以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態である光学素子の例を示す構成図である。なお、図1(a)は、本実施形態の光学素子10の模式平面図であり、図1(b)は該光学素子10における凹凸構造11の例を示す平面図であり、図1(c)は該光学素子10の模式断面図である。図1(a)および図1(b)に示すように、本実施形態の光学素子10は、主表面12の少なくとも有効領域13を覆うように、複数の曲面部14からなる凹凸構造11を有する。ここで、有効領域13は、例えば、当該光学素子10において光が入射する受光領域であってもよい。また、凹凸構造11は、図1(c)に示すように、例えば、基材15の表面に直接形成されていてもよい。このとき、基材15としてガラスや樹脂材料を使用できる。また、凹凸構造11は、基材15にガラスを用いる場合、後述するようにウェットエッチングなどの方法を利用して形成されてもよい。また、凹凸構造11は、基材15が樹脂材料の場合、射出成型などの方法を利用して形成されてもよい。このときの型としてガラスをエッチング加工したものを基にして作製した電鋳型を利用できる。また、凹凸構造11は、樹脂材料を基材15にインプリントしたものであってもよい。この場合も、型としてガラスをエッチング加工したものを基にして作製した電鋳型を利用できる。
凹凸構造11において、曲面部14の各々は、非球面式でフィッティングを行ったときに、略同一の非球面係数を有している。ここで、略同一とは、主表面上の連続した所定領域(例えば、有効領域13)内の曲面部14の各々を非球面式でフィッティングを行ったときに、曲率半径の標準偏差と曲率半径の平均と、の比が所定の範囲に入る状態をいう。ここで、具体的な(比の)所定の範囲は、1/4以下が好ましく、1/8以下がより好ましく、1/16以下が更に好ましい。例えば、凹凸構造11における曲面部14の各々は、当該凹凸構造11における各曲面部14の曲率半径の標準偏差と曲率半径の平均と、の比が少なくとも1/4以下となる非球面係数を有する曲面形状であってもよい。これは、平均に対する標準偏差の比が小さい方が、ばらつきがより少ないことから、安定した加工ができると考えられるためである。なお、非球面式のフィッティングにおいては、複数の非球面係数を用いてフィッティングを行うため、ある局所解にフィッティングされる場合がある。その場合において、各曲面部14が球面に近似できる場合には、球面式でフィッティングを行ってもよい。
また、凹凸構造11は、頂点の深さが異なる曲面部14を少なくとも2以上有していることが好ましい。換言すると、凹凸構造11において、曲面部14の頂点の深さの最大値と最小値が異なっていると好ましい。このとき、曲面部14の頂点の深さのある水準に、各曲面部14の頂点が略一致する割合が全体の75%未満となるように配置するとよい。こうすることで曲面部14の頂点の深さが同一となることで発生する回折の影響を低減できる。また、曲面部14の頂点の深さのある水準に、各曲面部14の頂点が略一致する割合が全体の50%未満となるよう配置するとより好ましい。ここで、略一致するとは、入射する光の波長をλとして、基準とされた水準に対して±λ/16未満をいう。なお、頂点の深さの最大値と最小値が異なる場合、凹凸構造11における曲面部14の頂点の深さの水準は2以上となるが、(互いに異なる)深さの水準は8以上が好ましい。また、各曲面部14の頂点の深さ位置は、明確に区別できる離散的な水準に配置される場合以外にも、ある深さの範囲に多数の頂点の深さの水準が分布するようにしていてもよい。また、頂点の深さの最大値と最小値の差は、入射する光の波長をλとしてλ/8以上とでき、λ以上が好ましい。こうすることで頂点の深さの水準間の距離を大きくでき、頂点の深さの水準が同一となることで発生する回折の影響を低減できる。また、頂点の深さの最大値と最小値の差は20λ以下が好ましく、10λ以下がより好ましい。これは、頂点の深さの最大値と最小値の差が大きくなることで曲面部14の均一性が低減し、不要な拡散光が発生するのを防ぐためである。なお、図1(c)には、複数の凹型の曲面部14の集合体の凹凸構造11の例が示されているが、凹凸構造11は複数の凸型の曲面部14の集合体であってもよい。
また、凹凸構造11において曲面部14の頂点間の距離は一定ではなく、ばらつきを有している。具体的に凹凸構造11は、隣接する曲面部14どうしの頂点間の距離である隣接頂点間距離として、2以上の値を有する。すなわち、凹凸構造11は、当該凹凸構造11に含まれる全ての曲面部14を対象に隣接頂点間距離を求めた場合に、該隣接頂点間距離の集合に異なる値が含まれていればよい。ここで、頂点間の距離は、図1(a)に示すX−Y平面の平面視における頂点間の距離であり、奥行き方向(Z方向)は考慮しない。また、有効領域13内で曲面部14の数は100個以上が好ましく、1000個以上がより好ましい。また、各曲面部14の隣接頂点間距離の平均値は1mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましい。また、隣接頂点間距離として3以上の値を有するのが好ましく、5以上の値であるとより好ましい。こうすることで曲面部14の均一性に由来する回折の影響を低減できる。
