JP6846784B2 - 熱電変換素子、n型有機半導体材料とその製造方法、およびn型有機半導体材料の安定化剤 - Google Patents
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Description
そこで最近になって、熱電変換材料として有機半導体材料を用いることが検討され始めた。そして、p型有機熱電変換材料については有用な材料が幾つか提案されるに至っている。その一方で、n型有機熱電変換材料の提案は非常に少なく、またこれまでに報告されているn型有機熱電変換材料はいずれも熱電特性や大気中での安定性が悪いという問題を抱えている。例えば、n型有機熱電変換材料としてポリ(3,4−エチレンジオキシレンチオフェン):ポリ(4−スチレンスルホン酸)[PEDOT:PSS]がよく知られているが、空気酸化を受けやすいためn型を安定的に維持することが困難であるという問題がある。また、最近になって単層カーボンナノチューブをドーピングしてn型有機熱電変換材料とすることが提案されているが、単層カーボンナノチューブを用いたn型有機熱電変換材料にも同様の問題がある。例えば、樹脂で封入したNaBH4でドーピングした単層カーボンナノチューブ(非特許文献1参照)や、コバルトセンを内包した単層カーボンナノチューブ(非特許文献2参照)が知られているが、前者は1週間程度でp型に変化し、後者は1ヶ月程度でp型に変化してしまうという問題があった(非特許文献3参照)。
カーボンナノチューブ自体はp型を示すため、n型へ変換するためにはドーパントによるドーピングが必要である。しかしながら、ドーピングによりn型へ変換した従来のカーボンナノチューブは、上記のように安定性が悪いという課題がある。この課題を解決するためには、従来とは異なるドーパントによるドーピングを行ったカーボンナノチューブを提案する必要があると考えて、本発明者らはさらに検討を進めた。
[2] 前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブである、[1]に記載の熱電変換素子。
[3] 前記カーボンナノチューブの外表面の少なくとも一部に、前記一般式(1)で表される化合物を有する、[1]または[2]に記載の熱電変換素子。
[4] 前記カーボンナノチューブの外表面の少なくとも一部が、前記一般式(1)で表される化合物を含んでいて厚みが1μm以上である膜で覆われている、[3]に記載の熱電変換素子。
[5] Arが置換もしくは無置換のフェニル基である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
[6] Arが、−Oー基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、1〜3級アミノ基、アルキル基、アリール基、アシルカルボニルオキシ基、ホルメート基および複素環基からなる群より選択される1以上の置換基で置換されているアリール基である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
[7] 前記一般式(1)で表される化合物が、繰り返し単位を有する重合体である、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
[8] 前記繰り返し単位が下記一般式(2)で表される、[7]に記載の熱電変換素子。
[9] Lが単結合である、[8]に記載の熱電変換素子。
[10] 前記n型有機半導体材料が、下記一般式(1’)で表されるカチオンを有するカーボンナノチューブである、[1]〜[9]のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
[11] 前記n型有機半導体材料が、下記一般式(2’)で表されるカチオンを有するカーボンナノチューブである、[1]〜[10]のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
[12] カーボンナノチューブの外表面の少なくとも一部が、上記一般式(1)で表される化合物を含んでいて厚みが1μm以上である膜で覆われているn型有機半導体材料。
[13] カーボンナノチューブを液状媒体中に分散させる工程と、
カーボンナノチューブを、一般式(1)で表される化合物の溶液中に含浸した後に乾燥する工程を含む、n型有機半導体材料の製造方法。
[14] [13]に記載の製造方法により製造されたn型有機半導体材料。
[15] 上記一般式(1)で表される化合物を含有する、n型有機半導体材料の安定化剤。
