JP6760236B2 - 絶縁電線の製造方法及びそれに用いる電着塗装装置 - Google Patents

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Description

本発明は、絶縁電線の製造方法及びそれに用いる電着塗装装置に関する。
導線の表面を電着塗装する絶縁電線の製造方法が知られている。例えば、特許文献1には、導線の電着塗装に用いる電着ワニスに、エチレンジアミン、グルタミン酸、クエン酸、塩化アンモンの群から選らばれた添加剤を含有させることが開示されている。また、特許文献2には、導線に電着塗装する前に、導線の表面に水和物層を形成することが開示されている。
特開平5−242738号公報 特開昭59−35319号公報
ところで、導線を電着ワニスに連続的に通して表面を電着塗装する場合、電着ワニスが含有する帯電樹脂粒子は消費される。しかしながら、電着塗装では基本的に中和剤は消費されないので、電着ワニスにおける中和剤の含有量が多くなり、それによって導線への帯電樹脂粒子の析出が阻害されて外観不良を生じるという問題がある。
本発明の課題は、導線の電着塗装における外観不良を抑制することである。
本発明は、導線を、電着バスに入れた帯電樹脂粒子と前記帯電樹脂粒子が有する電荷の逆電荷に帯電する中和剤とを含有する電着ワニスに通して前記導線の表面を電着塗装する工程を含む絶縁電線の製造方法であって、前記電着バス内の前記電着ワニスの導電率をモニタリングし、前記電着ワニスの導電率が所定の閾値以上又はそれよりも高いとき、前記電着バス内の前記電着ワニスを、前記電着バスの外部に設けられるとともに前記中和剤を吸着するイオン交換樹脂が介設された中和剤吸着循環ラインに循環させて前記中和剤を前記イオン交換樹脂に吸着させる一方、前記電着ワニスの導電率が前記所定の閾値よりも低い又はそれ以下のとき、前記電着バス内の前記電着ワニスの前記中和剤吸着循環ラインへの循環を停止するように制御するものである。
本発明は、導線を、帯電樹脂粒子と前記帯電樹脂粒子が有する電荷の逆電荷に帯電する中和剤とを含有する電着ワニスに通して前記導線の表面を電着塗装するのに用いる電着塗装装置であって、前記電着ワニスを入れるための電着バスと、前記電着バスの外部に、前記電着バス内の前記電着ワニスを循環させることが可能なように構成されているとともに、前記中和剤を吸着するイオン交換樹脂が介設された中和剤吸着循環ラインと、前記電着バス内の前記電着ワニスの導電率を検知する導電率計と、前記導電率計が検知する前記電着ワニスの導電率をモニタリングし、前記電着ワニスの導電率が所定の閾値以上又はそれよりも高いとき、前記電着バス内の前記電着ワニスを前記中和剤吸着循環ラインに循環させる一方、前記電着ワニスの導電率が前記所定の閾値よりも低い又はそれ以下のとき、前記電着バス内の前記電着ワニスの前記中和剤吸着循環ラインへの循環を停止するように制御する制御部とを備える。
本発明によれば、電着バス内の電着ワニスを、電着バスの外部に設けられるとともに中和剤を吸着するイオン交換樹脂が介設された中和剤吸着循環ラインに循環させて中和剤をイオン交換樹脂に吸着させるので、電着バス内の電着ワニスにおける中和剤の含有量を減少させることができ、そのため中和剤による導線への帯電樹脂粒子の析出阻害が回避され、その結果、導線の電着塗装における外観不良を抑制することができる。
絶縁電線の斜視図である。 他の絶縁電線の斜視図である。 実施形態に係る絶縁電線の製造方法の工程順を示す図である。 実施形態に係る絶縁電線の製造方法における電着塗装装置を用いた絶縁被覆工程を示す図である。 電着塗装装置の変形例を示す図である。
以下、実施形態について詳細に説明する。
(絶縁電線)
図1A及びBは、実施形態に係る製造方法で製造する絶縁電線10を示す。絶縁電線10は、図1Aに示すように上下面及び両側面が平坦面に形成された断面形状が扁平な矩形のものであってもよく、また、図1Bに示すように上下面が平坦面に形成され且つ両側面が外側に膨出した曲面に形成された断面形状が扁平なものであってもよい。これらの絶縁電線10は、例えば、電気・電子機器分野における電子基板上に実装されるコイル、ノイズフィルタ、インダクタ、リアクトル等に用いられるものである。
