以下、本実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態における画像形成装置1の全体構成を概略的に示す図である。図2は、本実施の形態における画像形成装置1の制御系の主要部を示す。図1、2に示す画像形成装置1は、電子写真プロセス技術を利用した中間転写方式のカラー画像形成装置である。すなわち、画像形成装置1は、感光体ドラム413上に形成されたY(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(ブラック)の各色トナー像を中間転写ベルト421に一次転写し、中間転写ベルト421上で4色のトナー像を重ね合わせた後、用紙Sに二次転写することにより、トナー像を形成する。
また、画像形成装置1には、YMCKの4色に対応する感光体ドラム413を中間転写ベルト421の走行方向に直列配置し、中間転写ベルト421に一回の手順で各色トナー像を順次転写させるタンデム方式が採用されている。
図2に示すように、画像形成装置1は、画像読取部10、操作表示部20、画像処理部30、画像形成部40、用紙搬送部50、定着部60、および制御部101等を備える。
制御部101は、CPU(Central Processing Unit)102、ROM(Read Only Memory)103、RAM(Random Access Memory)104等を備える。CPU102は、ROM103から処理内容に応じたプログラムを読み出してRAM104に展開し、展開したプログラムと協働して画像形成装置1の各ブロックの動作を集中制御する。このとき、記憶部72に格納されている各種データが参照される。記憶部72は、例えば不揮発性の半導体メモリ(いわゆるフラッシュメモリ)やハードディスクドライブで構成される。
制御部101は、通信部71を介して、LAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)等の通信ネットワークに接続された外部の装置(例えばパーソナルコンピューター)との間で各種データの送受信を行う。制御部101は、例えば、外部の装置から送信された画像データを受信し、この画像データ(入力画像データ)に基づいて用紙Sにトナー像を形成させる。通信部71は、例えばLANカード等の通信制御カードで構成される。
画像読取部10は、ADF(Auto Document Feeder)と称される自動原稿給紙装置11および原稿画像走査装置12(スキャナー)等を備えて構成される。
自動原稿給紙装置11は、原稿トレイに載置された原稿Dを搬送機構により搬送して原稿画像走査装置12へ送り出す。自動原稿給紙装置11は、原稿トレイに載置された多数枚の原稿Dの画像(両面を含む)を連続して一挙に読み取ることができる。
原稿画像走査装置12は、自動原稿給紙装置11からコンタクトガラス上に搬送された原稿またはコンタクトガラス上に載置された原稿を光学的に走査し、原稿からの反射光をCCD(Charge Coupled Device)センサー12aの受光面上に結像させ、原稿画像を読み取る。画像読取部10は、原稿画像走査装置12による読取結果に基づいて入力画像データを生成する。この入力画像データには、画像処理部30において所定の画像処理が施される。
操作表示部20は、例えばタッチパネル付の液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)で構成され、表示部21および操作部22として機能する。表示部21は、制御部101から入力される表示制御信号に従って、各種操作画面、画像の状態表示、各機能の動作状況等の表示を行う。操作部22は、テンキー、スタートキー等の各種操作キーを備え、ユーザーによる各種入力操作を受け付けて、操作信号を制御部101に出力する。
画像処理部30は、入力画像データに対して、初期設定またはユーザー設定に応じたデジタル画像処理を行う回路等を備える。例えば、画像処理部30は、制御部101の制御下で、階調補正データ(階調補正テーブル)に基づいて階調補正を行う。また、画像処理部30は、入力画像データに対して、階調補正の他、色補正、シェーディング補正等の各種補正処理や、圧縮処理等を施す。これらの処理が施された画像データに基づいて、画像形成部40が制御される。
画像形成部40は、入力画像データに基づいて、Y成分、M成分、C成分、K成分の各有色トナーによる画像を形成するための画像形成ユニット41Y、41M、41C、41K、中間転写ユニット42等を備える。
