以下、本発明のコイルボビンおよび当該コイルボビンを備えたトランスの実施形態について図を参照して説明する。まず、本実施形態に係るコイルボビン10の構成を図1〜図4に基づいて説明する。図1には、コイルボビン10の構成例を示す斜視図が図示されており、図1(A)はコイルボビン10を一端側から見たもの、図1(B)はコイルボビン10を他端側から見たものである。また、図2(A)には、コイルボビン10を一端側から見た平面図、図2(B)には、コイルボビン10を他端側から見た底面図、図2(C)には、コイルボビン10を角筒部の径方向に切断した場合の断面図、がそれぞれ図示されている。
さらに、図3(A)には、コイルボビン10の一端側の部分拡大図、図3(B)には、コイルボビン10の他端側の部分拡大図、図3(C)には、コイルボビン10の部分断面図、がそれぞれ図示されている。また、図4(A)には、コイルボビン10にコイル線材を巻回した場合の説明図、図4(B)には、比較例のコイルボビンにコイル線材を巻回した場合の説明図、がそれぞれ図示されている。図5には、コイルボビン10にコイル線材を巻回した場合に、始端部の引き出しの例を示す説明図が図示されている。
図1および図2に示すように、コイルボビン10は、巻回されたコイル線材を一定の形状に維持するための筒体である。本実施形態では、主に、フランジ部11,12、角筒部13等により構成されており、これらは、例えば、不燃性の樹脂により一体に成形されている。角筒部13は、角が丸められた丸角の角部13a,13b,13c,13d(以下「角部13a〜13d」という場合もある)を有する四角柱を中空状にしたものである。この角筒部13には、例えば、後述するように、コイル線材としての丸線31を角筒部13の外周部15に巻き付けて1次コイルを形成する。そのため、丸線31を巻回する軸の一端側(巻回軸方向の一端側)にフランジ部11を形成し、また他端側(巻回軸方向の他端側)にフランジ部12を形成することで、複数層に巻回された丸線31の巻回層が巻回軸方向に向かって崩れ難くしている。
本実施形態では、フランジ部11は、刀の鍔のように、全周に亘って形成されているのではなく、角筒部13のうちの対向する一対の長辺に接続される2枚のフランジ11a,11bにより構成されている。即ち、フランジ11a,11bが形成されていない角筒部13の短辺には、鍔の一部を切り欠く切欠部11cが形成されるとともに、後で詳述する凸部21,22,23,24(「凸部21〜24」という場合もある)が形成されている。なお、角筒部13のうちの対向する一対の短辺にフランジ11a,11bを形成し、対向する残りの長辺に切欠部11cや凸部21,22,23,24を形成してもよい。
なお、角筒部13の角部13a〜13dを、丸みを帯びた丸角に形成しているのは、巻回時に角部13a〜13dに圧接され得る丸線31に対して、傷を付け難くするためである。また、角筒部13の内周部14には、やや幅広の線条溝16が長手方向(軸方向)に沿って複数本形成されている。これらの線条溝16は、コイルボビン10の空洞部20に角柱形状のコアのレグ部が挿通されて当該コイルボビン10がコアに組み付けられた場合において、角筒部13の内周部14とレグ部との間にワニスを充填可能な隙間を形成するために設けられている。
フランジ部12についても、フランジ部11とほぼ同様に構成されている。即ち、フランジ部12は、角筒部13のうちの対向する一対の長辺に接続される2枚のフランジ12a,12bにより構成されている。また、フランジ12a,12bが形成されていない角筒部13の短辺には、鍔の一部を切り欠く切欠部12cが形成されるとともに、後で詳述する凸部25,26,27,28(「凸部25〜28」という場合もある)が形成されている。なお、角筒部13のうちの対向する一対の短辺にフランジ12a,12bを形成し、対向する残りの長辺に切欠部12cや凸部25〜28を形成してもよい。
フランジ部11,12には、本実施形態では、アルファベットによるマーク17,18が表示されている。例えば、フランジ部11の表面(フランジ部12と対向しない側の面)には「M」のマーク17が、またフランジ部12の表面(フランジ部11と対向しない側の面)には「T」のマーク18が、それぞれ凸状に現れるように形成されている。フランジ部11に表示される「M」のマーク17は、M座コイルであることを示し、またフランジ部12に表示される「T」のマーク18は、T座コイルであることを示す。なお、M座コイルおよびT座コイルについては後述する。
