[実施例1の構成]
(前輪側液圧機構の構成)
図1は、本実施例1のブレーキ装置が適用された自動2輪車の前輪側ブレーキ系統の液圧機構1を示す。ブレーキレバー20の操作量がゼロであり、ブレーキ力が発生していない初期状態を示す。以下、説明のためマスタシリンダ3の軸方向にx軸を設け、ハンドル2に対してマスタシリンダ3の設置側を正方向と定義する。
前輪側液圧機構1は、ブレーキレバー20と、ブレーキレバー20の操作に応じて作動するマスタシリンダ3と、前輪Fのキャリパ(以下、ホイルシリンダ5という)とマスタシリンダ3との間に設けられたブースタシリンダ4と、ブースタシリンダ4を作動させるアクチュエータであるモータMと、を有している。
(ブレーキレバー)
ハンドル2には、スロットルグリップ2aに対向する位置に、ブレーキレバー20が、図1の双方向矢印(実線)に示すようにピン21を支点として揺動可能に設けられている。ブレーキレバー20は、運転者の握力が作用するグリップ部22と、グリップ部22のx軸正方向側の端においてグリップ部22と略直交するように形成され、グリップ部22よりも短いレバー当接部23と、を有している。
ブレーキレバー20は、グリップ部22とレバー当接部23との上記直交部位で、ハンドル2に固定されたピン21により、ピン止めされている。レバー当接部23は、マスタシリンダピストン32のx軸負方向側の端であるピストン入力軸32cに当接している。ブレーキレバー20が握られて、グリップ部22がスロットルグリップ2aに近づく方向に揺動すると、レバー当接部23がx軸正方向側(図1の時計回り方向)に回転移動し、ピストン入力軸32cをx軸正方向側に押し付ける。
(マスタシリンダ)
マスタシリンダ3は、シリンダハウジング30に形成された段付のシリンダ室31と、シリンダ室31内に摺動可能に収容された段付のマスタシリンダピストン32と、を有している。シリンダハウジング30のx軸正方向側には、有底円筒形状の小径シリンダ室31aが形成されている。シリンダハウジング30のx軸負方向側には円筒形状の大径シリンダ室31bが形成され、シリンダハウジング30の外部に開口している。小径シリンダ室31aのx軸負方向側の内周面にはシール部材Sm1が設けられ、大径シリンダ室31bのx軸負方向側の内周面にはシール部材Sm2が設けられている。
マスタシリンダピストン32は、x軸負方向側に向かって順に、ピストン小径部32aとピストン大径部32bとピストン入力軸32cとを有している。ピストン小径部32aは小径シリンダ室31aに収容されている。ピストン大径部32bは大径シリンダ室31bに収容されている。ピストン入力軸32cは、シリンダハウジング30の外部にx軸負方向側に向かって突出している。ピストン入力軸32cのx軸負方向側の端は半球面状に突出するように形成され、ブレーキレバー20のレバー当接部23に当接している。
ピストン小径部32aはシール部材Sm1に対して摺動し、ピストン大径部32bはシール部材Sm2に対して摺動する。小径シリンダ室31aの内周面とピストン小径部32aのx軸正方向側の端面(後述するシール部材Sm3)とにより、第1加圧室Rm1が隔成されている。大径シリンダ室31bの内周面(およびピストン小径部32aの外周面)とピストン大径部32bのx軸正方向側の端面(後述するシール部材Sm4)とにより、第2加圧室Rm2が隔成されている。
第1加圧室Rm1内には、一端が小径シリンダ室31aのx軸正方向側の端面に取り付けられ、他端がピストン小径部32aのx軸正方向側の端面に取り付けられた戻しバネ33が設置されており、マスタシリンダピストン32をx軸負方向側に付勢している。戻しバネ33の付勢力により、ブレーキ非動作時(ブレーキレバー20の非操作時)に、マスタシリンダピストン32はx軸負方向側の最大変位位置である初期位置Xa0に位置決めされる。
マスタシリンダ3には、マスタシリンダピストン32の変位(ストローク)量Xaを検出するストロークセンサ9が設けられている。ストローク量Xaは、初期位置Xa0からのマスタシリンダピストン32のx軸正方向側への変位量を示す。
シリンダハウジング30には、ブレーキ液を貯留するリザーバタンクRESが取り付けられている。リザーバタンクRESは、シリンダハウジング30に形成された油路30a、30bを介して小径シリンダ室31aと連通する一方、シリンダハウジング30に形成された油路30c、30dを介して大径シリンダ室31bと連通している。また、小径シリンダ室31aは、シリンダハウジング30に形成された油路30eを介して、油路10と連通している。大径シリンダ室31bは、シリンダハウジング30に形成された油路30f、30gを介して、それぞれ油路12,14と連通している。
油路30bは、シール部材Sm1に対してx軸正方向側に隣接した位置に形成され、油路30aは、油路30bに対してx軸正方向側に隣接した位置に形成されている。油路30eは、小径シリンダ室31aのx軸正方向側の端に形成されている。一方、油路30dおよび油路30gは、シール部材Sm2に対してx軸正方向側に隣接した位置に形成され、油路30cは、油路30d、30gに対してx軸正方向側に隣接した位置に形成されている。油路30fは、大径シリンダ室31bのx軸正方向側の端に形成されている。
ピストン小径部32aのx軸正方向側の外周面にはシール部材Sm3が設けられ、第1加圧室Rm1を液密状態に保っている。ピストン大径部32bのx軸正方向側の外周面にはシール部材Sm4が設けられ、第2加圧室Rm2を液密状態に保っている。
マスタシリンダピストン32が初期位置Xa0にあるとき、シール部材Sm3は油路30aと油路30bの間に位置する。よって、リザーバタンクRESは油路30aを介して第1加圧室Rm1と連通し、第1加圧室Rm1にブレーキ液を供給する。また、シール部材Sm4は油路30cと油路30dの間に位置する。よって、リザーバタンクRESは油路30cを介して第2加圧室Rm2と連通し、第2加圧室Rm2にブレーキ液を供給する一方、油路30dを介して油路30gおよび油路14と連通する。
なお、マスタシリンダピストン32がどのストローク位置にあっても、油路30bが第1加圧室Rm1と連通することはなく、油路30dおよび油路30gが第2加圧室Rm2と連通することはない。また、マスタシリンダピストン32がどのストローク位置にあっても、油路30eおよび油路30fは、常にそれぞれ油路10、12と連通する。一方、後述するように、マスタシリンダピストン32のストローク位置に応じて、油路30aと第1加圧室Rm1との連通、および油路30cと第2加圧室Rm2との連通が切り換えられる。
(ブースタアクチュエータ)
モータMは、ブースタシリンダ4を作動させるブースタアクチュエータである。モータMは、制御性、静粛性、耐久性の点で優れた、電動式のDCブラシレスモータである。なお、ブラシ付モータやACモータ等を用いることとしてもよい。モータM内には、モータ出力軸の回転を直動(x軸方向の往復移動)に変換する回転直動変換機構が設けられている。この機構には、ボールネジ方式やラックピニオン方式等いずれの方式を用いてもよい。モータ出力軸が所定の回転方向(以下、正方向という)に回転すると、その回転量に応じて、回転直動変換機構の軸がx軸正方向に移動する。一方、モータ出力軸が上記正方向とは反対側の負方向に回転すると、その回転量に応じて回転直動変換機構の軸がx軸負方向に移動する。
(ブースタシリンダ)
