以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
《実施形態1》
実施形態1に係る空隙判定システム100は、例えば、モルタル又はコンクリートの充填状態を判定するために用いられる。ここでは、橋梁の床版に充填されたモルタルの充填状態を判定する場合を例に、空隙判定システム100及びその空隙判定方法を説明する。
図1は、橋梁の上部工10の斜視図である。上部工10は、橋軸方向に延びる複数の床版11と、橋軸方向に延びる複数の主桁12と、橋軸方向と直交する方向、即ち、床版11の幅方向に延びる複数の横桁13とを有している。尚、図では、床版11、主桁12及び横桁13はそれぞれ、1つのみ図示している。複数の床版11は、橋軸方向に並び、互いに接合されている。複数の主桁12は、床版11の下面に設けられ、床版11の幅方向に間隔を開けて配列されている。複数の横桁13は、床版11の下面に設けられ、隣り合う各2つの主桁12の間において橋軸方向に間隔を開けて配列されている。主桁12及び横桁13は、床版11に接合されており、床版11を支持している。このように構成された上部工10は、橋脚(図示省略)によって支持される。
床版11は、平板状のデッキプレート2と、橋軸方向に延びる複数の中空リブ3と、デッキプレート2と中空リブ3との接合強度を補強する補強板4と、中空リブ3内に充填されたモルタルMとを有している。床版11は構造体の一例である。デッキプレート2の上面には、舗装14が敷設されている。舗装14上を車輌が通行する。複数の中空リブ3は、デッキプレート2の下面に設けられ、床版11の幅方向に間隔を開けて配列されている。中空リブ3の配列間隔は、主桁1の配列間隔よりも小さい。すなわち、隣り合う各2つの主桁12の間に、複数の中空リブ3が配列されている。
主桁12、横桁13、中空リブ3は、鋼で形成され、デッキプレート2に溶接で接合されている。
中空リブ3は、デッキプレート2と共に閉断面を形成する。図2は、中空リブ3を中心とする拡大断面図である。詳しくは、中空リブ3は、対向する一対の第1縦壁31A及び第2縦壁31Bと、底壁33とを有している。底壁33は、デッキプレート2と略平行に延びている。第1縦壁31A及び第2縦壁31Bは、底壁33の両方の端縁から上方へ延びている。第1縦壁31A及び第2縦壁31Bは、互いの間隔が上方へ向かって拡がるように、鉛直方向に対して傾斜している。第1縦壁31A及び第2縦壁31Bの上端は、デッキプレート2に溶接されている。こうして、中空リブ3及びデッキプレート2の間には、橋軸方向に延びる閉空間が形成される。中空リブ3内の空間は、仕切板(図示省略)によって橋軸方向に分割された複数の空間に区切られている。尚、第1縦壁31Aと第2縦壁31Bとを区別しない場合には、単に「縦壁31」と称する。デッキプレート2及び中空リブ3は、外側部材の一例である。つまり、外側部材は、デッキプレート2と中空リブ3との分割構造となっている。デッキプレート2は、第1部材の一例であり、中空リブ3は、第2部材の一例である。
中空リブ3内の空間には、モルタルMが充填されている。底壁33には、中空リブ3内の空間にモルタルMを充填するための注入口及び排出口(図示省略)が形成されている。注入口及び排出口は、仕切板で区切られた中空リブ3内の各空間に1つずつ設けられている。中空リブ3がデッキプレート2に接合された後、注入口から中空リブ3内にモルタルMが注入されると共に、余分なモルタルMが排出口から排出される。こうして、中空リブ3内の空間にモルタルMが充填される。最終的に、注入口及び排出口は、塞がれる。モルタルMは、内側部材の一例である。
補強板4は、橋軸方向に延びる鋼板で形成されている。1つの中空リブ3に対して2つの補強板4が設けられている。補強板4は、デッキプレート2及び中空リブ3の縦壁31に沿うように屈曲している。補強板4は、デッキプレート2及び縦壁31にボルト締結されている。つまり、中空リブ3は、溶接と補強板4によってデッキプレート2に連結されている。補強板4は、連結部材の一例である。
詳しくは、デッキプレート2には、複数のネジ付きスタッド41が橋軸方向に等間隔で配列されている。補強板4は、図1に示すように、橋軸方向における複数個所においてネジ付きスタッド41及びナット42でデッキプレート2に取り付けられている。
一方、補強板4は、縦壁31に対して中空リブ3の外側からワンサイドボルト43で取り付けられている。ワンサイドボルト43は、中空リブ3を貫通して、一端部が中空リブ3の外側に露出し、他端部がモルタルMに突き刺さっている。ワンサイドボルト43の他端部(以下、「先端部」という)は、中空リブ3内に突出している。補強板4の取付は、モルタルMの充填前に行われる。つまり、ワンサイドボルト43の先端部が中空リブ3内に突出した状態でモルタルMが充填されるので、ワンサイドボルト43の先端部は、モルタルMに突き刺さった状態となる。補強板4は、図1に示すように、橋軸方向における等間隔の複数個所においてワンサイドボルト43で縦壁31に取り付けられている。
以下、説明の便宜上、第1縦壁31Aに取り付けられたワンサイドボルト43を「第1ワンサイドボルト43A」と称し、第2縦壁31Bに取り付けられたワンサイドボルト43を「第2ワンサイドボルト43B」と称する。第1ワンサイドボルト43Aは、第1貫通部材の一例であり、第2ワンサイドボルト43Bは、第2貫通部材の一例である。
尚、第1ワンサイドボルト43Aが位置する、橋軸方向に直交する断面上に第2ワンサイドボルト43Bも位置している。さらに、この断面上には、一方の補強板4のネジ付きスタッド41及びナット42、並びに、他方の補強板4のネジ付きスタッド41及びナット42も位置している。
このように構成された上部工10においては、車輌の通行等によって床版11が撓み得る。上部工10は、デッキプレート2に中空リブ3を設けると共に、中空リブ3にモルタルMを充填することによって床版11の撓みを低減している。仮にモルタルMを充填せずに中空リブ3だけ設ける場合には、床版11の撓みをある程度は低減することができるが、デッキプレート2のうち縦壁31の接合部に応力が集中して、亀裂が生じ得る。それに対し、中空リブ3内にモルタルMを充填することによって、デッキプレート2のうち第1縦壁31Aと第2縦壁31Bとの間の部分の撓みを低減することができる。これにより、デッキプレート2のうち縦壁31の接合部への応力集中を緩和することができる。
尚、床版11は、始めから前述の構成で製造されるとは限らない。例えば、デッキプレート2を有する既存の床版に、補強のために、中空リブ3、補強板4及びモルタルMが後から設置される場合もある。あるいは、デッキプレート2及び中空リブ3を有する既存の床版に、補強のために、補強板4及びモルタルMが後から設置される場合もある。
しかしながら、デッキプレート2とモルタルMとの界面に空隙Gが存在すると、空隙Gの部分においてデッキプレート2の撓みが大きくなり、応力集中の緩和効果が低減してしまう。
そこで、空隙判定システム100は、この空隙Gの位置及び大きさを判定する。図3は、空隙判定システム100のブロック図である。
