以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るエンジンシステム100の概略構成図である。エンジン(内燃機関)1の第1吸気通路2には、吸気流れの上流側から順に、第1エアフローメータ14と、ターボ過給機5のコンプレッサ5Aと、スロットルチャンバ(以下、「TH/C」ともいう)4と、インタークーラ6が配置されている。
TH/C4の内部にバタフライ状のスロットルバルブが配置され、スロットルバルブはスロットルモータによって駆動されるようになっている。スロットルバルブによって調量された空気は吸気マニホールド1Aによって分配され、4つの気筒の筒内1Bに流入する。図1には気筒数が4つの場合を記載しており、点火順序に従い4つの筒内1Bに空気が順次導入される。なお、気筒数が4つの場合に限定されるものでない。
図示しないが、吸気マニホールド1Aや筒内1Bに臨んで燃料噴射弁が設けられている。この燃料噴射弁を所定の時期に開くことで燃料が吸気マニホールド1Aや筒内1Bの空気中に噴射され、空気との混合気が形成される。また、筒内1Bに臨んで点火プラグが設けられている。混合気に対しこの点火プラグで点火することで混合気が燃焼する。
筒内1Bで燃焼したガスは排気マニホールド1Cからエンジン1の第1排気通路3に排出される。第1排気通路3には、排気流れの上流側から順に、ターボ過給機5のタービン5Bと、例えば三元触媒のような排気浄化装置(以下、単に「触媒」ともいう。)7と、が配置されている。第1排気通路3に出た排気は排気エネルギーが大きくなる過給域になると、ターボ過給機5のタービン5Bの回転速度を上昇させる。タービン5Bの回転速度が上昇すると、これと同軸のコンプレッサ5Aの回転速度が上昇し、筒内1Bへと導入される空気を過給する。
なお、本実施形態ではターボ過給機5を用いる場合について説明するが、これに限定されるわけではなく、例えば機械式過給機であってもよく、電動式過給機であってもよい。
エンジンシステム100は、第1排気通路3の触媒7より下流側と、第1吸気通路2のコンプレッサ5Aより上流側とを連通する排気再循環通路(以下、「EGR通路」ともいう)8を備える。EGR通路8には、EGR通路8を流れる排気を冷却するEGRクーラ9と、EGR通路8を流れる排気流量を制御するEGRバルブ(以下、「EGR/V」ともいう。)10とが配置されている。EGR通路8、EGRクーラ9及びEGR/V10を含めて「EGR装置」という。
また、エンジンシステム100は、第1吸気通路2のTH/C4より下流側と、第1吸気通路2のEGR通路8との合流部より上流側とを連通する第2吸気通路20を備える。第2吸気通路20には、吸気絞り弁としてのアドミッションバルブ(以下、「ADM/V」ともいう。)21が配置されている。ADM/V21はアクチュエータ(例えばモータ)により駆動されるようになっている。
TH/C4より下流側の第1吸気通路2と第2吸気通路20との合流部には、第2吸気通路20の内圧が第1吸気通路2の内圧よりも高くなると開弁する逆流防止弁13が配置されている。本実施形態の逆流防止弁13は、弁体が弁座シート面から直角方向に移動する形式の、いわゆるポペット式バルブである。なお、ポペット式バルブに限らず、いわゆるスイング式やウエハー式等、閉弁時に弁体が弁座シートに押し付けられる構成のものであればよい。また、逆流防止弁13は第2吸気通路20に介装されていてもよい。
第1エアフローメータ14は第1吸気通路2に流入する空気量を検出する。検出された空気量は制御部としてのコントローラ30に読み込まれる。なお、本実施形態では第1エアフローメータ14を用いるが、これに限られるわけではなく、吸入空気量を検知または推定できるものであればよい。例えばTH/C4より下流側の第1吸気通路2内の圧力とTH/C4の開度とに基づいて推定することもできる。
コントローラ30は、第1エアフローメータ14の検出値の他に、クランク角センサ16、アクセル開度センサ17等の検出値も読込む。そして、コントローラ30はこれらの検出値に基づいてTH/C4内のスロットルバルブの開度制御及びEGR/V10の開度制御や、燃料噴射弁を用いた燃料噴射制御や、点火プラグを用いた点火時期制御等を実行する。なお、コントローラ30は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ30を複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
本実施形態のEGR装置は、EGR通路8がタービン5B下流の第1排気通路3から分岐され、コンプレッサ5Aよりも上流側の第1吸気通路2に接続されている、いわゆるロープレッシャー・EGR装置(以下、LP−EGR装置ともいう)である。なお、EGR率とは、エンジン1に流入する全ガス量に対するEGRガスの割合である。また、EGRガスを再循環させる制御を「EGR制御」という。
EGRガスを第1吸気通路2に再循環させると、EGRガスが導入された分だけTH/C4内のスロットルバルブの開度を増大させることになるので、ピストンの往復動に伴うポンピングロスが低減して燃費性能が向上することが知られている。また、EGRガスを第1吸気通路2に再循環させると筒内1Bでの混合気の燃焼温度が低下して耐ノッキング性が改善されるので、ノッキング回避のための点火時期遅角量が小さくなり、燃費性能が向上することも知られている。したがって、燃費性能を向上させるためには、より広い運転領域でEGR制御を実行することが望ましい。その点、LP−EGR装置はコンプレッサ5Aよりも上流側の第1吸気通路2にEGRガスを再循環させるので、過給域であってもEGR制御を行うことが可能であり、過給機付きエンジンの燃費性能向上に適した装置といえる。
ところで、LP−EGR装置では、コンプレッサ5Aの上流側の第1吸気通路2にEGR通路8を合流させるので、EGR通路8の合流部8Aから筒内Bまでの経路長が長くなりがちである。EGR制御の実行中には、第1吸気通路2のうち、EGR通路8の合流部8Aから筒内1Bまでの経路にEGRガスが存在する。このため、EGR/V10を閉じた後も第1吸気通路2のうち、EGR通路8の合流部8Aから筒内1Bまでの経路に存在するEGRガスが筒内1Bに流入し続けることになる。また、TH/C4内のスロットルバルブを閉じたとしても、TH/C4から筒内1Bまでの経路中に存在するEGRガスが筒内1Bに流入し続ける。以下、第1吸気通路2のうち、EGR通路8の合流部8Aから筒内1Bまでの経路に存在するEGRガスを、単に「吸気系滞留EGRガス」という。
例えば、EGR制御中にアクセルペダルが戻されて、エンジン1が搭載されている車両が減速状態になると、エンジン1の要求吸入空気量は低下するので、TH/C4内のスロットルバルブを閉じる。同時に要求EGR率も低下するので、筒内1Bで必要となるEGRガス量も少なくなる。このとき、TH/C4内のスロットルバルブとEGR/V10とを単に閉方向に制御するだけでは、しばらくは車両減速状態になる前の要求EGR率に応じて導入されたEGRガスが筒内1Bに流入する。筒内1Bの実EGR率が車両減速状態における要求EGR率よりも高くなるのである。その結果、筒内1Bでの混合気の燃焼安定度が悪化し、失火にいたるおそれもある。
そこで本実施形態では、EGR制御中からの車両減速状態においても筒内1Bでの混合気の燃焼安定性を確保するために、ADM/V21とTH/C4とEGR/V10とを以下に説明するように制御する。なお、以下に説明する制御を、TH/C4とEGR/V10とを単に閉方向に制御するだけでは失火のおそれが生じる程度に要求EGR率が変化する減速状態でのみ実行するようにしてもよい。
図2は、コントローラ30が実行する第1実施形態に係る制御ルーチン1のフローチャートである。図2のフローは時間的な経過を追った処理を示すものである。後述する図5のフローと相違して、一定時間毎に繰り返し行う処理を示すものでない。
ステップS10で、コントローラ30は要求EGR率を算出する。要求EGR率は、エンジン回転速度及びエンジン負荷に対してEGR率を割り付けたマップを予め作成してコントローラ30に格納しておき、これを検索することによって算出する。上記の要求EGR率とは外部EGR率の要求値である。外部EGR率とは、筒内1Bに流入する総ガス量に対する外部EGRガス量の割合のことである。これに対して、総ガス量に対するエンジン1の排気行程で排出されずに筒内1Bに残留する既燃ガス量(内部EGRガス量)の割合を内部EGR率という。
ステップS20で、コントローラ30は要求EGR率に応じてEGR/V10の開度を制御する。EGR/V10の開度(以下、単に「EGR/V開度」という。)は、要求EGR率とEGR/V開度との関係を予めマップ化してコントローラ30に格納しておき、これを検索することにより設定する。
ステップS30で、コントローラ30はエンジンの運転条件がEGR領域からの車両減速時であるか否かを判定する。EGR領域は過給域と部分的に重なるように設定されている(後述する図6A,図6B参照)。エンジンの運転条件がEGR領域からの車両減速時であるときにはステップS40の処理を実行し、EGR領域からの車両減速時でないときにはステップS150の処理を実行する。
ステップS150でコントローラ30が実行するのは、車両加速状態、車両定速状態、または機関停止時の空気量制御及びEGR制御である。これらの制御は公知の制御内容であり、例えば、運転状態に応じてマップ検索等により要求空気量と要求EGR率とを設定し、設定した値となるようにTH/C4内のスロットルバルブの開度(以下、単に「TH/C開度」という。)とEGR/V開度を制御する。
ステップS40で、コントローラ30はエンジン1に導入されるガス全体のEGR率(以下、「エンジントータルEGR率」という。)が失火限界EGR率より大きいか否かを判定する。エンジントータルEGR率は、言い換えると、筒内1Bに流入する総ガス量に対する外部EGRガスと内部EGRガスとを合計した総EGRガス量の割合でもある。
車両減速状態では、TH/C開度が小さくなるため筒内1Bの既燃ガスが第1排気通路3へと掃気され難くなり、内部EGR率が上昇し易い。そこで、コントローラ30はエンジン運転状態や車両減速状態になる前の要求EGR率等に基づいて車両減速状態における内部EGR率を推定する。推定方法としては、予め作成したマップを検索してもよいし、予め作成した演算式で算出してもよい。
失火限界EGR率とは、失火が生じない最大のEGR率であり、本実施形態を適用するエンジン毎に実験等により予め設定しておく。
コントローラ30は、エンジントータルEGR率が失火限界EGR率より大きい場合にはステップS50の処理を実行し、失火限界EGR率以下の場合は図3のステップS160の処理を実行する。
ステップS50で、コントローラ30は第1吸気通路2内の圧力が第2吸気通路20内の圧力より低いか否かを判定し、第1吸気通路2内の圧力の方が低い場合にはステップS60の処理を実行し、そうでない場合は図4のステップS200の処理を実行する。第1吸気通路2及び第2吸気通路20のそれぞれに圧力センサを設けて、検出した圧力を比較してもよいが、ここでは、逆流防止弁13が開いているか否かで判定する。逆流防止弁13は、上述したように第1吸気通路2内の圧力が第2吸気通路20内の圧力より低くなると開弁するよう設定されているからである。
ステップS60で、コントローラ30は、エンジン1に導入されるエンジントータル空気量が車両減速状態における要求空気量となり、かつ失火が生じないように、TH/C4を通過する空気量(TH/C通過要求空気量)とADM/V21を通過する空気量(ADM/V通過要求空気量)とを設定する。車両減速状態における要求空気量(減速要求空気量)については、後述する。
ステップS40で判定したように、現在のエンジントータルEGR率では失火が生じてしまう。この失火を防止するために、第2吸気通路20を介して導入される新気で吸気系滞留EGRガスを希釈してエンジントータルEGR率を低下させる必要がある。そこで、コントローラ30は、現在のエンジントータルEGR率と失火限界EGR率とに基づいて、TH/C通過要求空気量とADM/V通過要求空気量とを設定する。これらを算出したら、コントローラ20は以下に説明するステップS70−S90と、ステップS100−S120と、を並行して実行する。
ステップS70で、コントローラ30はADM/V21の開度(以下、単に「ADM/V開度」という。)をADM/V通過要求空気量に応じて制御する。
ステップS80で、コントローラ30は、第2吸気通路20を通過する空気量(第2吸気通路内空気量)を取得する。具体的には、コントローラ30は、第1エアフローメータ14で検出した空気量と、第1吸気通路2を通過する空気量と第2吸気通路20を通過する空気量の比とに基づいて第2吸気通路内空気量を算出する。当該比は、TH/C開度及びADM/V開度に応じて定まるので、TH/C開度及びADM/V開度と当該比との関係を予め調べてマップ化しておき、コントローラ20はこれを検索する。あるいは、第2吸気通路20に設けた第2エアフローメータ15で、第2吸気通路20を通過する空気量を直接的に取得する。
ステップS90で、コントローラ30は、ADM/V通過要求空気量が第2吸気通路内空気量と等しいか否かを判定し、両者が等しくなるまでステップS70−S90の処理を繰り返す。
ステップS100で、コントローラ30は、TH/C開度をTH/C通過要求空気量に応じて制御する。
ステップS110で、コントローラ30は、第1吸気通路2を通過する空気量(第1吸気通路内空気量)を取得する。コントローラ30は、ステップS80と同様に第1吸気通路内空気量を取得する。
ステップS120で、コントローラ30はTH/C通過要求空気量が第1吸気通路内空気量と等しいか否かを判定し、両者が等しくなるまでステップS100−S120の処理を繰り返す。
ステップS90及びステップS120の処理が終了したら、コントローラ30はステップS130で車両減速要求が無くなったか否かを判定し、無くなっている場合はステップS140においてADM/V21を全開にして今回のルーチンを終了する。車両減速要求が有る場合はそのまま今回のルーチンを終了する。
上記のステップS60−S120の処理は、ステップS50で第1吸気通路2内の圧力が第2吸気通路20内の圧力より低いと判定されてから、つまり、第2吸気通路20を空気が逆流しない状態になってから行われる。これにより、第2吸気通路20内をEGRガスが逆流することなく、吸気系滞留EGRガスを希釈しつつ筒内1Bに空気を速やかに供給できる。
一方、ステップS50において第1吸気通路2内の圧力が第2吸気通路20内の圧力以上であると判定した場合に実行する図3のステップS160で、コントローラ30は最小要求空気量を設定する。ここでいう最小要求空気量とは、失火しない範囲で最も少ない空気量である。空気量が少なくなるほど筒内1Bでの混合気の燃焼は不安定になる。換言すると、筒内1Bでの空気量が多くなると失火限界EGR率も上昇する。そこで、現在のエンジントータルEGR率でも失火限界EGR率を超えないような空気量を、最小要求空気量を設定することとする。
ステップS170で、コントローラ30は最小要求空気量に応じてTH/C開度を制御する。
ステップS180で、コントローラ30はステップS110と同様に第1吸気通路内空気量を取得する。
ステップS190で、コントローラ30は最小要求空気量が第1吸気通路内空気量と同じか否かを判定し、両者が同じになるまでステップS170−S190の処理を繰り返して今回のルーチンを終了する。
