<本発明に係る車両の制動制御装置の全体構成>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置BCSについて説明する。以下の説明で、同一の記号が付された部材、演算処理、信号等は、同一の機能を発揮するものであり、重複説明は、省略されることがある。
制動制御装置BCSを備える車両には、制動操作部材BP、操作量取得手段BPA、制御手段CTL、マスタシリンダMCL、ストロークシミュレータSSM、シミュレータ遮断弁VSM、加圧ユニットKAU、切替弁VKR、マスタシリンダ配管HMC、ホイールシリンダ配管HWC、加圧シリンダ配管HKCが備えられる。さらに、車両の各々の車輪WHには、ブレーキキャリパCRP、ホイールシリンダWC、回転部材KTB、及び、摩擦部材MSBが備えられている。
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、車輪WHの制動トルクが調整され、車輪WHに制動力が発生される。具体的には、車両の車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTBが固定される。回転部材KTBを挟み込むようにブレーキキャリパCRPが配置される。そして、ブレーキキャリパCRPには、ホイールシリンダWCが設けられている。ホイールシリンダWC内の制動液の圧力が増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSBが、回転部材KTBに押し付けられる。回転部材KTBと車輪WHとは、固定シャフトDSFを介して固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルク(制動力)が発生される。
操作量取得手段(操作量センサ)BPAは、制動操作部材BPに設けられる。操作量取得手段BPAによって、運転者による制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Bpaが取得(検出)される。具体的には、操作量取得手段BPAとして、マスタシリンダMCLの圧力を検出する液圧センサ、制動操作部材BPの操作変位を検出する操作変位センサ、及び、制動操作部材BPの操作力を検出する操作力センサのうちの少なくとも1つが採用される。即ち、操作量取得手段BPAは、マスタシリンダ液圧センサ、操作変位センサ、及び、操作力センサについての総称である。したがって、制動操作量Bpaは、マスタシリンダMCLの液圧、制動操作部材BPの操作変位、及び、制動操作部材BPの操作力のうちの少なくとも1つに基づいて決定される。操作量Bpaは、制御手段CTLに入力される。
制御手段(コントローラともいう)CTLは、マイクロプロセッサ等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサにプログラムされた制御アルゴリズムにて構成されている。制御手段CTLは、制動操作量Bpaに基づいて、後述する加圧ユニットKAU、遮断弁VSM、及び、切替弁VKRを制御する。具体的には、プログラムされた制御アルゴリズムに基づいて、電気モータMTR、遮断弁VSM、切替弁VKRを制御するための信号が演算され、制御手段CTLから出力される。
制御手段CTLは、操作量Bpaが所定値bp0以上になった場合に、遮断弁VSMを開位置にする駆動信号Vsmを出力するとともに、切替弁VKRが加圧シリンダ配管HKCとホイールシリンダ配管HWCとを連通状態にする駆動信号Vkrを出力する。この場合、マスタシリンダMCLはシミュレータSSMに連通状態にされ、加圧シリンダKCLはホイールシリンダWCと連通状態にされる。
制御手段CTLは、操作量Bpa、回転角Mka、及び、押圧力Fpaに基づいて、電気モータMTRを駆動するための駆動信号(Su1等)を演算し、駆動回路DRVに出力する。ここで、制動操作量Bpaは制動操作量取得手段BPA、実回転角Mkaは回転角取得手段MKA、実押圧力Fpaは押圧力取得手段FPAによって検出される。電気モータMTRで駆動される加圧ユニットKAUによって、ホイールシリンダWC内の制動液の圧力が制御(維持、増加、又は、減少)される。
マスタシリンダMCLは、制動操作部材BPと、ピストンロッドPRDを介して、接続されている。マスタシリンダMCLによって、制動操作部材BPの操作力(ブレーキペダル踏力)が、制動液の圧力に変換される。マスタシリンダMCLには、マスタシリンダ配管HMCが接続され、制動操作部材BPが操作されると、制動液は、マスタシリンダMCLからマスタシリンダ配管HMCに排出(圧送)される。マスタシリンダ配管HMCは、マスタシリンダMCLと切替弁VKRとを接続する流体路である。
ストロークシミュレータ(単に、シミュレータともいう)SSMが、制動操作部材BPに操作力を発生させるために設けられる。マスタシリンダMCL内の液圧室とシミュレータSSMとの間には、シミュレータ遮断弁(単に、遮断弁ともいう)VSMが設けられる。遮断弁VSMは、開位置と閉位置とを有する2位置の電磁弁である。遮断弁VSMが開位置にある場合には、マスタシリンダMCLとシミュレータSSMとは連通状態となり、遮断弁VSMが閉位置にある場合には、マスタシリンダMCLとシミュレータSSMとは遮断状態(非連通状態)となる。遮断弁VSMは、制御手段CTLからの駆動信号Vsmによって制御される。遮断弁VSMとして、常閉型電磁弁(NC弁)が採用され得る。
シミュレータSSMの内部には、ピストン、及び、弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。マスタシリンダMCLから制動液がシミュレータSSMに移動され、流入する制動液によりピストンが押される。ピストンには、弾性体によって制動液の流入を阻止する方向に力が加えられる。弾性体によって、制動操作部材BPが操作される場合の操作力(例えば、ブレーキペダル踏力)が形成される。
≪加圧ユニットKAU≫