[16] 前記有機半導体材料がカーボンナノチューブである、[15]に記載の安定化剤。
[17] 前記化合物が溶媒に溶解している、[15]または[16]に記載の安定化剤。
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべて1Hであってもよいし、一部または全部が2H(デューテリウムD)であってもよい。
また、本明細書において「半導体材料」という場合は、その形状は特に制限されず、同じ組成を有するものは形状を問わずにすべて包含される。
また、本明細書において「フィルム」や「膜」という場合は、平面上に広げたときに覆う平面の長手方向の長さがフィルムの厚みの10倍以上であるものを意味する。
log(k/k0) = ρσp
または
log(K/K0) = ρσp
における置換基に特有な定数(σp)である。上式において、kは置換基を持たないベンゼン誘導体の速度定数、k0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の速度定数、Kは置換基を持たないベンゼン誘導体の平衡定数、K0は置換基で置換されたベンゼン誘導体の平衡定数、ρは反応の種類と条件によって決まる反応定数を表す。ハメットのσp値に関する説明と各置換基の数値については、Hansch,C.et.al.,Chem.Rev.,91,165-195(1991)に詳しく記載されている。この文献のσp値に関する説明は本明細書の一部としてここに引用する。
本発明では、カーボンナノチューブに一般式(1)で表される化合物をドープしたn型有機半導体材料を用いる。
そこでまず、本発明で用いる一般式(1)で表される化合物について、詳しく説明する。
R11が採りうる置換基は、アリール基または電子供与性基であることが好ましい。ここでいうアリール基や電子供与性基の説明、具体例、好ましい範囲については、R1およびR2が採りうるアルキル基の置換基に関する上記の説明を参照することができる。
mは0〜2であることが好ましく、0または1であることも好ましい。
ここでいうアルコキシ基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、これらが混在したものであってもよい。好ましいのは直鎖状または分枝状のアルコキシ基であり、より好ましいのは直鎖状のアルコキシ基である。アルコキシ基の炭素数は、通常は1〜20であり、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜3である。アルコキシ基の具体例として、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基などを挙げることができる。
ここでいうアリールオキシ基は、単環からなるものであっても縮合環からなるものであってもよい。縮合環である場合の環数は2〜4であることが好ましく、2〜3であることがより好ましく、2であることがさらに好ましい。アリールオキシ基の炭素数は6〜18であることが好ましく、6〜10であることがより好ましい。例えばフェニルオキシ基、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基、1−アントラセニルオキシ基、2−アントラセニルオキシ基、9−アントラセニルオキシ基、1−フェナントリルオキシ基、2−フェナントリルオキシ基、3−フェナントリルオキシ基、4−フェナントリルオキシ基、9−フェナントリルオキシ基を挙げることができる。
ここでいうアシルオキシ基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、これらが混在したものであってもよい。好ましいのは直鎖状または分枝状のアシルオキシ基であり、より好ましいのは直鎖状のアシルオキシ基である。アシルオキシ基の炭素数は、通常は2〜20であり、好ましくは2〜10、より好ましくは2〜6、さらに好ましくは2〜4である。アシルオキシ基の具体例として、アセチルオキシ基、n−プロピオニルオキシ基、イソプロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基を挙げることができる。
ここでいう1〜3級アミノ基は、−N(R21)(R22)で表される基である。R21とR22は各々独立に水素原子または置換基を表し、置換基としてはアルキル基、アリール基、アシル基が好ましい。ここでいうアルキル基、アリール基、アシル基の説明と具体例と好ましい範囲については,上記のArが採りうるアルキル基、アリール基、アシル基の説明と具体例と好ましい範囲を参照することができる。アミノ基は、1級でも2級でも3級でもよく、3級アミノ基の場合はR21とR22が同一であっても異なっていてもよい。
