JP6837372B2 - 成形性に優れた高強度冷延鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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C:0.05質量%以上0.25質量%以下、
Si:0質量%超3.0質量%以下、
Mn:5.0質量%以上9.0質量%以下、
P:0質量%超0.100質量%以下、
S:0質量%超0.010質量%以下、
Al:0.001質量%以上3.0質量%以下、
Si+Al:0.8質量%以上3.0質量%以下、
N:0質量%超0.0100質量%以下、並びに
残部:鉄及び不可避的不純物、
である成分組成を有し、
フェライト:40面積%以上80面積%未満、
マルテンサイト:25面積%未満、
残留オーステナイト:20面積%以上、並びに
残部:10面積%未満
の金属組織を有し、
上記フェライト中の小傾角粒界密度が1.0μm/μm2以上2.4μm/μm2以下であり、
上記残留オーステナイトの平均結晶粒径が1.5μm以下であり、かつ、
上記残留オーステナイト中の平均Mn濃度が9.0質量%超であることを特徴とする。
Cr:0.01質量%以上0.20質量%以下、
Mo:0.01質量%以上0.20質量%以下、
Cu:0.01質量%以上0.20質量%以下、
Ni:0.01質量%以上0.20質量%以下、及び
B:0.00001質量%以上0.02質量%以下
からなる群より選択される1種又は2種以上をさらに含有することが好ましい。
Ca:0.0005質量%以上0.01質量%以下、
Mg:0.0005質量%以上0.01質量%以下、及び
REM:0.0001質量%以上0.01質量%以下
からなる群より選択される1種又は2種以上をさらに含有することが好ましい。
C:0.05質量%以上0.25質量%以下、
Si:0質量%超3.0質量%以下、
Mn:5.0質量%以上9.0質量%以下、
P:0質量%超0.100質量%以下、
S:0質量%超0.010質量%以下、
Al:0.001質量%以上3.0質量%以下、
Si+Al:0.8質量%以上3.0質量%以下、
N:0質量%超0.0100質量%以下、並びに
残部:鉄及び不可避的不純物、
である成分組成を有する鋼材を熱間圧延する工程と、
上記熱間圧延工程後の鋼板を室温まで冷却する第1工程と、
上記第1冷却工程後の鋼材を温度400℃以上Ac1未満、保持時間0.5時間以上72時間以下の条件下で焼鈍する工程と、
上記焼鈍工程後の鋼材を25%以上80%以下の圧下率で冷間圧延する工程と、
上記冷間圧延工程後の鋼材を3.0℃/秒以上の平均速度で昇温する工程と、
上記昇温工程後の鋼板を第1保持温度[(Ac1+Ac3)/2−30]℃以上[(Ac1+Ac3)/2+10]℃以下、第1保持時間0秒以上300秒以下の条件下で均熱する第1工程と、
上記第1均熱工程後の鋼材を第1保持温度から1.0℃/秒以上の平均速度で冷却する第2工程と、
上記第2冷却工程後の鋼板を第2保持温度[(Ac1+Ac3)/2−90]℃以上[(Ac1+Ac3)/2−50]℃以下、第2保持時間120秒以上600秒以下の条件下で均熱する第2工程と、
上記第2均熱工程後の鋼板を冷却する第3工程とを備えることを特徴とする。
本発明鋼板は、フェライト:40面積%以上80面積%未満、マルテンサイト:25面積%未満、残留オーステナイト:20面積%以上、並びに残部:10面積%未満の金属組織を有し、上記フェライト中の小傾角粒界密度が1.0μm/μm2以上2.4μm/μm2以下であり、上記残留オーステナイトの平均結晶粒径が1.5μm以下であり、かつ、上記残留オーステナイト中の平均Mn濃度が9.0質量%超であることを特徴とする。
本発明鋼板は、フェライトを主相とし、高強度と延性を併せ持つ回復組織化することで、残留オーステナイトの変態誘起塑性と併せて所望の機械的特性を得る。本発明鋼板は、金属組織におけるフェライトの面積率が40%未満では、母相の延性が不足するだけでなく、オーステナイト中に濃化するMn濃度も低下するためELが低下する。一方、金属組織におけるフェライトが80面積%以上ではTSが確保できない。金属組織におけるフェライトの好ましい下限は45面積%であり、好ましい上限は75面積%である。
