JP6756653B2 - パラメータ同定装置、駆動システム、パラメータ同定方法及びプログラム - Google Patents
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Description
そのため、制御性能の高いフィードフォワード制御を実現するためには、制御対象を正確に模したモデルを得る必要がある。
このような非線形要素を含まない2慣性系モデルは、モータと負荷とを有する機械系を正確に模しているとは言えない。したがって、制御対象を正確に模したモデルを得ることができず、そのため、制御性能の高い駆動システムを実現することができない。
以下、第1の実施形態に係る駆動システムについて、図1〜図17を参照しながら詳細に説明する。
図1は、第1の実施形態に係る駆動システムの全体構成を示す図である。
図1に示すように、第1の実施形態に係る駆動システム9は、制御装置1と、当該制御装置1によって制御される機械系2とを備えている。
機械系2は、モータ20と、負荷21と、モータ20及び負荷21を機械的に連結する連結部材22と、を有してなる。機械系2は、モータ20が回転駆動することで負荷21が所望の位置(角度)に運ばれる駆動機構であって、例えば、工作機械などである。モータ20は、内部に回転角度、回転速度を検出可能な回転検出器(エンコーダ)を有し、精密な位置決めを実現可能なサーボモータである。また、連結部材22は、例えば、ギア、ボールねじ、ボールベアリング等の部材である。
なお、本実施形態においては、説明の簡略化のため、モータ20は、制御装置1からトルク指令τを受け付けた場合に、当該トルク指令τどおりのトルクτを出力することができるものとして説明する。
ここで、上述した通り、機械系2を構成するモータ20及び負荷21には、それぞれ、図示しない回転検出器(エンコーダ)が設置されている。制御装置1は、当該回転検出器を通じて、モータ20の角度θM、負荷21の角度θLを検出する。また、制御装置1は、取得したモータ20の角度θMの検出値を内部で時間微分することで、モータ20の角速度ωMを検出可能とする。また、制御装置1は、取得した負荷21の角度θLの検出値を内部で時間微分することで、負荷21の角速度ωLを検出可能とする。
なお、以下の説明において、モータ20の角速度の検出値を「モータ角速度ωM」とも記載し、モータ20の角度の検出値を「モータ角度θM」とも記載する。また、負荷21の角速度の検出値を「負荷角速度ωL」とも記載し、負荷21の角度の検出値を「負荷角度θL」とも記載する。
なお、機械系2における負荷21が、回転系ではなく直動系の場合、負荷21に対する制御対象パラメータは、厳密には「角度」、「角速度」ではなく、「位置」、「速度」となる。しかし、この場合、制御装置1は、2慣性系として、モータ20の「角度」、「角速度」と同じ次元で取り扱うために、負荷の「位置」、「速度」を、モータ軸換算値としての「角度」、「角速度」に逐次変換して各種制御を行う。
図2は、第1の実施形態に係る機械系の伝達特性を示すブロック線図である。
本実施形態に係る機械系2(図1参照)をモータ20、負荷21及び連結部材22からなる2慣性系の機械と見なすことで、当該機械系2における入力と出力との関係を、図2に示すような伝達関数を用いたブロック線図で表すことができる。
ここで、モータ摩擦トルクτfMは、モータ20の速度反転時(モータ角速度ωMの符号反転時)に符号のみが反転するクーロン摩擦成分だけでなく、モータ20の速度反転後の変位θ(モータ角速度ωMのゼロからの積分値)に依存して非線形に変化する非線形摩擦成分を含んでいる。モータ摩擦トルクτfM[θ]は、この非線形摩擦成分をモデル化して規定し、モータ角速度ωMを入力変数とするモータ摩擦特性関数GMを通じて得られる。モータ摩擦特性関数GMの詳細については後述する。
ここで、負荷摩擦トルクτfLも同様に、負荷21の速度反転後の変位θ(負荷角速度ωLのゼロからの積分値)に依存して非線形に変化する非線形摩擦成分を含んでいる。負荷摩擦トルクτfL[θ]は、この非線形摩擦成分をモデル化して規定し、負荷角速度ωLを入力変数とする負荷摩擦特性関数GLを通じて得られる。負荷摩擦特性関数GLの詳細については後述する。
