以下、添付した図面を参照しながら、本発明に係る実施形態について説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。図面における部材の大きさや比率は、説明の都合上誇張され実際の大きさや比率とは異なる場合がある。
本発明の一形態に係る非水電解質二次電池は、正極と負極とを電解質層を介して対向させてなる単電池層を積層してなる発電要素を有する。正極は、正極集電体の表面に正極活物質を含む正極活物質層が形成されている。負極は、負極集電体の表面に負極活物質を含む負極活物質層が形成されている。負極活物質層は、下記式(1)を満たす負極活物質を有する。
α(Si系材料)+β(炭素材料) (1)
式中、Si系材料は、アモルファスSiO2粒子とSi粒子との混合体であるSiOx(xはSiの原子価を満足する酸素数を表す)およびSi含有合金からなる群から選択される1種または2種以上である。炭素材料は、黒鉛系負極活物質を含み、αおよびβは負極活物質層における各成分の質量%を表し、80≦α+β≦98、0.1≦α≦40、58≦β≦97.9である。
積層された複数の単電池層に含まれる複数の負極は、第1の黒鉛系負極活物質を含む第1負極と、第2の黒鉛系負極活物質を含む第2負極と、を有する。第1の黒鉛系負極活物質は、第1負極の負極活物質層と同じ組成を有する厚み66μmの活物質層が厚み10μmの銅箔で挟持されてなる積層体に両側から1.0MPaまでの圧縮力を印加した際の最大圧縮歪みが15%よりも大きくなる黒鉛系負極活物質である。第2の黒鉛系負極活物質は、ラマンスペクトルにおける第1周波数バンドDと第2周波数バンドGとのピーク強度の比であるD/G比が0.2より大きい。
以下、本発明に係る非水電解質二次電池の基本的な構成を説明する。本実施形態では、リチウムイオン二次電池を例示して説明する。
まず、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、セル(単電池層)の電圧が大きく、高エネルギー密度、高出力密度が達成できる。そのため、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、車両の駆動電源用や補助電源用として優れている。その結果、車両の駆動電源用等のリチウムイオン二次電池として好適に利用できる。
上記リチウムイオン二次電池を形態・構造で区別した場合には、例えば、積層型(偏平型)電池、巻回型(円筒型)電池など、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得るものである。積層型(偏平型)電池構造を採用することで簡単な熱圧着などのシール技術により長期信頼性を確保でき、コスト面や作業性の点では有利である。
リチウムイオン二次電池内の電解質層の種類で区別した場合には、電解質層に非水系の電解液等の液体電解質を用いた液体電解質型電池、電解質層に高分子電解質を用いたポリマー電池など従来公知のいずれかの電解質層のタイプにも適用しうるものである。該ポリマー電池は、さらに高分子ゲル電解質(単にゲル電解質ともいう)を用いたゲル電解質型電池、高分子固体電解質(単にポリマー電解質ともいう)を用いた固体高分子(全固体)型電池に分けられる。
したがって、以下の説明では、本実施形態のリチウムイオン二次電池の例として、非双極型(内部並列接続タイプ)リチウムイオン二次電池について図面を用いてごく簡単に説明する。ただし、本発明に係る電気デバイスおよび本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の技術的範囲がこれらに制限されるべきでない。
<電池の全体構造>
図1は、本発明の電気デバイスの代表的な一実施形態である、偏平型(積層型)のリチウムイオン二次電池(以下、単に「積層型電池」ともいう)の全体構造を模式的に表した断面概略図である。
図1に示すように、本実施形態の積層型電池100は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素10が、外装体であるラミネートシート60の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素10は、正極集電体21の両面に正極活物質層22が配置された正極と、電解質層40と、負極集電体31の両面に負極活物質層32が配置された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層22とこれに隣接する負極活物質層32とが、電解質層40を介して対向するようにして、負極、電解質層40および正極がこの順に積層されている。
これにより、隣接する正極、電解質層、および負極は、1つの単電池層50を構成する。したがって、図1に示す積層型電池100は、単電池層50が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素10の両最外層に位置する最外層の負極集電体には、いずれも片面のみに負極活物質層32が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体としてもよい。また、図1とは正極および負極の配置を逆にして、該最外層の正極集電体の片面または両面に正極活物質層が配置されているようにしてもよい。
正極集電体21および負極集電体31は、各電極(正極および負極)と導通される正極タブ23および負極タブ33がそれぞれ取り付けられ、ラミネートシート60の端部に挟まれるようにしてラミネートシート60の外部に導出される構造を有している。正極タブ23および負極タブ33は、それぞれ必要に応じて正極リードおよび負極リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体21および負極集電体31に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
以下、電池の主要な構成部材について説明する。
<活物質層>
活物質層(22、32)は活物質を含み、必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。
[正極活物質層]
正極活物質層22は、正極活物質を含む。本形態において正極活物質は、特に制限されないが、リチウムニッケル系複合酸化物またはスピネル系リチウムマンガン複合酸化物を含むことが好ましく、リチウムニッケル系複合酸化物を含むことがより好ましい。なお、正極活物質に含まれる正極活物質の全量100質量%に占めるリチウムニッケル系複合酸化物およびスピネル系リチウムマンガン複合酸化物の合計量の割合は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%であり、さらに好ましくは85質量%以上であり、いっそう好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは100質量%である。
・リチウムニッケル系複合酸化物
リチウムニッケル系複合酸化物は、リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物である限り、その組成は具体的に限定されない。リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物の典型的な例としては、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO2)が挙げられる。ただし、リチウムニッケル複合酸化物のニッケル原子の一部が他の金属原子で置換された複合酸化物がより好ましく、好ましい例として、リチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、NiおよびCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。加えて、LiNiO2より高い熱安定性を有しているため、正極活物質として用いられるニッケル系複合酸化物の中でも特に有利である。
本明細書において、NMC複合酸化物は、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr,Crであり、より好ましくはTi、Zr、P、Al、Mg、Crであり、サイクル特性向上の観点からさらに好ましくはTi、Zr、Al、Mg、Crである。
NMC複合酸化物は、理論放電容量が高いことから、好ましくは、一般式(1):LiaNibMncCodMxO2(ただし、a、b、c、d、xは0.9≦a≦1.2、0<b<1、0<c≦0.5、0<d≦0.5、0≦x≦0.3、b+c+d=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、SrおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種である)で表される組成を有する。ここで、aはLiの原子比を表し、bはNiの原子比を表し、cはMnの原子比を表し、dはCoの原子比を表し、xはMの原子比を表す。サイクル特性の観点からは、一般式(1)において、0.4≦b≦0.6であることが好ましい。なお、各元素の組成は、例えば誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法により測定できる。
一般に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、およびマンガン(Mn)は、材料の純度向上および電子伝導性向上という観点から、容量および出力特性に寄与することが知られている。Ti等は、結晶格子中の遷移金属を一部置換するものである。サイクル特性の観点からは、遷移元素の一部が他の金属元素により置換されていることが好ましく、特に一般式(1)において0<x≦0.3であることが好ましい。Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、SrおよびCrからなる群から選ばれる少なくとも1種が固溶することにより結晶構造が安定化されるため、その結果、充放電を繰り返しても電池の容量低下が防止でき、優れたサイクル特性が実現し得ると考えられる。
より好ましい実施形態としては、一般式(1)において、b、cおよびdが、0.44≦b≦0.51、0.27≦c≦0.31、0.19≦d≦0.26であることが、容量と耐久性とのバランスに優れる点で好ましい。
NMC複合酸化物などのリチウムニッケル系酸化物は、共沈法、スプレードライ法など、種々公知の方法を選択して調整することができる。本形態に係る複合酸化物の調整が容易であることから、共沈法を用いることが好ましい。具体的に、NMC複合酸化物の合成方法としては、例えば、特開2011−105588号公報に記載の方法のように、共沈法によりニッケル−コバルト−マンガン複合酸化物を製造した後、ニッケル−コバルト−マンガン複合酸化物と、リチウム化合物とを混合して焼成することにより得ることができる。以下、具体的に説明する。
複合酸化物の原料化合物、例えばNi化合物、Mn化合物およびCo化合物を、所望の活物質材料の組成となるように水などの適当な溶媒に溶解させる。Ni化合物、Mn化合物、およびCo化合物としては、例えば当該金属元素の硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物などが挙げられる。Ni化合物、Mn化合物、およびCo化合物として具体的には、例えば硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガン、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、酢酸マンガンなどが挙げられるが、これらに制限されるものではない。この過程で、必要に応じて、さらに所望の活物質の組成になるように、活物質を構成する層状のリチウム金属複合酸化物の一部を置換する金属元素として、例えば、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、SrおよびCr等の少なくとも1種の金属元素を含む化合物をさらに混入させてもよい。
上記原料化合物とアルカリ溶液とを用いた中和、沈殿反応により共沈反応を行うことができる。これにより、上記原料化合物に含まれる金属を含有する金属複合水酸化物、金属複合炭酸塩が得られる。アルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等の水溶液を用いることができるが、中和反応用に水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムまたはそれらの混合溶液を用いることが好ましい。加えて、錯体反応用にアンモニア水溶液やアンモニア塩を用いることが好ましい。