空隙判定システム100は、モルタルMに弾性波を入力する一方、モルタルMを伝播する弾性波を受信し、受信した弾性波に基づいて空隙Gの位置及び大きさを判定する。空隙判定システム100は、インパルスハンマ51と、振動センサ53と、装置本体6とを有している。
インパルスハンマ51は、中空リブ3、厳密には、モルタルMに打撃を与える加振器である。インパルスハンマ51は、加振力を検出するセンサが内蔵されており、打撃時の加振力を検出して出力する。
振動センサ53は、加速度ピックアップであり、対象物の加速度を検出する。振動センサ53は、直交する2軸の加速度を検出する。振動センサ53は、図2に示すように、第2ワンサイドボルト43Bの、中空リブ3の外側に露出している端縁に取り付けられており、第2ワンサイドボルト43Bの軸方向の加速度と軸方向に直交するせん断方向の加速度とを検出する。すなわち、振動センサ53は、モルタルMを伝播する弾性波を第2ワンサイドボルト43Bを介して受信する。
装置本体6は、増幅部61と、A/D変換部62と、演算部63と、メモリ64と、記憶装置65とを有している。
増幅部61は、振動センサ53の検出信号が入力され、それらの検出信号を増幅する。
A/D変換部62は、インパルスハンマ51の加振力信号並びに、増幅された振動センサ53の検出信号が入力され、それらの信号にA/D変換を施す。
演算部63は、プロセッサを有しており、プログラムを実行する等して、各種処理を行う。例えば、演算部63は、A/D変換後の信号を解析して、空隙Gの位置及び大きさの判定を行う。メモリ64は、演算部63がプログラムを実行する際にデータを一時的に保存するために用いられる。記憶装置65は、各種プログラムやデータを保存している。
次に、空隙判定システム100を用いた空隙判定方法について説明する。図4は、空隙判定方法のフローチャートである。この空隙判定方法は、デッキプレート2とモルタルMとの界面に形成された空隙Gを判定する。中空リブ3内にモルタルMが充填される際に空気が混入する場合があり、その場合、空気とモルタルMとの比重の差によって、空隙Gは主にデッキプレート2とモルタルMとの界面に生じ得る。
まず、ステップSa1において、作業者は、インパルスハンマ51を用いてモルタルMに衝撃弾性波を入力する。具体的には、作業者は、第2ワンサイドボルト43Bに振動センサ53を設置し、橋軸方向の位置が該第2ワンサイドボルト43Bと同じ第1ワンサイドボルト43Aの端縁にインパルスハンマ51で打撃を加える。作業者は、図2において矢印で示すように、主として第1ワンサイドボルト43Aの軸方向に打撃を加える。第1ワンサイドボルト43Aの先端部は、モルタルMに突き刺さった状態となっており、第1ワンサイドボルト43Aに加えられたインパルスハンマ51による衝撃は、モルタルMに伝わる。
こうして、インパルスハンマ51の打撃により、モルタルMにはインパルス状の弾性波(即ち、衝撃弾性波)が入力される。ステップSa1は、第2部材に弾性波を入力する入力工程に相当する。
このとき、インパルスハンマ51から第1ワンサイドボルト43Aに加えられた加振力は、インパルスハンマ51に内蔵されたセンサに検出され、検出された加振力信号が装置本体6に入力される。
次に、ステップSa2において、振動センサ53は、モルタルMを伝播する弾性波を受信する。振動センサ53は、前述の如く、第2ワンサイドボルト43Bに取り付けられている。第2ワンサイドボルト43Bの先端部は、モルタルMに突き刺さった状態となっている。そのため、モルタルMを伝播する弾性波は、第2ワンサイドボルト43Bを介して振動センサ53に伝わる。
振動センサ53の受信信号は、増幅部61により増幅された後、A/D変換部62によりA/D変換され、演算部63に入力される。演算部63は、例えば、インパルスハンマ51による打撃後の所定期間内の振動センサ53の受信信号を、入力した弾性波に対応する応答として取得する。ステップSa2は、第2部材を伝播する弾性波を受信する受信工程に相当する。
演算部63は、ステップSa3において、振動センサ53の受信信号に積分処理を施す。振動センサ53の受信信号は、加速度信号なので、積分処理によって速度信号に変換される。その後、演算部63は、インパルスハンマ51の加振力に基づいて速度信号を基準化する。具体的には、演算部63は、所定の基準加振力に対する実際のインパルスハンマ51の加振力の比率を、速度信号に掛け合わせる。インパルスハンマ51による打撃は人手によって行われるため、インパルスハンマ51の加振力にはバラツキが生じ得る。そこで、基準加振力に対する実際の加振力の比率に基づいて、速度信号を基準化する。これにより、インパルスハンマ51の加振力のバラツキに起因する速度信号の振幅のバラツキを解消することができる。
演算部63は、こうして基準化された速度信号にウェーブレット変換を施して、ウェーブレット変換データを取得する。ウェーブレット変換データは、各周波数成分の信号強度の時間的変化を表すデータである。演算部63は、ウェーブレット変換データからウェーブレット画像を作成する。ここで、ウェーブレット画像は、X軸(横軸)に時間、Y軸(縦軸)に周波数をとり、信号強度の大小を色分け又は色の濃淡で階調表示したグラフである。ステップSa3は、受信工程で受信された弾性波にウェーブレット変換を施してウェーブレット変換データを取得する変換工程に相当する。ウェーブレット画像は、ウェーブレット変換データの一形態である。
その後、演算部63は、ステップSa4において、ウェーブレット画像に画像認識処理を施すことによって空隙Gの位置及び大きさを判定する。ステップSa4における画像認識処理は、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルから予め取得された参照用ウェーブレット変換データを直接的又は間接的に参照することによって画像を認識する処理である。ステップSa4は、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルから予め取得されたウェーブレット変換データである参照用ウェーブレット変換データを参照することによって、変換工程によって取得されたウェーブレット変換データから空隙Gの位置と大きさとの少なくとも一方を判定する判定工程に相当する。
詳しくは、位置及び大きさが既知の空隙Gを有するサンプルSから参照用ウェーブレット変換データが予め取得される。以下、サンプルSのウェーブレット画像を参照用ウェーブレット画像と称する。参照用ウェーブレット画像は、参照用ウェーブレット変換データの一形態である。サンプルSは、実際のデッキプレート2、中空リブ3、補強板4、ワンサイドボルト43及びモルタルM等と同じ構成をしており、モルタルMとデッキプレート2との界面に空隙Gが形成されている。空隙Gの位置及び大きさが異なる複数のサンプルSが作成されている。
図5〜13は、第1〜第9サンプルS1〜S9の断面図である。第1〜第9サンプルS1〜S9は、空隙Gの位置及び大きさが異なる。ここでは、中空リブ3の幅方向における空隙Gの位置が異なる。以下では、特段の断りがない限り、「端部」は、中空リブ3の幅方向における端部を意味し、「中央」は、中空リブ3の幅方向における中央を意味する。また、「空隙Gの大きさ」は、空隙Gの大きさがゼロ、即ち、空隙Gが無い場合も含む概念である。