本実施形態では、フランジ部11,12のそれぞれの表面には、4種類の文字19も表示されている。例えば、角筒部13の端部四隅の付近(近傍)に位置する、フランジ部11,12(フランジ11a,11b,12a,12b)の表面に、4種類の文字(数字)「1」、「2」、「3」および「4」がそれぞれ凸状に現れるように形成されている。例えば、一方のフランジ11a,12aには「1」と「4」が、また他方のフランジ11b,12bには「2」と「3」が、それぞれ表示されている。数字のほかに、アルファベット(a,b,c,d等)やギリシャ文字(α,β,γ,δ等)でもよい。なお、このような数字を含めた4種類の文字19に代えて、図形(例えば、○,◎,△,□)や記号(@,&,¥,$)をフランジ部11,12に表示してもよい。
このように本実施形態では、フランジ部11,12に表示される文字等がそれぞれ凸状に現れるようにコイルボビン10の成形型により形成したが、コイルボビン10の成形時に形成することが可能であれば、これらの文字等がそれぞれ凹状に現れるようにコイルボビン10の成形型により形成してもよい。なお、マーク17,18は、特許請求の範囲に記載の「第1目印」または「第2目印」に相当し得るものである。また、文字19は、特許請求の範囲に記載の「文字、図形または記号」に相当し得るものである。
図3(A)に示すように、切欠部11cによりフランジ11a,11bが形成されていない角筒部13の短辺には、凸部21〜24が形成されている。同様に図3(B)に示すように、切欠部12cによりフランジ12a,12bが形成されていない角筒部13の短辺には、凸部25〜28が形成されている。即ち、一方の短辺には、前述した文字19の「1」の近くに凸部21や凸部25が位置しており、文字19の「2」の近くに凸部22や凸部26が位置している。また、他方の短辺には、文字19の「3」の近くに凸部23や凸部27が位置しており、文字19の「4」の近くに凸部24や凸部28が位置している。
これらの凸部21〜24は、四角柱または四角錐台の形状に形成されている。本実施形態では、凸部21〜24の巻回軸方向の幅sは、フランジ部11(フランジ11a,11b)の厚さtとほぼ等しくなるように設定されている。同様に、凸部25〜28の巻回軸方向の幅sも、フランジ部12(フランジ12a,12b)の厚さtとほぼ等しくなるように設定されている[条件1]。これにより、凸部21〜28がフランジ部11,12よりも巻回軸方向の角筒部13側に突出しないため、丸線31を角筒部13の周方向に巻き付ける際に丸線31が凸部21〜28に接触し難い(凸部21〜28が巻回時の邪魔になり難い)。
また、図3(C)に示すように、凸部21〜24は、それぞれの高さhがほぼ同様に設定されている[条件2]。これにより、凸部21〜24の高さがそれぞれ異なる場合に比べて、成形時における樹脂の流れが良好になるので、成形不良が発生し難い。凸部21〜24は、次に説明するように、丸線31の始端部32がこれらに隣接するように位置し始端部32の引き出し位置を明示する。そのため、始端部32が接触したり当接したりしても破損しない程度の機械的な強度が必要になる[条件3]とともに、コイルボビン10に丸線31を巻回する作業者が視認可能なサイズが必要になる[条件4]。よって、凸部21〜24は、これらの条件3,4を満たすように、巻回軸方向の幅sおよび巻回経方向の幅pが設定されている。
なお、図3(C)には、凸部25〜28が図示されていないが、凸部25〜28についても、四角柱または四角錐台の形状に形成されており、またそれぞれの高さhもほぼ同様に設定されている。これにより、成形時における樹脂の流れを良好にしている。また、凸部25〜28の巻回軸方向の幅sおよび巻回経方向の幅pについても、凸部21〜24と同様に、所定の機械的な強度を確保可能かつ作業者が視認可能なサイズに設定されている。本実施形態では、凸部21〜28の形状を四角柱または四角錐台に設定したが、上述したような各条件1〜4を満たせば、凸部21〜28の形状を、円柱、円錐台、楕円柱、楕円錐台等に形成してもよい。
