本発明の一実施形態に係る封止用樹脂組成物(以下、組成物(X)という)は、熱硬化性樹脂成分(A)と、硬化促進剤(B)と、無機充填材(C)と、メラミン骨格を有する化合物(D)と、イオントラップ剤(E)とを含有する。組成物(X)は25℃で固体である。組成物(X)の、蛍光X線分析で測定される硫黄含有量は、SO3換算で0.1質量%以下である。
組成物(X)を加圧成形法で成形することで、半導体装置1における封止材62を作製できる。半導体装置1は、例えば図1に示すように、金属製のリードフレーム52と、リードフレーム52に搭載されている半導体素子50と、半導体素子50とリードフレーム52とを電気的に接続するワイヤ56と、半導体素子50を封止する封止材62とを備える。
組成物(X)は、硫黄化合物を含まず、或いは硫黄化合物の含有量が少ない。このため、ワイヤ56が銀及び銅のうち少なくとも一方を含む場合に、ワイヤ56が封止材62と接しても、高温下でワイヤ56が腐食されにくい。また、このように硫黄化合物を含まず、或いは硫黄化合物の含有量が少ないにもかかわらず、組成物(X)がイオントラップ剤(E)と化合物(D)とを含有することで、組成物(X)から作製される封止材62は、メッキ層54を備えるリードフレーム52と高い密着性を有する。さらに、組成物(X)には、密着性向上に伴うゲルタイムの長大化が起こりにくい。
組成物(X)の成分について、更に詳しく説明する。
熱硬化性樹脂成分(A)は、例えば熱硬化性樹脂からなり、或いは熱硬化性樹脂と硬化剤とからなる。
熱硬化性樹脂は、例えばエポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、マレイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。熱硬化性樹脂はエポキシ樹脂を含有することが好ましい。
熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂とベンゾオキサジン樹脂とを含有してもよい。この場合、ベンゾオキサジン樹脂はエポキシ樹脂と反応可能であるため、ベンゾオキサジン樹脂が硬化剤を兼ねることができる。
熱硬化性樹脂に含まれる成分の分子量及び分子構造に特に制限はない。このため、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含有する場合、エポキシ樹脂は、1分子内にエポキシ基を2個以上有するのであれば、モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれを含んでもよい。
エポキシ樹脂は、例えばグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、オレフィン酸化型(脂環式)エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。より具体的には、エポキシ樹脂は、例えばフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のアルキルフェノールノボラック型エポキシ樹脂;ナフトールノボラック型エポキシ樹脂;フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂;フェニレン骨格、ビフェニレン骨格等を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能型エポキシ樹脂;トリフェニルメタン型エポキシ樹脂;テトラキスフェノールエタン型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;ナフタレン型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;ビスフェノールA型ブロム含有エポキシ樹脂等のブロム含有エポキシ樹脂;ジアミノジフェニルメタンやイソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂;並びにフタル酸やダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂からなる群から選択される一種以上の成
分を含有する。
封止材62の耐湿信頼性向上のためには、エポキシ樹脂中のNaイオン、Clイオン等のイオン性不純物が極力少ない方が好ましい。
組成物(X)の全体に対して、エポキシ樹脂は5〜35質量%の範囲内が好ましい。この場合、成形時の組成物(X)の流動性と、封止材62の物性とが、向上する。
硬化剤は、封止材62の物性、組成物(X)の成形性といった事情を考慮し、必要に応じて組成物(X)に配合される。硬化剤は、例えば熱硬化性樹脂と反応して架橋構造を生成できる化合物である。
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂を含有する場合、硬化剤は例えばフェノール化合物、酸無水物、イミダゾール化合物のうち少なくとも一種の成分を含有する。熱硬化性樹脂成分が上記のように熱硬化性樹脂と硬化剤とを兼ねるベンゾオキサジン樹脂を含有してもよい。すなわち、熱硬化性樹脂成分がエポキシ樹脂を含有する場合、熱硬化性樹脂成分は、更にフェノール化合物、ベンゾオキサジン樹脂、酸無水物、イミダゾール化合物からなる群から選択される少なくとも一種の成分の含有することが好ましい。
