JP6759120B2 - 波動歯車減速機の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、波動歯車減速機の製造方法に関する。
特許文献1に記載の波動歯車減速機は、噛み合い領域の拡大による負荷トルク性能の向上を目的とし、以下の方法で可撓性外歯車および剛性内歯車の歯形を決定している。まず、可撓性外歯車の外歯の歯先側の一部分について、歯形曲線を決定する。続いて、波動発生器を仮想的に回転させて剛性内歯車に対する歯形曲線の相対的な移動軌跡を求め、この移動軌跡の包絡線を用いて剛性内歯車の歯形を決定する。次に、波動発生器を回転させて可撓性外歯車に対する内歯の相対的な移動軌跡を求め、この移動軌跡の包絡線を用いて可撓性外歯車の外歯の残りの部分の歯形を決定する。
特開2015-075149号公報
しかしながら、上記従来技術にあっては、軌跡依存性が高く歯形設計の制約が多いこと、および歯面の曲線が複雑であることから、生産性に劣るおそれがあった。
本発明の目的の一つは、負荷トルク性能および生産性を共に向上できる波動歯車減速機の製造方法を提供することにある。
本発明の一実施形態における波動歯車減速機の製造方法は、前記可撓性外歯車の基準ピッチ円半径re、前記剛性内歯車の基準ピッチ円半径riおよび前記波動歯車減速機の減速比iを決める第1決定工程と、前記両基準ピッチ円半径re,riに基づき前記外歯および前記内歯の形状を決める第2決定工程と、前記外歯の移動包絡線によって前記内歯の歯先の形状を決定する第3決定工程と、を有する。
よって、本発明にあっては、負荷トルク性能および生産性を共に向上できる。
実施形態1の内燃機関用リンク機構のアクチュエータAを備えた内燃機関の概略図である。 実施形態1の内燃機関用リンク機構のアクチュエータAの断面図である。 実施形態1の波動歯車減速機21の分解等角図である。 実施形態1の可撓性外歯車36と剛性内歯車27との噛み合い状態を表す概略図である。 第2決定工程で決定した外歯36aの模式図である。 第2決定工程で決定した内歯27aの模式図である。 剛性内歯車27に対して可撓性外歯車36の内転サイクロイド運動を実施したときの外歯36aの移動軌跡を示す模式図である。 実施形態1の内歯27aおよび外歯36aの歯形を示す模式図である。
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1の内燃機関用リンク機構のアクチュエータAを備えた内燃機関の概略図である。基本的な構成は、特開2011-169152号公報の図1に記載されているものと同じであるため、簡単に説明する。
内燃機関のシリンダブロックのシリンダ内を往復運動するピストン1には、ピストンピン2を介してアッパリンク3の上端が回転自在に連結されている。アッパリンク3の下端には、連結ピン6を介してロアリンク5が回転自在に連結されている。ロアリンク5には、クランクピン4aを介してクランクシャフト4が回転自在に連結されている。また、ロアリンク5には、連結ピン8を介して第1制御リンク7の上端部が回転自在に連結されている。第1制御リンク7の下端部は、複数のリンク部材を有する連結機構9と連結されている。連結機構9は、第1制御軸10、第2制御軸(制御軸)11および第2制御リンク12を有する。
第1制御軸10は、内燃機関内部の気筒列方向に延在するクランクシャフト4と平行に延在する。第1制御軸10は、第1ジャーナル部10a、制御偏心軸部10bおよび偏心軸部10cを有する。第1ジャーナル部10aは、内燃機関本体に回転自在に支持される。制御偏心軸部10bは、第1制御リンク7の下端部が回転自在に連結される。偏心軸部10cは、第2制御リンク12の一端部12aが回転自在に連結されている。第1アーム部10dは、一端が第1ジャーナル部10aと連結され、他端が第1制御リンク7の下端部と連結されている。制御偏心軸部10bは、第1ジャーナル部10aに対して所定量偏心した位置に設けられている。第2アーム部10eは、一端が第1ジャーナル部10aと連結され、他端が第2制御リンク12の一端部12aと連結されている。偏心軸部10cは、第1ジャーナル部10aに対して所定量偏心した位置に設けられている。第2制御リンク12の他端部12bは、アームリンク13の一端が回転自在に連結されている。アームリンク13の他端には、第2制御軸11が相対移動不能に連結されている。第2制御軸11は、後述するハウジング20内に複数のジャーナル部を介して回転自在に支持されている。