ブースタシリンダ4は、シリンダハウジング40に形成されたシリンダ室41と、シリンダ室41内に摺動可能に収容されたブースタピストン42と、を有している。シリンダハウジング40のx軸負方向側の端面ではシリンダ室41が外部に開口しており、この開口部にはシール部材Sb1が設けられている。
ブースタピストン42は、x軸負方向側に向かって順に、大径のピストン摺動部42aと小径のピストン入力軸42bとを有している。ピストン摺動部42aはシリンダ室41内で摺動可能に収容されており、ピストン摺動部42aの外周面には、シリンダ室41の内周面に対して摺動するシール部材Sb2が設けられている。ピストン入力軸42bのx軸正方向側の端は、ピストン摺動部42aに結合している。
ピストン入力軸42bは、シリンダハウジング40の上記開口部においてシール部材Sb1に対して摺動可能に支持され、そのx軸負方向側の端は、シリンダハウジング40の外部(モータMの内部)で、回転直動変換機構の軸のx軸正方向側の端に当接している。モータM内には、ブースタピストン42のx軸方向変位量Xbを検出するストロークセンサ16が設けられている。
ブースタシリンダ4は、ブースタピストン42によりx軸方向で2つの室に仕切られている。すなわち、シリンダ室41の内周面とピストン摺動部42aのx軸正方向側の端面(シール部材Sb2)とにより、第1ブースタ室Rb1が隔成されている。シリンダ室41の内周面(およびピストン入力軸42bの外周面)とピストン摺動部42aのx軸負方向側の端面(シール部材Sb2)とシール部材Sb1とにより、第2ブースタ室(背圧室)Rb2が隔成されている。
第1ブースタ室Rb1内には、一端がシリンダ室41のx軸正方向側の端面に取り付けられ、他端がピストン摺動部42aのx軸正方向側の端面に当接した強い(バネ係数が大きく硬い)バネ43が設置されており、ブースタピストン42をx軸負方向側に付勢している。第2ブースタ室Rb2内には、一端がピストン摺動部42aのx軸負方向側の端面に取り付けられ、他端がシリンダ室41のx軸負方向側の端面に取り付けられた弱い(バネ係数が小さく柔かい)バネ44が設置されており、ブースタピストン42をx軸正方向側に付勢している。これらのバネ43,44の付勢力により、ブレーキ非動作時(ブレーキレバー20の非操作時かつモータMおよび電磁弁6,7の非駆動時)に、ブースタピストン42はブースタシリンダ4の中間位置である初期位置Xb0に位置決めされる。
シリンダハウジング40には、シリンダ室41のx軸正方向側の端に、油路40a、40cが形成されている。また、シリンダ室41のx軸負方向側の端に、油路40bが形成されている。油路40aは油路10に接続し、油路40bは油路13に接続し、油路40cは油路11に接続している。
(油路構成)
リザーバタンクRESは、油路30aを介して、マスタシリンダ3の第1加圧室Rm1に接続されている。第1加圧室Rm1は、油路30e、油路10および油路40aを介して、ブースタシリンダ4の第1ブースタ室Rb1に接続されている。第1ブースタ室Rb1は、油路40cおよび油路11を介して、前輪ホイルシリンダ5に接続されている。
なお、油路10上には、常開の電磁弁6が設けられている。また、電磁弁6と並列に、ブースタシリンダ4からマスタシリンダ3へ向かうブレーキ液の流通のみを許容する逆止弁6aが設けられている。
リザーバタンクRESは、油路30cを介して、マスタシリンダ3の第2加圧室Rm2に接続されている。第2加圧室Rm2は、油路30fおよび油路12、油路13および油路40bを介して、ブースタシリンダ4の第2ブースタ室Rb2に接続されている。
また、リザーバタンクRESは、油路30d、油路30g、および油路14に接続されている。油路14は、油路12と合流し、油路13に接続されている。なお、油路14上には、常閉の電磁弁7が設けられている。
(前輪側の制御構成の概略)
ストロークセンサ9,16、モータM、および電磁弁6,7は、ECUに接続されている。また、前後輪F,Rにはそれぞれの車輪速度を検出する車輪速センサ15、15Rが設けられており、ECUに接続されている。また、ECUは、ストロークセンサ9,16が検出したストロークXa,Xbに基づき、モータMおよび電磁弁6,7に制御指令を出力する。ECUは、モータMおよび電磁弁6,7の作動を制御することで、ブースタ機能およびABS機能を実現する。
(前輪側液圧機構の動作)
マスタシリンダ3の第1加圧室Rm1の径方向断面積(x軸方向での受圧面積)をA1、第2加圧室Rm2の受圧面積をA2、ブースタシリンダ4の第1ブースタ室Rb1の受圧面積をB1、第2ブースタ室Rb2の受圧面積をB2とする。各室の受圧面積A1,A2,B1,B2の比を変えることで、正常時のストローク補助量(倍力比)および失陥時のストローク補助量を設定できる。以下、説明を簡単にするため、A1=A2=B1=B2として動作を説明する。
(ブースタ動作)
図2は、ブースタ機能(倍力機能およびストローク補助機能)を実現する際の前輪側液圧機構1の動作を示す。ここでストローク補助機能とは、マスタシリンダ3とは独立してホイルシリンダ5にブレーキ液を供給することでマスタシリンダ3のストロークを補助(短縮)し、結果としてブレーキレバー20の少ない操作量で所望のホイルシリンダ圧(以下、ブレーキ液圧Pbという)を得る機能をいう。
運転者がブレーキレバー20を握ると、マスタシリンダピストン32が図1の初期位置Xa0から(ブレーキレバー20の操作量XLに対応した変位量)Xaだけx軸正方向側に変位する。ECUは、常閉電磁弁7を開弁させるとともに、ストロークセンサ9の検出値Xaに基づき、モータMを正回転させてブースタピストン42をx軸正方向側にXb=Xaだけ移動させる。電磁弁7の開弁によりブースタシリンダ4の第2ブースタ室Rb2はリザーバタンクRESと連通する。このため第2ブースタ室Rb2の圧力は上昇せず、大気圧のままである。
マスタシリンダピストン32がXaだけx軸正方向側に変位すると、第1加圧室Rm1とリザーバタンクRESとの連通が遮断されるとともに、第1加圧室Rm1の容積がQM1=A1×Xaだけ圧縮される。これにより第1加圧室Rm1からQM1の量のブレーキ液が、油路10を介してブースタシリンダ4の第1ブースタ室Rb1に送られる。同時に、第2加圧室Rm2とリザーバタンクRESとの連通が遮断され、第2加圧室Rm2からQM2=A2×Xaのブレーキ液が、油路12を介して油路13,14に送られる。
ブースタピストン42がXb(=Xa)だけx軸正方向側に変位すると、第1ブースタ室Rb1の容積がQB1=B1×Xbだけ圧縮される。よって、第1ブースタ室Rb1からは、第1加圧室Rm1から送られてきたQM1=A1×XaにQB1=B1×Xbを加えたQ= QM1+QB1だけの量のブレーキ液が、油路11を介してホイルシリンダ5に送られる。
ここで、A1=B1かつXa=Xbであるため、QM1=QB1であり、ホイルシリンダ5への送液量は、Q= QM1+QB1=2QM1{=2(A1×Xa)}である。よって、ブレーキレバー20の同一の操作量XL(マスタシリンダピストン32の同一ストローク量Xa)に対して、ホイルシリンダ5への送液量Qが2倍となる。これによりマスタシリンダ3のストローク量が2倍に増大された効果が得られ(Q=A1×2Xa)、ホイルシリンダ5の圧力上昇が早められる。言い換えれば、マスタシリンダピストン32(ピストン小径部32a)の受圧面積A1が上記ブースタ機能なしのものに比べて1/2であっても、同一のレバーストロークXLに対するホイルシリンダ5への送液量Q(ブレーキ液圧Pb)をブースタなしのものと同一に確保できる。
