以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。本発明に係る液体を吐出する装置の一例について図1及び図2を参照して説明する。図1は同装置の要部平面説明図、図2は同装置の要部側面説明図である。
この装置は、シリアル型装置であり、主走査移動機構493によって、キャリッジ403は主走査方向に往復移動する。主走査移動機構493は、ガイド部材401、主走査モータ405、タイミングベルト408等を含む。ガイド部材401は、左右の側板491A、491Bに架け渡されてキャリッジ403を移動可能に保持している。そして、主走査モータ405によって、駆動プーリ406と従動プーリ407間に架け渡したタイミングベルト408を介して、キャリッジ403は主走査方向に往復移動される。
このキャリッジ403には、液体吐出ヘッド404及びヘッドタンク441を一体にした液体吐出ユニット440を搭載している。液体吐出ユニット440の液体吐出ヘッド404は、例えば、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液体を吐出する。また、液体吐出ヘッド404は、複数のノズルからなるノズル列を主走査方向と直交する副走査方向に配置し、吐出方向を下方に向けて装着している。
液体吐出ヘッド404の外部に貯留されている液体を液体吐出ヘッド404に供給するための供給機構494により、ヘッドタンク441には、液体カートリッジ450に貯留されている液体が供給される。
供給機構494は、液体カートリッジ450を装着する充填部であるカートリッジホルダ451、チューブ456、送液ポンプを含む送液ユニット452等で構成される。液体カートリッジ450はカートリッジホルダ451に着脱可能に装着される。ヘッドタンク441には、チューブ456を介して送液ユニット452によって、液体カートリッジ450から液体が送液される。
この装置は、シート材410を搬送するための搬送機構495を備えている。搬送機構495は、搬送手段である搬送ベルト412、搬送ベルト412を駆動するための副走査モータ416を含む。
搬送ベルト412はシート材410を吸着して液体吐出ヘッド404に対向する位置で搬送する。この搬送ベルト412は、無端状ベルトであり、搬送ローラ413と、テンションローラ414との間に掛け渡されている。吸着は静電吸着、あるいは、エアー吸引などで行うことができる。
そして、搬送ベルト412は、副走査モータ416によってタイミングベルト417及びタイミングプーリ418を介して搬送ローラ413が回転駆動されることによって、副走査方向に周回移動する。
さらに、キャリッジ403の主走査方向の一方側には搬送ベルト412の側方に液体吐出ヘッド404の維持回復を行う維持回復機構420が配置されている。
維持回復機構420は、例えば液体吐出ヘッド404のノズル面(ノズルが形成された面)をキャッピングするキャップ421、ノズル面を払拭するワイパ部材422などで構成されている。
主走査移動機構493、供給機構494、維持回復機構420、搬送機構495は、側板491A,491B、背板491Cを含む筐体に取り付けられている。
このように構成したこの装置においては、シート材410が搬送ベルト412上に給紙されて吸着され、搬送ベルト412の周回移動によってシート材410が副走査方向に搬送される。
そこで、キャリッジ403を主走査方向に移動させながら画像信号に応じて液体吐出ヘッド404を駆動することにより、停止しているシート材410に液体を吐出して画像を形成する。
次に、液体吐出ヘッドの一例について図3ないし図6を参照して説明する。図3は同液体吐出ヘッドの分解斜視説明図、図4は同液体吐出ヘッドのノズル配列方向と直交する方向に沿う断面説明図、図5は図2の要部拡大断面説明図、図6は同液体吐出ヘッドのノズル配列方向に沿う要部断面説明図である。
この液体吐出ヘッドは、ノズル板1と、流路板2と、壁面部材である振動板3と、圧力発生素子である圧電素子11と、保持基板50と、配線部材60と、共通液室部材を兼ねるフレーム部材70とを備えている。
ここで、流路板2、振動板3及び圧電素子11で構成される部分をアクチュエータ基板20とする。ただし、アクチュエータ基板20として独立の部材が形成された後にノズル板1や保持基板50と接合されることまで意味するものではない。