第2制御リンク12は、第1制御軸10および第2制御軸11を連結する。第2制御リンク12は、レバー形状であり、偏心軸部10cに連結された一端部12aは、略直線的に形成されている。一方、アームリンク13が連結された第2制御リンク12の他端部12bは、湾曲形成されている。一端部12aの先端部には、偏心軸部10cが回動自在に挿通される挿通孔が貫通形成されている。アームリンク13は、第2制御軸11とは別体として形成されている。第2制御軸11は、内燃機関用リンク機構のアクチュエータAの一部である波動歯車減速機21を介して電動モータ22から伝達されたトルクにより回転位置が変更される。第2制御軸11の回転位置が変更されると、第2制御リンク12を介して第1制御軸10が回転し、第1制御リンク7の下端部の位置を変更する。これにより、ロアリンク5の姿勢が変化し、ピストン1のシリンダ内におけるストローク位置やストローク量を変化させ、これに伴って機関圧縮比を変更する。
次に、実施形態1の内燃機関用リンク機構のアクチュエータAの構成を説明する。
図2は実施形態1の内燃機関用リンク機構のアクチュエータAの断面図、図3は実施形態1の波動歯車減速機21の分解等角図である。内燃機関用リンク機構のアクチュエータAは、電動モータ22、波動歯車減速機21、ハウジング20および第2制御軸11を有する。
電動モータ22は、例えばブラシレスモータであり、モータケーシング45、コイル46、ロータ47およびモータ出力軸48を有する。モータケーシング45は、有底円筒状に形成されている。コイル46は、モータケーシング45の内周面に固定されている。ロータ47は、コイル46の内側に回転自在に設けられている。モータ出力軸48は、一端部48aがロータ47の中心に固定されている。
モータ出力軸48は、モータケーシング45の底部に設けられたボールベアリング52により回転可能に支持されている。第2制御軸11は、ハウジング20に回転自在に支持されている。第2制御軸11は、軸部本体23および固定用フランジ24を有する。軸部本体23は、軸方向に延在する。固定用フランジ24は、軸部本体23の一端部に位置し、径方向外側に立ち上がる。第2制御軸11は、鉄系金属材料により軸部本体23および固定用フランジ24が一体形成されている。固定用フランジ24は、外周部の円周方向に複数のボルト挿通孔が等間隔に形成されている。このボルト挿通孔にボルトを挿通し、波動歯車減速機21の可撓性外歯車36のフランジ部36bと結合する。
次に、実施形態1の波動歯車減速機21の構成を説明する。
波動歯車減速機21は、電動モータ22の先端側に取り付けられ、ハウジング20の内部に収容されている。波動歯車減速機21は、ハウジング20の開口溝部20a内に収容されている。開口溝部20a内であって、波動歯車減速機21の重力方向上方には、図外の油圧源等から潤滑油を供給する供給孔20bが開口する。供給孔20bから潤滑油が供給されると、下方の波動歯車減速機21に潤滑油が滴下され、各回転要素間を潤滑する。波動歯車減速機21は、ハウジング20の開口溝部20a内にボルト固定されている。波動歯車減速機21は、剛性内歯車27、可撓性外歯車36および波動発生器37を有する。
剛性内歯車27は、内周に複数の内歯27aを有する剛体円環状部材である。
