以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
実施形態では、無段変速機の制御装置としてチェーン式の無段変速機(CVT(Continuously Variable Transmission))の制御装置1に適用する。図1を参照して、実施形態に係る無段変速機の制御装置1について説明する。図1は、実施形態に係る無段変速機の制御装置1の構成を示すブロック図である。
制御装置1について説明する前に、エンジン2及び無段変速機3について説明する。まず、エンジン2について説明する。エンジン2は、どのような形式のものでもよいが、例えば、水平対向型の4気筒ガソリンエンジンである。エンジン2のクランク軸(出力軸)2aには、無段変速機3が接続されている。エンジン2は、エンジン・コントロールユニット(以下では「ECU(Engine Control Unit)」と呼ぶ)20によって制御される。
ECU20は、エンジン2を総合的に制御する制御装置である。ECU20は、演算を行うマイクロプロセッサ、マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラムなどを記憶するROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、EEPROM及び入出力I/Fなどを有して構成されている。
ECU20には、制御に必要な情報を取得するために、クランク角センサ21、アクセルペダルセンサ22などの各種センサが接続されている。クランク角センサ21は、エンジン2のクランク軸2aの回転角を検出する。ECU20には、このクランク軸2aの回転角からエンジン回転数を算出する処理部が構成されている。アクセルペダルセンサ22は、アクセルペダル(図示省略)の踏み込み量(アクセルペダルの開度(以下では「アクセル開度」と呼ぶ))を検出する。
次に、無段変速機3について説明する。無段変速機3は、エンジン2からの駆動力を変換して出力する。無段変速機3は、トルクコンバータ30と、前後進切替機構31と、を備えている。また、無段変速機3は、このトルクコンバータ30及び前後進切替機構31を介してエンジン2のクランク軸2aと接続されるプライマリ軸32と、プライマリ軸32と平行に配設されたセカンダリ軸33と、を備えている。トルクコンバータ30は、クラッチ機能とトルク増幅機能を有している。前後進切替機構31は、駆動輪の正転と逆転(車両の前進と後進)とを切り替える機能を有している。
プライマリ軸32には、プライマリプーリ34が設けられている。プライマリプーリ34は、固定プーリ34aと、可動プーリ34bとを有している。固定プーリ34aは、プライマリ軸32に接合されている。可動プーリ34bは、固定プーリ34aに対向し、プライマリ軸32の軸方向に摺動自在かつ相対回転不能に装着されている。プライマリプーリ34は、固定プーリ34aと可動プーリ34bとの間のコーン面間隔(すなわち、プーリ溝幅)を変更できるように構成されている。
セカンダリ軸33には、セカンダリプーリ35が設けられている。セカンダリプーリ35は、固定プーリ35aと、可動プーリ35bとを有している。固定プーリ35aは、セカンダリ軸33に接合されている。可動プーリ35bは、固定プーリ35aに対向し、セカンダリ軸33の軸方向に摺動自在かつ相対回転不能に装着されている。セカンダリプーリ35は、固定プーリ35aと可動プーリ35bとの間のプーリ溝幅を変更できるように構成されている。
プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35との間には、駆動力を伝達するチェーン36が掛け渡されている。無段変速機3は、プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35の各プーリ溝幅を変化させて、各プーリ34,35に対するチェーン36の巻き付け径の比率(プーリ比)を変化させることで変速比を無段階で変更する。なお、チェーン36のプライマリプーリ34に対する巻き付け径をRpとし、セカンダリプーリ35に対する巻き付け径をRsとすると、変速比iは、i=Rs/Rpで表される。
