図1は、本発明が適用される車両10の概略構成を説明する図である。図1において、車両10は、走行用の駆動源として機能するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等のエンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間に設けられた動力伝達装置16とを備えている。動力伝達装置16は、非回転部材としてのハウジング18内において、エンジン12に連結された流体式伝動装置としてのトルクコンバータ20、トルクコンバータ20に連結された入力軸22、入力軸22に連結されたベルト式無段変速機24(以降、無段変速機と呼ぶ)、同じく入力軸22に連結された前後進切替装置26、前後進切替装置26を介して入力軸22に連結されて無段変速機24と並列に設けられたギヤ伝動部としてのギヤ伝動機構28、無段変速機24及びギヤ伝動機構28の共通の出力回転部材である出力軸30、カウンタ軸32、出力軸30及びカウンタ軸32に各々相対回転不能に設けられて噛み合う一対のギヤから成る減速歯車装置34、カウンタ軸32に相対回転不能に設けられたギヤ36に連結されたデフギヤ38、デフギヤ38に連結された1対の車軸40等を備えている。このように構成された動力伝達装置16において、エンジン12の動力(特に区別しない場合にはトルクや力も同義)は、トルクコンバータ20、無段変速機24或いは前後進切替装置26及びギヤ伝動機構28、減速歯車装置34、デフギヤ38、及び車軸40等を順次介して1対の駆動輪14へ伝達される。また、エンジン12の作動中は、エンジン12の出力トルクは常時入力軸22に入力される。
このように、動力伝達装置16は、エンジン12(ここではエンジン12の動力が伝達される入力回転部材である入力軸22も同意)と駆動輪14(ここでは駆動輪14へエンジン12の動力を出力する出力回転部材である出力軸30も同意)との間に並列に設けられた、第1変速部としてのギヤ伝動機構28及び第2変速部としての無段変速機24を備えている。よって、動力伝達装置16は、エンジン12の動力を入力軸22からギヤ伝動機構28を介して駆動輪14側(すなわち出力軸30)へ伝達する第1動力伝達経路PT1と、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機24を介して駆動輪14側(すなわち出力軸30)へ伝達する第2動力伝達経路PT2との複数の動力伝達経路PTを、入力軸22と出力軸30との間に並列に備えている。動力伝達装置16は、車両10の走行状態に応じてその第1動力伝達経路PT1とその第2動力伝達経路PT2とが切り替えられる。その為、動力伝達装置16は、エンジン12の動力を駆動輪14側へ伝達する動力伝達経路PTを、第1動力伝達経路PT1と第2動力伝達経路PT2とで選択的に切り替える複数の係合装置を備えている。この係合装置は、第1動力伝達経路PT1を断接する第1クラッチC1と、第2動力伝達経路PT2を断接する第2係合装置としての第2クラッチC2とを含んでいる。
トルクコンバータ20は、入力軸22回りにその入力軸22に対して同軸心に設けられており、エンジン12に連結されたポンプ翼車20p、及び入力軸22に連結されたタービン翼車20tを備えている。ポンプ翼車20pには、無段変速機24を変速制御したり、前記複数の係合装置を作動したり、動力伝達装置16の各部に潤滑油を供給したりする為の作動油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生して油圧制御回路80に供給する機械式のオイルポンプ42が連結されている。エンジン12の作動中には、エンジン12の出力トルクがトルクコンバータ20を介して常時入力軸22へ入力される。
前後進切替装置26は、第1動力伝達経路PT1において入力軸22回りにその入力軸22に対して同軸心に設けられており、ダブルピニオン型の遊星歯車装置26p、第1クラッチC1、及び第1ブレーキB1を備えている。遊星歯車装置26pは、入力要素としてのキャリヤ26cと、出力要素としてのサンギヤ26sと、反力要素としてのリングギヤ26rとの3つの回転要素を有する差動機構である。キャリヤ26cは入力軸22に一体的に連結され、リングギヤ26rは第1ブレーキB1を介してハウジング18に選択的に連結され、サンギヤ26sは入力軸22回りにその入力軸22に対して同軸心に相対回転可能に設けられた小径ギヤ44に連結されている。又、キャリヤ26cとサンギヤ26sとは、第1クラッチC1を介して選択的に連結される。よって、第1クラッチC1は、前進ギヤ走行のために前記3つの回転要素のうちの2つの回転要素を選択的に連結する係合装置であり、第1ブレーキB1は、後進進行のために前記反力要素としてのリングギヤ26rをハウジング18に選択的に連結する係合装置である。
