JP6754712B2 - ポリエステルフィルムの製造方法及びフィルム成形用加熱ロール - Google Patents
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Description
これらのフィルムは、高分子押し出し法や延伸法などにより製造されることが知られている。
また粘着ムラや擦り傷を発生させることなしに従来の粗面化ロールの場合よりもシートを大幅に高温にまで加熱することが可能な縦延伸装置として、熱可塑性樹脂をガラス転移温度以上に加熱するロールにRmaxが1.0μm以上6.0μm以下であり凹部が10個/mm以上あって、断面曲線の中心線より1.5μm以上高い凸部がないように表面仕上げをしたロールを用いた熱可塑性樹脂シートの延伸装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、特許文献2に記載の熱可塑性樹脂シートの延伸装置では、凹部を多くすることでフィルムとロールとの粘着を防止することを示しているが、フィルムをガラス転移点以上の温度まで加熱すると、ロール表面の溝(凹部)に軟化したフィルムが埋設してしまい、十分な離型性が得られず、ロールに巻きついて生産性が低下するという問題がある。
すなわち、本発明は、剥離ムラの発生を低減させたポリエステルフィルムの製造方法及びフィルム成形用加熱ロールを提供することを目的とする。
<1> 赤外光入射角45°の条件でフーリエ変換赤外分光減衰全反射法により求められる、2079cm−1〜2415cm−1の範囲におけるSi−Hの伸縮振動に由来する最大吸収ピーク強度Paと、1040cm−1〜1060cm−1の範囲におけるSi−O−Siの伸縮振動に由来する最大吸収ピーク強度Pbと、が下記関係式(1)を満たすシリコーン樹脂を含み、かつ、厚さが0.5μm〜3.0μmである表面層を有し、前記表面層における表面温度T(℃)が下記関係式(2)の関係を満たす加熱ロールを用いて、ポリエステルフィルムを予熱する工程と、予熱された前記ポリエステルフィルムを延伸する工程と、を有するポリエステルフィルムの製造方法。
Pa/Pb≦2.0 ・・・関係式(1)
Tg≦T(℃)≦(Tg+10)・・・関係式(2)
[関係式(2)中、Tgはポリエステルフィルムのガラス転移温度を示す。]
<2>前記表面層の鉛筆硬度が5H以上であり、前記表面層の剥離強度が2N/50mm以下である、<1>に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
<3> 前記ポリエステルフィルムは、脂肪族ポリエステルフィルムである<1>又は<2>に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
<4> 前記脂肪族ポリエステルフィルムは、ヘリカルキラル高分子を含む<3>に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
<5> 前記脂肪族ポリエステルフィルムは、ポリ乳酸系高分子を含む<3>に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
<6> 赤外光入射角45°の条件でフーリエ変換赤外分光減衰全反射法により求められる、2079cm−1〜2415cm−1の範囲における2247cm−1付近のSi−Hの伸縮振動に由来する最大吸収ピーク強度Paと、1040cm−1〜1060cm−1の範囲におけるSi−O−Siの伸縮振動に由来する最大吸収ピーク強度Pbと、が下記関係式(1)を満たすシリコーン樹脂を含み、かつ、厚さが0.5μm〜3.0μmである表面層を有するフィルム成形用加熱ロール。
Pa/Pb≦2.0 ・・・関係式(1)
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本明細書において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
また、本明細書において、フィルムの主面とは、フィルムの厚み方向と直交する面(言い換えれば、長さ方向及び幅方向を含む面)のことを意味する。なお、「主面」を単に「面」とも称することがある。