プライマリプーリ34の可動プーリ34bには、プライマリ駆動油室(油圧シリンダ室)34cが形成されている。セカンダリプーリ35の可動プーリ35bには、セカンダリ駆動油室(油圧シリンダ室)35cが形成されている。プライマリ駆動油室34cには、プーリ比(変速比)を変化させるための変速圧とチェーン36の滑りを防止するためのクランプ圧が導入される。セカンダリ駆動油室35cには、クランプ圧が導入される。
無段変速機3を変速させるための油圧(変速圧及びクランプ圧)は、バルブボディ40によって供給される。バルブボディ40には、コントロールバルブ機構(図示省略)が組み込まれている。コントロールバルブ機構は、例えば、複数のスプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブを用いてバルブボディ40内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプ(図示省略)から吐出された油圧(ライン圧)を調圧した各油圧をプライマリ油圧室34c及びセカンダリ油圧室35cに供給する。また、コントロールバルブ機構は、例えば、前後進切替機構31などにも調圧した油圧を供給する。
無段変速機3は、自動変速モードと、手動変速モードと、テンポラリマニュアルモード(一時的手動変速モード)と、を有している。自動変速モードは、車両の走行状態に応じて自動的に変速段をダウンシフト又はアップシフトさせるモードである。手動変速モードは、運転者による変速操作に従って変速段をダウンシフト又はアップシフトさせるモードである。テンポラリマニュアルモードは、自動変速モード中に解除条件が成立するまで一時的に運転者による変速操作に応じて変速段をダウンシフト又はアップシフトさせるモードである。
車両のフロア(センターコンソール)などに、シフトレバー(セレクトレバー)50が設けられている。シフトレバー50では、例えば、ドライブレンジ(Dレンジ)、マニュアルレンジ(Mレンジ)、パーキングレンジ(Pレンジ)、リバースレンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)を選択的に切り替えることができる。シフトレバー50でドライブレンジが選択されると自動変速モードに切り替わり、マニュアルレンジが選択されると手動変速モードに切り替わる。シフトレバー50には、レンジスイッチ51が設けられている。レンジスイッチ51は、シフトレバー50と連動して動くように接続され、シフトレバー50の選択位置を検出する。
また、ステアリングホイール52の後側には、マイナス(−)パドルスイッチ53と、プラス(+)パドルスイッチ54とが設けられている。無段変速機3では、自動変速モード中にマイナスパドルスイッチ53又はプラスパドルスイッチ54が操作されるとテンポラリマニュアルモードに切り替える。マイナスパドルスイッチ53は、手動変速モード又はテンポラリマニュアルモードで変速段をダウンシフトさせるためのスイッチである。プラスパドルスイッチ54は、手動変速モード又はテンポラリマニュアルモードで変速段をアップシフトさせるためのスイッチである。
それでは、無段変速機3の制御装置1について説明する。制御装置1は、無段変速機3を総合的に制御する制御装置である。特に、本実施形態に係る制御装置1は、降坂路を走行中に車両が所定の目標減速度になるように低速側の変速比に変速制御(降坂変速比制御)する機能を有している。さらに、本実施形態に係る制御装置1は、その降坂路変速比制御で用いる目標減速度が走行状況に応じて運転者の好みの減速度(ひいては、エンジンブレーキ)になるように学習する機能を有している。
上述の降坂変速比制御により車両が所定の減速度になるように制御されることで、車両にはエンジンブレーキが発生する。運転者によっては、このエンジンブレーキを過剰と感じたりあるいは不足と感じるたりする場合がある。そこで、制御装置1では、運転者の好みのエンジンブレーキを発生させるために、目標減速度を学習する。特に、運転者の中には、走行状況に応じてエンジンブレーキの好みが変わる場合がある。そこで、制御装置1では、走行状況毎に目標減速度を学習する。本実施形態では、降坂路走行において運転者のエンジンブレーキの好みに影響を与えるパラメータとして前方車両の有無、ワインディング路か否か、道路勾配(降坂路の傾斜角度)、車速を用いて、この4つのパラメータを組み合わせて走行状況を分類している。
