JP6837372B2 - 成形性に優れた高強度冷延鋼板及びその製造方法 - Google Patents

成形性に優れた高強度冷延鋼板及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、自動車用部品等に用いられる成形性に優れた高強度冷延鋼板及びその製造方法に関する。
自動車用部品に供される鋼板には、軽量化による燃費改善を実現するために薄肉化が求められており、薄肉化と部品強度の確保を両立するために鋼板の高強度化が要求されている。そのため、鋼板の引張強度(TS)を1180MPa以上に高強度化することが求められている。
さらに、衝突安全性を考慮した場合、鋼板の降伏強度(YS)を高めることも要求されており、具体的にはYSが900MPa以上の鋼板が求められている。
また、鋼板には形状の複雑な部品に加工するために優れた成形加工性も要求される。このため、TS1180MPa以上で、かつ、YS900MPa以上の強度において、全伸び(EL)が良好なものが要望されており、具体的にはTSとELとの積(TS×EL)が30000MPa%以上のものが切望されている。
また、自動車用部品として使用される鋼板は、一般的にシャー切断機でブランク状に切断された後に種々の形状に成形加工されるが、特に高強度鋼板においては曲げ加工時にクラック発生を抑制することが求められる。
具体的にはクラックが生じる曲げ半径(R)を板厚(t)で除したR/tが1.5以下の良好な曲げ性が求められているが、一般に高強度化にともない鋼板のR/tは低下し、特に高強度鋼においては曲げ成形時にシャー切断面が破壊の起点となりクラックが発生することが多い。このため、シャー切断面のままで曲げ加工を行った際に、シャー切断面からのクラック発生を抑制しうる、R/tが1.5以下の良好な曲げ性発現が求められていた。
TS×ELが30000MPa%以上の高強度と高成形性とを両立させるためには鋼板組織中に多量の残留オーステナイトを導入し、残留オーステナイトが加工誘起マルテンサイト変態することによる変態誘起塑性(TRIP)効果を活用することが有効であることが知られている。
例えば特許文献1には、鋼板組織として、マルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率が15%以上90%以下、残留オーステナイト量が10%以上50%以下、該マルテンサイトのうち50%以上が焼き戻しマルテンサイトであり且つ該焼戻しマルテンサイトの鋼板組織全体に対する面積率が10%以上、ポリゴナルフェライトの鋼板組織全体に対する面積率が10%以下(0%を含む)を満足し、引張強さが1470MPa以上、引張強さ×全伸びが29000MPa%以上であることを特徴とする高強度鋼板が開示されている。しかしながら、この鋼板は、シャー切断面起点の破壊を抑制するための組織制御を行っていないため、実部品成形時にはシャー切断面起点の破壊が生じることが想定される。
また、特許文献2には、TS1180MPa以上において良好なELを有し、TS×ELに優れた鋼板が開示されている。しかしながら、この鋼板は、フェライトの組織分率を規定しているのみで、フェライトを強化するための組織制御を行っていないため、YS900MPa以上の高YSを発現させることは困難と想定される。
また、特許文献3には、980MPa以上のTS、24000MPa%以上のTS×ELを有し、さらに、R/t≦1.5の良好な曲げ性も併せ持つ高強度鋼板及びその製造方法が開示されている。しかしながら、この鋼板もフェライト強化の組織制御を行っていないため、YS900MPa以上の高YS化と、シャー切断面のままでR/t≦1.5を達成することは困難と想定される。
特開2011−184756号公報 特開2012−237054号公報 特開2013−76162号公報
そこで本発明の目的は、上記要望レベル、すなわち、引張強度(TS)が1180MPa以上、降伏強度(YS)が900MPa以上、TS×全伸び(EL)が30000MPa%以上で、かつ、シャー切断面のままでR/tが1.5以下を満足しうる、成形性に優れた高強度冷延鋼板、及びその製造方法を提供することにある。
本発明の高強度冷延鋼板は、
C:0.05質量%以上0.25質量%以下、
Si:0質量%超3.0質量%以下、
Mn:5.0質量%以上9.0質量%以下、
P:0質量%超0.100質量%以下、
S:0質量%超0.010質量%以下、
Al:0.001質量%以上3.0質量%以下、
Si+Al:0.8質量%以上3.0質量%以下、
N:0質量%超0.0100質量%以下、並びに
残部:鉄及び不可避的不純物、
である成分組成を有し、
フェライト:40面積%以上80面積%未満、
マルテンサイト:25面積%未満、
残留オーステナイト:20面積%以上、並びに
残部:10面積%未満
の金属組織を有し、
上記フェライト中の小傾角粒界密度が1.0μm/μm以上2.4μm/μm以下であり、
上記残留オーステナイトの平均結晶粒径が1.5μm以下であり、かつ、
上記残留オーステナイト中の平均Mn濃度が9.0質量%超であることを特徴とする。
本発明の高強度冷延鋼板は、
Cr:0.01質量%以上0.20質量%以下、
Mo:0.01質量%以上0.20質量%以下、
Cu:0.01質量%以上0.20質量%以下、
Ni:0.01質量%以上0.20質量%以下、及び
B:0.00001質量%以上0.02質量%以下
からなる群より選択される1種又は2種以上をさらに含有することが好ましい。
本発明の高強度冷延鋼板は、
Ca:0.0005質量%以上0.01質量%以下、
Mg:0.0005質量%以上0.01質量%以下、及び
REM:0.0001質量%以上0.01質量%以下
からなる群より選択される1種又は2種以上をさらに含有することが好ましい。
本発明の高強度冷延鋼板の製造方法は、
C:0.05質量%以上0.25質量%以下、
Si:0質量%超3.0質量%以下、
Mn:5.0質量%以上9.0質量%以下、
P:0質量%超0.100質量%以下、
S:0質量%超0.010質量%以下、
Al:0.001質量%以上3.0質量%以下、
Si+Al:0.8質量%以上3.0質量%以下、