本明細書において、部材の「面」は、特に断りが無い限り、部材の「主面」を意味する。
本実施形態のポリエステルフィルムの製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう。)は、少なくとも、赤外光入射角45°の条件でフーリエ変換赤外分光減衰全反射法(以下「FT−IR−ATR法」ともいう。)により求められる、2079cm−1〜2415cm−1の範囲におけるSi−Hの伸縮振動に由来する最大吸収ピーク強度Paと、1040cm−1〜1060cm−1の範囲におけるSi−O−Siの伸縮振動に由来する最大吸収ピーク強度Pbと、が下記関係式(1)を満たすシリコーン樹脂(以下、「特定シリコーン樹脂」ともいう。)を含み、かつ、厚さが0.5μm〜3.0μmである表面層を有し、前記表面層における表面温度T(℃)が下記関係式(2)の関係を満たす加熱ロールを用いて、ポリエステルフィルムを予熱する工程と、予熱された前記ポリエステルフィルムを延伸する工程と、を有する。
Pa/Pb≦2.0 ・・・関係式(1)
Tg≦T(℃)≦(Tg+10)・・・関係式(2)
[関係式(2)中、Tgはポリエステルフィルムのガラス転移温度を示す。]
この理由は明らかではないが、以下のように推測される。
また、表面層の表面温度がポリエステルフィルムのガラス転移温度(Tg)〜(Tg)+10℃の範囲にある加熱ロールを用いて、ポリエステルフィルムを予熱又は予熱されたポリエステルフィルムを延伸した場合であっても、加熱ロールの表面層には、特定のシリコーン樹脂が含まれているため、ポリエステルフィルムは加熱ロールに張り付きにくく、剥離ムラの発生が低減されると推察される。
本実施形態の製造方法により得られるポリエステルフィルムは、ポリエステルを主成分(すなわち、ポリマー成分全体の50質量%以上を占める成分)としたフィルムである。
ポリエステルは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、芳香族ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。
本実施形態の製造方法により得られるポリエステルフィルムは、ヘリカルキラル高分子を含むことが好ましい。ヘリカルキラル高分子は、光学活性を有するヘリカルキラル高分子である。ここで、「光学活性を有するヘリカルキラル高分子」とは、分子構造が螺旋構造であり分子光学活性を有する高分子を指す。
ヘリカルキラル高分子の光学純度を上記範囲とすることで、高分子フィルム中での高分子結晶の結晶化度及びパッキング性が高くなる。その結果、例えば高分子フィルムを圧電フィルムとして用いたときには、圧電性(圧電定数)をより向上させることができる。
光学純度(%ee)=100×|L体量−D体量|/(L体量+D体量)
すなわち、ヘリカルキラル高分子の光学純度は、
『「ヘリカルキラル高分子のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子のD体の量〔質量%〕との量差(絶対値)」を「ヘリカルキラル高分子のL体の量〔質量%〕とヘリカルキラル高分子のD体の量〔質量%〕との合計量」で割った(除した)数値』に、『100』をかけた(乗じた)値である。
50mLの三角フラスコに1.0gのサンプル(ポリエステルフィルム)を計りこみ、IPA(イソプロピルアルコール)2.5mLと、5.0mol/L水酸化ナトリウム溶液5mLとを加える。次に、サンプル溶液が入った前記三角フラスコを、温度40℃の水浴に入れ、ヘリカルキラル高分子が完全に加水分解するまで、約5時間攪拌する。
−HPLC測定条件−
・カラム
光学分割カラム、(株)住化分析センター製 SUMICHIRAL OA5000・測定装置
日本分光社製 液体クロマトグラフィ
・カラム温度
25℃
・移動相
1.0mM−硫酸銅(II)緩衝液/IPA=98/2(V/V)
硫酸銅(II)/IPA/水=156.4mg/20mL/980mL
・移動相流量
1.0ml/分
・検出器
紫外線検出器(UV254nm)
ここで、ポリ乳酸系高分子とは、「ポリ乳酸(L−乳酸及びD−乳酸から選ばれるモノマー由来の繰り返し単位のみからなる高分子)」、「L−乳酸またはD−乳酸と、該L−乳酸またはD−乳酸と共重合可能な化合物とのコポリマー」、又は、両者の混合物をいう。