Y成分、M成分、C成分、K成分用の画像形成ユニット41Y、41M、41C、41Kは、同様の構成を有する。図示及び説明の便宜上、共通する構成要素は同一の符号で示し、それぞれを区別する場合には符号にY、M、C、又はKを添えて示す。図1では、Y成分用の画像形成ユニット41Yの構成要素についてのみ符号が付され、その他の画像形成ユニット41M、41C、41Kの構成要素については符号が省略されている。
画像形成ユニット41は、露光装置411、現像装置412、感光体ドラム413、帯電装置414、およびドラムクリーニング装置415等を備える。
感光体ドラム413は、例えばアルミニウム製の導電性円筒体(アルミ素管)の周面に、アンダーコート層(UCL:Under Coat Layer)、電荷発生層(CGL:Charge Generation Layer)、電荷輸送層(CTL:Charge Transport Layer)を順次積層した負帯電型の有機感光体(OPC:Organic Photo-conductor)である。電荷発生層は、電荷発生材料(例えばフタロシアニン顔料)を樹脂バインダー(例えばポリカーボネイト)に分散させた有機半導体からなり、露光装置411による露光により一対の正電荷と負電荷を発生する。電荷輸送層は、正孔輸送性材料(電子供与性含窒素化合物)を樹脂バインダー(例えばポリカーボネイト樹脂)に分散させたものからなり、電荷発生層で発生した正電荷を電荷輸送層の表面まで輸送する。
制御部101は、感光体ドラム413を回転させる駆動モーター(図示略)に供給される駆動電流を制御することにより、感光体ドラム413を一定の周速度で回転させる。
帯電装置414は、光導電性を有する感光体ドラム413の表面を一様に負極性に帯電させる。露光装置411は、例えば半導体レーザーで構成され、感光体ドラム413に対して各色成分の画像に対応するレーザー光を照射する。感光体ドラム413の電荷発生層で正電荷が発生し、電荷輸送層の表面まで輸送されることにより、感光体ドラム413の表面電荷(負電荷)が中和される。感光体ドラム413の表面には、周囲との電位差により各色成分の静電潜像が形成される。
現像装置412は、例えば二成分現像方式の現像装置であり、感光体ドラム413の表面に各色成分のトナーを付着させることにより静電潜像を可視化してトナー像を形成する。
ドラムクリーニング装置415は、感光体ドラム413の表面に摺接されるドラムクリーニングブレード等を有し、一次転写後に感光体ドラム413の表面に残存する転写残トナーを除去する。
中間転写ユニット42は、中間転写ベルト421、一次転写ローラー422、複数の支持ローラー423、二次転写ローラー424、及びベルトクリーニング装置426等を備える。
中間転写ベルト421は、無端状ベルトで構成され、複数の支持ローラー423にループ状に張架される。複数の支持ローラー423のうちの少なくとも1つは駆動ローラーで構成され、その他は従動ローラーで構成される。例えば、K成分用の一次転写ローラー422よりもベルト走行方向下流側に配置されるローラー423Aが駆動ローラーであることが好ましい。これにより、一次転写部におけるベルトの走行速度を一定に保持しやすくなる。駆動ローラー423Aが回転することにより、中間転写ベルト421は矢印A方向に一定速度で走行する。
一次転写ローラー422は、各色成分の感光体ドラム413に対向して、中間転写ベルト421の内周面側に配置される。中間転写ベルト421を挟んで、一次転写ローラー422が感光体ドラム413に圧接されることにより、感光体ドラム413から中間転写ベルト421へトナー像を転写するための一次転写ニップが形成される。
二次転写ローラー424は、駆動ローラー423Aのベルト走行方向下流側に配置されるバックアップローラー423Bに対向して、中間転写ベルト421の外周面側に配置される。中間転写ベルト421を挟んで、二次転写ローラー424がバックアップローラー423Bに圧接されることにより、中間転写ベルト421から用紙Sへトナー像を転写するための二次転写ニップが形成される。
一次転写ニップを中間転写ベルト421が通過する際、感光体ドラム413上のトナー像が中間転写ベルト421に順次重ねて一次転写される。具体的には、一次転写ローラー422に一次転写バイアスを印加し、中間転写ベルト421の裏面側(一次転写ローラー422と当接する側)にトナーと逆極性の電荷を付与することにより、トナー像は中間転写ベルト421に静電的に転写される。
