以下、本発明を実施するための実施形態を図面に基づき説明する。
[A]第1実施形態(図1〜図8)
図1は、本発明に係る電動車両の駆動制御装置における第1実施形態が適用された電動車椅子を示す左側面図である。また、図2は、図1の電動車椅子を示す正面図である。電動車両としての電動車椅子1は、例えばパイプ製の車体フレーム2を備えており、この車体フレーム2の上部に着座シート3が設置されている。着座シート3の後部には背当て部4が設けられ、着座シート3の左右には肘掛け部5が設けられている。また、車体フレーム2の後下部には左右一対の後輪6が駆動輪として軸支され、車体フレーム2の前下部にはフリーキャスタ型の前輪7が設けられている。なお、前輪7の前方には左右一対の足載せ部8が設けられている。
左右の後輪6には、それぞれ専用の電動モータ10L、10Rが個別に設けられており、この電動モータ10L、10Rの動力が減速ギヤにより減速されて後輪6に伝達され、これにより電動車椅子1が駆動されるように構成されている。また、電動モータ10L、10Rの前方には電源用のバッテリ11が搭載されている。
一方、例えば右側の肘掛け部5の前方にはコントロールボックス12が設けられており、このコントロールボックス12の上面には、指示部としてのジョイスティックレバー装置13が設けられている。このジョイスティックレバー装置13にはジョイスティックレバー14が直立した状態に設置されている。電動車椅子1のユーザが右手でジョイスティックレバー14を 360°のいずれかの方向に倒すことにより、ジョイスティックレバー14の傾斜方向と傾斜角度とから、電動車椅子1の進行角度及び進行速度が同時に指示される。なお、コントロールボックス12の左側面には最大走行速度を設定するための速度設定レバー15が設けられている。
本発明に係る駆動制御装置16は、図3にブロック図で示すように、前記ジョイスティックレバー装置13と、制御用マイコン17と、FETドライバ18と、複数のFET19からなる2組のスイッチング回路21と、左右の電動モータ10L、10Rにそれぞれ設けられた回転速度センサ20A、20Bとを備えて構成されている。制御用マイコン17、FETドライバ18及びスイッチング回路21等は、全て例えばコントロールボックス12内に配設されている。
ジョイスティックレバー装置13は、ジョイスティックレバー14が傾けられると、2個の可変抵抗器22A、22Bの電気抵抗値が変化して、ジョイスティック信号を出力する。
例えば、ジョイスティックレバー14が前方に倒されると、左右の電動モータ10L、10Rが共に左右の後輪6を前進駆動させて車両を前進させ、ジョイスティックレバー14が左方に倒されると、左側の電動モータ10Lが左側の後輪6を後進駆動、右側の電動モータ10Rが右側の後輪6を前進駆動させて車両を左方に旋回させ、ジョイスティックレバー14が後方に倒されると、左右の電動モータ10L、10Rが共に左右の後輪6を後進駆動して車両を後進させ、ジョイスティックレバー14が右方に倒されると、左側の電動モータ10Lが左側の後輪6を前進駆動、右側の電動モータ10Rが右側の後輪6を後進駆動させて車両を右方に旋回させるように、2個の可変抵抗器22A、22Bから前後左右方向の指示信号(ジョイスティック信号)が、角度指示信号及び速度指示信号として制御用マイコン17へ出力される。
制御用マイコン17は、後述の如く演算した目標進行角度at+1及び目標進行速度を含む目標進行信号を、左右のPWM信号に変換してFETドライバ18へ出力し、FETドライバ18は2組のスイッチング回路21を駆動制御する。そして、各FET19の開閉の組み合わせに応じてバッテリ11の電圧極性が選択され、バッテリ11の電圧が左右の電動モータ10L、10Rに印加されて電動モータ10L、10Rが作動する。なお、電動モータ10L、10Rに設けられた回転速度センサ20A、20Bは、それぞれ電動モータ10L、10Rの回転速度を検出して、制御用マイコン17へ出力する。
制御用マイコン17は、図4に示すように、速度指令入力部24、速度指令演算部25、車両進行角度検出部26、指示角度入力部27、入力角度変化量演算部28、フィルタ処理部29、目標進行角度演算部30、及び駆動指令部31を有して構成される。
速度指令入力部24は、ジョイスティックレバー装置13から速度指示信号を速度指令として入力し、速度指令演算部25は、この速度指令に基づいて目標進行速度を演算して駆動指令部31へ出力する。また、車両進行角度検出部26は、電動車椅子1の進行角度を車両進行角度acとして検出して目標進行角度演算部30へ出力する。
