JP6754025B1 - アルミニウム合金箔およびアルミニウム合金箔の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
特許文献2では、電子後方散乱解析像法(EBSP)による結晶方位解析で5°以上の方位差を有する境界を結晶粒界と規定し、該結晶粒界に含まれる結晶粒について、結晶粒の平均値Dを12μm以下、かつ、20μmを超える結晶粒径を有する結晶粒の面積率を30%以下としたアルミニウム合金箔が提案されている。
特許文献3では、平均結晶粒径、サブグレインの平均粒径を所定値以下と規定しているほか、Al−Fe化合物の分散密度を所定値以上に規定している。
特許文献4では、集合組織(方位密度)を規定することで成形性を向上させるものとしている。
特許文献2では、非常に微細な結晶粒径を規定しているが、結晶粒界としては5°以上の方位差を有するものに限定されている。5°以上ということは、大傾角粒界と小傾角粒界とが混在しており、大傾角粒界で囲まれた結晶粒が微細であるかは定かではない。
特許文献3は、文献1、2とは異なり電池外装箔ではなく、厚さ10μm以下の薄箔に関する特許である。中間焼鈍なしによって製造されているため、集合組織が発達し、0°、45°、90°方向で安定した伸びが得られない。箔厚みが薄い場合は高い成型性が期待できない。
特許文献4では、集合組織を制御しているが、伸び特性が十分ではなく、強度と伸びのバランスも十分ではない。
・Fe:1.0質量%以上1.8質量%以下
Feは、鋳造時にAl−Fe系金属間化合物として晶出し、サイズが大きい場合は焼鈍時に再結晶のサイトとなって再結晶粒を微細化する効果がある。1.0質量%未満では粗大な金属間化合物の分布密度が低くなりその微細化の効果が低く、最終的な結晶粒径分布も不均一となる。1.8質量%超では結晶粒微細化の効果が飽和もしくは低下し、さらに鋳造時に生成されるAl−Fe系化合物のサイズが非常に大きくなり、箔の伸びと圧延性が低下する。特に好ましい範囲は1.0質量%以上1.6質量%以下である。
SiはFeと共に金属間化合物を形成するが、過剰に添加した場合には化合物のサイズの粗大化、及び分布密度の低下を招く。含有量が上限を超えると、粗大な晶出物による伸びや成形性の低下、さらには最終焼鈍後の再結晶粒サイズ分布の均一性が低下する懸念がある。また、SiはFeの析出を促進する効果がある為、Siを規制しすぎるとFeの固溶量が多くなり焼鈍時の再結晶を強く抑制し、その場再結晶を多く生じる。最終焼鈍時にその場再結晶を生じると、再結晶粒組織の総結晶粒界に占める小傾角粒界の割合が多くなり、「HAGBs/LAGBs」の低下を招き、またCu方位やR方位の密度が増加する原因ともなる。これらの理由からSiの含有量を0.09質量%以上0.20質量%以下に定める。なお、同様の理由により、Si含有量の下限を0.10質量%超、上限を0.18質量%とするのが望ましく、さらにSi含有量の下限を0.12質量%とするのが一層望ましい。
Cuはアルミニウム箔の強度を増加させ、伸びを低下させる元素である。一方ではAl−Fe系合金で報告されている冷間圧延中の過度な加工軟化を抑制する効果がある。0.005%未満の場合、加工軟化抑制の効果が低く、0.05%を超えると伸びが明瞭に低下する。好ましくは0.005%以上0.01%以下である。
Mnはアルミニウム母相中に固溶する、あるいは非常に微細な化合物を形成し、アルミニウムの再結晶を抑制する働きがある。微量であればCuと同様に加工軟化の抑制が期待できるが、添加量が多いと中間焼鈍、及び最終焼鈍時の再結晶を遅延させ、微細で均一な結晶粒を得る事が困難となる。その為0.01%以下に規制する。より好ましくは0.005%以下である。
Al−Fe合金に限ったことではないが、焼鈍時の再結晶挙動によっては総結晶粒界に占める大傾角粒界(HAGBs)の長さL1と小傾角粒界(LAGBs)の長さL2の比率が変化する。最終焼鈍後にLAGBsの割合が多い場合は、たとえ平均結晶粒が微細であったとしても、L1/L2≦2.0の場合は局所的な変形を生じやすくなり伸びが低下する。このため、L1/L2>2.0とするのが望ましく、この規定を満たすことで、より高い伸びが期待できる。より好ましくは、上記比を2.5以上とする。大傾角粒界と小傾角粒界の長さは結晶粒径と同様にSEM−EBSDで測定する事が出来る。観察した視野の面積における大傾角粒界と小傾角粒界の総長さからL1/L2を算出する。