図2は、図1(b)に示した凹凸構造11の一部を拡大して示した平面図である。本実施形態の光学素子10において、凹凸構造11は、図2に示すように、複数の曲面部14が集合した基本単位111が隙間なく周期的に配されていてもよい。すなわち、凹凸構造11は、複数の曲面部14からなる基本単位111の繰り返し構造を含んでいてもよい。図2に示す例において、凹凸構造11は、第1方向および第2方向に沿って5×5列に並べられた25個の曲面部14からなる基本単位111の繰り返し構造を含む。なお、図2では、基本単位111の境界の一例を太線の実線で示しているが、基本単位111の境界はとくに限定されない。例えば、図2において太線の破線で示される境界を、基本単位111の境界とみなしてもよい。
また、図3は、凹凸構造11における曲面部14の配置例を示す説明図である。なお、図3では、基本単位111の境界として図2における太線の実線で示した境界を用いている。また、バツ(×)印は、曲面部14の頂点位置を表している。図3に示すように、凹凸構造11は、曲面部14の各頂点を、平面視において2つの単位ベクトル方向の直線(図中の破線)の交点となるように配置してもよい。なお、図3において、単位ベクトル方向のうちの1つである第1方向の直線は、基本単位111の左上の頂点位置を基準に、第2方向上の距離で順にP21、P22、P23、P24、P25ずつ離れている。また、単位ベクトル方向のうちの1つである第2方向の直線は、基本単位111の左上の頂点位置を基準に、第1方向上の距離で順にP11、P12、P13、P14、P15ずつ離れている。換言すると、図3に示す例において、曲面部14の各頂点は、ある1つの曲面部の頂点位置を基準に、平面視において、交差する関係にある2つの単位ベクトルと前記単位ベクトルの各々の方向における距離を表す複数の定数とによって表される位置に配置されている。以下、該単位ベクトルのことを格子ベクトルという。ここで、格子ベクトルの各方向における距離を表す定数は、基本単位111内において2以上あるのが好ましい。また、格子ベクトルの各方向における距離を表す定数が基本単位111内において全て異なっていてもよい。なお、当該複数の定数は、該2つの格子ベクトル方向を座標軸とする平面座標系において対応する座標軸上の目盛間隔の繰り返しパターンとして用いられ、各々凹凸構造11における各格子ベクトル方向における隣接頂点間距離となる。
このように、基本単位111内の各曲面部14は、曲面部14の各頂点のうちのある1つの曲面部の頂点位置を基準に、平面視において、2つの格子ベクトルと前記格子ベクトルの各々の方向における距離を表す複数の定数とによって表される位置に頂点を配置すると、容易に隣接頂点間距離の分布を制御できる。
凹凸構造11が基本単位111の繰り返し構造を含む場合において、基本単位111内に含まれる曲面部14の数は、少なすぎると回折の影響が出やすくなるため、4個以上が好ましく、10個以上がより好ましく、25個以上がさらに好ましい。また、図1〜図3に示した例では、曲面部14の配置例として、各曲面部14に対して隣接する他の曲面部14の頂点を結んだ際の形状が六角形となるように配置した例を示しているが、該形状は六角形に限らない。すなわち、曲面部14の配置は、例えば、2つの格子ベクトル方向が直交する場合のように、各曲面部14に対して隣接する他の曲面部14の頂点を結んだ際の形状が四角形(菱形)になる配置でもよい。ただし、領域の周辺部や一部配置が乱れるような領域にある曲面部14に対しては上記の限りではない。例えば、2つの格子ベクトル方向が直交する場合、各曲面部14の平面視における外縁形状は四角形に近似される形状となるが、角に相当する部位で他の曲面部14と接する場合がある。その場合には、当該他の曲面部14を外してもよい。換言すると、曲面部14の配置は、各曲面部14の外縁形状における長辺および短辺に相当する部位で接する他の曲面部14の頂点を結んだ際の形状が四角形になる配置でもよい。