絶縁電線10は、扁平な断面形状を有する平角導線11と、その外周面を被覆する絶縁被覆層12とを備える。平角導線11は、例えば純度4N以上の高純度銅で形成されている。平角導線11の厚さは例えば0.01mm以上1.0mm以下、及び幅は例えば0.2mm以上4.0mm以下である。絶縁被覆層12は樹脂で形成されている。絶縁被覆層12は、後述の電着塗装による単一の被覆処理層で構成されていることが好ましい。絶縁被覆層12の厚さは例えば1.5μm以上30μm以下である。
(絶縁電線の製造方法)
実施形態に係る絶縁電線10の製造方法は、図2に示すように、伸線加工工程、冷間加工工程、焼鈍工程、油分除去工程、及び絶縁被覆工程を含む。なお、これらの工程は、それぞれの工程をバッチ式で行ってもよく、また、全ての工程を連続式で行ってもよく、更には、例えば伸線加工工程及び冷間加工工程を連続式で行った後、焼鈍工程のみをバッチ式で行い、それ以降の油分除去工程及び絶縁被覆工程を連続式で行う場合のようにバッチ式と連続式とを組み合わせて行ってもよい。
<伸線加工工程>
伸線加工工程では、母線としての荒引線を細径化して横断面が円形の丸線に伸線加工する。伸線加工としては、一般的には、荒引線を伸線ダイスに通す加工が挙げられる。荒引線の外径は例えば8.0mmであり、伸線後の丸線の外径は例えば0.05mm以上0.2mm以下である。なお、伸線加工は通常は多段階で行い、例えば、まず外径が8.0mmの荒引き線を外径が2.6mm以上3.2mm以下となるように伸線し、次いで0.6mm以上0.8mm以下となるように伸線し、更に0.05mm以上0.2mm以下となるように伸線する。
<冷間加工工程>
冷間加工工程では、伸線工程で伸線した丸線を、外周面に平行な一対の平坦面を含む平角導線11に冷間加工する。冷間加工としては、例えば、丸線を圧延機のローラー間に通す圧延加工、丸線をダイスに通す加工等が挙げられる。図1Aに示すような上下面及び両側面が平坦面に形成された断面形状が扁平な矩形の絶縁電線10を製造する場合、丸線を厚さ方向及び幅方向のそれぞれで圧延加工することにより同様の断面形状の平角導線11を得ることができる。また、図1Bに示すような上下面が平坦面に形成され且つ両側面が外側に膨出した曲面に形成された断面形状が扁平の絶縁電線10を製造する場合、丸線を厚さ方向で圧延加工することにより同様の断面形状の平角導線11を得ることができる。
<焼鈍工程>
焼鈍工程では、熱処理により、平角導線11を形成する金属の結晶粒度や0.2%耐力等の物性調整を行う。この焼鈍工程での熱処理は、長さ方向の特性を均一化させる観点からはバッチ式で行うことが好ましく、その場合、冷間加工工程後の平角導線11を巻回したボビンを熱処理炉に投入後、所定の昇温速度で炉内の温度を所定の保持温度まで高め、その保持温度で所定の保持時間を保持した後、所定の降温速度で炉内の温度を低下させることが好ましい。ここで、昇温速度は例えば20℃/h以上2000℃/h以下である。保持温度(焼鈍温度)は例えば150℃以上1000℃以下である。保持時間(焼鈍時間)は例えば1秒以上100時間以下である。降温速度は例えば10℃/h以上2000℃/h以下である。また、熱処理を連続式で行う場合、熱処理条件は、例えば焼鈍温度500℃以上900℃以下及び焼鈍時間1秒以上60秒以下である。熱処理は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気で行うことが好ましい。
<油分除去工程>
油分除去工程では、平角導線11の外周面に付着した油分を洗浄除去する。この油分除去工程での洗浄は、例えば、平角導線11を洗浄液に浸漬して引き上げた後、窒素ガス等の不活性ガスを吹き付けて平角導線11の外周面に付着した洗浄液を飛散させることにより行うことができる。ここで、洗浄液としては、例えば、水(温水)、有機溶剤等が挙げられる。洗浄液を水とする場合、水温は例えば10℃以上60℃以下である。洗浄液には洗剤を含めてもよい。
<絶縁被覆工程>