上記比率は、焼鈍時の加熱温度、冷間圧延率、そして均質化処理の条件等により調整することができる。
集合組織は箔の伸びに大きな影響を及ぼす。Cu方位密度が40を超え、且つR方位密度も30を超えると、0°、45°、90°の伸び値に異方性が生じ、特に0°、90°方向の伸び値が低下してしまう。伸びに異方性が生じると、成型時に均一な変形が出来ず成形性が低下する。より好ましくはCu方位密度30以下、及びR方位密度20以下である。
上記方位密度は、焼鈍時の加熱温度、冷間圧延率、均質化処理条件、FeやSiの含有量により調整することができる。
高成形性には箔の伸びも重要であり、特に圧延方向に平行な方向を0°とし、0°、45°、そして圧延方向の法線方向である90°の各方向で伸びが高いことが望ましい。箔の伸び値は箔の厚さの影響を大きく受けるが、例えば厚さ40μmにおいて伸び20%以上であれば高い成形性が期待できる。
軟質アルミニウム箔は結晶粒が微細になることで、変形した際の箔表面の肌荒れを抑制することができ、高い伸びとそれに伴う高い成形性が期待できる。なお、この結晶粒径の影響は箔の厚みが薄い程大きくなる。高い伸び特性やそれに伴う高成形性を実現するには方位差15°以上の大傾角粒界に囲まれた結晶粒について、平均結晶粒径が10μm以下であることが望ましい。ただし平均結晶粒径が同じであっても、結晶粒の粒径分布が不均一である場合、局所的な変形を生じ易くなり伸びは低下する。そのため、平均結晶粒径を10μm以下とするだけでなく、最大粒径/平均粒径≦3.0とすることで高い伸び特性を得ることができる。
なお、平均粒径は8μm以下が好ましく、前記比は2.0以下が好ましい。
後方散乱電子回折(EBSD;Electron BackScatter Diffraction)によって単位面積あたりの結晶方位解析によって方位差15°以上の大傾角粒界マップを得る事が出来る。
上記性質は、FeやSiの含有量、均質化処理条件、焼鈍時の加熱温度、そして冷間圧延率によって調整することができる。
ここでの均質化処理は鋳塊内のミクロ偏析の解消と金属間化合物の分布状態を調整する事を目的としており、最終的に微細で均一な結晶粒組織を得る為に非常に重要な処理である。均質化処理において、520℃未満の温度では鋳塊内のミクロ偏析を解消する為に非常に長い時間を要する為望ましくなく、金属間化合物の分布状態も適切にならない。また560℃を超える温度では晶出物が成長し、再結晶の核生成サイトとなる粒径1μm以上3μm未満の粗大な金属間化合物の密度が低下する為、結晶粒径が粗大になりやすい。また中間焼鈍や最終焼鈍時に目指す集合組織を得るためには、Feを出来るだけ析出させる必要がある。560℃を超える高温では若干ではあるがFeの再固溶を生じる為、Feの固溶量を抑えるためには560℃以下が望ましい。均質化処理に必要な時間は温度によって変わるが、いずれの温度でも最低6時間以上は確保する必要がある。6時間未満ではミクロ偏析の解消やFeの析出が不十分となる懸念がある。
均質化処理後に熱間圧延を行う。熱間圧延においては仕上がり温度を280℃未満とし、再結晶を抑制する事が望ましい。熱間圧延仕上がり温度を280℃未満とする事で、熱間圧延板は均一なファイバー組織となる。このように熱間圧延後の再結晶を抑制する事で、その後の中間焼鈍板厚までに蓄積されるひずみ量が大きくなり、中間焼鈍時に微細な再結晶粒組織を得る事が出来る。この事は最終的な結晶粒の微細に繋がる。280℃以上では熱間圧延板の一部で再結晶を生じ、ファイバー組織と再結晶粒組織が混在する事になり、中間焼鈍時の再結晶粒径が不均一化し、それはそのまま最終的な結晶粒径の不均一化に繋がる。230℃未満で仕上げるには熱間圧延中の温度も極めて低温となる為、板のサイドにクラックが発生し生産性が大幅に低下する懸念がある。
中間焼鈍は冷間圧延を繰り返す事で硬化した材料を軟化させ圧延性を回復させ、またFeの析出を促進し固溶Fe量を低下させる。300℃未満では再結晶が完了せず結晶粒組織が不均一になるリスクがある、また400℃を超える高温では再結晶粒の粗大化を生じ、最終的な結晶粒サイズも大きくなる。さらに高温ではFeの析出量が低下し、固溶Fe量が多くなる。固溶Fe量が多いと最終焼鈍時の再結晶が抑制され、Cu方位とR方位の密度が大幅に増加してしまう。