加圧ユニットKAUは、電気モータMTRを動力源として、加圧シリンダ配管HKCに制動液を排出(圧送)する。そして、圧送された圧力によって、加圧ユニットKAUは、摩擦部材MSBを回転部材KTBに押し付け(押圧)して、車輪WHに制動トルク(制動力)を付与する。換言すれば、加圧ユニットKAUは、回転部材KTBに摩擦部材MSBを押し付ける力を電気モータMTRによって発生する。
加圧ユニットKAUは、電気モータMTR、駆動回路DRV、動力伝達機構DDK、加圧ロッドKRD、加圧シリンダKCL、加圧ピストンPKC、及び、押圧力取得手段FPAにて構成される。
電気モータMTRは、加圧シリンダKCL(加圧ユニットKAUの一部)がホイールシリンダWC内の制動液の圧力を調整(加圧、減圧等)するための動力源である。例えば、電気モータMTRとして、3相ブラシレスモータが採用される。電気モータMTRは、3つのコイルCLU、CLV、CLWを有し、駆動回路DRVによって駆動される。電気モータMTRには、電気モータMTRのロータ位置(回転角)Mkaを取得(検出)する回転角取得手段(回転角センサ)MKAが設けられる。回転角Mkaは、制御手段CTLに入力される。
駆動回路DRVは、電気モータMTRを駆動するためのスイッチング素子(パワー半導体デバイス)等が実装された電気回路基板である。具体的には、駆動回路DRVにはブリッジ回路BRGが形成され、駆動信号(Su1等)に基づいて、電気モータMTRへの通電状態が制御される。駆動回路DRVには、電気モータMTRへの実際の通電量(各相の通電量)Imaを取得(検出)する通電量取得手段(電流センサ)IMAが設けられる。各相の通電量(検出値)Imaは、制御手段CTLに入力される。
動力伝達機構DDKは、電気モータMTRの回転動力を減速し、且つ、直線動力に変換して加圧ロッドKRDに出力する。具体的には、動力伝達機構DDKには、減速機(図示せず)が設けられ、電気モータMTRからの回転動力が減速されてねじ部材(図示せず)に出力される。そして、ねじ部材によって、回転動力が加圧ロッドKRDの直線動力に変換される。即ち、動力伝達機構DDKは、回転・直動変換機構である。
加圧ロッドKRDには加圧ピストンPKCが固定される。加圧ピストンPKCは、加圧シリンダKCLの内孔に挿入され、ピストンとシリンダとの組み合わせが形成されている。具体的には、加圧ピストンPKCの外周には、シール部材(図示せず)が設けられ、加圧シリンダKCLの内孔(内壁)との間で液密性が確保される。即ち、加圧シリンダKCLと加圧ピストンPKCとによって区画され、制動液が充填された流体室Rkc(「加圧室Rkc」と称呼する)が形成される。
加圧シリンダKCL内にて、加圧ピストンPKCが中心軸方向に移動されることによって、加圧室Rkcの体積が変化される。この体積変化によって、制動液は、制動配管(パイプ)HKC、HWCを介して、加圧シリンダKCLとホイールシリンダWCとの間で移動される。加圧シリンダKCLからの制動液の出し入れによって、ホイールシリンダWC内の液圧が調整され、その結果、摩擦部材MSBが回転部材KTBを押圧する力(押圧力)が調整される。
例えば、押圧力取得手段FPAとして、加圧室Rkcの液圧Fpaを取得(検出)する液圧センサが、加圧ユニットKAU(特に、加圧シリンダKCL)に内蔵される。液圧センサ(押圧力取得手段に相当)FPAは、加圧シリンダKCLに固定され、加圧ユニットKAUとして一体となって構成される。押圧力の検出値Fpa(即ち、加圧室Rkcの液圧)は、制御手段(コントローラ)CTLに入力される。以上、加圧ユニットKAUについて説明した。
切替弁VKRによって、ホイールシリンダWCがマスタシリンダMCLと接続される状態と、ホイールシリンダWCが加圧シリンダKCLと接続される状態と、が切り替えられる。切替弁VKRは、制御手段CTLからの駆動信号Vkrに基づいて制御される。具体的には、制動操作が行われていない場合(Bpa<bp0)には、ホイールシリンダ配管HWCは、切替弁VKRを介して、マスタシリンダ配管HMCと連通状態にされ、加圧シリンダ配管HKCとは非連通(遮断)状態にされる。ここで、ホイールシリンダ配管HWCは、ホイールシリンダWCに接続される流体路である。制動操作が行われると(即ち、Bpa≧bp0の状態になると)、切替弁VKRが駆動信号Vkrに基づいて励磁され、ホイールシリンダ配管HWCとマスタシリンダ配管HMCとの連通は遮断され、ホイールシリンダ配管HWCと加圧シリンダ配管HKCとが連通状態にされる。
ブレーキキャリパ(単に、キャリパともいう)CRPは、車輪WHに設けられ、車輪WHに制動トルクを与え、制動力を発生させる。キャリパCRPとして、浮動型キャリパが採用され得る。キャリパCRPは、2つの摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTBを挟み込むように構成される。キャリパCRP内にて、ホイールシリンダWCが設けられる。ホイールシリンダWC内の液圧が調整されることによって、ホイールシリンダWC内のピストンが回転部材KTBに対して移動(前進、又は、後退)される。このピストンの移動によって、摩擦部材MSBが回転部材KTBに押し付けられて押圧力Fpaが発生する。
図1では、ディスク型制動装置(ディスクブレーキ)の構成が例示されている。この場合、摩擦部材MSBはブレーキパッドであり、回転部材KTBはブレーキディスクである。ディスク型制動装置に代えて、ドラム型制動装置(ドラムブレーキ)が採用され得る。ドラムブレーキの場合、キャリパCRPに代えて、ブレーキドラムが採用される。また、摩擦部材MSBはブレーキシューであり、回転部材KTBはブレーキドラムである。
また、図1では、制動液を介して、電気モータMTRの出力を摩擦部材MSBが回転部材KTBを押し付ける力(押圧力)に変換するが、制動液を介さず、直接、摩擦部材MSBが回転部材KTBを押圧する構成が採用され得る。この構成では、ホイールシリンダWCに代えて、キャリパCRPに加圧ユニットKAUが直に固定される。そして、加圧ユニットKAUの加圧ピストンPKCによって、摩擦部材MSBが、回転部材KTBに向けて押圧される。押圧力取得手段FPA(丸括弧付のFPA)は、実際の押圧力Fpaを取得するよう、動力伝達機構DDK(例えば、減速機、ねじ機構)と加圧シリンダKCLとの間に配置される。なお、該構成では、制動液は用いられないため、加圧室Rkcは形成されない。
