以下、本発明の実施の形態にかかる電動工具の一例であるネジ締機1について図1乃至図14を参照しながら説明する。図1は、ネジ締機1の外観及び内部構造を示す部分断面側面図である。図1に示されているように、ネジ締機1は、ハウジング2と、モータ3と、クラッチ部4と、ビットBを着脱可能な出力軸部5と、バネ6と、ワンウェイクラッチ7と、スプリングクラッチ8と、アシストクラッチ9とを備えている。図1に示されている「上」を上方向、「下」を下方向、「前」を前方向、「後」を後方向と定義する。また、ネジ締機1を後から見た場合の「右」を右方向、「左」を左方向と定義する。さらに、回転可能な部材に関しては、ネジ締機1の後面視において時計回り方向の回転を「正転」と定義し、反時計回り方向の回転を「反転」と定義する。後方向は、本発明における「所定方向」の一例である。前方向は、本発明における「所定方向とは反対の方向」の一例である。
ハウジング2は、ネジ締機1の外殻をなしており、モータハウジング21と、ハンドルハウジング22と、ギアハウジング23とを有している。
モータハウジング21は、前後方向に延びる略円筒形状をなしており、内部にモータ3を収容している。また、モータハウジング21の後部には、複数の吸気口21aが形成され、前部には、複数の排気口21bが形成されている。
モータ3は、回転方向(正転及び反転)を切替可能に構成されたACブラシ付きモータであり、前後方向に延びる回転軸部31を有し、モータ3の駆動によって回転し回転力を発生させる。回転軸部31は、ベアリング31Aを介してモータハウジング21に回転可能に支承されており、その前端部にはピニオン32が設けられている。また、ピニオン32の後方には、図示せぬファンが回転軸部31と同軸回転可能に回転軸部31に固定されている。なお、モータ3はブラシレスモータでもよい。モータ3は、本発明における「駆動源」の一例である。回転力は、本発明における「駆動力」の一例である。
ハンドルハウジング22は、側面視略コ字形状に形成されており、作業時に作業者によって把持される上下方向に延びる把持部221と、把持部221の上部とモータハウジング21の後端部上部とを接続する第1接続部222と、把持部221の下部とモータハウジング21の後部下部とを接続する第2接続部223とを有している。また、ハンドルハウジング22は、トリガ22Aと、電源コード22Bと、正転スイッチ22Cと、反転スイッチ22Dとを有している。
トリガ22Aは、モータ3の始動及び停止を制御するための手動操作可能なスイッチであり、把持部221の前部上部に設けられている。正転スイッチ22C及び反転スイッチ22Dは、モータ3の回転方向(正転及び反転)を切替えるためのボタンスイッチであり、第2接続部223の右側面に設けられている。なお、正転スイッチ22Cと反転スイッチ22Dに替えて、特許文献1に記載のように、第2接続部223から把持部221側に突出する切替レバーを設けてもよい。また、ハンドルハウジング22の下部からは図示せぬ外部電源に接続される電源コード22Bが延出している。トリガ22Aに対して引操作が行われることで、電源コード22Bを介して、図示せぬ外部電源からのモータ3への電力が供給されるように構成されている。
ギアハウジング23は、前後方向に延びる略円筒形状をなしており、内部には、クラッチ部4と、出力軸部5の後部と、バネ6と、ワンウェイクラッチ7と、スプリングクラッチ8と、アシストクラッチ9とを収容している。ギアハウジング23の前端には、前方先細りの略円筒形状をなすカバー24が設けられている。
クラッチ部4は、ギアハウジング23内の後部に位置し、モータ3から出力軸部5への動力伝達経路上に設けられ、回転軸部31(モータ3)の回転力を出力軸部5へ伝達可能に構成されている。図2及び図3に示されているように、クラッチ部4は、クラッチドラム41と、多板摩擦クラッチ42とを備えている。図2は、ギアハウジング23の内部構造を示す断面側面図である。図3は、クラッチ部4、出力軸部5、スプリングクラッチ8及びアシストクラッチ9の組立構造を示す分解斜視図である。クラッチ部4は、本発明における「クラッチ機構」の一例である。動力伝達経路は、本発明における「駆動力伝達経路」の一例である。
図2に示されているように、クラッチドラム41は、ギアハウジング23内の後部に位置し、ベアリング4A及び軸受4Bを介してギアハウジング23に軸心Aを回転軸心として回転可能に支承されている。クラッチドラム41は、第1円筒部41Bと、ギア部41Aと、第2円筒部41Cと、第3円筒部41Dとを有している。ここで、図中に示されている軸心Aは、第1円筒部41Bの前面視における中心を通り前後方向に延びる仮想回転軸心である。軸心Aは、本発明における「軸心」の一例である。