一方、ブースタピストン42がXb(=Xa)だけx軸正方向側に変位すると、第2ブースタ室Rb2の容積がQB2=B2×Xbだけ拡張されるため、第2ブースタ室Rb2には、QB2の量のブレーキ液が、油路13を介して流入する。また、A2=B2かつXa=Xbであるため、QB2=QM2である。よって、第2加圧室Rm2から油路12を介して送られてきたQM2の量のブレーキ液は、油路13を介して第2ブースタ室Rb2に流入する。したがって、開かれた電磁弁7を通って、リザーバタンクRESから補充され、またはリザーバタンクRESに戻されるブレーキ液の流量は僅かである。
また、第1加圧室Rm1の圧力はブレーキ液圧Pbと等しいため、戻しバネ33の弾性力を無視すると、マスタシリンダピストン32にはx軸負方向にFm1=Pw×A1の力が作用する。第2加圧室Rm2の圧力は大気圧であるため、第2加圧室Rm2からはマスタシリンダピストン32に力が作用しない(Fm2=0)。よって、マスタシリンダピストン32からブレーキレバー20に対してx軸負方向側に作用する力Fmの大きさは、Fm=Fm1+Fm2=Pw×A1である。したがって、ブレーキ液圧Pb(制動力)に比例した反力が、ブレーキレバー20を介して運転者に直接感知される。なお、マスタシリンダピストン32(ピストン小径部32a)の受圧面積A1をブースタなしのものに比べて1/2にすることで、所望のブレーキ液圧Pbを得るためのレバー操作力が1/2で済む(倍力比=2)。
以上、マスタシリンダ3のストロークXaとブースタシリンダ4のストロークXbの関係をXb=Xaとして説明したが、この比に限らずストロークXbを適宜変更することで、ストローク補助量、言い換えればブレーキ液圧Pb(制動力)およびブレーキ反力を任意に変更できる。
(ABS動作)
次に、ABS制御時の前輪側液圧機構1の動作を説明する。上記のように、ブレーキレバー20がXLだけ操作され、マスタシリンダピストン32がXaだけx軸正方向側に変位した状態で、電磁弁7が開弁され、モータMが所定量だけ正回転すると、ブレーキ液量Q=2(A1×Xa)に対応したブレーキ液圧Pbが実現される(図2)。一方、ECUは、常時、車輪速センサ15、15Rの検出値(例えば両者のセレクトハイ値)に基づき車体速度を演算し、演算した車体速度と検出した前輪速度とに基づき前輪の路面に対するスリップ量を検出している。そして、上記ブースタ動作状態において、検出した前輪スリップ量が所定の閾値を上回ると、ECUは、常開の電磁弁6を閉弁するとともに、モータMを所定量だけ逆回転させることで、以下のようにブレーキ液圧Pbの減圧を実現する。
すなわち、モータMが逆回転すると、回転直動変換機構の軸がx軸負方向側に変位(例えばx軸負方向側に最大変位)するため、ブースタピストン42はx軸負方向側にストローク可能となる。なお、電磁弁7が開弁しているため、第2ブースタ室Rb2の圧力は大気圧である。一方、電磁弁6が閉じているため、ブースタピストン42には、第1ブースタ室Rb1のブレーキ液圧Pbにより、x軸負方向側への力Fb1=Pb×B1が作用する。
よって、この力Fb1により、ブースタピストン42は、初期位置Xb0よりもx軸負方向側の位置であって、Fb1が(弱い)バネ44の反力と釣り合う位置まで戻される。なお、(強い)バネ43のx軸負方向側の端はピストン摺動部42aの端面に当接しているのみであるため、ブースタピストン42が初期位置Xb0よりもx軸負方向側に戻されることで、バネ43はブースタピストン42から離れ、(弱い)バネ44のみがブースタピストン42に作用することとなる。したがって、ブレーキ液圧Pbは、(弱い)バネ44の反力と釣り合う圧力にまで低下する。
なお、電磁弁6が閉じられているため、第1加圧室Rm1の圧力がブレーキ液圧Pb以上である限り、マスタシリンダピストン32はx軸正方向側へそれ以上ストロークすることはない。よって、ブレーキレバー20には、第1加圧室Rm1の圧力に応じた反力が作用する。一方、ブレーキレバー20が戻される等により、第1加圧室Rm1の圧力がブレーキ液圧Pb(第1ブースタ室Rb1の圧力)未満になると、ホイルシリンダ(第1ブースタ室Rb1)から1加圧室33に向けて逆止弁6aを介して第ブレーキ液が戻され、ブレーキ液圧Pbが減圧される。
モータ逆回転によるブレーキ液圧Pbの減圧後、スリップ量が所定閾値以下となり、前輪のスリップが解消されたことを検知すると、ECUは、モータMを再び正回転させて、Xb=Xaとなるブースタ位置(図2参照)までブースタピストン42を戻す。これによりブレーキ液圧Pbが再増圧され、上記ABS開始前の、液量Q=2(A1×Xa)に対応したブレーキ液圧Pbが再び実現される。このとき再度のスリップ発生を検知しなければ、電磁弁6を開弁させる。これにより正常のブースタ状態に戻り、ABS動作を終了する。
なお、上記ブースタ位置までブースタピストン42を戻す途中、再度のスリップ発生を検知すると、電磁弁6を閉じたまま再びモータMを逆回転させ、ブースタピストン42をx軸負方向側にストロークさせる。すなわち、前輪スリップが解消するまで、上記のような減圧動作−スリップ解消検知−再増圧を繰り返す。
(失陥時動作)
次に、ブースタアクチュエータ(モータM等)の動作不良時の前輪側液圧機構1の動作を説明する。図2における電磁弁7の開弁状態でモータMが失陥し、回転直動変換機構の軸が、例えばx軸負方向側に最大変位したまま固定されると、ブースタピストン42がx軸負方向側に変位してしまい、第1ブースタ室Rb1からはホイルシリンダに向けてブレーキ液が供給されない(QB1=0)。それだけでなく、マスタシリンダ3の第1加圧室Rm1からホイルシリンダ5に向けて供給される液量QM1が、容積拡大する第1ブースタ室Rb1内に吸収されてしまい、ホイルシリンダ5に供給される液量がQM1未満となる。よって、後述するブレーキ液圧Pbの推定値が正常時よりも低下したことを検知すると、ECUは、モータMへの駆動指令の出力を停止するとともに、電磁弁7に指令を出力して、電磁弁7を閉弁させる。
運転者がブレーキレバー20を握ると、マスタシリンダピストン32が図1の初期位置Xa0からXaだけx軸正方向側に変位する。電磁弁7の閉弁により、ブースタシリンダ4の第2ブースタ室Rb2は、リザーバタンクRESとの連通を遮断され、マスタシリンダ3の第2加圧室Rm2とのみ連通する。よって、第2ブースタ室Rb2からは、第2加圧室Rm2に向けて、QM2=A2×Xaのブレーキ液量が供給される。
ここでECUはモータMを駆動しないので、ブースタピストン42のピストン入力軸42bは回転直動変換機構の軸から離れ、ブースタピストン42はフリーピストンとして動作する。B2=A2であるため、ブースタピストン42のx軸正方向側の変位量XbはXaとなる。
一方、ブースタピストン42がXb(=Xa)だけx軸正方向側に変位すると、第1ブースタ室Rb1の容積がQB1=B1×Xbだけ圧縮される。よって、第1ブースタ室Rb1からは、第1加圧室Rm1から送られてきたQM1=A1×XaにQB1=B1×Xbを加えたQ= QM1+QB1だけの量のブレーキ液が、ホイルシリンダに送られる。
ここで、A1=B1かつXa=Xbであるため、QM1=QB1であり、ホイルシリンダへの送液量は、Q= QM1+QB1=2QM1{=2(A1×Xa)}である。よって、ブレーキレバー20の同一の操作量XL(マスタシリンダピストン32の同一ストローク量Xa)に対して、ホイルシリンダへの送液量Qが、正常時と同様に2倍となり、正常時と同様のブレーキ液圧Pbを発生できる。すなわち、正常時と同様に、マスタシリンダ3のストローク量を2倍に増大する効果が得られる(Q=A1×2Xa)。
