JP6748805B2 - きのこの子実体の栽培方法及び栽培装置 - Google Patents

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Description

本発明は、きのこの栽培方法及び栽培装置に関し、より詳細には、きのこ類の子実体の栽培時に利用される培地を浸水する際に用いる水溶液の溶存酸素量を好適に保つことにより、培地単位重量当たりのきのこ類の子実体の収穫量を増加する栽培方法及びその栽培装置に関する。
従来より、きのこ類の栽培には、きのこ類の菌糸体を培養し、これを培地に定植してきのこ類の子実体を栽培する方法が用いられている。きのこ類の菌糸体の培養方法として、例えば、特許文献1には、キノコ類(公報記載のとおり)の菌糸体を培養するための培養液体について多量溶存酸素条件下にて前記菌糸体を培養する方法が記載されている。一方、特許文献2には、ナノバルブもしくはマイクロバブルを発生して溶液に酸素を含ませ、水耕栽培用溶液中の微生物を活性化して該溶液に別に加えた自然有機物の分解を促進させ、該溶液に前記自然有機物に含まれる養分を分散させて植物を栽培する水耕栽培装置に関わる発明が記載されている。
しかしながら、特許文献1では、キノコ類(公報記載のとおり)の菌糸体の培養についての記載があり、菌糸体を含む培養液を固液分離し、前記菌糸体に含まれるβ-Dグルカンを効率良く得るための方法についてのみ記載されており、子実体については表記も効果も全く記載されていない。一方、特許文献2には、トマトなどの植物について前記溶液にマイクロバブルやナノバブルを含ませた水耕栽培装置において、養液中の自然有機物を分解し、この自然有機物に含まれる養分を植物が吸収するため、栽培に有効である旨の記載はあるが、菌類であるきのこ類の子実体の栽培に対する効果については全く記載されていない。また、非特許文献1には、マイクロバブルによる殺菌技術についての記載があり、マイクロバブルやナノバブルを利用する事により、前記特許文献2に記載されている自然有機物の分解がマイクロバブルやナノバブルにより行われる可能性や、マイクロバブルやナノバブルが水の中ではじける際に生じる衝撃などにより菌類が殺菌・制菌される可能性が示唆されている。
一方、きのこ類の培地栽培において最も重視されているのはアミノ酸量が十分な子実体が栽培され且つ培地重量に対し子実体の収穫重量の割合が高いこと、即ち効率的な栽培ができることである。培地として菌床を用いる場合では、収穫重量の割合の目安である(子実体の収穫重量)/(菌床重量)比=0.4を超え且つアミノ酸量が十分含まれている子実体の栽培方法の開発が強く望まれていた。更に、子実体の収穫が終わった後の培地残部は産業廃棄物となることから、培地残部の低減が強く望まれていた。
特開2005−46070号公報 特開2011−24475号公報
第2回アグリ技術シーズセミナー 2011年10月3日 資料
本発明は、上記課題を鑑みなされたものであり、きのこ類の子実体の効率的な栽培を行うための目安である(子実体の収穫重量)/(培地重量)比を高めるためにきのこ類の子実体の培地栽培中に溶存酸素量が多く含まれる水溶液に前記培地を少なくとも1回浸水する工程とこの浸水工程中に溶存酸素量が多く含まれる水溶液を添加する添加工程を行うことによって、栽培されるきのこ類の子実体に含まれるアミノ酸量を低減することなく、栽培工程における(子実体の収穫重量)/(培地重量)比を0.4よりも高めることを実現し、培地の含水率を高めることができ、更にきのこ類の生産量を制御したい場合には、前記溶存酸素量が多く含まれる水溶液に培地を浸水する工程を栽培の全工程の中で選択することにより子実体の収量の制御を可能とし、きのこ類の子実体の収量の増加、(子実体の収穫重量)/(培地重量)比の増加、菌床からアミノ酸の効率的な生成、更に培地残部の低減による環境負荷低減を実現するきのこ類の栽培方法及び栽培装置を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、きのこ類の培地栽培において、きのこ類の栽培時に行われる浸水工程で、水溶液に含まれる溶存酸素量を20mg/リットル以上とし、且つ前記浸漬工程と同一の工程中に溶存酸素量が20mg/リットル以上50mg/リットル以下である水溶液を少なくとも1回添加することにより菌床内もしくは菌床に接触する水溶液中の溶存酸素量を好適に保ち、きのこ類の子実体に含まれるアミノ酸量を低減することなく、(子実体の収穫重量)/(培地重量)比が0.4を超え、且つ培地残部が低減する栽培が可能であること、更には、この栽培が可能となるきのこ類の子実体の栽培装置を開発し、本発明をなすに至った。
即ち、本発明は、好気性菌から発生するきのこ類の子実体の栽培方法であって、前記好気性菌を培地に定植し定植培地を製造する工程と、定植培地製造後に行われる第一収穫工程と、第一収穫工程の後に前記定植培地を溶存酸素量が20mg/リットル以上40mg/リットル以下に調整された水溶液に少なくとも一度浸水する第一浸水工程と、第一浸水工程中に少なくとも一度溶存酸素量が20mg/リットル以上50mg/リットル以下の水溶液を添加する添加工程があり、第一浸水工程の後定植培地から発生するきのこ類の子実体を収穫する第二収穫工程と、この第二収穫工程の後に収穫を行った定植培地を溶存酸素量が20mg/リットル以上40mg/リットル以下に調整された水溶液に少なくとも一度浸水する第二浸水工程と、第二浸水工程中に少なくとも一度溶存酸素量が20mg/リットル以上50mg/リットル以下の水溶液を添加する添加工程があり、前記第二浸水工程の後に発生するきのこ類の子実体を収穫する第三収穫工程と、第三収穫工程の後に前記第二浸水工程と同じ浸水工程、添加工程及び収穫工程を1回以上4回以下繰り返すことを特徴とする好気性菌から発生するきのこ類の子実体の栽培方法である。
この浸水工程と添加工程に用いられる水溶液の温度は5℃以上30℃未満であると好適であり、前記定植培地単位重量当たりの浸水工程及び/又は添加工程における溶存酸素量が0.1g/kg(菌床)以上0.25g/kg(菌床)となる水溶液及び水量を好ましく用いる事ができ、浸水前培地重量に対する浸水後培地重量が18%以上40%以下増加する事を特徴としている。また、浸水工程及び又は添加工程に用いられる水溶液に含まれる養分として、ナトリウムイオン、アンモニウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、硝酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオンなどのきのこ類の子実体に含まれる養分が含まれると好適である。更にまた、前記第一以降の浸水工程の時間が4時間以上24時間以下、前記添加工程の開始及び実施時間が浸水工程開始後0.1時間後から23時間までに行われると好適である。
このきのこの子実体の栽培方法は、きのこ類として、しいたけ、エノキダケ、ナメコ、マイタケ、キクラゲ、シロキクラゲ、アラゲキクラゲ、ブナシメジ、ヒラタケ、タモギタケ、ヤマブシタケから選ばれる少なくとも1種のきのこに対し好ましく用いることができる。
上記培地は、原木を用いることもできるし、きのこ類の栽培において用いられる人工的な菌床を用いることもできる。
更に本発明は、きのこ類の栽培装置として、好気性菌から発生するきのこ類の栽培装置であって、水溶液中の溶存酸素量を増加する溶存酸素増加装置と、溶存酸素量が1mg/リットル以上50mg/リットル以下の水溶液を添加するための水溶液供給装置と、単位菌床当たりの水溶液中の溶存酸素量が0.01g/kg(培地)以上0.25g/kg(培地)以下で温度5℃以上30℃以下の水溶液に培地を浸水するための水槽と、浸水後の培地を保持する保持具と、培地を子実体の発生温度に保持する温度保持手段と、光照射手段とを持つことを特徴とする好気性菌から発生するきのこ類の栽培装置を提供する。