指示角度入力部27は、ジョイスティックレバー装置13からの角度指示信号に含まれる指示角度を入力角度xtとして入力する。また、入力角度変化量演算部28は、指示角度入力部27からの入力角度xtとフィルタ処理部29が前回演算した前回の推定指示角度ytとから入力角度変化量を演算する。この入力角度変化量は、入力角度xtと前回の推定指示角度ytとの差の絶対値|xt−yt|として算出される。
フィルタ処理部29は、指示角度入力部27からの入力角度xtと、このフィルタ処理部29が前回演算した前回の推定指示角度ytとをフィルタにより処理して、推定指示角度yt+1を演算する。上記フィルタは、入力角度変化量|xt−yt|に基づいてフィルタ処理部29により選択される。つまり、フィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|が、所定値としてのフィルタ切替判定角度θa(図7参照)よりも小さいときには、図5に示すガウス分布に基づくフィルタを選択して使用し、入力角度変化量|xt−yt|がフィルタ切替判定角度θa以上であるときに、図6に示す一様確率分布に基づくフィルタを選択して使用する。
入力角度変化量|xt−yt|がフィルタ切替判定角度θaよりも小さい場合には、電動車椅子1のユーザは、一定方向への直進走行の意思が高いと考えられる。このとき、フィルタ処理部29は、前回(過去)の推定指示角度ytへの依存度が高く且つ入力角度xtへの依存度が低いガウス分布に基づくフィルタを選択して使用する。このガウス分布は、図5を示すように、前回の推定指示角度ytを横軸の中央値とし、この中央値に対し予め定めた偏差(角度)で生成された正規分布であり、縦軸にユーザがその角度を意図する確率をとる。
フィルタ処理部29は、このガウス分布から、ユーザが前回の推定指示角度ytを意図する確率P(a)と、入力角度xtを意図する確率P(b)とをそれぞれ求める。そして、フィルタ処理部29は、前回の推定指示角度yt及び入力角度xt以外の事情を考慮しないように、前回の推定指示角度ytの確率P(a)と入力角度xtの確率P(b)との和が1になる条件を付して、現在の推定指示角度yt+1を、確率P(a)、P(b)を係数として次式(1)で規定する。この推定指示角度yt+1の値は、確率P(a)が確率P(b)よりも大きいことから前回の推定指示角度ytの値に近くなり、このため、前回の推定指示角度ytへの依存度が高く、入力角度xtへの依存度が低くなる。
また、入力角度変化量|xt−yt|がフィルタ切替判定角度θa以上の場合には、電動車椅子1のユーザは、旋回走行の意思が高いと考えられる。このとき、フィルタ処理部29は、入力角度xtへの依存度が前回(過去)の推定指示角度ytの依存度と同程度になる一様確率分布に基づくフィルタを選択して使用する。この一様確率分布では、図6に示すように、入力角度xtと前回の推定指示角度ytとを含めた全ての事象の発生する確率が等しくなっている。従って、フィルタ処理部29は、式(1)においてP(a)=P(b)として、現在の推定指示角度yt+1を次式(2)で規定する
目標進行角度演算部30は、フィルタ処理部29にて演算された推定指示角度yt+1と、車両進行角度検出部26にて検出された車両進行角度acと、目標進行角度演算部30が前回演算した前回の目標進行角度atとに基づいて現在の目標進行角度at+1を演算する。具体的には、図7を用いて後に説明するが、目標進行角度演算部30は、推定指示角度yt+1が前回の目標進行角度atと車両進行角度acとの間にある場合には(at>yt+1>ac)、推定指示角度yt+1を目標進行角度at+1として設定し、また、車両進行角度acが推定指示角度yt+1と前回の目標進行角度atの間にある場合には(yt+1>ac>at)、車両進行角度acを目標進行角度at+1として設定する。
駆動指令部31は、目標進行角度演算部30により演算された目標進行角度at+1と、速度指令演算部25にて演算された目標進行速度とを含む目標進行信号を、PWM信号に変換してFETドライバ18へ出力し、このFETドライバ18を介して電動モータ10L及び10Rを動作させて電動車椅子1を駆動する。
次に、制御用マイコン17におけるフィルタ処理部29及び目標進行角度演算部30の動作手順を、図7を用いて説明する。
