以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、本発明は、下記の実施形態に限定されず、また、該実施形態に対して、本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変形および置換を加えてもよい。
図1は、本発明の低反射膜付き基体の一実施形態を模式的に示す断面図である。
ここで示した実施形態の低反射膜付き基体10は、図1に示すように、透明基体11と、透明基体11の一方の主面に形成された第1の低反射膜12と、透明基体11の側面に形成された第2の低反射膜13と、透明基体11の他方の主面の一部に形成された黒色印刷部14と、を備えている。
そして、本実施形態の低反射膜付き基体10においては、第1の低反射膜12側からの入射光に対して測定された視感反射率Rtotが1.5%以下であり、かつ、第2の低反射膜13側からの入射光に対して測定された視感反射率Rsが2.5%以下であって、色度a*が0〜4、b*が3〜9となっている。
ここで、視感反射率とは、JIS Z8701に規定されている反射の刺激値Yである。本発明では、主面のRtotは、分光測色計(コニカミノルタ製、形式:CM−2600d)を用い、D65の光源下において、正反射光と拡散反射光を合わせて測定するSCI(Specular Component Include)方式により反射光を測定し、側面のRsは、顕微分光測定器(オリンパス社製、USPM RUIII)により、反射光を測定した。このように測定された反射率を用いて、視感反射率を算出する。
なお、第1の視感反射率Rtotは、側面にある程度近い位置での測定により求められ、例えば、側面と主面との境界である稜線から、50mm以内の範囲内における測定で求められることが好ましく、5〜30mmの範囲内における測定で求められることがより好ましい。このような範囲とすることで、主面と側面とで得られる視感反射率RtotとRsと、実際に視認される際に感じる色味変化等を良好に相関させて表現できる。
また、色度a*およびb*は、L*a*b*表色系における色度であり、本明細書においてL*a*b*表色系は、国際照明委員会(CIE)で規格化されたCIE 1976(L*a*b*)色空間(CIELAB)であって、F2光源における明度(L*)、F2光源における反射光の色度(a*、b*)をいう。色度は、反射における色味を測定すればよく、反射スペクトルを取得すればよい。反射スペクトルは分光光度計や顕微分光計を用いて取得し、色度を計算できる。
第1の低反射膜における視感反射率Rtotと、第2の低反射膜における視感反射率Rsおよび色度a*、b*とが、それぞれ上記の関係を満たすようにすることで、主面と側面において色味等の差が小さいものと視認され、違和感の少ないものとなる。
本実施形態において、上記視感反射率Rtotは1.5%以下が好ましく、1.2%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
なお、黒色印刷部14における、透明基体11の一方の主面に設けられた第1の反射膜12の色味として、色度a*は−6超6未満、b*は−6超6未満が好ましく、色度a*は−5超3未満、b*は−6超3未満がより好ましく、色度a*は−4超2未満、b*は−4超2未満がさらに好ましい。このような範囲にすることで、反射光の色づきを最小限に抑えることができ、また、側面の色味とも合わせやすくなる。
また、上記視感反射率Rsも同様に、2.5%以下が好ましく、2%以下がより好ましく、1.8%以下がさらに好ましい。
(主面の視感反射率の測定)
以下、主面の視感反射率Rtotの算出方法を図2に基づいて説明する。図2は、本発明の低反射膜付き基体10への第1の低反射膜12側からの入射光のルート(光路)を、模式的に示す図である。図2において、図1と同じ構成要素には、同一符号を付す。
低反射膜付き基体10の黒色印刷部14を持たない領域では、一方の主面側から第1の低反射膜12に入射した入射光L1は、一部は低反射膜面で反射して反射光L2となり、残部は、第1の低反射膜12、透明基体11をこの順に透過する透過光L3となる。透過光L3の一部は透明基体11の他方の主面で反射し、この反射光は、透明基体11、第1の低反射膜12をこの順に透過した後、出射光L4として外部に出射する。この光のルートを第1のルートとする。
第1のルートの光の視感反射率RGは、反射光L2に係わる視感反射率、すなわち第1の低反射膜12の視感反射率R1と、出射光L4に係わる視感反射率R4の和である。
ここで、視感反射率R4は、光のルートに沿った各反射率を用いた式(I)、第1のルートの光の視感反射率RGは、式(II)でそれぞれ表される。ただし、R0は、透明基体11の他方の主面からの片面視感反射率である。
R4=(1−R1)×R0×(1−R1) ………(I)
RG=R1+(1−R1)×R0×(1−R1)……(II)
一方、低反射膜付き基体10の黒色印刷部14を備えた領域では、一方の主面側から第1の低反射膜12に入射した入射光L5は、一部は反射して反射光L6となり、残部は、第1の低反射膜12、透明基体11をこの順に透過する透過光L7となる。透過光L7の一部は、透明基体11の他方の主面と黒色印刷部14との界面で反射し、この反射光は、透明基体11、第1の低反射膜12をこの順に透過した後、出射光L8として外部に出射する。この光のルートを第2のルートとする。
第2のルートの視感反射率Rtotは、反射光L6に係わる視感反射率、すなわち第1の低反射膜12の視感反射率R1と、出射光L8に係わる視感反射率R8の和である。
ここで、視感反射率R8は、光のルートに沿った各反射率を用いた式(III)、第2のルートの視感反射率Rtotは、式(IV)でそれぞれ表される。ただし、R2は、透明基体11との界面における黒色印刷部14の視感反射率である。
R8=(1−R1)×R2×(1−R1) ………(III)
Rtot=R1+(1−R1)×R2×(1−R1)……(IV)
低反射膜付き基体10において、黒色印刷部14を持たない領域の視感反射率RGと、黒色印刷部14を備えた領域の視感反射率Rtotが測定可能な量である。したがって、所与の透明基体の反射率R0を前提として、上記式(II)からR1を、上記式(IV)からR2を算出できる。なお、前記したように、Rtotは、黒色印刷部14を有する領域における第1の低反射膜12側からの入射光に対して測定された視感反射率Rに相当し、本実施形態の低反射膜付き基体10では2%以下となっている。またR0は、例えばエリプソメータで、黒色印刷部14を持たない領域の裏面、すなわち低反射膜がない側の屈折率を求めることで、反射率を算出できる。