ノズル板1には、液体を吐出する複数のノズル4が形成されている。ここでは、ノズル4を配列したノズル列41を4列配置した構成としている。
流路板2は、ノズル板1及び振動板3とともに、ノズル4が通じる個別液室6、個別液室6に通じる流体抵抗部7、流体抵抗部7が通じる液導入部8を形成している。
この液導入部8は振動板3の供給口9と保持基板50の流路となる開口部51を介してフレーム部材70で形成される共通液室10に通じている。
振動板3は、個別液室6の壁面の一部を形成する変形可能な振動領域30を形成している。そして、この振動板3の振動領域30の個別液室6と反対側の面には、振動領域30と一体的に圧電素子11が設けられ、振動領域30と圧電素子11によって圧電アクチュエータ31を構成している。
圧電素子11は、振動領域30側から下部電極である共通電極13、圧電層(圧電体)12及び上部電極である個別電極14を順次積層形成して構成している。この圧電素子11上には絶縁膜21が形成されている。
複数の圧電素子11の共通電極13は、図4に示すように、ノズル配列方向ですべての圧電素子11に跨って形成される1つの電極層であり、圧電素子11を構成していない部分15に共通電極電源配線パターン121が接続されている。
また、圧電素子11の個別電極14は、個別配線16を介して駆動回路部である駆動IC(なお、回路構成では「ヘッドドライバ」という。)509に接続されている。なお、個別配線16は絶縁膜22で被覆されている。
駆動IC509は、圧電素子列の列間の領域を覆うようにアクチュエータ基板20にフリップチップボンディングなどの工法により実装されている。
そして、アクチュエータ基板20上には保持基板50を設けている。
保持基板50は、共通液室10の壁面の一部を形成するとともに、共通液室10から個別液室6への流路の一部を形成する流路形成部材でもあり、共通液室10と個別液室6側を通じる流路となる開口部51を形成している。
また、保持基板50は、アクチュエータ基板20を保持する機能も有し、圧電素子11を収容する凹部52、ドライバIC509を収容する開口部53が形成されている。
フレーム部材70は、各個別液室6に液体を供給する共通液室10を形成する。なお、共通液室10は4つのノズル列に対応してそれぞれ設けられる。また、外部からの液体供給口71(図1)を介して共通液室10に所要の色の液体が供給される。
フレーム部材70には、ダンパ部材90が接合されている。ダンパ部材90は、共通液室10の一部の壁面を形成する変形可能なダンパ91と、ダンパ91を補強するダンパプレート92とを有している。
フレーム部材70はノズル板1の外周部と接合され、アクチュエータ基板20及び保持基板50を収容して、このヘッドのフレームを構成している。
そして、ノズル板1の周縁部及びフレーム部材の70の外周面の一部を覆うカバー部材45を設けている。
この液体吐出ヘッドにおいては、駆動IC509から圧電アクチュエータ31の圧電素子11の共通電極13と個別電極14との間に電圧を与えることで、圧電素子11が撓み変形し、振動領域30が個別液室6側に撓んで内部の液体を加圧することで、ノズル4から液体が吐出される。
次に、この装置の制御部の概要について図7を参照して説明する。図7は同制御部のブロック説明図である。
制御部500は、装置全体の制御を司るCPU501、CPU501が実行するプログラムを含む各種プログラムなどの固定データを格納するROM502と、画像データ等を一時格納するRAM503で構成される主制御部500Aを備えている。
制御部500は、装置の電源が遮断されている間もデータを保持するための書き換え可能な不揮発性メモリ504を備えている。制御部500は、画像データに対する各種信号処理、並び替え等を行う画像処理やその他装置全体を制御するための入出力信号を処理するASIC505を備えている。
制御部500は、液体吐出ヘッド404を駆動制御するためのデータ転送手段、駆動信号発生手段、バイアス電圧出力手段を含む印刷制御部508と、液体吐出ヘッド404を駆動するための駆動IC(ここでは「ヘッドドライバ」という。)509を備えている。
制御部500は、キャリッジ403を移動走査する主走査モータ405、搬送ベルト412を周回移動させる副走査モータ416、維持回復機構420のキャップ421やワイパ部材422の移動、キャップ421に接続される吸引手段の駆動などを行なう維持回復モータ556を駆動するためのモータ駆動部510を備えている。