加速または一定車速での走行状態から車両減速状態に遷移したら、多くの場合、まずはステップS160−S190の処理を実行することになる。そして、ステップS160−S190の処理を実行することにより、第2吸気通路20を介して供給される新気による希釈(ステップS60−S120)が行えない状態でも、失火を防止できる。
また、ステップS40でエンジントータルEGR率が失火限界EGR率以下であると判定した場合に実行する図4のステップS200で、コントローラ30は減速要求空気量を算出する。ここで、減速要求空気量について説明する。減速要求空気量とは、車両減速状態におけるエンジン1の要求空気量である。いわゆるフューエルカットを実行する車両減速状態であれば、エンジン1の要求空気量はゼロになる。しかし、車両減速状態になる前の運転状態によってはフューエルカットによりトルクショックが発生する場合もある。また、急激にフューエルカットを実行すると、エンジン1が惰性で回転することで触媒7に空気が供給されてしまうので、フューエルカットから復帰したときにNOx排出量の増大を招来する。そこで、トルクショックの抑制やNOx排出量の抑制のために、車両減速状態になった後もすぐにはフューエルカットを開始せずに、徐々に空気量を低減させながらエンジン1を稼働させることがある。
また、例えば高速道路において本線への合流後にアクセル開度を減少させた場合等には、エンジン1が稼働したままで車両減速状態となる。
上記のようなエンジン1が稼働したままで車両減速する場合には、エンジン1で燃焼を行いつつも、エンジン回転速度を低下させる必要がある。つまり、エンジン1の出力をフリクションに打ち勝つ事が出来ない程度の大きさに制御する必要がある。このときの要求空気量が減速要求空気量である。
ステップS210で、コントローラ30は減速要求空気量に応じてTH/C開度を制御する。
ステップS220で、コントローラ30はステップS110と同様に第1吸気通路内空気量を取得する。
ステップS230で、コントローラ30は減速要求空気量が第1吸気通路内空気量と同じか否かを判定し、両者が同じになるまでステップS200−S230の処理を繰り返して今回のルーチンを終了する。
このように、第2吸気通路20、ADM/V21、逆流防止弁13を追加することにより、EGR制御中からの車両減速時に、第2吸気通路20を介して筒内1Bに流入する吸気系滞留EGRガスを、第2吸気通路20からの新気によって希釈することができる。
ここまでは、吸気系滞留EGRガスの全てが筒内1Bに導入されることを前提とした対策であった。
次に、吸気系滞留EGRガスを、筒内1Bをバイパスして、つまり吸気系滞留EGRガスを筒内1Bに流さないようにすることを考える。このようなものとして、コンプレッサとスロットルバルブとの間の吸気通路を大気に解放する大気開放管と、大気開放管に設けた大気解放バルブと、を備え、減速時に大気開放バルブを開方向へ制御する従来装置がある。この従来装置では、大気開放管の出口を触媒下流の排気通路に接続してもよいが、配置スペース上の制約やコスト上の制約から、大気開放管の出口を直接大気に開放することが望ましいとしている。このため、従来装置には大気開放管の出口を触媒の下流の排気通路に接続した場合に、大気開放バルブの制御方法について開示がない。
一方、本実施形態では、図1に示したように、コンプレッサ5A下流の第1吸気通路2から分岐してタービン5B下流の第1排気通路3に合流する通路を、第2排気通路18として追加して設ける。第2排気通路18には常閉の流量制御弁19を設ける。流量制御弁19はアクチュエータ(例えばモータ)により駆動する。以下、第2排気通路18の第1吸気通路2からの分岐部を、「第2排気通路の分岐部」あるいは単に「分岐部」ともいう。また、排気通路18の第1排気通路3への合流部を、「第2排気通路の合流部」あるいは単に「合流部」ともいう。図1では流量制御弁19を第2排気通路18の途中に設けているが、この場合に限定されるものでない。例えば、分岐部18Aや合流部18Bに流量制御弁19を設けてもかまわない。
さて、EGR制御中からの車両減速時に上記の流量制御弁19を開くだけでは、触媒7下流の排気が合流部18Bから分岐部18Aへと第2排気通路18を流れ、コンプレッサ5A下流の第1吸気通路2に流入することがある。これは、圧力差があるときに、つまり圧力の高い側から圧力の低い側へとガスが流れるので、合流部18Bの圧力ほうが分岐部18Aの圧力より高いときには、合流部18Bから分岐部18Aに向けて第2排気通路18をガスが流れるためである。ここでは、第2排気通路18をガスが分岐部18Aから合流部18Bに向けて流れる流れを順方向とする。このため、上記のように、ガスが合流部18Bから分岐部18Aに向けて第2排気通路18を流れることを「逆流する」ともいう。
逆流することによって第1吸気通路2に流入する触媒7下流の排気もEGRガスである。EGR制御中からの車両減速時に、第2排気通路18を逆流することによって触媒7下流の排気がEGRガスとしてコンプレッサ5A下流の第1吸気通路2に導入されるのでは、筒内1Bの燃焼状態が悪化する。EGR制御中からの車両減速時には吸気系滞留EGRガスの流入によって筒内1Bの燃焼状態が悪化するというのに、触媒7下流からのEGRガスが加わるのでは、筒内1Bの燃焼状態が一段と悪化し、失火の事態が生じ得る。
こうした事態を防ぐためには、EGR制御中からの車両減速時に、分岐部18Aの圧力が合流部18Bの圧力より低いときに流量制御弁19を全閉状態とし、分岐部18Aの圧力が合流部18Bの圧力より高いときに流量制御弁19を開くこととすればよい。さらに述べると、EGR制御が、特に過給域で行われている状態からの車両減速時であれば、車両減速によってTH/C4内のスロットルバルブが閉じられたからといってタービン5Bの回転速度が即座にゼロに向かいタービン5Bの回転が停止されるものでない。以下、EGR制御が過給域で行われている状態からの車両減速時を、「過給域かつEGR領域からの減速時」という。あるいは、単に「減速時」ともいう。
過給域かつEGR領域からの減速時に、減速開始タイミングからしばらくの間はタービン5Bと連れ回れるコンプレッサ5Aが慣性で回転して過給を実行する。このため、過給域かつEGR領域からの減速直後にはコンプレッサ5A下流の第1吸気通路2の圧力(過給圧)が高いままに維持され、タービン5B下流の第1排気通路3の排気圧より高くなることがある。この場合には、コンプレッサ5A下流で高いままに維持される過給圧と、タービン5B下流の第1排気通路3の排気圧との差圧を用いて、吸気系滞留EGRガスを、筒内1Bに向けてではなく、タービン5B下流の第1排気通路3に向けて流すことができる。
図1に示したように、コンプレッサ5AとTH/C4の間の第1吸気通路2に、第2排気通路18の分岐部18Aを設けることが好ましい。これは、次の理由による。すなわち、過給域かつEGR領域からの減速時にはTH/C4内のスロットルバルブが閉じられるので、コンプレッサ5A下流の第1吸気通路2のうち、コンプレッサ5AからTH/C4の間の第1吸気通路2の圧力(過給圧)が特に高くなる。このとき、この高くなった圧力に耐えてTH/C開度をスロットルバルブの駆動機構とアクチュエータが維持しようとするため、スロットルバルブの駆動機構とアクチュエータに大きな負荷が作用する。また、吸気系滞留EGRガスを含んだ吸気がコンプレッサ5Aに向かって逆流すれば、コンプレッサのブレード(以下、「コンプレッサブレード」ともいう。)を破損する可能性がある。この場合に、分岐部18Aがコンプレッサ5AとTH/C4の間の第1吸気通路2にあれば、減速時に流量制御弁19を開くことでコンプレッサ5AとTH/C4の間の第1吸気通路2の圧力を第2排気通路18に逃すことができるためである。これによって、スロットルバルブの駆動機構とアクチュエータ(以下、「スロットルバルブ駆動機構等」という。)の作動不良やコンプレッサブレードの破損を防止することができる。
また、図1に示したように、触媒7下流の第1排気通路3に第2排気通路18の合流部18Bを設けることが好ましい。これは、次の理由による。すなわち、第2排気通路18の合流部18Bを、タービン5Bと触媒7の間の第1排気通路3に設ける場合には、吸気系滞留EGRガスを触媒7に導くものとなる。EGRガスをEGRクーラ9によって冷却しているため、吸気系滞留EGRガスは低温であり、この低温のガスを触媒7の上流に導いたのでは、触媒7を活性化温度未満にまで冷却してしまう可能性がある。一方、触媒7下流に合流部18Bを設けておけば、吸気系滞留EGRガスによる触媒7の冷却を回避することができるためである。
ここでは、特に過給域かつEGR領域からの減速直前に、EGR弁10から筒内1Bまでの経路全体に吸気系滞留EGRガスが存在する場合を考える。もちろん、減速直前に、EGR弁10から筒内1Bまでの経路に部分的に吸気系滞留EGRガスが存在する場合であってよい。しかしながら、過給域かつEGR領域からの減速時に筒内1Bの燃焼状態を最も悪化させるのは、減速直前に、EGR弁10から筒内1Bまでの経路全体に吸気系滞留EGRガスが存在する場合であるので、この場合を取り上げる。
上記場合に、過給域かつEGR領域からの減速時となって流量制御弁19を開けば、吸気系滞留EGRガスのうちEGR弁10から分岐部18Aまでの経路に存在するEGRガスは、分岐部18Aから第2排気通路18に入って流れる。一方、吸気系滞留EGRガスのうち分岐部18Aから筒内1Bまでの経路に存在するEGRガスは、第2排気通路18に入ることなく、そのまま筒内1Bに向けて流れる。過給域かつEGR領域からの減速直前に、吸気系滞留EGRガスがEGR弁10から筒内1Bまでの経路の全てに存在する場合には、吸気系滞留EGRガスの流れが2つに分配されるわけである。以下、過給域かつEGR領域からの減速時に吸気系滞留EGRガスのうちEGR弁10から分岐部18Aまでの経路に存在するEGRガスを「分岐部上流滞留EGRガス」という。また、過給域かつEGR領域からの減速時に吸気系滞留EGRガスのうち分岐部18Aから筒内までの経路に存在するEGRガスを、「分岐部下流滞留EGRガス」という。
なお、分岐部上流滞留EGRガスのうちには分岐部下流の第1吸気通路2へと流れる分がある。また、分岐部下流滞留EGRガスのうちにもTH/C4内のスロットルバルブに堰き止められて分岐部18Aへと逆流し、第2排気通路18へ掃気される分がある。これらの分は僅かであるため、ここでは考えない。
過給域かつEGR領域からの減速時に流量制御弁19を開くことで、第2排気通路18を流れる分岐部上流滞留EGRガスは、合流部18Bから触媒7下流の第1排気通路3に入り、第1排気通路3の下流へと流れる。このように、分岐部上流滞留EGRガスが、第2排気通路18を介して、触媒7下流の第1排気通路3へ流れることを分岐部上流滞留EGRガスが「掃気される」ともいう。
分岐部上流滞留EGRガスが第2排気通路18を介して掃気されるためには、分岐部18Aの過給圧から合流部18Bの排気圧を差し引いた値が正となることが必要である。以下、分岐部18Aの過給圧から合流部18Bの排気圧を差し引いた値を「吸排気圧力差」ともいう。
上記の吸排気圧力差は、過給域かつEGR領域からの減速時に正に必ずなるわけでない。例えば、過給域かつEGR領域からの減速時に吸排気圧力差がゼロまたは負になる異常な状態について考える。ここで、異常な状態とは、第1吸気通路2と第1排気通路3の圧力バランスが何かの影響で崩れていることをいう。
異常な状態として、例えば第1排気通路3の下流端にマフラーが設けられるが、このマフラーに異物が詰まっている事態が考えられる。こうした異常な状態が車両に生じているときには、車両の定速状態でも第1排気通路3の排気圧がマフラーに異物が詰まっていない場合より高くなる。このときの合流部18Bの排気圧が分岐部18Aの過給圧と等しいか高いと、過給域かつEGR領域からの減速時に吸排気圧力差がゼロまたは負になる。また、車両の環境条件である大気圧が、海岸近くにある低地より大きく低下する高地においては、車両の定速状態でも第1吸気通路2の過給圧が低地より低くなる。このときの分岐部18Aの過給圧が合流部18Bの排気圧と等しいか低いと、過給域かつEGR領域からの減速時に吸排気圧力差がゼロまたは負になる。こうした異常な状態が生じている場合においても、過給域かつEGR領域からの減速時に吸排気圧力差が正であることを確認することなく流量制御弁19を開いたのでは、EGRガスが第2排気通路18を合流部18Bから分岐部18Aへと逆流する。EGRガスが逆流することを許してしまうと、筒内1Bでの燃焼状態が悪化し、失火する事態になりかねない。
上記の異常な状態が車両に生じる可能性や車両を取り巻く環境条件の相違に対処するには、吸排気圧力差を実際に検出することである。そこで、本実施形態では、吸排気圧力差が正で生じているか否かを判定するため、分岐部18Aの過給圧と合流部18Bの排気圧を検出する圧力センサを別々に設ける。具体的には、分岐部18Aでなく、分岐部18Aより下流側にあるインタークーラ6下流の第1吸気通路2に過給圧センサ11(過給圧検出・推定装置)を設けている。同様に、合流部18Bでなく、合流部18Bより上流側にあるタービン5Bと触媒7の間の第1排気通路3に排気圧センサ12(排気圧検出・推定装置)を設けている。
なお、本実施形態は、圧力センサ11,12を設ける場合に限られるものでない。上記の異常な状態が車両に生じる可能性や車両を取り巻く環境条件の相違に対処するのでなければ、例えば、エンジンの運転条件に基づいて、インタークーラ6下流の第1吸気通路2の圧力と、タービン5Bと触媒7の間の第1排気通路3の圧力を推定する場合であってよい。
分岐部18Aと過給圧センサ11の取付位置との間にはTH/C4とインタークーラ6が存在し、これらが通気抵抗となる。このため、分岐部18Aの過給圧と過給圧センサ11により検出される過給圧とは厳密には異なるのであるが、ここでは、過給圧センサ11により検出される過給圧を分岐部18Aの過給圧の代用値として用いる。
同様に、合流部18Bと排気圧センサ12の取付位置との間には触媒7が存在し、これが通気抵抗となる。このため、合流部18Bの排気圧と排気圧センサ12により検出される排気圧とは厳密には異なるのであるが、ここでは、排気圧センサ12により検出される排気圧を合流部18Bの排気圧の代用値として用いる。
コントローラ30では、過給域かつEGR領域からの減速時に吸排気圧力差が正となる間、流量制御弁19を開く方向に制御する。
ここで、過給域かつEGR領域からの減速時は過給域からの車両減速時とEGR領域からの車両減速時の組み合わせであるので、次には過給域からの車両減速時であるか否かやEGR領域からの車両減速時であるか否かを判定する方法を吟味する。
まず、エンジンの運転領域に基づいて、過給域からの車両減速時であるか否かを判定する方法が考えられる。例えば、車両減速前にエンジンの運転点が過給域にあり、車両減速直後に運転点が過給域または非過給域にある場合に過給域からの車両減速時であると判定するのである。しかしながら、この方法では、誤判定が生じることがある。というのも、エンジンには製作バラツキや経時劣化に起因して、図6Aに示したマップ上の運転点とエンジンの実際の運転点がずれることがあるためである。例えば、図6Aに示したマップによれば、エンジンの運転点が過給域のうち非過給域に隣接する運転点にあるとコントローラ30が認識していても、エンジンの製作バラツキや経時劣化によりエンジンの実際の運転点が非過給域のうち過給域に隣接していることが有り得る。このとき、実際の運転点は非過給域にあるのに、過給域にあるとコントローラ30が誤判定する。この逆に、図6Aに示したマップによれば、非過給域のうち過給域に隣接する運転点にあるとコントローラ30が認識していても、エンジンの製作バラツキや経時劣化により実際の運転点が過給域のうち非過給域に隣接していることが有り得る。このとき、実際の運転点は過給域にあるのに、非過給域にあるとコントローラ30が誤判定する。このように、運転領域の誤判定に基づいて過給域からの車両減速時であるか否かを判定するのでは、判定精度が低下してしまう。