図4に、比較例として曲面部14の頂点がランダムに配置された凹凸構造91の例を示す。図4(a)は、比較例の凹凸構造91の一部を模式的に示す平面図である。また、図4(b)は、凹凸構造91における曲面部14の頂点位置の例を示す説明図である。また、図4(c)は、図4(b)に示す凹凸構造91の模式断面図である。図4(b)および図4(c)において、バツ(×)印は凹凸構造91における曲面部14の頂点位置を表している。図4(b)に示す凹凸構造91は、第1方向および第2方向に同じ間隔で並ぶ規則配置における頂点位置(図中の黒丸印参照)を基準にした所定の範囲内に曲面部14の頂点が位置するようにランダムに配置した場合の例である。この例は、所定の範囲を、該規則配置における頂点位置を中心とし、直径が該頂点間距離(図中の点Eと点F間の距離dbase)となる円の範囲としている。以下、規則配置における頂点間距離を、基準頂点間距離という場合がある。
図4(b)に示すように、曲面部14の頂点をランダムに配置した凹凸構造91は、点Cと点D間の距離dのように、隣接頂点間距離が大きくなる場合がある。具体的に凹凸構造91は、ランダム配置における隣接頂点間距離が最大で基準頂点間距離であるdbaseの2倍となる場合がある。このとき凹凸構造91は、図4(c)に示すように、曲面部14の境界における傾斜角度θも大きくなる。すなわち、凹凸構造91は、隣接頂点間距離が大きくなるに従い、隣接する2つの曲面部の境界を構成している各曲面部の端部における深さ方向の変位が大きくなるので、傾斜角度θも大きくなる。なお、図4(c)は、凹凸構造が規則配置の場合の曲面部14の境界の傾斜角度をθbaseとして示している。このように、凹凸構造がランダム配置の場合には、境界の傾斜角度が、規則配置の場合と比べて大きくなる領域が生じやすい。また、凹凸構造は、一般に傾斜角度が大きくなると高い精度の加工が難しくなる。
したがって、本実施形態の光学素子10は、凹凸構造11における曲面部14の境界の傾斜角度θが大きくなりすぎないよう、凹凸構造11全体において隣接頂点間距離を制御する。例えば、ランダム配置の例で示したように、凹凸構造が、ある曲面部14において隣接頂点間距離が基準頂点間距離の2倍となった場合、当該曲面部14の頂点から隣接する他方の曲面部14との境界までの距離であるrと曲率半径Rの比(r/R)は1を超え得る。この場合、当該曲面部14とその他方の曲面部14との間に平坦部が生じるなどの問題が生じる。このように凹凸構造は、その有効領域に平坦部が存在すると、入射する光を拡散せずに直進透過させてしまうため、拡散性が低下し好ましくない。
また、光学素子10を拡散素子として用いる場合、出射光の拡散角度を大きくしようとすると、曲面部14の各々における平均的な傾斜角度を大きくする必要がある。平均的な傾斜角度を大きくするために、凹凸構造11における曲面部14の平均的な曲率半径を小さくした場合、さらに、比r/Rが1を超えやすくなり、上記のように拡散性が低下するおそれがある。
このように、凹凸構造は、隣接頂点間距離が大きいほど、また拡散角度を大きくしようとするほど、境界の傾斜角度が大きくなりやすく、隣接する曲面部との間に平坦部ができやすいと言える。
したがって、凹凸構造11は、そのような加工が困難な領域や平坦部が生じないように隣接頂点間距離を制御するのが好ましい。とくに、凹凸構造11を含んだ素子が、それの出射角度(拡散角度)を大きくする仕様を満足するためには、凹凸構造11における隣接頂点間距離を制御することが望まれる。
図5は、凹凸構造11における隣接頂点間距離の分布の一例を示す説明図である。なお、図5(a)は、凹凸構造11における各曲面部14を対象にした隣接頂点間距離のヒストグラムの例であり、図5(b)は比較例として頂点位置がランダム配置された凹凸構造91における各曲面部14を対象にした隣接頂点間距離のヒストグラムの例である。図5(a)および図5(b)における横軸は規格化されており、基準の距離を100として示している。なお、図5(a)および図5(b)は、基準の距離を、最多頻度の隣接頂点間距離であって平均値に最も近いものとしているが、基準の距離はこれに限られない。例えば、凹凸構造11が、格子ベクトル方向ごとに異なる隣接頂点間距離を用いる場合などヒストグラムにおいて2つのピークが想定される場合には、全方向における隣接頂点間距離の平均を基準の距離としてもよい。また、隣接頂点間距離に対する頻度の関係は、格子ベクトル方向の各々や素子の平面方向の各々など、方向ごとに独立したヒストグラムとしてもよく、その場合はそれぞれのヒストグラムに対して基準の距離を設定してもよい。
図5(a)に示すように、本実施形態の光学素子10の凹凸構造11は、例えば、当該凹凸構造11に含まれる曲面部14の各々から求めた隣接頂点間距離が全て、基準の距離に対して±28%の範囲内であり、かつ分布も正規分布にはなっていない。一方、図5(b)に示すように、比較例の凹凸構造91は、隣接頂点間距離の分布が正規分布に近い形になっている。なお、正規分布を仮定して図5(b)に示す分布をフィッティングした場合の標準偏差は、基準の距離に対して±30%の値となっている。図5(a)に示すように、隣接頂点間距離の全てが基準の距離に対して±30%の範囲内であれば、正規分布のすそ野部分に相当するような、加工が難しい形状が生じにくいため、好ましい。
