<本発明に係る車両の制動制御装置の全体構成>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置BCS、BCRについて説明する。ここで、制動制御装置BCR、及び、制動制御装置BCSとの相違は、駐車ブレーキ機構PKBが設けられるか、否かである。制動制御装置BCRには、駐車ブレーキ機構PKBが設けられ、制動制御装置BCSには駐車ブレーキ機構PKBが設けられない。一般的には、制動制御装置BCSは前輪WHf用の装置であり、制動制御装置BCRは後輪WHr用の装置である。なお、以下の説明で、同一の記号が付された部材、演算処理、信号等は、同一の機能を発揮するものであり、重複説明は省略されることがある。
制動制御装置BCS、BCRを備える車両には、制動操作部材BP、操作量センサBPA、コントローラCTL、マスタシリンダMCL、ストロークシミュレータSSM、シミュレータ遮断弁VSM、加圧ユニットKAU、切替弁VKR、マスタシリンダ配管HMC、ホイールシリンダ配管HWC、加圧シリンダ配管HKCが備えられる。車両の各々の車輪WHには、ブレーキキャリパCRP、ホイールシリンダWC、回転部材KTB、及び、摩擦部材MSBが備えられる。また、車両には、車速取得手段VXA、及び、駐車スイッチSWが備えられる。
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、車輪WHの制動トルクが調整され、車輪WHに制動力が発生される。具体的には、車両の車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTBが固定される。回転部材KTBを挟み込むようにブレーキキャリパCRPが配置される。そして、ブレーキキャリパCRPには、ホイールシリンダWCが設けられている。ホイールシリンダWC内の制動液の圧力が増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSBが、回転部材KTBに押し付けられる。回転部材KTBと車輪WHとは、固定シャフトDSFを介して、一体となって回転するよう固定されている。このため、摩擦部材MSBが回転部材KTBに押圧された際に生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルク(制動力)が発生される。
操作量センサ(操作量取得手段)BPAは、制動操作部材BPに設けられる。操作量センサBPAによって、運転者による制動操作部材BPの操作量Bpaが検出(取得)される。具体的には、操作量センサBPAとして、マスタシリンダMCLの圧力を検出する液圧センサ、制動操作部材BPの操作変位を検出する操作変位センサ、及び、制動操作部材BPの操作力を検出する操作力センサのうちの少なくとも1つが採用される。つまり、操作量センサBPAは、マスタシリンダ液圧センサ、操作変位センサ、及び、操作力センサについての総称である。マスタシリンダMCLの液圧、制動操作部材BPの操作変位、及び、制動操作部材BPの操作力のうちの少なくとも1つに基づいて、制動操作量Bpaが検出され、決定される。制動操作量Bpaは、コントローラCTLに入力される。
コントローラ(制御手段ともいう)CTLは、マイクロプロセッサ等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサにプログラムされた制御アルゴリズムにて構成されている。コントローラCTLは、制動操作量Bpaに基づいて、後述する加圧ユニットKAU、遮断弁VSM、及び、切替弁VKRを制御する。具体的には、コントローラCTL内にプログラムされた制御アルゴリズムに基づいて、電気モータMTR、遮断弁VSM、切替弁VKRを制御するための信号が演算され、コントローラCTLから出力される。
コントローラCTLは、操作量Bpaが所定値bp0以上になった場合に、遮断弁VSMを開位置にする駆動信号Vsmを出力するとともに、切替弁VKRが加圧シリンダ配管HKCとホイールシリンダ配管HWCとを連通状態にする駆動信号Vkrを出力する。この場合、マスタシリンダMCLとシミュレータSSMとが連通状態にされ、加圧ユニットKAUの加圧シリンダKCLとホイールシリンダWCとが連通状態にされる。なお、値bp0は、制動操作部材BPの「遊び」に相当する、予め設定された所定値である。
また、コントローラCTLは、操作量Bpa、回転角Mka、及び、押圧力Fpaに基づいて、電気モータMTRを駆動するための駆動信号(後述のSu1等)を演算し、駆動回路DRVに出力する。ここで、制動操作量Bpaは制動操作量センサBPA、回転角Mkaは回転角センサMKA、押圧力Fpaは押圧力センサFPAによって、実際に検出される値である。電気モータMTRで駆動される加圧ユニットKAUによって、ホイールシリンダWC内の制動液の圧力が制御(保持、増加、又は、減少)される。
マスタシリンダMCLは、ピストンロッドPRDを介して、制動操作部材BPに接続されている。マスタシリンダMCLによって、制動操作部材BPの操作力(ブレーキペダル踏力)が、制動液の圧力に変換される。マスタシリンダMCLには、マスタシリンダ配管HMCが接続され、制動操作部材BPが操作されると、制動液は、マスタシリンダMCLからマスタシリンダ配管HMCに排出(圧送)される。マスタシリンダ配管HMCは、マスタシリンダMCLと切替弁VKRとを接続する流体路である。
ストロークシミュレータ(単に、シミュレータともいう)SSMが、制動操作部材BPに操作力を発生させるために設けられる。マスタシリンダMCL内の液圧室とシミュレータSSMとの間には、シミュレータ遮断弁(単に、遮断弁ともいう)VSMが設けられる。遮断弁VSMは、開位置と閉位置とを有する2位置の電磁弁である。遮断弁VSMが開位置にある場合には、マスタシリンダMCLとシミュレータSSMとは連通状態となり、遮断弁VSMが閉位置にある場合には、マスタシリンダMCLとシミュレータSSMとは遮断状態(非連通状態)となる。遮断弁VSMは、コントローラCTLからの駆動信号Vsmによって制御される。遮断弁VSMとして、常閉型電磁弁(NC弁)が採用され得る。
シミュレータSSMの内部には、ピストン、及び、弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。マスタシリンダMCLから制動液がシミュレータSSMに移動され、流入する制動液によりピストンが押される。ピストンには、弾性体によって制動液の流入を阻止する方向に力が加えられる。弾性体によって、制動操作部材BPが操作される場合の操作力(例えば、ブレーキペダル踏力)が形成される。
≪加圧ユニットKAU≫
加圧ユニットKAUは、電気モータMTRを動力源として、加圧シリンダ配管HKCに制動液を排出(圧送)する。そして、圧送された制動液によって、加圧ユニットKAUは、摩擦部材MSBを回転部材KTBに押し付け(押圧)して、車輪WHに制動トルク(制動力)を付与する。換言すれば、加圧ユニットKAUは、回転部材KTBに摩擦部材MSBを押し付ける力を電気モータMTRによって発生する。
加圧ユニットKAUは、電気モータMTR、駆動回路DRV、動力伝達機構DDK、加圧ロッドKRD、加圧シリンダKCL、加圧ピストンPKC、及び、押圧力センサFPAにて構成される。
電気モータMTRは、加圧シリンダKCL(加圧ユニットKAUの一部)がホイールシリンダWC内の制動液の圧力を調整(加圧、減圧等)するための動力源である。例えば、電気モータMTRとして、3相ブラシレスモータが採用される。電気モータMTRは、3つのコイルCLU、CLV、CLWを有し、駆動回路DRVによって駆動される。電気モータMTRには、電気モータMTRのロータ位置(回転角)Mkaを検出(取得)する回転角センサ(回転角取得手段)MKAが設けられる。回転角Mkaは、コントローラCTLに入力される。
駆動回路DRVは、電気モータMTRを駆動するためのスイッチング素子(パワー半導体デバイス)等が実装された電気回路基板である。具体的には、駆動回路DRVにはブリッジ回路BRGが形成され、駆動信号(Su1等)に基づいて、電気モータMTRへの通電状態が制御される。駆動回路DRVには、電気モータMTRへの実際の通電量(各相の通電量)Imaを取得(検出)する通電量取得手段(電流センサ)IMAが設けられる。各相の通電量(検出値)Imaは、コントローラCTLに入力される。
動力伝達機構DDKは、電気モータMTRの回転動力を減速し、且つ、直線動力に変換して加圧ロッドKRDに出力する。具体的には、動力伝達機構DDKには、減速機(図示せず)が設けられ、電気モータMTRからの回転動力が減速されてねじ部材(図示せず)に出力される。そして、ねじ部材によって、回転動力が加圧ロッドKRDの直線動力に変換される。即ち、動力伝達機構DDKは、回転・直動変換機構である。