本発明のきのこ類の子実体の栽培方法及びきのこ類の栽培装置によれば、きのこ類の子実体の栽培方法において栽培工程における(子実体の収穫重量)/(培地重量)比が0.4を超え、アミノ酸を好適に含み、且つ培地残部が低減する、きのこ類の子実体の栽培を好適に行うことが可能となり、これにより低位の資材であるおがくずなどから効率的なアミノ酸生成が可能となり、更に、溶存酸素量を増やすことにより培地の含水率を増やせるため、きのこ類を好適に栽培できる。更に、培地残部の低減による環境負荷低減を実現するきのこ類の子実体の栽培方法及び栽培装置を実現でき、培地残部による産業廃棄物の低減に寄与する効果が得られる。
本発明の実施例1と比較例1のしいたけの収量である。 本発明の実施例2と比較例2のしいたけの収量である。 本発明の実施例1に用いた栽培装置の概略構成図である。 本発明の実施例1及び実施例2に用いた、栽培工程図である。
以下、本発明につき、より詳細に説明すると、本発明のきのこ類の子実体の栽培方法及び栽培装置は、少なくとも前記好気性菌を培地に定植し定植培地を製造する工程と、
前記定植培地から発生するきのこ類の子実体を収穫する第一収穫工程と
前記第一収穫工程後の培地を溶存酸素量が20mg/リットル以上40mg/リットル以下に保たれた水溶液に浸水する第一浸水工程とこの第一浸水工程中に溶存酸素量が20mg/リットル以上50mg/リットル以下に保たれた水溶液を添加する添加工程と、
前記第一浸水工程及び添加工程の後、発生するきのこ類の子実体を収穫する第二収穫工程と
前記第二収穫工程の後、溶存酸素量が20mg/リットル以上40mg/リットル以下に保たれた水溶液に定植培地を浸水する第二浸水工程とこの第二浸水工程中に溶存酸素量が20mg/リットル以上50mg/リットル以下に保たれた水溶液を添加する添加工程と
前記第二浸水工程及び添加工程の後の養生工程と、発生するきのこ類の子実体を収穫する第三の収穫工程と、前記第三収穫工程の後、前記第二浸水工程、添加工程及び前記第二収穫工程の各工程を繰り返し行う栽培を行うものである。
前記添加工程は、きのこ類の栽培量や収穫量を制御するため、全栽培工程の内少なくとも一度実施することができる。
本発明で用いられる培地は、原木及び又は菌床を用いる事ができる。原木の種類としては、広葉樹を好ましく用いる事ができ、クヌギ、コナラ、ミズナラが好ましく用いられる。培地として用いられる菌床は、おがくず、バガス、米ぬか、おから、とうもろこしを原料とする材料、フスマ、ビール粕、サツマイモ粕から選ばれる少なくとも1種の材料を好ましく用いることができる。この菌床においては、乾燥時において、おがくずが全体の72重量%以上78重量%以下が好ましく用いられ、21質量%以上28重量%がバガス、米ぬか、おから、とうもろこしを原料とする材料、フスマ、ビール粕、サツマイモ粕から選ばれる少なくとも1種の材料が好ましく用いられる。おがくずの種類としては、シイ、カシ、クヌギ、コナラ、ミズナラなどの広葉樹から選ばれる少なくとも1種の材が好ましく用いられる。更に菌床には、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、マンガン、窒素、酸素、銅、亜鉛、ホウ素、ナトリウム、カリウム、水素、硫黄、亜鉛、モリブデン、ケイ素、塩素、炭素などを添加することができる。これら元素の添加のための資材に関しては特に限定されないが、植物の栽培に利用される原料が好ましく用いられる。カルシウムとしては、炭酸カルシウムを用いる事ができ、マグネシウムとしては、硫酸マグネシウムや炭酸マグネシウムを好ましく用いることができる。また、リン酸には、リン酸水素カルシウムなどの資材が好ましく用いられる。培地の水分率は、50%以上70%以下に調整すると好ましく、55%以上68%以下が更に好ましく、58%以上63%未満が最も好ましく用いられる。培地の水分率が多すぎると培地の固定が難しくなり、少なすぎると菌糸体の育成が上手くいかなくなる場合がある。この培地にきのこ類の種菌を定植する。定植されるキノコ類の種菌は特に限定されないが、例えば、森XR-1(株式会社森産業社製)などを好適に用いることができる。種菌を定植する前の培地の殺菌には、オートクレーブ処理、高圧滅菌処理、等が好ましく用いられる。滅菌時間については特に限定されないが、殺菌後に定植されるきのこ類の菌糸が好ましく増殖する条件であることが好ましい。