ポリ乳酸系高分子の中でも、機械的な延伸操作のみで圧電性が発現する点から、ポリ乳酸が好ましく、L−乳酸のホモポリマー(PLLA)またはD−乳酸のホモポリマー(PDLA)が最も好ましい。
ポリ乳酸は、ラクチドを経由するラクチド法;溶媒中で乳酸を減圧下加熱し、水を取り除きながら重合させる直接重合法;などによって製造できることが知られている。
ポリ乳酸としては、L−乳酸のホモポリマー、D−乳酸のホモポリマー、L−乳酸およびD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むブロックコポリマー、及び、L−乳酸およびD−乳酸の少なくとも一方の重合体を含むグラフトコポリマーが挙げられる。
例えば、ヘリカルキラル高分子がポリ乳酸系高分子である場合、ポリ乳酸系高分子中における、乳酸に由来する構造と、乳酸と共重合可能な化合物(コポリマー成分)に由来する構造と、のモル数の合計に対して、コポリマー成分に由来する構造の濃度が20mol%以下であることが好ましい。
ヘリカルキラル高分子の重量平均分子量(Mw)は、5万〜100万であることが好ましい。
ヘリカルキラル高分子のMwが5万以上であると、ポリエステルフィルムの機械的強度が向上する。上記Mwは、10万以上であることが好ましく、20万以上であることがさらに好ましい。
一方、ヘリカルキラル高分子のMwが100万以下であると、成形(例えば押出成形)によってポリエステルフィルムを得る際の成形性が向上する。上記Mwは、80万以下であることが好ましく、30万以下であることがさらに好ましい。
−GPC測定装置−
Waters社製GPC−100
−カラム−
昭和電工(株)製、Shodex LF−804
−サンプルの調製−
ポリエステルフィルムを40℃で溶媒(例えば、クロロホルム)へ溶解させ、濃度1mg/mlのサンプル溶液を準備する。
−測定条件−
サンプル溶液0.1mlを溶媒〔クロロホルム〕、温度40℃、1ml/分の流速でカラムに導入する。
ポリスチレン標準試料にてユニバーサル検量線を作成し、ヘリカルキラル高分子の重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を算出する。
市販品としては、例えば、PURAC社製のPURASORB(PD、PL)、三井化学(株)製のLACEA(H−100、H−400)、NatureWorks LLC社製のIngeoTM biopolymer、等が挙げられる。
ヘリカルキラル高分子としてポリ乳酸系高分子を用いるときに、ポリ乳酸系高分子の重量平均分子量(Mw)を5万以上とするためには、ラクチド法、または直接重合法によりポリ乳酸系高分子を製造することが好ましい。
ポリエステルフィルム中におけるヘリカルキラル高分子の含有量(2種以上である場合には総含有量)は、ポリエステルフィルムの全量に対し、80質量%以上が好ましい。
本実施形態の製造方法により得られるポリエステルフィルムは、安定化剤として、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200〜60,000の化合物を含むことが好ましい。
この安定化剤は、ヘリカルキラル高分子の加水分解反応(この加水分解反応は、例えば下記反応スキームにて進行するものと推定される)を抑制し、フィルムの耐湿熱性を改良するために用いられる。
安定化剤については、国際公開第2013/054918号パンフレットの段落0039〜0055の記載を適宜参照できる。
本実施形態の製造方法により得られるポリエステルフィルムは、本発明の効果を損なわない限度において、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンやポリスチレンに代表される公知の樹脂や、シリカ、ヒドロキシアパタイト、モンモリロナイト等の無機フィラー、フタロシアニン等の公知の結晶核剤等他の成分を含有していてもよい。
なお、ポリエステルフィルムがヘリカルキラル高分子以外の成分を含む場合、ヘリカルキラル高分子以外の成分の含有量は、結晶化高分子フィルム全質量中に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