そこで本実施形態では、まず要求EGR率に基づいて、EGR領域からの車両減速時であるか否かを判定する。すなわち、要求EGR率が減少しかつ要求EGR率の所定時間当たりの減少量が所定値以上のときに、EGR領域からの車両減速時であると判定する。また、エンジンの運転領域に基づいて過給域からの車両減速時であるか否かを判定することはせず、吸排気圧力差が正である場合に過給域からの車両減速時であると判定する。これら2つの判定結果を組み合わせて、つまりEGR領域からの車両減速時であり、かつ吸排気圧力差が正である場合に、過給域かつEGR領域からの減速時であると判定するのである。本実施形態では、運転領域に基づいて過給域からの車両減速時であるか否かを判定することはしないので、上記のように運転領域に基づいて過給域からの車両減速時であるか否かを判定する場合の誤判定を回避することができる。
図5はコントローラ30が実行する第1実施形態に係る制御ルーチン2のフローチャートである。図5のフローは、流量制御弁19の目標制御弁開度を算出するためのもので、図2のフローとは別個に一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
ステップS300で、コントローラ30は、過給域かつEGR領域(図5では「過給&EGR域」で略記。)からの減速フラグをみる。過給域かつEGR領域からの減速フラグ(以下、単に「減速フラグ」という。)はエンジンの始動時にゼロに初期設定されている。ここでは、減速フラグ=0であるとしてステップS310に進む。
ステップ310で、コントローラ30は、要求EGR率を算出する。ここでの処理は図2のステップS10と同様である。すなわち、要求EGR率は、エンジン回転速度及びエンジン負荷に対して要求EGR率を割り付けたマップを予め作成してコントローラ30に格納しておき、これを検索することによって算出する。上記の要求EGR率とは外部EGR率の要求値である。外部EGR率とは、筒内1Bに流入する総ガス量に対する外部EGRガス量の割合のことである。これに対して、総ガス量に対するエンジン1の排気行程で排出されずに筒内1Bに残留する既燃ガス量(内部EGRガス量)の割合を内部EGR率という。これらの外部EGR率、内部EGR率については図2のステップS10で前述した。
次に、ステップS320で、コントローラ30は要求EGR率が減少しかつ要求EGR率の所定時間当たりの減少量が所定値以上であるか否かをみる。これは、EGR領域からの車両減速時であるか否かを直接的に判定する部分である。要求EGR率が増加しているときや要求EGR率が一定であるときには、コントローラ30はEGR領域からの車両減速時でないと判断する。このときには、ステップS450,S460に進み、減速フラグ=0とし、目標制御弁開度にゼロを入れる。
また、要求EGR率が減少しているものの、要求EGR率の所定時間当たりの減少量が所定値未満であるときにも、コントローラ30はEGR領域からの車両減速時でないと判断し、ステップS450,S460に進み、ステップS450,S460の処理を実行する。ステップS320で「要求EGR率の所定時間当たりの減少量が所定値以上である」ことを追加しているのは、次の理由による。すなわち、EGR領域からの車両減速時には緩やかな車両減速時から急な車両減速時までが含まれる。吸気系滞留EGRガスが筒内1Bに流れ込むことに伴う失火の影響が大きいのは減速の程度がある程度大きい場合である。そこで、失火の影響が小さい緩やかな車両減速時を除くため、要求EGR率の所定時間当たりの減少量(つまり減速の程度)が所定値以上となる条件を追加したものである。
一方、ステップS320で要求EGR率が減少しかつ要求EGR率の所定時間当たりの減少量が所定値以上であるときに、コントローラ30はEGR領域からの車両減速時であると判断し、ステップS330に進む。以下、要求EGR率が減少しかつ要求EGR率の所定時間当たりの減少量が所定値以上のときを、単に「要求EGR率が減少しその減少量が所定値以上のとき」ともいう。
ステップS330で、コントローラ30は、吸排気圧力差(つまり分岐部18Aの過給圧から合流部18Bの排気圧を差し引いた値)が正であるか否かをみる。上記の過給圧は過給圧センサ11により検出する。上記の排気圧は排気圧センサ12により検出する。過給圧センサ11により検出される過給圧は、前述したように分岐部18Aの過給圧の代用値である。排気圧センサ12により検出される排気圧は前述したように合流部18Bの排気圧の代用値である。
EGR領域からの車両減速時には、
〔1〕EGR領域からの車両減速時であると共に過給域からの車両減速時である場合と、〔2〕EGR領域からの車両減速時ではあるが非過給域からの車両減速時である場合と
が含まれる。ステップS330で吸排気圧力差がゼロまたは負であるときに、コントローラ30は、上記〔2〕のEGR領域からの車両減速時であるが非過給域からの車両減速時であると判断する。EGR領域からの車両減速時であっても非過給域からの車両減速時には、流量制御弁19を開いても吸気系滞留EGRガスが掃気されることがないばかりか、第2排気通路18を介して合流部18Bから分岐部18AへとEGRガスが逆流する事態があり得る。こうした事態を回避するため、吸排気圧力差がゼロまたは負であるときにはステップS450,S460に進み、減速フラグ=0とし、目標制御弁開度にゼロを入れる(流量制御弁19を全閉とする)。
一方、ステップ330で吸排気圧力差が正であるときに、コントローラ30は、上記〔1〕のEGR領域からの車両減速時であると共に過給域からの車両減速時である(つまり過給域かつEGR領域からの減速時である)と判断する。これは、吸排気圧力差が正であることより、減速の直前に過給が行われていたことが推定されるためである。このように過給域かつEGR領域からの減速時であると判断されるときには、ステップS340に進み減速フラグ=1とする。減速フラグ=1により、過給域かつEGR領域からの減速時であることを表すのである。
エンジンの回転速度Neとエンジン負荷をパラメータとするエンジンの運転領域を図6Aと図6Bに示す。図6Aと図6Bは同じエンジンの運転領域図である。図6Aと図6Bにおいて水平方向に走る一点鎖線のラインが、筒内1Bが大気圧となるときのラインである。ターボ過給機5が過給を行う領域である過給域はこの大気圧のラインよりエンジン負荷の大きい側の運転域である。ターボ過給機5が過給を行わない領域である非過給域(自然吸気領域)は大気圧のラインよりエンジン負荷の小さい側の運転域である。一方、EGR領域は、破線で囲った領域で、全運転域のほぼ中央に設けられている。EGR領域の外側の領域が非EGR領域である。この結果、過給域かつEGR領域(図では「過給&EGR域」で略記。)は図6Aと図6Bにおいてはハッチングした領域となる。
さらに、図6Aと図6Bにおいてエンジンの低負荷側にエンジントルクが負となる領域(以下「エンジントルク負領域」という。)を示している。エンジントルク負領域とは、車両の減速時に車両の有する駆動系がエンジンを強制的に連れ回すことによってエンジンブレーキが作用する領域、つまりエンジンがトルクを出力するのではなくて、逆にトルクを与えられる領域のことである。
図6Aに上記〔1〕の過給域かつEGR領域からの減速時(図6Aでは「過給&EGR域からの減速時」で略記。)を例示すると、次の4つの場合がある。
(1)過給域かつEGR領域からの減速で車両減速直後の運転点が過給域かつEGR領域にとどまる場合、
(2)過給域かつEGR領域からの減速で車両減速直後の運転点が非過給域かつEGR領域に移行する場合、
(3)過給域かつEGR領域からの減速で車両減速直後の運転点が非過給域かつ非EGR領域であってエンジントルク負領域にまでは移行しない場合、
(4)過給域かつEGR領域からの減速で車両減速直後の運転点が非過給域かつ非EGR領域であってエンジントルク負領域にまで移行する場合、
上記(1)の場合から説明すると、車両の定常走行状態でエンジンの運転点が図6Aにおいて過給域かつEGR領域に含まれるR1点にあったとする。このR1点の運転状態からアクセルペダルを戻すことによって車両を減速させたとき、エンジンの運転点がR1点から、過給域かつEGR領域にあるR2点へと移行したとする。このように過給域かつEGR領域内でのR1点からR2点への過渡的な移行が上記(1)の場合である。
上記(2)は、R3点からR4点に移行する場合のように、車両減速直前の運転点(R3点)が過給域かつEGR領域にあり、車両減速直後の運転点(R4点)が非過給域かつEGR領域にある場合である。上記(3)は、R5点からR6点に移行する場合のように、車両減速直前の運転点(R5点)が過給域かつEGR領域にあり、車両減速直後の運転点(R6点)が非過給域かつ非EGR領域であってエンジントルク負領域にない場合である。上記(4)は、R7点からR8点に移行する場合のように、車両減速直前の運転点(R7点)が過給域かつEGR領域にあり、車両減速直後の運転点(R8点)が非過給域かつ非EGR領域であってエンジントルク負領域にある場合である。
また、図6Bに上記〔2〕の過給域でないEGR領域からの車両減速時(図6Bでは「非過給&EGR域からの減速時」で略記。)を例示すると、次の4つの場合がある。
(5)EGR領域からの車両減速で減速直後の運転点がEGR領域にとどまる場合、
(6)EGR領域からの車両減速で減速直後の運転点が非EGR領域のうちエンジントルク負領域でない領域に移行する場合、
(7)EGR領域からの車両減速で減速直後の運転点が非EGR領域のうちエンジントルク負領域に移行する場合、
(8)EGR領域からの車両減速で減速直後の運転点が非EGR領域のうち逆流領域に移行する場合、
上記(5)の場合から説明すると、車両の定常走行状態でエンジンの運転点が図6Bにおいて非過給域かつEGR領域に含まれるR9点にあったとする。このR9点の運転状態からアクセルペダルを戻すことによって車両を減速させたとき、エンジンの運転点がR9点から、非過給域かつEGR領域にあるR10点へと移行したとする。このように非過給域かつEGR領域内でのR9点からR10点への過渡的な移行が上記(5)の場合である。
上記(6)は、R11点からR12点に移行する場合のように、車両減速直前の運転点(R11点)が非過給域かつEGR領域にあり、車両減速直後の運転点(R12点)が非EGR領域のうちエンジントルク負領域でない領域にある場合である。上記(7)は、R13点からR14点に移行する場合のように、車両減速直前の運転点(R13点)が非過給域かつEGR領域にあり、車両減速直後の運転点(R14点)が非EGR領域のうちエンジントルク負領域にある場合である。上記(8)は、R15点からR16点に移行する場合のように、車両減速直前の運転点(R15点)が非過給域かつEGR領域にあり、車両減速直後の運転点(R16点)が非EGR領域のうち逆流領域にある場合である。
図6Bに示した上記の逆流領域について説明する。LP−EGR装置では、EGR通路8の吸気通路2への合流部8AとEGR通路の第1排気通路3からの分岐部8Bの間に圧力差が生じ、合流部8Aの圧力が分岐部8Bの圧力より低い場合にEGRガスが第1吸気通路2へと導入される。この場合に、図6Bに二点鎖線で囲った低回転速度低負荷側の領域において、分岐部8Bの圧力が合流部8Aの圧力より低くなるエンジンが存在する。このエンジンでは、当該領域においてEGRバルブ10を開いていると、EGRガスが合流部8Aから分岐部8BへとEGR通路8を逆流する。このようにEGRガスが合流部8Aから分岐部8BへとEGR通路8を逆流する領域が、上記の逆流領域のことである。全ての仕様のエンジンに逆流領域が存在するのではなく、一部の仕様のエンジンにおいてのみ逆流領域が存在する。逆流領域のあるエンジン仕様であるか否かは実験やシミュレーションにより知り得る。本実施形態は逆流領域を有する仕様のエンジンを対象としている。なお、逆流領域を有する仕様のエンジンを対象としている場合に限定されるわけでない。逆流領域を有さない仕様のエンジンを対象とする場合にも本発明の適用がある。
なお、EGR領域の形状や位置は図6A,図6Bの場合に限られるものでない。図6Aにおいて(1)〜(4)の場合の車両減速時の移行を示す線が全て平行であるように記載したが、これはあくまでモデルとして記載したもので、この場合に限られるものでない。同様に、図6Bにおいて(5)〜(8)の場合の車両減速時の移行を示す線が全て平行であるように記載したが、これもあくまでモデルとして記載したもので、この場合に限られるものでない。図6Bでは、逆流領域とEGR領域とが離れているエンジン仕様のものであるが、逆流領域とEGR領域の一部とが重なっているエンジン仕様のエンジンもある。このエンジンでは、EGR領域かつ逆流領域からの減速時が有り得る。こうしたエンジンにも本発明の適用がある。
コントローラ30は、過給域かつEGR領域からの減速時であれば、流量制御弁19を開くことで分岐部上流滞留EGRガスが第2排気通路18を介して掃気されると判断し、ステップS340に進み減速フラグ=1とする。このとき、減速フラグがゼロから1に切換わるので、コントローラ30は図示しないタイマを起動する。このタイマは、減速フラグがゼロから1に切換わったタイミングよりの経過時間を計測するものである。
ステップS350,S360はコントローラ30が過給域かつEGR領域からの減速時が判定されたタイミングで流量制御弁19をステップ的に開く部分である。これは、過給域かつEGR領域からの減速時であれば、流量制御弁19を開くことで分岐部上流滞留EGRガスが第2排気通路18を介して掃気されるためである。
まず、ステップS350で、コントローラ30は吸排気圧力差(センサ11により検出される過給圧からセンサ12により検出される排気圧を差し引いた値)から、図7を内容とするテーブルを検索することにより、目標制御弁開度の初期値を算出する。ステップS360ではこの初期値を目標制御弁開度に入れる。本実施形態では、流量制御弁開度がゼロのとき流量制御弁19が全閉位置に、流量制御弁開度が最大のとき流量制御弁19が全開位置になるものとする。目標制御弁開度に初期値を入れることで、流量制御弁19がステップ的に開かれる。
目標制御弁開度の初期値は図7に実線で示したように、吸排気圧力差が正で大きくなるほど、大きくなる値(正の値)である。これは、吸排気圧力差と第2排気通路18に流れるガス流量が比例し、そのガス流量と流量制御弁19の有効開口面積が比例するので、吸排気圧力差が正で大きいほど、第2排気通路18に流れる分岐部上流滞留EGRガスの流量を多くすることができるためである。
図7では実線で示したように目標制御弁開度の初期値の特性を直線で与えているが、破線で示したように二次曲線で与える場合であってよい。
本実施形態では、流量制御弁19をバタフライ弁で構成している。このため、吸気圧力差に応じて流量制御弁19の目標有効開口面積を求め、この目標有効開口面積を目標制御弁開度の初期値へと変換するようにしている。これは、流量制御弁19がバタフライ弁の場合、有効開口面積と制御弁開度がリニヤの関係にないので、目標有効開口面積が得られるように目標制御弁開度の初期値を定める必要があるためである。なお、流量制御弁19がバタフライ弁の場合に限定されるものでない。