第1円筒部41Bは、前後方向に延びる略円筒形状をなしている。第1円筒部41Bの内周面には、図示せぬ複数のギア溝が形成されている。複数のギア溝は、第1円筒部41Bの内周面から第1円筒部41Bの半径方向外方に窪むとともに前後方向に延びる溝であり、第1円筒部41Bの円周方向において所定の間隔で形成されている。
ギア部41Aは、第1円筒部41Bの後部外周面に設けられており、複数のギア歯を有している。複数のギア歯は、第1円筒部41Bの後部外周面において周方向全域に所定の間隔で形成されており、モータ3のピニオン32と噛合している。
図2に示されているように、第2円筒部41Cは、前後方向に延びる略円筒形状をなしており、第1円筒部41B内部の後部に設けられている。第2円筒部41Cの外周面において前端から僅かに後方に位置する部分は、前面視略環形状の接続壁41Eによって第1円筒部41Bの内周面と接続されている。
第3円筒部41Dは、前後方向に延びる略円筒形状をなしており、第2円筒部41Cの後方に設けられている。第3円筒部41Dの前端部の外周面は、前面視略環形状の接続壁41Fによって第2円筒部41Cの後端部内周面と接続されている。なお、本実施の形態においては、第1円筒部41B、第2円筒部41C、第3円筒部41D、接続壁41E、及び、接続壁41Fは、一体に形成されている。
多板摩擦クラッチ42は、前後方向において押圧されることによって、モータ3の回転力を受けて回転するクラッチドラム41の回転力を出力軸部5に伝達するように構成されている。図3に示されているように、多板摩擦クラッチ42は、複数のアウタープレート421と、複数のインナープレート422とを有する。多板摩擦クラッチ42は、本発明における「被押圧部」の一例である。アウタープレート421は、本発明における「駆動部材」の一例である。インナープレート422は、本発明における「従動部材」の一例である。前後方向は、本発明における「所定方向」の一例である。
図3及び図4に示されているように、複数のアウタープレート421及び複数のインナープレート422は、前面視略環形状をなす金属製の薄板であり、クラッチドラム41の第1円筒部41B内において、前後方向に交互に並ぶとともに互いに接触した状態で収容されている。図4は、アウタープレート421及びインナープレート422の外観を示す斜視図である。
アウタープレート421には、ギア歯42Aが設けられ、前面視中央部に貫通孔42bが形成されている。ギア歯42Aは、アウタープレート421の外周に所定の間隔で設けられており、クラッチドラム41の内周面に形成された図示せぬ複数のギア溝と噛合している。これにより、アウタープレート421は、クラッチドラム41と一体に軸心Aを回転軸心として回転することが可能である。最前端のアウタープレート421は、他のアウタープレート421よりも前後方向の寸法が僅かに大きく構成されている。
インナープレート422には、ギア溝42cが形成され、前面視中央部に貫通孔42dが形成されている。ギア溝42cは、インナープレート422の内周に所定の間隔で形成されている。
図1乃至図2に示されているように、出力軸部5は、その後部をギアハウジング23内に収容され、前部がギアハウジング23の前部から前方に延出している。出力軸部5は、ビット装着部51と、スプラインシャフト52とを有している。出力軸部5は、本発明における「出力部」の一例である。
ビット装着部51は、前後方向に延びる略円筒形状をなしており、スプリングクラッチ8によってギアハウジング23に対して、軸心Aを回転軸心として回転可能且つ前後方向に移動可能に支持されている。図5に示されているように、ビット装着部51は、胴部51Aと、拡径部51Bと、突出部51Cと、3つの突起51Dと、貫通孔51fとを有する。図5は、ビット装着部51の外観を示す斜視図である。図2に示されているように、貫通孔51fの前部には、ビットBを着脱可能である。
図5に示されているように、拡径部51Bは、胴部51Aの外径よりも拡径した部分であり、胴部51Aの後部に設けられている。拡径部51Bの前面には、スプリングクラッチ8と係合可能な3つの爪51Gが周方向に略等間隔に設けられている。
また、拡径部51Bの後面には、3つの湾曲面51Eが周方向に略等間隔に規定されている。湾曲面51Eは、拡径部51Bの後面が前方に凸となるように湾曲した部分であり、周方向に延びている。また、湾曲面51Eは、正転方向における上流側から下流側に向かうに従って後方に傾斜している(図10〜図12参照)。
突出部51Cは、略円筒形状をなし、拡径部51Bの後面から後方に突出している。
3つの突起51Dは、突出部51Cの外周面から突出部51Cの半径方向外方に突出するとともに拡径部51Bの後面において隣合う2つの湾曲面51Eの間から後方に延びており、突出部51Cの周方向において略等間隔に設けられている。
