前記のような掘削装置においては、掘削された泥が噴射ノズルから噴射された掘削流体に対して引き込まれてしまい、掘削流体の噴流速度が減衰されてしまうという問題がある。この問題は、噴射ノズルから噴射される掘削流体の推進力に引っ張られて、回りの泥が吸い寄せられてしまうことに起因する。
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたもので、噴射ノズルから噴射された掘削流体の噴流速度の減衰をできる限り抑制できる掘削翼を提供しようとするものである。本発明はまた、前記掘削翼を備える掘削装置及び該掘削装置を用いて行う掘削工法並びに地盤改良工法を提供しようとするものである。
前記課題を解決するため、本発明に係る掘削翼は、地中に縦方向に挿入される掘削ロッドに取り付けられ、噴射ノズルから噴射される掘削流体によって地中を掘削可能であり、且つ、前記噴射ノズルからの掘削流体の噴射に基づく反力によって、前記掘削ロッドに対して横に開いた開翼状態への変位と前記掘削ロッドを中心とする回転とを生ずる掘削翼であって、前記噴射ノズルから噴射される掘削流体を噴射方向へと滑走させる掘削流体滑走面を備え、該掘削流体滑走面は、前記掘削翼の開翼状態において掘削流体の上方に位置する下向き面と、前記掘削翼の回転方向における掘削流体の後方に位置する前向き面と、を備え、前記下向き面の下方と前記前向き面の回転方向の前方とが開放されていることを特徴とする(請求項1)。本発明で掘削流体とは、セメントミルク等の固化材液や水等、噴射圧で土壌を掘削可能な流体を指す。
本発明によれば、噴射ノズルから噴射される掘削流体が掘削流体滑走面に接触した状態で掘削流体滑走面に沿って滑走する。このため、噴射ノズルから噴射された掘削流体の拡散が抑制され、掘削流体の噴射速度の低減が防止される。
また、噴射ノズルから噴射された掘削流体の上方には掘削流体滑走面の下向き面があり、噴射ノズルから噴射された掘削流体の後方(掘削翼の回転方向の後方)には掘削流体滑走面の下向き面があるので、掘削流体の上方及び後方の泥が掘削流体に引き込まれることが防止される。
掘削流体滑走面の前向き面の回転方向の前方が開放されているので、この開放部分で掘削流体が土壌を掘削する。そして、掘削流体滑走面の下向き面の下方が開放されているので、掘削流体によって掘削された泥土は掘削翼の下方へと円滑に逃がされる。
好適な実施の一形態として、前記前向き面が、前記掘削翼の回転方向の後方へ向かって下向きに傾斜している態様を例示する(請求項2)。このようにすれば、掘削流体によって掘削された泥土が前向き面に案内されて掘削翼の回転方向の後方へ向かって下向きに逃がされるので、掘削された泥土による掘削翼の回転抵抗が小さくなり、好適である。
好適な実施の一形態として、掘削流体によって掘削された泥土を下向き且つ前記掘削翼の回転方向の後方へと排出する排土板が前記前向き面に起立形成されている態様を例示する(請求項3)。この場合、掘削流体によって掘削された泥土が排土板によって掘削翼の回転方向の後方へと下向きに排出されるので、前向き面から泥土が引き剥がされやすくなり、掘削された泥土による掘削翼の回転抵抗が一層小さくなる。
好適な実施の一形態として、前記掘削翼の回転方向の前端縁に土壌への食い込みを促進する爪が形成されている態様を例示する(請求項4)。このようにすれば、掘削翼が土壌に対して食い込みやすくなるので、土壌の掘削効率が向上する。
好適な実施の一形態として、前記噴射ノズルが前記掘削翼の長さ方向に位置をずらして複数配設され、各噴射ノズルに対応して前記掘削流体滑走面が配設されている態様を例示する(請求項5)。このようにすれば、各噴射ノズルから噴射される掘削流体が各掘削流体滑走面に沿って滑走するので、各噴射ノズルから噴射された掘削流体の拡散が抑制され、掘削流体の噴射速度の低減が防止される。複数の噴射ノズルは掘削翼の長さ方向に位置をずらして配設されるので、各噴射ノズルからの掘削流体による掘削担当距離が短くてすむ。各噴射ノズルから噴射される掘削流体は、各噴射ノズルから遠ざかるほど掘削力が減少する。よって、各噴射ノズルからの掘削流体による掘削担当距離が短くてすめば、各噴射ノズルからの掘削流体が大きな掘削力を持つ範囲でのみ掘削を行うことになり、掘削効率が向上する。