中間焼鈍後から最終厚みまでの最終冷間圧延率が高い程、材料に蓄積されるひずみ量が多くなり最終焼鈍後の再結晶粒が微細化される。また結晶粒は冷間圧延の過程でも微細化されるため(Grain Subdivision)、その意味でも最終冷間圧延率は高い方が望ましい、具体的には最終冷間圧延率を90%以上とすることが望ましい。90%未満では蓄積ひずみ量の低下や圧延中の結晶粒微細化も不十分となり、最終焼鈍後の結晶粒サイズも大きくなる。またその場再結晶の割合も増え、方位差15°未満のLAGBsが増加しHAGBs/LAGBsが小さくなり、またCu方位密度とR方位密度も増加してしまう。これらの特性を考慮すると最終冷間圧延率は98%以上が好ましい。上限については材料の特性上のデメリットはないものの、99.9%を超える冷間圧延で薄箔を製造する事は、圧延性の低下につながりサイドクラックによる破断の増加も懸念される。
最終冷間圧延後に最終焼鈍を行ない、箔を完全軟化させる。250℃未満の温度や10時間未満の保持時間では軟化が不十分な場合が生じ、350℃を超えると箔の変形や経済性の低下などが問題となる。保持時間の上限は経済性などの観点から24時間未満が好ましい。
Fe:1.0質量%以上1.8質量%以下、Si:0.09質量%以上0.20質量%以下、Cu:0.005質量%以上0.05質量%以下を含有し、Mn:0.01質量%以下に規制し、残部がAl及び不可避不純物からなる組成に調製してアルミニウム合金鋳塊を製造した。鋳塊の製造方法は特に限定されず、半連続鋳造などの常法により行うことが可能である。得られた鋳塊に対しては、520〜560℃で6時間以上保持する均質化処理を行う。
中間焼鈍降の冷間圧延は最終冷間圧延に相当し、その際の最終冷間圧延率を90%以上とする。箔の厚さは特に限定されないが、例えば10μm〜40μmとすることができる。最終焼鈍はバッチ式相当で250〜350℃で10時間以上の条件で行う。
さらに、後方散乱電子回折(EBSD)による単位面積あたりの結晶方位解析において、方位差が15°以上の粒界を、方位差が2°以上15°未満の粒界を小傾角粒界とし、大傾角粒界の長さをL1、小傾角粒界の長さをL2としたとき、L1/L2>2.0となっている。これにより、より高い伸びが実現されている。
・粒径1μm以上〜3μm未満のAl−Fe系金属間化合物の密度:1×104個/mm2以上
粒径1μm以上とは一般的に再結晶時に核生成サイトになると言われている粒径であり、このような金属間化合物が高密度に分布する事で焼鈍時に微細な再結晶粒を得やすくなる。粒径が1μm未満、あるいは密度が1×104個/mm2未満の場合は、再結晶時に核生成サイトとして有効に働きにくく、3μmを超えると圧延中のピンホールや伸びの低下につながり易くなる。このため、粒径1μm以上3μm未満のAl−Fe系金属間化合物の密度が上記範囲内であることが望ましい。
一般には再結晶時の核生成サイトとなりにくいと言われているサイズだが、結晶粒の微細化及び再結晶挙動に大きな影響を与えていると思われる結果が得られている。メカニズムの全体像は未だ明らかでないが、粒径1〜3μmの粗大な金属間化合物に加え、1μm未満の微細な化合物が高密度に存在する事で最終焼鈍後の再結晶粒微細化、及びHAGBsの長さ/LAGBsの長さの低下抑制が確認されている。冷間圧延中の結晶粒の分断(Grain subdivision機構)を促進している可能性もある。このため、粒径0.1μm以上1μm未満のAl−Fe系金属間化合物の密度が上記範囲であることが望ましい。
・引張強度、伸び
いずれも引張試験にて測定した(箔厚40μm)。引張試験は、JIS Z2241に準拠し、圧延方向に対して0°、45°、90°の各方向の伸びを測定できるように、JIS5号試験片を試料から採取し、万能引張試験機(島津製作所社製 AGS−X 10kN)で引張り速度2mm/minにて試験を行った。伸び率の算出について以下の通りである。まず試験前に試験片長手中央に試験片垂直方向に2本の線を標点距離である50mm間隔でマークする。試験後にアルミニウム合金箔の破断面をつき合わせてマーク間距離を測定し、そこから標点距離(50mm)を引いた伸び量(mm)を、標点間距離(50mm)で除して伸び率(%)を求めた。
箔表面を電解研磨した後、SEM(Scanning Electron Microscope)−EBSDにて結晶方位解析を行い、結晶粒間の方位差が15°以上の結晶粒界をHAGBs(大傾角粒界)と規定し、HAGBsで囲まれた結晶粒の大きさを測定した。倍率×1000で視野サイズ45×90μmを3視野測定し、平均結晶粒径、及び最大粒径/平均粒径を算出した。一つ一つの結晶粒径は円相当径にて算出し、平均結晶粒径の算出にはEBSDのArea法(Average by Area Fraction Method)を用いた。尚、解析にはTSL Solutions社のOIM Analysisを使用した。
