[本願発明の実施形態の説明]
本実施の形態に係る温度異常判定装置は、二次電池の温度が異常であるか否かを判定する温度異常判定装置であって、前記二次電池及び該二次電池の周囲空気の熱回路モデルに基づく熱抵抗値、並びに、前記二次電池の表面温度及び周囲の温度を用いて前記二次電池の第1の内部温度を推定する第1温度推定部と、前記二次電池の内部抵抗値に基づいて前記二次電池の第2の内部温度を推定する第2温度推定部と、前記第1の内部温度及び第2の内部温度を用いて前記二次電池の温度が異常であるか否かを判定する判定部とを備える。
本実施の形態に係る温度異常判定方法は、二次電池の温度が異常であるか否かを判定する温度異常判定方法であって、前記二次電池及び該二次電池の周囲空気の熱回路モデルに基づく熱抵抗値と、前記二次電池の表面温度及び周囲の温度とを用いて前記二次電池の第1の内部温度を推定し、前記二次電池の内部抵抗値に基づいて前記二次電池の第2の内部温度を推定し、前記第1の内部温度及び第2の内部温度を用いて前記二次電池の温度が異常であるか否かを判定する。
本実施の形態に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、二次電池の温度が異常であるか否かを判定させるコンピュータプログラムであって、前記二次電池及び該二次電池の周囲空気の熱回路モデルに基づく熱抵抗値と、前記二次電池の表面温度及び周囲の温度とを用いて前記二次電池の第1の内部温度を推定し、前記二次電池の内部抵抗値に基づいて前記二次電池の第2の内部温度を推定し、前記第1の内部温度及び第2の内部温度を用いて前記二次電池の温度が異常であるか否かを判定する処理を実行させる。
第1温度推定部は、二次電池の外へ向けて放熱される熱流の概念に基づき、表面温度と内部温度との間の温度差、及び表面温度と周囲温度との間の温度差が夫々、二次電池の熱抵抗値及び周辺空気の熱抵抗値から得られることから内部温度を逆算する。表面温度と内部温度との間の温度差は温度範囲によって不定であることから熱抵抗値を用いた逆算により精度が向上する。
第2温度推定部は、二次電池の発熱が、充放電時に内部における電気的抵抗によるジュール発熱を要因としていることから、内部抵抗値と内部温度とが相関を持つことに基づいて内部抵抗値から内部温度を推定する。内部抵抗値は、二次電池の電圧値及び電流値から算出可能である。
判定部は、第1温度推定部及び第2温度推定部により推定された内部温度を用いて異常であるか否かを判定する。内部温度は表面温度とは必ずしも挙動が一致しないことから表面温度から単純に導き出すことができず、更に二次電池の運用中に実測することが困難なところ、異なる手法により推定することが可能となった。1つの手法で内部温度を推定する場合には、その推定の過程に用いられる測定値の誤差等に推定結果が大きく影響される可能性があるが、異なる手法により推定された異なる内部温度を相互に比較する等の処理により、特定の誤差に影響されることのない判定が可能となる。異なる手法による推定温度の長所短所を相互に補うことも可能であり、異常の判定精度を向上することができる。
本実施の形態に係る温度異常判定装置では、前記判定部は、前記第1の内部温度と第2の内部温度との差分が所定の閾値以上である場合、判定を中断する。
異なる手法にて推定した第1の内部温度と第2の内部温度との間に乖離がある場合には、いずれか一方の推定精度が悪い可能性が高い。しかしながら、いずれの推定精度が良いかの優劣の判断が困難であるから、判定部は推定された内部温度を用いた異常か否かの判定を行なわない。したがって、誤って過剰に高温又は低温に推定された内部温度を用いて誤った判定を行なうなどの処理を回避することができる。
本実施の形態に係る温度異常判定装置では、前記判定部は、前記差分が前記所定の閾値よりも小さい第2の閾値以下であるか否かを判断し、該第2の閾値以下であると判断された場合、前記第1の内部温度及び第2の内部温度の内の最大値が所定範囲内であるか否かを判断し、所定範囲外であると判断された場合、前記二次電池の温度が異常であると判定する。
異なる手法にて推定した第1の内部温度と第2の内部温度との間の差分が微小と判断できるような場合には、それらの内部温度の推定精度が高いことが推測できる。従って判定部は、推定された内部温度を用いて温度が異常か否かの判定を行なう。しかも第1の内部温度と第2の内部温度の内の最大値にて温度が異常(高温)であるか否かを判定することにより、安全側で異常を判定し、二次電池が推奨される温度範囲外となることをより確実に回避することが可能になる。
本実施の形態に係る温度異常判定装置では、前記二次電池の表面温度を取得する表面温度取得部を更に備え、前記判定部は、前記第1の内部温度及び第2の内部温度の内の少なくとも一方が、前記表面温度取得部により取得される表面温度よりも低い場合、判定を中断する。
表面温度取得部は、二次電池の表面温度を取得する。二次電池が複数のセルから構成される場合、複数のセル夫々、又は適切な1又は数箇所にて測定される温度を取得するとよい。
推定された異なる内部温度のいずれかが表面温度よりも低い場合、内部温度の推定精度は低いことが推測されるから、判定部は、推定された内部温度を用いた異常か否かの判定を行なわない。内部温度は表面温度とは必ずしも挙動が一致しないが、例えば放電中であって且つ充放電の切替直後などの限られた期間以外は、表面温度よりも高いことが多いから、推定された内部温度が表面温度よりも低い場合にはこの推定精度が低いことが推測できる。
本実施の形態に係る温度異常判定装置では、前記判定部は、第1の内部温度と第2の内部温度との差分が所定の閾値未満であり、且つ、第1の内部温度及び第2の内部温度の内の最小値が前記表面温度以上である場合、第1の内部温度及び第2の内部温度の内の最大値が所定範囲内であるか否かを判断し、所定範囲外であると判断された場合、前記二次電池の温度が異常であると判定する。