図1乃至図3に示されているように、スプラインシャフト52は、前後方向に延びる略円柱形状をなしており、アウタープレート421の貫通孔42b、インナープレート422の貫通孔42dに挿通されている。スプラインシャフト52の前端は、ビット装着部51の貫通孔51fに圧入されており、スプラインシャフト52の後端は、第3円筒部41Dによって移動可能に支持されている。これにより、スプラインシャフト52は、ビット装着部51と一体に軸心Aを回転軸心として回転可能且つ前後方向に移動可能である。スプラインシャフト52の外周面には、前後方向に延びるギア歯52Aが周方向全域に所定の間隔で設けられている。ギア歯52Aは、インナープレート422のギア溝42cと噛合しており、インナープレート422が回転した場合、インナープレート422とビット装着部51とスプラインシャフト52とは一体に回転する。
図1及び図2に示されているように、バネ6は、第3円筒部41Dの内部において、前後方向に伸縮可能に配置されている。バネ6の後端は、モータハウジング21のベアリング4Aを支持する壁と当接しており、前端は、スプラインシャフト52の後端と当接し、スプラインシャフト52(出力軸部5)を前方へと付勢している。
図2に示されているように、ワンウェイクラッチ7は、スプラインシャフト52と第2円筒部41Cの内周面との間に設けられている。ワンウェイクラッチ7は、第2円筒部41Cの内周面に固定(圧入)された外輪部7Aと、外輪部7Aに対して正転は規制され反転は許容された内輪部7Bとを有している。内輪部7Bは、スプラインシャフト52に固定(圧入)されており、クラッチドラム41が反転した際には、クラッチドラム41とスプラインシャフト52とは、一体に回転し、クラッチドラム41が正転した際には、クラッチドラム41は、スプラインシャフト52に対して空転するように構成されている。
スプリングクラッチ8は、前後方向に延び、ビット装着部51の外周面とギアハウジング23の内周面との間に設けられている。スプリングクラッチ8は、ビット装着部51の前後方向の位置に応じてビット装着部51の正転の規制及び許容を切替える部材である。スプリングクラッチ8は、胴部81及びスプリング82を有する。
図2及び図3に示されているように、胴部81は、前後方向に延びる略円筒形状をなしている。胴部81は、ギアハウジング23の前部の内部に圧入によって固定され、ビット装着部51に対して前後方向に相対移動可能である。胴部81の後面には、ビット装着部51の3つの爪51Gと周方向において係合可能な3つの爪81Aが略等間隔に設けられている。胴部81の後部には、スプリング82が装着される凹部が形成されている。スプリングクラッチ8の胴部81の内径は、ビット装着部51の拡径部51Bの外径よりも小さく構成されている。
スプリング82は、周方向においてビット装着部51の3つの爪51Gと胴部81の3つの爪81Aが係合可能な状態(図2の状態)で、ビット装着部51が正転した際には縮径しビット装着部51の胴部81に対する相対回転を規制し、ビット装着部51が反転した際には拡径しビット装着部51の胴部81に対する相対回転を許容するように構成されている。
図1乃至図3に示されているように、アシストクラッチ9は、ギアハウジング23内においてクラッチ部4とビット装着部51(出力軸部5)との間に介在し、多板摩擦クラッチ42に加わる押圧力を増幅させる機構である。図3に示されているように、アシストクラッチ9は、アシスト部材91と、バネ92と、3個のボール93とを有している。アシストクラッチ9は、本発明における「アシスト機構」の一例である。
アシスト部材91は、最前端のアウタープレート421の前方に位置し、軸心Aを回転軸心として回転可能且つ前後方向に移動可能である。より詳細には、アシスト部材91は、ボール93を介してビット装着部51の突出部51Cに回転可能且つ前後方向に移動可能に支持されている。図6に示されているように、アシスト部材91は、第1円筒部91Aと、第1円筒部91A内部の後部に第1円筒部91Aと一体に設けられた第2円筒部91Bとを有する。図6は、アシスト部材91の外観を示す斜視図である。アシスト部材91は、本発明における「中間部材」の一例である。
図6に示されているように、第1円筒部91Aは、前後方向に延びる略円筒形状をなしており、第1円筒部91Aの前部は、ビット装着部51の突出部51Cを収容している。第1円筒部91Aは、鍔部91Cと、3つの規制壁部91Dと、を有している。また、第1円筒部91Aには、3つの湾曲面91Eと、当接面91Fが規定されている。
鍔部91Cは、第1円筒部91Aの前端部を構成する部分であり、前面視略環形状をなしている。図2に示されているように、鍔部91Cの前面には、ビット装着部51の拡径部51Bの後面と当接可能な当接面91Gが規定されている。