このような形状に形成される凸部21〜28は、本実施形態では、フランジ11a(フランジ11b)の切欠部11cと角筒部13の外周部15との境界から所定距離dxだけ離れた位置に凸部21(凸部23)が設けられており、また反対側のフランジ11b(フランジ11a)の切欠部11cと角筒部13の外周部15との境界から所定距離dyだけ離れた位置に凸部22(凸部24)が設けられている。距離dx,dyは等しくない。
即ち、図3(A)に示すように、フランジ11a(フランジ11b)の切欠部11cと角筒部13の外周部15との境界から凸部21(凸部23)までの所定距離dxは、反対側の境界から凸部22(凸部24)までの所定距離dyよりも大きい(dx>dy)。同様に、図3(B)に示すように、フランジ12a(フランジ12b)の切欠部12cと角筒部13の外周部15との境界から凸部25(凸部27)までの所定距離dxは、反対側の境界から凸部26(凸部28)までの所定距離dyよりも大きい(dx>dy)。所定距離dxは、角筒部13に巻回される丸線31の始端部32(始端部32a)の引き出し位置により定められる。
図4および図5に示すように、1次コイル用の丸線31を角筒部13の外周部15に巻回し始める際に、巻回軸Jの方向に引き出される丸線31の始端部32の位置によっては、丸線31の硬度等の要因により丸線31が外周部15に接することが困難になる場合がある。例えば、図4(B)に示すように、フランジ11aの切欠部11cと外周部15との境界から凸部21までの所定距離を凸部22と同様のdy(<dx)に設定した場合には(同図に示す凸部21’)、当該所定距離がdxのときに比べて丸線31’の始端部32が角筒部13の角部13aに近づく。そのため、角部13aに対して短い距離で丸線31’をほぼ90度曲げる必要が生じる。
丸線31’は、始端部32において丸線31’の巻回方向に対してもほぼ90度に曲げられていることから、丸線31’は、始端部32の部分でほぼ90度曲げられた後、さらに短い距離で角部13aの部分でほぼ90度曲げられる。丸線31’に対して90度前後の曲げが近距離で2回行われるため、コイル線材の硬度によっては丸線31’が外周部15に接することなく浮いてしまう部分が発生する(同図に示す丸線31”)。特に、角部13aの付近で丸線31”が浮き上がり易い。このように浮き上がった丸線31”の上に丸線31’がさらに巻回されることで、角部13a付近の巻回経が大きくなる、いわゆる巻太りが生じ得る。
このような巻太りの発生を抑制するため、本実施形態では、図4(A)に示すように、フランジ11aの切欠部11cと外周部15との境界から所定距離dx以上離れた位置に凸部21を設けている。即ち、始端部32が凸部21の角部13a側に隣接し、かつ、始端部32から外周部15の周方向で角部13a側に向けて丸線31を巻回する場合において、凸部21から角部13aに至るまでにおいて、丸線31が外周部15に連続(またはほぼ連続)して接し得る範囲wに位置する。この範囲wは、例えば、丸線31の硬度(曲げ硬さ)、材質、線径等に基づく実験や計算機シミュレーションの結果により適宜設定される。なお、図4(A)および図4(B)においては、丸線31を明確にするため便宜的にグレーに着色している。
例えば、丸線31が線径rの銅線である場合には、フランジ11aの切欠部11cと外周部15との境界から凸部21側に線径rの4〜6倍離れた位置(範囲wの一方側)から、凸部22から凸部21側に線径r(符号32’)だけ離れた位置(範囲wの他方側)までの間が、当該範囲wとして設定される。つまり、フランジ11aの切欠部11cと外周部15との境界から凸部21までの所定距離dxは4r以上6r以下になる。凸部22から線径r(符号32’)だけ凸部21側に離れた位置を当該範囲wの他方側に設定しているのは、凸部21と凸部22の間に始端部32を位置させ得る隙間を確保する必要があるためである。