詳しくは、第1サンプルS1には、図5に示すように、空隙Gが形成されていない。すなわち、第1サンプルS1では、中空リブ3内にモルタルMが完全に充填されており、デッキプレート2とモルタルMとの界面の全域に亘ってデッキプレート2とモルタルMとが密着している。第2サンプルS2は、図6に示すように、デッキプレート2とモルタルMとの界面のうち第1縦壁31A寄りの端部に形成された、比較的小さな空隙Gを有している。第3サンプルS3は、図7に示すように、デッキプレート2とモルタルMとの界面のうち第2縦壁31B寄りの端部に形成された、比較的小さな空隙Gを有している。第4サンプルS4は、図8に示すように、デッキプレート2とモルタルMとの界面のうち第1縦壁31A寄りの端部に形成された、中程度の大きさの空隙Gを有している。第5サンプルS5は、図9に示すように、デッキプレート2とモルタルMとの界面のうち第2縦壁31B寄りの端部に形成された、中程度の大きさの空隙Gを有している。第6サンプルS6は、図10に示すように、デッキプレート2とモルタルMとの界面のうち第1縦壁31A寄りの端部に形成された、比較的大きな空隙Gを有している。第7サンプルS7は、図11に示すように、デッキプレート2とモルタルMとの界面のうち第2縦壁31B寄りの端部に形成された、比較的大きな空隙Gを有している。第8サンプルS8は、図12に示すように、デッキプレート2とモルタルMとの界面のうち中央に形成された、中程度の大きさの空隙Gを有している。第9サンプルS9は、図13に示すように、デッキプレート2とモルタルMとの界面のうち中央に形成された、比較的大きさ空隙Gを有している。
第2サンプルS2及び第3サンプルの空隙Gの寸法(幅、高さ、奥行き方向。以下、同様)は、同じである。第4サンプルS4、第5サンプルS5及び第8サンプルS8の空隙Gの寸法は、同じである。第6サンプルS6、第7サンプルS7及び第9サンプルS9の空隙Gの寸法は、同じである。以下、第2サンプルS2及び第3サンプルの空隙Gの大きさを「小」と称し、第4サンプルS4、第5サンプルS5及び第8サンプルS8の空隙Gの大きさを「中」と称し、第6サンプルS6、第7サンプルS7及び第9サンプルS9の空隙Gの大きさを「大」と称する。
図14(A)〜図22(A)は、第1〜第9サンプルS1〜S9に衝撃弾性波を入力した際の受信波形である。図14(B)〜図22(B)は、第1〜第9サンプルS1〜S9のウェーブレット画像である。(A)の受信波形は、前述の積分処理及び基準化がなされた波形である。(A)のグラフの横軸が時間で、縦軸が速度である。(B)のグラフの横軸は、時間であって、(A)の横軸と対応している。(B)のグラフの縦軸は、周波数である。(B)のウェーブレット画像は、簡略化されたものであり、信号強度の大小が等高線によって4段階で表現されている。ハッチングの密度が濃いほど、強度が大きい。ただし、ウェーブレット画像における信号強度の大小はさらに細かく表現されてもよい。
各図の(A)図からわかるように、モルタルMに入力された弾性波は、中空リブ3内で多重反射する。これらの受信波形は、空隙Gの位置及び大きさに応じて変化する。詳しくは、2つの部材の界面における弾性波の反射率は、2つの部材の音響インピーダンスの差に依存する。空隙Gが形成されていない部分の界面は、モルタルMとデッキプレート2とで形成される。この界面での反射率は、モルタルMの音響インピーダンスとデッキプレート2の音響インピーダンスとの差に依存する。一方、空隙Gが形成されている部分の界面は、モルタルMと空気とで形成される。この界面での反射率は、モルタルMの音響インピーダンスと空気の音響インピーダンスとの差に依存する。モルタルMの音響インピーダンスと空気の音響インピーダンスとの差は、モルタルMの音響インピーダンスとデッキプレート2の音響インピーダンスとの差に比べて大きいので、モルタルMと空気との界面での反射率はより大きくなる。このように、空隙Gの有無によってモルタルM内を伝播する弾性波の反射状況が変化する。その結果、受信波形が空隙Gの位置及び大きさに応じて変化すると考えられる。
しかしながら、受信波形の差異は微妙であるので、受信波形そのものに基づいて空隙Gの位置及び大きさを判別することは困難である。
それに対し、各図の(B)図に示すウェーブレット画像(即ち、各周波数成分の信号強度の時間的変化の態様)は、空隙Gの位置及び大きさに応じて異なっている。その差異は、空隙Gの位置及び大きさに応じた受信波形の差異に比べて顕著である。
具体的には、空隙Gが形成されていない第1サンプルS1の図14(B)と、空隙Gが形成されている第2〜第9サンプルS2〜S9の図15(B)〜図22(B)とを比較すると、等高線の形状が大きく異なっている。
さらに詳しくは、空隙Gの大きさが「中」であって、空隙Gの位置が異なる図14(B),18(B),21(B)を比較すると、空隙Gの大きさが「中」で共通であっても空隙Gの位置が中央か端部かによって等高線の形状が異なる。
空隙Gの大きさが「大」であって、空隙Gの位置が異なる図19(B),20(B),22(B)を比較すると、空隙Gの大きさが「大」で同じであっても空隙Gの位置が中央か端部かによって等高線の形状が変化することがわかる。
また、空隙Gの位置が第1縦壁31A寄りの端部であって、空隙G大きさが異なる図15(B),17(B),19(B)を比較すると、空隙Gの位置が第1縦壁31A寄りの端部で共通であっても空隙Gの大きさによって等高線の形状が変化することがわかる。
空隙Gの位置が第2縦壁31B寄りの端部であって、空隙G大きさが異なる図16(B),18(B),20(B)を比較すると、空隙Gの位置が第2縦壁31B寄りの端部で共通であっても空隙Gの大きさによって等高線の形状が変化することがわかる。
空隙Gの位置が中央であって、空隙G大きさが異なる図21(B),22(B)を比較すると、空隙Gの位置が中央で共通であっても空隙Gの大きさによって等高線の形状が変化することがわかる。
尚、空隙Gの大きさが同じで、空隙Gの位置が第1縦壁31A寄りの端部か第2縦壁31B寄りの端部かが異なる場合(例えば、図15(B)と図16(B)、図17(B)と図18(B)、又は、図19(B)と図20(B))には、等高線の形状があまり変化しない。しかしながら、前述の如く、空隙Gの位置が中央か端部か(第1縦壁31A寄りか第2縦壁31Bかにかかわらず)は、ウェーブレット画像に基づいて判定することができる。
ただし、床版11の空隙判定においては、空隙Gの位置が中央か端部かが判定できれば十分である。前述の如く、デッキプレート2とモルタルMとの界面に空隙Gが存在すると、空隙Gの部分においてデッキプレート2の撓みが大きくなる。空隙Gが中央に位置する場合には、デッキプレート2のうち縦壁31の接合部への悪影響は小さい。一方、空隙Gが端部に位置する場合には、デッキプレート2のうち縦壁31の接合部の近傍部分が撓みやすくなる。そのため、モルタルMによる応力集中の緩和効果が小さくなってしまう。空隙Gの大きさが同じであっても、空隙Gの位置が中央か端部かによってその重大さは異なる。床版11の空隙判定においては、空隙Gの位置が中央か端部かが判定できるだけでも十分である。