例えば、ポリエステルフィルムを、気泡等のボイドの発生を抑えた透明なフィルムとするために、結晶化高分子フィルム中に、ヒドロキシアパタイト等の無機フィラーをナノ分散してもよい。但し、無機のフィラーをナノ分散させるためには、凝集塊の解砕に大きなエネルギーが必要であり、また、フィラーがナノ分散しない場合、フィルムの透明度が低下する場合がある。本実施形態の製造方法により得られるポリエステルフィルムが無機フィラーを含有するとき、結晶化高分子フィルム全質量に対する無機フィラーの含有量は、1質量%未満とすることが好ましい。
結晶促進剤は、結晶化促進の効果が認められるものであれば、特に限定されないが、ヘリカルキラル高分子の結晶格子の面間隔に近い面間隔を持つ結晶構造を有する物質を選択することが望ましい。面間隔が近い物質ほど核剤としての効果が高いからである。
例えば、ヘリカルキラル高分子としてポリ乳酸系高分子を用いた場合、有機系物質であるフェニルスルホン酸亜鉛、ポリリン酸メラミン、メラミンシアヌレート、フェニルホスホン酸亜鉛、フェニルホスホン酸カルシウム、フェニルホスホン酸マグネシウム、無機系物質のタルク、クレー等が挙げられる。それらのうちでも、最も面間隔がポリ乳酸の面間隔に類似し、良好な結晶形成促進効果が得られるフェニルホスホン酸亜鉛が好ましい。なお、使用する結晶促進剤は、市販されているものを用いることができる。具体的には例えば、フェニルホスホン酸亜鉛;エコプロモート(日産化学工業(株)製)等が挙げられる。
本実施形態の製造方法は、赤外光入射角45°の条件でFT−IR−ATR法により求められる、2079cm−1〜2415cm−1の範囲におけるSi−Hの伸縮振動に由来する最大吸収ピーク強度Paと、1040cm−1〜1060cm−1の範囲におけるSi−O−Siの伸縮振動に由来する最大吸収ピーク強度Pbと、が下記関係式(1)を満たすシリコーン樹脂(特定シリコーン)を含み、かつ、厚さが0.5μm〜3.0μmである表面層を有し、前記表面層における表面温度T(℃)が前記関係式(2)の関係を満たす加熱ロールを用いて、ポリエステルフィルムを予熱する工程(以下、「ポリエステルフィルム予熱工程」ともいう。)を含む。
Pa/Pb≦2.0 ・・・関係式(1)
Tg≦T(℃)≦(Tg+10)・・・関係式(2)
[関係式(2)中、Tgはポリエステルフィルムのガラス転移温度を示す。]
加熱ロールは、特定シリコーン樹脂を含む表面層を有するので、ポリエステルフィルムの主面と接触した際に、表面層の離型性をより高めることが可能となる。すなわち、ポリエステルフィルムを予熱した場合、ポリエステルフィルムは加熱ロールに張り付きにくく、剥離ムラの発生が低減される傾向がある。以下、特定シリコーン樹脂について説明する。
ポリエステルフィルム予熱工程において、加熱ロールの表面層が有する特定シリコーン樹脂は、少なくとも、主鎖としてシロキサン結合(−Si−O−Si−)と、主鎖のケイ素原子と結合する有機基を有する側鎖と、を有するオルガノポリシロキサンを含む。
付加反応型シリコーン樹脂は、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基(ビニル基、アリル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基等の1価の炭化水素基が挙げられ、中でもビニル基が特に好ましい。)を有するオルガノポリシロキサンと、1分子中にケイ素原子に結合する水素原子(Si−H基)を有するオルガノポリシロキサン(以下、単に「オルガノハイドロジェンポリシロキサン」ともいう。)と、を反応させて得ることができる。
ビニル基を有するオルガノポリシロキサンは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、R1で表される飽和炭化水素基の炭素数には、置換基の炭素数は含まれないものとする。以下、同様である。
オルガノポリシロキサンの粘度は、例えば、25℃におけるオルガノポリシロキサンの粘度が30mPa・s〜10,000mPa・sとなるように調整することが好ましい。
適度な粘度が得られる点で、シロキサン構造単位の部分構造の繰り返し数aは、20〜300が好ましく、50〜300がより好ましい。