フィルタ処理部29は、入力角度変化量演算部28にて求められた入力角度変化量|xt−yt|がフィルタ切替判定角度θaよりも小さいか否かを判断する(S1)。フィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|がフィルタ切替判定角度θaよりも小さいときに、図5に示すガウス分布に基づくフィルタを使用して、入力角度xt及び前回の推定指示角度ytから推定指示角度yt+1を演算する(S2)。手順S1において入力角度変化量|xt−yt|がフィルタ切替判定角度θa以上であるときに、フィルタ処理部29は、図6に示す一様確率分布に基づくフィルタを使用して、入力角度xt及び前回の推定指示角度ytから推定指示角度yt+1を演算する(S3)。
目標進行角度演算部30は、フィルタ処理部29からの推定指示角度yt+1が前回の目標進行角度atよりも大きいか否かを判断し(S4)、大きい場合には、次に、前回の目標進行角度atが車両進行角度検出部26からの車両進行角度acよりも大きいか否かを判断する(S5)。目標進行角度演算部30は、手順S5において、前回の目標進行角度atが車両進行角度acよりも大きい場合には、yt+1>at>acが成立するため、前回の目標進行角度atを目標進行角度at+1として設定する(S6)。
目標進行角度演算部30は、手順S5において、前回の目標進行角度atが車両進行角度ac以下である場合には、この車両進行角度acが推定指示角度yt+1よりも大きいか否かを判断する(S7)。そして、目標進行角度演算部30は、手順S7において車両進行角度acが推定指示角度yt+1よりも大きい場合には、ac>yt+1>atが成立するため、推定指示角度yt+1を目標進行角度at+1に設定(S8)。
手順S7において、車両進行角度acが推定指示角度yt+1以下である場合には、yt+1>ac>atが成立するため、目標進行角度演算部30は、車両進行角度acを目標進行角度at+1に設定する(S9)。
手順S4において推定指示角度yt+1が前回の目標進行角度at以下であるときには、目標進行角度演算部30は、車両進行角度acが前回の目標進行角度atよりも大きいか否かを判断する(S10)。この手順S10において車両進行角度acが前回の目標進行角度atよりも大きいときには、目標進行角度演算部30は、ac>at≧yt+1が成立するため、前回の目標進行角度atを目標進行角度at+1に設定する(S11)。
手順S10において車両進行角度acが前回の目標進行角度at以下であるときには、目標進行角度演算部30は、推定指示角度yt+1が車両進行角度acよりも大きいか否かを判断する(S12)。目標進行角度演算部30は、この手順S12において推定指示角度yt+1が車両進行角度acよりも大きいときには、at>yt+1>acが成立するため、推定指示角度yt+1を目標進行角度at+1に設定する(S8)。
手順S12において推定指示角度yt+1が車両進行角度ac以下であるときには、at<ac≦yt+1が成立するため、目標進行角度演算部30は、車両進行角度acを目標進行角度at+1に設定する(S9)。
図7に示す上述の手順S1〜S12によって目標進行角度at+1が設定されるが、このうち、手順S7において車両進行角度acが推定指示角度yt+1以下である場合に、yt+1>ac>atが成立するため、車両進行角度acが目標進行角度at+1に設定される(S9)。また、手順S12において推定指示角度yt+1が車両進行角度acよりも大きい場合には、at>yt+1>acが成立するため、推定指示角度yt+1が目標進行角度at+1に設定される(S8)。
これにより、推定指示角度yt+1の方が前回の目標進行角度atよりも車両進行角度acに近いにも拘わらず、車両進行角度acを前回の目標進行角度atに合わせるための不必要な制御が行われなくなって、電動車椅子1の操縦安定性が向上すると共に、電動モータ10L及び10Rの電力消費量を低減することが可能になる。
また、手順S8において目標進行角度at+1に設定される推定指示角度yt+1は、手順S2またはS3においてそれぞれガウス分布に基づくフィルタまたは一様確率分布に基づくフィルタを用いて、入力角度xt及び前回(過去)の推定指示角度ytから演算されたものである。従って、推定指示角度yt+1は入力角度xtそのものではなく、前回(過去)の推定指示角度ytが反映されたものになっている。
ここで、図7の手順S1からS12までを実行するステップを複数ステップ実行する間に手順S2及びS3において演算された推定指示角度yt+1の計算例と、そのとき使用されたフィルタとを、図8を用いて説明する。このとき、手順S1におけるフィルタ切替判定角度θaはθa=3°である。