また、第1の低反射膜12に吸収率A1の吸収がある場合には、式(II)、(IV)において、(1−R1)を(1−R1−A1)とすることで、上記と同様にR1およびR2を算出できる。第1の低反射膜12の吸収率A1は、透明基体11の他方の主面に黒色印刷部14を持たない領域の透過率Tgと、透明基体11のみの透過率T0との比較によって、算出できる。
なお、実際には、例えば透過光L3のうち透明基体11の他方の主面で反射し、透明基体11、第1の低反射膜12をこの順に透過する光のうち、一部は出射光L4としてガラス内部から出射され、一部はガラス/空気界面で反射されてガラス内部にもどり、透明基体11を透過して透明基体11の他方の主面で一部が反射するルートをたどって、ガラス内部から出射される。また、このサイクルを任意回繰り返したルートも考えられるが、R1、R2が上述の範囲であれば、L8以降のルートからの寄与は無視できる程度に十分小さい。
第1の低反射膜12の視感反射率R1は、第1の低反射膜12を構成する各層の構成材料、積層数、各層の厚さ、積層順等により、任意に調整可能である。R1は、1%以下が好ましく、0.6%以下が好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。低反射膜付き基体をカバーガラスとして液晶ディスプレイ等に貼り合わせた時、一般的には、光学接着によって、基体の裏面とディスプレイ表面の間での反射は十分に抑制される。したがってカバーガラス基体付きディスプレイの反射率は、R1とディスプレイ内部からの反射率が主に寄与する。R1がこの範囲にあることによって、ディスプレイ内部からの反射に比べて、積層体表面からの反射を十分に抑制できる。透明基体11との界面の黒色印刷部14の視感反射率R2は、黒色印刷部14を構成する材料(黒色インク等)の種類や膜厚等により調整できる。ただし、R2は通常0.3%〜0.8%の範囲にあり、インクの種類や膜厚等による調整が難しい。
(側面の視感反射率Rsの測定)
側面の視感反射率は顕微分光測定器(オリンパス社製、USPM RUIII)により、側面部の分光反射率を取得した。なお、測定を行う際には、あらかじめ反射率が最大となる基板の位置・角度を求めておいて、正しい正反射率が取得できるように調整した。その分光反射率より視感反射率(JIS Z8701において規定されている反射の刺激値Y)と色味(L*a*b*)を求めた。
(主面と側面の視感反射率の関係)
本実施形態において、上記視感反射率Rtotと視感反射率Rsとの比(Rs/Rtot)は、1〜3が好ましく、1〜2が好ましい。このような範囲とすることで、主面と側面における色味等の差が小さいものとなり、より自然に視認され、違和感のより少ないものとなる。なお、RsはRtotより大きい方が好ましい。これは、RsがRtotよりも小さい場合、側面表面の色味が視認しづらくなり、貼り合わせた筐体の後ろの部分が透けて見えてくるため、色合わせが困難になるためである。
また、色味については、側面の反射色のb*は、主面の反射色のb*よりも大きい方がよいこと、また、側面の反射色のa*は主面の反射率のa*と同じ符号であるほうが、自然に視認されることが分かった。これは、側面の反射率は、正反射を測定しているが、実際に視認するときには、きわめて高角度で側面を見ることになり、その差が起因していると推定している。すなわち、高角度で見た時に、自然に視認されるためには、正反射での色味が上記の関係を満たした方がよいことが分かった。具体的には、側面のb*は主面のb*よりも1.5倍以上、好ましくは2倍以上あるとよい。
(透明基体)
透明基体11は、一般に低反射膜による低反射性の付与が求められている透明な材料からなるものであれば、特に限定されず、例えば、ガラス、樹脂、またはそれらの組み合わせ(複合材料、積層材料等)からなるものが好ましく使用される。また、透明基体11の形態についても特に限定されず、例えば、剛性を有する板状、柔軟性を有するフィルム状等とすることができる。
透明基体11として用いられる樹脂基板としては、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂基板、ビスフェノールAのカーボネート等の芳香族ポリカーボネート系樹脂基板、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂基板等が挙げられる。
高分子フィルム(フィルム状の透明基体11)としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系フィルム、ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、アクリル樹脂系のフィルム、ポリエーテルサルフォンフィルム、ポリアリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等が挙げられる。
透明基体11として用いられるガラス基板としては、二酸化ケイ素を主成分とする一般的なガラス、例えば、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等のガラスからなる基板が挙げられる。
透明基体11としてガラス基板を用いる場合、ガラスの組成は、成形や化学強化処理による強化が可能な組成であることが好ましく、ナトリウムを含んでいることが好ましい。
ガラスの組成は特に限定されず、種々の組成を有するガラスを利用できる。例えば、酸化物基準のモル%表記で、以下の組成を有するアルミノシリケートガラスが挙げられる。なお、例えば、「MgOを0〜15%含む」とは、MgOは必須ではないが15%まで含んでもよい、の意である。
(i)SiO2を50〜80%、Al2O3を2〜25%、Li2Oを0〜10%、Na2Oを0〜18%、K2Oを0〜10%、MgOを0〜15%、CaOを0〜5%およびZrO2を0〜5%含むガラス
(ii)SiO2を50〜74%、Al2O3を1〜10%、Na2Oを6〜14%、K2Oを3〜11%、MgOを2〜15%、CaOを0〜6%およびZrO2を0〜5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が75%以下、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12〜25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7〜15%であるガラス
(iii)SiO2を68〜80%、Al2O3を4〜10%、Na2Oを5〜15%、K2Oを0〜1%、MgOを4〜15%およびZrO2を0〜1%含有するガラス