制御部500は、送液ユニット452の送液ポンプ452Aを駆動する供給系駆動部512を備えている。
制御部500は、I/O部513を有している。I/O部513は、様々のセンサ情報を処理することができ、液体吐出ヘッド404の温度検出部80からの検出信号、装置に装着されている各種のセンサ群515からの情報を取得する。そして、装置の制御に必要な情報を抽出し、印刷制御部508やモータ駆動部510の制御などに使用する。
センサ群515は、その他シート材Pの位置を検出するための光学センサやカバーの開閉を検出するためのインターロックスイッチなどが含まれる。
制御部500には、この装置に必要な情報の入力及び表示を行うための操作パネル514が接続されている。
ここで、制御部500は、ホスト側とのデータ、信号の送受を行うためのI/F506を持っていて、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置、画像読み取り装置などのホスト600側から、ケーブル或いはネットワークを介してI/F506で受信する。
そして、制御部500のCPU501は、I/F506に含まれる受信バッファ内の印刷データを読み出して解析し、ASIC505にて必要な画像処理、データの並び替え処理等を行い、この画像データを印刷制御部508からヘッドドライバ509に転送する。なお、画像を出力するためドットパターンデータの生成はホスト600側のプリンタドライバ601で行なうことも、制御部500で行なうこともできる。
印刷制御部508は、画像データをシリアルデータで転送するとともに、この画像データの転送及び転送の確定などに必要な転送クロックやラッチ信号、制御信号などをヘッドドライバ509に出力する。
印刷制御部508は、駆動波形のパターンデータをD/A変換するD/A変換器及び電圧増幅器、電流増幅器等で構成される駆動信号生成部を含む。そして、印刷制御部508は、1の駆動パルス或いは複数の駆動パルスで構成される駆動波形を生成してヘッドドライバ509に対して出力する。
ヘッドドライバ509は、シリアルに入力される液体吐出ヘッド404の1行分に相当する画像データに基づいて印刷制御部508から与えられる駆動波形を構成する駆動パルスを選択して液体吐出ヘッド404の圧力発生手段としての圧電素子11に対して与える。これにより、液体吐出ヘッド404を駆動する。
このとき、駆動波形を構成する1又は2以上の駆動パルスの全部又は一部(駆動パルスを形成する波形用要素の一部)を選択する。これにより、例えば、大滴、中滴、小滴など、大きさの異なるドットを打ち分けることができる。
次に、ヘッドの駆動制御に係わる部分の一例について図8のブロック説明図を参照して説明する。
印刷制御部508は、駆動波形VPを生成出力する駆動波形生成手段としての駆動波形生成部701を含んでいる。また、印刷画像に応じた2ビットの画像データ(階調信号0、1)と、クロック信号、ラッチ信号、駆動波形を構成する駆動パルスを選択する選択信号を出力するデータ転送部702を含んでいる。
ここで、駆動波形生成部701からは、1印刷周期(1駆動周期)内に、液体を吐出させる複数の駆動パルス(駆動信号)が時系列で配置された駆動波形VPが生成出力される。
なお、選択信号は、ヘッドドライバ509のスイッチ手段であるアナログスイッチASの開閉を滴毎に指示する信号である。駆動波形VPの印刷周期に合わせて選択すべき駆動パルス(又は波形要素で)Hレベル(ON)に状態遷移し、非選択時にはLレベル(OFF)に状態遷移する。
ヘッドドライバ509は、シフトレジスタ711と、ラッチ回路712と、デコーダ713と、レベルシフタ714と、アナログスイッチアレイ715とを備えている。
シフトレジスタ711は、データ転送部702からの転送クロック(シフトクロック)及びシリアル画像データ(階調データ:2ビット/1チャンネル(1ノズル)を入力する。ラッチ回路712は、シフトレジスタ711の各レジスト値をラッチ信号によってラッチする。
デコーダ713は、階調データと選択信号をデコードして結果を出力する。レベルシフタ714は、デコーダ713のロジックレベル電圧信号をアナログスイッチアレイ715のアナログスイッチASが動作可能なレベルへとレベル変換する。