さて、図5のフローでは流量制御弁19を開く条件として、過給域かつEGR領域からの減速時であること、吸排気圧力差が正であることの2つを要件として記載するのみである(ステップS320,S330参照)。しかも、エンジントータルEGR率が失火限界EGR率を超えることを判定することなく、過給域かつEGR領域からの減速時であることが判定されたタイミングで流量制御弁19をステップ的に開いている(ステップS320,S330,S350,S360参照)。
しかしながら、本実施形態では、エンジントータルEGR率が失火限界EGR率を超えることをも実質的に要件としている。これについて説明すると、本実施形態の対象とするエンジンでは、車両の定常走行の条件において筒内1Bの混合気が失火しない範囲で要求EGR率を相対的に大きく設定している。これは要求EGR率を大きくするほど燃費が良くなるためである。ここで、車両の定常走行の条件において筒内1Bの混合気が失火しない範囲で要求EGR率を相対的に大きく設定するエンジン仕様を、以下「エンジン仕様1」とする。そして、エンジン仕様1のエンジンでは、過給域かつEGR領域からの減速を判定したタイミングからエンジントータルEGR率(エンジンに導入されるガス全体のEGR率)が急激に立ち上がって、失火限界EGR率を超える場合が殆どである、とする。過給域かつEGR領域からの減速時に、エンジントータルEGR率が失火限界EGR率を超えない場合もまれにあり得るが、この場合は無視する。すると、本実施形態では、過給域かつEGR領域からの減速時にエンジントータルEGR率が急激に立ち上がって、失火限界EGR率を超えることが確実であるといえる。過給域かつEGR領域からの減速時に失火限界EGR率を超えることが確実であるのであれば、エンジントータルEGR率が失火限界EGR率を上回ったか否かを判定することは必要ない。そこで、過給域かつEGR領域からの減速時にはエンジントータルEGR率が失火限界EGR率を必ず上回るものとみなして、流量制御弁19をステップ的に開くのである。
エンジン仕様1のエンジンにおいても、エンジントータルEGR率が失火限界EGR率を超えたか否かを判定する処理ステップを図5のステップ330の次に追加することができる。しかしながら、過給域かつEGR領域からの減速を判定したタイミングでコントローラ30が流量制御弁19のアクチュエータに開信号を出力したとしても、信号処理に所定の時間がかかる。また、アクチュエータが実際に駆動するまでにも所定の応答時間を要する。これら2つの時間が遅れとなり、過給域かつEGR領域からの減速を判定したタイミングで流量制御弁19を実際に開くことができない。流量制御弁19を開くのが遅れて、エンジントータルEGR率が失火限界EGR率を超えてしまうのでは、第2排気通路18と流量制御弁19を設けた意味がない。
そこで、本実施形態では、過給域かつEGR領域からの減速を判定したタイミングで初期値を算出し(ステップS320,S330,S350,S360参照)、この初期値で流量制御弁19をステップ的に開くよう流量制御弁アクチュエータに指示するのである。これによって、減速を判定したタイミングで、エンジントータルEGR率が急激に立ち上がって失火限界EGR率を超えることが確実であるエンジン仕様のエンジンを対象として、流量制御弁19を予め開くことが可能となっている。流量制御弁19を予め開くことで、エンジントータルEGR率が急激に立ち上がって失火限界EGR率を超える前に、あるいは失火限界EGR率に到達するとほぼ同じタイミングで流量制御弁19を実際に開くことが可能となり、失火を確実に防ぐことができる。
上記のように、本実施形態では、エンジン仕様1のエンジンを対象としているために、図5のフローにおいて、エンジントータルEGR率と失火限界EGR率とを比較するステップを設けていない。一方、図2のフローでは、エンジントータルEGR率と失火限界EGR率とを比較するステップS40を設けている。これは、もともと図2のフローが、エンジン仕様1のエンジンを対象とするものでなく、後述するエンジン仕様2のエンジンを対象としているためである。従って、エンジン仕様1のエンジンを対象として、図5のフローと図2のフローを組み合わせて用いるときには、図2のステップS40の処理を削除し、代わりに図5のステップS330の処理を追加することが望ましい。これによって、過給域かつEGR領域からの減速時に、吸排気圧力差が正であれば、即時にTH/C通過要求空気量とADM/V通過要求空気量とを算出させるのである。なお、後述するエンジン仕様2のエンジンを対象とするときには図2のフローのままでかまわない。
図5のフローに戻る。ステップS340での減速フラグ=1より、次回にはステップS300で減速フラグ=1となる。このときにはステップS370以降に進む。ステップS370で、コントローラ30は、前回は減速フラグ=1であったか否かをみる。前回は減速フラグ=1であった、つまり今回、前回とも減速フラグ=1であるときには、過給域かつEGR領域からの減速が続いていると判断し、ステップS380以降に進む。
ステップS380〜S420は過給域かつEGR領域からの減速が続いているときの処理である。まず、ステップS380で、コントローラ30は上記のタイマ値(減速フラグがゼロから1に切換わったタイミングよりの経過時間)と一定時間を比較する。一定時間は過給域かつEGR領域からの減速が継続すると考えられる時間である。一定時間は、例えば吸排気圧力差が正からゼロまたは負に切換わるタイミング(後述する)より後に、一定時間が経過するように、適合により定めておく(図8第2段目参照)。上記のタイマ値が一定時間未満であれば減速フラグがゼロから1に切換わったタイミングより、一定時間がまだ経過していないと判断し、ステップS390に進む。
ステップS390で、コントローラ30は吸排気圧力差(センサ11により検出される過給圧からセンサ12により検出される排気圧を差し引いた値)がゼロ以下になったか否かを判定する。吸排気圧力差がゼロ以下になっていなければ、まだ分岐部上流滞留EGRガスが第2排気通路18を介して掃気されると判断し、ステップS400〜S420に進む。
ステップS400〜S420は、コントローラ30が、過給域かつEGR領域からの減速が続いているときに目標制御弁開度を初期値より徐々に小さくし、最終的にゼロにする部分である。まずステップS400で、コントローラ30は前回の目標制御弁開度から所定値を差し引いた値を今回の目標制御弁開度とする。所定値(正の値)は目標制御弁開度の減少割合を定める値で、所定値を相対的に大きくすると目標制御弁開度が急激に小さくなり、所定値を相対的に小さくすると目標制御弁開度がゆっくりと小さくなる。
また、所定値は、流量制御弁19が開いている期間を定める値で、所定値を相対的に大きくすると流量制御弁19が開いている期間が短くなり、所定値を相対的に小さくすると流量制御弁19が開いている期間が長くなる。流量制御弁19を開くのは、吸排気圧力差を利用し、第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを掃気するためである。言い換えると、分岐部上流滞留EGRガスを掃気できるのは、吸排気圧力差が正の値である間だけである。このため、吸排気圧力差がゼロとなったときあるいはゼロに近い正の値となったときに流量制御弁19が全閉状態となるように所定値を適合により定めておく。
ステップS300,S370,S380,S390から初めてステップS400に進むときには、前回の目標制御弁開度が初期値であるので、初期値から所定値を差し引いた値が今回の目標制御弁開度となる。
ステップS300,S370で過給域かつEGR領域からの減速が続いているとき、かつステップS380,S390で一定時間が経過しておらず吸排気圧力差が負になっていなければステップS400の処理を繰り返す。これによって、目標制御弁開度は初期値から徐々に小さくなってゆく。
ステップS410で、コントローラ30はステップS400で算出した目標制御弁開度とゼロを比較し、目標制御弁開度が負となったときにはステップS420に進み、目標制御弁開度にゼロを入れる。これは、ステップS400で算出される目標制御弁開度が演算値であるため、目標制御弁開度が負の値となり得る。そこで、目標制御弁開度が負となったときには目標制御弁開度にゼロを入れることで、制御値としての目標制御弁開度が負の値とならないようにするためである。一方、ステップS410で目標制御弁開度が負となっていなければ、そのまま今回の処理を終了する。
ステップS400の処理の繰り返し、つまり流量制御弁19を開いていることで、第2排気通路18を介して、分岐部上流滞留EGRガスの掃気が継続される。分岐部上流滞留EGRガスの掃気は分岐部18Aの過給圧が合流部18Bの排気圧より高い場合に行われるので、分岐部上流滞留EGRガスが掃気され続けることによって、吸排気圧力差がゼロに向けて小さくなり、やがてゼロになる。
ステップS390で吸排気圧力差がゼロになると、コントローラ30は第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスがもはや掃気されることはないと判断する。このときにはステップS420に進み、目標制御弁開度にゼロを入れて今回の処理を終了する。
上記のように、流量制御弁19が全閉となるタイミングより後に、ステップS380で上記のタイマ値が一定時間以上となる。ステップS380で上記のタイマ値が一定時間以上となれば、コントローラ30は後処理のためステップS430,S440に進み、減速フラグ=0とし、目標制御弁開度にゼロを入れる(流量制御弁19を全閉とする)。これによって過給域かつEGR領域からの減速時の処理を全て終了し、次回の過給域かつEGR領域からの減速時に備える。
図示しないフローにおいて、このようにして算出した目標制御弁開度が流量制御弁19のアクチュエータへの制御信号に変換され、この制御信号が流量制御弁19のアクチュエータに送られる。アクチュエータに制御信号が送られると、流量制御弁19の開度が目標制御弁開度へと制御される。
図8は、過給域かつEGR領域からの減速時のうち、ここでは図6Aの特に上記(4)の場合の変化をモデルで示したタイミングチャートである。上記(4)の場合、車両減速直後の運転点が非EGR領域にあるので、要求EGR率は過給域かつEGR領域からの減速直後にゼロになる(図8第10段目参照)。また、上記(4)の場合、ADM/V21と逆流防止弁13が共に開かれる(図8第7,第9段目参照)。
第11段目に破線で示すエンジントータルEGR率(図8でENGTotalEGR率)は、第2吸気通路20からの新気の導入と、分岐部上流滞留EGRガスの第2排気通路18を介しての掃気を行わない場合(以下、「比較例1」という)の推移を示している。一方、第11段目に実線で重ねて示すエンジントータルEGR率の変化は本実施形態の場合である。
比較例1では、過給域かつEGR領域からの減速を判定したことに応じてエンジントータル要求吸入空気量(図8でENGTotal要求空気量)を低減した後も、吸気系滞留EGRガスが筒内1Bに流入する。このため、比較例1では過給域かつEGR領域からの減速を判定したt1のタイミングより、エンジントータルEGR率が急激に立ち上がり、t1より少し遅れたt2のタイミングで失火限界EGR率を超えている(図8第11段目の破線参照)。
一方、本実施形態では、本実施形態の特徴部分である図5のステップS300〜S420及び図2のステップS30〜S120の処理に着目する。このため、図5の最初の演算においてEGR領域からの減速時にステップS330で吸排気圧力差が正であると判定された場合(つまり、過給域かつEGR領域からの減速時)について示している。
図5のステップS300〜S360の処理によって、過給域かつEGR領域からの減速を判定したt1のタイミングで流量制御弁19がステップ的に開かれる(図8第14段目参照)。
図8はモデル図であるため、t1のタイミングで流量制御弁19が開かれているが、実際にはt1よりも遅れたタイミングで流量制御弁19が開かれることとなる。これは、t1のタイミングでコントローラ30が流量制御弁19のアクチュエータに開信号を出力したとしても、信号処理に所定の時間がかかる。また、アクチュエータが実際に駆動するまでにも所定の応答時間を要する。これら2つの時間が遅れとなり、t1のタイミングで流量制御弁19を開くことができないためである。
ここで、図8のようにt1のタイミングで流量制御弁19のアクチュエータに開信号を指示する方法を「方法1」、図9のようにt2のタイミングで流量制御弁19のアクチュエータに開信号を指示する方法を「方法2」とする。本実施形態では方法1のほうを採用している。これは、前述したように車両の定常走行の条件において筒内1Bの混合気が失火しない範囲で要求EGR率をできるだけ大きく設定するエンジン仕様(つまりエンジン仕様1)のエンジンを対象としているためである。
図8と同様に、図9もモデル図であるため、エンジントータルEGR率が失火限界EGR率に到達するt2のタイミングで流量制御弁19が開かれているが、実際にはt2よりも遅れたタイミングで流量制御弁19が開かれることとなる。
エンジン仕様1のエンジンを対象とする場合に、本実施形態では、図8のように、エンジントータルEGR率が失火限界EGR率に到達するt2より前のt1のタイミングで予め流量制御弁19を開いている。これによって、信号処理時間やアクチュエータの応答時間を吸収し、エンジントータルEGR率が失火限界EGR率に到達するタイミングで、あるいはその少し前に、流量制御弁19が確実に開かれるようにするのである。
t1のタイミングの後には、図5のステップS300、S370〜S420の処理によって、吸排気圧力差が正の間、流量制御弁開度が徐々に小さくされる(図9第14段目参照)。そして、第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスの掃気が継続されることで、吸排気圧力差がやがてゼロとなる。吸排気圧力差がゼロとなるt3のタイミングで流量制御弁19の開度がゼロ、つまり流量制御弁19が全閉とされる(図8第14段目参照)。
上記のようにt1のタイミングで流量制御弁19がステップ的に開かれると、分岐部上流滞留EGRガスが分岐部18Aから第2排気通路18へと流れる。このため、流量制御弁通過EGR率は、t1のタイミングでゼロから徐々に大きくなってピークを採り、ピークを採った後には徐々に減少する(図8第13段目参照)。第2排気通路18を介して、分岐部上流滞留EGRガスが触媒7下流の第1排気通路3へと掃気されることで、TH/C4下流の第1吸気通路内EGR率が、t1からほぼ一次遅れの応答で減少していく(図8第12段目参照)。
かつ、図8は図2の最初の演算においてステップS40でエンジントータルEGR率が失火限界EGR率より高く、ステップS50で第1吸気通路内圧が第2吸気通路内圧より低い、と判定された場合について示している。この場合、過給域かつEGR領域からの減速に移行してから逆流防止弁13が開弁するまでに時間差が生じるが、図8では簡便のためt1のタイミングで逆流防止弁13が開弁するものとしている。
t1のタイミングで過給域かつEGR領域からの減速に移行すると、エンジントータル要求空気量(ENGTotal要求空気量)と、要求EGR率とがステップ的に低下する(図8第4、第10段目参照)。