また、ブースタシリンダ4の第2ブースタ室Rb2の圧力をPB2とし、バネ43,44の弾性力を無視すると、ブースタピストン42に作用する力の釣り合い式は、Pb×B1=PB2×B2であるため、PB2=Pb×B1/B2である。ここでB1=B2であり、PB2はマスタシリンダ3の第2加圧室Rm2の圧力と同一であるため、マスタシリンダピストン32には、第2加圧室Rm2からx軸負方向にPbの圧力が作用する。
よって、マスタシリンダピストン32には、第1加圧室Rm1からx軸負方向にFm1=Pb×A1の力が作用するとともに、第2加圧室Rm2からx軸負方向にFm2=Pb×A2の力が作用する。したがって、マスタシリンダピストン32からブレーキレバー20に対してx軸負方向側に作用する力Fmの大きさは、Fm=Fm1+Fm2=2(Pb×A1)である。言い換えれば、モータMの失陥時には、ブレーキ液圧Pbを正常時と同一に確保できるものの、レバー反力の大きさは正常時の2倍となる。すなわち、正常時と同じ制動力(ブレーキ液圧Pb)を得るのに、ブレーキレバー20を握る力は正常時に比べて2倍必要となるものの、レバーストロークXLは正常時と同一で済む。
(後輪側液圧機構の構成)
図3は、本実施例1のブレーキ装置が適用された自動2輪車の後輪側液圧機構1Rの全体構成を示す。ブレーキペダル2Rの操作量がゼロであり、ブレーキ力が発生していない初期状態を示す。後輪側液圧機構1Rの構成は、ブレーキレバー2ではなくブレーキペダル2Rが設けられている点、マスタシリンダ3Rに第2加圧室Rm2が設けられていない点、第2加圧室Rm2とブースタシリンダ4の背圧側とを接続する油路12,13が設けられていない点、電磁弁7および逆止弁6aが設けられていない点を除けば、前輪側液圧機構1と同様である。前輪側の構成に対応する後輪側の構成に前輪側と同じ符号を付すとともに、各符号の末尾に後輪側であることを示すRを付ける。
マスタシリンダ3Rは段付シリンダ/ピストンではなく、シリンダハウジング30Rとマスタシリンダピストン32Rとにより加圧室Rm(R) が隔成されている。マスタシリンダピストン32Rは、ブレーキペダル2Rの踏み込み操作によりx軸正方向側にストロークし、加圧室Rm(R)の容積を圧縮する。マスタシリンダ3Rには、ブレーキペダル2Rの操作量、すなわちマスタシリンダピストン32Rのx軸方向変位量Xcを検出するストロークセンサ9Rが設けられている。
マスタシリンダ3Rと後輪Rのホイルシリンダ5Rとの間には、前輪側のブースタシリンダ4と同様の構造のABSシリンダ4Rが設けられている。ABSシリンダ4R内には、ABSピストン42Rにより、x軸正方向側に加圧室Ra1、x軸負方向側に背圧室Ra2が隔成されている。背圧室Ra2は大気圧に開放されている。モータM(R)の正回転によりABSピストン42Rがx軸正方向側に押し付けられると、加圧室Ra1の容積が圧縮される。
モータM(R)に内蔵された回転直動変換機構では、直動側からはモータM(R)を回転できない構造である送りネジ方式が採用されている。すなわち、モータM(R)の出力軸と回転直動変換機構の軸との接続に送りネジが用いられているため、回転直動変換機構の軸にx軸正方向側から力が入力されても、この力によりモータM(R)のロータが回転されることはない。また、モータM(R)には、ABSピストン42Rのx軸方向変位量Xdを検出するストロークセンサ16Rが内蔵されている。
マスタシリンダ3Rの加圧室Rm(R)は、油路10Rおよび常開の電磁弁6Rを介して、ABSシリンダ4Rの加圧室Ra1に接続されている。加圧室Ra1は、油路11Rを介してホイルシリンダ5Rに接続されている。
ストロークセンサ9R,16R、モータM(R)、および電磁弁6Rは、前輪側と共通のECUに接続されている。また、ECUは、ストロークセンサ9R,16Rが検出したストローク量Xc,Xdに基づき、モータM(R)および電磁弁6Rに制御指令を出力する。このようにECUは、モータM(R)および電磁弁6Rの作動を制御することで、トラクションコントロール機能およびABS機能を実現する。
(後輪側液圧機構の動作)
後輪側では、前輪側と異なり、推力(ブレーキ操作力)×ストローク(ブレーキ操作量)を十分に確保できるため、ブースタ機能は不要である。しかし、ABS機能は有効である。また、後輪Rは駆動輪であるため、トラクションコントロール機能を有していることが望ましい。
通常ブレーキ時には、電磁弁6RおよびモータM(R)を制御しない。電磁弁6Rは開いたままであり、ABSピストン42Rは初期位置に保持される。よって、ブレーキペダル2Rが踏み込まれると、加圧室Rm(R)から油路10R、11Rを通ってホイルシリンダ5Rにブレーキ液が供給される。なお、ホイルシリンダ5Rで発生したブレーキ圧Pb(R)がABSシリンダ4Rの加圧室Ra1に作用するが、モータM(R)に内蔵された回転直動変換機構の上記構成により、上記作用力によってモータM(R)が回転されることはない。
トラクションコントロール(以下、TRC)は、駆動輪である後輪Rのスリップ率を適正範囲に制限することで、駆動力を確保しつつ、横方向のグリップ力を確保して車両の走行安定性を向上する。後輪Rにブレーキ液圧Pb(R)を発生させることで、後輪Rのスリップ率を適正に制御する。TRC制御時には、電磁弁6Rを閉弁させて、ABSシリンダ4Rの加圧室Ra1、油路11R、およびホイルシリンダ5Rにより閉鎖回路を形成する。この状態で、モータM(R)を正回転させ、ABSピストン42Rをx軸正方向側にストロークさせる。これにより加圧室Ra1からホイルシリンダ5Rにブレーキ液を供給し、ブレーキ液圧Pb(R)を発生する。
ABS制御時には、電磁弁6Rを閉弁させて、ABSシリンダ4Rの加圧室Ra1、油路11R、およびホイルシリンダ5Rにより閉鎖回路を形成する。この状態で、モータM(R)を逆回転させ、ABSピストン42Rをx軸負方向側にストロークさせることで、ブレーキ液圧Pbを減圧する。また、後輪Rのスリップ状態解消を検知すると、モータM(R)を正回転させ、ABSピストン42Rをx軸正方向側にストロークさせることで、ブレーキ液圧Pb(R)を増圧・回復する。
(ECUの構成)
図4は、ECUの電気系の接続系統図である。ECUは、電源回路100と、CPU200と、複数のドライバ300〜305と、電流センサ500と、を有している。ECUには、バッテリと、モータM等のブレーキアクチュエータと、ストロークセンサ9等のセンサと、が接続されている。また、ECUには、車両制御情報に関する複数の装置、すなわちスロットル開度センサ17と、イグニッションスイッチ18と、ブレーキランプ19aと、ABSランプ19bと、速度計19cと、が接続されている。
電源回路100は、バッテリからの電源電圧を低電圧に変換してCPU200およびセンサ類に安定した電源電圧を供給する。
ECUのパワー系を構成する複数のドライバ300〜305は、バッテリからの電源電圧Vsの供給を受けて、ブレーキアクチュエータを駆動する。前輪モータドライバ301および後輪モータドライバ302は、CPU200からのPWM信号により制御される(4個のFETスイッチを有するHブリッジ形の)PWMドライバであり、それぞれモータM,M(R)にモータ電流Im,Im(R)を出力する。前後輪モータドライバ301,302の出力側にはそれぞれ電流センサ500,501が設けられており、電流センサ500,501が検出したモータ電流Im,Im(R)は、CPU200にアナログ入力(AIN)される。