制御用マイコン17が制御を開始するステップ0では、フィルタ処理部29は、ガウス分布に基づくフィルタを選択している。図8(A)に示すようにユーザが電動車椅子1を旋回させる場合、ステップ2において入力角度xtが90°になると、フィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|が90°になってフィルタ切替判定角度θa以上になるため、フィルタを切り替えて一様確率分布に基づくフィルタを選択し、この一様確率分布に基づくフィルタを用いて推定指示角度yt+1を45°と演算する。
ステップ3における入力角度xtが90°のとき、フィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|が45°になってフィルタ切替判定角度θa以上になるため、引き続き一様確率分布に基づくフィルタとし、このフィルタを用いて推定指示角度yt+1を67.5°と演算する。ステップ7における入力角度xtが90°のとき、フィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|が2.82°となってフィルタ切替判定角度θaよりも小さくなるため、フィルタを切り替えてガウス分布に基づくフィルタを選択し、このガウス分布に基づくフィルタを用いて推定指示角度yt+1を88.28°と演算する。
図8(B)に示すように、例えば電動車椅子1が悪路等を直進走行したときに入力角度xtに瞬間的にノイズが入り、ステップ2において入力角度xtが90°となった場合、フィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|が90°になってフィルタ切替判定角度θa以上になるため、フィルタを切り替えて一様確率分布に基づくフィルタを選択し、この一様確率分布に基づくフィルタを用いて推定指示角度yt+1を45°と演算する。ステップ4において入力角度が0°に戻っても、フィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|が67.5°でフィルタ切替判定角θa以上であるため、フィルタを引き続き一様確率分布に基づくフィルタとし、このフィルタを用いて推定指示角度yt+1を33.75°と演算する。
上述のステップ2において入力角度xtが0°から90°となり、ステップ4において入力角度xtが90°から0°になった場合でも、推定指示角度yt+1はそれぞれ45°、33.75°となって入力角度xtに対し緩やかに変化する。その後、ステップ9における入力角度xtが0°のときに、入力角度変化量|xt−yt|が2.1°となってフィルタ切替判定角度θaよりも小さくなるので、フィルタ処理部29は、フィルタを切り替えてガウス分布に基づくフィルタを選択し、このガウス分布に基づくフィルタを用いて推定指示角度yt+1を1.68°と演算する。
以上のように構成されたことから、この第1実施形態によれば、次の効果(1)を奏する。
(1)図4及び図7に示すように、フィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|に基づいてフィルタ(ガウス分布または一様確率分布に基づくフィルタ)を選択し、このフィルタを使用して、入力角度xt及び前回の推定指示角度ytをフィルタ処理し、推定指示角度yt+1を演算する。従って、目標進行角度演算部30が上記推定指示角度yt+1を用いて目標進行角度at+1を算出した場合でも、上記推定指示角度yt+1は前回(過去)の推定指示角度ytを反映したものになる。
このため、電動車椅子1が例えば悪路を直進走行するときに、フィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|がフィルタ切替判定角度θaよりも小さいときに、前回の推定指示角度ytへの依存度が高く且つ入力角度xtへの依存度が低いガウス分布に基づくフィルタを選択して推定指示角度yt+1を演算する。この結果、悪路走行中に入力角度xtが逐次変動しても推定指示角度yt+1にその影響が抑制されることで、この推定指示角度yt+1を用いて目標進行角度at+1を算出する場合でも、電動車椅子1の直進安定性を向上させることができる。