好適な実施の一形態として、前記噴射ノズルの内で前記掘削翼の最も先端側にある噴射ノズルから噴射される掘削流体を前記掘削翼の回転方向の後方且つ下方へと案内する掘削流体ガイドを備える態様を例示する(請求項6)。この場合、掘削流体ガイドによって掘削流体が掘削翼の回転方向の後方且つ下方へと案内されることで、掘削翼を開翼状態に移行させ開翼状態に保持させるための反力がより強く作用するとともに、掘削ロッドを中心として掘削翼を回転させるための反力もより強く作用する。
好適な実施の一形態として、前記噴射ノズルによる掘削流体の噴射方向が前記掘削翼の先端に近い噴射ノズルほど前記掘削翼の回転方向の後方へと向いている態様を例示する(請求項7)。このようにすれば、掘削ロッドを中心として掘削翼を回転させるための反力が尚一層強く作用するようになる。
好適な実施の一形態として、前記噴射ノズルが前記掘削翼の長さ方向の両側に配設され、いずれの側の噴射ノズルから掘削流体が噴射されるかによって、前記掘削ロッドを中心とする回転の方向が切り替わる態様を例示する(請求項8)。この場合、掘削ロッドを中心とする掘削翼の回転の方向を切り替えることができるので、掘削翼の回動角度範囲を任意に設定することができる。よって、掘削翼の回動角度範囲を必要な角度範囲に限定することで、掘削作業現場の要請に応じた適切な範囲で掘削作業を行うことができる。
好適な実施の一形態として、前記掘削翼の長さ方向の先端側にエア噴射ノズルを備え、該エア噴射ノズルが前記掘削翼の回転方向の後方且つ下方へ向いているか、又は、前記エア噴射ノズルから噴射されるエアを前記掘削翼の回転方向の後方且つ下方へと案内するエアガイドを備えている態様を例示する(請求項9)。このようにすれば、エア噴射ノズルからのエア噴射に基づく反力によって、掘削翼の開翼状態への変位と掘削ロッドを中心とする掘削翼の回転とが促進される。また、エア噴射ノズルから噴射されるエアは、噴射ノズルから噴射される掘削流体と同様に、掘削流体によって掘削された泥土を地上へと押し上げて地中から排出させる作用をも奏する。
本発明に係る掘削装置は、地中に縦方向に挿入される掘削ロッドに前記掘削翼が取り付けられていることを特徴とする(請求項10)。この掘削装置により、前記掘削翼について既に述べた通りの作用効果が得られる。
好適な実施の一形態として、前記掘削ロッドに対する前記掘削翼の開翼角度を計測する開翼角度計測器と、該開翼角度計測器の計測結果を地上で表示する開翼角度表示器と、を備える態様を例示する(請求項11)。この場合、掘削ロッドに対する掘削翼の開翼角度を作業員が地上で知ることができるので、地中での作業を精度よく実施することができ、無駄のない工事が可能となる。
好適な実施の一形態として、前記掘削ロッドを中心とする前記掘削翼の回転数を計測する回転計と、該回転計の計測結果を地上で表示する回転数表示器と、を備える態様を例示する(請求項12)。この場合、掘削翼の回転数を作業員が地上で知ることができるので、地中での作業を精度よく実施することができ、無駄のない工事が可能となる。
好適な実施の一形態として、前記掘削翼を複数備え、該各掘削翼が前記掘削ロッドを中心とする均等な角度間隔で前記掘削ロッドに取り付けられる態様を例示する(請求項13)。この態様においては、掘削ロッドを中心とする複数の掘削翼の配設バランスがとれているので、複数の掘削翼が回転する際に掘削ロッドの振れが生じにくい。よって、掘削ロッドの振れ止めを別途配設する等の必要がない。
好適な実施の一形態として、前記掘削翼として内側掘削翼と第一の外側掘削翼とを備え、前記内側掘削翼によって前記掘削ロッドを中心とする内側領域が掘削されるとともに、前記第一の外側掘削翼によって前記内側領域の回りの第一の外側領域が掘削される態様を例示する(請求項14)。この態様によれば、内側掘削翼によって内側領域が掘削されるとともに、第一の外側掘削翼によって内側領域の回りの第一の外側領域が掘削されるので、掘削翼を一つだけ備えたものや、複数の掘削翼で同一の領域を掘削するものよりも、掘削効率が向上する。