ソレノイドドライバ303,304,305は、過電流防止機能つきのハイサイド・スイッチを有しており、CPU200からの制御信号に応じて、それぞれ電磁弁6,7,6Rのソレノイドに駆動電流を出力する。バッテリとドライバ301〜305とを結ぶ回路上にはスイッチ400が設けられており、フェール用ドライバ300によりスイッチ400の開閉を切り替えることで、バッテリからドライバ301〜305への通電を遮断可能に設けられている。
ECUの信号系を構成するCPU200は、センサ類からの信号入力を受けるとともに、制御信号を各ドライバ300〜305に出力することで、ブレーキアクチュエータを制御する。具体的には、CPU200は、ストロークセンサ9,16,9R,16RからストロークXa,Xb,Xc,Xd、スロットル開度センサ17からスロットル開度、および電源回路100から電源電圧Vsを、それぞれアナログ入力される。また、車輪速センサ15,15Rから前後輪車輪速、およびイグニッションスイッチ18からイグニッションスイッチ位置を、それぞれデジタル入力(DI)される。
CPU200のPWM出力部240,270は、それぞれPWM信号を前後輪モータドライバ301,302に出力する。また、CPU200は、ソレノイドドライバ303,304,305に制御信号(オン・オフ切り替え信号)をデジタル出力(DO)するとともに、ブレーキランプ点灯、ABSランプ点灯、および車速表示等の車両制御情報をデジタル出力する。なお、CPU200は自己診断機能を有しており、異常が検知されたときはフェール用ドライバ300に制御信号(オン・オフ切り替え信号)をデジタル出力し、パワー系(ドライバ301〜305)の電源を遮断する。
(前輪側の制御系)
図5は、CPU200内に設けられた前輪側の液圧サーボ制御系のブロック線図である。前輪側の制御系は、ABS制御部210と、目標液圧算出部220と、液圧制御部230と、PWM出力部240と、を有している。目標液圧算出部220は、入力されたマスタシリンダストロークXaに基づき目標液圧Pb*を算出し、算出した目標液圧Pb*を液圧制御部230に出力する。液圧制御部230は、目標液圧Pb*を適切に実現するブースタピストン42の目標ストロークXb*を算出し、算出した目標ストロークXb*にブースタピストン42を位置フィードバック制御(以下、位置制御)する。PWM出力部240は、液圧制御部230(位置制御部236)で算出されたデューティ比DRに基づき、PWM信号を前輪モータドライバ301に出力する。
液圧制御部230は、モータMの回転角速度ωを推定する速度推定部231と、実際のブレーキ液圧Pbを推定する液圧推定部232と、モータ電流Imを推定する電流推定部233と、目標液圧Pb*に基づき標準液量Qsを算出する標準液量算出部234と、標準液量Qsおよびブレーキ液圧Pbに基づきブースタピストン42の目標ストロークXb*を算出する目標変位算出部235と、目標ストロークXb*に基づきモータ駆動デューティ比DRを算出する位置制御部236と、を有している。
前輪側の制御系で用いられるアナログ入力信号は、マスタシリンダストロークXa、ブースタストロークXb、電源電圧Vs、電流センサImである。実施例1の位置制御においては、ブレーキ液圧Pbを検出する液圧センサ、およびモータMの速度検出器は不要である。出力はPWM出力のみである。
(目標液圧算出)
図6は、レバーストロークXLとレバー反力FLとの関係、およびブレーキ液圧Pbとホイルシリンダへの供給液量Qとの関係を示す特性図である。図6(a)は、これらの関係を1つのグラフにまとめて示す。図6(b)は、後述する目標液量Q*の算出手順を説明するために、図6(a)を分解して示す。太い実線FL*は、レバーストロークXL(横軸)に対するレバー反力FL(縦軸)の理想的な関係を示す。太い破線FLoは、ブースタを備えないシステムでの、上記レバーストロークXL/レバー反力FLの関係を示す。特性FL*は、CPU200内のマップ1に記憶されている。
また、細い実線Pnorは、各レバー反力FLに相当するブレーキ液圧Pbを縦軸にとり、そのブレーキ液圧Pbを発生させるために必要な液量Qを横軸にとったとき、(温度上昇等によるバラツキが発生していない)通常時のブレーキ液量Q/液圧Pbの関係を示す。ブレーキ液量Q/液圧Pbの関係は、パッド、キャリパ(ホイルシリンダ5)および配管の弾性変形で決まる。細い破線Phtは、温度上昇等によりキャリパ等の剛性が変化し、所定のブレーキ液圧Pbを発生させるために必要な液量Qが通常時よりも増加したときのブレーキ液量Q/液圧Pbの関係を示す。通常時の代表的な特性Pnor(細い実線)は、特性FL*とともに、CPU200内のマップ1に記憶されている。
理想的なレバーストロークXL/レバー反力FLの関係は、運転者によって好みに差があるものの、以下のような特性とすることが一般に好ましい。すなわち、図6の実線FL*のように、低い制動力(ブレーキ液圧Pb)の範囲(レバーストロークXL≦XLth)では、レバーストロークXLにほぼ比例したレバー反力FLおよび制動力(ブレーキ液圧Pb)を得る特性とする。これによりレバーストローク量に応じて制動力を調整できる。一方、高い制動力が必要なとき(レバーストロークXL>XLth)は、所定のレバーストロークXLに対して、上記低い制動力の範囲に比べて高いレバー反力FLおよび制動力(ブレーキ液圧Pb)を得る特性とする。これにより剛性感を高め、レバー操作力に応じて制動力を調整できる。
このように実線FL*に示す理想特性では、制動力が低い範囲ではレバー反力FLを小さくし、制動力が高い範囲ではレバー反力FLを大きくしてレバーストロークXLを短縮している。なお、ブースタを備えないシステムでは、レバーストロークXL/レバー反力FLの関係は、ブレーキ液量Q/液圧Pbの(通常時の)関係を示す細い実線Pnorと同様の特性、すなわち太い破線FLoのようになる。
なお、微小なレバーストロークΔXLで反力FLおよび液圧Pbを立ち上げているのは、ブレーキ装置の動作開始を運転者に知らせるためのジャンプイン動作である。レバーストロークXLがΔXLになったときに、ブースタピストン42を所定量だけx軸正方向側に急速にストロークさせることで上記立ち上げを実現する。
目標液圧算出部220は、マップ1の理想特性FL*を用いて、マスタシリンダストロークXaから目標液圧Pb*を求める。すなわち、マスタシリンダストロークXaに相当するレバーストロークXLを求め、特性FL*においてレバーストロークXLに対応するレバー反力FLを求める。このレバー反力FLに相当するブレーキ液圧Pbが目標液圧Pb*である。図6のA点を例にとると、マスタシリンダストロークXaに相当するレバーストロークXLaを求め、特性FL*においてレバーストロークXLaに対応するA点のレバー反力FLaを求める。このレバー反力FLaに相当するブレーキ液圧Pbaが目標液圧Pb*である。
(速度推定)
DCモータ(永久磁石式モータ)であるモータMでは、モータ電圧Vm、モータ電流Im、モータ回転角速度ω、モータコイル抵抗R、およびモータ誘起電圧定数Keとしたとき、ω=Ke×(Vm−Im×R)の関係がある。また、モータ電圧Vm=DR×Vsである(デューティ比DR、電源電圧Vs)。よって、速度推定部231は、ω=Ke×(DR×Vs−Im×R)により、回転角速度ωを算出する。なお、デューティ比DRは位置制御部236から入力される。