ここでいうアルキル基、アリール基の説明と具体例と好ましい範囲については、R1およびR2が採りうるアルキル基とアリール基の説明と具体例と好ましい範囲を参照することができる。
ここでいうアシルカルボニルオキシ基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、これらが混在したものであってもよい。好ましいのは直鎖状または分枝状のアシルカルボニルオキシ基であり、より好ましいのは直鎖状のアシルカルボニルオキシ基である。アシルカルボニルオキシ基の炭素数は、通常は3〜20であり、好ましくは3〜10、より好ましくは3〜6である。アシルカルボニルオキシ基の具体例として、アセチルカルボニルオキシ基、n−プロピオニルカルボニルオキシ基、イソプロピオニルカルボニルオキシ基、ベンゾイルカルボニルオキシ基を挙げることができる。
ここでいう複素環基は、単環からなるものであっても縮合環からなるものであってもよい。縮合環である場合の環数は2〜8であることが好ましく、2〜4であることがより好ましく、2または3であることがさらに好ましい。また、縮合環である場合は複素環と芳香環が縮合したものであってもよいし、複素環と脂肪環が縮合したものであってもよいし、複素環のみが縮合したものであってもよい。複素環は複素芳香族環であってもよいし、複素脂肪族環であってもよい。複素環基の環骨格構成原子数は5〜18であることが好ましく、5〜10であることがより好ましい。環骨格構成ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子を好ましい例として挙げることができ、窒素原子をより好ましい例として挙げることができる。複素環基は炭素原子で結合する基であることが好ましい。複素環基の具体例として、2,3−ジヒドロイミダゾリル基、2,3−ジヒドロベンズイミダゾリル基、イミダゾリル基、ベンズイミダゾリル基、ピリジニル基、ピラジニル基、キノリル基、ピロリル基、カルバゾリル基、インドリル基、フリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基を例示することができる。好ましい複素環基として、2,3−ジヒドロベンゾイミダゾール−2−イル基を挙げることができる。また、特に好ましい複素環基としては、一般式(1)において、Arの左側に結合している2,3−ジヒドロベンズイミダゾール構造と左右対称の構造を有する2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イル基を挙げることができる。
アリール基が置換基を有する場合の置換位置は特に制限されないが、例えば、2,3−ジヒドロベンゾイミダゾール環に結合する炭素原子からみてオルト位やパラ位の炭素原子を好ましく例示することができる。置換されている場合の置換基の数は、例えば1〜5とすることができ、1〜3の範囲内であることが好ましく、1〜2の範囲内で選択することがより好ましい。
一般式(2)のR1、R2、R11'の説明、具体例、好ましい範囲については、一般式(1)のR1、R2、R11の説明、具体例、好ましい範囲を参照することができる。また、一般式(2)のAr’の説明、具体例、好ましい範囲については、一般式(1)のArの説明、具体例、好ましい範囲を参照することができる。ただし、一般式(1)のArの説明、具体例、好ましい範囲は1価のアリール基として記載されているが、一般式(2)のAr’に適用する際は2価の対応するアリーレン基として読み替えるものとする。
一般式(2)のLは単結合または連結基を表す。Lが採りうる連結基としては、アルキレン基、アリーレン基、複素環基が好ましい。Lが採りうるアルキレン基は直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、これらが混在したものであってもよい。好ましいのは直鎖状または分枝状のアルキレン基であり、より好ましいのは直鎖状のアルキレン基である。Lが採りうるアルキレン基の炭素数は、通常は1〜20であり、好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6、さらに好ましくは1〜3である。R1およびR2が採りうるアルキレン基の具体例として、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基を挙げることができる。