一方、凸部22は、反対側のフランジ11bの切欠部11cと外周部15との境界から所定距離dy離れた位置に設けられている。この所定距離dyは、例えば、丸線31の線径rの1〜2倍に設定されている。凸部22の角部13b側とフランジ11bとの間に始端部32を位置させ得る隙間を確保する必要があり、またこの角部13bは丸線31の巻回方向の反対側に存在することから、フランジ11bの切欠部11cと外周部15との境界から所定距離dx以上離れる必要がないためである。なお凸部22は、凸部21よりもフランジ11aに対して離れる方向に位置しているため、凸部22がフランジ11aの切欠部11cと外周部15との境界から所定距離dx以上離れていることは明らかである。
凸部23,24についても、凸部21,22と同様に設定されている。即ち、フランジ11bの切欠部11cと外周部15との境界から凸部23までの所定距離dxは丸線31の線径rの4〜6倍に設定されている。また、反対側のフランジ11aの切欠部11cと外周部15との境界から凸部24までの所定距離dyは、丸線31の線径rの1〜2倍に設定されている。
また、凸部25,26についても、凸部21,22と同様に設定されている。即ち、フランジ12aの切欠部12cと外周部15との境界から凸部25までの所定距離dxは丸線31の線径rの4〜6倍に設定されている。また、反対側のフランジ12bの切欠部12cと外周部15との境界から凸部26までの所定距離dyは、丸線31の線径rの1〜2倍に設定されている。
さらに、凸部27,28についても、凸部21,22と同様に設定されている。即ち、フランジ12bの切欠部12cと外周部15との境界から凸部27までの所定距離dxは丸線31の線径rの4〜6倍に設定されている。また、反対側のフランジ12aの切欠部12cと外周部15との境界から凸部28までの所定距離dyは、丸線31の線径rの1〜2倍に設定されている。
このようにコイルボビン10を構成することにより、図5および図6(A)〜図6(C)に示すように、フランジ部11が形成されるコイルボビン10の一端側においては、凸部21の角部13a側に隣接するように丸線31の始端部32a(始端部32)を位置させてコイルボビン10の外周部15の周方向で角部13a側に向けて丸線31を角筒部13に巻回する態様Aと、凸部21と凸部22の間に丸線31の始端部32b(始端部32)を位置させてコイルボビン10の外周部15の周方向で角部13a側に向けて丸線31を角筒部13に巻回する態様Bと、凸部22の角部13b側に隣接するように丸線31の始端部32c(始端部32)を位置させてコイルボビン10の外周部15の周方向で角部13a側に向けて丸線31を角筒部13に巻回する態様Cと、の3態様を構成することが可能になる。なお、図5および図6(A)〜図6(C)においては、丸線31を角筒部13に多重に巻回することにより構成する1次コイルのうちの巻回層の1段目だけが図示されており、2段目以降については図示を省略していることに注意されたい。また、当該角筒部13には、平角線を多重に巻回することにより構成する2次コイルについても図示を省略していることに注意されたい。
また、図6(D)〜図6(F)に示すように、凸部23の角部13c側に隣接するように丸線31の始端部32d(始端部32)を位置させてコイルボビン10の外周部15の周方向で角部13c側に向けて丸線31を角筒部13に巻回する態様Dと、凸部23と凸部24の間に丸線31の始端部32e(始端部32)を位置させてコイルボビン10の外周部15の周方向で角部13c側に向けて丸線31を角筒部13に巻回する態様Eと、凸部24の角部13d側に隣接するように丸線31の始端部32f(始端部32)を位置させてコイルボビン10の外周部15の周方向で角部13c側に向けて丸線31を角筒部13に巻回する態様Fと、の3態様を構成することが可能になる。図6(D)〜図6(F)においても、丸線31を角筒部13に多重に巻回することにより構成する1次コイルのうちの巻回層の1段目だけが図示されており、2段目以降については図示を省略していることに注意されたい。また、当該角筒部13には、平角線を多重に巻回することにより構成する2次コイルについても図示を省略していることに注意されたい。