なお、誘起電圧定数Keは、実験により上式に合う値を用いる。その理由は、Keはモータ動作原理ではトルク定数Kt(Nm/A)と等価な定数であるものの、モータコイル抵抗Rは温度変化が大きく、またブラシ付モータを用いた場合にはブラシの抵抗およびハーネスの抵抗も無視できないからである。また、モータ電圧Vmの算出においては、駆動素子(MOSFET)、電流センサ、および配線抵抗の電圧損失も見込むことが好ましい。
(液圧推定)
モータMが発生する全体のトルクTは、T=Kt×Imである。以下、Tの各成分を求める。
ブースタピストン42の推力は、ブレーキ液圧Pb×ブースタ加圧室面積B1である。よって、回転直動変換比をα(m/rad)とすれば、ブレーキ液圧Pbの発生に必要な(液圧発生分の)モータトルクTbは、Tb=Pb×α×B1である。
モータMの加速度dω/dt発生に必要なトルクTaは、ロータ慣性モーメントをJ(Ns2)とすると、Ta=J×dω/dtである。
また、モータMの摺動抵抗によるトルクTfは、Tf=Fr×SGN(ω)である(SGNは所定の符号関数であり、摩擦モデルを示す。Frは摩擦力)。
モータMの粘性抵抗によるトルクTdは、Td=Df×ωである(Dfは粘性率)。
よって、T=Tb+Ta+Tf+Td=Kt×Imである。
これを変形すると、Tb=Kt×Im−J×dω/dt−Fr×SGN(ω)−Df×ωである。
Pb=Tb/(α×B1)に上式を代入して、液圧推定部232は、Pb={Kt×Im−J×dω/dt−Fr×SGN(ω)−Df×ω}/(α×B1)により、実際のブレーキ液圧Pbを推定する。
以上のような、誘起電圧から回転角速度ωを推定する速度推定部231、およびモータ電流Imやモータ加速度dω/dt等から液圧Pbを推定する液圧推定部232は、特殊なものではなく、オブザーバとして一般的に使われている。
(電流推定)
上記液圧発生分のトルクTbを発生するための電流成分をIbとすると、Tb=Kt×Ibであるため、電流推定部233は、Ib=Tb/Kt={Kt×Im−J×dω/dt−Fr×SGN(ω)−Df×ω}/KtによりIbを推定する。この電流成分Ibは、ブースタピストン42の位置制御ループにとっては加速度発生に対する誤差要因である。このため電流成分Ibを速度制御部237に入力し、速度制御偏差から算出した目標モータ電流Im*にIbを加算することで、その悪影響を低減する。
(標準液量算出)
標準液量算出部231は、上記マップ1の代表特性Pnorを用いて、目標液圧Pb*から標準液量Qsを求める。レバーストロークXL=XLaの場合を例にとると、特性Pnorにおいて目標液圧Pb*=Pbaに対応するB点の液量Qbが標準液量Qs(=Qb)である(図6(b)の手順(i))。
(目標変位算出)
図6の曲線Phtに示すように、液圧機器のバラツキや温度変化等により、ブレーキ液圧Pb/液量Qの関係が代表特性Pnorからズレた場合には、ブースタストロークXbを制御してホイルシリンダ5に標準液量Qs=Qbを供給しても、実現されるブレーキ液圧Pbは、Pht上の点B'に対応する値Pbbとなり、目標液圧Pb*=Pbaよりも小さくなってしまう(Pbb<Pba)。よって、目標液圧Pb*=Pbaを実現するためには、曲線Phtにおいて目標液圧Pb*=Pbaに対応するC点の液量Qcを目標液量Q*に設定し、Q*=Qcをホイルシリンダ5に供給する必要がある。
目標変位算出部232は、標準液量Qs=Qbを補正して目標液量Q*=Qcを得る。そして、目標液量Q*=Qcに基づきQB1=Q*−QM1を求め(QM1=Xa×A1)、ブースタの目標ストロークXb*を、Xb*=QB1/B1により算出する。
曲線Phtを推定し、標準液量Qs=Qbを補正して目標液量Q*=Qcを得るために、以下のように、ジャンプインのレバーストロークΔXLに相当する液量ΔQからの比例拡大による方法を用いる。図6に示すように代表特性PnorがPhtにズレていると仮定する。ブースタストロークXbは、(補正前の目標液量Q*である)標準液量Qs=Qbを実現するように位置制御される(図6(b)の手順(ii))。
位置制御中の推定液圧Pb=Pbbであるとき、第1に、検出されるブースタストロークXbに基づき、実際にホイルシリンダ5に供給されている液量Qを、Q=QA1+QB1により求める(QA1=Xa×A1、QB1=Xb×B1)。ここで、標準液量Qsの補正前には、上記検出されるブースタストロークXbは、(Qs=Qbを供給する)B点におけるXbbであるため、算出されるB点の液量Qb=Xa×A1+Xbb×B1である。第2に、推定液圧Pbb に対応した代表特性Pnor上の点B''の液量Qb''を求める。
これらのQb、Qb''、およびΔQを用いることで、推定液圧がPbbであるとき、実際の特性Phtが代表特性Pnorに対してΔQを基準にβ=(Qb−ΔQ)/(Qb''−ΔQ)倍だけ図6(a)の右方向にずれていることが判る(点B''→点B')。すなわち、βを液量変動補正係数として、いわばPht=Pnor×βにより、液量変動を考慮した実際の特性Phtを推定できる。よって、図6(b)の手順(iii)に示すように、この推定されたPhtにおいて、目標液圧Pb*=Pbaに対応するC点の液量Qcを、目標液量Q*に設定する(点B→点C)。具体的には、Q*=Qc=ΔQ+(Qb−ΔQ)×βにより、目標液量Q*を求める。そして、この目標液量Q*=Qcを供給できる目標ストロークXb*を、Xb*=Xbc=(Qc−Xa×A1)/B1により算出する。
ここで、Q*を直接、Qc=ΔQ+(Qb−ΔQ)2/(Qb''−ΔQ)として計算すると、制御周期ごとの液圧Pbb検出の変動が拡大されてQ*=QcおよびXb*に反映されてしまう。よって一旦、β=(Qb−ΔQ)/(Qb''−ΔQ)として、ローパスフィルタ処理を通して安定にする。なお、曲線Phtは、そのときの温度など液圧機構の状態で決まり、位置制御の周期期間内に急変することはないため、このようにしても問題はない。また、βが異常に大きくなるのは、パッド、キャリパなどの部品または配管に破損、液漏れ、エア抜き不良などの不具合がある場合なので、βに異常検知レベルを設定し、ABSランプ、ブザー等により警報を出すこととしてもよい。
なお、上記では、位置制御中の推定液圧Pb=PbbとなったときのブースタストロークXbbに基づき特性Phtを求めたが、位置制御中の各周期において、推定された液圧PbがPbbに達する前に検出されたブースタストロークXb(<Xbb)および上記推定液圧Pbに基づき、上記と同様の手順でβおよび特性Phtを求めてもよい。
(位置制御)
液圧制御部230(液圧制御ループ)は位置制御部236(位置制御ループ)を、位置制御部236は速度制御部237(速度制御ループ)を、速度制御部237は電流制御部238(電流制御ループ)を、それぞれマイナーループとして有している。
位置制御部236は、検出されたストローク(位置フィードバック信号)Xbと目標ストロークXb*=Xbcとの制御偏差に位置ループゲインを乗じて、モータ角速度ωの目標値である目標速度ω*を算出する。そして、ストロークXbが目標ストロークXb*と一致するように、ブースタピストン42を位置フィードバック制御する。
