JP6811694B2 - 鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
C :0.05〜0.25質量%、
Si:1.0〜3.0質量%、
Mn:5.0〜10.0質量%、
P :0質量%超、0.100質量%以下、
S :0質量%超、0.010質量%以下、
Al:0.001〜3.0質量%、および
N :0質量%超、0.0100質量%以下
を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、
フェライトの面積率が40%以上、80%未満であり、
マルテンサイトの面積率が20%未満であり、
残留オーステナイトの面積率が20%以上であり、
フェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト以外の組織の合計の面積率が10%未満であり、
残留オーステナイトの平均結晶粒径が1.0μm以下であり、
残留オーステナイト粒の板幅方向の長さdWと板厚方向の長さdTとの比dW/dTの平均値が1.4以上である、鋼板である。
態様1〜3のいずれかに記載の化学成分組成を有する鋼スラブを、1050〜1150℃の加熱温度まで昇温した後、800℃以上、860℃未満の仕上げ温度において、20%以上の仕上げ圧下率で熱間圧延し、その後室温まで冷却して熱延板を得る熱延工程と、
前記熱延板を、500℃〜(Ac1+30℃)の軟質化焼鈍温度で、0.5〜72時間保持する軟質化焼鈍工程と、
前記軟質化焼鈍後の熱延板を、25〜75%の冷延率で冷間圧延して冷延板を得る冷延工程と、
前記冷延板を、3.0℃/秒以上の平均昇温速度で、[(Ac1+Ac3)/2−90℃]〜[(Ac1+Ac3)/2−20℃]の均熱温度まで昇温し、前記均熱温度で10〜1800秒保持する均熱工程とを含む、鋼板の製造方法である。
残留オーステナイト粒の形状に関して、具体的には、本発明者らは、板面に平行な方向(すなわち、板幅方向および圧延方向)に伸長し、且つ板厚方向に圧縮された形状(例えば、略楕円体状)とすることにより、穴広げ加工の打ち抜きの際、残留オーステナイトのマルテンサイト変態を抑制することができ、その結果λを向上させることができることを見出した。
以下、本発明の実施形態に係る鋼板およびその製造方法の詳細を示す。
本発明の実施形態に係る鋼板は、フェライトの面積率が40%以上、80%未満であり、マルテンサイトの面積率が20%未満であり、残留オーステナイトの面積率が20%以上であり、フェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト以外の組織の合計の面積率が10%未満であり、残留オーステナイトの平均結晶粒径が1.0μm以下であり、残留オーステナイト粒の板幅方向の長さdWと板厚方向の長さdTとの比dW/dTの平均値が1.4以上である。
以下、各構成について詳述する。なお、「面積率」とは、全組織に対する面積率を意味する。
延性に富むフェライトを主相とすることで、残留オーステナイトの変態誘起塑性と併せて、所望のTSおよびTS×ELを得ることができる。フェライトの面積率が40%未満では、母相の延性が不足するためTS×ELが低下する。一方、フェライトの面積率が80%以上ではTSが確保できない。従って、フェライトの面積率は、40%以上、80%未満とする。フェライトの面積率は、好ましくは45%以上であり、好ましくは75%以下である。
加工等による変形前の鋼板の組織にマルテンサイトが多量に含まれる、すなわち、マルテンサイトが面積率で20%以上鋼組織中に含まれると、伸びが低下するためTS×ELが低下すると共に、マルテンサイトが破壊の起点として作用するためλも低下する。従って、マルテンサイトの面積率は20%未満とする。マルテンサイトの面積率は好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下である。マルテンサイトの面積率の下限は特に限定されず、良好な伸びおよびTS×ELを得る観点から0%であってよい。
なお、本発明の実施形態における「マルテンサイト」は、「焼入れままマルテンサイト」および「焼戻しマルテンサイト」の両方を意味するものとする。