さらに、図7(G)〜図7(L)に示すように、フランジ部12が形成されるコイルボビン10の他端側においては、凸部25の角部13b側に隣接するように丸線31の始端部32g(始端部32)を位置させてコイルボビン10の外周部15の周方向で角部13b側に向けて丸線31を角筒部13に巻回する態様Gと、凸部25と凸部26の間に丸線31の始端部32h(始端部32)を位置させてコイルボビン10の外周部15の周方向で角部13b側に向けて丸線31を角筒部13に巻回する態様Hと、凸部26の角部13a側に隣接するように丸線31の始端部32i(始端部32)を位置させてコイルボビン10の外周部15の周方向で角部13b側に向けて丸線31を角筒部13に巻回する態様Iと、の各態様を構成することが可能になる。
続けて、凸部27の角部13d側に隣接するように丸線31の始端部32j(始端部32)を位置させてコイルボビン10の外周部15の周方向で角部13d側に向けて丸線31を角筒部13に巻回する態様Jと、凸部27と凸部28の間に丸線31の始端部32k(始端部32)を位置させてコイルボビン10の外周部15の周方向で角部13d側に向けて丸線31を角筒部13に巻回する態様Kと、凸部28の角部13c側に隣接するように丸線31の始端部32l(始端部32)を位置させてコイルボビン10の外周部15の周方向で角部13d側に向けて丸線31を角筒部13に巻回する態様Lと、の各態様を構成することが可能になり、合わせて6構成することが可能になる。なお、図7(G)〜図7(L)においても、丸線31を角筒部13に多重に巻回することにより構成する1次コイルのうちの巻回層の1段目だけが図示されており、2段目以降については図示を省略していることに注意されたい。また、当該角筒部13には、平角線を多重に巻回することにより構成する2次コイルについても図示を省略していることに注意されたい。
このように本実施形態のコイルボビン10では、コイルボビン10の一端側において6態様(態様A〜F)、またコイルボビン10の他端側において6態様(態様G〜L)、の合計12態様の始端部32の引き出しパターンを構成することができる。
なお、上述した態様Bにおいて、凸部21と凸部22の間に始端部32bを位置させるのではなく、凸部21の角部13b側に隣接するように始端部32を位置させたり(態様B’)、凸部22の角部13a側に隣接するように始端部32を位置させたり(態様B”)、することによって、始端部32の引き出しパターンを増やすことが可能になる。同様に、上述した態様Eにおいて、凸部23と凸部24の間に始端部32eを位置させるのではなく、凸部23の角部13d側に隣接するように始端部32を位置させたり(態様E’)、凸部24の角部13c側に隣接するように始端部32を位置させたり(態様E”)、する。また、上述した態様Hにおいて、凸部25と凸部26の間に始端部32hを位置させるのではなく、凸部25の角部13a側に隣接するように始端部32を位置させたり(態様H’)、凸部26の角部13b側に隣接するように始端部32を位置させたり(態様H”)、する。さらに、態様Kにおいて、凸部27と凸部28の間に始端部32kを位置させるのではなく、凸部27の角部13c側に隣接するように始端部32を位置させたり(態様K’)、凸部28の角部13d側に隣接するように始端部32を位置させたり(態様K”)、する。これらによって、合計8態様(態様B’,B”,E’,E”,H’,H”,K’,K”)の始端部32の引き出しパターンを増やすことが可能になる。したがって、先の態様A〜Lの12態様と合わせると、20態様の始端部32の引き出しパターンを構成することができる。
上述したように本実施形態のコイルボビン10では、巻回径方向の外側に突出して丸線31の始端部32の引き出し位置を示し得る凸部21〜24を巻回軸方向の一端側に備え、また凸部25〜28を巻回軸方向の他端側に備える。これにより、コイルボビン10に巻回する丸線31の始端部32を凸部21〜24に対して、それぞれの凸部の一方側から引き出す場合と他方側から引き出す場合との8態様を構成し得る。また、隣り合う凸部と凸部との間から始端部32を引き出す場合の2態様を加えて、始端部32の引き出しパターンを合計10態様を構成し得る。また、巻回軸方向の他端側にも、同様に構成される凸部25〜28を備えるため、コイルボビン10に巻回する丸線31の始端部32を凸部25〜28に対して、それぞれの凸部の一方側から引き出す場合と他方側から引き出す場合との8態様を構成し得る。また、隣り合う凸部と凸部との間から始端部32を引き出す場合の2態様を加えて、始端部32の引き出しパターンを合計10態様を構成し得る。そのため、例えば、丸線31の線径の違いをこれら20態様により区別することが可能になる。したがって、形状を統一してもコイルの種類を一見して判別することができる。