きのこ類の種菌を定植した培地を養生し、その後きのこ類の子実体の収穫(第一収穫工程)を行う。
第一収穫工程の後、きのこ類の種菌が定植された培地を水溶液を満たした水槽に入れ、第一浸水工程及び添加工程を行う。第一浸水工程において溶存酸素量を増やした場合、この第一浸水工程及び添加工程の後に行われるきのこ類の子実体の第二収穫工程における収量が増加する傾向にあるが、第二収穫工程におけるきのこ類の子実体の収量は、第三収穫工程以降の各収穫工程において収穫されるきのこ類の子実体の工程毎の収量よりも一般的に多いため、出荷時の収量の最適化などの調整のために好ましく判断され利用することができる。
前記第一浸水工程に用いられる水に含まれる溶存酸素量は、20mg/リットル以上40mg/リットル以下が好ましく用いられ、20mg/リットル以上35mg/リットル以下が更に好ましく、20mg/リットル以上30mg/リットル以下が更に好ましく用いられる。第一浸水工程に用いられる水溶液に含まれる溶存酸素量が20mg/リットル以下であると、溶存酸素量の濃度に対する子実体の収量への影響が限定的になる傾向にある。また、40mg/リットル以上だと水溶液から酸素の放出が顕著となり、溶存酸素量の子実体収穫量に対する効果の相関が低くなる傾向にある。この第一浸水工程の時間については、4時間以上24時間までが好ましく、12時間以上24時間までがより好ましく、16時間以上24時間までが更に好ましい。
前記第一浸水工程中に行われる添加工程に用いられる水溶液に含まれる溶存酸素量は、20mg/リットル以上50mg/リットル以下が好ましく用いられ、20mg/リットル以上45mg/リットル以下が更に好ましく、20mg/リットル以上40mg/リットル以下が更に好ましく用いられる。添加工程に用いられる水溶液に含まれる溶存酸素量が20mg/リットル以下であると、子実体の収量に対する影響が限定的になる傾向にある。また、50mg/リットル以上だと水溶液から酸素の放出が顕著となり、溶存酸素量の子実体収穫量に対する効果の相関が低くなる傾向にある。また、この添加工程の開始及び実施時間は、前記第一浸水工程開始後0.1時間後以降23時間までが好ましく、2時間後以降23時間までがより好ましく、3時間後以降23時間までが更に好ましい。
この第一浸水工程及び添加工程における水溶液の温度は5℃以上30℃未満が好ましく用いられ、10℃以上25℃未満であるとより好ましく、15℃以上21℃未満である更に好ましい。温度が低すぎると子実体の収量が少なくなる傾向に有り、温度が高すぎるときのこ類以外の菌類が繁殖し易くなる。
この第一浸水工程及び添加工程における単位菌床重量に対する溶存酸素量は、0.11g/kg(培地)以上0.25g/kg(培地)が好ましく、0.11g/kg(培地)以上0.23g/kg(培地)がより好ましく、0.11g/kg(培地)以上0.22g/kg(培地)が更に好ましい。単位培地重量当たりの溶存酸素重量が少なすぎると効果が限定的になる傾向に有り、また多すぎると溶存酸素量に対する効果の相関が限定される傾向にある。
浸水工程において、浸水前培地重量に対する浸水後培地重量が18%以上40%以下増加していると好適であり、19%以上40%未満であるとより好適で有り、20%以上40%以下であると更に好適である。浸水前培地重量に対する浸水後培地重量が低すぎると培地に含まれる溶存酸素量の効果が限定的になり、浸水前培地重量に対する浸水後培地重量が高すぎると培地がもろくなる傾向にある。