異なる手法にて推定した第1の内部温度と第2の内部温度との間の差分が微小と判断できるような場合には、それらの内部温度の推定精度が高いことが推測できる。したがって判定部は推定された内部温度を用いて温度が異常か否かの判定を行なう。更に、限られた期間以外は、内部温度は表面温度よりも高いことが多いから、推定された内部温度が表面温度よりも高いか否かでその推定精度を確かめてから判定を行なう。これにより、誤った推定温度による判定を回避し、判定精度を高めることが可能である。
本実施の形態に係る温度異常判定装置では、前記二次電池の電圧を取得する電圧取得部と、前記二次電池の電流を取得する電流取得部と、前記二次電池のインピーダンススペクトルにおける所定のイオンの拡散過程に起因する拡散インピーダンスが前記二次電池のインピーダンスに寄与する境界周波数域に基づく待機時間を特定する特定部と、前記二次電池の充放電の切り替えタイミングにて、前記電圧取得部及び前記電流取得部で夫々取得される電圧値及び電流値と、前記タイミングから前記待機時間後に取得される電圧値及び電流値とを用いて内部抵抗値を算出する内部抵抗算出部と、前記二次電池の内部抵抗値と温度との対応を予め記憶した記憶部とを更に備え、前記第2温度推定部は、前記内部抵抗算出部が算出した内部抵抗値に対応する温度を前記記憶部から参照し、該温度を第2の内部温度と推定する。
内部抵抗算出部は、充放電の切替前に測定された電圧値及び電流値と、待機時間後に測定される電圧値及び電流値とを用いて内部抵抗を推定する。二次電池の充放電の切替が頻繁に繰り返されるような場合であっても、その切替後のイオンの拡散過程に起因する拡散インピーダンスに影響されないインピーダンスから内部抵抗値を精度よく推定することが可能である。
記憶部は、内部抵抗値と温度との対応を予め記憶しておく。例えば使用される二次電池について実測された内部抵抗値と内部温度との対応を記憶しておくとよい。二次電池個別の特性に見合った対応関係であれば推定される内部温度の精度を高めることが可能である。
第2内部温度推定部は、精度よく推定された内部抵抗値に対応する温度を、記憶部から参照して第2の内部温度として推定する。第2内部温度推定部は、二次電池個別の特性に即して対応する温度から精度よく内部温度を推定することが可能である。
本実施の形態に係る温度異常判定装置では、前記二次電池の充電率を取得する充電率取得部を更に備え、前記記憶部は、前記二次電池の内部抵抗値と温度との対応を異なる充電率別に予め記憶しておき、前記第2温度推定部は、前記内部抵抗算出部が算出した内部抵抗値を用い、前記充電率取得部が取得した充電率における内部抵抗値に対応する温度を前記記憶部から参照する。
充電率取得部は、算出される内部抵抗値を元に充電率を算出してもよいし、他の測定部又は算出部から充電率を取得するようにしてもよい。
記憶部は充電率別に、二次電池の内部抵抗値と温度との対応を記憶する。充電率によって内部抵抗値と温度との対応関係が異なるから、取得された充電率に応じた対応関係から温度を参照することで、第2内部温度推定部による第2の内部温度の推定精度を向上させることができる。
[本願発明の実施形態の詳細]
以下、本願発明に係る温度異常判定装置について、実施の形態を示す図面に基づいて説明する。以下の実施の形態では、二次電池を搭載した車輌内に配設され、本願発明に係る温度異常判定装置としてのみならず、二次電池に係る種々の測定値を取得してSOC又はSOHに係る情報を処理する装置として機能する電池監視装置を例に説明する。
図1は、車載二次電池及び電池監視装置100を含む車輌電源システムの構成を示す模式図である。車輌電源システムは、電池監視装置100の他に、二次電池ユニット50、リレー61,63、発電機(ALT)62、スタータモータ(ST)64、電池65、電気負荷66を含む。
二次電池ユニット50は、例えばリチウムイオン電池を用い、複数のセル51を直列又は直並列に接続して筐体内に収容してある。筐体にはセル51を冷却するための冷却機構56が備えられている。冷却機構56は例えば筐体に設けられている空冷ファンと、空冷ファンの設置箇所からできるだけ遠い箇所に設けられる排気口とを含む。冷却機構56は電池監視装置100からの制御信号に基づき異なる印加電圧に応じて単位時間あたりに異なる回転数で筐体内の空気を送風させる。なお冷却機構56は空冷ファンに限られない。
更に二次電池ユニット50は筐体内に、電圧センサ52、電流センサ53、第1温度センサ54、及び第2温度センサ55を備える。
電圧センサ52は、各セル51の電圧及び二次電池ユニット50の両端間の電圧を検出し検出した電圧を、電圧検出線50aを介して電池監視装置100へ出力する。電流センサ53は、例えばシャント抵抗又はホールセンサ等で構成され、二次電池の充電電流及び放電電流を検出する。電流センサ53は検出した電流を、電流検出線50bを介して電池監視装置100へ出力する。
第1温度センサ54は例えばサーミスタで構成され、複数のセル51の内のいずれか1箇所又は複数箇所における表面温度を検出する。第1温度センサ54はセル51夫々に1つずつ設けられていてもよい。第1温度センサ54は検出した表面温度を、第1温度検出線50cを介して電池監視装置100へ出力する。複数のセル51の表面温度を各検出する場合には、複数の温度検出線50cから夫々温度を出力する。第2温度センサ55は例えばサーミスタで構成され、筐体内の気温即ちセル51の周囲温度を検出する。第2温度センサ55は検出した周囲温度を、第2温度検出線50dを介して電池監視装置100へ出力する。なお第2温度センサ55も筐体内の複数箇所に設けられていてもよい。
電池65は例えば鉛電池であり、車輌に搭載された各種電気負荷66への電力供給を行なうと共に、リレー63がオンである場合にはスタータモータ64を駆動するための電力供給を行なう。発電機62は、車輌のエンジンの回転により発電し、内部に設けられた整流回路により直流を出力して電池65を充電する。また発電機62は、リレー61がオンである場合に、電池65及び二次電池ユニット50を充電する。なおリレー61,63のオン及びオフの制御は図示しないリレー制御部により行なわれる。