Lが採りうるアリーレン基は単環からなるものであっても縮合環からなるものであってもよい。縮合環である場合の環数は2〜8であることが好ましく、2〜4であることがより好ましく、2または3であることがさらに好ましい。アリーレン基の炭素数は6〜18であることが好ましく、6〜10であることがより好ましい。例えば1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,2−フェニレン基、1,4−ナフチレン基、1,3−ナフチレン基、1,2−ナフチレン基、1,5−ナフチレン基、2,6−ナフチレン基、2,5−ナフチレン基を挙げることができる。Lが採りうる複素環基の説明、具体例、好ましい範囲については、上記の一般式(1)における複素環基の説明、具体例、好ましい範囲を参照することができる。
一般式(1)で表される化合物が、例えば一般式(2)で表されるような重合体である場合、その分子量は、1,000以上とすることが好ましく、5,000以上とすることがより好ましく、10,000以上とすることがさらに好ましい。また、重合体の分子量は、1,000,000以下とすることが好ましく、500,000以下とすることがより好ましく、100,000以下とすることがさらに好ましい。
一般式(1’)におけるR1、R2、R11、m、Arの説明、具体例、好ましい範囲については、一般式(1)におけるR1、R2、R11、m、Arの説明、具体例、好ましい範囲の記載を参照することができる。
一般式(2’)におけるR1、R2、R11'、m’、Ar’、Lの説明、具体例、好ましい範囲については、一般式(2)におけるR1、R2、R11'、m’、Ar’、Lの説明、具体例、好ましい範囲の記載を参照することができる。
本発明で用いるカーボンナノチューブは、炭素原子で構成されるグラフェンシートが単層あるいは多層の同軸円筒状に形成された物質である。単層カーボンナノチューブは、1枚のグラフェンシートが円筒状に形成された構造を有しており、多層カーボンナノチューブは、径が異なる2枚以上のグラフェンシートが同軸円筒状に掲載された構造を有している。本発明では、単一種のカーボンナノチューブを単独で用いてもよいし、複数種のカーボンナノチューブの混合物を用いてもよい。多層カーボンナノチューブを用いる場合は、2〜5層からなるものを用いることが好ましく、2〜3層からなるものを用いることがより好ましく、2層からなるものを用いることがさらに好ましい。また、本発明で用いるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであることが最も好ましい。
本発明で用いるカーボンナノチューブは、通常10nm以上の平均長を有するものを用いることができ、100nm以上の平均長を有するものを用いることが好ましい。また、上限値は5mm以下の平均長を有するものを用いることが好ましく、1mm以下の平均長を有するものを用いることがより好ましい。また、本発明で用いるカーボンナノチューブは、通常0.3nm以上の径を有するものを用いることができ、また、100nm以下の直径を有するものを用いることができる。直径は10nm未満であることが好ましく、5nm未満であることがより好ましく、3nm未満であることがさらに好ましく、2nm未満であることがさらにより好ましい。
本発明で用いるカーボンナノチューブの製法は特に制限されず、通常用いられる製法を適宜選択して採用することができる。また、市販のカーボンナノチューブを購入して用いてもよく、例えば、名城ナノカーボン社製eDIPSを用いることができる。
カーボンナノチューブを一般式(1)で表される化合物でドープすることにより、n型有機半導体材料を得ることができる。このn型有機半導体材料では、カーボンナノチューブの表面に一般式(1)で表される化合物が存在する構造を有する。特に、カーボンナノチューブの外側表面に一般式(1)で表される化合物が存在する構造を有する。なかでも、カーボンナノチューブの外側表面に一般式(1)で表される化合物が膜状(フィルム状)で存在する構造を有することが好ましい。膜(フィルム)は、カーボンナノチューブの外表面の一部または全部を覆うものであるのが好ましく、その被覆率は10%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることがさらにより好ましく、95%以上であることがなおより好ましく、100%であることが特に好ましい。また、膜(フィルム)の厚さは1nm以上とすることができるが、1μm以上にしたり、10μm以上にしたりすることも可能である。