N:0質量%超0.0100質量%以下、並びに
残部:鉄及び不可避的不純物、
である成分組成を有する鋼材を熱間圧延する工程と、
上記熱間圧延工程後の鋼板を室温まで冷却する第1工程と、
上記第1冷却工程後の鋼材を温度400℃以上Ac1未満、保持時間0.5時間以上72時間以下の条件下で焼鈍する工程と、
上記焼鈍工程後の鋼材を25%以上80%以下の圧下率で冷間圧延する工程と、
上記冷間圧延工程後の鋼材を3.0℃/秒以上の平均速度で昇温する工程と、
上記昇温工程後の鋼板を第1保持温度[(Ac1+Ac3)/2−30]℃以上[(Ac1+Ac3)/2+10]℃以下、第1保持時間0秒以上300秒以下の条件下で均熱する第1工程と、
上記第1均熱工程後の鋼材を第1保持温度から1.0℃/秒以上の平均速度で冷却する第2工程と、
上記第2冷却工程後の鋼板を第2保持温度[(Ac1+Ac3)/2−90]℃以上[(Ac1+Ac3)/2−50]℃以下、第2保持時間120秒以上600秒以下の条件下で均熱する第2工程と、
上記第2均熱工程後の鋼板を冷却する第3工程とを備えることを特徴とする。
ここで、上記本発明に係る高強度冷延鋼板の製造方法におけるAc1及びAc3は、それぞれオーステナイトへの生成が始まる温度、フェライトからオーステナイトへの変態が完了する温度として、上記冷延板を用いて昇温速度3.0℃/秒の条件下で昇温試験を行い、オーステナイト生成に伴う収縮を測定することで実験的に求められる温度をいう。
本発明によれば、硬質なマルテンサイトの導入量を制限しつつ、高強度化したフェライトを母相とし、かつ、残留オーステナイトについて、その分率を極限まで高めつつ、その結晶粒度とMn濃度を適正範囲に制御したことで、所望の高レベルのTS、YS及びTS×EL、並びにシャー切断面のままで良好なR/tを兼備する、成形性に優れた高強度冷延鋼板、及びその製造方法を提供できる。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、高強度冷延鋼板に、所望の高YS、TS×EL、及びシャー切断面のままで良好なR/tを兼備させるには、硬質なマルテンサイトの導入量を制限しつつ、高強度化したフェライトを母相とし、かつ、残留オーステナイトについて、その分率を極限まで高めつつ、その結晶粒度と加工誘起マルテンサイト変態しやすさまでをも制御することが有効であることを見出した。
すなわち、冷間圧延された冷延板中のフェライトを、焼鈍工程における再結晶による軟化を抑制して、高強度と適度な延性を有する回復組織化することで、フェライトが母相であっても、YSが900MPa以上で、かつ、TSが1180MPa以上の高強度化が実現できる。また、軟質相であるフェライトを高強度化することによって、変形により加工誘起変態し硬質マルテンサイト化する残留オーステナイトとのミクロ組織内における強度の均一性が向上し、破壊の起点が分散化され、また、クラックの軟質相/硬質相間の進展を抑制でき、シャー切断面のままでも曲げ成形時におけるクラックの発生を抑制できる。フェライトの回復組織化及び再結晶化の度合いはフェライト中の小傾角粒界密度で表せられ、小傾角粒界密度を適切に制御することでフェライトの高強度化を実現できる。
さらに、残留オーステナイトを微細化し、その微細な残留オーステナイトを分散化することで、加工誘起マルテンサイト変態後の硬質マルテンサイトを微細分散させることができ、特にシャー切断機による切断時の破壊の起点が分散化され、また、クラックの軟質相/硬質相間の進展を抑制でき、シャー切断面のままでも曲げ成形時におけるクラックの発生を抑制できる。
残留オーステナイトの変態誘起塑性を活用したTS×EL向上効果は、特に変形初期における残留オーステナイトの加工誘起マルテンサイト変態を適度に抑制し、変形中期〜後期において多量に変態させることで最大化されることが知られている。
本冷延鋼板では、フェライトの回復組織化による高強度化により、変形初期におけるフェライトへの歪の集中が緩和され、残留オーステナイトにも歪が入りやすいため、TS×ELを最大化させるためには特に残留オーステナイトを従来以上に安定化させることが重要である。
残留オーステナイトの安定化のためには特にCとMnを濃化させることが有効であるが、本冷延鋼板では過度なマルテンサイトの導入を抑制するためC添加量を制限しており、C濃化の他に、Mnの残留オーステナイトへの濃化が極めて重要となる。
本発明者らは、上記知見に基づきさらに検討を進めた結果本発明を完成するに至った。
以下、まず本発明に係る高強度冷延鋼板(以下、「本発明鋼板」ともいう。)を特徴づける金属組織について説明する。
〔本発明鋼板の金属組織〕
本発明鋼板は、フェライト:40面積%以上80面積%未満、マルテンサイト:25面積%未満、残留オーステナイト:20面積%以上、並びに残部:10面積%未満の金属組織を有し、上記フェライト中の小傾角粒界密度が1.0μm/μm以上2.4μm/μm以下であり、上記残留オーステナイトの平均結晶粒径が1.5μm以下であり、かつ、上記残留オーステナイト中の平均Mn濃度が9.0質量%超であることを特徴とする。
<フェライト:40面積%以上80面積%未満>
本発明鋼板は、フェライトを主相とし、高強度と延性を併せ持つ回復組織化することで、残留オーステナイトの変態誘起塑性と併せて所望の機械的特性を得る。本発明鋼板は、金属組織におけるフェライトの面積率が40%未満では、母相の延性が不足するだけでなく、オーステナイト中に濃化するMn濃度も低下するためELが低下する。一方、金属組織におけるフェライトが80面積%以上ではTSが確保できない。金属組織におけるフェライトの好ましい下限は45面積%であり、好ましい上限は75面積%である。
<マルテンサイト:25面積%未満>
本発明鋼板は、マルテンサイトが25面積%以上金属組織中に含まれると、ELが低下することに加え、シャー切断面でマルテンサイトを起点とする破壊が生じ、曲げ性が低下する。金属組織におけるマルテンサイトの上限は、好ましくは22面積%であり、さらに好ましくは20面積%である。なお、本発明における「マルテンサイト」は、「焼入れのままのマルテンサイト」と「焼戻しマルテンサイト」の両方を合わせたものを意味するものとする。