このように、ウェーブレット画像には、空隙Gの位置及び大きさに関する情報が現れている。つまり、受信波形では明確に現れていなかった空隙Gの位置及び大きさに関する情報を、ウェーブレット変換により顕在化させることができる。
記憶装置65には、空隙Gの位置及び大きさが異なる複数のサンプル(例えば、前述の第1〜第9サンプルS1〜S9)から予め取得されたウェーブレット画像をもとに機械学習によって構築された識別器が記憶されている。例えば、識別器は、ファジィクラスタリング手法(Fuzzy-C-Means)を利用した識別器であるFCM識別器である。そして、演算部63は、識別器を用いて、実際のウェーブレット画像から実際の空隙Gの位置及び大きさを判定する。識別器は、複数のサンプルのウェーブレット画像に基づいて構築されているので、識別器を用いることは、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルから予め取得された参照用のデータを間接的に参照することに等しい。
尚、画像認識処理は、識別器を用いた処理に限られず、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルから予め取得された参照用のデータを直接的又は間接的に参照することによって画像を認識する処理であれば任意の処理が採用され得る。例えば、画像認識処理として、パターンマッチングが知られている。パターンマッチングとしては、テンプレートマッチングや特徴点抽出を使ったマッチングがある。
こうして、演算部63は、ウェーブレット画像から空隙Gの位置及び大きさを判定する。ただし、この空隙判定は、一組の第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bを含む断面に関して行われたものである。モルタルM内の弾性波は橋軸方向にも拡散するので、一組の第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bを含み、且つ、橋軸方向に或る程度の長さを有する領域内の空隙Gの位置及び大きさが判定される。
作業者は、弾性波の入力及び受信を行う一組の第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bを変更して、前述のステップSa1〜Sa4を繰り返す。こうして、橋軸方向の全域に亘って空隙Gの位置及び大きさが判定される。
この空隙判定方法によれば、特許文献1の方法のように、デッキプレート2の上面(舗装14が敷設された面)から弾性波を入力する必要がないので、デッキプレート2の上面を露出させる等の前処理が不要となる。つまり、制約の少ない方法で界面の空隙を判定することができる。特に、橋梁の上部工10においてはデッキプレート2の上面には舗装14が敷設されるため、デッキプレート2の上面からデッキプレート2とモルタルMとの界面に向かって弾性波を入力することは困難であるか、できるとしても前処理が非常に煩雑となる。しかしながら、この空隙判定方法によれば、デッキプレート2の上面以外の部分から弾性波を入力し、且つ、デッキプレート2の上面以外の部分において弾性波を受信することによって、空隙を判定することができる。例えば、床版11の下方から空隙を判定することができる。
また、床版11の下方から空隙を判定することができるので、空隙の判定に際し、舗装14上を車輌が通行する状態を維持することができる。つまり、舗装14は道路として機能しているので、通常は、舗装14の上を車輌が通行している。特許文献1のようにデッキプレート2の上面から弾性波を入力する場合には、通行規制等を行う必要がある。それに対し、この空隙判定方法によれば、舗装14上を車輌が通行している状態のまま、床版11の下方から空隙を判定することができる。この点においても、この空隙判定方法は、制約が少ない。
ただし、この空隙判定方法によれば、特許文献1のように界面からの単純な反射波だけを受信することは難しい。そのため、界面からの反射波の受信強度に基づいて空隙の有無を判定することはできない。しかしながら、モルタルMを伝播する弾性波の受信信号にウェーブレット変換を施すことによって、受信信号に含まれる、空隙Gの位置及び大きさに関する情報を顕在化させることができる。そして、空隙Gの位置及び大きさが既知のサンプルS1〜S9から予め取得された参照用ウェーブレット変換データを参照することによって、受信信号から得られたウェーブレット変換データから空隙Gの位置及び大きさを判定することができる。
以上のように、空隙判定システム100は、モルタルM(内側部材)とモルタルMと共に界面を形成するデッキプレート2及び中空リブ3(外側部材)とを有する床版11(構造体)における界面に形成された空隙Gを判定する空隙判定システムであって、モルタルMに弾性波を入力するインパルスハンマ51(入力部)と、モルタルMを伝播する弾性波を受信する振動センサ53(受信部)と、振動センサ53によって受信された弾性波にウェーブレット変換を施してウェーブレット画像(ウェーブレット変換データ)を取得する演算部63(変換部)と、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する第1〜第9サンプルS1〜S9(複数のサンプル)から予め取得された参照用ウェーブレット画像(参照用ウェーブレット変換データ)を参照することによって、演算部63によって取得されたウェーブレット画像から空隙Gの位置及び大きさを判定する演算部63(判定部)とを備えている。
換言すると、空隙判定システム100を用いた空隙判定方法は、モルタルM(内側部材)とモルタルMと共に界面を形成するデッキプレート2及び中空リブ3(外側部材)とを有する床版11(構造体)における界面に形成された空隙Gを判定する空隙判定方法であって、モルタルMに弾性波を入力する入力工程と、モルタルMを伝播する弾性波を受信する受信工程と、受信工程によって受信された弾性波にウェーブレット変換を施してウェーブレット画像(ウェーブレット変換データ)を取得する変換工程と、位置及び大きさが異なる空隙G1〜G9を有する複数のサンプルS1〜S9から予め取得された参照用ウェーブレット画像(参照用ウェーブレット変換データ)を参照することによって、変換工程によって取得されたウェーブレット画像から空隙Gの位置と大きさとの少なくとも一方を判定する判定工程とを含む。
これらの構成によれば、モルタルMに弾性波を入力し且つモルタルMを伝播する弾性波を受信できれば、空隙Gの位置及び大きさを判定することができる。つまり、特許文献1に記載の方法のように、第1部材の表面から界面に向かって超音波を送信しなければならないというような厳しい制約がないので、空隙Gの位置及び大きさの判定を簡易に実現することができる。具体的な空隙判定については、モルタルMを伝播する弾性波にウェーブレット変換を施してウェーブレット画像を取得することによって、弾性波に含まれる、空隙Gの位置及び大きさに関する情報を顕在化させることができる。さらに、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルから参照用ウェーブレット画像を予め取得しておき、これらを参照することによって、前述のウェーブレット画像から空隙Gの位置及び大きさを判定することができる。
