以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、還元糖を含むアルカリ溶液(以下、「糖−アルカリ溶液」と称する場合がある)において5℃以上の温度条件下で着色反応を引き起こすと、その溶液がストレプトコッカス・サーモフィルスの発酵を促進する作用を有するという、本発明者らが見出した知見に基づく。
本発明は、還元糖を含むアルカリ溶液を典型的には5℃以上135℃以下の温度に曝露して糖の着色反応を引き起こすことにより調製される溶液を含む、ストレプトコッカス・サーモフィルス用の発酵促進剤に関する。
本発明において「還元糖」とは、塩基性溶液中でアルデヒド基又はケトン基(還元末端)を生じる糖をいう。本発明において、還元糖は、単糖、二糖、オリゴ糖(本発明では、平均重合度3〜30個のものとする)、若しくは多糖(平均重合度:31個以上、例えば、31〜1000個)又はそれらの任意の組み合わせから選択されるものであってよい。単糖の還元糖はヘキソース(アルドヘキソース又はケトヘキソース)であってもアルドースであってもよい。単糖の還元糖の好ましい例としては、以下に限定するものではないが、例えば、グルコース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、ラムノース、キシロースなどが挙げられる。二糖の還元糖の好ましい例としては、以下に限定するものではないが、例えば、ラクトース、ラクツロース、マルトースなどが挙げられる。オリゴ糖の還元糖の好ましい例としては、以下に限定するものではないが、例えば、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖などが挙げられる。多糖の還元糖の好ましい例としては、以下に限定するものではないが、例えば、デキストリンなどが挙げられる。本発明に係る、還元糖とアルカリとを含む溶液は、1種類又はそれ以上の還元糖を含みうる。
本発明では、糖−アルカリ溶液の調製に、還元糖を含有する食品素材を用いてもよい。すなわち、本発明に係る糖−アルカリ溶液は、還元糖を含有する食品素材を1つ以上含んでもよく、その場合も、当該溶液は「還元糖を含む」。本発明において「食品素材」とは、食品製造に使用される原料を意味し、それ自体単独で食品又は食品添加物として使用され得るものであってもそうでなくてもよい。還元糖を含有する食品素材は、例えば液体、半液体、又は固体(粉末、顆粒など)等の任意の形状であってよいが、水性溶液に溶解させることができるものであることが好ましい。還元糖を含有する食品素材としては、例えば、果汁、野菜汁、還元脱脂乳、乳、ホエイ(乳清)、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイ透過液、その他の乳素材、還元糖配合飲料、発酵乳、高フルクトース・コーンシロップ(ブドウ糖果糖液糖;HFCS)、はちみつ、果実又は野菜抽出物(水性抽出物)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。このうち、ホエイ(乳清)、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイ透過液等の乳素材は、還元糖であるラクトースを高濃度で含有しており、本発明で好ましく用いられる。本発明において「果汁」は、果実の搾汁及びその加工品(濃縮物、濃縮還元物、希釈物、及びそれらの加糖物など)を包含する。一般的に果汁はフクルトースやグルコースを始めとする還元糖を豊富に含む。果汁の例としては、以下に限定されないが、オレンジ、グレープフルーツ、温州みかんなどの柑橘類果実のジュース、グレープ(ぶどう)ジュース、アップル(りんご)ジュース、マンゴージュース、ピーチジュース、パインアップルジュース、イチゴジュース、なしジュース、レモンジュース、バナナジュース、メロンジュースなどが挙げられる。果汁はまた、2種以上の果汁の混合ジュースであってもよい。還元糖を含有する食品素材の例として、果汁と野菜汁の混合ジュースも含まれる。「野菜汁」は、野菜(例えば、トマト、ニンジンなど)の搾汁及びその加工品(濃縮物、濃縮還元物、希釈物、及びそれらの加糖物など)を包含する。一実施形態では、本発明の糖−アルカリ溶液は、果汁、還元脱脂乳、ホエイ(乳清)、ホエイタンパク質濃縮物及びホエイ透過液の少なくとも一つを含んでもよい。
本発明の糖−アルカリ溶液は、溶液の総重量に対して、還元糖を通常は0.05重量%以上、好ましくは0.05〜80重量%、例えば5重量%〜75重量%、又は10重量%〜70重量%含む。一実施形態では、本発明の糖−アルカリ溶液は、溶液の総重量に対して、還元糖を高濃度で、例えば20重量%以上、又は50重量%以上含むことも好ましい。これらの還元糖の濃度は、溶液調製後の最終濃度である。なお総重量に対する重量%(w/w%)を、%(wt/wt)又はwt/wt(%)と表記することがある。
本発明において「アルカリ溶液」とは、水酸化物(水酸化物塩)が溶解している水性溶液(例えば、水酸化物の水溶液)をいう。アルカリ溶液は、水酸化物を水性溶液に添加して溶解させることにより調製することができる。すなわち本発明の糖−アルカリ溶液は、還元糖と水酸化物を含む。本発明の糖−アルカリ溶液の調製に用いる水酸化物は、食品製造に利用することができる水酸化物であることが好ましく、アルカリ金属の水酸化物であってよく、典型的には、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである。本発明の糖−アルカリ溶液には、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムの少なくとも一方が溶解していることが好ましい。
本発明の糖−アルカリ溶液は、水酸化物を含み、具体的には、溶液の総重量に対して、水酸化物を通常は0.05重量%以上、好ましくは40重量%以下、より好ましくは0.05〜30重量%、例えば0.5重量%以上、0.5重量%〜30重量%、5重量%〜25重量%、又は10重量%〜20重量%で含み得る。一実施形態では、本発明の糖−アルカリ溶液は、溶液の総重量に対して、水酸化物を高濃度で、例えば20重量%以上含んでもよい。これらの水酸化物の濃度は、糖−アルカリ溶液の調製後の最終濃度である。
一実施形態では、本発明の糖−アルカリ溶液は、還元糖としてラクトースを含み、水酸化物として水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを含む。この場合、水酸化物の濃度は上記のとおりであり、例えば0.05〜30重量%であってよい。また還元糖の濃度は上記のとおりであり、例えば0.05〜80重量%であってよい。
