた場合、電流位相が規定の範囲から外れた場合、および、直流電圧が規定の範囲から外れた場合のうち少なくとも1つの場合に、3相短絡回路33が故障していると判断したが、故障判断部25による判断のしかたは上記に限られない。
例えば、制御回路20の故障判断部25は、アクティブチェック信号s1の出力前後におけるモータM1のd軸電流の差が規定の範囲から外れた場合、および、q軸電流の差が規定の範囲から外れた場合の少なくとも1つの場合に、3相短絡回路33が故障していると判断してもよい。
図15は、車両駆動装置5Bの3相短絡回路33が故障している場合の一例を示す図である。図16は、車両駆動装置5Bの3相短絡回路33が故障している場合の他の一例を示す図である。図15および図16には、モータM1が力行および回生のいずれでもない状態のときに3相短絡制御が実行された場合のトルク、d軸電流、q軸電流の変化が示されている。なお、モータM1の回転速度は、10000rpm(回/分)である。トルク、d軸電流、q軸電流のそれぞれは(式12)、(式1)、(式2)にて求められる。
図15には、モータM1の3相のうち2相は短絡したが残りの1相が短絡しなかった場合が示されている。図16には、モータM1の3相のうち1相は短絡したが残りの2相が短絡しなかった場合が示されている。図15および図16に示すように、3相短絡制御を行ったときにモータM1の少なくとも1相が短絡しないと、d軸電流およびq軸電流の振れが大きく、3相全てが正常に短絡した場合(例えば図12参照)と比較して、異なる挙動を示す。したがって、3相短絡制御の実行前後におけるd軸電流の差およびq軸電流の差を求めることで、故障判断部25は3相短絡回路33の故障有無を判断することができる。
なお、モータM1の3相全てが短絡しなかった場合(図示省略)は、電池P1に向かって流れる電流が発生する。そのため、例えば電流センサCSu、CSv、CSwによって検出される電流から得られたd軸電流が、(式1)から求めた電流Idと異なる値になる。なお、q軸電流についても同様である。したがって、故障判断部25は、電流が規定の範囲から外れた場合に、3相短絡回路33が故障していると判断することができる。
[2−5.実施の形態2の変形例1]
次に、実施の形態2の変形例1に係る車両駆動装置5Baの構成について、図17および図18を参照しながら説明する。この変形例1では、車両駆動装置5Baに複数の永久磁石モータM1が設けられている例について説明する。
図17は、変形例1による車両駆動装置5Baを備える電気車両101Aを例示する図である。電気車両101Aは、駆動輪2と、動力伝達機構3と、2つの永久磁石モータM1と、2つのインバータ10と、電池P1とを備えている。これらの構成のうち、車両駆動装置5Baは、2つの永久磁石モータM1、2つのインバータ10および電池P1によって構成されている。
図18は、車両駆動装置5Baのインバータ10、永久磁石モータM1および電池P1を例示する回路図である。
図18に示すように車両駆動装置5Baは、2つのモータM1と、2つのインバータ10と、電池P1とを備えている。各インバータ10は、3相ブリッジ回路40とドライブ回路30と制御回路20とを備えている。
制御回路20は、モータ制御信号取得部21と、モータ制御信号演算部22と、駆動信号演算部23と、アクティブチェック指示部26と、故障判断部25と、3相短絡制御信号割り込み部27とを備える。また、制御回路20は、異常検出部29を備える(図示省略)。各インバータ10の各制御回路20は、通信可能なように互いに接続されている。なお、図18では2つの制御回路20が示されているが、それに限られず、制御回路は、2つの制御回路20の各機能を有する1つの制御回路で構成されていてもよい。
ドライブ回路30の入力側は制御回路20に接続され、出力側は3相ブリッジ回路40に接続されている。各ドライブ回路30は、切替回路31と、バッファ回路32と、3相短絡回路33と、OR回路34とを備える。また、各ドライブ回路30は、チェック用端子36と異常受付端子39とを備える(図示省略)。
各3相ブリッジ回路40は、上側アーム群に設けられたスイッチ素子S1、S2、S3と、下側アーム群に設けられたスイッチ素子S4、S5、S6とを備えている。各スイッチ素子S1〜S6は、各ドライブ回路30に接続され、各ドライブ回路30から出力された信号によって駆動する。モータM1は、各スイッチ素子S1〜S6の駆動に基づいて、力行、回生または惰行などの状態で駆動される。
変形例1の車両駆動装置5Baは、2つのモータM1と、2つのモータM1のうち一方のモータM1を駆動する一方のインバータ10と、2つのモータM1のうち他方のモータM1を駆動する他方のインバータ10とを備える。他方のインバータ10の制御回路20は、一方のモータM1が力行または回生の状態であり、かつ、他方のモータM1にて3相短絡制御を実行した場合に他方のモータM1のトルクが車両駆動装置5Baの駆動に影響を与えないトルク以下であるときに、1)上記3相短絡制御を実行した場合の他方のモータM1に流れることが予測される電流Id、電流Iqを求め、2)電流Id、電流Iqが他方のモータM1に流れるようにドライブ回路30を介して3相ブリッジ回路40を制御した後、3)チェック用端子36にアクティブチェック信号s1を出力する。
このように、一方のモータM1が力行または回生の状態のときに、他方のモータM1にてアクティブチェックを行うためのアクティブチェック信号s1を出力することで、例えばモータM1が力行でもなく回生でもないときのみにアクティブチェック信号s1を出力する場合に比べて、3相短絡制御を実行できるか否かを確認する機会を増やすことができる。これにより、インバータ10において3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、信頼性の高い車両駆動装置5Baを提供することができる。
[2−6.実施の形態2の変形例2]
次に、実施の形態2の変形例2による車両駆動装置5Bについて、図19および図20を参照しながら説明する。この変形例2では、モータM1の回転数が所定の閾値の範囲内である場合に、アクティブチェックを行う例について説明する。
図19は、実施の形態2の変形例2による車両駆動装置5Bの動作を例示するフローチャートである。図20は、この変形例2による車両駆動装置5Bの永久磁石モータM1が3相短絡された時に発生するトルクを示す図である。なお、図20の縦軸は、プラス側(上側)に向かうほど制動トルクが大きくなることを示している。
実施の形態2の変形例2の車両駆動装置5Bの動作方法では、モータM1が力行指令または回生指令を受けているか否かを判断するステップS112と、モータM1の電流制御を行うステップS113との間に、モータM1の回転数に関する判断を行い、アクティブチェックを行うか否かを決めるステップを有する。
具体的には、図19に示すように、ステップS112でYesと判定された後にモータM1の回転数を読み込む(ステップS112A)。モータM1の回転数は、回転位置センサRSの検知結果に基づいて求めることができる。
次に、モータM1の回転数が所定の閾値の範囲内か否かを判断する(ステップS112B)。具体的には、モータM1の回転数の閾値である第1閾値r1、および、第1閾値r1よりも大きな第2閾値r2を設定し、モータM1の回転数が第1閾値r1以上第2閾値r2以下であるか否かを判断する。制御回路20は、回転数が第1閾値r1以上第2閾値r2以下である場合に(S112BのYes)、アクティブチェックを行う各ステップに進む。一方、回転数が第1閾値r1以上第2閾値r2以下でない場合は(S112BのNo)、ステップS111に戻る。
このように、モータM1の回転数に基づいてアクティブチェックの実行可否を決めるのは以下に示す理由による。図20に示すように、モータM1の回転数が第1閾値r1よりも小さいときにアクティブチェックを行うと、大きな制動トルクが急に発生することがある。そこでこの変形例2では、モータM1の回転数が第1閾値r1以上である場合に、アクティブチェックを実行することとしている。また、モータM1の回転数が第2閾値r2よりも大きい、つまり比較的激しい運転時であると推定されるときにアクティブチェックを行うと、モータM1へのトルク指令が急に大きく変わった場合に対応できなくなることがある。そこでこの変形例2では、モータM1の回転数が第2閾値r2以下である場合に、アクティブチェックを実行することとしている。
このように実施の形態2の変形例2の車両駆動装置5Bでは、モータM1の回転数に応じてアクティブチェックの実行可否を決めている。これにより、車両駆動装置5Bの駆動時における急激な変動を抑制することができる。なお、この変形例2は、車両駆動装置5Bに限られず車両駆動装置5Baにも適用することができる。
以上の実施の形態2は、本質的に好ましい例示であって、この開示、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
例えば、前記ドライブ回路は、前記アクティブチェック信号を受け付けた場合に、前記永久磁石モータにて実行されている制御を前記3相短絡回路による前記3相短絡制御に切り替えてもよい。
このように、ドライブ回路が、永久磁石モータにて実行されている制御を3相短絡回路による3相短絡制御に切り替えることで、車両駆動装置は、3相短絡回路が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。
(実施の形態3)
実施の形態3の車両駆動装置について、図21〜図34を参照しながら説明する。
走行中における車両駆動装置の永久磁石モータの状態を大まかに分けると、力行している状態、回生している状態、ならびに、力行および回生のいずれでもない状態(車両が惰行状態、および、エンジンや他の永久磁石モータなどの他の駆動源がある場合は、他の駆動源のみで走行している状態)に分けられる。以下では、実施の形態3にて、永久磁石モータが回生している状態で3相短絡回路の故障有無をチェックする例を説明する。さらに実施の形態3の変形例3にて、永久磁石モータが力行および回生のいずれでもない状態で3相短絡回路の故障有無をチェックする例を説明する。
[3−1.車両駆動装置の構成]
まず、実施の形態3による車両駆動装置5Cの構成について、図21〜図23を参照しながら説明する。
図21は、実施の形態3による車両駆動装置5Cを備える電気車両201を例示する図である。電気車両201は、駆動輪2と、動力伝達機構3と、車両駆動装置5Cとを備えている。また、車両駆動装置5Cは、永久磁石モータM1、インバータ10および電池P1を備えている。車両駆動装置5Cは、さらに、内燃機関等のエンジン、変速機およびブレーキのうちの少なくとも1つで構成されるトルク付与装置50を備えている。ここでは、トルク付与装置50がエンジンである場合について述べる。以下、永久磁石モータM1をモータM1と呼ぶ場合がある。
モータM1は、電気車両201の駆動輪2を駆動する3相交流式のモータであり、例えば、埋込磁石同期モータまたは表面磁石同期モータなどのモータが用いられる。
動力伝達機構3は、例えば、ディファレンシャルギアおよびドライブシャフトによって構成され、モータM1およびトルク付与装置50(エンジン)と駆動輪2との間にて動力を伝達する。モータM1およびトルク付与装置50の回転力は、動力伝達機構3を経由して駆動輪2に伝達される。これと同様に、駆動輪2の回転力は、動力伝達機構3を経由してモータM1およびトルク付与装置50に伝達される。
電池P1は、例えば、リチウムイオン電池などの直流電源である。電池P1は、モータM1を駆動させるための電力を供給し、および、この電力を蓄積する。
インバータ10は、電池P1から供給された直流電力を例えば3相の交流電力に変換して、その交流電力をモータM1に供給し、モータM1を駆動制御する。
トルク付与装置50は、駆動輪2にトルクを付与するための装置であり、ここではエンジンである。トルク付与装置50に含まれるエンジン制御部(図示せず)はインバータ10と通信可能に接続されている。なお、トルク付与装置50のエンジン制御部は、電気車両201のECU(Engine Control Unit)を介してインバータ10に接続されていてもよい。
なお、トルク付与装置50がブレーキの場合は、インバータ10とブレーキ制御部とが通信可能に接続される。この場合は、ブレーキを制御することにより制動トルクを駆動輪2に出力する。また、トルク付与装置50が変速機の場合は、インバータ10と変速機制御部とが通信可能に接続される。この場合は、変速機を制御(シフトダウン)することにより、制動トルクを駆動輪2に出力する。
トルク付与装置50は、例えば、回生中のモータM1にて3相短絡制御が実行された場合に、インバータ10からの指令を受けて制動のためのトルク(エンジンブレーキ)を出力する。トルク付与装置50から出力されたトルクは、動力伝達機構3を経由して駆動輪2に伝達されるが、トルク付与装置50は動力伝達機構3を介してモータM1に繋がっているため、回生中のモータM1による回生トルクとトルク付与装置50の制動トルクが合計されて駆動輪2に出力される。
なお、車両駆動装置5Cは、上記構成に限られない。例えば、車両駆動装置5Cは、モータM1のみを含み、インバータ10、電池P1およびトルク付与装置50は、車両駆動装置5Cの外に設けられていてもよい。また、電気車両201は、上記に示した連結構造に限られない。例えば電気車両201は、動力伝達機構3を備えず、モータM1と駆動輪2とが直結された構造であってもよいし、トルク付与装置50と駆動輪2とが直結された構造であってもよい。
以下、モータM1を駆動制御するインバータ10について、詳しく説明する。
図22は、車両駆動装置5Cのインバータ10、永久磁石モータM1および電池P1を例示する回路図である。
図22に示すように、車両駆動装置5Cは、モータM1と、インバータ10と、電池P1とを備えている。インバータ10は、3相ブリッジ回路40とドライブ回路30と制御回路20とを備えている。なお図22には、3相ブリッジ回路40に印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサC1も図示されている。
3相ブリッジ回路40は、電池P1から供給された直流電力をスイッチング動作により3相の交流電力に変換して、その交流電力をモータM1に供給し、モータM1を駆動する回路である。3相ブリッジ回路40の、スイッチング動作制御用の入力側はドライブ回路30に、電力の入力側は電池P1に、それぞれ接続され、出力側はモータM1に接続されている。なお、モータM1の回生時には、3相ブリッジ回路40の出力側から回生電流が導入され、電力の入力側に向かって流れるが、ここでは、電池P1が接続される側を入力側、モータM1が接続される側を出力側と定義する。
図23は、車両駆動装置5Cのインバータ10が備える3相ブリッジ回路40を例示する回路図である。なお、図23に示す電圧Vpは電源電圧であり、電圧Vgは接地電圧である。
3相ブリッジ回路40は、図23の上側に位置する上側アーム群に設けられたスイッチ素子S1、S2、S3と、図23の下側に位置する下側アーム群に設けられたスイッチ素子S4、S5、S6とを備えている。例えば、スイッチ素子S1〜S6は、電界効果トランジスタ(FET)または絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)などによって構成される。また、スイッチ素子S1〜S6は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成されてもよい。
各スイッチ素子S1、S2、S3は、モータM1の3つの端子から引き出された3つの出力線と、電池P1の正極に接続された電源線Lpとの間のそれぞれの間に接続されている。各スイッチ素子S4、S5、S6は、上記3つの出力線と電池P1の負極に接続された接地線Lgとの間のそれぞれの間に接続されている。また、各スイッチ素子S1〜S6には、還流ダイオードが並列接続されている。還流ダイオードは、スイッチ素子S1〜S6に寄生する寄生ダイオードであってもよい。
各スイッチ素子S1〜S6は、ドライブ回路30に接続され、ドライブ回路30から出力された信号によって駆動する。モータM1は、各スイッチ素子S1〜S6の駆動に基づいて、力行、回生または惰行などの状態で駆動される。
次に、ドライブ回路30について、図22を参照しながら説明する。
ドライブ回路30は、3相PWM制御および3相短絡制御を実行するため、3相ブリッジ回路40のスイッチ素子S1〜S6を駆動する回路である。ドライブ回路30の入力側は制御回路20に接続され、出力側は3相ブリッジ回路40に接続されている。
ドライブ回路30は、切替回路31と、バッファ回路32と、3相短絡回路33と、OR回路34とを備える。また、ドライブ回路30は、チェック用端子36と異常受付端子39とを備える。
異常受付端子39は、インバータ10の異常状態を告げる異常信号s2を受け付ける端子である。この異常信号s2は、後述する異常検出部29からドライブ回路30に出力される。
チェック用端子36は、3相短絡回路33による3相短絡制御を実行するためのアクティブチェック信号s1を受け付ける端子である。このアクティブチェック信号s1は、制御回路20からドライブ回路30に出力される。以下において、3相短絡回路33による3相短絡制御を試行し、3相短絡回路33が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することをアクティブチェックと呼ぶ。アクティブチェックを行うことで、3相短絡回路33の故障有無を診断することができる。
チェック用端子36および異常受付端子39に入力されたそれぞれの信号は、OR回路34に入力される。OR回路34は、チェック用端子36および異常受付端子39の少なくとも一方の端子が信号を受け付けている場合に、3相短絡回路33に信号を出力する。3相短絡回路33は、OR回路34から出力された信号に基づいて駆動する。すなわち3相短絡回路33は、異常検出およびアクティブチェックのそれぞれの入力信号に基づいて駆動する。
3相短絡回路33は、モータM1の3相のそれぞれを短絡するために用いられる回路である。具体的には、3相短絡回路33は、OR回路34から出力された信号に基づいて3相ブリッジ回路40の上側アーム群のスイッチ素子S1〜S3および下側アーム群のスイッチ素子S4〜S6のうち、一方のアーム群の各スイッチ素子を短絡し、他方のアーム群の各スイッチ素子を開放する回路である。このようにしてモータM1の3相のそれぞれを短絡することで、モータM1の巻線コイル間から誘起される電圧を0にすることができる。これにより、例えば3相ブリッジ回路40に過電圧が検出された場合に、3相短絡回路33を働かせて3相短絡制御を行い、3相ブリッジ回路40にかかる過電圧を低減することができる。