制御装置1の各制御は、TCU(Transmission Control Unit)10によって実施される。TCU10は、ECU20と同様に、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、EEPROM及び入出力I/Fなどを有して構成されている。
TCU10には、制御に必要な情報を取得するために、プライマリプーリ回転センサ11、出力軸回転センサ12などの各種センサが接続されている。また、TCU10には、制御に必要な情報を取得するために、レンジスイッチ51、マイナスパドルスイッチ53、プラスパドルスイッチ54などの各種スイッチが接続されている。また、TCU10は、CAN(Controller Area Network)60を介して、ECU20からアクセル開度、エンジン回転数などの各種情報を受信する。
プライマリプーリ回転センサ11は、プライマリプーリ34の回転数を検出する。出力軸回転センサ12は、出力軸(セカンダリ軸33)の回転数を検出する。TCU10では、この出力軸の回転数から車速を算出する。なお、車速は、例えば、各輪に設けられた車輪速センサで検出された車輪速から算出される車速(車体速)でもよい。TCU10では、例えば、この車速をCAN60を介して受信する。
また、TCU10には、CAN60を介して、画像処理ユニット(以下では「IPU(Image Processing Unit)」と呼ぶ)70から前方車両の情報を受信する。IPU70は、ステレオカメラユニット71で撮像された左右の各画像情報が入力され、その左右の各画像情報を用いて自車両の前方の前方車両、走行中の車線などの検出処理を行う。
また、TCU10には、CAN60を介して、ビークルダイナミクスコントロールユニット(以下では「VDCU(Vehicle Dynamics Control Unit)」と呼ぶ)80からブレーキペダル(図示省略)のオン/オフ情報、ブレーキ液圧、横加速度などの各種情報を受信する。VDCU80には、ブレーキスイッチ81、ブレーキ液圧センサ82、横加速度センサ83などの各種センサが接続されている。
また、TCU10には、CAN60を介して、電動パワーステアリングコントロールユニット(以下では「EPSCU(Electric Power Steering Control Unit)」と呼ぶ)90からステアリング角などの各種情報を受信する。EPSCU90には、ステアリング角センサ91などの各種センサが接続されている。
自動変速モードの場合、TCU10は、変速マップに従い、車両の運転状態に応じて自動で変速比を変速する制御を行う。この制御では、例えば、所定の変速比となるようにプライマリ回転数の目標値を設定し、実際のプライマリ回転数(プライマリプーリ回転センサ11で検出されたプライマリ回転数)が目標プライマリ回転数になるようにバルブボディ40の各ソレノイドバルブを制御することで変速圧を発生させ、変速比を変化させる。変速マップは、TCU10内のROMに格納されている。
特に、TCU10は、降坂路走行中に所定の目標減速度になるように低速側の変速比に変速制御する機能を有している。さらに、TCU10は、この目標減速度を学習する機能を有している。これらの機能を実現するために、TCU10は、走行状況取得部10a(特許請求の範囲に記載の走行状況取得手段に相当)、降坂変速比制御部10b(特許請求の範囲に記載の降坂変速比制御手段に相当)と、エンジンブレーキ不足判定部10c(特許請求の範囲に記載のエンジンブレーキ不足判定手段に相当)と、エンジンブレーキ過剰判定部10d(特許請求の範囲に記載のエンジンブレーキ過剰判定手段に相当)と、学習部10e(特許請求の範囲に記載の学習手段に相当)と、を有している。TCU10は、ROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることで、これらの各部10a〜10eが構成される。また、TCU10のEEPROMには、目標減速度用の学習マップが記憶されている。