また、電動車椅子1の旋回時にはフィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|に基づいて、入力角度xtへの依存度が前回の推定指示角度ytへの依存度と同程度である一様確率分布に基づくフィルタを選択して推定指示角度yt+1を演算する。この結果、推定指示角度yt+1を用いて目標進行角度at+1を算出する場合に、推定指示角度yt+1における入力角度xtへの依存度によって旋回特性を維持しつつ、推定指示角度yt+1における前回の推定指示角度ytへの依存度によって、急な旋回による車両のオーバーシュート(横方向傾斜)を抑制できる。
[B]第2実施形態(図9、図10)
図9は、本発明に係る電動車両の駆動制御装置における第2実施形態の制御用マイコンが目標進行角度を演算する手順の一部(推定指示角度を演算等する手順)を示すフローチャートである。この第2実施形態において、第1実施形態と同様な部分については、第1実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
本第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、制御用マイコン17のフィルタ処理部29が、フィルタを切り替えるための所定値としてのフィルタ切替判定角度θtを、選択するフィルタの種類に応じて変更するよう構成された点である。
つまり、フィルタがガウス分布に基づくフィルタに切り替えられて選択された後には、このガウス分布に基づくフィルタから一様確率分布に基づくフィルタに切り替えるためのフィルタ切替判定角度θtがAに設定される。また、フィルタが一様確率分布に基づくフィルタに切り替えられて選択された後には、この一様確率分布に基づくフィルタからガウス分布に基づくフィルタに切り替えるためのフィルタ切替判定角度θtがBに設定される。ここで、BはAよりも小さな値である(B<A)。
フィルタ処理部29は、図9に示す手順S21において、入力角度変化量|xt−yt|がフィルタ切替判定角度θt(θtの初期値としては例えばθt=A)よりも小さいか否かを判断する。この手順S21において入力角度変化量がフィルタ切替判定角度θtよりも小さいときに、フィルタ処理部29は、ガウス分布に基づくフィルタを選択し、このガウス分布に基づくフィルタを用いて推定指示角度yt+1を演算する(S22)。更にフィルタ処理部29は、次のステップにおいて一様確率分布に基づくフィルタに切り替えて選択する際のフィルタ切替判定角度θtを、θt=Aに設定する(S23)。
また、手順S21において入力角度変化量|xt−yt|がフィルタ切替判定角度θt以上であるときに、フィルタ処理部29は、一様確率分布に基づくフィルタを選択し、このフィルタを用いて推定指示角度yt+1を演算する(S24)。更にフィルタ処理部29は、次のステップにおいてガウス分布に基づくフィルタに切り替えて選択する際のフィルタ切替判定角度θtを、θt=B(<A)に設定する(S25)。フィルタ処理部29は、これらの手順S23またはS25の後に、図7に示す手順S4〜S12の手順を実行して目標進行角度at+1を演算する。
図10(A)に示す推定指示角度の変化とフィルタの切替(選択)状況は、フィルタ切替判定角度を第1実施形態と同様に、選択するフィルタの種類に拘わらず一定(例えば6°)とした場合を示す。
ユーザが電動車椅子1を旋回させるためにステップ2において入力角度xtが90°になると、フィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|が90°となってフィルタ切替判定角度(6°)以上になるため、一様確率分布に基づくフィルタに切り替えて選択し、このフィルタに基づいて推定指示角度yt+1を45°と演算する。ステップ6において入力角度変化量|xt−yt|が、5.63°となってフィルタ切替判定角度(6°)よりも小さくなると、フィルタ処理部29は、ガウス分布に基づくフィルタに切り替えて選択し、このガウス分布に基づくフィルタに基づいて推定指示角度yt+1を85.2°と演算する。
図10(B)に示す推定指示角度の変化とフィルタの切替(選択)状況は、フィルタ切替判定角度θtを、ガウス分布に基づくフィルタから一様確率分布に基づくフィルタに切り替える場合にθt=6°とし、一様確率分布に基づくフィルタからガウス分布に基づくフィルタに切り替える場合にθt=1°と変更して設定する本第2実施形態の一例を示す。