また、図5(b)に示した比較例において、ヒストグラム上の度数分布の中心(階級値=100〜110に相当する値域)の頻度と周辺(階級値=160〜170に相当する値域)の頻度との比は0.0065である。一方、図5(a)に示す例における同比、すなわちヒストグラム上の度数分布の中心(階級値=100もしくは階級値=96に相当する値域)の頻度と周辺(階級値=72もしくは階級値=124に相当する値域)の頻度との比は0.85である。このように、ヒストグラムが示す度数分布(頻度分布)において、図5(b)に示すような、階級ごとの頻度が中心から周辺に行くにしたがって減少し、周辺階級(すそ野)に対する中心階級における頻度の比が大きいとより正規分布に近いと言える。また、ヒストグラムが示す度数分布が正規分布に近いと、分布範囲(とくにすそ野)が広くなり、すそ野部分(とくに、最大階級)に対応する隣接頂点間距離も大きくなる。したがって、凹凸構造11における隣接頂点間距離の分布は、周辺域と中心域の頻度の比が1/8以上が好ましく、1/4以上がより好ましい。このとき、頻度分布における分割数、すなわちヒストグラムをとる際の隣接頂点間距離の最小値から最大値までの値域に対する分割数は、5以上が好ましく、10以上がより好ましい。また、分割数は、大きすぎると各階級に入る値の数が小さくなって分布の比較が難しくなるため30以下が好ましい。
ここで、中心域は、ヒストグラム上の度数分布において中心に位置する階級、すなわち隣接頂点間距離の最大値を含む階級(最大階級)と最小値を含む階級(最小階級)の略中心に位置する階級を用いる。また、中心域は、他の取り方として、ヒストグラム上の度数分布において最大階級と最小階級の略中心に位置する階級のうち最大の度数を有する階級としてもよいし、基準の距離を含む階級(基準階級)を用いてもよい。なお、分割数が偶数の場合や基準の距離が階級の境界値となる場合など、中心域は2以上の階級を含んでいてもよい。その場合、中心域とされた階級の頻度の平均や、中心域とされた階級の頻度のうち最も高い頻度を中心域の頻度としてもよい。また、周辺域は、最大階級と最小階級のいずれかを必ず含むようにしてもよいし、最大階級と最小階級の両方を用いてもよい。前者の場合、周辺域として、例えば、最大階級と最小階級のうち中心域とされた階級から最も離れた端の階級を用いてもよい。なお、周辺域が2以上の階級を含む場合には、中心域の場合と同様に、頻度平均や、最高頻度を採用すればよい。
また、上記の頻度分布に関する条件は、基本単位111内の曲面部14を対象にした隣接頂点間距離の分布に対して適用してもよい。
上述したような隣接頂点間距離の分布を得る方法の一例は、図3に示したような、2つの格子ベクトルと該2つの格子ベクトルの各方向における距離を表す複数の定数によって表される位置に曲面部14の各頂点を配置する方法が挙げられるが、曲面部14の配置方法はこれに限られない。例えば、凹凸構造11またはそれに含まれる基本単位111は、隣接頂点間距離を計算しながら、隣接頂点間距離の分布が上記の条件を満たすように曲面部14の各々の頂点配置を決定してもよい。このとき、凹凸構造11またはそれに含まれる基本単位111は、隣接頂点間距離の分布形状に対してフィッティングを行い、その結果が正規分布よりも一様分布に近似されるように、曲面部14の各々の頂点位置を決定してもよい。
次に、隣接頂点間距離と傾斜角度の関係について説明する。2つの曲面部14が隣接している場合において、当該曲面部14における比r/Rと、該曲面部14の境界における傾斜角度θの関係は以下の式(1)で示される。なお、本例においても、当該曲面部14の曲面形状を球面と仮定している。
θ=arctan[(r/R)/{1−(r/R)2}0.5] ・・・(1)
式(1)に示されるように、比r/Rが大きくなるほど隣接する曲面部14との境界における傾斜角度θが大きくなる。例えば、ある球面において、比r/Rが1/4の場合、該球面の端部における傾斜角度θは14.5°となる。また、例えば、比r/Rが1/2の場合、該球面の端部における傾斜角度θは30.0°となる。
図6は、比r/Rと境界の傾斜角度θとの関係の例を示す説明図である。なお、本例においても、当該曲面部14の曲面形状を球面と仮定している。なお、図6(a)は比r/R=1/2の場合の例であり、図6(b)は比r/R=3/4の場合の例であり、図6(c)は比r/R=1の場合の例である。図6(a)に示すように、隣接する2つの曲面部14の各々において、比r/Rが1/2の場合、境界の傾斜角度θは30.0°となる。なお、当該2つの曲面部14の隣接頂点間距離(図中のda)は2rであって、これを凹凸構造11における平均的な隣接頂点間距離(dave)と仮定すると、平均的な隣接頂点間距離(dave)と平均的な曲率半径(Rave)の比dave/Rave=1となる。