この目標減速度用の学習マップの例を図2を参照して説明する。本実施形態では、TCU10は、上述した4つのパラメータ(前方車両の有無、ワインディング路か否か、道路勾配、車速)を組み合わせた4つの学習マップM1、M2、M3、M4を用いて降坂変速比制御及び学習を行う。学習マップM1は、前方車両が無い場合かつワインディング路でない場合(例えば、直進路)の各道路勾配と各車速を組み合わせた走行状況における学習マップである。学習マップM2は、前方車両が無い場合かつワインディング路の場合の各道路勾配と各車速を組み合わせた走行状況における学習マップである。学習マップM3は、前方車両が有る場合かつワインディング路でない場合の各道路勾配と各車速を組み合わせた走行状況における学習マップである。学習マップM4は、前方車両が有る場合かつワインディング路の場合の各道路勾配と各車速を組み合わせた走行状況における学習マップである。
図2に示す例では、道路勾配は、大勾配、中勾配、小勾配の3段階に分けている。また、車速は、高車速、中車速、低車速の3段階に分けている。したがって、この図2に示す例の場合、各学習マップM1〜M4は、この3段階の道路勾配と3段階の車速を組み合わせた9つの走行状況の目標減速度を有している。この道路勾配、車速の分け方は、2段階でよいし、あるいは、4段階以上でもよい。車両出荷時に各学習マップM1〜M4には、任意の目標減速度の初期値が書き込まれている。この目標減速度(初期値)は、適合で決められる。
走行状況取得部10aについて説明する。走行状況取得部10aは、降坂路での走行状況を取得する。具体的には、走行状況取得部10aは、道路勾配に基づいて降坂路か否かを判定する。道路勾配は、例えば、車速と前後加速度を用いて周知の演算式により求められてもよいし、また、傾斜センサを用いて検出されてもよいし、また、カーナビゲーションシステムの情報を用いてもよい。
降坂路と判定した場合、走行状況取得部10aは、前方車両の情報を用いて自車両の前方に前方車両が存在するか否かを判定する。また、走行状況取得部10aは、降坂路がワインディング路か否かを判定する。このワインディング路か否かは、例えば、ステアリング角と横加速度を用いて、ステアリング角が所定角度以上かつ横加速度が所定加速度以上の場合にワインディング路と判定する。この所定角度、所定加速度は、適合で決められる。また、ワインディング路か否かは、例えば、ナビゲーションシステムの情報を用いて判定してもよい。走行状況取得部10aは、この判定した前方車両の有無及びワインディング路か否かに加えて道路勾配(大勾配、中勾配、小勾配)及び車速(高車速、中車速、低車速)を用いて降坂路走行中の走行状況を特定する。
降坂路変速比制御部10bについて説明する。降坂変速比制御部10bは、降坂路を走行中に走行状況に応じて目標減速度を選択し、この目標減速度になるように低速側の変速比に変速制御する。走行状況取得部10aで前方車両無しかつワインディング路でないと判定した場合、降坂路変速比制御部10bは、学習マップM1を選択する。走行状況取得部10aで前方車両無しかつワインディング路と判定した場合、降坂路変速比制御部10bは、学習マップM2を選択する。走行状況取得部10aで前方車両有りかつワインディング路でないと判定した場合、降坂路変速比制御部10bは、学習マップM3を選択する。走行状況取得部10aで前方車両有りかつワインディング路と判定した場合、降坂変速比制御部10bは、学習マップM4を選択する。降坂変速比制御部10bは、選択した学習マップから、車速と道路勾配の組み合わせに応じた目標減速度を抽出する。降坂変速比制御部10bは、抽出した目標減速度となるように道路勾配や車速などに応じて目標変速比(目標プライマリ回転数)を求める。そして、降坂変速比制御部10bは、目標プライマリ回転数になるようにバルブボディ40を制御する。
なお、降坂変速比制御部10bは、基本的には、同じ降坂路を走行中に1度選択した学習マップ(ひいては、その学習マップから抽出した目標減速度)を変更しない。但し、降坂路(例えば、所定距離以上長い降坂路)を走行中に走行状況が変化した場合(例えば、前方車両が無しから有りになった場合、降坂路の途中でワインディング路になった場合)、降坂変速比制御部10bは、同じ降坂路の走行中でも学習マップ(ひいては、目標減速度)を変更するようにしてもよい。この場合、変更前の目標減速度と変更後の目標減速度とが異なっている場合、車両挙動(減速度、エンジンブレーキなど)の急変化を抑えるために、変更前の目標減速度から変更後の目標減速度に徐々に変化させることが好ましい。