ユーザが電動車椅子1を旋回させるためにステップ2において入力角度xtが90°になると、フィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|が90°となってフィルタ切替判定角度θt(6°)以上になるため、一様確率分布に基づくフィルタに切り替えて選択し、このフィルタに基づいて推定指示角度yt+1を45°と演算し、更に、フィルタ切替判定角度θtを変更してθt=1°とする。ステップ9において入力角度変化量|xt−yt|が0.71°となってフィルタ切替判定角度θt(1°)よりも小さくなると、フィルタ処理部29は、ガウス分布に基づくフィルタに切り替えて選択し、このフィルタに基づいて推定指示角度yt+1を89.64°と演算し、更にフィルタ切替判定角度θtを変更してθt=6°とする。
以上のことから、本第2実施形態によれば、前記第1実施形態の効果(1)と同様な効果を奏するほか、次の効果(2)を奏する。
(2)フィルタ切替判定角度θtは、ガウス分布に基づくフィルタから一様確率分布に基づくフィルタに切り替えるためのフィルタ切替判定角度θtがAに設定され、また、一様確率分布に基づくフィルタからガウス分布に基づくフィルタに切り替えるためのフィルタ切替判定角度θtがB(<A)に設定されている。このように、フィルタ切替判定角度θtがA(>B)に設定されることで、電動車椅子1の直進走行時にガウス分布に基づくフィルタが使用される範囲を拡大することができるので、電動車椅子1の直進走行を安定化できる。
また、フィルタ切替判定角度θtがB(<A)に設定されることで、電動車椅子1の旋回走行時に一様確率分布フィルタが使用される範囲が拡大されて、この一様確率分布に基づくフィルタにより演算される推定指示角度yt+1によって、電動車椅子1を意図する旋回方向に早急に収束させることができる。
[C]第3実施形態(図11、図12)
図11は、本発明に係る電動車両の駆動制御装置における第3実施形態の制御用マイコンが目標進行角度を演算するために実行する手順の一部(推定指示角度を演算等する手順)を示すフローチャートである。この第3実施形態において第1及び第2実施形態と同様な部分については、第1及び第2実施形態と同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
本第3実施形態が第1及び第2実施形態と異なる点は、入力角度変化量|xt−yt|がフィルタ切替判定角度θtよりも小さくなった、または切替判定角度θt以上になった回数(ガウス分布適用カウンタTG、一様確率分布適用カウンタTu)が規定値S以上になったときに、フィルタ処理部29がフィルタを切り替えて変更するよう構成された点である。
ここで、ガウス分布適用カウンタTGは、ガウス分布に基づくフィルタを適用するために必要な回数をカウントするカウンタである。一様確率分布適用カウンタTuは、一様確率分布に基づくフィルタを適用するために必要な回数をカウントするカウンタである。これらのガウス分布適用カウンタTG、一様確率分布適用カウンタTuは、制御用マイコン17が目標進行角度at+1を演算する最初のステップ(ステップ1)においてもフィルタを変更して選択できるように、それらの初期値が(S−1)に設定される。尚、規定値Sは、人間の操作では起こすことができない短時間の時間変化に対応した値が採用されている。
図11に示すように、フィルタ処理部29は、手順S31において、入力角度変化量|xt−yt|がフィルタ切替判定角度θt(θtの初期値としては例えばθt=A)よりも小さいか否かを判断する。この手順S31において入力角度変化量|xt−yt|がフィルタ切替判定角度θtよりも小さいときに、フィルタ処理部29は、ガウス分布適用カウンタTGのカウンタ値に1を加算してTG=TG+1とする(S32)。
次に、フィルタ処理部29は、ガウス分布適用カウンタTGのカウント値が規定値S以上になったか否かを判断し(S33)、規定値S未満であるときには、現在の一様確率分布またはガウス分布に基づくフィルタを用いて、入力角度xt及び前回の推定指示角度ytから推定指示角度yt+1を演算する(S34)。
手順S33においてガウス分布適用カウンタTGのカウント値が規定値S以上になったときに、フィルタ処理部29は、ガウス分布に基づくフィルタを用いて入力角度xt及び前回の推定指示角度ytから推定指示角度yt+1を演算し(S35)、更に一様確率分布適用カウンタTuのカウント値をクリアしてTu=0とする(S36)。フィルタ処理部29は、次に、第2実施形態の手順S23(図9)と同様に、ガウス分布に基づくフィルタから一様確率分布に基づくフィルタに切り替える際のフィルタ切替判定角度θtをθt=Aに設定し(S37)、その後、図7のS4〜S12の手順を実行する(S4)。