前記第一浸水工程及び添加工程に用いる水溶液に含まれる養分量は、硫酸イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオンにおいては、きのこ類の栽培に好適に用いられる範囲において特に限定されないが、硝酸イオンでは1mg/リットル以上100mg/リットル以下が好ましく、5mg/リットル以上50mg/リットル以下が更に好ましく、10mg/リットル以上40mg/リットル以下がより好ましく用いる事ができ、リン酸イオンにおいては1mg/リットル以上300mg/リットル以下が好ましく、10mg/リットル以上250mg/リットル以下が更に好ましく、10mg/リットル以上200mg/リットル以下がより好ましく用いる事ができ、カルシウムイオンは3mg/リットル以上1000mg/リットル以下が好ましく、100mg/リットル以上950mg/リットル以下が更に好ましく、500mg/リットル以上900mg/リットル以下がより好ましく用いる事ができる。これらの養分類は、きのこ類の菌床栽培の浸水工程において、培地に含まれていた養分が浸水に用いられる水に溶出することが確認されたため、培地中の養分量を適切に保つことにより、きのこ類の栽培に好適な状態となる。このほか、前記第一浸水工程及び添加工程に用いる水溶液に含まれる養分として定植培地に含まれる養分をきのこ類の栽培に利用される範囲において、好適に添加することができる。
前記第一浸水工程及び添加工程の後に行われる第二収穫工程の条件は、きのこ類毎に決定される条件であり、子実体を好ましく収穫できる状態が良く、しいたけ類であれば温度16℃以上18℃以下、湿度90%以上99%以下の条件で子実体の栽培及び収穫が成されると好適である。
前記第一浸水工程の後に行われる前記第二収穫工程の前に、温度と湿度を制御した区画において養生工程を行う。養生工程の温度は、17℃以上30℃以下が好ましく、18℃以上28℃以下がより好ましく、23℃以上27℃以下がさらに好ましく用いられる。温度が30℃以上だときのこ類の子実体収穫量のバラツキが生じる場合があり、温度が低すぎると子実体が発生する場合がある。また、養生工程の湿度は、85%以上100%以下が好ましく、90%以上100%以下がより好ましく、91%以上100%以下がさらに好ましく用いられる。湿度が低すぎると培地に含まれる水分が低下する場合がある。この養生工程の時間については特に限定されないが、1時間以上400時間以下が好ましく、24時間以上400時間以下がより好ましく、100時間以上400時間以下が更に好ましい。
前記第二収穫工程の後行われる第二以降の浸水工程、浸水工程中に行われる添加工程、養生工程、第三以降の収穫工程は、それぞれ前記第一浸水工程、添加工程、前記第二収穫工程と同様の条件で好ましく行われる。また、これら工程の繰り返し回数は特に限定されないが、収穫された子実体の重量と残った培地重量から判断され、1回以上4回以下が好ましく選択される。
更に本発明は、好気性菌から発生するきのこ類の栽培装置であって、水溶液中の溶存酸素量を増加する溶存酸素増加装置と、溶存酸素量が1mg/リットル以上50mg/リットル以下の水溶液を添加するための水溶液供給装置と、単位菌床当たりの水溶液中の溶存酸素量が0.01g/kg(培地)以上0.25g/kg(培地)以下で温度5℃以上30℃以下の水溶液に培地を浸水するための水槽と、浸水後の培地を保持する保持具と、培地を子実体の発生温度に保持する温度保持手段と、光照射手段とを持つことを特徴とする好気性菌から発生するきのこ類の栽培装置を提供する。本発明のきのこ類の栽培装置は、このほか、きのこ類の栽培に利用される温度計測装置、酸素計測装置、二酸化炭素計測装置、照度計、溶存酸素量測定装置、光量計測装置、調光装置、重量計測装置、養分濃度測定装置などの利用を好ましく行う事ができ、温度、湿度、二酸化炭素濃度、酸素濃度、養分濃度の計測及び調整及び/又は制御をきのこ類の子実体の栽培に適するように、好適に行う事ができる。
前記きのこ類の栽培装置において、加えられる水溶液の溶存酸素量を増加させる溶存酸素増加装置は特に限定されないが、酸素ボンベを用いて水中の溶存酸素量を増加する装置、空気中の酸素と窒素を分離する装置を用いて酸素濃度が高くなった空気を水溶液に加える装置、空気を水中に加えて水中の溶存酸素量を高くする装置などが好ましく用いられる。また、溶存酸素量を高くした水溶液に通常の水溶液を混合して本発明の溶存酸素量の範囲に前記水溶液の溶存酸素量を調整することもできる。