図2は、本実施の形態における電池監視装置100の構成の一例を示すブロック図である。なお図2では、電池監視装置100にて実行される機能の内、電池の温度異常判定装置としての機能に関する構成について示し、他の構成については図示及び詳細な説明を省略する。電池監視装置100は、制御部10、記憶部11、タイマ12、電圧取得部13、電流取得部14、表面温度取得部15、周囲温度取得部16、第1内部温度推定部17、待機時間特定部18、内部抵抗算出部19、第2内部温度推定部20、温度異常判定部21、開放電圧算出部22、充電状態(SOC)算出部23、健康状態(SOH)算出部24、及び出力部25を備える。なお電圧取得部13〜健康状態算出部24(特に第1内部温度推定部17、第2内部温度推定部20〜健康状態算出部24)の処理は、制御部10によってソフトウェアにより実行される。これらの処理は、各々集積回路化されて実行されてもよく、又は一部を集積回路化して実行させ、残りの一部を制御部10のソフトウェアに基づく処理によって実行させるように混在させてもよい。
制御部10は、1又は複数のプロセッサとメモリとを用い、各構成部を制御する処理を実行し、温度異常判定装置としての機能を発揮させる。記憶部11はフラッシュメモリ等の不揮発性メモリを用いて制御部10が参照するデータ等を記憶する。タイマ12は、所定の周波数でパルス信号を出力しており、制御部10はタイマ12から出力される信号のパルスを計数することで計時が可能である。制御部10は例えば10ミリ秒等の一定のサンプリング周期で以下に説明する各構成部による処理を順次実行し、温度の異常の判定、充電状態及び健康状態の算出を行なう。なおこのサンプリング周期は、制御部10が制御することができる。
電圧取得部13は二次電池ユニット50の電圧(例えば二次電池ユニット50の両端電圧)の電圧値Vを、電圧検出線50aを介して取得する。電流取得部14は、二次電池ユニット50の電流(充電電流又は放電電流)の電流値Iを、電流検出線50bを介して取得する。
表面温度取得部15は、二次電池ユニット50のセル51の表面温度の値を、第1温度検出線50cを介して取得する。周囲温度取得部16は、二次電池ユニット50の筐体内部の温度、即ちセル51の周囲温度の値を、第2温度検出線50dを介して取得する。
第1内部温度推定部17は、表面温度取得部15により表面温度の値Tsを取得し、周囲温度取得部16により周囲温度の値Taを取得する都度、これらの2つの測定値を用いて二次電池ユニット50の内部温度Tinaを推定算出する。具体的には第1内部温度推定部17は、2つの測定値Ts,Taと、予め求めて記憶部11に記憶してあるセル51及び周囲空気夫々の熱抵抗の値とを用いて求められる発熱量から内部温度Tinaを推定算出する。なお周囲空気の熱抵抗の値は、冷却機構56の動作状態によって異なる。したがって第1内部温度推定部17は冷却機構56への制御信号、又は冷却機構56から状態信号を取得して内部温度Tinaを算出する際の熱抵抗の値を記憶部11から適切に選択して用いる。第1内部温度推定部17による処理の詳細については後述する。
待機時間特定部18は、内部抵抗算出部19にて内部抵抗値Rを算出するための待機時間Tを特定する。待機時間Tは、セル51のインピーダンス特性(図6参照)を鑑みた場合に、セル51全体としてのインピーダンスが、セル51におけるイオンの拡散インピーダンスの影響を無視することができる程度となるまでの、充放電の切り替え時点からの経過時間である。待機時間Tは、電池夫々の特性及び充電率(SOC)によって変化するから、後述の図7に示すように予め二次電池ユニット50毎に、充電率に対応付けて記憶部11に記憶させておく。待機時間特定部18は、直近に充電状態算出部23で算出された充電率に対応する待機時間Tを読み出して使用する。
内部抵抗算出部19は、電流取得部14にて検出した電流の極性に基づき制御部10がリレー61にて充放電の切り替えが有ったと判定したタイミングで内部抵抗Rを算出する。内部抵抗算出部19は、切替有りと判定された場合に、その直前に電圧取得部13で取得した電圧値Vを切替時の電圧値Vbとし、電流取得部12にて取得した電流値Iを切替時の電流値Ibとして夫々メモリに記憶しておく。内部抵抗算出部19は更に、切替があったと判定されてから待機時間特定部18にて特定された待機時間T後に電圧取得部11で取得した電圧値Vを待機時間T後の電圧値Vcとして記憶し、同様に待機時間T後に電流取得部12で取得した電流値Iを待機時間T後の電流値Icとして夫々メモリに記憶する。内部抵抗算出部19は、各々メモリに記憶した電圧値Vb,Vc、電流値Ib,Icを用いて二次電池ユニット50の内部抵抗値Rを算出する。
第2内部温度推定部20は、記憶してある直近の充電率と、内部抵抗算出部19で算出した内部抵抗値Rを用い、充電率別に記憶部11に予め記憶してある内部抵抗値と内部温度との対応関係を示すテーブルを参照し(図8参照)、内部温度Tinbを推定する。第2内部温度推定部20における処理の詳細については後述する。
温度異常判定部21は、第1内部温度推定部17で推定算出した内部温度Tinaと、第2内部温度推定部20にて推定した内部温度Tinbと、必要に応じて表面温度取得部15で取得した表面温度Tsとを用いて、二次電池ユニット50の内部温度の異常(過剰に高温)を判定する。異常を判定した場合には制御部10へ通知し、これにより制御部10は種々の処理を実行する。温度異常判定部21による処理についても詳細を後述する。
開放電圧算出部22は、内部抵抗算出部19で算出した内部抵抗の抵抗値R、電圧取得部11で取得した電圧値V、及び電流取得部14で取得した電流値Iに基づいて、二次電池ユニット50の開放電圧を算出する。二次電池の開放電圧をOCV(Open Circuit Voltage)で表すと、OCV=V−Voで算出することができる。ここでVoは過電圧であり、内部抵抗の抵抗値R×電流値Iで表される電圧に分極電圧を加えた電圧値である。