かつ、図2のステップS60、S70、S100の処理によって、ADM/V21が開方向に、TH/C4内のスロットルバルブが閉方向にそれぞれ制御される(図8第7、第8段目参照)。これにより第2吸気通路20を介して筒内1Bに流入する空気量(第2吸気通路経由供給空気量)が増加し、TH/C4内のスロットルバルブを介して筒内1Bに流入する空気量(TH/C経由供給空気量)が減少する(図8第5、第6段目参照)。
上記のように、t1のタイミングで、ADM/V21及び逆流防止弁13が開かれ、第2吸気通路20を介して新気が吸気マニホールド1Aに流入すると、この新気で筒内1Bに向けて流れる分岐部下流滞留EGRガスが希釈される。
その後、図2のステップS70〜S90及びステップS100〜S120の処理(フィードバック処理)によって、ADM/V開度が徐々に小さく、TH/C開度が徐々に大きくなる。なお、図8では簡単化のため、このフィードバック処理の部分を省略している。このため、第2吸気通路経由供給空気量、TH/C経由供給空気量、ADM/V開度、TH/C開度とも、t1より一定値で推移する(図8第5,第6,第7,第8段目参照)。
まとめると、過給域かつEGR領域からの減速時に、上記のように第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを掃気すると共に、第2吸気通路20を介して流入する新気で分岐部下流滞留EGRガスを希釈する。これにより、本実施形態ではエンジントータルEGR率が、比較例1のように失火限界EGR率を超えて増大することなく、徐々に低下する(図8第11段目の実線参照)。言い換えると、過給域かつEGR領域からの減速後には筒内1Bの内部EGRガスの増加が主体で、第2排気通路18へと流れなかった分岐部下流滞留EGRガスが筒内1Bに導入されるのみとなる。しかも、分岐部下流滞留EGRガスは第2吸気通路20を介して流入する新気で希釈されて筒内1Bに流入する。これによって、筒内1Bでの混合気の燃焼状態が改善され、失火に至らない。
図8はモデル図であるため、吸排気圧力差がゼロとなるt3のタイミングにおいて、流量制御弁通過EGR率及びTH/C4下流の第1吸気通路内EGR率がゼロになるものとしている(図8第12,第13段目参照)。
さて、図9と図8とでは前提となるエンジン仕様が異なっている。前述のように、図8は、エンジン仕様1のエンジンを対象としていた。一方、図9は、車両の定常走行の条件において筒内1Bの混合気が失火しない範囲とはいえ要求EGR率を相対的に小さく設定しているエンジン仕様(以下「エンジン仕様2」という。)のエンジンを対象とするものである。エンジン仕様2のエンジンでは、過給域かつEGR領域からの減速時にトータルEGR率が失火限界EGR率を超えたり超えなかったりするものとする。
例えば、図9第11段目には過給域かつEGR領域からの減速時にトータルEGR率が失火限界EGR率を超える場合を記載している。このように、過給域かつEGR領域からの減速を判定したタイミングより、実際のエンジントータルEGR率が、失火限界EGR率を超えたり超えなかったりするエンジン仕様2のエンジンに対しては、上記の方法2を採用することができる。そこで、次にはエンジン仕様2のエンジンに対して上記の方法2を採用した、本実施形態の他の例に係る制御ルーチン2のフローチャートを説明する。
図10A,図10Bはコントローラ30が実行する第1実施形態の他の例に係る制御ルーチン2のフローチャートである。図10A,図10Bのフローは、流量制御弁19の目標制御弁開度を算出するためのもので、図2のフローとは別個に一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。図10A,図10Bのフローは図5のフローと置き換かわるものであるため、図5と同一の処理ステップに同一の符号を付している。
図10A,図10Bのフローは、エンジン仕様2のエンジンを対象とするものである。ここでは図5のフローとの相違点を主に説明する。ステップS340で減速フラグ=1とした後、ステップS500で、コントローラ30は、ゼロを目標制御弁開度に入れる。すなわち、エンジン仕様2のエンジンを対象とするときには、減速を判定したタイミングで流量制御弁19を開かない。
これは、次の理由による。すなわち、上記のように、過給域かつEGR領域からの減速時に流量制御弁19を開くことで第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを掃気するのは、分岐部上流滞留EGRガスが筒内1Bに流入することに伴う失火を防止するためである。この場合、理論的にはエンジントータルEGR率が失火限界EGR率を超えているか否かで失火するか否かを判断できる。つまり、エンジン仕様2のエンジンでは、エンジン仕様1のエンジンと相違して、過給域かつEGR領域からの減速時であっても、エンジントータルEGR率が失火限界EGR率を超えないことがある。過給域かつEGR領域からの減速時であっても、エンジントータルEGR率が失火限界EGR率を超えない場合には筒内1Bの燃焼状態が悪化することがないので、流量制御弁19を開くまでもない。そこで、過給域かつEGR領域からの減速であると判定されたタイミングでは、とりあえず流量制御弁19を全閉としておき、エンジントータルEGR率が失火限界EGR率を超えた場合にだけ流量制御弁19を開くこととするためである。
ステップS340での減速フラグ=1より、次回にはステップS300で減速フラグ=1となる。このときにはステップS370以降に進む。ステップS370で、コントローラ30は、前回は減速フラグ=1であったか否かをみる。前回は減速フラグ=1であった、つまり今回、前回とも減速フラグ=1であるときには、過給域かつEGR領域からの減速が続いていると判断し、ステップS380に進む。
ステップS380での処理は図5のステップS380と同じである。ステップS380で上記のタイマ値が一定時間未満であるとき、コントローラ30は、減速フラグがゼロから1に切換わったタイミングより一定時間がまだ経過していないと判断し、ステップS510に進む。
ステップS510で、コントローラ30は、失火リスクフラグをみる。失火リスクフラグはエンジンの始動時にゼロに初期設定されている。ここでは、失火リスクフラグ=0であるとしてステップS520に進む。
ステップS520で、コントローラ30はエンジントータルEGR率が失火限界EGR率より大きいか否かを判定する。ここでの処理は図2のステップS40の処理と同様である。エンジントータルEGR率が失火限界EGR率未満であるときに、コントローラ30は筒内1Bの燃焼状態が悪化して失火に至ることはない、従って流量制御弁19を開くまでもないと判断する。このときにはステップS540に進み、目標制御弁開度にゼロを入れる。
一方、エンジントータルEGR率が失火限界EGR率より大きいときに、コントローラ30は、このままでは筒内1Bの燃焼状態が悪化して失火に至るリスクがあると判断する。このときにはステップS530に進み、失火リスクフラグ=1とする。失火リスクフラグ=1で筒内1Bの燃焼状態が悪化して失火に至るリスクがあることを表すわけである。
ステップS350,S360の処理は図5のステップS350,S360の処理と同じで、コントローラ30が流量制御弁19をステップ的に開く部分である。まず、ステップS350で、吸排気圧力差から、図7を内容とするテーブルを検索することにより、目標制御弁開度の初期値を算出する。ステップS360ではこの初期値を目標制御弁開度に入れる。目標制御弁開度に初期値を入れることで、流量制御弁19がステップ的に開かれる。
ステップS530での失火リスクフラグ=1より、次回にはステップS510で失火リスクフラグ=1となる。このときにはステップS390〜S420に進む。
ステップS390〜S420の処理は図5のステップS390〜S420の処理と同じである。ステップS390〜S420の処理によって、目標制御弁開度は初期値から徐々に小さくなり、最終的にゼロとなる。流量制御弁19が開いている間、第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスの掃気が継続される。
分岐部上流滞留EGRガスの掃気は分岐部18Aの過給圧が合流部18Bの排気圧より高い場合に行われるので、分岐部上流滞留EGRガスが掃気され続けることによって、吸排気圧力差がゼロに向けて小さくなり、やがてゼロになる。
ステップS390で吸排気圧力差がゼロになると、コントローラ30は第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスがもはや掃気されることがないと判断する。このときにはステップS420に進み、目標制御弁開度にゼロを入れて今回の処理を終了する。
上記のように、流量制御弁19が全閉となるタイミングより後に、ステップS380で上記のタイマ値が一定時間以上となる。ステップS380で上記のタイマ値が一定時間以上となれば、コントローラ30は後処理のためステップS430,S440に進み、減速フラグ=0とし、目標制御弁開度にゼロを入れる(流量制御弁19を全閉とする)。また、ステップS550で、コントローラ30は失火リスクフラグ=0とする。これによって、次回の過給域かつEGR領域からの減速時に備える。
図示しないフローにおいて、このようにして算出した目標制御弁開度が流量制御弁19のアクチュエータへの制御信号に変換され、この制御信号が流量制御弁19のアクチュエータに送られる。アクチュエータに制御信号が送られると、流量制御弁開度が目標制御弁開度へと制御される。
次に、上述した本実施形態による作用効果についてまとめる。
本発明では、排気エネルギーを利用して吸気を加圧するターボ過給機5と、ターボ過給機5より吸気下流側の吸気通路2にエンジンに供給する吸気量を可変可能なスロットルチャンバ4を備え、ターボ過給機5より吸気上流側の吸気通路2と、ターボ過給機5より排気下流側の排気通路3とを連通するEGR通路8(排気再循環通路)により排気の一部を吸気側に戻すエンジンの制御方法を前提とする。そして、ターボ過給機5より吸気下流側の吸気通路2内の過給圧を過給圧センサ11で検出し、ターボ過給機5より排気下流側の排気通路3内の排気圧を排気圧センサ12で検出する。また、ドライバーにより操作されるアクセルのオフ時に、スロットルチャンバ4を閉じ、当該スロットルチャンバ4が閉じていて、且つ、前記過給圧が前記排気圧より大きい時、ターボ過給機5より吸気下流側の吸気通路2と、ターボ過給機5より排気下流側の排気通路3とを連通する。
言い換えると、スロットルチャンバ4が閉状態になった時、EGR通路8により吸気側に戻す排気量を低減する。
具体的には、吸気側に戻す排気量の低減量が所定値以上の時にターボ過給機5より吸気下流側の吸気通路2と、ターボ過給機5より排気下流側の排気通路3とを連通し、吸気側に戻す排気量の低減量が所定値未満の時にターボ過給機5より吸気下流側の吸気通路2と、ターボ過給機5より排気下流側の排気通路3とを連通させない。
詳細には、本実施形態では、エンジンの制御方法において、ターボ過給機5と、ターボ過給機5のコンプレッサ5Aが配置される第1吸気通路2と、ターボ過給機5のタービン5Bが配置される第1排気通路3と、を備える。また、エンジンの制御方法において、第1吸気通路2のコンプレッサ5Aより下流側に配置されるTH/C4、を備える。また、エンジンの制御方法において、第1排気通路3のタービン5Bより下流側と第1吸気通路2のコンプレッサ5より上流側とを連通するEGR通路8と、EGR通路8の開口面積を調整するEGR/V10と、を備える。また、エンジンの制御方法において、第1吸気通路2のTH/C4より上流かつEGR通路8との合流部8Aより下流と、第1排気通路3のタービン5Bより下流と、を連通する第2排気通路18と、第2排気通路18の開口面積を調整し得る流量制御弁19と、を備える。また、エンジンの制御方法において、コンプレッサ5A下流の第1吸気通路2の過給圧を検出する過給圧センサ11と、タービン5B下流の第1排気通路3の排気圧を検出するセンサ12と、を備える。また、エンジンの制御方法において、EGR領域からの減速時(要求EGR率が減少しその減少量が所定値以上のとき)に、TH/C4を閉じる。また、エンジンの制御方法において、EGR領域からの減速時に、吸排気圧力差(過給圧センサ11により検出された過給圧と排気圧センサ12により検出された排気圧の差)が正である間、流量制御弁19を開く。EGR領域からの減速時には、過給域からの減速時と、非過給域(例えば自然吸気域)からの減速時とが含まれる。EGR領域からの減速時のうち非過給域からの減速時であって、吸排気圧力差が負であるときにまで流量制御弁19を開く方向に制御したのでは、第2排気通路18を介し、触媒7下流の第1排気通路3から第1吸気通路2に向けて排気がEGRガスとして逆流する。逆流する触媒7下流からのEGRガスが分岐部上流滞留EGRガスに加わると、筒内1Bの燃焼状態が悪化し、失火に至る事態が生じ得る。一方、本実施形態では、EGR領域からの減速時に吸排気圧力差をみて、吸排気圧力差が正である間、流量制御弁19を開く。言い換えると、EGR領域からの減速時であっても吸排気圧力差がゼロまたは負であるときに、流量制御弁19を開かない。
これによって、EGR領域からの減速時のうち非過給域からの減速時であって吸排気圧力差が負であるときに、流量制御弁19を開くことによって生じる第1排気通路3から第1吸気通路2へのEGRガスの逆流による失火を防ぐことができる。また、吸排気圧力差が正であるときに流量制御弁19を開くことで、分岐部上流滞留EGRガスを触媒7下流の第1排気通路3に掃気することができる。
分岐点上流滞留EGRガスを掃気しない場合に比べて、分岐点上流滞留EGRガスを掃気できる分だけ、筒内1Bの燃焼状態が良くなる。つまり、筒内1Bの燃焼状態が同等であれば、分岐点上流滞留EGRガスを掃気できる分だけ要求EGR率を高くすることが可能となり燃費性能向上に貢献する。
また、分岐部18Aをコンプレッサ5AとTH/V4の間の第1吸気通路2に設けることで、コンプレッサ5AとTH/V4の間の第1吸気通路2の過給圧を第2排気通路18に速やかに逃すことができる。第2排気通路18、流量制御弁19がなければ、過給域かつEGR領域からの減速時にTH/C4が閉じることによって、コンプレッサ5AとTH/V4の間の第1吸気通路2の過給圧が過大となる。これによって、スロットルバルブ駆動機構等の作動不良やコンプレッサブレード破損の事態が生じ得るのであるが、コンプレッサ5AとTH/V4の間の第1吸気通路2から分岐する第2排気通路18に設けた流量制御弁19を開くことで、こうした事態が生じることを未然に防止することができる。
上記事態を防止するため、コンプレッサ5Aをバイパスする通路にリサーキュレーションバルブを設け、過給域からの減速時に当該バルブを開くものがある。本実施形態では、流量制御弁19がこのリサーキュレーションバルブとしての役割を果たすので、コンプレッサ5Aをバイパスする通路及びリサーキュレーションバルブを設ける必要がない。これによって、バイパス通路及びリサーキュレーションバルブの廃止分のコストダウンを図ることができる。
本実施形態では、エンジンの制御方法において、一端が第1吸気通路2のEGR通路8との合流部8Aより上流側に接続され、他端が第1吸気通路2のTH/C4より下流側に接続される第2吸気通路20と、を備える。また、本実施形態のエンジンの制御方法において、第2吸気通路20に配置されるADM/V21と、第2吸気通路20のADM/V21より下流側に配置される逆流防止弁13と、をさらに備える。また、本実施形態のエンジンの制御方法において、過給域かつEGR領域からの減速時に、ADM/V21を開方向に制御するとともに、TH/C4より下流側の第1吸気通路2の内圧が第2吸気通路20の内圧より低くなった場合に逆流防止弁13を開弁する。本実施形態では、ADM/V21及び逆流防止弁13が開くときに、第2吸気通路20を介して新気が導入される。この新気で分岐部下流滞留EGRガスが筒内1Bに流入する前に分岐部下流滞留EGRガスを希釈することができるため、エンジントータルEGR率がさらに減少し、筒内1Bでのより安定した燃焼状態を得ることができる。