以下、実施例と比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
最初に本発明の実施例1及び比較例1を以下のように行った。
栽培装置には、本発明のきのこ類の子実体の栽培装置を用いた。
培地栽培における実験はきのこ類の発生にバラツキが発生するため、実験は、平均値の差の検定として一般的にt検定と呼ばれる方法を採用して実施した。
培地には菌床を用いた。菌床は、シイ及びカシを原材料とするおがくずにふすま、米ぬか、おからを加え作成し、これにしいたけ菌(森XR-1、株式会社森産業社製)を定植し、培養を行った。しいたけ菌を培養した菌床は全部で74個用意し、対照区(比較例)と溶存酸素区(実施例)でそれぞれ37個ずつを栽培に供した。
袋詰めされた菌床を除袋したときの重量は、対照区(比較例1)の平均値で1706g/菌床、溶存酸素区(実施例1)で平均1707g/菌床であった。除袋後の収穫(第一収穫工程)における子実体の収穫量は、対照区(比較例1)で441g/菌床、溶存酸素区(実施例1)で442g/菌床であり、発生した子実体の個数は、対照区(比較例1)、溶存酸素区(実施例1)でそれぞれ22個/菌床であった。これにより発生した子実体1個当たりの重量は、対照区(比較例1)、溶存酸素区(実施例1)ともに21g/個であった。第一収穫工程後の菌床の重量は、対照区で922g/菌床、溶存酸素区で922g/菌床であった。これらの結果にたいするt検定の結果、対照区と溶存酸素区での同じ菌床の区分けができていることが確認された。
更に対照区(比較例1)と溶存酸素区(実施例1)に区分けした菌床が適切に区分けされているかを確認するため、対照区(比較例1)では8mg/リットル、溶存酸素区(実施例1)では25mg/リットルの溶存酸素を含む温度17℃の水溶液に24時間浸水する第一浸水工程を実施した。この時、本発明の効果を検証するため、添加工程は実施しなかった。第一浸水工程後の菌床の重量は対照区(比較例1)で1299g/菌床、溶存酸素区(実施例1)で1295g/菌床だった。この後、第二収穫工程を実施した。この第二収穫工程におけるしいたけの子実体の収穫量は、対照区(比較例1)で116g/菌床、溶存酸素区(実施例1)で126g/菌床だった。これらの結果について、t検定を行った結果、対照区(比較例1)と溶存酸素区(実施例1)において、除袋後の菌床重量、第二収穫工程の収穫量、第二収穫工程の収穫子実体個数、第二収穫工程後の菌床の重量、第一浸水工程後の菌床重量において、優位な差が無いことが確認された。
続いて第二浸水工程を実施した。この時、対照区(比較例1)の水溶液に含まれる溶存酸素量は8mg/リットル、溶存酸素区(実施例1)で用いた水溶液に含まれる溶存酸素量は25mg/リットルで、水温はそれぞれ17℃であった。この第二浸水工程中には、添加工程を実施しなかった。第二浸水工程後の菌床の重量は対照区(比較例1)で1260g/菌床、溶存酸素区(実施例1)で1281g/菌床だった。また、子実体の収穫量は、対照区(比較例1)、溶存酸素区(実施例1)でそれぞれで132g/菌床、120g/菌床だった。これらの結果に対するt検定の結果、対照区(比較例1)と溶存酸素区(実施例1)における第二浸水工程後の菌床重量、第三収穫工程において収穫された子実体の重量には、優位な差が無いことが確認された。
続いて第三収穫工程の後、第三浸水工程を実施した。この時、対照区(比較例1)の水溶液に含まれる溶存酸素量は8mg/リットルであり、更に同量の溶存酸素を含む水溶液を浸水工程開始5時間後に添加した。一方、溶存酸素区(実施例1)では、水溶液に含まれる溶存酸素量を25mg/リットルとし、更に同量の溶存酸素を含む水溶液を浸水工程開始5時間後に添加した。この時の水温は17℃であった。この第三浸水工程及び添加工程を行った場合、浸水後の菌床の重量は対照区(比較例1)で1017g/菌床、溶存酸素区(実施例1)で1114g/菌床であり、t検定の結果、優位な差が認められた。