母相であるフェライトの他に、第2相として残留オーステナイトを導入する。残留オーステナイトは加工誘起マルテンサイト変態することでTS×ELを高める効果を有する。良好な機械的特性を得るため、残留オーステナイトの面積率は20%以上とする。残留オーステナイトの面積率は好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上である。残留オーステナイトの面積率の上限は、フェライトの面積率およびマルテンサイトの面積率が上記範囲である限り特に限定されない。
フェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト以外の組織としては、パーライト、ベイナイトおよびセメンタイト等が挙げられる。フェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト以外の組織の合計の面積率が10%以上になると、TS×ELが低下する。従って、フェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト以外の組織の合計の面積率は10%未満とする。当該面積率は好ましくは5%以下である。当該面積率の下限は特に限定されず、良好なTS×ELを得る観点から0%であってよい。
以下、フェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト以外の組織を「その他の組織」と呼ぶことがある。
残留オーステナイトの平均結晶粒径を1.0μm以下とし、個々の粒は微細分散させておくことで、加工誘起マルテンサイトを起点としたクラック発生を抑制し、TS×ELの低下を防止することができる。残留オーステナイトの平均結晶粒径が1.0μm超になると、加工等により鋼板を変形させる際に、残留オーステナイトが粗大なマルテンサイトへと変態し、TS×ELおよび/またはλが低下する。残留オーステナイトの平均結晶粒径は好ましくは0.94μm以下、さらに好ましくは0.8μm以下である。
本明細書において、鋼の断面をEBSD(Electron BackScatter Diffraction、電子後方散乱回折)解析装置により測定し、EBSPの解析データから、結晶方位差(斜角)が15°を超える境界、すなわち、大角粒界を結晶粒界として残留オーステナイト粒を定義する。
残留オーステナイト粒の形状を、板幅方向に伸長し、且つ板厚方向に圧縮された形状(例えば、略楕円形状)に制御することにより、引張加工時には変態誘起塑性効果を得ながら、穴広げ加工の打ち抜き時には残留オーステナイトの硬質マルテンサイトへの変態を抑制することでき、λを向上させることができる。従って、残留オーステナイト粒の板幅方向の長さdWと板厚方向の長さdTとの比dW/dTの平均値を1.4以上とする。dW/dTの平均値は、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.6以上である。
なお、板面に平行な方向のうち、板幅方向と圧延方向とでは残留オーステナイト粒の伸長度合いが異なることも想定されるが、本発明の実施形態では、板幅方向への伸長度合いを板面に平行な方向への伸長度合いを代表する指標として選択している。
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、ピクラール液で腐食して組織を顕出させた後、板厚/4の領域を対象に、FE−SEM(Field−Emission Scanning Electron Microscope、電界放出型走査電子顕微鏡)にて、倍率10000倍で、10μm×12μmの領域を無作為に10視野撮影し、SEM像を得る。得られたSEM像について組織の分別を行い、画像解析ソフト、例えば、MEDIA CYBERNETICS社製画像解析ソフト「ImagePro Plus ver. 7.0」を用いて、各組織の面積率を視野ごとに算出し、10視野の平均値を各組織の面積率とする。
フェライトの面積率(%)
=[100−(残留オーステナイトの面積率+フェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト以外の組織の合計の面積率)]×A (1)
マルテンサイトの面積率(%)
=[100−(残留オーステナイトの面積率+フェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト以外の組織の合計の面積率)]×(1−A) (2)