絶縁被覆工程では、図3に示すように、電着バス21及び焼付炉22を備えた電着塗装装置20を用い、平角導線11を電着バス21に入れた電着ワニスVに連続的に通して平角導線11の表面を電着塗装した後、その電着塗装した平角導線11を焼付炉22に通して加熱することにより平角導線11の表面に電着塗装による塗膜を焼き付けて絶縁被覆層12を形成する。平角導線11の線速は例えば5m/min以上40m/min以下である。
絶縁被覆工程における電着塗装では、電着ワニスVとして、帯電樹脂粒子とその帯電樹脂粒子が有する電荷の逆電荷に帯電する中和剤nとを含有するO/W型分散液を用いる。そして、平角導線11を帯電樹脂粒子が有する電荷の逆となる電極として電着ワニスVに電圧を印加し、それにより平角導線11の外周面に電着ワニスV中の帯電樹脂粒子の塗膜を付着させる。電着ワニスVへの電圧印加は、定電流法で行ってもよく、また、定電圧法で行ってもよい。その印加電圧は例えば10V以上100V以下である。この電着ワニスVへの印加電圧により絶縁被覆層12の厚さを制御することができる。なお、電着ワニスVを入れた電着バス21を隔室に収容し、低真空雰囲気(100Pa以上)或いは窒素ガス雰囲気で平角導線11の電着ワニスVへの浸漬を行ってもよい。
絶縁被覆工程における塗膜焼付では、焼付温度、つまり、焼付炉22の炉内温度は、例えば200℃以上500℃以下である。焼付時間は例えば5秒以上1800秒以下である。焼付時間は、平角導線11の線速や焼付炉22の長さの設定によって調節することができる。塗膜焼付は、単一の焼付処理温度により一段階で行っても、また、相互に異なる焼付処理温度の多段階で行っても、どちらでもよい。
電着ワニスVは、帯電樹脂粒子が負電荷を有するアニオン型のものであってもよく、また、帯電樹脂粒子が正電荷を有するカチオン型のものであってもよい。
帯電樹脂粒子を構成する樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エポキシ・アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。帯電樹脂粒子を構成する樹脂は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、ポリアミドイミド樹脂を用いることがより好ましい。
中和剤nとしては、アニオン型の電着ワニスVの場合にはカチオンを形成する塩基性中和剤を用い、カチオン型の電着ワニスVの場合にはアニオンを形成する酸性中和剤が用いる。
塩基性中和剤としては、例えば、2−アミノエタノール、2,2’−イミノジエタノール、2−アミノ−2−メチルプロパノールなどのアミノアルコール系化合物;モルホリンなどのモルホリン系化合物;ピペラジン無水物、ピペラジン六水和物などのピペラジン系化合物;トリエチルアミン、トリプロピルアミンなどのアルキルアミン系化合物;ピペリジンなどのピペリジン系化合物等が挙げられる。塩基性中和剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、2−アミノエタノールを用いることがより好ましい。
酸性中和剤としては、例えば、塩酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、シアノ酢酸、リン酸や硫酸などの無機酸及び有機酸等が挙げられる。酸性中和剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましい。
電着ワニスVにおける中和剤nの含有量は、帯電樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは1質量部以上15質量部以下、より好ましくは2質量部以上10質量部以下である。
電着ワニスVは、分散媒として水を含有する。水は、例えばイオン交換水や蒸留水である。電着ワニスVにおける水の含有量は、好ましくは25質量%以上60質量%以下、より好ましくは30質量%以上50質量%以下である。