また、収穫量は対照区(比較例1)、溶存酸素区(実施例1)それぞれで56g/菌床、96g/菌床だった。しいたけの子実体収量に対するt検定の結果、対照区(比較例1)と溶存酸素区(実施例1)における収穫量には、溶存酸素区(実施例1)での収穫量が増えたことに対する優位な差が認められた。また、対照区(比較例1)と溶存酸素区(実施例1)において収穫されたしいたけの子実体に含まれるアミノ酸量は、対照区(比較例1)で1620mg/100g乾物、溶存酸素区(実施例1)で1635mg/100g乾物であり、有意差がないことが確認された。ここで含有量を測定したアミノ酸の種類は、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、シスチン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、γ-アミノ酪酸、ヒスチジン、オルニチン、リジン、アルギニンである。
この比較例1と実施例1の結果を表1に示した。これら実験の結果、浸水工程の間に添加工程を行った溶存酸素区(実施例1)では、対照区(比較例1)に比べ1.7倍の収穫量が認められ、良好な結果であることが確認された。また、除袋時における菌床重量に対する収穫量は、0.46となり、基準値である0.4を15%程度上回る良好な結果となった。更にまた、菌床重量の低減も実現された。
次に本発明の実施例2として、以下の実験を行った。
菌床は、シイ及びカシ、ナラ、ブナを原材料とするおがくずにふすま、米ぬか、とうもろこしを加え作成し、これにしいたけ菌(森XR-1、株式会社森産業社製)を定植し、培養を行った。菌床は、96個用意し、対照区(比較例2)と溶存酸素区(実施例2)でそれぞれ48個ずつを用いた。
袋詰めされた菌床(96個)を除袋し、第一収穫工程を行った。この第一収穫工程において1菌床当たり収穫された重量は、対照区(比較例2)で339.2g/菌床(平均値)、溶存酸素区(実施例2)で339.2g/菌床(平均値)でほぼ同じ重量であった。これらの結果により、対照区(比較例2)と溶存酸素区(実施例2)での同じ菌床の区分けができていることが確認された。
この後、第一浸水工程を実施した。この時、対照区(比較例2)の水に含まれる溶存酸素量は8mg/リットルであり、更に同量の溶存酸素を含む水を浸水工程開始5時間後に添加した。一方、溶存酸素区(実施例2)では、水に含まれる溶存酸素量を25mg/リットルとし、更に同量の溶存酸素を含む水を浸水工程開始5時間後に添加した。この時の水温は、17℃だった。この第一浸水工程及び添加工程の後、25℃の恒温槽において、360時間の養生を行った。その後、第二収穫工程により収穫を行った時、子実体の収穫量は、対照区(比較例2)で86.0g/菌床、溶存酸素区(実施例2)で142.1g/菌床であり、溶存酸素区で1.7倍のしいたけの子実体の収量増加となった。この結果に対するt検定の結果、これら対照区(比較例2)と溶存酸素区(実施例2)における子実体の収穫量には、溶存酸素区(実施例2)において収穫量が増加したことの優位な差が認められた。また、対照区(比較例2)と溶存酸素区(実施例2)において収穫されたしいたけの子実体に含まれるアミノ酸量は、対照区(比較例2)で1600mg/100g乾物、溶存酸素区(実施例2)で1625mg/100g乾物であり、有意差がないことが確認された。ここで含有量を測定したアミノ酸の種類は、アスパラギン酸、スレオニン、セリン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、グリシン、アラニン、バリン、シスチン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、チロシン、フェニルアラニン、γ-アミノ酪酸、ヒスチジン、オルニチン、リジン、アルギニンである。
この比較例2と実施例2の結果を表2に示した。これら実験の結果、浸水工程の間に添加工程を行った溶存酸素区(実施例2)では、対照区(比較例2)に比べ1.7倍の収穫量増加が認められ、良好な結果であることが確認された。また、除袋時における菌床重量に対する収穫量は、0.44となり、基準値である0.4を10%程度上回る良好な結果となった。更にまた、菌床重量の低減も実現された。