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、板厚/4の領域を対象に、FE−SEMに付属のEBSD解析装置にて、無作為に選択した20μm×20μmの領域5視野について、ステップ間隔0.05μmで測定する。解析ソフト、例えば、TSLソリューションズ社製解析ソフト「OIM Analysis 7」を用いて、残留オーステナイトの領域に限定して平均結晶粒径を視野ごとに算出し、5視野の平均値を残留オーステナイトの平均結晶粒径とする。上記測定の際、結晶方位差(斜角)が15°を超える境界、すなわち、大角粒界を結晶粒界として、残留オーステナイト粒を定義する。
鋼組織の面積率の測定の際に観察した上記10視野(倍率10000倍、10μm×12μmの領域)のSEM像を用いて、以下のようにしてdW/dTを求める。
SEM像について、板幅方向および板厚方向それぞれに、等間隔(およそ0.5μm)で10本の直線を引く。そして、板幅方向の10本の直線が残留オーステナイト領域と重なる部分の線分全てについてその長さを測定し、全ての線分の長さの合計を当該線分の数で除して、当該線分の長さの平均値を求め、当該平均値を残留オーステナイト粒の板幅方向の長さdWとする。板厚方向についても同様にして、板厚方向の10本の直線が残留オーステナイト領域と重なる部分の線分全てについてその長さを測定し、全ての線分の長さの合計を当該線分の数で除して、当該線分の長さの平均値を求め、当該平均値を残留オーステナイト粒の板厚方向の長さdTとする。得られたdWおよびdTから、dW/dTを算出する。
全10視野のSEM像について上記のように測定を行って、視野ごとにdW/dTを算出し、全10視野のdW/dTの平均値を求める。
本発明の実施形態に係る鋼板は、C:0.05〜0.25質量%、Si:1.0〜3.0質量%、Mn:5.0〜10.0質量%、P:0質量%超、0.100質量%以下、S :0質量%超、0.010質量%以下、Al:0.001〜3.0質量%、およびN:0質量%超、0.0100質量%以下を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなる。
以下、各元素について詳述する。
Cは、Mnとともにオーステナイト安定化元素として残留オーステナイト分率の増加および残留オーステナイトの加工に対する安定性向上に寄与し、また鋼板の強度を確保するのに有用である。このような作用を有効に発揮させるためには、C含有量は0.05質量%以上である必要があり、好ましくは0.10質量%以上である。ただし、C含有量が0.25質量%超では最終焼鈍で硬質なマルテンサイトが過度に生成してしまうほか、溶接性を悪化させるという問題も生じる。そのため、C含有量は0.25質量%以下であり、好ましくは0.20質量%以下である。
Siはフェライトの固溶強化元素として有用であり、ELの低下を抑制しつつ高TS化に寄与する。また、熱間圧延におけるオーステナイトの回復再結晶を抑制することで、最終組織においてオーステナイト粒の形状を規定するdW/dTを所望の範囲に制御することができる。これらの作用を有効に発揮させるためには、Si含有量は1.0質量%以上とする。ただし、Siを過剰に添加すると局部延性が低下し、TS×ELを低下させるため、Si含有量は3.0質量%以下とする。Si含有量は、好ましくは1.1質量%以上、より好ましくは1.3質量%以上であり、好ましくは2.8質量%以下、より好ましくは2.6質量%以下である。
Mnはオーステナイト安定化元素として残留オーステナイト分率の増加および残留オーステナイトの加工に対する安定性向上に寄与する。このような作用を有効に発揮させるためには、Mn含有量は5.0質量%以上とする必要があり、好ましくは6.0質量%以上である。ただし、Mn含有量が10.0質量%超では残留オーステナイトが粗大化してTS×ELおよび/またはλが低下してしまう。そのため、Mn含有量は10.0質量%以下であり、好ましくは9.0質量%以下である。
Pは不純物元素として不可避的に存在し、0.100質量%を超えて含まれるとELが劣化する。そのため、P含有量は0.100質量%以下とする。P含有量は、好ましくは0.03質量%以下である。P含有量は少なければ少ない程好ましく、0質量%であることが最も好ましいが、製造工程上の制約などにより0質量%超、例えば、0.001質量%程度残存してしまう場合もある。