一般式(1)で表される化合物の量は、有機半導体材料がn型を示すようになる量とする。カーボンナノチューブはp型半導体材料であるが、一般式(1)で表される化合物を適用することによりn型半導体材料となる。
このようなn型有機半導体材料は、カーボンナノチューブを一般式(1)で表される化合物と接触させることにより製造することができる。好ましいのは、いったん分散させたカーボンナノチューブを一般式(1)で表される化合物と接触させる方法である。すなわち、カーボンナノチューブを液状媒体中に分散させる工程と、分散後のカーボンナノチューブを一般式(1)で表される化合物の溶液中に含浸した後に乾燥する工程を実施することによりn型有機半導体材料を製造することが好ましい。
カーボンナノチューブの分散は、液状媒体中にカーボンナノチューブを分散させることにより行うことが好ましい。液状媒体としては、水系媒体を用いてもよいし、非水系媒体を用いてもよいし、これらの混合物を用いてもよい。例えば、水、メタノール、エタノール、ベンゼン、トルエン、キシレン、ピリジン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、N−メチル−2−ピロリドンや、これらの混合物を用いることができる。好ましいのは、非水系媒体を用いる場合である。液状媒体中には、液状媒体100重量部に対してカーボンナノチューブを0.1〜20重量部となる量で添加することが好ましく、1〜15重量部となる量で添加することが好ましい。液状媒体中にカーボンナノチューブを添加した後に、攪拌、震盪、超音波照射などを行うことによりカーボンナノチューブを分散させる。好ましいのは超音波照射を行う場合である。超音波照射は30秒〜10時間程度行うことが好ましく、10分〜5時間程度行うことがより好ましい。超音波照射の途中に、液状媒体を追加してもよい。
一般式(1)で表される化合物は、n型有機半導体材料のn型としての安定性を強化する作用を有する。すなわち、一般式(1)で表される化合物を適用することにより、n型としての安定性が強化されたn型有機半導体材料を提供することができる。
本発明のn型有機半導体材料の安定化剤は、このような作用を有する一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする。本発明のn型有機半導体材料の安定化剤は、カーボンナノチューブと一般式(1)で表される化合物の接触を可能にし、一般式(1)で表される化合物とカーボンナノチューブの複合体を形成しうるものであれば、その詳細は特に制限されない。通常は、一般式(1)で表される化合物を溶媒に溶解させた溶液とすることが好ましい。本発明の安定化剤は、カーボンナノチューブが分散した液状媒体中に添加してもよいし、乾燥した分散済みカーボンナノチューブを含浸するために用いてもよい。これらの使用態様にあわせて、溶媒や濃度を適宜選択することができる。なお、これらの使用態様における好ましい溶媒や濃度については、上記のn型有機半導体材料の製造方法における説明を参照することができる。
次に、n型有機半導体材料を含む熱電変換素子について説明する。
熱電変換素子は、第1電極および第2電極と、該第1電極および該第2電極に電気的に接続された熱電変換層を有し、熱電変換層が本発明のn型熱電変換材料を含む。この熱電変換素子は、熱電変換層の両端に温度差を生じさせると熱電変換層中のキャリアが高温側から低温側に移動して第1電極と第2電極の間に電位差(起電力)が発生する。これにより、熱エネルギーが電気エネルギーに変換される。
第1電極および第2電極と熱電変換層とは電気的に接続されていればよく、例えば第1電極および第2電極が、熱電変換層を挟んで上下に設けられた構成であってもよいし、第1電極および第2電極が同一基材上に互いに離間して配設され、これら電極の上に、熱電変換層が設けられた構成であってもよい。以下において、それぞれの構成の熱電変換素子の好ましい構成例について説明する。
図1は、第1実施形態の熱電変換素子を示す概略縦断面図である。
図1に示す熱電変換素子は、放熱板1、第1基材2、第1電極3、熱電変換層4、第2電極5、第2基材6および加熱板7がこの順に積層されて構成されており、第1電極3および第2電極5が熱電変換層4を挟んで上下に設けられた構成の熱電変換素子の例である。
以下、図1に示す熱電変換素子の各部の構成について詳述する。
放熱板1は、熱電変換層4から第1電極3および第1基材2を介して伝達された熱を外部に放熱する。これにより、熱電変換層4の第1電極3に接する側が効率よく冷却され、熱電変換層4の第1電極3側と第2電極5側とで大きな温度勾配を生じさせることができる。