3つの湾曲面91Eは、第1円筒部91Aの内周面の前部において、周方向に略等間隔に規定されている。湾曲面91Eは、第1円筒部91Aの内周面が第1円筒部91Aの半径方向において外方に凸となるように湾曲した部分であり、周方向に延びている。また、湾曲面91Eは、正転方向における上流側から下流側に向かうに従って後方に傾斜している(図6参照)。すなわち、湾曲面91Eの下流側端部の前後方向の寸法は、上流側端部の前後方向の寸法よりも長く構成されている。図10乃至図12に示されているように、湾曲面91Eとビット装着部51の湾曲面51Eとは、互いに略平行となるように構成されている。図10乃至図12は、ビット装着部51とアシスト部材91との係合態様を示す展開図である。湾曲面91Eは、本発明における「傾斜面」の一例である。
3つの規制壁部91Dは、周方向において隣合う2つの湾曲面91Eの間から第1円筒部91Aの半径方向に内方に突出した部分であり、第1円筒部91Aの周方向において略等間隔に設けられている。規制壁部91Dには、上流面91Hと、下流面91Iとが規定されている。上流面91Hは、湾曲面91Eの下流側端部から連続し、下流側に向かうに従って内方に向かうように傾斜する面である。下流面91Iは、湾曲面91Eの上流側端部から連続し、上流側に向かうに従って内方に向かうように傾斜する面である。上流面91Hの前後方向の寸法は、下流面91Iの前後方向の寸法よりも長く構成されている。
当接面91Fは、第1円筒部91Aの後面に規定されており、後面視略円環形状をなしている。当接面91Fは、最前端に位置するアウタープレート421の前面と当接可能に構成されている。
第2円筒部91Bは、前後方向に延びる略円筒形状をなしており、第1円筒部91A内部の後部に設けられている。前後方向における鍔部91Cの前面から第2円筒部91Bの前面までの距離は、前後方向におけるビット装着部51の突出部51Cの長さよりも長く構成されている。また、第2円筒部91Bの中心部には、スプラインシャフト52が挿通可能な貫通孔91aが形成されている。
バネ92は、その後端でクラッチドラム41の第1円筒部41Bの前面に当接し、その前端で鍔部91Cの後面に当接している。バネ92は、アシスト部材91をクラッチドラム41から離間する方向(前方)に付勢している。バネ92は、本発明における「付勢部材」の一例である。
ボール93は、金属製の略真球形状の部材であり、アシスト部材91とビット装着部51によって画成されたボール収容空間9a内において移動可能に収容されている。ボール収容空間9aは、アシスト部材91の湾曲面91E、上流面91H及び下流面91Iと、ビット装着部51の湾曲面51E及び突出部51Cの外周面と、によって画成されている。ボール93は、ボール収容空間9a内において、アシスト部材91の湾曲面91Eとビット装着部51の湾曲面51Eとによって前後方向から挟持され、且つ、アシスト部材91の半径方向において湾曲面91Eと突出部51Cの外周面とによって挟持されている(図10乃至図12参照)。すなわち、ボール93は、アシスト部材91の湾曲面91E、ビット装着部51の湾曲面51E及び突出部51Cの外周面と当接した状態でボール収容空間9aに収容されている。ボール93は、本発明における「ボール」の一例である。
次に、本実施の形態におけるネジ締機1を用いた締付作業及び締付作業時のネジ締機1の動作について説明する。
まず、締結具(ネジ)に対して締付作業を行う場合の作業者の動作について説明する。作業者は、ビット装着部51のビット装着孔51aにビットBを装着し、正転スイッチ22Cを左方に押込み、トリガ22Aに対して引操作を行ってモータ3を駆動させる。モータ3を駆動させた後に、ビット装着部51に装着されたビットBの先端をネジ頭に形成された溝(例えば、十字溝)に係合させる。そして、ビットBの先端とネジ頭の溝とが係合した状態で、ネジ締機1をネジに向けて押し込んで、ビットBをネジに押し付ける。これにより、モータ3の回転力が出力軸部5に伝達され、出力軸部5(ビット装着部51)及びビットBが正転し、ネジが締付けられる。
次に、締付作業時のネジ締機1の動作について図7乃至図12を参照しながら説明する。なお、以下の説明においては、ビットBをネジに押し付ける方向(すなわち、ネジ締機1をネジに向けて押し込む方向)と前方向とが一致しているものとする。
図7は、ネジ締機1に外力が働いていない非作業時におけるクラッチ部4、出力軸部5及びアシストクラッチ9の関係を示す断面側面図である。図7に示されているように、ネジ締機1に外力が働いていない非作業状態においては、出力軸部5(ビット装着部51及びスプラインシャフト52)は、バネ6及びバネ92の前方への付勢力によって、ビット装着部51の拡径部51Bの前面がスプリングクラッチ8の胴部81の後面と当接する位置(出力軸部5の前方への移動が規制される位置)に位置している。この状態において、アシスト部材91は、バネ92の前方への付勢力によって、アシスト部材91の鍔部91Cの前面がビット装着部51の拡径部51Bの後面に当接する位置に位置している。