ギヤ伝動機構28は、小径ギヤ44と、ギヤ機構カウンタ軸46回りにそのギヤ機構カウンタ軸46に対して同軸心に相対回転不能に設けられてその小径ギヤ44と噛み合う大径ギヤ48とを備えている。又、ギヤ伝動機構28は、ギヤ機構カウンタ軸46回りにそのギヤ機構カウンタ軸46に対して同軸心に相対回転可能に設けられたアイドラギヤ50と、出力軸30回りにその出力軸30に対して同軸心に相対回転不能に設けられてそのアイドラギヤ50と噛み合う出力ギヤ52とを備えている。出力ギヤ52は、アイドラギヤ50よりも大径である。従って、ギヤ伝動機構28は、入力軸22と出力軸30との間の動力伝達経路PTにおいて、所定の変速比(変速段)としての1つの変速比(変速段)が形成されるギヤ伝動機構である。ギヤ機構カウンタ軸46回りには、更に、大径ギヤ48とアイドラギヤ50との間に、これらの間を選択的に断接する噛合式クラッチD1が設けられている。噛合式クラッチD1は、動力伝達装置16に備えられて、前後進切替装置26(第1クラッチC1も同意)と出力軸30との間の動力伝達経路に配設された(換言すれば第1クラッチC1よりも出力軸30側に設けられた)、第1動力伝達経路PT1を断接する第3係合装置(換言すれば前記第1クラッチC1と共に係合されることで第1動力伝達経路PT1を形成する第3係合装置)として機能するものであり、前記複数の係合装置に含まれる。
具体的には、噛合式クラッチD1は、ギヤ機構カウンタ軸46回りにそのギヤ機構カウンタ軸46に対して同軸心に相対回転不能に設けられたクラッチハブ54と、アイドラギヤ50とクラッチハブ54との間に配置されてそのアイドラギヤ50に固設されたクラッチギヤ56と、クラッチハブ54に対してスプライン嵌合されることによりギヤ機構カウンタ軸46の軸心回りの相対回転不能且つその軸心と平行な方向の相対移動可能に設けられた円筒状のスリーブ58とを備えている。クラッチハブ54と常に一体的に回転させられるスリーブ58がクラッチギヤ56側へ移動させられてそのクラッチギヤ56と噛み合わされることで、アイドラギヤ50とギヤ機構カウンタ軸46とが接続される。更に、噛合式クラッチD1は、スリーブ58とクラッチギヤ56とを嵌合する際に回転を同期させる、同期機構としての公知のシンクロメッシュ機構S1を備えている。このように構成された噛合式クラッチD1では、フォークシャフト60が油圧アクチュエータ62によって作動させられることにより、フォークシャフト60に固設されたシフトフォーク64を介してスリーブ58がギヤ機構カウンタ軸46の軸心と平行な方向に摺動させられ、係合状態と解放状態とが切り替えられる。
第1動力伝達経路PT1は、噛合式クラッチD1と噛合式クラッチD1よりも入力軸22側に設けられた第1クラッチC1(又は第1ブレーキB1)とが共に係合されることで形成される。第1クラッチC1の係合により前進用動力伝達経路が形成され、第1ブレーキB1の係合により後進用動力伝達経路が形成される。動力伝達装置16では、第1動力伝達経路PT1が形成されると、エンジン12の動力を入力軸22からギヤ伝動機構28を経由して出力軸30へ伝達することができる動力伝達可能状態とされる。なお、第1動力伝達経路PT1の変速比は、第2動力伝達経路PT2の変速比γcvtにおける最大変速比γmaxよりも大きい変速比に設定されている。一方で、第1動力伝達経路PT1は、少なくとも第1クラッチC1及び第1ブレーキB1が共に解放されるか、或いは少なくとも噛合式クラッチD1が解放されると、動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)とされる。第1クラッチC1及び第1ブレーキB1は、いずれも油圧アクチュエータによって摩擦係合させられるバンド式或いは湿式多版式の油圧式摩擦係合装置であり油圧制御回路80から供給される作動油によって摩擦係合されるようになっている。