熱硬化性樹脂成分がエポキシ樹脂とフェノール化合物とを含有すると、銅及び銀の少なくとも一方を含む金属部分と封止材との間の密着性は特に高い。このため、封止材は、メッキ層54を有するリードフレーム52との間の特に高い密着性を有することができる。さらに、封止材62は、優れた耐熱性と耐湿性とを有することができる。さらに、組成物(X)は成形時の良好な離型性を有するとともに、優れた保存安定性を有することもできる。
フェノール化合物は、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂等のノボラック型樹脂;フェニレン骨格又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂;フェニレン骨格又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のアラルキル型樹脂;トリフェノールメタン型樹脂等の多官能型フェノール樹脂;ジシクロペンタジエン型フェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトールノボラック樹脂等のジシクロペンタジエン型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール型樹脂;並びにトリアジン変性ノボラック樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。特にフェノール化合物は、フェノールアラルキル型フェノール樹脂とビフェニルアラルキル型フェノール樹脂のうち少なくとも一方を含有することが好ましい。
エポキシ樹脂1当量に対し、硬化剤は0.5〜1.5当量の範囲内であることが好ましい。硬化剤が1.5当量以下であれば、組成物(X)の良好な硬化性と、封止材の良好な耐熱性及び強度とが、実現できる。硬化剤が0.5当量以上であれば、封止材62が、メッキ層54を有するリードフレーム52との間の特に高い密着性と、特に高い耐湿性とを有することができる。硬化剤が0.6〜1.4当量の範囲内であれば、より好ましい。
熱硬化性成分(A)がエポキシ樹脂とフェノール化合物とを含有する場合は、エポキシ樹脂1当量に対し、フェノール化合物は0.9〜1.5当量の範囲内であることが好ましい。この場合、組成物(X)がイオントラップ剤(E)と化合物(D)とを含有することにより得られる効果が、特に優れる。フェノール化合物が1.0〜1.3当量の範囲内であれば、より好ましい。
熱硬化性樹脂成分(A)はニトロ基を有しないことが好ましい。すなわち、熱硬化性樹脂はニトロ基を有しないことが好ましい。熱硬化性樹脂成分(A)が硬化剤を含有する場合は、硬化剤もニトロ基を有しないことが好ましい。この場合、組成物(X)中に存在するニトロ基の合計量が過剰に多くなることを抑制することで、ニトロ基によって封止材62の電気特性が悪化することを抑制できる。また、特に熱硬化性樹脂成分(A)がエポキシ樹脂とフェノール化合物とを含有する場合、フェノール化合物がニトロ基を有しないと、フェノール化合物の求核性がニトロ基によって低下させられることがない。このため、エポキシ樹脂に対するフェノール化合物の良好な反応性が維持され、組成物(X)のゲルタイムが長くなることを特に抑制できる。
硬化促進剤(B)は、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール類;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5、5,6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等のシクロアミジン類;2−(ジメルアミノメチル)フェノール、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第3級アミン類;トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(4−メチルフェニル)ホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンとパラベンゾキノンの付加反応物、フェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレート等のテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート;ボレート以外の対アニオンを持つ4級ホスホニウム塩;並びに2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することが好ましい。硬化促進剤(B)は、ハロゲンと硫黄元素を含まないことが好ましい。硬化促進剤(B)がイミダゾールを含有すると、イミダゾールは硬化剤としても機能できる。
硬化促進剤(B)は、組成物(X)の全体に対して、0.001〜0.5質量%の範囲内であることが好ましい。
無機充填材(C)は、例えば溶融球状シリカ等の溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ及び窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。組成物(X)に無機充填材(C)を含有させることで、封止材62の熱膨張係数を調整できる。特に無機充填材(C)が溶融シリカを含有することが好ましい。この場合、組成物(X)中の無機充填材(C)の高い充填性と、成形時の組成物(X)の高い流動性とが得られる。無機充填材(C)がアルミナ、結晶シリカ及び窒化ケイ素からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することも好ましく、この場合、封止材62の高い熱伝導性が得られる。