(iv)SiO2を67〜75%、Al2O3を0〜4%、Na2Oを7〜15%、K2Oを1〜9%、MgOを6〜14%およびZrO2を0〜1.5%含有し、SiO2およびAl2O3の含有量の合計が71〜75%、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12〜20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス
透明基体11として、ガラス基板が好ましい。
ガラス基板の製造方法は特に限定されない。所望のガラス原料を溶融炉に投入し、1500〜1600℃で加熱溶融し清澄した後、成形装置に供給して溶融ガラスを板状に成形し、徐冷することにより製造できる。なお、ガラス基板の成形方法は特に限定されず、例えば、ダウンドロー法(例えば、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウン法、リドロー法等)、フロート法、ロールアウト法、プレス法等を利用可能である。
透明基体11としてガラス基板を用いる場合には、得られる低反射膜付き基体1の強度を高めるために、ガラス基板の主面(例えば、後述する防眩処理を行った主面)に対し、化学強化処理を施した化学強化ガラスであることが好ましい。
化学強化処理方法は特に限定されず、ガラス基板の主面をイオン交換し、圧縮応力が残留する表面層を形成する。具体的には、ガラス転移点以下の温度で、基板の主面近傍のガラスに含まれるイオン半径が小さなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン)を、イオン半径がより大きなアルカリ金属イオン(例えば、Liイオンに対してはNaイオンまたはKイオンであり、Naイオンに対してはKイオン)に置換する。これにより、ガラス基板の主面に圧縮応力が残留し、ガラス基板の強度が向上する。
透明基体11としてのガラス基板は、以下に示す条件を満たすことが好ましい。上記した化学強化処理を行うことによって、このような条件を満足させられる。
すなわち、ガラス基板の表面圧縮応力(以下、CSという。)は400MPa以上1200MPa以下が好ましく、650MPa以上950MPa以下がより好ましく、700MPa以上900MPa以下がさらに好ましい。CSが400MPa以上であれば、実用上の強度として十分である。またCSが1200MPa以下であれば、自身の圧縮応力に耐えられ、自然に破壊してしまう懸念が無い。本発明の低反射膜付き基体10をディスプレイ装置の前面基板(カバーガラス)として使用する場合、ガラス基板のCSは700MPa以上850MPa以下が特に好ましい。
さらに、ガラス基板の応力層の深さ(以下、DOLという。)は15〜60μmが好ましく、15〜50μmがより好ましく、20〜40μmがさらに好ましい。DOLが15μm以上であれば、ガラスカッター等の鋭利な冶具を使用しても、容易にキズがついて破壊される懸念がない。またDOLが40μm以下であれば、基板自身の圧縮応力に耐えられ、自然に破壊してしまう懸念がない。本発明の低反射膜付き基体10をディスプレイ装置等の前面基板(カバーガラス)として使用する場合、ガラス基板のDOLは25μm以上35μm以下が特に好ましい。
透明基体11の厚さは、用途に応じて適宜選択できる。例えば、樹脂基板、ガラス基板等、板状の透明基体11の場合には、厚さは0.1〜5mmが好ましく、0.2〜2mmがより好ましい。透明基体11が、高分子フィルム等フィルム状の場合には、その厚さは50〜200μmが好ましく、75〜150μmがより好ましい。
透明基体11としてガラス基板を用い、化学強化処理を行う場合は、これを効果的に行うために、ガラス基板の厚さは通常5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましい。
また、透明基体11がガラス基板である場合の寸法は、用途に応じて適宜選択できる。モバイル機器のカバーガラスとして使用する場合は、30mm×50mm〜300×400mmで、厚さが0.1〜2.5mmであり、ディスプレイ装置のカバーガラスとして使用する場合は50mm×100mm〜2000×1500mmで、厚さが0.5〜4mmであることが好ましい。透明基体11は、一部に屈曲部を有してよく、開口部や凹部を有していてもよい。
(防眩処理)
低反射膜付き基体10には、防眩性を付与するために、透明基体11の主面が凹凸形状を有するように形成してもよい。なお、凹凸形状を有する主面は、透明基体11の少なくとも一方の主面であり、少なくとも第1の低反射膜12を備える側の主面を、凹凸形状を有する面とすることが好ましい。
このような防眩処理を施した低反射膜付き基体の具体的構成について、図3に例示した。図3の低反射膜付き基体10aは、一方の主面に防眩処理が施された透明基体11aと、その防眩処理が施された面に形成された第1の低反射膜12aと、透明基体11aの側面に形成された第2の低反射膜13と、黒色印刷部14と、から構成されている。なお、図3において低反射膜12aは、透明基体11aの主面に形成された凹凸形状を埋めるように形成されているが、これに限らず、透明基体11aの主面に形成された凹凸形状に追従するように形成されていてもよい。
凹凸形状を形成する方法として、例えば防眩処理等の公知の方法を適用できる。防眩処理としては、例えば、透明基体11としてガラス基板を用いる場合、ガラス基板の少なくとも一方の主面に化学的または物理的な表面処理により所望の表面粗さの凹凸形状を形成する方法や、ウェットコート等の被覆処理を施す方法、などを利用できる。
化学的に防眩処理を行う方法としては、具体的には、フロスト処理を施す方法が挙げられる。フロスト処理は、例えば、フッ化水素とフッ化アンモニウムの混合溶液に、被処理体であるガラス基板を浸漬することで実施できる。
また、物理的に防眩処理を行う方法としては、例えば、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を加圧空気でガラス基板の主面に吹きつける、いわゆるサンドブラスト処理や、結晶質二酸化ケイ素粉、炭化ケイ素粉等を付着させたブラシを水で湿らせたものを用いて擦る方法等を利用できる。
これらの中でも、フロスト処理は、被処理体表面におけるマイクロクラックが生じ難く、機械的強度の低下が生じにくく、ガラス基板に防眩処理を行う方法として好ましい。
このようにして化学的または物理的に防眩処理を施したガラス基板の主面は、表面形状を整えるため、エッチング処理を行うことが好ましい。エッチング処理としては、例えば、ガラス基板を、フッ化水素の水溶液であるエッチング溶液に浸漬して、化学的にエッチングする方法を利用できる。エッチング溶液は、フッ化水素以外にも、塩酸、硝酸、クエン酸等の酸を含有してもよい。これらの酸を含有することで、ガラス基板に含有されるNaイオン、Kイオン等の陽イオンとフッ化水素との反応による、析出物の局所的な発生を抑制できるうえに、エッチングを処理面内で均一に進行させられる。