本発明の糖−アルカリ溶液は、常法により調製することができる。本発明の糖−アルカリ溶液は、例えば、アルカリ溶液に還元糖又は還元糖を含有する食品素材を添加して溶解させたものであってよい。本発明の糖−アルカリ溶液は、還元糖を含む水性溶液や還元糖を含有する液状の食品素材に水酸化物を溶解することによって調製することもできる。あるいは、本発明の糖−アルカリ溶液は、還元糖又は還元糖を含有する食品素材と水酸化物を水性溶液に溶解することによって調製することもできる。本発明の糖−アルカリ溶液は、5℃未満の温度条件下で調製してもよいし、5℃以上の温度条件下、例えば常温(20〜25℃など)で調製してもよい。本発明において「溶液」は、肉眼的観察で溶質が溶媒中に均一に分散している液体を意味し、溶質が溶媒中に単分子単位で分散している液体、及び溶質の会合体やコロイド粒子が溶媒中に分散している液体(コロイドなど)を包含する。なお溶質が溶媒中に均一に分散しているそのような液体中に、一部の量の溶質又は不溶性成分が溶解せずに沈殿物等としてさらに存在している溶液も、本発明における「溶液」に含まれるものとする。
本発明の糖−アルカリ溶液は、アルカリ溶液(通常は0.05重量%以上、好ましくは0.5〜50重量%、より好ましくは1〜40重量%、例えば5〜20重量%又は20〜50重量%のアルカリ溶液)に還元糖を加えて溶解することにより、調製したものであってもよい。そのようにして得られる、例えば0.05〜80重量%、例えば10重量%〜70重量%の還元糖を含む溶液を本発明において糖−アルカリ溶液として使用することも好ましい。
本発明の糖−アルカリ溶液は、水、還元糖及び水酸化物に加えて、他の成分を含んでもよい。例えば、本発明の糖−アルカリ溶液を、還元糖を含有する食品素材を用いて調製し
た場合には、その食品素材に含まれる、還元糖以外の成分が本発明の糖−アルカリ溶液中に存在する。一方、本発明の糖−アルカリ溶液は、着色反応のためにアミノ化合物(アミノ酸、ペプチド、及びタンパク質)を含む必要はなく、メイラード反応による着色を引き起こすことができる量のアミノ化合物を含まなくてもよく、アミノ化合物不含であってもよい。本発明の糖−アルカリ溶液はまた、糖定量のためのアルカリ性銅試薬を含まない。
本発明では、上記のような糖−アルカリ溶液を、好ましくは、5℃以上、典型的には5℃以上135℃以下(一実施形態では、20℃以上、好ましくは35℃以上、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは80℃以上、及び/又は100℃以下、好ましくは99℃以下、より好ましくは98℃以下)の温度に曝露することによって、着色反応を引き起こす。本発明の好ましい一実施形態では、糖−アルカリ溶液を曝露する温度は、典型的には5℃〜135℃であることに加えて又はそれに代えて、当該溶液に用いる糖の融点を下回る温度(例えば、融点の下限値を5℃以上、下回る温度)であってもよい。糖−アルカリ溶液を「5℃以上135℃以下の温度に曝露する」とは、冷蔵、保温、保管等により、一定期間にわたって当該溶液の温度を5℃以上135℃以下の所定の温度又は温度範囲に保持するか、又は当該溶液を5℃以上135℃以下の所定の温度で一定時間にわたって加熱処理することを意味する。なお糖−アルカリ溶液を、その溶液に用いる糖の「融点を下回る温度に曝露する」という表現も、融点を下回る温度を用いる点以外は同様に解釈される。
本発明の糖−アルカリ溶液を5℃以上の温度に曝露すると、糖の溶解熱(液体への糖の溶解時に発生する熱)及び/又は人為的に加えた熱により、糖の着色反応が引き起こされ、また当該反応が促進される。本発明の糖−アルカリ溶液を、5℃以上、好ましくは5℃〜50℃、より好ましくは20℃以上、例えば35℃〜40℃で、一定時間、例えば10分〜24時間、好ましくは1時間〜12時間、より好ましくは3〜6時間保持することにより、着色反応を引き起こすことができる。本発明について温度の「保持」とは、糖−アルカリ溶液について、同じ温度を保つことだけでなく、温度が一定の範囲内(例えば35℃〜40℃)に収まるようにすることも包含する。本発明の糖−アルカリ溶液の温度を保持するために、例えば、本発明の糖−アルカリ溶液を含む容器を冷蔵してもよいし、常温又は室温下に保管してもよいし、インキュベーター等の保温器を用いて保温してもよい。また、本発明の糖−アルカリ溶液を、30℃以上、典型的には35℃以上135℃以下(すなわち35℃〜135℃)、好ましくは35℃〜100℃、より好ましくは50〜100℃、例えば80℃以上及び/又は99℃以下、さらに好ましくは70〜98℃で一定時間、例えば10分以上、好ましくは20分〜2時間、より好ましくは20分〜1時間加熱処理することによって、より迅速に着色反応を引き起こすことができる。本発明の糖−アルカリ溶液を、5℃以上の温度、例えば、5℃〜35℃の温度で一定時間保持した後に、上記温度で加熱してもよく、好ましくは35〜135℃、例えば35〜100℃の温度で加熱してもよい。ここで、上記温度で「糖−アルカリ溶液を加熱する」とは、糖−アルカリ溶液が上記温度になるように当該溶液に熱を加えることを意味する。本発明において「糖の着色反応を引き起こす」とは、糖の着色反応を生じ、結果として、糖−アルカリ溶液の着色化を生じることを意味する。具体的には糖−アルカリ溶液は、糖の着色反応により、無色又は他の色から褐色〜黒色に変化するか、又は溶液の元の色よりも濃い褐色〜黒色となる(褐色・黒色化)。糖−アルカリ溶液の糖及び/又は水酸化物の濃度を増加させることにより、あるいは又はそれに加えて、糖−アルカリ溶液の加熱若しくは保持する温度及び/又はその時間を増加させることにより、糖−アルカリ溶液における糖の着色反応を促進することもできる。なお、糖−アルカリ溶液において例えば溶解熱により着色反応が開始した後に、糖−アルカリ溶液を加熱してもよい。
以上のようにして、糖−アルカリ溶液から、褐色〜黒色に着色化した溶液(着色液)を調製することができる。この着色液は、ストレプトコッカス・サーモフィルスの発酵を顕著に促進する作用を有しており、ストレプトコッカス・サーモフィルスに対する発酵促進のために用いることができる。本発明は、上記のように調製される着色液(以下、発酵促
進液と称する)を含むストレプトコッカス・サーモフィルス用の発酵促進剤を提供する。この発酵促進液は、還元糖、水酸化物、水、及び着色反応に伴って生じた生成物、並びに場合により、還元糖を含有する食品素材に由来する成分などを含む組成物でありうる。
本発明の発酵促進液又は発酵促進剤を添加した発酵基質においてストレプトコッカス・サーモフィルスを培養し、その発酵状態の進行を示す指標を経時的に調べ、その結果、対照(発酵促進液又は発酵促進剤無添加群)と比較して発酵がより速く進行している場合には、当該発酵促進液又は発酵促進剤が発酵促進作用を有することを確認することができる。発酵状態の進行を示す指標として、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルスが発酵により生成するL-乳酸の量の増加、L-乳酸量の増加に伴う発酵物の酸度の上昇又はpH値の低下を用いることができるが、指標はこれらに限定されるわけではない。対照と比較して発酵状態の進行を示す指標値が向上し、対照と比較したその指標値の差が、発酵中に(好ましくは少なくとも2時間にわたって)経時的に拡大し、その後も一定時間(例えば、少なくとも1時間以上)にわたり対照と比較して向上した指標値を示した場合には、当該発酵促進液又は発酵促進剤がストレプトコッカス・サーモフィルスに対する発酵促進作用を有すると判断することができる。発酵物の酸度(乳酸の重量パーセント濃度)は、例えば、発酵物にフェノールフタレインを徐々に滴下し、薄く赤色に呈色する(約pH 8.5)までに要した0.1N NaOH(=0.1mol/L NaOH)の量を決定し、そこから常法により算出することができる。またL-乳酸濃度は、例えば温度40℃、移動相2mM CuSO4 (II)・5H2O及び5% 2-プロパノールを用いた、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定することができる。具体的な試験手順については後述の実施例の記載を参照することができる。