<制御手段CTLにおける処理>
図2の機能ブロック図を参照して、制御手段(コントローラ)CTLでの処理について説明する。ここでは、電気モータMTRとして、ブラシレスモータが採用される例について説明する。
制御手段CTLによって、後述する駆動回路DRVのスイッチング素子SU1、SU2、SV1、SV2、SW1、SW2(単に、「SU1〜SW2」とも表記)を駆動するための信号Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2(単に、「Su1〜Sw2」とも表記)が演算される。制御手段CTLは、目標押圧力演算ブロックFPT、指示通電量演算ブロックIMS、押圧力フィードバック制御ブロックFFB、目標回転角演算ブロックMKT、目標回転速度演算ブロックSMT、実回転速度演算ブロックSMA、回転速度フィードバック制御ブロックSFB、目標通電量演算ブロックIMT、及び、スイッチング制御ブロックSWTにて構成される。
目標押圧力演算ブロックFPTでは、制動操作量Bpa、及び、演算特性(演算マップ)CFptに基づいて、目標押圧力Fptが演算される。ここで、目標押圧力Fptは、加圧ユニットKAUによって発生される液圧(押圧力に相当)の目標値である。具体的には、演算特性CFptにおいて、制動操作量Bpaがゼロ(制動操作が行われていない場合に対応)以上から所定値bp0未満の範囲では目標押圧力Fptが「0(ゼロ)」に演算され、操作量Bpaが所定値bp0以上では目標押圧力Fptが操作量Bpaの増加にしたがってゼロから単調増加するように演算される。ここで、所定値bp0は、制動操作部材BPの「遊び」に相当する値である。
指示通電量演算ブロックIMSでは、目標押圧力Fpt、及び、予め設定された演算特性(演算マップ)CIup、CIdwに基づいて、加圧ユニットKAUを駆動する電気モータMTRの指示通電量Ims(電気モータMTRを制御するための通電量の目標値)が演算される。指示通電量Ims用の演算マップは、動力伝達機構DDK等によるヒステリシスの影響を考慮して、目標押圧力Fptが増加する場合の特性CIupと、目標押圧力Fptが減少する場合の特性CIdwとの2つの特性で構成されている。
ここで、「通電量」とは、電気モータMTRの出力トルクを制御するための状態量(状態変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値(目標通電量)として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比(一周期における通電時間の割合)が通電量として用いられ得る。
≪押圧力フィードバック制御ブロックFFB≫
押圧力フィードバック制御ブロックFFBでは、押圧力の目標値(例えば、目標液圧)Fpt、及び、押圧力の実際値(液圧検出値)Fpaを制御の状態変数として、これらに基づいて、電気モータMTRの補償通電量Ifpが演算される。指示通電量Imsに基づく制御だけでは、押圧力に誤差が発生するため、押圧力フィードバック制御ブロックFFBでは、この誤差を補償することが行われる。押圧力フィードバック制御ブロックFFBは、比較演算、及び、押圧力補償通電量演算ブロックIPFにて構成される。
比較演算によって、押圧力の目標値Fptと実際値Fpaとが比較される。ここで、押圧力の実際値Fpaは、押圧力センサFPA(例えば、液圧センサ)によって取得(検出)される検出値である。比較演算では、目標押圧力(目標値)Fptと、実押圧力(検出値)Fpaとの偏差(押圧力偏差)eFpが演算される。押圧力偏差eFp(制御変数であり、物理量としては「圧力」)は、押圧力補償通電量演算ブロックIPFに入力される。
押圧力補償通電量演算ブロックIPFには、比例要素ブロック、微分要素ブロック、及び、積分要素ブロックが含まれる。比例要素ブロックでは、押圧力偏差eFpに比例ゲインKppが乗算されて、押圧力偏差eFpの比例要素が演算される。微分要素ブロックでは、押圧力偏差eFpが微分されて、これに微分ゲインKpdが乗算されて、押圧力偏差eFpの微分要素が演算される。積分要素ブロックでは、押圧力偏差eFpが積分されて、これに積分ゲインKpiが乗算されて、押圧力偏差eFpの積分要素が演算される。そして、比例要素、微分要素、及び、積分要素が、加算されることによって、押圧力補償通電量Ifpが演算される。即ち、押圧力補償通電量演算ブロックIPFでは、目標押圧力Fptと実押圧力Fpaとの比較結果に基づいて、実押圧力(検出値)Fpaが押圧力の目標押圧力(目標値)Fptに一致するよう(即ち、偏差eFpが「0(ゼロ)」に近づくよう)、所謂、押圧力に基づくPID制御のフィードバックループが形成されている。以上、押圧力フィードバック制御ブロックFFBについて説明した。
目標回転角演算ブロックMKTでは、目標押圧力Fpt、及び、演算特性(演算マップ)CMktに基づいて、目標回転角Mktが演算される。ここで、目標回転角Mktは、電気モータMTRの回転角の目標値である。具体的には、目標回転角Mkt用の演算特性CMktにしたがって、目標押圧力Fptの増加にともなって「0(ゼロ)」から、「上に凸」の特性で単調増加するように演算される。目標回転角Mktは、加圧ユニットKAUにおいて、目標押圧力Fptに相当する値として演算される。したがって、目標回転角Mkt用の演算特性CMktは、キャリパCRP、摩擦部材MSB等の剛性(ばね定数)、ホイールシリンダWC、加圧シリンダKCL等の諸元(受圧面積)に基づいて設定される。また、目標押圧力Fptは、操作量Bpaに基づいて演算されるため、目標回転角Mktは、操作量Bpaに基づいて演算され得る。
目標回転角演算ブロックMKTには、後述する近似関数演算ブロックKNJが含まれ得る。KNJにおいて、検出された実押圧力Fpa、及び、実回転角Mkaに基づいて、演算特性CMktが逐次更新される。