電着ワニスVは、水に加えて分散媒として非プロトン性極性溶媒を含有していてもよい。「非プロトン性極性溶媒」とは、アルコールを除く極性有機溶媒である。非プロトン性極性溶媒は、極性を有することから、水に対する親和性が高く、水と混合した際に相分離することなく相溶して均一な単一相となる。電着ワニスVに含まれる非プロトン性極性溶媒は、帯電樹脂粒子に対しての良溶媒であることが必要である。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、シクロヘキサノン等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、N−メチル−2−ピロリドンを用いることがより好ましい。
電着ワニスVにおける非プロトン性極性溶媒の含有量は、帯電樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは340質量部以上1000質量部以下、より好ましくは370質量部以上850質量部以下である。分散媒における非プロトン性極性溶媒の含有量は、好ましくは10質量%以上90質量%以下、より好ましくは40質量%以上60質量%以下である。非プロトン性極性溶媒の含有量の水の含有量に対する質量比(非プロトン性極性溶媒の含有量/水の含有量)は、好ましくは10/90以上60/40以下、より好ましくは20/80以上50/50以下である。
電着ワニスVは着色剤を含有していてもよい。着色剤としては、例えば、C.I.ソルベントブラック3、C.I.ソルベントブラック27、C.I.ソルベントブラック7等が挙げられる。着色剤は、これらのうちの1種又は2種以上を用いることが好ましく、C.I.ソルベントブラック3を用いることがより好ましい。電着ワニスVにおける着色剤の含有量は、帯電樹脂粒子100質量部に対して、好ましくは1質量部以上20質量部以下、より好ましくは3質量部以上10質量部以下である。また、電着ワニスVは、その他にナフサなどの非プロトン性非極性溶媒やアルコールなどのプロトン性極性溶媒等を含有していてもよい。
電着ワニスVの初期固形分濃度は、好ましくは0.5質量%以上11.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以上11質量%以下である。なお、固形分とは、電着ワニスV等を乾燥固化させた場合に残留する帯電樹脂粒子等の成分のことである。
電着ワニスVの50%径(D50:メジアン径)は、好ましくは20nm以上15000nm以下、より好ましくは50nm以上10000nm以下である。この電着ワニスVの粒子径は、例えば大塚電子社製のゼータ電位・粒径・分子量測定システム(ELSZ−2000ZS)を用いた動的光散乱法により測定される。
電着ワニスVの粘度は、液温20℃において、好ましくは2mPa・s以上50mPa・s以下、より好ましくは4mPa・s以上30mPa・s以下である。この電着ワニスVの粘度はB型粘度計(100rpm)により測定される。電着ワニスVのpHは、pHメーターにより測定され、例えば7以上9以下である。電着ワニスVの液温は例えば10℃以上30℃以下である。
電着ワニスVは、例えば、帯電樹脂粒子を構成する樹脂を含有する油相成分と水相成分とをそれぞれ準備し、それらを混合した後に撹拌して転相乳化させることにより調製することができる。この撹拌には、汎用の乳化機、分散機、混合機、又は、攪拌機を用いることができる。具体的には、例えば、高剪断を与えることができるローター式又はステーター式ミキサー、コロイドミル、ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等が挙げられる。撹拌の際における撹拌翼の外周の周速は、好ましくは1m/min以上好ましくは70m/min以下、より好ましくは10m/min以上30m/min以下である。撹拌時間は、好ましくは3分以上60分以下、より好ましくは5分以上30分以下である。
絶縁被覆工程で用いる電着塗装装置20は、電着バス21の上部から延びた後に再び電着バス21の下部に戻って結合するとともに、中間にメインタンク23が介設されたワニス循環ライン24を備える。ワニス循環ライン24には、メインタンク23の下流側に第1ポンプP1が介設されている。この第1ポンプP1が稼働すると、電着バス21の上部からメインタンク23に向かって電着ワニスVが流動するとともに、メインタンク23から電着バス21の下部に向かって電着ワニスVが流動し、すなわち、電着バス21とメインタンク23との間のワニス循環ライン24を電着ワニスVが循環する。これにより電着バス21とメインタンク23との間で電着ワニスVの均一化を図ることができる。絶縁被覆工程では、この第1ポンプP1を断続的に稼働させてもよいが、電着バス21とメインタンク23との間で電着ワニスVの均一化を図る観点から、第1ポンプP1を常時稼働させて電着ワニスVをワニス循環ライン24に常に循環させることが好ましい。