本発明の発酵促進液は、ストレプトコッカス・サーモフィルスの増殖を促進することもできる。したがって本発明の発酵促進液又は発酵促進剤は、ストレプトコッカス・サーモフィルスの増殖促進剤としても用いることができる。本発明は、本発明の発酵促進液又は発酵促進剤を含むストレプトコッカス・サーモフィルス用の増殖促進剤も提供する。
本発明の発酵促進液は、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルス用の発酵促進剤の有効成分として用いることができる。本発明の発酵促進液は、上記のとおり調製された着色液の形態のまま本発明のストレプトコッカス・サーモフィルス用の発酵促進剤の有効成分として用いてもよい。あるいは本発明の発酵促進液は、濃縮、希釈、ろ過、殺菌、均質化、乾燥、ゲル化、顆粒化、及び/又は粉末化等の処理を施した後にストレプトコッカス・サーモフィルス用の発酵促進剤の有効成分として用いてもよい。これらの処理は発酵促進作用に対し通常は不可逆的不活性化をもたらさない。本発明に係るストレプトコッカス・サーモフィルス用の発酵促進剤は、調製された着色液を直接用いた製剤だけでなく、調製された着色液についてそのような処理を行ったものを含む製剤も包含する。
本発明に係るストレプトコッカス・サーモフィルス用の発酵促進剤又は増殖促進剤は、他の成分、典型的には、担体、賦形剤、又は保存剤などの食品又は食品添加物の製造技術分野において使用される補助剤をさらに含んでもよい。ストレプトコッカス・サーモフィルス用の発酵促進剤又は増殖促進剤はそのような他の成分をさらに含む組成物であってよい。ストレプトコッカス・サーモフィルス用の発酵促進剤は、液体であってもよいが、粉末、顆粒、ゲル、固体、カプセル封入体などの他の任意の形態であってもよい。粉末化、顆粒化、ゲル化、固体化、カプセル封入などは公知の製剤技術に従って実施することができる。
本発明は、上記のように、還元糖を含むアルカリ溶液を5℃以上、典型的には5℃以上135℃以下の温度に曝露して糖の着色反応を引き起こし、それによりストレプトコッカス・サーモフィルスに対する発酵促進作用を有する溶液(発酵促進液)を調製することを含む、上記のストレプトコッカス・サーモフィルス用の発酵促進剤の製造方法も提供する。こ
の製造方法に関して、使用する還元糖や水酸化物の種類及び濃度、還元糖を含むアルカリ溶液を曝露する温度、還元糖を含むアルカリ溶液の組成や調製方法等の様々な条件は上述のとおりである。この製造方法は、ストレプトコッカス・サーモフィルスに対する発酵促進作用を有する上記の発酵促進液を有効成分として発酵促進剤へと製剤化する工程を含み得る。この製造方法は、上記の発酵促進液を濃縮、希釈、ろ過、殺菌、均質化、乾燥、ゲル化、顆粒化、及び/又は粉末化等の処理を施すことを含んでもよい。これらの処理は発酵促進作用に対し通常は不可逆的不活性化をもたらさない。
本発明は、本発明の発酵促進剤を用いて、ストレプトコッカス・サーモフィルスによる発酵を促進する方法も提供する。より具体的には、本発明は、本発明の発酵促進剤を発酵基質に添加し、その発酵基質においてストレプトコッカス・サーモフィルスを培養し発酵基質を発酵させることを含む、ストレプトコッカス・サーモフィルスによる発酵を促進する方法も提供する。あるいは本発明は、本発明の発酵促進剤を発酵基質に添加し、その発酵基質においてストレプトコッカス・サーモフィルスを培養することを含む、ストレプトコッカス・サーモフィルスを用いた発酵方法にも関する。本発明はまた、本発明の発酵促進剤を発酵基質に添加し、その発酵基質においてストレプトコッカス・サーモフィルスを培養し、ストレプトコッカス・サーモフィルスによって産生された乳酸菌生産物を回収することを含む、乳酸菌生産物の製造方法にも関する。さらに本発明は、本発明の発酵促進剤を用いて、ストレプトコッカス・サーモフィルスの増殖を促進させることを含む、ストレプトコッカス・サーモフィルスの増殖方法も提供する。これらの方法において、ストレプトコッカス・サーモフィルスは、本発明の発酵促進剤を発酵基質に添加する前に発酵基質に接種してもよいし、発酵基質に添加するのと同時又はそれよりも後に発酵基質に接種してもよい。
本発明において「発酵基質」とは、ストレプトコッカス・サーモフィルスの発酵に利用可能な基質化合物(糖質等)又は基質材料を意味する。発酵基質としては、以下に限定されないが、乳、乳由来産物、穀物糖化物、豆乳、大豆抽出物、果実、野菜、果汁、野菜汁、果実若しくは野菜抽出物、又はそれらの少なくとも1つを含む発酵ベース(例えばヨーグルトベース)などが挙げられる。本発明における「乳」は、生乳、成分調整(成分標準化)後の生乳、乳脂肪分を除去又は低減した乳(脱脂乳など)、脱脂粉乳及び全脂粉乳等の粉乳、還元脱脂乳、希釈乳、濃縮乳、及び他の加工乳などを含む。「乳」は、均質化、殺菌・冷却、及び/又はろ過等の食品製造で使用される事前処理を行ってもよい。本発明における「乳」は、任意の非ヒト哺乳動物の乳(動物乳)であってよく、例えば、牛乳、山羊乳、水牛乳、馬乳、ラクダ乳、羊乳等であってよい。「乳由来産物」は、ラクトースを含有するものであってもなくてもよいが、ラクトースを含有するものが好ましい。「乳由来産物」としては、カード(凝乳)、クリーム、バターミルク、バターミルクパウダー、ホエー、乳タンパク質(カゼイン、ホエータンパク質等)及びその分解物(カゼイン分解ペプチド等)などが挙げられる。本発明においては、1種又は2種以上の発酵基質を組み合わせて用いてもよい。
本発明の発酵促進液又は発酵促進剤は、基本的に、発酵促進液の調製に使用した糖及び水酸化物の濃度が高くなるほど高い発酵促進効果を示す。したがって、ストレプトコッカス・サーモフィルスの発酵促進に必要な本発明の発酵促進液又は発酵促進剤の添加量は、発酵促進液の調製に使用した糖及び水酸化物の濃度が高いほど低減することができ、当業者であればその具体的な添加量は適宜調節することができる。一般的には、本発明の発酵促進剤は、発酵基質の総重量に対して発酵促進液が0.0001%(vol/wt)以上、好ましくは20%(vol/wt)以下、より好ましくは0.0005〜10%(vol/wt)、例えば0.001〜1%(vol/wt)又は0.01〜5%(vol/wt)となる量で添加すればよい。ここで%(vol/wt)は、総重量(g)に対する発酵促進液の体積(ml)の比率(%)を表す。このように本発明の発酵促進液又は発酵促進剤は、ごく少量の添加でストレプトコッカス・サーモフィルスの発酵
を促進できる。このことは、発酵食品の製造コストを抑えることができるだけでなく、発酵食品の風味への影響も顕著に低減又は阻止することができることを意味する。