無機充填材(C)の平均粒径は例えば0.2〜70μmの範囲内である。平均粒径が0.5〜20μmの範囲内であれば、組成物(X)は成形時に特に良好な流動性を有することができる。なお、平均粒径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布の測定値から算出される体積基準のメディアン径であり、市販のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定できる。
無機充填材(C)は、成形時の組成物(X)の粘度、封止材62の物性等の調整のために、平均粒径の異なる二種以上の成分を含有してもよい。
無機充填材(C)の量は、組成物(X)の全体に対して60〜93質量%の範囲内であることが好ましい。無機充填材が少なすぎると封止材62の線膨張係数が大きくなるためリフロー時等の半導体装置1の反りが大きくなるおそれがある。一方、無機充填材が多すぎると組成物(X)の十分な流動性が確保されず、成形時にワイヤースイープが大きくなる場合がある。
組成物(X)は、カップリング剤を含有してもよい。カップリング剤は、無機充填材(C)と熱硬化性樹脂成分(A)との親和性向上及びリードフレーム52に対する封止材62の接着性向上に寄与できる。
カップリング剤は、例えばシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、及びアルミニウム/ジルコニウムカップリング剤からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。シランカップリング剤は、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のグリシドキシシラン;N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン;アルキルシラン;ウレイドシラン;並びにビニルシランからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
カップリング剤の量は、無機充填材(C)とカップリング剤の合計量に対して0.1〜2.0質量%の範囲内であることが好ましい。この場合、封止材62とリードフレーム52との密着性が特に高くなる。
メラミン骨格を有する化合物(D)は、組成物(X)の硬化物と金属との間の密着性を向上できる。
化合物(D)は、下記式(1)に示す化合物(F1)を含有することが好ましい。化合物(F1)は、組成物(X)の硬化物と金属との間の密着性を、より向上できる。
式(1)において、R1はHO−CH2−NH−又はH2N−であり、R2はHO−CH2−NH−又はH2N−であり、R3はHO−CH2−NH−、H2N−又は下記式(11)に示す基である。
R3が式(11)に示す基であれば、特に好ましい。この場合、化合物(F1)は、組成物(X)の硬化物と金属との間の密着性を、特に向上できる。
化合物(F1)は、単一の構造を有する一種類の成分のみを含有してもよく、互いに異なる構造を有する複数種の成分を含有してもよい。
化合物(F1)の量は、化合物(D)に対して、1〜100質量%の範囲内であることが好ましく、20〜100質量%の範囲であればより好ましい。この場合、組成物(X)の硬化物と金属との間の密着性を、特に向上できる。
組成物(X)全体に対する、化合物(D)の量は、0.001〜1質量%の範囲内であることが好ましい。化合物(D)の量が0.001質量%以上であることで、硬化物と金属との間の密着性を、更に向上させることができる。また、化合物(D)の量が1質量%以下であることで、組成物(X)のゲルタイムを最適な値にすることができ、組成物(X)の成形時の良好な充填性を保つことができる。
イオントラップ剤(E)は、組成物(X)中の塩素イオンといった遊離イオンを捕捉する機能を有する。さらに、組成物(X)がメラミン骨格を有する化合物(D)とともにイオントラップ剤(E)を含有すると、封止材62とリードフレーム52との密着性が更に向上しうる。イオントラップ剤(E)がイオン交換性を有するイオントラップ剤を含有する場合には、その効果が著しい。その理由の一つは、イオントラップ剤(E)が組成物(X)のpHを調整でき、そのことが、化合物(D)が封止材62を、ダイパット58を含めたリードフレーム52に密着させる作用を、高めるためであると、推察される。
組成物(X)のpHは5.0〜7.5の範囲内であることが好ましい。この場合、封止材と銀及び銅のうち少なくとも一方を含むワイヤとを備える半導体装置が、特に高い耐湿信頼性を有することができる。これは、組成物(X)のpHが5.0〜7.5の範囲内であると、ワイヤが封止材に接してもワイヤを腐食させる反応が生じにくいからだと考えられる。イオントラップ剤(E)は、組成物(X)のpHを、5.0〜7.5の範囲内に調整することができる。
組成物(X)のpHは、例えば次のように測定される。組成物(X)を、金型温度170℃で成形して、直径60mm、厚み2mmの円盤状の成形体を作製し、この成形体を更に175℃で6時間加熱する。この成形体をスタンプミルで粉砕してから、150μmのメッシュの篩いにかける。篩いを通過した粉体をpH測定用のサンプルとする。このサンプル5gを、テフロン(登録商標)製の容器に入れてメタノール4mLで湿らせた後、容器にイオン交換水46mLを加えてから120℃で24時間加熱する。これによりpH測定用検液を得る。この検液の温度を25℃±1℃に保った状態で、検液のpHをpHメーターで測定する。この測定結果を、組成物(X)のpHと見做せる。