好適な実施の一形態として、前記掘削翼として第二の外側掘削翼を備え、該第二の外側掘削翼によって前記第一の外側領域の回りの第二の外側領域が掘削される態様を例示する(請求項15)。この態様によれば、内側掘削翼によって内側領域が掘削されるとともに、第一の外側掘削翼によって内側領域の回りの第一の外側領域が掘削され、さらに、第二の外側掘削翼によって第一の外側領域の回りの第二の外側領域が掘削されるので、掘削効率が一層向上する。
本発明に係る掘削工法は、前記掘削装置を用い、前記噴射ノズルからの掘削流体の噴射に基づく反力によって前記掘削翼を前記掘削ロッドに対して開いた開翼状態で前記掘削ロッドを中心として回転させながら、且つ、前記掘削ロッドを引き上げながら、前記噴射ノズルから噴射される掘削流体によって地中を掘削することを特徴とする(請求項16)。
この掘削工法によれば、掘削流体を噴射ノズルに向けて圧送するだけで、地中の掘削が行われる。掘削翼を開翼状態に維持するための力や、掘削ロッドを中心として掘削翼を回転させるための力を、掘削装置に対して外部から供給する必要がない。このため、少ない噴射エネルギーで効率よく掘削作業を進めることができ、エネルギー効率が向上する。
本発明に係る地盤改良工法は、前記掘削工法において前記掘削流体として固化材液を用い、前記噴射ノズルから噴射される固化材液によって地中を掘削すると同時に、該固化材液で土壌を置換又は前記固化材液と土壌とを混合させることにより地盤を改良することを特徴とする(請求項17)。この地盤改良工法によれば、掘削作業及び置換又は混合作業を同時に進めることができ、エネルギー効率が一層向上する。
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1及び図2に示すように、本発明の実施の一形態に係る掘削装置1は、掘削流体通路2を有する掘削ロッド3と、この掘削ロッド3の下方部に取り付けられる掘削翼4と、を備える。掘削ロッド3は上下方向に延び、掘削ロッド3の下方部には水平回転用スイベル5が配設される。この水平回転用スイベル5は垂直軸(掘削ロッドの中心軸線)Xを中心として回動自在である。
水平回転用スイベル5の側面には、垂直回転用スイベル6を介して掘削翼4が取り付けられる。この垂直回転用スイベル6は水平軸Yを中心として回動自在である。図1,図2の例では、垂直回転用スイベル6が水平回転用スイベル5上に二つ配設され、各垂直回転用スイベル6は、水平回転用スイベル5の側面の、前記垂直軸Xを挟んで互いに対向する位置に配設されている。これは、掘削ロッド3の対称位置に二つの掘削翼4,4を配設するためである。但し、掘削翼4の配設数は、いずれか一方の一つだけでも良いし、三つ以上であってもよい。
各掘削翼4には複数の噴射ノズル7,8,9が配設され、これらの噴射ノズル7,8,9は、垂直回転用スイベル6と水平回転用スイベル5とを介して掘削ロッド3の掘削流体通路2に連通している。各掘削翼4は、垂直回転用スイベル6側の基端部4aからその反対側の先端部4bに向けて細長く延びている。そして、掘削流体は、各噴射ノズル7,8,9から掘削翼4の長さ方向へと噴射される。
各掘削翼4は、噴射ノズル7,8,9から掘削流体の噴射がなされていない非噴射状態においては、基端部4aを上にして掘削ロッド3から垂れ下がっている(図1参照)。そして、各掘削翼4の噴射ノズル7,8,9から掘削流体の噴射がなされると、各掘削翼4には、その噴射力の反力が作用し、この反力で水平方向の回転力と垂直方向の回転力とが付与される。その結果、各掘削翼4は、垂直回転用スイベル6の存在による、掘削ロッド3に対して横に開いた開翼状態への変位と、水平回転用スイベル5の存在による、掘削ロッド3を中心とする水平回転とを生ずる(図2参照)。図2の例では、各掘削翼4の回転方向は矢印Aで示す方向となる。各掘削翼4の開翼角度は、掘削ロッド3に設けられる図示しないストッパによって最大で90度に規制される。したがって、各掘削翼4は、掘削ロッド3を中心として最大で水平状態まで開翼可能である。各掘削翼4の最大開翼角度は、必要に応じて90度より小さく設定することもできる。