中和反応に用いるアルカリ溶液の添加量は、含有する全金属塩の中和分に対して等量比1.0でよいが、ph調整のためにアルカリ過剰分を合わせて添加することが好ましい。
錯体反応に用いるアンモニア水溶液やアンモニウム塩の添加量は、反応液中のアンモニア濃度が0.01〜2.00mol/lの範囲で添加する事が好ましい。反応溶液のphは10.0〜13.0の範囲に制御することが好適である。また、反応温度は30℃以上が好ましく、より好ましくは30〜60℃である。
共沈反応で得られた複合水酸化物は、その後、吸引濾過し、水洗して、乾燥することが好ましい。なお、共沈反応を行う際の条件(撹拌時間、アルカリ濃度など)を調節することで、複合水酸化物の粒子径を制御することができ、これが最終的に得られる正極活物質の二次粒子の平均粒子径(D50)に影響する。
次いで、ニッケル−コバルト−マンガン複合水酸化物をリチウム化合物と混合して焼成することによりリチウム−ニッケル−マンガン−コバルト複合酸化物を得ることができる。Li化合物としては、例えば、水酸化リチウムまたはその水和物、過酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム等がある。
焼成処理は、1段階であってもよいが、2段階(仮焼成および本焼成)で行うことが好ましい。2段階の焼成により、効率よく複合酸化物を得ることができる。仮焼成条件としては、特に限定されるものではなく、リチウム原料によっても異なるため一義的に規定することは困難である。ここで、特に平均一次粒子径および結晶子径を制御するための因子としては、焼成(2段階の場合には仮焼成および本焼成)時の焼成温度および焼成時間が特に重要であり、これらを以下のような傾向に基づき調節することで、平均一次粒子径および結晶子径を制御することが可能である。すなわち、焼成時間を長くすると、平均一次粒子径および結晶子径は大きくなる。また、焼成温度を高くすると、平均一次粒子径および結晶子径は大きくなる。なお、昇温速度は室温から1〜20℃/分であることが好ましい。また、雰囲気は、空気中ないし酸素雰囲気下であることが好ましい。ここで、Li原料に炭酸リチウムを用いて、NMC複合酸化物を合成する場合において、仮焼成温度は、好ましくは500〜900℃であり、より好ましくは600〜800℃であり、さらに好ましくは650〜750℃である。さらに、仮焼成時間は、好ましくは0.5〜10時間であり、より好ましくは4〜6時間である。一方、本焼成の条件についても特に限定されるものではないが、昇温速度は室温から1〜20℃/分であることが好ましい。また、雰囲気は、空気中ないし酸素雰囲気下であることが好ましい。また、Li原料に炭酸リチウムを用いて、NMC複合酸化物を合成する場合において、焼成温度は好ましくは800〜1200℃であり、より好ましくは850〜1100℃であり、さらに好ましくは900〜1050℃である。さらに仮焼成時間は、好ましくは1〜20時間であり、より好ましくは8〜12時間である。
必要に応じて、活物質材料を構成する層状のリチウム金属複合酸化物の一部を置換する金属元素を微量添加する場合、該方法としては、あらかじめニッケル、コバルト、マンガン酸塩と混合する方法、ニッケル、コバルト、マンガン酸塩と同時に添加する方法、反応途中で反応溶液に添加する方法、Li化合物とともにニッケル−コバルト−マンガン複合酸化物に添加する方法などいずれの手段を用いても構わない。
リチウムニッケル系複合酸化物は、反応溶液のpH、反応温度、反応濃度、添加速度、撹拌時間などの反応条件を適宜調整することにより製造することができる。
・スピネル系リチウムマンガン複合酸化物
スピネル系リチウムマンガン複合酸化物は、典型的にはLiMnO4の組成を有し、スピネル構造を有する、リチウムおよびマンガンを必須に含有する複合酸化物であり、その具体的な構成や製造方法については、特開2000−77071号公報等の従来公知の知見が適宜参照されうる。
なお、上述したリチウムニッケル系複合酸化物またはスピネル系リチウムマンガン複合酸化物以外の正極活物質が以外の正極活物質が用いられてもよいことはもちろんである。2種類以上の正極活物質を併用する場合、活物質それぞれの固有の効果を発現するうえで最適な粒子径同士をブレンドして用いればよく、全ての活物質の粒子径を必ずしも均一化させる必要はない。
正極活物質層22に含まれる正極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは2次粒子径で6〜11μm、より好ましくは7〜10μmである。また、1次粒子の平均粒子径は、0.4〜0.65μm、より好ましくは0.45μm〜0.55μmである。なお、本明細書における「粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。また、「平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
また、正極活物質層は上述した正極活物質のほか、バインダおよび導電助剤を含むことが好ましい。さらに、必要に応じて電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝動性を高めるためのリチウム塩などのその他の添加剤をさらに含む。
正極活物質中、活物質として機能しうる正極活物質の含有量は、85〜99.5質量%であることが好ましい。
(バインダ)
正極活物質に用いられるバインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびその塩、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド、−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFPフッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンたフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのバインダは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
正極活物質におけるバインダの含有量は、好ましくは1〜10質量%であり、より好ましくは1〜8質量%である。
(導電助剤)
導電助剤とは、正極活物質層または負極活物質層の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック等が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
正極活物質層における導電助剤の含有量は、好ましくは1〜10質量%であり、より好ましくは1〜8質量%である。導電助剤の配合比(含有量)を上記範囲内に規定することで以下の効果が発現される。すなわち、電極反応を阻害することなく、電子伝導性を十分に担保することができ、電極密度の低下によるエネルギー密度の低下を抑制でき、ひいては電極密度の向上によるエネルギー密度の向上を図ることができる。
(その他の成分)
リチウム塩としては、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3等が挙げられる。
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
正極活物質中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより、調整されうる。
正極(正極活物質層)は、通常のスラリーを塗布(コーティング)する方法のほか、混練法、スパッタ法、蒸着法、CVD法、PVD法、イオンプレーティング法および溶射法のいずれかの方法によって形成することができる。
正極活物質層の空孔率は、正極活物質層の全容積に対し、10〜45体積%、好ましくは15〜40体積%、より好ましくは20〜35体積%の範囲である。空孔率が上記範囲内であれば、電池容量等の特性や強度を損なうことなく、活物質層の空孔が、活物質層内部にまで電解液を含浸させ、電極反応が促進されるように電解液(Li+イオン)を供給する経路として有効に機能できるためである。
正極活物質層(集電体片面の活物質層)の厚さについても特に制限はなく、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、正極活物質層の厚さは、電池の使用目的(出力重視、エネルギー重視など)、イオン伝導性を考慮し、通常1〜500μm程度、好ましくは2〜100μmである。
[負極活物質層]
負極活物質層32は、下記式(1)で表される負極活物質を含有する。
α(Si系材料)+β(炭素材料) (1)
式中、Si系材料は、アモルファスSiO2粒子とSi粒子との混合体であるSiOx(xはSiの原子価を満足する酸素数を表す)およびSi含有合金からなる群から選択される1種または2種以上である。炭素材料は、黒鉛系負極活物質を必須に含み、αおよびβは負極活物質層における各成分の質量%を表し、80≦α+β≦98、0.1≦α≦40、58≦β≦97.9である。
すなわち、負極活物質層32は、負極活物質として、SiOxおよびSi含有合金からなる群から選択される材料(これらをまとめて「Si系材料」とも称する)、ならびに炭素材料を必須に含み、炭素材料は黒鉛系負極活物質を必須に含む。
本明細書中、Si系材料とは、アモルファスSiO2粒子とSi粒子との混合体であるSiOx(xはSiの原子価を満足する酸素数を表す)およびSi含有合金を意味する。これらのうちの1種のみがSi系材料として用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。以下、これらのSi系材料について詳細に説明する。
(SiOx)
SiOxは、アモルファスSiO2粒子とSi粒子との混合体であり、xはSiの原子価を満足する酸素数を表す。xの具体的な値については特に制限はなく、適宜設定されうる。
また、上記SiOxは、機械的表面融合処理によってSiOx粒子の表面が導電性物質で被覆されてなる導電性SiOx粒子であってもよい。かような構成とすることにより、SiOx粒子内のSiがリチウムイオンの脱離および挿入をしやすくなり、活物質における反応がよりスムーズに進行することができるようになる。この場合、導電性SiOx粒子における導電性物質の含有量は1〜30質量%であることが好ましく、2〜20質量%であることがより好ましい。
SiOxの製造方法
本形態に係るSiOxの製造方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の各種の製造を利用して製造することができる。すなわち、作製方法によるアモルファス状態・特性の違いはほとんどないため、ありとあらゆる作製方法が適用できる。
SiOxを調製する手法としては、以下の方法が挙げられる。まず、原料としてSi粉末とSiO2粉末とを所定の割合で配合し、混合、造粒および乾燥した混合造粒原料を、不活性ガス雰囲気で加熱(830℃以上)または真空中で加熱(1100℃以上1600℃以下)してSiOを生成(昇華)させる。昇華により発生した気体状のSiOを析出基体上(基体の温度は450℃以上800℃以下)に蒸着させ、SiO析出物を析出させる。その後、析出基体からSiO析出物を取り外し、ボールミル等を使用して粉砕することによりSiOx粉末が得られる。
xの値は蛍光X線分析により求めることができる。例えば、O−Kα線を用いた蛍光X線分析でのファンダメンタルパラメータ法を用いて求めることができる。蛍光X線分析には、例えば、理学電機工業(株)製RIX3000を用いることができる。蛍光X線分析の条件としては、例えば、ターゲットにロジウム(Rh)を用い、管電圧50kV、管電流50mAとすればよい。ここで得られるx値は、基板上の測定領域で検出されるO−Kα線の強度から算出されるため、測定領域の平均値となる。
(Si含有合金)