無段変速機24は、エンジン12と共に回転する入力軸22に設けられた有効径が可変のプライマリプーリ(プライマリシーブ)66と、出力軸30と同軸心の回転軸68に設けられた有効径が可変のセカンダリプーリ(セカンダリシーブ)70と、それら各プーリ66,70の間に巻き掛けられた伝動ベルト72とを備え、各プーリ66,70と伝動ベルト72との間の摩擦力(ベルト挟圧力)を介して動力伝達が行われる。プライマリプーリ66では、プライマリプーリ66へ供給するシーブ油圧(すなわちプライマリ側油圧アクチュエータ66cへ供給されるプライマリ圧Pin)が制御装置に対応する電子制御装置90(図3,4参照)により駆動される油圧制御回路80(図3,4参照)によって調圧制御されることにより、固定シーブ66a,可動シーブ66b間のV溝幅を変更するプライマリ推力Win(=プライマリ圧Pin×受圧面積)が付与される。又、セカンダリプーリ70では、セカンダリプーリ70へ供給するシーブ油圧(すなわちセカンダリ側油圧アクチュエータ70cへ供給されるセカンダリ圧Pout)が油圧制御回路80によって調圧制御されることにより、固定シーブ70a,可動シーブ70b間のV溝幅を変更するセカンダリ推力Wout(=セカンダリ圧Pout×受圧面積)が付与される。無段変速機24では、プライマリ推力Win(プライマリ圧Pin)及びセカンダリ推力Wout(セカンダリ圧Pout)が各々制御されることで、各プーリ66,70のV溝幅が変化して伝動ベルト72の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γcvt(=プライマリシーブ回転速度Npri/セカンダリシーブ回転速度Nsec)が変化させられると共に、伝動ベルト72が滑りを生じないように各プーリ66,70と伝動ベルト72との間の摩擦力が制御される。
出力軸30は、回転軸68回りにその回転軸68に対して同軸心に相対回転可能に配置されている。第2クラッチC2は、無段変速機24よりも駆動輪14(ここでは出力軸30も同意)側に設けられており(すなわちセカンダリプーリ70と出力軸30との間に設けられており)、セカンダリプーリ70(回転軸68)と出力軸30との間を選択的に断接する。第2動力伝達経路PT2は、第2クラッチC2が係合されることで形成される。動力伝達装置16では、第2動力伝達経路PT2が形成されると、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機24を経由して出力軸30へ伝達することができる動力伝達可能状態とされる。一方で、第2動力伝達経路PT2は、第2クラッチC2が解放されると、ニュートラル状態とされる。第2クラッチC2は、油圧アクチュエータによって摩擦係合させられるバンド式或いは湿式多版式の油圧式摩擦係合装置であり油圧制御回路80から供給される作動油によって摩擦係合されるようになっている。
動力伝達装置16の作動について、以下に説明する。図2は、電子制御装置90により切り替えられる動力伝達装置16の各走行パターン(走行モード)毎の係合装置の係合表を用いて、その走行パターンの切り替わりを説明する為の図である。図2において、C1は第1クラッチC1の作動状態に対応し、C2は第2クラッチC2の作動状態に対応し、B1は第1ブレーキB1の作動状態に対応し、D1は噛合式クラッチD1の作動状態に対応し、「○」は係合(接続)を示し、「×」は解放(遮断)を示している。
図3は、車両10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。図3において、車両10は、例えば動力伝達装置16の制御装置を含む電子制御装置90を備えている。よって、図3は、電子制御装置90の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置90による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置90は、エンジン12の出力制御、無段変速機24の変速制御、動力伝達装置16の走行パターンの切替制御等を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置90には、車両10が備える各種センサ、例えば各種回転速度センサ110、112、114、116、油温センサ118、プライマリ油圧を検出するプライマリ圧センサ120、セカンダリ油圧を検出するセカンダリ圧センサ122、ブレーキスイッチ124、アクセル開度センサ126、シフト位置センサ128等による検出信号に基づく各種実際値、例えばエンジン回転速度Ne(rpm)、タービン回転速度Nt(rpm)とも呼ばれる入力軸回転速度Nin(rpm)であるプライマリシーブ回転速度Npri(rpm)、回転軸68の回転速度であるセカンダリシーブ回転速度Nsec(rpm)、車速Vに対応する出力軸回転速度Nout(rpm)、作動油の油温Toil(℃)、プライマリ圧Pin(MPa)、セカンダリ圧Pout(MPa)、ブレーキ操作信号Bon、アクセル開度θacc(%)、シフトポジションPshなどが、それぞれ供給される。