エッチング処理を行う場合、エッチング溶液の濃度や、エッチング溶液へのガラス基板の浸漬時間等を調節することで、エッチング量を調節し、これによりガラス基板の防眩処理面のヘイズ値を所望の値に調整できる。また、防眩処理を、サンドブラスト等の物理的表面処理で行った場合、クラックが生じることがあるが、エッチング処理によってこのようなクラックを除去できる。また、エッチング処理により、低反射膜付き基体1のギラツキを抑えるという効果も得られる。なお、ギラツキとは、低反射膜付き基体を表示素子の前面基板に用いる場合、前面基板表面に多くの光の粒が観察されるが、これにより視認性が阻害される度合いを意味する。ギラツキが抑制されるほど光の粒が観察されにくく、視認性が向上する。
このようにして、防眩処理およびエッチング処理が行われた後のガラス基板の主面は、表面粗さ(二乗平均粗さ、RMS)が0.01〜0.5μmであることが好ましい。表面粗さ(RMS)は、0.01〜0.3μmがより好ましく、0.01〜0.2μmがさらに好ましい。表面粗さ(RMS)を上記範囲とすることで、防眩処理後のガラス基板のヘイズ値を1〜30%に調整でき、その結果、得られる低反射膜付き基体1に優れた防眩性を付与できる。なお、ヘイズ値は、JIS K 7136:(2000)で規定される値である。
表面粗さ(RMS)は、JIS B 0601:(2001)で規定される方法に準拠して測定可能である。具体的には、レーザー顕微鏡(商品名:VK−9700、キーエンス社製)により、試料である防眩処理後のガラス基板の測定面に対して、300μm×200μmの視野範囲を設定し、ガラス基板の高さ情報を測定する。測定値に対して、カットオフ補正を行ない、得られた高さの二乗平均を求めることで表面粗さ(RMS)を算出できる。当該カットオフ値としては、0.08mmを使用することが好ましい。
防眩処理およびエッチング処理が施された後のガラス基板の表面は、凹凸形状を有しており、それをガラス基板表面の上方から観察すると、円形状の窪みにみえる。このように観察される円形状の窪みの開口の大きさ(直径)は、1μm以上10μm以下が好ましい。この範囲にあることで、ギラツキの防止と防眩性を両立できる。なお、防眩性とは、主に反射光を散乱させることで、光源の映り込みによる反射光の眩しさを低減する性能を意味し、高防眩性であるほど眩しさを低減できる。
なお、通常の使用環境においては、様々な角度から光が入射している。主面と側面との視認性の評価も、このような状況下で行われる。通常の使用環境下における主面と側面の視認性は、上述のSCI方式で測定される視感反射率と相関することが見出されている。また、この視感反射率は、透明基体11の防眩処理の有無によって変化しない。したがって、主面と側面の視認性は、透明基体11への防眩処理の有無により影響されるものではないと考えられる。
(低反射膜)
本実施形態の低反射膜付き基体10において、第1の低反射膜12は透明基体11の一方の主面に形成され、第2の低反射膜13は透明基体11の側面に形成される。透明基体11に上記防眩処理を行った場合は、防眩処理が行われた主面に第1の低反射膜12が形成されることが好ましい。
第1の低反射膜12および第2の低反射膜13の構成としては、光の反射を所定範囲に抑制できる構成であれば特に限定されず、例えば、高屈折率層と低屈折率層とを積層した構成とできる。ここで、高屈折率層は、例えば、波長550nmの光の屈折率が1.9以上の層をいい、低屈折率層は、波長550nmの光の屈折率が1.6以下の層をいう。
第1の低反射膜12および第2の低反射膜13における高屈折率層と低屈折率層との層数は、それぞれを1層ずつ含む形態であってもよいが、それぞれを2層以上含む構成であってもよい。高屈折率層と低屈折率層をそれぞれ1層含む構成の場合は、透明基体11の主面に高屈折率層、低屈折率層の順に積層したものが好ましい。また、高屈折率層と低屈折率層をそれぞれ2層以上含む構成の場合は、高屈折率層、低屈折率層の順に交互に積層した形態であることが好ましい。
低反射性能を高めるためには、第1の低反射膜12および第2の低反射膜13は複数の層が積層された積層体であることが好ましく、該積層体は、例えば、全体で2層以上8層以下の積層が好ましく、2層以上6層以下の積層がより好ましく、2層以上4層以下の積層がさらに好ましい。ここでの積層体は、上記のように、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層したものが好ましく、高屈折率層と低屈折率層の層数を合計したものが上記範囲であることが好ましい。また、光学特性を損なわない範囲での層の追加を行ってもよい。例えば、ガラス基体からのNa拡散を防ぐために、ガラスと該ガラス側に設けられる低反射膜の第1層との間にSiO2膜を挿入してもよい。
第1の低反射膜12の視感反射率R1を所望の範囲に制御するために、第1の低反射膜12の高屈折率層の層厚および低屈折率層の層厚は、適宜調整されることが好ましい。また、同様に、第2の低反射膜13の視感反射率Rsを所望の範囲に制御するために、第2の低反射膜13の高屈折率層の層厚および低屈折率層の層厚は、適宜調整されることが好ましい。
高屈折率層、低屈折率層を構成する材料は、特に限定されるものではなく、要求される低反射性の程度や生産性等を考慮して選択できる。高屈折率層を構成する材料としては、例えば、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化タンタル(Ta2O5)、酸化アルミニウム(Al2O3)、窒化ケイ素(SiN)等が挙げられる。これらの材料から選択される1種以上を好ましく使用できる。低屈折率層を構成する材料としては、酸化ケイ素(特に、二酸化ケイ素SiO2)、SiとSnとの混合酸化物を含む材料、SiとZrとの混合酸化物を含む材料、SiとAlとの混合酸化物を含む材料等が挙げられる。これらの材料から選択される1種以上を好ましく使用できる。
生産性や屈折率の観点から、高屈折率層が、酸化ニオブ、酸化タンタル、窒化ケイ素から選択される1種からなり、低屈折率層が酸化ケイ素からなる層である構成が好ましい。
(防汚膜)
本発明の低反射膜付き基体10においては、さらに第1の低反射膜12および第2の低反射膜13の少なくとも一方の上面に防汚膜を成膜することが好ましい。図4には、図3に示した低反射膜付き基体10aと同等の構成を有し、さらに防汚膜を有する低反射膜付き基体20を例示している。この低反射膜付き基体20は、透明基体21と、その一方の主面に設けられた第1の低反射膜22および第2の低反射膜23の上に、さらに防汚膜24を形成したものである。