アナログスイッチアレイ715のアナログスイッチASは、レベルシフタ714を介して与えられるデコーダ713の出力でオン/オフ(開閉)される。
アナログスイッチアレイ715のアナログスイッチASは、圧電素子11の個別電極14に接続され、駆動波形生成部701からの駆動波形VPが入力されている。したがって、シリアル転送された画像データ(階調データ)と選択信号をデコーダ713でデコードした結果に応じてアナログスイッチASがオンにする。これにより、駆動波形VPを構成する所要の駆動パルス(あるいは波形要素)が通過して(選択されて)、圧電素子11の個別電極14に与えられる。
次に、本発明の第1実施形態について図9を参照して説明する。図9は同実施形態における駆動波形の駆動パルスの説明図である。
本実施形態では、駆動波形VPには、液体を吐出させる連続する2つの駆動パルスP1、P2を含んでいる。駆動パルスP1、P2で吐出される液滴が飛翔中にマージして1つの液滴となる。
駆動パルスP1、P2は、いずれも、引き込み波形要素(膨張波形要素ともいう。)a、保持波形要素b、押し込み波形要素(収縮波形要素ともいう。)cを含んでいる。なお、a〜cの符号は図面を簡単にするため駆動パルスP1のみ図示している。
引き込み波形要素aは、基準電位(中間電位)Veから立下がって個別液室6を膨張させる波形要素である。保持波形要素bは、引き込み波形要素aの立下り電位を保持する波形要素である。押し込み波形要素cは、保持波形要素bで保持された電位から立ち上がって個別液室6を収縮させることで液体を吐出させる波形要素である。
また、連続する2つの駆動パルスにおいて、先行の駆動パルスの押し込み波形要素cの終了から後行の駆動パルスの引き込み波形要素aの開始までの時間を「パルス間隔」とする。
ここで、本実施形態では、駆動パルスP1と駆動パルスP2との間のパルス間隔Tnは、個別液室6の固有振動周期(共振周波数の逆数)をTc、先行の駆動パルスP1による個別液室6の圧力変動の第1ピークと、個別液室6の圧力変動による共通液室10における圧力変動に起因する個別液室6の残留圧力変動の第1ピークまでの時間をx0、とするとき、
Tn=n×Tc/2+x0(ただし、nは自然数)
としている。
これにより、共通液室10内における圧力変動に起因して生じるノズル間の吐出速度のばらつきを低減することができる。なお、「ノズル間の吐出速度のばらつき」は、ノズル配列方向(共通液室長手方向)に並ぶ各ノズルの位置が異なることで生じる吐出速度のばらつきである。
この点について図10ないし図13を参照して説明する。図10はノズル配列方向に沿う共通液室部分の断面説明図、図11は駆動波形の電圧変化と個別液室内の圧力変動の関係の説明に供する説明図である。図12は連続する2つの駆動パルスのパルス間隔の説明に供する説明図、図13は各ノズル位置における吐出速度の説明に供する説明図である。なお、図12では図11の圧力変動PA、PBのみを取り出して図示しているので、圧力の大きさは図12と図11とでは異なっている。
図10に示すように、共通液室10は、ノズル配列方向において、両端部に傾斜面10aが設けられて、端部に向かって狭窄する形状をしている。ここで、ノズル配列方向において、中央部(狭窄していない部分)を位置(領域)Aとし、端部(狭窄している部分)を位置(領域)Bとする。
図11に示すように、1つの駆動パルスP1をすべてのノズル4に対応する圧力発生手段(ここでは、圧電素子11)に与えて液体(液滴)を吐出させる。
このとき、共通液室10の位置Aに対応する個別液室6には残留圧力変動(以下、単に「圧力変動」という。)PAが生じ、共通液室10の位置Bに対応する個別液室6には同じく圧力変動PBが生じる。すなわち、駆動パルスP1が与えられて個別液室6が加圧されることで生じる圧力変動が共通液室10内に伝搬し、共通液室10内における圧力変動に起因して個別液室6には残留圧力変動PA、PBが生じる。
この場合、個別液室6における圧力の時間変化の振幅は共通液室10の形状、材質等によって変化するが、図10に示すような狭窄部を有する共通液室形状であるときには、ノズル列の中央部における圧力変動PAよりも端部における圧力変動PBの振幅が大きくなる(PA<PB)。このように、共通液室10で生じる圧力変動には振幅の分布が発生し(これを「共通液室内の圧力分布」という。)、これが個別液室6内の圧力変動として反映される。