又、電子制御装置90からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号Se、無段変速機24の変速に関する油圧制御の為の油圧制御指令信号Scvt、動力伝達装置16の走行パターンの切替えに関連する第1クラッチC1、第1ブレーキB1、第2クラッチC2、及び噛合式クラッチD1を制御する為の油圧制御指令信号Sswt等が、それぞれ出力される。例えば、油圧制御指令信号Sswtとして、第1クラッチC1、第1ブレーキB1、第2クラッチC2、噛合式クラッチD1の各々の油圧アクチュエータへ供給される各油圧を調圧する各ソレノイド弁を駆動する為の指令信号(油圧指令)が油圧制御回路80へ出力される。
図4は、動力伝達装置16に備えられた油圧制御回路80のうちで無段変速機24と第1クラッチC1と第2クラッチC2と噛合式クラッチD1とに関わる油圧を制御する部分を説明する図である。各電磁弁SLP,SLS,SL1,SL2,SLGは、何れも、電子制御装置90から出力される油圧制御指令信号(駆動電流)によって駆動されるリニアソレノイド弁である。プライマリ圧制御弁82は、プライマリ用電磁弁SLPから出力されるSLP圧Pslpに基づいて作動させられることでプライマリ圧Pinを調圧する。セカンダリ圧制御弁84は、セカンダリ用電磁弁SLSから出力されるSLS圧Pslsに基づいて作動させられることでセカンダリ圧Poutを調圧する。シンクロ制御弁88は、シンクロ用電磁弁SLGから出力されるSLG圧Pslgに基づいて作動させられることでシンクロ制御圧Ps1を調圧する。ニュートラル制御中は、シンクロ制御弁88は、シンクロ制御圧Ps1によって噛合式クラッチD1を係合する。C1圧制御弁86は、C1用電磁弁SL1から出力されるSL1圧Psl1をC1圧Pc1として第1クラッチC1の図示されていない油圧アクチュエータに供給することで、パック詰めと呼ばれる第1クラッチC1の係合が開始される直前の状態とする制御を行う。C2圧制御弁87は、C2用電磁弁SL2から出力されるSL2圧Psl2をC2圧Pc2として第2クラッチC2へ供給する油路の連通と遮断とを切り替える。また、油圧制御回路80とプライマリプーリ66およびセカンダリプーリ70とをつなぐ油路の内、油圧制御回路80とプライマリプーリ66をつなぐ油路にはプライマリ圧Pinを検出するためのプライマリ圧センサ120が備えられ、油圧制御回路80とセカンダリプーリ70とをつなぐ油路にはセカンダリ圧Poutを検出するためのセカンダリ圧センサ122が備えられている。
車両10のエンジン12の作動を伴う停車の際に、第1クラッチC1を解放ないしスリップ状態とするニュートラル制御を行う場合、燃費を改善するとともに、車両10の発進時の応答性とを改善するために、第1クラッチC1を係合開始直前の状態とする、いわゆるパック詰め状態に制御することが望ましい。第1クラッチC1の完全ニュートラル時、すなわち第1クラッチC1油圧Pc1を低減し第1クラッチC1を解放状態とした場合のトルクコンバータ20のタービン回転速度Ntとエンジン回転速度Neとの比(Nt/Ne)すなわち速度比Eは、限界速度比E0と言われ、この限界速度比E0から所定値αを減じた速度比Eを目標速度比Etとして設定し、第1クラッチC1の油圧Pc1を制御することによって目標速度比Etに近づける制御がおこなわれる。なお、ニュートラル制御においては、噛合式クラッチD1は係合状態とされる。トルクコンバータ20と無段変速機24との間にトルクコンバータ20からの出力トルクを断接する第2クラッチC2を備えた動力伝達装置16においては、限界速度比E0は、作動油の油温Toilとエンジン回転速度Neとで決定される。図5はその一例であり、作動油の油温Toilとエンジン回転速度Neとから限界速度比E0を設定することができる。一方、トルクコンバータ20の出力トルクが入力される入力軸22にプライマリプーリ66が連結されている構造においては、作動油の油温Toilとエンジン回転速度Neとから限界速度比E0を設定した場合には、設定された限界速度比E0が適切でないことによって、車両10の停車状態から発進に切換えられる復帰時において第1クラッチC1の係合の応答性の遅れおよび係合時のショックを発生する虞がある。