充電状態算出部23は、開放電圧算出部22で算出した開放電圧OCVに基づいて二次電池ユニット50の充電率を算出する。例えば二次電池ユニット50の開放電圧OCVと充電率との相関関係を予め定めておくことにより、算出した開放電圧OCVに基づいて二次電池ユニット50の充電率の推定値を算出することができる。また充電状態算出部23は、電流取得部14で取得した電流値Iを積算して二次電池ユニット50の充電量(満充電容量に対する充電されている容量の比率、即ち充電率)を算出してもよい。電流積算は、電流を時間で積分したものであり、例えば電流取得のサンプリング周期をΔtとした場合、サンプリングの都度取得される電流値をIbi(i=1,2,…)とした場合、電流積算はΣIbi×Δt(i=1,2,…)で算出される。なお直近に求めた充電率を変数SOCinとして、第1充電量をSOC1とすると、第1充電量SOC1は、SOC1=SOCin±{ΣIbi×Δt(i=1,2,…)/満充電容量FCC}という式で算出することはできる。なお±について+(プラス)は充電時、−(マイナス)は放電時に対応する。
健康状態算出部24は、二次電池ユニット50の内部抵抗について内部抵抗算出部19にて算出した抵抗値Rの初期値R0に対する割合に基づいて二次電池の健康状態(SOH)を算出する。
出力部25は、各構成部で算出又は推定した値を電池監視装置100外へ出力するインタフェースである。例えば出力部25は、車内ネットワークと接続されている通信インタフェースである。また出力部25は、計器パネル又はOHD(Over Head Display )等の運転者向けの表示部と接続されるインタフェースであってもよい。
制御部10は、各構成部を制御して算出した二次電池ユニット50の充電率SOC、健康状態SOH、又は温度異常判定部21による判定結果を用いて、電池管理に関する処理を行なう。制御部10は、充電率SOCが所定値以下である場合に、計器パネルに接続された出力部25から、算出された充電率を警告灯にて示すなど処理を行なう。また健康状態SOHが所定の度合以下である場合、温度異常判定部21による判定結果が異常である場合にも警告灯にて警告を発するなどの処理を行なう。そして制御部10は、二次電池ユニット50を所定の温度範囲内で使用するために、充放電中に温度異常判定部21により異常が判定された場合、リレー61を遮断するなどして二次電池ユニット50を保護する。また制御部10は、充電率SOC、健康状態SOH又は温度異常判定部21による判定結果を通信部である出力部25から車内の他装置へ送信するようにしてもよい。車内の他装置から更に車外装置へ送信されるようにしてもよい。これらの外部装置では、電池監視装置100から送信された充電率SOC、健康状態SOH又は温度異常判定部21による判定結果に基づいて処理を行なう。
電池監視装置100による内部温度の異常判定処理に関しまず、温度異常判定部21が判定に用いる内部温度Tina,Tinbの推定方法について夫々詳細に説明する。
第1に、第1内部温度推定部17による内部温度Tinaの推定方法について説明する。上述したように第1内部温度推定部17は、二次電池ユニット50のセル51の表面温度の値Ts、セル51の周囲温度の値Taの2つの測定値と、予め求めてあるセル51及び周囲空気夫々の熱抵抗の値とを用いて求められる発熱量から内部温度Tinaを算出する。ここで注目すべきは、熱抵抗の値を用いている点である。熱抵抗は、二次電池ユニット50における熱発生の要因として、印加される電圧及び電流に対する内部抵抗によるジュール熱のみならず、化学反応を起因とするエントロピー発熱をも加味してその挙動を表わすことができる。
図3は、本実施の形態における二次電池ユニット50への熱回路モデル適用例を模式的に示す熱回路図である。熱回路は、所定の熱源(接地)に二次電池ユニット50の熱容量Cinを介して接続された端子に、熱量Qallが与えられていると表される。そして二次電池ユニット50に与えられる熱量Qallは、二次電池ユニット50自体の熱容量Cinに蓄えられると共に、一部(Qout)が熱抵抗Rinを介して表面に伝達し、更に周辺の空気の熱抵抗Raを介して放熱され、更に外側の筐体等を介して所定の熱源(接地)に伝わると表される。
なお二次電池ユニット50の発熱量Qallは、ジュール熱による発熱量Qp(式1)及びエントロピー発熱による発熱量Qs(式2)の和で表される(式3)。ここでiは、電流を示し、Vbは両端の電圧値、Vocvは開放電圧値、Rは内部抵抗(電気抵抗)である。
そして二次電池ユニット50の内部熱抵抗Rinは式4、熱容量Cinは式5により求めることができる。このようにして熱回路モデルを適用することで内部温度Tinaを推定することが可能である。なお式5においてτは二次電池ユニット50の熱時定数である。
なお本実施の形態における第1内部温度推定部17は、図3の熱回路において、放熱される熱量Qoutが、熱抵抗Rin及び熱抵抗Raのいずれにも流れる熱流であると考えて内部温度Tinaを推定算出する。具体的には、以下の式6,7のように熱流Qoutと熱抵抗Rin及び熱抵抗Ra、内部温度Tina、表面温度Ts及び周囲温度Taとの関係に熱回路におけるオームの法則を適用して表し、式6及び式7から熱流Qoutを消去するようにして導き出される式8を求めておく。第1内部温度推定部17は、式8に表面温度取得部15及び周囲温度取得部16にて夫々取得した温度Ts及び温度Taを適用して内部温度Tinaを推定算出する。
なお式8における二次電池ユニット50の内部熱抵抗Rinの値は、事前に計測により求めておく。周囲空気の熱抵抗Raの値は、周囲空気の冷却条件によって異なる値である。冷却機構56に空冷ファンを用いる場合、熱抵抗値Raは、無風時の空気熱抵抗Ra(0)及び風速により求められる。無風時の空気熱抵抗値Ra(0)は、二次電池ユニット50の表面積が大きいほど小さくなる値である。風速は、二次電池ユニット50の筐体内のスペースにより異なり、更に空冷ファンの印加電圧により変化するので、パッケージ化された二次電池ユニット50毎に異なる。したがって、パッケージの種別に予め、空冷ファンへの印加電圧と熱抵抗値Raとの間の関係値を計測しておき、使用する二次電池ユニット50に対応する計測データ、又は計測データから近似により特定される関数情報を記憶部11に記憶しておく。図4は、印加電圧と空気熱抵抗値との間の関係の一例を示すグラフである。図4の横軸は印加電圧をボルト単位で示し、縦軸は印加電圧に対応する周囲空気の熱抵抗値Raを[K/W]の単位で示している。図4のグラフ上における異なる印加電圧に対する熱抵抗値Raをテーブル化して記憶部11に記憶しておくか、又は印加電圧を変数とする近似関数の情報を記憶部11に記憶しておくことにより、任意の印加電圧時の周囲空気の熱抵抗値Raを求めて使用することができる。