この防汚膜の構成材料は、防汚性、撥水性、撥油性を付与できる材料から適宜選択できる。具体的には、フッ素含有有機ケイ素化合物が挙げられる。フッ素含有有機ケイ素化合物は、防汚性、撥水性および撥油性を付与できれば、特に限定されず使用できる。
フッ素含有有機ケイ素化合物としては、例えば、ポリフルオロポリエーテル基、ポリフルオロアルキレン基、およびポリフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有する有機ケイ素化合物を、好ましく使用できる。なお、ポリフルオロポリエーテル基とは、ポリフルオロアルキレン基とエーテル性酸素原子とが交互に結合した構造を有する2価の基のことである。
ポリフルオロポリエーテル基、ポリフルオロアルキレン基、およびパーフルオロアルキル基からなる群から選ばれる1つ以上の基を有するフッ素含有有機ケイ素化合物の市販品としては、KP−801、KY−178、KY−130、KY−185(いずれも商品名、信越化学社製)、オプツ−ルDSXおよびオプツールAES(いずれも商品名、ダイキン社製)等が好ましく使用できる。
なお、フッ素含有有機ケイ素化合物は、大気中の水分との反応による劣化抑制等のために、フッ素系等の溶媒と混合して保存されているのが一般的であるが、これらの溶媒を含んだまま成膜工程に供されると、得られた薄膜の耐久性等に悪影響を及ぶことがある。そのため、後述する手順に従って、真空蒸着法により防汚膜を成膜する場合は、加熱容器で加熱を行う前に、予め溶媒除去処理を行ったフッ素含有有機ケイ素化合物を用いることが好ましい。
ここで、上記フッ素含有有機ケイ素化合物を保存する際に用いられている溶媒としては、例えば、ポリフルオロヘキサン、メタキシレンヘキサフルオライド(C6H4(CF3)2)、ハイドロフロオロポリエーテル、HFE7200/7100(商品名、住友スリーエム社製、HFE7200は、式:C4F9−O−C2H5、HFE7100は、式:C4F9−O−CH3で表わされる。)等が挙げられる。例えば、フッ素含有有機ケイ素化合物の溶液中に含まれる溶媒の濃度としては、1mol%以下が好ましく、0.2mol%以下がより好ましい。溶媒を含まないフッ素含有有機ケイ素化合物を用いることが、特に好ましい。
上記フッ素系溶媒を含むフッ素含有有機ケイ素化合物溶液からの溶媒の除去処理は、例えば、フッ素含有有機ケイ素化合物の溶液を入れた容器を、真空排気することにより実施できる。真空排気を行う時間については、排気ライン、真空ポンプ等の排気能力、溶液の量等により変化するため、限定されないが、例えば、10時間以上真空排気すればよい。
上記したフッ素含有有機ケイ素化合物からなる防汚膜を形成する場合、成膜には真空蒸着法の使用が好ましい。真空蒸着法を使用する場合、上記溶媒の除去処理は、防汚膜を成膜する成膜装置の加熱容器に、フッ素含有有機ケイ素化合物溶液を導入後、昇温する前に、室温で加熱容器内を真空排気することにより実施できる。また、加熱容器に導入する前に、予めエバポレーター等により溶媒除去を実施できる。
なお、前記溶媒の含有量が少ない、または溶媒を含まないフッ素含有有機ケイ素化合物は、溶媒を含んでいるものと比較して、大気と接触することにより劣化しやすい。そのため、溶媒含有量の少ない(または含まない)フッ素含有有機ケイ素化合物の保管容器は、容器中を窒素等の不活性ガスで置換、密閉したものを使用し、取り扱う際には大気への暴露時間が短くなるようにすることが好ましい。
具体的には、保管容器を開封後は、直ちに、防汚膜を成膜する成膜装置の加熱容器に、フッ素含有有機ケイ素化合物を導入することが好ましい。そして、導入後は、加熱容器内を真空にするか、窒素、希ガス等の不活性ガスにより置換し、加熱容器内に含まれる大気(空気)を除去することが好ましい。大気と接触することなく保管容器(貯蔵容器)から成膜装置の加熱容器に導入できるように、例えば、保管容器と加熱容器とがバルブ付きの配管により接続されていることがより好ましい。
そして、加熱容器にフッ素含有有機ケイ素化合物を導入後、容器内を真空または不活性ガスで置換した後には、直ちに成膜のための加熱を開始することが好ましい。
本発明において、第2の低反射膜22の上に成膜される防汚膜24の膜厚は、特に限定されないが、2〜20nmであることが好ましく、2〜15nmであることがより好ましく、2〜10nmであることがさらに好ましい。膜厚が2nm以上であれば、防汚膜24によって低反射膜22及び23の表面が均一に覆われた状態となり、耐擦り性の観点で実用に耐えるものとなる。また、膜厚が20nm以下であれば、防汚膜が積層された状態でのヘイズ値等の光学特性が良好である。
なお、防汚膜の成膜方法としては、真空蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレート法、スパッタ法、プラズマCVD法等の乾式法、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、スリットコート法、スプレー法等の湿式法のどちらも使用できる。耐擦傷性の観点から、乾式の成膜方法を用いることが好ましい。
(黒色印刷部)
本発明の低反射膜付き基体10は、透明基体11の上記第1の低反射膜12を形成する他方の主面の一部に黒色印刷部14を備えていてもよい。この黒色印刷部14は、表示パネルの外側周辺部に配置された配線回路のような、表示を見るときに視界に入り邪魔になる部分を遮蔽し、表示の視認性と美観を高める光遮蔽部であってもよいし、文字や模様等の印刷部であってもよい。黒色印刷部は、第1の低反射膜12および第2の低反射膜13を成膜する前に形成してもよく、これらの低反射膜を成膜した後に形成してもよい。
なお、本発明において、「黒色印刷部を有する領域」とは、低反射膜付き基体が垂直断面(厚さ方向に沿った断面)において黒色印刷部を有する領域をいう。以下の記載では、「黒色印刷部を有する領域」を「黒色印刷部を備えた領域」ともいう。また、低反射膜付き基体が垂直断面において黒色印刷部を有していない領域を、「黒色印刷部を持たない領域」ともいう。
この黒色印刷部14は、黒色インクを印刷する方法で形成されたものである。印刷法としては、バーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ロールコート法、スクリーン法、インクジェット法等があるが、簡便に印刷できるうえ、種々の基材に印刷することができ、また基材のサイズに合わせて印刷できることから、スクリーン印刷法が好ましい。
黒色インクは、特に限定されず利用できる。黒色インクとしては、セラミックス焼成体等を含む無機系インクと、染料または顔料のような色料と有機樹脂を含む有機系インクが使用できる。