本発明鋼板は、マルテンサイトが25面積%以上金属組織中に含まれると、ELが低下することに加え、シャー切断面でマルテンサイトを起点とする破壊が生じ、曲げ性が低下する。金属組織におけるマルテンサイトの上限は、好ましくは22面積%であり、さらに好ましくは20面積%である。なお、本発明における「マルテンサイト」は、「焼入れのままのマルテンサイト」と「焼戻しマルテンサイト」の両方を合わせたものを意味するものとする。
母相であるフェライトの他に、第2相として残留オーステナイトを導入する。残留オーステナイトは加工誘起マルテンサイト変態することでTS、EL、さらには曲げ性をも高める効果を有する。良好な機械的特性を得るには残留オーステナイトを20面積%以上%以上導入する必要がある。金属組織における残留オーステナイトの下限は、好ましくは25面積%であり、より好ましくは面積30%である。
本発明鋼板は、上記フェライト、マルテンサイト及び残留オーステナイト以外の残部組織として、合計で10面積%未満のパーライト、ベイナイト及びセメンタイトを含有しても本発明の効果は得られるが、これらの組織はELを低下させるため、金属組織における残部組織の合計の上限は好ましくは5面積%である。
本発明鋼板は、フェライト中に1.0μm/μm2以上2.4μm/μm2の密度で小傾角粒界が導入された回復組織とすることで、優先的に降伏するフェライトを高強度化し、高YS化する。また、この回復組織は、高TS化にも寄与する一方、適度な延性を有しているためELを低下させない。さらに、残留オーステナイトが加工誘起マルテンサイト変態し硬質組織化した際に、フェライトが高強度化されているため、ミクロ組織内における強度の均一性が向上し、破壊の起点が分散化され、また、クラックの軟質相/硬質相間の進展を抑制でき、シャー切断面のままでも曲げ成形時におけるクラックの発生を抑制できる。フェライト中の小傾角粒界密度が1.0μm/μm2未満では、フェライトの再結晶が進行しており、YS、TS、曲げ性が低下する。一方、フェライト中の小傾角粒界密度が2.4μm/μm2超ではフェライトの回復が十分に進行しておらず、加工されたフェライトが残存しておりELが低下する。フェライト中の小傾角粒界密度の好ましい下限は1.1μm/μm2であり、好ましい上限は2.2μm/μm2である。
残留オーステナイトの平均結晶粒径を1.5μm以下とし、微細分散させておくことで、シャー切断面におけるクラック発生を抑制し、曲げ性を改善する。残留オーステナイトの平均結晶粒径が1.5μm超ではシャー切断機による切断時に一部残留オーステナイトが粗大なマルテンサイトへと変態し、クラックを発生させる。残留オーステナイトの平均結晶粒径の上限は、好ましくは1.4μmであり、より好ましくは1.3μmである。
残留オーステナイト中の平均Mn濃度を9.0質量%超とすることで残留オーステナイトの変形に対する安定度を高め、変形初期の加工誘起マルテンサイト変態を適度に抑制し、変形中期〜後期において多量に変態させることでTS×ELを向上させる。残留オーステナイト中の平均Mn濃度が9.0質量%以下ではTS×ELが低下する。残留オーステナイト中の平均Mn濃度の下限は、好ましくは9.5質量%であり、より好ましくは10.0質量%である。
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、ピクラール液で腐食して金属組織を顕出させた後、鋼板全体の組織を代表するものとして、板厚/4の領域を対象に、ショットキー電界放出型走査電子顕微鏡(以下、FE−SEM)にて概略10μm×12μm領域10視野について倍率10000倍の像を撮影する。特に腐食されて黒いコントラストで観察される領域を残留オーステナイトとして画像解析ソフトを用いて、その面積率と、各粒の面積から円相当径に換算した平均結晶粒径とを視野ごとにそれぞれ算出し、10視野分の平均値を残留オーステナイトの面積率とその平均結晶粒径とする。また、10視野撮影時に各視野においてFE−SEMを用いたエネルギー分散X線分光法(EDS)によって残留オーステナイト粒1個のMn濃度(質量%)を測定し、各視野計10測定点を平均して残留オーステナイト中の平均Mn濃度(質量%)を算出する。