イオントラップ剤(E)が特に金属酸化物である場合の、イオントラップ剤(E)が組成物(X)のpHを調整するメカニズムを説明する。なお、金属酸化物は、ハイドロタルサイトといった複水酸化物を含むことができる。
図2A及び図2Bは、イオントラップ剤(E)が、Cl-といった陰イオン72を捕捉して組成物(X)のpHを高める様子を示す模式図である。図2Aは、陰イオン72を吸着する前のイオントラップ剤(E)を示す模式図である。図2A及び図2B中で、イオントラップ剤(E)は符号70で示される。図2Aでは、イオントラップ剤(E)がOH基76を捕捉している。図2Aにおいて、イオントラップ剤(E)の周囲には、陰イオン72が存在する。図2Bは、陰イオン72を捕捉した状態のイオントラップ剤(E)を示す。
イオントラップ剤(E)が金属水酸化物である場合の、イオントラップ剤(E)が組成物(X)のpHを調整するイオン交換反応について説明する。なお、金属水酸化物は、ハイドロタルサイトといった複水酸化物を含んでもよい。
イオントラップ剤(E)の陽イオン交換反応は、例えば下記式(4)又は(5)で示される。式(4)及び(5)において、Tはイオントラップ剤(E)であり、M+は陽イオンである。式(4)又は(5)の反応によって組成物(X)のpHは低くなる。この陽イオン交換反応は、塩基性環境下で進みやすい。このため、陽イオン交換反応によって、組成物(X)pHの上昇が抑制される。
T−OH +M+ → T−OM + H+ (4)
T−OH +M+ + OH- → T−OM + H2O (5)
イオントラップ剤(E)の陰イオン交換反応は、例えば下記式(6)又は(7)で示される。式(6)及び(7)において、Tはイオントラップ剤(E)であり、A-は陰イオンである。式(6)又は(7)の反応によって組成物(X)のpHは高くなる。陰イオン交換反応は、酸性環境下で進みやすい。このため、陰イオン交換反応によって、組成物(X)のpHの低下が抑制される。
T−OH + A- → R−A + OH- (5)
T−OH + A- +H+ → R−OH2・A (6)
上記のように、塩基性環境下では式(4)又は(5)に示す反応が優位であり、酸性環境下では式(6)又は(7)に示す反応が優位であることで、組成物(X)のpHが調整される。これにより、イオントラップ剤(E)が組成物(X)のpHを5.0〜7.5の範囲内、好ましくは6.0〜6.5の範囲内、に調整することが可能である。
組成物(X)のpHが与える影響について詳しく説明する。
組成物(X)のpHが5.0未満では、化合物(D)による封止材62をリードフレームに密着させる作用が、低下する。その理由は、pHが5.0未満では封止材62中に含まれるプロトン(H+)の量が過剰であり、そのために化合物(D)とリードフレーム52中の金属との反応が進みにくくなるからだと推察される。
組成物(X)のpHが7.5より高いと、封止材62中のMg2+、Ca2+、Na+といったカチオンが増加する。封止材62中のカチオンは、化合物(D)とリードフレーム52中の金属との反応を阻害し、そのことが、封止材62と金属表面との密着力の低下を招くと推察される。
それに対し、組成物(X)のpHが5.0〜7.5の範囲内、好ましくは6.3〜7.3の範囲内であると、化合物(D)と金属表面との反応性が高くなる。
組成物(X)に対する、イオントラップ剤(E)の量は、0.05〜0.6質量%の範囲内であることが好ましい。このイオントラップ剤(E)の量が0.05質量%以上であると、イオントラップ剤(E)のpH調整機能が高まる。イオントラップ剤(E)の量が0.6質量%より多くても、イオントラップ剤(E)のpH調整機能の増大は得られない。
イオントラップ剤(E)は、炭酸イオンと水酸物イオンとのうち少なくとも一方を有する化合物を含有することが好ましい。この場合、イオントラップ剤(E)は、組成物(X)のpHを調整する上記のようなイオン交換反応を生じさせることができる。
イオントラップ剤(E)は、アルミニウム及びマグネシウムの化合物を含有することも好ましい。
イオントラップ剤(E)は、金属元素の含水酸化物を含有することも好ましい。金属元素の含水酸化物は、例えばアルミニウムの含水酸化物、ビスマスの含水酸化物、チタンの含水酸化物、及びジルコニウムの含水酸化物からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。
イオントラップ剤(E)は、特にハイドロタルサイト系化合物を含有することが好ましい。ハイドロタルサイト系化合物の代表的な構造の例は、[M2+ 1-xM3+ x(OH)2][An- x/n・mH2O]である。
ハイドロタルサイト系化合物が、炭酸イオンと水酸物イオンとのうち少なくとも一方を有するアルミニウム及びマグネシウムの含水酸化物であれば、特に好ましい。この場合、イオントラップ剤(E)は、特に高いイオントラップ性能を有することができる。このようなハイドロタルサイト系化合物の例は、Mg−Al−CO3系ハイドロタルサイト系化合物を含む。Mg−Al−CO3系ハイドロタルサイト系化合物の代表的な構造の例は、[Mg1-xAlx(OH)2]x+[(CO3)x/2・mH2O]x-である。