<残留オーステナイト:20面積%以上>
母相であるフェライトの他に、第2相として残留オーステナイトを導入する。残留オーステナイトは加工誘起マルテンサイト変態することでTS、EL、さらには曲げ性をも高める効果を有する。良好な機械的特性を得るには残留オーステナイトを20面積%以上%以上導入する必要がある。金属組織における残留オーステナイトの下限は、好ましくは25面積%であり、より好ましくは面積30%である。
<残部:10面積%未満>
本発明鋼板は、上記フェライト、マルテンサイト及び残留オーステナイト以外の残部組織として、合計で10面積%未満のパーライト、ベイナイト及びセメンタイトを含有しても本発明の効果は得られるが、これらの組織はELを低下させるため、金属組織における残部組織の合計の上限は好ましくは5面積%である。
<フェライト中の小傾角粒界密度:1.0μm/μm以上2.4μm/μm以下>
本発明鋼板は、フェライト中に1.0μm/μm以上2.4μm/μmの密度で小傾角粒界が導入された回復組織とすることで、優先的に降伏するフェライトを高強度化し、高YS化する。また、この回復組織は、高TS化にも寄与する一方、適度な延性を有しているためELを低下させない。さらに、残留オーステナイトが加工誘起マルテンサイト変態し硬質組織化した際に、フェライトが高強度化されているため、ミクロ組織内における強度の均一性が向上し、破壊の起点が分散化され、また、クラックの軟質相/硬質相間の進展を抑制でき、シャー切断面のままでも曲げ成形時におけるクラックの発生を抑制できる。フェライト中の小傾角粒界密度が1.0μm/μm未満では、フェライトの再結晶が進行しており、YS、TS、曲げ性が低下する。一方、フェライト中の小傾角粒界密度が2.4μm/μm超ではフェライトの回復が十分に進行しておらず、加工されたフェライトが残存しておりELが低下する。フェライト中の小傾角粒界密度の好ましい下限は1.1μm/μmであり、好ましい上限は2.2μm/μmである。
<残留オーステナイトの平均結晶粒径:1.5μm以下>
残留オーステナイトの平均結晶粒径を1.5μm以下とし、微細分散させておくことで、シャー切断面におけるクラック発生を抑制し、曲げ性を改善する。残留オーステナイトの平均結晶粒径が1.5μm超ではシャー切断機による切断時に一部残留オーステナイトが粗大なマルテンサイトへと変態し、クラックを発生させる。残留オーステナイトの平均結晶粒径の上限は、好ましくは1.4μmであり、より好ましくは1.3μmである。
<残留オーステナイト中の平均Mn濃度:9.0質量%超>
残留オーステナイト中の平均Mn濃度を9.0質量%超とすることで残留オーステナイトの変形に対する安定度を高め、変形初期の加工誘起マルテンサイト変態を適度に抑制し、変形中期〜後期において多量に変態させることでTS×ELを向上させる。残留オーステナイト中の平均Mn濃度が9.0質量%以下ではTS×ELが低下する。残留オーステナイト中の平均Mn濃度の下限は、好ましくは9.5質量%であり、より好ましくは10.0質量%である。
以下、上記金属組織の評価方法について説明する。
〔残留オーステナイトの面積率とその平均結晶粒径、及び残留オーステナイト中の平均Mn濃度〕
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、ピクラール液で腐食して金属組織を顕出させた後、鋼板全体の組織を代表するものとして、板厚/4の領域を対象に、ショットキー電界放出型走査電子顕微鏡(以下、FE−SEM)にて概略10μm×12μm領域10視野について倍率10000倍の像を撮影する。特に腐食されて黒いコントラストで観察される領域を残留オーステナイトとして画像解析ソフトを用いて、その面積率と、各粒の面積から円相当径に換算した平均結晶粒径とを視野ごとにそれぞれ算出し、10視野分の平均値を残留オーステナイトの面積率とその平均結晶粒径とする。また、10視野撮影時に各視野においてFE−SEMを用いたエネルギー分散X線分光法(EDS)によって残留オーステナイト粒1個のMn濃度(質量%)を測定し、各視野計10測定点を平均して残留オーステナイト中の平均Mn濃度(質量%)を算出する。
〔フェライト、マルテンサイト及び残部組織の各面積率〕
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、3%ナイタール液で腐食して金属組織を顕出させた後、板厚/4の領域を対象に、FE−SEMにて概略10μm×12μm領域10視野について倍率10000倍の像を撮影し、ベイナイトやパーライト等の残部組織が含まれる場合は残留オーステナイトの面積率と同様にして残部組織の合計面積率を求める。一方、鋼の焼鈍組織のままではフェライトと焼き入れのままのマルテンサイトとの区別が困難であるため、組織分率に変化がなく焼き入れのままのマルテンサイト中にセメンタイト析出のみが生じる温度域(例えば300℃で30分保持)で焼き戻しを行い、その鋼を3%ナイタール液で腐食し同様に組織観察を行い、フェライト(黒い領域)とマルテンサイト(炭化物が析出している領域)の比率を算出する。100−(残留オーステナイトの面積率+残部組織の合計面積率)にフェライトの比率を掛けて金属組織におけるフェライトの面積率(%)とする。100−(残留オーステナイトの面積率+残部組織の合計面積率)にマルテンサイトの比率を掛けて金属組織におけるマルテンサイトの面積率(%)とする。
〔フェライト中の小傾角粒界密度〕
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、板厚/4の領域を対象に、FE−SEMを用いた電子後方散乱回折像法(EBSD)にて概略20μm×20μm領域の視野についてステップ間隔0.05μmにて測定し、解析ソフトにてフェライトの領域に限定して小傾角粒界の総長さを算出し、フェライト領域の面積で割ることでフェライト中の小傾角粒界密度(μm/μm)を算出する。なお、小傾角粒界は、隣接する測定点間の結晶方位回転が1°以上15°未満の領域と定義する。また、EBSDの測定原理上、フェライト領域にマルテンサイトが含まれる場合があるが、本発明におけるマルテンサイトの面積率はフェライトの面積率に対して十分に小さいため、フェライト中の小傾角粒界密度の算出に際して特に区別せずとも、フェライトの回復組織化を示す指標となる。