可撓性外歯車36は、剛性内歯車27の内径側に配置されている。可撓性外歯車36は、外周面に内歯27aと噛み合う外歯36aを有する。可撓性外歯車36は、金属材料によって形成され、底部を有する撓み変形可能な薄肉円筒状部材である。可撓性外歯車36の外歯36aの歯数は、剛性内歯車27の内歯27aの歯数より2歯少ない。可撓性外歯車36の底部に形成されたフランジ部36b内周には、第2制御軸11が貫通する挿通孔36cが形成されている。よって、可撓性外歯車36の薄肉円筒状部材側から挿通孔36cに第2制御軸11を挿入し、第2制御軸11の固定用フランジ24とフランジ部36bとをボルトで結合するため、挿通孔36c内周を第2制御軸11で支持することができ、可撓性外歯車36の底部の剛性を確保できる。
波動発生器37は、楕円形上に形成され、外周面が可撓性外歯車36の内周面に沿って摺動する。波動生成プラグ371の中央には、モータ出力軸48が圧入により固定されている。波動発生器37は、波動生成プラグ371および深溝玉軸受372を有する。波動生成プラグ371は、楕円形状である。深溝玉軸受372は、波動生成プラグ371の外周および可撓性外歯車36の内周間の相対回転を許容する可撓性の薄肉内外輪を有する。
図4は、実施形態1の可撓性外歯車36と剛性内歯車27との噛み合い状態を表す概略図である。外形が楕円形状である波動生成プラグ371は深溝玉軸受372の内輪へ嵌合されて楕円形状へと倣うため、波動発生器37の外形も楕円となる。また、可撓性外歯車36の内径へ波動発生器37を嵌合することにより、初期状態が円形である可撓性外歯車36も楕円形状へと変形する。楕円へ撓ませられた可撓性外歯車36は剛性内歯車27より2歯少ない歯数であるため、楕円長軸上で歯ピッチのずれにより噛み合い、楕円短軸上では歯ピッチは一致するが、可撓性外歯車36が軸方向へと撓められているために歯が重なることはなく干渉しない。このため、偶数倍の歯数差を持つ可撓性外歯車36と剛性内歯車27は、図4で示す噛み合い状態のように、噛み合わせることができる。
可撓性外歯車36の歯部は可撓性であるが、フランジ部36bは出力を取り出すために円形状から変形させることはできず、第2制御軸11と直接締結されるため、フランジ部36bを起点として薄肉円筒開口端部に向かって楕円形状へと広がる形となる。すなわち、開口端部付近での変形運動から取り出される可撓性外歯車36の回転運動をフランジ部36bから第2制御軸11へと伝達できる。
波動歯車減速機21への回転入力は波動発生器37により回転入力軸と直交する方向への往復変位運動へと変換される。回転伝達機構を有する波動生成プラグ371は接続された入力軸により駆動されるが、嵌合相手である深溝玉軸受372の内輪もこれに追従する。深溝玉軸受372の外輪は、内外輪間に挟まれた玉により内輪の形状が外輪へと伝達されるが、玉は並進および回転の6自由度を有するために内輪と外輪はそれぞれ独立した周方向自由度を持つ。回転入力により駆動された波動生成プラグ371は楕円体であるため、楕円周上の各位置によって異なる半径を持つ。この楕円の性質により、波動生成プラグ371の回転による半径の増減が玉を介して波動生成プラグ371の外輪へ伝達される。この時、可撓性薄肉構造の内外輪であることから、深溝玉軸受372の外輪の周方向自由度を規制した場合において外輪が半径の増減と同期した変形運動を行う。
また、深溝玉軸受372の外輪と可撓性外歯車36は嵌合されているため、外輪の変形運動に追従して可撓性外歯車36も変形運動を行う。この変形運動が、剛性内歯車27および可撓性外歯車36間における長軸上噛み合い位置を変化させる。これにより、剛性内歯車27上の定点から歯部を拡大して観測した場合、歯同士での軸直交方向への相対運動となる。そして、可撓性外歯車36が剛性内歯車27に対し差分による周方向位置が変化することにより周方向への運動が重ね合わされて、可撓性外歯車36の外歯36aは内歯27aの歯面に沿って内径側へ移動する。
