以下、実施形態を図面に基づいて説明する。なお、同一の機能や構成には、同一または類似の符号を付して、その説明を適宜省略する。
[第1実施形態]
(1)空気入りタイヤの全体概略構成
図1は、本実施形態に係る空気入りタイヤ10の一部正面図である。空気入りタイヤ10は、乗用自動車(SUV及びミニバンを含む)用のタイヤであり、一般的なタイヤと同様に、トレッド部15、サイドウォール部16及びビード部(不図示)などを備える。
空気入りタイヤ10は、氷上路面及び積雪路面(氷雪路)を走行することが可能な、いわゆるウインタータイヤであり、スタッドレスタイヤとも呼ばれる。また、空気入りタイヤ10は、非氷雪路(ウェット路面及びドライ路面)と、氷雪路とを走行することが可能なオールシーズンタイヤであってもよい。或いは、空気入りタイヤ10は、ウインタータイヤやオールシーズンタイヤではなく、一般的なサマータイヤであってもよい。
空気入りタイヤ10のトレッド部15には、所定のトレッドパターンが形成される。図1に示すように、空気入りタイヤ10のトレッド部15には、寸法が小さい多数のブロックが隣接して設けられるトレッドパターンが採用されている。
トレッド部15には、ブロック列20、ブロック列30及びブロック列40が設けられる。ブロック列20、ブロック列30及びブロック列40は、それぞれタイヤ周方向に沿って延びており、各ブロック列の表面(以下、適宜「踏面」という)は、空気入りタイヤ10が転動することによって、路面と接地する。
ブロック列20は、タイヤ赤道線CLを含むセンター領域に設けられる。ブロック列20は、センターブロック列と呼ばれてもよい。
ブロック列30及びブロック列40は、ブロック列20のタイヤ幅方向外側に設けられる。つまり、ブロック列30及びブロック列40は、トレッド部15のショルダー領域に設けられる。ブロック列30及びブロック列40は、ショルダーブロック列と呼ばれてもよい。
ブロック列20とブロック列30との間には、周方向溝50が形成される。周方向溝50は、ブロック列20とブロック列30とを区画し、タイヤ周方向に延びる。
同様に、ブロック列20とブロック列40との間には、周方向溝60が形成される。周方向溝60は、ブロック列20とブロック列40とを区画し、タイヤ周方向に延びる。
なお、トレッド部15に設けられるブロック列の数、及びトレッド部15に形成される周方向溝の数は、図1に示した数に限定されるものではない。
(2)トレッド部15の構成
次に、トレッド部15の具体的な構成について説明する。図2は、空気入りタイヤ10のトレッド面の一部平面展開図である。図2に示すように、ブロック列20は、多数のブロック100が隣接して設けられることによって形成されている。同様に、ブロック列30及びブロック列40も、多数のブロック100が隣接して設けられることによって形成されている。つまり、空気入りタイヤ10には、トレッド面視において、路面と接する踏面を有するブロック100が隣接して複数設けられている。
ブロック列20では、タイヤ幅方向において、4〜5個のブロック100が隣接して設けられる(周方向溝50, 60に接する一部が切り欠かれたブロックを含む)。ブロック列30及びブロック列40では、タイヤ幅方向において、3個のブロック100が隣接して設けられる(周方向溝50, 60に接する一部が切り欠かれたブロックを含む)。
タイヤ幅方向における両端が周方向溝50と周方向溝60とによって区画されるブロック列20では、当該ブロック列の剛性を確保する観点から、サイプ200(図3参照)を介してタイヤ幅方向またはタイヤ周方向に、少なくとも2個以上のブロック100が隣接して設けられることが好ましい。2個以上のブロック100が隣接して設けられれば、斜め前後方向における4個のブロックが接触して支え合うため、十分な剛性を確保できる。
ブロック100のタイヤ周方向に沿った寸法は、正規内圧に設定された空気入りタイヤ10の正規荷重時における接地長Lの3.3%以上、20.4%以下である。なお、当該寸法は、接地長Lの4.3%以上、13.6%以下が好ましく、5.3%以上、6.8%以下がより好ましい。
また、ブロック100のタイヤ幅方向に沿った寸法は、正規内圧に設定された空気入りタイヤ10の正規荷重時における接地幅Wの2.8%以上、35.2%以下である。お、当該寸法は、接地幅Wの3.7%以上、23.5%以下が好ましく、4.6%以上、11.7%以下がより好ましい。