なお、Bi系イオントラップ剤は、組成物(X)を酸性にしやすく、吸着型のイオントラップ剤は、イオン交換性を有するイオントラップ剤と比較して、トラップした陰イオンを脱離させやすい。このため、イオントラップ剤(E)はBi系イオントラップ剤及び吸着型のイオントラップ剤を含有しないことが好ましい。
ハイドロタルサイト系化合物の、25℃から800℃まで20℃/分の昇温速度で加熱された場合の重量減少率は、10〜70%の範囲内であることが好ましい。重量減少値は、市販の熱重量・示差熱測定機(TG−DTA)で測定できる。重量減少率が前記範囲内であれば、ハイドロタルサイト系化合物における炭酸イオンと水酸物イオンとのうち少なくとも一方の含有量が高いため、組成物(X)のpHが5.0〜7.5の範囲内に維持されやすい。重量減少率が10〜50%の範囲内であれば、組成物(X)のpHが5.0〜7.5の範囲内に、更に維持されやすい。ハイドロタルサイト系化合物の、層間水の脱水が生じる温度領域(例えば、180℃〜210℃)を除く温度領域(例えば、220℃〜600℃、あるいは220℃〜800℃)での重量減少率が10%以上であればより好ましく、15%以上であれば更に好ましく、20%以上であれば特に好ましい。
組成物(X)中のハイドロタルサイト系化合物は、例えばイオンクロマトグラフ法で検出できる。組成物(X)中のハイドロタルサイト系化合物の量が200ppm以上であれば、ハイドロタルサイト系化合物をイオンクロマトグラフ法で検出可能である。組成物(X)中のハイドロタルサイト系化合物の量が200ppm以上であれば、組成物(X)のpHを5.0〜7.5の範囲内に維持する効果が十分に得られうる。
組成物(X)は、本実施形態の効果を損なわない範囲内において、上記成分以外の添加剤を含有してもよい。添加剤の例は、可撓剤、離型剤、難燃剤、着色剤、及び低応力化剤を含む。
可撓剤は、例えばシリコーン可撓剤である。シリコーン可撓剤の例は、シリコーンオイル、シリコーンゲル及びシリコーンゴムを含む。組成物(X)がシリコーン可撓剤を含有すると、封止材のリードフレームとの密着性が更に向上するとともに、封止材が更に高い耐熱性及び耐湿性を有することができ、高温高湿下において封止材にクラックが生じにくくなる。組成物(X)が可撓剤を含有する場合、組成物(X)全体に対して、可撓剤の量は0.01〜3質量%の範囲内であることが好ましい。可撓剤の量が0.01質量%以上であると、封止材のリードフレームとの密着性、封止材の耐熱性及び封止材の耐湿性が、特に高くなりうる。可撓剤の量が3質量%以下であると、封止材の耐熱性及び封止材の耐湿性が、特に高くなりうる。
離型剤は、例えばカルナバワックス、ステアリン酸、モンタン酸、カルボキシル基含有ポリオレフィン、エステルワックス、酸化ポリエチレン、及び金属石鹸からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することができる。
難燃剤は、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム及び赤リンからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することができる。
着色剤は、例えば、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン、フタロシアニン及びペリレンブラックからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することができる。
低応力化剤は、例えば、シリコーンエラストマー、シリコーンレジン、シリコーンオイル及びブタジエン系ゴムからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有することができる。ブタジエン系ゴムは、例えばアクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体及びメタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体のうち少なくとも一方の成分を含有することができる。
上記の通り組成物(X)の蛍光X線分析で測定される硫黄含有量がSO3換算で0.1質量%以下であり、0.05質量%以下であれば特に好ましく、0.025質量%以下であれば更に好ましい。そのためには、組成物(X)は硫黄化合物を含有しないことが好ましい。
上記のような組成物(X)の構成成分を混合することで、組成物(X)を調製できる。より具体的には、例えば熱硬化性成分(A)、硬化促進剤(B)、無機充填材(C)、メラミン骨格を有する化合物(D)及びイオントラップ剤(E)を含む構成成分を、ミキサー、ブレンダーなどで十分均一になるまで混合し、続いて熱ロールやニーダーなどの混練機により加熱されている状態で溶融混合してから、室温に冷却する。これにより得られた混合物を公知の手段で粉砕することで、粉体状の組成物(X)を製造できる。組成物(X)は粉体状でなくてもよく、例えばタブレット状であってもよい。タブレット状である場合の組成物(X)は成形条件に適した寸法と質量を有することが好ましい。
組成物(X)は、25℃で固体である。このため、組成物(X)を射出成形法、トランスファ成形法、圧縮成形法などの加圧成形法で成形することで、封止材62を作製できる。組成物(X)が15〜25℃の範囲内のいずれの温度でも固体であればより好ましく、5〜35℃の範囲内のいずれの温度でも固体であれば特に好ましい。