なお、図1,図2の例では、掘削ロッド3に対して水平回転用スイベル5を介して垂直回転用スイベル6を設けているが、水平回転用スイベル5を省略し、掘削ロッド3に対して垂直回転用スイベル6を直接的に設けることもできる。この場合には、噴射ノズル7,8,9からの掘削流体の噴射に基づく反力は、掘削ロッド3自体を該掘削ロッド3の中心軸線Xの回りで回転させる回転力として作用する。したがって、この場合には、図示しない掘削施工機に対して掘削ロッド3を回転自在に取り付けることによって、掘削翼4が掘削ロッド3と共に水平回転自在可能となる。
また、各掘削翼4の水平回転の回転方向は、正逆いずれの回転方向でもよく、特に限定されない。水平回転用スイベル5に対する各掘削翼4の取付構造によって自由に決定できる。
前記掘削装置1を用いて行う掘削工法は、次のようにして実施される。すなわち、掘削ロッド3を地中に配置した後、噴射ノズル7,8,9からの掘削流体の噴射に基づく反力によって掘削翼4を掘削ロッド3に対して開いた開翼状態で掘削ロッド3を中心として回転させながら、且つ、掘削ロッド3を引き上げながら、噴射ノズル7,8,9から噴射される掘削流体によって地中を掘削する。
この掘削工法によれば、掘削流体を噴射ノズル7,8,9に向けて圧送するだけで、地中の掘削が行われる。掘削翼4を開翼状態に維持するための力や、掘削ロッド3を中心として掘削翼4を回転させるための力を、掘削装置1に対して外部から供給する必要がない。このため、少ないエネルギーで効率よく掘削作業を進めることができ、エネルギー効率が向上する。
次に、図3を参照して、前記掘削工法を実施する際の掘削装置1の動作について説明する。図3は、図1のIII−III矢視図である。掘削ロッド3の掘削流体通路2へと掘削流体が供給されない間は、掘削翼4は、自重によって下方に垂れ下がった状態となっている。この状態で予め掘削した削孔10に掘削ロッド3を挿入する(図3(a))。
掘削ロッド3の掘削流体通路2へと掘削流体を圧送すると、掘削流体は水平回転用スイベル5と垂直回転用スイベル6とを介して掘削翼4の噴射ノズル7,8,9に供給され、噴射ノズル7,8,9から噴射される。この掘削流体の噴射に基づく反力により、掘削翼4には、水平方向の回転力と垂直方向の回転力とが共に作用し、掘削翼4は水平方向の回転と垂直方向の回転を始める。この時、掘削翼4の噴射ノズル7,8,9から噴射される掘削流体が削孔10の内壁面に強く衝突して土壌を削り取り、図3(b)に示すように削孔の下方を円錐11状に拡径する。
掘削翼4が回転を続けると、掘削翼4の垂直方向の回転は、削孔10の円錐11状の拡径に伴い順次垂直方向上方に回転して開翼するので、図3(b)から(c)に示すようにそれに応じ掘削ロッド3を下方に移動させると、遂には、掘削翼4は、図3(d)に示すように水平状態にまで開翼する。この水平位置まで開翼したら、ストッパ(図示省略)によりそれ以上の開翼が規制され、掘削翼4は水平状態を保持する。噴射ノズル7,8,9から掘削流体を噴射している間は、掘削翼4には垂直方向への回転力が作用するので、掘削翼4の水平状態は維持される。その後は、掘削翼4は、掘削流体を噴射しつつ水平回転を続けるので、掘削ロッド3を徐々に引き上げることで削孔することができる。
掘削流体としては、セメントミルク等の固化材液や水等、噴射圧で土壌を掘削可能な流体が用いられる。掘削流体としてセメントミルク等の固化材液を用いると、地盤の掘削とともに地盤の改良も同時に行える。ここで地盤の改良とは、地盤の土壌の一部を固化材液で置換したり、地盤中で土壌と固化材液とを混合させたりすることを指す。掘削流体として水を用いる場合には、水によって掘削された泥土は、掘削ロッド3が挿通されている削孔10内を上方へと押し上げられ、地上へと噴出する。水による掘削が終了した後、形成された削孔内にセメントミルク等の固化材液を供給することで、地盤の改良(固化材液による置換)を行うことができる。