ここで、不感帯特性関数Fとは、不感帯幅BLで規定される非線形関数である。不感帯特性関数Fは、連結部材22のねじれ角度(θM−θL)を入力変数とし、当該ねじれ角度(θM−θL)からガタの変位(以下、「ガタ変位BKLS」とも記載する。)を差し引いた角度を出力する。この不感帯特性関数Fは、連結部材22のねじれ角度(θM−θL)のうちガタ変位BKLS分は、モータ20から負荷21へのトルクの伝達に寄与しないことを表している。不感帯特性関数Fの詳細については後述する。
また、ねじれ剛性係数KRとは、連結部材22のねじれ方向についての剛性の度合いを示すパラメータであって、連結部材22のばね定数に相当する。即ち、ねじれ剛性係数KRは、負荷21に印加されるトルクτ’のうち、連結部材22のねじれ角度(θM−θL)に比例する成分を与える。
また、ねじれ粘性係数DRとは、連結部材22のねばりの度合いを示すパラメータであって、負荷21に印加されるトルクτ’のうち、連結部材22におけるモータ角速度ωMと負荷角速度ωLとの偏差(以下、「ねじれ角速度(ωM−ωL)」とも記載する。)に比例する成分を与える。
ここで、モデルパラメータ群とは、上述したモータ慣性モーメントJM、モータ粘性係数DM、負荷慣性モーメントJL、負荷粘性係数DL、ねじれ剛性係数KR、ねじれ粘性係数DR、及び、不感帯幅BLである。
また、非線形関数とは、モータ角速度ωMの積分値(変位θ)に応じたモータ摩擦トルクτfM[θ]を与えるモータ摩擦特性関数GM、負荷角速度ωLの積分値(変位θ)に応じた負荷摩擦トルクτfL[θ]を与える負荷摩擦特性関数GL、及び、ねじれ角度(θM−θL)を入力とし、当該ねじれ角度(θM−θL)からガタ変位BKLS[θM−θL](後述)を差し引いた角度を出力する不感帯特性関数Fである。
また、機械系2への入力であるトルクτは、トルク指令τから制御装置1自身が観測可能なパラメータである。機械系2からの出力(検出値)であるモータ角度θM及び負荷角度θLは、上述の回転検出器を通じて、制御装置1が観測可能なパラメータである。
図3は、第1の実施形態に係る機械系のモータ側及び負荷側の摩擦特性を説明する図である。
図3(a)は、モータ摩擦トルクτfM[θ]及び負荷摩擦トルクτfL[θ]の各々に生じる非線形摩擦特性を示すグラフである。
良く知られているクーロン摩擦は、物体の速度(モータ角速度ωM、負荷角速度ωL)の方向(正、負の符号)に依存してその方向(正、負の符号)のみが変化し、その量は、速度(ω)、変位(θ)に対しては変動しないものとして知られている。しかしながら、モータ20、負荷21において、例えば、ボールベアリング等の転がり要素が含まれる場合には、通常のクーロン摩擦とは特性が異なる“転がり摩擦”を考慮する必要がある。
ここで、転がり摩擦には、速度反転直後において転がり要素の一部が有効に転動しない“微動領域”と、全ての転がり要素が有効に転動する“粗動領域”とに分けて考慮される。
少なくとも一部の転がり要素において転動が有効に生じていない“微動領域”においては、速度反転後の変位(モータ角速度ωM、負荷角速度ωLのゼロからの積分値)の度合いに応じて見かけのばね定数が動的に変化する非線形ばね特性を有しており、図3(a)に示すようなヒステリシスカーブを描く。
また、全ての転がり要素が有効に転動する“粗動領域”においては、クーロン摩擦による挙動が支配的となり、速度に対する静的特性を示す。即ち、図3(a)に示すように、モータ20の摩擦(モータ摩擦トルクτfM[θ])は、速度反転後の変位θが所定以上となった時点で、モータクーロン摩擦トルクτfMcで飽和する。また、負荷21の摩擦(負荷摩擦トルクτfL[θ])は、速度反転後の変位θが所定以上となった時点で、負荷クーロン摩擦トルクτfLcで飽和する。ここで、モータクーロン摩擦トルクτfMc及び負荷クーロン摩擦トルクτfLcは、モータ摩擦特性関数GM及び負荷摩擦特性関数GLを規定するパラメータである。