そして、圧力変動PA,PBがともに0になるタイミングを時点tcとし、時点tcより時間的に前で圧力変動PA、PBが最大値(第1ピーク)となるタイミングを時点taとし、時点tcより時間的に後で圧力変動PA、PBが最小値となるタイミングを時点tbとする。
ここで、図12に示すように、駆動パルスP1に続いて駆動パルスP2を与えるとき、駆動パルスP2を与える(引き込み波形要素の開始)タイミングが時点ta、tb、tcのいずれであるかによって、図13に示すように、駆動パルスP1で吐出された液滴と駆動パルスP2で吐出された液滴とがマージした後の吐出速度(滴速度Vj)の分布にばらつきが生じる。
つまり、通常、2つ目の駆動パルスP2の引き込み波形要素aによる引き込み開始時に圧力が高ければ、2つ目の駆動パルスP2の印加後の引き込み量が大きくなり、2つ目の駆動パルスP2で吐出される液滴の滴速度が速くなる。
一方、2つ目の駆動パルスP2の引き込み波形要素aによる引き込み開始時に圧力が低ければ、2つ目の駆動パルスP2の印加後の引き込み量が小さくなり、2つ目の駆動パルスP2で吐出される液滴の滴速度が遅くなる。
このため、図12(a)に示すように、時点taで駆動パルスP2を与えた場合、領域Bの方が領域Aよりも引き込み開始時の圧力が高いため、領域Bでは駆動パルスP2で吐出される液滴の滴速度は速くなる。
したがって、2つの液滴がマージした後の滴速度Vjは、領域Bと領域Aとでは、B>Aの関係となり、複数のノズルから同時に液体を吐出させる駆動を行ったときの滴速度Vjの分布は図13(a)に示すようになる。
同様に、図12(b)に示すように、時点tbで駆動パルスP2を与えた場合、領域Aの方が領域Bよりも引き込み開始時の圧力が高いため、領域Aでは駆動パルスP2で吐出される液滴の滴速度は速くなる。
したがって、2つの液滴がマージした後の滴速度Vjは、領域Aと領域Bとでは、A>Bの関係となり、複数のノズルから液体を吐出させる駆動を行ったときの滴速度Vjの分布は図13(b)に示すようになる。
同様に、図12(c)に示すように、時点tcで駆動パルスP2を与えた場合、領域Aと領域Bの引き込み開始時の圧力がほぼ同じ(同じを含む。以下、同様である。)であるため、領域A及び領域Bでの駆動パルスP2で吐出される液滴の滴速度はほぼ同じになる。
したがって、2つの液滴がマージした後の滴速度Vjは、領域Aと領域Bとでは、ほぼ同じ関係となり、複数のノズルから液体を吐出させる駆動を行ったときの滴速度Vjの分布は図13(c)に示すようになる。
このように、時点tcのように共通液室10の圧力変動に起因して生じる個別液室6の圧力変動PA,PBの圧力差(ノズル配列方向の中央部と端部との間の圧力差)が小さくなるタイミングに駆動パルスP1、P2のパルス間隔を設定することで、ノズル配列方向におけるノズル間での吐出速度のばらつきを抑制することができる。
ここで、図11に示すように、個別液室6が先行の駆動パルスP1の押し込み波形要素cによる押し込みで加圧されるとき、個別液室6の圧力変動PCの開始から、当該圧力変動による共通液室10内の圧力変動に起因する個別液室6の圧力変動の開始までには所定のタイムラグが生じることになる。
そこで、本実施形態では、先行の駆動パルスP1による個別液室6の圧力変動PCの第1ピークと、個別液室6の圧力変動による共通液室10における圧力変動に起因する個別液室6の残留圧力変動PA、PBの第1ピークまでの時間をx0とする。
したがって、上述した時点cとなるパルス間隔Tnは、前述したように、(n×Tc/2)に時間x0を加算したものとなる。
これにより、パルス間隔Tnを、Tn=n×Tc/2+x0(ただし、nは自然数)、とすることで、ノズル間の吐出速度のばらつきを低減することができる。
次に、本発明の第2実施形態について図14を参照して説明する。図14は同実施形態における駆動波形の説明図である。
本実施形態では、駆動波形VPには、液体を吐出させる連続する3つの駆動パルスP1ないしP3を含んでいる。駆動パルスP1、P2、P3の少なくとも2つが選択されて吐出される液滴が飛翔中にマージして1つの液滴となる。
ここで、駆動パルスP1と駆動パルスP2との間のパルス間隔をTn1とし、駆動パルスP2と駆動パルスP3とのパルス間隔をTn2とする。
そして、個別液室6の固有振動周期(共振周波数の逆数)をTc、先行の駆動パルスによる個別液室6の圧力変動の第1ピークと、個別液室6の圧力変動による共通液室10における圧力変動に起因する個別液室6の残留圧力変動の第1ピークまでの時間をx0、とし、