その後、用紙Sが二次転写ニップを通過する際、中間転写ベルト421上のトナー像が用紙Sに二次転写される。具体的には、二次転写ローラー424に二次転写バイアスを印加し、用紙Sの裏面側(二次転写ローラー424と当接する側)にトナーと逆極性の電荷を付与することにより、トナー像は用紙Sに静電的に転写される。トナー像が転写された用紙Sは定着部60に向けて搬送される。
ベルトクリーニング装置426は、中間転写ベルト421の表面に摺接するベルトクリーニングブレード等を有し、二次転写後に中間転写ベルト421の表面に残留する転写残トナーを除去する。なお、二次転写ローラー424に代えて、二次転写ローラーを含む複数の支持ローラーに、二次転写ベルトがループ状に張架された構成(いわゆるベルト式の二次転写ユニット)を採用してもよい。
定着部60は、用紙Sの定着面(トナー像が形成されている面)側に配置される定着面側部材を有する上側定着部60A、用紙Sの裏面(定着面の反対の面)側に配置される裏面側支持部材を有する下側定着部60B、及び加熱源60C等を備える。定着面側部材に裏面側支持部材が圧接されることにより、用紙Sを狭持して搬送する定着ニップが形成される。定着部60および制御部101は、本発明の定着装置に対応する。
定着部60は、トナー像が二次転写され、搬送されてきた用紙Sを定着ニップで加熱、加圧することにより、用紙Sにトナー像を定着させる。定着部60は、定着器すなわち筐体F内にユニットとして配置される。
用紙搬送部50は、給紙部51、排紙部52および搬送経路部53等を備える。給紙部51を構成する3つの給紙トレイユニット51a〜51cには、坪量やサイズ等に基づいて識別された用紙S(規格用紙、特殊用紙)が予め設定された種類ごとに収容される。搬送経路部53は、レジストローラー対53a等の複数の搬送ローラー対を有する。
給紙トレイユニット51a〜51cに収容されている用紙Sは、最上部から一枚ずつ送出され、搬送経路部53により画像形成部40に搬送される。このとき、レジストローラー対53aが配設されたレジストローラー部により、給紙された用紙Sの傾きが補正されるとともに搬送タイミングが調整される。そして、画像形成部40において、中間転写ベルト421のトナー像が用紙Sの一方の面に一括して二次転写され、定着部60において定着工程が施される。画像形成された用紙Sは、排紙ローラー52aを備えた排紙部52により機外に排紙される。
次に、定着部60の構成についてより詳しく説明する。
上側定着部60Aは、定着面側部材である無端状の定着ベルト61、加熱ローラー62、および上加圧ローラー63を有する(ベルト加熱方式)。定着ベルト61は、加熱ローラー62と上加圧ローラー63とに所定のベルト張力(例えば、400N)で張架されている。
定着ベルト61は、例えばPI(ポリイミド)からなる基体の外周面を弾性層として耐熱性のシリコンゴムで被覆し、さらに、表層に耐熱性樹脂であるPFA(パーフルオロアルコキシ)のチューブを被覆またはコーティングをしてなる。
定着ベルト61は、トナー像が形成された用紙Sに接触して、当該トナー像を用紙Sに定着許容温度範囲で加熱定着する。ここで、定着許容温度範囲とは、用紙S上のトナーを溶融するのに必要な熱量を供給しうる温度であり、画像形成される用紙Sの紙種等によって異なる。
加熱ローラー62は、定着ベルト61を加熱する。加熱ローラー62は、定着ベルト61を加熱する加熱源60Cを内蔵している。加熱ローラー62は、例えば、ハロゲンヒーターであり、アルミニウム等から形成された円筒状の芯金における外周面をPTFEでコーティングした樹脂層で被覆された構成である。
加熱源60Cの温度は、制御部101によって制御される。加熱源60Cによって加熱ローラー62が加熱され、その結果、定着ベルト61が加熱される。
上加圧ローラー63は、例えば鉄等の金属から形成された中実の芯金を、弾性層で被服したものである。弾性層の材質として、例えば、耐熱性のシリコンゴムを用いることができる。また、弾性層として、耐熱性のシリコンゴムを、低摩擦で耐熱性樹脂であるPTFEでコーティングした樹脂層で被覆した構成とすることができる。上加圧ローラー63は、定着ベルト61を介して下加圧ローラー64に圧接される。
上加圧ローラー63は、モーターやギアなどの不図示のアクチュエーターに接続され、当該モーターの駆動力が上加圧ローラー63に伝達されるようになっている。制御部101は、かかる上加圧ローラー63を駆動するモーターに駆動信号を出力して、上加圧ローラー63の周速度を制御する。