本発明の発酵促進剤は、任意のストレプトコッカス・サーモフィルス株に対して用いることができる。ストレプトコッカス・サーモフィルス株の例としては、例えば、S. thermophilus OLS3059株(受託番号FERM BP-10740)、S. thermophilus OLS3294株(受託番号NITE P-77)、S. thermophilus OLS3289株(ATCC 19258)、S. thermophilus OLS3469株(IFO 13957 / NBRC 13957)、S. thermophilus OLS3058株、及びS. thermophilus OLS3290株(受託番号FERM BP-19638)が挙げられるが、これらに限定されない。
S. thermophilus OLS3059株は、1996年2月29日付け(原寄託日)で独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 120号室)に、受託番号FERM BP-10740の下でブタペスト条約に基づき国際寄託されている。なお本寄託株は2006年11月29日に、国内寄託(原寄託)からブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。
S. thermophilus OLS3294株は、2005年2月10日付け(寄託日)で独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に、受託番号NITE P-77の下で寄託されている。
またS. thermophilus OLS3290株は、2004年1月19日付け(原寄託日)で独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 120号室)に、受託番号FERM BP-19638の下でブタペスト条約に基づき国際寄託されている。なお本寄託株は2013年9月30日に、国内寄託(原寄託)からブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。
S. thermophilus OLS3289株は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection; ATCC)から、受託番号ATCC 19258の下で入手することができる。
S. thermophilus OLS3469株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター(NBRC)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)から、受託番号NBRC 13957の下で入手することができる。
ストレプトコッカス・サーモフィルスの発酵(培養)条件は常法にしたがって設定することができる。例えば、発酵は通常は35〜50℃、好ましくは40℃〜45℃で行うことができる。発酵時間は、発酵基質や発酵条件によって異なるが、例えば2〜24時間程度とすることができる。必要に応じて発酵前に発酵基質のpHを適宜調整(例えばpH 6.5付近に調整)してもよい。
ストレプトコッカス・サーモフィルスは、常法に従って調製することができる。ストレプトコッカス・サーモフィルスの接種量は、ストレプトコッカス・サーモフィルスの発酵に使用できる任意の接種量であってよいが、例えば、発酵基質の総重量(g)に対する接種量(ml)の比率で0.01〜5%(v/w%)の範囲で設定することができる。なお総重量に対する体積の比率%(v/w%)を、%(vol/wt)又はvol/wt(%)と表記することがある。本発明の発酵促進液又は発酵促進剤はストレプトコッカス・サーモフィルスの発酵を顕著に促進できるため、ストレプトコッカス・サーモフィルスの接種量は、例えば一般的な接種量(接種菌数)の1/10〜2/3程度に低減することもできる。
本発明の方法では、ストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・ブルガリ
クスを混合培養(共培養)することも好ましい。本発明の発酵促進液又は発酵促進剤は、ストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・ブルガリクスの混合培養においても、ストレプトコッカス・サーモフィルスによる発酵を促進することができる。好ましい実施形態では、ストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・ブルガリクスの混合培養は、乳又は乳由来産物を含む発酵基質を用いて行う。
一般的なヨーグルトの製造においては、ストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・ブルガリクスの混合培養(混合発酵)を行う。ストレプトコッカス・サーモフィルスは、モッツァレラチーズなどの各種チーズを始めとする発酵食品の製造にもしばしば利用されている。本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスの発酵促進方法は、発酵食品の製造を効率化する上でも非常に有用である。本発明は、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスの発酵促進方法により、発酵基質を発酵させて発酵食品を製造する方法も提供する。発酵食品の製造において、ストレプトコッカス・サーモフィルスは一般的にスターターとして用いられる。発酵食品に用いる発酵基質は、それ自体可食性(例えば、ヒト又は家畜等の非ヒト哺乳動物にとって)のものが好ましい。発酵食品の製造方法において、1種又は2種以上の発酵基質を組み合わせて用いてもよい。
好ましい実施形態では、本発明は、本発明のストレプトコッカス・サーモフィルスの発酵促進方法により、乳又は乳由来産物を含む発酵基質の発酵を行うことを含む、乳発酵食品の製造方法に関する。この発酵基質の発酵は、ストレプトコッカス・サーモフィルス又はストレプトコッカス・サーモフィルスを含む微生物を用いて行うものである。乳又は乳由来産物を含む発酵基質は、乳又は乳由来産物それ自体であってもよい。乳、及び乳由来産物の定義は上述のとおりである。乳又は乳由来産物を含む発酵基質はまた、乳又は乳由来産物に、他の基質化合物(糖質等)若しくは基質材料、又は他の成分を加えたものであってもよい。この方法で製造される発酵食品(乳発酵食品)としては、以下に限定されないが、例えば、発酵乳、乳酸菌発酵物含有飲料、チーズ、発酵クリーム、発酵バターなどが挙げられる。本発明において発酵乳とは、乳酸菌又は乳酸菌と他の発酵微生物(典型的には、酵母)を用いて乳を発酵させたものをいう。発酵乳としては例えばヨーグルトなどが挙げられる。本発明においてヨーグルトとは、ストレプトコッカス・サーモフィルスと乳酸桿菌属菌(ラクトバチルス・ブルガリクスなど)により、乳を発酵させたものをいう。チーズとしては、例えば、モッツァレラチーズ、カマンベールチーズ、クワルクチーズ、ゴーダチーズ、チェダーチーズが挙げられる。この乳発酵食品の製造方法では、1種又は2種以上の発酵基質を組み合わせて用いてもよい。例えば、2種以上の乳、例えば生乳と脱脂粉乳を含む発酵基質を用いてもよい。あるいは、発酵基質として乳と乳由来産物を組みあわせて用いてもよく、例えば、生乳と脱脂粉乳とホエイタンパク質を組み合わせて用いてもよい。さらに、乳又は乳由来産物を含む発酵基質と、乳又は乳由来産物を含まない発酵基質とを組み合わせて用いてもよい。これらの発酵基質に必要量の水や、甘味料等の他の成分を添加して混合した発酵ベースも、発酵基質として用いることができる。