図3では、掘削翼4が開翼するにしたがい掘削ロッド3を下方に移動させる(図3(b))ことによって、削孔10の孔底近傍で掘削翼4が水平状態となるようにしているが、他の掘削工法として、図4に示すように、掘削ロッド3を下方に移動させることなく、その位置で削孔10を拡径しつつ掘削翼4を水平状態としてもよい。図4は、削孔10の孔底において、掘削ロッド3をその位置で(図3のように下方に移動させることなく)掘削翼4を開翼して水平状態とする様子を工程順((a)→(b)→(c)→(d))に示している。
次に、掘削翼4の詳細について説明する。図2中の掘削翼4の一つを下から見た状態が図5に示してある。図5では、開翼状態の掘削翼4を下から示してあるので、掘削翼4が開翼状態のときに下向きとなる面が図5に現れている。また、掘削翼4の水平回転方向が図5に矢印Aで示してある。なお、図5で見て掘削翼4の裏面(すなわち、掘削翼4が開翼状態のときに上向きとなる面)は、平坦面とされている(図2,図6,図7参照)。
図5に示すように、掘削翼4は、掘削ロッド3に接続される基端部4a側に垂直回転用スイベル6を有する。この垂直回転用スイベル6が水平回転用スイベル5の側面に対して、例えばねじ結合等の適宜の方法で結合される(図1参照)。掘削翼4は、基端部4a側から先端部(自由端部)4b側へと細長く延びている。掘削翼4には、開翼状態において下向きとなる面に複数の噴射ノズル7,8,9が配設されている。複数の噴射ノズル7,8,9は、掘削翼4の先端に近いものほど掘削翼4の水平回転方向の後方に位置する。図5には、三つの噴射ノズル7,8,9を備えた例を示してあるが、噴射ノズルの数は二つでも四つ以上であってもよい。また、必ずしも複数には限定されず、単一の噴射ノズルを備えるものであってもよい。
図5の例では、三つの噴射ノズル7,8,9が掘削翼4の長さ方向に位置をずらして配設されている。三つの噴射ノズル7,8,9の向きは同一であり、掘削翼4の長さ方向を向いている。これらの噴射ノズル7,8,9は、掘削翼4の基端部4a内に設けられた掘削流体分配器12と垂直回転用スイベル6とを介して、掘削ロッド3内の掘削流体通路2に連通する。
掘削翼4の先端部4bには掘削流体ガイド13が設けられる。この掘削流体ガイド13は、複数の噴射ノズル7,8,9の内で掘削翼4の最も先端側にある噴射ノズル9から噴射される掘削流体を掘削翼4の水平回転方向(矢印A)の後方且つ下方へと案内する。図2と図5とにおいて、矢印Bが掘削流体ガイド13による掘削流体の案内方向を示している。掘削流体ガイド13を設けることで、掘削翼4を開翼状態に移行させ開翼状態に保持させるための反力がより強く作用するとともに、掘削ロッド3を中心として掘削翼4を回転させるための反力もより強く作用する。なお、掘削流体ガイド13を省略し、掘削翼4の最も先端側にある噴射ノズル9自体を掘削翼4の水平回転方向の後方且つ下方へ向けて配設することで、前記と同様の作用効果を得ることもできる。
掘削翼4には、噴射ノズル7,8から噴射される掘削流体を噴射方向へと滑走させる掘削流体滑走面14が設けられる。図5の例では、掘削流体滑走面14が、複数の噴射ノズル7,8,9の内、掘削翼4の最も先端側の噴射ノズル9を除く二つの噴射ノズル7,8のそれぞれに対応させて配設される。
図5〜図7に示すように、各掘削流体滑走面14は、掘削翼4の開翼状態において掘削流体の上方に位置する下向き面15と、掘削翼4の水平回転方向(矢印A)における掘削流体の後方に位置する前向き面16と、を備える。そして、前記下向き面15の下方と前記前向き面16の水平回転方向の前方とが開放されている。なお、図6,図7において、符号8a,9aは、噴射ノズル8,9のそれぞれに掘削流体を送るための管路である。
前記構成によれば、掘削翼4の最も先端側の噴射ノズル9を除く噴射ノズル7,8から噴射される掘削流体は、掘削流体滑走面14に接触した状態で掘削流体滑走面14に沿って滑走する。このため、掘削翼4の最も先端側の噴射ノズル9を除く噴射ノズル7,8から噴射された掘削流体の拡散が抑制され、掘削流体の噴射速度の低減が防止される。