加圧ロッドKRDには加圧ピストンPKCが固定される。加圧ピストンPKCは、加圧シリンダKCLの内孔に挿入され、ピストンとシリンダとの組み合わせが形成されている。具体的には、加圧ピストンPKCの外周には、シール部材(図示せず)が設けられ、加圧シリンダKCLの内孔(内壁)との間で液密性が確保される。即ち、加圧シリンダKCLと加圧ピストンPKCとによって区画され、制動液が充填された流体室Rkc(「加圧室Rkc」と称呼する)が形成される。
加圧シリンダKCL内にて、加圧ピストンPKCが中心軸方向に移動されることによって、加圧室Rkcの体積が変化される。この体積変化によって、制動液は、制動配管(パイプ)HKC、HWCを介して、加圧シリンダKCLとホイールシリンダWCとの間で移動される。加圧シリンダKCLからの制動液の出し入れによって、ホイールシリンダWC内の液圧が調整され、その結果、摩擦部材MSBが回転部材KTBを押圧する力(押圧力)が調整される。
例えば、押圧力センサFPAとして、加圧室Rkcの液圧Fpaを取得(検出)する液圧センサが、加圧ユニットKAU(特に、加圧シリンダKCL)に内蔵される。液圧センサ(押圧力センサに相当)FPAは、加圧シリンダKCLに固定され、加圧ユニットKAUとして一体となって構成される。押圧力の検出値Fpa(即ち、加圧室Rkcの液圧)は、コントローラ(制御手段)CTLに入力される。以上、加圧ユニットKAUについて説明した。
切替弁VKRによって、ホイールシリンダWCがマスタシリンダMCLと接続される状態と、ホイールシリンダWCが加圧シリンダKCLと接続される状態と、が切り替えられる。切替弁VKRは、コントローラCTLからの駆動信号Vkrに基づいて制御される。具体的には、制動操作が行われていない場合(Bpa<bp0)には、ホイールシリンダ配管HWCは、切替弁VKRを介して、マスタシリンダ配管HMCと連通状態にされ、加圧シリンダ配管HKCとは非連通(遮断)状態にされる。ここで、ホイールシリンダ配管HWCは、ホイールシリンダWCに接続される流体路である。制動操作が行われると(即ち、Bpa≧bp0の状態になると)、切替弁VKRが駆動信号Vkrに基づいて励磁され、ホイールシリンダ配管HWCとマスタシリンダ配管HMCとの連通は遮断され、ホイールシリンダ配管HWCと加圧シリンダ配管HKCとが連通状態にされる。
ブレーキキャリパ(単に、キャリパともいう)CRPは、車輪WHに設けられ、車輪WHに制動トルクを与え、制動力を発生させる。キャリパCRPとして、浮動型キャリパが採用され得る。キャリパCRPは、2つの摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTBを挟み込むように構成される。キャリパCRP内にて、ホイールシリンダWCが設けられる。ホイールシリンダWC内の液圧が調整されることによって、ホイールシリンダWC内のピストンが回転部材KTBに対して移動(前進、又は、後退)される。このピストンの移動によって、摩擦部材MSBが回転部材KTBに押し付けられて押圧力Fpaが発生する。
車速取得手段VXAによって、車両の走行速度Vxaが取得される。車両速度Vxaは、変速機の出力回転数、又は、グローバル・ポジショニング・システムによって検出される車両位置の変化に基づいて演算される。また、車両速度Vxaは、車輪WHに設けられた車輪速度センサVWA(図示せず)の検出結果(車輪速度)に基づいて演算される。さらに、他の装置において演算された結果(走行速度)Vxaが、通信バスを介して取得され得る。したがって、車速取得手段VXAは、上記取得手段(車輪速度センサVWA等)の総称である。車両速度Vxaは、コントローラCTLに入力される。
駐車ブレーキ用スイッチ(単に、駐車スイッチともいう)SWは、運転者によって操作されるスイッチであり、オン又はオフの信号(駐車信号)Swaを、コントローラCTLに出力する。即ち、運転者は、車両の停止状態を維持する駐車ブレーキの作動又は解除を、駐車スイッチSWの操作によって指示する。具体的には、駐車信号Swaのオン(ON)状態で駐車ブレーキの作動が指示され、駐車信号Swaのオフ(OFF)状態で駐車ブレーキの解除が指示される。駐車信号Swaは、コントローラCTLに入力される。
制動制御装置BCRには、駐車ブレーキ機構PKBが設けられる。駐車ブレーキ機構(単に、駐車機構ともいう)PKBは、車両の停止状態を維持するブレーキ機能(所謂、駐車ブレーキ)のため、電気モータMTRが、逆転方向に回転しないように、その動きをロックする。駐車機構PKBによって、摩擦部材MSBが回転部材KTBに対して離れる方向に移動することが拘束(制限)され、摩擦部材MSBによる回転部材KTBの押圧状態が維持される。駐車機構PKBとして、ラチェット機構(動作方向を一方向に制限する機構)が採用される。また、セルフロックする(即ち、逆効率が「0」である)ねじ機構、ウォームギヤ等が採用され得る。
制動制御装置BCSには、駐車機構PKBが省略されている。ここで、駐車機構PKBを持たない制動制御装置BCSが備えられる車輪が、「解放車輪」と称呼される。また、駐車機構PKBを持つ制動制御装置BCRが備えられる車輪が、「拘束車輪」と称呼される。一般的な車両では、前輪WHfが解放車輪であり、後輪WHrが拘束車輪である。
図1では、ディスク型制動装置(ディスクブレーキ)の構成が例示されている。この場合、摩擦部材MSBはブレーキパッドであり、回転部材KTBはブレーキディスクである。ディスク型制動装置に代えて、ドラム型制動装置(ドラムブレーキ)が採用され得る。ドラムブレーキの場合、キャリパCRPに代えて、ブレーキドラムが採用される。また、摩擦部材MSBはブレーキシューであり、回転部材KTBはブレーキドラムである。
また、図1では、制動液を介して、電気モータMTRの出力を摩擦部材MSBが回転部材KTBを押し付ける力(押圧力)に変換するが、制動液を介さず、直接、摩擦部材MSBが回転部材KTBを押圧する構成が採用され得る。この構成では、ホイールシリンダWCに代えて、キャリパCRPに加圧ユニットKAUが直に固定される。そして、加圧ユニットKAUの加圧ピストンPKCによって、摩擦部材MSBが、回転部材KTBに向けて押圧される。押圧力センサFPA(丸括弧付の押圧力センサFPA)は、実際の押圧力Fpaを取得するよう、動力伝達機構DDK(例えば、減速機、ねじ機構)と加圧シリンダKCLとの間に配置される。なお、該構成では、制動液は用いられないため、加圧室Rkcは形成されない。
<コントローラCTLにおける処理>
図2の機能ブロック図を参照して、コントローラ(制御手段)CTLでの処理について説明する。ここでは、電気モータMTRとして、ブラシレスモータが採用される例について説明する。
コントローラCTLによって、後述する駆動回路DRVのスイッチング素子SU1、SU2、SV1、SV2、SW1、SW2(単に、「SU1〜SW2」とも表記)を駆動するための信号Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2(単に、「Su1〜Sw2」とも表記)が演算される。コントローラCTLは、目標押圧力演算ブロックFPT、指示通電量演算ブロックIMS、アナログ・デジタル変換処理ブロックADH、押圧力フィードバック制御ブロックFFB、変換演算ブロックHNK、回転角フィードバック制御ブロックMFB、適否判定ブロックHNT、合成補償通電量演算ブロックIGH、駐車通電量演算ブロックIPK、目標通電量演算ブロックIMT、及び、スイッチング制御ブロックSWTにて構成される。
目標押圧力演算ブロックFPTでは、制動操作量Bpa、及び、演算特性(演算マップ)CFptに基づいて、目標押圧力Fptが演算される。ここで、目標押圧力Fptは、加圧ユニットKAUによって発生される液圧(押圧力に相当)の目標値である。具体的には、演算特性CFptにおいて、制動操作量Bpaが「0(ゼロ、制動操作が行われていない場合に対応)」以上から所定値bp0未満の範囲では目標押圧力Fptが「0(ゼロ)」に演算され、操作量Bpaが所定値bp0以上では目標押圧力Fptが操作量Bpaの増加にしたがってゼロから単調増加するように演算される。ここで、所定値bp0は、制動操作部材BPの「遊び」に相当する値である。
指示通電量演算ブロックIMSでは、目標押圧力Fpt、及び、予め設定された演算特性(演算マップ)CIup、CIdwに基づいて、加圧ユニットKAUを駆動する電気モータMTRの指示通電量Ims(電気モータMTRを制御するための通電量の目標値)が演算される。指示通電量Ims用の演算マップは、動力伝達機構DDK等によるヒステリシスの影響を考慮して、目標押圧力Fptが増加する場合の特性CIupと、目標押圧力Fptが減少する場合の特性CIdwとの2つの特性で構成されている。