加熱板7および放熱板1には、熱伝導率が高い金属板を用いることができ、アルミニウム、金、銅、銀等の単体、または、これらの金属を含む合金からなる金属板を好適に用いることができる。
第1基材2および第2基材6に用いる材料としては、特に限定されないが、ガラス、透明セラミックス、金属、プラスチックフィルム等を挙げることができ、素子のフレキシブル化に有利であることから、プラスチックフィルムを用いることが好ましい。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−2,6−フタレンジカルボキシレート、ビスフェノールAとイソ及びテレフタル酸のポリエステルフィルム等のポリエステルフィルム、ポリシクロオレフィンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニルスルフィドフィルム等を挙げることができ、入手が容易であることや、耐熱性に優れることから、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、各種ポリイミドやポリカーボネートフィルム等を用いることが好ましい。
基材の厚さは、20〜4000μmであることが好ましく、40〜1100μmであることがより好ましく、90〜1000μmであることがさらに好ましく、150〜900μmであることが特に好ましい。基材の厚さを上記の範囲にすることにより、十分な熱伝導率が得られるとともに熱電変換層を外部の衝撃から保護することができる。
第1基材2および第2基材6の材料および厚さは、同一であっても異なっていてもよい。
第1電極3および第2電極5に用いる電極材料としては、特に限定されないが、ITO(tin-doped Indium Oxide)、ZnO等の透明電極材料、銀、銅、金、アルミニウム等の金属電極材料、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素材料、PEDOT/PSS(Poly(3,4-ethylenedioxythiophene)-poly(styrenesulfonate))等の有機材料、銀、カーボン等の導電性微粒子を分散した導電性ペースト、銀、銅、アルミニウム等の金属ナノワイヤーを含有する導電性ペースト等を挙げることができる。
第1電極3および第2電極5の材料および厚さは、同一であっても異なっていてもよい。
本発明の熱電変換素子では、熱電変換層4が本発明のn型有機半導体材料により構成されている。熱電変換層4は、本発明のn型有機半導体材料のみから構成されていてもよいし、この他の材料を含んでいてもよい。また、熱電変換層4が含む本発明のn型有機半導体材料は、1種類であってもよいし、2種類以上が組み合わされていてもよい。
このとき、本発明の熱電変換素子は、熱電変換層4が本発明のn型有機半導体材料を含むことにより、極めて長時間にわたってn型半導体特性が維持され、優れた高温安定性を得ることができる。
図2は、第2実施形態の熱電変換素子を示す概略縦断面図である。
第2実施形態の熱電変換素子は、放熱板11と、放熱板11の上に設けられた第1基材12と、第1基材12の上に、間隔をあけて配設された第1電極13および第2電極14と、第1電極13の上に設けられたn型熱電変換層15と、第2電極14の上に設けられたp型熱電変換層16と、n型熱電変換層15とp型熱電変換層16の上に架設された第3電極17と、第3電極17の上に設けられた第2基材18と、第2基材18の上に設けられた加熱板19を有して構成されている。この熱電変換素子は、第1電極および第2電極が同一基材上に互いに離間して配設され、これら電極の上に、熱電変換層が設けられた構成の熱電変換素子の例であり、n型熱電変換層15が本発明のn型有機半導体材料を含んでいる。
放熱板11および加熱板19、第1基材12および第2基材18の説明と、これらに用いる材料および厚さの好ましい範囲と具体例については、第1実施形態における放熱板1および加熱板7、第1基材2および第2基材6についての記載を参照することができる。