速度制御部237は、推定されたモータ角速度(速度フィードバック信号)ωと目標速度ω*との制御偏差に速度ループゲインを乗じて、モータ電流Imの目標値である目標電流Im*を算出する。そして、モータ角速度ωが目標速度ω*と一致するように、モータMの速度フィードバック制御を実行する。なお、算出した目標電流Im*に電流推定部233から入力された電流成分Ibを加算して補正する。この補正後の目標電流Im*を電流制御部238に出力する。
電流制御部238は、検出されたモータ電流(電流フィードバック信号)Imと目標電流Im*との制御偏差に電流ループゲインを乗じて、デューティ比DRを算出する。そして、モータ電流Imが目標電流Im*と一致するように、モータMの電流フィードバック制御を実行する。算出したデューティ比DRは、PWM出力部240に入力する。
なお、図5では液圧制御に関するソフト部分のみ記載した。このため、モータM、回転直動変換機構、および各種センサなどの機器を介してフィードバックされる各制御ループは、図5では見かけ上閉じていないが、実際には上記のように閉ループ制御である。
以上のように、CPU200は、ブースタ動作時には、ソレノイドドライバ304に信号を出力し、電磁弁6,7をともに開弁する。その後、マスタシリンダストロークXaに応じて算出した目標液圧Pb*に基づき、上記液圧制御ループによりブースタピストン42を位置制御する。一方、ABS動作時には、ソレノイドドライバ303,304に信号を出力し、電磁弁6を閉弁するとともに電磁弁7を開弁する。その後、ABS制御部210のABSロジックにより算出した目標液圧Pb*に基づき、上記液圧制御ループによりブースタピストン42を位置制御する。図5は位置制御周期ごとに実行される。
(後輪側の制御系)
後輪側の制御系は、図7に示すように、ABS/TRC制御部250と、液圧制御部260と、PWM出力部270と、を有している。PWM出力部270は、液圧制御部260で算出されたデューティ比に基づきPWM信号を後輪モータドライバ302に出力する。
後輪側の制御系は、前輪側の目標液圧算出部220に対応する構成を有していない。CPU200内には、マップ1の代表特性Pnor(図6参照)と同様、後輪キャリパにおける(温度上昇等によるバラツキが発生していない)通常時のブレーキ液圧Pb/液量Qの代表特性がマップ2として記憶されている。目標液量算出部264は、(後輪Rの)目標液圧Pb*の入力を受けるとともに、マップ2の上記特性において目標液圧Pb*に対応する(標準)液量を(補正することなくそのまま)目標液量Q*に設定する。
目標変位算出部265は、ABSピストン42Rの目標ストロークXd*を、Xd*=(Q*−Xc×C)/Dにより算出する。ここでXcは、ABS/TRC動作時には、電磁弁6Rを閉弁したときに検出されたマスタシリンダピストン32Rのストロークである。通常ブレーキ動作時には、上式におけるXcは、ABS/TRC制御部250からの指令によりゼロに設定される。後述するように、通常ブレーキ動作時にはPb*もゼロに設定され、目標液量算出部264で設定されるQ*もゼロとなるため、上式により算出されるXd*はゼロとなる。
その他の構成は、前輪側と同様である。
後輪の制御については、上記のように操作力×ストロークに余裕があるため、ブースタ動作は不要であり、また、キャリパ容積増大によるペダルストロークの増大を抑制する必要もない。よって、ABSまたはTRC動作中の自動液圧制御のみを実行する。通常ブレーキ動作時には、制御動作は不要であり、モータ電流Imを流す必要はない。
CPU200は、通常ブレーキ動作時には、電磁弁6Rを開弁状態に保ったまま、液圧制御ループの目標液圧Pb*をゼロとする。これにより目標ストロークXd*はゼロに設定され、モータ電流Im は流されないため、ABSピストン42Rは初期位置に保持される。またCPU200は、ABSまたはTRC動作時には、ソレノイドドライバ305に信号を出力し、電磁弁6Rを閉弁した後、ABS/TRC制御部250のABS/TRCロジックにより算出した目標液圧Pb*に基づき、液圧制御ループによりABSピストン42Rを位置制御する。図7は位置制御周期ごとに実行される。
なお、ABS動作において電磁弁6Rが開弁された後、運転者によりブレーキペダル2Rが戻されたときは、運転者が要求するブレーキ液圧Pb(R)を求め、圧力回復(増圧)時に、上記求めたブレーキ液圧Pb(R)を上限として液圧制御する。ABS動作終了時には、圧力回復後に電磁弁6Rをゆっくり開くことで、キックバックを和らげる。
[実施例1の作用効果]
以下、実施例1から把握される、本発明のブレーキ装置が有する作用効果を列挙する。
(1)運転者のブレーキ操作量(レバーストロークXL)に応じてマスタシリンダ3とブースタ(ブースタシリンダ4)とからホイルシリンダ5にブレーキ液を供給するブレーキ装置であって、ブースタ(ブースタシリンダ4)は、ブースタシリンダ(シリンダ室41)と、ブースタシリンダ(シリンダ室41)内を隔成し、アクチュエータ(モータM)により摺動するブースタピストン42と、を有し、ブレーキ操作量(レバーストロークXL)に基づき設定される目標ブレーキ液量(標準液量Qs)をブースタピストン42の変位(ストローク)に基づく実際のホイルシリンダ圧相当値(ブレーキ液圧Pb)の変化から補正し、上記補正後の目標ブレーキ液量(目標液量Q*)に基づきブースタピストン42の目標位置(目標ストロークXb*)を設定し、設定された目標位置(目標ストロークXb*)に基づきアクチュエータ(モータM)を制御する制御手段(ECU)を有することとした。
このように、運転者のブレーキ操作量(レバーストロークXL)に応じて、マスタシリンダ3に加えてブースタシリンダ4からもホイルシリンダ5にブレーキ液を供給する。これにより、運転者のブレーキ操作力および操作量(マスタシリンダ3のストローク)を補助し、少ないブレーキ操作量および操作力で所望の制動力を得ることができる。また、ブースタシリンダ4からのブレーキ液加給によるブレーキ液圧Pb(制動力)の増大を、運転者がブレーキ反力として直接感知できる、という効果を有する。
特に、2輪車のブレーキ装置の特徴として、前輪は(右)ハンドルに設けたブレーキレバーの手動操作、後輪は(右)ブレーキペダルの足踏み操作であることが挙げられる。しかし、前輪側のブレーキ装置では推力(操作力)×ストロークが不足しがちである。特にブレーキレバーのストローク量、およびブレーキレバーの操作に応じて作動するマスタシリンダのストローク量が不足しがちである。このため、前輪に高摩擦係数(例えば0.5)のブレーキパッドを用いても、上記ストローク量不足によるホイルシリンダ圧不足を補うための充分な余裕がない。よって、前輪側のブレーキ装置は、マスタシリンダとは独立してホイルシリンダにブレーキ液を供給することでマスタシリンダのストローク(容積変化)を補助するストローク補助機能を備えていることが望ましい。よって、本発明を2輪車の前輪側ブレーキ装置に適用した場合、上記要求に応えることができる。
また本発明では、設定された目標位置(目標ストロークXb*)にブースタピストン42を位置制御する。よって、モータ加速度発生に必要な電流や摺動抵抗の影響をなくし、制御の応答性と安定性の両方を確保できる。このため、運転者のブレーキ操作量に対するブレーキ反力および制動力の理想的な特性を得ることが可能である、という効果を有する。