ここで、「通電量」とは、電気モータMTRの出力トルクを制御するための状態量(状態変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値(目標通電量)として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比(一周期における通電時間の割合)が通電量として用いられ得る。
押圧力センサFPAとしてアナログ式センサが採用される場合、アナログ・デジタル変換処理ブロックADHにて、押圧力センサFPAの検出結果(アナログ値)が、デジタル値に変換される。即ち、アナログ・デジタル変換処理ブロックADHでは、所謂、アナログ・デジタル変換(AD変換ともいう)が行われる。変換された実押圧力Fpaが、コントローラCTLに読み込まれる。このとき、変換手段ADHのビット数によって、押圧力Fpaの分解能(最下位ビット、LSB:Least Significant Bit)が決定される。例えば、アナログ・デジタル変換処理ブロックADHが10ビットである場合、押圧力センサFPAの出力は、そのダイナミックレンジにおいて、2の10乗に分割されたデジタル値として、コントローラCTLに取り込まれる。
≪押圧力フィードバック制御ブロックFFB≫
押圧力フィードバック制御ブロックFFBでは、押圧力の目標値(例えば、目標液圧)Fpt、及び、押圧力の実際値(検出値)Fpaを制御の状態変数として、これらに基づいて、電気モータMTRの補償通電量Ifpが演算される。指示通電量Imsに基づく制御だけでは、押圧力に誤差が発生する場合がある。このため、押圧力フィードバック制御ブロックFFBでは、この誤差を補償し、電気モータMTRの出力を微調整するための補償通電量が演算される。押圧力フィードバック制御ブロックFFBは、比較演算、及び、押圧力補償通電量演算ブロックIPFにて構成される。
比較演算によって、押圧力の目標値Fptと実際値Fpaとが比較される。ここで、押圧力の実際値Fpaは、押圧力センサFPA(例えば、液圧センサ)によって取得(検出)される検出値である。比較演算では、目標押圧力(目標値)Fptと、実押圧力(検出値)Fpaとの偏差(押圧力偏差)eFpが演算される。押圧力偏差eFp(制御変数であり、物理量としては「圧力」)は、押圧力補償通電量演算ブロックIPFに入力される。
押圧力補償通電量演算ブロックIPFには、比例要素ブロック、微分要素ブロック、及び、積分要素ブロックが含まれる。比例要素ブロックでは、押圧力偏差eFpに比例ゲインKppが乗算されて、押圧力偏差eFpの比例要素が演算される。微分要素ブロックでは、押圧力偏差eFpが微分されて、これに微分ゲインKpdが乗算されて、押圧力偏差eFpの微分要素が演算される。積分要素ブロックでは、押圧力偏差eFpが積分されて、これに積分ゲインKpiが乗算されて、押圧力偏差eFpの積分要素が演算される。そして、比例要素、微分要素、及び、積分要素が、加算されることによって、押圧力補償通電量Ifpが演算される。即ち、押圧力補償通電量演算ブロックIPFでは、目標押圧力Fptと実押圧力Fpaとの比較結果eFpに基づいて、実押圧力(検出値)Fpaが押圧力の目標押圧力(目標値)Fptに一致するよう(即ち、偏差eFpが「0(ゼロ)」に近づくよう)、所謂、押圧力に基づくPID制御のフィードバックループが形成されている。これにより、電気モータMTRの出力が調整される。以上、押圧力フィードバック制御ブロックFFBについて説明した。
変換演算ブロックHNKでは、加圧ユニットKAUによる押圧力と電気モータMTRの回転角との相互関係に基づいて、押圧力から回転角への変換、及び、回転角から押圧力への変換が行われる。これは、電気モータMTRの出力が、既知である動力伝達機構DDKの諸元等によって、加圧ユニットKAUの出力に変換されることに因る。
変換演算ブロックHNKでは、目標押圧力Fpt、及び、変換演算特性(変換演算マップ)CMktに基づいて、目標回転角Mktが演算される。ここで、目標回転角Mktは、電気モータMTRの回転角の目標値である。具体的には、目標回転角Mkt用の変換演算マップCMktにしたがって、目標押圧力Fptの増加にともなって「0(ゼロ)」から、「上に凸」の特性で単調増加するように演算される。目標回転角Mktは、目標押圧力Fptに相当する値として演算される。目標回転角Mkt用の演算特性CMktは、キャリパCRP、摩擦部材MSB等の剛性(ばね定数)、ホイールシリンダWC、加圧シリンダKCL等の諸元(受圧面積)に基づいて設定され、後述する方法にて逐次更新される。
変換演算ブロックHNKでは、実回転角Mka、及び、変換演算マップCFpeに基づいて、推定押圧力Fpeが演算される。ここで、推定押圧力Fpeは、電気モータMTRの回転角の検出値Mkaから換算された押圧力の推定値である。具体的には、推定押圧力Fpe用の変換演算マップCFpeにしたがって、実回転角Mkaの増加にともなって「0(ゼロ)」から、「下に凸」の特性で単調増加するように演算される。目標回転角Mkt用の変換演算マップCMktと同様に、推定押圧力Fpe用の変換演算特性CFpeは、キャリパCRP、摩擦部材MSB等の剛性(ばね定数)、ホイールシリンダWC、加圧シリンダKCL等の諸元(受圧面積)に基づいて設定され、逐次更新される。
変換演算ブロックHNKには、近似関数演算ブロックKNJが含まれている。近似関数演算ブロックKNJでは、実押圧力Fpa、及び、実回転角Mkaに基づいて、実押圧力Fpaと実回転角Mkaとの相互関係(Fpa−Mka特性)を近似する近似関数(近似関数Knj、Kni等)が演算される。この近似関数Knj、Kniに基づいて、変換演算マップCMkt、CFpeが作製され、過去の古い変換演算マップから、最新のものへと更新される。ここで、近似関数Knj(目標回転角マップCMkt)と、近似関数Kni(推定押圧力マップCFpe)とは、逆関数の関係にある。近似関数演算ブロックKNJでの処理については、後述する。
≪回転角フィードバック制御ブロックMFB≫
回転角フィードバック制御ブロックMFBでは、回転角の目標値(目標回転角)Mkt、及び、回転角の実際値(検出値)Mkaを制御の状態変数として、これらに基づいて、電気モータMTRの補償通電量Imkが演算される。押圧力とモータ回転角とは、キャリパCRP等の剛性、加圧シリンダKCL等の諸元を介して相関関係があるため、回転角フィードバック制御ブロックMFBは、押圧力フィードバック制御を補完するものである。即ち、回転角フィードバック制御ブロックMFBは、押圧力フィードバック制御ブロックFFBと同様に、電気モータMTRの出力を微調整するための補償通電量が演算される。回転角フィードバック制御ブロックMFBは、比較演算、及び、回転角補償通電量演算ブロックIMKにて構成される。
比較演算によって、電気モータMTRの回転角の目標値(目標回転角)Mktと実際値(検出値)Mkaとが比較される。ここで、回転角の実際値Mkaは、回転角センサMKAによって取得(検出)される回転角の検出値(実際の回転角)である。例えば、比較演算では、目標回転角(目標値)Mktと、実際の回転角(検出値)Mkaとの偏差(回転角偏差)eMkが演算される。回転角偏差eMk(制御変数)は、回転角補償通電量演算ブロックIMKに入力される。
回転角補償通電量演算ブロックIMKには、比例要素ブロック、微分要素ブロック、及び、積分要素ブロックが含まれる。比例要素ブロックでは、回転角偏差eMkに比例ゲインKmpが乗算されて、回転角偏差eMkの比例要素が演算される。微分要素ブロックでは、回転角偏差eMkが微分されて、これに微分ゲインKmdが乗算されて、回転角偏差eMkの微分要素が演算される。積分要素ブロックでは、回転角偏差eMkが積分されて、これに積分ゲインKmiが乗算されて、回転角偏差eMkの積分要素が演算される。そして、比例要素、微分要素、及び、積分要素が、加算されることによって、回転角補償通電量Imkが演算される。即ち、回転角補償通電量演算ブロックIMKでは、目標回転角Mktと実際の回転角Mkaとの比較結果eMkに基づいて、実際の回転角(検出値)Mkaが目標回転角(目標値)Mktに一致するよう(即ち、偏差eMkが「0(ゼロ)」に収束するよう)、所謂、回転角に基づくPID制御のフィードバックループが形成されている。これにより、電気モータMTRの出力が調整される。以上、回転角フィードバック制御ブロックMFBについて説明した。