Si含有合金は、Siを含有する他の金属との合金であれば特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。ここでは、Si含有合金の好ましい実施形態として、SixTiyGezAa、SixTiyZnzAa、SixTiySnzAa、SixSnyAlzAa、SixSnyVzAa、SixSnyCzAa、SixZnyVzAa、SixZnySnzAa、SixZnyAlzAa、SixZnyCzAa、SixAlyCzAaおよびSixAlyNbzAa(式中、Aは、不可避不純物である。さらに、x、y、zおよびaは質量%の値を表し、0<x<100、0<y<100、0≦z<100、および0≦a<0.5であり、x+y+z+a=100である)が挙げられる。より好ましくは、上記式においてさらに0<z<100を満たすSi含有合金である。これらのSi含有合金を負極活物質として用いることで、所定の第1添加元素および所定の第2添加元素を適切に選択することによって、Li合金化の際に、アモルファス−結晶の相転移を抑制してサイクル寿命を向上させることができる。また、従来の負極活物質、例えば炭素系負極活物質よりも高容量のものとなる。
Si系材料であるSiOxまたはSi含有合金の平均粒子径は、既存の負極活物質層32に含まれる負極活物質の平均粒子径と同程度であればよく、特に制限されない。高出力化の観点からは、好ましくは、二次粒子径のD50が1〜20μmの範囲である。また、好ましくは二次粒子径のD90が5〜100μmの範囲である。ここでSi系材料の二次粒子径はレーザー回折法により得られた値を用いる。但し、上記範囲に何ら制限されるものではなく、本実施形態の作用効果を有効に発現できるものであれば、上記範囲を外れていてもよいことは言うまでもない。また、Si系材料の形状としては、特に制限はなく、球状、楕円状、円柱状、多角柱状、鱗片状、不定形などでありうる。
Si含有合金の製造方法
本形態に係るSi含有合金の製造方法としては、特に制限されるものではなく、従来公知の各種の製造方法を利用して製造することができる。Si含有合金の製造方法の一例として、以下のような製造方法が挙げられるが、これに何ら制限されるものではない。
まず、Si含有合金の原料を混合して混合粉末を得る工程を行う。この工程では、得られるSi含有合金の組成を考慮して、当該合金の原料を混合する。当該合金の原料としては、Si含有合金として必要な元素の比率を実現できれば、その形態などは特に限定されない。例えば、Si含有合金を構成する元素単体を、目的とする比率に混合したものや、目的とする元素比率を有する合金、固溶体、または金属間化合物を用いることができる。また、通常は粉末状態の原料を混合する。これにより、原料からなる混合粉末が得られる。
続いて、上記で得られた混合粉末に対して合金化処理を行う。これにより、非水電解質二次電池用負極活物質として用いることが可能なSi含有合金が得られる。
合金化処理の手法としては、固相法、液相法、気相法があるが、例えば、メカニカルアロイ法やアークプラズマ溶融法、鋳造法、ガスアトマイズ法、液体急冷法、イオンビームスパッタリング法、真空蒸着法、メッキ法、気相化学反応法などが挙げられる。なかでも、メカニカルアロイ法を用いて合金化処理を行うことが好ましい。メカニカルアロイ法により合金化処理を行うことで、相の状態の制御を容易に行うことができるため好ましい。また、合金化処理を行う前に、原材料を溶融する工程や前記溶融した溶融物を急冷して凝固させる工程が含まれてもよい。
上述した合金化処理を行うことにより、母相/シリサイド相からなる構造とすることができる。特に、合金化処理の時間が12時間以上であれば、所望のサイクル耐久性を発揮させうるSi含有合金を得ることができる。なお、合金化処理の時間は、好ましくは24時間以上であり、より好ましくは30時間以上であり、さらに好ましくは36時間以上であり、さらにより好ましくは42時間以上であり、特に好ましくは48時間以上である。なお、合金化処理のための時間の上限値は特に設定されないが、通常は72時間以下であればよい。
上述した手法による合金化処理は、通常乾式雰囲気下で行われるが、合金化処理後の粒度分布は大小の幅が非常に大きい場合がある。このため、粒度を整えるための粉砕処理および/または分級処理を行うことが好ましい。
合金化処理により得られた粒子を、適宜、分級、粉砕等の処理を行うことによって粒子径を制御することができる。分級方法としては、風力分級、メッシュ濾過法、沈降法などが挙げられる。また、粉砕条件は特に限定されるものではなく、適当な粉砕機(例えば、メカニカルアロイ法でも使用可能な装置、例えば、遊星ボールミル等)による粉砕時間、回転速度などを適宜設定すればよい。粉砕条件の一例を挙げれば、遊星ボールミル等の粉砕機を用い、回転速度200〜400rpmにて30分〜4時間粉砕を行う例が挙げられる。
また、負極活物質層は、負極活物質、バインダ、導電助剤、溶媒などを含む負極活物質スラリーを集電体上に塗布して形成することができるが、負極活物質スラリーを調整する際にさらに粉砕処理を行ってもよい。粉砕手段は特に制限されず、公知の手段を適宜採用することができる。粉砕条件は特に限定されるものではなく、粉砕時間、回転速度などを適宜設定すればよい。粉砕条件の一例を挙げれば、回転速度200〜400rpmにて30分〜4時間粉砕を行う例が挙げられる。また、粉砕処理は、粉砕処理によって溶媒が加熱されて変性することを防ぐ目的で、冷却時間を挟んで数回に分けて行ってもよい。
(炭素材料)
本発明に用いられうる炭素材料は、黒鉛系負極活物質を含む。積層された複数の単電池層50に含まれる複数の負極は、第1の黒鉛系負極活物質を含む負極30aと第2の黒鉛系負極活物質を含む負極30bとを有する。第1の黒鉛系負極活物質は、負極30aの負極活物質と同じ組成を有する厚み66μmの活物質層が厚み10μmの銅箔で挟持されてなる積層体に両側から1.0MPaまでの圧縮力を印加した際の最大圧縮歪みが15%よりも大きくなる負極活物質である。第2の黒鉛系負極活物質は、ラマンスペクトルにおける第1周波数バンドDと第2周波数バンドGとのピーク強度の比であるD/G比が0.2より大きい。
本発明者らは、Si系負極活物質(Si系材料)と炭素材料との混合物を負極活物質として用いた非水電解質二次電池用負極について検討を進めた。その結果、このような混合物を負極活物質として用いると、場合によってはサイクル耐久性が低くなることが判明した。
サイクル耐久性を向上させるには、電池の内部に生じる応力を緩和する必要があり、応力を緩和するには例えば電極の内部にバネなどを設置する方法が考えられる。しかし、そのような方法では電極のエネルギー密度が低下してしまう。そこで、本発明者らは、バネなどの電池の電気化学反応に関与しない物質ではなく、電気化学反応に関与しうる材料を用いて内部応力を緩和できないか検討した。そして、負極に含まれる炭素材料として、上記所定の黒鉛系負極活物質(第1の黒鉛系負極活物質)、中でも特に人造黒鉛を用いると、二次電池のサイクル耐久性が飛躍的に向上することを見出した。
そこで、本発明者らは、後述する実施例の欄に記載の比較例のように、二次電池を構成するすべての負極が人造黒鉛からなる負極活物質を含む場合について電池特性の確認を行なった。その結果、負極の炭素材料を人造黒鉛にすることによって耐久性は良好な数値となるものの、他の電池特性の一つであるレート特性については一般的な二次電池よりも極端に数値が低くなることを本発明者らは発見した。
そのため、本発明者らは、二次電池に含まれる複数の負極において一部の負極は人造黒鉛のような上記所定の黒鉛系負極活物質(第1の負極活物質)を含み、他の負極は人造黒鉛以外の黒鉛系炭素材料(例えば、天然黒鉛など)を含む二次電池について同様の実験を行なった。その結果、上記仕様では、後述するように耐久性が良好な数値となるだけでなく、第1の黒鉛系負極活物質を含む負極が存在していても、レート特性が極端に低くならない結果を得ることに成功した。
その結果から本発明者らは、二次電池に含まれる複数の負極において、一部の負極には人造黒鉛等の耐久性の向上に寄与する黒鉛系負極活物質(第1の黒鉛系負極活物質)を含め、他の負極には天然黒鉛などの人造黒鉛以外の黒鉛系負極活物質(第2の負極活物質)を含める構成を検討した。このような構成により、上述のように耐久性を良好な数値とし、さらにレート特性の数値が低くなりすぎないようにできることを確認したのである。
耐久性の観点から人造黒鉛と天然黒鉛とを比較すると、人造黒鉛は後述する実施例のように、天然黒鉛よりも圧縮力等を付与した後の空隙維持率が高く、本発明者らは空隙の維持が圧縮力などに対する応力の緩和にも繋がると考えた。そして、材料の最大圧縮歪みの値は、材料内部における空隙の維持の程度に関与すると考え、最大圧縮歪みによって耐久性の判断ができると考えた。本発明者らは、さらに、人造黒鉛だけでなく、天然黒鉛の最大圧縮歪みを超える他の材料であっても人造黒鉛と同様に耐久性の向上に寄与するものと考えた。なお、上記における15%とは、後述する実施例にて説明する天然黒鉛における最大圧縮歪みの値である。
また、レート特性の観点から天然黒鉛と人造黒鉛とを比較すると、レート特性はラマンスペクトルにおける第1周波数バンドDと第2周波数バンドGとのピーク強度のD/G比を指標とすることができる。D/G比とは、ラマンスペクトルにおけるグラファイト構造由来の第2周波数バンドにあたる1580cm−1付近のピーク強度に対する欠陥構造に由来する第1周波数バンドDにあたる1360cm−1付近のピーク強度の比のことを言う。D/G比の値は、黒鉛材料の表面における官能基の数と相関がある。天然黒鉛は人造黒鉛に比べレート特性が高く、天然黒鉛と人造黒鉛とのD/Gの境界は特開2016−106376等にも記載されているように0.2と考えられる。天然黒鉛などのレート特性の高い第2の黒鉛系負極活物質を「D/G比が0.2よりも大きい」と定義したのは、この理由による。
本実施形態では、負極活物質として、上記Si系材料とともに炭素材料が併用されることにより、より高いサイクル特性およびレート特性を維持しつつ、かつ、初期容量も高くバランスよい特性を示すことができる。
SiOxおよびSi含有合金のようなSi系材料は、負極活物質層内において、均一に配置されない場合がある。このような場合、それぞれのSiOxまたはSi含有合金が発現する電位や容量は個別に異なる。その結果、負極活物質層内のSiOxまたはSi含有合金の中には、過度にリチウムイオンと反応しないSiOxまたはSi含有合金が生じる。すなわち、負極活物質層内のSiOxまたはSi含有合金のリチウムイオンとの反応の不均一性が発生する。そうすると、上記合金のうち、過度にリチウムイオンと反応するSiOxまたはSi含有合金が過度に作用することによって、電解液との著しい反応による電解液の分解や過剰な膨張によるSiOxまたはSi含有合金の構造の破壊が生じ得る。その結果として、優れた特性を有するSiOxまたはSi含有合金を使用した場合であっても、均一にSiOxまたはSi含有合金が配置されていない等の場合には、非水電解質二次電池用負極としてサイクル特性が低下しうる。
しかしながら、当該SiOxまたはSi含有合金を炭素材料と混合すると、上記問題が解決されうる。より詳細には、SiOxまたはSi含有合金を炭素材料と混合することにより、負極活物質層内にSiOxまたはSi含有合金を均一に配置することが可能となりうる。その結果、負極活物質層内におけるSiOxまたはSi含有合金はいずれも同等の反応性を示し、サイクル特性の低下を防止することができると考えられる。
なお、炭素材料が混合される結果、負極活物質層内におけるSi系材料の含有量が低下することによって、初期容量は低下しうる。しかしながら、炭素材料自体はリチウムイオンとの反応性を有するため、初期容量の低下の度合いは相対的に小さくなる。すなわち、本形態に係る負極活物質は、初期容量の低下の作用と比べて、サイクル特性の向上効果が大きいのである。
また、炭素材料は、SiOxまたはSi含有合金のようなSi系材料と対比すると、リチウムイオンと反応する際の体積変化が生じにくい。そのため、SiOxまたはSi含有合金の体積変化が大きい場合であっても、負極活物質を全体としてみると、リチウム反応に伴う負極活物質の体積変化の影響を相対的に軽微なものとすることができる。
また、炭素材料を包含することによって、消費電気量(Wh)を向上させることができる。より詳細には、炭素材料は、Si系材料と対比して相対的に電位が低い。その結果、Si系材料が有する相対的に高い電位を低減することができる。そうすると、負極全体の電池が低下するため、消費電力量(Wh)を向上させることができるのである。このような作用は、例えば、車両の用途に使用する際に特に有利である。
炭素材料の形状としては、特に制限はなく、球状、楕円状、円柱状、多角柱状、鱗片状、不定形などでありうる。
場合によっては、上述した負極活物質以外の負極活物質が併用されてもよい。併用可能な負極活物質としては、例えば、難黒鉛化炭素、無定形炭素、リチウム−遷移金属複合酸化物(例えば、Li4Ti5O12)、金属材料、リチウム合金系負極材料などが挙げられる。これ以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