図3(b)に示すように、モータ摩擦特性関数GMは、変位0〜θ1、θ1〜θ2、θ2〜θ3、θ3〜θ4の各々において採用すべき直線の傾きK1、K2、K3、K4、及び、オフセット(変位0における切片)τfM1(=−τfMc)、τfM2、τfM3、τfM4、τfM5(=τfMc)によって規定される。
なお、横軸の変位θは、モータ角速度ωMの速度反転時(ωM=0)からの積分値で与えられる。
なお、図示を省略するが、負荷摩擦特性関数GLも、図3(b)に示すモータ摩擦特性関数GMと同様に規定される。即ち、負荷摩擦特性関数GLは、変位θ(負荷角速度ωLの速度反転時(ωL=0)からの積分値)に応じた直線の傾き、及び、オフセット(−τfLc〜+τfLcの範囲)によって規定される。
図4は、第1の実施形態に係る機械系の連結部材における不感帯の特性を説明する図である。
不感帯特性関数Fは、不感帯幅BLによって規定される非線形特性であって、連結部材22のねじれ角度(θM−θL)を入力変数とする。図4(a)に示すように、連結部材22のねじれ角度(θM−θL)の絶対値が不感帯幅BL以下の場合(−BL≦θM−θL≦+BL)、ガタ出力はゼロとなる。即ち、この場合、ねじれ角度(θM−θL)がガタの幅内にあるため、モータ20から負荷21へトルクが伝達されない。他方、連結部材22のねじれ角度(θM−θL)の絶対値が不感帯幅BLよりも大きい場合(θM−θL<−BL,θM−θL>+BL)、ガタ出力は、ねじれ角度(θM−θL)から不感帯幅BLだけ小さい値(θM−θL+BL(θM−θL<−BL)、又は、θM−θL−BL(θM−θL>+BL))となる。つまり、連結部材22の特性(ねじれ剛性係数KR、ねじれ粘性係数DR)を通じてトルクの伝達に寄与する成分は、ねじれ角度(θM−θL)全体から不感帯幅BLが除かれた部分だけであることが表現されている。
ガタ変位BKLS[θM−θL]は、不感帯幅BL(−BL〜+BL)の幅を有する不感帯における変位量を示すパラメータであって、ねじれ角度(θM−θL)に対し、図4(b)に示すような特性を有している。即ち、図4(a)に示すガタ出力は、ガタ変位BKLS[θM−θL]を用いて“θM−θL―BKLS”と表すことができる。
図4(b)に示すように、ガタ変位BKLS[θM−θL]は、ねじれ角度(θM−θL)が不感帯の最小値(−BL)よりも小さい範囲では、ガタ変位BKLS[θM−θL]は最小値(−BL)をとり、ねじれ角度(θM−θL)が不感帯の最大値(+BL)よりも大きい範囲では、ガタ変位BKLS[θM−θL]は最大値(+BL)をとる。また、ねじれ角度(θM−θL)が不感帯の最小値(−BL)以上かつ最大値(+BL)以下の範囲においては、ガタ変位BKLS[θM−θL]は、ねじれ角度(θM−θL)と同一の値を有する特性となる。
図5は、第1の実施形態に係る駆動システムの機能構成を示す図である。
図5に示すように、第1の実施形態に係る駆動システム9は、制御装置1と、機械系2と、パラメータ同定装置3と、を備えている。
具体的には、フィードバック制御部10は、目標角度θREFと負荷角度θLとの偏差(θREF−θL)をゼロとするためのトルクを算出し、その算出結果を示すトルク指令を出力する。その際、フィードバック制御部10は、回転検出器を通じて観測されたモータ角速度ωMを参照して、適切かつ迅速なフィードバック制御がなされるようなトルクを算出する。
具体的には、複数のモデルパラメータ群とは、モデルモータ慣性モーメントJM0、モデルモータ粘性係数DM0、モデルモータ摩擦トルクτfM0、モデル負荷慣性モーメントJL0、モデル負荷粘性係数DL0、モデル負荷摩擦トルクτfL0、モデル不感帯幅BL0、及び、モデルねじれ剛性係数KR0である。
なお、本実施形態において、連結部材22のねじれ粘性係数DRについては、運動の影響が十分に小さいものとみなし、モデル化の対象外としている。
そこで、本実施形態に係る駆動システム9は、上述の複数のモデルパラメータ群を精度良く同定可能なパラメータ同定装置3を備えている。
以下、パラメータ同定装置3の機能について詳細に説明する。
図6は、第1の実施形態に係るパラメータ同定装置の機能構成を示す図である。
図6に示すように、パラメータ同定装置3は、データ取得部30と、位相面図生成部31と、パラメータ同定部32と、角度指令出力部33を備えている。