Tn=N×Tc/2+x0(ただし、Nは整数)
で得られる時間をパルス間隔Tnとする。
このとき、2つのパルス間隔Tn1及びTn2のいずれか一方(ここでは、Tn1とする。)はパルス間隔Tnより短く、他方(ここでは、Tn2とする)はパルス間隔Tnより長くしている。
この点について図15ないし図21を参照して説明する。図15は異なる滴サイズの液滴の吐出の説明に供する説明図、図16は駆動波形の電圧変化と個別液室内の圧力変動の関係の説明に供する説明図である。図17は連続する4つの駆動パルスを使用して滴サイズの異なる液滴を吐出する場合の吐出駆動波形の一例を説明する説明図である。図18は後続滴の吐出速度が速くなった場合の説明に供する説明図である。図19は後続滴の吐出速度が遅くなった場合の説明に供する説明図である。図20はパルス間隔の設定の説明に供する説明図、図21は本実施形態の作用効果の説明に供する説明図である。
前記第1実施形態で説明したように、ノズル配列方向における各ノズルの吐出速度のばらつきを低減するには、すべて図12(c)で示すタイミングになるパルス間隔で複数の駆動パルスを連続させればよい。
すなわち、同一の駆動波形から使用する駆動パルスを切り出して(選択して)サイズの異なる複数の滴、例えば、大滴、中滴、小滴を得る場合、図15に示すように、大滴、中滴、小滴の着弾タイミング(マージ後の着弾タイミング)を同じにする必要がある、
着弾タイミングを揃えるには、通常、駆動パルスごとの電圧を変えたり、駆動パルスと駆動パルスの間のパルス間隔を変えたりする。この場合、特に、駆動パルスと駆動パルスの間のパルス間隔が支配的である。
しかしながら、例えば図16に示すように、共通液室10の圧力分布に起因する圧力変動PA、PBの圧力差がなくなるタイミングと、個別液室6の残留振動に起因する圧力変動PCのピークがほぼ一致する場合(1/4×Tcずれる場合)には、滴サイズ間の着弾時間差を揃えることは困難である。
例えば、図16の時点tdの場合には、共通液室10の圧力分布により発生する圧力変動PA、PBの圧力差は無いが、個別液室6からの圧力変動PC(吐出による残留圧力)がピークとなる。
つまり、この図16の時点tdで後続の駆動パルスの引き込み波形要素が開始されるパルス間隔で複数の駆動パルスを繋げば、連続する駆動パルスの数が多くなるほど、後続の駆動パルスで吐出される液滴の滴速度が速くなる。
例えば、図17に示すように、4つの駆動パルスP1ないしP4を1/4×Tcでつなぎ、図17(a)、(b)、(c)に示すように、駆動パルスを選択して大滴、中滴、小滴を形成するものとする。このとき、図18に各滴サイズの液滴の同一時間での飛翔距離Ss、Sm、Slとして示すように、マージ後の液滴の滴サイズに応じて飛翔距離が変化し、着弾時間差が発生することになる。
なお、前述したように着弾時間を揃えるには駆動パルスと駆動パルスの間のタイミング(パルス間隔)が支配的であり、パルスの電圧のみによる調整は困難である。
また、図16に示す時点tcの場合には、個別液室6内の残留圧力が負側の最大となる。そのため、この時点tcで後続の駆動パルスの引き込み波形要素が開始されるパルス間隔で複数の駆動パルスを繋げば、連続する駆動パルスの数が多くなるほど、後続滴の滴速度が遅くなり、結果として着弾時間に差が生じるばかりか、図19に示すように、飛翔中にマージしなくなるおそれがある。
そこで、本実施形態では、共通液室10の圧力分布により生じる圧力変動PA、PBの圧力差がなくなる時点tcを挟んだ前後のタイミングで液体を吐出させるようにしている。
つまり、図20も参照して、駆動パルスの押し込み波形要素cの終了から経過時間Δcで共通液室10の圧力分布により生じる圧力変動PA、PBの圧力差がなくなるとする。
この経過時間Δcは、前述した、「N×Tc/2+x0(ただし、Nは整数)」で得られる時間である。
このとき、図14にも示すように、例えば、駆動パルスP1と駆動パルスP2との間のパルス間隔Tn1は、時間Δcよりも短い時間Δc−とする。一方、駆動パルスP2と駆動パルスP3との間のパルス間隔Tn2は、時間Δcよりも長い時間Δc+とする。