切替回路31は、3相ブリッジ回路40を、後述する駆動信号演算部23から出力された駆動信号に基づいて駆動するか、あるいは、3相短絡回路33から出力された信号を用いて駆動するかを切り替える回路である。なお、駆動信号演算部23から出力される駆動信号には、3相ブリッジ回路40を3相PWM制御する信号などの各種信号が含まれる。切替回路31による切り替えは、例えばハードロジック回路によって実現されている。本実施の形態の切替回路31は、ドライブ回路30がチェック用端子36を介してアクティブチェック信号s1を受け付けた場合に、モータM1にて実行されているスイッチング制御を3相短絡回路33による3相短絡制御に切り替える。
バッファ回路32は、各スイッチ素子S1〜S6を駆動することができるように、3相ブリッジ回路40に出力する出力信号を増幅する回路である。バッファ回路32によって出力信号が増幅されることで、3相ブリッジ回路40の駆動が可能となる。
次に、制御回路20について、図22を参照しながら説明する。
制御回路20は、各種の演算等を行うマイクロプロセッサと、マイクロプロセッサを動作させるためのプログラムまたは情報などを記憶するメモリ24とによって構成される。
図22に示すように制御回路20は、モータ制御信号取得部21と、モータ制御信号演算部22と、駆動信号演算部23と、アクティブチェック指示部26と、故障判断部25と、3相短絡制御信号割り込み部27とを備える。また、制御回路20は、異常検出部29を備える。
モータ制御信号取得部21は、モータM1に流れる電流を検知する電流センサCSu、CSv、CSw、および、モータM1の磁極位置を検出して回転位置を検知する回転位置センサRSなどの各種センサによって検知された情報を取得する。なお、電流センサCSu、CSv、CSwは、モータM1のu相、v相、w相における電流値を検知するセンサである。また、モータ制御信号取得部21は、電源線Lpにおける電圧Vpに関する情報を取得する。また、モータ制御信号取得部21は、制御回路20の外部、例えば電気車両201のECU(Electronic Control Unit)から出力されたトルク指令などの制御指令情報を取得する。
モータ制御信号演算部22は、モータ制御信号取得部21にて取得した上記情報に基づいて、演算によりトルク指令値を電流に換算し、モータM1を電流制御するための制御信号を出力する。例えば、モータ制御信号演算部22は、車両駆動装置5Cの駆動時におけるモータM1のトルクが、トルク指令情報に示された目標トルク(例えば電気車両201のアクセルペダルまたはブレーキペダルの操作量に応じたトルク)となるように、モータM1の電流制御のための制御信号を出力する。
また、モータ制御信号演算部22は、モータ制御信号取得部21にて取得した上記情報を演算により変換して、アクティブチェックおよび故障判断を行うための制御信号を出力する。例えば、モータ制御信号演算部22は、トルク指令などの制御指令情報を上記した制御信号に変換して駆動信号演算部23およびアクティブチェック指示部26に出力する。また、モータ制御信号演算部22は、モータM1に流れる電流、モータM1の磁極の回転位置、電源線Lpにおける電圧Vpなどの情報を制御信号に変換して駆動信号演算部23および故障判断部25に出力する。
アクティブチェック指示部26は、アクティブチェック信号s1をチェック用端子36に出力する回路である。前述したようにアクティブチェックとは、3相短絡回路33による3相短絡制御を試行し、3相短絡回路33が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することである。アクティブチェック指示部26は、モータ制御信号演算部22から出力された上記制御信号に基づいて、今のタイミングでアクティブチェックを行っても車両駆動装置5Cの駆動に影響を与えないか否かを判断する。
例えば、アクティブチェック指示部26は、モータM1が回生中であって以下の条件を満たすときにアクティブチェックを行うと判断する。アクティブチェックの実行可否の判断は、定期的な時間間隔で実行される。なお、アクティブチェックをするか否かの判断は、アクティブチェック指示部26に限られず、制御回路20に含まれる回路であればアクティブチェック指示部26と異なる回路によって行われてもよい。
ここで、アクティブチェック信号s1が出力される前に制御回路20にて実行される処理について、図24および図25を参照しながら説明する。この処理は、3相短絡制御にて発生するトルクが、ユーザに違和感を与えることを抑制するために実行される。
図24は、車両駆動装置5Cの永久磁石モータM1が3相短絡された時に発生するトルクを示す図である。図25は、車両駆動装置5Cに付与するアシストトルクTasを示す図である。図24および図25の縦軸は、プラス側(上側)に向かうほど制動トルクが大きくなることを示している。また同図の縦軸には、第1規定トルクTr1、および、第1規定トルクTr1よりもトルクが小さい第2規定トルクTr2が示されている。
また、図24には、モータM1にて発生するトルクが、第2規定トルクTr2よりも小さいとユーザにトルク変動を感じさせないこと、第2規定トルクTr2以上第1規定トルクTr1以下であるとユーザにトルク変動を感じさせるが違和感を与えないこと、第1規定トルクTr1よりも大きいとユーザに違和感を与えることが示されている。第1規定トルクTr1および第2規定トルクTr2のそれぞれは、重力加速度(G)を基準とした、電気車両201にかかる制動時の加速度に基づいて決められる値である。例えば、第1規定トルクTr1は、電気車両201にかかる制動時の加速度が重力加速度の−0.05倍(−0.05G:制動時のため、符号は負であると、以下、定義する。)であるときのトルクであり、第2規定トルクTr2は、電気車両201にかかる制動時の加速度が重力加速度の−0.03倍(−0.03G)であるときのトルクである。
また、図24および図25には、3相短絡制御が実行されるとモータM1に発生するトルクである3相短絡トルクTshが示されている。3相短絡トルクTshは、前述した(式12)で表される。
(式12)において、Pnは極対数、Raは相抵抗、ωは角速度(回転数、回転速度)、Idはd軸電流、Iqはq軸電流である。PnおよびRaは、モータM1の固有値である。ωは、回転位置センサRSの値に基づいて求められる。ωは、60/(2π・Pn)を乗算することでモータM1の回転速度(回転数)に変換される。IdおよびIqは、前述した(式1)および(式2)に基づいて求められる。(式12)は、メモリ24に格納され、必要に応じて読み出される。
図24および図25に示すように、3相短絡トルクTshは、モータM1の回転数に依存し、モータM1の回転数が高い領域にて小さく、モータM1の回転数が低い領域にて極大値を持つ。実施の形態3では、この3相短絡トルクTshの値を使って、今のタイミングでアクティブチェックをすべきか否かを判断する。
例えば、制御回路20は、モータM1が回生中に、3相短絡トルクTshに基づいてアクティブチェックをすべきと判断した場合にアクティブチェック信号s1を出力する。具体的には、制御回路20は、3相短絡トルクTshが第1規定トルクTr1以下である場合に、アクティブチェック信号s1を出力する。この車両駆動装置5Cでは、3相短絡制御が実行されたときに発生するトルクが大きくなり過ぎない場合に3相短絡制御を行ってアクティブチェックをする構成となっている。また、この車両駆動装置5Cでは、3相短絡トルクTshが第1規定トルクTr1以下である場合にアクティブチェック信号s1を出力することで、例えば3相短絡回路33が故障している場合であっても、モータM1のトルク変動が大きくなりにくい構成となっている。
また、実施の形態3では、アクティブチェックを行う際に、モータM1のトルク変動が小さくなるようにアシストトルクTasを出力する。アシストトルクTasは、3相短絡制御を実行することによって生じるモータM1のトルク変動を緩和するために補助するトルクである。具体的には制御回路20は、3相短絡トルクTshが第2規定トルクTr2以上第1規定トルクTr1以下である場合に、モータM1が回生中に発生する回生トルクTrq(図25参照)と上記3相短絡トルクTshとのトルク差に応じたアシストトルクTasがモータM1に付与されるようにトルク付与装置50を制御する。
例えば図25に示すように、制御回路20は、3相短絡トルクTshが回生トルクTrqよりも小さい場合に、回生トルクTrqから3相短絡トルクTshを差し引いたアシストトルクTas(制動トルク)が付与されるようにトルク付与装置50を制御する。なお、図25に示される回生トルクTrqの位置は、ECUから出力されるトルク指令およびモータM1の回転数によって決められる。また、制御回路20は、3相短絡トルクTshが回生トルクよりも大きい場合に、3相短絡トルクTshから回生トルクを差し引いたアシストトルク(制動トルク)が付与されるようにトルク付与装置50を制御する(図示省略)。この車両駆動装置5Cでは、3相短絡制御が実行されたときにモータM1に発生するトルク変動を減らすように構成されている。
このように制御回路20は、アクティブチェックをするか否かを判断してアクティブチェックすべきと判断した後に、アクティブチェック信号s1を出力する。また制御回路20は、アクティブチェック信号s1を出力すると同時に、アクティブチェック中であることを示すビジー信号を故障判断部25に出力する。
引き続き、図22を参照しながら制御回路20の各構成について説明する。
故障判断部25は、3相短絡回路33の故障有無を判断する回路である。故障判断部25は、3相短絡制御が実行された際の、モータM1の3相に流れる電流の変化、電流位相の変化、および、3相ブリッジ回路40における直流電圧の変化の少なくとも1つの変化に関する情報を取得する。電流の変化は、電流センサCSu、CSv、CSwによって検出した電流値に基づいて求めることができる。電流位相の変化は、例えば、モータM1のd軸電流とq軸電流に基づいて求めることができる。d軸電流、q軸電流は、電流センサCSu、CSv、CSwによって検出した電流値、および、回転位置センサRSによって検出した磁極の回転位置に基づいて求めることができる。直流電圧の変化は、電源線Lpにおける電圧Vpを検出することで求めることができる。
故障判断部25は、取得した上記情報に基づいて3相短絡回路の故障有無を判断する。例えば、故障判断部25は、電流が規定の範囲から外れた場合、電流位相が規定の範囲から外れた場合、および、直流電圧が規定の範囲から外れた場合のうち少なくとも1つの場合に、3相短絡回路33が故障していると判断する。また、故障判断部25は、3相短絡回路33が故障していると判断した場合に、その故障情報を外部に報知する報知信号を出力する。
異常検出部29は、インバータ10に発生する過電圧などの異常を検出する回路である。ここでは、異常検出部29は、電源線Lpの断線などによる失陥、あるいは、スイッチ素子S1〜S6、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRSなどの故障により発生する過電圧を検出する回路であるとして説明する。異常検出部29は、電池P1のプラス側であって、3相ブリッジ回路40の電源線Lpに接続されている。異常検出部29が異常(ここでは過電圧)を検出すると、異常信号s2が異常受付端子39に出力される。これにより、3相短絡回路33が3相短絡制御を行うので、3相ブリッジ回路40の過電圧を抑制することができる。
なお、ここで例示した、異常検出部29の異常である過電圧は、例えば、電池P1のプラス側配線の外れ、断線、あるいは、電池P1に設けられた図示しないメインリレーの開放などによって発生しうる。また、異常検出部29とドライブ回路30(3相短絡回路33を含む)は、いずれもハードウエアで構成されるので、異常検出部29が異常を検出して3相短絡回路33が3相短絡制御を行うまでの非常時の動作は、自動的に、かつ、迅速に行われる。また、異常検出部29は、制御回路20内に設けられている必要はなく、制御回路20の外に設けられていてもよい。また、異常検出部29は、過電圧を検出する構成に限定されるものではなく、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRSなどの出力異常(所定の出力電圧範囲を超えるなど)を直接検出するような構成を備えていてもよい。
駆動信号演算部23は、モータ制御信号演算部22から出力された制御信号に基づいて、モータM1を駆動するために必要な駆動信号を演算し、この駆動信号をドライブ回路30に出力する。駆動信号演算部23は、車両駆動装置5Cが通常駆動している際は、3相PWM制御を行うための駆動信号を出力する。
また、駆動信号演算部23は、インバータ10の異常が検出された場合、かつ、故障判断部25によって3相短絡回路33が故障していると判断された場合に、メモリ24に格納されたプログラムによって3相短絡制御を行うための駆動信号を出力する。
このプログラムによる3相短絡制御は、3相短絡制御信号割り込み部27によって実行される。具体的には、3相短絡制御信号割り込み部27は、故障判断部25から3相短絡回路33が故障しているという故障情報を受け取ると、インバータ10の異常が検出された場合に駆動信号演算部23に対し、3相短絡を実行するための割り込み信号を出力する。駆動信号演算部23は、割り込み信号を受けることで、3相PWM制御の駆動信号を3相短絡制御の駆動信号に変更してドライブ回路30に出力する。
このように、制御回路20は、3相PWM制御および3相短絡制御を実行するための駆動信号をドライブ回路30に出力する。ドライブ回路30では、制御回路20から出力された駆動信号、および、3相短絡回路33から出力された信号のうちのいずれかの信号を選択し、3相ブリッジ回路40に出力する。3相ブリッジ回路40は、ドライブ回路30から出力された信号に基づいて、モータM1を駆動する。
なお、前述したアクティブチェック信号s1が出力される前に制御回路20にて実行される処理の一部は、駆動信号演算部23にて行われてもよい。例えば駆動信号演算部23は、回生トルクTrqと3相短絡トルクTshとのトルク差に応じたアシストトルクTasを演算してもよい。また、駆動信号演算部23は、演算したアシストトルクTasを、トルク付与装置50を制御するための駆動信号に変換し、必要に応じてトルク付与装置50に出力してもよい。
実施の形態3の車両駆動装置5Cは、永久磁石モータM1を駆動するインバータ10を備える。インバータ10は、複数のスイッチ素子S1〜S6を有する3相ブリッジ回路40と、3相ブリッジ回路40に接続されるドライブ回路30と、ドライブ回路30に接続される制御回路20と、インバータ10の異常を検出する異常検出部29とを有する。ドライブ回路30は、永久磁石モータM1の3相を短絡させる3相短絡回路33と、異常検出部29から出力された異常信号s2を受け付ける異常受付端子39と、3相短絡回路33による3相短絡制御を実行するためのアクティブチェック信号s1を受け付けるチェック用端子36とを有する。制御回路20は、永久磁石モータM1が回生中に、3相短絡制御を実行すると永久磁石モータM1に発生するトルクである3相短絡トルクTshに基づいて、チェック用端子36にアクティブチェック信号s1を出力する。
このように、制御回路20が3相短絡トルクTshに基づいてアクティブチェック信号s1を出力することで、ドライブ回路30はチェック用端子36を用いてアクティブチェック信号s1を適宜受け付けることができる。これにより車両駆動装置5Cは、3相短絡回路33が3相短絡制御を実行できるか否かを適宜確認することができる。また、モータM1が回生中にアクティブチェック信号s1を出力することで、例えばモータM1が回生中でないときのみにアクティブチェック信号s1を出力する場合に比べて、3相短絡制御を実行できるか否かを確認する機会を増やすことができる。これにより、インバータ10において3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、信頼性の高い車両駆動装置5Cを提供することができる。
[3−2.車両駆動装置の動作]
次に、車両駆動装置5Cの動作について、図26〜図28を参照しながら説明する。
図26は、車両駆動装置5Cの動作を例示するフローチャートである。図27は、図26のフローチャートに続き、車両駆動装置5Cの動作を例示するフローチャートである。図28は、図27のフローチャートに続き、車両駆動装置5Cの動作を例示するフローチャートである。
実施の形態3の車両駆動装置5Cにおけるアクティブチェックは、モータM1が回生中に実行可能となる。また、車両駆動装置5Cでは、アクティブチェックをする前に、3相短絡時に発生するトルクを演算し、今のタイミングでアクティブチェックをすべきか否かを判断する。そして、アクティブチェックをしても問題ないと判断した後に、アクティブチェックを行う。以下、車両駆動装置5Cの動作を順に説明する。
はじめに、車両駆動装置5Cは起動され、駆動されている状態にある。
この状態で、制御回路20は、外部からトルク指令を読み込む(ステップS201)。具体的には、モータ制御信号取得部21が、電気車両201のECUからトルク指令情報を読み込む。
次に、制御回路20は、トルク指令の有無を判断する(ステップS202)。このステップS202にてトルク指令が無いと判断された場合は、車両駆動装置5Cが力行および回生のいずれでもない状態に該当し、実施の形態3の変形例2に示す3相短絡制御(図31のステップS13以降)に進む。一方、ステップS202にてトルク指令が有りと判断された場合は、車両駆動装置5Cが力行または回生の状態に該当し、ステップS210に進む。
次に、制御回路20は、車両駆動装置5Cが回生指令を受けているか否かを判断する(ステップS210)。具体的には、制御回路20は、例えばトルク指令の正負に基づいて、回生指令(負)を受けているかまたは力行指令(正)を受けているかを判断する。
例えば、制御回路20は、回生指令を受けていないと判断すると(S210のNo)、今のタイミングで3相短絡回路33の故障診断を行なわないこととし、ステップS201に戻る。一方、制御回路20は、回生指令を受けていると判断すると、今のタイミングで3相短絡回路33の故障診断を行うこととし、次のステップに進む。
次に、制御回路20は、3相短絡時に発生する3相短絡トルクTshを演算する(ステップS211)。3相短絡トルクTshは、前述した(式12)を用いて演算される。
なお、制御回路20は必ずしも(式12)を用いて3相短絡トルクTshを演算しなくてもよい。例えば制御回路20は、モータM1の回転数および3相短絡トルクTshの関係を示す実測データの集計表をメモリ24に格納し、この集計表に基づいてモータM1の回転数に応じた3相短絡トルクTshを求めてもよい。
次に、制御回路20は、モータM1が回生中に発生するトルクである回生トルクTrqと3相短絡トルクTshとのトルク差に応じたアシストトルクTasを演算する(ステップS212)。具体的には、回生トルクTrqと3相短絡トルクTshとのトルク差を求め、このトルク差の絶対値をアシストトルクTasとする。なお、このステップS212は、後出するステップS212AとS212Bとの間に実行されてもよいし、ステップS212BとS212Cとの間に実行されてもよい。