図10は、ネジ締機1に外力が働いていない非作業時におけるビット装着部51とアシスト部材91との係合態様を示す図であり、(a)は、後面視断面図であり、(b)は、展開図である。また、図中の矢印は、正転方向を表している。図10に示されているように、ネジ締機1に外力が働いていない非作業状態においては、ボール93は、ボール収容空間9a内において、アシスト部材91の規制壁部91Dの上流面91Hとビット装着部51の湾曲面51Eとによって挟持されている。
上述した非作業状態から作業者がトリガ22Aに対して引操作を行うと、電源コード22Bを介して、図示せぬ外部電源からモータ3へ電力が供給され、モータ3が駆動を開始する。モータ3が駆動を開始すると、回転軸部31及びピニオン32が反転し、ピニオン32と噛合しているギア部41Aを介してクラッチドラム41が軸心Aを回転軸心として正転する。クラッチドラム41の正転に伴い、クラッチドラム41の第1円筒部41Bのギア溝と噛合しているアウタープレート421が軸心Aを回転軸心として正転する。アウタープレート421の正転に伴い、アウタープレート421とインナープレート422との接触面に僅かに摩擦(動摩擦)が発生する。当該僅かな摩擦力によりインナープレート422及びインナープレート422と一体に回転するスプラインシャフト52(出力軸部5)は正転しようとするが、スプリングクラッチ8の胴部81の爪81Aとビット装着部51の爪51Gとの周方向における噛合によって、当該正転は規制される。これによって、作業者は、ビットBの先端を図示せぬネジのネジ頭に形成された溝に確実に係合させることが可能となる。
作業者がビットBの先端をネジ頭の溝に合わせた状態で、ネジ締機1を前方に押し込むと、バネ6の付勢力に抗して出力軸部5(ビット装着部51及びスプラインシャフト52)が後方へと移動する。出力軸部5が後方へと移動すると、ビット装着部51の拡径部51Bの後面と当接しているアシスト部材91もバネ92の付勢力に抗して後方へと移動し、図8に示されているように、アシスト部材91の当接面91Fと多板摩擦クラッチ42の最前端に位置するアウタープレート421の前面とが当接した状態となる(以下「第1状態」という)。図8は、第1状態におけるクラッチ部4、出力軸部5及びアシストクラッチ9の関係を示す断面側面図である。なお、この状態において、スプリングクラッチ8の胴部81の爪81Aとビット装着部51の爪51Gとの周方向における噛合は解除され、出力軸部5は、インナープレート422と一体に回転することが可能となる。このため、第1状態において、アウタープレート421の正転に伴い、アシスト部材91の当接面91Fと最前端に位置するアウタープレート421との間に摩擦(摩擦力)が発生し、アシスト部材91は最前端に位置するアウタープレート421と共に正転する。
アシスト部材91の正転直後においては、アシスト部材91の回転速度は、ビット装着部51の回転速度よりも速く、アシスト部材91は、ビット装着部51に対して正転方向に相対的に回転する。このアシスト部材91のビット装着部51に対する正転方向の相対回転に伴い、ボール93は、ボール収容空間9aにおいて、アシスト部材91の湾曲面91Eの正転方向の上流側且つビット装着部51の湾曲面51Eの正転方向の下流側へと移動を開始する。
アシスト部材91の当接面91Fと多板摩擦クラッチ42の最前端に位置するアウタープレート421の前面とが当接した後ある程度時間が経過すると(以下、「第2状態」とする)、ボール93を介するビット装着部51とアシスト部材91との係合態様は、図11に示されている状態となる。図11は、第2状態におけるビット装着部51とアシスト部材91の係合態様を示す図である。図10の状態から図11の状態に至る過程において、ボール93がボール収容空間9aを移動するにつれ、図11(b)に示されているように、湾曲面51Eと湾曲面91Eの前後方向の傾斜によって徐々にアシスト部材91とビット装着部51が前後方向に離間される。このため、アシスト部材91の当接面91Fが最前端に位置するアウタープレート421をさらに後方へ押圧し、多板摩擦クラッチ42への押圧力を増加させる。すると、前後方向に隣合うアウタープレート421及びインナープレート422の接触面における面圧がさらに上昇し、隣合うアウタープレート421とインナープレート422との間に発生する動摩擦は、静止摩擦に切替り、多板摩擦クラッチ42を構成するすべてのアウタープレート421及びインナープレート422と、スプラインシャフト52及びビット装着部51(出力軸部5)と、アシスト部材91と、が同期して回転する(同一の回転速度で回転する)。