適否判定ブロックHNTでは、押圧力センサFPAの検出信号(押圧力実際値)Fpaが、「適正であるか、否か」が判定される。実押圧力Fpaが適正である場合(即ち、押圧力センサFPAが適正作動している場合)には、判定結果(判定フラグ)Hntとして、「0(ゼロ)」が出力され、実押圧力Fpaが適正ではない場合(即ち、押圧力センサFPAが適正には作動していない場合)には、判定フラグHntとして「1」が出力される。
押圧力センサFPAが適正であるか否かの判定は、実回転角Mkaを押圧力に換算した推定値(推定押圧力)Fpeと、押圧力の実際値Fpaとの比較に基づいて行われる。先ず、実回転角Mkaが、後述する変換演算特性CFpeに基づいて推定押圧力Fpeに変換される。実押圧力Fpaと推定押圧力Fpeとの偏差hFp(絶対値)が演算され、偏差hFpが所定値hfx未満の場合には、「Hnt=0(適正判定)」が出力される。一方、偏差hFpが所定値hfx以上の場合には、「Hnt=1(不適判定)」が出力される。ここで、適否判定に使用されるしきい値hfxは、後述する下方値(所定値)fps未満の値に設定される。
≪合成補償通電量演算ブロックIGH≫
合成補償通電量演算ブロックIGHでは、押圧力補償通電量Ifpと回転角補償通電量Imkとが合成されて、最終的な補償通電量である、合成補償通電量Ighが演算される。上述したように、押圧力補償通電量Ifpと、回転角補償通電量Imkとは、相関するものである。このため、押圧力補償通電量Ifpが押圧力係数Kfpによって調整され、回転角補償通電量Imkが回転角係数Kmkによって調整され、最終的に、合成補償通電量Ighが演算される。
さらに、合成補償通電量演算ブロックIGHでは、適否判定ブロックHNTでの判定結果(適否を示す判定フラグ)Hntに基づいて、合成補償通電量Ighが決定される。先ず、判定フラグHntが「押圧力センサFPAが適正である(Hnt=0)」ことを表示している場合について説明する。
合成補償通電量演算ブロックIGHでは、目標押圧力Fpt、及び、押圧力係数の演算特性(演算マップ)CKfpに基づいて、押圧力補償通電量Ifpを修正するための押圧力係数Kfpが演算される。具体的には、目標押圧力Fptが、「0(ゼロ)」以上、下方値fps未満の範囲(「0≦Fpt<fps」の条件)では、押圧力係数Kfpは「0(ゼロ)」に演算される。目標押圧力Fptが、下方値fps以上、上方値fpu未満の範囲(「fps≦Fpt<fpu」の条件)では、目標押圧力Fptの増加にしたがって、押圧力係数Kfpは「0」から「1」に単調増加するように演算される。そして、目標押圧力Fptが、上方値fpu以上の場合(「Fpt≧fpu」の条件)には、押圧力係数Kfpは「1」に演算される。ここで、下方値fps、及び、上方値fpuは、予め設定された所定値(しきい値)であり、上方値fpuは下方値fps以上の値である。例えば、押圧力フィードバック制御の滑らかな遷移(例えば、制御禁止から制御実行への遷移)のため、上方値fpuは、下方値fpsよりも所定値fp0だけ大きい値として設定され得る。
同様に、合成補償通電量演算ブロックIGHでは、目標押圧力Fpt、及び、回転角係数の演算特性(演算マップ)CKmkに基づいて、回転角補償通電量Imkを修正するための回転角係数Kmkが演算される。具体的には、目標押圧力Fptが、「0(ゼロ)」以上、下方値fps未満の範囲(「0≦Fpt<fps」の条件)では、回転角係数Kmkは「1」に演算される。目標押圧力Fptが、下方値fps以上、上方値fpu未満の範囲(「fps≦Fpt<fpu」の条件)では、目標押圧力Fptの増加にしたがって、回転角係数Kmkは「1」から「0」に単調減少するように演算される。そして、目標押圧力Fptが、上方値fpu以上の場合(「Fpt≧fpu」の条件)には、回転角係数Kmkは「0(ゼロ)」に演算される。上記同様、下方値fps、及び、上方値fpuは、予め設定された所定値(しきい値)であり、上方値fpuは下方値fps以上の値である(下方値fpsは上方値fpu以下の値である)。例えば、回転角フィードバック制御の滑らかな遷移(例えば、制御実行から制御禁止への遷移)のため、上方値fpuは、下方値fpsよりも所定値fp0だけ大きい値として設定され得る。ここで、押圧力係数Kfpと回転角係数Kmkとの関係は、合計すると「1」にされる(Kfp+Kmk=1)。
そして、合成補償通電量演算ブロックIGHでは、押圧力係数Kfp、及び、回転角係数Kmkに基づいて、押圧力補償通電量Ifpと回転角補償通電量Imkとが合成されて、最終的に合成補償通電量Ighが演算される。即ち、合成補償通電量の演算では、押圧力係数Kfpによって、押圧力補償通電量Ifpの影響度(寄与度ともいう)が考慮され、回転角係数Kmkによって、回転角補償通電量Imkの影響度が勘案される。具体的には、「押圧力補償通電量Ifpに押圧力係数(押圧力影響度)Kfpが乗算されたもの」と、「回転角補償通電量Imkに回転角係数(回転角影響度)Kmkが乗算されたもの」とが足し合わされて、合成補償通電量Ighが演算される(Igh=(Kfp・Ifp)+(Kmk・Imk))。例えば、「Kfp=0.3、Kmk=0.7」である場合、合成補償通電量Ighにおいて、押圧力補償通電量Ifpの影響度は30%であり、回転角補償通電量Imkの影響度は70%である。
目標押圧力Fptが小さく、「0≦Fpt<fps」である場合には、「Kfp=0、Kmk=1(回転角補償通電量Imkの寄与度が100%)」に演算されるため、合成補償通電量Ighの演算には、押圧力補償通電量Ifpが採用されず、回転角補償通電量Imkのみが採用される。フィードバック制御において、実押圧力Fpaの寄与度はゼロにされ、回転角Mkaの寄与度が全てとされる。即ち、押圧力フィードバック制御は禁止され、回転角フィードバック制御のみが実行される。
目標押圧力Fptが相対的に大きくなり、「fps≦Fpt<fpu」である場合には、目標押圧力Fptの増加にしたがって、回転角係数Kmkは「1」から減少され、押圧力係数Kfpは「0」から増加されて演算される。このため、合成補償通電量Ighは、重み付け係数Kfp、Kmkによって、回転角補償通電量Imk(即ち、回転角Mka)、押圧力補償通電量Ifp(即ち、実押圧力Fpa)の影響度が夫々加味されて演算される。即ち、押圧力フィードバック制御、回転角フィードバック制御の両者が実行される。
目標押圧力Fptが大きく、「Fpt≧fpu」である場合には、「Kfp=1、Kmk=0(押圧力補償通電量Ifpの寄与度が100%)」に演算されるため、合成補償通電量Ighの演算には、回転角補償通電量Imkが採用されず、押圧力補償通電量Ifpのみが採用される。フィードバック制御において、回転角Mkaの寄与度はゼロにされ、実押圧力Fpaの寄与度が全てとされる。即ち、回転角フィードバック制御は禁止され、押圧力フィードバック制御のみが実行される。
このように、2つのフィードバック制御ループが、目標押圧力Fptの大きさに基づいて調整されるため、目標押圧力Fptが大きい場合には、押圧力(制動液圧)に係るフィードバック制御ループのみが有効とされ、押圧力の大きさの一致精度が確保され得る。一方、目標押圧力Fptが小さい場合には、回転角に係るフィードバック制御ループのみが有効とされ、フィードバック制御に検出された押圧力Fpaが採用されない。このため、押圧力の解像度(分解能)が高い、滑らかな制御が行われ得る。加えて、目標押圧力Fptの変化にともなって、係数Kfp、Kmkは徐々に変更されるため、2つのフィードバック制御の相互遷移が円滑化され得る。
次に、判定フラグHntが「押圧力センサFPAが不適である(Hnt=1)」ことを表示している場合について説明する。押圧力センサFPAが適切に作動していない場合には、押圧力係数の演算特性(演算マップ)CKfnに基づいて、押圧力係数Kfpが、「0(ゼロ)」に演算される。また、回転角係数の演算特性(演算マップ)CKmnに基づいて、回転角係数Kmkが、「1」に演算される。即ち、押圧力センサFPAが不調の場合には、合成補償通電量Ighの演算において、押圧力補償通電量Ifpは採用されず、回転角補償通電量Imkが合成補償通電量Ighとして、そのまま出力される。換言すれば、押圧力フィードバック制御は禁止され、回転角フィードバック制御のみが実行される。
なお、目標押圧力Fptは、制動操作量Bpaに基づいて演算されるため、各係数Kfp、Kmkを演算する特性において、目標押圧力Fptに代えて、制動操作量Bpaが採用され得る。ここで、制動操作量Bpa、目標押圧力Fptが、「操作量相当値」と称呼される。即ち、係数Kfp、Kmkは、操作量相当値に基づいて演算される。以上、合成補償通電量演算ブロックIGHについて説明した。