メインタンク23には導電率計25が取り付けられており、その導電率計25は制御部26に接続されている。導電率計25は、メインタンク23内の電着ワニスVの導電率を検知する。この導電率計25により検知される電着ワニスVの導電率は、電着ワニスVにおける中和剤nの含有量に関連付けられる代用特性情報である。また、導電率計25により検知されるメインタンク23内の電着ワニスVの導電率は、電着バス21とメインタンク23との間で電着ワニスVが循環して均一化されることから、電着バス21内の電着ワニスVの導電率と一致する。
絶縁被覆工程で用いる電着塗装装置20は、メインタンク23から延びた後に再びメインタンク23に戻って結合するとともに、中間にハウジング27が介設された中和剤吸着循環ライン28を備える。この電着バス21の外部に設けられた中和剤吸着循環ライン28には、ハウジング27の上流側に第2ポンプP2が介設されている。第2ポンプP2は制御部26に接続されている。第2ポンプP2が稼働すると、電着バス21に連通したメインタンク23からハウジング27に向かって電着ワニスVが流動するとともに、ハウジング27からメインタンク23に向かって電着ワニスVが流動し、すなわち、メインタンク23とハウジング27との間の中和剤吸着循環ライン28を電着ワニスVが循環する。つまり、中和剤吸着循環ライン28は、メインタンク23を介して電着バス21内の電着ワニスVを循環させることが可能なように構成されている。
ハウジング27内には、ハウジング27内に流入した電着ワニスVが導入されるようにフィルタバッグ29が設けられており、そのフィルタバッグ29には中和剤nを吸着するイオン交換樹脂Rが収容されている。つまり、中和剤吸着循環ライン28には、中和剤nを吸着するイオン交換樹脂Rが介設されている。したがって、第2ポンプP2が稼働して電着ワニスVが中和剤吸着循環ライン28を循環すると、電着ワニスVがフィルタバッグ29内のイオン交換樹脂Rに接触する。このとき、イオン交換樹脂Rが電着ワニスV中の中和剤nを吸着し、それによって電着ワニスVにおける中和剤nの含有量が減少する。中和剤nの含有量が減少した電着ワニスVは、フィルタバッグ29からハウジング27内に滴り落ちた後、ハウジング27からメインタンク23へと環流され、ワニス循環ライン24を介して電着バス21に供給される。
イオン交換樹脂Rとしては、塩基性中和剤の場合には、陽イオン交換樹脂を用いればよく、酸性中和剤の場合には、陰イオン交換樹脂を用いればよい。また、両性イオン交換樹脂は、いずれの場合でも用いることができる。
陽イオン交換樹脂としては、強酸性陽イオン交換樹脂及び弱酸性陽イオン交換樹脂が挙げられる。強酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、交換基がスルホン酸基である樹脂等が挙げられる。弱酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、交換基がカルボン酸基であるメタクリル酸系やアクリル酸系の樹脂等が挙げられる。これらのうち弱酸性陽イオン交換樹脂を用いることが好ましく、アクリル酸系イオン交換樹脂を用いることがより好ましい。
陰イオン交換樹脂としては、強塩基性陰イオン交換樹脂、弱塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。強塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、交換基に4級アンモニウム基を有する樹脂等が挙げられる。弱塩基性イオン交換樹脂としては、例えば、交換基が1級乃至3級アミンである樹脂等が挙げられる。