第2に、第2内部温度推定部20による内部温度Tinbの推定方法について説明する。上述したように第2内部温度推定部20は、二次電池ユニット50の内部抵抗値Rを用いてセル51の内部温度Tinbを推定する。
図5は、二次電池ユニット50の等価回路の一例を示す説明図である。二次電池ユニット50は図5に示すように、二次電池ユニット50のインピーダンスは、界面電荷移動抵抗Rcと拡散インピーダンスZwとの直列回路に電気二重層キャパシタンスCを並列接続した回路に、更に電解液バルクの抵抗Rsを直列に接続した回路で等価的に表すことができる。電解液バルクの抵抗Rsは、電解液中でのリチウムイオンの電動抵抗、正極及び負極での電子抵抗などを含む。界面電荷移動抵抗Rcは、活物質表面における電荷移動抵抗及び被膜抵抗などを含む。拡散インピーダンスZwは、活物質粒子内部へのリチウムイオンの拡散過程に起因するインピーダンスである。
図6は、二次電池ユニット50のインピーダンス特性を示す模式図である。図6の横軸はインピーダンスZの実数成分Zrを示し、縦軸はインピーダンスZの虚数成分Ziを示し、インピーダンススペクトル(コールコールプロット又はナイキプロット)を表わしている。二次電池ユニット50のインピーダンスは、その角周波数(周波数f)が無限大から0(ゼロ)に向かって減少する場合に、図6中のある周波数域f1(境界周波数域という)で極値をとり、その後増加する。この増加は拡散インピーダンスZwが寄与すると知られている。つまり境界周波数域では、拡散インピーダンスZwの影響は無視することができる程度である。ここで二次電池ユニット50の内部抵抗は、電解液バルクの抵抗Rs及び界面電荷移動抵抗Rcが主要部分を占める。したがって境界周波数域におけるインピーダンスZを内部抵抗値Rとして推定する。なおインピーダンスZの測定は、交流インピーダンス法で求める。また、ここでいう境界周波数域に相当する時間が、待機時間特定部18が特定する充放電の切り替え(周波数変化)後の待機時間Tである。
図7は、境界周波数域に対応する待機時間Tの内容例を示す説明図である。充電率が低い程に二次電池ユニット50のインピーダンスが大きくなって(図6における右方向へシフトする)境界周波数域が小さくなり、即ち、図7に示すように待機時間Tが長くなる。そして待機時間Tは、二次電池の温度にも依存する。つまり図7に示すような対応関係は温度別に存在する。そこでこれらの待機時間Tの具体的数値は、二次電池ユニット50毎に異なるので記憶部11には、監視対象の二次電池ユニット50に応じて充電率の範囲及び温度範囲別に待機時間Tを記憶しておく。待機時間特定部18は直前に求めてある充電率及び内部温度に基づいてこれを参照して待機時間Tを特定するとよい。なお図7に示したような具体的な数値を記憶部11に記憶しておくことに限定されない。例えば充電率が50%、温度が25℃である場合の待機時間T0と、待機時間Tの充電率に対する推移に対応する充電率係数K0及び温度係数K1とを二次電池ユニット50毎に記憶しておく。そして待機時間特定部18はT0に係数K0を乗じ、温度に対する係数K1を乗じて加算する等演算により待機時間T(=K0×SOC×T0+K1×Tin×T0)と特定するようにしてもよい。
このようにして内部抵抗算出部19は、充電率及び温度に応じた待機時間T後の電流値Ic及び電圧値Vbを式9に当てはめて内部抵抗値Rを算出することができる。
なお内部抵抗値Rの算出の詳細な方法及びその根拠については、特願2016-001983 に開示された事項を援用する。
図8は、内部抵抗値Rと内部温度との対応関係を示すグラフである。図8の横軸は電池温度を摂氏単位で示し、図8の縦軸は内部抵抗値Rの高低を示している。内部抵抗値Rの具体的数値は、セル51の仕様によって異なるため図示を省略している。図8で示される対応関係は、二次電池ユニット50のセル51を恒温槽内に格納し、恒温槽を異なる温度に設定した際に実測した内部抵抗値Rから得られる。なお内部抵抗値Rは上述したように、充電率によってインピーダンス特性が異なるから、異なる温度毎のみならず充電率毎にも内部抵抗値Rを計測する。図8に示されているグラフは、例えば充電率が50%〜60%のときの内部抵抗値Rと電池温度との対応関係を示している。
記憶部11には、充電率について所定の幅(例えば10%)を持たせた範囲毎に、図8に示したような内部抵抗値Rと電池温度とをテーブル化した対応関係が予め記憶されている。具体的には、10%〜20%における異なる内部抵抗値R(例えば数ミリオーム単位等)に対して夫々対応する電池温度、20%〜30%における異なる内部抵抗値Rに対して夫々対応する電池温度、30%〜40%における異なる内部抵抗値Rに対して夫々対応する電池温度、…等のように記憶されている。なお内部抵抗値Rと電池温度との対応関係はテーブル化されている態様のみならず、内部抵抗値Rを変数とする近似関数の情報を充電率毎に記憶部11に記憶しておくことにより、任意の内部抵抗値Rから対応する内部温度を参照するようにしてもよい。
第2内部温度推定部20は、直近に算出された充電率を用いて記憶部11から、対応する充電率範囲の図8に示したような対応関係を参照し、算出された内部抵抗値Rに対応する電池温度を読み出す。第2内部温度推定部20は、読み出した電池温度を内部温度Tinbとして推定する。