駐車通電量演算ブロックIPKでは、車両速度Vxa、駐車信号Swa、実押圧力Fpa、及び、実モータ回転角Mkaに基づいて、駐車ブレーキ制御を実行するための、駐車通電量Ipk(電気モータMTR用通電量)、及び、ソレノイド通電指示Iso(ソレノイドSOL用通電信号)が演算される。駐車通電量Ipkは、駐車ブレーキ制御用の電気モータMTRの通電量の目標値であり、目標通電量演算ブロックIMTに入力される。また、ソレノイド通電指示Isoによって、ソレノイドアクチュエータ(単に、ソレノイドともいう)SOLが駆動される。
駐車通電量演算ブロックIPKでは、車両が停止した後に、駐車スイッチSWからの駐車信号Swaがオフからオンに遷移した時(該当する演算周期)に、時間カウンタ(タイマ)が開始される。そして、時間カウンタの開始時からの経過時間に基づいて、駐車通電量Ipkが予め設定されたパターンにて出力される。具体的には、車両速度Vxaに基づいて車両の停止が判定される。そして、時間カウンタが開始された時点をゼロ(起点)として、時間勾配kz0で増加し、上限値ipmとなるよう、駐車通電量Ipkが出力される。ここで、上限値ipmは、ブレーキアクチュエータBRKにおける動力伝達効率を考慮して、車両の停止状態を維持するために必要な押圧力fpk(駐車ブレーキの要求値)が、確実に得られるように設定されている。
駐車通電量Ipkによって、押圧力Fpaが駐車ブレーキの所定の要求値fpkに達した時に、ソレノイド通電指示Isoに基づいて、ソレノイドアクチュエータSOLが励磁され、ラチェット歯車RCHに咬合つめTSUが咬みあわされる。
駐車機構PKBが、拘束車輪(例えば、後輪WHr)に設けられる。駐車機構PKBは、ラチェット歯車RCH、ソレノイドSOL、及び、咬合つめTSUにて構成される。ラチェット歯車RCHは、電気モータMTRと同期して回転される。例えば、電気モータMTRとラチェット歯車RCHとは、同軸に固定され、一体となって回転される。咬合つめTSUは、ラチェット歯車RCHと咬み合うことができ、ソレノイドSOLによって移動される。具体的には、ソレノイドSOLが、ソレノイド通電指示Isoによって励磁されると、ソレノイドSOLによって咬合つめTSUがラチェット歯車RCHに向けて押される。これにより、咬合つめTSUとラチェット歯車RCHとが咬み合わされる。なお、ラチェット歯車RCHは、通常のギヤ歯と異なり、歯が傾けられ(所謂、のこぎり歯形状)、この歯の傾きによって回転における方向性がもたらされている。咬合つめTSUとラチェット歯車RCHとが咬み合わされることによって、電気モータMTR、及び、ソレノイドSOLへの通電が停止されても、摩擦部材MSBが回転部材KTBを押圧する状態が維持され、駐車ブレーキが効いている状態が維持される。
駐車通電量演算ブロックIPKからは、駐車スイッチSWがオフからオンされた時に、コントローラCTLは、拘束車輪の押圧力を増加するだけではなく、解放車輪の押圧力も増加する。即ち、駐車ブレーキの作動開始時に、解放車輪を含む全ての加圧ユニットKAU用の電気モータMTRの出力が増加される。駐車ブレーキの作動開始時における押圧力増加は、解放車輪にも対応した、後述する変換演算マップCMkt、CFpeを作製するためである。
目標通電量演算ブロックIMTでは、指示通電量(目標値)Ims、合成補償通電量Igh、及び、駐車通電量Ipkに基づいて、通電量の最終的な目標値である目標通電量Imtが演算される。具体的には、駐車ブレーキの作動が指示されていない場合には(駐車信号Swaがオフであり、Ipk=0)、指示通電量Imsに対して、合成補償通電量Ighが加えられ、それらの和が目標通電量Imtとして演算される(即ち、Imt=Ims+Igh)。即ち、フィードバック制御に基づく合成補償通電量Ighによって、電気モータMTRの出力が調整されるよう、目標通電量Imtが決定される。
駐車ブレーキの作動が指示されている場合には、指示通電量Imsと駐車通電量Ipkとが比較され、それらのうちで、大きい方が目標通電量Imtとして演算される。この場合、合成補償通電量Ighは「0(ゼロ)」とされる(即ち、フィードバック制御による補償が行われない)。
判定フラグHntが「押圧力センサFPAが不適である(Hnt=1)」ことを表示している場合には、「Igh=Imk」であるため、目標通電量演算ブロックIMTでは、指示通電量(目標値)Ims、回転角補償通電量Imk、及び、駐車通電量Ipkに基づいて、通電量の最終的な目標値である目標通電量Imtが演算される。駐車ブレーキが指示されていない場合には(駐車信号Swaがオフであり、Ipk=0)、指示通電量Imsに対して、回転角補償通電量Imkが加えられ、それらの和が目標通電量Imtとして演算される(即ち、Imt=Ims+Imk)。駐車ブレーキが指示されている場合には、「Hnt=0」の場合と同様に、指示通電量Imsと駐車通電量Ipkとが比較され、それらのうちで、大きい方が目標通電量Imtとして演算される。この場合、回転角補償通電量Imkは「0(ゼロ)」とされる。
目標通電量演算ブロックIMTでは、電気モータMTRの回転すべき方向(即ち、押圧力の増減方向)に基づいて、目標通電量Imtの符号(値の正負)が決定される。また、電気モータMTRの出力すべき回転動力(即ち、押圧力の増減量)に基づいて、目標通電量Imtの大きさが演算される。具体的には、制動圧力を増加する場合には、目標通電量Imtの符号が正符号(Imt>0)に演算され、電気モータMTRが正転方向に駆動される。一方、制動圧力を減少させる場合には、目標通電量Imtの符号が負符号(Imt<0)に決定され、電気モータMTRが逆転方向に駆動される。さらに、目標通電量Imtの絶対値が大きいほど電気モータMTRの出力トルク(回転動力)が大きくなるように制御され、目標通電量Imtの絶対値が小さいほど出力トルクが小さくなるように制御される。
スイッチング制御ブロックSWTでは、目標通電量Imtに基づいて、各スイッチング素子SU1〜SW2についてパルス幅変調を行うための駆動信号Su1〜Sw2が演算される。電気モータMTRがブラシレスモータである場合、目標通電量Imt、及び、回転角Mkaに基づいて、各相(U相、V相、W相)の通電量の目標値Iut、Ivt、Iwtが演算される。各相の目標通電量Iut、Ivt、Iwtに基づいて、各相のパルス幅のデューティ比(一周期に対するオン時間の割合)Dut、Dvt、Dwtが決定される。そして、デューティ比(目標値)Dut、Dvt、Dwtに基づいて、ブリッジ回路BRGを構成する各スイッチング素子SU1〜SW2をオン状態(通電状態)にするか、或いは、オフ状態(非通電状態)にするかの駆動信号Su1〜Sw2が演算される。駆動信号Su1〜Sw2は、駆動回路DRVに出力される。
6つの駆動信号Su1〜Sw2によって、6つのスイッチング素子SU1〜SW2の通電、又は、非通電の状態が、個別に制御される。ここで、デューティ比が大きいほど、各スイッチング素子において、単位時間当りの通電時間が長くされ、より大きな電流がコイルに流される。したがって、電気モータMTRの回転動力が大とされる。
駆動回路DRVには、各相に通電量取得手段(例えば、電流センサ)IMAが備えられ、実際の通電量(各相の総称)Imaが取得(検出)される。各相の検出値(例えば、実際の電流値)Imaは、スイッチング制御ブロックSWTに入力される。そして、各相の検出値Imaが、目標値Iut、Ivt、Iwtと一致するよう、所謂、電流フィードバック制御が実行される。具体的には、各相において、実際の通電量Imaと目標通電量Iut、Ivt、Iwtとの偏差に基づいて、デューティ比Dut、Dvt、Dwtが修正(微調整)される。この電流フィードバック制御によって、高精度なモータ制御が達成され得る。
<3相ブラシレスモータMTR、及び、その駆動回路DRV>
図3の回路図を参照して、電気モータMTRとして、U相コイルCLU、V相コイルCLV、及び、W相コイルCLWの3つのコイル(巻線)を有する、3相ブラシレスモータが採用される例について説明する。ブラシレスモータMTRでは、回転子(ロータ)側に磁石が、固定子(ステータ)側に巻線回路(コイル)が配置される。電気モータMTRは、回転子の磁極に合わせたタイミングで、駆動回路DRVによって転流が行われ、回転駆動される。
電気モータMTRには、電気モータMTRの回転角(ロータ位置)Mkaを検出する回転角センサMKAが設けられる。回転角センサMKAとして、ホール素子型のものが採用される。また、回転角センサMKAとして、可変リラクタンス型レゾルバが採用され得る。検出された回転角Mkaは、コントローラCTLに入力される。