なお、本発明に関わる実施例について、具体的に説明したこれら実施例に限定されるものではないことは勿論であり、また、本発明は、上述の発明の実施例に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を取ることは可能である。
本発明は、きのこ類の栽培及び販売に関連する産業で利用される。
1 培地
2 溶存酸素増加装置
3 水溶液供給装置
4 水溶液
5 水槽
6 計測及び調整・制御装置

Claims (6)

  1. 好気性菌から発生するきのこ類の子実体の栽培方法であって、少なくとも前記好気性菌を菌床及び又は原木から選ばれる培地に定植し定植培地を製造する工程と、
    定植後菌類を増やす養生工程と、
    養生工程後に発生するきのこ類の子実体を収穫する第一収穫工程と、
    前記第一収穫工程の後、前記定植培地を溶存酸素量が20mg/リットル以上40mg/リットル以下に調整された水に少なくとも一度浸漬する浸水工程と、
    前記浸水工程中に少なくとも一度溶存酸素量が20mg/リットル以上50mg/リットル以下の水を添加する添加工程と、
    前記浸水工程の後に培地を養生する養生工程と、
    前記浸水工程の後定植培地から発生するきのこ類の子実体を収穫する収穫工程を含み、
    前記浸水工程と前記添加工程と前記養生工程と同じ栽培工程及び前記収穫工程と同じ収穫工程を1回以上4回未満繰り返すことを特徴とする、好気性菌から発生するきのこ類の子実体の栽培方法。
  2. 好気性菌から発生するきのこ類の栽培方法であって、前記浸水工程の時間が4時間以上24時間以下であり、前記添加工程が浸水工程開始後0.1時間以上23時間までに行われることを特徴とする請求項1に記載の好気性菌から発生するきのこ類の栽培方法。
  3. 好気性菌から発生するきのこ類の栽培方法であって、前記定植培地単位重量当たりの浸水工程及び/又は添加工程に用いられる水溶液の溶存酸素量が0.1g/kg(培地)以上0.25g/kg(培地)以下であり、浸水前培地重量に対する浸水後培地重量が18%以上40%以下増加することを特徴とする、請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の好気性菌から発生するきのこ類の栽培方法。
  4. 好気性菌から発生するきのこ類の栽培方法であって、前記浸水工程及び又は添加工程に用いられる水の温度が5℃以上30℃未満であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の好気性菌から発生するきのこ類の栽培方法。
  5. 好気性菌から発生するきのこ類がしいたけ、エノキダケ、ナメコ、マイタケ、キクラゲ、シロキクラゲ、アラゲキクラゲ、ブナシメジ、ヒラタケ、タモギタケ、ヤマブシタケから選ばれる少なくとも1種のきのこであることと特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の好気性菌から発生するきのこ類の栽培方法。
  6. 好気性菌から発生するきのこ類の栽培装置であって、
    水溶液中の溶存酸素量を増加する溶存酸素増加装置と、
    溶存酸素量が1mg/リットル以上50mg/リットル以下の水溶液を添加するための水溶液供給装置と、
    単位菌床当たりの水溶液中の溶存酸素量が0.01g/kg(培地)以上0.25g/kg(培地)以下で温度5℃以上30℃以下の水溶液に培地を浸水するための水槽と、
    浸水後の培地を保持する保持具と、
    培地を子実体の発生温度に保持する温度保持手段と、
    光照射手段
    とを持つことを特徴とする好気性菌から発生するきのこ類の栽培装置。
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