次に、制御回路20は、3相短絡トルクTshが第1規定トルクTr1以下であるか否かを判断する(ステップS212A)。3相短絡トルクTshが第1規定トルクTr1よりも大きい場合(S212AにてNo)、3相短絡制御を実行すると、3相短絡トルクTshにより電気車両201にかかる制動の加速度が大きく、車両駆動装置5Cを利用するユーザに違和感を与えるので、今のタイミングでは故障診断を行わずにステップS201に戻る。一方、3相短絡トルクTshが第1規定トルクTr1以下である場合(S212AにてYes)、3相短絡制御を実行してもユーザに違和感を与えないので次のステップに進む。
次に、制御回路20は、3相短絡トルクTshが第2規定トルクTr2以上であるか否かを判断する(ステップS212B)。例えば制御回路20は、3相短絡トルクTshが第2規定トルクTr2以上の場合(S212BにてYes)、ステップS212にて求めたアシストトルクTasを制御出力し(ステップS212C)、ステップS213に進む。アシストトルクTasの制御出力は、制御回路20がアシストトルクTasに基づく駆動信号をトルク付与装置50に出力することで実行される。
一方、制御回路20は、3相短絡トルクTshが第2規定トルクTr2よりも小さい場合(S212BにてNo)、3相短絡制御を実行してもユーザがトルク変動を感じないので、アシストトルクTasを制御出力せずにステップS213に進む。
次に、制御回路20は、インバータ10のフィードバック制御を停止する(ステップS213)。具体的には、駆動信号演算部23が、3相PWM制御を行うための駆動信号の出力を停止する。なお、ステップS212Cに示したアシストトルクTasの制御出力は、ステップS213と同時に実行されてもよい。
また、制御回路20は、アクティブチェック信号s1を出力する(ステップS214)。具体的にはアクティブチェック指示部26が、アクティブチェック信号s1をドライブ回路30のチェック用端子36に出力する。このアクティブチェック信号s1は、後述するステップS218またはS221にて停止されるまで継続して出力される。
次に、インバータ10は、3相短絡回路33を用いた3相短絡制御を実行する(ステップS215)。アクティブチェック信号s1を受け取ったチェック用端子36は、その信号をOR回路34に出力し、OR回路34は受け取った信号を3相短絡回路33に出力する。これによって3相短絡回路33が試行駆動される。ここで切替回路31によって、切替回路31の出力信号が、駆動信号演算部23から出力される駆動信号でなく、3相短絡回路33から出力される信号に切り替えられる。そして、3相短絡回路33から出力される信号が、バッファ回路32を介して3相ブリッジ回路40に出力される。これにより、3相短絡回路33を用いた3相短絡制御が、3相ブリッジ回路40にて試行される。
次に、制御回路20は、車両駆動装置5Cにおける電流の変化、電流位相の変化、及び、電圧の変化を取得する(ステップS216)。具体的には、モータ制御信号取得部21が、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRS、電源線Lpにおける電圧Vpなどの情報を取得する。これらの情報は、モータ制御信号演算部22にて変換され、制御信号として故障判断部25に出力される。
次に、制御回路20は、これら電流、電流位相および電圧の変化が規定の範囲内であるか否かによって、3相短絡回路33の故障有無を判断する(ステップS217)。具体的には、故障判断部25が、電流が規定の範囲から外れたか否か、電流位相が規定の範囲から外れたか否か、および、直流電圧が規定の範囲から外れたか否かを判断する。
故障判断部25は、電流、電流位相および電圧の変化のうち全てが規定の範囲内であると判断した場合に(S217のYes)、3相短絡回路33が故障しておらず正常であると判断する。そして制御回路20は、アクティブチェック指示部26から出力していたアクティブチェック信号s1の出力を停止する(ステップS218)。また、ステップS212CにてアシストトルクTasが制御出力されていた場合は、このタイミングでアシストトルクTasの制御出力を無くし(ステップS218A)、インバータ10のフィードバック制御を再開する(ステップS219)。そして制御回路20は、ステップS201に戻り、アクティブチェックを繰り返す。これらのアクティブチェックは、モータM1が回生中であるときに所定の時間間隔で繰り返し実行される。
一方、ステップS217において制御回路20は、電流、電流位相および電圧の変化のうち少なくとも1つが規定の範囲から外れている場合に(S217のNo)、3相短絡回路33が故障している判断する。そして、制御回路20は、図28に示すように、3相短絡回路33が故障している場合の動作を実行する。
図28に示すように、制御回路20は、アクティブチェック指示部26から出力していたアクティブチェック信号s1の出力を停止する。(ステップS221)。また、ステップS212CにてアシストトルクTasが制御出力されていた場合は、アシストトルクTasの制御出力を無くし(ステップS221A)、インバータ10のフィードバック制御を再開する(ステップS222)。
次に、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していることを示す故障警告を外部、例えば電気車両201のECU(上位制御部)に出力する(ステップS223)。また、故障判断部25が、モニターを用いて故障情報を表示したり、スピーカを用いて故障情報を知らせる音を出力したりすることで、ユーザに故障情報を報知してもよい。
また、制御回路20は、3相短絡回路33への3相短絡制御信号の出力を禁止する(ステップS224)。具体的には、アクティブチェック信号s1がアクティブチェック指示部26から出力されないようにする。また、制御回路20は、3相短絡制御のフラグを立てる(ステップS225)。このフラグが立つことで、例えば異常検出部29がインバータ10の異常を検出した場合に、3相短絡回路33を用いるのでなく、制御回路20内のメモリ24に格納されているプログラムを用いて3相短絡制御が実行される。これにより、3相短絡回路33の故障を修理するまでの間にインバータ10の異常が発生しても、3相短絡制御を実行することができる。
なお、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していると判断された場合に、以後の車両駆動装置5Cの駆動においてモータM1の回転数を制限するように、インバータ10を制御してもよい。
また、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していると判断され、かつ、アクティブチェック信号s1を出力している最中に、制御回路20内のメモリ24に格納されているプログラムを用いて3相短絡制御を行う制御信号をドライブ回路30に出力してもよい。これにより、アクティブチェック信号s1を出力している最中に、故障した3相短絡回路33により3相ブリッジ回路40を駆動することで発生してしまう3相ブリッジ回路40の過電圧を抑制することができる。
また、制御回路20は、アクティブチェック信号s1の出力中に、モータM1が力行の状態となった場合に、アクティブチェック信号s1の出力を停止してもよい。制御回路20は、アクティブチェック信号s1の出力を停止した場合に、3相短絡回路33の故障有無の判断を無効としてもよい。
[3−3.実施の形態3の変形例1]
次に、実施の形態3の変形例1に係る車両駆動装置5Caの構成について、図29および図30を参照しながら説明する。この変形例1では、車両駆動装置5Caに複数の永久磁石モータM1が設けられている例について説明する。この場合、任意の永久磁石モータM1に接続されるインバータ10において、3相短絡回路33のアクティブチェックが実行される際に、他の永久磁石モータM1が、実施の形態3で示したトルク付与装置50の役割を果たす。
図29は、変形例1による車両駆動装置5Caを備える電気車両201Aを例示する図である。電気車両201Aは、駆動輪2と、動力伝達機構3と、2つの永久磁石モータM1と、2つのインバータ10と、電池P1とを備えている。これらの構成のうち、車両駆動装置5Caは、2つの永久磁石モータM1、2つのインバータ10および電池P1によって構成されている。
図30は、車両駆動装置5Caのインバータ10、永久磁石モータM1および電池P1を例示する回路図である。
図30に示すように車両駆動装置5Caは、2つのモータM1と、2つのインバータ10と、電池P1とを備えている。各インバータ10は、3相ブリッジ回路40とドライブ回路30と制御回路20とを備えている。
制御回路20は、モータ制御信号取得部21と、モータ制御信号演算部22と、駆動信号演算部23と、アクティブチェック指示部26と、故障判断部25と、3相短絡制御信号割り込み部27とを備える。また、制御回路20は、異常検出部29を備える(図示省略)。各インバータ10の各制御回路20は、通信可能なように互いに接続されている。なお、図30では2つの制御回路20が示されているが、それに限られず、制御回路は、2つの制御回路20の各機能を有する1つの制御回路で構成されていてもよい。
ドライブ回路30の入力側は制御回路20に接続され、出力側は3相ブリッジ回路40に接続されている。各ドライブ回路30は、切替回路31と、バッファ回路32と、3相短絡回路33と、OR回路34とを備える。また、各ドライブ回路30は、チェック用端子36と異常受付端子39とを備える(図示省略)。
各3相ブリッジ回路40は、上側アーム群に設けられたスイッチ素子S1、S2、S3と、下側アーム群に設けられたスイッチ素子S4、S5、S6とを備えている。各スイッチ素子S1〜S6は、各ドライブ回路30に接続され、各ドライブ回路30から出力された信号によって駆動する。モータM1は、各スイッチ素子S1〜S6の駆動に基づいて、力行、回生または惰行などの状態で駆動される。
変形例1の車両駆動装置5Caは、2つの永久磁石モータM1と、2つの永久磁石モータM1のうち一方の永久磁石モータM1を駆動する一方のインバータ10と、2つの永久磁石モータM1のうち他方の永久磁石モータM1を駆動する他方のインバータ10とを備えている。制御回路20は、3相短絡制御を実行した時に一方の永久磁石モータM1に発生するトルクである3相短絡トルクTshが第2規定トルクTr2以上第1規定トルクTr1以下である場合に、一方の永久磁石モータM1が回生中に発生する回生トルクTrqと3相短絡トルクTshとのトルク差に応じたアシストトルクTasが電気車両201Aの駆動輪2に付与されるように他方の永久磁石モータM1を制御する。例えば制御回路20は、3相短絡トルクTshが回生トルクTrqよりも小さい場合に、回生トルクTrqから3相短絡トルクTshを差し引いたアシストトルクTas(制動トルク)が駆動輪2に付与されるように他方の永久磁石モータM1を制御する。
このように、他方の永久磁石モータM1を用いて一方の永久磁石モータM1にアシストトルクTasを付与することで、一方の永久磁石モータM1にて3相短絡制御を実行したときにユーザに与える違和感を低減することができる。
[3−4.実施の形態3の変形例2]
[車両駆動装置の動作]
次に、実施の形態3の変形例2の車両駆動装置5Cの動作について、図31および図32を参照しながら説明する。この変形例2では、永久磁石モータが力行および回生のいずれでもない状態で3相短絡回路の故障有無をチェックする例について説明する。なお、実施の形態3の変形例2の車両駆動装置5Cの構成については、実施の形態3で示した車両駆動装置5Cと同じなので、説明を省略する。なお、この変形例2は、車両駆動装置5Cに限られず車両駆動装置5Caにも適用することができる。
図31は、実施の形態3の変形例2による車両駆動装置5Cの動作を例示するフローチャートである。図32は、図31のフローチャートに続き、車両駆動装置5Cの動作を例示するフローチャートである。
はじめに、車両駆動装置5Cは起動され、駆動されている状態にある。
この状態で、制御回路20は、外部からトルク指令を読み込む(ステップS201)。具体的には、モータ制御信号取得部21が、電気車両201のECUからトルク指令情報を読み込む。
次に、制御回路20は、トルク指令の有無を判断する(ステップS202)。このステップS202にて、トルク指令が有りと判断された場合は、前述したようにステップS210に進む。一方、トルク指令が無いと判断された場合は、車両駆動装置5Cが力行および回生のいずれでもない状態に該当し、次のステップに進む。
次に、制御回路20は、インバータ10のフィードバック制御を停止する(ステップS13)。具体的には、駆動信号演算部23が、3相PWM制御を行うための駆動信号の出力を停止する。
また、制御回路20は、アクティブチェック信号s1を出力する(ステップS14)。具体的にはアクティブチェック指示部26が、アクティブチェック信号s1をドライブ回路30のチェック用端子36に出力する。このアクティブチェック信号s1は、後述するステップS18またはS21にて停止されるまで継続して出力される。
次に、インバータ10は、3相短絡回路33を用いた3相短絡制御を実行する(ステップS15)。アクティブチェック信号s1を受け取ったチェック用端子36は、その信号をOR回路34に出力し、OR回路34は受け取った信号を3相短絡回路33に出力する。これによって3相短絡回路33が試行駆動される。ここで切替回路31によって、切替回路31の出力信号が、駆動信号演算部23から出力される駆動信号でなく、3相短絡回路33から出力される信号に切り替えられる。そして、3相短絡回路33から出力される信号が、バッファ回路32を介して3相ブリッジ回路40に出力される。これにより、3相短絡回路33を用いた3相短絡制御が、3相ブリッジ回路40にて試行される。
次に、制御回路20は、車両駆動装置5Cにおける電流の変化、電流位相の変化、及び、電圧の変化を取得する(ステップS16)。具体的には、モータ制御信号取得部21が、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRS、電源線Lpにおける電圧Vpなどの情報を取得する。これらの情報は、モータ制御信号演算部22にて変換され、制御信号として故障判断部25に出力される。
次に、制御回路20は、これら電流、電流位相および電圧の変化が規定の範囲内であるか否かによって、3相短絡回路33の故障有無を判断する(ステップS17)。具体的には、故障判断部25が、電流が規定の範囲から外れたか否か、電流位相が規定の範囲から外れたか否か、および、直流電圧が規定の範囲から外れたか否かを判断する。
故障判断部25は、電流、電流位相および電圧の変化のうち全てが規定の範囲内であると判断した場合に(S17のYes)、3相短絡回路33が故障しておらず正常であると判断する。そして制御回路20は、アクティブチェック指示部26から出力していたアクティブチェック信号s1の出力を停止し(ステップS18)、インバータ10のフィードバック制御を再開する(ステップS19)。そして制御回路20は、ステップS201に戻り、アクティブチェックを繰り返す。これらのアクティブチェックは、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
一方、制御回路20は、電流、電流位相および電圧の変化のうち少なくとも1つが規定の範囲から外れている場合に(S17のNo)、3相短絡回路33が故障している判断する。そして、制御回路20は、図32に示すように、3相短絡回路33が故障している場合の動作を実行する。
図32に示すように、制御回路20は、アクティブチェック指示部26から出力していたアクティブチェック信号s1の出力を停止し(ステップS21)、インバータ10のフィードバック制御を再開する(ステップS22)。
次に、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していることを示す故障警告を外部、例えば電気車両201のECU(上位制御部)に出力する(ステップS23)。また、故障判断部25が、モニターを用いて故障情報を表示したり、スピーカを用いて故障情報を知らせる音を出力したりすることで、ユーザに故障情報を報知してもよい。
また、制御回路20は、3相短絡回路33への3相短絡制御信号の出力を禁止する(ステップS24)。具体的には、アクティブチェック信号s1がアクティブチェック指示部26から出力されないようにする。また、制御回路20は、3相短絡制御のフラグを立てる(ステップS25)。このフラグが立つことで、例えば異常検出部29がインバータ10の異常を検出した場合に、3相短絡回路33を用いるのでなく、制御回路20内のメモリ24に格納されているプログラムを用いて3相短絡制御が実行される。これにより、3相短絡回路33の故障を修理するまでの間にインバータ10の異常が発生しても、3相短絡制御を実行することができる。
なお、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していると判断された場合に、以後の車両駆動装置5Cの駆動においてモータM1の回転数を制限するように、インバータ10を制御してもよい。
また、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していると判断され、かつ、アクティブチェック信号s1を出力している最中に、制御回路20内のメモリ24に格納されているプログラムを用いて3相短絡制御を行う制御信号をドライブ回路30に出力してもよい。これにより、アクティブチェック信号s1を出力している最中に、故障した3相短絡回路33により3相ブリッジ回路40を駆動することで発生してしまう3相ブリッジ回路40の過電圧を抑制することができる。
また、制御回路20は、アクティブチェック信号s1の出力中に、モータM1が力行または回生の状態となった場合に、アクティブチェック信号s1の出力を停止してもよい。制御回路20は、アクティブチェック信号s1の出力を停止した場合に、3相短絡回路33の故障有無の判断を無効としてもよい。
[3−5.実施の形態3の変形例3]
次に、実施の形態3の変形例3による車両駆動装置5Cについて、図33および図34を参照しながら説明する。この変形例3では、モータM1の回転数が所定の閾値の範囲内である場合に、アクティブチェックを行う例について説明する。
図33は、実施の形態3の変形例3による車両駆動装置5Cの動作を例示するフローチャートである。図34は、この変形例3による車両駆動装置5Cの永久磁石モータが3相短絡された時に発生するトルクを示す図である。なお、図34の縦軸は、プラス側(上側)に向かうほど制動トルクが大きくなることを示している。
実施の形態3の変形例3の車両駆動装置5Cの動作方法では、トルク指令の有無を判断するステップS202と、インバータ10のフィードバック制御を停止するステップS13との間に、モータM1の回転数に関する判断を行い、アクティブチェックを行うか否かを決めるステップを有する。
具体的には、図33に示すように、ステップS202でトルク指令が無と判断された後にモータM1の回転数を読み込む(ステップS12A)。モータM1の回転数は、回転位置センサRSの検知結果に基づいて求めることができる。