また、降坂変速比制御部10bは、降坂路を走行中に学習部10eで目標減速度の学習値が新たに設定された場合でも、その新たに設定された目標減速度(学習値)を使用することはできず、その降坂路の走行終了後の次の降坂路の走行時から新たに設定された目標減速度(学習値)を使用することができる。
エンジンブレーキ不足判定部10cについて説明する。エンジンブレーキ不足判定部10cは、降坂変速比制御に応じて発生したエンジンブレーキに対して運転者の不足の意思があるか否かを判定する。具体的には、降坂変速比制御部10bで低速側の変速比に変速制御している場合、エンジンブレーキ不足判定部10cは、ブレーキスイッチ81の情報を用いてブレーキスイッチ81がオンされたか否かを判定する。ブレーキスイッチ81がオンと判定した場合、エンジンブレーキ不足判定部10cは、ブレーキスイッチ81がオンされている時間を計測する。エンジンブレーキ不足判定部10cは、この計測した時間が第1時間閾値以上かつ第2時間閾値以下か否かを判定する。ブレーキスイッチ81がオンされている時間が第1時間閾値以上かつ第2時間閾値以下と判定した場合(ブレーキペダルが所定時間操作された場合)、エンジンブレーキ不足判定部10cは、ブレーキ液圧が液圧閾値以上か否かを判定する。ブレーキ液圧が液圧閾値以上と判定した場合、エンジンブレーキ不足判定部10cは、ブレーキ作動による車両の減速度の変化量が変化量閾値以上か否かを判定する。減速度は、例えば、車速の時間変化から求められてもよいし、また、前後加速度センサを用いて検出されてもよい。なお、第1時間閾値、第2時間閾値、液圧閾値、変化量閾値は、適合で決められる。
また、エンジンブレーキ不足判定部10cは、マイナスパドルスイッチ53が操作されたか否かを判定する。マイナスパドルスイッチ53が操作されたと判定した場合(ダウンシフト操作された場合)、エンジンブレーキ不足判定部10cは、ダウンシフトによる車両の減速度の変化量が変化量閾値以上か否かを判定する。
エンジンブレーキ不足判定部10cは、ブレーキスイッチ81がオンされかつそのオンされている時間が第1時間閾値以上かつ第2時間閾値以下かつブレーキ液圧が液圧閾値以上かつ減速度の変化量が変化量閾値以上の場合、又は、マイナスパドルスイッチ53が操作されかつ減速度の変化量が変化量閾値の場合、車両に発生しているエンジンブレーキに対して運転者が不足の意思ありと判定する。
エンジンブレーキ過剰判定部10dについて説明する。エンジンブレーキ過剰判定部10dは、降坂変速比制御に応じて発生したエンジンブレーキに対して運転者の過剰の意思があるか否かを判定する。具体的には、降坂変速比制御部10bで低速側の変速比に変速制御している場合、エンジンブレーキ過剰判定部10dは、アクセル開度が開度閾値以上か否かを判定する。エンジンブレーキ過剰判定部10dは、アクセル開度が開度閾値以上の場合(アクセルペダルが操作された場合)、車両に発生しているエンジンブレーキに対して運転者が過剰の意思ありと判定する。なお、開度閾値は、適合で決められる。
学習部10eについて説明する。学習部10eは、降坂路走行中の走行状況に応じた運転者の好みの目標減速度を学習する。具体的には、エンジンブレーキ不足判定部10cでエンジンブレーキに対して運転者が不足の意思ありと判定した場合、学習部10eは、降坂変速比制御部10bで使用している目標減速度に所定量加算し、その加算後の目標減速度を新たな目標減速度(学習値)として設定する。エンジンブレーキ過剰判定部10dでエンジンブレーキに対して運転者が過剰の意思ありと判定した場合、学習部10eは、降坂変速比制御部10bで使用している目標減速度から所定量減算し、その減算後の目標減速度を新たな目標減速度(学習値)として設定する。学習部10eは、この新たに設定した目標減速度(学習値)を降坂路走行中の走行状況に紐づける。