図9は、第2内部温度推定部20により推定された内部温度Tinbの推移を示すグラフである。なお図9Aは、二次電池ユニット50に対して内部抵抗算出部19により算出された内部抵抗値Rの時間変化を示し、図9Bは図9Aに示す内部抵抗値Rに対して算出された内部温度Tinbと測定された表面温度Tsとの夫々時間経過を示している。なお図9A及び図9Bはいずれも横軸は、セル51へ電流を流し始めてからの時間経過を示している。図9Aの縦軸は内部抵抗値RをΩ単位で示し、図9Bの縦軸はセル51の温度を摂氏単位で示している。図9Bに示すように、セル51が高温となるに向けて表面温度Tsと推定された内部温度Tinbとの間の差分が拡がっている。なお表面温度Ts又は内部温度Tinbのいずれか、または両方がこの後、所定の温度に収束していく。したがって、表面温度Tsに所定の係数を乗算するか、又は所定の定数を加算してこれを電池内部の温度として推定する方法では、真の内部温度を正しく推定することは困難である。
第1内部温度推定部17及び第2内部温度推定部20により、単純に表面温度Tsに所定の係数を乗ずるなどするのではなく、夫々熱回路及び等価電気回路を元にした異なる手法にて精度良く内部温度を推定することができる。本実施の形態における電池監視装置100では更に温度異常判定部21が、このようにして異なる手法にて推定した内部温度Tina,Tinbを用いて、両方又はいずれか一方を所定の閾値と比較するなどの演算により、電池内部の温度が異常(高温)であるか否かを判定する。
電池監視装置100の各構成部による処理手順をまとめると以下のようになる。図10は、電池監視装置100による処理手順の一例を示すフローチャートである。制御部10は以下のフローチャートに示す処理手順を所定の周期で繰り返し実行する。
電圧取得部13により電圧値Vを取得し、電流取得部14により電流値Iを取得する(ステップS1)。
次に表面温度取得部15により表面温度Tsを取得し、周囲温度取得部16により周囲温度Taを取得する(ステップS2)。取得された表面温度Ts、周囲温度Taは制御部10により内部メモリに記憶される。次に制御部10は冷却機構56における冷却条件(本実施の形態では、空冷ファンへの印加電圧)を取得する(ステップS3)。内部温度算出部17はステップS3で取得された印加電圧に対応する周囲空気の熱抵抗値Raを、記憶部11から参照して算出する(ステップS4)。内部温度算出部17は更に、取得した温度Ts,Ta、算出した熱抵抗値Raと、記憶部11に記憶してある二次電池ユニット50の固有の内部熱抵抗値Rinを式8に適用して内部温度Tinaを算出する(ステップS5)。
次に内部抵抗算出部19は、充放電の切り替えが有ったか否かを判断する(ステップS6)。ステップS6で切り替えがあったと判断された場合(S6:YES)、内部抵抗算出部19は、ステップS1で取得した電圧値V及び電流値Iを夫々、切替時の電圧値Vb及び電流値Ibとして制御部10の内部メモリに記憶する(ステップS7)。そして待機時間特定部18により、直近に算出された充電率SOC及び内部温度(Tina又はTinbに基づく値)を参照し(ステップS8)、充電率及び内部温度に対応する待機時間Tを特定し、その時間分待機する(ステップS9)。
そして内部抵抗算出部19は、待機時間T経過後に、再度内部抵抗値Rを算出するための電圧値V及び電流値Iを夫々電圧取得部13及び電流取得部14により取得し、各々を待機時間T後の電圧値Vc及び電流値Icとして制御部10の内部メモリに記憶する(ステップS10)。内部抵抗算出部19は、ステップS7で記憶しておいた切替時の電圧値Vb及び電流値Ibと、ステップS10で記憶した待機時間T後の電圧値Vc及び電流値Icとを用いて内部抵抗値Rを算出する(ステップS11)。
次に第2内部温度推定部20により、ステップS8で参照した充電率における内部抵抗値Rと電池の内部温度の対応関係を記憶部11から参照し(ステップS12)、ステップS11で算出された内部抵抗値Rに対応する温度を内部温度Tinbとする(ステップS13)。
そして充電状態(SOC)算出部23はステップS11で算出された内部抵抗値Rを基に開放電圧算出部22により算出された開放電圧OCVを用いて充電率SOCを算出し、同様にして健康状態(SOH)算出部24は内部抵抗値Rから健康状態SOHを算出して記憶する(ステップS14)。
そして温度異常判定部21は、ステップS5及びステップS13にて推定された内部温度Tina及び内部温度Tinbを用いて温度異常判定処理を実行し(ステップS15)、一回の処理を終了する。
ステップS6にて切り替えが無かったと判断された場合(S6:NO)、その後の内部抵抗値Rを算出する工程(S7〜S11)、算出された内部抵抗値Rを用いる工程(S12〜14)を行なうことなしに、制御部10はステップS15へ処理を進める。この場合、ステップS15では、ステップS5にて算出した内部温度Tinaのみ、又は直近に推定された内部温度Tinbを用いて判定する。なおステップS6にて切り替えが無かったと判断された場合(S6:NO)、ステップS15の温度異常判定の処理も省略するようにしてもよい。
次に、図10のフローチャートにおけるステップS15の温度異常判定処理について詳細を説明する。温度異常判定部21による判定方法は種々の方法が考え得るが、本実施の形態では第1内部温度推定部17により推定算出された内部温度Tinaと、第2内部温度推定部20により推定された内部温度Tinbとの2つの異なる手法により推定された値を用いて判定する。
図11は、温度異常判定処理の処理手順の一例を示すフローチャートである。温度異常判定部21は、内部温度Tina,Tinbに対してその差分が所定の閾値th1以下であるという条件(式10)を満たすか否かを判断する(ステップS501)。式10を満たすと判断された場合(S501:YES)、温度異常判定部21は、内部温度Tina,Tinbがいずれも表面温度よりも高いという条件(式11)を満たすか否かを判断する(ステップS502)。なおステップS501及びステップS502の判断は、推定された内部温度の値Tina,Tinbの推定の確からしさを確かめるための処理である。
|Tina−Tinb|≦th1 …(10)
Min(Tina,Tinb)>Ts …(11)