負極活物質層は、下記式(1)で表される負極活物質を含有する。
α(Si系材料)+β(炭素材料) (1)
式(1)において、Si系材料は上述したようにアモルファスSiO2粒子とSi粒子との混合体であるSiOx(xはSiの原子価を満足する酸素数)およびSi含有合金からなる群から選択される1種または2種以上である。炭素材料は、上述したように黒鉛系負極活物質を含む。また、αおよびβは負極活物質における各成分の質量%を表し、80≦α+β≦98、0.1≦α≦40、58≦β≦97.9である。
式(1)から明らかなように、負極活物質層におけるSi系材料の含有量(α)は0.1〜40質量%である。また、炭素材料の含有量(β)は58〜97.9質量%である。さらに、これらの合計含有量(α+β)は80〜98質量%である。
なお、負極活物質のSi系材料および炭素材料の混合比は、上記の含有量の規定を満足する限り特に制限はなく、所望の用途に応じて適宜選択できる。本形態では、Si系材料および炭素材料の混合比として、Si系材料の含有量を相対的に少なめにし、炭素材料の含有量を相対的に多めにすることで、本形態の作用効果を有効に発現できるものである。なかでも、前記負極活物質中のSi系材料の含有量(α)は、0.5〜40質量%であることが好ましく、1〜30質量%であることがより好ましく、1〜20質量%であることがさらに好ましい。前記負極活物質中のSi系材料の含有量が0.1質量%未満であると、高い初期容量が得られにくい。一方、前記Si系材料の含有量が40質量%を超えると、高いサイクル特性が得られない。また、前記負極活物質中の炭素材料の含有量(β)は、好ましくは58〜97.5質量%であり、より好ましくは68〜97質量%であり、さらに好ましくは78〜97質量%の範囲である。前記負極活物質中の炭素材料の含有量が97.9質量%を超えると、高い初期容量が得られにくい。また、炭素材料に占める黒鉛系負極活物質の割合は50質量%以上が好ましい。また、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは98質量%以上であり、さらに好ましくは99質量%以上であり、さらに好ましくは100質量%である。
負極活物質層におけるSi系材料と炭素材料との合計含有量(α+β)は、上記の含有量の規定を満足する限り特に制限はなく、所望の用途等に応じて適宜選択できる。負極活物質層におけるSi系材料と炭素材料との合計含有量(α+β)は、80〜98質量%であり、好ましくは85〜97質量%であり、さらに好ましくは90〜97質量%の範囲である。前記負極活物質層中のSi系材料と炭素材料との合計含有量が80質量%未満であると、重量エネルギー密度が低くなるため好ましくない。一方、前記Si系材料と炭素材料との合計含有量が98質量%を超えると、バインダおよび導電助剤が不足し電池性能の低下の原因となるため好ましくない。
(バインダ)
本形態において、負極活物質層は、バインダを含むことが好ましい。負極活物質層に含まれるバインダとしては、水系バインダを含むことが好ましい。水系バインダは、原料としての水の調達が容易であることに加え、乾燥時に発生するのは水蒸気であるため、製造ラインへの設備投資が大幅に抑制でき、環境負荷の低減を図ることができるという利点がある。
水系バインダとは水を溶媒もしくは分散媒体とするバインダをいい、具体的には熱可塑性樹脂、ゴム弾性を有するポリマー、水溶性高分子など、またはこれらの混合物が該当する。ここで、水を分散媒体とするバインダとは、ラテックスまたはエマルジョンと表現される全てを含み、水と乳化または水に懸濁したポリマーを指し、例えば自己乳化するような系で乳化重合したポリマーラテックス類が挙げられる。
水系バインダとしては、具体的にはスチレン系高分子(スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、スチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−アクリル共重合体等)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム、(メタ)アクリル系高分子(ポリエチルアクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリプロピルアクリレート、ポリメチルメタクリレート(メタクリル酸メチルゴム)、ポリプロピルメタクリレート、ポリイソプロピルアクリレート、ポリイソプロピルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリヘキシルアクリレート、ポリヘキシルメタクリレート、ポリエチルヘキシルアクリレート、ポリエチルヘキシルメタクリレート、ポリラウリルアクリレート、ポリラウリルメタクリレート等)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブタジエン、ブチルゴム、フッ素ゴム、ポリエチレンオキシド、ポリエピクロルヒドリン、ポリフォスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、ポリビニルピリジン、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの水系バインダは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用して用いてもよい。
上記水系バインダは、結着性の観点から、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム、およびメタクリル酸メチルゴムからなる群から選択される少なくとも1つのゴム系バインダを含むことが好ましい。さらに、結着性が良好であることから、水系バインダはスチレン−ブタジエンゴム(SBR)を含むことが好ましい。
水系バインダを用いる場合、増粘剤を併用することが好ましい。これは、水系バインダは強い結着性(結着効果)はあるものの、増粘性が十分ではない。そのため、電極作成時に水系スラリーに水系バインダを加えただけでは十分な増粘効果が得られない。そこで、増粘性に優れる増粘剤を用いることで、水系バインダに増粘性を付与するものである。増粘剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、ポリビニルアルコール(平均重合度は、好適には200〜4000、より好適には1000〜3000、ケン化度は好適には80モル%以上、より好適には90モル%以上)およびその変性体(エチレン/酢酸ビニル=(2/98)〜(30/70)モル比の共重合体の酢酸ビニル単位のうちの1〜80モル%ケン化物、ポリビニルアルコールの1〜50モル%部分アセタール化物等)、デンプンおよびその変性体(酸化デンプン、リン酸エステル化デンプン、カチオン化デンプン等)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびこれらの塩等)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸(塩)、ポリエチレングリコール、(メタ)アクリルアミドおよび/または(メタ)アクリル酸塩の共重合体[(メタ)アクリルアミド重合体、(メタ)アクリルアミド−(メタ)アクリル酸塩共重合体、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜4)エステル−(メタ)アクリル酸塩共重合体など]、スチレン−マレイン酸塩共重合体、ポリアクリルアミドのマンニッヒ変性体、ホルマリン縮合型樹脂(尿素−ホルマリン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂等)、ポリアミドポリアミンもしくはジアルキルアミン−エピクロルヒドリン共重合体、ポリエチレンイミン、カゼイン、大豆蛋白、合成蛋白、並びにガラクトマンナン誘導体等が挙げられる。これらの増粘剤は1種単独で用いてもよいし、2種単独で併用して用いてもよい。
水系バインダとして好適なスチレン−ブタジエンゴム(SBR)を用いる場合、塗工性向上の観点から、以下の増粘剤を併用することが好ましい。スチレン−ブタジエンゴム(SBR)と併用することが好適な増粘剤としては、ポリビニルアルコールおよびその変性体、デンプンおよびその変性体、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびこれらの塩等)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸(塩)、またはポリエチレングリコールが挙げられる。中でもスチレン−ブタジエンゴム(SBR)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩(CMC(塩))とを組み合わせることが好ましい。SBR(水系バインダ)と、増粘剤との含有質量比は、特に制限されるものではないが、SBR(水系バインダ):増粘剤=1:(0.3〜0.7)であることが好ましい。
負極活物質層がバインダを含む場合、負極活物質層に用いられるバインダのうち、水系バインダの含有量は80〜100質量%であることが好ましく、90〜100質量%であることが好ましく、100質量%であることが好ましい。水系バインダ以外のバインダとしては、正極活物質層に用いられるバインダが挙げられる。
負極活物質層中に含まれるバインダ量は、活物質を結着することができる量であれば特に限定されるものではないが、好ましくは負極活物質層の全量100質量%に対して0.5〜15質量%であり、より好ましくは1〜10質量%であり、さらに好ましくは1〜8質量%であり、特に好ましくは1〜4質量%であり、最も好ましくは1.5〜3.5質量%である。水系バインダは結着力が高いことから、有機溶媒系バインダと比較して少量の添加で活物質層を形成できる。負極活物質層中に含まれる増粘剤量は、上記水系バインダ(SBRなど)と、増粘剤との含有質量比と、負極活物質層中に含まれるバインダ量と、負極活物質層中に含まれるバインダ中の水系バインダの含有量とから求められる。
負極活物質層は、活物質、バインダ以外にも必要に応じて上記した増粘剤のほか、導電助剤、電解質(ポリマーマトリックス、イオン伝導性ポリマー、電解液など)、イオン伝導性を高めるためのリチウムなどのその他の添加剤をさらに含む。
(導電助剤)
導電助剤とは、正極活物質または負極活物質の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。特に制限されないが、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック等のカーボン粉末や、気相成長炭素繊維(VGCF;登録商標)等の種々の炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。
負極活物質層における導電助剤の含有量は、好ましくは0.1〜10質量%であり、より好ましくは0.5〜8質量%である。導電助剤の配合比(含有量)を上記範囲内に規定することで以下の効果が発現される。すなわち、電極反応を阻害することなく、電子伝導性を十分に担保することができ、電極密度の低下によるエネルギー密度の低下を抑制でき、ひいては電極密度の向上によるエネルギー密度の向上を図ることができる。
(リチウム塩)
リチウム塩は、上述した電解質が負極活物質へと浸透することで、負極活物質中に含まれることになる。したがって、負極活物質層に含まれうるリチウム塩の具体的な形態は、電解質を構成するリチウム塩と同様である。リチウム塩としては、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3等が挙げられる。
(イオン伝導性ポリマー)
イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
負極活物質層中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。配合比は、リチウムイオン二次電池についての公知の知見を適宜参照することにより調整されうる。
(二次電池における負極の配置)