次に、本発明鋼板を構成する成分組成について説明する。
〔本発明鋼板の成分組成〕
C(炭素):0.05質量%以上0.25質量%以下
CはMnとともにオーステナイト安定化元素として残留オーステナイト分率の増加及び残留オーステナイトの加工に対する安定性向上に寄与する。このような作用を有効に発揮させるためにはCは0.05質量%以上含有する必要がある。ただし、C含有量が0.25%超では最終焼鈍で硬質なマルテンサイトが過度に生成してしまうほか、溶接性を悪化させるという問題も生じる。C含有量の好ましい下限は0.10質量%であり、好ましい上限は0.20質量%である。
Si(ケイ素):0質量%超3.0質量%以下
Siはフェライトの固溶強化元素として有用であり、ELの低下を最小限としつつ高YS化、高TS化に寄与する。過度に添加すると局部延性が低下し、特にシャー切断面におけるクラック生成を促進させ曲げ性を低下させるため、Si含有量の上限を3.0質量%とする。Si含有量の下限は、好ましくは0.05質量%であり、より好ましくは0.1質量%である。Si含有量の上限は、好ましくは1.5質量%であり、より好ましくは0.5質量%である。
Mn(マンガン):5.0質量%以上9.0質量%以下
Mnはオーステナイト安定化元素として残留オーステナイト分率の増加及び残留オーステナイトの加工に対する安定性向上に寄与する。このような作用を有効に発揮させるためには5.0質量%以上含む必要がある。ただし、9.0質量%超ではフェライトの回復が抑制され、加工の影響を受けた延性に乏しい組織が残留してしまう。Mn含有量の好ましい下限は6.0質量%であり、好ましい上限は8.5質量%である。
P(リン):0質量%超0.100質量%以下
Pは不純物元素として不可避的に存在し、0.100質量%を超えて含まれるとELが劣化する。P含有量の好ましい上限は0.03質量%である。
S(硫黄):0質量%超0.010質量%以下
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS等の硫化物系介在物を形成し、割れの起点となってELを低下させる元素である。このため、S含有量の上限は、0.010質量%であり、好ましくは0.005質量%に制限する。
Al(アルミニウム):0.001質量%以上3.0質量%以下
Alは脱酸材として用いられるものであるが、その含有量が0.001質量%未満では鋼の清浄作用が十分に得られず、一方、Al含有量が3.0質量%を超えると鋼を脆化させ、鋳造時の鋼片割れを引き起こす。Al含有量の下限は、好ましくは0.5質量%であり、より好ましくは0.8質量%であり、Al含有量の上限は、好ましくは2.8質量%であり、より好ましくは2.5質量%である。
Si+Al:0.8質量%以上3.0質量%以下
Si及び/又はAlを含むことでフェライト−オーステナイト2相域が高温側へ拡大し、最適オーステナイト分率が得られる2相域温度が高温化しているため、第1均熱段階にて高温で均熱した際にオーステナイトの分率が制御されると同時にフェライトの回復組織化が促進される。また、続けて第2均熱段階にて低温で均熱した際にオーステナイト中に濃化するMn量を増加させる。Si及びAlの合計含有量(以下、「Si+Al合計含有量」ともいう)が0.8質量%未満では、最適オーステナイト分率が得られる2相域温度が低すぎるため、フェライトが十分に回復しないことに加え、残留オーステナイト中のMn濃度も低下する。一方、Si+Al合計含有量が3.0質量%を超えると鋼を脆化させるため、曲げ性を低下させ、鋳造時の鋼片割れを引き起こす。Si+Al合計含有量の下限は、好ましくは0.9質量%であり、より好ましくは1.0質量%であり、Si+Al合計含有量の上限は、好ましくは2.9質量%であり、より好ましくは2.8質量%である。
N(窒素):0質量%超0.0100質量%以下
Nも不純物元素として不可避的に存在し、歪時効により伸びを低下させるうえ、Alと結合し粗大な窒化物として析出するため、シャー切断面での破壊を引き起こす。したがって、Nの含有量はできるだけ低い方が望ましく、その上限は0.0100質量%であり、好ましくは0.006質量%以下に制限する。
本発明鋼板は上記成分を基本的に含有し、残部が実質的に鉄及び不可避的不純物であるが、その他、本発明の作用を損なわない範囲で、以下の許容成分を含有させることができる。
Cr(クロム):0.01質量%以上0.20質量%以下、
Mo(モリブデン):0.01質量%以上0.20質量%以下、
Cu(銅):0.01質量%以上0.20質量%以下、
Ni(ニッケル):0.01質量%以上0.20質量%以下、及び
B:0.00001質量%以上0.02質量%以下
からなる群より選択される1の1種又は2種以上
これらの元素は、鋼の強化元素として有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、Cr、Mo、Cu及びNiはそれぞれ0.01質量%以上(より好ましくは0.05質量%以上)、Bは0.00001質量%以上(より好ましくは0.0001質量%以上)含有させることが推奨される。ただし、これらの元素は過剰に含有させても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるので、Cr、Mo、Cu及びNiはそれぞれ0.20質量%以下(より好ましくは0.15質量%以下)、Bは0.02質量%以下(より好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.006質量%以下)に制限することが推奨される。
Ca(カルシウム):0.0005質量%以上0.01質量%以下、
Mg(マグネシウム):0.0005質量%以上0.01質量%以下、及び
REM(希土類元素):0.0001質量%以上0.01質量%以下