目標回転速度演算ブロックSMTでは、目標回転角Mktに基づいて、目標回転速度(回転速度の目標値)Smtが演算される。目標回転速度Smtは、目標回転角Mktの時間に対する変化量(回転角速度)であり、目標値である。目標回転速度Smtは、目標回転角Mktが時間微分されて演算される。
実回転速度演算ブロックSMAでは、実回転角Mkaに基づいて、実回転速度(回転速度の実際値)Smaが演算される。実回転速度Smaは、実回転角Mkaの時間に対する変化量(回転角速度)であり、実際値である。実回転速度Smaは、実回転角Mkaが時間微分されて演算される。
≪回転速度フィードバック制御ブロックSFB≫
回転速度フィードバック制御ブロックSFBでは、回転速度の目標値Smt、及び、実際値Sma(検出値Mkaに基づいて演算される実際値)を制御の状態変数として、これらに基づいて、電気モータMTRの補償通電量Ismが演算される。押圧力フィードバック制御をメジャループとした場合において、回転速度フィードバック制御ブロックSFBは、マイナループに相当する。したがって、回転速度フィードバック制御は、押圧力フィードバック制御を補完するものである。
回転速度フィードバック制御ブロックSFBは、押圧力フィードバック制御ブロックFFBと同様の構成を備える。回転速度フィードバック制御ブロックSFBは、比較演算、及び、回転速度補償通電量演算ブロックISMにて構成される。
比較演算によって、電気モータMTRの回転速度の目標値Smtと実際値Smaとが比較される。ここで、回転速度の実際値Smaは、回転速度センサMKAによって取得(検出)される回転角Mkaからの演算値(実際の回転速度)である。例えば、比較演算では、目標回転速度Smtと、実際の回転速度Smaとの偏差(回転速度偏差)eSmが演算される。回転速度偏差eSm(制御変数)は、回転速度補償通電量演算ブロックISMに入力される。
回転速度補償通電量演算ブロックISMには、比例要素ブロック、微分要素ブロック、及び、積分要素ブロックが含まれる。比例要素ブロックでは、回転速度偏差eSmに比例ゲインKspが乗算されて、回転速度偏差eSmの比例要素が演算される。微分要素ブロックでは、回転速度偏差eSmが微分されて、これに微分ゲインKsdが乗算されて、回転速度偏差eSmの微分要素が演算される。積分要素ブロックでは、回転速度偏差eSmが積分されて、これに積分ゲインKsiが乗算されて、回転速度偏差eSmの積分要素が演算される。そして、比例要素、微分要素、及び、積分要素が、加算されることによって、回転速度補償通電量Ismが演算される。即ち、回転速度補償通電量演算ブロックISMでは、目標回転速度Smtと実際の回転速度Smaとの比較結果に基づいて、実際の回転速度(検出値)Smaが目標回転速度(目標値)Smtに一致するよう(即ち、偏差eSmが「0(ゼロ)」に収束するよう)、所謂、回転速度に基づくPID制御のフィードバックループが形成されている。以上、回転速度フィードバック制御ブロックSFBについて説明した。
目標通電量演算ブロックIMTでは、指示通電量(目標値)Imsと、押圧力補償通電量Ifp、及び、回転速度補償通電量Ismに基づいて、通電量の最終的な目標値である目標通電量Imtが演算される。具体的には、指示通電量Imsに対して、押圧力補償通電量Ifp、及び、回転速度補償通電量Ismが加えられ、それらの和が目標通電量Imtとして演算される(即ち、Imt=Ims+Ifp+Ism)。
目標通電量演算ブロックIMTでは、電気モータMTRの回転すべき方向(即ち、押圧力の増減方向)に基づいて、目標通電量Imtの符号(値の正負)が決定される。また、電気モータMTRの出力すべき回転動力(即ち、押圧力の増減量)に基づいて、目標通電量Imtの大きさが演算される。具体的には、制動圧力を増加する場合には、目標通電量Imtの符号が正符号(Imt>0)に演算され、電気モータMTRが正転方向に駆動される。一方、制動圧力を減少させる場合には、目標通電量Imtの符号が負符号(Imt<0)に決定され、電気モータMTRが逆転方向に駆動される。さらに、目標通電量Imtの絶対値が大きいほど電気モータMTRの出力トルク(回転動力)が大きくなるように制御され、目標通電量Imtの絶対値が小さいほど出力トルクが小さくなるように制御される。
スイッチング制御ブロックSWTでは、目標通電量Imtに基づいて、各スイッチング素子SU1〜SW2についてパルス幅変調を行うための駆動信号Su1〜Sw2が演算される。電気モータMTRがブラシレスモータである場合、目標通電量Imt、及び、回転角Mkaに基づいて、各相(U相、V相、W相)の通電量の目標値Iut、Ivt、Iwtが演算される。各相の目標通電量Iut、Ivt、Iwtに基づいて、各相のパルス幅のデューティ比(一周期に対するオン時間の割合)Dut、Dvt、Dwtが決定される。そして、デューティ比(目標値)Dut、Dvt、Dwtに基づいて、ブリッジ回路BRGを構成する各スイッチング素子SU1〜SW2をオン状態(通電状態)にするか、或いは、オフ状態(非通電状態)にするかの駆動信号Su1〜Sw2が演算される。駆動信号Su1〜Sw2は、駆動回路DRVに出力される。そして、電気モータMTRへの通電量が、目標通電量Imtと一致するように調整(制御)される。
6つの駆動信号Su1〜Sw2によって、6つのスイッチング素子SU1〜SW2の通電、又は、非通電の状態が、個別に制御される。ここで、デューティ比が大きいほど、各スイッチング素子において、単位時間当りの通電時間が長くされ、より大きな電流がコイルに流される。したがって、電気モータMTRの回転動力が大とされる。
駆動回路DRVには、各相に通電量取得手段(例えば、電流センサ)IMAが備えられ、実際の通電量(各相の総称)Imaが取得(検出)される。各相の検出値(例えば、実際の電流値)Imaは、スイッチング制御ブロックSWTに入力される。そして、各相の検出値Imaが、目標値Iut、Ivt、Iwtと一致するよう、所謂、電流フィードバック制御が実行される。具体的には、各相において、実際の通電量Imaと目標通電量Iut、Ivt、Iwtとの偏差に基づいて、デューティ比Dut、Dvt、Dwtが修正(微調整)される。この電流フィードバック制御によって、高精度なモータ制御が達成され得る。
<押圧力フィードバック制御の他の実施形態>