図6は、トルクコンバータ20の出力トルクが入力される入力軸22にプライマリプーリ66が連結されている構造を持つ動力伝達装置16において、無段変速機24のセカンダリプーリ70のプライマリ側アクチュエータ70cに供給する油圧であるセカンダリ圧Poutを変化させた場合の限界速度比E0の変化の一例を示している。トルクコンバータ20の出力トルクが入力される入力軸22にプライマリプーリ66が連結されている構造を持つ動力伝達装置16においては、ニュートラル制御中においても無段変速機24が回転している。無段変速機24のプライマリプーリ66とセカンダリプーリ70とは、伝動ベルト72を介して連結されており、入力軸22から回転軸68へのトルク伝達は、伝動ベルト72とプライマリプーリ66およびセカンダリプーリ70との摩擦力によって行われる。また、伝動ベルト72内部においても小さなスリップを生じており伝動ベルト72とプライマリプーリ66およびセカンダリプーリ70との摩擦力とともに損失を生じている。これらの損失は摩擦損失であり、伝動ベルト72のベルト挟圧力を変化させると無段変速部24における損失が変化することとなる。したがって、限界速度比E0の設定については、プライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとに対応する摩擦損失に係わる限界速度比E0の変動を考慮する必要がある。
図7は、プライマリ圧Pinを一定の比較的低圧の油圧P0に設定し、セカンダリ圧Poutを変化させた際の速度比Eの変化の一例を示している。t1時点において、セカンダリ圧Poutは油圧P8から油圧P7に減少され、限界速度比E0すなわちタービン回転速度Ntをエンジン回転速度Neによって除した値も上昇している。t2時点において、セカンダリ圧Poutは油圧P6に減少され、限界速度比E0もこれにともなって上昇している。t3時点からt8時点までセカンダリ圧Poutは、油圧P5から油圧P1まで段階的に減少され、限界速度比E0は段階的に上昇している。図7の例においては、セカンダリ圧Poutを段階的に変化させながら、プライマリ圧Pinが油圧P0である場合の限界速度比E0の測定を行っている。なお、目標速度比Etは、実際の限界速度比E0の平均値から所定の値αを減じた数値で設定されている。
図3に戻り、ニュートラル制御判定手段92は、停車時におけるニュートラル制御の成立、すなわちシフトポジションPshが走行ポジションにあり、アクセル開度θaccが略零であり、ブレーキ操作信号Bonによってブレーキ操作が踏込まれ、車速Vが略零であることの全てが確認されることによってニュートラル制御の開始を判定する。なお、ニュートラル制御の開始の条件には、上記を最小限の条件とし、上記の条件以外を加えてもかまわない。ニュートラル条件が成立すると、限界速度比判定手段96は、油温Toil、エンジン回転数Ne、プライマリ圧Pin、セカンダリ圧Poutとから、これらを変数としてたとえば図7等によって算出された予め定められた関係(マップ)に基づいて、限界速度比E0を判定する。目標速度比設定手段98は、限界速度比判定手段96によって判定された限界速度比E0から予め定められた所定値αを減じた速度比Eを目標速度比Etとして設定する。目標速度比制御手段100は、タービン回転速度Ntとエンジン回転速度Neとの比である速度比Eを目標速度比設定手段98によって設定された目標速度比Etに近づけるように、第1クラッチC1の油圧Pc1をC1圧制御弁86によって制御し、第1クラッチC1の係合を調整することによって、第1クラッチC1のパック詰めを実施する。また、目標速度比制御手段100は、ニュートラル制御判定手段92が停車時におけるニュートラル制御が成立しないと判断すると、第1クラッチC1のパック詰めを目的とした第1クラッチC1の係合制御を停止する。また、第1クラッチC1への油圧Pc1を変更する指示が生じるまでは、第1クラッチC1への油圧Pc1を直前に設定されていた油圧に維持する。
図10は、電子制御装置90の制御作動の要部すなわち停車時におけるニュートラル制御において、限界速度比E0の判定および目標速度比Etの設定と第2クラッチC2の制御作動とを説明するフローチャートであり、繰り返し実行される。