また、図6(b)に示すように、隣接する2つの曲面部14の各々において、比r/Rが3/4の場合、境界の傾斜角度θは48.7°となる。このように、仮に図6(a)に示す隣接頂点間距離であるdaに対して、隣接する2つの曲面部14の頂点位置が、互いに離れる方向に1/4(25%)シフトした場合、境界の傾斜角度θは48.7°となる。
また、図6(c)に示すように、隣接する2つの曲面部14の各々において比r/Rが1の場合、境界の傾斜角度θは90°であるため、加工が困難になる。このように、仮に図6(a)に示す隣接頂点間距離であるdaに対して、隣接する2つの曲面部14の頂点位置が、互いに離れる方向に1/2(50%)シフトした場合、境界の傾斜角度θは90°になってしまう。
したがって、凹凸構造11は、比rave/Raveが1/2以上もしくは比dave/Raveが1以上の場合にはとくに、上述したような方法により曲面部14の隣接頂点間距離を調整するのが好ましい。なお、凹凸構造11は、曲面部14の加工容易性の観点から、上述した隣接頂点間距離の分布の制御を、比rave/Raveが1/4以上もしくは比dave/Raveが1/2以上の場合に用いてもよい。例えば、曲面部14の形状が球面の場合、ある曲面部14の比r/R=1/4の場合の境界の傾斜角度θは14.5°であるが、このときの隣接頂点間距離に対して互いに離れる方向に1/2(50%)シフトした場合の境界の傾斜角度θは48.7°となる。なお、比r/R=1/4となる隣接頂点間距離に対して互いに離れる方向に1/4(25%)シフトした場合の境界の傾斜角度θは22.0°である。これより、凹凸構造11は、比rave/Raveが1/4もしくは比dave/Raveが1/2以上の場合であっても、隣接頂点間距離の分布が基準の距離に対して±25%の範囲内であれば、境界の傾斜角度θを30°未満に抑えられる可能性が高い。なお、比rave/Raveが1/2もしくは比dave/Raveが1以上の場合であっても、図6(a)に示すように、隣接頂点間距離の分布が基準の距離に対して±25%の範囲内であれば、境界の傾斜角度θを50°未満に抑えられる可能性が高い。なお、凹凸構造11の全ての曲面部14どうしが互いに離れる方向に最大量シフトするとは限らないため、隣接頂点間距離の分布は、±25%よりも数%程度なら広げても問題ない。例えば、凹凸構造11は、隣接頂点間距離の分布が基準の距離に対して±30%以内であってもよい。
なお、上記の比rave/Raveおよび比dave/Raveによる判断は1つの目安である。そのため、傾斜角度が最も大きくなる方向は配置に依存するという点、頂点の深さ方向の異なり具合および曲面部14の形状によっても境界の傾斜角度が異なるという点から、必ずしも上記の傾斜角度未満になることを保証するものではない。
また、図7は、入射光に対する傾斜角度θと出射角度αの関係を示す説明図である。図7に示すように、一般に傾斜角度θと出射角度αは関連し、部材の屈折率nが定まれば出射角度αから傾斜角度θを計算できる。具体的には、屈折率nの部材で形成された傾斜角度θの斜面に当該素子の光軸に対して平行な光(平行光)が入射した場合の出射角度αは以下の式(2)で示される。ここで、光軸は傾斜角度θの基準とされる平面に対して垂直な方向とする。また、出射角度αは、出射光の強度分布における強度が光軸上の強度の1/e2となる、光軸からの角度とする。
α=arcsin[sinθ×{(n−sin2θ)0.5−cosθ}] ・・・(2)
以下、曲面部14の形状が球面であって、屈折率が一般的な透明性光学材料である樹脂やガラスの屈折率である1.53の部材により構成された曲面部14に平行光が入射した場合を仮定する。例えば、比r/R=1/8である曲面部14に平行光が入射した場合、光線追跡により算出される光の出射角度αは3.8°である。また、例えば、比r/R=1/4である曲面部14に平行光が入射した場合、光線追跡により算出される光の出射角度αは7.8°である。また、例えば、比r/Rが1/2である曲面部14に平行光が入射した場合、光線追跡により算出される光の出射角度αは17.0°である。