また、床版11は、中空リブ3を貫通して、一端部が中空リブ3の外側に露出し、他端部がモルタルMに突き刺さった第1ワンサイドボルト43A(第1貫通部材)及び第2ワンサイドボルト43B(第2貫通部材)をさらに有し、入力工程では、第1ワンサイドボルト43Aを介して中空リブ3の外側からモルタルMに弾性波を入力し、受信工程では、モルタルMを伝播する弾性波を、第2ワンサイドボルト43Bを介して中空リブ3の外側から受信する。
この構成によれば、モルタルMに突き刺さった第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bが中空リブ3を貫通して中空リブ3の外側に露出している。そこで、第1ワンサイドボルト43Aを介してモルタルMに弾性波を入力することによって、中空リブ3の外側からモルタルMに弾性波を適切に入力することができる。また、モルタルMを伝播する弾性波を第2ワンサイドボルト43Bを介して受信することによって、モルタルMを伝播する弾性波を中空リブ3の外側から適切に受信することができる。
さらに、外側部材は、少なくともデッキプレート2(第1部材)と中空リブ3(第2部材)とを含む分割構造となっており、床版11は、デッキプレート2と中空リブ3とを連結する補強板4(連結部材)をさらに有し、第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bは、補強板4を中空リブ3に締結する部材である。
この構成によれば、補強板4を中空リブ3に締結するための第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bを利用して、弾性波の入力及び受信を行うことができる。
さらに、床版11は、デッキプレート2と、デッキプレート2の下面に接合され、デッキプレート2と共に閉断面を形成する中空状の中空リブ3(リブ)と、デッキプレート2及び中空リブ3で区画される空間に充填されたモルタルMとを有する、橋梁の床版であって、外側部材は、デッキプレート2及び中空リブ3であり、内側部材は、モルタルMである。
この構成によれば、橋梁の床版11は、デッキプレート2及び中空リブ3によって区画される空間にモルタルMが充填されている。そして、デッキプレート2及び中空リブ3とモルタルMとの界面に形成された空隙Gの位置及び大きさが判定される。
また、空隙判定システム100を用いた弾性波検出方法は、モルタルM(内側部材)とモルタルMと共に界面を形成するデッキプレート2及び中空リブ3(外側部材)とを有する床版11(構造体)を伝播する弾性波を検出する弾性波検出方法であって、床版11は、中空リブ3を貫通して、一端部が中空リブ3の外側に露出し、他端部がモルタルMに突き刺さった第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bをさらに有し、第1ワンサイドボルト43Aを介して中空リブ3の外側からモルタルMに弾性波を入力する入力工程と、モルタルMを伝播する弾性波を、第2ワンサイドボルト43Bを介して中空リブ3の外側から受信する受信工程とを含む。
この構成によれば、モルタルMがデッキプレート2及び中空リブ3に覆われた構成において、第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bを利用することによって、中空リブ3の外側からモルタルMに弾性波を入力すると共に、モルタルMを伝播する弾性波を中空リブ3の外側から受信することができる。これにより、モルタルMに弾性波を適切に入力し、モルタルMを伝播する弾性波を適切に受信することができる。ひいては、前述の空隙判定方法を適切に実現することができる。
《実施形態2》
続いて、実施形態2に係る空隙判定システム200について説明する。図23は、空隙判定システム200のブロック図である。
空隙判定システム200は、モルタルMに弾性波を入力する一方、モルタルMを伝播する弾性波を受信し、受信した弾性波に基づいて中空リブ3内の空隙の位置及び大きさを判定する。空隙判定システム200は、ウェーブレット変換ではなく、モルタルMに入力される弾性波に対するモルタルMから受信された弾性波の伝達関数に基づいて空隙の位置及び大きさを判定する点で、空隙判定システム100と異なる。そこで、空隙判定システム200のうち、空隙判定システム100と同様の構成については同様の符号を付して説明を省略し、異なる部分を中心に説明する。
空隙判定システム200は、インパルスハンマ51と、第1振動センサ252と、第2振動センサ253と、装置本体206とを有している。
第1振動センサ252及び第2振動センサ253は、振動センサ53と同じ構成をしている。図24は、第1振動センサ252及び第2振動センサ253を設置した状態の中空リブ3を中心とする拡大断面図である。第2振動センサ253は、図24に示すように、第2ワンサイドボルト43Bの、中空リブ3の外側に露出している端縁に取り付けられており、第2ワンサイドボルト43Bの軸方向の加速度と軸方向に直交するせん断方向の加速度とを検出する。つまり、第2振動センサ253は、振動センサ53と同じである。第1振動センサ252は、第1ワンサイドボルト43Aの、中空リブ3の外側に露出している端部に取り付けられている。第1振動センサ252は、第1ワンサイドボルト43Aの軸方向の加速度と軸方向に直交するせん断方向の加速度とを検出する。
装置本体206は、増幅部61と、A/D変換部62と、演算部263と、メモリ64と、記憶装置265とを有している。
増幅部61は、第1振動センサ252及び第2振動センサ253の検出信号が入力され、それらの検出信号を増幅する。
A/D変換部62は、インパルスハンマ51の加振力信号並びに、増幅された第1振動センサ252及び第2振動センサ253の検出信号が入力され、それらの信号にA/D変換を施す。
演算部263は、プロセッサを有しており、プログラムを実行する等して、各種処理を行う。例えば、演算部263は、A/D変換後の信号を解析して、空隙の位置及び大きさの判定を行う。具体的には、演算部263は、モルタルMに入力される弾性波に対するモルタルMから受信された弾性波の伝達関数に基づいて空隙の位置及び大きさを判定する。メモリ64は、演算部263がプログラムを実行する際にデータを一時的に保存するために用いられる。記憶装置265は、各種プログラムやデータを保存している。詳しくは後述するが、記憶装置265は、空隙Gの位置及び大きさが既知の複数のサンプルから予め取得された参照用伝達関数が記憶されている。
次に、空隙判定システム200を用いた空隙判定方法について説明する。図25は、空隙判定方法のフローチャートである。この空隙判定方法は、デッキプレート2とモルタルMとの界面に形成された空隙Gを判定する。