本発明に係る乳発酵食品の製造方法は、本発明の発酵促進剤を適当量で発酵系に添加してストレプトコッカス・サーモフィルスの発酵を促進させる点を除いて、基本的に、従来の乳発酵食品の製造方法と同様の方法で実施することができる。発酵を、それぞれの乳発酵食品に適した状態まで完了させた後、発酵物を加工、容器充填等して乳発酵食品を製造すればよい。例えば、発酵乳は、本発明の発酵促進剤を上記の発酵促進方法に従って添加した乳に、ストレプトコッカス・サーモフィルスを含む乳酸菌を接種して発酵させることにより製造することができる。一般的なヨーグルトは、本発明の発酵促進剤を上記の発酵促進方法に従って添加した乳に、ストレプトコッカス・サーモフィルスと乳酸桿菌属菌(典型的にはラクトバチルス・ブルガリクス)を接種してそれらの混合培養で乳を発酵させることにより製造することができる。但しヨーグルトを始めとする発酵乳の製造手順はこれらに限定されるものではない。
本発明に係る発酵食品の製造方法においては、発酵食品(例えば乳発酵食品)の製造に使用されることが公知の乳酸菌をストレプトコッカス・サーモフィルスと共に好適に使用することができる。ラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus又はLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)としては、発酵食品の製造に使用可能な任意の株を用いることができ、以下に限定されないが、例えば、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1株(受託番号FERM BP-10741)、Lactobacillus bulgaricus OLL1181株(受託番号FERM BP-11269)、L. bulgaricus OLL1255株(受託番号NITE BP-76)などが挙げられる。
Lactobacillus bulgaricus OLL1073R-1株は、1999年2月22日付(原寄託日)で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM BP-10741の下でブタペスト条約に基づき国際寄託されている。なお本菌株は2006年11月29日付で国内寄託(原寄託)から国際寄託に移管された。
Lactobacillus bulgaricus OLL1181株は、2010年7月16日付(原寄託日)で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM BP-11269の下でブタペスト条約に基づき国際寄託されている。
Lactobacillus bulgaricus OLL1255株は、2005年2月10日付(原寄託日)で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)に受託番号NITE BP-76の下でブタペスト条約に基づき国際寄託されている。なお本菌株は2009年4月1日付で国内寄託(原寄託)から国際寄託に移管された。
乳発酵食品の製造においては、適切な段階で、乳以外に他の原料を添加してもよい。他の原料としては、甘味料(ショ糖、ステビア、スクラロース等)、酸味料、保存料、香料、増粘剤、乳酸カルシウム等の食品添加物、寒天、ゼラチン、果汁、果肉、果実ソース、クリーム、アロエ葉肉、ジャム等が挙げられるが、これらに限定されない。雑味の増加を避けるためには、ビフィズス菌増殖促進剤として知られる酵母エキスは通常は添加しないことが好ましい。
ヨーグルトなどの発酵乳の製造は、前発酵タイプと後発酵タイプのいずれの方法で行ってもよい。前発酵タイプの場合、乳にストレプトコッカス・サーモフィルスを含む乳酸菌(スターター)を接種し、発酵を完了させた後で、容器に充填する。容器への充填前に、均質化、果肉等の他の原料の添加、フリージング等を行ってもよい。後発酵タイプの場合、乳、乳酸菌及び他の原料を容器に充填した後で発酵させる。ストレプトコッカス・サーモフィルスとラクトバチルス・ブルガリクス等の乳酸桿菌属菌の混合培養は、通常は、通常は35〜50℃、好ましくは40℃〜45℃で行うことができる。発酵乳の場合、以下の方法に限定されないが、通常は酸度が0.7〜0.8%に達するまで発酵させた後、10℃以下まで冷却して発酵を停止させる。発酵時間は例えば1〜24時間、より一般的には3〜7時間程度とすることができる。
チーズは、典型的には、本発明の発酵促進剤を上記の発酵促進方法に従って添加した乳にストレプトコッカス・サーモフィルスを含む乳酸菌(スターター)を接種して発酵させ、次いでレンネット(凝乳酵素)を添加することにより、乳を凝固させ、その凝固物(カード)をホエーから分離し、成形、殺菌、及び/又は発酵・熟成等することにより、製造することができる。しかしチーズの製造手順はこれに限定されるものではない。
本方法によれば、乳酸菌による発酵を顕著に促進できることから、本発明の発酵促進剤を使用しない場合と比較して、発酵時間を短縮化することができる。例えば、本方法によるヨーグルトなどの発酵乳の製造においては、本発明の発酵促進剤を使用しない場合と比較して、発酵時間を好ましくは1〜4時間短縮しうるが、発酵条件等に応じて変化するため短縮時間はこれに限定されない。本方法によれば、乳発酵食品の製造における発酵工程を早期に完了することができ、乳発酵食品の製造を効率化することができる。
このような本発明の方法を用いれば、本発明の発酵促進剤を添加しない点以外は同様に製造された乳発酵食品と比較して、風味(酸味、甘味、また苦みやえぐ味の有無等)、物性(滑らかさ、硬さ等)などの点においてほとんど差がないか又は優れた乳発酵食品を製造することができる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]ラクトースを溶解したNaOH溶液の発酵促進効果
25%(wt/wt)のNaOH溶液(NaOH水溶液)にラクトースを溶解して50%(wt/wt)のラクトース溶液を調製した(以下、ラクトースを溶解した水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を、「ラクトース−NaOH溶液」とも称する)。ラクトースの溶解は氷水中で実施した。得られたラクトース−NaOH溶液は、やや黄緑色を呈した透明な液体であった。
温度保持群では、得られたラクトース−NaOH溶液を、-20℃、5℃、25℃、又は37℃で4時間保持した。加熱群では、得られたラクトース−NaOH溶液を、調製直後に95℃で30分加熱した後、低温で保存した。その後、温度保持又は加熱した溶液の外観を観察した。
その結果、-20℃で保持した溶液に色の変化は見られなかったが、5℃で保持した溶液は若干の褐変化が見られ、25℃で保持した溶液はやや黒色化し、37℃で保持した溶液は黒色化した。また、95℃で30分加熱した溶液は強く黒色化した。各溶液の色調を示す写真を図1に示す。