組成物(X)が固体であるためには、熱硬化性成分(A)が固体であることが好ましい。なお、熱硬化性成分(A)に液状の成分が含まれているなどして、組成物(X)に液状の成分が含まれていても、組成物(X)中の固体状の成分が液状の成分を吸収するなどにより、組成物(X)が全体として固体とみなされるならばよい。
組成物(X)の25℃での弾性率は、0.3MPa以上であることが好ましい。この場合、組成物(X)を射出成形法、トランスファ成形法、圧縮成形法などの加圧成形法で成形しやすい。弾性率は0.3〜350000MPaの範囲内であることが好ましい。なお、組成物(X)の弾性率は、組成物(X)の組成を本実施形態の範囲内で適宜設定することで制御できる。
組成物(X)の120℃でのスパイラルフロー長さは1cm以上であることが好ましい。この場合、組成物(X)の成形時の流動性が良好になる。このスパイラルフロー長さが1〜200cmの範囲内であることが好ましい。組成物(X)の160℃でのスパイラルフロー長さが20〜250cmの範囲内であることも好ましい。この場合、成形時の組成物(X)の流動性の悪化に起因する封止材62の未充填、いわゆるウェルドボイド、が発生しにくいと共に、成形時に半導体素子50とリードフレーム52を接続しているワイヤ56がダメージを受けにくい。なお、組成物(X)のスパイラルフロー長さは、組成物(X)の組成を本実施形態の範囲内で適宜設定することで制御できる。
組成物(X)のゲルタイムは、10〜100秒の範囲内であることが好ましい。この場合、封止材62を作製する場合の成形サイクルが特に短くなり、半導体装置1の生産性が特に高くなる。なお、ゲルタイムは、JSRトレーディング株式会社製のキュラストメータVPS型を用いて、組成物(X)を175℃で加熱しながらトルクを測定した場合に、加熱開始時からトルクの測定値が0.05(N/m)に達するまでに要する時間と定義される。本実施形態では、上述の通りゲルタイムの長大化を抑制しながら、封止材とメッキ層を有するリードフレームとの高い密着性を確保できるため、組成物(X)のゲルタイムを10〜100秒の範囲内に調整することが容易である。
組成物(X)から作製された封止材62を備える半導体装置1、及びその製造方法の例について説明する。
半導体装置1は、例えばMini、Dパック、D2パック、To22O、To3P、デュアル・インライン・パッケージ(DIP)といった、挿入型パッケージ、又はクワッド・フラット・パッケージ(QFP)、スモール・アウトライン・パッケージ(SOP)、スモール・アウトライン・Jリード・パッケージ(SOJ)といった、表面実装型のパッケージである。
図1に、本実施形態における半導体装置1の断面図を示す。この半導体装置1は、金属製のリードフレーム52と、リードフレーム52に搭載されている半導体素子50と、半導体素子50とリードフレーム52とを電気的に接続するワイヤ56と、半導体素子50を封止する封止材62とを備える。
本実施形態では、リードフレーム52は、ダイパッド58、インナーリード521及びアウターリード522を備える。リードフレーム52は、例えば銅製又は42アロイなどの鉄合金製である。リードフレーム52は、銅製又は42アロイなどの鉄合金製の主体53と、主体53を覆うメッキ層54とを備えることが好ましい。この場合、リードフレーム52の腐食が抑制される。メッキ層54は、銀、ニッケル及びパラジウムのうち少なくとも一種の成分を含むことが好ましい。メッキ層54は、銀、ニッケル及びパラジウムのうちいずれか一種の金属のみを含んでもよく、銀、ニッケル及びパラジウムのうち少なくとも一種の金属を含む合金を含んでもよい。メッキ層54が積層構造を有してもよく、具体的には例えばパラジウム層、ニッケル層及び金層からなる積層構造を有してもよい。メッキ層54の厚みは例えば1〜20μmの範囲内であるが、特にこれに制限されない。
リードフレーム52のダイパッド58上に半導体素子50を適宜のダイボンド材60で固定する。これによりリードフレーム52に半導体素子50を搭載する。半導体素子50は、例えば集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード又は固体撮像素子である。半導体素子50は、SiC、GaN等の新規のパワーデバイスであってもよい。
続いて、半導体素子50とリードフレーム52におけるインナーリード521とを、ワイヤ56で接続する。ワイヤ56は、金製でもよいが、銅と銀のうち少なくとも一方を含んでもよい。例えばワイヤ56は銀製又は銅製でもよい。ワイヤ56が銅と銀のうち少なくとも一方を含む場合、ワイヤ56はパラジウムなどの金属の薄膜でコートされていてもよい。
続いて、組成物(X)を成形することで、半導体素子50を封止する封止材62を形成する。封止材62はワイヤ56も封止している。封止材62はダイパッド58及びインナーリード521も封止し、そのため封止材62は、リードフレーム52と接しており、リードフレーム52がメッキ層54を備える場合はメッキ層54と接している。
封止用組成物を加圧成形法で成形することで封止材62を作製することが好ましい。加圧成形法は、例えば射出成形法、トランスファ成形法又は圧縮成形法である。
封止材62をトランスファ成形法で作製する方法の一例を、図3A及び図3Bに概略的に示す。この例では、半導体素子50が搭載されたリードフレーム52を、図3Aに示すようにトランスファ成形用の金型31内に配置する。この状態で符号4で示す組成物(X)を加熱して溶融させてから金型31内に射出する。金型31内で組成物(X)を更に加熱することで、組成物(X)を硬化させる。これにより、封止材62が作製され、リードフレーム52、半導体素子50、ワイヤ56及び封止材62を備える半導体装置1が得られる。続いて金型31を開いて、図3Bに示すように金型31から半導体装置1を取り出す。