この状態において、モータ3からの回転力がビット装着部51を介してビットBに伝達され、図示せぬネジを締めることが可能となる。これにより、作業者がビットBを図示せぬネジに充分に押し付けることができない場合においても、アシスト部材91の当接面91Fとアウタープレート421の前面とに発生する摩擦による回転方向の力をビット装着部51とアシスト部材91の前後方向の離間移動によって、多板摩擦クラッチへの前後方向の押圧力に変換し、多板摩擦クラッチ42への押圧力を増加させることができ、好適にネジを締めることが可能となる。
なお、ビットBに加わる回転方向の負荷トルクが大きい高負荷時においては、アシスト部材91の回転速度に比べて、ビット装着部51の回転速度が非常に小さくなる。なお、「負荷トルク」とは、ビットBが回転する場合において、締結具(ネジ)から出力軸部5に作用する出力軸部5の回転を妨げる方向の力をいう。この場合において、十分に時間が経過すると(以下、「第3状態」とする)、図12に示されているように、ボール93は、アシスト部材91の下流面91I及びビット装着部51の突起51Dによって挟持される。この状態において、図9に示されているように、アシスト部材91とビット装着部51とはさらに離間され(点線部)、アシスト部材91は、多板摩擦クラッチ42をさらに押圧する。そして、アシスト部材91は、ボール93を介する規制壁部91D及び突起51Dの係合によって、ビット装着部51に回転力を伝達する。よって、ビット装着部51に対するクラッチドラム41、多板摩擦クラッチ42及びスプラインシャフト52を介する動力伝達経路で回転力を伝達することに加え、アシスト部材91がボール93を介して突起51Dと規制壁部91Dとが係合することによって、ビット装着部51に対して回転力を伝達するため、高負荷時においても好適にネジを締めることが可能である。図9は、高負荷時におけるクラッチ部、出力軸部及びアシストクラッチの関係を示す断面側面図である。図12は、第3状態経過後におけるビット装着部51とアシスト部材91の係合態様を示す図である。
ネジ締め作業が終わり、トリガ22Aを離し、さらにビットBをネジから離した状態においては、バネ6の付勢力によって、スプラインシャフト52及びビット装着部51は前方へと移動する。また、バネ92の付勢力によって、アシスト部材91は前方へと移動する。これによって、クラッチ部4に対する前後方向の押圧が解消し、前後方向において隣合うアウタープレート421及びインナープレート422の接触面における面圧が減少するため、アウタープレート421とインナープレート422との間に発生する摩擦が小さくなる。よって、モータ3からの出力がスプラインシャフト52と嵌合するビット装着部51を介してビットBに伝達されることが抑制される。この時、ボール93は、図10に示されているように、規制壁部91D(アシスト部材91)の上流面91Hとビット装着部51の湾曲面51Eとによって挟持されている。
ネジを緩める際には、反転スイッチ22Dを左方に押込み、トリガ22Aを引く。この時に、作業者がビットBを図示せぬネジに充分に押し付けることができる場合には、ビットBの図示せぬネジへの押し付けによって、ビット装着部51が後方へと移動する。アシスト部材91の当接面91Fがクラッチ部4を押圧するため、前後方向に隣合うアウタープレート421及びインナープレート422間の面圧が上昇する。アウタープレート421の反転に伴い、前後方向において隣合うアウタープレート及びインナープレート間に摩擦が発生する。この摩擦によって、インナープレート422は反転し、インナープレート422のギア溝42c及びスプラインシャフト52のギア歯52Aの噛合によって、スプラインシャフト52は反転する。よって、モータ3からの出力がスプラインシャフト52と嵌合するビット装着部51を介してビットBに伝達され、図示せぬネジを緩めることが可能となる。
ネジを緩める場合において、図示せぬネジの頭が図示せぬ被加工部材から突出しておらず(例えば、ネジが被加工部材に埋没している場合)、作業者がビットBを図示せぬネジに充分に押し付けることができない場合には、ビット装着部51を充分に後方へ移動させることができず、アウタープレート421とインナープレート422との間に充分な摩擦が発生しない。この場合においては、アウタープレート421とインナープレート422とを介してクラッチドラム41からスプラインシャフト52へとモータ3の回転力を伝達することはできないが、クラッチドラム41は反転するため、ワンウェイクラッチ7を介してクラッチドラム41からスプラインシャフト52(出力軸部5)へと回転力が伝達され、図示せぬネジを緩めることができる。