なお、正規内圧とは、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のYearBookにおける最大負荷能力に対応する空気圧であり、正規荷重とは、JATMA YearBookにおける最大負荷能力に対応する最大負荷能力(最大荷重)である。また欧州ではETRTO、米国ではTRA、その他各国のタイヤ規格が対応する。
また、接地面(接地面積)は、正規内圧に設定された空気入りタイヤに正規荷重が掛けられた場合に路面に接地するトレッドの部分(面積)を意味する。接地長Lは、正規内圧に設定された空気入りタイヤに正規荷重が掛けられた場合に路面に接地するトレッドのタイヤ幅方向の所定位置におけるタイヤ周方向の寸法をいう。接地幅Wは、正規内圧に設定された空気入りタイヤに正規荷重が掛けられた場合に路面に接地するトレッドのタイヤ幅方向の寸法をいう。
ブロック100の周縁部100f(図2において不図示、図3参照)は、サイプ200によって、隣接するブロック100と区画されている。ブロック100の周縁部100fとは、本実施形態では、トレッド面視において四角形状の外周部に沿ったブロック100の縁(側壁)部分を意味する。但し、本実施形態では、ブロック100は、後述する孔溝300によって当該四角形の頂点が切り欠かれたことによって、実質的には八角形状である。また、周縁部100fには、孔溝300が形成されている部分は含まれない。
また、サイプとは、トレッド部15が路面に接地した際に、隣接するブロック100の側壁が接することによって閉じる溝を意味する。一方、周方向溝やラグ溝など、溝の名称が用いられている場合、トレッド部15が路面に接地しても閉じない溝を意味する。
なお、サイプの幅とは、サイプによって隣接するブロックの側壁面間の最短距離を意味し、溝の幅とは、当該溝によって隣接するブロック(路面と接する陸部)の側壁面間の最短距離を意味する。
隣接するブロック100の境界には、孔溝300が形成される。具体的には、孔溝300は、トレッド面視において、多角形状のブロック100の何れかの辺に沿ったサイプ200が、ブロック100の他の辺またはブロック100に隣接する隣接ブロックの何れかの辺に沿ったサイプ200と連通する連通領域に形成される。連通領域とは、隣接するサイプ200が交差する位置を含み、隣接する複数のブロック100の一部分によって構成される。
本実施形態では、孔溝300は、トレッド面視において四角形状であり、タイヤ径方向に延在する。具体的には、孔溝300は、踏面からタイヤ径方向内側に向けて延在する。
ブロック列30のタイヤ幅方向外側には、ラグ溝70が形成される。同様に、ブロック列40のタイヤ幅方向外側には、ラグ溝80が形成される。ラグ溝70, 80は、タイヤ幅方向に延びる横溝である。ラグ溝70, 80の溝幅は、周方向溝50, 60の溝幅よりも細い。なお、ラグ溝70, 80は、図2などに示すように、必ずしもタイヤ幅方向と平行である必要なく、タイヤ幅方向を基準として、トレッド面視において±45度以内の角度で形成されていればよい。
また、ブロック列30のタイヤ幅方向外側(ショルダー側)には、傾斜溝35が形成される。傾斜溝35は、ラグ溝70に連通する。同様に、ブロック列40のタイヤ幅方向外側(ショルダー側)には、傾斜溝45が形成される。傾斜溝35, 45の溝幅は、ラグ溝70, 80の溝幅よりも細い。傾斜溝35, 45は、タイヤ赤道線CLを基準として、約45度傾斜している。
(3)ブロック列の構成
次に、トレッド部15に設けられるブロック列、具体的には、ブロック列20の構成について、さらに説明する。
図3は、空気入りタイヤ10のトレッド面の一部拡大図である。図4は、図3に示したF4-F4線に沿ったトレッド部15の断面図である。また、図5は、図3に示したF5-F5線に沿ったトレッド部15の断面図である。
上述したように、本実施形態では、ブロック100は、多角形状、具体的には四角形状である。但し、孔溝300によって当該四角形の頂点が切り欠かれたことによって、実質的には八角形状である。ブロック100の周縁部100fは、サイプ200によって隣接するブロック100と区画される。例えば、ブロック100Aは、ブロック100Aの周縁部100fに形成されるサイプ210〜240によって、隣接するブロック100B(隣接ブロック)などと区画される。なお、上述したように、周縁部100fには、孔溝300が形成されている部分は含まれない。
ブロック列20では、複数のブロック100が互いに隣接するようにサイプ200を介して設けられている。つまり、所定のブロック100(例えば、ブロック100A)の周縁部100fには、ブロック100Aと同一形状及び同一寸法のブロック100が設けられる。なお、隣接するブロック100の形状または寸法の少なくとも何れかは、必ずしも同一でなく、異なっていてもよい。なお、このような形状は、ブロック列30及びブロック列40も同様である。