黒色の無機系インクに含有されるセラミックスとしては、酸化クロム、酸化鉄などの酸化物、炭化クロム、炭化タングステン等の炭化物、カーボンブラック、雲母等がある。黒色印刷部14は、上記セラミックスとシリカからなるインクを溶融し、所望のパターンで印刷した後、焼成して得られる。この無機系インクは、溶融、焼成工程を必要とし、一般にガラス専用インクとして用いられている。
有機系インクは、黒色の染料または顔料と有機系樹脂を含む組成物である。有機系樹脂としては、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリカーボネート、透明ABS樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、ポリウレタン、ポリメタクリル酸メチル、ポリビニル、ポリビニルブチラール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド等のホモポリマー、およびこれらの樹脂のモノマーと共重合可能なモノマーとのコポリマーからなる樹脂が挙げられる。また、染料あるいは顔料は、黒色のものであれば特に限定なく利用できる。
無機系インクと有機系インクとでは、焼成温度が低いことから、有機系インクの使用が好ましい。また、耐薬品性の観点から、顔料を含む有機系インクが好ましい。
ここで、印刷が黒色であるとは、黒色印刷部について上述の方法で算出される視感反射率R2が、1%以下、好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.6%以下であって、D65の光源下において測定されたJIS Z8781−4:2013で規定される色度の値(a*,b*)が、(0±2,0±2)であるものをいう。色度の値(a*,b*)は、好ましくは(0±1.5,0±1.5)であり、さらに好ましくは(0±1,0±1)である。
本実施形態の低反射膜付き基体10は、視感反射率が調整された低反射膜を主面および側面に有するため、外側周辺部における光遮蔽等のための黒色印刷部から側面に亘って視認性の大きな変化が確認されにくい。そのため、本実施形態の低反射膜付き基体10を、ディスプレイ装置のカバーガラスのような前面基板として用いた場合、表示の視認性を向上させ、かつ良好な意匠性と美観を付与できる。
[低反射膜付き基体の製造方法]
(低反射膜の形成)
まず、上記説明した透明基体11を用意し、次いで、この透明基体11の一方の主面および側面に低反射膜を形成する。
第1の低反射膜12および第2の低反射膜13を構成する各層を成膜する方法は特に限定されず、各種成膜方法を使用できる。例えば、真空蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレート法、スパッタリング法、プラズマCVD法等の物理蒸着法を使用できる。これらの成膜方法のなかで、スパッタリング法を用いることで、緻密で耐久性の高い膜を形成できるので好ましい。特に、パルススパッタリング法、ACスパッタリング法、デジタルスパッタリング法等のスパッタリング法により成膜することが好ましい。
この成膜にあたっては、第1の低反射膜12と第2の低反射膜13とを、それぞれ別の工程で形成してもよいし、同時に形成してもよい。同時に形成する場合は、主面と側面とでその積層方向が異なるため、それぞれ所望の低反射膜が形成できるように、膜の形成条件に特に注意して行う。
低反射膜を、例えば、パルススパッタリング法により成膜する場合は、不活性ガスと酸素ガスとの混合ガス雰囲気のチャンバ内に、ガラス基板のような透明基体11を配置し、所望の組成となるようにターゲットを選択して成膜する。このとき、チャンバ内の不活性ガスのガス種は特に限定されるものではなく、アルゴンやヘリウム等、各種不活性ガスを使用できる。
そして、不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスによるチャンバ内の圧力は、特に限定されるものではないが、0.5Pa以下の範囲とすることにより、形成される膜の表面粗さを好ましい範囲とすることが容易である。これは、以下に示す理由によると考えられる。すなわち、不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスによるチャンバ内の圧力が0.5Pa以下であると、成膜分子の平均自由行程が確保され、成膜分子がより多くのエネルギーをもって基体に到達する。そのため、成膜分子の再配置が促され、比較的密で平滑な表面の膜ができると考えられる。不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスによるチャンバ内の圧力の下限値は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1Pa以上であることが好ましい。
パルススパッタリング法により高屈折率層および低屈折率層を成膜する場合、各層の層厚の調整は、例えば、放電電力の調整、成膜時間の調整等により可能である。
また、スパッタリングにより同時に成膜する場合、図5に示したように、チャンバ50内において、透明基体11とこれを保持するキャリア基板51との間にスペーサー52を設けて、透明基体11とキャリア基板51との間に所定の間隔を有して保持し、この状態でスパッタリングターゲット53を用いてスパッタリングを行い、成膜すればよい。
この時、主面にはスペーサー52の大きさに依存しない膜厚が堆積するが、側面には、ターゲット53から直接透明基体11側面に着膜する成分と、ターゲット53から、キャリア基板51で反射して透明基体11側面に着膜する成分が存在する。この成分比率は、ターゲット−透明基体間距離と、キャリア基板−透明基体間距離で変えられる。それにより、主面の膜厚と、側面の膜厚の関係を変化させられ、主面の色味を固定したまま、側面の色味を変化させられる。この方法は、比較的高真空中を膜粒子が飛来する方式で効果的に使用できる。物理成膜であれば真空蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法、イオンプレート法、スパッタリング法で実施できる。
プラズマCVD法は比較的低真空であり、膜粒子の平均自由工程が短いため、この方式で側面と主面の色差を制御することは難しい。膜粒子の平均自由工程は成膜中のチャンバ内圧力で決まり、1Pa以下が好ましく、0.5Pa以下がさらに好ましい。このとき、上記間隔を設ける以外は通常のスパッタリングと同様の操作によって実施できる。