ここで、図6に示すように、位相面図生成部31は、連結部材22のねじれ角度(θM−θL)とトルク指令τとの関係を示す「ねじれ角度−トルク指令」位相面図P0a、P0bを生成する。
また、位相面図生成部31は、モータ20及び負荷21の角度θとトルク指令τとの関係を示す「角度−トルク指令」位相面図P1a、P1bを生成する。
また、位相面図生成部31は、モータ20及び負荷21の角速度ωとトルク指令τとの関係を示す「角速度−トルク指令」位相面図P2a、P2bを生成する。
また、位相面図生成部31は、モータ20及び負荷21の角度θと連結部材22のねじれ角度(θM−θL)との関係を示す「角度−ねじれ角度」位相面図P3a、P3bを生成する。
また、位相面図生成部31は、モータ20及び負荷21の角速度ωと連結部材22のねじれ角度(θM−θL)との関係を示す「角速度−ねじれ角度」位相面図P4a、P4bを生成する。
図7は、第1の実施形態に係るパラメータ同定装置の処理フローを示す図である。
また、図8〜図17は、それぞれ、第1の実施形態に係るパラメータ同定装置の処理を説明するための第1図〜第10図である。
図7に示す処理フローは、例えば、機械系2の実運転の開始前等において、パラメータ同定装置3(図5、図6)が2慣性系モデルMOD(図5)についてのパラメータ同定を行う際に実行される。
また、負荷角度指令θREF1(及びθREF2)は、正弦波であるから、角度θを“θ=θ0・sin(2πf・t)”とすると、角速度sθ(=ω)は、“sθ=(2πf)θ0・cos(2πf・t)”、角加速度s2θは、“s2θ=−(2πf)2θ0・sin(2πf・t)”である。したがって、角速度sθ(=ω)は、角度θの関数として、式(5)のように表される。
なお、位相面図生成部31は、負荷角度θLの正方向から負方向への移動時に取得される実測値と、負方向から正方向への移動時に取得される実測値と、の各々について上記実測値の紐付けを行う。このようにして生成されたねじれ角度−トルク指令位相面図P0aには、主に、機械系2の非線形摩擦特性(図3(a)参照)と不感帯特性関数Fに起因するヒステリシス曲線が表れる。
動作点T1・・・ギア(不感帯)が接触して駆動中の状態。摩擦も最大の状態。
動作領域T2・・・駆動力(トルクτ)が減少し、軸(連結部材22)のねじれが減少していく状態。
動作領域T3・・・駆動力が変わらないまま、軸のねじれのみが変化している。即ち、連結部材の不感帯(ガタ)を移動中。
動作領域T4・・・反対方向への駆動力が増し、軸のねじれが増加していく状態。負荷摩擦特性関数GLに基づき、摩擦が非線形に変化(増加)している。
動作点T5・・・ギアが接触して駆動中の状態。摩擦も最大の状態。
また、ガタ移動中(動作領域T3)では負荷21の影響を受けない(モータ20の特性だけが見える)ため、同領域中におけるトルク指令τは、モータ摩擦トルクτfMの飽和値であるモータクーロン摩擦トルクτfMcとなる。
また、トルク指令τとねじれ角度(θM−θL)との関係は、ねじれ剛性係数KRによって示されるから、動作領域T2における傾きからねじれ剛性係数KRが特定される。
また、不感帯を移動中のねじれ角度(θM−θL)の変化量は、全不感帯幅(ガタの端から端までの長さ=2BL)に相当するから、動作領域T3のねじれ角度(θM−θL)の大きさより、不感帯幅BLが特定される。
以上より、パラメータ同定部32は、ねじれ角度−トルク指令位相面図P0aに基づいて、モータクーロン摩擦トルクτfMc、負荷クーロン摩擦トルクτfLc、不感帯幅BL、ねじれ剛性係数KRを特定できる。
式(8)において、慣性モーメント(JM、JL)及び粘性係数(DM、DL)の影響を無視した場合、トルク指令τは、全体摩擦トルク(モータ摩擦トルクτfM[θ]と負荷摩擦トルクτfL[θ]との和)で表される。ここで、モータ摩擦トルクτfM[θ]及び負荷摩擦トルクτfL[θ]は、それぞれ、モータ摩擦特性関数GM、及び、負荷摩擦特性関数GLで規定される特性である(図3参照)。