からなる群より選択される1種又は2種以上
また、これらの元素は、鋼中硫化物の形態を制御し、加工性向上に有効な元素である。ここで、本発明に用いられるREMとしては、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、ランタノイド等が挙げられる。上記作用を有効に発揮させるためには、Ca及びMgはそれぞれ0.0005質量%以上(より好ましくは0.001質量%以上)、REMは0.0001質量%以上(より好ましくは0.0002質量%以上)含有させることが推奨される。ただし、これらの元素は過剰に含有させても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるので、それぞれ0.01質量%以下(より好ましくはCa及びMgは0.003質量%以下、REMは0.006質量%以下)に制限することが推奨される。
残部
本発明鋼板は、上述した各元素以外にFe(鉄)及び不可避的不純物を残部として含有する。この不可避的不純物としては、例えばSn(スズ)、As(砒素)、Pb(鉛)等が挙げられる。
〔本発明に係る高強度冷延鋼板の製造方法〕
本発明に係る高強度冷延鋼板の製造方法は、熱間圧延工程、第1冷却工程、焼鈍工程、冷間圧延工程、昇温工程、第1均熱工程、第2冷却工程、第2均熱工程及び第3冷却工程を備える。以下、各工程について説明する。
<熱間圧延工程>
本工程では、上記成分組成を有する鋼材を熱間圧延する。熱間圧延条件は特に限定されない。例えば、鋳造したスラブ等の鋼材を直接加熱炉に装入して、又は一旦室温まで冷却した後に加熱炉に装入して均熱し、熱間圧延する。
<第1冷却工程>
本工程では、上記熱間圧延工程後の鋼板を室温まで冷却する。冷却条件は特に限定されないが、例えば、熱間圧延工程後の鋼板を巻取りして冷却し、熱延コイル(熱延板)とする。
通常の熱間圧延条件及び室温冷却条件では、本発明鋼板の成分組成系においては、熱延板は均一なマルテンサイト組織となる。
<焼鈍工程>
本工程では、上記第1冷却工程後の鋼材としての上記熱延板を温度400℃以上Ac1未満、保持時間0.5時間以上72時間以下の条件下で焼鈍する。
上記熱延板を、後述する冷間圧延工程前に上記所定条件下で焼鈍して軟質化し、金属組織を再結晶フェライトと微細分散したセメンタイト組織とする。母相を再結晶フェライト化することで、冷間圧延にてフェライト中に多量の転位が導入され、後述する第1均熱工程及び第2均熱工程による2段階の均熱(以下、「最終焼鈍」ともいう)で高強度な回復組織が得られる。また、セメンタイトを微細分散させておくことで、最終焼鈍にて残留オーステナイトの平均粒径を微細化することができる。なお、焼鈍工程を施さない場合、最終焼鈍工程後に所望の組織が得られないばかりか、熱延板の強度が高すぎるため実質的に後述する冷間圧延工程が不可能となる。Ac1以上で焼鈍した場合、粗大なオーステナイト粒が生成し、最終焼鈍工程後の組織にまで残存するため、残留オーステナイトが粗大化し所望の平均結晶粒径が得られない。一方、焼鈍の温度を400℃未満とした場合や保持時間を0.5時間未満とした場合は、フェライトの再結晶が十分進行せず、実質的に冷間圧延工程が実施できなくなる。また、保持時間を72時間超とした場合は、粗大なセメンタイトが低密度に分散し、最終焼鈍において残留オーステナイトが粗大化して所望の平均結晶粒径が得られなくなる。特に焼鈍の手段は特に問わないが、0.5時間以上72時間以下という長時間均熱が必要なため、バッチ炉を用いておこなうことが好ましい。また、焼鈍工程前に酸洗を行っても構わない。焼鈍温度は、下限としては420℃が好ましく、440℃がより好ましく、上限としては、(Ac1−10)℃が好ましい。焼鈍温度の保持時間は、下限としては1時間が好ましく、3時間がより好ましく、上限としては60時間が好ましく、50時間がより好ましい。
<冷間圧延工程>
本工程では、上記焼鈍工程後の鋼材を25%以上80%以下の圧下率(以下、「冷延率」ともいう)で冷間圧延(以下、「冷延」ともいう)して冷延板を得る。
冷間圧延により焼鈍で生成させた再結晶フェライトに多量の転位を導入し、続く最終焼鈍で所望の小傾角粒界密度を有する回復組織化したフェライトを生成させる。冷延率が25%未満の場合は、小傾角粒界密度が低下してYS、TS、曲げ性が低下する。一方、冷延率が80%を超える冷間圧延は実質的に困難である。冷延率は、下限としては30%が好ましく、上限としては75%が好ましく、70%がより好ましい。
<昇温工程>
本工程では、上記冷間圧延工程後の鋼材を3.0℃/秒以上の平均速度で昇温する。
<第1均熱工程>
本工程では、上記昇温工程後の鋼板を第1保持温度[(Ac1+Ac3)/2−30]℃以上[(Ac1+Ac3)/2+10]℃以下、第1保持時間0秒以上300秒以下の条件下で均熱する。
<第2冷却工程>
本工程では、上記第1均熱工程後の鋼材を第1保持温度から1.0℃/秒以上の平均速度で冷却する。
<第2均熱工程>
本工程では、上記第2冷却工程後の鋼板を第2保持温度[(Ac1+Ac3)/2−90]℃以上[(Ac1+Ac3)/2−50]℃以下、第2保持時間120秒以上600秒以下の条件下で均熱する。
<3.0℃/秒以上の平均速度で昇温>
フェライトの再結晶を抑制し、フェライト中の小傾角粒界密度を確保するために3.0℃/秒以上の平均速度で昇温する。平均速度が3.0℃/秒未満ではフェライト中の小傾角粒界密度が低下し、YS、TS、曲げ性が低下する。平均速度の上限は特に限定されない。平均速度の下限としては、4.0℃/秒が好ましく、5.0℃/秒がより好ましい。
<第1保持温度[(Ac1+Ac3)/2−30]℃以上[(Ac1+Ac3)/2+10]℃以下、第1保持時間0秒以上300秒以下の条件下で均熱>