なお、一般式(3)中、R1並びにb及びcの詳細は、一般式(2)中のR1及びaとそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同様である。
なお、式(4)中、R1の詳細は、一般式(1)中のR1とそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同様である。
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、下記一般式(5)で表される化合物が挙げられる。
オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、一般式(5)中、R1並びにd及びeの詳細は、一般式(1)中のR1及びaとそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同様である。
付加反応型シリコーン樹脂の合成方法としては、例えば、ビニル基を有するオルガノポリシロキサン、白金化合物、乳化剤、及び水からなるエマルジョン、並びに、オルガノハイドロジェンポリシロキサン、乳化剤、及び水からなるエマルジョンをそれぞれ製造し、この2種類のエマルジョンを混合して得る方法が挙げられる。
白金触媒としては、例えば、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸のアルデヒド溶液、塩化白金酸とオレフィン化合物との錯塩等が挙げられる。
Pa/Pb≦2.0 ・・・式(1)
(2)採取したサンプルを用いて、Si−O−Si及びSi−Hの伸縮振動に由来するスペクトルを測定する。
(測定)
フーリエ変換赤外分光計:(製品名:TENSOR(登録商標)、ブルカー・オプティクス(株)製)
検知器:DTGS(重水素化硫酸三グリシン)
測定モード:減衰全反射法(ATR法)
分解能:4cm−1
積算回数:256回
ATR結晶:Ge(ゲルマニウム)
入射角:45°
剥離ムラの発生を抑制する観点から、表面層の厚みとしては、0.5μm〜2.5μmであることが好ましく、1.0μm〜2.5μmであることがより好ましい。
表面層の鉛筆硬度が5H以上であると、前記シリコーン樹脂は十分に架橋されているため、表面層を形成したときに適度な硬さを得ることが可能となる。その結果、このような表面層を有する加熱ロールを用いることで、予熱工程において弾性率の低いフィルムが加熱ロールに粘着しにくくなり、ロールにべたつきにくい傾向がある。
上記観点から、表面層の鉛筆硬度としては、6H以上であることが好ましく、8H以上であることがより好ましく、9Hであることがさらに好ましい。
なお、表面層の鉛筆硬度は、JIS K5400に基づいて測定された値を意味する。
表面層の剥離強度が2N/50mm以下であると、本実施形態の表面層を有する加熱ロールを用いて予熱した際に、ポリエステルフィルムが加熱ロールから剥離しやすく、剥離ムラの発生が抑制されたポリエステルフィルムを得ることが可能となる。
上記観点から、表面層の剥離強度としては、1.5N/50mm以下であることが好ましく、1N/50mm以下であることがより好ましい。表面層の剥離強度は、低いほど好ましい。
加熱部材の上記表面がある程度の凹凸を有する場合には、後述するポリエステルフィルムの結晶化が進行する際に、フィルムが上記凹凸の凹部に密着しにくい状態(例えば、フィルムが上記凹凸の凹部には接触せず凸部のみに接触している状態)となり、その結果、得られるポリエステルフィルムの表面に加熱ロールの表面の凹凸がより転写されにくくなるため、と推察される。
表面層の表面粗さ(Ra;算術平均粗さ)は、縦延伸工程における未延伸のポリエステルフィルムが加熱ロールの表面に埋設することを抑制する観点から、Ra値が、2.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましい。
Ra値の上限には特に制限はなく、Ra値は、加熱の効率の観点から、0.5μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましく、0.25μm以下がさらに好ましい。
硬度が高い材質としては、基材の中で、金属で構成された部分が硬質クロムメッキ、又はセラミック溶射等で構成された部分を有することがより好ましい。硬度が高い材質としては、特に硬質クロムメッキであることがさらに好ましい。