駆動回路DRVは、電気モータMTRを駆動する電気回路である。駆動回路DRVによって、コントローラCTLからの各相の駆動信号Su1、Su2、Sv1、Sv2、Sw1、Sw2(「Su1〜Sw2」とも表記)に基づいて、電気モータMTRが駆動される。駆動回路DRVは、6つのスイッチング素子(パワートランジスタ)SU1、SU2、SV1、SV2、SW1、SW2(「SU1〜SW2」とも表記)にて形成された3相ブリッジ回路(単に、ブリッジ回路ともいう)BRG、及び、安定化回路LPFにて構成される。
3相ブリッジ回路(インバータ回路ともいう)BRGの入力側には、安定化回路LPFを介して、蓄電池BATが接続され、ブリッジ回路BRGの出力側には電気モータMTRが接続されている。ブリッジ回路BRGでは、スイッチング素子を直列接続した上下アーム構成の電圧型ブリッジ回路を1つの相として、3つの相(U相、V相、W相)が形成されている。3つの相の上アームは、蓄電池BATの陽極側に接続された電力線PW1と接続される。また、3つの相の下アームは、蓄電池BATの陰極側に接続された電力線PW2と接続される。ブリッジ回路BRGでは、各相の上下アームは、蓄電池BATと並列に電力線PW1、PW2に接続されている。
U相上アームは、還流ダイオードDU1がスイッチング素子SU1に逆並列接続され、U相下アームは、還流ダイオードDU2がスイッチング素子SU2に逆並列接続される。同様に、V相上アームは、還流ダイオードDV1がスイッチング素子SV1に逆並列接続され、V相下アームは、還流ダイオードDV2がスイッチング素子SV2に逆並列接続される。また、W相上アームは、還流ダイオードDW1がスイッチング素子SW1に逆並列接続され、W相下アームは、還流ダイオードDW2がスイッチング素子SW2に逆並列接続される。各相の上アームと下アームとの接続部PCU、PCV、PCWは、ブリッジ回路BRGの出力端(交流出力端)を形成する。これらの出力端には電気モータMTRが接続されている。
6つのスイッチング素子SU1〜SW2は、電気回路の一部をオン又はオフできる素子である。例えば、スイッチング素子SU1〜SW2として、MOS−FET、IGBTが採用される。ブラシレスモータMTRでは、回転角(ロータ位置)Mkaに基づいて、ブリッジ回路BRGを構成するスイッチング素子SU1〜SW2が制御される。そして、3つの各相(U相、V相、W相)のコイルCLU、CLV、CLWの通電量の方向(即ち、励磁方向)が、順次切り替えられ、電気モータMTRが回転駆動される。即ち、ブラシレスモータMTRの回転方向(正転方向、或いは、逆転方向)は、ロータと励磁する位置との関係によって決定される。ここで、電気モータMTRの正転方向は、加圧ユニットKAUによる押圧力Fpaの増加に対応する回転方向であり、電気モータMTRの逆転方向は、押圧力Fpaの減少に対応する回転方向である。
ブリッジ回路BRGと電気モータMTRとの間の実際の通電量Ima(各相の総称)を検出する通電量取得手段IMAが、3つの相毎に設けられる。例えば、通電量取得手段IMAとして、電流センサが設けられ、電流値が実通電量Imaとして検出される。検出された各相の通電量Imaは、コントローラ(制御手段)CTLに入力される。
駆動回路DRVは、電力源(蓄電池BAT、発電機ALT)から電力の供給を受ける。供給された電力(電圧)の変動を低減するために、駆動回路DRVには、安定化回路(ノイズ低減回路ともいう)LPFが設けられる。安定化回路LPFは、少なくとも1つのコンデンサ(キャパシタ)、及び、少なくとも1つのインダクタ(コイル)の組み合わせにて構成され、所謂、LC回路(LCフィルタともいう)である。
電気モータMTRとして、ブラシレスモータに代えて、ブラシ付モータ(単に、ブラシモータともいう)が採用され得る。この場合、ブリッジ回路BRGとして、4つのスイッチング素子(パワートランジスタ)にて形成されるHブリッジ回路が用いられる。即ち、ブラシモータのブリッジ回路BRGでは、ブラシレスモータの3つの相のうちの1つが省略される。ブラシレスモータの場合と同様に、電気モータMTRには、回転角センサMKAが設けられ、駆動回路DRVには、安定化回路LPFが設けられる。さらに、駆動回路DRVには、通電量センサIMAが設けられる。
<適否判定ブロックでの処理、及び、変換演算マップの作製処理>
図4のフロー図を参照して、適否判定ブロックHNTでの処理、及び、変換演算ブロックHNKでの処理(特に、変換演算マップCMkt、CFpeの作製処理)について説明する。
先ず、ステップS110にて、制動操作量Bpaが読み込まれる。次に、ステップS120に進む。ステップS120にて、制動操作量Bpaに基づいて、「制動中であるか、否か」が判定される。具体的には、制動操作量Bpaが所定値bp0以上である場合に「制動中である」ことが判定される。また、制動操作量Bpaが所定値bp0未満である場合に「制動中ではない(非制動である)」ことが判定される。ステップS120にて、「制動中である」ことが肯定される場合(「YES」の場合)、ステップS130に進む。一方、ステップS120にて、「制動中である」ことが否定される場合(即ち、非制動であり、「NO」の場合)には、ステップS110に戻る。ここで、所定値bp0は、制動操作部材BPの「遊び」に相当する値である。
ステップS120での判定は、制動操作部材BPに設けられたストップスイッチの信号に基づいて行われ得る。ストップスイッチ信号がオンである場合に、制動中であることが判定され、オフである場合に、制動中ではないことが判定される。初めてステップS120の判定が肯定された演算周期が、「制動操作の開始時」と称呼される。即ち、「制動操作中ではない」状態が継続されている状況において、「制動操作中である」ことが判定された時点が、制動操作開始時である
ステップS130にて、実回転角(回転角実際値)Mka、及び、実押圧力(押圧力実際値)Fpaが読み込まれる。処理は、ステップS140に進む。ステップS140にて、実回転角Mka、及び、変換演算マップCFpeに基づいて、推定押圧力(押圧力推定値)Fpeが演算される。推定押圧力Fpeは、実回転角Mkaから推定される、実押圧力Fpaに相当する値である。
ステップS150にて、推定押圧力Fpe、及び、実押圧力Fpaとの比較に基づいて、「実押圧力Fpaが適正であるか、否か」が判定される。例えば、「実押圧力Fpaと推定押圧力Fpeとの偏差hFpの絶対値が、所定値(適否判定値)hfx未満であるか、否か」に基づいて、実押圧力Fpaの適否判定が行われる。偏差hFpの絶対値が所定値hfx未満であり、適否判定条件が肯定される場合(「YES」の場合)には、ステップS160に進む。一方、偏差hFpの絶対値が所定値hfx以上であり、判定条件が否定される場合(「NO」の場合)には、ステップS200に進む。なお、所定値hfxは、適否判定のためのしきい値であり、下方値fpsよりも小さい値である。
ステップS160では、実回転角Mka、及び、実押圧力Fpaが同期されて記憶される。即ち、実押圧力Fpaは適正であることが判定されたため、変換演算マップCMkt、CFpeを作製するために、該演算周期における、実回転角Mka、及び、実押圧力Fpaがマイクロプロセッサのメモリ内に記憶される。処理は、ステップS170に進む。
ステップS170では、前述したように合成補償通電量Ighが演算され、合成補償通電量演算ブロックIGHから目標通電量演算ブロックIMTに出力される(図2参照)。即ち、実押圧力Fpaが適正状態である場合の通常時のフィードバック制御が実行される。
ステップS180では、制動操作量Bpaに基づいて、「制動操作の開始時から継続されている制動操作が終了されたか、否か」が判定される。具体的には、「制動操作量Bpaが戻し側所定値bps未満か、否か」によって、制動操作の終了が判定される。ここで、戻し側所定値bpsは、踏込側所定値bp0よりも小さい値である。制動操作量Bpaが所定値bps未満であり、制動操作の終了判定条件が肯定される場合(「YES」の場合)には、ステップS190に進む。制動操作量Bpaが所定値bps以上であり、制動操作の終了判定条件が否定される場合(未だ、制動操作を継続中であり、「NO」の場合)には、ステップS110に戻る。
ステップS120での判定と同様に、制動操作部材BPに設けられたストップスイッチの信号に基づいて、ステップS180の判定が行われ得る。ストップスイッチ信号がオンである場合に、制動中が継続されていることが判定され、オフである場合に、制動操作が終了されたことが判定される。