また、手順S31において入力角度変化量|xt−yt|がフィルタ切替判定角度θt以上であるときに、フィルタ処理部29は、一様確率分布適用カウンタTuのカウント値に1を加算してTu=Tu+1とする(S38)。次に、フィルタ処理部29は、一様確率分布適用カウンタTuのカウント値が規定値S以上になったか否かを判断し(S39)、規定値S未満であるときには、現在のガウス分布または一様確率分布に基づくフィルタを用いて、入力角度xt及び前回の推定指示角度ytから推定指示角度yt+1を演算する(S40)。
手順S39において一様確率分布適用カウンタTuのカウント値が規定値S以上になったときに、フィルタ処理部29は、一様確率分布に基づくフィルタを用いて入力角度xt及び前回の推定指示角度ytから推定指示角度yt+1を演算し(S41)、更にガウス分布適用カウンタTGのカウント値をクリアしてTG=0とする(S42)。フィルタ処理部29は、次に、第2実施形態の手順S25(図9)と同様に、一様確率分布に基づくフィルタからガウス分布に基づくフィルタに切り替える際のフィルタ切替判定角度θtをθt=B(<A)に設定し(S43)、その後、図7のS4〜S12の手順を実行する(S4)。
図12(A)に示す推定指示角度の変化とフィルタの切替(選択)状況は、入力角度xtに瞬間的にノイズが入った場合である。このときのフィルタ切替判定角度θtはθt=3°であり、規定値SはS=3である。
ステップ1では入力角度xtが0°であり、従って、入力角度変化量|xt−yt|が0°であってフィルタ切替判定角度θtよりも小さいため、フィルタ処理部29は、ガウス分布適用カウンタTGをTG=1とする。このときガウス分布適用カウンタTGが規定値S未満であるため、フィルタ処理部29は、現在のガウス分布に基づくフィルタにより推定指示角度yt+1を0°と演算する。ステップ2において入力角度xtが90°になると、フィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|が90°となって、フィルタ切替判定角度θt以上になるため、TG=1を維持したまま、一様確率分布適用カウンタTuをTu=1とする。このとき、一様確率分布適用カウンタTuが規定値S未満であるため、フィルタ処理部29は、現在のガウス分布に基づくフィルタにより推定指示角度yt+1を0°と演算する。
ステップ3においても入力角度xtが90°である。このときフィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|が90°となってフィルタ切替判定角度θt以上になるため、TG=1を維持したまま、一様確率分布適用カウンタTuをTu=2とする。このときも、一様確率分布適用カウンタTuが規定値S未満であるため、フィルタ処理部29は、現在のガウス分布に基づくフィルタによって推定指示角度yt+1を0°と演算する。
ステップ4において入力角度xtが0°になると、入力角度変化量|xt−yt|が0°になってフィルタ切替判定角度θtよりも小さくなるため、フィルタ処理部29は、Tu=1を維持したまま、ガウス分布適用カウンタTGのカウント値に1を加算してTG=2とする。このとき、ガウス分布適用カウンタTGが規定値S未満であるため、フィルタ処理部29は、現在のガウス分布に基づくフィルタによって推定指示角度yt+1を0°と演算する。
ステップ5においても入力角度xtが0°であると、入力角度変化量|xt−yt|が0°であってフィルタ切替判定角度θtよりも小さくなるため、フィルタ処理部29は、ガウス分布適用カウンタTGのカウント値に1を加算してTG=3とする。これにより、ガウス分布適用カウンタTGのカウンタ値が規定値S以上になるため、フィルタ処理部29は、ガウス分布に基づくフィルタにより推定指示角度yt+1を0°と演算し、更に一様確率分布適用カウンタTuのカウント値をクリアしてTu=0とする。
図12(B)に示す推定指示角度の変化とフィルタの切替(選択)状況は、電動車椅子1を旋回させる場合である。このときのフィルタ切替判定角度θtはθt=3°であり、規定値SはS=3である。