図3の機能ブロック図を参照して、押圧力フィードバック制御の他の実施形態について説明する。ホイールシリンダWCの制動液の圧力(液圧)とモータ回転角とは、キャリパCRP等の剛性、加圧シリンダKCL等の諸元を介して相関関係がある。このため、他の実施形態では、押圧力フィードバック制御を補完するよう、回転角フィードバック制御が付加される。以下、上記の実施形態と相違する部分を中心に説明する。
上述したように、目標回転角演算ブロックMKTでは、目標押圧力Fpt、及び、演算特性(演算マップ)CMktに基づいて、目標回転角Mktが演算される。加えて、目標回転角演算ブロックMKTには、近似関数演算ブロックKNJが含まれている。近似関数演算ブロックKNJでは、実押圧力Fpa、及び、実回転角Mkaに基づいて、近似関数Knjが演算される。近似関数Knjが、新たな演算マップCMkt(Fpt−Mkt特性)として、更新され、設定される。近似関数演算ブロックKNJでの処理については、図4を参照して後述する。
押圧力取得手段FPAとしてアナログ式センサが採用される場合、アナログ・デジタル変換処理ブロックADHにて、押圧力取得手段FPAの検出結果(アナログ値)が、デジタル値に変換されて、実押圧力Fpaが、制御手段CTLに読み込まれる。アナログ・デジタル変換処理ブロックADHでは、所謂、アナログ・デジタル変換(AD変換ともいう)が行われる。このとき、変換手段ADHのビット数によって、押圧力Fpaの分解能(最下位ビット、LSB:Least Significant Bit)が決定される。例えば、アナログ・デジタル変換処理ブロックADHが10ビットである場合、押圧力取得手段FPAの出力は、そのダイナミックレンジにおいて、2の10乗に分割されたデジタル値として、制御手段CTLに取り込まれる。
この場合、押圧力フィードバック制御ブロックFFBでは、押圧力の目標値(例えば、目標液圧)Fpt、及び、AD変換後の押圧力の実際値(液圧検出値)Fpaを制御の状態変数として、これらに基づいて、電気モータMTRの補償通電量Ifpが演算される。
≪回転角フィードバック制御ブロックMFB≫
回転角フィードバック制御ブロックMFBでは、回転角の目標値(目標回転角)Mkt、及び、回転角の実際値(検出値)Mkaを制御の状態変数として、これらに基づいて、電気モータMTRの補償通電量Imkが演算される。回転角フィードバック制御ブロックMFBは、押圧力フィードバック制御ブロックFFBと同様の構成である。回転角フィードバック制御ブロックMFBは、比較演算、及び、回転角補償通電量演算ブロックIMKにて構成される。
比較演算によって、電気モータMTRの回転角の目標値(目標回転角)Mktと実際値(検出値)Mkaとが比較される。ここで、回転角の実際値Mkaは、回転角センサMKAによって取得(検出)される回転角の検出値(実際の回転角)である。例えば、比較演算では、目標回転角(目標値)Mktと、実際の回転角(検出値)Mkaとの偏差(回転角偏差)eMkが演算される。回転角偏差eMk(制御変数)は、回転角補償通電量演算ブロックIMKに入力される。
回転角補償通電量演算ブロックIMKには、比例要素ブロック、微分要素ブロック、及び、積分要素ブロックが含まれる。比例要素ブロックでは、回転角偏差eMkに比例ゲインKmpが乗算されて、回転角偏差eMkの比例要素が演算される。微分要素ブロックでは、回転角偏差eMkが微分されて、これに微分ゲインKmdが乗算されて、回転角偏差eMkの微分要素が演算される。積分要素ブロックでは、回転角偏差eMkが積分されて、これに積分ゲインKmiが乗算されて、回転角偏差eMkの積分要素が演算される。そして、比例要素、微分要素、及び、積分要素が、加算されることによって、回転角補償通電量Imkが演算される。即ち、回転角補償通電量演算ブロックIMKでは、目標回転角Mktと実際の回転角Mkaとの比較結果に基づいて、実際の回転角(検出値)Mkaが目標回転角(目標値)Mktに一致するよう(即ち、偏差eMkが「0(ゼロ)」に収束するよう)、所謂、回転角に基づくPID制御のフィードバックループが形成されている。以上、回転角フィードバック制御ブロックMFBについて説明した。
≪合成補償通電量演算ブロックIGH≫
合成補償通電量演算ブロックIGHでは、押圧力補償通電量Ifpと回転角補償通電量Imkとが合成されて、最終的な補償通電量である、合成補償通電量Ighが演算される。上述したように、押圧力補償通電量Ifpと、回転角補償通電量Imkとは、夫々が対応するものであるため、押圧力補償通電量Ifpが押圧力係数Kfpによって調整され、回転角補償通電量Imkが回転角係数Kmkによって調整され、最終的に、合成補償通電量Ighが演算される。
先ず、合成補償通電量演算ブロックIGHでは、目標押圧力Fpt、及び、押圧力係数の演算特性(演算マップ)CKfpに基づいて、押圧力補償通電量Ifpを修正するための係数Kfpが演算される。具体的には、目標押圧力Fptが、「0(ゼロ)」以上、下方値fps未満の範囲(「0≦Fpt<fps」の条件)では、押圧力係数Kfpは「0(ゼロ)」に演算される。目標押圧力Fptが、下方値fps以上、上方値fpu未満の範囲(「fps≦Fpt<fpu」の条件)では、目標押圧力Fptの増加にしたがって、押圧力係数Kfpは「0」から「1」に単調増加するように演算される。そして、目標押圧力Fptが、上方値fpu以上の場合(「Fpt≧fpu」の条件)には、押圧力係数Kfpは「1」に演算される。ここで、下方値fps、及び、上方値fpuは、予め設定された所定値(判定用のしきい値)であり、上方値fpuは下方値fps以上の値である。換言すれば、下方値fpsは上方値fpu以下の値である。例えば、押圧力フィードバック制御の滑らかな遷移(例えば、制御禁止から制御実行への遷移)のため、上方値fpuは、下方値fpsよりも所定値fp0だけ大きい値として設定され得る。