下側定着部60Bは、裏面側支持部材である下加圧ローラー64を有する(ローラー加圧方式)。下加圧ローラー64は、PI(ポリイミド)からなる基材層の外周面を弾性層で被服したものである。弾性層の材質として、例えば、耐熱性のシリコンゴムを用いることができる。また、弾性層として、耐熱性のシリコンゴムを、表面離型層としてPFAチューブの樹脂層で被覆した構成とすることができる。
下加圧ローラー64には、ハロゲンヒーター等の加熱源が内蔵されている。この加熱源が発熱することにより、下加圧ローラー64は加熱される。制御部101は、加熱源に供給する電力を制御し、下加圧ローラー64を所定温度に制御する。
下加圧ローラー64は、定着ベルト61を介して上加圧ローラー63に所定の定着荷重で圧接される。このようにして、上加圧ローラー63および定着ベルト61と下加圧ローラー64との間には、用紙Sを狭持して搬送する定着ニップNPが形成される。
定着部60において、上側定着部60A、下側定着部60Bおよび加熱源60Cは、定着ニップNPで用紙Sを加熱、加圧しながら搬送することにより、未定着のトナー像を用紙S上に定着させる。
ところで、使用される用紙Sがラベル紙である場合、かかるラベル紙が定着ニップNPを通過する際、当該定着ニップNPによる加圧力が大きく、また、加熱によってラベル紙の糊が軟化するため、当該ラベル紙の端部から糊がはみ出てしまう場合があった。この場合、はみ出した糊が定着ニップNPを形成する定着部材(この例では定着ベルト61および下加圧ローラー64)に付着して当該定着部材を汚してしまうという問題があった。
また、従来、定着装置では、同一サイズの用紙Sを多量に通紙すると、用紙Sの端部(エッジ)が常に定着部材の同一位置に接してしまうため、定着部材における当該箇所に傷が発生し、それ以降は定着部材の傷により画像に傷が付いてしまうという問題が知られている。
この問題に対処するために、定着装置を用紙搬送方向と直交方向に揺動することにより用紙エッジが定着ローラーと当接する位置を常に変化させるようにした定着装置および画像形成装置が開発されている。他方、このように揺動させる構成では、用紙Sのエッジによる傷の発生を緩和することはできても、傷の発生を全く無くすことはできず、また、厚紙を多量に通紙したような場合には、かかる厚紙のエッジによって傷が発生してしまう虞がある。
そこで、本実施の形態では、定着ニップNPを形成する定着面側部材および裏面側支持部材の少なくとも一方を用紙の搬送方向に直交する用紙幅方向に移動させることにより、当該用紙幅方向における定着ニップの長さを変更するニップ長さ変更部を設けた。そして、本実施の形態では、印刷ジョブの実行時に、用紙幅方向における用紙の両端部が定着ニップNPを通過しないように、ニップ長さ変更部を制御部100で制御する。
具体的には、ニップ長さ変更部は、裏面側支持部材である下加圧ローラー64を、かかるローラーの軸方向に往復移動可能な構成として、定着ニップNPの長さを調整する調整機構を設けた。そして、制御部101は、用紙Sの幅などの画像形成条件に応じて定着ニップNPの軸方向長さを変えるように、かかる調整機構を制御する。
より具体的には、制御部101は、画像形成条件として、裏面に糊を被覆した剥離シートを基材の上に付着させたラベル紙を通紙する場合に、定着ニップNPの長さを、かかるラベル紙の幅よりも短くするように、調整機構を制御して下加圧ローラー64を移動させる。
図3に、ニップ長さ変更部としての調整機構の一例を示す。以下、簡明のため、図3および後述する図4等では定着ベルト61の図示を省略している。
本実施の形態の調整機構は、下加圧ローラー64の軸に設けられたギア64aと、かかるギア64aに噛み合う歯車65aを有するモーター65とを備えて構成される。かかる調整機構では、モーター65の歯車65aが回転すると、下加圧ローラー64が図3に両矢印で示す軸方向に往復移動し、上加圧ローラー63および定着ベルト61(図示略)と下加圧ローラー64とにより形成される定着ニップNPの軸方向の長さ(以下、ニップ長さともいう。)が可変される。この調整機構では、下加圧ローラー64の図3中の左側端部が上加圧ローラー63および定着ベルト61の図3中の中央側まで移動できるように、下加圧ローラー64の軸が筐体F内で支持されている。
また、この調整機構では、後述するクリーニング時に、下加圧ローラー64の図3中の右側端部が、上加圧ローラー63および定着ベルト61の図3中の左側端部まで移動できるように(図6参照)、下加圧ローラー64の軸が筐体F内で支持されている。