Tg≦T(℃)≦(Tg+10)・・・関係式(2)
[関係式(2)中、Tgはポリエステルフィルムのガラス転移温度を示す。]
具体的には、以下の手順により測定を行う。
(1) ロールを加熱し、ロール表面の任意の点について、接触式温度計(型式:HFT−51、アンリツ(株)製)と測定プローブ(型式:U−131E−00−D0、アンリツ(株)製)とを用いて温度を測定する。
(2) 温度の測定時間は10秒間とし、小数点1桁の数値を切り捨てた値を読み取り、測定値とする。
(1)及び(2)の手順に従い、ロール表面の任意の5点について測定し、任意の5点の測定値の算術平均した値を表面温度とする。
本実施形態におけるポリエステルフィルムの製造方法は、前記ポリエステルフィルム予熱工程に加えて、予熱されたポリエステルフィルムを延伸する工程(延伸工程)を有する。
本実施形態のポリエステルフィルムの製造方法において、上記工程に加えて、その他の工程を有していてもよい。
その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエステルの溶融物を押し出す工程、冷却工程などが挙げられる。
なお、本実施形態の製造方法の各工程の説明において、参照する図中では、同じ構成部分には、同じ符号を付している。各図の符号において、1は押出機、2はダイス、3はキャスタードラム、4はパスロール、5aは予熱ロール、5bは延伸ロール、6はピンチロール、7はテンターを表す。
なお、各工程で用いるポリエステルフィルムの成分の具体例、及び好ましい態様については、ポリエステルフィルムの各項に記載したとおりであるため、ここでは説明を省略する。
本実施形態のポリエステルフィルムの製造方法により得られるポリエステルフィルムは、例えば圧電フィルムとして好適に用いることができる。
また、本実施形態のポリエステルフィルムの製造方法により得られるポリエステルフィルムは、フィルムのキズや剥離ムラの欠点が少ないため、圧電フィルム以外にも、表示装置などに用いられる光学用フィルムとして用いることが可能である。特に、プリズムシート用ベースフィルム、ハードコート用ベースフィルム、反射防止(AR)フィルム用ベースフィルム、光拡散用ベースフィルム、透明導電性フィルムなどとして好適に用いることができる。
本実施形態のフィルム成形用加熱ロールは、赤外光入射角45°の条件でFT−IR−ATR法により求められる、2079cm−1〜2415cm−1の範囲におけるSi−Hの伸縮振動に由来する最大吸収ピーク強度Paと、1040cm−1〜1060cm−1の範囲におけるSi−O−Siの伸縮振動に由来する最大吸収ピーク強度Pbと、が下記関係式(1)を満たすシリコーン樹脂を含み、かつ、厚さが0.5μm〜3.0μmである表面層を有する。
Pa/Pb≦2.0 ・・・関係式(1)
なお、フィルム成形用加熱ロールが含む特定シリコーン樹脂及び表面層の具体例、及び好ましい態様については、特定シリコーン樹脂の各項と同様である。
中でも、ポリエステルフィルムを熱処理する工程に用いることが好ましく、脂肪族ポリエステルフィルムを熱処理する工程に用いることが好ましく、ヘリカルキラル高分子を含むフィルム熱処理する工程に用いることがより好ましく、ポリ乳酸系高分子を含むフィルム熱処理する工程に用いることがさらに好ましい。
また、フィルム成形用加熱ロールは、予熱ロール及び延伸工程で用いられる延伸ロールに用いてもよい。剥離ムラの発現が抑制される点から、フィルム成形用加熱ロールは、予熱ロール及び延伸ロールの両方に用いることが好ましい。
予熱ロール及び延伸ロールが複数のロールから構成される場合、複数のロール中、少なくとも1つがフィルム成形用加熱ロールであることが好ましく、全部のロールがフィルム成形用加熱ロールであることがより好ましい。
−加熱ロールAの作製−
常法に従い、クロムモリブデン鋼を主体とした鋼製のロールの表面に硬質クロムめっきを施し、表面を研磨した。次いでこの表面をシリコーン樹脂A(商品名:Aμcoat(登録商標)NFX−5131、日本フッソ工業(株)製)でコーティングして、シリコーン樹脂を含む表面層を形成させた加熱ロールを作製した。
上記で作成した加熱ロール表面から、表面層を金属ナイフで10mm×10mmに切り取り、サンプルとした。