ブロック100は、サイプまたは溝が形成されていない一塊状である。つまり、ブロック100には、剛性を確保するため、ブロック100を分断するようなサイプまたは溝が形成されていない。なお、いわゆるピンホールサイプのような剛性に殆ど影響を与えないような、微細な孔溝やブロック100内で終端する短いサイプであれば、ブロック100に形成されても構わない。
ブロック100の寸法は、一般的なタイヤに設けられるブロックと比較すると、かなり小さい。具体的には、トレッド面視において、ブロック単体の面積は、30mm2以上、200mm2以下である。なお、当該面積は、40mm2以上、100mm2以下が好ましく、48mm2以上、81mm2以下がより好ましい。また、乗用自動車用のタイヤとしては、55mm2以上、70mm2以下がさらに好ましい。
また、空気入りタイヤ10は乗用自動車用のタイヤを例としているが、トラック・バス用のタイヤの場合、ブロック単体の面積は、45mm2以上、300mm2以下が好ましく、72mm2以上、162mm2以下がより好ましい。さらに、大型の建設車両用タイヤの場合、ブロック単体の面積は、600mm2以上、6,600mm2以下が好ましく、1,500mm2以上、2,700mm2以下がより好ましい。
なお、当該面積とは、トレッド部15の所定領域内に設けられる全てのブロック100の平均面積である。また、所定領域とは、トレッド部15全体でもよいし、正規内圧及び正規荷重時の接地面でもよい。なお、周方向溝50, 60に隣接して形成され、四角形状でないブロックは除外する。
タイヤ幅方向に沿った単位幅方向長さ当たりにおけるブロック100の列の数は、0.10列/mm以上、0.25列/mm以下が好ましく、0.15列/mm以上、0.20列/mm以下がより好ましい。また、タイヤ周方向に沿った単位周方向長さ当たりにおけるブロック100の列の数は、0.09列/mm以上、0.22列/mm以下が好ましく、0.13列/mm以上、0.18列/mm以下がより好ましい。
ブロック100を四角形状とした場合、ブロック100の各辺は、トレッド面視において、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向に対して傾斜している。例えば、ブロック100Aの各辺、言い換えると、サイプ200(サイプ210〜240)は、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向と平行ではなく、傾斜している。具体的には、サイプ210〜240は、トレッド面視において、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向に対して約45度傾斜している。
ブロック100の一辺の長さは、2.7mm以上、24.6mm以下である。なお、当該長さは、4.6mm以上、17.2mm以下が好ましく、6.5mm以上、9.8mm以下がより好ましい。さらに、タイヤ周方向に沿ったブロック100の長さは、4.5mm以上、23.2mm以下が好ましく、6.7mm以上、17.4mm以下がより好ましい。タイヤ幅方向に沿ったブロック100の長さも同様に、4.5mm以上、23.2mm以下が好ましく、6.7mm以上、17.4mm以下がより好ましい。
また、ブロック100の角部は、ラウンド状(テーパー状)としてもよいが、上述したブロック100の一辺の長さ(a)に対するラウンド状の部分(b)の比(b/a)は、11.25%以上、33.75%以下であることが好ましく、18.0%以上、27.0%以下であることがより好ましい。
このような四角形状のブロック100が互いに隣接して設けられるとともに、サイプ200がタイヤ周方向及びタイヤ幅方向に対して傾斜しているため、ブロック列20では、複数のブロック100が格子(グリッド)状、より具体的には、複数のブロック100がタイヤ周方向及びタイヤ幅方向に対して傾斜した格子状に設けられている。
また、上述したように、ブロック列20は、周方向溝50, 60によって区画されているが、周方向溝50には、ラグ細溝55が連通している。同様に、周方向溝60には、ラグ細溝65が連通している。ラグ細溝55及びラグ細溝65は、サイプ200と連通している。
図4に示すように、サイプ200のタイヤ径方向内側には、内側溝400が形成される。内側溝400は、サイプ200と連通する。