同様に、合成補償通電量演算ブロックIGHでは、目標押圧力Fpt、及び、回転角係数の演算特性(演算マップ)CKmkに基づいて、回転角補償通電量Imkを修正するための係数Kmkが演算される。具体的には、目標押圧力Fptが、「0(ゼロ)」以上、下方値fps未満の範囲(「0≦Fpt<fps」の条件)では、回転角係数Kmkは「1」に演算される。目標押圧力Fptが、下方値fps以上、上方値fpu未満の範囲(「fps≦Fpt<fpu」の条件)では、目標押圧力Fptの増加にしたがって、回転角係数Kmkは「1」から「0」に単調減少するように演算される。そして、目標押圧力Fptが、上方値fpu以上の場合(「Fpt≧fpu」の条件)には、回転角係数Kmkは「0(ゼロ)」に演算される。上記同様、下方値fps、及び、上方値fpuは、予め設定された所定値(判定用のしきい値)であり、上方値fpuは下方値fps以上の値である(下方値fpsは上方値fpu以下の値である)。例えば、回転角フィードバック制御の滑らかな遷移(例えば、制御実行から制御禁止への遷移)のため、上方値fpuは、下方値fpsよりも所定値fp0だけ大きい値として設定され得る。ここで、押圧力係数Kfpと回転角係数Kmkとの関係は、合計すると「1」にされる(Kfp+Kmk=1)。
そして、合成補償通電量演算ブロックIGHでは、押圧力係数Kfp、及び、回転角係数Kmkに基づいて、押圧力補償通電量Ifpと回転角補償通電量Imkとが合成されて、合成補償通電量Ighが演算される。即ち、合成補償通電量の演算では、押圧力係数Kfpによって、押圧力補償通電量Ifpの影響度(寄与度ともいう)が考慮され、回転角係数Kmkによって、回転角補償通電量Imkの影響度が勘案される。具体的には、「押圧力補償通電量Ifpに押圧力係数(押圧力影響度)Kfpが乗算されたもの」と、「回転角補償通電量Imkに回転角係数(回転角影響度)Kmkが乗算されたもの」とが足し合わされて、合成補償通電量Ighが演算される(Igh=(Kfp・Ifp)+(Kmk・Imk))。例えば、「Kfp=0.3、Kmk=0.7」である場合、合成補償通電量Ighにおいて、押圧力補償通電量Ifpの影響度は30%であり、回転角補償通電量Imkの影響度は70%である。
目標押圧力Fptが小さく、「0≦Fpt<fps」である場合には、「Kfp=0、Kmk=1(回転角補償通電量Imkの寄与度が100%)」に演算されるため、合成補償通電量Ighの演算には、押圧力補償通電量Ifpが採用されず、回転角補償通電量Imkのみが採用される。フィードバック制御において、実押圧力Fpaの寄与度はゼロにされ、回転角Mkaの寄与度が全てとされる。即ち、押圧力フィードバック制御は禁止され、回転角フィードバック制御のみが実行され、これによって電気モータMTRの出力が微調整される。
目標押圧力Fptが相対的に大きくなり、「fps≦Fpt<fpu」である場合には、目標押圧力Fptの増加にしたがって、押圧力係数Kfpは「0」から増加され、回転角係数Kmkは「1」から減少されて演算される。このため、合成補償通電量Ighは、係数Kfp、Kmkによって、回転角補償通電量Imk(即ち、回転角Mka)、押圧力補償通電量Ifp(即ち、実押圧力Fpa)の影響度が夫々加味されて演算される。即ち、押圧力フィードバック制御、回転角フィードバック制御の両者が実行され、電気モータMTRの出力が微調整される。
目標押圧力Fptが大きく、「Fpt≧fpu」である場合には、「Kfp=1、Kmk=0(押圧力補償通電量Ifpの寄与度が100%)」に演算されるため、合成補償通電量Ighの演算には、回転角補償通電量Imkが採用されず、押圧力補償通電量Ifpのみが採用される。フィードバック制御において、回転角Mkaの寄与度はゼロにされ、実押圧力Fpaの寄与度が全てとされる。即ち、回転角フィードバック制御は禁止され、押圧力フィードバック制御のみが実行され、これによって電気モータMTRの出力が微調整される。
このように、2つのフィードバック制御ループが、目標押圧力Fptに基づいて調整されるため、目標押圧力Fptが大きい場合には、押圧力(制動液圧)に係るフィードバック制御ループのみが有効とされ、押圧力の大きさの一致精度が確保され得る。一方、目標押圧力Fptが小さい場合には、回転角に係るフィードバック制御ループのみが有効とされ、フィードバック制御に検出された押圧力Fpaが採用されない。このため、押圧力の解像度が高い、滑らかな制御が行われ得る。加えて、目標押圧力Fptの変化にともなって、係数Kfp、Kmkは徐々に変更されるため、2つのフィードバック制御の相互遷移が円滑化され得る。
なお、目標押圧力Fptは、制動操作量Bpaに基づいて演算されるため、係数Kfp、Kmkを演算する各特性CKfp、Ckmkにおいて、目標押圧力Fptに代えて、操作量Bpaが採用され得る。ここで、制動操作量Bpa、及び、目標押圧力Fptが、「操作量相当値」と称呼される。即ち、係数Kfp、Kmkは、操作量相当値に基づいて演算される。以上、合成補償通電量演算ブロックIGHについて説明した。
目標通電量演算ブロックIMTでは、指示通電量(目標値)Ims、及び、合成補償通電量(フィードバック制御による補償量)Igh、回転速度補償通電量Ismに基づいて、通電量の最終的な目標値である目標通電量Imtが演算される。具体的には、指示通電量Imsに対して、合成補償通電量Igh、及び、回転速度補償通電量Ismが加えられ、それらの和が目標通電量Imtとして演算される(即ち、Imt=Ims+Igh+Ism)。そして、図2を参照して説明した実施形態と同様に、スイッチング制御ブロックSWTにて電気モータMTRの駆動信号Su1〜Sw2が決定される。そして、電気モータMTRへの通電量(例えば、実電流Ima)が、目標通電量Imtと一致するように調整(制御)される。
<演算マップCMktの多項式近似>
図4の特性図を参照して、近似関数演算ブロックKNJの処理について説明する。近似関数演算ブロックKNJには、アナログ・デジタル変換処理ブロックADHの出力値Fpa、及び、回転角取得手段MKAの検出値Mkaが、同期して記憶されている。記憶された時系列データに基づいて、演算マップCMktが作製される。演算マップCMkt(Fpt−Mkt特性)は、キャリパCRP、摩擦部材MSB等の剛性(ばね定数)、ホイールシリンダWC、加圧シリンダKCL等の諸元(受圧面積)に基づいて、初期特性として設定することが可能ではある。しかしながら、摩擦部材MSBの剛性は、摩耗のため経年変化する。このため、演算マップCMktは、実押圧力Fpa、実回転角Mkaの相互関係に基づいて、例えば、一連の制動操作毎に演算マップCMktが作製され、逐次更新される。ここで、「一連の制動操作」とは、制動操作の開始時から終了時までを指す。演算マップCMktは、次数が「2」以上の多項式として設定される。