封止材62を圧縮成形法で作製する方法の一例を、図4A及び図4Bに概略的に示す。この例では、図4Aに示すように、圧縮成形用の金型32を構成する上型33と下型34との間に、半導体素子50が搭載されたリードフレーム52と符号4で示す組成物(X)とを配置する。続いて、上型33と下型34とを加熱しながら、上型33と下型34とを近づける。これにより組成物(X)を金型32内で加圧しながら加熱することで硬化させる。これにより、封止材62が作製され、リードフレーム52、半導体素子50、ワイヤ56及び封止材62を備える半導体装置1が得られる。続いて金型32を開いて、図4Bに示すように金型32から半導体装置1を取り出す。
組成物(X)を加圧成形法で成形する際の成形圧力は3.0MPa以上であることが好ましく、成形温度は120℃以上であることが好ましい。この場合、未充填、いわゆるウェルドボイドや内部ボイド、が少なく均一な封止材62で半導体素子50が封止された、半導体装置1を得ることができる。
特にトランスファ成形法の場合は、金型への組成物(X)の注入圧力が3MPa以上であることが好ましく、4〜710MPaの範囲内であれば更に好ましい。また、加熱温度(金型温度)は120℃以上であることが好ましく、160〜190℃の範囲内であれば更に好ましい。また、加熱時間は30〜300秒の範囲内であることが好ましく、60〜180秒の範囲内であれば更に好ましい。
トランスファ成形法では、金型内で封止材62を作製した後、金型を閉じたままで封止材62を加熱することにより後硬化(ポストキュア)を行ってから、金型を開いて半導体装置1を取り出すことが好ましい。後硬化のための加熱条件は、例えば加熱時間が160〜190℃の範囲内、加熱時間が2〜8時間の範囲内である。
圧縮成形の場合は、圧縮圧力が3MPa以上であることが好ましく、5.0〜10MPaの範囲内であれば更に好ましい。加熱温度(金型温度)は120℃以上であることが好ましく、150〜185の範囲内であれば更に好ましい。加熱時間は60〜300秒の範囲内であることが好ましい。
本実施形態で得られた半導体装置1では、組成物(X)が硫黄化合物を含まず或いは硫黄化合物の含有量が低いにもかかわらず、リードフレーム52がメッキ層54を備えていても、封止材62はリードフレーム52と高い密着性を有する。このため、半導体装置1が加熱された場合及び半導体装置1に振動が加えられた場合でも、リードフレーム52から封止材62が剥離しにくい。
また、組成物(X)が硫黄化合物を含まず或いは硫黄化合物の含有量が低いため、高温下及び高湿下であっても、封止材62に接するワイヤ56が腐食されにくい。このため高温下及び高湿下で半導体装置1に導通不良及び断線が生じにくく、このため半導体装
置1は高い信頼性を有する。
また、組成物(X)には、密着性向上に伴うゲルタイムの長大化が起こりにくいため、封止材62の作製時における成形サイクルの短縮化が可能であり、このため半導体装置1の生産効率を高くできる。
以下に、実施例により本実施形態の効果を更に詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されない。
1.組成物の調製
次のようにして、組成物である実施例1〜10及び比較例1〜11を調製した。
後掲の表1〜3に示す成分を、ブレンダーで30分間混合してから、80℃に加熱した二本ロールで加熱混練し、得られた混合物を冷却してから粉砕した。これにより得られた粉体を打錠することで、タブレット状の組成物を得た。
なお、表1〜3に示す成分の詳細は次の通りである。
・充填剤:球状溶融シリカ、電気化学工業製、品番FB940。
・シランカップリング剤A:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、信越シリコーン製、品番KBM803。
・シランカップリング剤B:N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、信越シリコーン製、品番KBM573。
・エポキシ樹脂A:ビフェニル・アラルキル型エポキシ樹脂、日本化薬製、品番NC3000、エポキシ当量275。
・エポキシ樹脂B:ビフェニル型エポキシ樹脂、三菱化学製、品番YX4000、エポキシ当量186。
・エポキシ樹脂C:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、DIC製、品番N−660、エポキシ当量207。
・フェノールノボラック樹脂:明和化成製、品番HF−1M。
・フェノールアラルキル樹脂:明和化成製、品番MEH−7800。
・ビフェニルアラルキル樹脂:明和化成製、品番MEH−7851SS。
・シアネートエステル樹脂:ロンザジャパン製、品番BADCY。
・イミダゾール:四国化成工業株式会社、品番2PZ−PW。
・離型剤:カルナバワックス。
・イオントラップ剤A:炭酸イオンと水酸化物イオン有するアルミニウム・マグネシウム系化合物、東亞合成製、品番IXE770。
・イオントラップ剤B:水酸化物イオン有する非アルミニウム・マグネシウム系化合物、東亞合成製、品番IXE500。
・イオントラップ剤C:炭酸イオンも水酸化物イオンも有さない非アルミニウム・マグネシウム系化合物、東亞合成製、品番IXE300。