Sは不純物元素として不可避的に存在し、MnS等の硫化物系介在物を形成し、割れの起点となってELを低下させる元素である。このため、S含有量は0.010質量%以下とする。S含有量は、好ましくは0.005質量%以下である。S含有量は少なければ少ない程好ましく、0質量%であることが最も好ましいが、製造工程上の制約などにより0質量%超、例えば、0.001質量%程度残存してしまう場合もある。
Alは脱酸材として用いられるものであるが、その含有量が0.001質量%未満では鋼の清浄作用が十分に得られず、一方、Al含有量が3.0質量%を超えると鋼を脆化させ、鋳造時の鋼片割れを引き起こす。そのため、Al含有量は0.001〜3.0質量%とする。Al含有量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上であり、好ましくは2.8質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下である。
Nは不純物元素として不可避的に存在し、歪時効により伸びを低下させるうえ、Alと結合し粗大な窒化物として析出するため、破断の起点となりTS×ELを低下させる。したがって、N含有量はできるだけ低い方が望ましく、N含有量は0.0100質量%以下である。N含有量は、好ましくは0.006質量%以下である。N含有量は少なければ少ない程好ましく、0質量%であることが最も好ましいが、製造工程上の制約などにより0質量%超、例えば、0.001質量%程度残存してしまう場合もある。
基本成分は上記のとおりであり、残部は鉄および不可避的不純物(例えば、Sb等)である。不可避的不純物は、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素である。
なお、例えば、P、SおよびNのように、通常、含有量が少ないほど好ましく、従って不可避的不純物であるが、その組成範囲について上記のように別途規定している元素がある。このため、本明細書において、残部を構成する「不可避的不純物」という場合は、別途その組成範囲が規定されている元素を除いた概念である。
Cr、Mo、Cu、NiおよびBは、鋼の強化元素として有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、Cr、Mo、CuおよびNiの含有量はそれぞれ、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、B含有量は、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.0002質量%以上である。ただし、これらの元素は過剰に含有させても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるので、Cr、Mo、CuおよびNiの含有量はそれぞれ、好ましくは0.40質量%以下、より好ましくは0.30質量%以下であり、B含有量は、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.006質量%以下である。
Ca、MgおよびREMは、鋼中硫化物の形態を制御し、加工性向上に有効な元素である。ここで、本発明の実施形態に用いられるREM(希土類元素)としては、Sc、Yおよびランタノイド等が挙げられる。上記作用を有効に発揮させるためには、CaおよびMgの含有量はそれぞれ、好ましくは0.0005質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上であり、REM含有量は、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.0002質量%以上である。ただし、これらの元素は過剰に含有させても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるので、CaおよびMgの含有量はそれぞれ、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.003質量%以下であり、REM含有量は、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.006質量%以下である。