次に、このように最大で20態様の始端部32の引き出しパターンを構成し得るコイルボビン10をスコットトランス50のM座コイルとT座コイルに用いた例を、図8および図9を参照して説明する。図8には、コイルボビン10を備えたスコットトランス50の構成例が図示されている。また、図9には、スコットトランス50の結線例を示す回路図が図示されている。
図8に示すように、スコットトランス50は、主に、コア51、M座コイル52、T座コイル53等により構成されている。スコットトランス50は、三相交流を2つの単相交流に変換可能に複数のコイル30a,30b,40a,40bがスコット結線された変圧器である。そのため、コア51には、M座の1次側のコイル(以下「M座1次コイル」という)30a、M座の2次側のコイル(以下「M座2次コイル」という)40a、T座の1次側のコイル(以下「T座1次コイル」という)30bおよびT座の2次側のコイル(以下「T座2次コイル」という)40bが巻回されている。M座は「主座」ともいう。
具体的には、例えば、図9に示すように、M座1次コイル30aは三相交流のU−W相間に接続されており、M座1次コイル30aの中点とV相の間にT座1次コイル30bが接続されている。
M座1次コイル30aは、前述したコイルボビン10に丸線31を巻回したものであり、M座2次コイル40aは、M座1次コイル30aの巻回層の上に平角線41を巻回したものである。これらをまとめてM座コイル52という。図8においては、M座1次コイル30aとM座2次コイル40aの境界を便宜的に二点鎖線により表していることに注意されたい。本実施形態では、M座コイル52は、フランジ部11を上方(図8に示す座標系のZ軸矢印先端方向)に向けたコイルボビン10に巻回されており、フランジ部11の凸部21に隣接した位置から、M座1次コイル30aの始端部32が上方に向けて引き出されている。このM座1次コイル30aの始端部32には、U相用の端子61が接続されている。また、M座1次コイル30aの終端部33には、W相用の端子63が接続されている。なお、このM座コイル52は、図6(C)に示すものに相当する。
また、T座1次コイル30bは、別のコイルボビン10に丸線31を巻回したものであり、T座2次コイル40bは、T座1次コイル30bの巻回層の上に平角線41を巻回したものである。これらをまとめてT座コイル53という。図8においては、T座1次コイル30bとT座2次コイル40bの境界を便宜的に二点鎖線により表していることに注意されたい。本実施形態では、T座コイル53は、フランジ部12を上方に向けたコイルボビン10に巻回されており、フランジ部12の凸部26に隣接した位置から、T座1次コイル30bの始端部32が上方に向けて引き出されている。このT座1次コイル30bの始端部32には、V相用の端子62が接続されている。なお、このT座コイル53は、図7(I)に示すものに相当する。
本実施形態では、例えば、図6(C)や図7(I)に相当する位置から始端部32が引き出されている場合には、M座1次コイル30aやT座1次コイル30bを巻回している丸線31の線径が2.5mmであることを明示する。これに対して、例えば、図6(A)や図7(G)に相当する位置から始端部32が引き出されている場合には、M座1次コイル30aやT座1次コイル30bを巻回している丸線31の線径が1.5mmであることを明示する。また、例えば、図6(B)や図7(H)に相当する位置から始端部32が引き出されている場合には、M座1次コイル30aやT座1次コイル30bを巻回している丸線31の線径が2mmであることを明示する。
コア51は、本実施形態では、漢字の「日」の字形状を有する鉄心部である。例えば、3本の角柱形状のレグ部51a,51b,51cを有するE型鉄心と、これらのレグ部51a〜51cの開放側端を閉じ得る角柱形状のI型鉄心と、を組み合わせることによりコア51を構成している。そのため、コア51は、「EIコア」と呼ばれることもある。コア51は、例えば、E字形状の電磁鋼板とI字形状の電磁鋼板とを数枚ごとにE字形状が逆向きになるように交互に向きを変えて積層されており、締結金具55等により積層方向に加圧されている。なお、コア51として、2つのE型鉄心を組み合わせるEEコアを用いてもよい。