第1均熱(1段目の均熱)工程をフェライト−オーステナイト2相域内で特に高温側で行うことで、微細分散させたセメンタイトを核にしてオーステナイトへの逆変態を進行させ、Cが濃化した微細分散したオーステナイト粒を得る。それと同時にフェライトを回復組織化させる。第1保持温度を[(Ac1+Ac3)/2−30]℃未満とすると、生成するオーステナイト量が不足する結果、残留オーステナイト分率が低下し、また、フェライトの回復が不十分となるため、フェライト中の小傾角粒界密度が高くなり、TS、ELが低下する。一方、第1保持温度を[(Ac1+Ac3)/2+10]℃超とすると、生成するオーステナイト量が過剰となり、フェライト分率が低下し、また、オーステナイト中のC濃度が低下するため残留オーステナイト分率が低下しマルテンサイト分率が過剰となりEL及び曲げ性が低下する。また、保持時間を300秒超とすると、フェライトの再結晶が進行し、フェライト中の小傾角粒界密度が低下してYS、TS、曲げ性が低下する。なお、第1保持時間が0秒とは、上記第1保持温度の下限([(Ac1+Ac3)/2−30]℃)に達した瞬間に次の低温での第2均熱(2段目の均熱)工程に移行することを意味する。また、均熱中は上記第1均熱保持温度の範囲内であれば温度の上下の変動があっても構わない。より好ましい保持時間の上限としては180秒である。
<第1保持温度から1.0℃/秒以上の平均速度で冷却>
第1保持温度から1.0℃/秒以上の平均速度で冷却することで、フェライトの再結晶進行を防止する。平均速度を1.0℃/秒未満とすると、フェライトの再結晶が進行し、フェライト中の小傾角粒界密度が低下してYS、TS、曲げ性が低下する。
<第2保持温度[(Ac1+Ac3)/2−90]℃以上[(Ac1+Ac3)/2−50]℃以下、第2保持時間120秒以上600秒以下の条件下で均熱>
第2均熱工程を第1均熱工程よりも低温で行うことによって、第1均熱工程で生成させたオーステナイト中のMnの高濃化を促進させ、残留オーステナイトの安定度を向上させる。
第2保持温度を[(Ac1+Ac3)/2−90]℃未満若しくは[(Ac1+Ac3)/2−50]℃超え、又は第2保持時間を120秒未満とすると、残留オーステナイト中のMn濃度が低下し、EL、TS×ELが低下する。第2保持時間の上限は、生産性の観点から600秒とするのが望ましい。
<第3冷却工程>
本工程では、上記第2均熱工程後の鋼板を冷却する。最終冷却である第3冷却工程における冷却条件は、特に限定されないが、ガスジェット又は水冷で室温まで急冷してもよく、空冷による徐冷をおこなってもよく、途中で温度保持をしてもよい。
<その他の工程>
本発明に係る高強度冷延鋼板の製造方法は、上記第3冷却工程後に、上記工程以外のその他の工程をさらに備えていてもよい。その他の工程としては、メッキ処理工程、合金化工程、スキンパス圧延工程等が挙げられる。メッキ処理工程では、上記第3冷却工程で所定温度まで冷却した鋼板をメッキ浴に浸漬してもよく、上記第3冷却工程で過冷却後再加熱しメッキ浴に浸漬しメッキ鋼板としてもよい。合金化工程では、例えばメッキ処理工程後の鋼板を加熱して合金処理化を行い、メッキ合金化を行っても構わない。スキンパス圧延の条件は、特に限定されず、通常工程範囲の圧下率で行うことができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、上記、下記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することももちろん可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
本発明の適用性を確証するため、以下のようにしてラボ試験を実施した。まず、下記表1に示す成分組成を有する鋼材を溶製した。なお、Ac1及びAc3は、後述の冷延板を用いて昇温速度3.0℃/秒の条件下で昇温試験を行い、オーステナイト生成に伴う収縮を測定することで実験的に求めた。溶製した鋼材を熱間鍛造で板厚50mmのスラブに加工し、1200℃にて30分均熱後、12mmに粗圧延し、再び1200℃にて30分均熱後、熱間圧延にて板厚2.3mmに仕上げ、水冷にて500℃まで冷却後、500℃に加熱された大気炉に装入し30分保持後、炉冷し巻取によるコイル冷却を模擬した。その後、下記表2及び表3に示す条件下で軟質化焼鈍を大気炉にて行い、空冷後、酸洗にてスケールを除去し、同表2及び表3に示す圧下率にて冷間圧延して板厚1.4mmの冷延板を作製した。ただし、製造No.6については熱間圧延の仕上厚を4.0mmとし、冷間圧延で1.4mmの冷延板を作製した(圧下率65%)。製造No.7については、2.3mmに仕上げた熱延板について表裏面を等量減厚して1.75mmとし、冷間圧延で1.4mmの冷延板を作製した(圧下率20%)。2段階均熱工程の模擬は雰囲気制御熱処理シミュレータにて行った。製造No.1、4〜34については、第2均熱工程後、200℃までガスジェットで冷却した後空冷した。製造No.2及び3については、第2均熱工程後、450℃までガスジェットで冷却し、溶融亜鉛浴に浸漬し、その後、製造No.2では空冷し、一方、製造No.3ではさらに520℃へ加熱し10秒保持する合金化処理を行った後空冷した。
表1中、網掛け部分は本発明の範囲外であることを示す。「−」は、対応する成分組成を含まないことを示す。
上記表2及び表3中、「GJ」はガスジェットを示す。網掛け部分は、本発明の範囲外であることを示す。
上記空冷後の各鋼板について、下記方法により、各金属組織の面積率、残留オーステナイトの平均結晶粒径、及び残留オーステナイト中の平均Mn濃度、並びにフェライト中の小傾角粒界密度を測定した。
〔残留オーステナイトの面積率とその平均結晶粒径、及び残留オーステナイト中の平均Mn濃度〕
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、ピクラール液で腐食して金属組織を顕出させた後、板厚/4の領域を対象に、日本電子社製のFE−SEMにて概略10μm×12μm領域10視野について倍率10000倍の像を撮影した。特に腐食されて黒いコントラストで観察される領域を残留オーステナイトとして画像解析ソフト(MEDIA CYBERNETICS社製:ImagePro Plus ver. 7.0)を用いて、その面積率と、各粒の面積から円相当径に換算した平均結晶粒径とを視野ごとにそれぞれ算出し、10視野分の平均値を残留オーステナイトの面積率とその平均結晶粒径とした。また、10視野撮影時に各視野においてFE−SEMを用いたエネルギー分散X線分光法(EDS)によって残留オーステナイト粒1個のMn濃度(質量%)を測定し、各視野計10測定点を平均して残留オーステナイト中の平均Mn濃度(質量%)を算出した。