本発明の実施形態に係る鋼板の製造方法は、(1)上述の化学成分組成を有する鋼スラブを、1050〜1150℃の加熱温度まで昇温した後、800℃以上、860℃未満の仕上げ温度において、20%以上の仕上げ圧下率で熱間圧延し、その後室温まで冷却して熱延板を得る熱延工程と、(2)当該熱延板を、500℃〜(Ac1+30℃)の軟質化焼鈍温度で、0.5〜72時間保持する軟質化焼鈍工程と、(3)当該軟質化焼鈍後の熱延板を、25〜75%の冷延率で冷間圧延して冷延板を得る冷延工程と、(4)当該冷延板を、3.0℃/秒以上の平均昇温速度で、[(Ac1+Ac3)/2−90℃]〜[(Ac1+Ac3)/2−20℃]の均熱温度まで昇温し、前記均熱温度で10〜1800秒保持する均熱工程とを含む。
以下、各工程について詳述する。
上述の化学成分組成を有する鋼スラブを、1050〜1150℃の加熱温度まで昇温した後、熱間圧延を行う。800℃以上、860℃未満の仕上げ温度において、20%以上の仕上げ圧下率で仕上げ圧延を行い、その後室温まで冷却して熱延板を得る。
鋼スラブの加熱温度を1150℃以下に規定することでオーステナイト粒の粗大化を抑制し、熱間圧延で効果的にオーステナイトに歪を導入し、再結晶を抑制した加工オーステナイトとすることができる。加熱温度を1150℃超とすると、オーステナイトが粗大化し、熱間圧延で適正な加工オーステナイトが得られず、最終組織中の残留オーステナイト粒の形状を規定するdW/dTの平均値を1.4以上とすることができない。また、圧延時の過度な変形抵抗の増加およびエッジ割れを抑制するために、加熱温度は1050℃以上とする。また、生産性の観点から、鋼スラブを加熱する際の加熱時間は24時間以下とすることが望ましい。鋳造した鋼スラブを直接加熱炉に装入し、あるいは、鋳造した鋼スラブを一旦室温まで冷却した後に加熱炉に装入して加熱してもよい。
熱間圧延の最終パスである仕上げ圧延の条件を規定することで加工オーステナイトを得ることができる。仕上げ温度が860℃以上である場合、あるいは、仕上げ圧下率が20%未満である場合、加工オーステナイトが得られず、最終組織中における残留オーステナイト粒の形状を規定するdW/dTの平均値を1.4以上とすることができない。ただし、仕上げ温度が低過ぎると圧延機の荷重負荷が急増するので、仕上げ温度は800℃以上とする。仕上げ圧下率の上限は特に限定されない。熱間圧延の後は、巻取りして冷却し、熱延コイル(熱延板)としてよい。
得られた熱延板を、500℃〜(Ac1+30℃)の軟質化焼鈍温度で、0.5〜72時間保持する。熱延工程で得られたマルテンサイト組織を焼き戻すことにより冷間圧延が可能な強度に軟質化する。
軟質化焼鈍温度が500℃未満である場合、あるいは、保持時間が0.5時間未満である場合、加工オーステナイトから生成した高強度のマルテンサイトを十分に軟質化することができず、冷間圧延の実施が困難となる。一方、軟質化焼鈍温度が(Ac1+30℃)超である場合、あるいは、保持時間が72時間超である場合、新たに多量のオーステナイトが生成して粗大化するため、最終組織中で微細な残留オーステナイト粒が得られず、TS×ELおよび/またはλが低下する。
軟質化焼鈍の手段は特に問わないが、長時間均熱が必要なため、バッチ炉を用いておこなうことが好ましい。また、軟質化焼鈍の前に酸洗を行ってもよい。
軟質化焼鈍後の熱延板を、25〜75%の冷延率で冷間圧延して冷延板を得る。冷間圧延は、軟質化焼鈍で生成した焼戻しマルテンサイトに多量の転位を導入することで、加工オーステナイトの導入に寄与することに加え、板面に平行な方向に伸長した残留オーステナイトを導入することにも寄与する。冷延率が25%未満の場合、残留オーステナイト粒の形状を規定するdW/dTの平均値が低下するため、λが低下する。一方、冷延率が75%を超える場合、加工誘起マルテンサイトを起点とした割れが発生するので、冷間圧延が不可能となる。
得られた冷延板を、3.0℃/秒以上の平均昇温速度で、[(Ac1+Ac3)/2−90℃]〜[(Ac1+Ac3)/2−20℃]の均熱温度まで昇温し、当該均熱温度で10〜1800秒保持する。
残留オーステナイトを微細化するため、上記均熱温度まで3.0℃/秒以上で昇温する。平均昇温速度が3.0℃/秒未満では残留オーステナイトが粗大化し、TS×ELおよび/またはλが低下する。平均昇温速度の上限は特に限定されない。