実施形態1では、負荷トルク性能および生産性を共に向上することを狙いとし、可撓性外歯車36の外歯36aおよび剛性内歯車27の内歯27aを、歯面基本曲線に直線を有する直線歯形とし、内歯27aの歯先を、軸方向から見たとき外歯36aの移動包絡線と一致する形状とした。以下、波動歯車減速機21の製造方法のうち、剛性内歯車27および可撓性外歯車36の歯形を決定する工程を詳細に説明する。
(i) 第1決定工程
第1決定工程では、減速比i、剛性内歯車27および可撓性外歯車36の基準ピッチ円半径ri,reを決める。減速比iは、波動歯車減速機21に要求される減速比とする。剛性内歯車27の基準ピッチ円半径riは、波動歯車減速機21の基準体格となるものであり、例えば、衝撃荷重または疲労荷重(荷重+回転数)に基づいて決定する。可撓性外歯車36の基準ピッチ円半径reは、減速比iおよび剛性内歯車27の基準ピッチ円半径riから、下記の式(1)に示す関係を用いて決定する。
(ii) 第2決定工程
第2決定工程では、内歯27aおよび外歯36aの形状を決める。具体的には、第1決定工程で決めた可撓性外歯車36の基準ピッチ円半径reから、外歯36aの歯形を、任意の歯元たけ、歯末たけ、圧力角、歯圧、歯先円弧および歯底円弧を持つ直線歯形とする。図5は、第2決定工程で決定した外歯36aの模式図であり、外歯36aのピッチ円直径を実際の寸法よりも長くし、基準ピッチ円半径reを直線に近い曲線として図示したものである。図5に示すように、外歯36aは、歯面基本曲線に直線を有する直線歯形となる。
また、内歯27aの歯形を、下記の式(2)および式(3)の関係を満たし、歯先円弧半径を0とした直線歯形とする。
ここで、αINTは内歯27aの圧力角、αEXTは外歯36aの圧力角、SINTは内歯27aの歯圧、SEXTは外歯36aの歯圧、zは減速比iとz=2iの関係で表される外歯36aの歯数である。図6は、第2決定工程で決定した内歯27aの模式図であり、内歯27aのピッチ円直径を実際の寸法よりも長くし、基準ピッチ円半径riを直線に近い曲線として図示したものである。図6に示すように、内歯27aは、歯面基本曲線に直線を有する直線歯形となる。なお、内歯27aの歯先形状については未定である。
(iii) 第3決定工程
第3決定工程では、第2決定工程で決めた外歯36aの歯形を用いて、剛性内歯車27の基準ピッチ円半径riに対して、可撓性外歯車36の内転サイクロイド運動によって生じる外歯36aの移動包絡線を求める。そして、外歯36aの移動包絡線から内歯27aの歯先曲線を決定する。
まず、剛性内歯車27の基準ピッチ円半径riに対して、可撓性外歯車36の内転サイクロイド運動を実施することで、可撓性外歯車36の外歯36aの移動軌跡を導出する。可撓性外歯車36の内転サイクロイド運動は、減速比i、剛性内歯車27の基準ピッチ円半径riおよび可撓性外歯車36の基準ピッチ円半径reから、下記の式(4)で表される。
ここで、θは、剛性内歯車27が太陽歯車、可撓性外歯車36が遊星歯車、波動発生器37が遊星キャリアに相当する遊星歯車装置系とした場合における、遊星キャリアの公転角、すなわち波動発生器37への入力回転角に相当する。
外歯36aの移動軌跡に沿って外歯36aは並進移動および回転移動の合成移動を行うが、移動後の外歯36aの座標系F(s,t)は、式(4)の移動軌跡の座標系G(x,y)を用いて下記の式(5)で表される。
ここで、φは内転サイクロイド運動に伴う可撓性外歯車36の自転角である。
このようにして表される各θの位置における外歯36aの移動後の座標を図7に示す。図7は、内歯27aのピッチ円直径を実際の寸法よりも長くし、基準ピッチ円半径riを直線に近い曲線として図示したものである。図7に示すように、可撓性外歯車36は真円無変形状態を前提としており、外歯36aは内歯27aよりも2歯少ないため、外歯36aは1歯飛ばしで内歯27aと噛み合う。