採取したサンプルは、フーリエ変換分光計(製品名:TENSOR(登録商標)、ブルカー・オプティクス(株)製)を用いて、減衰全反射法(ATR法)によって、Si−O−Si及びSi−Hの伸縮振動に由来するスペクトルを測定した。
検知器はDTGS(重水素化硫酸三グリシン)、分解能4cm−1、積算回数256回、ATR結晶はGe(ゲルマニウム)、入射角45°とし、吸収強度を計測した。
Si−O−Siに由来するスペクトル(1056cm−1)のピーク高さをPa(高さのベースラインは915cm−1〜1288cm−1)、Si−Hに由来するスペクトル(2247cm−1)のピーク高さをPb(高さのベースラインは2415cm−1〜2079cm−1)として、Pa/Pbをピーク強度比として計算した。このときのシリコーン樹脂Aを含む表面層のFT−IRピーク強度比は、最も高いもので0.8%であった。結果を表2に示す。
加熱ロール表面粗さは、JIS B 0601(1994)に準拠して以下の装置を用いて測定した。
上記サンプルを、表面粗さ計(型式:SJ−310、(株)ミツトヨ製)を用いて送り速さ0.5mm/秒、測定長1.25mm、カットオフ値0.25mmでRa値及びRy値を測定した。このときの表面粗さRa値は、0.2μm、最大高さRy値は、0.7μmであった。結果を表1に示す。
上記ピーク強度比の測定と同様に、加熱ロール表面から、表面層を金属ナイフで10mm×10mmに切り取った。切り取った部分に、レプリカフィルム(商品名:レプリセット−T1、丸本ストルアス(株)製)を充填し、加熱ロールの表面レプリカを採取した。
採取したレプリカフィルムの断面(表面層を切り取った箇所と切り取っていない箇所との断面)界面を、形状測定レーザマイクロスコープ(製品名:VK−9700シリーズGrneration、(株)キーエンス製)にて撮像し、表面層の厚みを計測した。
レプリカフィルム内の厚さを任意の5箇所を測定し、その算術平均の厚みを表面層の厚みとした。計測結果を表1に示す。
剥離強度は、幅25mmの布テープ(NO.750、日東電工CSシステム(株)製)を用いた非粘着性試験に従って測定した。
幅25mmの布テープを長さ100mmでカットした。カットした布テープを、上記で作製した加熱ロールAの上に、加熱ロールの回転方向と垂直になるように布テープを貼り付けた。その後、デジタルフォースゲージ(型式:FGC−10、日本電産シンポ(株)製)を用いて、布テープを、剥離速度20mm/秒で剥がすのに必要な力(N/50mm)の最大値を測定値とした。結果を表1に示す。
図2に示す装置を用いて、以下のようにしてポリ乳酸フィルムを作製した。
ガラス転移温度(Tg)が63℃であるL−ポリ乳酸(ヘリカルキラル高分子)のペレットを100℃で8時間乾燥した後、押出機1に供給し、220℃で溶融し、溶解した樹脂をダイス2に押出して濾過を行った。その後、得られた溶融物を220℃に保った口金のスリットより吐出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度50℃のキャスティングドラム3に巻き付けて冷却固化し、未延伸ポリ乳酸フィルムを得た。
示差走査熱量計(DSC)(製品名;Diamond DSC、パーキンエルマー社製)を用いて、L−ポリ乳酸のサンプル約5mgをアルミニウム製受け皿で、25℃から昇温速度10℃/分で昇温し、必要熱量を測定した。Tgは、得られた吸発熱曲線の樹脂のガラス転移温度を示す曲線の段差が現れる温度とした。測定結果を表1に示す。
なお、Tgは既述の方法により測定した。
なお、ロール表面の温度(T)は、任意の5点の測定値を既述の方法により測定した算術平均値である。測定結果を表1に示す。
<鉛筆硬度>
鉛筆硬度は、手かき法(旧 JIS K5400)に準じて評価をおこなった。
鉛筆(商品名:ユニ、三菱鉛筆(株)製)を用いて、加熱ロールの最表面の中央部をロール幅方向(周方向に垂直方向)にひっかき、この操作を5回繰り返した。
鉛筆硬度は、5回中、表面層の剥れが1回以上認められた鉛筆の硬さの一段下の濃度記号をとした。
鉛筆硬度9Hを最も硬いものとし、9Hで剥れが認められない場合の表面層の強度は“9Hでも剥れない“とした。鉛筆硬度の許容範囲は、5H以上であり、6H以上であることが好ましい。