学習値設定時に加算又は減算する所定量は、適合で決められる。所定量は、一定量でもよいし、あるいは、走行状況(例えば、前方車両の有無、ワインディング路か否か)などに応じた可変量でもよい。この所定量は、1回の降坂路走行での学習において大きく目標減速度(エンジンブレーキ)が変わらないように、小さな量とすることが好ましい。このように制限が設けられた小さい加算量又は減算量とすることにより、学習回数が増えるごとに運転者の好みの目標減速度(エンジンブレーキ)に徐々に変えることができ。
学習部10eは、基本的には、同じ降坂路を走行中に学習を1回だけ行う。但し、降坂路(例えば、所定距離以上長い降坂路)を走行中に走行状況が変化した場合、学習部10eは、同じ降坂路の走行中でも学習を複数回行ってもよい。
学習部10eは、任意の降坂路を走行中にある走行状況の目標減速度(学習値)を新たに設定した場合、この新たに設定した目標減速度(学習値)については任意の降坂路の次の降坂路の走行から降坂変速比制御部10bでの使用を許可する。したがって、降坂変速比制御部10bでは、任意の降坂路を走行中に学習部10eで新たに目標減速度(学習値)を設定して場合でも、その任意の降坂路の走行中は新たに設定された目標減速度(学習値)を使用することはできない。
特に、学習部10eは、道路勾配を用いて降坂路から登坂路になったか否かを判定する。登坂路になったと判定した場合、学習部10eは、登坂路になってからの経過時間を計測し、その経過時間が時間閾値以上か否かを判定する。また、学習部10eは、道路勾配を用いて降坂路から平坦路になったか否かを判定する。平坦路になったと判定した場合、学習部10eは、平坦路になってからの経過時間を計測し、その経過時間が時間閾値以上か否かを判定する。また、学習部10eは、車速を用いて車両が停車したか否かを判定する。停車したと判定した場合、学習部10eは、停車してからの経過時間を計測し、その経過時間が時間閾値以上か否かを判定する。学習部10eでは、降坂路から登坂路になって時間閾値以上経過した場合、又は、降坂路から平坦路になって時間閾値以上経過した場合、又は、降坂路走行から停車して時間閾値以上経過した場合、新たに設定した目標減速度(学習値)の使用を許可する。
学習部10eは、イグニッションスイッチのオン中に任意の走行状況の目標減速度(学習値)を新たに設定している場合、イグニッションスイッチがオフされたときにEEPROMの学習マップの目標減速度を書き換える(学習マップを更新する)。
特に、学習部10eは、任意の走行状況の新たな目標減速度(学習値)を設定している場合、その任意の走行状況に該当する学習マップの目標減速度のみを書き換えてもよい。この際、イグニッションスイッチのオン中に複数の走行状況について新たな目標減速度(学習値)をそれぞれ設定した場合、その各走行状況にそれぞれ該当する学習マップの目標減速度を書き換える。
また、学習部10eは、任意の走行状況の新たな目標減速度(学習値)を設定した場合、その新たな目標減速度(学習値)を用いて任意の走行状況に該当する学習マップの目標減速度を書き換えると共にその任意の走行状況以外の他の全てあるいは一部の走行状況における学習マップの目標減速度も書き換えてもよい。他の走行状況における学習マップの目標減速度も書き換える場合、任意の走行状況の新たな目標減速度(学習値)を設定する際の加算量又は減算量をそのまま用いて他の走行状況の目標減速度を設定するのではなく、加算量又は減算量に係数(例えば、0.5以下の係数)を乗算した補正加算量又は補正減算量を用いて他の走行状況の目標減速度を設定するようにするとよい。このようにすることで、実際に学習を行っていない他の走行状況の目標減速度に対しては反映度合いが小さくなる。
図1〜図2を参照しつつ、図3〜図6のフローチャートに沿ってTCU10(制御装置1)での降坂変速比制御機能及び目標減速度の学習機能の流れを説明する。図3は、実施形態に係るメインのフローチャートである。図4は、実施形態に係るエンジンブレーキ不足判定のフローチャートである。図5は、実施形態に係るエンジンブレーキ過剰判定のフローチャートである。図6は、実施形態に係る学習値反映/更新のフローチャートである。