ステップS190では、同期して記憶された実回転角Mka、及び、実押圧力Fpaのデータ列に基づいて、変換演算マップCMkt、CFpeが作製される。即ち、制動操作開始時から終了時までの連続した一連の制動操作において記憶された、実回転角Mka、及び、実押圧力Fpaのデータが制動操作終了の後に処理されて、変換演算マップCMkt、CFpeが新たに作製される。そして、過去の変換演算マップCMkt、CFpeが、新しい変換演算マップCMkt、CFpeに置換される。
ステップS200では、押圧力センサFPAが不調であるため、「Kfp=0、Kmk=1」が採用され、合成補償通電量Ighが決定される。即ち、押圧力フィードバック制御は禁止され、回転角フィードバック制御のみが実行され、回転角補償通電量Imkが、合成補償通電量Ighとして出力される。ステップS200の処理は、実押圧力Fpaの信号が不適状態におけるフィードバック制御である。
<近似多項式に基づく変換演算マップCMkt、CFpe>
図5の特性図を参照して、変換演算ブロックHNK内における近似関数演算ブロックKNJでの処理について説明する。近似関数演算ブロックKNJには、アナログ・デジタル変換処理ブロックADHの出力値Fpa、及び、回転角センサMKAの検出値Mkaが、同期して記憶されている。記憶された時系列データ(Fpa−Mka特性)に基づいて、目標回転角Mkt用の変換演算マップCMkt(Fpt−Mkt変換特性)、及び、推定押圧力Fpe用の変換演算マップCFpe(Mka−Fpe変換特性)が作製される。
変換演算マップCMkt、CFpeは、キャリパCRP、摩擦部材MSB等の剛性(ばね定数)、ホイールシリンダWC、加圧シリンダKCL等の諸元(受圧面積)に基づいて初期特性として設定することが可能ではある。しかしながら、摩擦部材MSBの剛性は、摩耗のため経年変化する(徐々に、剛性が増加する)。このため、変換演算マップCMkt、CFpeでは、実押圧力Fpaと実回転角Mkaとの相互関係が、一連の制動操作毎に記憶され、記憶された相互関係(Fpa−Mka特性)に基づいて逐次更新される。ここで、「一連の制動操作」とは、制動操作の開始時から終了時までを指す。
変換演算ブロックHNKには、近似関数演算ブロックKNJが形成される。近似関数演算ブロックKNJでは、実押圧力Fpa、及び、実回転角Mkaに基づいて、変換演算マップCMkt、CFpeが、関数Knj、Kniとして近似され、決定される。具体的には、実押圧力Fpaと実回転角Mkaとが時間的に同期されて計測され、時系列のデータ群として記憶される。このデータ群が、事後的な処理(即ち、制動操作の開始時点から終了時点までの一連の制動操作後の処理)によって、実押圧力Fpaに対する実回転角Mkaが、2次以上の多項式Knjとして近似される。近似関数Knjと同様に、実回転角Mkaに対する実押圧力Fpaが、2次以上の多項式Kniとして近似される。ここで、近似された実押圧力Fpaと実回転角Mkaとの関係が、「近似関数Knj、Kni」と称呼される。なお、近似関数Knjと近似関数Kniとは、互いに逆関数の関係にある。
≪目標回転角Mkt用の変換演算マップCMkt≫
先ず、目標回転角Mkt用の変換演算マップ(目標回転角マップ)CMktについて説明する。実押圧力Fpaは、アナログ・デジタル変換処理ブロックADHでの処理を経て、コントローラCTLに入力されるため、破線で示すような、「1(単位)」のLSB毎の階段状の値として検出される。実押圧力Fpaと実回転角Mkaとの関係が、多項式の近似関数Knjで表現されるため、LSB(最下位ビットであり、信号の分解能)によって生じる階段状のデータが補間される。
また、検出信号には、点Qで示すような、ノイズの影響も考えられ得る。ノイズの影響は、フィルタによっても補償され得る。しかし、フィルタを使用すると、検出値が時間的に遅れ、相対的に速い制動操作への対応が困難となり得る。近似関数Knjによって、記憶データが平滑化されるため、速い制動操作に対しても、実押圧力Fpaと実回転角Mkaとの相互関係が、正確に取得され得る。
近似関数Knjが、次回以降の制動操作に利用され得るよう、新たな変換演算マップCMktとして設定される。実押圧力Fpaが目標押圧力Fptに置き換えられ、実回転角Mkaが目標回転角Mktに置き換えられて、更新された変換演算マップCMktが決定される。即ち、目標回転角Mktは、目標押圧力Fptを変数とした、原点を通り(即ち、Fpt=0のとき、Mkt=0)、且つ、2次以上の多項式で表現される関数マップとして設定される。なお、変換演算マップCMktでは、キャリパCRP、摩擦部材MSB等による剛性の非線形性が考慮され、目標押圧力Fptの増加に対して、目標回転角Mktが「上に凸」の特性にて増加される。このように、一連の制動操作において、近似関数Knjが演算され、次回の制動操作における変換演算マップCMktとして逐次更新されていくため、摩擦部材MSB等の経年変化による演算マップのズレが補償され得る。さらに、変換演算マップCMktが単調増加関数として設定されるため、目標押圧力Fptが増加するにもかかわらず、目標回転角Mktが減少するような状況が、適切に回避され得る。
近似関数Knjとして、3次以上の多項式が採用される場合には、一点鎖線で図示するように、目標押圧力Fptの増加に対して目標回転角Mktが単調増加とはならない場合がある(即ち、Fpt=fphにて、変曲点Hを有する場合があり得る)。近似関数Knjにおける変曲点を防止し、「上に凸」の単調増加関数とするため、少なくとも2つの関数(多項式)Kj1、Kj2を用いて、近似関数Knjが形成され得る。具体的には、目標回転角用の近似関数Knjは、範囲A(0≦Fpt<fpv)内では第1近似関数Kj1として近似され、範囲B(fpv≦Fpt≦fpk)内では第2近似関数Kj2として近似される。ここで、第1近似関数Kj1と第2近似関数Kj2とは、点Pにて連続である(Fpt=fpv、Mkt=mkv)。所定値fpvは、第1近似関数Kj1と第2近似関数Kj2との境目であるため、「境界値」と称呼される。
さらに、第1近似関数(第1多項式)Kj1の次数は、第2近似関数(第2多項式)Kj2の次数よりも大きく設定され得る。例えば、第1近似関数Kj1が3次多項式である場合に、第2近似関数Kj2は2次多項式として設定される。これは、キャリパCRP、摩擦部材MSB等による剛性(ばね定数)において、実押圧力Fpa(即ち、目標押圧力Fpt)が小である場合には、ばね定数が小さく、非線形性が強く、実押圧力Fpaが大である場合には、ばね定数が大きくなり、非線形性が弱くなる(線形に近づく)ことに因る。
各々の所定値(下方値fps等)において以下の関係がある。境界値fpvは、上方値fpu以上の値である(0≦fps≦fpu≦fpv)。したがって、係数Kfp、Kmkが徐々に変化する領域(「Fpt<fpu」の領域)の変換特性は、第1近似関数(第1多項式)Kj1にて近似される。駐車ブレーキの作動開始時には、拘束車輪だけでなく、解放車輪においても押圧力が増加される(図2参照)。このとき実押圧力Fpaは所定値fpkまで増加される。ここで、所定値fpkが「(駐車ブレーキの)要求値」と称呼される。要求値fpkは、境界値fpvよりも大きい値に設定される。この駐車ブレーキ作動によって、駐車ブレーキ機構PKBを備えない解放車輪に対しても、実押圧力Fpa(即ち、目標押圧力Fpt)が「0」から要求値fpkに亘って計測されて、記憶される。このため、高精度な変換演算マップCMktが作製され得る。以上、目標回転角用変換演算マップ(目標回転角マップ)CMktについて説明した。
≪推定押圧力Fpe用の変換演算マップCFpe≫
次に、推定押圧力Fpe用の変換演算マップ(推定押圧力マップ)CFpeについて説明する。変換演算マップCFpeの作製は、変換演算マップCMktの作製と同様であるため、簡単に説明する。変換演算マップCFpeも、変換演算マップCMktと同様に、実押圧力Fpaと実回転角Mkaとの相互関係(Fpa−Mka特性)に基づいて決定される。実回転角Mkaに対する実押圧力Fpaの関係が決定され、実押圧力Fpaが推定押圧力Fpeに置換されることによって、変換演算マップCFpeが作製される。
変換演算マップCFpeの作製においても、推定押圧力用の近似関数(近似多項式)Kniが採用され得る。ここで、近似関数Kniは、近似関数Knjの逆関数(ある関数の独立変数と従属変数を入れかえて得られる関数)である。推定押圧力Fpeは、実回転角Mkaを変数とした、原点を通り(即ち、Mka=0のとき、Fpe=0)、且つ、2次以上の多項式で表現される関数マップとして設定される。変換演算マップCFpeでは、キャリパCRP、摩擦部材MSB等による剛性の非線形性が考慮され、実回転角Mkaの増加に対して、推定押圧力Fpeが「下に凸」の特性にて増加される。