それぞれのラクトース−NaOH溶液を、UHT殺菌乳(UHT法(超高温殺菌法)で殺菌した牛乳;130℃、2秒殺菌)に0.0025%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後の溶液にストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus又はS. thermophilus)OLS3059株(受託番号FERM BP-10740)をスターターとして1%(vol/wt)(菌体濃度で1〜2・107cfu/mL)接種して43℃で発酵を開始した。対照として、ラクトース−NaOH溶液の代わりに殺菌水を添加したUHT殺菌乳を用いた発酵も実施した。なお、S. thermophilus OLS3059株はMRS(Difco)を用いて37℃で16時間の培養により得た菌体を使用した。MRSでの培養後、遠心分離(8000 g ・ 5分)で菌体を回収し、0.8%の食塩水で菌体を懸濁して菌液(菌体濃度1〜2・109cfu/mL)をスターターとした。以降の実施例では、特に記載の無い限り、同じ方法で調製したS. thermophilusをスターターとして使用している。
発酵液のpHを経時的に測定した。乳酸菌培養培地におけるpHの低下は、乳酸菌の発酵に伴う乳酸産生量の増加を意味し、乳酸菌の発酵の進行度の指標として用いられている。測定結果を図2に示す。-20℃、5℃、25℃で保持したラクトース−NaOH溶液を添加した場合は、対照と比較したpH低下は認められず、発酵促進効果は認められなかった。一方、37℃で保持したラクトース−NaOH溶液を添加した場合は、対照と比較してpHが大きく低下したことから、S. thermophilusによる発酵の促進が認められた。また、95℃で30分加熱したラクトース−NaOH溶液は、37℃で保持したラクトース−NaOH溶液よりも高い発酵促進効果
を示した。
また、上述の-20℃、5℃、25℃で保持したラクトース−NaOH溶液を、UHT殺菌乳に上記の5倍量である0.0125%(vol/wt)添加して、上記と同様の試験を実施した。その結果、-20℃で保持したラクトース−NaOH溶液は発酵促進効果を示さなかった。しかし5℃、25℃で保持したラクトース−NaOH溶液は発酵促進効果を示し、また、5℃で保持したラクトース−NaOH溶液と比べて、25℃で保持したラクトース−NaOH溶液でより高い発酵促進効果が得られた(図3)。
以上の結果から、糖(ラクトース)をアルカリ溶液(NaOH溶液)に溶解させ、5℃以上の温度で保持又は加熱処理した溶液は、S. thermophilusの発酵を促進する作用を有することが示された。さらに、溶液の処理温度を高めることにより、その効果をさらに増強できることが示された。
[実施例2]低濃度のNaOH溶液で調製した低濃度ラクトース溶液の効果
0.1%(wt/wt)のNaOH溶液にラクトースを溶解して0.1%(wt/wt)ラクトース溶液を調製した。この0.1%ラクトース溶液のサンプルを5℃で冷蔵保存した(非加熱ラクトース−NaOH溶液)が、着色は見られなかった。一方、調製した0.1%ラクトース溶液のサンプルを、95℃で30分加熱して、加熱ラクトース−NaOH溶液を調製したところ、得られた溶液はやや褐色化した。これらのラクトース−NaOH溶液を、UHT殺菌乳に1%又は10%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後にそのUHT殺菌乳にS. thermophilus OLS3059株をスターターとして1%(vol/wt)接種して、43℃で発酵を開始した。対照として、殺菌水をUHT殺菌乳に1%又は10%(vol/wt)添加し、43℃に加温し、加温後にS. thermophilus OLS3059株をスターターとして1%(vol/wt)接種し、43℃で発酵を開始した。
発酵液のpHを経時的に測定した。測定結果を図4(添加率1%)及び図5(添加率10%)に示す。ラクトース−NaOH溶液のいずれの添加率でも、非加熱ラクトース−NaOH溶液は発酵促進効果を示さなかったが、加熱ラクトース−NaOH溶液は発酵促進効果を示した。このことから、糖濃度で0.1%、アルカリ濃度で0.1%という低濃度で調製した糖−アルカリ溶液も、加熱により発酵促進効果を誘導できること、また少なくとも10%の添加率までは、問題なく発酵促進効果が得られることが示された。
[実施例3]発酵促進効果と糖濃度及びNaOH濃度との相関
0%、0.8%、1.6%、8%、27%(wt/wt)のNaOH溶液にラクトースを溶解して25%(wt/wt)ラクトース溶液を調製した。なお27% NaOH溶液を使用した場合、ラクトースの溶解後に自然に発熱し、黒色化した。調製した25%ラクトース溶液を95℃で30分加熱処理した。得られた加熱ラクトース−NaOH溶液を、UHT殺菌乳に0.01%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後、そのUHT殺菌乳にS. thermophilus OLS3059株をスターターとして1%(vol/wt)接種して43℃で発酵を開始した。対照として、加熱ラクトース−NaOH溶液を添加していないUHT殺菌乳を用いて、同様の試験を実施した。
発酵液のpHを経時的に測定した。測定結果を図6に示す。ラクトースの溶解に使用するNaOH溶液の濃度を高めるほど、発酵促進効果も高まることが示された。なお、水(0% NaOH溶液)にラクトースを溶解したラクトース溶液では、加熱後も、発酵促進効果は得られなかった。8%及び27% NaOH溶液を用いて調製したラクトース溶液は、ほぼ同じレベルの発酵促進効果を示した。
続いて、糖とアルカリ溶液の濃度が異なる3種のラクトース−NaOH溶液を調製して、さらなる試験を行った。まず、ラクトースを27%(wt/wt) NaOH溶液に溶解して25%(wt/wt)ラクトース溶液(NaOH最終濃度:20.3%)を調製した(以下、「25% Lac / 27% NaOH」と
称する)。またラクトースを27%(wt/wt) NaOH溶液に溶解して50%(wt/wt)ラクトース溶液(NaOH最終濃度: 13.5%)を調製した(以下、「50% Lac / 27% NaOH」と称する)。さらにラクトースを40%(wt/wt) NaOH溶液に溶解して70%(wt/wt)ラクトース溶液(NaOH最終濃度: 12%)を調製した(以下、「70% Lac / 40% NaOH」と称する)。これらの全てのラクトース−NaOH溶液は、溶解後に自然に発熱し、黒色化した。
これらラクトース−NaOH溶液を95℃で30分加熱し、UHT殺菌乳に0.00325%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後、そのUHT殺菌乳にS. thermophilus OLS3059株を1%(vol/wt)接種して43℃で発酵を開始した。対照として、加熱ラクトース−NaOH溶液を添加していないUHT殺菌乳を用いて、同様の試験を実施した。
発酵液のpHを経時的に測定した。測定結果を図7に示す。ラクトース濃度及びラクトースの溶解に使用するNaOH溶液の濃度を高めるほど、発酵促進効果が高まることが示された。