有機系のp型熱電変換材料としては、ポリアニリン、ポリフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフルオレン、アセチレン、ポリフェニレン等の公知のπ共役高分子等を用いることができる。さらに、単層カーボンナノチューブや多層カーボンナノチューブとアクセプターとを混合したp型半導体材料も用いることができ、特に、高い導電性が得られることから、単層カーボンナノチューブとアクセプターとを混合したp型半導体材料を用いることが好ましい。アクセプターとしては、ヨウ素や臭素などのハロゲン、PF5やAsF5などのルイス酸、塩酸や硫酸などのプロトン酸、FeCl3やSnCl4などの遷移金属ハロゲン化物、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体や2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−p−ベンゾキノン(DDQ)誘導体などの有機の電子受容性物質等の公知の材料を挙げることができ、中でも、カーボンナノチューブとの相溶性や室温での安定性に優れることから、TCNQ誘導体やDDQ誘導体などの有機の電子受容性物質を好適に用いることができる。
また、p型半導体材料としてカーボンナノチューブを利用する場合には、単層カーボンナノチューブや多層カーボンナノチューブの他に、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル、カーボンナノビーズ、グラファイト、グラフェン、アモルファスカーボン等のナノカーボンが含まれてもよい。
一方、無機系のp型熱電変換材料としては、シリコン−ゲルマニウム系、鉄−シリコン系、ビスマス−テルル系、マグネシウム−シリコン系、鉛−テルル系、コバルト−アンチモン系、ビスマス−アンチモン系やホイスラー合金系、ハーフホイスラー合金系などの半導体材料、これらの半導体材料にp型ドーパントを添加した不純物添加半導体材料を挙げることができる。
バインダーとしては、公知のものを用いることができ、例えば、スチレンポリマー、アクリルポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル、エポキシ樹脂、シロキサンポリマー、ポリビニルアルコール、ゼラチン等を挙げることができる。
架橋剤としては、フェネチルトリアルコキシシラン、アミノプロピルトリアルコキシシラン、グリシジルプロピルトリアルコキシラン、テトラアルコキシシランなどのシラン化合物; トリメチロールメラミン、ジ(トリ)アミン誘導体、ジ(トリ)グリシジル誘導体、ジ(トリ)カルボン酸誘導体、ジ(トリ)アクリレート誘導体などの低分子架橋剤、ポリアリルアミン、ポリカルボジイミド、ポリカチオンなどの高分子架橋剤等を挙げることができる。架橋剤を用いることにより、強度の高い熱電変換層を得ることができる。
その他、p型熱電変換層には、必要に応じて、分散剤、界面活性剤、滑り剤、アルミナやシリカなどの増粘剤等を添加してもよい。
このとき、本発明の熱電変換素子は、n型熱電変換層15が本発明のn型有機半導体材料を含むことにより、極めて長時間にわたってn型半導体特性が維持され、優れた高温安定性を得ることができる。
本発明の熱電変換素子を構成する各部の形成方法は特に限定されず、ドライプロセスを用いてもよいし、ウェットプロセスを用いてもよいが、厚い薄膜を短時間で形成できることから、ウェットプロセスを用いることが好ましい。ウェットプロセスに用いる塗布方法としては、例えば、スピンコート、エクストルージョンダイコート、ブレードコート、バーコート、スクリーン印刷、ステンシル印刷、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、ディップコート等の公知の塗布方法を用いることができる。
(1)材料と熱電変換素子の製造
N−メチル−2−ピロリドン(150mL)に単層カーボンナノチューブ(SWNT、15.0 mg、名城ナノカーボン社製eDIPS、直径1.5nm)を加え、2時間超音波照射を行った後、さらにN−メチル−2−ピロリドン(75.0 mL)を加えて1時間超音波照射を行って分散させた。分散液に2−(2−メトキシフェニル)−1,3−ジメチル−2,3−ジヒドロ−1H−ベンゾ[d]イミダゾール(DMBI、30.0mg)を加えて10分間震盪した後、減圧ろ過し、メタノールで洗浄し、さらに減圧乾燥した。得られたシートをDMBI(81.7mg)のエタノール(32.2mL)溶液に10分間含浸した。その後、シートを取り出して室温で一晩減圧乾燥した。乾燥後に得られた材料を、実施例1の材料とした。
また、乾燥後に得られた材料を用いて、シートの一方端に放熱板と電極を取り付け、もう一方端に加熱板と電極を取り付けることにより熱電変換素子を製造した。この熱電変換素子を実施例1の熱電変換素子とした。
実施例1の材料のゼーベック係数を測定器(アルバック理工株式会社製、ZEM−3M10)で測定したところ、320Kにおいて−30.4μV/Kであった。測定は実施例1の熱電変換素子に対して行った。ゼーベック係数が負の値を示したことから、実施例1の材料はn型化されていることが確認された。