次に、モータM1の回転数が所定の閾値の範囲内か否かを判断する(ステップS12B)。具体的には、モータM1の回転数の閾値である第1閾値r1、および、第1閾値r1よりも大きな第2閾値r2を設定し、モータM1の回転数が第1閾値r1以上第2閾値r2以下であるか否かを判断する。制御回路20は、回転数が第1閾値r1以上第2閾値r2以下である場合に(S12BのYes)、アクティブチェックを行う各ステップに進む。一方、回転数が第1閾値r1以上第2閾値r2以下でない場合は(S12BのNo)、ステップS201に戻る。
このように、モータM1の回転数に基づいてアクティブチェックの実行可否を決めるのは以下に示す理由による。図34に示すように、モータM1の回転数が第1閾値r1よりも小さいときにアクティブチェックを行うと、大きな制動トルクが急に発生することがある。そこでこの変形例3では、モータM1の回転数が第1閾値r1以上である場合に、アクティブチェックを実行することとしている。また、モータM1の回転数が第2閾値r2よりも大きい、つまり比較的激しい運転時であると推定されるときにアクティブチェックを行うと、モータM1へのトルク指令が急に大きく変わった場合に対応できなくなることがある。そこでこの変形例3では、モータM1の回転数が第2閾値r2以下である場合に、アクティブチェックを実行することとしている。
このように実施の形態3の変形例3の車両駆動装置5Cでは、モータM1の回転数に応じてアクティブチェックの実行可否を決めている。これにより、車両駆動装置5Cの駆動時における急激な変動を抑制することができる。なお、この変形例3は、車両駆動装置5Cに限られず車両駆動装置5Caにも適用することができる。
以上の実施の形態3は、本質的に好ましい例示であって、この発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
例えば、前記トルク付与装置は、エンジン、変速機およびブレーキのうちの少なくとも1つを備えていてもよい。
この構成によれば、駆動輪に適切なトルクを付与することができ、3相短絡制御を実行したときにユーザに与える違和感を低減することができる。
また、車両駆動装置は、2つの前記永久磁石モータと、2つの前記永久磁石モータのうち一方の永久磁石モータを駆動する一方の前記インバータと、2つの前記永久磁石モータのうち他方の永久磁石モータを駆動する他方の前記インバータとを備え、前記制御回路は、さらに、前記3相短絡制御を実行すると前記一方の永久磁石モータに発生するトルクである3相短絡トルクが前記第1規定トルクよりも小さい第2規定トルク以上である場合に、前記一方の永久磁石モータが回生中に発生する回生トルクと前記3相短絡トルクとのトルク差に応じたアシストトルクが車両の駆動輪に付与されるように前記他方の永久磁石モータを制御してもよい。
このように、他方の永久磁石モータを用いて駆動輪にアシストトルクを付与することで、一方の永久磁石モータにて3相短絡制御を実行したときにユーザに与える違和感を低減することができる。
(実施の形態4)
実施の形態4の車両駆動装置について、図35〜図49を参照しながら説明する。
走行中における車両駆動装置の永久磁石モータの状態を大まかに分けると、力行している状態、回生している状態、ならびに、力行および回生のいずれでもない状態(車両が惰行状態、および、エンジンや他の永久磁石モータなどの他の駆動源がある場合は、他の駆動源のみで走行している状態)に分けられる。以下では、実施の形態4にて、永久磁石モータが力行している状態で3相短絡回路の故障有無をチェックする例を説明する。さらに実施の形態4の変形例2にて、永久磁石モータが力行および回生のいずれでもない状態で3相短絡回路の故障有無をチェックする例を説明する。
[4−1.車両駆動装置の構成]
まず、実施の形態4による車両駆動装置5Dの構成について、図35〜図37を参照しながら説明する。
図35は、実施の形態4による車両駆動装置5Dを備える電気車両301を例示する図である。電気車両301は、駆動輪2と、動力伝達機構3と、車両駆動装置5Dとを備えている。車両駆動装置5Dは、永久磁石モータM1である一方の駆動源D1、インバータ10および電池P1を備えている。また、車両駆動装置5Dは、さらに、一方の駆動源D1と異なる他方の駆動源D2を備えている。以下、永久磁石モータM1をモータM1と呼ぶ場合がある。
モータM1は、電気車両301の駆動輪2を駆動する3相交流式のモータであり、例えば、埋込磁石同期モータまたは表面磁石同期モータなどのモータが用いられる。
動力伝達機構3は、例えば、ディファレンシャルギアおよびドライブシャフトによって構成され、モータM1と駆動輪2との間にて動力を伝達する。モータM1の回転力は、動力伝達機構3を経由して駆動輪2に伝達される。これと同様に、駆動輪2の回転力は、動力伝達機構3を経由してモータM1および他方の駆動源D2に伝達される。
電池P1は、例えば、リチウムイオン電池などの直流電源である。電池P1は、モータM1を駆動させるための電力を供給し、および、この電力を蓄積する。
インバータ10は、電池P1から供給された直流電力を例えば3相の交流電力に変換して、その交流電力をモータM1に供給し、モータM1を駆動制御する。
他方の駆動源D2は、モータM1のトルクとは別にトルクを発生するための装置であり、インバータ10と通信可能に接続されている。なお、他方の駆動源D2は、電気車両301のECU(Engine Control Unit)を介してインバータ10に接続されていてもよい。
他方の駆動源D2は、例えば内燃機関等のエンジンであり、動力伝達機構3を経由して駆動輪2にトルクを伝達する。他方の駆動源D2は、例えば、力行中であるモータM1にて3相短絡制御が実行された場合に、インバータ10からの指令を受けてトルクを出力する。
なお、車両駆動装置5Dは上記構成に限られない。例えば、車両駆動装置5Dは、一方の駆動源D1のみを含み、インバータ10、電池P1および他方の駆動源D2は、車両駆動装置5Dの外に設けられていてもよい。また、電気車両301は、上記に示した連結構造に限られない。例えば電気車両301は、動力伝達機構3を備えず、一方の駆動源D1と駆動輪2とが直結された構造であってもよいし、他方の駆動源D2と駆動輪2とが直結された構造であってもよい。
以下、モータM1を駆動制御するインバータ10について、詳しく説明する。
図36は、車両駆動装置5Dのインバータ10、永久磁石モータM1および電池P1を例示する回路図である。
図36に示すように、車両駆動装置5Dは、モータM1と、インバータ10と、電池P1とを備えている。インバータ10は、3相ブリッジ回路40とドライブ回路30と制御回路20とを備えている。なお図36には、3相ブリッジ回路40に印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサC1も図示されている。
3相ブリッジ回路40は、電池P1から供給された直流電力をスイッチング動作により3相の交流電力に変換して、その交流電力をモータM1に供給し、モータM1を駆動する回路である。3相ブリッジ回路40の、スイッチング動作制御用の入力側はドライブ回路30に、電力の入力側は電池P1に、それぞれ接続され、出力側はモータM1に接続されている。なお、モータM1の回生時には、3相ブリッジ回路40の出力側から回生電流が導入され、電力の入力側に向かって流れるが、ここでは、電池P1が接続される側を入力側、モータM1が接続される側を出力側と定義する。
図37は、車両駆動装置5Dのインバータ10が備える3相ブリッジ回路40を例示する回路図である。なお、図37に示す電圧Vpは電源電圧であり、電圧Vgは接地電圧である。
3相ブリッジ回路40は、図37の上側に位置する上側アーム群に設けられたスイッチ素子S1、S2、S3と、図37の下側に位置する下側アーム群に設けられたスイッチ素子S4、S5、S6とを備えている。例えば、スイッチ素子S1〜S6は、電界効果トランジスタ(FET)または絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)などによって構成される。また、スイッチ素子S1〜S6は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成されてもよい。
各スイッチ素子S1、S2、S3は、モータM1の3つの端子から引き出された3つの出力線と、電池P1の正極に接続された電源線Lpとの間のそれぞれの間に接続されている。各スイッチ素子S4、S5、S6は、上記3つの出力線と電池P1の負極に接続された接地線Lgとの間のそれぞれの間に接続されている。また、各スイッチ素子S1〜S6には、還流ダイオードが並列接続されている。還流ダイオードは、スイッチ素子S1〜S6に寄生する寄生ダイオードであってもよい。
各スイッチ素子S1〜S6は、ドライブ回路30に接続され、ドライブ回路30から出力された信号によって駆動する。モータM1は、各スイッチ素子S1〜S6の駆動に基づいて、力行、回生または惰行などの状態で駆動される。
次に、ドライブ回路30について、図36を参照しながら説明する。
ドライブ回路30は、3相PWM制御および3相短絡制御を実行するため、3相ブリッジ回路40のスイッチ素子S1〜S6を駆動する回路である。ドライブ回路30の入力側は制御回路20に接続され、出力側は3相ブリッジ回路40に接続されている。
ドライブ回路30は、切替回路31と、バッファ回路32と、3相短絡回路33と、OR回路34とを備える。また、ドライブ回路30は、チェック用端子36と異常受付端子39とを備える。
異常受付端子39は、インバータ10の異常状態を告げる異常信号s2を受け付ける端子である。この異常信号s2は、後述する異常検出部29からドライブ回路30に出力される。
チェック用端子36は、3相短絡回路33による3相短絡制御を実行するためのアクティブチェック信号s1を受け付ける端子である。このアクティブチェック信号s1は、制御回路20からドライブ回路30に出力される。以下において、3相短絡回路33による3相短絡制御を試行し、3相短絡回路33が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することをアクティブチェックと呼ぶ。アクティブチェックを行うことで、3相短絡回路33の故障有無を診断することができる。
チェック用端子36および異常受付端子39に入力されたそれぞれの信号は、OR回路34に入力される。OR回路34は、チェック用端子36および異常受付端子39の少なくとも一方の端子が信号を受け付けている場合に、3相短絡回路33に信号を出力する。3相短絡回路33は、OR回路34から出力された信号に基づいて駆動する。すなわち3相短絡回路33は、異常検出およびアクティブチェックのそれぞれの入力信号に基づいて駆動する。
3相短絡回路33は、モータM1の3相のそれぞれを短絡するために用いられる回路である。具体的には、3相短絡回路33は、OR回路34から出力された信号に基づいて3相ブリッジ回路40の上側アーム群のスイッチ素子S1〜S3および下側アーム群のスイッチ素子S4〜S6のうち、一方のアーム群の各スイッチ素子を短絡し、他方のアーム群の各スイッチ素子を開放する回路である。このようにしてモータM1の3相のそれぞれを短絡することで、モータM1の巻線コイル間から誘起される電圧を0にすることができる。これにより、例えば3相ブリッジ回路40に過電圧が検出された場合に、3相短絡回路33を働かせて3相短絡制御を行い、3相ブリッジ回路40にかかる過電圧を低減することができる。
切替回路31は、3相ブリッジ回路40を、後述する駆動信号演算部23から出力された駆動信号に基づいて駆動するか、あるいは、3相短絡回路33から出力された信号を用いて駆動するかを切り替える回路である。なお、駆動信号演算部23から出力される駆動信号には、3相ブリッジ回路40を3相PWM制御する信号などの各種信号が含まれる。切替回路31による切り替えは、例えばハードロジック回路によって実現されている。本実施の形態の切替回路31は、ドライブ回路30がチェック用端子36を介してアクティブチェック信号s1を受け付けた場合に、モータM1にて実行されているスイッチング制御を3相短絡回路33による3相短絡制御に切り替える。
バッファ回路32は、各スイッチ素子S1〜S6を駆動することができるように、3相ブリッジ回路40に出力する出力信号を増幅する回路である。バッファ回路32によって出力信号が増幅されることで、3相ブリッジ回路40の駆動が可能となる。
次に、制御回路20について、図36を参照しながら説明する。
制御回路20は、各種の演算等を行うマイクロプロセッサと、マイクロプロセッサを動作させるためのプログラムまたは情報などを記憶するメモリ24とによって構成される。
図36に示すように制御回路20は、モータ制御信号取得部21と、モータ制御信号演算部22と、駆動信号演算部23と、アクティブチェック指示部26と、故障判断部25と、3相短絡制御信号割り込み部27とを備える。また、制御回路20は、異常検出部29を備える。
モータ制御信号取得部21は、モータM1に流れる電流を検知する電流センサCSu、CSv、CSw、および、モータM1の磁極位置を検出して回転位置を検知する回転位置センサRSなどの各種センサによって検知された情報を取得する。なお、電流センサCSu、CSv、CSwは、モータM1のu相、v相、w相における電流値を検知するセンサである。また、モータ制御信号取得部21は、電源線Lpにおける電圧Vpに関する情報を取得する。また、モータ制御信号取得部21は、制御回路20の外部、例えば電気車両301のECU(Electronic Control Unit)から出力されたトルク指令などの制御指令情報を取得する。
モータ制御信号演算部22は、モータ制御信号取得部21にて取得した上記情報に基づいて、演算によりトルク指令値を電流に換算し、モータM1を電流制御するための制御信号を出力する。例えば、モータ制御信号演算部22は、車両駆動装置5Dの駆動時におけるモータM1のトルクが、トルク指令情報に示された目標トルク(例えば電気車両301のアクセルペダルの操作量に応じたトルク)となるように、モータM1の電流制御のための制御信号を出力する。
また、モータ制御信号演算部22は、モータ制御信号取得部21にて取得した上記情報を演算により変換して、アクティブチェックおよび故障判断を行うための制御信号を出力する。例えば、モータ制御信号演算部22は、トルク指令などの制御指令情報を上記した制御信号に変換して駆動信号演算部23およびアクティブチェック指示部26に出力する。また、モータ制御信号演算部22は、モータM1に流れる電流、モータM1の磁極の回転位置、電源線Lpにおける電圧Vpなどの情報を制御信号に変換して駆動信号演算部23および故障判断部25に出力する。
アクティブチェック指示部26は、アクティブチェック信号s1をチェック用端子36に出力する回路である。前述したようにアクティブチェックとは、3相短絡回路33による3相短絡制御を試行し、3相短絡回路33が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することである。アクティブチェック指示部26は、モータ制御信号演算部22から出力された上記制御信号に基づいて、今のタイミングでアクティブチェックを行うことができるか否かを判断する。
例えば、アクティブチェック指示部26は、一方の駆動源D1を使わず他方の駆動源D2にて電気車両301を駆動可能な場合に、アクティブチェックを行うことができると判断する。アクティブチェックの実行可否の判断は、定期的な時間間隔で実行される。なお、アクティブチェックを行うか否かの判断は、アクティブチェック指示部26に限られず、制御回路20に含まれる回路であればアクティブチェック指示部26と異なる回路によって行われてもよい。
ここで、アクティブチェック信号s1が出力される前に制御回路20にて実行される処理について、図38および図39を参照しながら説明する。この処理は、例えば、電気車両301が力行中である場合に、一方の駆動源D1に接続されているインバータ10の3相短絡回路33のアクティブチェックを可能とするために実行される。
図38は、車両駆動装置5Dの一方の駆動源D1および他方の駆動源D2から出力されるトルクを示す図である。図38の縦軸は、プラス側(上側)に向かうほど駆動トルクが大きくなることを示している。
車両駆動装置5Dは、一方の駆動源D1から出力される第1トルクT1、および、他方の駆動源D2から出力される第2トルクT2を合計した合計トルク(T1+T2)によって駆動される。第1トルクT1は、駆動輪の回転数が所定の値を超えると徐々に小さな値となる。
実施の形態4では、制御回路20は、一方の駆動源D1および他方の駆動源D2の両方が力行中であり、かつ、一方の駆動源D1を使わず他方の駆動源D2にて電気車両301を駆動可能な場合に、チェック用端子36にアクティブチェック信号s1を出力する。これにより、例えば、力行中の電気車両301を他方の駆動源D2のみで駆動することができる。その結果、一方の駆動源D1を力行でもなく回生でもない状態とすることができ、一方の駆動源D1に接続されているインバータ10の3相短絡回路33を故障診断することができる。
図39は、車両駆動装置5Dにて出力される全トルクTAのうちの各トルクの割合を示す概念図である。
図39の(a)には、第1トルクT1と第2トルクT2と3相短絡トルクTshとを合わせた全トルクTAが示されている。例えば、第1トルクT1は一方の駆動源D1が出力可能な最大トルクのうちの40%のトルクであり、第2トルクT2は他方の駆動源D2が出力可能な最大トルクのうちの40%のトルクである。3相短絡トルクTshは、3相短絡制御が実行されるとモータM1に発生する制動トルクである。そのため他方の駆動源D2は、3相短絡回路33の故障診断を行う際に、第1トルクT1および第2トルクT2に加え、3相短絡トルクTshをカバーするための追加トルクが必要となる。追加トルクの大きさは、3相短絡トルクTshの大きさと同じであり、3相短絡トルクTshは、前述した(式12)にて表される。
(式12)において、Pnは極対数、Raは相抵抗、ωは角速度(回転数、回転速度)、Idはd軸電流、Iqはq軸電流である。PnおよびRaは、モータM1の固有値である。ωは、回転位置センサRSの値に基づいて求められる。ωは、60/(2π・Pn)を乗算することでモータM1の回転速度(回転数)に変換される。IdおよびIqは、前述した(式1)および(式2)に基づいて求められる。(式12)は、メモリ24に格納され、必要に応じて読み出される。
制御回路20は、全トルクTAを他方の駆動源D2で出力できる場合に、他方の駆動源D2にて電気車両301を駆動可能であると判断する。具体的には、図39の(a)に示す全トルクTAを、図39の(d)に示すように他方の駆動源D2のみで出力できる場合に、他方の駆動源D2にて電気車両301を駆動可能であると判断する。制御回路20は、全トルクTAを他方の駆動源D2で出力できる場合に、全トルクTAが他方の駆動源D2から出力されるように他方の駆動源D2に指令を与え、さらに、チェック用端子36にアクティブチェック信号s1を出力する。これにより、車両駆動装置5Dは、3相短絡回路33の故障診断を行うことができる。