このように透明基体11とキャリア基板51との間に所定の間隔を有するように保持することで、透明基体11のスパッタリングターゲット側の主面に加えて、キャリア基板51からの反射等により透明基体11の側面にも同時に成膜が可能となる。このとき、スパッタリングターゲット53と透明基体11との距離を50〜90mmとすると、その他の成膜条件にもよるが、スペーサー52により形成される透明基体11とキャリア基板51との間隔は、例えば、1〜6mmが好ましい。
このようにして得られる低反射膜付き基体は、ディスプレイの前面基板として好適である。すなわち、ディスプレイと、そのディスプレイの前面に前面基板として設けた本実施形態の低反射膜付き基体と、を有するディスプレイ装置は、そのディスプレイの視認性とその前面基板の側面の視認性との差が小さく、自然に見える。すなわち、この低反射膜付き基体を用いることで、ディスプレイ装置の表示の視認性の向上が可能であり、かつ優れた意匠性と美観とを付与できる。
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
以下では、まずガラス基板の処理手順について説明する。実施例および比較例ではいずれも、ガラス基板として、化学強化用ガラス基板であるドラゴントレイル(商品名、旭硝子社製、厚さ1.3mm、以下、「DT」ともいう。)を用いた。
(実施例1)
(1)まず、DTの一方の主面に、耐酸性の保護フィルム(以下、単に「保護フィルム」ともいう)を貼った後、3重量%フッ化水素溶液に基板を3分間浸漬し、エッチングすることで、基板表面に付着した汚れを除去した。
次いで、汚れが除去されたガラス基板を、15重量%のフッ化水素と15重量%のフッ化カリウムとの混合溶液に3分間浸漬してフロスト処理(防眩処理)を行った後、10重量%フッ化水素溶液に6分間浸漬することで、ヘイズ値を25%に調整した。なお、ヘイズ値は、JIS K 7136に拠り、ヘイズメータ(商品名:HZ−V3、スガ試験機社製)を用いて測定した。
(2)次に、基板を150mm×250mmの大きさに切断した。面取りは600番の砥石(東京ダイア社製)でC0.2の面取りを行った。このとき、砥石の回転数は6500rpm、砥石の移動速度は5000mm/min、削り代は0.2mmとした。
(3)次に、以下の手順により化学強化処理を行った。
450℃に加熱し溶融させた硝酸カリウム塩に、保護フィルムを除去した基板を2時間浸漬した後、溶融塩から引き上げ、室温まで1時間で除冷することで化学強化処理を行い、表面圧縮応力(CS)が730MPa、応力層の深さ(DOL)が30μmの化学強化されたガラス基板を得た。
(4)ついで、この基板をアルカリ溶液(ライオン株式会社製、サンウォッシュTL−75)に4時間浸漬した。
(5)次に、以下の手順により、基板の防眩処理がなされていない面に対してスクリーン印刷を行った。ガラス基板の防眩処理が施されていない主面の外側周辺部の四辺に、2cm幅の黒枠状に印刷を施し、黒色印刷部を形成した。まず、スクリーン印刷機により、黒色インク(GLSHF(商品名、帝国インキ社製))を5μmの厚さに塗布した後、150℃で10分間保持して乾燥させ、第1の印刷層を形成した。次いで、第1の印刷層の上に、上と同じ手順で、黒色インクを5μmの厚さに塗布した後、150℃で40分間保持して乾燥させ、第2の印刷層を形成した。こうして、第1の印刷層と第2の印刷層とが積層された黒色印刷部を形成し、一方の主面の外側周辺部に黒色印刷部を備えたガラス基板を得た。
(6)次に下記の方法で防眩処理がなされている主面と、側面部にそれぞれ低反射膜を形成した。
まず、ガラス基板の側面から十分遠い中心部に、厚さ2mm、50mm角のPEEK樹脂を両面テープで接着した。そのPEEK樹脂の部分を厚さ2mmで1000mm角の大きなガラス(キャリア基板と呼ぶ)の中央に貼りつけた。この時のキャリア基板の材質は特に限定されるものではなく、樹脂性や金属製のものを使用してもよい。このようにしておくことで、裏面のキャリア基板で反射されて基板の側面に入射してくる成膜粒子の入射角度を制御でき、かつ側面への成膜も同時にできる。
まず、キャリア基板に基板が貼りつけられた状態で、ターゲットと基板間の距離を70mmに設定した。
次いで、アルゴンガスに10体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、酸化ニオブターゲット(AGCセラミックス株式会社製、商品名:NBOターゲット)を用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm2、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、主表面に厚さ13nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる高屈折率層を形成した。なお、膜の厚さは、前述のように算出されたR1のスペクトルについて、膜を構成している材料の屈折率などを使用した光学薄膜の干渉の式からフィッティングをして算出できる。膜の厚さの算出はこれに限らず、スパッタリング時に膜厚を間接的に把握可能な水晶振動子の値から求めてもよい。
次いで、アルゴンガスに40体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、シリコンターゲットを用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm2、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、前記高屈折率層上に厚さ35nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。
次いで、1層目と同様にして、上記低屈折率層上に厚さ115nmの酸化ニオブ(ニオビア)からなる高屈折率層を形成した。
次いで、2層目と同様にして、厚さ80nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。
このようにして、酸化ニオブ(ニオビア)と酸化ケイ素(シリカ)が交互に総計4層積層された低反射膜を形成した。
なお、上記膜厚は、第1の低反射膜および第2の低反射膜がそれぞれ同等の膜厚となるように低反射膜を形成した。
(7)次に、以下の方法で防汚膜を成膜した。なお、基板はキャリア基板に貼りつけたまま投入し、低反射膜が形成された主面に成膜すると同時に側面にも効率的に防汚膜を成膜した。まず、防汚膜の材料として、フッ素含有有機ケイ素化合物膜の形成材料を、加熱容器内に導入した。その後、加熱容器内を真空ポンプで10時間以上脱気して溶液中の溶媒除去を行い、フッ素含有有機ケイ素化合物膜の形成用組成物(以下、防汚膜形成用組成物という。)とした。