図9に示すように、パラメータ同定部32は、角度−トルク指令位相面図P1aの曲線(カーブ)に基づいて、『τfMc+τfL[θ]』を特定する。ここで、パラメータ同定部32は、角度(変位)θに対するモータ摩擦トルクτfM[θ]の変化の度合いが負荷摩擦トルクτfL[θ]に比べて十分に小さいと仮定している。
また、パラメータ同定部32は、τfL[θ]の飽和点において、『τfMc+τfLc』を特定する。
式(9)において、慣性モーメント(JM、JL)及び粘性係数(DM、DL)の影響を無視した場合、トルク指令τは、全体摩擦トルク(モータ摩擦トルクτfM[θ]と負荷摩擦トルクτfL[θ]との和)で表される。ここで、モータ摩擦トルクτfM[θ]及び負荷摩擦トルクτfL[θ]の角速度ωについての特性は、それぞれ、モータ摩擦特性関数GM、及び、負荷摩擦特性関数GL(角度θの関数)の微分特性である。
図10に示すように、パラメータ同定部32は、角速度−トルク指令位相面図P2aの曲線に基づいて、『τfMc』、『τfMc+τfLc』を特定する。
式(10)において、慣性モーメント(JM、JL)及び粘性係数(DM、DL)の影響を無視した場合、ねじれ角度(θM−θL)は、ガタ変位成分(BKLS[θM−θL])と、負荷摩擦トルク成分(τfL[θ]/KR)との和で表される。
なお、小振幅動作時においては慣性、粘性の影響が小さいため、ねじれ角度(θM−θL)がガタ変位BKLSを移動するタイミングは、角速度ωの反転時(即ち、角度θの最大値及び最小値)に一致する。
図11に示すように、パラメータ同定部32は、角度−ねじれ角度位相面図P3aの曲線に基づいて、『(τfL[θ]/KR)+BL』、『(τfLc/KR)+BL』を特定する。
式(11)において、慣性モーメント(JM、JL)及び粘性係数(DM、DL)の影響を無視した場合、ねじれ角度(θM−θL)は、ガタ変位成分(BKLS[θM−θL])と、負荷摩擦トルク成分(τfL[θ]/KR)との和で表される。
なお、小振幅動作時においては慣性、粘性の影響が小さいため、ねじれ角度(θM−θL)がガタ変位BKLSを移動するタイミングは、角速度ωの反転時(ω=0)に一致する。
図12に示すように、パラメータ同定部32は、角速度−ねじれ角度位相面図P4aの曲線に基づいて、『(τfLc/KR)+BL』を特定する。
また、角速度ωをモータ角速度ωMとして角速度−ねじれ角度位相面図P4aを生成した場合、ガタ変位BKLS移動中に、負荷角速度ωLは変化しないままモータ角速度ωMのみが上昇する動作領域が現れる(図12に示す矢印Q)。この矢印Qで示される動作領域のねじれ角度(θM−θL)の幅は、全不感帯幅(2BL)に相当する。したがって、パラメータ同定部32は、角速度−ねじれ角度位相面図P4aに基づいて、更に、『2BL』を特定する。
式(8)において、慣性モーメント(JM、JL)及び粘性係数(DM、DL)の影響を考慮した場合、トルク指令τは、全体摩擦トルク成分(モータ摩擦トルクτfM[θ]と負荷摩擦トルクτfL[θ]との和)と、全体慣性成分(−J(2πf)2θ)と、全体粘性成分(±D(2πf)(θ0 2−θ2)1/2)との和で表される。
ここで、大振幅動作時においては、モータ摩擦トルクτfM[θ]及び負荷摩擦トルクτfL[θ]は、クーロン摩擦に基づく挙動が支配的となる。したがって、角度−トルク指令位相面図P1b上における全体摩擦トルク成分は、角速度ωの反転時(即ち、角度θの最大値及び最小値)のタイミングで、全体クーロン摩擦トルク成分(τfMc+τfLc)の符号が反転する挙動となる。
また、角度−トルク指令位相面図P1b上において、全体慣性成分(−J(2πf)2θ)は、傾きが−J(2πf)2の直線特性となる。
また、角度−トルク指令位相面図P1b上において、全体粘性成分(±D(2πf)(θ0 2−θ2)1/2)は、膨らみの度合いがD(2πf)となる楕円特性となる。
図14に示すように、パラメータ同定部32は、角度−トルク指令位相面図P1bに基づいて、『2(τfMc+τfLc)』、『J(2πf)2』、『D(2πf)』を特定する。特に、図14に示す例では、角度−トルク指令位相面図P1bにおいて楕円成分がほとんど見られないため、全体粘性係数Dはほぼゼロであることが読み取れる。