このように、駆動パルスの押し込み波形要素cの終了からの経過時間Δcで共通液室10の圧力分布により生じる圧力変動PA、PBの圧力差がなくなるとするとき、パルス間隔として、時間Δcよりも短い時間Δc−のパルス間隔と長い時間Δc+のパルス間隔とを混在させている。
これにより、2つ目の駆動パルスP2によって時間Δc−のタイミングで吐出されるとき、引き込み開始時(膨張開始時)には領域B側の圧力が高くなるので、滴速度は、B>Aとなる。一方、3つ目の駆動パルスP3によって2つ目の駆動パルスP2に対して時間Δc+のタイミングで吐出させているため、引き込み開始時(膨張開始時)には、領域A側の圧力が高くなるので、滴速度は、A>Bとなる。
したがって、飛翔中に、3つの液滴がマージしたときは、それぞれの滴速度の増加分、減少分が打ち消しあい、結果として、図21に示すように、ノズル配列方向におけるノズル位置ごとの滴速度Vjのばらつきが小さくなる。
また、時間Δcの間隔で吐出させた場合には、上述したように個別液室6の残留圧力が各駆動パルスによる引き込み開始時(膨張開始時)に負側に最大であるために、連続する駆動パルスが多くなるほど滴速度が遅くなっていた。
これに対し、時間Δc−の間隔で吐出させる場合には、個別液室6の残留圧力がわずかに負、一方、時間Δc+の間隔で吐出させる場合には、正の圧力で後続の駆動パルスによる引き込み(膨張)が開始される。そのため、結果として、時間Δcの間隔で吐出させた場合と異なり、すべての滴がマージすることになる。
このように、本実施形態では、ノズル間の吐出速度のばらつきが低減し、また、3つ以上の液滴を確実にマージさせることができる。
次に、本発明の第3実施形態について図22を参照して説明する。図22は同実施形態における駆動波形の説明図である。
本実施形態では、駆動波形VPには、液体を吐出させる連続する4つの駆動パルスP1ないしP4を含んでいる。駆動パルスP1、P2、P3、P4の少なくとも2つが選択されて吐出される液滴が飛翔中にマージして1つの液滴となる。
ここで、駆動パルスP2、P3は、いずれも、引き込み波形要素aの開始から押し込み波形要素cの終了までの時間を3/4Tcとしている。そして、先頭の駆動パルスP1の押し込み波形要素cの開始から最後尾の駆動パルスP4の押し込み波形要素cの開始までの時間をTtotとするとき、Ttot=n×(Tc/2)(ただし、n:自然数)、としている。
時間Ttotを上記のとおりとすることで、2番目の駆動パルスから最後尾の駆動パルスの1つ前のパルス間隔についてどのような時間に設定してもノズル間の滴速度Vjのばらつきを低減できる。
つまり、ノズル間の滴速度Vjのばらつきが最も小さくなるパルス間隔は、前述したように、Tn=n×Tc/2+x0、で求まる時間である。このとき、連続して繋ぐ複数の駆動パルスの数をp個とすると、パルス間隔の合計時間は(p−1)×(n×Tc/2+x0)である。また、時間Ttotにおける各駆動パルスの合計時間は(p−1)×3/4Tcである。
そこで、ノズル間の滴速度Vjのばらつきが最も小さくなる時間Ttotを算出すると、次のとおりである。
Ttot=(p−1)×(n×Tc/2+x0)+(p−1)×3/4Tc
=(p−1)(n×Tc/2+x0+3/4Tc)
=Tc/2×(p−1)(n+2×x0+3/2)
=Tc/2×(p−1)(n+2×1/4+3/2)(∵x0:1/4Tc)
=Tc/2×(p−1)(n+2)
これを一般化すると、Ttot=n×(Tc/2)(n:自然数)となる。
前記第2実施形態で説明したように、共通液室10の圧力分布によって生じる圧力変動の圧力差は足し合わせることが可能である。
したがって、予め先頭の駆動パルスから最後尾の駆動パルスまでの波形長が固定されており、かつ各駆動パルスの形状が決まっていれば、その間の駆動パルスをどの間隔で繋いでも、Ttot=n×(Tc/2)(n:自然数)を満たせば、結果的に圧力干渉の影響がキャンセルされる。
この点について図23ないし図25も参照して説明する。なお、図23は駆動波形の電圧変化と個別液室内の圧力変動の関係の説明に供する説明図、図24は駆動波形のパルス間隔の説明に供する説明図、図25は駆動波形のパルス間隔の説明に供する説明図である。
例えば、図24に示すように、3つの駆動パルスP1ないしP3の各パルス間隔を3/4Tcとする(n=1、n:自然数)。このとき、図23に示すように、例えば3/4Tcが時点teとすると、共通液室10の圧力分布による圧力変動PA、PBの圧力差はない(ただし、後続の滴が遅くなることはある。)。