また、噴射ノズル7,8から噴射された掘削流体の上方には掘削流体滑走面14の下向き面15があり、噴射ノズル7,8から噴射された掘削流体の後方(掘削翼の水平回転方向の後方)には掘削流体滑走面14の下向き面16があるので、掘削流体の上方及び後方の泥土が掘削流体に引き込まれることが防止される。このため、掘削された泥土によって掘削流体の噴流速度が減衰されることがない。
掘削流体滑走面14の前向き面16の水平回転方向の前方が開放されているので、この開放部分で掘削流体が土壌を掘削する。そして、掘削流体滑走面14の下向き面15の下方が開放されているので、掘削流体によって掘削された泥土は掘削翼4の下方へと円滑に逃がされる。
掘削流体滑走面14の前記前向き面16は、掘削翼4の最大開翼状態において、上から下へと垂直に延びる態様であってもよいが、好ましくは、図6及び図7に示すように、掘削翼4の回転方向の後方へ向かって下向きに傾斜させて設ける。このようにすれば、掘削流体によって掘削された泥土が前向き面16に案内されて掘削翼4の水平回転方向の後方へ向かって下向きに逃がされるので、掘削された泥土による掘削翼4の回転抵抗が小さくなり、好適である。
図5に示すように、掘削流体滑走面14の前記前向き面16には、適数の排土板17が起立形成される。これらの排土板17は、掘削流体によって掘削された泥土を下向き且つ掘削翼4の水平回転方向の後方へと排出できる角度で前記前向き面16に起立形成される。図5と図7とにおいて、矢印Cが排土板17による泥土の排出方向を示している。これらの矢印Cから明らかなように、掘削流体によって掘削された泥土が排土板17によって掘削翼4の水平回転方向の後方へと下向きに案内されて排出される。よって、前向き面16から泥土が引き剥がされやすくなり、掘削された泥土による掘削翼4の回転抵抗が一層小さくなる。
図2及び図5に示すように、各掘削翼4の水平回転方向の前端縁には、土壌への食い込みを促進する爪18が形成されている。この爪18を設けることで、掘削翼4が土壌に対して食い込みやすくなるので、土壌の掘削効率が向上する。爪18は、図5に示すように、鋸刃状に密に連続させて設けてもよいし、パワーショベルのバケットに形成される爪のように、爪と爪との間に適宜の間隔をおいて設けてもよい。
既に述べたように、各掘削翼4においては、噴射ノズル7,8,9が掘削翼4の長さ方向に位置をずらして複数配設され、掘削翼4の最も先端側の噴射ノズル9を除く噴射ノズル7,8に対応して掘削流体滑走面14が配設されている(図5参照)。この構成により、噴射ノズル7,8から噴射される掘削流体が掘削流体滑走面14に沿って滑走する。このため、噴射ノズル7,8から噴射された掘削流体の拡散が抑制され、掘削流体の噴射速度の低減が防止される。複数の噴射ノズル7,8,9は掘削翼4の長さ方向に位置をずらして配設されるので、各噴射ノズル7,8,9からの掘削流体による掘削担当距離が短くてすむ。各噴射ノズル7,8,9から噴射される掘削流体は、各噴射ノズル7,8,9から遠ざかるほど掘削力が減少する。よって、各噴射ノズル7,8,9からの掘削流体による掘削担当距離が短くてすめば、各噴射ノズル7,8,9からの掘削流体が大きな掘削力を持つ範囲でのみ掘削を行うことになり、掘削効率が向上する。
図5の例は、複数の噴射ノズル7,8,9の向きが同一とされている態様である。これに対し、図8に示すように、複数の噴射ノズル19,20,21,22の向きを異ならせる態様も採用可能である。具体的には、複数の噴射ノズル19,20,21,22による掘削流体の噴射方向が、掘削翼4の先端に近い噴射ノズルほど掘削翼4の水平回転方向の後方Dへと向いている態様である。このようにすれば、各噴射ノズル19,20,21,22からの掘削流体の噴射に基づく反力が、掘削ロッド3を中心として掘削翼4を水平回転させる方向(矢印A方向)へと尚一層強く作用するようになる。よって、掘削翼4の水平回転力が大きくなり、好適である。なお、図8では、掘削流体滑走面の図示を省略してある。