式(9)において、慣性モーメント(JM、JL)及び粘性係数(DM、DL)の影響を考慮した場合、トルク指令τは、全体摩擦トルク成分(モータ摩擦トルクτfM[θ]と負荷摩擦トルクτfL[θ]との和)と、全体慣性成分(±J(2πf)(ω0 2−ω2)1/2)と、全体粘性成分(Dω)との和で表される。
ここで、大振幅動作時においては、モータ摩擦トルクτfM[θ]及び負荷摩擦トルクτfL[θ]は、クーロン摩擦に基づく挙動が支配的となる。したがって、角度−トルク指令位相面図P1b上における全体摩擦トルク成分は、角速度ωの反転時(ω=0)のタイミングで、全体クーロン摩擦トルク成分(τfMc+τfLc)の符号が反転する挙動となる。
また、角速度−トルク指令位相面図P2b上において、全体慣性成分(±J(2πf)(ω0 2−ω2)1/2)は、膨らみの度合いがJ(2πf)となる楕円特性となる。
また、角速度−トルク指令位相面図P2b上において、全体粘性成分(Dω)は、傾きがDの直線特性となる。
図15に示すように、パラメータ同定部32は、角速度−トルク指令位相面図P2bに基づいて、『2(τfMc+τfLc)』、『J(2πf)』、『D』を特定する。特に、図15に示す例では、角速度−トルク指令位相面図P2bにおいて直線成分がほとんど見られないため、全体粘性係数Dはほぼゼロであることが読み取れる。
式(10)において、慣性モーメント(JM、JL)及び粘性係数(DM、DL)の影響を考慮した場合、ねじれ角度(θM−θL)は、ガタ変位成分(BKLS[θM−θL])と、負荷摩擦トルク成分(τfL[θ]/KR)と、負荷慣性成分(−(JL/KR)(2πf)2θ)と、負荷粘性成分(±(DL/KR)(2πf)(θ0 2−θ2)1/2)との和で表される。
ここで、大振幅動作時においては、負荷摩擦トルクτfL[θ]は、クーロン摩擦に基づく挙動が支配的となる。したがって、角度−ねじれ角度位相面図P3b上における負荷摩擦トルク成分は、角速度ωの反転時(即ち、角度θの最大値及び最小値)のタイミングで、負荷クーロン摩擦トルク成分(τfLc)の符号が反転する挙動となる。
また、大振幅動作時においては、慣性、粘性の影響が大きいため、ねじれ角度(θM−θL)がガタ変位BKLSを移動するタイミングは、角度θが最小値から最大値に向かう途中、トルク指令τがゼロとなるタイミングと一致する(図14の角度−トルク指令位相面図P1b参照)。
また、角度−ねじれ角度位相面図P3b上において、負荷慣性成分(−(JL/KR)(2πf)2θ)は、傾きが−(JL/KR)(2πf)2の直線特性となる。
また、角度−ねじれ角度位相面図P3b上において、負荷粘性成分(±(DL/KR)(2πf)(θ0 2−θ2)1/2)は、膨らみの度合いが(DL/KR)(2πf)となる楕円特性となる。
図16に示すように、パラメータ同定部32は、角度−ねじれ角度位相面図P3bに基づいて、『2τfLc/KR』、『2BL』、『−(JL/KR)(2πf)2』、『(DL/KR)(2πf)』を特定する。特に、図16に示す例では、角度−ねじれ角度位相面図P3bにおいて楕円成分がほとんど見られないため、負荷粘性係数DLはほぼゼロであることが読み取れる。
式(11)において、慣性モーメント(JM、JL)及び粘性係数(DM、DL)の影響を考慮した場合、ねじれ角度(θM−θL)は、ガタ変位成分(BKLS[θM−θL])と、負荷摩擦トルク成分(τfL[θ]/KR)と、負荷慣性成分(±(JL/KR)(2πf)(ω0 2−ω2)1/2)と、負荷粘性成分((DL/KR)ω)との和で表される。
ここで、大振幅動作時においては、負荷摩擦トルクτfL[θ]は、クーロン摩擦に基づく挙動が支配的となる。したがって、角速度−ねじれ角度位相面図P4b上における負荷摩擦トルク成分は、角速度ωの反転時(ω=0)のタイミングで、負荷クーロン摩擦トルク成分(τfLc)の符号が反転する挙動となる。
また、大振幅動作時においては、慣性、粘性の影響が大きいため、ねじれ角度(θM−θL)がガタ変位BKLSを移動するタイミングは、角度θが最小値から最大値に向かう途中、トルク指令τがゼロとなるタイミングと一致する(図15の角速度−トルク指令位相面図P2b参照)。