したがって、上述した隣接頂点間距離の分布の制御は、凹凸構造11が形成されている側から平行光を入射したときの当該光学素子10からの光の出射角度αが7.8°以上の光学素子に用いてもよく、出射角度αが17.0°以上の光学素子にはとくに好適である。換言すると、本実施形態の光学素子10は、図7(b)に示すように、例えば、隣接頂点間距離の分布を制御することにより、素子としての光の出射角度αが7.8°以上を満足する仕様としてもよく、素子としての光の出射角度αが17.0°以上を満足する仕様としてもよい。とくに、頂点位置をランダムに配置した凹凸構造91では、出射角度αが17.0°以上の場合、比r/Rが1以上となる領域が生じ得る。これに対して、本実施形態の光学素子10は、出射角度αが17.0°以上を満足する仕様としても、曲面部の境界において平坦部や加工が困難な傾斜が生じるのを防止できる。なお、図7(b)においても、出射角度αは、凹凸構造11がある側から平行光を入射した時の当該光学素子10からの出射光の強度分布における強度が光軸上の強度の1/e2となる、光軸からの角度とする。図7(a)および図7(b)において符号201は入射光である平行光を表し、符号202は出射光を表す。また、符号203は光軸を表す。
次に、凹凸構造11の加工方法について説明する。図8は、凹凸構造11の加工方法の一例を示す説明図である。例えば、図8に示すように本加工方法は、基材15上に微小な開口22がパターニングされたマスク21を形成し、それをウェットエッチングすることにより凹凸構造11を得てもよい。そのようにすれば、一度の加工で、基材15の表面に複数の略球面状の曲面部14を含む凹凸構造11を形成できる。なお、曲面部14の頂点位置は、マスク21における開口22の位置によって制御できる。また、曲面部14の曲率半径および頂点の深さは、エッチング量およびマスク21における開口22の大きさによって制御できる。
すなわち、ウェットエッチングの場合本加工方法は、図8の破線で示すように等方的にエッチングされていくため、エッチング量により曲率半径を制御できる。また本加工方法は、マスク21の初期の開口の大きさを変えることで、エッチング初期の開口22内の薬品の量を変化させることができるので、曲率半径に数μm程度の違いを生じさせられる。これにより、深さ方向に変化をつけられる。
マスク21の材料は、例えば、クロム(Cr)やモリブデン(Mo)などの金属材料を使用できる。また、パターニング方法は、フォトリソグラフィを利用できる。レジストを用いるフォトリソグラフィを利用する場合には、マスク21となる金属材料の上にレジスト剤を残した状態で加工してもよい。
また、図8は、光学素子10の基材15を直接加工する方法を示したが、他の基材に対して上述した加工を行い、それを型に用いて、凹凸構造11を得てもよい。その場合、型は、ウェットエッチングにより得た型をそのまま用いるだけでなく、該型を用いて転写した形状を基にさらに電気鋳造等を用いて金属製の型を作製できる。そのようにして得られる型23を用いて、樹脂などを転写、成形することで凹凸構造11を得てもよい。図9は、型23を用いて製造される光学素子10の例である。図9(a)は、ガラスなどの無機材料からなる基材15A上に型23を用いて樹脂を転写、成型して凹凸構造11を形成した光学素子10の例である。図9(a)に示す光学素子10は、基材15A上に凹凸構造11が形成された樹脂層15Bが積層された構成となっている。また、図9(b)は、樹脂のみで形成される光学素子10の例である。図9(b)に示す例は、基材15Aの代わりに樹脂材料からなる基材15Cを用いている。なお、図8および図9は、簡単のため曲面部14を2個しか表示していないが、曲面部14の数はこれに限られない。
以上のように、本実施形態の光学素子10は、スペックルノイズと回折パターンの両方を抑制しつつ、加工が容易でかつ効率よく光を拡散できる。これは、本実施形態の光学素子10は、各曲面部14の形状を相似形、より具体的には略同一の非球面係数を有する形状とした上で、頂点の深さ位置を変化させるとともに、隣接頂点間距離のヒストグラムの分布を正規分布ではなく、一様分布により近い分布になるよう頂点位置を決定するためである。
本実施形態の光学素子10は、光を効率よく拡散できるので、例えばプロジェクタのような投影装置に使用できる。その場合において、光学素子10は、例えば、該投影装置において、光源と所定の投影面との間に配置される、光源からの光を所定の投影面に投影するための拡散素子として適用できる。また、本実施形態の光学素子10は、3次元計測装置や、認証装置などのように、光を照射して対象物によって散乱された光を検知する装置に含まれる、検査光を所定の投影範囲に照射するための光の投影装置にも使用できる。また、本実施形態の光学素子10は、ヘッドアップディスプレイのような投影装置の中間スクリーン(中間像生成用の光学素子)にも使用できる。その場合には、光学素子10は、例えば、該投影装置において、中間像を構成する光を出射する光源とコンバイナーとの間に配置され、光源からの光であって中間像を構成する光を、コンバイナーに投影するための中間スクリーンとしても適用できる。なお、当該光学素子10による中間スクリーンは反射型であっても透過型であってもよい。