また、制御回路20は、全トルクTAを他方の駆動源D2から出力する際に、急激な変動が発生しないように一方の駆動源D1および他方の駆動源D2を制御する。具体的には、制御回路20は、図39の(a)、(b)および(c)の順で示すように、合計トルク(T1+T2)のうち第1トルクT1の比率よりも第2トルクT2の比率が徐々に大きくなるように制御し、この制御を終えた後にアクティブチェック信号s1を出力するとともに、図39の(d)に示すように他方の駆動源D2のみが全トルクTAを出力するように制御する。
このように制御回路20は、アクティブチェックするか否かを判断してアクティブチェックすべきと判断した後に、アクティブチェック信号s1を出力する。また制御回路20は、アクティブチェック信号s1を出力すると同時に、アクティブチェック中であることを示すビジー信号を故障判断部25に出力する。
引き続き、図36を参照しながら制御回路20の各構成について説明する。
故障判断部25は、3相短絡回路33の故障有無を判断する回路である。故障判断部25は、3相短絡制御が実行された際の、モータM1の3相に流れる電流の変化、電流位相の変化、および、3相ブリッジ回路40における直流電圧の変化の少なくとも1つの変化に関する情報を取得する。電流の変化は、電流センサCSu、CSv、CSwによって検出した電流値に基づいて求めることができる。電流位相の変化は、例えば、モータM1のd軸電流とq軸電流に基づいて求めることができる。d軸電流、q軸電流は、電流センサCSu、CSv、CSwによって検出した電流値、および、回転位置センサRSによって検出した磁極の回転位置に基づいて求めることができる。直流電圧の変化は、電源線Lpにおける電圧Vpを検出することで求めることができる。
故障判断部25は、取得した上記情報に基づいて3相短絡回路の故障有無を判断する。例えば、故障判断部25は、電流が規定の範囲から外れた場合、電流位相が規定の範囲から外れた場合、および、直流電圧が規定の範囲から外れた場合のうち少なくとも1つの場合に、3相短絡回路33が故障していると判断する。また、故障判断部25は、3相短絡回路33が故障していると判断した場合に、その故障情報を外部に報知する報知信号を出力する。
異常検出部29は、インバータ10に発生する過電圧などの異常を検出する回路である。ここでは、異常検出部29は、電源線Lpの断線などによる失陥、あるいは、スイッチ素子S1〜S6、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRSなどの故障により発生する過電圧を検出する回路であるとして説明する。異常検出部29は、電池P1のプラス側であって、3相ブリッジ回路40の電源線Lpに接続されている。異常検出部29が異常(ここでは過電圧)を検出すると、異常信号s2が異常受付端子39に出力される。これにより、3相短絡回路33が3相短絡制御を行うので、3相ブリッジ回路40の過電圧を抑制することができる。なお、ここで例示した、異常検出部29の異常である過電圧は、例えば、電池P1のプラス側配線の外れ、断線、あるいは、電池P1に設けられた図示しないメインリレーの開放などによって発生しうる。また、異常検出部29とドライブ回路30(3相短絡回路33を含む)は、いずれもハードウエアで構成されるので、異常検出部29が異常を検出して3相短絡回路33が3相短絡制御を行うまでの非常時の動作は、自動的に、かつ、迅速に行われる。また、異常検出部29は、制御回路20内に設けられている必要はなく、制御回路20の外に設けられていてもよい。また、異常検出部29は、過電圧を検出する構成に限定されるものではなく、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRSなどの出力異常(所定の出力電圧範囲を超えるなど)を直接検出するような構成を備えていてもよい。
駆動信号演算部23は、モータ制御信号演算部22から出力された制御信号に基づいて、モータM1を駆動するために必要な駆動信号を演算し、この駆動信号をドライブ回路30に出力する。駆動信号演算部23は、車両駆動装置5Dが通常駆動している際は、3相PWM制御を行うための駆動信号を出力する。
また、駆動信号演算部23は、インバータ10の異常が検出された場合、かつ、故障判断部25によって3相短絡回路33が故障していると判断された場合は、メモリ24に格納されたプログラムによって3相短絡制御を行うための駆動信号を出力する。
このプログラムによる3相短絡制御は、3相短絡制御信号割り込み部27によって実行される。具体的には、3相短絡制御信号割り込み部27は、故障判断部25から3相短絡回路33が故障しているという故障情報を受け取ると、インバータ10の異常が検出された場合に駆動信号演算部23に対し、3相短絡を実行するための割り込み信号を出力する。駆動信号演算部23は、割り込み信号を受けることで、3相PWM制御の駆動信号を3相短絡制御の駆動信号に変更してドライブ回路30に出力する。
このように、制御回路20は、3相PWM制御および3相短絡制御を実行するための駆動信号をドライブ回路30に出力する。ドライブ回路30では、制御回路20から出力された駆動信号、および、3相短絡回路33から出力された信号のうちのいずれかの信号を選択し、3相ブリッジ回路40に出力する。3相ブリッジ回路40は、ドライブ回路30から出力された信号に基づいて、モータM1を駆動する。
なお、前述したアクティブチェック信号s1が出力される前に制御回路20にて実行される処理の一部は、駆動信号演算部23にて行われてもよい。例えば駆動信号演算部23は、第1トルクT1、第2トルクT2および3相短絡トルクTshを合わせた全トルクTAを演算し、この全トルクTAを他方の駆動源D2を制御するための駆動信号に変換し、必要に応じて他方の駆動源D2に出力してもよい。
実施の形態4の車両駆動装置5Dは、永久磁石モータM1である一方の駆動源D1と、一方の駆動源D1と異なる他方の駆動源D2と、一方の駆動源D1を駆動するインバータ10とを備える。インバータ10は、複数のスイッチ素子S1〜S6を有する3相ブリッジ回路40と、3相ブリッジ回路40に接続されるドライブ回路30と、ドライブ回路30に接続される制御回路20と、インバータ10の異常を検出する異常検出部29とを有する。ドライブ回路30は、永久磁石モータM1の3相を短絡する3相短絡回路33と、異常検出部29から出力された異常信号s2を受け付ける異常受付端子39と、3相短絡回路33による3相短絡制御を実行するためのアクティブチェック信号s1を受け付けるチェック用端子36とを有する。制御回路20は、一方の駆動源D1を使わず他方の駆動源D2にて電気車両301を駆動可能な場合に、図39で説明したように、全トルクTAを他方の駆動源D2から出力するように制御するとともに、チェック用端子36にアクティブチェック信号s1を出力する。
このように、制御回路20が他方の駆動源D2にて電気車両301を駆動可能な場合に、アクティブチェック信号s1を出力することで、ドライブ回路30はチェック用端子36を用いてアクティブチェック信号s1を適宜受け付けることができる。これにより車両駆動装置5Dは、3相短絡回路33が3相短絡制御を実行できるか否かを適宜確認することができる。また、永久磁石モータM1が力行中であるときにアクティブチェック信号s1を出力することで、例えばモータM1が力行でもなく回生でもないときのみにアクティブチェック信号s1を出力する場合に比べて、3相短絡制御を実行できるか否かを確認する機会を増やすことができる。これにより、インバータ10において3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、信頼性の高い車両駆動装置5Dを提供することができる。
[4−2.車両駆動装置の動作]
次に、車両駆動装置5Dの動作について、図40〜図42を参照しながら説明する。
図40は、車両駆動装置5Dの動作を例示するフローチャートである。図41は、図40のフローチャートに続き、車両駆動装置5Dの動作を例示するフローチャートである。図42は、図41のフローチャートに続き、車両駆動装置5Dの動作を例示するフローチャートである。
実施の形態4の車両駆動装置5Dにおけるアクティブチェックは、一方の駆動源D1を使わず他方の駆動源D2にて電気車両301を駆動可能なときに実行可能となる。以下、車両駆動装置5Dの動作を順に説明する。
はじめに、車両駆動装置5Dは起動され、駆動されている状態にある。
この状態で、制御回路20は、外部からトルク指令を読み込む(ステップS301)。具体的には、モータ制御信号取得部21が、電気車両301のECUからトルク指令情報を読み込む。
次に、制御回路20は、トルク指令の有無を判断する(ステップS302)。このステップS302にて、トルク指令が無いと判断された場合は、車両駆動装置5Dが力行および回生のいずれでもない状態に該当し、実施の形態4の変形例2に示す3相短絡制御(図46のステップS13以降)に進む。一方、ステップS302にて、トルク指令が有りと判断された場合は、車両駆動装置5Dが力行または回生の状態に該当し、ステップS310に進む。
次に、制御回路20は、車両駆動装置5Dが力行指令を受けているか否かを判断する(ステップS310)。具体的には、制御回路20は、例えばトルク指令の正負に基づいて、回生指令(負)を受けているかまたは力行指令(正)を受けているかを判断する。
例えば、制御回路20は、力行指令を受けていないと判断すると(S310のNo)、今のタイミングで3相短絡回路33の故障診断を行なわないこととし、ステップS301に戻る。一方、制御回路20は、力行指令を受けていると判断すると、今のタイミングで3相短絡回路33の故障診断を行うこととし、次のステップに進む。
ここで制御回路20は、3相短絡時に発生する3相短絡トルクTshを演算する(ステップS311)。3相短絡トルクTshは、前述した(式12)を用いて演算される。
なお、制御回路20は必ずしも(式12)を用いて3相短絡トルクTshを演算しなくてもよい。例えば制御回路20は、モータM1の回転数および3相短絡トルクTshの関係を示す実測データの集計表をメモリ24に格納し、この集計表に基づいてモータM1の回転数に応じた3相短絡トルクTshを求めてもよい。
次に、制御回路20は、一方の駆動源D1の第1トルクT1および他方の駆動源D2の第2トルクT2を取得する(ステップS312)。例えば、第1トルクT1は、ECUから出力されたトルク指令情報に基づいて取得され、第2トルクT2は、ECUまたは他方の駆動源D2から取得される。
次に、制御回路20は、一方の駆動源D1の第1トルクT1、他方の駆動源D2の第2トルクT2および3相短絡トルクTshの全トルクTAが他方の駆動源D2にて駆動可能か否かを判断する(ステップS312A)。他方の駆動源D2にて駆動可能でないと判断された場合、3相短絡回路33の故障診断を行わずにステップS301に戻る。一方、他方の駆動源D2にて駆動可能であると判断された場合(S312AにてYes)、3相短絡制御を実行しても、電気車両301の走行に与える影響が小さいので次のステップに進む。
次に、制御回路20は、全トルクTAが他方の駆動源D2から出力されるように、他方の駆動源D2を制御する(ステップ312B)。その際、制御回路20は、合計トルク(T1+T2)のうち第1トルクT1の比率よりも第2トルクT2の比率が徐々に大きくなるように、一方の駆動源D1および他方の駆動源D2を制御してもよい。
次に、制御回路20は、インバータ10のフィードバック制御を停止する(ステップS313)。具体的には、駆動信号演算部23が、3相PWM制御を行うための駆動信号の出力を停止する。ステップS312Bに示した全トルクTAの出力は、ステップS313と同時に実行されてもよい。
また、制御回路20は、アクティブチェック信号s1を出力する(ステップS314)。具体的にはアクティブチェック指示部26が、アクティブチェック信号s1をドライブ回路30のチェック用端子36に出力する。このアクティブチェック信号s1は、後述するステップS318またはS321にて停止されるまで継続して出力される。
次に、インバータ10は、3相短絡回路33を用いた3相短絡制御を実行する(ステップS315)。アクティブチェック信号s1を受け取ったチェック用端子36は、その信号をOR回路34に出力し、OR回路34は受け取った信号を3相短絡回路33に出力する。これによって3相短絡回路33が試行駆動される。ここで切替回路31によって、切替回路31の出力信号が、駆動信号演算部23から出力される駆動信号でなく、3相短絡回路33から出力される信号に切り替えられる。そして、3相短絡回路33から出力される信号が、バッファ回路32を介して3相ブリッジ回路40に出力される。これにより、3相短絡回路33を用いた3相短絡制御が、3相ブリッジ回路40にて試行される。
次に、制御回路20は、車両駆動装置5Dにおける電流の変化、電流位相の変化、及び、電圧の変化を取得する(ステップ316)。具体的には、モータ制御信号取得部21が、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRS、電源線Lpにおける電圧Vpなどの情報を取得する。これらの情報は、モータ制御信号演算部22にて変換され、制御信号として故障判断部25に出力される。
次に、制御回路20は、これら電流、電流位相および電圧の変化が規定の範囲内であるか否かによって、3相短絡回路33の故障有無を判断する(ステップS317)。具体的には、故障判断部25が、電流が規定の範囲から外れたか否か、電流位相が規定の範囲から外れたか否か、および、直流電圧が規定の範囲から外れたか否かを判断する。
故障判断部25は、電流、電流位相および電圧の変化のうち全てが規定の範囲内であると判断した場合に(S317のYes)、3相短絡回路33が故障しておらず正常であると判断する。そして制御回路20は、アクティブチェック指示部26から出力していたアクティブチェック信号s1の出力を停止する(ステップS318)。また、ステップS312Bにて他方の駆動源D2から全トルクTAが出力されていた場合は、このタイミングで他方の駆動源D2の出力を第2トルクT2に戻し(ステップS318A)、一方の駆動源D1を駆動するためのインバータ10のフィードバック制御を再開する(ステップS319)。そして制御回路20は、ステップS301に戻り、アクティブチェックを繰り返す。これらのアクティブチェックは、モータM1が力行中であるときに所定の時間間隔で繰り返し実行される。
一方、ステップS317において制御回路20は、電流、電流位相および電圧の変化のうち少なくとも1つが規定の範囲から外れている場合に(S317のNo)、3相短絡回路33が故障している判断する。そして、制御回路20は、図42に示すように、3相短絡回路33が故障している場合の動作を実行する。
図42に示すように、制御回路20は、アクティブチェック指示部26から出力していたアクティブチェック信号s1の出力を停止する。(ステップS321)。また、ステップS312Bにて他方の駆動源D2から全トルクTAが出力されていた場合は、他方の駆動源D2の出力を第2トルクT2にし(ステップS321A)、一方の駆動源D1を駆動するためのインバータ10のフィードバック制御を再開する(ステップS322)。
次に、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していることを示す故障警告を外部、例えば電気車両301のECU(上位制御部)に出力する(ステップS323)。また、故障判断部25が、モニターを用いて故障情報を表示したり、スピーカを用いて故障情報を知らせる音を出力したりすることで、ユーザに故障情報を報知してもよい。
また、制御回路20は、3相短絡回路33への3相短絡制御信号の出力を禁止する(ステップS324)。具体的には、アクティブチェック信号s1がアクティブチェック指示部26から出力されないようにする。また、制御回路20は、3相短絡制御のフラグを立てる(ステップS325)。このフラグが立つことで、例えば異常検出部29がインバータ10の異常を検出した場合に、3相短絡回路33を用いるのでなく、制御回路20内のメモリ24に格納されているプログラムを用いて3相短絡制御が実行される。これにより、3相短絡回路33の故障を修理するまでの間にインバータ10の異常が発生しても、3相短絡制御を実行することができる。
なお、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していると判断された場合に、以後の車両駆動装置5Dの駆動においてモータM1の回転数を制限するように、インバータ10を制御してもよい。
また、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していると判断され、かつ、アクティブチェック信号s1を出力している最中に、制御回路20内のメモリ24に格納されているプログラムを用いて3相短絡制御を行う制御信号をドライブ回路30に出力してもよい。これにより、アクティブチェック信号s1を出力している最中に、故障した3相短絡回路33により3相ブリッジ回路40を駆動することで発生してしまう3相ブリッジ回路40の過電圧を抑制することができる。
また、制御回路20は、アクティブチェック信号s1の出力中に、一方の駆動源D1であるモータM1が力行または回生の状態となった場合に、アクティブチェック信号s1の出力を停止してもよい。制御回路20は、アクティブチェック信号s1の出力を停止した場合に、3相短絡回路33の故障有無の判断を無効としてもよい。
[4−3.実施の形態4の変形例1]
次に、実施の形態4の変形例1に係る車両駆動装置5Daの構成について、図43および図44を参照しながら説明する。この変形例1では、実施の形態4で示した駆動源D2(エンジン)ではなく、車両駆動装置5Daに複数の永久磁石モータM1が設けられている例について説明する。
図43は、変形例1による車両駆動装置5Daを備える電気車両301Aを例示する図である。電気車両301Aは、駆動輪2と、動力伝達機構3と、2つの永久磁石モータM1と、2つのインバータ10と、電池P1とを備えている。これらの構成のうち、車両駆動装置5Daは、2つの永久磁石モータM1、2つのインバータ10および電池P1によって構成されている。
図44は、車両駆動装置5Daのインバータ10、永久磁石モータM1および電池P1を例示する回路図である。
図44に示すように車両駆動装置5Daは、2つのモータM1と、2つのインバータ10と、電池P1とを備えている。各インバータ10は、3相ブリッジ回路40とドライブ回路30と制御回路20とを備えている。
制御回路20は、モータ制御信号取得部21と、モータ制御信号演算部22と、駆動信号演算部23と、アクティブチェック指示部26と、故障判断部25と、3相短絡制御信号割り込み部27とを備える。また、制御回路20は、異常検出部29を備える(図示省略)。各インバータ10の各制御回路20は、通信可能なように互いに接続されている。なお、図44では2つの制御回路20が示されているが、それに限られず、制御回路は、2つの制御回路20の各機能を有する1つの制御回路で構成されていてもよい。