図3では、下加圧ローラー64が初期位置(ホームポジション)にある状態を示し、定着ニップNPのニップ長さが最大値すなわち下加圧ローラー64の軸方向の幅と略同一の長さを有している。この状態から制御部101によってモーター65に駆動信号が出力されると、歯車65aが時計方向に回転し、下加圧ローラー64が軸方向に沿って図3中の右側に移動することにより、定着ニップNPのニップ長さが小さくなる。また、下加圧ローラー64が右側に移動した状態から制御部101によってモーター65に駆動信号が出力されると、歯車65aが反時計方向に回転し、下加圧ローラー64が軸方向に沿って図3中の左側に移動することにより、定着ニップNPのニップ長さが大きくなる。
ホームポジションからの下加圧ローラー64の停止位置すなわちモーター65の回転数に関して、制御部101は、印刷ジョブ実行時に取得される用紙情報や入力画像情報に応じて決定する。ここで、用紙情報には、用紙の種類(ラベル紙、通常紙、など)、用紙のサイズ(幅、長さ、厚さまたは坪量)を示す情報が含まれる。また、画像情報には、用紙上に印字されるトナー像の位置を示す情報が含まれる。
かかる構成の定着装置によれば、用紙情報(用紙の種類およびサイズ)や画像情報(トナー像の幅や用紙上の位置)に応じてニップ長さを自由に可変して通紙できるようになる。なお、制御部101は、未定着のトナー像が形成されている用紙を通紙する場合、用紙の種類等に関わらず、定着ニップNPの長さを、当該用紙に形成されているトナー像の幅(画像幅)よりも長くするように、調整機構を制御する。
また、この定着装置によれば、図4に示すように、用紙としてラベル紙Pを通紙する場合に、ニップ長さNPLを、用紙の幅W未満かつ用紙上に形成された画像(トナー像)の幅IW以上に設定して通紙することにより、ラベル紙Pの端部から糊がはみ出すことを防止することができる。以下、ラベル紙Pを通紙する場合の動作等を、より詳しく説明する。
図5Aはラベル紙Pを定着ニップNPに通過させている状態を示しており、ラベル紙Pの上面にハッチングで示す部分がトナー像の形成された領域を示す。また、図5Bは、図5Aにおける搬送方向上流側から見た部分拡大図であり、軸方向における図5A中の右側の領域を抽出して示している。ここで、ラベル紙Pは、離型材を塗布した基材P1の上に、糊P2を被覆した剥離シートP3を付着させたものである。
図4および図5Aに示すように、ラベル紙Pを通紙する場合、制御部101は、ニップ長さNPLが該ラベル紙Pの幅W未満かつラベル紙Pに形成されたトナー像の幅IW以上となるように、上述した調整機構を制御する。かかる制御を行うことで、定着ニップNPにより、ラベル紙Pのトナー像の部分が押圧される一方で、トナー像が形成されていない両端側の余白部分が押圧されなくなる。
この結果、基材P1と剥離シートP3の間にある糊P2は、図5Bに示すように、ラベル紙Pにおける幅方向の端部(両端側)に溜められ、ラベル紙Pから糊P2がはみ出すことを防止することができる。また、定着ニップNPによってラベル紙Pの幅方向端部が押圧されないので、同一サイズのラベル紙Pを多量に通紙する場合でも、かかる端部によって定着部材(この例では定着ベルト61および下加圧ローラー64)に傷が付くことを防止することができる。
以下、ラベル紙Pを通紙する場合のニップ長さNPLを設定するための制御例について、より詳しく説明する。
一般に、ラベル紙Pは、用紙の厚さに応じて糊P2の量が異なり、用紙が厚いほど糊P2の量も多くなる。このため、ラベル紙Pの厚さが異なれば、糊P2が端部(両端)からはみ出さないようにするための端部の条件、すなわち必要となるニップ長さNPLも異なってくる。
例えば、ラベル紙Pの厚さが200μm、幅が297mmである場合、ラベル紙Pの両端部にニップされない長さ(以下、余白という。)がそれぞれ5mmあれば、その各5mmの領域に糊P2を留めておくことが可能である。言い換えると、かかるサイズのラベル紙Pを定着ニップNPに通紙する場合、制御部101は、ニップ長さNPLが287mmとなるように、上述した調整機構を制御する。下記の表1に、糊P2が用紙からはみ出すことなく、ラベル紙P内に留まる両端部の余白を、用紙の厚さとの関係で示す。
したがって、制御部101は、定着ニップNPにラベル紙Pを通過させる場合、上記のテーブルを用いてニップ長さNPLを決定し、上述した調整機構を制御する。かかる制御により、ラベル紙Pの厚さが100μm以下であれば用紙端部に各々3mmずつ、101μm以上300μm以下であれば用紙端部に各々5mmずつ、300μmを超えれば用紙端部に各々7mmずつのニップされない余白の領域が形成され、かかる余白の領域に糊P2を留めておくことができる。一例として、ラベル紙Pの厚さが100μmの場合、かかるラベル紙Pの用紙幅によって、必要となるニップ長さNPLを下記表2に示す。