・硬化促進剤A:トリフェニルホスフィン、北興化学株式会社製、
・硬化促進剤B:1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7。
・顔料:三菱化学製、品番MA600。
・メラミン骨格を有する化合物A:四国化成工業株式会社製、品番2MZA。
・メラミン骨格を有する化合物B:四国化成工業株式会社製、品番VD3。
・メラミン骨格を有する化合物C:四国化成工業株式会社製、品番VD4。
・メラミン骨格を有する化合物D:日産化学工業株式会社製、品番CP−9017SD。
・4,4’−ジチオモルホリン:東京化成工業製、融点125℃。
2.評価試験
組成物に対し、次の評価試験を実施した、これらの結果は後掲の表1〜3に示す。
2−1.SO3換算硫黄量評価
組成物に対して蛍光X線分析を実施し、その結果に基づいて、組成物の硫黄含有量を、SO3換算量として算出した。
2−2.ゲルタイム評価
JSRトレーディング株式会社製のキュラストメータVPS型を用いて、組成物を175℃で加熱しながらトルクを測定した。加熱開始時からトルクの測定値が0.05(N/m)に達するまでに要した時間を調査し、この時間をゲルタイムとした。
2−3.pH評価
組成物を、金型温度170℃で成形してから、175℃で6時間加熱することで後硬化させた。これにより、直径60mm、厚み2mmの円盤状の成形体を作製した。この成形体をスタンプミルで粉砕してから、目開き150μmのメッシュの篩いにかけた。篩いを通過した粉体をpH測定用のサンプルとした。このサンプル5gを、テフロン(登録商標)製の容器に入れてからメタノール4mLで湿らせた。続いて、容器にイオン交換水46mLを加えてから120℃で24時間加熱した。これによりpH測定用検液を得た。この検液の温度を25℃±1℃に保った状態で、検液のpHをpHメーターで測定した。
2−4.ショアD硬度評価
組成物をトランスファ成形法で、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、成形時間90秒の条件で成形してから、175℃、6時間の条件で後硬化させることで、厚み3mmの円盤状のサンプルを作製した。このサンプルのショアD硬度を硬度計で測定した。
なお、ショアD硬度が80未満であると、金型から成形品を取り出しにくくなる、いわゆる離型不良が発生する。
2−5.密着性評価
組成物を銀製の板上で、トランスファ成形法で金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、成形時間90秒の条件で成形してから、175℃、6時間の条件で後硬化させることで、硬化物を作製した。この硬化物と板との間の密着力を、Dage社製のボンドテスターで測定した。なお、リードフレームが銀を含むメッキ層を備える場合に、半導体装置のリフロー時に封止材がリードフレームから剥離しにくくなるためには、この密着力が25MPa以上であることが好ましい。パラジウム製の板とニッケル製の板の各々を用いた場合にも、同様の評価試験を行った。これらの結果を、表1〜3中の「Ag密着性」、「Pd密着性」及び「Ni密着性」の欄に、それぞれ示す。
2−6.耐リフロー性評価
銅製であって部分的に銀メッキ層を備えるリードフレームに半導体素子を搭載し、リードフレーム上で組成物を金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、成形時間90秒の条件で成形してから、175℃、6時間の条件で後硬化させることで封止材を作製した。これにより、半導体装置として28mm×28mmの寸法の矩形状のLQFP(ロー・プロファイル・クアッド・フラット・パッケージ)を作製した。この半導体装置を恒温恒湿機で制御された60℃60%RHの雰囲気中に120時間放置することで、吸湿処理を行った。続いて、遠赤外線式リフロー炉を用いて、半導体装置にピーク温度265℃の条件でリフロー処理を施した。続いて、超音波探査装置を用いて半導体装置における封止材とリードフレームとの間の剥離の有無を確認した。剥離が確認されない場合を「良」、剥離が確認された場合を「不良」と評価した。
2−7.信頼性評価A
銅合金(株式会社神戸製鋼所製、品名KFC−H)製で部分的に銀メッキ層を備えるリードフレームに半導体素子を搭載し、リードフレームと半導体素子とを銅製のワイヤで接続した。続いて、リードフレーム上で組成物をトランスファ成形法で金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、成形時間90秒の条件で成形してから、175℃、6時間の条件で後硬化させることで封止材を作製した。これにより半導体装置としてDIP 16pinを作製した。この半導体装置を乾燥機に配置して250℃に2000時間保ちながら、半導体装置の端子間の電気抵抗を測定した。電気抵抗の測定値が初期値の1.5倍になるまでに要した時間を調査した。なお、2000時間経過しても電気抵抗値が初期値の1.5倍に達しなかった場合は、「良」と評価した。
2−8.信頼性評価B
「信頼性評価A」の場合と同じ条件で、半導体装置を作製した。この半導体装置に、130℃、85%RHの条件でバイアスなし高度加速ストレス試験(UHAST)を2000時間実施しながら、半導体装置の端子間の電気抵抗を測定し、電気抵抗の測定値が初期値の1.5倍になるまでに要した時間を調査した。なお、2000時間経過しても電気抵抗値が初期値の1.5倍に達しなかった場合は、「良」と評価した。