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、3%ナイタール液で腐食して金属組織を顕出させた後、板厚/4の領域を対象に、FE−SEMにて概略10μm×12μm領域10視野について倍率10000倍の像を撮影し、ベイナイトやパーライト等の残部組織が含まれる場合は残留オーステナイトの面積率と同様にして残部組織の合計面積率を求める。一方、鋼の焼鈍組織のままではフェライトと焼き入れのままのマルテンサイトとの区別が困難であるため、組織分率に変化がなく焼き入れのままのマルテンサイト中にセメンタイト析出のみが生じる温度域(例えば300℃で30分保持)で焼き戻しを行い、その鋼を3%ナイタール液で腐食し同様に組織観察を行い、フェライト(黒い領域)とマルテンサイト(炭化物が析出している領域)の比率を算出する。100−(残留オーステナイトの面積率+残部組織の合計面積率)にフェライトの比率を掛けて金属組織におけるフェライトの面積率(%)とする。100−(残留オーステナイトの面積率+残部組織の合計面積率)にマルテンサイトの比率を掛けて金属組織におけるマルテンサイトの面積率(%)とする。
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、板厚/4の領域を対象に、FE−SEMを用いた電子後方散乱回折像法(EBSD)にて概略20μm×20μm領域の視野についてステップ間隔0.05μmにて測定し、解析ソフトにてフェライトの領域に限定して小傾角粒界の総長さを算出し、フェライト領域の面積で割ることでフェライト中の小傾角粒界密度(μm/μm2)を算出する。なお、小傾角粒界は、隣接する測定点間の結晶方位回転が1°以上15°未満の領域と定義する。また、EBSDの測定原理上、フェライト領域にマルテンサイトが含まれる場合があるが、本発明におけるマルテンサイトの面積率はフェライトの面積率に対して十分に小さいため、フェライト中の小傾角粒界密度の算出に際して特に区別せずとも、フェライトの回復組織化を示す指標となる。
C(炭素):0.05質量%以上0.25質量%以下
CはMnとともにオーステナイト安定化元素として残留オーステナイト分率の増加及び残留オーステナイトの加工に対する安定性向上に寄与する。このような作用を有効に発揮させるためにはCは0.05質量%以上含有する必要がある。ただし、C含有量が0.25%超では最終焼鈍で硬質なマルテンサイトが過度に生成してしまうほか、溶接性を悪化させるという問題も生じる。C含有量の好ましい下限は0.10質量%であり、好ましい上限は0.20質量%である。
Siはフェライトの固溶強化元素として有用であり、ELの低下を最小限としつつ高YS化、高TS化に寄与する。過度に添加すると局部延性が低下し、特にシャー切断面におけるクラック生成を促進させ曲げ性を低下させるため、Si含有量の上限を3.0質量%とする。Si含有量の下限は、好ましくは0.05質量%であり、より好ましくは0.1質量%である。Si含有量の上限は、好ましくは1.5質量%であり、より好ましくは0.5質量%である。
Mnはオーステナイト安定化元素として残留オーステナイト分率の増加及び残留オーステナイトの加工に対する安定性向上に寄与する。このような作用を有効に発揮させるためには5.0質量%以上含む必要がある。ただし、9.0質量%超ではフェライトの回復が抑制され、加工の影響を受けた延性に乏しい組織が残留してしまう。Mn含有量の好ましい下限は6.0質量%であり、好ましい上限は8.5質量%である。
Pは不純物元素として不可避的に存在し、0.100質量%を超えて含まれるとELが劣化する。P含有量の好ましい上限は0.03質量%である。
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS等の硫化物系介在物を形成し、割れの起点となってELを低下させる元素である。このため、S含有量の上限は、0.010質量%であり、好ましくは0.005質量%に制限する。
Alは脱酸材として用いられるものであるが、その含有量が0.001質量%未満では鋼の清浄作用が十分に得られず、一方、Al含有量が3.0質量%を超えると鋼を脆化させ、鋳造時の鋼片割れを引き起こす。Al含有量の下限は、好ましくは0.5質量%であり、より好ましくは0.8質量%であり、Al含有量の上限は、好ましくは2.8質量%であり、より好ましくは2.5質量%である。