制御部101は、このように、ラベル紙Pの厚さおよび幅に対応したニップ長さNPLを規定したテーブルを用いて調整機構を制御することにより、処理速度を向上させることができる。
ところで、図3で例示した調整機構では、ラベル紙Pを通紙する場合に、下加圧ローラー64が図3に示すホームポジションからラベル紙Pのサイズ(幅および厚さ)に応じて図3の右側に移動する構成であるため、下加圧ローラー64の軸方向の右側よりも左側の領域の方が摩耗等しやすくなる。また、定着ベルト61における軸方向の左側よりも右側の領域の方が摩耗等しやすくなる。言い換えると、下加圧ローラー64における軸方向の左側の領域と、定着ベルト61における軸方向の右側の領域は、定着ニップNPの形成に寄与しない領域となる。
また、ラベル紙Pの通紙枚数によっては、異物(紙粉や糊汚れなど)により、クリーニングを要する程度に定着ベルト61等に汚れが蓄積されることが考えられる。
そこで、制御部101は、定着部材の耐久性確保およびクリーニングのため、ラベル紙Pの厚さと通紙枚数に応じて、非画像形成時に、後述のようにニップの形成位置を変えて非通紙で定着部材を駆動した後、下加圧ローラー64をホームポジションに戻して白紙通紙によるクリーニングを実施する制御を行う。
この場合、ラベル紙Pの厚さや通紙枚数によって定着部材(定着ベルト61および下加圧ローラー64)に与える影響が異なるため、制御部101は、かかるクリーニング等を実施するタイミングを規定したテーブルを用いるようにする。かかるタイミングを規定したテーブルの例を、下記の表3に示す。
制御部101は、表3のテーブルを用いて、上記の通紙枚数に達すると、上加圧ローラー63を駆動するモーターに駆動信号を出力して上加圧ローラー63を回転させながら、図3の状態から下加圧ローラー64を左側に移動させるようにモーター65に駆動信号を出力する。かかる制御により、定着ベルト61の右側および下加圧ローラー64の左側の端部領域同士が回転しながら当接し(図6参照)、定着ニップNPの形成に寄与しない側、言い換えると相対的に使用されなくなる側の端部でニップが形成される。この動作により、ニップ形成された定着ベルト61の右側および下加圧ローラー64の左側の端部領域の使用時間や使用状態を、定着ニップNPの形成に寄与する側と同等にすることができ、また、上述した異物の一部がニップ形成された部分で除去される。
この後、制御部101は、下加圧ローラー64をホームポジションに戻すようにモーター65に駆動信号を出力し、下加圧ローラー64がホームポジションに戻ると、かかる定着ニップNPに白紙の用紙Sを通紙するように各部を制御する。かかる制御により、下加圧ローラー64および定着ベルト61に残存している異物が除去される。
ところで、上述のように定着ニップNPのニップ長さを可変にする構成とした場合、用紙の両端および画像形成領域を定着ニップNPの位置に合わせるために、用紙を幅方向に移動させるための機構等が必要となり得る。
例えば、上述した調整機構(ニップ長さ変更部)の構成では、印刷動作時に下加圧ローラー64が図3の右側に移動するため、定着ニップNPの右端の位置は変化しないが、定着ニップNPの左端の位置はホームポジションの場合と比べて右側にシフトする。このため、用紙の搬送経路が用紙の左端基準の場合には、用紙を搬送すべき位置(定着ニップNPまでの経路)が変わることになり、用紙の画像形成領域を定着ニップNPに正確に突入させるための構成が必要となる。
そこで、本実施の形態では、図7に示すように、定着部60の筐体F全体を定着部材の軸方向に沿って往復移動させるための筐体移動機構(「ニップ位置変更部」に対応する)を設けている。
かかる筐体移動機構は、筐体Fに固定され、定着部材の軸方向に沿って筐体Fから突出するように設けられた固定軸81と、かかる固定軸81に駆動力を伝達するモーター82とを備える。ここで、固定軸81には上述したギア64aと同様のギア81aが設けられ、モーター82の軸にはギア81aに噛み合う歯車82aが設けられている。また、筐体Fの下方には、固定軸81の方向に沿って筐体Fを移動(スライド)可能に支持する定着架台83が設けられている。