次に、図13に示されているグラフに基づき、ネジ締め作業時におけるアシスト部材91及びビット装着部51(出力軸部5)の回転速度と、作業者の押し付け力(作業者がネジ締機1を図示せぬネジに押付ける力)とアウタープレート421と多板摩擦クラッチ42に加わる押圧力との関係について説明する。図13(a)は、横軸に時間[t]、縦軸に回転速度[rpm]を表し、アシスト部材91とビット装着部51(出力軸部5)との回転速度の関係を示すグラフである。図13(b)は、横軸に時間[t]、縦軸に力[N/m2]を表し、作業者がネジ締機1を前方に支持する力と、多板摩擦クラッチ42に加わる押圧力との関係を示すグラフである。なお、図13(b)に示されているように、押付け力が略台形状の軌跡を描くように作業者が押し付けを行ったと仮定する。また、出力軸部5に充分な回転トルクを発生させるためには、当該略台形状の軌跡の上底の値よりも大きい力(図13(b)のF4)が必要であると仮定する。
図13(a)に示されているL1はアシスト部材91の回転速度を表し、L2はビット装着部51の回転速度を表し、L3はクラッチドラム41の回転速度を表している。図13(b)に示されているF1は作業者の押し付け力を表し、F2は多板摩擦クラッチ42に働く押圧力を表し、F3はビット装着部51とアシスト部材91の前後方向の離間移動に伴う押圧力の増加分を表し、F4はアウタープレート421とインナープレート422との間に充分な面圧を発生させるために必要な力を表している。
図13(a)及び(b)に示されているt1は、アシスト部材91の当接面91Fと多板摩擦クラッチ42の最前端に位置するアウタープレート421の前面とが当接した第1状態を表している。
図13(a)に示されているように、アシスト部材91及びビット装着部51の回転速度は、時刻t1から時間に比例して増加する。また、アシスト部材91の方がビット装着部51よりも傾きが大きく、アシスト部材91の方がビット装着部51よりも速く回転し、ビット装着部51に対するアシスト部材91の相対的な回転速度は時間の経過に伴い増加する。なお、図13(a)のL3に示されているように、クラッチドラム41は、作業者がトリガ22Aに対して引操作を行っている間は、定速回転する。
この状態において、ボール93がボール収容空間9aを移動するにつれ、図10(b)及び図11(b)に示されているように、湾曲面51E及び湾曲面91Eの前後方向の傾斜によって徐々にアシスト部材91とビット装着部51が前後方向に離間される。当該離間速度は、ビット装着部51に対するアシスト部材91の相対的な回転速度に比例し、時間の経過に伴い増加する。
この状態において、アシスト部材91とビット装着部51の前後方向への離間速度が時間の経過に伴い増加するため、図13(b)に示されているように、時刻t1以降、アシスト部材91が前方から多板摩擦クラッチに加える押圧力も時間の経過に伴い増加する。よって、図13(b)に示されているように、多板摩擦クラッチ42に前後方向から加わる押圧力は作業者の押付け力よりも大きくなる。そして、時刻t2において、隣合うアウタープレート421とインナープレート422との間に充分な面圧が発生する。よって、作業者がビットBを充分に図示せぬネジに押し付けられない状況においても、出力軸部5に充分な回転トルクを発生させることができる。
図13(a)及び(b)に示されている時刻t2及び時刻t3は、アシスト部材91の当接面91Fと多板摩擦クラッチ42の最前端に位置するアウタープレート421の前面とが当接した後ある程度時間が経過した上述の第2状態に対応する。
時刻t2から時刻t3にかけて、隣合うアウタープレート421とインナープレート422との間に働く動摩擦は静止摩擦に切替る。この状態において、図13(a)に示されているように、時刻t2から時刻t3にかけてビット装着部51に対するアシスト部材91の相対的な回転速度が瞬間的に同期するため、図13(b)に示されているように、ビット装着部51とアシスト部材91の前後方向の離間移動に伴う押圧力の増加分は、直ちに「0」となる。一方、隣合うアウタープレート421とインナープレート422との間に働く静止摩擦によって、図13(a)に示されているように、時刻t3以降は、アシスト部材91、ビット装着部51(出力軸部5)及びクラッチドラム41は、一体に、同じ回転速度で同期して回転する。よって、作業者はアシスト部材91とビット装着部51との離間が終了した場合(アシストクラッチの動作の終了)においても好適にネジ締めを完了させることができる。