以下、上述した光学素子10について具体的な数値等を用いて説明する。なお、例1および例2は本発明による光学素子の実施例であり、例3は比較例である。
(例1)
以下、第1の例について示す。本例の光学素子は、図1に示す構成の光学素子であって、凹凸構造11における曲面部14の配置が図3に示す配置の光学素子である。
本例の光学素子において、凹凸構造11は、図3に示すような、第1方向および該第1方向と60°をなす第2方向に沿って5×5列に並ぶ曲面部14からなる基本単位111の繰り返し構造とする。ここで、第1方向は任意であるが、例えば、当該光学素子の主表面のいずれかの辺方向(例えば、長辺方向)であってもよい。
本例の凹凸構造11は、基本単位111内における曲面部14の第1方向における隣接頂点間距離を、P11=112.5μm、P12=87.5μm、P13=75.0μm、P14=100.0μm、P15=125.0μmとする。また、第2方向における隣接頂点間距離を、P21=112.5μm、P22=87.5μm、P23=75.0μm、P24=100.0μm、P25=125.0μmとする。すなわち、本例の光学素子は、凹凸構造11における曲面部14の各々の頂点を、これら第1方向および第2方向における上記のP11〜P15およびP21〜P25によって表される座標上に位置するようにする。
また、基材15は、波長635nmにおける屈折率が1.515となるガラス材料を使用する。
まず、該基材15上に、クロム(Cr)を成膜してマスク層を得る。次いで、フォトリソグラフィによって、該マスク層の所定位置に微小の開口22をパターニングして、基材15上にマスク21を形成する。マスク21における開口22の位置は、上述した曲面部14の頂点位置に対応させる。次いで、ウェットエッチングによって、基材15の表面を、各開口22の位置を中心に曲率半径が200μmとなる略球面状の曲面部14が形成されるよう、加工する。このとき、基本単位111内の曲面部14の頂点の深さ位置が、ある曲面部14の頂点の深さ位置を0nmとして、0nm、165nm、330nm、495nm、660nm、825nm、990nm、1155nmの8値のうちのいずれか、かつ頂点の深さ位置の1つの水準に全体の75%以上の曲面部14が配置されないように、加工する。これにより、75%以上の曲面部14が同じ深さ位置となるのを少なくとも防ぐ。
図10(a)は、本例の光学素子の凹凸構造11の一部を示す平面図である。なお、図10(a)は、上記設計に従って構成される凹凸構造11の一例を計算により図示化したものである。また、図10(b)は、本例の光学素子の凹凸構造11における隣接頂点間距離のヒストグラムである。図10(b)に示すヒストグラムは、基本単位111に含まれる曲面部14の各々に対して、隣接する6つの他の曲面部14との頂点間距離を求めて得られた隣接頂点間距離の集合に対するヒストグラムである。図10(b)に示すヒストグラムにおいて、横軸は、基準の距離(100μm)を100として規格化されている。なお、図10(b)に示すヒストグラムでは、隣接頂点間距離の最小値から最大値までの値域に対する分割数を14としたが、例えばその倍の28等にしてもよい。
本例の光学素子の凹凸構造11において、隣接頂点間距離の平均は100.8μmである。また、図10(b)に示すヒストグラムにおける中心域の頻度と周辺域の頻度の比は0.85である。なお、中心域の頻度には、階級値=96の階級と階級値=100の階級の頻度の平均を用いた。また、周辺域の頻度には、階級値=72の階級と階級値=124の階級の頻度の平均を用いた。また、図10(b)に示すように、隣接頂点間距離の頻度分布の分布範囲は基準の距離に対して±30%以内、より詳しくは±25%となっている。
図11は、本例の光学素子に対して、波長635nmの平行光を入射した場合の出射光の光量分布のシミュレーション結果を示した図である。図11に示すように、本例の光学素子の場合、光が所定の範囲に効率よく拡散されて照射されていることがわかる。なお、参考までに本例の光学素子の図11の紙面縦方向における、直進方向の出射強度の平均値に対して半値となる出射角度の半値全幅は15°である。
(例2)
次に、第2の例について示す。本例の光学素子は、曲面部14の配置が第1の例と異なる。図12は、本例の光学素子の凹凸構造11における曲面部14の配置を示す説明図である。本例の光学素子において、凹凸構造11は、図12に示すような、第1方向および該第1方向と90°をなす第2方向に沿って3×5列に並ぶ曲面部14からなる基本単位111の繰り返し構造とする。本例においても、第1方向は任意であるが、例えば、当該光学素子の主表面のいずれかの辺方向(例えば、長辺方向)であってもよい。