まず、ステップSb1において、作業者は、インパルスハンマ51を用いてモルタルMに衝撃弾性波を入力する。具体的には、作業者は、橋軸方向が同じ第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bに、それぞれ第1振動センサ252及び第2振動センサ253を設置し、該第1ワンサイドボルト43Aの端縁にインパルスハンマ51で打撃を加える。作業者は、図24において矢印で示すように、主として第1ワンサイドボルト43Aの軸方向に打撃を加える。第1ワンサイドボルト43Aの先端部は、モルタルMに突き刺さった状態となっており、第1ワンサイドボルト43Aに加えられたインパルスハンマ51による衝撃は、モルタルMに伝わる。
こうして、インパルスハンマ51の打撃により、モルタルMにはインパルス状の弾性波(即ち、衝撃弾性波)が入力される。ステップSb1は、第2部材に弾性波を入力する入力工程に相当する。
次に、ステップSb2において、第1振動センサ252は、インパルスハンマ51によって入力される弾性波を受信すると共に、第2振動センサ253は、モルタルMを伝播する弾性波を受信する。第1振動センサ252は、インパルスハンマ51によって入力される弾性波として、第1ワンサイドボルト43Aを介して受信される弾性波を受信する。
第1振動センサ252及び第2振動センサ253の受信信号は、増幅部61により増幅された後、A/D変換部62によりA/D変換され、演算部263に入力される。演算部263は、例えば、インパルスハンマ51による打撃後の所定期間内の第1振動センサ252の受信信号及び第2振動センサ253の受信信号を取得する。ステップSb2(特に、第2振動センサ253による弾性波の受信)は、第2部材を伝播する弾性波を受信する受信工程に相当する。
演算部263は、ステップSb3において、第1振動センサ252及び第2振動センサ253の受信信号に積分処理を施す。第1振動センサ252及び第2振動センサ253の受信信号は、加速度信号なので、積分処理によって速度信号に変換される。
その後、演算部263は、モルタルMに入力される弾性波に対するモルタルMを伝播して受信される弾性波の伝達関数を算出する。ここでは、演算部263は、第1振動センサ252からの速度信号に対する、第2振動センサ253からの速度信号の伝達関数を算出する。具体的には、演算部263は、自己回帰モデル(ARモデル)を用いたスペクトル解析手法により周波数応答関数及び伝達関数を算出する。ステップSb3は、入力工程によって入力される弾性波に対する受信工程によって受信された弾性波の伝達関数を算出する算出工程に相当する。つまり、入力工程によって入力される弾性波として、弾性波が入力される部分である第1ワンサイドボルト43Aにおいて検出される弾性波が用いられる。
尚、伝達関数の算出は、これに限られるものではない。例えば、演算部263は、第1振動センサ252及び第2振動センサ253からの速度信号のそれぞれに高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)を施し、それぞれの周波数スペクトルを求め、それぞれの周波数スペクトルに基づいて伝達関数を算出してもよい。
続いて、演算部263は、ステップSb4において、記憶装置265に記憶された参照伝達関数を参照することによって、ステップSb3で算出された伝達関数から空隙Gの位置及び大きさを判定する。ステップSb4は、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルから予め取得された伝達関数である参照用伝達関数を参照することによって、算出工程によって算出された伝達関数から空隙Gの位置と大きさとの少なくとも一方を判定する判定工程に相当する。
詳しくは、位置及び大きさが既知の空隙Gを有するサンプルSから取得した参照用伝達関数が予め記憶装置265に記憶されている。以下、サンプルSの伝達関数を参照用伝達関数と称する。サンプルSは、前述の第1〜第9サンプルS1〜S9である。つまり、複数の参照用伝達関数が記憶装置265に記憶されている。
図26(A)〜34(A)は、第1〜第9サンプルS1〜S9の伝達関数を求める際の入力側の受信波形である。図26(B)〜34(B)は、第1〜第9サンプルS1〜S9の伝達関数である。(A)は、第1振動センサ252の受信波形であり、前述の積分処理がなされた波形である。伝達関数を求める際の出力側の受信波形は、前述の図14〜22の(A)の受信波形の基準化前の受信波形である。(A)のグラフの横軸が時間で、縦軸が速度である。(A)のグラフの縦軸のレンジ(最大値と最小値との幅)は、図14〜22の(A)のグラフの縦軸に比べて大きい。(B)のグラフの横軸は、周波数であって、縦軸は、応答倍率である。(B)の伝達関数は、簡略化されたものである。
各図の(A)図からわかるように、信号の受信直後に、インパルスハンマ51の入力に対応する衝撃波が観測されている。(A)図の縦軸のレンジが図14〜22(A)の縦軸のレンジよりも大きいためわかりにくいが、衝撃波の後には図14〜22(A)と同様に、モルタルMに入力される弾性波の多重反射が観測されている。
各図の(B)図を見ると、伝達関数は、空隙Gの位置及び大きさに応じて異なっている。第2振動センサ253の受信信号は、基準化されていない点を除いて、図14〜22(A)と同様であり、その受信波形は空隙Gの位置及び大きさに応じて変化する。しかしながら、受信波形の差異は微妙であるので、受信波形そのものに基づいて空隙Gの位置及び大きさを判別することは困難である。それに対し、伝達関数の差異は、空隙Gの位置及び大きさに応じた受信波形の差異に比べて顕著である。
具体的には、空隙Gが形成されていない第1サンプルS1の図26(B)と、空隙Gが形成されている第2〜第9サンプルS2〜S9の図27(B)〜図34(B)とを比較すると、伝達関数の形状が大きく異なっている。
さらに詳しくは、空隙Gの大きさが「小」であって、空隙Gの位置が異なる図27(B),28(B)を比較すると、空隙Gの大きさが「小」で共通であっても空隙Gの位置が第1縦壁31A寄りの端部か第2縦壁31B寄りの端部かによって伝達関数の形状が変化することがわかる。
空隙Gの大きさが「中」であって、空隙Gの位置が異なる図29(B),30(B),33(B)を比較すると、空隙Gの大きさが「中」で共通であっても空隙Gの位置が中央か第1縦壁31A寄りの端部か第2縦壁31B寄りの端部かによって伝達関数の形状が変化することがわかる。
空隙Gの大きさが「大」であって、空隙Gの位置が異なる図31(B),32(B),34(B)を比較すると、空隙Gの大きさが「大」で同じであっても空隙Gの位置が中央か第1縦壁31A寄りの端部か第2縦壁31B寄りの端部かによって伝達関数の形状が変化することがわかる。
また、空隙Gの位置が第1縦壁31A寄りの端部であって、空隙G大きさが異なる図27(B),29(B),31(B)を比較すると、空隙Gの位置が第1縦壁31A寄りの端部で共通であっても空隙Gの大きさによって伝達関数の形状が変化することがわかる。