イオン交換樹脂Rの形態としては、例えば、ゲル型、ポーラス型、ハイポーラス型、担体担持型等が挙げられる。イオン交換樹脂Rの形態は、これらのうちの1種又は2種以上であることが好ましい。イオン交換樹脂Rの形状としては、例えば、膜状、粒子状、繊維状が挙げられる。イオン交換樹脂Rの形状は、これらのうちの1種又は2種以上であることが好ましい。
この絶縁被覆工程では、制御部26は、導電率計25により検知するメインタンク23内の電着ワニスVの導電率を、電着バス21内の電着ワニスVにおける中和剤nの含有量に関連付けられた代用特性情報としてモニタリングし、その代用特性情報に基づいて、第2ポンプP2を稼働/停止することにより、電着ワニスVの中和剤吸着循環ライン28への循環を制御する。具体的には、制御部26は、導電率計25により検知する導電率が所定の閾値(例えば適正値の+30%、好ましくは+10%)以上又はそれよりも高いとき、電着バス21内の電着ワニスVにおける中和剤nの含有量が過剰であると判断して第2ポンプP2を稼働させる。このとき、第2ポンプP2が稼働すると、電着ワニスVが中和剤吸着循環ライン28を循環してフィルタバッグ29内のイオン交換樹脂Rに接触することにより中和剤nが吸着される。その結果、電着バス21内の電着ワニスVにおける中和剤nの含有量は減少し、それに伴って導電率計25により検知する導電率も閾値以下又はそれよりも低くなり、制御部26は、電着バス21内の電着ワニスVにおける中和剤nの含有量が適性化された判断して第2ポンプP2を停止させる。
以上のような実施形態に係る絶縁電線10の製造方法によれば、電着バス21内の電着ワニスVを、電着バス21の外部に設けられるとともに中和剤nを吸着するイオン交換樹脂Rが介設された中和剤吸着循環ライン28に循環させて中和剤nをイオン交換樹脂Rに吸着させるので、電着バス21内の電着ワニスVにおける中和剤nの含有量を減少させることができ、そのため中和剤nによる平角導線11への帯電樹脂粒子の析出阻害が回避され、その結果、平角導線11の電着塗装における外観不良を抑制することができる。
実施形態に係る絶縁電線10の製造方法では、電着塗装を継続的に実施することにより電着ワニスV中の帯電樹脂粒子が消費されることから、メインタンク23に帯電樹脂粒子及び中和剤nを含有する補充ワニスSVを追加投入することにより、電着バス21に補充ワニスSVを補充してもよい。この電着バス21への補充ワニスSVの補充は、連続的に行ってもよく、また、断続的に行ってもよい。なお、電着バス21への補充ワニスSVの補充は、電着バス21に直接的に補充ワニスSVを追加投入して行ってもよい。
補充ワニスSVは、初期に仕込んだ電着ワニスVと同一であってもよく、また、それを濃縮又は希釈したものであってもよい。補充ワニスSVは、初期の電着ワニスVよりも中和剤nの含有量が少ないものであってもよい。
補充ワニスSVを補充する場合、帯電樹脂粒子は消費されていくものの、中和剤nは消費されずに蓄積されて含有量が増加することとなり、それが導線11への帯電樹脂粒子の析出を阻害することが懸念されるが、実施形態に係る絶縁電線10の製造方法によれば、補充ワニスSVを補充して中和剤nの含有量が増加しても、電着ワニスVを中和剤吸着循環ライン28に循環させることにより、中和剤nをイオン交換樹脂Rに吸着させ、その含有量を低下させるので、中和剤nによる平角導線11への帯電樹脂粒子の析出阻害が回避され、それによって平角導線11の電着塗装における外観不良を抑制することができる。また、中和剤nの含有量が過剰となって電着ワニスVを入れ替えする必要がなく、補充ワニスSVを追加投入しながら継続的に電着塗装を行うことにより高い生産性で絶縁電線10を製造することができる。
なお、上記実施形態では、断面形状が扁平な矩形の絶縁電線10を示したが、特にこれに限定されるものではなく、例えば、厚さ方向及び幅方向の寸法が等しい断面形状が正方形のものであってもよく、また、断面形状が円形の丸線であってもよい。
また、上記実施形態では、中和剤吸着循環ライン28が電着バス21の外部のメインタンク23に取り付けられた構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、図4に示すように、イオン交換樹脂Rを含むハウジング27及びポンプPが介設された中和剤吸着循環ライン28が電着バス21に直接設けられた構成であってもよい。