第1の黒鉛系負極活物質を含む第1負極と第2の黒鉛系負極活物質を含む第2負極の配置は、例えば図3から図5に示すものを挙げることができる。一例として図3に示すように、負極活物質層に人造黒鉛(第1の黒鉛系負極活物質に相当)を含む負極30a(第1負極に相当)と、天然黒鉛(第2の黒鉛系負極活物質に相当)を含む負極30b(第2負極に相当)と、を交互に積層する形態を挙げることができる。また、他の例として、図4に示すように二次電池の積層方向における両端に天然黒鉛を含む負極30bを配置し、中央部に人造黒鉛などを含む負極30aを配置する形態を挙げることができる。さらに、上記以外の例として、図5に示すように、天然黒鉛などを含む負極30bを中央部に配置し、人造黒鉛などを含む負極30aを積層方向における両端部に配置する形態を挙げることができる。以下、その他の構成要素について説明する。
(集電体)
集電体(11、12)は導電性材料から構成される。集電体の大きさは、電池の使用用途に応じて決定される。例えば、高エネルギー密度が要求される大型の電池に用いられるものであれば、面積の大きな集電体が用いられる。
集電体の厚さについても特に制限はない。集電体の厚さは、通常は1〜100μm程度である。
集電体の形状についても特に制限されない。図1に示す積層型電池100では集電箔のほか、網目形状(エキスパンドグリッド等)等を用いることができる。
集電体を構成する材料に特に制限はない。例えば、金属や、導電性高分子材料または非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂が採用されうる。
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、またはこれらの金属の組み合わせのめっき材などが好ましく用いられうる。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
また、導電性高分子材料としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、およびポリオキサジアゾールなどが挙げられる。かような導電性高分子材料は、導電性フィラーを添加しなくても十分な導電性を有するため、製造工程の容易化または集電体の軽量化の点において有利である。
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PDdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、SbおよびKからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくはアセチレンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には5〜35質量%程度である。
(セパレータ(電解質層))
セパレータは、電解質を保持して正極と負極との間のリチウムイオン伝導性を確保する機能、および正極と負極との間の隔壁としての機能を有する。
セパレータの形態としては、例えば、上記電解質を吸収保持するポリマーや繊維からなる多孔性シートのセパレータや不織布セパレータ等を挙げることができる。
ポリマーないし繊維からなる多孔性シートのセパレータとしては、例えば、微多孔質(微多孔膜)を用いることができる。該ポリマーないし繊維からなる多孔性シートの具体的な形態としては、例えばポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などのポリオレフィン;これらを複数積層した積層体(例えば、PP/PE/PPの3層構造をした積層体など)、ポリイミド、アラミド、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HFP)等の炭化水素系樹脂、ガラス繊維などからなる微多孔質(微多孔膜)セパレータが挙げられる。
微多孔質(微多孔膜)セパレータの厚みとして、使用用途により異なることから一義的に規定することはできない。一例を示せば、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)、燃料電池自動車(FCV)などのモータ駆動用二次電池などの用途においては、単層あるいは多層で4〜60μmであることが望ましい。前記微多孔質(微多孔膜)セパレータの微細孔径は、最大で1μm以下(通常、数十nm程度の孔径である)であることが望ましい。
不織布セパレータとしては、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル;PP、PEなどのポリオレフィン;ポリイミド、アラミド、など従来公知のものを単独または混合して用いる。また、不織布のかさ密度は、含浸された電解質により十分な電池特性が得られるものであればよく、特に制限されるべきものではない。さらに不織布セパレータの厚さは、電解質層と同じであればよく、好ましくは5〜200μmであり、特に好ましくは10〜100μmである。
また、上述したように、セパレータは電解質を含む。電解質としては、かような機能を発揮できるものであれば特に制限されないが、液体電解質またはゲルポリマー電解質が用いられる。ゲルポリマー電解質を用いることにより、電極間距離の安定化が図られ、分極の発生が抑制され、耐久性(サイクル特性)が向上する。
液体電解質は、リチウムイオンのキャリヤーとしての機能を有する。電解液層を構成する液体電解質は、可塑剤である有機溶媒にリチウム塩が溶解した形態を有する。用いられる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類が例示される。また、リチウム塩としては、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiTaF6、LiCF3SO3等の電極の活物質層に添加されうる化合物が同様に採用されうる。液体電解質は、上述した成分以外の添加剤をさらに含んでも良い。かような化合物の具体例としては、例えば、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、ジフェニルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1,2−ジビニルエチレンカーボネート、1−メチル−1−ビニルエチレンカーボネート、1−メチル−2−ビニルエチレンカーボネート、1−エチル−1−ビニルエチレンカーボネート、1−エチル−2−ビニルエチレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、ビニルオキシメチルエチレンカーボネート、アリルオキシメチルエチレンカーボネート、アクリルオキシメチルエチレンカーボネート、メタクリルオキシメチルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、プロパルギルエチレンカーボネート、エチニルオキシメチルエチレンカーボネート、プロパルギルオキシエチレンカーボネート、メチレンエチレンカーボネート、1,1−ジメチル−2−メチレンエチレンカーボネートなどが挙げられる。なかでも、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートが好ましく、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネートがより好ましい。この環式炭酸エステルは、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
ゲルポリマー電解質は、イオン伝導性ポリマーからなるマトリックスポリマー(ホストポリマー)に、上記の液体電解質が注入されてなる構成を有する。電解質としてゲルポリマー電解質を用いることで電解質の流動性がなくなり、各層間のイオン伝導性を遮断することで容易になる点で優れている。マトリックスポリマー(ホストポリマー)として用いられるイオン伝導性ポリマーとしては、例えばポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン(PVdF−HEP)、ポリ(メチルメタクリレート(PMMA)およびこれらの共重合体等が挙げられる。
ゲル電解質のマトリックスポリマーは、架橋構造を形成することによって、優れた機械的強度を発現しうる。架橋構造を形成させるには、適当な重合開始剤を用いて、高分子電解質形成用の重合成ポリマー(例えば、PEOやPPO)に対して熱重合、紫外線重合、放射線重合、電子線重合等の重合処理を施せばよい。
また、セパレータとしては多孔性シートのセパレータや不織布セパレータ等の多孔質基体に耐熱絶縁層が積層されたセパレータ(耐熱絶縁層付セパレータ)であることが好ましい。耐熱絶縁層は、無機粒子およびバインダを含むセラミック層である。耐熱絶縁層付セパレータは融点または熱軟化点が150℃以上、好ましくは200℃以上である耐熱性の高いものを用いる。耐熱絶縁層を有することによって、温度上昇の際に増大するセパレータの内部応力が緩和されるため熱収縮効果が得られうる。その結果、電池の電極間ショートの誘発を防ぐことができるため、温度上昇による性能低下が起こりにくい電池構成になる。また、耐熱絶縁層を有することによって、耐熱絶縁層付セパレータの機械的強度が向上し、セパレータの破膜が起こりにくい。さらに、熱収縮抑制効果および機械的強度の高さから、電池の製造工程でセパレータがカールしにくくなる。
耐熱絶縁層における無機粒子は、耐熱絶縁層の機械的強度や熱収縮抑制効果に寄与する。無機粒子として使用される材料は特に制限されない。例えば、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタンの酸化物(SiO2、Al2O3、ZrO2、TiO2)、水酸化物、および窒化物、ならびにこれらの複合体が挙げられる。これらの無機粒子は、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、マイカなどの鉱物資源由来のものであってもよいし、人工的に製造されたものであってもよい。また、これらの無機粒子は1種のみが単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。これらのうち、コストの観点から、シリカ(SiO2)またはアルミナ(Al2O3)を用いることが好ましく、アルミナ(Al2O3)を用いることがより好ましい。
耐熱性粒子の目付けは、特に限定されるものではないが、5〜15g/m2であることが好ましい。この範囲であれば、十分なイオン伝導性が得られ、また、耐熱強度を維持する点で好ましい。
耐熱絶縁層におけるバインダは、無機粒子同士や、無機粒子と多孔質基体とを接着させる役割を有する。当該バインダによって、耐熱絶縁層が安定に形成され、また多孔質基体および耐熱絶縁層の間の剥離が防止される。
耐熱絶縁層に使用されるバインダは、特に制限はなく、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリロニトリル、セルロース、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、アクリル酸メチルなどの化合物がバインダとして用いられうる。このうち、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アクリル酸メチル、またはポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いることが好ましい。これらの化合物は、1種のみが単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
耐熱絶縁層におけるバインダの含有量は、耐熱絶縁層100質量%に対して、2〜20質量%であることが好ましい。バインダの含有量が2質量%以上であると、耐熱絶縁層と多孔質基体との間の剥離強度を高めることができ、セパレータの耐振動性を向上させることができる。一方、バインダの含有量が20質量%以下であると、無機粒子の隙間が適度に保たれるため、十分なリチウムイオン伝導性を確保することができる。
耐熱絶縁層付セパレータの熱収縮率は、150℃、2gf/cm2条件下、1時間保持後にMD、TDともに10%以下であることが好ましい。このような耐熱性の高い材質を用いることで、正極発熱量が高くなり電池内部温度が150℃に達してもセパレータの収縮を有効に防止することができる。その結果、電池の電極間ショートの誘発を防ぐことができるため、温度上昇による性能低下が起こりにくい電池構成になる。
<集電板(タブ)>
リチウムイオン二次電池においては、電池外部に電流を取り出す目的で、集電体に電気的に接続された集電板(タブ)が外装材であるラミネートフィルムの外部に取り出されている。
集電板を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板(正極タブ)と負極集電板(負極タブ)とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