すなわち、モータMを制御して目標液圧Pb*を実現するには、レバーストロークXLに応じた目標液圧Pb*を発生すればよいので、圧力フィードバック制御を実行するのが最も単純な方法である。圧力フィードバック制御は、理想特性FL*を記憶しておいてレバーストロークXLから目標液圧Pb*を求め、検出される実際のブレーキ液圧Pbが目標液圧Pb*になるように、モータ電流Im=(Pb*×B1)×α/Ktとすればよい。しかし、低制動力の範囲(図6のレバーストロークXL≦XLthの範囲)では、液圧Pbの小さな誤差を補正するためにもブースタストロークXb(液量Q)の大きな変化が必要であるところ、モータロータの加速度を得るために必要な電流や、回転直動変換機構の摺動抵抗による無効電流に邪魔され、応答性よく、かつ滑らかな制御ができない。これに対し本発明では、圧力制御ではなく位置制御を実行することで、上記効果を得ることができる。
さらに本発明では、レバーストロークXL(=XLa)に基づき設定される標準液量Qs(=Qb)を、ブースタピストン42のストロークに基づく実際のブレーキ液圧相当値(=推定値)Pbの変化(例えば、図6のPba→Pbb)に基づき補正することで、目標液量Q*(=Qc)を得る。この目標液量Q*(目標ストロークXb*)に基づきブースタシリンダ4を位置制御する。よって、液圧機器のバラツキや温度変化によりキャリパ液量、すなわち特性FL*を得るために必要な液量Qが変動(Qb→Qc)した場合でも、ブレーキ操作量/反力、およびブレーキ操作量/制動力の関係を理想特性FL*に維持することができる。したがって、運転者のブレーキ操作フィーリングを向上できる、という効果を有する。
すなわち、ブースタピストン42を位置制御するには、理想特性FL*とともに、代表的なPnorの特性を記憶しておき、目標液圧Pb*に相当する標準液量Qsを求めれば、標準液量Qsからブースタピストン42の目標ストロークXb*を算出できる。この目標ストロークXb*に基づきブースタピストン42の位置フィードバック制御を行うことにより、ほぼ特性FL*を得ることができる。ただし、この方法ではブレーキ液圧/液量の関係をPnorで代表しているため、液圧機器のバラツキが吸収できず、温度変化によるストローク増大も吸収できない。例えば、図6でブースタストロークXbをXbbに制御して液量Qbを供給したとき、ブレーキ液圧/液量の関係がPhtにずれていると、実際のブレーキ液圧Pbは点B'のPbbに落ちてしまう。よって、本発明では、推定したPhtと目標液圧Pb*=Pbaとの交点Cの液量Qcに標準液量Qsを補正して、補正により得られた目標液量Q*=Qcに相当する位置Xbc=(Qc−A1×Xa)/B1にブースタピストン42を移動することで、上記効果を得る。
(2)ブレーキ操作量(レバーストロークXL)に基づきホイルシリンダ5の目標液圧Pb*を算出する目標液圧算出手段(目標液圧算出部220)と、該算出された目標液圧Pb*を実現するためにホイルシリンダ5に供給することが必要なブレーキ液量(標準液量Qs)を、目標液圧Pb*と必要液量Qとの所定の関係Pnorに基づき算出する必要液量算出手段(標準液量算出部234)と、ブースタピストン42の変位(ストロークXb)と実際のホイルシリンダ圧相当値(ブレーキ液圧Pb)とに基づき上記関係Pnorを補正し、上記算出された必要液量(標準液量Qs)を上記補正後の関係Phtに基づき補正する必要液量補正手段(目標変位算出部235)と、該補正後の必要液量(目標液量Q*)からマスタシリンダ3の吐出液量(QM1=Xa×A1)を減算してブースタの目標吐出液量(QB1=Q*−Xa×A1)を算出する目標吐出液量算出手段(目標変位算出部235)と、該算出した目標吐出液量(QB1=Q*−Xa×A1)を実現する目標位置(目標ストロークXb*)にブースタピストン42を制御するブースタ制御手段(目標変位算出部235、位置制御部236)と、を有することとした。
すなわち、理想特性FL*(マップ1)からブレーキ操作量(レバーストロークXL)に基づき目標液圧Pb*を算出するとともに、代表特性Pnor(マップ1)から目標液圧Pb*を実現するために必要な標準液量Qsを算出する(図6(b)の(i))。また、ブースタストロークXbと実際のブレーキ液圧相当値(=推定値)Pbとに基づき代表特性Pnorを実際の特性Phtに補正し、該補正後の関係Phtに基づき標準液量Qs(=Qb)を目標液量Q*(=Qc)に補正する(図6(b)の(ii)(iii))。よって、液圧機器のバラツキや温度変化により、理想特性FL*を得るために必要な液量Qが変化(Qb→Qc)した場合でも、特性FL*に応じた理想的なブレーキ反力および制動力を得ることができる。したがって、運転者のブレーキ操作フィーリングを向上できる、という効果を有する。
ここで、図6の目標液量Q*=Qcを推定する方法として、B'点のブレーキ液圧Pbbを検出し、B点のブレーキ液圧Pbaと上記Pbbとの差を代表特性Pnorの勾配Pnor'で除して必要液量Qの変化分を算出し、Q*=Qc=Qb+(Pba−Pbb)/Pnor'とする方法も考えられる。しかし、ブレーキ液圧差を用いた上記方法では、低液圧域での検出誤差が大きく影響するため、正確な値を得るのが難しい。これに対し、本発明では、ストロークXbと実際のブレーキ液圧Pbとに基づき、目標液量Q*=Qcを推定する。すなわち、例えばブースタストロークXb=Xbbに基づきB点の液量Qb(=Xa×A1+Xbb×B1)を求め、ブレーキ液圧Pb=Pbbに対応したPnor上のB'' 点の液量Qb''を求め、液量比β=(Qb−ΔQ)/(Qb''−ΔQ)を用いて目標液量Q*=Qcを推定する。よって、液量Qの変化分を正確に算出することができ、上記効果を向上できる。
(3)ブースタピストン42を変位させる電動式のモータMと、モータMの電圧(DR×Vs)および電流Imに基づきモータMの回転角速度ωを推定する速度推定部231と、モータ電流Imおよび推定された回転角速度ωに基づき実際のホイルシリンダ圧(ブレーキ液圧Pb)を推定する液圧推定部232と、を有することとした。
すなわち、一般に位置制御では速度フィードバック制御が必要となる。単純に位置誤差を増幅して、モータ電圧とした場合には応答性も精度も悪く、またモータ電流とした場合には操作量(モータ加速度)に対して二重積分(180度位相遅れ)をフィードバックすることになりそのままでは不安定だからである。よって、本実施例1でも、位置制御において速度制御を実行する。
速度制御における速度検出には、タコジェネレータ(速度発電機)や、レゾルバのような高分解能の位置検出器により検出した位置を微分する等の手段が用いられる。しかし、どちらもモータと同等の複雑な構造を有する機器であり、コストとスペースの両面で不利である。また、液圧センサも、内部構造が複雑でありコストアップの要因となる。本実施例1のブレーキ装置は、これらのセンサ類を使用せず、ω=Ke×(DR×Vs−Im×R)により回転角速度ωを算出でき、また、Pb={Kt×Im−J×dω/dt−Fr×SGN(ω)−Df×ω}/(α×B1)により実際のブレーキ液圧Pbを算出できる。すなわち推定値に基づき速度制御(位置制御)を行うため、コストおよびスペースを節減できる、という効果を有する。
(4)マスタシリンダ3とホイルシリンダ5との間に常開の電磁弁6を配置し、ABS作動時には、常開弁6を閉弁するとともに、ブースタピストン42を制御してブレーキ液圧Pbを減増圧する。
よって、ブースタ機能とABS機能とを併せ持った液圧発生・制御系統とすることができる。例えば、2輪車のブレーキ装置に適用した場合でも、4輪車と同様のABS制御を実行でき、車輪ロックによる転倒防止、および制動距離の短縮を実現できる、という効果を有する。