Si及び/又はAlを含むことでフェライト−オーステナイト2相域が高温側へ拡大し、最適オーステナイト分率が得られる2相域温度が高温化しているため、第1均熱段階にて高温で均熱した際にオーステナイトの分率が制御されると同時にフェライトの回復組織化が促進される。また、続けて第2均熱段階にて低温で均熱した際にオーステナイト中に濃化するMn量を増加させる。Si及びAlの合計含有量(以下、「Si+Al合計含有量」ともいう)が0.8質量%未満では、最適オーステナイト分率が得られる2相域温度が低すぎるため、フェライトが十分に回復しないことに加え、残留オーステナイト中のMn濃度も低下する。一方、Si+Al合計含有量が3.0質量%を超えると鋼を脆化させるため、曲げ性を低下させ、鋳造時の鋼片割れを引き起こす。Si+Al合計含有量の下限は、好ましくは0.9質量%であり、より好ましくは1.0質量%であり、Si+Al合計含有量の上限は、好ましくは2.9質量%であり、より好ましくは2.8質量%である。
Nも不純物元素として不可避的に存在し、歪時効により伸びを低下させるうえ、Alと結合し粗大な窒化物として析出するため、シャー切断面での破壊を引き起こす。したがって、Nの含有量はできるだけ低い方が望ましく、その上限は0.0100質量%であり、好ましくは0.006質量%以下に制限する。
Mo(モリブデン):0.01質量%以上0.20質量%以下、
Cu(銅):0.01質量%以上0.20質量%以下、
Ni(ニッケル):0.01質量%以上0.20質量%以下、及び
B:0.00001質量%以上0.02質量%以下
からなる群より選択される1の1種又は2種以上
これらの元素は、鋼の強化元素として有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、Cr、Mo、Cu及びNiはそれぞれ0.01質量%以上(より好ましくは0.05質量%以上)、Bは0.00001質量%以上(より好ましくは0.0001質量%以上)含有させることが推奨される。ただし、これらの元素は過剰に含有させても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるので、Cr、Mo、Cu及びNiはそれぞれ0.20質量%以下(より好ましくは0.15質量%以下)、Bは0.02質量%以下(より好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.006質量%以下)に制限することが推奨される。
Mg(マグネシウム):0.0005質量%以上0.01質量%以下、及び
REM(希土類元素):0.0001質量%以上0.01質量%以下
からなる群より選択される1種又は2種以上
また、これらの元素は、鋼中硫化物の形態を制御し、加工性向上に有効な元素である。ここで、本発明に用いられるREMとしては、Sc(スカンジウム)、Y(イットリウム)、ランタノイド等が挙げられる。上記作用を有効に発揮させるためには、Ca及びMgはそれぞれ0.0005質量%以上(より好ましくは0.001質量%以上)、REMは0.0001質量%以上(より好ましくは0.0002質量%以上)含有させることが推奨される。ただし、これらの元素は過剰に含有させても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるので、それぞれ0.01質量%以下(より好ましくはCa及びMgは0.003質量%以下、REMは0.006質量%以下)に制限することが推奨される。
本発明鋼板は、上述した各元素以外にFe(鉄)及び不可避的不純物を残部として含有する。この不可避的不純物としては、例えばSn(スズ)、As(砒素)、Pb(鉛)等が挙げられる。
本発明に係る高強度冷延鋼板の製造方法は、熱間圧延工程、第1冷却工程、焼鈍工程、冷間圧延工程、昇温工程、第1均熱工程、第2冷却工程、第2均熱工程及び第3冷却工程を備える。以下、各工程について説明する。
本工程では、上記成分組成を有する鋼材を熱間圧延する。熱間圧延条件は特に限定されない。例えば、鋳造したスラブ等の鋼材を直接加熱炉に装入して、又は一旦室温まで冷却した後に加熱炉に装入して均熱し、熱間圧延する。
本工程では、上記熱間圧延工程後の鋼板を室温まで冷却する。冷却条件は特に限定されないが、例えば、熱間圧延工程後の鋼板を巻取りして冷却し、熱延コイル(熱延板)とする。
本工程では、上記第1冷却工程後の鋼材としての上記熱延板を温度400℃以上Ac1未満、保持時間0.5時間以上72時間以下の条件下で焼鈍する。