次いで、上記防汚膜形成用組成物(信越化学社製、商品名:KY−185)が入った加熱容器を、270℃まで加熱し、270℃に到達後は、温度が安定するまで10分間その状態を保持した。次に、低反射膜が形成されたガラス基板を真空チャンバ内に設置した後、上記防汚膜形成用組成物が入った加熱容器と接続されたノズルから、前記ガラス基板の低反射膜に向けて防汚膜形成用組成物を供給し、成膜を行った。
成膜は、真空チャンバ内に設置した水晶振動子モニタにより膜厚を測定しながら行い、低反射膜上のフッ素含有有機ケイ素化合物膜の膜厚が4nmになるまで行った。次いで、真空チャンバから取り出されたガラス基板を、フッ素含有有機ケイ素化合物膜面を上向きにしてホットプレートに設置し、大気中150℃で60分間加熱処理を行った。
(8)以上の操作により、ガラス基板に所定の膜構成を形成した低反射膜付きガラス基板1を製造した。
(実施例2)
実施例1の説明中において、(7)防汚膜の成膜処理を行わなかった以外は、実施例1と同一の操作により低反射膜付きガラス基板2を製造した。
(実施例3)
実施例1の説明中において、(1)防眩処理を行わず、(6)低反射膜の成膜処理の際、ターゲットと基板間の距離を60mmとし、(7)防汚膜の成膜処理の際、使用する樹脂組成物を防汚膜形成用組成物(ダイキン社製、オプツールDCY)とし、ガラス基板とキャリア基板との間のPEEK樹脂の厚みを3mmとした以外は、実施例1と同一の操作により低反射膜付きガラス基板3を製造した。
(実施例4)
実施例1の説明中において、(6)低反射膜の成膜処理の際、ターゲットと基板間の距離を80mmとし、ガラス基板とキャリア基板との間のPEEK樹脂の厚みを4mmとした以外は、実施例1と同一の操作により低反射膜付きガラス基板4を製造した。
(実施例5)
実施例1の説明中における(6)低反射膜の成膜処理において、低反射膜を、以下の積層膜とした以外は、実施例1と同一の操作により低反射膜付きガラス基板5を製造した。
低反射膜としては、まず、アルゴンガスに50体積%の窒素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、シリコンターゲットを用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm2、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、厚さ15nmの窒化ケイ素からなる高屈折率層を形成した。
次いで、アルゴンガスに40体積%の酸素ガスを混合した混合ガスを導入しながら、シリコンターゲットを用いて、圧力0.3Pa、周波数20kHz、電力密度3.8W/cm2、反転パルス幅5μsecの条件でパルススパッタリングを行い、前記高屈折率層上に厚さ70nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。
次いで、3層目として、1層目と同様にして、上記低屈折率層上に厚さ17nmの窒化ケイ素からなる高屈折率層を形成し、4層目として、2層目と同様にして、厚さ105nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。
次いで、5層目として、1層目と同様にして、上記低屈折率層上に厚さ15nmの窒化ケイ素からなる高屈折率層を形成し、6層目として、2層目と同様にして、厚さ50nmの酸化ケイ素(シリカ)からなる低屈折率層を形成した。
次いで、7層目として、1層目と同様にして、上記低屈折率層上に厚さ120nmの窒化ケイ素からなる高屈折率層を形成し、8層目として、1層目と同様にして、上記低屈折率層上に厚さ80nmの窒化ケイ素からなる高屈折率層を形成した。
このようにして、窒化ケイ素と酸化ケイ素(シリカ)が交互に総計8層積層された低反射膜を形成した。
(比較例1)
実施例1の説明中において、(6)低反射膜の成膜処理で、ガラス基板をキャリア基板に直接粘着固定した以外(すなわち、PEEK樹脂を用いることなく、ガラス基板とキャリア基板間の距離を0mmとした。)は、実施例1と同一の操作により低反射膜付き基板C1を得た。
(比較例2)
実施例1の説明中において、(6)低反射膜の成膜処理を行わなかった以外は、実施例1と同地の操作により基板C2を得た。
(比較例3)
実施例1の説明中において、(6)低反射膜の成膜処理の際、ターゲットと基板間の距離を180mmとし、ガラス基板とキャリア基板との間のPEEK樹脂の厚みを30mmとした以外は、実施例1と同一の操作により低反射膜付きガラス基板C3を製造した。
<低反射膜付き基体の特性>
実施例1〜5、比較例1〜3で得られた低反射膜付きガラス基板について、以下の評価を実施した。これらの結果を、低反射膜付き基体の構成と共に、それぞれ表1に併せて示す。
(主面の視感反射率)
背面に黒色印刷部が形成されている基板の主面に対して、分光測色計(コニカミノルタ製、形式:CM−2600d)により、分光反射率をSCIモードで測定し、その分光反射率から、視感反射率Rtot(JIS Z8701:1999において規定されている反射の刺激値Y)を求めた。
(側面の視感反射率、色味)
基板の側面に対して、顕微分光測定器(オリンパス社製、USPM RUIII)により、分光反射率を取得した。なお、測定を行う際には、あらかじめ反射率が最大となる基板の位置を求めておいて、正反射率が取得できるように調整した。その分光反射率より視感反射率Rs(JIS Z8701:1999において規定されている反射の刺激値Y)と色味(L*a*b*)を求めた。
(接触角)
ガラス基板の低反射膜を設けた側の表面(比較例2は防眩処理を施した表面)に約1μLの純水の水滴を着滴させ、接触角計(協和界面科学社製、装置名;DM−51)を用いて、水に対する接触角を測定した。
(主面と側面の色差の評価)
ガラス基板よりも0.5mm大きい枠を用意し、ガラス基板をその枠の中心に来るように入れて固定した。枠の深さは0.8mmとし、0.5mm程度ガラスが出る構造とした。枠の色は黒色とした。その状態で基板を蛍光灯下で様々な角度から視認し、主面から側面に向かって、色が滑らかにつながっているかを目視確認した。5人の検査員が確認し、良、不良を判定した。
表1から、実施例1〜実施例5の低反射膜付きガラス基板では、主面の視感反射率と、側面の視感反射率および色度とが、それぞれ所定の範囲を満たし、主面と側面とを視認したときの光反射や色味の変化等が大きくなることを抑制でき、視認性が良好であった。これに対して、視感反射率や色度が所定の範囲を外れた比較例1、3の低反射膜付きガラス基板では、主面と側面との光反射や色味の変化が大きく目につき、視認性は不良であった。また、比較例2は、第1の低反射膜の視感反射率Rtotが大きく、表示部の視認性が低下することが認められた。