本実施形態では、エンジンの制御方法において、吸排気圧力差(過給圧センサ11により検出された過給圧と排気圧センサ12により検出または推定された排気圧の差)に応じ、吸排気圧力差が大きいほど流量制御弁19を開く方向に制御する(図7参照)。吸排気圧力差が大きいほど、分岐部上流滞留EGRガスの掃気要求度合が大きいといえる。この場合に、本実施形態では、吸排気圧力差の大きさにより第2排気通路18の流量制御弁19開度を制御するので、掃気要求度合に応じた分岐部上流滞留EGRガスの掃気を行うことができる。
過給域かつEGR領域からの減速時に、吸排気圧力差が正からゼロまたは負となったあとにも流量制御弁19を開いているのでは、第2排気通路18を介して触媒7下流の排気がEGRガスとして逆流し、分岐部18Aから第1吸気通路2に導入される。こうした事態が生じると、筒内1Bの燃焼状態が悪化してしまう。一方、本実施形態では、エンジンの制御方法において、吸排気圧力差が正からゼロまたは負となったときに、流量制御弁19を閉じる方向に制御する(図5のステップS300,S370,S380,S390,S420参照)。例えば、流量制御弁19が開いている途中であっても、吸排気圧力差がゼロまたは負となるタイミングで流量制御弁19を閉じる方向に制御することで、上記の事態を抑制することができる。
(第2実施形態)
図11は、第2実施形態に係るエンジンシステム100の概略構成図である。第1実施形態の図1と同一部分には同一の符号を付している。
図1の構成との相違点は、第2吸気通路20、ADM/V21、逆流防止弁13を省略している点である。この相違点により、第2吸気通路20、ADM/V21、逆流防止弁13を除いた部分について、第2実施形態でも、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
(第3実施形態)
図12は、第3実施形態に係るエンジンシステム100の概略構成図である。第1実施形態の図1と同一部分には同一の符号を付している。
第3実施形態は、エンジン仕様1のエンジンを対象とする第1実施形態を前提とする。そして、タービン5Bをバイパスする通路41、ウエイストゲートバルブ42、コンプレッサ5Aをバイパスする通路45、リサーキュレーションバルブ46が追加して設けられている場合を対象とする。
ウエイストゲートバルブ(以下、「WG/V」ともいう。)42はバイパス通路41の開口面積を調整し得るものである。WG/V42はアクチュエータ(例えばモータ)により駆動されるようになっている。ここで、WG/V42の開口割合を「WG/V開度」というとする。また、WG/V開度がゼロのときWG/V42が全閉状態に、WG/V開度が最大のときWG/V42が全開状態にあるとする。
上記のWG/V42はコントローラ30によって制御される。図6A,図6Bに示した過給域においては運転条件が相違しても要求過給圧が得られるWG/V開度基本値のマップをコントローラ30に備えている。過給域になるとコントローラ30はエンジンの運転条件に応じてWG/V開度基本値を算出し、この基本値が得られるようにWG/V開度を制御する。一方、図6A,図6Bに示した非過給域(NA域)でWG/V開度はゼロ、つまりWG/V42は全閉位置にある。
リサーキュレーションバルブ(以下、「R/V」ともいう。)46はバイパス通路45の開口面積を調整し得るものである。R/V46もアクチュエータ(例えばモータ)により駆動されるようになっている。ここで、R/V46の開口割合を「R/V開度」というとする。また、R/V開度がゼロのときR/V46が全閉状態に、R/V開度が最大のときR/V46が全開状態にあるとする。
上記のR/V46はコントローラ30によって制御される。過給域からの減速時になるとコントローラ30はR/V46を開く。例えばR/V開度が所定値3(正の値)となるように制御する。一方、過給域からの減速時でないときR/V開度はゼロ、つまりR/V46は全閉位置にある。
過給域からの減速時にR/V46を開くのは、次の理由による。すなわち、過給域からの減速時にTH/C4内のスロットルバルブが閉じられても、タービン5Bは直ぐには回転速度を低下できないため、タービン5Bと連れ回るコンプレッサ5Aが過給を継続する。これによって、コンプレッサ5AとTH/C4の間の第1吸気通路2のガスの逃げ場が無くなりコンプレッサ5AとTH/C4の間の第1吸気通路2の過給圧が特に高くなる。この高くなった過給圧に耐えてTH/C開度を維持しようと、スロットルバルブの駆動機構やアクチュエータ(以下「スロットルバルブ駆動機構等」という。)に大きな負荷が作用する。また、コンプレッサ5AとTH/C4の間の第1吸気通路2の吸気がコンプレッサ5Aに向かって逆流すれば、コンプレッサ5Aのブレード(以下「コンプレッサブレード」という。)を破損する可能性がある。このようにコンプレッサとTH/Cの間の第1吸気通路2の過給圧の逃げ場がなくなる場合に、R/V46を開けば、コンプレッサとTH/Cの間の第1吸気通路2に存在する高い過給圧の吸気をコンプレッサ5Aの上流へと逃すことができるためである。これによって、過給域からの減速時にコンプレッサ5AとTH/C4の間の第1吸気通路2の過給圧が過大になることによる、TH/C4内のスロットルバルブ駆動機構等の作動不良やコンプレッサブレードの破損を防止することができる。
さて、過給域かつEGR領域からの減速時に上記のWG/V42やR/V46を用いることで、吸排気圧力差が正である間の吸排気圧力差を第1実施形態の場合より大きくすることができる。これについて説明すると、吸排気圧力差は過給圧から排気圧を差し引いた値であるから、排気圧を第1実施形態の場合より低くすれば、また、過給圧を第1実施形態の場合より高くすれば吸排気圧力差が第1実施形態の場合より大きくなる。この場合に、上記のWG/V42を用いることで排気圧を第1実施形態の場合より低くすることが、また上記のR/V46を用いることで過給圧を第1実施形態の場合より高くすることができるためである。
まず、上記のWG/V42を用いて排気圧を第1実施形態の場合より低くすることで吸排気圧力差を大きくする場合を説明する。ここでは、過給域かつEGR領域からの減速時に減速直後の運転点がどの位置まで移行するかによって次の2つの場合に分けて考える。
〈1〉過給域かつEGR領域からの減速時に減速直後の運転点が非過給域まで移行する場合、
〈2〉過給域かつEGR領域からの減速時に減速直後の運転点が過給域にとどまる場合、
上記〈1〉のように減速直後の運転点が非過給域まで移行する場合には、WG/V42が減速直後に全閉状態となる。このときには、タービン5Bが通気抵抗となるため、触媒7下流の第1排気通路3の排気圧が直ぐには低下しない。
一方、減速直後の運転点が非過給域まで移行する場合に、WG/V42を強制的に開いてやると、タービン5Bが通気抵抗とならないため、触媒7下流の第1排気通路3の排気圧が直ぐに低下する。つまり、上記〈1〉のように減速直後の運転点が非過給域まで移行する場合に、WG/V42を強制的に開くことで、WG/V42を全閉状態に戻す場合より排気圧が低くなる。排気圧が低くなると、その排気圧が低くなる分だけ吸排気圧力差が大きくなる。吸排気圧力差が大きくなると、第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを素早く掃気することができる。
次に、上記〈2〉のように減速直後の運転点が過給域にとどまる場合には、WG/V開度は減速直後の運転点に応じたWG/V開度基本値(以下、単に「基本値」ともいう。)となっている。この場合には、目標WG/V開度を基本値より大きくしてやることで、目標WG/V開度が基本値のままである場合より排気圧が低くなる。排気圧が低くなると、その排気圧が低くなる分だけ吸排気圧力差が大きくなる。
そこで、コントローラ30は、上記〈1〉、〈2〉の場合とも、吸排気圧力差が正である間、WG/V42を開く方向に制御する。
コントローラ30で行われる上記の制御を詳述すると、図13のフローが、第3実施形態において新たに追加される。なお、目標制御弁開度を算出するために用いる第1実施形態の図5のフローは第3実施形態でも目標制御弁開度を算出するために用いられる。ただし、目標制御弁開度の算出方法の内容は、第3実施形態と第1実施形態とで同じであるため、その説明は省略する。
図13はコントローラ30が実行する第3実施形態に係る制御ルーチン3のフローチャートである。図13のフローは、目標WG/V開度を算出するためのもので、図5のフローに続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
WG/V42に対して第3実施形態の制御を行わないものを「比較例2」とすると、比較例2はステップS600,S650,S660,S700を有するものである。一方、第3実施形態は、比較例2に対して、ステップS610,S620,S630,S640,S670,S680,S690を追加するものである。
まず、ステップS600,S610は、過給域かつEGR領域からの減速時に減速直後の運転点が過給域にとどまる場合であるか否かをみる部分である。ステップS600でエンジンの運転点が過給域にあり、ステップS610で減速フラグ=0であるときに、コントローラ30は、運転点が過給域にとどまっているものの、過給域かつEGR領域からの減速時でないと判断する。ステップS610の処理で用いる減速フラグは図5のフローにおいて設定済みである。このときには、ステップS650,S660に進む。
ステップS650,S660は、コントローラ30が過給域で要求過給圧が得られるようにWG/V開度を制御する部分である。例えば、エンジン回転速度とエンジン負荷をパラメータとするWG/V開度基本値のマップを予め作成しておき、ステップS650でこのマップを検索することによりWG/V開度基本値を算出する。ステップS660でこの算出した基本値を目標WG/V開度に入れる。
一方、S600でエンジンの運転点が過給域にあり、ステップS610で減速フラグ=1であるときに、コントローラ30は過給域かつEGR領域からの減速時に減速直後の運転点が過給域にとどまる場合(上記〈2〉の場合)であると判断する。このときにはステップS620に進み、吸排気圧力差(過給圧センサ11により検出された過給圧と排気圧センサ12により検出または推定された排気圧の差)とゼロを比較する。吸排気圧力差が正であるときに、コントローラ30は第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを掃気できると判断し、ステップS630に進む。
ステップS630で、コントローラ30は、エンジン回転速度とエンジン負荷をパラメータとする所定値1のマップを検索することにより所定値1を算出する。ステップS640でこの算出した所定値1を目標WG/V開度に入れる。所定値1は同じ運転点での基本値より大きい値(正の値)を適合により定めておく。これによって、過給域かつEGR領域からの減速時に減速直後の運転点が過給域にとどまる場合にWG/V42が同じ運転点での基本値より大きい開度で開かれる。これによって、WG/V42が基本値の開度で開かれる場合より排気圧が低下し、その排気圧が低下した分だけ吸排気圧力差が大きくなる。吸排気圧力差が大きくなると、第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを素早く掃気することができる。ここでは、所定値1をマップ値で与えているが、所定値1を一定値で与える場合であってよい。
その後、ステップS620で吸排気圧力差がゼロ以下になると、コントローラ30は第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを掃気できない判断し、ステップS650,S660に進み、ステップS650,S660の処理を実行する。
ステップS600,S670は過給域かつEGR領域からの減速時に減速直後の運転点が非過給域まで移行する場合であるか否かをみる部分である。ステップS600でエンジンの運転点が非過給域にあり、ステップS670で減速フラグ=0であるときに、コントローラ30は、運転点が非過給域に移行しているが、過給域かつEGR領域からの減速時でないと判断する。このときには、ステップS700に進み、コントローラ30が目標WG/V開度にゼロを入れる(WG/V42を全閉とする)。
一方、ステップS600でエンジンの運転点が非過給域にあり、ステップS670で減速フラグ=1であるときに、コントローラ30は、過給域かつEGR領域からの減速時に減速直後の運転点が非過給域に移行する場合(上記〈1〉の場合)であると判断する。このときには、ステップS680に進み、吸排気圧力差とゼロを比較する。吸排気圧力差が正であるときに、コントローラ30は第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを掃気できると判断し、ステップS690に進む。
ステップS690で、コントローラ30は所定値2を目標WG/V開度に入れる。所定値2は正の値で、適合により定める。これによって、過給域かつEGR領域からの減速時に減速直後の運転点が非過給域に移行する場合にも、WG/V開度が所定値2までWG/V42が開かれる。これによって、WG/V42を全閉状態とするときより排気圧が低下し、その排気圧が低下した分だけ吸排気圧力差が大きくなる。吸排気圧力差が大きくなると、第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを素早く掃気することができる。
その後、ステップS680で吸排気圧力差がゼロ以下になると、コントローラ30は第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを掃気できない判断し、ステップS700に進み、ステップS700の処理を実行する。
図示しないフローにおいて、このようにして算出した目標WG/V開度がWG/V42のアクチュエータへの制御信号に変換され、この制御信号がWG/V42のアクチュエータに送られる。アクチュエータに制御信号が送られると、WG/V開度が目標WG/V開度へと制御される。
第3実施形態においても、第1実施形態の図5のフローが実行されるため、過給域かつEGR領域からの減速時に吸排気圧力差が正であるときには流量制御弁19が開かれ、分岐部上流滞留EGRガスが第2排気通路18に掃気される。この掃気に合わせて、第3実施形態では過給域かつEGR領域からの減速時に減速直後の運転点が過給域にとどまる場合に、同じ運転点での基本値より大きい開度の所定値1までWG/V42が開かれる。これによって、WG/V42が基本値の開度で開かれる場合より吸排気圧力差を大きくすることができる。
また、過給域かつEGR領域からの減速時に減速直後の運転点が非過給域に移行する場合にも、WG/V開度が所定値2までWG/V42が開かれる。これによって、WG/V42を全閉状態とするときより吸排気圧力差を大きくすることができる。
次に、上記のR/V46を用いて過給圧を第1実施形態の場合より高くすることで吸排気圧力差を大きくする場合を説明する。ここでは、過給域かつEGR領域からの減速時を、次の2つの場合に分けて考える。