上記熱延板を、後述する冷間圧延工程前に上記所定条件下で焼鈍して軟質化し、金属組織を再結晶フェライトと微細分散したセメンタイト組織とする。母相を再結晶フェライト化することで、冷間圧延にてフェライト中に多量の転位が導入され、後述する第1均熱工程及び第2均熱工程による2段階の均熱(以下、「最終焼鈍」ともいう)で高強度な回復組織が得られる。また、セメンタイトを微細分散させておくことで、最終焼鈍にて残留オーステナイトの平均粒径を微細化することができる。なお、焼鈍工程を施さない場合、最終焼鈍工程後に所望の組織が得られないばかりか、熱延板の強度が高すぎるため実質的に後述する冷間圧延工程が不可能となる。Ac1以上で焼鈍した場合、粗大なオーステナイト粒が生成し、最終焼鈍工程後の組織にまで残存するため、残留オーステナイトが粗大化し所望の平均結晶粒径が得られない。一方、焼鈍の温度を400℃未満とした場合や保持時間を0.5時間未満とした場合は、フェライトの再結晶が十分進行せず、実質的に冷間圧延工程が実施できなくなる。また、保持時間を72時間超とした場合は、粗大なセメンタイトが低密度に分散し、最終焼鈍において残留オーステナイトが粗大化して所望の平均結晶粒径が得られなくなる。特に焼鈍の手段は特に問わないが、0.5時間以上72時間以下という長時間均熱が必要なため、バッチ炉を用いておこなうことが好ましい。また、焼鈍工程前に酸洗を行っても構わない。焼鈍温度は、下限としては420℃が好ましく、440℃がより好ましく、上限としては、(Ac1−10)℃が好ましい。焼鈍温度の保持時間は、下限としては1時間が好ましく、3時間がより好ましく、上限としては60時間が好ましく、50時間がより好ましい。
本工程では、上記焼鈍工程後の鋼材を25%以上80%以下の圧下率(以下、「冷延率」ともいう)で冷間圧延(以下、「冷延」ともいう)して冷延板を得る。
冷間圧延により焼鈍で生成させた再結晶フェライトに多量の転位を導入し、続く最終焼鈍で所望の小傾角粒界密度を有する回復組織化したフェライトを生成させる。冷延率が25%未満の場合は、小傾角粒界密度が低下してYS、TS、曲げ性が低下する。一方、冷延率が80%を超える冷間圧延は実質的に困難である。冷延率は、下限としては30%が好ましく、上限としては75%が好ましく、70%がより好ましい。
本工程では、上記冷間圧延工程後の鋼材を3.0℃/秒以上の平均速度で昇温する。
本工程では、上記昇温工程後の鋼板を第1保持温度[(Ac1+Ac3)/2−30]℃以上[(Ac1+Ac3)/2+10]℃以下、第1保持時間0秒以上300秒以下の条件下で均熱する。
本工程では、上記第1均熱工程後の鋼材を第1保持温度から1.0℃/秒以上の平均速度で冷却する。
本工程では、上記第2冷却工程後の鋼板を第2保持温度[(Ac1+Ac3)/2−90]℃以上[(Ac1+Ac3)/2−50]℃以下、第2保持時間120秒以上600秒以下の条件下で均熱する。
フェライトの再結晶を抑制し、フェライト中の小傾角粒界密度を確保するために3.0℃/秒以上の平均速度で昇温する。平均速度が3.0℃/秒未満ではフェライト中の小傾角粒界密度が低下し、YS、TS、曲げ性が低下する。平均速度の上限は特に限定されない。平均速度の下限としては、4.0℃/秒が好ましく、5.0℃/秒がより好ましい。
第1均熱(1段目の均熱)工程をフェライト−オーステナイト2相域内で特に高温側で行うことで、微細分散させたセメンタイトを核にしてオーステナイトへの逆変態を進行させ、Cが濃化した微細分散したオーステナイト粒を得る。それと同時にフェライトを回復組織化させる。第1保持温度を[(Ac1+Ac3)/2−30]℃未満とすると、生成するオーステナイト量が不足する結果、残留オーステナイト分率が低下し、また、フェライトの回復が不十分となるため、フェライト中の小傾角粒界密度が高くなり、TS、ELが低下する。一方、第1保持温度を[(Ac1+Ac3)/2+10]℃超とすると、生成するオーステナイト量が過剰となり、フェライト分率が低下し、また、オーステナイト中のC濃度が低下するため残留オーステナイト分率が低下しマルテンサイト分率が過剰となりEL及び曲げ性が低下する。また、保持時間を300秒超とすると、フェライトの再結晶が進行し、フェライト中の小傾角粒界密度が低下してYS、TS、曲げ性が低下する。なお、第1保持時間が0秒とは、上記第1保持温度の下限([(Ac1+Ac3)/2−30]℃)に達した瞬間に次の低温での第2均熱(2段目の均熱)工程に移行することを意味する。また、均熱中は上記第1均熱保持温度の範囲内であれば温度の上下の変動があっても構わない。より好ましい保持時間の上限としては180秒である。