図10において、ニュートラル制御判定手段92の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、停車時のニュートラル制御条件が成立するか否かが判定される。停車時におけるニュートラル制御の成立は、シフトポジションPshが走行ポジションにあり、アクセル開度θaccが略零であり、ブレーキ操作信号Bonによってブレーキ操作が踏込まれ、車速Vが略零であることによって判定される。また上記以外の条件が加えられてもかまわない。このS10の判断が否定される場合は、本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合は、限界速度比判定手段96の機能に対応するS20において、油温Toil、エンジン回転速度Ne、プライマリプーリ66に供給されるプライマリ圧Pin、セカンダリプーリ70に供給されるセカンダリ圧Poutとに基づいて、予め定められた関係(マップ)を用いて限界速度比E0が判定される。目標速度比設定手段98の機能に対応するS30において、設定された限界速度比E0から所定値αを減じることで目標速度比Etが設定される。目標速度比制御手段100の機能に対応するS40において、目標速度比Etが維持されるように第1クラッチC1に供給される油圧Pc1が制御される。ニュートラル制御判定手段92の機能に対応するS50において、ニュートラル制御条件の解除が判定される。この判定が否定される場合は、第1クラッチC1に供給される油圧Pc1が調整されることによって目標速度比Etを維持する制御が継続される。またこの判定が肯定された場合は、目標速度比制御手段100の機能に対応するS60において、第1クラッチC1への油圧は変更の指示が生じるまで直前に設定されていた油圧に維持され、目標速度Etを維持する制御は終了される。
エンジン12の動力を作動油を介して伝達するトルクコンバータ20の出力トルクが常に入力される入力軸22にプライマリプーリ66が設けられた動力伝達装置16においては、第1クラッチC1および第2クラッチC2を解放する場合においても、無段変速機24はトルクコンバータ20からの出力トルクによって前記入力軸とともに回転することとなる。従って、ニュートラル制御において、エンジン回転速度Neと作動油の油温Toilとから限界速度比E0を判定し、判定された限界速度比E0から設定された目標速度比Etを用いて第1クラッチC1の制御によって目標速度比Etに近づける制御を行った場合には、前記シーブと伝動ベルトとの摩擦および前記伝動ベルト内部の摩擦による損失が考慮されていないことによって、燃費が低下すると共に、車両が発進に切換えられた際の応答性の遅れおよびクラッチ係合時のショックが発生する虞がある。本実施例によれば、プライマリプーリ66およびセカンダリプーリ70と伝動ベルト72との摩擦による損失、および伝動ベルト内部の摩擦を考慮して目標速度比Etを決定するため、プライマリプーリ66に供給されるプライマリ圧Pinとセカンダリプーリ70に供給されるセカンダリ圧Poutとが変動することによる限界速度比E0の変動を予め測定し、変動を限界速度比E0の算出に加えることによって限界速度比E0を適切な値に設定することが可能となり、適切に設定された限界速度比E0を用いて算出された目標速度比Etを用いることによって、燃費が改善されると共に、車両が発進に切換えられた際の応答性の遅れおよびクラッチ係合時のショックが抑制される。
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において上記の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
実施例1においては、限界速度比E0を作動油の油温Toilとエンジン回転速度Neとに加えて、プライマリ圧Pinおよびセカンダリ圧Poutの変動に基づいて限界速度比E0を判断するものであった。本実施例においては、セカンダリ圧Poutの設定を、予め設定された油圧Pa(MPa)とし、プライマリ圧Pinが変動した場合においても無段変速機24の変速比γcvtが最大変速比γmaxとなるように設定することにおいて実施例1と異なっている。
図8において、セカンダリ油圧Poutをプライマリ油圧Pinの変動に係わらず限界速度比E0が変動しないように予め設定された油圧Paとし、無段変速機24の変速比γcvtを最大変速比γmaxとした場合のプライマリ油圧Pinと限界速度比E0との関係が示されている。上記の設定においては、セカンダリ油圧Poutによって伝動ベルト72の挟圧力がほぼ決定され、プーリ66、70と伝動ベルト72との摩擦および伝動ベルト72内部の摩擦による損失がほぼ同一となるため、限界速度比E0は、ほぼ一定値を示している。