また、角速度−ねじれ角度位相面図P4b上において、負荷慣性成分(±(JL/KR)(2πf)(ω0 2−ω2)1/2)は、膨らみの度合いが((JL/KR)(2πf))の楕円特性となる。
また、角速度−ねじれ角度位相面図P4b上において、負荷粘性成分((DL/KR)ω)は、傾きが(DL/KR)となる直線特性となる。
図17に示すように、パラメータ同定部32は、角速度−ねじれ角度位相面図P4bに基づいて、『2τfLc/KR』、『2BL』、『(JL/KR)(2πf)』、『DL/KR』を特定する。特に、図17に示す例では、角速度−ねじれ角度位相面図P4bにおいて直線成分がほとんど見られないため、負荷粘性係数DLはほぼゼロであることが読み取れる。
以上、第1の実施形態に係るパラメータ同定装置3は、上述のデータ取得部30と、位相面図生成部31と、パラメータ同定部32と、を備える態様とする。
このようにすることで、小振幅動作時に取得された位相面図と、大振幅動作時に取得された位相面図との両方に基づいて、機械系2の各種パラメータを精度良く、かつ、過不足なく同定することができる。
即ち、小振幅、低周波数の状態であれば、慣性モーメント及び粘性係数の影響が小さく、モータ20、負荷21の摩擦、連結部材22の剛性及び不感帯幅の特性を捉えやすい。他方、大振幅の状態であれば、相対的に、モータ20、負荷21の摩擦、連結部材22の剛性及び不感帯幅の影響が小さくなり、慣性モーメント及び粘性係数の特性を捉えやすくなる。そこで、上述のような2段階のステップを実施する態様とすることで、2慣性系モデルMODを構成する全てのパラメータを高精度に同定することができる。
したがって、モータ20及び負荷21を有する機械系2を精度よく模した2慣性系モデルMODを得ることができる。
このようにすることで、各モデルパラメータの同定処理を簡素化することができる。
このようにすることで、実測データのばらつき誤差が低減されるため、モデルパラメータの同定精度を更に高めることができる。
また、上記のようにして同定された慣性モーメントJのパラメータは、フィードフォワード性能向上に資するだけでなく、フィードバック制御のゲインの調整(変更)にも用いることができる。
例えば、他の実施形態に係るパラメータ同定装置3は、“トルク指令”ではなく、モータ20に流れる検出電流値から求まる“実測トルク”を「トルクτ」として用いて、上述の各種処理を行う態様であってもよい。
負荷角度θL、負荷角速度ωLについても同様である。
また、パラメータ同定装置3の機能が、ネットワークで接続される複数の装置に渡って具備される態様であってもよい。
10 フィードバック制御部
11 フィードフォワード制御部
2 機械系
20 モータ
21 負荷
22 連結部材
3 パラメータ同定装置
30 データ取得部
31 位相面図生成部
32 パラメータ同定部
33 角度指令出力部
9 駆動システム
θREF 目標角度
τ トルク指令(トルク)
θM モータ角度(モータの角度)
ωM モータ角速度(モータの角速度)
JM モータ慣性モーメント
DM モータ粘性係数
τfM モータ摩擦トルク
τfMc モータクーロン摩擦トルク
θL 負荷角度(負荷の角度)
ωL 負荷角速度(負荷の角速度)
JL 負荷慣性モーメント
DL 負荷粘性係数
τfL 負荷摩擦トルク
τfLc 負荷クーロン摩擦トルク
KR ねじれ剛性係数
DR ねじれ粘性係数
BL 不感帯幅
MOD 2慣性系モデル
JM0 モデルモータ慣性モーメント
DM0 モデルモータ粘性係数
τfM0 モデルモータ摩擦トルク
τfMc0 モデルモータクーロン摩擦トルク
JL0 モデル負荷慣性モーメント
DL0 モデル負荷粘性係数
τfL0 モデル負荷摩擦トルク
τfLc0 モデル負荷クーロン摩擦トルク
BL0 モデル不感帯幅
KR0 モデルねじれ剛性係数
F 不感帯特性関数
F’ ガタ変位関数
GM モータ摩擦特性関数
GL 負荷摩擦特性関数
Claims (7)
- モータと負荷とが連結部材にて連結されてなる機械系を模した2慣性系モデルのモデルパラメータを同定するパラメータ同定装置であって、
前記モータに対するトルク指令と、前記モータの角度及び角速度の実測値と、前記負荷の角度及び角速度の実測値と、を取得するデータ取得部と、