空隙Gの位置が第2縦壁31B寄りの端部であって、空隙G大きさが異なる図28(B),30(B),32(B)を比較すると、空隙Gの位置が第2縦壁31B寄りの端部で共通であっても空隙Gの大きさによって伝達関数の形状が変化することがわかる。
空隙Gの位置が中央であって、空隙G大きさが異なる図33(B),34(B)を比較すると、空隙Gの位置が中央で共通であっても空隙Gの大きさによって伝達関数の形状が変化することがわかる。
このように、伝達関数には、空隙Gの位置及び大きさに関する情報が現れている。つまり、受信波形では明確に現れていなかった空隙Gの位置及び大きさに関する情報を、伝達関数により顕在化させることができる。そこで、装置本体206は、空隙Gの位置及び大きさが異なる複数のサンプル(例えば、前述の第1〜第9サンプルS1〜S9)の伝達関数を予め取得し、参照伝達関数として記憶装置265に記憶しておく。そして、演算部263は、参照伝達関数を参照することによって、実際の伝達関数から実際の空隙Gの位置及び大きさを判定する。例えば、演算部263は、実際の伝達関数から特徴点(例えば、共振周波数、反共振周波数、最大倍率、最低倍率等)を抽出し、実際の伝達関数の特徴点と最も近似する特徴点を有する参照伝達関数を探索する。参照伝達関数の特徴点は、実際の伝達関数の特徴点を抽出する際に演算部263が抽出してもよいし、予め抽出されて記憶装置265に記憶されていてもよい。最も近似する特徴点を判定する方法は、パターンマッチングやユークリッド距離を用いる方法が挙げられる。演算部263は、最も近似する特徴点を有する参照伝達関数に対応するサンプルの空隙Gの位置及び大きさを実際の空隙Gの位置及び大きさとみなす。こうして、実際の空隙Gの位置及び大きさが判定される。
ただし、空隙Gの位置及び大きさを判定する方法は、これに限られない。例えば、装置本体6のように、複数の参照伝達関数をもとに機械学習によって構築された識別器を用いて、実際の伝達関数から実際の空隙Gの位置及び大きさを判定してもよい。
ただし、この空隙判定は、一組の第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bを含む断面に関して行われたものである。モルタルM内の弾性波は橋軸方向にも拡散するので、一組の第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bを含み、且つ、橋軸方向に或る程度の長さを有する領域内の空隙Gの位置及び大きさが判定される。
作業者は、弾性波の入力及び受信を行う一組の第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bを変更して、前述のステップSb1〜Sb4を繰り返す。こうして、橋軸方向の全域に亘って空隙Gの位置及び大きさが判定される。
この空隙判定方法によれば、空隙判定システム100の方法と同様に、制約の少ない方法で界面の空隙を判定することができる。特に、この空隙判定方法によれば、デッキプレート2の上面以外の部分から弾性波を入力し、且つ、デッキプレート2の上面以外の部分において弾性波を受信することによって、空隙を判定することができる。例えば、床版11の下方から空隙を判定することができる。
そして、この空隙判定方法によれば、モルタルMに入力される弾性波とモルタルMを伝播して受信された弾性波の伝達関数を求めることによって、受信信号に含まれる、空隙Gの位置及び大きさに関する情報を顕在化させることができる。そして、空隙Gの位置及び大きさが既知のサンプルS1〜S9から予め取得された参照用伝達関数を参照することによって、受信信号から得られた伝達関数から空隙Gの位置及び大きさを判定することができる。
さらに、空隙判定システム100の方法では、前述の如く、空隙Gの位置が第1縦壁31A寄りの端部か第2縦壁31B寄りの端部かを判定することは難しい。それに対し、空隙判定システム200の伝達関数を用いる方法によれば、空隙Gの位置が第1縦壁31A寄りの端部か第2縦壁31B寄りの端部かを判定することもできる。
続いて、空隙判定システム200の変形例について説明する。前述の説明では、空隙判定システム200は、伝達関数を算出する際の、入力工程によって入力される弾性波として、弾性波が入力される部分(第1ワンサイドボルト43A)において検出される弾性波を用いている。しかし、入力工程によって入力される弾性波は、これに限られるものではない。変形例では、入力工程によって入力される弾性波の別の例として、インパルスハンマ51によって入力される弾性波を用いる。具体的には、演算部263は、伝達関数を求める際の入力側の信号としてインパルスハンマ51の加振力信号を用いる。
図35〜43は、加振力信号を入力とした場合の第1〜第9サンプルS1〜S9の伝達関数である。伝達関数の差異は、空隙Gの位置及び大きさに応じた受信波形の差異に比べて顕著である。
具体的には、空隙Gが形成されていない第1サンプルS1の図35と、空隙Gが形成されている第2〜第9サンプルS2〜S9の図36〜図43とを比較すると、伝達関数の形状が大きく異なっている。
さらに詳しくは、空隙Gの大きさが「小」であって、空隙Gの位置が異なる図36,37を比較すると、空隙Gの大きさが「小」で共通であっても空隙Gの位置が第1縦壁31A寄りの端部か第2縦壁31B寄りの端部かによって伝達関数の形状が変化することがわかる。
空隙Gの大きさが「中」であって、空隙Gの位置が異なる図38,39,42を比較すると、空隙Gの大きさが「中」で共通であっても空隙Gの位置が中央か第1縦壁31A寄りの端部か第2縦壁31B寄りの端部かによって伝達関数の形状が変化することがわかる。
空隙Gの大きさが「大」であって、空隙Gの位置が異なる図40,41,43を比較すると、空隙Gの大きさが「大」で同じであっても空隙Gの位置が中央か第1縦壁31A寄りの端部か第2縦壁31B寄りの端部かによって伝達関数の形状が変化することがわかる。
また、空隙Gの位置が第1縦壁31A寄りの端部であって、空隙G大きさが異なる図36,38,40を比較すると、空隙Gの位置が第1縦壁31A寄りの端部で共通であっても空隙Gの大きさによって伝達関数の形状が変化することがわかる。
空隙Gの位置が第2縦壁31B寄りの端部であって、空隙G大きさが異なる図37,39,41を比較すると、空隙Gの位置が第2縦壁31B寄りの端部で共通であっても空隙Gの大きさによって伝達関数の形状が変化することがわかる。
空隙Gの位置が中央であって、空隙G大きさが異なる図42,43を比較すると、空隙Gの位置が中央で共通であっても空隙Gの大きさによって伝達関数の形状が変化することがわかる。
このように、加振力信号を入力側の信号として用いた場合であっても、空隙Gの位置及び大きさに関する情報が伝達関数に顕著に現れていることがわかる。