上記で得られた一軸延伸ポリ乳酸フィルムの表面を目視で観察した。
有;剥離ムラの発生が見られず、良好な状態である。
無;フィルム幅方向全面に剥離ムラの発生が見られ、許容できない。
−シリコーン樹脂B−
FT−IR−ATR法による2247cm−1に対する1056cm−1のピーク強度比が異なるシリコーン樹脂Bを準備した。シリコーン樹脂Bを含む表面層のピーク強度比(Pa/Pb)が、最も高いもので1.5%であった。
−加熱ロールDの作製−
加熱ロールAの作製において、シリコーン樹脂Aの代わりにフッ素樹脂コーティング(商品名:NF−015A、日本フッソ工業(株)製)を用いた以外は、同様の操作を行って加熱ロールDを作製した。
−シリコーン樹脂C−
FT−IR−ATR法による2247cm−1に対する1056cm−1のピーク強度比が異なるシリコーン樹脂Cを準備した。シリコーン樹脂Cを含む表面層のピーク強度比(Pa/Pb)が、最も高いもので3.0%であった。
実施例1において、表1に示す加熱ロールに変更した以外、実施例1と同様の操作を行って、一軸延伸ポリ乳酸フィルムを作製した。作製した一軸ポリ乳酸フィルムの評価結果を表2に示す。
一方、ピーク強度比(Pa/Pb)が2.0を超える加熱ロールを用いた比較例2は、剥離ムラが発生していることが確認された。また、剥離強度が2N/50mmを超えていた。
また、フッ素樹脂を含む表面層を有する加熱ロールを用いた比較例1は、剥離ムラが発生していることが確認された。剥離強度が2N/50mmを超えていた。
なお、表面層を有さない加熱ロールを用いた比較例3及び4は、剥離ムラが発生していることが確認された。これは、剥離強度が2N/50mmを超えるため、加熱ロールの粘着力が高いことが要因である。
従って、本実施形態の製造方法により得られたポリエステルフィルムは、剥離ムラの発生が抑制されていることがわかった。
2 ダイス
3 キャスタードラム
4 パスロール
5a 予熱ロール
5b 延伸ロール
6 ピンチロール
7 テンター
Claims (6)
- 赤外光入射角45°の条件でフーリエ変換赤外分光減衰全反射法により求められる、2079cm−1〜2415cm−1の範囲におけるSi−Hの伸縮振動に由来する最大吸収ピーク強度Paと、1040cm−1〜1060cm−1の範囲におけるSi−O−Siの伸縮振動に由来する最大吸収ピーク強度Pbと、が下記関係式(1)を満たすシリコーン樹脂を含み、かつ、厚さが0.5μm〜3.0μmである表面層を有し、前記表面層における表面温度T(℃)が下記関係式(2)の関係を満たす加熱ロールを用いて、ポリエステルフィルムを予熱する工程と、
予熱された前記ポリエステルフィルムを延伸する工程と、
を有するポリエステルフィルムの製造方法。
Pa/Pb≦2.0 ・・・関係式(1)
Tg≦T(℃)≦(Tg+10)・・・関係式(2)
[関係式(2)中、Tgはポリエステルフィルムのガラス転移温度を示す。] - 前記表面層の鉛筆硬度が5H以上であり、
前記表面層の剥離強度が2N/50mm以下である、請求項1に記載のポリエステルフィルムの製造方法。 - 前記ポリエステルフィルムは、脂肪族ポリエステルフィルムである請求項1又は請求項2に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
- 前記脂肪族ポリエステルフィルムは、ヘリカルキラル高分子を含む請求項3に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
- 前記脂肪族ポリエステルフィルムは、ポリ乳酸系高分子を含む請求項3に記載のポリエステルフィルムの製造方法。
- 赤外光入射角45°の条件でフーリエ変換赤外分光減衰全反射法により求められる、2079cm−1〜2415cm−1の範囲におけるSi−Hの伸縮振動に由来する最大吸収ピーク強度Paと、1040cm−1〜1060cm−1の範囲におけるSi−O−Siの伸縮振動に由来する最大吸収ピーク強度Pbと、が下記関係式(1)を満たすシリコーン樹脂を含み、かつ、厚さが0.5μm〜3.0μmである表面層を有するフィルム成形用加熱ロール。
Pa/Pb≦2.0 ・・・関係式(1)
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