なお、サイプ200と内側溝400とは、トレッド面視において、必ずしも全ての領域において連通していなくてもよく、一部の領域では、隣接するブロック100間を連結するタイバーのような連結部によって、サイプ200と内側溝400とが分断されていてもよい。つまり、内側溝400の少なくも一部が、排水性を妨げない程度に、サイプ200と連通していればよい。
内側溝400は、内側溝400よりも溝幅(サイプ幅)が細いサイプ200よりもタイヤ径方向内側に形成されるため、トレッド面視では、容易に認識することができない。このような内側溝400の特徴を踏まえ、内側溝400は、トンネル溝或いは隠れ溝などと呼ばれてもよい。
さらに、図4に示すように、ブロック100は、径方向外側部101と径方向内側部102とを含む。径方向外側部101は、踏面側に設けられる。また、径方向内側部102は、径方向外側部101よりもタイヤ径方向内側に設けられる。径方向外側部101と径方向内側部102との境界は、特に限定されないが、踏面から内側溝400の底部までの深さの半分程度、具体的には、踏面から内側溝400の底部までの深さを1.0とした場合、0.4〜0.6程度であることが好ましい。
図4に示すように、サイプ200は径方向外側部101に形成され、内側溝400は径方向内側部102に形成される。
つまり、径方向外側部101において、ブロック100の周縁部100fは、サイプ200によってブロックに隣接するブロック100(隣接ブロック)と区画される。径方向内側部102において、周縁部100fは、内側溝400によって当該隣接ブロックと区画される。
また、図3に点線で示すように、例えば、ブロック100Aを区画するサイプ220のタイヤ径方向内側に形成されている内側溝400Aは、ブロック100Aに隣接するブロック100B(隣接ブロック)を区画するサイプ200のタイヤ径方向内側に形成されている内側溝400Bと連通している。つまり、内側溝400は、隣接ブロックを区画するサイプ200のタイヤ径方向内側に形成されている少なくとも何れかの内側溝400と連通する。
孔溝300は、タイヤ径方向内側に向かって径方向内側部102まで延在し、サイプ200及び内側溝400に連通している。孔溝300の深さは、内側溝400の深さと略同一である。
また、図3及び図5に示すように、内側溝400は、ラグ細溝65を介して周方向溝60に連通している。同様に、内側溝400は、ラグ細溝55を介して周方向溝50に連通している。
内側溝400は、タイヤ径方向内側に行くに連れて内側溝400の溝幅が広くなる。図4に示すように、本実施形態では、内側溝400は、タイヤ径方向内側に行くに連れて当該溝幅が徐々に広くなるフラスコ型である。つまり、内側溝400の溝幅は、サイプ200の幅よりも広い。なお、内側溝400の溝幅方向に沿った断面形状は、必ずしもフラスコ型でなくてもよく、三角形、台形或いは円形でもよいが、タイヤ径方向内側に行くに連れて内側溝400の溝幅が広くなる形状が好ましい。また、サイプ200の踏面側は、サイプ幅が広くなるようにテーパー状としてもよい。
[第2実施形態]
図6は、本実施形態に係る空気入りタイヤ10Aのトレッド面の一部平面展開図である。また、図7は、図6に示したF7-F7線に沿ったトレッド部15Aの断面図である。以下、上述した第1実施形態に係る空気入りタイヤ10と異なる部分について主に説明する。
図6及び図7に示すように、空気入りタイヤ10Aのトレッド部15Aに設けられるブロック列20Aには、トレッド面視において凸形状、具体的にはV字状である導入溝部500が形成される。
導入溝部500は、ブロック100と同様に四角形状(但し、上述したように実質的には、孔溝300によって八角形状)のブロック110A、ブロック110B及びブロック110Cに隣接して形成される。導入溝部500は、タイヤ周方向において、所定の間隔ごとに形成される。
導入溝部500は、複数の導入溝250が複数連通することによって形成される。導入溝250は、ブロック100を区画するサイプ200に代えて形成されている。つまり、複数のブロック100のうち、一部のブロック、具体的には、ブロック110A〜ブロック110C(及び導入溝250を隔てて当該ブロックに隣接するブロック)では、ブロック100の周縁部100fの一部が、サイプ200(及び内側溝400)に代えて導入溝250によって区画される。
なお、導入溝250は、内側溝400と略同様の溝幅を有し、隣接するブロック100を区画する内側溝400に連通している。
導入溝部500は、トレッド面視において、タイヤ周方向の一方側に向けて凸となる凸形状である。具体的には、導入溝部500は、空気入りタイヤ10Aの回転方向Roと反対方向に向けて凸となる。つまり、空気入りタイヤ10Aは、車両への装着時に回転方向Roが指定される。