取得された前記トルク指令と、前記モータの角度及び角速度の実測値と、前記負荷の角度及び角速度の実測値と、に基づいて複数の位相面図を生成する位相面図生成部と、
生成された複数の前記位相面図に基づいて、前記モータの慣性、粘性、摩擦、前記負荷の慣性、粘性、摩擦、前記連結部材の剛性、及び、前記連結部材の不感帯幅を示すモデルパラメータを同定するパラメータ同定部と、
を備え、
前記パラメータ同定部は、
前記負荷の小振幅動作時に取得された前記位相面図と、前記負荷の大振幅動作時に取得された前記位相面図との両方に基づいて、前記モデルパラメータを同定する
パラメータ同定装置。 - 前記パラメータ同定部は、
前記負荷の小振幅動作時に取得された前記位相面図に基づいて、少なくとも、前記モータの摩擦、前記負荷の摩擦を示すモデルパラメータを同定し、
前記負荷の大振幅動作時に取得された前記位相面図に基づいて、少なくとも、前記モータの慣性、粘性、前記負荷の慣性、粘性を示すモデルパラメータを同定する
請求項1に記載のパラメータ同定装置。 - 前記位相面図生成部は、少なくとも、
前記負荷の角度と前記トルク指令との関係を示す位相面図と、
前記モータ又は前記負荷の角速度と前記トルク指令との関係を示す位相面図と、
前記負荷の角度と前記連結部材のねじれ角度との関係を示す位相面図と、
前記モータ又は前記負荷の角速度と前記連結部材のねじれ角度との関係を示す位相面図と、
を生成する請求項1又は請求項2に記載のパラメータ同定装置。 - 前記位相面図生成部は、更に、
前記トルク指令と前記連結部材のねじれ角度との関係を示す位相面図を生成する
請求項3に記載のパラメータ同定装置。 - 請求項1から請求項4の何れか一項に記載のパラメータ同定装置と、
前記機械系と、
前記負荷の目標とする角度に対する現在の角度の偏差に基づいて、前記トルク指令を算出するフィードバック制御部と、
前記パラメータ同定装置によって同定された前記モデルパラメータに基づいて、前記トルク指令を算出するフィードフォワード制御部と、
を備える駆動システム。 - モータと負荷とが連結部材にて連結されてなる機械系を模した2慣性系モデルのモデルパラメータを同定する方法であって、
前記モータに対するトルク指令と、前記モータの角度及び角速度の実測値と、前記負荷の角度及び角速度の実測値と、を取得するデータ取得ステップと、
取得された前記トルク指令と、前記モータの角度及び角速度の実測値と、前記負荷の角度及び角速度の実測値と、に基づいて複数の位相面図を生成する位相面図生成ステップと、
生成された複数の前記位相面図に基づいて、前記モータの慣性、粘性、摩擦、前記負荷の慣性、粘性、摩擦、前記連結部材の剛性、及び、前記連結部材の不感帯幅を示すモデルパラメータを同定するパラメータ同定ステップと、
を有し、
前記パラメータ同定ステップは、
前記負荷の小振幅動作時に取得された前記位相面図と、前記負荷の大振幅動作時に取得された前記位相面図との両方に基づいて、前記モデルパラメータを同定するステップを含む
パラメータ同定方法。 - モータと負荷とが連結部材にて連結されてなる機械系を模した2慣性系モデルのモデルパラメータを同定するパラメータ同定装置のコンピュータを、
前記モータに対するトルク指令と、前記モータの角度及び角速度の実測値と、前記負荷の角度及び角速度の実測値と、を取得するデータ取得部、
取得された前記トルク指令と、前記モータの角度及び角速度の実測値と、前記負荷の角度及び角速度の実測値と、に基づいて複数の位相面図を生成する位相面図生成部、
生成された複数の前記位相面図に基づいて、前記モータの慣性、粘性、摩擦、前記負荷の慣性、粘性、摩擦、前記連結部材の剛性、及び、前記連結部材の不感帯幅を示すモデルパラメータを同定するパラメータ同定部、
として機能させ
前記パラメータ同定部は、
前記負荷の小振幅動作時に取得された前記位相面図と、前記負荷の大振幅動作時に取得された前記位相面図との両方に基づいて、前記モデルパラメータを同定する
プログラム。
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