次に、95℃で30分加熱した「70% Lac / 40% NaOH」を、UHT殺菌乳に、0.0005%、0.00075%、0.001%、又は0.00125%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後、そのUHT殺菌乳にS. thermophilus OLS3059株を1%(vol/wt)接種して43℃発酵を開始した。対照として、加熱ラクトース−NaOH溶液の代わりに殺菌水を用いて、同様の試験を実施した。発酵液のpHを経時的に測定した。測定結果を図8に示す。その結果、0.0005%の添加でも低レベルではあるが明らかな発酵促進効果が得られた。また70% Lac / 40% NaOHの添加率を高めるほど、発酵促進効果も高くなった。このことから、糖及びアルカリ溶液の濃度を上昇させ、さらに加熱温度を上昇させることにより、極めて低い添加率でも発酵を促進できる糖−アルカリ溶液を製造できることが明らかとなった。
[実施例4]発酵促進効果へのアルカリ溶液の種類の影響
NaOH溶液に代わるアルカリ溶液としてKOH溶液を用いた。具体的には、10%(wt/wt) KOH溶液にラクトースを溶解して10%(wt/wt)ラクトース溶液を調製し、95℃で30分加熱した後、それをUHT殺菌乳に0.025%添加し、43℃に加温した。加温後、UHT殺菌乳にS. thermophilus OLS3059株を1%(vol/wt)接種して43℃で発酵を開始した。対照として、加熱ラクトース−KOH溶液を添加していないUHT殺菌乳を用いて、同様の試験を実施した。
発酵液のpHを経時的に測定(モニタリング)した。測定結果を図9に示す。KOH溶液で調製したラクトース溶液(ラクトース−KOH溶液)もS. thermophilusの発酵を促進することが明らかとなった。
[実施例5]発酵促進効果への糖の種類の影響
ラクトースの代わりに異なる種類の糖を使用して同様の試験を行った。単糖としてはグルコース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、ラムノース、キシロース、キシリトール、マンニトール、又はソルビトールを用いた。二糖としてはラクツロース、スクロース、又はトレハロースを用いた。オリゴ糖としてはガラクトオリゴ糖又はフラクトオリゴ糖、多糖としてはデキストリンを用いた。それぞれの糖を25%(wt/wt) NaOH溶液に12.5%(wt/wt)濃度で溶解して糖−NaOH溶液を調製し、95℃で30分加熱した。加熱後の糖−NaOH溶液の外観を観察した。加熱後、各糖溶液を個別にUHT殺菌乳に0.035%(vol/wt)添加し、UHT殺菌乳を43℃に加温してから、S. thermophilus 1131株を1%(vol/wt)接種して43℃で発酵を開始した。対照として、加熱した糖−NaOH溶液の代わりに殺菌水を用いて、同様の試験を実施した。
発酵液のpHを経時的に測定(モニタリング)した。測定結果を図10〜14に示す。単糖ではグルコース、ガラクトース、フルクトース、アラビノース、ラムノース、キシロー
ス、二糖ではラクツロース、多糖ではガラクトオリゴ糖、デキストリンを用いた場合に、発酵促進効果が得られた(図10、11、12)。
加熱後の糖−NaOH溶液の色調を図13及び14に示す。発酵促進効果が得られた単糖(還元糖)は、NaOH溶液で溶解した後に加熱することで黒色化したが、発酵促進効果が得られなかった単糖(非還元糖)は薄く褐変化するだけに留まるか、又は無色透明のままであった(図13)。また、二糖、多糖でも同様の結果となった(図14)。
[実施例6]糖類含有食品素材を含むアルカリ溶液の発酵促進効果
糖の代わりに果汁を用いて同様に糖−アルカリ溶液の発酵促進効果について試験した。果汁はフルクトース等の糖類を多く含むことが知られている。果汁としては、グレープ(ブドウ)100%ジュース(セブンアンドアイ社;炭水化物量24.7g/200ml)、グレープフルーツ100%ジュース(ドール社;炭水化物量16.8g/200ml)、オレンジ100%ジュース(セブンアンドアイ社;炭水化物量20.7g/200ml)、アップル(リンゴ)100%ジュース(セブンアンドアイ社;炭水化物量22.1g/200ml)を用いた。比較群では、果汁を95℃で15分加熱した。試験群では、果汁にNaOHを10%(wt/wt)添加してから95℃で15分加熱した。
加熱後のそれぞれの果汁を、UHT殺菌乳に0.005%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後、そのUHT殺菌乳にS. thermophilus OLS3059株を1%(vol/wt)接種して43℃で発酵を開始した。さらに対照として、NaOHを添加して加熱した果汁の代わりに殺菌水を用いて、同様の試験を実施した。発酵液のpHを経時的に測定した。測定結果を図15〜18に示す。試験した全ての果汁について、NaOHを添加せずに加熱した果汁は発酵促進効果を示さなかったが、NaOHを添加してから加熱した果汁は、発酵促進効果を示した(図15〜18)。
なお、全ての果汁はNaOHを添加してから加熱することにより、黒色化した(図19)。グレープ果汁は本来黒味を帯びているが、NaOH添加後の加熱処理によって明確に黒色化した。
次に、糖の代わりに還元脱脂乳(SMP)を用いて同様に糖−アルカリ溶液の発酵促進効果について試験した。還元脱脂乳は脱脂粉乳(乾燥粉末)を水などに溶解して調製したものであり、ラクトースを含むことが知られている。
還元脱脂乳(明治 脱脂粉乳)に、NaOHを5%(wt/wt)濃度で添加して10%還元脱脂乳を調製し、95℃で15分の加熱処理を実施した。NaOHを添加して加熱した還元脱脂乳をUHT殺菌乳に0.005%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後、UHT殺菌乳にS. thermophilus
OLS3059株を1%(vol/wt)接種して43℃で発酵を開始した。比較のため、NaOHを添加して加熱した還元脱脂乳の代わりにNaOHを添加せずに加熱した還元脱脂乳を用いて、同様の試験を実施した。さらに対照として、NaOHを添加して加熱した還元脱脂乳の代わりに殺菌水を用いて、同様の試験を実施した。
発酵液のpHを経時的に測定した。測定結果を図20に示す。NaOHを添加せずに加熱した還元脱脂乳は発酵促進効果を示さなかったが、NaOHを添加して加熱した還元脱脂乳は、発酵促進効果を示した。また、NaOHを添加した還元脱脂乳は、加熱により、沈殿等を生じることなく黒色化した(図19)。
以上の結果から、果汁や還元脱脂乳などの、フルクトースやラクトース等の糖類を含有する食品素材をアルカリ溶液に溶解して加熱することによって調製される組成物も、S. thermophilusの発酵を促進できることが明らかとなった。
[実施例7]各種ストレプトコッカス・サーモフィルス株に対する糖−アルカリ溶液の発酵促進効果
実施例3に従って、「50% Lac / 25% NaOH」を調製し、95℃で30分加熱した。得られた溶液をUHT殺菌乳に0.005%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後、そのUHT殺菌乳に、S. thermophilusを接種して43℃で発酵を開始した。対照として、加熱した「50% Lac /