導入溝部500の凸と対応するブロック110Bの踏面には、タイヤ周方向の一方側(回転方向Roと反対方向)に行くについてタイヤ径方向内側に傾斜する傾斜部120が形成される。傾斜部120は、タイヤ周方向の一方側に向かって徐々に傾斜する。
傾斜部120を有しないブロック100の面積(S1)に対する傾斜部120を有するブロック110B踏面の面積(S2)の比(S2/S1)は、45%以上、85%以下である。なお、当該比は、55%以上、75%以下が好ましく、60%以上、70%以下がより好ましい。
[作用・効果]
次に、上述した空気入りタイヤ10, 10Aの作用・効果について説明する。表1は、空気入りタイヤ10, 10Aを含む評価試験の結果を示す。
評価試験に用いた車両及びタイヤサイズは、以下のとおりである。
・タイヤサイズ:195/65R15
・使用車両: トヨタ・プリウス
評価試験では、路面温度が異なる氷上路面における制動性能及び加速性能について評価した。制動性能については、所定速度からの停止距離を測定し、加速性能については、停止状態から所定速度までの到達時間を測定した。数値は、従来例及び実施例の各例の値を比較例の値で除した、比較例の値を100としたインデックスである。
「フィーリング」は、テストドライバーによる各タイヤの操縦性や安定性などのフィーリングを総合的に評価したものであり、数値が高い程フィーリングが優れていることを意味する。
「従来例」は、ブロックに多数のサイプが形成された市場において広く用いられている一般的なスタッドレスタイヤである。「比較例」は、特開2014-104768号公報などに開示されているトレッドパターンを有するタイヤである。
「実施例1」は、空気入りタイヤ10と同一トレッドパターンを有するタイヤであり、「実施例2」は、空気入りタイヤ10Aと同一トレッドパターンを有するタイヤである。「実施例3」は、空気入りタイヤ10から孔溝300を除外したトレッドパターンを有するタイヤである。
表1に示すように、実施例1〜3では、制動性能及び加速性能とも、バランス良く向上している。特に、制動性能の向上が著しい。また、実施例1及び実施例2では、従来例と比較して加速性能も大きく向上している。
表2は、車両の静止時における接地面積を1.0とした場合における制動時及び加速時(0.2Gの減速Gまたは加速G発生時)における接地面積の変動の測定結果を示す。
表2に示すように、実施例2(空気入りタイヤ10A)の場合、制動時における接地面積の減少が抑制されるとともに、加速時における接地面積の向上が著しい。つまり、実施例2では、制動時及び加速時におけるブロック100の倒れ込みによるブロック100の路面からの浮き上がりが効果的に抑制されていることが解る。
図8(a)及び(b)は、上述した空気入りタイヤ10のブロック100による作用の説明図である。図8(a)は、比較例に係るタイヤのブロックが制動時に変形する様子を示す。図8(b)は、実施例に係る空気入りタイヤ10のブロック100が制動時に変形する様子を示す。
図8(a)に示すように、比較例の場合、隣接するブロック100P間は、サイプでなく細溝が形成されているため、隣接するブロック同士は互いに支え合うことができず、制動時に図中の矢印の方向に前後力が入力されると、ブロックが、倒れ込んでしまい、路面Rから浮き上がり易くなる。
一方、図8(b)に示すように、実施例の場合、ブロック100の周縁部は、サイプ200によって区画されているため、制動時には、隣接するブロック100は、互いに支え合うことができるため、ブロック100の倒れ込みが抑制される。これにより、ブロック100が路面Rから浮き上がり難くなり、制動時における接地面積が確保し易い。なお、このような作用は、表2に示したように、加速時も同様である。
また、実施例によれば、制動時や加速時における接地面積を確保し易いため、氷上路面に限らず、ドライ路面でも同様に制動性能及び加速性能を向上し得る。さらに、隣接するブロック100が互いに支え合う実施例のような形状は、横力が入力された場合におけるブロック100の倒れ込み抑制にも寄与するため、コーナリング性能や操縦安定性の向上にも寄与する。
上述したように、空気入りタイヤ10によれば、ブロック100の周縁部100fは、サイプ200及び内側溝400によって隣接するブロック100と区画される。また、サイプ200のタイヤ径方向内側には、内側溝400が形成される。内側溝400は、サイプ200と連通する。