また、図2に示す正極タブ23と負極タブ33の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極タブ23と負極タブ33とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ23と負極タブ33をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出すようにしてもよいなど、図2に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
<シール部>
シール部は、直列積層型電池に特有の部材であり、電解質層の漏れを防止する機能を有する。このほかにも、電池内で隣り合う集電体同士が接触したり、積層電極の端部の僅かな不ぞろいなどによる短絡が起こったりするのを防止することもできる。
シール部の構成材料としては、特に制限されないが、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ゴム、ポリイミド等が用いられうる。これらのうち、耐蝕性、耐薬品性、製膜性、経済性などの観点からは、ポリオレフィン樹脂を用いることが好ましい。
<正極端子リードおよび負極端子リード>
負極および正極端子リードの材料は、公知の積層型二次電池で用いられるリードを用いることができる。なお、電池外装材から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。
<電池外装体>
電池外装体としては、従来公知の金属缶ケースを用いることができる。そのほか、図1に示すようなラミネートシート60を外装材として用いて、発電要素10をパックしてもよい。ラミネートフィルムは、例えば、ポリプロピレン、アルミニウム、ナイロンがこの順に積層されてなる3層構造として構成されうる。このようなラミネートフィルムを用いることにより、外装材の開封、容量回復材の添加、外装材の再封止を容易に行うことができる。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができ、所望の電解液層厚みへと調整容易であることから、外装体は、アルミニウムを含むラミネートフィルムからなるもの(例えば、アルミラミネートシート製バッグ;実施例参照)がより好ましい。アルミニウムを含むラミネートフィルムには、上記したポリプロピレン、アルミニウム、ナイロンがこの順に積層されてなるアルミラミネートフィルム等を用いることができる。
[セルサイズ]
図2は、二次電池の代表的な実施形態である扁平なリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。このリチウムイオン二次電池のように、本発明における好ましい実施形態によれば、アルミニウムを含むラミネートフィルムからなる電池外装体に前記発電要素が封入されてなる構成を有する扁平積層型ラミネート電池が提供される。
図2に示すように、扁平な積層型電池100(リチウムイオン二次電池)では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ23、負極タブ33が引き出されている。発電要素10は、積層型電池100のラミネートシート60(電池外装材)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素10は、正極タブ23および負極タブ33を外部に引き出した状態で密封されている。発電要素10は、正極(正極活物質層)20、電解質層40および負極(負極活物質層)30a、30bで構成される単電池層(単セル)50が複数積層されたものである。
なお、上記リチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装材に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムラミネートフィルムで外装される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
また、図2に示す正極タブ23と負極タブ33の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極タブ23と負極タブ33とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ23と負極タブ33をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出すようにしてもよいなど、図2に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
一般的な電気自動車では、電池格納スペースが170L程度である。このスペースにセルおよび充放電制御機器等の補機を格納するため、通常セルの格納スペース効率は50%程度となる。この空間へのセルの積載効率が電気自動車の航続距離を支配する因子となる。単セルのサイズが小さくなると上記積載効率が損なわれるため、航続距離を確保できなくなる。
したがって、本発明において、発電要素を外装体で覆った電池構造体は大型であることが好ましい。具体的には、負極活物質層が長方形状(矩形形状)であり、当該長方形の短辺の長さが100mm以上であることが好ましい。かような大型の電池は、車両用途に用いることができる。ここで、負極活物質層の短辺の長さとは、各電極の中で最も長さが短い辺を指す。短辺の長さの上限は特に限定されるものではないが、通常400mm以下である。
[体積エネルギー密度および定格(放電)容量]
電気自動車の一回の充電による走行距離(航続距離)を考慮すると、電池の体積エネルギー密度は157Wh/L以上であることが好ましく、かつ定格容量は20Ah以上であることが好ましい。
ここで、電極の物理的な大きさの観点とは異なる、大型化電池の観点として、電池体積と電池容量(定格容量)の関係から電池の大型化が規定される。具体的には、本形態に係る非水電解質二次電池は、定格容量に対する電池体積(電池外装体まで含めた電池の投影面積と厚みとの積)の比の値が10cm3/Ah以下であり、かつ、定格容量が3Ah以上であることが好ましい。この大型化電池は、単位体積当たりの電池容量が大きい(10Ah/cm3以上)。言い換えれば、単位容量当たりの電池体積(定格容量に対する電池体積の比)が小さく(10cm3/Ah以下)、かつ電池容量(定格容量)が大きい(3Ah以上)ものとして規定している。
上記定格容量に対する電池体積(電池外装体まで含めた電池の投影面積と厚みとの積)の比の値の上限は、好ましくは8cm3/Ah以下である。一方、定格容量に対する電池体積(電池外装体まで含めた電池の投影面積と厚みとの積)の比の値の下限は特に制限されるものではないが、2cm3/Ah以上であればよく、好ましくは3cm3/Ah以上である。また、定格容量は、好ましくは5Ah以上であり、より好ましくは10Ah以上、さらに好ましくは15Ah以上、特に好ましくは20Ah以上、なかでも好ましくは25Ah以上である。このように大面積かつ大容量の電池とされることによって、電極面内でのSi系材料の膨張が顕著に生じ、サイクル特性の大幅な低下がみられるようになるのである。
電池の定格容量は、以下により求められる。
≪定格容量の測定≫
定格容量は、試験用電池について、電解液を注入した後で、10時間程度放置し、その後、温度25℃、3.0Vから4.15Vの電圧範囲で、次の手順1〜5によって測定される。なお、市販品等の電池(製品)については、電解液注液後10時間たっているので手順1〜5を行なって定格容量を求めればよい。
手順1:0.1Cの定電流充電にて4.15Vに到達した後、5分間休止する。
手順2:手順1の後、定電圧充電にて1.5時間充電し、5分間休止する。
手順3:0.1Cの定電流放電によって3.0Vに到達後、定電圧放電にて2時間放電し、その後、10秒間休止する。
手順4:0.1Cの定電流充電によって4.1Vに到達後、定電圧充電にて2.5時間充電し、その後、10秒間休止する。
手順5:0.1Cの定電流放電によって3.0Vに到達後、定電圧放電にて2時間放電し、その後、10秒間停止する。
定格容量:手順5における定電流放電から定電圧放電に至る放電における放電容量(CCCV放電容量)を定格容量とする。
電池体積は、電池外装体まで含めた電池の投影面積と厚みとの積により求める。このうち、電池外装体まで含めた電池の投影面積に関しては、正面、背面、右側面、左側面、平面、底面の6つの電池の投影面積が得られるが、このうちの最大の電池の投影面積を用いればよく、通常は、電池を平板上に最も安定した状態に置いた際の平面または底面の電池の投影面積である。また、電池外装体まで含めた電池の厚みは、満充電時の厚みを測定するものとする。また、電池外装体まで含めた電池の厚みは、大面積であることから、測定箇所によるばらつきを考慮し、8か所以上を測定し、これらを平均した値とする。例えば、実施例では、図2中に示す、1〜9の数字で表した箇所ないしその近傍で電池外装体まで含めた電池の厚みを測定し、これらを平均した値とした。
さらに、矩形状の電極のアスペクト比は1〜3であることが好ましく、1〜2であることがより好ましい。なお、電極のアスペクト比は矩形状の正極活物質層の縦横比として定義される。アスペクト比をかような範囲とすることで、車両要求性能と搭載スペースを両立できるという利点がある。
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
図6は本発明の一実施形態に係る二次電池の製造方法について示すフローチャートである。リチウムイオン二次電池の製造方法は特に制限されず、公知の方法により製造されうる。具体的には、(1)電極の作製、(2)単電池層の作製、(3)発電要素の作製、および(4)積層型電池の製造を含む。以下、リチウムイオン二次電池の製造方法について一例を挙げて説明するが、これに限定されるものではない。本実施形態に係る二次電池の製造方法について図6を参照して概説すれば、正極20、負極30a、30bの作製と、積層型電池100の作製と、活性化処理、初充電、ガス抜き等と、を有する。以下、詳述する。
(1)電極(正極および負極)の作製
電極(正極20または負極30a、30b)は、例えば、活物質スラリー(正極活物質スラリーまたは負極活物質スラリー)を調製し、当該活物質スラリーを集電体上に塗布、乾燥し、次いでプレスすることにより作製されうる。前記活物質スラリーは、上述した活物質(正極活物質または負極活物質)、バインダ(負極側に水系バインダを用いる場合は増粘剤を併用するのが望ましい)、導電助剤および溶媒を含む。その後、スチレン−ブタジエンゴムなどのバインダを加えて撹拌して負極活物質スラリーを得る。
前記溶媒としては、特に制限されず、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、シクロヘキサン、ヘキサン、水等が用いられうる。
負極活物質(水系)スラリー作製時に用いられる水系溶媒としては、特に制限されるものではなく、従来公知の水系溶媒を用いることができる。例えば、水(純水、超純水、蒸留水、イオン交換水、地下水、井戸水、上水(水道水)など)、水とアルコール(例えばエチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコールなど)との混合溶媒などを用いることができる。ただし、本実施形態では、これらに制限されるものではなく、本実施形態の作用効果を損なわない範囲であれば、従来公知の水系溶媒を適宜選択して用いることができる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
活物質スラリーの集電体への塗布方法としては、特に制限されず、スクリーン印刷法、スプレーコート法、静電スプレーコート法、インクジェット法、ドクターブレード法等が挙げられる。
集電体の表面に形成された塗膜の乾燥方法としては、特に制限されず、塗膜中の溶媒の少なくとも一部が除去されればよい。当該乾燥方法としては、加熱が挙げられる。乾燥条件(乾燥時間、乾燥温度など)は、適用する活物質スラリーに含有される溶媒の揮発速度、活物質スラリーの塗布量等に応じて適宜設定されうる。なお、溶媒は一部が残存していてもよい。残存した溶媒は、後述のプレス工程等で除去されうる。
プレス手段としては、特に限定されず、例えば、カレンダーロール、平板プレス等が用いられうる。上記手段により、正極20と負極30a、30bとが作製される(図6のST1)。