次に、求められた外歯36aの移動軌跡から、その包絡線で内歯27aの歯先形状を決定する。ここで、外歯36aの座標系F(x,y)は、外歯形状を決定する媒介変数ωおよび自身の移動に伴う媒介変数φで表される。つまり、座標系F(x,y)は、座標系F(s(ω、φ),t(ω,φ))なる2変数であることから、歯先形状の包絡線は下記の式(6)により決定される。
式(6)で決定する形状で内歯27aの歯先形状を構成することにより、図8に示すような、歯先形状同士での噛み合いにより歯先干渉を回避し、かつ有効接触領域を拡げた波動歯車減速機21を製造できる。図8は、内歯27aおよび外歯36aのピッチ円直径を実際の寸法よりも長くし、基準ピッチ円半径ri,reを直線に近い曲線として図示したものである。
波動歯車減速機は、第2制御軸との軸直角断面内で波動発生器により薄肉円筒状部材上の歯は往復変位運動を行い、また剛性内歯車および可撓性外歯車間の噛み合いピッチ円上での円収差に伴う差分運動による周方向回転運動が複合することを特徴としている。従来、工具の入手性や確立された歯形理論による設計の容易性から、インボリュート歯形の波動歯車減速機が用いられているが、従来の回転伝達機構である一般歯車に最適化されたインボリュート歯面を、機構が異なる波動歯車減速機に採用するのは適切ではない。そのため可撓性外歯車を楕円に撓ませた状態での外歯の移動軌跡の相似形を内歯および外歯に適用することで同時噛み合い領域を広げる試みがなされてきたが、軌跡依存性が高いため歯形設計の制約が多く、かつ、歯面の曲線が複雑化するために生産性の低い歯形となってしまう。
また、波動歯車減速機の歯形を決定する上で、薄肉円筒状部材の変形による薄肉円筒状部材上の歯の移動状態の解明のために、数値解析を用いた方法等で楕円変形後における歯の様子を把握し、変形の時刻歴により薄肉円筒状部材上の歯の移動を確認する手法が主である。これにより任意に定めた歯形に対して従来歯車の設計手法に基づき、歯先の修正を行い、または転位させることで歯先干渉(トロコイド干渉)を回避しているが、数値解析の環境や条件による解析結果の揺らぎ生じやすく、歯形の決まり方が曖昧になり定量的な歯形設計が困難であった。
そこで、実施形態1では、波動歯車減速機21の差分運動の特性上、トルク伝達能力の向上に有効である可撓性外歯車36および剛性内歯車27間の接触領域の広域化に適切な歯形として、歯面基本曲線に直線を有する直線歯形を両歯車27,36に適用した。また、トロコイド干渉の回避および機能として有効な接触が得られる歯先形状を、噛み合い解析の工程を利用して決定した。これまでトロコイド干渉を回避し連続的な動作を実現することに主眼を置いて実施されていた噛み合い解析について、可撓性外歯車36の楕円変形による剛性内歯車27との噛み合い円周位置の変化による差動原理が、剛性内歯車27が太陽歯車、可撓性外歯車36が遊星歯車、波動発生器37が遊星キャリアに相当する遊星歯車装置系による差動原理と等しいことにより、歯先形状を含む歯形を決定した真円無変形状態の可撓性外歯車36を、剛性内歯車27との噛み合い基準ピッチ円上で内転サイクロイド運動を実施する。剛性内歯車27の歯先形状を、可撓性外歯車36のこの運動によって描かれる外歯36aの移動包絡線により決定した。
これにより、波動歯車減速機21の実使用状態における外歯36aおよび内歯27aの歯面間の噛み合い位置で直線歯面同士での広域接触噛み合いが可能であり、さらに歯先間噛み合い位置においても上記手法で決定する歯先形状同士での噛み合いにより歯先干渉を回避し、かつ、有効接触領域となる。これにより、従来手法よりも広域での噛み合いが可能となり、波動歯車減速機21の負荷トルク性能を向上できる。
また、両歯27a,36aは歯面基本曲線に直線を有する直線歯形であり、外歯36aの形状は任意に設計できる。そして、内歯27aの歯先は真円無変形状態の可撓性外歯車36を内転サイクロイド運動させたときに描かれる外歯36aの移動包絡線に沿う形状である。このため、歯形設計の制約が少なく、歯面の曲線の複雑化を抑制できる。さらに、可撓性外歯車36の楕円変形後における歯の様子を把握するための複雑な数値解析を必要としないため、数値解析の環境や条件による解析結果の揺らぎが生じにくく、定量的な歯形設計が容易である。この結果、従来の波動歯車減速機よりも生産性を向上できる。