25% NaOH」を添加していないUHT殺菌乳を用いて、同様の試験を実施した。
S. thermophilusとしては、S. thermophilus OLS3059株(受託番号FERM BP-10740)、S. thermophilus OLS3294株(受託番号NITE P-77)、S. thermophilus OLS3289株(受託番号ATCC 19258)、S. thermophilus OLS3469株(受託番号IFO 13957 / NBRC 13957)、S. thermophilus OLS3058株、及びS. thermophilus OLS3290株(受託番号FERM BP-19638)の6株を個別に用いた。
なお、S. thermophilus 6株の調製は、実施例1に記載したS. thermophilus OLS3059株の調製法に準じて行った。また同等の菌数が添加されるように、OLS3059株とOLS3294 株は1%(vol/wt)、OLS3289株、OLS3469株、OLS3058株は1.5%(vol/wt)、OLS3290株は3%(vol/wt)の量でUHT殺菌乳に接種した。
発酵液のpHを経時的に測定(モニタリング)した。測定結果を図21〜26に示す。試験した全てのS. thermophilus株に対して発酵促進効果が認められた。このことから、本発明に係る糖−アルカリ溶液は、各種S. thermophilus 株に対して発酵促進効果を発揮することが示された。
[実施例8]S. thermophilus とL. bulgaricusの混合発酵における糖−アルカリ溶液の発酵促進効果
本実施例では、ヨーグルトの製造に用いられる菌種ストレプトコッカス・サーモフィルス(S. thermophilus)とラクトバチルス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus又はLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus; L. bulgaricus)を用いた混合培養(共培養)における、S. thermophilusに対する糖−アルカリ溶液の発酵促進効果を試験した。
実施例3に従って、「50% Lac / 25% NaOH」を調製し、95℃で30分加熱した。得られた糖−アルカリ加熱溶液をUHT殺菌乳に0.005%(vol/wt)添加し、43℃に加温した。加温後、そのUHT殺菌乳にS. thermophilus OLS3059株を1%(vol/wt)、L. bulgaricus OLL1073R-1株(受託番号FERM BP-10741)を0.2%(vol/wt)接種して43℃で発酵を開始した。対照として、糖−アルカリ加熱溶液を添加していないUHT殺菌乳を用いた発酵も実施した。なお、L. bulgaricus OLL1073R-1株の調製は、実施例1に記載したS. thermophilus OLS3059株の調製法に準じて行った。
発酵液の酸度を経時的に測定した。具体的には、発酵液9gにフェノールフタレインを0.5 mL添加した後、0.1 N NaOHを発酵液が薄く赤色に呈色するまで添加することにより中和滴定を行い、要した0.1 N NaOHの全量が乳酸量に相当するものとみなして発酵液中の乳酸濃度(%)を算出し、それを酸度とした。結果を図27に示す。糖−アルカリ加熱溶液の添加により、対照と比較して酸度が大きく上昇したことから、発酵が促進されたことが示された。
また、発酵液中のL-乳酸濃度を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。用いたHPLC測定条件を表1に示す。
糖−アルカリ加熱溶液の添加により、L-乳酸の産生が促進されたことが示された(図28)。S. thermophilusはL-乳酸、L. bulgaricusはD-乳酸を産生することが知られている(微生物, Vol.6, No.1, p2-3 (1990);モダンメディア, Vol.57, No.10, p277-287 (2011))。したがってL-乳酸の産生が促進されたという結果は、S. thermophilus とL. bulgaricusの混合発酵(混合培養)においても、S. thermophilusによる発酵が促進されたことを意味する。
このことから、本発明の糖−アルカリ溶液は、ヨーグルトの生産においても発酵促進のために利用できることが示された。
[実施例9]糖−アルカリ溶液のヨーグルト発酵における風味への影響
実施例3に従って、「50% Lac / 25% NaOH」を調製し、95℃で30分加熱した。この糖−アルカリ加熱溶液を用いて、表2の配合比に従ってヨーグルトを調製した。まず酵母エキス及び糖−アルカリ加熱溶液以外の成分(表2)を混合してヨーグルトベースを調製し、95℃で殺菌し、40〜45℃に冷却した後、そこに糖−アルカリ加熱溶液を添加した(糖−アルカリ溶液群)。風味の比較のため、発酵促進剤として糖−アルカリ加熱溶液の代わりに酵母エキスを添加した試験群(酵母エキス群)、糖−アルカリ加熱溶液も酵母エキスも添加しない対照群も用意した(表2)。これらはスターター接種前に90℃で殺菌した。
L. bulgaricus OLL1255株(受託番号NITE BP-76)(菌体濃度1・109cfu/mL)とS. thermophilus OLS3294株(受託番号NITE P-77)(菌体濃度3・109cfu/mL)を混合して高濃度に培養し、凍結保存したスターターを用意した。このスターターを、酵母エキス群と糖−アルカリ溶液群には0.05%(vol/wt)、対照群には0.15%(vol/wt)接種した。スターター
接種後、43℃で酸度が0.75%になるまで発酵させ、その後、5℃で冷却し、ヨーグルトを調製した。
調製したヨーグルトの風味の評価を、ヨーグルトの官能に長けた5人のパネラーで実施した。ヨーグルトについて、カードの物性、酸味、甘味、雑味の各評価項目を5段階評価で評点を付け、各評価項目の対照群の平均評点を1とした場合の酵母エキス群と糖−アルカリ溶液群の平均評点の相対値を算出した。カード物性の評価は「滑らかさ」と「硬さ」を考慮して評価した。結果を表3に示す。
表3に示されるように、これらのヨーグルトに関して、物性、酸味、甘味では差はほとんど見られなかった。雑味は、酵母エキス群のヨーグルトが明らかに劣っており、一方、糖−アルカリ溶液群のヨーグルトでは対照群との差はなかった。雑味に関する評価内訳を見ても、酵母エキスを添加して調製したヨーグルトでは明らかに雑味を感じたパネラーが3人いたが、糖−アルカリ加熱溶液を添加して調製したヨーグルトでは、酵母エキスも糖−アルカリ加熱溶液も添加せずに調製したヨーグルト(対照)と同様に、雑味を感じたパネラーは1人もいなかった。このようにヨーグルトの風味にほとんど影響を与えない点で、糖−アルカリ加熱溶液は、酵母エキスよりも優れていた。
なお、糖−アルカリ加熱溶液又は酵母エキスを添加した場合のヨーグルトの発酵では、対照の1/3量しかスターターを接種しなかったにもかかわらず、対照よりも発酵終了までの時間が2時間以上も短縮された。このことは、糖−アルカリ加熱溶液がヨーグルト生産のための発酵も顕著に促進することを示している。