本例の凹凸構造11は、基本単位111内における曲面部14の第1方向における隣接頂点間距離を、P11=100.0μm、P12=105.0μm、P13=95.0μmとする。また、凹凸構造11の基本単位111内における曲面部14の第2方向における隣接頂点間距離を、P21=100.0μm、P22=105.0μm、P23=102.5μm、P24=97.5μm、P25=95.0μmとする。すなわち、本例では、曲面部14の頂点を、これら第1方向および第2方向における上記のP11〜P13およびP21〜P25によって表される座標上に位置するようにする。
本例においても、基材15は、波長635nmにおける屈折率が1.515となるガラス材料を使用する。
まず、該基材15上に、クロム(Cr)を成膜してマスク層を得る。次いで、フォトリソグラフィによって、該マスク層に微小の開口22をパターニングして、基材15上にマスク21を形成する。マスク21における開口22の位置は、上述した曲面部14の頂点位置に対応させる。次いで、ウェットエッチングによって、基材15の表面を、各開口22の位置を中心に曲率半径が200μmとなる略球面状の曲面部14が形成されるよう、加工する。このとき、基本単位111内の曲面部14の頂点の深さ位置が、ある曲面部14の頂点の深さ位置を0nmとして、0nm、165nm、330nm、495nm、660nm、825nm、990nm、1155nmの8値のうちのいずれか、かつ頂点の深さ位置の1つの水準に全体の75%以上の曲面部14が配置されないように、加工する。
図13(a)は、本例の光学素子の凹凸構造11の一部を示す平面図である。なお、図13(a)は、上記設計に従って構成される凹凸構造11の一例を計算により図示化したものである。また、図13(b)は、本例の光学素子の凹凸構造における曲面部14の隣接頂点間距離のヒストグラムである。図13(b)に示すヒストグラムは、基本単位111に含まれる曲面部14の各々に対して、隣接する4つの曲面部14との頂点間距離を求めて得られた隣接頂点間距離の集合に対するヒストグラムである。図13(b)に示すヒストグラムにおいて、横軸は、基準の距離(100μm)を100として規格化されている。なお、図13(b)に示すヒストグラムでは、隣接頂点間距離の最小値から最大値までの値域に対する分割数を6としたが、例えばその倍の12等にしてもよい。
本例の光学素子の凹凸構造11において隣接頂点間距離の平均は100.0μmである。また、図13(b)に示すヒストグラムにおける中心域の頻度と周辺域の頻度の比は1.00である。なお、中心域の頻度には、階級値=98の階級と階級値=100の階級の平均を用いた。また、周辺域の頻度には、階級値=94の階級と階級値=104の階級の平均を用いた。また、図13(b)に示すように、隣接頂点間距離の頻度分布の分布範囲は基準の距離に対して±5%となっている。
図14は、本例の光学素子に対して、波長635nmの平行光を入射した場合の出射光の光量分布のシミュレーション結果を示した図である。図14に示すように、本例の光学素子の場合、光が所定の範囲に効率よく拡散されて照射されていることがわかる。なお、参考までに本例の光学素子の図14の紙面縦方向における、直進方向の出射強度の平均値に対して半値となる出射角度の半値全幅は14°である。
(例3)
次に、第3の例について示す。本例の光学素子は、曲面部14の頂点がピッチ50μnで等間隔に配置された凹凸構造を有する点が、第1および第2の例と異なる。なお、本例の凹凸構造には、曲率半径が200μm、233μm、167μmとなる3種類の曲面部14が含まれている。
図15(a)は、本例の光学素子の凹凸構造の一部を示す平面図である。なお、図15(a)は、上記設計に従って構成される凹凸構造11の一例を計算により図示化したものである。なお、本例の凹凸構造における隣接頂点間距離は全て同じ値であるため、ヒストグラムは図示省略している。図15(b)は、本例の光学素子に対して、波長635nmの平行光を入射した場合の出射光の光量分布のシミュレーション結果を示す説明図である。なお、参考までに本例の光学素子の図15(b)の紙面縦方向における、直進方向の出射強度の平均値に対して半値となる出射角度の半値全幅は15°である。
本例の光学素子は、凹凸構造が3つの異なる曲率半径の曲面部14を含むため、第1の例や第2の例のようなウェットエッチングによる加工が難しい。例えば、ウェットエッチングで加工する場合は、マスクのパターニングとウェットエッチングを3回繰り返す必要がある。他に、ガラスを直接切削加工することにより加工できるが、そのような加工は非常に時間がかかる。また、複数回ウェットエッチング加工をする場合、2回目以降は凹凸面上にマスクパターンを形成する必要があり、マスクパターンが意図したマスクパターンとならないことがある。このような場合、意図しない部分をウェットエッチング加工することにより設計形状とのずれが生じ、所望の光学特性を得ることができない。