(2)単電池層の作製
単電池層50は、(1)で作製した電極(正極20および負極30)を、セパレータ(電解質層40)を介して積層させることにより作製されうる。
(3)発電要素の作製
発電要素10は、単電池層50の出力および容量、電池として必要とする出力および容量等を適宜考慮し、前記単電池層50を図3〜図5に示すパターンのように積層して作製されうる。
(4)積層型電池の製造
電池の構成としては、角形、ペーパー型、積層型、円筒型、コイン型等、種々の形状を採用することができる。また構成部品の集電体や絶縁板等は特に限定されるものではなく、上記の形状に応じて選定すればよい。しかし、本実施形態では積層型電池が好ましい。積層型電池100は、上記で得られた発電要素10の集電体にリードを接合し、これらの正極リードまたは負極リードを、正極タブ23または負極タブ33に接合する。そして、正極タブ23および負極タブ33が電池外部に露出するように、発電要素10をラミネートシート60中に入れ、注液機により電解液を注液してから真空に封止することにより積層型電池100が製造されうる(図6のST2)。
(5)活性化処理など
本実施形態では、上記により得られた積層型電池の性能および耐久性を高める観点から、さらに、以下の条件で初充電処理、ガス除去処理および活性化処理などを必要に応じて行ってもよい。この場合には、ガス除去処理ができるように、上記(4)の積層型電池の製造において、封止する際に、矩形形状にラミネートシート(外装材)の3辺を熱圧着により完全に封止(本封止)し、残る1辺は、熱圧着で仮封止しておく。残る1辺は、例えば、クリップ留め等により開閉自在にしてもよいが、量産化(生産効率)の観点からは、熱圧着で仮封止するのがよい。この場合には、圧着する温度、圧力を調整するだけでよいためである。熱圧着で仮封止した場合には、軽く力を加えることで開封でき、ガス抜き後、再度、熱圧着で仮封止してもよいし、最後的には熱圧着で完全に封止(本封止)すればよい。
(初充電処理)
電池のエージング処理は、以下のように実施することが好ましい。25℃にて、定電流充電法で0.05C、4時間の充電(SOC約20%)を行う。次いで、25℃にて0.1Cレートで4.45Vまで充電した後、充電を止め、その状態(SOC約70%)で約2日間(48時間)保持する。
(最初(1回目)のガス除去処理)
次に、最初(1回目)のガス除去処理として、以下の処理を行う。まず、熱圧着で仮封止した1辺を開封し、10±3hPaで5分間ガス除去を行った後、再度、熱圧着を行って仮封止を行う。さらに、ローラーで加圧(面圧0.5±0.1MPa)整形し、電極とセパレータとを十分に密着させる。
(活性化処理)
次に、活性化処理法として、以下の電気化学前処理法を行う。
まず、25℃にて、定電流充電法で0.1Cで電圧が4.45Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを2回行う。同様に、25℃にて、定電流充電法で0.1Cで4.55Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを1回、0.1Cで4.65Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを1回行う。さらに、25℃にて、定電流充電法で、0.1Cで4.75Vとなるまで充電した後、0.1Cで2.0Vまで放電するサイクルを1回行えばよい。
なお、ここでは、活性化処理法として、定電流充電法を用い、電圧を終止条件とした場合の電気化学前処理法を例として記載しているが、充電方式は定電流定電圧充電法を用いても構わない。また、終止条件は電圧以外にも電荷量や時間を用いても構わない。
(最後(2回目)のガス除去処理)
次に、最初(2回目)のガス除去処理として、以下の処理を行う。まず、熱圧着で仮封止した一辺を開封し、10±3hPaで5分間ガス除去を行った後、再度、熱圧着を行って本封止を行う。さらに、ローラーで加圧(面圧0.5±0.1MPa)整形し電極とセパレータとを十分に密着させる(図6のST3)。
本実施形態では、上記した初充電処理、ガス除去処理および活性化処理を行うことにより、得られた電池の性能および耐久性を高めることができる。
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
電池が複数、直列にまたは並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列にまたは並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
[車両]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池をはじめとした本発明の非水電解質二次電池は、長期使用しても放電容量が維持され、サイクル特性が良好である。さらに、体積エネルギー密度が高い。電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの車両用途においては、電気・携帯電子機器用途と比較して、高容量、大型化が求められるとともに、長寿命化が必要となる。したがって、上記リチウムイオン二次電池(非水電解質二次電池)は、車両用の電源として、例えば、車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
具体的には、電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性および出力特性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリット車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
(作用効果)
次に本実施形態に係る作用効果について説明する。本実施形態では、積層型電池100に含まれる複数の負極が、負極30aと負極30bとを備えるように構成している。負極30aは、Si系負極活物質(Si系材料)に加えて第1の黒鉛系負極活物質として人造黒鉛を含む。負極30aは、後述する条件にて負極活物質層に圧縮力を印加した際の最大圧縮歪みが黒鉛系負極活物質を天然黒鉛とした場合の最大圧縮歪みの値(15%)よりも大きくなる。負極30bは、Si系負極活物質(Si系材料)に加えて第2の黒鉛系負極活物質として、ラマンスペクトルにおける第1周波数バンドDと第2周波数バンドGとのピーク強度の比であるD/G比が0.2よりも大きい物質を選択するように構成している。このように構成することによって、レート特性の低下を抑制しつつ、耐久性を向上させることができる。このように本実施形態では電池の電気化学反応に寄与しうる人造黒鉛などの第1の黒鉛系負極活物質とレート特性の改善に寄与する天然黒鉛等の第2の黒鉛系負極活物質とを併せて用いることによって、電池のエネルギー密度やレート特性の低下を抑制しつつ耐久性を向上させることができる。
また、電池における電極の配置としては、図3〜図5に示す負極30aのように人造黒鉛を含んで天然黒鉛を含まず、負極30bのように天然黒鉛を含み、人造黒鉛を含まないように構成することができる。このように構成することによって、製造時における負極活物質を比較的容易に調製することができる。
また、電池における負極の配置としては、図4に示すように積層方向における中央部に人造黒鉛を含む負極30aを配置し、積層方向の両端に天然黒鉛を含む負極30bを配置する例を挙げることができる。電池の使用時には内部で熱が発生し、発生した熱は内部にこもりやすい。また、レート特性については温度が高い方が性能が上がるという傾向がある。そのため、天然黒鉛に比べてレート特性を低くする人造黒鉛を含む負極30aを積層方向の両端ではなく、中央部に配置することで、温度が低い場合よりも人造黒鉛を含む負極30aのレート特性を向上させることができる。
また、上記とは反対にレート特性が向上する積層方向中央には天然黒鉛を含む負極30bを配置し、積層方向両端には人造黒鉛を含む負極30aを配置することもできる。この場合には、天然黒鉛などを含む負極30bのレート特性を積層方向両端に配置する場合よりも向上させることができる。
また、負極30aと負極30bとは、図3に示すように例えば一つおきに交互に配置することもできる。この場合、耐久性に寄与する負極30aを積層方向に均等に配置することで耐久性を向上させることができる。
また、耐久性の向上は本実施形態に係る積層型電池100のように定格容量に対する比の値が10cm3/Ah以下であり、定格容量が3Ah以上のような電池にて特に好適に発揮することができる。
以下、実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに何ら限定されるわけではない。以下では、負極における圧縮歪みを確認する実験と、非水電解質二次電池におけるレート維持率および容量維持率を確認する実験を行なった。まず、実験に用いた構成について説明する。
1.正極の作製
正極活物質としてNMC複合酸化物を94質量%、導電助剤としてアセチレンブラックを3質量%、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を3質量%、およびスラリー粘度調整溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量混合して正極活物質スラリーを調製した。得られた正極活物質スラリーを正極集電体であるアルミニウム箔(厚さ:20μm)の表面に塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形して平面形状が矩形の正極活物質層を作製した。裏面にも同様にして正極活物質層を形成して、正極集電体(アルミニウム箔)の両面に正極活物質層が形成されてなる正極を作製した。なお、正極活物質層の片面塗工量は24mg/cm2(箔を含まない)であった。また、密度は3.5g/cm3(箔を含まない)であった。
上記PVdFには、株式会社クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン製、クレハKFポリマー、粉末タイプ、グレードNo.W♯7200を用いた。またNMC複合酸化物には、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2で表される組成を有するもの(平均粒子径15μm)を用いた。これを一般式(1):LiaNibMncCodMxO2に当てはめると、a=1、b=0.5、c=0.3、d=0.2、x=0、b+c+d=1であり、一般式(1)の要件を満足するものを用いた。このNMC複合酸化物は以下の調製法により準備した。
(NMC複合酸化物の調製)
硫酸ニッケル、硫酸コバルト、および硫酸マンガンを溶解した水溶液(1mol/L)に、60℃にて水酸化ナトリウムおよびアンモニアを連続的に供給してpHを11.3に調整し、共沈法によりニッケルとマンガンとコバルトとが50:30:20のモル比で固溶してなる金属複合水酸化物を作製した。
この金属複合水酸化物と炭酸リチウムを、Li以外の金属(Ni、Mn、Co)の合計のモル数とLiのモル数の比が1:1となるように秤量した後、十分混合し、昇温速度5℃/minで昇温し、空気雰囲気で900℃、2時間仮焼成した後、昇温速度3℃/minで昇温し、920℃で10時間本焼成し、室温まで冷却して、LiNi0.5Mn0.3Co0.2O2の組成を有する正極活物質であるNMC複合酸化物を得た。なお、得られたNMC複合酸化物の平均二次粒子径は10μmであった。
2.負極の作製
2.1.実施例および比較例の負極の作製
(比較例1の負極の作製)
Si系材料として、Si90Ti10(単位は質量%)で表されるSi−Ti合金を用いた。なお、上記Si−Ti合金は、メカニカルアロイ法により製造した。具体的には、ドイツ フリッチュ社製遊星ボールミル装置P−6を用いて、ジルコニア製粉砕ポットにジルコニア製粉砕ボールおよび合金の原料粉末を投入し、600rpmで48時間かけて合金化させた。その後400rpmで1時間、粉砕処理を実施した。合金の原料粉末には、Si、Tiの金属粉末を使用した。ここで、合金化処理は、高回転(600rpm)で合金の原料粉末に高エネルギーを付与することで合金化させるものである。一方、粉砕処理は、低回転(400rpm)で2次粒子をほぐす処理を実施するものである(当該処理では合金化しない)。
得られたSi−Ti合金の二次粒子径のD50(A)は6μmであり、二次粒子径のD90(D)は10μmであった。