かかる筐体移動機構では、モーター82の歯車82aが正逆方向に回転すると、固定軸81とともに筐体Fが定着架台83上で往復移動する(図7の両矢印参照)。そして、制御部101からモーター82に駆動信号を出力することで、用紙が突入される筐体Fの開口部84が、図7に両矢印で示す軸方向に移動する。かかる動作により、筐体F内の定着部材すなわち定着ニップNPを形成する下加圧ローラー64および定着ベルト61等が軸方向に同時に(同方向に)移動する。したがって、かかる構成によれば、定着ニップNPの長さの変更量に応じて、突入される用紙に対する定着ニップNPの軸方向の位置を変えることができ、用紙の画像形成領域や端部(エッジ)を定着ニップNPに正確に位置合わせして突入させることが可能となる。
また、他の構成例として、用紙搬送方向における定着部60の上流側の用紙搬送ガイドが用紙幅方向に移動するガイド移動機構を設け、用紙上のトナー像が定着ニップNPを通過するように、制御部101によって用紙搬送ガイドを移動させる制御を行ってもよい。かかるガイド移動機構は、アクチュエーター等により用紙搬送ガイドを移動させる公知の機構を用いればよい。かかる構成により、定着ニップNPの長さの変更量に応じて、定着部60の幅(軸)方向に対する用紙の相対的な位置を定着部60の上流側で変えることができ、用紙の画像形成領域等を定着ニップNPに正確に位置合わせして突入させることが可能となる。
上述した筐体移動機構やガイド移動機構を用いて用紙を定着ニップNPに通過させる場合の制御について、図8を参照してより具体的に説明する。
図8Aは、下加圧ローラー64をホームポジションとして通紙する場合を示している。この場合、定着ニップ長さNPLは、最大幅すなわち下加圧ローラー64の軸方向長さと略同一になる。ここで、ラベル紙P以外の用紙Sを通紙する場合、用紙幅Wが定着ニップ長さNPLの最大幅と略同一のものまで通紙することができる。他方、ラベル紙Pを通紙する場合、糊P2を端部からはみ出さないようにするために、上述のように定着ニップ長さNPLを用紙幅Wよりも小さい値とする必要がある。
図8Bおよび図8Cは、搬送経路が用紙左端基準の場合において、図8Aに示す用紙Sよりも幅の狭いラベル紙Pを定着ニップNPに通紙する場合を示している。ここで、図8Bはラベル紙Pの通紙の際に、上述した調整機構(ニップ長さ変更部)を制御して下加圧ローラー64を移動させるとともに、ガイド移動機構を制御して用紙搬送ガイドを移動させて、定着ニップNPの上流側で用紙を幅方向右側に移動させて搬送する場合を示す。
他方、図8Cは、調整機構(ニップ長さ変更部)を制御して下加圧ローラー64を移動させるとともに、筐体移動機構(ニップ位置変更部)を制御して筐体Fを移動させる場合を示す。図8Bと比較して分かるように、この場合には、ラベル紙Pの搬送経路を変えること無く、ラベル紙Pの画像形成領域を定着ニップNPに突入させて定着を行えることが分かる。
次に、図9のフローチャートを参照して、本実施の形態の画像形成装置1でラベル紙Pに印刷する場合の処理の流れを説明する。なお、図9では、複数枚のラベル紙Pにトナー像を印刷する印刷ジョブを処理する場合の例を示す。
ラベル紙Pに印刷する旨の印刷ジョブを受信した制御部101は、印刷するトナー像の用紙上の位置(画像幅IW等)と、ラベル紙Pのサイズ(厚さおよび幅)を解析し(ステップS1)、定着ニップ長さNPLの調整が必要か否かについて判定する(ステップS2)。
具体的には、ステップS2において、制御部101は、現在の下加圧ローラー64の位置により定められる定着ニップ長さNPLが、ラベル紙Pに形成されるトナー像の画像幅IW(図4参照)以上の値になっているか否かを判断する。また、制御部101は、表1で上述したテーブルを参照して、現在の定着ニップ長さNPLが、ラベル紙Pの用紙厚さに対応した[ラベル紙Pの用紙幅−定着ニップ長さNPL]の値を確保しているか否かを判断する。
そして、制御部101は、現在の定着ニップ長さNPLが、トナー像の画像幅IW以上の値になっていない(すなわち画像幅IW未満である)場合、定着ニップ長さNPLの調整が必要であると判定する(ステップS2、YES)。また、制御部101は、現在の定着ニップ長さNPLが、ラベル紙Pの用紙厚さに対応した[ラベル紙Pの用紙幅−定着ニップ長さNPL]の値を確保していない場合、定着ニップ長さNPLの調整が必要であると判定する(ステップS2、YES)。