実施形態1の効果を以下に列挙する。
(1) 直線歯形である複数の外歯36aを有する可撓性外歯車36と、可撓性外歯車36の外周に配置され、直線歯形であって外歯36aよりも歯数の多い内歯27aを有し、軸方向から見たとき内歯27aの歯先が外歯36aの移動包絡線と一致する形状である剛性内歯車27と、可撓性外歯車36を半径方向に撓めて剛性内歯車27に対して部分的に噛み合わせると共に、回転軸まわりに回転することで噛み合わせ部分を周方向に移動させる波動発生器37と、を有する。
よって、両歯27a,36aの歯形を、歯面基本曲線に直線を有する直線歯形とすることにより、歯面の曲線の複雑化を抑制できるため、生産性を向上できる。また、内歯27aの先端を外歯36aの移動包絡線と一致させることにより、歯先干渉を回避しつつ、広域接触噛み合いが可能となるため、負荷トルク性能を向上できる。この結果、負荷トルク性能および生産性を共に向上できる。
(2) 移動包絡線は、撓ませない真円状態の可撓性外歯車36を想定し、真円状態の可撓性外歯車36を、剛性内歯車27との噛み合い基準ピッチ円上で内転サイクロイド運動させた際の外歯36aの軌跡である。
よって、可撓性外歯車36の楕円変形後における歯の様子を把握するための複雑な数値解析が不要であるため、数値解析の環境や条件による解析結果の揺らぎが生じにくく、定量的な歯形設計が容易となる。
(3) 波動歯車減速機21の減速比をi、可撓性外歯車36の基準ピッチ円半径をre、剛性内歯車27の基準ピッチ円半径をri、回転角をθとし、剛性内歯車27の軸心に対して軸直角方向にx軸、x軸に対して直角方向にy軸を定義したとき、内歯27aの歯先は、回転角θを変数とする式(4)で表される。
よって、減速比iおよび両基準ピッチ円半径ri,reから内歯27aの歯先形状が得られる。
(4) 内歯27aと外歯36aの圧力角αINTEXTはほぼ同じ(αINTEXT)である。
よって、歯面同士を接触したまま滑りなく噛み合わせることができるため、直線歯形同士による広域接触噛み合いを実現できる。
(5) 直線歯形である複数の内歯27aを有する剛性内歯車27と、直線歯形である複数の外歯36aを有し、剛性内歯車27の内側に配置された可撓性外歯車36と、可撓性外歯車36を半径方向に撓めて剛性内歯車27に対して部分的に噛み合わせると共に、回転軸まわりに回転することで噛み合わせ部分を周方向に移動させる波動発生器37と、を備えた波動歯車減速機21の製造方法において、可撓性外歯車36の基準ピッチ円半径re、剛性内歯車27の基準ピッチ円半径riおよび波動歯車減速機21の減速比iを決める第1決定工程と、両基準ピッチ円半径re,riに基づき外歯36aおよび内歯27aの形状を決める第2決定工程と、外歯36aの移動包絡線によって内歯27aの歯先の形状を決定する第3決定工程と、を有する。
よって、両歯27a,36aの歯形を、歯面基本曲線に直線を有する直線歯形とすることにより、歯面の曲線の複雑化を抑制できるため、生産性を向上できる。また、内歯27aの先端を外歯36aの移動包絡線と一致させることにより、歯先干渉を回避しつつ、広域接触噛み合いが可能となるため、負荷トルク性能を向上できる。この結果、負荷トルク性能および生産性を共に向上できる。
(6) 内燃機関のリンク機構の姿勢を変更する第2制御軸11を回転させる内燃機関用リンク機構のアクチュエータAであって、モータ出力軸48を回転駆動する電動モータ22と、モータ出力軸48の回転速度を減速して第2制御軸11に伝達する波動歯車減速機21と、波動歯車減速機21をカバーするハウジング20と、を有し、波動歯車減速機21は、直線歯形である複数の外歯36aを有し、回転力を第2制御軸11に伝達する可撓性外歯車36と、可撓性外歯車36の外周に配置され、ハウジング20に固定され、直線歯形であって外歯36aよりも歯数の多い内歯27aを有し、軸方向から見たとき内歯27aの歯先が外歯36aの移動包絡線と一致する形状である剛性内歯車27と、モータ出力軸48により回転駆動され、可撓性外歯車36を半径方向に撓めて剛性内歯車27に対して部分的に噛み合わせると共に、回転軸まわりに回転することで噛み合わせ部分を周方向に移動させる波動発生器37と、を有する。