このため、上述したように、隣接するブロック100は、互いに支え合うことができるため、ブロック100の倒れ込みが抑制され、結果的に制動時などに接地面積を確保し易い。より具体的には、ブロック100のような比較的寸法の小さいブロックのメリットである接地長Lの増加を維持しつつ、制動時や加速時における接地面積の増大を図っている。
さらに、サイプ200のタイヤ径方向内側には内側溝400が連通しているため、ブロック100が隣接して複数設けられたブロック列において、ブロック100の踏面から、サイプ200、内側溝400へ水膜を速やかに誘導でき、効果的に水膜を除去できる。
より具体的には、ブロック100が路面と接地し、踏面においてサイプ200が閉じても、水膜が内側溝400内に吸い込まれ易く、氷上路面において、μ低下の原因となる水膜を除去し易い。
これにより、接地面積が比較的小さいブロック100を密集して配置したトレッドパターンを用いる場合において、一定以上の制動力や駆動力が発生している状態でも十分な氷上性能を発揮し得る。
また、ブロック列には、多数のサイプ200が形成されるため、特に、積雪路面(圧雪路面)において路面を引っ掻く十分なエッジ効果も発揮し得る。これにより、氷上路面に限らず、従来例及び比較例と比較して、必要十分な積雪路面の性能も確保し得る。
さらに、ブロック100の倒れ込みが抑制されるため、ブロック100のクラック発生も抑制でき、長期間に渡る性能維持に寄与する。
本実施形態では、ブロック100は、多角形状であり、隣接するサイプ200の連通領域には、内側溝400に連通する孔溝300が形成される。このため、孔溝300を介して水膜がタイヤ径方向内側に形成されている内側溝400にさらに誘導され易くなる。これにより、氷上性能をさらに向上し得る。さらに、内側溝400は、周方向溝50, 60に連通しているため、ブロック列20と路面との間に入り込んだ水膜を速やかに除去できる。
また、このような効果は、氷上路面に限らず、ウェット路面でも同様である。
なお、ブロック列20などを成形するために用いられる加硫成形モールドに設けられるブレードは、寸法が小さいブロック100を密集して多数するため、複雑な形状となり易く、耐久性の確保が難しくなる場合があるが、サイプ200が交差する部分に孔溝300が形成されることによって、孔溝300を形成するブレードの部分が、ブレード全体の補強要素となるため、ブレード(加硫成形モールド)の耐久性確保の観点からも好ましい。
本実施形態では、内側溝400は、タイヤ径方向内側に行くに連れて内側溝400の溝幅が広くなるフラスコ型である。このため、サイプ200に入り込んだ水膜は、徐々に溝幅が広くなる内側溝400に層流としてスムーズに吸い込まれ易い。また、フラスコ型の内側溝400の形状によって、ブロック100は、タイヤ径方向外側に行くに連れて徐々に剛性が高くなるため、タイヤ径方向における剛性段差を低減できる。
なお、内側溝400がフラスコ型であるため、内側溝400を形成するためのブレードを加硫されたトレッド部15から引き抜く際に、抵抗にならずに引き抜き易い。
本実施形態では、ブロック100の各辺は、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向に対して傾斜している。このため、ブロック列20は、特定の方向だけでなく、全ての方向において一定以上の剛性を発揮し得る。これにより、接地面積の確保による制動性能及び加速性能にさらに寄与する。
また、ブロック列20のタイヤ幅方向外側に形成されている周方向溝50, 60への排水を妨げない。これにより、排水性の向上による氷上路面及びウェット路面でのさらなる性能向上を図り得る。
本実施形態では、ブロック列20では、タイヤ幅方向において、少なくとも3個以上のブロック100が隣接して設けられる。このため、寸法が小さいブロック100を密集して配置したブロック列20の場合でも必要な剛性を確保できる。
本実施形態では、ブロック100は、サイプまたは溝が形成されていない一塊状である。従来から広く採用されているようなブロック内にサイプや溝を形成したトレッドパターンは、吸水性能、排水性能、及びエッジ効果を追求すると、ブロックの剛性が低下してしまい、トレードオフの関係になり易い。
それぞれのブロック100内には、サイプまたは溝が一切形成されていないため、ブロック100の剛性がさらに低下することを回避している。さらに、ブロック100は、接地時に互いに支え合うため、ブロック100の寸法を小さくしても、ブロック100の実質的な剛性は低下しない。