また、実施例1の材料のホール効果測定を測定器(東陽テクニカ製、Resitest8400AC)を用いて行ったところ、キャリアが電子であることが確認された。キャリア濃度は5.6×1022cm-3であった。このことからも、実施例1の材料はn型化されていることが確認された。
実施例1の材料の温度をHe雰囲気下で100℃付近まで上げたときのゼーベック係数の変化を測定した。図3に温度とゼーベック係数の関係を示す。図3から明らかなように、実施例1の材料は100℃付近までゼーベック係数がほぼ一定の値を示し、熱耐久性が高いことが確認された。
実施例1の材料を25℃の大気中に放置したときのゼーベック係数の変化を測定した。図4(a)に放置日数とゼーベック係数の関係を示す。比較のために、コバルトセンを内包した単層カーボンナノチューブについても、同じ条件でゼーベック係数の変化を測定し、図4(b)に結果を示した。比較例1の材料は不安定で約40日後にn型からp型へ変換したが、実施例1の材料は90日もの長期にわたってゼーベック係数がほぼ一定であり、大気中でn型を維持し続ける安定なn型半導体有機材料であることが確認された。
実施例1の材料について、X線光電子分光法(X-ray photoelectron Spectroscopy)による分析とレーザー脱離イオン化法による質量分析(TOF−MS)を行った。X線光電子分光法による分析の結果、397eVのNの単結合のピークに加えて、399eV付近にN+のピークが現れることが確認された(図5)。また質量分析では、m/z=252.8にDMBIからヒドリドが脱離して生じるカチオンに由来するピークが現れることが確認された。これらの結果から、DMBIは単層カーボンナノチューブに対してカチオンの状態で安定化し、吸着して存在することが確認された。このことは、DMBIから生じたヒドリドが単層カーボンナノチューブを還元して、単層カーボンナノチューブの表面に還元の結果生じたアニオンと安定なDMBIカチオンが強いクーロン相互作用により結合していることを示唆している。こうして、酸化の影響を受けやすいアニオン部分を安定なカチオンで封じることによって、大気中においても酸化を防ぐことができ、長期にわたる安定性を達成することができたものと考えられる。
実施例1の材料の電気伝導率σと熱伝導率κを測定したところ、電気伝導率σは54500S/mであり、熱伝導率κは24.1W/mKであった。安定化した状態のゼーベック係数Sとして−45.0μV/Kを用いて、320℃における熱電性能ZTの算出を行ったところ1.47×10-3であった。
2、12 第1基材
3、13 第1電極
4 熱電変換層
5、14 第2電極
6、18 第2基材
7、19 加熱板
15 n型熱電変換層
16 p型熱電変換層
17 第3電極
Claims (17)
- 前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブである、請求項1に記載の熱電変換素子。
- 前記カーボンナノチューブの外表面の少なくとも一部に、前記一般式(1)で表される化合物を有する、請求項1または2に記載の熱電変換素子。
- 前記カーボンナノチューブの外表面の少なくとも一部が、前記一般式(1)で表される化合物を含んでいて厚みが1μm以上である膜で覆われている、請求項3に記載の熱電変換素子。
- Arが置換もしくは無置換のフェニル基である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
- Arが、−Oー基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、1〜3級アミノ基、アルキル基、アリール基、アシルカルボニルオキシ基、ホルメート基および複素環基からなる群より選択される1以上の置換基で置換されているアリール基である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
- 前記一般式(1)で表される化合物が、繰り返し単位を有する重合体である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
- Lが単結合である、請求項8に記載の熱電変換素子。
- 請求項13に記載の製造方法により製造された熱電変換素子。
- 前記有機半導体材料がカーボンナノチューブである、請求項15に記載の安定化剤。
- 前記化合物が溶媒に溶解している、請求項15または16に記載の安定化剤。
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