また、上記実施形態では、電着ワニスVの導電率を、電着ワニスVにおける中和剤nの含有量に関連付けられる代用特性情報としてモニタリングする構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、その他の電着ワニスVにおける中和剤nの含有量に関連付けられる代用特性情報であってもよい。
また、上記実施形態では、制御部26が、導電率計25が検知する電着ワニスVの導電率に基づいて、第2ポンプP2の稼働/停止により電着ワニスVの中和剤吸着循環ライン28への循環を制御する構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、第2ポンプP2を連続的又は断続的に稼働させる構成であってもよい。但し、この場合、電着ワニスVにおける中和剤nの含有量が過少となると、電着ワニスVの安定性が損なわれることから、電着塗装によって消費される帯電樹脂粒子を補うように補充ワニスSVも連続的又は断続的に補充し、それに伴って増加する中和剤nに対応する量の中和剤nがイオン交換樹脂Rによって吸着されるように、中和剤吸着循環ライン28を循環する電着ワニスVの循環流量を第2ポンプP2で調整し、それによって電着ワニスVにおける中和剤nの含有量を、例えば適正値の±30%、好ましくは±10%として組成の安定性を保つことが好ましい。
本発明は、絶縁電線の製造方法及びそれに用いる電着塗装装置の技術分野について有用である。
10 絶縁電線
11 平角導線
12 絶縁被覆層
20 電着塗装装置
21 電着バス
22 焼付炉
23 メインタンク
24 ワニス循環ライン
25 導電率計
26 制御部
27 ハウジング
28 中和剤吸着循環ライン
29 フィルタバッグ
n 中和剤
P,P1,P2 (第1,第2)ポンプ
R イオン交換樹脂
SV 補充ワニス
V 電着ワニス

Claims (3)

  1. 導線を、電着バスに入れた帯電樹脂粒子と前記帯電樹脂粒子が有する電荷の逆電荷に帯電する中和剤とを含有する電着ワニスに通して前記導線の表面を電着塗装する工程を含む絶縁電線の製造方法であって、
    前記電着バス内の前記電着ワニスの導電率をモニタリングし、前記電着ワニスの導電率が所定の閾値以上又はそれよりも高いとき、前記電着バス内の前記電着ワニスを、前記電着バスの外部に設けられるとともに前記中和剤を吸着するイオン交換樹脂が介設された中和剤吸着循環ラインに循環させて前記中和剤を前記イオン交換樹脂に吸着させる一方、前記電着ワニスの導電率が前記所定の閾値よりも低い又はそれ以下のとき、前記電着バス内の前記電着ワニスの前記中和剤吸着循環ラインへの循環を停止するように制御する絶縁電線の製造方法。
  2. 請求項1に記載された絶縁電線の製造方法において、
    前記電着バスに、前記帯電樹脂粒子及び前記中和剤を含有する補充ワニスを補充する絶縁電線の製造方法。
  3. 導線を、帯電樹脂粒子と前記帯電樹脂粒子が有する電荷の逆電荷に帯電する中和剤とを含有する電着ワニスに通して前記導線の表面を電着塗装するのに用いる電着塗装装置であって、
    前記電着ワニスを入れるための電着バスと、
    前記電着バスの外部に、前記電着バス内の前記電着ワニスを循環させることが可能なように構成されているとともに、前記中和剤を吸着するイオン交換樹脂が介設された中和剤吸着循環ラインと、
    前記電着バス内の前記電着ワニスの導電率を検知する導電率計と、
    前記導電率計が検知する前記電着ワニスの導電率をモニタリングし、前記電着ワニスの導電率が所定の閾値以上又はそれよりも高いとき、前記電着バス内の前記電着ワニスを前記中和剤吸着循環ラインに循環させる一方、前記電着ワニスの導電率が前記所定の閾値よりも低い又はそれ以下のとき、前記電着バス内の前記電着ワニスの前記中和剤吸着循環ラインへの循環を停止するように制御する制御部と、
    を備える電着塗装装置。
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