フェライト−オーステナイト2相域で均熱することで、多量に添加しているMnをオーステナイト中に濃化させオーステナイトの安定度を高めることができる。これにより、室温に冷却しても、面積率で20%以上の残留オーステナイトを得ることができる。また、フェライト−オーステナイト2相域で、所定温度範囲内で均熱することで、最終組織中のフェライトとマルテンサイトの分率を制御することができる。均熱温度が[(Ac1+Ac3)/2−90℃]未満である場合、あるいは、保持時間が10秒未満である場合、生成するオーステナイト量が不足するため、最終組織で残留オーステナイトの面積率が低下する。一方、均熱温度が[(Ac1+Ac3)/2−20℃]超である場合、あるいは、保持時間が1800秒超である場合、オーステナイトが過剰に生成するため、最終組織でマルテンサイトの面積率が過大となり、フェライトの面積率および/または残留オーステナイトの面積率が低下し、同時に残留オーステナイトが粗大になる。保持時間は、好ましくは20秒以上であり、好ましくは900秒以下である。
なお、均熱中は上記均熱温度の範囲内であれば温度の上下(変動)があってもよい。
均熱工程後、所定温度まで冷却し、メッキ浴に浸漬してメッキ鋼板としてよく、あるいは、均熱工程後、過冷却を行い、次いで再加熱し、メッキ浴に浸漬してメッキ鋼板としてもよい。メッキ鋼板とした後、合金化工程での加熱を経てメッキ合金化を行ってもよい。また、通常の工程の範囲の圧下率でスキンパス圧延を加えてもよい。
なお、表1および2において、下線を付した数値は、本発明の範囲から外れていることを示す。
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、ピクラール液で腐食して組織を顕出させた後、板厚/4の領域を対象に、日本電子社製ショットキー電界放出形走査電子顕微鏡にて、倍率10000倍で、10μm×12μmの領域を無作為に10視野撮影し、SEM像を得た。得られたSEM像について、特に腐食されて黒いコントラストで観察される領域を残留オーステナイトと判定し、また、フェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト以外の組織の分別を行い、MEDIA CYBERNETICS社製画像解析ソフト「ImagePro Plus ver. 7.0」を用いて、各組織の面積率を視野ごとに算出し、10視野の平均値を各組織の面積率とした。
鋼板を300℃で30分保持して焼戻しを行い、焼き戻し後の鋼を用いて、上記と同様の方法で組織観察を行い、フェライトおよびマルテンサイト(炭化物が析出している領域)の合計の面積率に対するフェライトの面積率の比率を視野ごとに算出し、当該比率の10視野の平均値Aを求め、下記(1)式および下記(2)式を用いて、フェライトの面積率およびマルテンサイトの面積率をそれぞれ求めた。
フェライトの面積率(%)
=[100−(残留オーステナイトの面積率+フェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト以外の組織の合計の面積率)]×A (1)
マルテンサイトの面積率(%)
=[100−(残留オーステナイトの面積率+フェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト以外の組織の合計の面積率)]×(1−A) (2)
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、板厚/4の領域を対象に、FE−SEMに付属のEBSD解析装置にて、無作為に選択した20μm×20μmの領域5視野について、ステップ間隔0.05μmで測定した。TSLソリューションズ社製解析ソフト「OIM Analysis 7」を用いて、残留オーステナイトの領域に限定して平均結晶粒径を視野ごとに算出し、5視野の平均値を残留オーステナイトの平均結晶粒径とした。上記測定の際、結晶方位差(斜角)が15°を超える境界、すなわち、大角粒界を結晶粒界として、残留オーステナイト粒を定義した。
鋼組織の面積率の測定の際に観察した上記10視野(倍率10000倍、10μm×12μmの領域)のSEM像を用いて、以下のようにしてdW/dTを求めた。