図3に示すように、TCU10では、降坂路か否かを判定する(S10)。S10の判定にて降坂路と判定した場合、TCU10では、降坂路走行中の前後車両の有無、ワインディング路か否か、道路勾配、車速から走行状況を取得する(S12)。そして、TCU10では、この走行状況に対応する学習マップを選択し、その学習マップから目標減速度を抽出する(S14)。さらに、TCU10では、この目標減速度に基づいて目標プライマリ回転数(目標変速比)を設定し、目標プライマリ回転数になるようにバルブボディ40を制御する(S14)。この制御により、変速比が低速側の変速比に変化し、車両にエンジンブレーキが発生する。TCU10では、エンジンブレーキ不足判定を行う(S16)。
S16の判定を行う場合、図4に示すように、TCU10では、ブレーキスイッチ81がオンか否かを判定する(S30)。S30の判定にてブレーキスイッチ81がオンと判定した場合、TCU10では、ブレーキスイッチ81がオンされている時間が第1時間閾値以上かつ第2時間閾値以下か否かを判定する(S32)。S32の判定にてオン時間が第1時間閾値以上かつ第2時間閾値以下と判定した場合、TCU10では、ブレーキ液圧が液圧閾値以上か否かを判定する(S34)。S34の判定にてブレーキ液圧が液圧閾値以上と判定した場合、TCU10では、減速度の変化量が変化量閾値以上か否かを判定する(S36)。S36の判定にて減速度の変化量が変化量閾値以上と判定した場合、TCU10では、エンジンブレーキ不足意思有りと判定する(S42)。
S30の判定にてブレーキスイッチ81がオフと判定した場合、又は、S32の判定にてオン時間が第1時間閾値未満又は第2時間閾値超と判定した場合、又は、S34の判定にてブレーキ液圧が液圧閾値未満と判定した場合、又は、減速度の変化量が変化量閾値未満と判定した場合、TCU10では、ダウンシフト操作(マイナスパドルスイッチ53の操作)が行われたか否かを判定する(S38)。S38の判定にてマイナスパドルスイッチ53が操作されたと判定した場合、TCU10では、減速度の変化量が変化量閾値以上か否かを判定する(S40)。S40の判定にて減速度の変化量が変化量閾値以上と判定した場合、TCU10では、エンジンブレーキ不足意思有りと判定する(S42)。一方、S40の判定にて減速度の変化量が変化量閾値未満と判定した場合、又は、S38の判定にてマイナスパドルスイッチ53が操作されていないと判定した場合、TCU10では、エンジンブレーキ不足意思無しと判定する(S44)。
図3に戻って、S16の判定にてエンジンブレーキ不足意思有りと判定した場合(S42)、TCU10では、降坂路変速制御で現在用いている目標減速度に所定量加算して目標減算値(学習値)を設定し、この目標減速度(学習値)を走行状況に紐づける(S18)。次にこの走行状況で降坂路を走行した場合、S14の降坂変速比制御ではこの新たに設定された目標減算値(学習値)が使用されるので、目標減速度が大きくなり、車両に発生するエンジンブレーキが大きくなる。S16にてエンジンブレーキ不足意思無しと判定した場合(S44)、TCU10では、エンジンブレーキ過剰判定を行う(S20)。
S20の判定を行う場合、図5に示すように、TCU10では、アクセル開度が開度閾値以上か否かを判定する(S50)。S50の判定にてアクセル開度が開度閾値以上と判定した場合、TCU10では、エンジンブレーキ過剰意思有りと判定する(S52)。一方、S50の判定にてアクセル開度が開度閾値未満と判定した場合、TCU10では、エンジンブレーキ過剰意思無しと判定する(S54)。
図3に戻って、S20の判定にてエンジンブレーキ過剰意思有りと判定した場合(S52)、TCU10では、降坂路変速制御で現在用いている目標減速度から所定量減算して目標減算値(学習値)を設定し、この目標減速度(学習値)を走行状況に紐づける(S22)。次にこの走行状況で降坂路を走行した場合、S14の降坂変速比制御ではこの新たに設定された目標減算値(学習値)が使用されるので、目標減速度が小さくなり、車両に発生するエンジンブレーキが小さくなる。S20の判定にてエンジンブレーキ過剰意思無しと判定した場合(S54)、TCU10では、降坂路変速制御で現在用いている目標減速度を保持する(S24)。