また、空気入りタイヤ10Aには、導入溝部500が形成される。導入溝部500は、タイヤ周方向の一方側、具体的には、回転方向Roの反対方向に向けて凸となっている。また、導入溝部500の凸と対応するブロック110Aの踏面には、傾斜部120が形成される。
このため、導入溝部500を介して水膜が内側溝400内に速やか、かつスムーズに誘導される。これにより、排水性の向上による氷上路面及びウェット路面でのさらなる性能向上を図り得る。なお、導入溝部500は、トレッド面視においてV字状であるが、通常のV字状の溝は、回転方向Roに向けて凸となっており、導入溝部500と逆向きである点で異なっている。また、ブロック110Aは傾斜部120を有し、何れかのサイプ200及び内側溝400と直交するように導入溝部500が形成されるため、さらに効果的に水膜を内側溝400に誘導し得る。
[その他の実施形態]
以上、実施例に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
例えば、上述した空気入りタイヤ10のように、トレッド部15全体に渡ってブロック100が密集して形成されていなくても構わない。図9は、本発明の他の実施形態に係る空気入りタイヤ10Bのトレッド面の一部平面展開図である。
図9に示すように、複数のブロック100が密集して形成されるブロック列20Bは、タイヤ幅方向において、トレッド部15Bの一部のみに設けられていても構わない。つまり、トレッド部15Bには、タイヤ周方向に沿って延びるリブ状のブロック列30Bや、ブロック100よりも寸法が大きく、トレッド面視において長方形状であるブロックによって構成されるブロック列40Bが設けられていてもよい。なお、ブロック列20Bと組み合わせるブロック列は、空気入りタイヤ10Bに要求される性能に応じて適宜変更してもよい。
また、上述した実施形態では、ブロック100は、トレッド面視において四角形状(実質的には八角形状)であったが、ブロック100は、三角形や六角形などの多角形状であればよい。さらに、ブロック100の周縁部100fの角部分を面取りしたり、当該角部分をラウンド形状(テーパー形状)としたりすることによって、実質的に楕円形或いは円形に近い形状となってもよい。
上述した実施形態では、孔溝300が形成されていたが、孔溝300は、必ずしも形成されていなくても構わない。さらに、孔溝300は、トレッド面視において四角形状でなくてもよい。但し、孔溝300は、ブロック100の剛性や耐久性確保の観点から、ブロック100の周縁部100fの角部分が鋭角にならないような形状とすることが好ましい。
上述した実施形態では、サイプ200、具体的には、サイプ210〜240は、トレッド面視において、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向に対して約45度傾斜していたが、サイプ200の延在方向は、このような角度に限定されない。例えば、サイプ210, 230は、タイヤ周方向に近い角度で延在し、サイプ220, 240は、タイヤ幅方向に近い角度で延在してもよい。
また、上述した実施形態では、トレッド部15の踏面までサイプ200が形成されていたが、踏面側には、サイプ200よりも溝幅(サイプ幅)が広い溝が形成されていても構わない。サイプは接地面内では閉じるが、溝は接地面内でも閉じないが、大きな外力を受けたときに、隣接ブロックが接触して溝の一部が閉じてもブロック同士が支え合うことができるならば、当該溝でもサイプと同様の機能を果たすことができ、また、タイヤ径方向内側には、サイプが形成されているため、隣接ブロック同士が支え合うができるからである。つまり、ブロック100が互いに支え合うことができるようなサイプ200が径方向外側部101に形成されていれば、サイプ200の踏面側には、サイプ200よりも溝幅(サイプ幅)が広い溝が形成されていてもよい。
さらに、上述した実施形態では、サイプ200と内側溝400とが連通していたが、上述したように、サイプ200と内側溝400とは、トレッド面視において、必ずしも全ての領域において連通していなくてもよく、一部の領域では、隣接するブロック100間を連結するタイバーのような連結部によって、サイプ200と内側溝400とが分断されていてもよい。或いは、サイプ200と内側溝400との間に、異なる形状の溝が形成されていても構わない。
また、内側溝400は、必ずしも形成されていなくてもよく、内側溝400に代えてサイプ200が径方向内側部102まで形成されていてもよい。
上記のように、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。