箔表面を電解研磨した後、SEM−EBSDにて結晶方位解析を行い、結晶粒間の方位差が15°以上の大傾角粒界(HAGBs)と、方位差2°以上15°未満の小傾角粒界(LAGBs)を観察した。倍率×1000で視野サイズ45×90μmを3視野測定し、視野内のHAGBsとLAGBsの長さを求め、比を算出した。
Cu方位は{112}<111>、R方位は{123}<634>を代表方位とした。それぞれの方位密度はX線回折法において、{111}、{200}、{220}の不完全極点図を測定し、その結果を用いて3次元方位分布関数(ODF;Orientation Distribution Function)を計算し、評価を行った。
成型高さは角筒成形試験にて評価した。試験は万能薄板成形試験器(ERICHSEN社製 モデル142/20)にて行い、厚さ40μmのアルミ箔を図1に示す形状を有する角型ポンチ(一辺の長さL=37mm、角部の面取り径R=4.5mm)を用いて行った。試験条件として、シワ抑え力は10kN、ポンチの上昇速度(成形速度)の目盛は1とし、そして箔の片面(ポンチが当たる面)に鉱物油を潤滑剤として塗布した。箔に対し装置の下部から上昇するポンチが当たり、箔が成形されるが、3回連続成形した際に割れやピンホールがなく成形できた最大のポンチの上昇高さをその材料の限界成型高さ(mm)と規定した。ポンチの高さは0.5mm間隔で変化させた。ここでは張出高さ8.0mm以上を成形性良好と見無し○、8.0mm未満を×と判定した。
金属間化合物は箔の平行断面(RD−ND面)をCP(Cross section polisher)にて切断し、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM:Carl Zeiss社製 NVision40)にて観察を行った。「粒径1μm以上〜3μm未満のAl−Fe系金属間化合物」については、倍率×2000倍にて観察した5視野を画像解析し、密度を算出した。「粒径0.1μm以上〜1μm未満のAl−Fe系金属間化合物」については、倍率×10000倍にて観察した10視野を画像解析し、密度を算出した。算出結果を表1に示した。
Claims (5)
- Fe:1.0質量%以上1.8質量%以下、Si:0.09質量%以上0.20質量%以下、Cu:0.005質量%以上0.05質量%以下を含有し、Mn:0.01質量%以下に規制し、残部がAl及び不可避不純物からなる組成を有し、後方散乱電子回折(EBSD)による単位面積当たりの結晶方位解析において、方位差15°以上の大傾角粒界(HAGBs)と方位差2°以上15°未満の小傾角粒界(LAGBs)の長さの比「HAGBs/LAGBs>2.0」であり、集合組織としてCu方位密度40以下、及びR方位密度30以下である事を特徴とするアルミニウム合金箔。
- 前記組成において、Si:0.10質量%超0.20質量%以下である事を特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金箔。
- 圧延方向に対して0°、45°、90°の各方向の伸びが20%以上である事を特徴とする請求項1または2に記載のアルミニウム合金箔。
- 方位差15°以上の大傾角粒界に囲まれた結晶粒について、平均粒径が10μm以下、かつ最大粒径/平均粒径≦3.0である事を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金箔。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金箔の製造方法であって、請求項1に記載の組成を有するアルミニウム合金の鋳塊に520〜560℃で6時間以上保持する均質化処理を行い、均質化処理後に圧延仕上り温度が230℃以上280℃未満となるように熱間圧延を行い、冷間圧延の途中で、3時間以上、10時間未満、300〜400℃の中間焼鈍を行い、その後の最終冷間圧延率が90%以上であり、最終焼鈍を250〜350℃で10時間以上行う事を特徴とするアルミニウム合金箔の製造方法。
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