SEM像について、板幅方向および板厚方向それぞれに、等間隔(およそ0.5μm)で10本の直線を引いた。そして、板幅方向の10本の直線が残留オーステナイト領域と重なる部分の線分全てについてその長さを測定し、全ての線分の長さの合計を当該線分の数で除して、当該線分の長さの平均値を求め、当該平均値を残留オーステナイト粒の板幅方向の長さdWとした。板厚方向についても同様にして、板厚方向の10本の直線が残留オーステナイト領域と重なる部分の線分全てについてその長さを測定し、全ての線分の長さの合計を当該線分の数で除して、当該線分の長さの平均値を求め、当該平均値を残留オーステナイト粒の板厚方向の長さdTとした。得られたdWおよびdTから、dW/dTを算出した。
全10視野のSEM像について上記のように測定を行って、視野ごとにdW/dTを算出し、全10視野のdW/dTの平均値を求めた。
上述のようにして得られた各鋼板について、引張試験により機械的特性を測定した。引張試験は、圧延方向と垂直な方向(C方向)からJIS5号試験片を採取して実施し、TSおよびELを測定し、TS×ELを算出した。
穴広げ率λは、日本工業規格(JIS Z 2256:2010)に従って、以下のように測定した。
上述のようにして得られた各鋼板について、板面方向中心部より70mm×70mmサイズの試験片を採取した。試験片に直径d0(d0=10mm)の打ち抜き穴を空け、先端角度が60°のポンチをこの打ち抜き穴に押し込み、発生した亀裂が試験片の板厚を貫通した時点の打ち抜き穴の直径dを測定し、下記(4)式を用いて、λを求めた。
λ(%)={(d−d0)/d0}×100 (4)
なお、表3において、「α」はフェライト、「M」はマルテンサイト、「γR」は残留オーステナイトを示し、下線を付した数値は、本発明の範囲から外れていることを示す。
Claims (4)
- C :0.05〜0.25質量%、
Si:1.0〜3.0質量%、
Mn:5.0〜10.0質量%、
P :0質量%超、0.100質量%以下、
S :0質量%超、0.010質量%以下、
Al:0.001〜3.0質量%、および
N :0質量%超、0.0100質量%以下
を含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、
フェライトの面積率が40%以上、80%未満であり、
マルテンサイトの面積率が20%未満であり、
残留オーステナイトの面積率が20%以上であり、
フェライト、マルテンサイトおよび残留オーステナイト以外の組織の合計の面積率が10%未満であり、
残留オーステナイトの平均結晶粒径が1.0μm以下であり、
残留オーステナイト粒の板幅方向の長さdWと板厚方向の長さdTとの比dW/dTの平均値が1.4以上であり、
引張強度が980MPa以上であり、
引張強度と伸びとの積が29000MPa%以上であり、
穴広げ率が20%以上である、鋼板。 - Cr:0.01〜0.40質量%、
Mo:0.01〜0.40質量%、
Cu:0.01〜0.40質量%、
Ni:0.01〜0.40質量%、および
B :0.0001〜0.01質量%からなる群から選択される1種以上をさらに含有する請求項1に記載の鋼板。 - Ca :0.0005〜0.01質量%、
Mg :0.0005〜0.01質量%、および
REM:0.0001〜0.01質量%からなる群から選択される1種以上をさらに含有する請求項1または2に記載の鋼板。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の鋼板を製造する方法であって、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の化学成分組成を有する鋼スラブを、1050〜1150℃の加熱温度まで昇温した後、800℃以上、860℃未満の仕上げ温度において、20%以上の仕上げ圧下率で熱間圧延し、その後室温まで冷却して熱延板を得る熱延工程と、
前記熱延板を、500℃〜(Ac1+30℃)の軟質化焼鈍温度で、0.5〜72時間保持する軟質化焼鈍工程と、
前記軟質化焼鈍後の熱延板を、25〜75%の冷延率で冷間圧延して冷延板を得る冷延工程と、
前記冷延板を、3.0℃/秒以上の平均昇温速度で、[(Ac1+Ac3)/2−90℃]〜[(Ac1+Ac3)/2−20℃]の均熱温度まで昇温し、前記均熱温度で10〜1800秒保持する均熱工程とを含む、鋼板の製造方法。
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