〈3〉過給域からの減速時であって、EGR領域からの減速時でもある場合(つまり過給域かつEGR領域からの減速時)、
〈4〉過給域からの減速時ではあるがEGR領域からの減速時でない場合、
上記〈3〉のように過給域かつEGR領域からの減速時にあっては、第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを素早く掃気するため、吸排気圧力差を少しでも大きくしたという要求がある。
ここで、R/V46に対して第3実施形態の制御を行わないものを「比較例3」とすると、比較例3では、上記〈3〉の場合に、上記のようにR/V開度が所定値3までR/V46が開かれる。上記〈3〉の場合に比較例3でR/V46を開く理由は、上記のように過給圧が過大になることによる、スロットルバルブ駆動機構等の作動不良やコンプレッサブレードの破損を防止するためである。これを、吸排気圧力差の観点からみれば、R/V開度が所定値3までR/V46が開かれることによって、コンプレッサ5A下流の過給圧がコンプレッサ5A上流に逃されるので、過給圧が低下する。つまり、R/V46が全閉状態であるときより過給圧が低下し、その過給圧が低下した分だけ吸排気圧力差が小さくなる。従って、上記〈3〉の場合に上記の要求に応えて吸排気圧力差を大きくするには比較例3で設定する所定値3よりR/V開度を小さくすることである。
しかしながら、上記〈3〉の場合に所定値3よりR/V開度を小さくしたのでは、再び、過給圧が過大になることによる、スロットルバルブ駆動機構等の作動不良やコンプレッサブレードの破損を招いてしまうことがある。例えば、スロットルバルブ駆動機構等の作動不良やコンプレッサブレードの破損を招かない範囲で、所定値3をできるだけ小さく設定している場合がある。この場合には、所定値3よりR/V開度を小さくするだけで、スロットルバルブ駆動機構等の作動不良やコンプレッサブレードの破損を招かない範囲を外れる。当該範囲を外れると、スロットルバルブ駆動機構等の作動不良やコンプレッサブレードの破損が生じてしまう。
一方、余裕を持って所定値3を、つまり、スロットルバルブ駆動機構等の作動不良やコンプレッサブレードの破損を招かない範囲で最小のR/V開度を「限界値」としたとき、この限界値より大きい側に余裕を持って所定値3を設定していることがある。
第3実施形態ではこのように、限界値より大きい側に余裕を持って所定値3を設定しているものを前提とする。そして、限界値より大きい側余裕を持って所定値3を設定しているものを前提として、上記〈3〉の場合に吸排気圧力差が正である間、限界値と所定値3の間に目標R/V開度を設定する。例えば、限界値と所定値3の間にある値を「所定値4」とすると、所定値4を目標R/V開度として設定する。上記〈3〉の場合に吸排気圧力差が正である間、比較例3より閉じる方向にR/V46を制御するのである。これによって、スロットルバルブ駆動機構等の作動不良やコンプレッサブレードの破損を招かない範囲で過給圧が高くなり、過給圧が低くなる分だけ吸排気圧力差が大きくなる。吸排気圧力差が大きくなると、第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを素早く掃気することができる。
次に、上記〈4〉のように過給域からの減速時ではあるがEGR領域からの減速時でない場合には上記の要求がないので、目標R/V開度は比較例3と同じ、つまり所定値3でよい。
そこで、コントローラ30は、上記〈3〉の場合にだけ、吸排気圧力差が正である間、R/V46を閉じる方向に制御する。
コントローラ30で行われる上記の制御を詳述すると、図14のフローが、第3実施形態において新たに追加される。
図14はコントローラ30が実行する第3実施形態に係る制御ルーチン4のフローチャートである。図14のフローは、目標R/V開度を算出するためのもので、図5のフローに続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
上記の比較例3はステップS800,S850,S860を有するものである。一方、第3実施形態は、比較例3に対して、ステップS810,S820,S830,S840を追加するものである。
まず、ステップS800,S810は過給域かつEGR領域からの減速時であるか否かをみる部分である。ステップS800で過給域からの減速時でないときに、コントローラ30はR/V46を開く必要がないと判断し、ステップS860に進み、ゼロを目標R/V開度に入れる。
一方、ステップS800で過給域からの減速時にあり、ステップS810で減速フラグ=0であるときに、コントローラ30は、過給域からの減速時ではあるがEGR領域からの減速時でない場合(上記〈4〉の場合)であると判断する。ステップS810の処理で用いる減速フラグは図5のフローにおいて設定済みである。このときには、R/V開度は比較例3と同じでよいので、コントローラ30はステップS850に進み所定値3を目標R/V開度に入れる。
所定値3は正の値で、上記の限界値より大きい側に余裕を持って設定している。所定値3は最終的には適合により定めておく。
一方、S800で過給域からの減速時にあり、ステップS810で減速フラグ=1であるときに、コントローラ30は過給域かつEGR領域からの減速時である(上記〈4〉の場合)と判断する。このときにはステップS820に進み、吸排気圧力差とゼロを比較する。吸排気圧力差が正であるときに、コントローラ30は第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを掃気できると判断し、ステップS830に進む。
ステップS830で、コントローラ30は所定値4を目標R/V開度に入れる。所定値4は上記の限界値と所定値3の間の値で、例えば所定値3より小さい値を設定しておく。所定値4を所定値3より小さくすることで、比較例3より過給圧が高くなり、その過給圧が高くなる分だけ吸排気圧力差が正で大きくなる。最終的には所定値4は正の値で、適合により定めておく。これによって、ステップS820で吸排気圧力差が正である間、R/Vの開度が所定値4へと小さくされる。
その後、ステップS820で吸排気圧力差がゼロ以下になると、コントローラ30は第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを掃気できない判断する。このときには、ステップS840に進み、所定値3を目標R/V開度に入れる。
吸排気圧力差が正からゼロに切換わるタイミングで目標R/V開度を所定値4から、所定値4より大きい値である所定値3に切換えることは、R/V46を開く方向に制御することを意味する。過給域かつEGR領域からの減速時に、時間の経過によって吸排気圧力差が正からゼロ以下となったときに、R/V46を開く方向に制御するのである。これによって、吸排気圧力差が正からゼロ以下となった以降も、減速がやむまで、スロットルバルブ駆動機構等の作動不良やコンプレッサブレードの破損を防止することができる。
図示しないフローにおいて、このようにして算出した目標R/V開度がR/V46のアクチュエータへの制御信号に変換され、この制御信号がR/V46のアクチュエータに送られる。アクチュエータに制御信号が送られると、R/V開度が目標R/V開度へと制御される。
第3実施形態では、エンジンの制御方法において、過給域かつEGR領域からの減速時に吸排気圧力差が正である間、WG/V42を開く方向に制御する。例えば、過給域かつEGR領域からの減速時に減速直後の運転点が過給域にとどまる場合に、同じ運転点での基本値より大きい開度の所定値1までWG/V42が開かれる(図13のS600,S610,S620,S630,S640参照)。また、過給域かつEGR領域からの減速時に減速直後の運転点が非過給域に移行する場合にも、WG/V開度が所定値2までWG/V42が開かれる(図13のS600,S670,S680,S690参照)。これによって、触媒7下流の第1排気通路3の排気圧が、WG/V42を開く方向に制御しない場合より低下し、第1吸気通路2の過給圧と第1排気通路3の排気圧の差である吸排気圧力差が大きくなる。吸排気圧力差が大きくなると、第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを素早く掃気することができる。
第3実施形態では、エンジンの制御方法において、過給域かつEGR領域からの減速時に吸排気圧力差が正である間、R/V46を閉じる方向に制御する(図14のS800,S810,S820,S830参照)。これによって、コンプレッサ下流の第1吸気通路2の過給圧が、R/V46を閉じる方向に制御しない場合より高くなり、第1吸気通路2の過給圧と第1排気通路3の排気圧の差である吸排気圧力差が大きくなる。吸排気圧力差が大きくなると、第2排気通路18を介して分岐部上流滞留EGRガスを素早く掃気することができる。
第3実施形態では、エンジンの制御方法において、流量制御弁19を開く方向に制御した後に、時間の経過とともに吸排気圧力差が正からゼロまたは負となったときに、R/V46を開く方向に制御する。例えば、吸排気圧力差が正である間、R/V開度を所定値4とし、吸排気圧力差がゼロ以下となったときに所定値3へと切換えることで、R/V46を開く方向に制御している(図14のS800,S810,S820,S830,S840参照)。これによって、コンプレッサ5AとTH/V4の間の第1吸気通路2の過給圧が過大になることによる、スロットルバルブ駆動機構等の作動不良やコンプレッサブレードの破損を防止することができる。
(第4実施形態)
図15のフローはエンジン仕様1のエンジンを対象とする、コントローラ30が実行する第4実施形態に係る制御ルーチン4のフローチャートである。第3実施形態の図14のフローと同一部分には同一の符号を付している。第3実施形態の図14のフローと相違するのはステップS1200のみである。
第4実施形態は、過給域かつEGR領域からの減速の直前にR/V開度が所定値3までR/V46が既に閉じられている状態から、過給域かつEGR領域からの減速時に移行するときに、移行後もその閉じたままのR/V開度の状態にR/V46を制御するものである。
ここで、過給域かつEGR領域からの減速の直前に、R/V開度が所定値3までR/V46が閉じられている場合を図16に例示すると、次のような場合がある。
(9)過給域かつ非EGR領域からの減速で過給域かつEGR領域を通過し減速直後の運転点が非過給域かつ非EGR領域であってエンジントルク負領域にまでは移行しない場合、
(10)過給域かつ非EGR領域からの減速で過給域かつEGR領域を通過し減速直後の運転点が非過給域かつ非EGR領域であってエンジントルク負領域にまで移行する場合、
この場合、図16において図6Aと同一部分には同一の符号を付している。上記の(9)、(10)の場合は、図6Aの(3)、(4)の場合に対応させたものである。図6Aの(1)、(2)の場合に対応させたものを図16に追加することができる。
上記(9)の場合から具体的に説明すると、アクセルペダルを踏み込んだ状態でエンジンの運転点が図16において過給域かつ非EGR領域に含まれるR5’点にあったとする。このR5’点の運転状態からアクセルペダルを戻すことによって車両を減速させたとき、エンジンの運転点がR5’から過給域かつEGR領域内にあるR5点へ、R5点から非過給域かつ非EGR領域であってエンジントルク負領域でないR6点へと移行したとする。このように過給域かつ非EGR領域内でのR5’点から過給域かつEGR領域内のR5点へと移行し、続けて過給域かつEGR領域内のR5点からR6点へと移行する過渡的な移行が上記(9)の場合である。
上記(10)は、R7’点からR7点へ続けてR7点からR8点へ移行する場合のように、減速直前の運転点(R7’点)が過給域かつ非EGR領域にあり、減速直後の運転点(R8点)が非過給域かつ非EGR領域であってエンジントルク負領域にある場合である。
上記(9)の場合に、まずコントローラ30が実行する第3実施形態に係る制御ルーチンのフロー(図14のフロー)では次のようになる。すなわち、R5’点から過給域かつEGR領域に移行する直前までの減速時に、図14のフローにおいてステップS800,S810,S850と進み、目標R/V開度が所定値3となる。過給域かつEGR領域に移行したタイミングで吸排気圧力差が正であれば、図14のフローにおいてステップS800,S810,S820,S830と進み、目標R/V開度が所定値4となる。上記(10)の場合の第3実施形態に係る制御ルーチンにおいても同様である。
このように、第3実施形態では、過給域かつEGR領域からの減速の直前に目標R/V開度は所定値3にある。そして、続いて過給域かつEGR領域からの減速に入ったタイミングで所定値3から所定値4へと目標R/V開度が小さくなる側に切換えられる。つまり、第3実施形態では、過給域かつEGR領域からの減速時にR/V46を閉じる方向に制御している。
一方、第4実施形態に係る制御ルーチンのフローでは次のようになる。すなわち、R5’点から過給域かつEGR領域に移行する直前までの減速時にR/V開度を所定値3としたのであれば、続く過給域かつEGR領域に移行したあとも目標R/V開度をそのまま所定値3に維持する(図15のステップS1200参照)。過給域かつEGR領域からの減速時に、その減速直前の目標R/V開度(所定値3)よりさらに目標R/V開度を小さくするのではなく、その減速直前の目標R/V開度(所定値3)を過給域かつEGR領域からの減速時に移行した後もそのまま維持するのである。言い換えると、第4実施形態では、過給域かつEGR領域からの減速時にR/V46を閉じたままの状態に維持するのである。これによって、第4実施形態においても第3実施形態と同様の作用効果が得られる。
第3実施形態では、限界値より大きい側に余裕を持って所定値3を設定しているものを前提として、過給域かつEGR領域からの減速時に、所定値3よりも大きな所定値4へと目標R/V開度を切換えた。このため、上記の限界値に所定値3を設定している場合には第3実施形態を適用することはできない。一方、第4実施形態であれば、所定値4へと切換えることがないため、上記の限界値に所定値3を設定している場合にも第4実施形態を適用することができる。
第3実施形態に係る制御ルーチンと第4実施形態に係る制御ルーチンのいずれが適切か否かはエンジン仕様に依存するので、適合によりいずれかの制御ルーチンを採用すればよい。
(第5実施形態)
過給域かつEGR領域からの減速途中にドライバーがアクセルペダルを踏み込むことによって加速(「再加速」ともいう。)が行われることがある。このとき、踏み込んだ直後のアクセルペダル開度に応じて、TH/C4内のスロットルバルブが開く方向に制御される。このように減速途中に再加速が行われる場合には、再加速が行われたタイミングで第2排気通路18を介しての掃気を速やかに中止して、再加速時の要求空気量を筒内1Bに供給することが要求される。この場合、減速途中に再加速が行われる場合を再加速の程度に応じて次のように2つに分け、コントローラ30の対応する制御を相違させる。
〈5〉過給域かつEGR領域からの減速時に減速途中からドライバーがアクセルペダルを深く踏み込んで過給が必要なまでの再加速が行われる場合(以下「第1減速再加速時」ともいう。)、
〈6〉過給域かつEGR領域からの減速時に減速途中から過給が必要なまでには至らない再加速が行われる場合(以下「第2減速再加速時」ともいう。)、
上記〈5〉の場合であるか上記〈6〉の場合であるかは、コントローラ30がエンジンの運転条件に基づいて判定する。