他方、制御部101は、現在の定着ニップ長さNPLが、画像幅IW以上の値になっており、かつ、ラベル紙Pの用紙厚さに対応した[ラベル紙Pの用紙幅−定着ニップ長さNPL]の値を確保している場合、定着ニップ長さNPLの調整は必要でないと判定する(ステップS2、NO)。この場合、制御部101は、以下のステップS3の制御を行うことなく、ステップS4に移行する。
定着ニップ長さNPLの調整が必要であると判定された(ステップS2、YES)後のステップS3において、制御部101は、下加圧ローラー64を軸方向に移動させるように、上述した調整機構を制御する。具体的には、制御部101は、定着ニップ長さNPLが画像幅IWよりも大きな値になり、かつ、ラベル紙Pの用紙厚さに対応した[ラベル紙Pの用紙幅−定着ニップ長さNPL]の値を満たす位置に下加圧ローラー64を移動させるように、調整機構のモーター65に駆動信号を出力する。
ステップS4において、制御部101は、用紙(この例ではラベル紙P)への印刷動作を開始するように各部を制御する。このとき、制御部101は、ラベル紙Pの画像形成領域を定着ニップNPに正確に突入させるために、上述した筐体移動機構(またはガイド移動機構)を制御する。
ステップS5において、制御部101は、印刷ジョブが終了したか否かを判定する。制御部101は、印刷ジョブが終了していない(ステップS5、NO)と判定した場合、ステップS1に戻り、次のラベル紙Pへの印刷処理を行うために、上述したステップS1〜ステップS5の処理を繰り返し行う。他方、制御部101は、印刷ジョブが終了した(ステップS5、YES)と判定した場合、ステップS6で下加圧ローラー64、用紙ガイドまたは筐体Fを初期位置(ホームポジション)に戻す制御を行った後に、一連の処理を終了する。
上述した説明では、記録材としてラベル紙Pを通紙する場合に定着ニップNPのニップ長さNPLを可変に制御する例を述べた。他方、記録材としてラベル紙P以外の用紙Sを通紙する場合であっても、同様の制御を行うことができる。この場合、制御部101は、印刷ジョブにおける印刷枚数情報、用紙幅情報、入力画像データ等を参照して、同一サイズの用紙Sを多量(予め定められた所定枚数以上)に通紙する場合、ニップ長さNPLが該用紙の幅W未満かつ用紙に形成されるトナー像の幅IW以上となるように、上述した調整機構(ニップ長さ変更部)や筐体移動機構(ニップ位置変更部)等を制御する。かかる制御を行うことにより、用紙Sの幅方向端部が定着ニップNPの外側に位置した状態で定着処理が行われ、用紙Sの幅方向端部が定着ニップNPで押圧されなくなる。このため、同一サイズの用紙Sの端部によって定着ベルト61や下加圧ローラー64に傷が付く問題を解消することができる。
また、上述したクリーニング時の制御も、ラベル紙P以外の用紙Sを所定枚数以上通紙した場合に行ってもよい。
上述した実施の形態では、定着ニップNPを形成する部材のうちの下側の部材、すなわち、下加圧ローラー64を軸方向に往復移動させる構成を例示したが、この逆すなわち定着ニップNPを形成する部材のうちの上側の部材を軸方向に往復移動させる構成としてもよい。この場合、例えば定着部60の筐体Fの内の上側定着部60A側の筐体のみを、図7で説明した筐体移動機構と同様の機構により移動させる構成とすればよい。
さらに、上述した構成により、定着ニップNPを形成する一対の定着部材を各々独立して軸方向に移動可能としてもよく、この場合、制御部101により、定着ニップNPの幅方向の両端側の位置を調整できるので、上述した筐体移動機構やガイド移動機構が不要となる。
上述した実施の形態では、定着ニップNPを形成する部材として、上側は定着ベルト61および上加圧ローラー63を用い、下側は下加圧ローラー64を用いる構成とした。他の構成例として、上加圧ローラー63に変えて回転不能なパッド部材を備えた構成としてもよい。他にも、定着ベルト61を用いない定着ローラー方式や、下側に定着ベルトを用いる下ベルト方式など、種々の方式の定着装置に適用することができる。
上述した実施の形態では、記録材(用紙Sまたはラベル紙P)がカット紙である場合の構成について説明した。他方、本発明は、記録材として長尺のロール紙を使用する画像形成装置にも適用可能である。この場合、上述したクリーニングを行うタイミングを規定した表3のテーブルに規定される「通紙枚数」の値は、かかる枚数分の用紙長さに対応する「搬送距離」の値とすればよい。
上述した実施の形態および変形例は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその要旨、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。