よって、両歯27a,36aの歯形を、歯面基本曲線に直線を有する直線歯形とすることにより、歯面の曲線の複雑化を抑制できるため、生産性を向上できる。また、内歯27aの先端を外歯36aの移動包絡線と一致させることにより、歯先干渉を回避しつつ、広域接触噛み合いが可能となるため、負荷トルク性能を向上できる。この結果、負荷トルク性能および生産性を共に向上できる。
〔実施形態2〕
実施形態2は、内歯27aの歯先形状の決定方法が実施形態1と相違する。以下、実施形態1と異なる部分のみを説明する。
実施形態2の第3決定工程では、内歯27aの歯先形状を、式(6)で表される包絡線の曲率の近似円弧とし、下記の式(7)の条件を満たす曲率kを有する円弧歯先とする。
式(7)で決定する形状で内歯27aの歯先形状を構成することにより、実施形態1と同様、歯先形状同士での噛み合いにより歯先干渉を回避し、かつ有効接触領域を拡げた波動歯車減速機21を製造できる。
実施形態2は以下の効果を奏する。
(7) 内歯27aの歯先は、移動包絡線の曲率の近似円弧に沿う。
よって、内歯27aの歯先形状をより容易化できるため、生産性を向上できる。
〔他の実施形態〕
以上、本発明を実施するための実施形態を説明したが、本発明の具体的な構成は実施形態の構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、本発明の波動歯車減速機は、内燃機関用リンク機構のアクチュエータに限らず、特開2015-1190号公報や特開2011-231700号公報等に記載された内燃機関のバルブタイミング制御装置や、操舵角に対する転舵角を変更可能な可変舵角機構にも適用可能である。
以上説明した実施形態から把握し得る技術的思想について、以下に記載する。
波動歯車減速機は、その一つの態様において、直線歯形である複数の外歯を有する可撓性外歯車と、前記可撓性外歯車の外周に配置され、直線歯形であって前記外歯よりも歯数の多い内歯を有し、軸方向から見たとき前記内歯の歯先が前記外歯の移動包絡線と一致または重なる形状である剛性内歯車と、前記可撓性外歯車を半径方向に撓めて前記剛性内歯車に対して部分的に噛み合わせると共に、回転軸まわりに回転することで噛み合わせ部分を周方向に移動させる波動発生器と、を有する。
より好ましい態様では、上記態様において、前記移動包絡線は、撓ませない真円状態の前記可撓性外歯車を想定し、前記真円状態の可撓性外歯車を、前記剛性内歯車との噛み合い基準ピッチ円上で内転サイクロイド運動させた際の前記外歯の軌跡である。
別の好ましい態様では、上記態様のいずれかにおいて、前記波動歯車減速機の減速比をi、前記可撓性外歯車の基準ピッチ円半径をre、前記剛性内歯車の基準ピッチ円半径をri、回転角をθとし、前記剛性内歯車の軸心に対して軸直角方向にx軸、前記x軸に対して直角方向にy軸を定義したとき、
前記内歯の歯先は、回転角θを変数とする下記の式
で表される前記内転サイクロイド運動に沿う。
さらに別の好ましい態様では、上記態様のいずれかにおいて、前記内歯の歯先は、前記移動包絡線の曲率の近似円弧に沿う。
さらに別の好ましい態様では、上記態様のいずれかにおいて、前記内歯と前記外歯の圧力角はほぼ同じで。