そして、上記〈5〉の場合であると判定したときに、第2排気通路18を介しての掃気を中止するため、コントローラ30は、流量制御弁19を全閉状態へと切換え(閉じる方向に制御し)、ADM/V21を全閉状態へと切換える(閉じる方向に制御する)。かつ、過給を速やかに行わせるため、コントローラ30は、WG/V42を全閉状態へと切換え(閉じる方向に制御し)、R/V46を全閉状態へと切換える(閉じる方向に制御する)。これによって、第1減速再加速時に、第2排気通路18を介しての掃気を中止して、加速が必要なときの要求吸気量を筒内1Bに供給することができる。
一方、上記〈6〉の場合であると判定したときに、第2排気通路18を介しての掃気を中止するため、コントローラ30は、流量制御弁19を全閉状態へと切換え(閉じる方向に制御し)、ADM/V21を全閉状態へと切換える(閉じる方向に制御する)。かつ、過給を行わせることまでは必要ないため、コントローラ30は、WG/V42を開く方向に制御し、R/V46を開く方向に制御する。これによって、第2減速再加速時にも、加速が必要でないときの要求吸気量を筒内1Bに供給することができる。
上記の第1減速再加速時と第2減速再加速時に流量制御弁19、ADM/V21、WG/V42、R/V46を制御するため、コントローラ30に、図17A,図17B,図18,図19のフローチャートを備える。
まず、図17A,図17Bは、エンジン仕様1のエンジンを対象とする、コントローラ30が実行する第5実施形態に係る制御ルーチン2のフローチャートで、第3実施形態の図5のフローと置き換わるものである。図5のフローと同一の処理ステップには同一の符号を付している。
図17A,図17Bのフローは、流量制御弁19の目標制御弁開度を算出するためのもので、図2のフローとは別個に一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
第3実施形態と相違する部分を主に説明すると、第3実施形態に対して、ステップS900,S910,S920,S930を追加している。
ステップS900,S910で、コントローラ30は、第1減速再加速時であるか否か、または第2減速再加速時であるか否かをみる。ここで、第1減速再加速時であるか否か、または第2減速再加速時であるか否かは、図示しないフローにおいて、コントローラ30がアクセル開度やTH/C開度に基づいて判定する。例えば、減速フラグ=1の状態(過給域かつEGR領域からの減速時)でアクセル開度をモニターする。アクセル開度が増加し、そのアクセル開度の所定時間当たりの増加量が所定値以上である場合に第1減速再加速時であると判断し、第1減速再加速時フラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)をゼロから1に切換える。また、アクセル開度が増加しているがそのアクセル開度の所定時間当たりの増加量が所定値未満である場合に第2減速再加速時であると判断し、第2減速再加速時フラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)をゼロから1に切換える。上記の所定値は、第1減速再加速時と第2減速再加速時を切り分ける値で、予め設定しておく。上記のように設定した第1減速再加速時フラグ、第2減速再加速時フラグの値はコントローラ30内のメモリに保存しておく。
ステップS340での減速フラグ=1より、次回にはステップS300で減速フラグ=1となり、ステップS900に進む。ステップS900でメモリより読み出した第1減速再加速時フラグ=1であるときに、コントローラ30は、第1減速再加速時であると判断する。このときには第2排気通路18を介しての掃気を中止するため、ステップS920,S930に進む。
ステップS920で、コントローラ30は、ゼロを目標制御弁開度に入れることで流量制御弁19を全閉状態に切換える。これによって、第2排気通路18を介しての掃気が即座に中止される。
ステップS930で、コントローラ30は、減速フラグ=0とする。これによって、過給域かつEGR領域からの減速時の制御が中止される。
一方、ステップS900で、第1減速再加速時フラグ=0であるときに、コントローラ30はステップS910に進み、メモリより読み出した第2減速再加速時フラグをみる。第2減速再加速時フラグ=1であるときに、コントローラ30は、第2減速再加速時であると判断する。このときにも第2排気通路18を介しての掃気を中止するため、ステップS920,S930に進み、ステップS920,S930の処理を実行する。
一方、ステップS910で、第2減速再加速時フラグ=0であるときにコントローラ30は、第1減速再加速時でも第2減速再加速時でもないと判断する。このときには過給域かつEGR領域からの減速時の制御を継続するため、ステップS370以降に進む。
次に、図18は、エンジン仕様1のエンジンを対象とする、コントローラ30が実行する第5実施形態に係る制御ルーチン3のフローチャートで、第3実施形態の図13と置き換わるものである。図13のフローと同一の処理ステップには同一の符号を付している。
図18のフローは、目標WG/V開度を算出するためのもので、図17A,図17Bのフローに続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
第3実施形態と相違する部分を主に説明すると、第3実施形態に対して、ステップS1000,S1010,S1020,S1030を追加している。
ステップ610で減速フラグ=1であるときに、コントローラ30はステップ1000に進む。ステップS1000で、コントローラ30は、メモリより読み出した第1減速再加速時フラグをみる。第1減速再加速時フラグ=1であるときに、コントローラ30は、第1減速再加速時であると判断する。このときには過給を速やかに行わせるため、ステップS1020に進み、ゼロを目標WG/V開度に入れる。これによって、第1減速再加速時フラグ=1となる直前までWG/V開度を所定値1(あるいは基本値)としてWG/V42が開かれていたとしても、ステップ的にWG/V42が閉じられ、排気の全てがタービン5Bに向けて導入される。
一方、ステップS1000で、第1減速再加速時フラグ=0であるときに、コントローラ30はステップS1010に進み、メモリより読み出した第2減速再加速時フラグをみる。第2減速再加速時フラグ=1であるときに、コントローラ30は、第2減速再加速時であると判断する。このときには過給を行わせることは必要ないため、ステップS1030に進み、所定値5を目標WG/V開度に入れる。
所定値5は所定値1や基本値より大きい値とする。これについて説明すると、第2減速再加速時において再加速の直前には、吸排気圧力差が正である場合と、ゼロ以下になっている場合とがある。
まず、再加速の直前に吸排気圧力差が正であれば、目標WG/V開度が所定値1となっている。そして再加速のタイミングで目標WG/Vが所定値5となる。この場合に、所定値5を所定値1より大きくすると、再加速のタイミングでWG/V42が開く方向に制御される。このように、第2減速再加速時に所定値5を所定値1より大きくすることで、タービン5Bに供給される排気量が減ってタービン5Bの回転速度が上昇しない。
次に、再加速の直前に吸排気圧力差がゼロ以下になっていれば、目標WG/V開度が基本値となっている。そして再加速のタイミングで目標WG/Vが所定値5となる。この場合に、所定値5を基本値より大きくすると、再加速のタイミングでWG/Vが開く方向に制御される。このように、第2減速再加速時に所定値5を基本値より大きくすることで、タービン5Bに供給される排気量が減ってタービン5Bの回転速度が上昇しない。
こうして、第2減速再加速時に所定値5として所定値1や基本値より大きい値とすることで、タービン5Bに供給される排気量が減ってタービン5Bの回転速度が上昇しない。タービン5Bの回転速度が上昇しなければ、コンプレッサ5Aの回転速度も上昇しないので、過給が必要なまでの過給が行われることがない。最終的には、所定値5は正の値で、適合により定める。
一方、ステップS1010で、第2減速再加速時フラグ=0であるときにコントローラ30は、第1減速再加速時でも第2減速再加速時でもないと判断する。このときには過給域かつEGR領域からの減速時の制御を継続するため、ステップS620以降に進む。
次に、図19は、エンジン仕様1のエンジンを対象とする、コントローラ30が実行する第5実施形態に係る制御ルーチン4のフローチャートで、第3実施形態の図14と置き換わるものである。図14のフローと同一の処理ステップには同一の符号を付している。
図19のフローは、目標R/V開度を算出するためのもので、図17A,図17Bのフローに続けて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行する。
第3実施形態と相違する部分を主に説明すると、第3実施形態に対して、ステップS1100,S1110,S1120,S1130を追加している。
ステップ810で減速フラグ=1であるときに、コントローラ30はステップ1100に進む。ステップS1100で、コントローラ30は、メモリより読み出した第1減速再加速時フラグをみる。第1減速再加速時フラグ=1であるときに、コントローラ30は、第1減速再加速時であると判断する。このときには過給を速やかに行わせるため、ステップS1120に進み、ゼロを目標R/V開度に入れる。これによって、第1減速再加速時フラグ=1となる直前までR/V開度を所定値4(あるいは所定値3)としてR/V46が開かれていたとしても、ステップ的にR/V46が閉じられ、コンプレッサ5Aが吐出するガスの全てが筒内1Bに向けて供給される。
一方、ステップS1100で、第1減速再加速時フラグ=0であるときに、コントローラ30はステップS1110に進み、メモリより読み出した第2減速再加速時フラグ=1であるか否かをみる。第2減速再加速時フラグ=1であるときに、コントローラ30は、、第2減速再加速時であると判断する。このときには過給を行わせることは必要ないため、ステップS1130に進み、所定値6を目標制R/V開度に入れる。
所定値6は所定値4,3より大きい値とする。これについて説明すると、 第2減速再加速時において再加速の直前には、吸排気圧力差が正である場合と、ゼロ以下になっている場合とがある。
まず、再加速の直前に吸排気圧力差が正であれば、目標R/V開度が所定値4となっている。そして再加速のタイミングで目標R/Vが所定値6となる。この場合に、所定値6を所定値4より大きくすると、第2減速再加速時に再加速のタイミングでR/V46が開く方向に制御される。このように、第2減速再加速時に所定値6を所定値4より大きくすることで、コンプレッサ5A上流に戻されるガス量がある分、筒内1Bに向かうガス量が上昇しない。
次に、再加速の直前に吸排気圧力差がゼロ以下になっていれば、目標R/V開度が所定値3となっている。そして再加速のタイミングで目標R/Vが所定値6となる。この場合に、所定値6を所定値3より大きくすると、再加速のタイミングでR/V46が開く方向に制御される。このように、第2減速再加速時に所定値6を所定値3より大きくすることで、コンプレッサ5A上流に戻されるガス量がある分、筒内1Bに向かうガス量が上昇しない。
こうして、第2減速再加速時に所定値6として所定値4や所定値3より大きい値とすることで、筒内1Bに向かうガス量が上昇しない。筒内1Bに向かうガス量が上昇しなければ、過給が必要なまでの過給が行われることがない。最終的には、所定値6は正の値で、適合により定める。
一方、ステップS1110で、第2減速再加速時フラグ=0であるときにコントローラ30は、第1減速再加速時でも第2減速再加速時でもないと判断する。このときには過給域かつEGR領域からの減速時の制御を継続するため、ステップS820以降に進む。
第4実施形態では、エンジンの制御方法において、第1減速再加速時(要求EGR率または要求EGR量が減少しその減少量が所定値以上となった後)に過給が必要なまでの加速状態となったとき)に、流量制御弁19を閉じる方向に制御する。また、第4実施形態では、エンジンの制御方法において、第1減速再加速時に、ADM/V21を閉じる方向に制御し、TH/C4内のスロットルバルブを開く方向に制御し、WG/V42を閉じる方向に制御し、及びR/V46を閉じる方向に制御する。これによって、第1減速再加速時に、再加速のタイミングで第2排気通路18を介しての掃気を中止して、加速が必要なときの要求吸気量を筒内1Bに供給することができる。
第4実施形態では、エンジンの制御方法において、第2減速再加速時に、流量制御弁19を閉じる方向に制御し、ADM/V21を閉じる方向に制御し、TH/C4内のスロットルバルブを開く方向に制御する。また、第4実施形態では、エンジンの制御方法において、第2減速再加速時に、WG/V42を開く方向に制御に制御し、及びR/V46を開く方向に制御する。これによって、第2減速再加速時に、再加速のタイミングで第2排気通路18を介しての掃気を中止して、加速が必要でないときの要求吸気量を筒内1Bに供給することができる。
第5実施形態では、第1減速再加速時に、R/V開度を所定値4(または所定値3)からゼロ(全閉状態)へと切換えることで、第1減速再加速時に速やかに過給が行われるようにしたが、この場合に限定されるものでない。第1減速再加速時にR/V46を再加速の前後で閉じたままに制御することであってよい。例えば、第1減速再加速時の直前に、吸排気圧力差が正であればR/V開度46が所定値4まで、また、吸排気圧力差がゼロ以下であればR/V開度が所定値3までR/V46が閉じられている。そして、再加速のタイミングで吸排気圧力差が正であるときには、過給が必要なまでの再加速が行われた後もR/V開度をそのまま所定値4に維持する。また、再加速のタイミングで吸排気圧力差がゼロ以下であるときには、過給が必要なまでの再加速が行われた後もR/V開度をそのまま所定値3に維持する。これによって、再加速のタイミングでR/V開度をゼロにする場合よりは過給圧が多少低下するものの、第1減速再加速時に速やかに過給が行われるようにすることができる。
第5実施形態では、第2減速再加速時にWG/V開度を所定値1や基本値より大きい値の所定値5へと切換えることで、第2減速再加速時に不必要な過給が行われることがないようにしたが、この場合に限定されるものでない。第2減速再加速時にWG/V42を再加速の前後で開いたままに制御することであってよい。例えば、減速途中に過給が必要なまでには至らない再加速が行われる直前にWG/V開度46が所定値1(または基本値)までWG/V42が開かれているときには、過給が必要なまでには至らない再加速が行われた後もWG/V開度をそのまま、所定値1(または基本値)に維持するのである。これによって、再加速のタイミングでWG/V開度を所定値5へと大きくする場合よりは過給圧が多少上昇するものの、第2減速再加速時に過給が必要なまでには至らない加速が行われるようにすることができる。
実施形態では、要求EGR率に基づいてEGR領域からの減速時であるか否かを判定する場合で説明したが、この場合に限られるものでない。例えば、要求EGR量に基づいてEGR領域からの減速時であるか否かを判定する場合であってよい。
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるわけではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内でさまざまな変更をなし得ることは言うまでもない。