式10における閾値th1は、例えば3℃等と予め記憶部11に記憶してある値である。閾値th1は具体的には、図9Bのように予め表面温度Tsと内部温度Tina及び内部温度Tinbの一方との差異を測定しておき、その差異の最大値を用いるなどが考えられる。上述した異なる手法により得られる内部温度の推定値は、使用範囲内の温度領域では表面温度との差異程には乖離しないことが経験的に判っていることから、表面温度との差分を基準としたものである。したがって、閾値th1の値はこれに限られない。その他、化学的又は物理的な根拠に基づいて閾値th1を設定するようにしてもよい。
そして温度異常判定部21は、内部温度Tina及び内部温度Tinbが式10及び式11を満たすと判断された場合(S501:YES、且つS502:YES)、いずれか大きい方の値が、閾値th2以上であるという条件(式12)を満たすか否かを判断する(ステップS503)。なおステップS503では、閾値th2との比較に限らず、セル51の短寿命化を回避すべく仕様等にて示されている使用範囲外であるか否かを判断できればよい。
Max(Tina,Tinb)≧th2 …(12)
温度の異常判定に係る閾値th2は、電池ユニット50(セル51)の使用範囲の上限(例えば60℃)に対応する値である。温度異常判定部21は、内部温度Tina及び内部温度Tinbの内の大きい値を異常判定の閾値th2と比較することにより、安全側で判断して真の内部温度が電池の使用範囲を超過しているにも拘わらず温度を異常でないと判定することを回避する。
ステップS503にて閾値th2以上であると判断された場合(S503:YES)、温度異常判定部21は、電池内部の温度が異常であると判断し(ステップS504)、処理を終了する。
ステップS501、ステップS502のいずれか一方において、条件が満たされないと判断された場合(S501:NO、又はS502:NO)、温度異常判定部21は表面温度Tsを基準として、表面温度Tsが使用範囲外(例えば閾値th3以上)であるか否かを判断する(ステップS505)。なおステップS505において温度異常判定部21は、内部温度は表面温度Tsよりも高いから表面温度Tsに所定の係数を乗算するか、所定の定数を加算するかなどのゆとりを持たせて使用範囲外にあるか否かを判断するようにしてもよい。ステップS505にて使用範囲外であると判断された場合(S505:YES)、温度異常判定部21は処理をステップS504へ進める。
ステップS503にて閾値th2未満であると判断された場合(S503:NO)、及びステップS505にて使用範囲内にあると判断された場合(S505:NO)、温度異常判定部21は、電池内部の温度は異常でないためそのまま処理を終了する。
図11のフローチャートに示した処理手順の内、ステップS505は省略し、ステップS501〜S503の判断にて全て条件を満たすと判断される場合に温度異常判定部21が異常であると判断するのみとしてもよい。
このようにして、異なる手法で推定した2つの内部温度Tina,Tinbをその値自体から判断できる値の確からしさを元に、例えば、著しく高温側に誤って推定された内部温度Tina,Tinbによる誤判定を回避することが可能である。例えば第1内部温度推定部17が推定した内部温度Tinaのみで判定する場合、これを導き出すために用いる冷却機構56への印加電圧の測定誤差等が内部温度Tinaの値に影響するところ、第2内部温度Tinbとの差分が小さい場合には、測定誤差は小さく推定値は確からしいとの推測が可能である。また第2内部温度推定部20が推定した内部温度Tinbのみで判定する場合、例えば温度範囲によっては電圧値V及び電流値Iの測定誤差が影響するところ、内部温度Tinaとの差分が小さい場合には、その測定誤差は小さく推定値は確からしいとの推測が可能である。このように異なる手法による推定温度の長所短所を相互に補うことも可能であり、異常の判定精度を向上することができる。
(変形例1)
図11のフローチャートで示した処理手順では、内部温度Tina,Tinbの推定の確からしさについて式10にて差分を閾値th1と比較し、更に式11にて表面温度Tsとの乖離の有無を判断した。変形例1では、前記差分に対して2つの閾値th4,th5との比較を用いる。図12は、温度異常判定処理の処理手順の他の一例を示すフローチャートである。
温度異常判定部21は、内部温度Tina,Tinbに対してその差分が所定の閾値th4以下であるという条件(式13)を満たすか否かを判断する(ステップS511)。
|Tina−Tinb|≦th4 …(13)
ステップS511にて式13を満たすと判断された場合(S511:YES)、その差分が閾値th4よりも小さい所定の閾値th5以下であるという条件(式14)を満たすか否かを判断する(ステップS512)。閾値th5は、式10における閾値th1と等しいか又は閾値th1よりも小さい値であってよい。
|Tina−Tinb|≦th5<th4 …(14)
ステップS512にて式14を満たすと判断された場合(S512:YES)、温度異常判定部21は、内部温度Tina,Tinbのいずれも表面温度Tsよりも大きいという条件(式11)を満たすか否かを判断する(ステップS513)。
ステップS513にて式11を満たすと判断された場合(S513:YES)、温度異常判定部21は、内部温度Tina,Tinbのいずれか大きい方の値が、閾値th2以上であるという条件(式12)を満たすか否かを判断する(ステップS514)。ステップS514では、閾値th2との比較に限らず、セル51の短寿命化を回避すべく仕様等にて示されている使用範囲外であるか否かを判断できればよい。
ステップS514にて閾値th2以上であると判断された場合(S514:YES)、温度異常判定部21は電池内部の温度が異常であると判断し(ステップS515)、処理を終了する。
ステップS514にて閾値th2以上でないと判断された場合(S514:NO)、温度異常判定部21は、そのまま処理を終了する。