また、他の観点から、波動歯車減速機の製造方法は、ある態様において、直線歯形である複数の内歯を有する剛性内歯車と、直線歯形である複数の外歯を有し、前記剛性内歯車の内側に配置された可撓性外歯車と、前記可撓性外歯車を半径方向に撓めて前記剛性内歯車に対して部分的に噛み合わせると共に、回転軸まわりに回転することで噛み合わせ部分を周方向に移動させる波動発生器と、を備えた波動歯車減速機の製造方法において、前記可撓性外歯車の基準ピッチ円半径re、前記剛性内歯車の基準ピッチ円半径riおよび前記波動歯車減速機の減速比iを決める第1決定工程と、前記両基準ピッチ円半径re,riに基づき前記外歯および前記内歯の形状を決める第2決定工程と、前記外歯の移動包絡線によって前記内歯の歯先の形状を決定する第3決定工程と、を有する。
好ましくは、上記態様において、前記移動包絡線は、撓ませない真円状態の前記可撓性外歯車を想定し、前記真円状態の可撓性外歯車を、前記剛性内歯車との噛み合い基準ピッチ円上で内転サイクロイド運動させた際の前記外歯の軌跡である。
別の好ましい態様では、上記態様のいずれかにおいて、回転角をθとし、前記剛性内歯車の軸心に対して軸直角方向にx軸、前記x軸に対して直角方向にy軸を定義したとき、前記内歯の歯先は、回転角θを変数とする下記の式
で表される前記内転サイクロイド運動に沿う。
さらに、他の観点から、内燃機関用リンク機構のアクチュエータは、内燃機関のリンク機構の姿勢を変更する制御軸を回転させる内燃機関用リンク機構のアクチュエータであって、モータ出力軸を回転駆動する電動モータと、前記モータ出力軸の回転速度を減速して前記制御軸に伝達する波動歯車減速機と、前記波動歯車減速機をカバーするハウジングと、を有し、前記波動歯車減速機は、直線歯形である複数の外歯を有し、回転力を前記制御軸に伝達する可撓性外歯車と、前記可撓性外歯車の外周に配置され、前記ハウジングに固定され、直線歯形であって前記外歯よりも歯数の多い内歯を有し、軸方向から見たとき前記内歯の歯先が前記外歯の移動包絡線と一致または重なる形状である剛性内歯車と、
前記モータ出力軸により回転駆動され、前記可撓性外歯車を半径方向に撓めて前記剛性内歯車に対して部分的に噛み合わせると共に、回転軸まわりに回転することで噛み合わせ部分を周方向に移動させる波動発生器と、を有する。
A 内燃機関用リンク機構のアクチュエータ
11 第2制御軸(制御軸)
20 ハウジング
21 波動歯車減速機
22 電動モータ
27 剛性内歯車
27a 内歯
36 可撓性外歯車
36a 外歯
37 波動発生器
48 モータ出力軸

Claims (3)

  1. 直線歯形である複数の内歯を有する剛性内歯車と、
    直線歯形である複数の外歯を有し、前記剛性内歯車の内側に配置された可撓性外歯車と、
    前記可撓性外歯車を半径方向に撓めて前記剛性内歯車に対して部分的に噛み合わせると共に、回転軸まわりに回転することで噛み合わせ部分を周方向に移動させる波動発生器と、
    を備えた波動歯車減速機の製造方法において、
    前記可撓性外歯車の基準ピッチ円半径re、前記剛性内歯車の基準ピッチ円半径riおよび前記波動歯車減速機の減速比iを決める第1決定工程と、
    前記両基準ピッチ円半径re,riに基づき前記外歯および前記内歯の形状を決める第2決定工程と、
    前記外歯の移動包絡線によって前記内歯の歯先の形状を決定する第3決定工程と、
    を有する波動歯車減速機の製造方法。
  2. 請求項1に記載の波動歯車減速機の製造方法において、
    前記移動包絡線は、撓ませない真円状態の前記可撓性外歯車を想定し、前記真円状態の可撓性外歯車を、前記剛性内歯車との噛み合い基準ピッチ円上で内転サイクロイド運動させた際の前記外歯の軌跡である波動歯車減速機の製造方法。
  3. 請求項2に記載の波動歯車減速機の製造方法において、
    回転角をθとし、前記剛性内歯車の軸心に対して軸直角方向にx軸、前記x軸に対して直角方向にy軸を定義したとき、
    前記内歯の歯先は、回転角θを変数とする下記の式
    で表される前記内転サイクロイド運動に沿う波動歯車減速機の製造方法。
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