図9は、セカンダリ油圧Poutをプライマリ油圧Pinの変動に係わらず限界速度比E0がほとんど変動しない油圧Paに設定しプライマリ圧Pinを変化させた際の速度比Eの変化の一例を示している。t1時点において、プライマリ圧PinはP1からP2に増加されているが、限界速度比E0すなわちタービン回転速度Ntをエンジン回転速度Neによって除した値は、多少変動しているが平均値は速度比E01を示している。t2時点において、プライマリ圧PinはP3に増加され、限界速度比E0の変動は減少しているが、平均値は速度比E01から変化していない。t3時点、t4時点において、プライマリ圧PinはP4、P5へとさらに増加されているが、限界速度比E0はt2時点とほぼ同一であり平均値は速度比E01を示している。したがって、図9においては、プライマリ圧Pinの変動に係わらず、限界速度比E0は一定値である平均値E01から変化していない。従って、目標速度比Etについても限界速度比E0の平均値E01から所定値αを減じた値とすることで、プライマリ圧Pinの変動の影響を受けない一定の目標速度比Etを設定することができる。
図3に戻り、ニュートラル制御判定手段92は、停車時におけるニュートラル制御の成立、すなわちシフトポジションPshが走行ポジションにあり、アクセル開度θaccが略零であり、ブレーキ操作信号Bonによってブレーキ操作が踏込まれ、車速Vが略零であることが確認されることによってニュートラル制御の開始を判定する。なお、ニュートラル制御の開始の条件に上記を最小限の条件とし、上記の条件以外を加えてもかまわない。ニュートラル条件が成立すると、鎖線で囲まれたセカンダリ圧設定手段94は、セカンダリ圧Poutを無段変速機24の変速比γcvtがプライマリ圧Pinの変動に係わらず最大変速比γmaxを維持できるように予め設定されているPaに設定し、限界速度比E0を一定値であるE01に維持する。目標速度比設定手段98は、セカンダリ圧設定手段94によって設定された限界速度比E01から予め定められた所定値αを減じた速度比Eを目標速度比Etとして設定する。目標速度比制御手段100は、タービン回転速度Ntとエンジン回転速度Neとの比である速度比Eを目標速度比設定手段98によって設定された目標速度比Etに近づけるように、第1クラッチC1の油圧Pc1をC1圧制御弁86によって制御し、第1クラッチC1の係合状態を調整することによって、第1クラッチC1のパック詰めを実施する。また、目標速度比制御手段100は、ニュートラル制御判定手段92が停車時におけるニュートラル制御が成立しないと判断すると、第1クラッチC1のパック詰めを目的とした第1クラッチC1の係合制御を停止する。
図11は、電子制御装置90の制御作動の要部すなわち停車時におけるニュートラル制御において、限界速度比E01の設定および目標速度比Etの設定と第2クラッチC2の制御作動とを説明するフローチャートであり、繰り返し実行される。
図11において、ニュートラル制御判定手段92の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S110において、停車時のニュートラル制御条件が成立するか否かが判定される。停車時におけるニュートラル制御の成立は、シフトポジションPshが走行ポジションにあり、アクセル開度θaccが略零であり、ブレーキ操作信号Bonによってブレーキ操作が踏込まれ、車速Vが略零であることの全てが成立することによって判定される。また上記以外の条件が加えられてもかまわない。このS110の判断が否定される場合は、本ルーチンが終了させられる。このS110の判断が肯定される場合は、セカンダリ圧設定手段94の機能に対応するS120において、セカンダリ圧Poutが予め実験的に求められ設定されたPaに維持され、限界速度比E0は、プライマリ油圧Pinの変動に係わらず一定値であるE01に設定される。目標速度比設定手段98の機能に対応するS130において、設定された限界速度比E01から所定値αを減じることで目標速度比Etが設定される。目標速度比制御手段100の機能に対応するS140において、目標速度比Etが維持されるように第1クラッチC1に供給される油圧Pc1が制御される。ニュートラル制御判定手段92の機能に対応するS150において、ニュートラル制御条件の解除が判定される。この判定が否定される場合は、第1クラッチC1に供給される油圧Pc1が調整されることによって目標速度比Etを維持する制御が継続される。またこの判定が肯定された場合は、目標速度比制御手段100の機能に対応するS160において、第1クラッチC1へ供給される油圧Pc1は変更の指示が生じるまで直前に設定されていた油圧に維持され、目標速度比Etを維持する制御は終了される。