ドライブ回路30の入力側は制御回路20に接続され、出力側は3相ブリッジ回路40に接続されている。各ドライブ回路30は、切替回路31と、バッファ回路32と、3相短絡回路33と、OR回路34とを備える。また、各ドライブ回路30は、チェック用端子36と異常受付端子39とを備える(図示省略)。
各3相ブリッジ回路40は、上側アーム群に設けられたスイッチ素子S1、S2、S3と、下側アーム群に設けられたスイッチ素子S4、S5、S6とを備えている。各スイッチ素子S1〜S6は、各ドライブ回路30に接続され、各ドライブ回路30から出力された信号によって駆動する。モータM1は、各スイッチ素子S1〜S6の駆動に基づいて、力行、回生または惰行などの状態で駆動される。
変形例1の車両駆動装置5Daは、2つのモータM1と、2つのモータM1のうち一方のモータM1である一方の駆動源D1を駆動する一方のインバータ10と、2つのモータM1のうち他方のモータM1である他方の駆動源D2を駆動する他方のインバータ10とを備える。
図45は、車両駆動装置5Daの一方の駆動源D1および他方の駆動源D2から出力されるトルクを示す図である。この車両駆動装置5Daは、図45に示すように、一方の駆動源D1から出力される第1トルクT1、および、他方の駆動源D2から出力される第2トルクT2を合計した合計トルク(T1+T2)によって駆動される。第1トルクT1および第2トルクT2のそれぞれは、モータM1の回転数が低い領域にて一定であり、モータM1の回転数が所定の値を超えると徐々に小さな値となる。
制御回路20は、一方の駆動源D1を使わず他方の駆動源D2にて電気車両301Aを駆動可能な場合に、一方のインバータ10に含まれる一方のチェック用端子36にアクティブチェック信号s1を出力し、他方の駆動源D2を使わず一方の駆動源D1にて電気車両301Aを駆動可能な場合に、他方のインバータ10に含まれる他方のチェック用端子36にアクティブチェック信号s1を出力する。
このように、一方の駆動源D1を使わず他方の駆動源D2にて電気車両301Aを駆動可能な場合にアクティブチェック信号s1を出力することで、一方の駆動源D1のモータM1にて3相短絡制御を実行したときに電気車両301Aの走行に与える影響を小さくすることができる。また、他方の駆動源D2を使わず一方の駆動源D1にて電気車両301Aを駆動可能な場合にアクティブチェック信号s1を出力することで、他方の駆動源D2のモータM1にて3相短絡制御を実行したときに電気車両301Aの走行に与える影響を小さくすることができる。
また、車両駆動装置5Daでは、一方のインバータ10に含まれるドライブ回路30は、アクティブチェック信号s1を受け付けた場合に、一方のモータM1にて実行されているスイッチング制御を3相短絡回路33による3相短絡制御に切り替え、他方のインバータ10に含まれるドライブ回路30は、アクティブチェック信号s1を受け付けた場合に、他方のモータM1にて実行されているスイッチング制御を3相短絡回路33による3相短絡制御に切り替えてもよい。
また、制御回路20は、一方のチェック用端子36にアクティブチェック信号s1を出力中に一方のモータM1が力行または回生の状態となった場合に、当該アクティブチェック信号s1の出力を停止してもよい。また、制御回路20は、他方のチェック用端子36にアクティブチェック信号s1を出力中に他方のモータM1が力行または回生の状態となった場合に、当該アクティブチェック信号s1の出力を停止してもよい。
また、制御回路20は、一方のチェック用端子36および他方のチェック用端子36に対し、アクティブチェック信号s1を交互に出力してもよい。
[4−4.実施の形態4の変形例2]
次に、実施の形態4の変形例2の車両駆動装置5Dの動作について、図46および図47を参照しながら説明する。この変形例2では、永久磁石モータが力行および回生のいずれでもない状態で3相短絡回路の故障有無をチェックする例について説明する。なお、実施の形態4の変形例2の車両駆動装置5Dの構成については、実施の形態4で示した車両駆動装置5Dと同じなので、説明を省略する。なお、この変形例2は、車両駆動装置5Dに限られず車両駆動装置5Daにも適用することができる。
図46は、実施の形態4の変形例2の車両駆動装置5Dの動作を例示するフローチャートである。図47は、図46のフローチャートに続き、この変形例2の車両駆動装置5Dの動作を例示するフローチャートである。
はじめに、この変形例2の車両駆動装置5Dは起動され、駆動されている状態にある。
この状態で、制御回路20は、外部からトルク指令を読み込む(ステップS301)。具体的には、モータ制御信号取得部21が、電気車両301のECUからトルク指令情報を読み込む。
次に、制御回路20は、トルク指令の有無を判断する(ステップS302)。このステップS302にて、トルク指令が有りと判断された場合は、前述したようにステップS210に進む。一方、トルク指令が無いと判断された場合は、車両駆動装置5Dが力行および回生のいずれでもない状態に該当し、次のステップに進む。
次に、制御回路20は、インバータ10のフィードバック制御を停止する(ステップS13)。具体的には、駆動信号演算部23が、3相PWM制御を行うための駆動信号の出力を停止する。
また、制御回路20は、アクティブチェック信号s1を出力する(ステップS14)。具体的にはアクティブチェック指示部26が、アクティブチェック信号s1をドライブ回路30のチェック用端子36に出力する。このアクティブチェック信号s1は、後述するステップS18またはS21にて停止されるまで継続して出力される。
次に、インバータ10は、3相短絡回路33を用いた3相短絡制御を実行する(ステップS15)。アクティブチェック信号s1を受け取ったチェック用端子36は、その信号をOR回路34に出力し、OR回路34は受け取った信号を3相短絡回路33に出力する。これによって3相短絡回路33が試行駆動される。ここで切替回路31によって、切替回路31の出力信号が、駆動信号演算部23から出力される駆動信号でなく、3相短絡回路33から出力される信号に切り替えられる。そして、3相短絡回路33から出力される信号が、バッファ回路32を介して3相ブリッジ回路40に出力される。これにより、3相短絡回路33を用いた3相短絡制御が、3相ブリッジ回路40にて試行される。
次に、制御回路20は、車両駆動装置5Dにおける電流の変化、電流位相の変化、及び、電圧の変化を取得する(ステップS16)。具体的には、モータ制御信号取得部21が、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRS、電源線Lpにおける電圧Vpなどの情報を取得する。これらの情報は、モータ制御信号演算部22にて変換され、制御信号として故障判断部25に出力される。
次に、制御回路20は、これら電流、電流位相および電圧の変化が規定の範囲内であるか否かによって、3相短絡回路33の故障有無を判断する(ステップS17)。具体的には、故障判断部25が、電流が規定の範囲から外れたか否か、電流位相が規定の範囲から外れたか否か、および、直流電圧が規定の範囲から外れたか否かを判断する。
故障判断部25は、電流、電流位相および電圧の変化のうち全てが規定の範囲内であると判断した場合に(S17のYes)、3相短絡回路33が故障しておらず正常であると判断する。そして制御回路20は、アクティブチェック指示部26から出力していたアクティブチェック信号s1の出力を停止し(ステップS18)、インバータ10のフィードバック制御を再開する(ステップS19)。そして制御回路20は、ステップS301に戻り、アクティブチェックを繰り返す。これらのアクティブチェックは、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
一方、制御回路20は、電流、電流位相および電圧の変化のうち少なくとも1つが規定の範囲から外れている場合に(S17のNo)、3相短絡回路33が故障している判断する。そして、制御回路20は、図47に示すように、3相短絡回路33が故障している場合の動作を実行する。
図47に示すように、制御回路20は、アクティブチェック指示部26から出力していたアクティブチェック信号s1の出力を停止し(ステップS21)、インバータ10のフィードバック制御を再開する(ステップS22)。
次に、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していることを示す故障警告を外部、例えば電気車両301のECU(上位制御部)に出力する(ステップS23)。また、故障判断部25が、モニターを用いて故障情報を表示したり、スピーカを用いて故障情報を知らせる音を出力したりすることで、ユーザに故障情報を報知してもよい。
また、制御回路20は、3相短絡回路33への3相短絡制御信号の出力を禁止する(ステップS24)。具体的には、アクティブチェック信号s1がアクティブチェック指示部26から出力されないようにする。また、制御回路20は、3相短絡制御のフラグを立てる(ステップS25)。このフラグが立つことで、例えば異常検出部29がインバータ10の異常を検出した場合に、3相短絡回路33を用いるのでなく、制御回路20内のメモリ24に格納されているプログラムを用いて3相短絡制御が実行される。これにより、3相短絡回路33の故障を修理するまでの間にインバータ10の異常が発生しても、3相短絡制御を実行することができる。
なお、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していると判断された場合に、以後の車両駆動装置5Dの駆動においてモータM1の回転数を制限するように、インバータ10を制御してもよい。
また、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していると判断され、かつ、アクティブチェック信号s1を出力している最中に、制御回路20内のメモリ24に格納されているプログラムを用いて3相短絡制御を行う制御信号をドライブ回路30に出力してもよい。これにより、アクティブチェック信号s1を出力している最中に、故障した3相短絡回路33により3相ブリッジ回路40を駆動することで発生してしまう3相ブリッジ回路40の過電圧を抑制することができる。
また、制御回路20は、アクティブチェック信号s1の出力中に、モータM1が力行または回生の状態となった場合に、アクティブチェック信号s1の出力を停止してもよい。制御回路20は、アクティブチェック信号s1の出力を停止した場合に、3相短絡回路33の故障有無の判断を無効としてもよい。
[4−5.実施の形態4の変形例3]
次に、実施の形態4の変形例3による車両駆動装置5Dについて、図48および図49を参照しながら説明する。この変形例3では、モータM1の回転数が所定の閾値の範囲内である場合に、アクティブチェックを行う例について説明する。
図48は、実施の形態4の変形例3による車両駆動装置5Dの動作を例示するフローチャートである。図49は、この変形例3による車両駆動装置5Dの永久磁石モータが3相短絡された時に発生するトルクを示す図である。なお、図49の縦軸は、プラス側(上側)に向かうほど制動トルクが大きくなることを示している。
実施の形態4の変形例3の車両駆動装置5Dの動作方法では、トルク指令の有無を判断するステップS302と、インバータ10のフィードバック制御を停止するステップS13との間に、モータM1の回転数に関する判断を行い、アクティブチェックを行うか否かを決めるステップを有する。
具体的には、図48に示すように、ステップS302でトルク指令が無と判断された後にモータM1の回転数を読み込む(ステップS12A)。モータM1の回転数は、回転位置センサRSの検知結果に基づいて求めることができる。
次に、モータM1の回転数が所定の閾値の範囲内か否かを判断する(ステップS12B)。具体的には、モータM1の回転数の閾値である第1閾値r1、および、第1閾値r1よりも大きな第2閾値r2を設定し、モータM1の回転数が第1閾値r1以上第2閾値r2以下であるか否かを判断する。制御回路20は、回転数が第1閾値r1以上第2閾値r2以下である場合に(S12BのYes)、アクティブチェックを行う各ステップに進む。一方、回転数が第1閾値r1以上第2閾値r2以下でない場合は(S12BのNo)、ステップS301に戻る。
このように、モータM1の回転数に基づいてアクティブチェックの実行可否を決めるのは以下に示す理由による。図49に示すように、モータM1の回転数が第1閾値r1よりも小さいときにアクティブチェックを行うと、大きな制動トルクが急に発生することがある。そこでこの変形例3では、モータM1の回転数が第1閾値r1以上である場合に、アクティブチェックを実行することとしている。また、モータM1の回転数が第2閾値r2よりも大きい、つまり比較的激しい運転時であると推定されるときにアクティブチェックを行うと、モータM1へのトルク指令が急に大きく変わった場合に対応できなくなることがある。そこでこの変形例3では、モータM1の回転数が第2閾値r2以下である場合に、アクティブチェックを実行することとしている。
このように実施の形態4の変形例3の車両駆動装置5Dでは、モータM1の回転数に応じてアクティブチェックの実行可否を決めている。これにより、車両駆動装置5Dの駆動時における急激な変動を抑制することができる。なお、この変形例3は、車両駆動装置5Dに限られず車両駆動装置5Daにも適用することができる。
以上の実施の形態4は、本質的に好ましい例示であって、この発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
例えば、前記制御回路は、前記第1トルクおよび前記第2トルクを合計した合計トルクのうち、前記第1トルクの比率よりも前記第2トルクの比率が大きくなるように前記一方の駆動源および前記他方の駆動源を制御した後に、前記アクティブチェック信号を出力してもよい。
これによれば、全トルクを他方の駆動源から出力されるトルクに置き換える際に、急激な変動が発生することを抑制できる。
また、一方の前記インバータに含まれる前記ドライブ回路は、前記アクティブチェック信号を受け付けた場合に、前記一方の永久磁石モータにて実行されているスイッチング制御を前記3相短絡回路による前記3相短絡制御に切り替え、他方の前記インバータに含まれる前記ドライブ回路は、前記アクティブチェック信号を受け付けた場合に、前記他方の永久磁石モータにて実行されているスイッチング制御を前記3相短絡回路による前記3相短絡制御に切り替えてもよい。
このように、各ドライブ回路が、各永久磁石モータの制御を各3相短絡回路による3相短絡制御に切り替えることで、車両駆動装置は、各3相短絡回路が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することができる。これにより、各インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。
また、前記制御回路は、一方の前記チェック用端子および他方の前記チェック用端子に対し、前記アクティブチェック信号を交互に出力してもよい。
これによれば、車両駆動装置は、各3相短絡回路が3相短絡制御を実行できるか否かを交互に確認することができる。これにより、各インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。
(実施の形態5)
実施の形態5の車両駆動装置について、図50〜図60を参照しながら説明する。
以下の実施の形態5では、車両が走行中でなく、停車中のときに3相短絡回路の故障有無をチェックする例について説明する。また、以下の実施の形態5では、[5−1.車両駆動装置の構成]にて車両駆動装置の全体の構成を説明し、[5−2.故障診断を行うための構成および効果等]にて、停車中の車両にて3相短絡回路の故障診断を行うための構成を説明する。
[5−1.車両駆動装置の構成]
まず、実施の形態5による車両駆動装置5Eの構成について、図50〜図52を参照しながら説明する。
図50は、実施の形態5による車両駆動装置5Eを備える電気車両401を例示する図である。電気車両401は、駆動輪2と、動力伝達機構3と、永久磁石モータM1と、インバータ10と、電池P1とを備えている。これらの構成のうち、車両駆動装置5Eは、永久磁石モータM1、インバータ10および電池P1によって構成されている。以下、永久磁石モータM1をモータM1と呼ぶ場合がある。
モータM1は、電気車両401の駆動輪2を駆動する3相交流式のモータであり、例えば、埋込磁石同期モータまたは表面磁石同期モータなどのモータが用いられる。
動力伝達機構3は、例えば、ディファレンシャルギアおよびドライブシャフトによって構成され、モータM1と駆動輪2との間にて動力を伝達する。モータM1の回転力は、動力伝達機構3を経由して駆動輪2に伝達される。これと同様に、駆動輪2の回転力は、動力伝達機構3を経由してモータM1に伝達される。なお、電気車両401は、動力伝達機構3を備えていなくてもよく、モータM1と駆動輪2とが直結された構造であってもよい。
電池P1は、例えば、リチウムイオン電池などの直流電源である。電池P1は、モータM1を駆動させるための電力を供給し、および、この電力を蓄積する。
インバータ10は、電池P1から供給された直流電力を例えば3相の交流電力に変換して、その交流電力をモータM1に供給する。このように車両駆動装置5Eは、電池P1の電力を用いて3相交流式のモータM1を駆動するように構成されている。
図51は、車両駆動装置5Eのインバータ10、永久磁石モータM1および電池P1を例示する回路図である。
図51に示すように、車両駆動装置5Eは、モータM1と、インバータ10と、電池P1とを備えている。インバータ10は、3相ブリッジ回路40とドライブ回路30と制御回路20とを備えている。なお図51には、3相ブリッジ回路40に印加される電圧を平滑化する平滑コンデンサC1も図示されている。
3相ブリッジ回路40は、電池P1から供給された直流電力をスイッチング動作により3相の交流電力に変換して、その交流電力をモータM1に供給し、モータM1を駆動する回路である。3相ブリッジ回路40の、スイッチング動作制御用の入力側はドライブ回路30に、電力の入力側は電池P1に、それぞれ接続され、出力側はモータM1に接続されている。なお、モータM1の回生時には、3相ブリッジ回路40の出力側から回生電流が導入され、電力の入力側に向かって流れるが、ここでは、電池P1が接続される側を入力側、モータM1が接続される側を出力側と定義する。
図52は、車両駆動装置5Eのインバータ10が備える3相ブリッジ回路40を例示する回路図である。なお、図52に示す電圧Vpは電源電圧であり、電圧Vgは接地電圧である。
3相ブリッジ回路40は、図52の上側に位置する上側アーム群に設けられたスイッチ素子S1、S2、S3と、図52の下側に位置する下側アーム群に設けられたスイッチ素子S4、S5、S6とを備えている。例えば、スイッチ素子S1〜S6は、電界効果トランジスタ(FET)または絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)などによって構成される。また、スイッチ素子S1〜S6は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成されてもよい。