第1保持温度から1.0℃/秒以上の平均速度で冷却することで、フェライトの再結晶進行を防止する。平均速度を1.0℃/秒未満とすると、フェライトの再結晶が進行し、フェライト中の小傾角粒界密度が低下してYS、TS、曲げ性が低下する。
第2均熱工程を第1均熱工程よりも低温で行うことによって、第1均熱工程で生成させたオーステナイト中のMnの高濃化を促進させ、残留オーステナイトの安定度を向上させる。
第2保持温度を[(Ac1+Ac3)/2−90]℃未満若しくは[(Ac1+Ac3)/2−50]℃超え、又は第2保持時間を120秒未満とすると、残留オーステナイト中のMn濃度が低下し、EL、TS×ELが低下する。第2保持時間の上限は、生産性の観点から600秒とするのが望ましい。
本工程では、上記第2均熱工程後の鋼板を冷却する。最終冷却である第3冷却工程における冷却条件は、特に限定されないが、ガスジェット又は水冷で室温まで急冷してもよく、空冷による徐冷をおこなってもよく、途中で温度保持をしてもよい。
本発明に係る高強度冷延鋼板の製造方法は、上記第3冷却工程後に、上記工程以外のその他の工程をさらに備えていてもよい。その他の工程としては、メッキ処理工程、合金化工程、スキンパス圧延工程等が挙げられる。メッキ処理工程では、上記第3冷却工程で所定温度まで冷却した鋼板をメッキ浴に浸漬してもよく、上記第3冷却工程で過冷却後再加熱しメッキ浴に浸漬しメッキ鋼板としてもよい。合金化工程では、例えばメッキ処理工程後の鋼板を加熱して合金処理化を行い、メッキ合金化を行っても構わない。スキンパス圧延の条件は、特に限定されず、通常工程範囲の圧下率で行うことができる。
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、ピクラール液で腐食して金属組織を顕出させた後、板厚/4の領域を対象に、日本電子社製のFE−SEMにて概略10μm×12μm領域10視野について倍率10000倍の像を撮影した。特に腐食されて黒いコントラストで観察される領域を残留オーステナイトとして画像解析ソフト(MEDIA CYBERNETICS社製:ImagePro Plus ver. 7.0)を用いて、その面積率と、各粒の面積から円相当径に換算した平均結晶粒径とを視野ごとにそれぞれ算出し、10視野分の平均値を残留オーステナイトの面積率とその平均結晶粒径とした。また、10視野撮影時に各視野においてFE−SEMを用いたエネルギー分散X線分光法(EDS)によって残留オーステナイト粒1個のMn濃度(質量%)を測定し、各視野計10測定点を平均して残留オーステナイト中の平均Mn濃度(質量%)を算出した。
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、3%ナイタール液で腐食して金属組織を顕出させた後、板厚/4の領域を対象に、FE−SEMにて概略10μm×12μm領域10視野について倍率10000倍の像を撮影し、ベイナイトやパーライト等の残部組織が含まれる場合は残留オーステナイトの面積率と同様にして残部組織の合計面積率を求めた。一方、鋼板の焼鈍組織のままではフェライトと焼き入れのままのマルテンサイトとの区別が困難であるため、組織分率に変化がなく焼き入れのままのマルテンサイト中にセメンタイト析出のみが生じる温度域(例えば300℃で30分保持)で焼き戻しを行い、その鋼板を3%ナイタール液で腐食し同様に組織観察を行い、フェライト(黒い領域)とマルテンサイト(炭化物が析出している領域)の比率を算出した。100−(残留オーステナイトの面積率+残部組織の合計面積率)にフェライトの比率を掛けて金属組織におけるフェライトの面積率(%)とした。100−(残留オーステナイトの面積率+残部組織の合計面積率)にマルテンサイトの比率を掛けて金属組織におけるマルテンサイトの面積率(%)とした。