近似関数Kniにおける変曲点を防止し、「下に凸」の単調増加関数とするため、少なくとも2つの関数(多項式)Ki1、Ki2を用いて、近似関数Kniが形成され得る。具体的には、近似関数Kniは、範囲C(0≦Mka<mkv)内では第1近似関数Ki1として近似され、範囲D(mkv≦Mka≦mpk)内では第2近似関数Ki2として近似される。ここで、第1近似関数Ki1と第2近似関数Ki2とは、連続である。さらに、第1近似関数(第1多項式)Ki1の次数は、第2近似関数(第2多項式)Ki2の次数よりも大きく設定され得る。例えば、第1近似関数Ki1が3次多項式である場合に、第2近似関数Ki2は2次多項式として設定される。
各所定値(下方角mks等)においては、下方角mksが下方値fpsに、上方角mkuが上方値fpuに、境界角mkvが境界値fpvに、要求角mkkが要求値fpkに、夫々対応する所定値である。したがって、「0≦mks≦mku≦mkv<mkp」の関係がある。
目標回転角マップCMktと同様に、推定押圧力マップCFpeは、一連の制動操作において、近似関数Kniが演算され、次回の制動操作における変換演算マップCFpeとして逐次更新されていく。このため、摩擦部材MSB等の経年変化による演算マップのズレが補償され得る。さらに、変換演算マップCFpeが単調増加関数として設定されるため、実回転角Mkaが増加するにもかかわらず、推定押圧力Fpeが減少するような状況が、適切に回避され得る。
通常に走行している場合の制動(所謂、通常ブレーキ)による押圧力は然程、大きくはない。一方、駐車ブレーキによる押圧力は、坂路等を考慮して、通常ブレーキの場合よりも、極めて大きく設定されている。したがって、駐車ブレーキにおける要求値(予め設定された所定値)fpkは、通常ブレーキに使用される押圧力の範囲を含んでいる。駐車ブレーキ作動によって、駐車機構PKBを備えない解放車輪に対して、実回転角Mkaの「0」から、駐車ブレーキによる要求角mkkに亘って、実押圧力Fpaが測定されて、記憶される。結果、高精度な推定押圧力マップCFpeが作製され得る。このため、押圧力センサFPAが不調の場合であっても、実回転角Mka、及び、変換演算マップCFpeに基づいて、推定押圧力Fpeが精度よく演算され、推定押圧力Fpe(即ち、実回転角Mka)によってフィードバック制御が実行され得る。以上、推定押圧力用変換演算マップ(推定押圧力マップ)CFpeについて説明した。
<作用・効果>
図6の時系列線図を参照して、本発明に係る制動制御装置BCS、BCRの作用・効果について説明する。(a)は、駐車ブレーキ機構PKBが備えられた拘束車輪用(例えば、後輪WHr用)の制動制御装置BCRに関するものである。また、(b)は、駐車ブレーキ機構PKBが省略された解放車輪用(例えば、前輪WHf用)の制動制御装置BCSに関するものである。なお、フィードバック制御によって、実際値が目標値と一致するように制御されるため、線図において、目標押圧力Fpt、実押圧力Fpa、及び、推定押圧力Fpeは重なっている。同様に、目標回転角Mktと実回転角Mkaとは重なっている。
走行中の車両が、「Bpa=bp1」で制動され、減速される。時点t0にて、車両速度Vxaが「0」となり、車両が停止される。その後、時点t1にて、運転者が駐車スイッチSWをオフからオンに切り替え、駐車信号Swaがオフ状態からオン状態に移り変わる。「車両が停止していること」、且つ、「駐車信号Swaがオフ状態からオン状態に遷移したこと」の条件が満足された時点t1から、予め設定された増加パターン(時間勾配kz0)で、駐車通電量Ipkが、制動制御装置BCR、及び、制動制御装置BCSに対して出力される。即ち、駐車ブレーキ機構PKBを持たない制動制御装置BCSに対しても、駐車ブレーキの信号Swaによって、押圧力の増加が指示される。
駐車通電量Ipkの増加にともない、駐車ブレーキ用の押圧力目標値Fpt、及び、回転角目標値Mktは、「0」から増加される(一点鎖線で示す、Fpt(Ipk)、Mkt(Ipk)を参照)。しかし、目標通電量演算ブロックIMTにて、指示通電量Imsと駐車通電量Ipkとのうちで大きい方が、目標通電量Imtとして決定されるため、押圧力Fpa、推定押圧力Fpe、及び、回転角Mkaは、「Bpa=bp1」に対応した値(値fp1、値mk1)に維持されている。
時点t2にて、「Ipk>Ims」となり、目標押圧力Fpt、目標回転角Mkt(結果として、実押圧力Fpa、実回転角Mka)が、値fp1、値mk1から増加される。時点t3にて、運転者は、制動操作部材BPを戻し始める。これによって制動操作量Bpaに基づいて決定される、目標押圧力Fpt、目標回転角Mktは減少する(二点鎖線で示す、Fpt(Bpa)、Mkt(Bpa)を参照)。しかしながら、駐車通電量Ipkによって、目標押圧力Fpt、目標回転角Mkt(結果として、実押圧力Fpa、実回転角Mka)の増加は継続される。
時点t4にて、駐車通電量Ipkが上限値ipmに達する前に、「Fpa≧fpk」の条件が満足され、実押圧力Fpaが、要求値fpkの近傍に維持される。これに対応し、実回転角Mkaが要求角mkk(要求値fpkに対応する回転角)の近傍に維持される。この維持状態が所定時間tpkに亘って継続された時点で、制動制御装置BCRでは、ソレノイド通電指示Isoが出力され、ソレノイドSOLが励磁される。この結果、ラチェット歯車RCHと咬合つめTSUとが咬み合わされ、電気モータMTRの逆転方向に対応する回転が拘束される。即ち、駐車ブレーキ機構PKBが作動され、駐車ブレーキが効いた状態となる。
時点t6にて、駐車機構PKBを持つ制動制御装置BCRにて、ラチェット歯車RCHと咬合つめTSUとの咬み合いが確認されると、駐車通電量Ipkが「0」に向けて減少される。この駐車通電量Ipkの減少にともない、駐車通電量Ipkに対応する目標押圧力Fpt、目標回転角Mktが減少される(一点鎖線で示す、Fpt(Ipk)、Mkt(Ipk)を参照)。駐車ブレーキ機構PKBによって、電気モータMTRの動きがロックされているため、実押圧力Fpaは要求値fpkを維持し、実回転角Mkaも要求角mkkのままである。
同様に、制動制御装置BCSでも駐車通電量Ipkが減少される。制動制御装置BCSは、駐車ブレーキ機構PKBを有さないため、駐車通電量Ipkの減少にともない、実押圧力Fpa、実回転角Mkaが減少される。時点t7にて、制動制御装置BCSでは、実押圧力Fpa、実回転角Mkaが、「0」になる。
時点t1から時点t7までの間に亘って、駐車機構PKBの有無にかかわらず、制動制御装置BRC、BCSの夫々において、実押圧力Fpaと実回転角Mkaとが、同期された時系列データとして記憶される。そして、実押圧力Fpa、実回転角Mkaが、「0」にまで減少した時点t7の後の演算処理によって、変換演算マップCMkt、CFpeが決定される。
通常走行における制動操作(所謂、通常ブレーキ時)にて発生される押圧力は、然程、大きくはない。一方、駐車ブレーキにて発生される押圧力は、通常ブレーキ時の押圧力に比較して、非常に大きい。例えば、時系列線図に例示するような、通常ブレーキ時の値fp1、mk1と、駐車ブレーキ時の値fpk、mkkとの関係にある。駐車スイッチSWが操作された場合(即ち、駐車信号Swaの状態遷移をトリガにして)、実押圧力Fpaと実回転角Mkaとの相互関係(Fpa−Mka)が記憶され、この記憶されたデータに基づいて変換演算マップCMkt、CFpeが作製される。このため、実押圧力Fpa、実回転角Mkaの幅広い領域に亘って、高精度な特性として作製され得る。
加えて、拘束車輪の制動制御装置BCRのみならず、解放車輪の制動制御装置BCSについても、駐車スイッチSWが操作された場合に、押圧力が要求値fpkまで増加され、その後に減少される。この押圧力の増減によって、制動制御装置BCSの演算マップCMkt、CFpeについても、幅広い範囲に亘って、精度の高い特性として作製され得る。
変換演算マップCMkt、CFpeが高精度に作製され、駐車ブレーキの作動時に、最新のものに更新されるため、押圧力センサFPAの不適状態の判定が確実に行われ得る。また、押圧力センサFPAが不適状態に陥った場合であっても、回転角センサMKAに基づくフィードバック制御によって押圧力の調整が適切に実行され得る。以上、本発明に係る制動制御装置BCS、BCRの作用・効果について説明した。
なお、実施形態では、制動液圧を利用したディスクブレーキでの構成が例示されている。ディスクブレーキに代えて、ドラムブレーキが採用され得る。また、制動液圧を利用せず、動力伝達機構DDKによって、直接的に、摩擦部材MSBを回転部材KTBに対して押し付ける構成が採用され得る。このような構成においても、上述した同様の効果を奏する。