ステップS512にて、式14を満たさないと判断された場合(S512:NO)、温度異常判定部21は、内部温度Tina,Tinbの差分が十分に小さい値ではないが、いずれか一方を信頼すべきものとして扱う。そこで温度異常判定部21は、内部温度Tina,Tinbのいずれも表面温度Tsよりも小さいか否かを判断する(ステップS516)。温度異常判定部21は、いずれか一方でも表面温度Ts以上であると判断された場合(S516:NO)、内部温度Tina,Tinbの内の最小値が表面温度Tsよりも大きいか否かを判断する(ステップS517)。ステップS517にて最小値が表面温度Tsよりも大きいと判断した場合(S517:YES)、温度異常判定部21は、2つの内部温度Tina,Tinbの平均値が閾値th2以上であるか否かを判断する(ステップS518)。ステップS517にて、表面温度Tsよりも大きいと判断された場合とはつまり、内部温度Tina,Tinbはいずれも表面温度Tsよりも大きい値であるが、差分が十分信頼できるほどに小さい値でない場合である。この場合、ステップS514のように最大値を閾値th2と比較すると誤判定のリスクがある。ステップS518で平均値を閾値th2と比較することにより、誤判定のリスクが低減される。ステップS518にて閾値th2以上であると判断された場合(S518:YES)、温度異常判定部21は温度を異常であると判断し(S515)、処理を終了する。
ステップS518にて閾値th2未満であると判断された場合(S518:NO)、温度異常判定部21は、そのまま処理を終了する。
ステップS517にて最小値が表面温度Ts以下であると判断された場合(S517:NO)、温度異常判定部21は処理をステップS514へ進め、大きい方の値で閾値th2以上であるか否かを判断する(S514)。
ステップS511にて、式13を満たさないと判断された場合(S511:NO)、推定値はいずれが信頼できる値か不明であるから、測定値である表面温度Tsを基準として表面温度Tsが使用範囲外(例えば閾値th3以上)であるか否かを判断する(ステップS519)。ステップS519で使用範囲外であると判断された場合(S519:YES)、温度異常判定部21は、処理をステップS515へ進めて温度が異常であると判断し(S515)、処理を終了する。ステップS519にて使用範囲内であると判断された場合(S519:NO)、温度異常判定部21は、処理をそのまま終了する。
ステップS513にて内部温度Tina,Tinbのいずれか一方が表面温度Ts以下であると判断された場合(S513:NO)、及びステップS516にてどちらも表面温度Ts以下であると判断された場合(S516:YES)、温度異常判定部21は処理をステップS519へ進める。
変形例1で示したように、異なる手法で推定した二つの内部温度Tina,Tinbに対して閾値を2つ設けてその大小等の判断を行なうことにより、誤った推定値を排除しながらより精度よく温度異常を判定することが可能になる。
(変形例2)
変形例2では更に、温度又は時間等の要因も加味して内部温度Tina,Tinbのいずれで温度異常を判定するかを使い分ける。図13は、温度異常判定処理の処理手順の他の一例を示すフローチャートである。図13のフローチャートに示す処理手順の内、図11のフローチャートに示した処理手順と共通する処理には、同一のステップ番号を付して詳細な説明を省略する。
温度異常判定部21は、まず表面温度Tsが所謂常温に相当する閾値th6以下であるか否かを判断する(ステップS521)。ステップS521にて表面温度Tsが閾値th6以下であると判断された場合(S521:YES)、温度異常判定部21は、直近の充放電の切り替えからの経過時間が、所定時間以内であるか否かを判断する(ステップS522)。ここでいう所定時間は例えば、温度の異常判定の周期を鑑みて固定された期間であってもよいし、充電率SOCによって異なる待機時間Tに基づき定められてもよい。
ステップS522で所定時間以内であると判断された場合(S522:YES)、温度異常判定部21は、ステップS501〜S505の処理を実行する。
ステップS521及びS522のいずれか一方で、否と判断された場合(S521:NO、又はS522:NO)、温度異常判定部21は、熱抵抗値から推定算出された内部温度Tinaのみを使用して閾値th2以上であるか否かの判断を行なう(ステップS523)。ステップS523にて閾値th2以上であると判断された場合(S523:YES)、温度異常判定部21は温度を異常であると判定し(S504)、閾値th2未満であると判断された場合(S523:NO)、温度異常判定部21はそのまま処理を終了する。
図8で示したように、内部抵抗値Rは25℃以上の高温範囲では、温度の変化に対して変化が小さくなるから、推定に用いる電圧値V及び電流値Iの測定誤差が大きく温度の推定に影響する。変形例2では、常温以上となった場合には(S521:NO)、内部抵抗値Rの推定値を用いることなく温度異常を判定することで、この測定誤差の影響を抑制することができる。また、二次電池ユニット50はバッテリ用途である場合には充放電の切り替えタイミングが十分な頻度で到来するところ、それ以外の用途では充放電の切替が温度異常の判定のサイクルより長い期間起こらない場合がある。そのような場合には、温度の変化のタイミングに合わせて内部抵抗値Rを算出できないから、熱抵抗に基づき推定される内部温度Tinbを用いて温度異常の判定を実行することで判定精度を保つことができる。
上述した本実施の形態において、図13のフローチャートに示した処理手順は、変形例1に加味することも可能である。変形例2に示した温度又は時間のいずれか一方のみを基準として内部温度Tina,Tinbのいずれかを適切に選択し、選択した推定内部温度を閾値th2と比較して温度異常を判断するようにしてもよい。
このようにして、異なる手法で推定した2つの内部温度Tina,Tinbをその値自体から推定される確からしさ、又は他の二次電池ユニット50の状況等に応じて適切に用いて温度の異常を判定するから、判定精度を高めて維持することができる。
なお上述した実施の形態においては内部温度の算出対象を車輌に搭載されている二次電池ユニット50とした。しかしながら本開示の温度異常判定装置の温度異常の判定対象となる電池は、車輌に搭載される二次電池に限られないことは勿論である。
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。