鋼板の圧延方向に垂直な板厚断面を研磨し、板厚/4の領域を対象に、FE−SEMを用いたEBSD(EDAX社製:OIM Data Collection)にて概略20μm×20μm領域の視野についてステップ間隔0.05μmにて測定し、解析ソフト(EDAX社製:OIM Analysis 7)にてフェライトの領域に限定して小傾角粒界の総長さを算出し、フェライト領域の面積で割ることでフェライト中の小傾角粒界密度(μm/μm2)を算出した。なお、小傾角粒界は、隣接する測定点間の結晶方位回転が1°以上15°未満の領域と定義した。また、EBSDの測定原理上、フェライト領域にマルテンサイトが含まれる場合があるが、本発明におけるマルテンサイトの面積率はフェライトの面積率に対して十分に小さいため、フェライト中の小傾角粒界密度の算出に際して特に区別せずとも、フェライトの回復組織化を示す指標となる。
Claims (4)
- C:0.10質量%以上0.25質量%以下、
Si:0質量%超0.5質量%以下、
Mn:6.0質量%以上9.0質量%以下、
P:0質量%超0.100質量%以下、
S:0質量%超0.010質量%以下、
Al:0.001質量%以上3.0質量%以下、
Si+Al:0.8質量%以上3.0質量%以下、
N:0質量%超0.0100質量%以下、並びに
残部:鉄及び不可避的不純物、
である成分組成を有し、
フェライト:40面積%以上80面積%未満、
マルテンサイト:25面積%未満、
残留オーステナイト:30面積%以上、並びに
残部:10面積%未満
の金属組織を有し、
上記フェライト中の小傾角粒界密度が1.0μm/μm2以上2.4μm/μm2以下であり、
上記残留オーステナイトの平均結晶粒径が1.5μm以下であり、かつ、
上記残留オーステナイト中の平均Mn濃度が9.0質量%超であることを特徴とする高強度冷延鋼板。 - Cr:0.01質量%以上0.20質量%以下、
Mo:0.01質量%以上0.20質量%以下、
Cu:0.01質量%以上0.20質量%以下、
Ni:0.01質量%以上0.20質量%以下、及び
B:0.00001質量%以上0.02質量%以下
からなる群より選択される1種又は2種以上をさらに含有する請求項1に記載の高強度冷延鋼板。 - Ca:0.0005質量%以上0.01質量%以下、
Mg:0.0005質量%以上0.01質量%以下、及び
REM:0.0001質量%以上0.01質量%以下
からなる群より選択される1種又は2種以上をさらに含有する請求項1又は請求項2に記載の高強度冷延鋼板。 - C:0.10質量%以上0.25質量%以下、
Si:0質量%超0.5質量%以下、
Mn:6.0質量%以上9.0質量%以下、
P:0質量%超0.100質量%以下、
S:0質量%超0.010質量%以下、
Al:0.001質量%以上3.0質量%以下、
Si+Al:0.8質量%以上3.0質量%以下、
N:0質量%超0.0100質量%以下、並びに
残部:鉄及び不可避的不純物、
である成分組成を有し、
フェライト:40面積%以上80面積%未満、
マルテンサイト:25面積%未満、
残留オーステナイト:30面積%以上、並びに
残部:10面積%未満
の金属組織を有し、
上記フェライト中の小傾角粒界密度が1.0μm/μm 2 以上2.4μm/μm 2 以下であり、
上記残留オーステナイトの平均結晶粒径が1.5μm以下であり、かつ、
上記残留オーステナイト中の平均Mn濃度が9.0質量%超である鋼材を熱間圧延する工程と、
上記熱間圧延工程後の鋼板を室温まで冷却する第1工程と、
上記第1冷却工程後の鋼材を温度400℃以上Ac1未満、保持時間0.5時間以上72時間以下の条件下で焼鈍する工程と、
上記焼鈍工程後の鋼材を25%以上80%以下の圧下率で冷間圧延する工程と、
上記冷間圧延工程後の鋼材を3.0℃/秒以上の平均速度で昇温する工程と、
上記昇温工程後の鋼板を第1保持温度[(Ac1+Ac3)/2−30]℃以上[(Ac1+Ac3)/2+10]℃以下、第1保持時間0秒以上300秒以下の条件下で均熱する第1工程と、
上記第1均熱工程後の鋼材を第1保持温度から1.0℃/秒以上の平均速度で冷却する第2工程と、
上記第2冷却工程後の鋼板を第2保持温度[(Ac1+Ac3)/2−90]℃以上[(Ac1+Ac3)/2−50]℃以下、第2保持時間120秒以上600秒以下の条件下で均熱する第2工程と、
上記第2均熱工程後の鋼板を冷却する第3工程とを備えることを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
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