各スイッチ素子S1、S2、S3は、モータM1の3つの端子から引き出された3つの出力線と、電池P1の正極に接続された電源線Lpとの間のそれぞれの間に接続されている。各スイッチ素子S4、S5、S6は、上記3つの出力線と電池P1の負極に接続された接地線Lgとの間のそれぞれの間に接続されている。また、各スイッチ素子S1〜S6には、還流ダイオードが並列接続されている。還流ダイオードは、スイッチ素子S1〜S6に寄生する寄生ダイオードであってもよい。
各スイッチ素子S1〜S6は、ドライブ回路30に接続され、ドライブ回路30から出力された信号によって駆動する。モータM1は、各スイッチ素子S1〜S6の駆動に基づいて、力行、回生または惰行などの状態で駆動される。
次に、ドライブ回路30について、図51を参照しながら説明する。
ドライブ回路30は、3相PWM制御および3相短絡制御を実行するため、3相ブリッジ回路40のスイッチ素子S1〜S6を駆動する回路である。ドライブ回路30の入力側は制御回路20に接続され、出力側は3相ブリッジ回路40に接続されている。
ドライブ回路30は、切替回路31と、バッファ回路32と、3相短絡回路33と、OR回路34とを備える。また、ドライブ回路30は、チェック用端子36と異常受付端子39とを備える。
異常受付端子39は、インバータ10の異常状態を告げる異常信号s2を受け付ける端子である。この異常信号s2は、後述する異常検出部29からドライブ回路30に出力される。
チェック用端子36は、3相短絡回路33による3相短絡制御を実行するためのアクティブチェック信号s1を受け付ける端子である。このアクティブチェック信号s1は、制御回路20からドライブ回路30に出力される。以下において、3相短絡回路33による3相短絡制御を試行し、3相短絡回路33が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することをアクティブチェックと呼ぶ。アクティブチェックを行うことで、3相短絡回路33の故障有無を診断することができる。
チェック用端子36および異常受付端子39に入力されたそれぞれの信号は、OR回路34に入力される。OR回路34は、チェック用端子36および異常受付端子39の少なくとも一方の端子が信号を受け付けている場合に、3相短絡回路33に信号を出力する。3相短絡回路33は、OR回路34から出力された信号に基づいて駆動する。すなわち3相短絡回路33は、異常検出およびアクティブチェックのそれぞれの入力信号に基づいて駆動する。
3相短絡回路33は、モータM1の3相のそれぞれを短絡するために用いられる回路である。具体的には、3相短絡回路33は、OR回路34から出力された信号に基づいて3相ブリッジ回路40の上側アーム群のスイッチ素子S1〜S3および下側アーム群のスイッチ素子S4〜S6のうち、一方のアーム群の各スイッチ素子を短絡し、他方のアーム群の各スイッチ素子を開放する回路である。このようにしてモータM1の3相のそれぞれを短絡することで、モータM1の巻線コイル間から誘起される電圧を0にすることができる。これにより、例えば3相ブリッジ回路40に過電圧が検出された場合に、3相短絡回路33を働かせて3相短絡制御を行い、3相ブリッジ回路40にかかる過電圧を低減することができる。
切替回路31は、3相ブリッジ回路40を、後述する駆動信号演算部23から出力された駆動信号に基づいて駆動するか、あるいは、3相短絡回路33から出力された信号を用いて駆動するかを切り替える回路である。なお、駆動信号演算部23から出力される駆動信号は、3相ブリッジ回路40を3相PWM制御する信号などの各種信号が含まれる。切替回路31による切り替えは、例えばハードロジック回路によって実現されている。本実施の形態の切替回路31は、ドライブ回路30がチェック用端子36を介してアクティブチェック信号s1を受け付けた場合に、モータM1にて実行されているスイッチング制御等を3相短絡回路33による3相短絡制御に切り替える。
バッファ回路32は、各スイッチ素子S1〜S6を駆動することができるように、3相ブリッジ回路40に出力する出力信号を増幅する回路である。バッファ回路32によって出力信号が増幅されることで、3相ブリッジ回路40の駆動が可能となる。
次に、制御回路20について、図51を参照しながら説明する。
制御回路20は、各種の演算等を行うマイクロプロセッサと、マイクロプロセッサを動作させるためのプログラムまたは情報などを記憶するメモリ24とによって構成される。
図51に示すように制御回路20は、モータ制御信号取得部21と、モータ制御信号演算部22と、駆動信号演算部23と、アクティブチェック指示部26と、故障判断部25と、3相短絡制御信号割り込み部27とを備える。また、制御回路20は、異常検出部29を備える。
モータ制御信号取得部21は、モータM1に流れる電流を検知する電流センサCSu、CSv、CSw、および、モータM1の磁極位置を検出して回転位置を検知する回転位置センサRSなどの各種センサによって検知された情報を取得する。なお、電流センサCSu、CSv、CSwは、モータM1のu相、v相、w相における電流値を検知するセンサである。また、モータ制御信号取得部21は、電源線Lpにおける電圧Vpに関する情報を取得する。また、モータ制御信号取得部21は、制御回路20の外部、例えば電気車両401のECU(Electronic Control Unit)から出力されたトルク指令などの制御指令情報を取得する。
モータ制御信号演算部22は、モータ制御信号取得部21にて取得した上記情報に基づいて、演算によりトルク指令値を電流に換算し、モータM1を電流制御するための制御信号を出力する。例えば、モータ制御信号演算部22は、車両駆動装置5Eの駆動時におけるモータM1のトルクが、トルク指令情報に示された目標トルク(例えば電気車両401のアクセルペダルまたはブレーキペダルの操作量に応じたトルク)となるように、モータM1の電流制御のための制御信号を出力する。
また、モータ制御信号演算部22は、モータ制御信号取得部21にて取得した上記情報を演算により変換して、アクティブチェックおよび故障判断を行うための制御信号を出力する。例えば、モータ制御信号演算部22は、トルク指令などの制御指令情報を上記した制御信号に変換して駆動信号演算部23およびアクティブチェック指示部26に出力する。また、モータ制御信号演算部22は、モータM1に流れる電流、モータM1の磁極の回転位置、電源線Lpにおける電圧Vpなどの情報を制御信号に変換して駆動信号演算部23および故障判断部25に出力する。
アクティブチェック指示部26は、アクティブチェック信号s1をチェック用端子36に出力する回路である。前述したようにアクティブチェックとは、3相短絡回路33による3相短絡制御を試行し、3相短絡回路33が3相短絡制御を実行できるか否かを確認することである。アクティブチェック指示部26は、モータ制御信号演算部22から出力された上記制御信号に基づいて、今のタイミングでアクティブチェックを行っても電気車両401の走行状態または停車状態に影響を与えないか否かを判断する。
例えば、アクティブチェック指示部26は、電気車両401が停車中で、モータM1が力行していない状態のとき(信号待ちなど)にアクティブチェックを行うと判断して、アクティブチェック信号s1を出力する。そのときアクティブチェック指示部26は、アクティブチェック信号s1を出力すると同時に、アクティブチェック中であることを示すビジー信号を故障判断部25に出力する。なお、アクティブチェックをするか否かの判断は、アクティブチェック指示部26に限られず、制御回路20に含まれる回路であればアクティブチェック指示部26と異なる回路によって行われてもよい。
故障判断部25は、3相短絡回路33の故障有無を判断する回路である。故障判断部25は、3相短絡制御が実行された後の、モータM1の3相に流れる電流の変化に関する情報を取得する。電流の変化は、電流センサCSu、CSv、CSwによって検出した電流値に基づいて求めることができる。
故障判断部25は、取得した上記情報に基づいて3相短絡回路の故障有無を判断する。例えば、故障判断部25は、3相短絡制御が実行された後の上記電流の変化が規定の範囲から外れた場合に、3相短絡回路33が故障していると判断する。また、故障判断部25は、3相短絡回路33が故障していると判断した場合に、その故障情報を外部に報知する報知信号を出力する。
異常検出部29は、インバータ10に発生する過電圧などの異常を検出する回路である。ここでは、異常検出部29は、電源線Lpの断線などによる失陥、あるいは、スイッチ素子S1〜S6、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRSなどの故障により発生する過電圧を検出する回路であるとして説明する。異常検出部29は、電池P1のプラス側であって、3相ブリッジ回路40の電源線Lpに接続されている。異常検出部29が異常(ここでは過電圧)を検出すると、異常信号s2が異常受付端子39に出力される。これにより、3相短絡回路33が3相短絡制御を行うので、3相ブリッジ回路40の過電圧を抑制することができる。なお、ここで例示した、異常検出部29の異常である過電圧は、例えば、電池P1のプラス側配線の外れ、断線、あるいは、電池P1に設けられた図示しないメインリレーの開放などによって発生しうる。また、異常検出部29とドライブ回路30(3相短絡回路33を含む)は、いずれもハードウエアで構成されるので、異常検出部29が異常を検出して3相短絡回路33が3相短絡制御を行うまでの非常時の動作は、自動的に、かつ、迅速に行われる。また、異常検出部29は、制御回路20内に設けられている必要はなく、制御回路20の外に設けられていてもよい。また、異常検出部29は、過電圧を検出する構成に限定されるものではなく、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRSなどの出力異常(所定の出力電圧範囲を超えるなど)を直接検出するような構成を備えていてもよい。
駆動信号演算部23は、モータ制御信号演算部22から出力された制御信号に基づいて、モータM1を駆動するために必要な駆動信号を演算し、この駆動信号をドライブ回路30に出力する。駆動信号演算部23は、車両駆動装置5Eが通常駆動している際は、3相PWM制御を行うための駆動信号を出力する。また、駆動信号演算部23は、アクティブチェック信号s1が出力される前に、すなわち3相短絡制御が実行される前に、モータM1を電流制御するための信号をドライブ回路30に出力する。電流制御については後述する。
また、駆動信号演算部23は、インバータ10の異常が検出された場合、かつ、後述する故障判断部25によって3相短絡回路33が故障していると判断された場合は、メモリ24に格納されたプログラムによって3相短絡制御を行うための駆動信号を出力する。
このプログラムによる3相短絡制御は、3相短絡制御信号割り込み部27によって実行される。具体的には、3相短絡制御信号割り込み部27は、故障判断部25から3相短絡回路33が故障しているという故障情報を受け取ると、インバータ10の異常が検出された場合に駆動信号演算部23に対し、3相短絡を実行するための割り込み信号を出力する。駆動信号演算部23は、割り込み信号を受けることで、3相PWM制御の駆動信号を3相短絡制御の駆動信号に変更してドライブ回路30に出力する。
このように、制御回路20は、3相PWM制御および3相短絡制御を実行するための駆動信号をドライブ回路30に出力する。ドライブ回路30では、制御回路20から出力された駆動信号、および、3相短絡回路33から出力された信号のうちのいずれかの信号を選択し、3相ブリッジ回路40に出力する。3相ブリッジ回路40は、ドライブ回路30から出力された信号に基づいて、モータM1を駆動する。
[5−2.故障診断を行うための構成および効果等]
次に、停車中の電気車両401にて3相短絡回路33の故障診断を行うための構成を、図53〜図55を参照しながら説明する。なお、ここでは、3相短絡回路33の故障診断を行うためのシミュレーションについて、まず述べる。
図53は、3相短絡回路33の故障診断をシミュレーションするための回路図である。図53の(a)には、モータM1が電流制御された状態が示され、図53の(b)には、モータM1が3相短絡制御された状態が示されている。
図53に示す回路は、図52に示す実際の構成に対しシミュレーションを行うための等価回路であり、3相ブリッジ回路40A、電池P1およびモータM1によって構成されている。3相ブリッジ回路40Aは、上側アーム群に設けられたスイッチ素子Q1、Q5、Q3と、下側アーム群に設けられたスイッチ素子Q2、Q4、Q6とによって構成されている。各スイッチ素子Q1、Q5、Q3は、モータM1を構成するコイルL1、L2、L3のそれぞれから引き出された3つの出力線と、電池P1の正極に接続された電源線Lpとの間のそれぞれの間に接続されている。各スイッチ素子Q2、Q4、Q6は、上記3つの出力線と電池P1の負極に接続された接地線Lgとの間のそれぞれの間に接続されている。また、各スイッチ素子Q1〜Q6には、還流ダイオードが並列接続されている。
3相ブリッジ回路40Aは、図52の制御回路20に対応するものとして、シミュレーション制御装置(図示せず)の制御指令によって駆動されるものとする。図53に示す回路には3相短絡回路が含まれていないが、シミュレーション制御装置の制御指令に基づき各スイッチ素子Q1〜Q6を駆動することで、3相短絡回路に異常がない状態または異常がある状態を疑似的に作り出すことができる。
この故障診断のシミュレーションは、図53の(a)、(b)に示す順で実行される。
まず、図53の(a)に示す電流制御を実行するため、シミュレーション制御装置は、スイッチ素子Q1〜Q6に対し、コイルL2に矢印の方向に電流i2が流れ、コイルL1に矢印の方向に電流i1が流れ、コイルL3に矢印の方向に電流i3が流れるように、それぞれのスイッチ素子Q1〜Q6のON期間、OFF期間の時比率を求め、PWM制御を行う。これにより各コイルL1〜L3に磁気エネルギが蓄積される。なお、3相ブリッジ回路40AからモータM1に流れる電流i2は正電流であり、モータM1から3相ブリッジ回路40Aに流れる電流i1およびi3は負電流であると定義する。この電流制御にて、各コイルL1〜L3に流れる各電流i1〜i3は、例えば、絶対値が70A以上200A以下となるように制御される。
また、この電流制御では、電気車両401が停車している状態を維持するため、電気車両401を発進させるまでに至らない電流がモータM1の各コイルL1〜L3に流される。具体的には、モータM1は、d軸電流(トルク発生に寄与しない電流)が流れかつq軸電流(トルク発生に寄与する電流)が流れないように、電流制御される。言い換えれば、モータM1には、磁石の磁極位置に応じて発生する磁界を打ち消すように、各コイルL1〜L3に電流が流される。
次に、図53の(b)に示す3相短絡制御を実行するため、シミュレーション制御装置は、スイッチ素子Q1、Q5、Q3がONされ、スイッチ素子Q2、Q4、Q6がOFFされるように制御する。この3相短絡制御によって、コイルL1〜L3に蓄積された磁気エネルギが徐々に放出され、各電流i1〜i3は所定の時間微分値(または時定数)で変化し、0Aに収束する。例えば、スイッチ素子Q1〜Q6の動作に異常がある場合、各電流i1〜i3は所定の時間微分値による変化と異なる変化を示す。なお、本実施の形態における電流値および時間微分値は、絶対値で表した値とする。
図54は、3相短絡制御時のスイッチ素子Q1〜Q6の動作に異常がない場合のスイッチ素子Q2、Q4、Q6の電圧、および、モータM1の各相に流れる電流を示す図である。図54の(a)には、スイッチ素子Q2、Q4、Q6のドレインソース間の電圧経時特性図が示され、図54の(b)には、モータM1の各相の電流経時特性図が示されている。図55は、3相短絡制御時のスイッチ素子Q1〜Q6の動作に異常がある場合のモータM1に流れる電流を示す図である。図54および図55は、いずれもシミュレーション結果であり、時間0μs(マイクロ秒)〜500μsの間に電流制御が行われ、時間500μsで3相短絡制御に切り替えられる様子が示されている。
まず、図53の(a)に示すように、スイッチ素子Q1〜Q6をPWM制御したときのスイッチ素子Q2、Q4、Q6の電圧経時特性図を図54の(a)に示す。500μsまでは、各コイルL1〜L3に磁気エネルギを蓄積するために、スイッチ素子Q2、Q4、Q6がPWM制御される。なお、スイッチ素子Q1、Q5、Q3は、それぞれ、スイッチ素子Q2、Q4、Q6を反転したPWM制御がなされるため、図示を省略している。このようなPWM制御に基づく電流制御により、図54の(b)、および、図55に示すように、500μsまでに各電流i2、i1、i3の絶対値が、それぞれ徐々に増え、各コイルL1〜L3に磁気エネルギが蓄積される。
次に、時間500μsで3相短絡制御に切り替えられると、スイッチ素子Q2、Q4、Q6がオフになるので、図54の(a)に示すように、各スイッチ素子Q2、Q4、Q6のドレインソース間電圧Q2Vds、Q4Vds、および、Q6Vdsが現れる。一方、スイッチ素子Q1、Q5、Q3はオンになるので、図示はしないが、各スイッチ素子Q1、Q5、Q3のドレインソース間電圧Q1Vds、Q5Vds、および、Q3Vdsは、いずれも0Vとなる。このとき、図54の(b)に示すようにスイッチ素子Q1〜Q6の動作に異常がない例では、500μs以降において、各電流i2、i1、i3がそれぞれの時間微分値で0Aに近づいている。例えば、各電流i1〜i3の時間微分値は、0.05A/μsよりも小さく、各電流i1〜i3は、500μsから1000μsに至るまで緩やかな傾きで0Aに近づいている。また、各電流i1〜i3は、3相短絡制御の開始からさらに500μs経過したとき(時間1000μs)の値が、60Aよりも大きくなっている。
一方、図55の(a)には3相短絡制御時にスイッチ素子Q3がONしない例が示され、図55の(b)には3相短絡制御時にスイッチ素子Q3およびQ1がONしない例が示され、図55の(c)には3相短絡制御時にスイッチ素子Q3、Q1およびQ5がONしない例が示されている。
図55の(a)に示すようにスイッチ素子Q3がONしない例では、スイッチ素子Q1〜Q6の動作に異常がない場合に比べて、電流i1の時間微分値が大きく、早く0Aに近づいている。これは、3相短絡制御時の電流i1が、スイッチ素子Q3に並列接続された還流ダイオードに流れ、還流ダイオードによる損失が発生するからであると考えられる。
図55の(b)に示すようにスイッチ素子Q3およびQ1がONしない例では、スイッチ素子Q1〜Q6の動作に異常がない場合に比べて、電流i1、i3の時間微分値が大きく、早く0Aに近づいている。
図55の(c)に示すようにスイッチ素子Q3、Q1およびQ5がONしない例では、図55の(b)に比べて、電流i1、i3、i2の時間微分値がさらに大きく、さらに早く0Aに近づいている。