即ち、コア51は、その上端部51dがボルトのねじ締結により加圧される長板状の締結金具55によって挟持されている。また、コア51の下端部51eは、ボルトとナットのねじ締結により加圧されるLアングル状の固定金具56によって挟持されている。これにより、コア51には積層方向に圧縮荷重が作用する。なお、本実施形態では、これらの締結金具55や固定金具56には、当該スコットトランス50を搭載する装置に取付固定する場合に用いられる図略のボルト用の取付穴や取付溝が形成されている。
このように構成されるコア51は、その3本のレグ部51a〜51cのうち、外側のレグ部11b,11cにM座コイル52とT座コイル53が取り付けられている。即ち、外側の一方に位置するレグ部11bがM座コイル52を巻回したコイルボビン10の空洞部20にフランジ部11が上方になるように(フランジ部12が下方(図8に示す座標系のZ軸矢印後端方向)になるように)挿通され、外側の他方に位置するレグ部11cがT座コイル53を巻回したコイルボビン10の空洞部20にフランジ部12が上方になるように(フランジ部11が下方になるように)挿通されている。本実施形態では、M座コイル52やT座コイル53は、絶縁ワニス等が塗布された絶縁紙58,59に覆われている。
図9に示すように、スコットトランス50の出力側、即ちM座2次コイル40aおよびT座2次コイル40bには、アプリケーションに応じた様々な回路が接続される。なお、同図に示す符号42は、M座2次コイル40aやT座2次コイル40bの始端部を示し、また符号43は、M座2次コイル40aやT座2次コイル40bの終端部を示す。これらの始端部42は図8にも表されているが、終端部43については、M座2次コイル40aおよびT座2次コイル40bに隠れているため、図8には表されていない。
以上説明したように本実施形態のスコットトランス50では、コイル巻回後の後工程において、例えば、線径の異なるコイルの種類を判別可能なラベルの貼付等の作業を行う別工程を必要とすることなく、コイルボビン10の共有化が可能になるので、製造工数の増加を抑制することが可能になる。したがって、製品コストを削減することができる。
なお、上述した実施形態では、フランジ11a,11bが形成されていない角筒部13の短辺に始端部32の引き出し位置を示し得る凸部21等をそれぞれ2個形成したが、上述した[条件1]〜[条件4]のすべてを満たす凸部であれば、角筒部13の短辺(または長辺)に形成可能な範囲で、3個以上設けてもよい。また凸部は1個でもよい。
また、上述した実施形態では、コイルボビンを角筒形状(角筒部13)に構成したが、コイル線材を巻回することが可能な筒体(筒形状)であれば、円筒形状や楕円筒形状または多角筒形状に構成してもよい。また、所定太さのコイル線材を巻回しても変形することない機械的な強度を確保可能であれば、筒体である必要はなく、例えば、角筒形状や多角筒形状の面部分を取り除いた辺部分からなる枠体(枠形状)でもよい。
さらに、上述した実施形態では、コイルボビン10に巻回されたコイルをスコットトランス50に用いた場合を例示して説明したが、コイル線材をコイルボビンに巻回した巻線部品であれば、例えば、単相交流変圧回路等に用いられるトランスや、チョッパ回路等に用いられるリアクトルでもよい。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、上述した具体例を様々に変形または変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。さらに、本明細書または図面に例示した技術は、複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つ。なお、[符号の説明]の欄における括弧内の記載は、上述した各実施形態で用いた用語と、特許請求の範囲に記載の用語との対応関係を明示し得るものである。