負極活物質として天然黒鉛(BET比表面積:3.4m2/g、D/G比:0.25、二次粒子径のD50(C):25μm)94.08質量%、上記で調製したSi−Ti合金1.92質量%、導電助剤としてカーボンブラック(Super−P、TIMCAL社製)1質量%、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩1質量%およびSBRのラテックス2質量%を精製水中に分散させて負極活物質スラリーを調製した。
具体的には、まず、溶媒(イオン交換水)に増粘剤であるカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩を負極活物質、導電助剤、増粘剤、バインダの総質量100質量%に対して1質量%となる濃度で溶解した溶液を準備した。この1/3量に、導電助剤、負極活物質粉末を加え、攪拌脱泡機で2000rpmで3分間撹拌した。これを30秒間の休止時間を挟んで、増粘剤の水溶液の添加、混合を合計3回繰り返したのち、バインダであるSBRのラテックスを加えて、撹拌脱泡機で2000rpmで1分間撹拌し負極活物質スラリーを得た。
この負極活物質スラリーを負極集電体となる銅箔(厚さ10μm)に塗布し、120℃で3分間乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形して負極を作製した。裏面にも同様にして負極活物質層を形成して、負極集電体(銅箔)の両面に、それぞれ厚さ66μmの負極活物質層が形成されてなる負極を作製した。負極全体の厚さは142μmである。負極活物質層の片面塗工量は11.96mg/cm2(箔を含まない)であった。負極活物質層の密度は、1.81g/cm3(箔を含まない)であった。
負極活物質層の組成を式(1)に当てはめると、α+β=96、α=1.92、β=94.08となり、式(1)の要件を満足する。
また、炭素材料のD50(C)に対するSi系材料のD50(A)の比A/Cは、6μm/25μm=0.24であった。また負極活物質層の厚さ(D)に対するSi系材料のD90(B)の比B/Dは10μm/66μm=0.15であった。
(実施例1の負極の作製)
上記比較例に係る負極の作成に使用した天然黒鉛に代えて、人造黒鉛(BET比表面積:3.5m2/g、D/G比:0.08、二次粒子径のD50(C):3.5μm)94.08%、Si−Ti合金1.92質量%、導電助剤としてカーボンブラック(Super−TIMCAL製)1質量%、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩1質量%およびSBRのラテックス2質量%を精製水中に分散させて負極活物質スラリーを調整した。その他の条件は比較例1の負極と同様である。
負極活物質層の片面塗工量は11.96mg/cm2であった。負極活物質層の密度は1.81g/cm3であった。負極活物質層の組成を(1)にあてはめると、α+β=96、α=1.92、β=94.08となり、式(1)の要件を満足する。また、炭素材料のD50(C)に対するSi系材料のD50(A)の比A/Cは6μm/25μm=0.24であった。また、負極活物質層の厚さ(D)に対するSi系材料のD90(B)の比B/Dは10μm/66μm=0.15であった。
3.実施例2−1〜2−3および比較例2−4および2−5の電池の作製
上記1で得られた正極および上記2で得られた負極を活物質層面積;縦2.5cm×横2.0cmになるように切り出し、多孔質ポリプロピレン製セパレータ(厚さ25μm、空孔率55%)を介して積層し(正極1枚、負極2枚)、発電要素を作製した。得られた発電要素の各集電体に正極リードと負極リードを接合し、これらの正極リードまたは負極リードを、正極集電板または負極集電板に接合した。そして、正極集電板および負極集電板が電池外部に露出するように、発電要素を電池外装体であるアルミラミネートシート製バッグ(縦3.7cm×横3.2cm)に挿入し、注液機により開口部より電解液を注液した。このアルミラミネートシート製バッグは、2枚のアルミラミネートシート(アルミニウムをPPフィルムでラミネートしたフィルムシート)を重ねあわせ、この外周囲(外縁部)4辺のうち3辺を熱圧着で封止(シール)し、残る1辺を未封止(開口部)としたものである。電解液としては、1.0MのLiPF6をエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との3:7(EC:DECの体積比)混合溶媒に溶解した溶液100質量%に対して、添加剤であるビニレンカーボネートを1質量%添加したものを用いた。ここで、電解液の注液量は、正極活物質層、負極活物質層およびセパレータの全空孔容積(計算により算出した)に対して1.50倍となる量とした。次いで、真空条件下において、両電極(集電体)にリードを介して接続された正極集電板と負極集電体とが導出するようにアルミラミネートシート製バッグの開口部を熱圧着で封止し、ラミネート型リチウムイオン二次電池である試験用セルを完成させた。
比較例2−4に係る試験用セルは、1で得た正極を4個使用し、比較例1の負極を5個使用して作製した。比較例2−5に係る試験用セルは、1で得た正極を4個使用し、実施例1の負極を5個使用して作製した。
実施例2−1における試験用セルは、図3に示すように1で得た正極を4個使用し、比較例1の負極と実施例1の負極とを交互に積層して作製した。実施例2−2における試験用セルは、図4に示すように1で得た正極を4個使用し、比較例1に係る負極を積層方向における中央部に3個配置し、実施例1に係る負極を積層方向における両端部(最外部)に配置した。実施例2−3における試験用セルは、図5に示すように1で得た正極を4個使用し、比較例1に係る負極を積層方向における両端(最外部)に配置し、実施例1に係る負極を積層方向における中央部に3個配置して作製した。
(実験1 圧縮歪みの測定)
実験1では上記で用意した実施例1および比較例1に係る負極を用いて、負極活物質単体での実施例および比較例におけるそれぞれの圧縮歪みを測定した。上記実験ではINSTRON 5867型、1kNのロードセル、圧子としてφ16のフラットパンチを使用して圧縮力を付与した。試験片のサイズはφ15mm、面積176.7mm2、初期厚み0.203mm、重量は45.311mgである。
まず、実施例1および比較例1と同様の負極集電体と負極活物質を使用し、負極集電体の片側に負極活物質を塗布したものを乾燥させ、負極として作製した。そして、負極活物質を両側から銅箔で挟持するように、負極活物質における負極集電体とは逆側に10μmの銅箔を配置し、上記装置にて仮締めした。そして、実施例1および比較例1に含まれる負極活物質を負極集電体と銅箔とで挟持したものに上記装置を使用して掃引速度を1.0μm/sとし、荷重が1.0MPaとなるまで試験片に荷重を付与し、その後上記荷重を減少するという動作を3回繰り返した。以下、実施例1または比較例1の負極に含まれる負極活物質を負極集電体(銅箔)と銅箔とで挟持したものを積層体と呼ぶことにする。
圧縮歪みの測定では、上記のように1.0MPaまで荷重を付加し、減衰させた際の圧縮歪みを測定した。なお、上記実験方法はJIS K7127に定められる方法に基づいて行なった。図7は実施例と比較例に係る本実験結果を示す応力歪線図である。図7においてaで示すカーブは比較例1に係るデータであり、bで示すカーブは実施例1に係るデータである。
図7からもわかるように、実施例1に係る積層体では応力が最大値となる際の圧縮歪み(最大圧縮歪み)が比較例1に係る積層体の最大圧縮歪みである15%よりも高くなっていることが確認できた。図8は実験後の比較例1の負極に含まれる負極活物質を電子顕微鏡にて撮影した画像であり、図9は実験後の実施例1の負極に含まれる負極を電子顕微鏡にて撮影した画像である。図10は、実施例1および比較例1の負極に含まれる負極活物質の空隙率を示すグラフである。
図8から図10を見ると、最大圧縮歪みが比較的大きな実施例1に係る積層体に含まれる負極活物質は、空隙率の点においても比較例1に係る積層体に含まれる負極活物質に比べて大きいことが確認できる。この結果からすると、積層体の最大圧縮歪みが大きくなれば、負極活物質内部の空隙が維持されて圧縮力に対する応力がより緩和されると考えられる。そのため、本実験にて測定した圧縮歪みは耐久性を左右する重要因子であると考えられる。
(実験2 レート維持率と容量維持率の評価)
次にレート特性と耐久性の評価について実験を行なった。レート特性は、上記で作製した実施例2−1〜2−3および比較例2−4および2−5の電池を0.1Cレートにて最高電圧が4.5Vとなるまで充電した後、約1時間〜1.5時間保持する定電流定電圧法とし、放電は電池の最低電圧が2.0Vとなるmで0.1Cレートまたは2.5Cレートで放電する定電流放電法で行なった。いずれも室温下で行なった。レート特性は、0.1C放電時の容量に対する2.5C放電時の容量の比率として評価した。
(耐久性の評価)
耐久性については、1.0Cでの充放電を、25℃で100サイクル繰り返した。耐久性の評価は、充電は0.1Cレートにて最高電圧が4.5Vとなるまで充電した後、約1時間〜1.5時間保持する定電流定電圧測定法とし、放電は、電池の最低電圧が2.0Vとなるまで0.1Cのレートで放電する定電流放電法で行なった。いずれも室温下で行なった。
1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の割合を「容量維持率(%)」として評価した。結果を表1に示す。
実施例2−1〜2−3および比較例2−4、2−5を比較すると、電池を構成する全ての負極の炭素材料に人造黒鉛を使用した比較例2−5では耐久性が極めて高いものの、レート特性は逆に著しく低い数値となることが確認できた。これに対し、電池を構成する全ての負極の炭素材料に天然黒鉛を使用した比較例2−4では、レート特性が高い数値を示す分、耐久性は逆に極めて低い数値を示すことが確認できた。
これに対し、実施例2−1〜2−3では、全ての負極の炭素材料に人造黒鉛を使用した比較例2−5よりもレート特性が向上し、全ての負極の炭素材料に天然黒鉛を使用した比較例2−4よりも耐久性が向上していることが確認できた。このように電池に含まれる複数の負極が天然黒鉛を含む負極と人造黒鉛を含む負極とを備えるように構成することによって、レート特性の低下を抑制しつつ、耐久性を良好な値にできることが確認できた。
なお、本発明は上述した実施形態にのみ限定されず、特許請求の範囲において種々の変更が可能である。図11、12は本発明の変形例に係る二次電池に含まれる正極と負極の配置について示す図である。
上記では一の負極の炭素材料は人造黒鉛から構成され、天然黒鉛を含まず、他の負極の炭素材料は天然黒鉛から構成され人造黒鉛を含まない実施形態について説明したが、これに限定されない。上記以外にも複数の負極におけるいずれかの負極には人造黒鉛だけでなく、天然黒鉛をも含むように構成してもよい。
上記例としては、例えば以下の2つが挙げられる。一つは、図11の負極30cに示すように、天然黒鉛と人造黒鉛とが粒状に混合した状態の場合である。このように構成することによって、負極の炭素材料に人造黒鉛を含む負極であっても、人造黒鉛だけでなくレート特性の向上に寄与する天然黒鉛なども含まれるため、レート特性をより良好な値にすることができる。
もう一つの態様としては、図12の負極30dに示すように、天然黒鉛と人造黒鉛とが一つの負極活物質層において層状に積層して配置される場合である。人造黒鉛は上記のように天然黒鉛より空隙率が高い構造を備えることで耐久性の向上に寄与していると考えられる。そのため、人造黒鉛の構造を変化させないように、天然黒鉛と人造黒鉛とを積層状態とすることによって、天然黒鉛の含まれる負極においても耐久性を向上させるようにすることができる。
図13は本発明の他の形態である負極ユニットについて示す斜視図である。上記では本発明およびその実施形態がレート特性の低下を抑制しつつ、耐久性の向上を図った、複数の負極を含む二次電池であると説明した。しかし、これに限定されず、二次電池を形成した際にレート特性の低下を抑制しつつ耐久性の向上が可能な、二次電池に含まれる複数の負極(本明細書では負極ユニットという)についても本発明およびその実施形態に含まれる。
なお、上記実験における最大圧縮歪みの測定では銅箔の集電体の片側に負極活物質を塗布したものを乾燥させ、負極活物質から見て負極集電体とは逆側に銅箔を配置した状態で荷重(圧縮力)を付与(印加)すると記載したが、これに限定されない。上記以外にもスラリー状の負極活物質を乾燥させた後に両側から銅箔を配置して荷重を付与してもよい。また、スラリー状の負極活物質の両側に銅箔を配置した状態で乾燥させた後に荷重を付与してもよい。