ここで、上述したとおり、各駆動パルスP2、P3の引き込み波形要素aの開始から押し込み波形要素cの終了までの時間を3/4Tcとしているので、先頭の駆動パルスP1ないし最後尾の駆動パルスP3間の波形長は、一義的に、3Tcとなる。
波形長を3Tcで固定したまま、2番目の駆動パルスP2を先頭の駆動パルスP1側へ移動させる。
このとき、図25に示すように、1番目の駆動パルスP1と2番目の駆動パルスP2のパルス間隔Tn1は時間Δe−、2番目の駆動パルスP2と3番目の駆動パルスP3のパルス間隔Tn2を時間Δe+となる。
この場合、駆動パルスP1と駆動パルスP2との間では圧力がB>Aとなり、かつ、駆動パルスP2と駆動パルスP3との間では圧力がB<Aとなる。
したがって、前記第1実施形態と同様に、お互いの影響がキャンセルされて、結果的にノズル間の滴速度Vjの差が小さくなる。
本願において、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッド又は液体吐出ユニットを備え、液体吐出ヘッドを駆動させて、液体を吐出させる装置である。液体を吐出する装置には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
例えば、「液体を吐出する装置」として、液体を吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
また、「液体」は、液体、処理液、DNA試料、レジスト、パターン材料、結着剤、造形液、又は、アミノ酸、たんぱく質、カルシウムを含む溶液及び分散液なども含まれる。
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
また、「液体を吐出する装置」としては他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液をノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
「液体吐出ユニット」とは、液体吐出ヘッドに機能部品、機構が一体化したものであり、液体の吐出に関連する部品の集合体である。例えば、「液体吐出ユニット」は、ヘッドタンク、キャリッジ、供給機構、維持回復機構、主走査移動機構の構成の少なくとも一つを液体吐出ヘッドと組み合わせたものなどが含まれる。
ここで、一体化とは、例えば、液体吐出ヘッドと機能部品、機構が、締結、接着、係合などで互いに固定されているもの、一方が他方に対して移動可能に保持されているものを含む。また、液体吐出ヘッドと、機能部品、機構が互いに着脱可能に構成されていても良い。
例えば、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。また、チューブなどで互いに接続されて、液体吐出ヘッドとヘッドタンクが一体化されているものがある。ここで、これらの液体吐出ユニットのヘッドタンクと液体吐出ヘッドとの間にフィルタを含むユニットを追加することもできる。
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジが一体化されているものがある。
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドを走査移動機構の一部を構成するガイド部材に移動可能に保持させて、液体吐出ヘッドと走査移動機構が一体化されているものがある。また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドとキャリッジと主走査移動機構が一体化されているものがある。
また、液体吐出ユニットとして、液体吐出ヘッドが取り付けられたキャリッジに、維持回復機構の一部であるキャップ部材を固定させて、液体吐出ヘッドとキャリッジと維持回復機構が一体化されているものがある。
また、液体吐出ユニットとして、ヘッドタンク若しくは流路部品が取付けられた液体吐出ヘッドにチューブが接続されて、液体吐出ヘッドと供給機構が一体化されているものがある。
主走査移動機構は、ガイド部材単体も含むものとする。また、供給機構は、チューブ単体、装填部単体も含むものする。
また、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。