これらのシミュレーション結果に基づけば、各コイルL1〜L3に流れる各電流i1〜i3の変化を監視することで、スイッチ素子Q1〜Q6の動作の異常有無を確認でき、3相短絡回路の故障診断をすることができるという知見が得られる。そこで実施の形態5の車両駆動装置5Eにおいても、上記に示すようにモータM1に電流制御を行った後にアクティブチェック信号s1を出力することで、電気車両401を停車させた状態で3相短絡回路33の故障有無を判断することが可能となる。
この判断を行うときに、車両駆動装置5Eの故障判断部25は、3相短絡制御が実行された後の、モータM1の3相に流れる電流i1〜i3の変化に関する情報を取得し、当該情報に基づいて3相短絡回路33の故障有無を判断してもよい。
また、故障判断部25は、3相短絡制御が実行されて所定期間経過した後の各コイルL1〜L3の電流i1〜i3の値が規定値よりも0に近い場合に、3相短絡回路33が故障していると判断してもよい。なお、上記に示す所定期間は、許容される監視時間に応じて設定され、例えば200μs以上1000μs以下の範囲から適宜選択される。また、上記に示す規定値は、各コイルL1〜L3のインダクタンスおよび抵抗ならびに電流制御する際の電流値に応じて設定され、例えば20A以上70A以下の範囲から適宜選択される。
また、故障判断部25は、3相短絡制御が実行された後の電流i1〜i3の時間微分値が規定値よりも大きい場合に、3相短絡回路33が故障していると判断してもよい。なお、上記に示す規定値は、各コイルL1〜L3のインダクタンスおよび抵抗に応じて設定され、例えば0.02A/μs以上0.07A/μs以下の範囲から適宜選択される。
なお、図53の回路では、電流制御および3相短絡制御がシミュレーション制御装置の制御指令によって実行されているが、実際の車両駆動装置5Eでは、電流制御は駆動信号演算部23から出力された信号に基づいて実行され、3相短絡制御は3相短絡回路33から出力された信号に基づいて実行される。
実施の形態5の車両駆動装置5Eは、モータM1を駆動するインバータ10を備える。インバータ10は、複数のスイッチ素子S1〜S6を有する3相ブリッジ回路40と、3相ブリッジ回路40に接続されるドライブ回路30と、ドライブ回路30に接続される制御回路20と、インバータ10の異常を検出する異常検出部29とを有する。ドライブ回路30は、モータM1の3相を短絡する3相短絡回路33と、異常検出部29から出力された異常信号s2を受け付ける異常受付端子39と、3相短絡回路33による3相短絡制御を実行するためのアクティブチェック信号s1を受け付けるチェック用端子36とを有する。制御回路20は、電気車両401が停車中であるときに、電気車両401を発進させるまでに至らない電流がモータM1に流れるように3相ブリッジ回路40を用いて電流制御を行った後に、チェック用端子36にアクティブチェック信号s1を出力する。
この構成によれば、ドライブ回路30が、チェック用端子36を用いてアクティブチェック信号s1を適宜受け付けることができる。このアクティブチェック信号s1によって、車両駆動装置5Eは、3相短絡回路33が3相短絡制御を実行できるか否かを適宜確認することができる。これにより、インバータ10において3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、信頼性の高い車両駆動装置5Eを提供することができる。
また、電気車両401を発進させるまでに至らない電流がモータM1に流れるように3相ブリッジ回路40を用いて電流制御を行うことで、電気車両401の停車状態を維持しながら3相短絡回路33の故障診断を行うことが可能となる。また、電気車両401が停車中のときにアクティブチェック信号s1を出力することで、例えば電気車両401が走行中でかつ所定条件を満たすときのみにアクティブチェック信号s1を出力する場合に比べて、3相短絡制御を実行できるか否かを確認する機会を増やすことができる。
[5−3.車両駆動装置の動作]
次に、車両駆動装置5Eの動作について、図56および図57を参照しながら説明する。
図56は、車両駆動装置5Eの動作を例示するフローチャートである。図57は、図56のフローチャートに続き、車両駆動装置5Eの動作を例示するフローチャートである。
はじめに、車両駆動装置5Eは起動されている状態にある。
この状態で、制御回路20は、外部からトルク指令と車速を読み込む(ステップS411)。具体的には、モータ制御信号取得部21が、電気車両401のECUから出力されたトルク指令情報と車速情報を読み込む。トルク指令情報は、モータ制御信号演算部22にて変換され、制御信号として例えばアクティブチェック指示部26および駆動信号演算部23に出力される。なお、車速情報は電気車両401のECUからの出力に限定されるものではなく、回転位置センサRSの出力に基づいてもよい。
次に、制御回路20は、読み込んだトルク指令と車速に基づいて、電気車両401が停車中か否かを判断する(ステップS412)。具体的には、トルク指令が0、かつ、車速が0の時に電気車両401が停車中と判断する。ここで、トルク指令と車速の両方に基づいて停車中であることを判断する理由は以下の通りある。
電気車両401が惰行時(アクセルもブレーキも操作されずに走行している状態)は、トルク指令は0になるが、車速は0ではないため、停車中ではない。一方、電気車両401が上りの坂道発進をしようとしているときは、トルク指令は0ではない(力行している)が、車速が0である期間が存在する。この際は、モータM1が力行しようと制御されるので、図53で説明したようなスイッチ素子Q1〜Q6の制御ができない。したがって、トルク指令と車速の両方が0の場合に、電気車両401は停車中であると判断できる。
そして制御回路20は、電気車両401が停車中でなく走行していると判断すると(S412のNo)、今のタイミングで3相短絡回路33の故障診断を行なわないこととし、ステップS411に戻る。一方、制御回路20は、電気車両401が停車中であると判断すると(S412のYes)、今のタイミングで3相短絡回路33の故障診断を行うこととし、次のステップに進む。
次に、制御回路20は、モータM1を電流制御する(ステップS413)。具体的には、図53の(a)で説明したようにして、電気車両401を発進させるまでに至らない電流がモータM1の各コイルL1〜L3に流れるように、ドライブ回路30を介して3相ブリッジ回路40をフィードバック制御する。
上記電流制御が行われた後、制御回路20は、インバータ10のフィードバック制御を停止し、アクティブチェック信号s1を出力する(ステップS414)。具体的にはアクティブチェック指示部26が、アクティブチェック信号s1をドライブ回路30のチェック用端子36に出力する。このアクティブチェック信号s1は、後述するステップS418またはS421にて停止されるまで継続して出力される。なお、制御回路20は、アクティブチェック信号s1を出力する際に、インバータ10のフィードバック制御を停止することで、ステップS413にて実行した電流制御を停止する。
次に、インバータ10は、3相短絡回路33を用いた3相短絡制御を実行する(ステップS415)。アクティブチェック信号s1を受け取ったチェック用端子36は、その信号をOR回路34に出力し、OR回路34は受け取った信号を3相短絡回路33に出力する。これによって3相短絡回路33が試行駆動される。ここで切替回路31によって、切替回路31の出力信号が、駆動信号演算部23から出力される電流制御信号でなく、3相短絡回路33から出力される信号に切り替えられる。そして、3相短絡回路33から出力される信号が、バッファ回路32を介して3相ブリッジ回路40に出力される。これにより、3相短絡回路33を用いた3相短絡制御が、3相ブリッジ回路40にて試行される。
次に、制御回路20は、3相短絡制御が実行された後の、モータM1の各相の電流i1〜i3の変化を取得する(ステップS416)。具体的には、モータ制御信号取得部21が、電流センサCSu、CSv、CSw、回転位置センサRSなどの情報を取得する。これらの情報は、モータ制御信号演算部22にて変換され、制御信号として故障判断部25に出力される。なお、回転位置センサRSの情報を取得する理由は、3相短絡制御の実行中にモータM1が回転していないことを確認するためである。
次に、制御回路20は、3相短絡制御が実行された後の電流i1〜i3の変化に基づいて、3相短絡回路33の故障有無を判断する。具体的には、故障判断部25が、各電流i1〜i3の変化が規定の範囲内か否かを判断する(ステップS417)。
故障判断部25は、3相短絡制御が実行された後の電流i1〜i3の変化が規定の範囲内であると判断した場合に(S417のYes)、3相短絡回路33が故障しておらず正常であると判断する。具体的には、例えば図54で説明したように、各電流i1〜i3の時間微分値が、規定の範囲内である0.05A/μsよりも小さければ、正常であると判断する。そして制御回路20は、アクティブチェック指示部26から出力していたアクティブチェック信号s1の出力を停止し(ステップS418)、インバータ10のフィードバック制御を再開する(ステップS419)。そして制御回路20は、ステップS411に戻り、アクティブチェックを繰り返す。これらのアクティブチェックは、所定の時間間隔で繰り返し実行される。
一方、制御回路20は、3相短絡制御が実行された後の電流i1〜i3の変化が規定の範囲から外れている場合に(S417のNo)、3相短絡回路33が故障している判断する。そして、制御回路20は、図57に示すように、3相短絡回路33が故障している場合の動作を実行する。
図57に示すように、制御回路20は、アクティブチェック指示部26から出力していたアクティブチェック信号s1の出力を停止し(ステップS421)、インバータ10のフィードバック制御を再開する(ステップS422)。
次に、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していることを示す故障警告を外部、例えば電気車両401のECU(上位制御部)に出力する(ステップS423)。また、故障判断部25が、モニターを用いて故障情報を表示したり、スピーカを用いて故障情報を知らせる音を出力したりすることで、ユーザに故障情報を報知してもよい。
また、制御回路20は、3相短絡回路33への3相短絡制御信号の出力を禁止する(ステップS424)。具体的には、アクティブチェック信号s1がアクティブチェック指示部26から出力されないようにする。また、制御回路20は、3相短絡制御のフラグを立てる(ステップS425)。このフラグが立つことで、例えば異常検出部29がインバータ10の異常を検出した場合に、3相短絡回路33を用いるのでなく、制御回路20内のメモリ24に格納されているプログラムを用いて3相短絡制御が実行される。これにより、3相短絡回路33の故障を修理するまでの間にインバータ10の異常が発生しても、3相短絡制御を実行することができる。
なお、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していると判断された場合に、以後の車両駆動装置5Eの駆動においてモータM1の回転数を制限するように、インバータ10を制御してもよい。
また、制御回路20は、3相短絡回路33が故障していると判断され、かつ、アクティブチェック信号s1を出力している最中に、制御回路20内のメモリ24に格納されているプログラムを用いて3相短絡制御を行う制御信号をドライブ回路30に出力してもよい。これにより、アクティブチェック信号s1を出力している最中に、故障した3相短絡回路33により3相ブリッジ回路40を駆動することで発生してしまう3相ブリッジ回路40の過電圧を抑制することができる。
また、制御回路20は、アクティブチェック信号s1の出力中に、モータM1を力行とする指令を受け付けた場合に、アクティブチェック信号s1の出力を停止してもよい。制御回路20は、アクティブチェック信号s1の出力を停止した場合に、3相短絡回路33の故障有無の判断を無効としてもよい。
[5−4.故障診断を行うための他の構成]
次に、故障診断を行うための他の構成について、図58〜図60を参照しながら説明する。なお、ここでも、3相短絡回路33の故障診断を行うためのシミュレーションについて述べる。
図58は、3相短絡回路33の故障診断をシミュレーションするための他の例を示す図である。図58の(a)には、モータM1が電流制御された状態が示され、図58の(b)には、モータM1が3相短絡制御された状態が示されている。また、図58に示す回路は、図52に示す実際の構成に対しシミュレーションを行うための等価回路であり、この等価回路の構成は図53と同じである。
この故障診断のシミュレーションは、図58の(a)、(b)に示す順で実行される。
まず、図58の(a)に示す電流制御を実行するため、シミュレーション制御装置は、スイッチ素子Q5、Q2およびQ6が所定期間ONされ、スイッチ素子Q1、Q3およびQ4が所定期間OFFされる。これにより、各コイルL1〜L3に電流が流れ、各コイルL1〜L3に磁気エネルギが蓄積される。この所定期間は、例えば、200μs以上300μs以下の範囲から適宜選択される。
また、この電流制御でも、図53と同様に、電気車両401が停車している状態を維持するため、電気車両401を発進させるまでに至らない電流がモータM1の各コイルL1〜L3に流される。
次に、図58の(b)に示す3相短絡制御を実行するため、シミュレーション制御装置は、スイッチ素子Q1、Q5、Q3がONされ、スイッチ素子Q2、Q4、Q6がOFFされるように制御する。この3相短絡制御によって、コイルL1〜L3に蓄積された磁気エネルギが徐々に放出され、各コイルL1〜L3の電流は所定の時間微分値で変化し、0Aに収束する。例えば、スイッチ素子Q1〜Q6の動作に異常がある場合、各コイルL1〜L3の電流は所定の時間微分値による変化と異なる変化を示す。なお、ここでも電流値および時間微分値は、絶対値で表した値とする。
図59は、3相短絡制御時のスイッチ素子Q1〜Q6の動作に異常がない場合の他の例におけるスイッチ素子Q2、Q4、Q6の電圧、および、モータM1の各相に流れる電流を示す図である。図59の(a)には、スイッチ素子Q2、Q4、Q6のドレインソース間の電圧経時特性図が示され、図59の(b)には、モータM1の各相の電流経時特性図が示されている。図60は、3相短絡制御時のスイッチ素子Q1〜Q6の動作に異常がある場合の他の例におけるモータM1の各相に流れる電流を示す図である。図59および図60は、図54および図55と同様、いずれもシミュレーション結果であり、ここでは、時間0μs〜300μsの間に電流制御が行われ、時間300μsで3相短絡制御に切り替えられる様子が示されている。
図58の(a)のようにスイッチ素子Q1〜Q6を制御したときのスイッチ素子Q2、Q4、Q6の電圧経時特性図を図59の(a)に示す。300μsまでは、各コイルL1〜L3に磁気エネルギを蓄積するために、スイッチ素子Q2、Q6がON制御され、スイッチ素子Q4がOFF制御される。なお、スイッチ素子Q1、Q3、Q5は、それぞれスイッチ素子Q2、Q6、Q4を反転した制御がなされるため、図示を省略している。このような電流制御により、図59の(b)、および、図60に示すように、300μsまでに各電流i2、i1、i3の絶対値が、それぞれ徐々に増え、各コイルL1〜L3に磁気エネルギが蓄積される。
次に、時間300μsで3相短絡制御に切り替えられた後の、図59、図60のスイッチ素子Q2、Q6、Q4の電圧、および、モータM1の各相電流の変化の挙動は、それぞれ図54、図55の挙動と同じであるので、詳細な説明を省略する。
このように磁気エネルギを蓄積しても、各コイルL1〜L3に流れる各電流の変化を監視することでスイッチ素子Q1〜Q6の動作の異常有無を確認でき、3相短絡回路の故障診断をすることができる。したがって、この例に示す車両駆動装置5Eにおいても、上記に示すようにモータM1に電流制御を行った後にアクティブチェック信号s1を出力することで、電気車両401を停車させた状態で3相短絡回路33の故障有無を確認することが可能となる。
以上の実施の形態5は、本質的に好ましい例示であって、この発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
例えば、前記故障判断部は、前記3相短絡制御が実行された後の、前記永久磁石モータの3相に流れる電流の変化に関する情報を取得し、前記情報に基づいて前記3相短絡回路の故障有無を判断してもよい。
これによれば、故障判断部は、3相短絡回路の故障有無を適切に判断することができる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。
また、前記故障判断部は、前記3相短絡制御が実行されて所定期間経過した後の前記電流の値が規定値よりも0に近い場合に、前記3相短絡回路が故障していると判断してもよい。
これによれば、故障判断部は、3相短絡回路の故障診断を簡易に行うことが可能となる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。
また、前記故障判断部は、前記3相短絡制御が実行された後の前記電流の時間微分値が規定値よりも大きい場合に、前記3相短絡回路が故障していると判断してもよい。
これによれば、故障判断部は、3相短絡回路の故障診断を簡易に行うことが可能となる。これにより、インバータにおいて3相短絡制御の潜在故障を早期発見して、車両駆動装置の信頼性を高めることができる。
以上に説明した実施の形態1〜5の構成は、少なくとも2つの実施の形態を組み合わせてもよく、望ましくは、すべての実施の形態を組み合わせてもよい。すべての実施の形態を組み合わせた構成例を以下に説明する。
図35に示すように、電気車両301は、他の駆動源D2(エンジン)を有するハイブリッド車であるとする。そして、この電気車両301のインバータ10に含まれる3相短絡回路33のアクティブチェックを次のようにして実施する。なお、電気車両301を図35に示す構成としたのは、力行時においてのアクティブチェックを実現するためである。
まず、電気車両301が走行中で、モータM1が力行も回生も行っていない惰行中、もしくは他の駆動源D2のみで走行中であれば、図4および図5の動作によりアクティブチェックを行う。次に、電気車両301が走行中で、モータM1が力行も回生も行っていないとき、および、所定トルク以下の小さなトルクで回生しているときには、図13および図14の動作によりアクティブチェックを行う。次に、電気車両301が走行中で、モータM1が回生中であれば、図26、図27および図28の動作によりアクティブチェックを行う。次に、電気車両301が走行中で、モータM1が力行中であれば、図40、図41および図42の動作によりアクティブチェックを行う。そして、電気車両301が停車中であれば、図56および図57の動作によりアクティブチェックを行う。
このような構成、動作とすることで、電気車両301がどのような状態であっても、3相短絡回路の故障診断を高頻度に行うことができる。したがって、インバータ10において3相短絡制御の潜在故障を、より一層、早期に発見できる可能性が高まり、車両駆動装置の信頼性をさらに高めることができる。