ステップ1では入力角度xtが0°であり、従って、入力角度変化量|xt−yt|が0°でフィルタ切替判定角度θtよりも小さいため、フィルタ処理部29は、ガウス分布適用カウンタTGをTG=1とする。このとき、ガウス分布適用カウンタTGのカウンタ値が規定値S未満であるため、フィルタ処理部29は、現在のガウス分布に基づくフィルタにより推定指示角度yt+1を0°と演算する。ステップ2において入力角度xtが90°になると、フィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|が90°となってフィルタ切替判定角度θt以上になるため、TG=1を維持したまま、一様確率分布適用カウンタTuをTu=1とする。このとき、一様確率分布適用カウンタTuのカウンタ値が規定値S未満であるため、フィルタ処理部29は、現在のガウス分布に基づくフィルタにより推定指示角度yt+1を0°と演算する。
ステップ3においても入力角度xtが90°であり、入力角度変化量|xt−yt|が90°となってフィルタ切替判定角度θt以上になるため、フィルタ処理部29は、TG=1を維持したまま、一様確率分布適用カウンタTuのカウント値に1を追加してTu=2とする。このときも一様確率分布適用カウントTuのカウンタ値が規定値S未満であるため、フィルタ処理部29は、現在のガウス分布に基づくフィルタにより推定指示角度yt+1を0°と演算する。
ステップ4においても入力角度xtが90°である。このときフィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|が90°となってフィルタ切替判定角度θt以上になるため、一様確率分布適用カウンタTuのカウント値に1を追加してTu=3とする。これにより、一様確率分布適用カウンタTuのカウント値が規定値S以上になるため、フィルタ処理部29は、フィルタを一様確率分布に基づくフィルタに切り替えて選択し、このフィルタに基づいて推定指示角度yt+1を45°と演算し、更にガウス分布適用カウンタTGのカウント値をクリアしてTG=0とする。
ステップ9においても入力角度xtが90°であるが、入力角度変化量|xt−yt|は2。81°となってフィルタ切替判定角度θtよりも小さくなる。このためフィルタ処理部29は、Tu=7を維持したまま、ガウス分布適用カウンタTGのカウント値に1を追加してTG=1とする。このとき、このガウス分布適用カウンタTGのカウント値が規定値S未満であるため、フィルタ処理部29は現在の一様確率分布に基づくフィルタにより推定指示角度yt+1を88.59°と演算する。
以上のように構成されたことから、本第3実施形態によれば、前記第1及び第2実施形態の効果(1)及び(2)と同様な効果を奏するほか、次の効果(3)を奏する。
(3)フィルタ処理部29は、入力角度変化量|xt−yt|がフィルタ切替判定角度θtも小さくなったときにカウントされるガウス分布適用カウンタTGのカウント値が規定値S以上になったときに、フィルタをガウス分布に基づくフィルタに切り替えて選択し、また、入力角度変化量|xt−yt|がフィルタ切替判定角度θt以上になったときにカウントされる一様確率分布適用カウンタTuのカウント値が規定値S以上になったときに、一様確率分布に基づくフィルタに切り替えて選択する。
このため、特に、図12(A)に示す入力角度xtに瞬間的にノイズが入った場合には、ガウス分布適用カウンタTG、一様確率分布適用カウンタTuのカウント値が変化するものの、そのカウント値が規定値S未満であればフィルタが変更されることがなく、現在のフィルタを用いて推定指示角度yt+1が演算される。このため、ユーザの操作によらない瞬間的なノイズが入力角度xtに入った場合には、そのことによって、電動車椅子1の進行方向に影響を与えることを防止できる。
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができ、また、それらの置き換えや変更は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、上述の各実施形態では、左右一対の後輪6のそれぞれに電動モータ10L、10Rが設置され、これらの電動モータ10L及び10Rが電動車椅子1を走行させ且つ旋回させ、特に旋回時には、電動モータ10Lと電動モータ10Rの回転差により電動車椅子1を旋回させるものを述べた。これに対し、一対の後輪6を駆動させて電動車椅子1を走行させる走行専用モータと、例えばこの走行専用モータが設置された旋回プレートを回転させて電動車椅子1を旋回させる旋回専用モータとが、互いに独立して設置された電動車両としての電動車椅子に本発明を適用してもよい。