他の実施の形態の掘削翼23として、図9に示すように、噴射ノズル24,25,26,27,28,29が掘削翼4の長さ方向の両側に配設され、いずれの側の噴射ノズルから掘削流体が噴射されるかによって、掘削ロッド3を中心とする水平回転の方向が切り替わる態様のものを採用することもできる。図9の例は、掘削翼を刃物に例えれば、両刃式の掘削翼と称することができる。
図9の例では、水平回転用スイベル5と垂直回転用スイベル6,6とを介して、掘削ロッド3に対して単一の掘削翼23が取り付けてある。この掘削翼23の長さ方向の片側に、複数(一例として三つ)の噴射ノズル24,25,26を掘削翼23の長さ方向に位置をずらして設けてある。また、掘削翼23の他の片側にも、複数(一例として三つ)の噴射ノズル27,28,29を掘削翼23の長さ方向に位置をずらして設けてある。掘削翼23の最も先端側の噴射ノズル26,29の向きは、掘削翼23を開翼させるための反力と水平回転させるための反力とが共に強く働くように、掘削翼23の水平回転方向の後方且つ下向きとされている。また、掘削翼23の長さ方向の両側に、図5の掘削翼4と同様の爪18を設けてある。そして、掘削流体の圧送流路を掘削ロッド3内に配設した第一の流路2aと第二の流路2bとに切り替え可能としてある。そして、第一の流路2aから掘削翼23の一方の片側の噴射ノズル24,25,26側への掘削流体の供給が行われる。また第二の流路2bから掘削特23の他方の片側の噴射ノズル27,28,29側への掘削流体の供給が行われる。その結果、第一の流路2aと第二の流路2bのいずれの流路を通して掘削翼23へ向けて掘削流体を供給するかによって、掘削ロッド3を中心とする掘削翼23の水平回転の方向を矢印A1の方向と矢印A2の方向とに切り替えることができる。これにより、掘削翼23の回動角度範囲を任意に設定することができる。
すなわち、図5の構成で掘削翼4を一方向に連続的に水平回転させながら掘削ロッド3を引き上げると、掘削ロッド3を上から見て円形の範囲で上方へと掘削が進行することになる。これに対し、図9の構成によれば、掘削翼23のいずれの側の噴射ノズル24,25,26/27,28,29に掘削流体を供給するかを適宜に切り替えることにより、掘削翼23の水平回転の角度を所定の角度範囲に限定することができる。このため、例えば図10(a)(b)(c)に示すように、必要な角度範囲でのみ掘削を行うことができる。このように、図9の構成によれば、掘削翼23の水平回動角度範囲を必要な角度範囲に限定することで、不必要な範囲は掘削しない等、掘削作業現場の要請に応じた適切な範囲で掘削作業を行うことができる。
他の実施の形態の掘削翼として、掘削翼4の長さ方向の先端側にエア噴射ノズル31を備え、該エア噴射ノズル31から噴射されるエアを掘削翼4の水平回転方向の後方且つ下方へと案内するエアガイド32を備える態様を採用することもできる。この実施の形態は、図5の構成において、掘削翼4の長さ方向の最も先端側の噴射ノズル9をエア噴射ノズル31に置換したものに相当する。
このエア噴射ノズル31には、図示しないエア流路を介して地上からエアを圧送する。このようにすれば、エア噴射ノズル31からのエア噴射に基づく反力によって、掘削翼4の開翼状態への変位と掘削ロッド3を中心とする掘削翼4の水平回転とが促進される。また、エア噴射ノズル31から噴射されるエアは、噴射ノズルから噴射される掘削流体と同様に、掘削流体によって掘削された泥土を、削孔10(図3,図4参照)を通して地上へと押し上げて地中から排出させる作用をも奏する。なお、前記エアガイド32を省略し、エア噴射ノズル31自体が掘削翼4の水平回転方向の後方且つ下方へ向いている態様とすることもできる。
他の実施の形態の掘削装置として、図11に示すように、掘削ロッド3に対する掘削翼4の開翼角度を計測する開翼角度計測器33と、該開翼角度計測器33の計測結果を地上で表示する開翼角度表示器34と、を備える態様を採用することもできる。この場合、掘削ロッド3に対する掘削翼4の開翼角度を作業員が地上で知ることができるので、地中での作業を精度よく実施することができ、無駄のない工事が可能となる。開翼角度計測器33としては、それ自体公知の種々の形式の角度計を用いることができる。同じく、開翼角度表示器43も、それ自体公知の種々の形式の表示器を用いることができる。