〔フェライト、マルテンサイト及び残部組織の各面積率〕
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、3%ナイタール液で腐食して金属組織を顕出させた後、板厚/4の領域を対象に、FE−SEMにて概略10μm×12μm領域10視野について倍率10000倍の像を撮影し、ベイナイトやパーライト等の残部組織が含まれる場合は残留オーステナイトの面積率と同様にして残部組織の合計面積率を求めた。一方、鋼板の焼鈍組織のままではフェライトと焼き入れのままのマルテンサイトとの区別が困難であるため、組織分率に変化がなく焼き入れのままのマルテンサイト中にセメンタイト析出のみが生じる温度域(例えば300℃で30分保持)で焼き戻しを行い、その鋼板を3%ナイタール液で腐食し同様に組織観察を行い、フェライト(黒い領域)とマルテンサイト(炭化物が析出している領域)の比率を算出した。100−(残留オーステナイトの面積率+残部組織の合計面積率)にフェライトの比率を掛けて金属組織におけるフェライトの面積率(%)とした。100−(残留オーステナイトの面積率+残部組織の合計面積率)にマルテンサイトの比率を掛けて金属組織におけるマルテンサイトの面積率(%)とした。
〔フェライト中の小傾角粒界密度〕
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、板厚/4の領域を対象に、FE−SEMを用いたEBSD(EDAX社製:OIM Data Collection)にて概略20μm×20μm領域の視野についてステップ間隔0.05μmにて測定し、解析ソフト(EDAX社製:OIM Analysis 7)にてフェライトの領域に限定して小傾角粒界の総長さを算出し、フェライト領域の面積で割ることでフェライト中の小傾角粒界密度(μm/μm)を算出した。なお、小傾角粒界は、隣接する測定点間の結晶方位回転が1°以上15°未満の領域と定義した。また、EBSDの測定原理上、フェライト領域にマルテンサイトが含まれる場合があるが、本発明におけるマルテンサイトの面積率はフェライトの面積率に対して十分に小さいため、フェライト中の小傾角粒界密度の算出に際して特に区別せずとも、フェライトの回復組織化を示す指標となる。
また、上記空冷後の各鋼板について、降伏強度YS、引張強度TS、全伸びEL、及び、シャー切断面のままで曲げ性R/tを測定した。なお、引張試験は、圧延方向と垂直な方向からJIS Z 2201に記載のJIS5号試験片を採取してJIS Z 2241に従って実施し、YS、TS及びELを測定した。また、曲げ試験は、曲げ稜線が圧延方向に垂直方向となるよう試験片をシャー切断機(クリアランス:0.15mm)により採取し、シャー切断面を機械加工せずに残したまま、シャー切断面のせん断面側(シャー切断機の上刃側)が曲げ部外側(引張側)になるようにして90°V曲げ試験を行い、曲げ部外側を対象に実体顕微鏡でクラックの有無を調査した。クラックが発生しない最小の曲げ半径を限界曲げ半径(R)とし、そのRを板厚tで除してR/tを求めた。
測定結果を下記表4及び表5に示す。これらの表において、鋼板の機械的特性について、YSが900MPa以上、TSが1180MPa以上、TS×ELが30000MPa%以上、R/tが1.5以下を全て満たすものを合格として○で表示し、それ以外のものを不合格として×で表示した。
上記表4及び表5中、αはフェライトを示す。マルテンはマルテンサイトを示す。γは残留オーステナイトを示す。θはセメンタイトを示す。金属組織についての網掛け部分は、本発明の範囲外であることを示す。機械的特性についての網掛け部分については、十分な機械的特性が得られていないことを示す。
上記表4及び表5に示すように、製造No.1〜3、6、11、17、18、20、21、24、25、28〜34の鋼板は、いずれも、本発明の成分組成の規定を満足する鋼種を用い、推奨の製造条件下で製造した結果、本発明の組織規定の要件を充足する発明鋼板であり、評価が○であり、YS、TS、TS×EL、R/tは全て合格基準を満たしており、成形性に優れた高強度鋼板が得られることを確認できた。
これに対して、比較鋼板である製造No.4、5、7〜10、12〜16、19、22、23、26、27の鋼板は、評価が×であり、YS、TS、TS×EL、R/tの少なくともいずれかが劣っている。
例えば、製造No.4、5、7〜10、12〜15の鋼板は、成分組成の要件は満たしているものの、製造条件のいずれかが推奨範囲を外れていることにより、本発明の金属組織を規定する要件のうち少なくとも一つを満たさず、YS、TS、TS×EL、R/tの少なくともいずれかが劣っている。
例えば、製造No.4の鋼板は軟質化焼鈍温度が高すぎ、残留オーステナイトが粗大化し、R/tが劣っている。
また、製造No.5の鋼板は軟質化焼鈍の保持時間が長すぎ、残留オーステナイトが粗大化し、R/tが劣っている。
また、製造No.7の鋼板は、圧下率が低すぎ、フェライト中の小傾角粒界密度が不足し、YS、TS、R/tが劣っている。
また、製造No.8の鋼板は、冷延後の第1保持温度への平均速度が低すぎ、フェライト中の小傾角粒界密度が不足し、YS、TS、R/tが劣っている。
また、製造No.9の鋼板は、第1保持温度が低すぎ、フェライトが過剰になる一方で残留オーステナイトが不足するとともに、フェライト中の小傾角粒界密度が過大になり、TS、TS×ELが劣っている。
一方、製造No.10の鋼板は、第1保持温度が高すぎ、フェライトと残留オーステナイトが不足する一方でマルテンサイトが過剰になるとともに、残留オーステナイト中の平均Mn濃度が不足し、TS×EL、R/tが劣っている。
また、製造No.12の鋼板は、第1保持時間が長すぎ、フェライト中の小傾角粒界密度が不足し、YS、TS、R/tが劣っている。