エンジン12の動力を作動油を介して伝達するトルクコンバータ20の出力トルクが常に入力される入力軸22にプライマリプーリ66が設けられた動力伝達装置16においては、第2クラッチC2を解放する場合においても、無段変速機24はトルクコンバータ20からの出力トルクによって前記入力軸とともに回転することとなる。従って、ニュートラル制御において、エンジン回転速度Neと作動油の油温Toilとから限界速度比E0を判定し、判定された限界速度比E0から設定された目標速度比Etを用いて第1クラッチC1の制御によって目標速度比Etに近づける制御を行った場合には、プーリ66、70と伝動ベルト72との摩擦および伝動ベルト72内部の摩擦による損失が考慮されていないことによって、燃費が低下すると共に、車両が発進に切換えられた際の応答性の遅れおよびクラッチ係合時のショックが発生する虞がある。本実施例によれば、セカンダリプーリ70に供給されるセカンダリ圧Poutを無段変速機24の減速比γcvtをプライマリ圧Pinに係わらずに最大変速比γmaxに維持できる油圧Paとすることによって、プライマリ油圧Pinが変化したとしても無段変速機24の損失に変化が生じない。このため、目標速度比Etを、エンジン回転速度Ne、油温Toil、および予め実験を基に設定されたプライマリ圧Paとから算出することができる。したがって、プライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとの種々の組合せによって、限界速度比E0と目標速度比Etとを上記の組合せ毎に設定する必要のあった実施例1と比較して、制御が単純化されるとともに、限界速度比Etをプライマリ油圧Pinとセカンダリ油圧Poutとから決定するための測定も簡素化される。また、目標速度比Etをエンジン回転速度Ne、油温Toilとから算出する場合と比較し、限界速度比E0の変化に基づいてプーリ66、70と伝動ベルト72との摩擦および伝動ベルト72内部の摩擦による損失を更に考慮するため燃費の低下が抑制されると共に、車両が発進に切換えられた際の応答性の遅れおよびクラッチ係合時のショックが抑制される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
前述の実施例では、セカンダリ圧Poutを無段変速機24の変速比γcvtがプライマリ圧Pinの変動に係わらず最大変速比γmaxを維持できるように予め定められている油圧Paに設定するものとした。しかし伝動ベルト72への挟圧力は、プライマリ圧Pinとセカンダリ圧Poutとによって生じており、プライマリ圧Pinを増加させることによってもセカンダリ圧Poutの変動に係わらず一定の限界速度比E0を示すように調整することが可能ある。たとえばセカンダリ圧Poutの変動に係わらず所定の変速比γを維持できる高いプライマリ圧Pinに設定することによってセカンダリ油圧Poutの変動に係わらず限界速度比E0を一定にするものとしても良い。
前述の実施例では、エンジン12の動力を入力軸22から入力軸22に連結されて無段変速機24と並列に設けられたギヤ伝動部としてのギヤ伝動機構28を介して駆動輪14側へ伝達する第1動力伝達経路PT1と、エンジン12の動力を入力軸22から無段変速機24を介して駆動輪14側へ伝達する第2動力伝達経路PT2との複数の動力伝達経路PTをもつものとしたが、この様態に限らず、たとえば無段変速機24を介して動力を伝達する第2動力伝達経路PT2のみを持つものとしても良い。
また、前述の実施例では、車両停車中におけるニュートラル制御から車両10の発進を行う場合に、第1クラッチC1を係合状態として第2動力伝達経路PT2よりも変速比の大きい第1動力伝達経路PT1すなわちギヤ走行によって車両10を発進するものとしたが、たとえば第2動力伝達経路PT2が第1動力伝達経路PT1よりも変速比が大きくない場合は、たとえばニュートラル制御中に目標速度比Etを用いて第2クラッチC2をパック詰めする制御を行い、第2動力伝達経路PT2すなわち無段変速機24によって車両10を発進するものとしても良い。
さらに、前述の実施例では、駆動力源としてエンジン12を例示したが、これに限らない。例えば、前記駆動力源は、電動機等の他の原動機を単独で或いはエンジン12と組み合わせて採用することもできる。又、エンジン12の動力は、トルクコンバータ20を介して入力軸22へ伝達されたが、これに限らない。例えば、トルクコンバータ20に替えて、トルク増幅作用のない流体継手(フルードカップリング)などの他の流体式伝動装置が用いられても良い。或いは、この流体式伝動装置は必ずしも設けられなくても良い。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。