目標回転角演算ブロックMKTには、近似関数演算ブロックKNJが形成される。近似関数演算ブロックKNJでは、実押圧力Fpa、及び、実回転角Mkaに基づいて、近似関数Knjが演算される。具体的には、実押圧力Fpaと実回転角Mkaとが時間的に同期されて計測され、時系列のデータ群として記憶される。このデータ群が、事後的な処理(制動操作の開始時点から終了時点までの一連の制動操作後の処理)によって、実押圧力Fpaに対する実回転角Mkaが、2次以上の多項式として近似される。ここで、近似された実押圧力Fpaと実回転角Mkaとの関係が、「近似関数Knj」と称呼される。
実押圧力Fpaは、アナログ・デジタル変換処理ブロックADHでの処理を経て、制御手段CTLに入力されるため、破線で示すような、「1(単位)」LSB毎の階段状の値として検出される。実押圧力Fpaと実回転角Mkaとの関係が、多項式の近似関数Knjで表現されるため、LSB(最下位ビットであり、信号の分解能)によって生じる階段状のデータが補間される。
また、検出信号には、点Qで示すような、ノイズの影響も考えられ得る。ノイズの影響は、フィルタによっても補償され得る。しかし、フィルタを使用すると、検出値が時間的に遅れ、相対的に速い制動操作への対応が困難となり得る。近似関数Knjによって、記憶データが平滑化されるため、速い制動操作に対しても、実押圧力Fpaと実回転角Mkaとの相互関係が、正確に取得され得る。
近似関数Knjが、次回以降の制動操作に利用され得るよう、新たな演算マップCMktとして設定される。実押圧力Fpaが目標押圧力Fptに置き換えられ、実回転角Mkaが目標回転角Mktに置き換えられて、更新された演算マップCMktが決定される。即ち、目標回転角Mktは、目標押圧力Fptを変数とした、原点を通り(即ち、Fpt=0のとき、Mkt=0)、且つ、2次以上の多項式で表現される関数マップとして設定される。このように、一連の制動操作において、近似関数Knjが演算され、次回の制動操作における演算マップCMktとして逐次更新されていくため、摩擦部材MSB等の経年変化による演算マップのズレが補償され得る。
近似関数Knjとして、3次以上の多項式が採用される場合には、図示するように、目標押圧力Fptの増加に対して目標回転角Mktが単調増加とはならない場合がある。このため、少なくとも、関数マップCMktが必要とされる区間において、近似関数Knjが単調増加関数として設定される。具体的には、近似演算処理において、目標押圧力Fptが「0」から上方値fpu(合成補償通電量Ighの演算において回転角補償通電量Imkの影響度Kmkが「0」となる値)までの区間(正確には、「0」を含み、「所定値fpu」を含まない区間)で、目標回転角Mktが単調増加するように多項式の各係数が決定される。換言すれば、0≦Fpt<fpuの範囲で、Fpt−Mkt特性は変曲点を持たない(1次導関数が極値をとらない)。したがって、近似関数Knjが変曲点をもったとしても、そのときの押圧力Fptは、上方値fpu以上である(「Fpt=fph」の点Hを参照)。
例えば、近似関数Knjとして3次多項式(次数が「3」である多項式)が採用される場合には、演算マップCMktは、「Fpt=a・Mkt3+b・Mkt2+c・Mkt」で表現される。ここで、0≦Fpt≦fpuの区間で、目標押圧力Fptが単調増加するように係数a、b、cが決定される。演算マップCMktが単調増加関数として設定されるため、目標押圧力Fptが増加するにもかかわらず、目標回転角Mktが減少するような状況が、適切に回避され得る。
<3相ブラシレスモータMTR、及び、その駆動回路DRV>
図5の回路図を参照して、電気モータMTRとして、U相コイルCLU、V相コイルCLV、及び、W相コイルCLWの3つのコイル(巻線)を有する、3相ブラシレスモータが採用される例について説明する。ブラシレスモータMTRでは、回転子(ロータ)側に磁石が、固定子(ステータ)側に巻線回路(コイル)が配置される。電気モータMTRは、回転子の磁極に合わせたタイミングで、駆動回路DRVによって転流が行われ、回転駆動される。
電気モータMTRには、電気モータMTRの回転角(ロータ位置)Mkaを検出する回転角センサMKAが設けられる。回転角センサMKAとして、ホール素子型のものが採用される。また、回転角センサMKAとして、可変リラクタンス型レゾルバが採用され得る。検出された回転角Mkaは、制御手段CTLに入力される。
駆動回路DRVは、電気モータMTRを駆動する電気回路である。駆動回路DRVによって、制御手段CTLからの各相の駆動信号Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2(「Su1〜Sw2」とも表記)に基づいて、電気モータMTRが駆動される。駆動回路DRVは、6つのスイッチング素子(パワートランジスタ)SU1、SU2、SV1、SV2、SW1、SW2(「SU1〜SW2」とも表記)にて形成された3相ブリッジ回路(単に、ブリッジ回路ともいう)BRG、及び、安定化回路LPFにて構成される。
3相ブリッジ回路(インバータ回路ともいう)BRGの入力側には、安定化回路LPFを介して、蓄電池BATが接続され、ブリッジ回路BRGの出力側には電気モータMTRが接続されている。ブリッジ回路BRGでは、スイッチング素子を直列接続した上下アーム構成の電圧型ブリッジ回路を1つの相として、3つの相(U相、V相、W相)が形成されている。3つの相の上アームは、蓄電池BATの陽極側に接続された電力線PW1と接続される。また、3つの相の下アームは、蓄電池BATの陰極側に接続された電力線PW2と接続される。ブリッジ回路BRGでは、各相の上下アームは、蓄電池BATと並列に電力線PW1、PW2に接続されている。