また、製造No.13の鋼板は、第2保持温度までの平均速度が低すぎ、フェライト中の小傾角粒界密度が不足し、YS、TS、R/tが劣っている。
また、製造No.14の鋼板は、第2保持温度が低すぎ、残留オーステナイト中の平均Mn濃度が不足し、TS×ELが劣っている。
一方、製造No.15の鋼板は、第2保持温度が高すぎ、残留オーステナイト中の平均Mn濃度が不足し、TS×ELが劣っている。
また、製造No.16、19、22、23、26、27の鋼板は、本発明の成分のいずれかが規定範囲を外れており、それに伴い、製造No.22の鋼板を除いて、本発明の組織を規定する要件も少なくとも一つを満たさず、YS、TS、TS×EL、R/tの少なくともいずれかが劣っている。
例えば、製造No.16(鋼種B)の鋼板は、C含有量が低すぎ、残留オーステナイトが不足し、TS、TS×ELが劣っている。
一方、製造No.19(鋼種E)の鋼板は、C含有量が高すぎ、フェライトが不足する一方でマルテンサイトが過剰になるとともに、残留オーステナイト中の平均Mn濃度が不足し、TS×EL、R/tが劣っている。
また、製造No.22(鋼種H)の鋼板は、Si含有量及びSi+Al合計含有量がともに高すぎ、TS×EL、R/tが劣っている。
また、製造No.23(鋼種I)の鋼板は、Mn含有量が低すぎ、残留オーステナイトが不足するとともに、残留オーステナイト中の平均Mn濃度も不足し、TS、TS×ELが劣っている。
一方、製造No.26(鋼種L)の鋼板は、Mn含有量が高すぎ、フェライト中の小傾角粒界密度が過大になり、TS×EL、R/tが劣っている。
また、製造No.27(鋼種M)の鋼板は、Si+Al合計含有量が低すぎ、フェライト中の小傾角粒界密度が過大になるとともに、残留オーステナイト中の平均Mn濃度が不足し、TS×EL、R/tが劣っている。
以上の結果、本発明の適用性が確認できた。

Claims (4)

  1. C:0.10質量%以上0.25質量%以下、
    Si:0質量%超0.5質量%以下、
    Mn:6.0質量%以上9.0質量%以下、
    P:0質量%超0.100質量%以下、
    S:0質量%超0.010質量%以下、
    Al:0.001質量%以上3.0質量%以下、
    Si+Al:0.8質量%以上3.0質量%以下、
    N:0質量%超0.0100質量%以下、並びに
    残部:鉄及び不可避的不純物、
    である成分組成を有し、
    フェライト:40面積%以上80面積%未満、
    マルテンサイト:25面積%未満、
    残留オーステナイト:30面積%以上、並びに
    残部:10面積%未満
    の金属組織を有し、
    上記フェライト中の小傾角粒界密度が1.0μm/μm以上2.4μm/μm以下であり、
    上記残留オーステナイトの平均結晶粒径が1.5μm以下であり、かつ、
    上記残留オーステナイト中の平均Mn濃度が9.0質量%超であることを特徴とする高強度冷延鋼板。
  2. Cr:0.01質量%以上0.20質量%以下、
    Mo:0.01質量%以上0.20質量%以下、
    Cu:0.01質量%以上0.20質量%以下、
    Ni:0.01質量%以上0.20質量%以下、及び
    B:0.00001質量%以上0.02質量%以下
    からなる群より選択される1種又は2種以上をさらに含有する請求項1に記載の高強度冷延鋼板。
  3. Ca:0.0005質量%以上0.01質量%以下、
    Mg:0.0005質量%以上0.01質量%以下、及び
    REM:0.0001質量%以上0.01質量%以下
    からなる群より選択される1種又は2種以上をさらに含有する請求項1又は請求項2に記載の高強度冷延鋼板。
  4. C:0.10質量%以上0.25質量%以下、
    Si:0質量%超0.5質量%以下、
    Mn:6.0質量%以上9.0質量%以下、
    P:0質量%超0.100質量%以下、
    S:0質量%超0.010質量%以下、
    Al:0.001質量%以上3.0質量%以下、
    Si+Al:0.8質量%以上3.0質量%以下、
    N:0質量%超0.0100質量%以下、並びに
    残部:鉄及び不可避的不純物、
    である成分組成を有し、
    フェライト:40面積%以上80面積%未満、
    マルテンサイト:25面積%未満、
    残留オーステナイト:30面積%以上、並びに
    残部:10面積%未満
    の金属組織を有し、
    上記フェライト中の小傾角粒界密度が1.0μm/μm 以上2.4μm/μm 以下であり、
    上記残留オーステナイトの平均結晶粒径が1.5μm以下であり、かつ、
    上記残留オーステナイト中の平均Mn濃度が9.0質量%超である鋼材を熱間圧延する工程と、
    上記熱間圧延工程後の鋼板を室温まで冷却する第1工程と、
    上記第1冷却工程後の鋼材を温度400℃以上Ac1未満、保持時間0.5時間以上72時間以下の条件下で焼鈍する工程と、
    上記焼鈍工程後の鋼材を25%以上80%以下の圧下率で冷間圧延する工程と、
    上記冷間圧延工程後の鋼材を3.0℃/秒以上の平均速度で昇温する工程と、
    上記昇温工程後の鋼板を第1保持温度[(Ac1+Ac3)/2−30]℃以上[(Ac1+Ac3)/2+10]℃以下、第1保持時間0秒以上300秒以下の条件下で均熱する第1工程と、
    上記第1均熱工程後の鋼材を第1保持温度から1.0℃/秒以上の平均速度で冷却する第2工程と、
    上記第2冷却工程後の鋼板を第2保持温度[(Ac1+Ac3)/2−90]℃以上[(Ac1+Ac3)/2−50]℃以下、第2保持時間120秒以上600秒以下の条件下で均熱する第2工程と、
    上記第2均熱工程後の鋼板を冷却する第3工程とを備えることを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
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