以上のように、空隙判定システム200は、モルタルM(内側部材)とモルタルMと共に界面を形成するデッキプレート2及び中空リブ3(外側部材)とを有する床版11(構造体)における界面に形成された空隙Gを判定する空隙判定システムであって、モルタルMに弾性波を入力するインパルスハンマ51(入力部)と、モルタルMを伝播する弾性波を受信する第2振動センサ253(受信部)と、インパルスハンマ51によって入力される弾性波に対する第2振動センサ253によって受信された弾性波の伝達関数を算出する演算部263(算出部)と、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する第1〜第9サンプルS1〜S9(複数のサンプル)から予め取得された伝達関数である参照用伝達関数を参照することによって、演算部263によって算出された伝達関数から空隙Gの位置及び大きさを判定する演算部263(判定部)とを備えている。
換言すると、空隙判定システム200を用いた空隙判定方法は、モルタルM(内側部材)とモルタルMと共に界面を形成するデッキプレート2及び中空リブ3(外側部材)とを有する床版11(構造体)における界面に形成された空隙Gを判定する空隙判定方法であって、モルタルMに弾性波を入力する入力工程と、モルタルMを伝播する弾性波を受信する受信工程と、入力工程によって入力される弾性波に対する受信工程によって受信された弾性波の伝達関数を算出する算出工程と、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する第1〜第9サンプルS1〜S9(複数のサンプル)から予め取得された伝達関数である参照用伝達関数を参照することによって、算出工程によって算出された伝達関数から空隙Gの位置及び大きさを判定する判定工程とを含んでいる。
これらの構成によれば、モルタルMに弾性波を入力し且つモルタルMを伝播する弾性波を受信できれば、空隙Gの位置及び大きさを判定することができる。つまり、特許文献1に記載の方法のように、第1部材の表面から界面に向かって超音波を送信しなければならないというような厳しい制約がないので、空隙Gの位置及び大きさの判定を簡易に実現することができる。具体的な空隙判定については、モルタルMに入力される弾性波に対するモルタルMを伝播する弾性波の伝達関数を算出することによって、弾性波に含まれる、空隙Gの位置及び大きさに関する情報を顕在化させることができる。さらに、位置及び大きさが異なる空隙Gを有する複数のサンプルから参照用伝達関数を予め取得しておき、これらを参照することによって、前述の算出した伝達関数から空隙Gの位置及び大きさを判定することができる。
また、算出工程において伝達関数を算出する際の入力工程によって入力される弾性波として、第1ワンサイドボルト43Aにおいて受信される弾性波を用いる。
つまり、第1ワンサイドボルト43に設置された第1振動センサ252の受信信号を伝達関数を求める際の入力側の信号として用いる。これによれば、第1ワンサイドボルト43AからモルタルMに入力される弾性波に対する、モルタルMから第2ワンサイドボルト43Bを介して受信される弾性波の伝達関数が求められる。
その他、空隙判定システム200及びその空隙判定方法は、空隙判定システム100及びその空隙判定方法と同様の作用効果を奏する。
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、前記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、前記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
例えば、空隙判定を実施する対象は、橋梁の床版11に限定されない。内側部材と内側部材と共に界面を形成する外側部材とを有する構造体であれば、任意の構造体における界面の空隙を判定することができる。
また、床版11の構成は、一例に過ぎず、前述の構成以外の構成であってもよい。例えば、補強板4が省略されていてもよい。また、モルタルMの代わりにコンクリートが充填されていてもよい。
また、モルタルMへの弾性波の入力及び受信は、第1ワンサイドボルト43A及び第2ワンサイドボルト43Bを利用しなくてもよい。中空リブ3を貫通して、一端部が中空リブ3の外側に露出し、他端部がモルタルMに突き刺さった貫通部材(例えば、空隙判定専用のボルト)を弾性波の入力及び受信のためだけに設けてもよい。あるいは、中空リブ3に直接打撃を加えることによって、中空リブ3を介してモルタルMへ弾性波を入力してもよい。同様に、中空リブ3に振動センサを取り付けて、モルタルMを伝播する弾性波を中空リブ3を介して受信してもよい。
受信部としての振動センサは、加速度ピックアップに限られるものではない。例えば、AEセンサや超音波探傷用の受信センサ等を振動センサとして採用してもよい。
また、振動センサ53の受信信号は、速度信号に変換されているが、これに限られるものではない。例えば、演算部63は、振動センサ53の受信信号を加速度信号のまま用いてもよい。つまり、内側部材(モルタルM)を伝播する弾性波を表わす物理量である限り、任意の物理量を採用することができる。
空隙判定システム100,200及びそれらの空隙判定方法においては、空隙Gの位置及び大きさの両方を判定しているが、位置又は大きさを判定するものであってもよい。
また、サンプルSの個数は、9個に限られず、任意の個数とすることができる。当然ながら、サンプルSの個数が増加するほど、空隙の判定精度が向上する。
さらに、参照用ウェーブレット画像を参照することによって実際のウェーブレット画像から空隙Gの位置及び大きさを判定する方法、及び、参照用伝達関数を参照することによって実際の伝達関数から空隙Gの位置及び大きさを判定する方法は、前述の方法に限られるものではない。例えば、空隙Gの位置又は大きさによって特定の周波数成分が特定の時間帯に増減することが参照用ウェーブレット変換データからわかっていれば、それらを特徴点として参照することによって、実際のウェーブレット変換データの該特定の時間帯における該特定の周波数成分の信号強度から空隙Gの位置又は大きさを判定してもよい。
また、空隙判定システム100の空隙判定方法と空隙判定システム200の空隙判定方法とを組み合わせてもよい。空隙判定システム100と空隙判定システム200のハードウェア構成は、基本的には振動センサの個数だけである。そのため、空隙判定システム200であれば、空隙判定システム100の空隙判定方法を実施することができる。それぞれの方法に、判定しやすい空隙Gの位置及び大きさがあるので、両方の方法を組み合わせることによって、空隙Gの位置及び大きさの判定精度を向上させることができる。例えば、主として、空隙判定システム100の空隙判定方法によって空隙Gの位置及び大きさを判定し、判定が困難な場合には、空隙判定システム200の空隙判定方法によって空隙Gの位置及び大きさを判定してもよい。
実施形態1においては、第2ワンサイドボルト43B以外の場所においてモルタルMを伝播する弾性波を受信してもよい。つまり、モルタルMは、デッキプレート2及び中空リブ3と接触しているため、モルタルMを伝播する弾性波は、デッキプレート2及び中空リブ3へ透過する。そのため、デッキプレート2又は中空リブ3の振動を検出することによっても、モルタルMを伝播する弾性波を受信することができる。例えば、ネジ付きスタッド41又はナット42に振動センサ53を取り付けてもよい。この位置で検出した受信信号のウェーブレット画像であっても、空隙Gの位置及び大きさに関する情報が表わされている。