U相上アームは、還流ダイオードDU1がスイッチング素子SU1に逆並列接続され、U相下アームは、還流ダイオードDU2がスイッチング素子SU2に逆並列接続される。同様に、V相上アームは、還流ダイオードDV1がスイッチング素子SV1に逆並列接続され、V相下アームは、還流ダイオードDV2がスイッチング素子SV2に逆並列接続される。また、W相上アームは、還流ダイオードDW1がスイッチング素子SW1に逆並列接続され、W相下アームは、還流ダイオードDW2がスイッチング素子SW2に逆並列接続される。各相の上アームと下アームとの接続部PCU、PCV、PCWは、ブリッジ回路BRGの出力端(交流出力端)を形成する。これらの出力端には電気モータMTRが接続されている。
6つのスイッチング素子SU1〜SW2は、電気回路の一部をオン又はオフできる素子である。例えば、スイッチング素子SU1〜SW2として、MOS−FET、IGBTが採用される。ブラシレスモータMTRでは、回転角(ロータ位置)Mkaに基づいて、ブリッジ回路BRGを構成するスイッチング素子SU1〜SW2が制御される。そして、3つの各相(U相、V相、W相)のコイルCLU、CLV、CLWの通電量の方向(即ち、励磁方向)が、順次切り替えられ、電気モータMTRが回転駆動される。即ち、ブラシレスモータMTRの回転方向(正転方向、或いは、逆転方向)は、ロータと励磁する位置との関係によって決定される。ここで、電気モータMTRの正転方向は、加圧ユニットKAUによる押圧力Fpaの増加に対応する回転方向であり、電気モータMTRの逆転方向は、押圧力Fpaの減少に対応する回転方向である。
ブリッジ回路BRGと電気モータMTRとの間の実際の通電量Ima(各相の総称)を検出する通電量取得手段IMAが、3つの相毎に設けられる。例えば、通電量取得手段IMAとして、電流センサが設けられ、電流値が実通電量Imaとして検出される。検出された各相の通電量Imaは、制御手段(コントローラ)CTLに入力される。
駆動回路DRVは、電力源(蓄電池BAT、発電機ALT)から電力の供給を受ける。供給された電力(電圧)の変動を低減するために、駆動回路DRVには、安定化回路(ノイズ低減回路ともいう)LPFが設けられる。安定化回路LPFは、少なくとも1つのコンデンサ(キャパシタ)、及び、少なくとも1つのインダクタ(コイル)の組み合わせにて構成され、所謂、LC回路(LCフィルタともいう)である。
電気モータMTRとして、ブラシレスモータに代えて、ブラシ付モータ(単に、ブラシモータともいう)が採用され得る。この場合、ブリッジ回路BRGとして、4つのスイッチング素子(パワートランジスタ)にて形成されるHブリッジ回路が用いられる。即ち、ブラシモータのブリッジ回路BRGでは、ブラシレスモータの3つの相のうちの1つが省略される。ブラシレスモータの場合と同様に、電気モータMTRには、回転角センサMKAが設けられ、駆動回路DRVには、安定化回路LPFが設けられる。さらに、駆動回路DRVには、通電量取得手段IMAが設けられる。
<作用・効果>
図2を参照して説明した制動制御装置BCSの実施形態では、摩擦部材MSBが回転部材KTBを押し付ける押圧力(実押圧力)Fpaが、押圧力取得手段FPA(例えば、液圧センサ)によって、直接的に検出される。操作量Bpaに基づいて演算される目標押圧力Fptと、実押圧力Fpaとの偏差eFpに基づいて、押圧力に係るフィードバック制御が実行される。加えて、回転角取得手段MKAによって、電気モータMTRの回転角(実回転角)Mkaが検出され、これが時間にて微分され、実回転速度Smaが算出される。また、目標押圧力Fpt(即ち、操作量Bpa)に基づいて目標回転角Mktが演算され、目標回転角Mktが時間にて微分され、目標回転速度Smtが算出される。目標回転速度Smtと実回転速度Smaとの偏差eSmに基づいて、電気モータMTRの回転速度(単位時間当たりの回転数)に係るフィードバック制御が実行される。
上述した2つのフィードバック制御ループにおいて、押圧力に係るフィードバック制御ループがメインループとなり、そのマイナループとして、回転速度に係るフィードバック制御ループが形成される(所謂、カスケード制御が形成される)ため、押圧力制御の精度、応答性が向上され、外乱に対する安定性が確保され得る。
また、図3を参照して説明した制動制御装置BCSの他の実施形態では、上記カスケード制御の構成に加え、押圧力に係るフィードバック制御ループと、回転角に係るフィードバック制御ループとの、2つのメジャ制御ループで、フィードバック制御が行われる。この2つのフィードバック制御ループは、重み付け係数Kfp、Kmkによって、制動操作部材BPの操作状態に応じて、夫々の寄与度が考慮される。
具体的には、操作量相当値(即ち、操作量Bpa、目標押圧力Fpt)が相対的に小さい場合には、回転角に係るフィードバック制御ループの寄与度が、押圧力に係るフィードバック制御ループの寄与度よりも大きく設定される。そして、操作量相当値(即ち、操作量Bpa、目標押圧力Fpt)が増加されるにしたがって、回転角に係るフィードバック制御ループの寄与度が減少され、押圧力に係るフィードバック制御ループの寄与度が増加される。これらの係数Kfp、Kmkによって、制動操作が小の場合には制御分解能が向上されるとともに、制動操作が大の場合には制御精度が確保され得る。
目標押圧力Fptと演算マップCMktとに基づいて、目標回転角Mktが決定され、目標回転角Mktと実回転角Mkaとが一致するように、電気モータMTRが制御される。このため、制動操作量Bpaの変化に対して実押圧力Fpaの変化が小さい、少操作領域での制御精度が向上されるとともに、通過帯域が低いフィルタに依らずとも、センサノイズの影響が補償され得る。
以上、説明した実施形態では、制動液圧を利用したディスクブレーキでの構成が例示されている。ディスクブレーキに代えて、ドラムブレーキが採用され得る。また、制動液圧を利用せず、動力伝達機構DDKによって、直接的に、摩擦部材MSBを回転部材KTBに対して押し付ける構成が採用され得る。このような構成においても、上述した同様の効果を奏する。