ネジ締めが完了すると、ビットBの先端と図示せぬネジのネジ頭の溝との係合が解消され、図13(b)に示されているように、時刻t4から時刻t5にかけて多板摩擦クラッチ42に加えられる押圧力は直ちに小さくなる。作業者の押付け力が小さくなるのに伴い、図13(a)に示されているように、時刻t4から時刻t5にかけてビットの回転速度は直ちに小さくなる。よって、モータ3からの出力がスプラインシャフト52と嵌合するビット装着部51を介してビットBに伝達されることが抑制される。図13(a)及び(b)に示されている時刻t4は、ネジ締めが完了し、作業者の押し付け力が小さくなり始める時点を表し、時刻t5は、多板摩擦クラッチ42に働く押圧力が「0」となる時点を表している。
このように、本発明の実施の形態によるネジ締機1は、回転力を発生させるモータ3と、回転力が伝達されることで駆動される出力軸部5と、出力軸部5に後方向の力が作用した場合に押圧される多板摩擦クラッチ42を有し、前記駆動源からの駆動力を受けて、多板摩擦クラッチ42にかかる押圧力に応じた回転力を出力軸部5に伝達するクラッチ部4と、モータ3からの回転力を受けて、多板摩擦クラッチ42にかかる押圧力を増加させるアシストクラッチ9と、を備えている。このため、作業者の締結具に対するビットB(ネジ締機1)の押し付けが充分でない場合でも、アシストクラッチ9がクラッチ部4に作用し、多板摩擦クラッチ42にかかる押圧力を増加させることができる。これにより、出力軸部5に充分な回転トルクを発生させることができる。
また、ネジ締機1におけるクラッチ部4は、モータ3から出力軸部5への回転力伝達経路に設けられ、多板摩擦クラッチ42は、モータ3によって回転駆動されるアウタープレート421と、動力伝達経路においてアウタープレート421と出力軸部5との間に介在するインナープレート422と、を有し、押圧力がかかっている状態でアウタープレート421が回転駆動することによってアウタープレート421とインナープレート422との間に摩擦力が発生し摩擦力によって出力軸部5に回転力を伝達する。これにより、トルク非伝達状態からトルク伝達状態へと変わる際の衝撃及び騒音を抑制することができる。
また、ネジ締機1におけるアシストクラッチ9は、多板摩擦クラッチ42を押圧可能なアシスト部材91と、アシスト部材91と出力軸部5との間に介在するボール93と、を備え、アシスト部材91は、ボール93を介して出力軸部5に回転可能に支持されている。これにより、ビット装着部51とアシスト部材91とが直接当接する構成に比べ衝撃を抑制することができる。
また、アシストクラッチ9は、アシスト部材91をクラッチ部4から離間する方向に付勢するバネ92をさらに備える。これにより、アシスト部材91とクラッチ部4がバネ92の付勢により離間された状態で保持されるため、作業者の意図しない部材間の当接が抑制される。また作業後、作業者のビットB(ネジ締機1)の押し付けが解除された際には、バネ92の付勢力によりアシスト部材91がクラッチ部4から離間される方向に素早く移動するため、動力伝達状態から動力非伝達状態へと変わる際の時間を短縮することができ、仕上がりのばらつきをさらに抑制することができる。
また、アシスト部材91は、後方向に延びる軸心を中心に回転可能且つクラッチ部4と出力軸部5との間で前後方向に移動可能に構成され、モータ3からの回転力を受けて回転し、回転の方向である回転方向に延びるとともに回転方向に対して傾斜する湾曲面91Eを有し、ボール93は、湾曲面91Eと当接した状態でアシスト部材91と出力軸部5との間に介在し、アシスト部材91の回転によって湾曲面91Eに沿って移動するように構成され、多板摩擦クラッチ42は、ボール93の湾曲面91Eに沿った移動に伴いアシスト部材91によって後方向に押圧される。このため、ボール93が湾曲面91Eを移動することに伴うボール93の移動に応じて出力軸部5とアシスト部材91とが前後方向にスムーズに離間することができ、それに伴い出力軸部5の最後端とクラッチ部4の最前端との間の距離を離間させるように移動させることが可能となる。これにより、アシストクラッチ9がクラッチ部4に作用し、多板摩擦クラッチ42にかかる押圧力を増加させるため、出力軸部5に充分な回転トルクを発生させることができる。また、アシスト部材91に直接湾曲面91Eを形成しているため部品点数を抑えることができ、電動工具の前後方向のサイズを小さくすることができる。
本発明の実施の形態にかかる電動工具の一例であるネジ締機は、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば、アウタープレート421と、インナープレート422とを有するクラッチ部4に替えて公知の爪式クラッチを用いても良い。また、スプリングクラッチ8に替えて公知のワンウェイベアリングを用いても良い。また、アウタープレート421及びインナープレート422を有するクラッチ部4に替えて、プレートを無くし、ギアあるいはピニオン端面に直接ビット装着部を押付けるような軽量化を狙った構成でも適用可能である。