同じく図11に示すように、掘削ロッド3を中心とする掘削翼4の回転数を計測する回転計35と、該回転計35の計測結果を地上で表示する回転数表示器36と、を備える態様を採用することもできる。この場合、掘削翼4の回転数を作業員が地上で知ることができるので、地中での作業を精度よく実施することができ、無駄のない工事が可能となる。回転計35としては、それ自体公知の種々の形式のもの用いることができる。同じく、回転数表示器36も、それ自体公知の種々の形式の表示器を用いることができる。
既に述べたように、図2の掘削装置1は、二つの掘削翼4,4を備え、これらの掘削翼4,4が掘削ロッド3を中心として対称な位置に配設された態様である。図12は、図2の掘削装置を上から見たときの平面図である。図12において、矢印Aは掘削翼の回転方向を示している。
他の実施の形態の掘削装置として、図13に示すように、三つの掘削翼4,4,4を備え、該各掘削翼4,4,4が掘削ロッド3を中心とする均等な角度間隔で掘削ロッド3に取り付けられる態様を採用することもできる。図13において、矢印Aは掘削翼の回転方向を示している。
図12及び図13に例示したように、掘削翼4を複数備え、該各掘削翼4が掘削ロッド3を中心とする均等な角度間隔で掘削ロッド3に取り付けられる態様とすれば、掘削ロッドを中心とする複数の掘削翼4の配設バランスがとれるので、複数の掘削翼4が回転する際に掘削ロッド3の振れが生じにくい。よって、掘削ロッド3の振れを抑止するためのバランサを別途配設する等の必要がない。
他の実施の形態の掘削装置43として、図14に示すものを採用することもできる。すなわち、掘削翼として内側掘削翼37と第一の外側掘削翼38とを備え、内側掘削翼37によって掘削ロッド3を中心とする内側領域39が掘削されるとともに、第一の外側掘削翼38によって内側領域39の回りの第一の外側領域40が掘削される態様の掘削装置である。
内側掘削翼37としては、すでに述べた掘削翼4を用いることができる。一方、第一の外側掘削翼38としては、すでに述べた掘削翼4に変更を加えたものを用いる。その変更とは、掘削翼4の長さを伸ばし、掘削翼38の最も基端部寄りの噴射ノズルの配設位置を、前記内側領域39の外周位置まで掘削翼38の先端側にずらして設けることである。よって、第一の外側掘削翼38は、噴射ノズルのない非掘削関与領域41を基端部側に有し、非掘削関与領域41よりも掘削翼38の先端側が噴射ノズルのある掘削関与領域42となる。
この態様によれば、内側掘削翼37によって内側領域39が掘削されるとともに、第一の外側掘削翼38の掘削関与領域42によって内側領域39の回りの第一の外側領域40が掘削されるので、掘削翼を一つだけ備えたものや、複数の掘削翼で同一の領域を掘削するものよりも、掘削効率が向上する。
他の実施の形態の掘削装置44として、図15に示すものを採用することもできる。図15の例は、図14の例に第二の外側掘削翼45を追加したものである。すなわち、掘削翼として第二の外側掘削翼45をさらに備え、該第二の外側掘削翼45によって第一の外側領域40の回りの第二の外側領域46が掘削される態様の掘削装置である。
第二の外側掘削翼45としては、図14の第一の外側掘削翼38に変更を加えたものを用いる。その変更とは、第一の外側掘削翼38の長さを伸ばし、該第一の外側掘削翼38の最も基端部寄りの噴射ノズルの配設位置を、前記第一の外側領域40の外周位置まで第二の掘削翼45の先端側にずらして設けることである。よって、第二の外側掘削翼45は、噴射ノズルのない非掘削関与領域47を基端部側に有し、非掘削関与領域47よりも掘削翼45の先端側が噴射ノズルのある掘削関与領域48となる。
この態様によれば、内側掘削翼37によって内側領域39が掘削されるとともに、第一の外側掘削翼38の掘削関与領域42によって内側領域39の回りの第一の外側領域40が掘削され、さらに、第二の外側掘削翼45の掘削関与領域48によって第一の外側領域40の回りの第二の外側領域46が掘削されるので、掘削効率が一層向上する。