任意の走行状況に応じた目標減算値(学習値)を設定した場合、図6に示すように、TCU10では、降坂路から登坂路になったか否かを判定する(S60)。S60の判定にて登坂路になったと判定した場合、TCU10では、登坂路になってから時間閾値以上経過か否かを判定する(S62)。
S60の判定にて登坂路になっていないと判定した場合又はS62の判定にて時間閾値以上経過していないと判定した場合、TCU10では、降坂路から平坦路になったか否かを判定する(S64)。S64の判定にて平坦路になったと判定した場合、TCU10では、平坦路になってから時間閾値以上経過か否かを判定する(S66)。
S64の判定にて平坦路になっていないと判定した場合又はS66の判定にて時間閾値以上経過していないと判定した場合、TCU10では、降坂路走行から停車したか否かを判定する(S68)。S68の判定にて停車したと判定した場合、TCU10では、停車してから時間閾値以上経過か否かを判定する(S70)。S68の判定にて停車していないと判定した場合又はS70の判定にて時間閾値以上経過していないと判定した場合、S60の判定に戻る。
S62の判定にて時間閾値以上経過と判定した場合又はS66の判定にて時間閾値以上経過と判定した場合又はS70の判定にて時間閾値以上経過と判定した場合、TCU10では、走行状況に応じた目標減速度(学習値)の使用を許可する(S72)。これにより、次の降坂路走行から、降坂変更比制御でこの任意の走行状況に応じた目標減速度(学習値)を使用できる。
その後、イグニッションスイッチがオフした場合(S74)、TCU10では、イグニッションスイッチのオン中に新たに設定された任意の走行状況に応じた目標減算値(学習値)を用いて、EEPROMの学習マップ(少なくとも任意の走行状況に対応する学習マップ)を書き換える(S76)。これにより、次のイグニッションスイッチのオン後から、新たな目標減速度(学習値)が学習マップに反映されている。
実施形態に係る制御装置1によれば、降坂路走行中の走行状況毎に目標減速度を学習することにより、降坂路走行中の走行状況に応じた運転者の好みのエンジンブレーキを発生させることができる。走行状況に応じて運転者の好みのエンジンブレーキが発生するので、降坂路走行中の走行フィーリングが向上する。これにより、運転者が、降坂路走行中にブレーキペダルを踏んだり又はアクセルペダルを踏んだりすることを抑制できる。
実施形態に係る制御装置1によれば、4個のパラメータの組み合わせた学習マップを用意しておくことにより、この学習マップを用いて走行状況毎の目標減速度(学習値)を分類することができ、降坂変速比制御を行う際にこの学習マップを用いて走行状況に応じた目標減速度を取得できる。実施形態に係る制御装置1によれば、前方車両の有無、ワインディング路か否か、道路勾配、車速の4個のパラメータを用いることにより、降坂路走行中の様々な走行状況に対して学習を行うことができる。特に、パラメータとして前方車両の有無を用いることにより、降坂路走行中の前方車両の有無に応じた運転者の好みのエンジンブレーキを発生させることができる。また、パラメータとしてワインディング路か否かを用いることにより、降坂路走行中のワインディング路か否かに応じた運転者の好みのエンジンブレーキを発生させることができる。また、パラメータとして道路勾配を用いることにより、降坂路走行中の道路勾配に応じた運転者の好みのエンジンブレーキを発生させることができる。また、パラメータとして車速を用いることにより、降坂路走行中の車速に応じた運転者の好みのエンジンブレーキを発生させることができる。
実施形態に係る制御装置1によれば、新たに設定した任意の走行状況の目標減速度(学習値)を用いてその任意の走行状況に対応する学習マップのみを更新する構成の場合、実際に学習を行った任意の走行状況での目標減速度のみを降坂変速比制御に反映できる。
実施形態に係る制御装置1によれば、新たに設定した任意の走行状況の目標減速度(学習値)を用いてその任意の走行状況に対応する学習マップだけでなく、他の走行状況における学習マップの目標減速度も更新する構成の場合、任意の走行状況の学習結果を他の走行状況の目標減速度にも反映させることができる。特に、実際に学習を行っていない走行状況で降坂路走行するときでも、運転者の好みを反映した目標減速度を用いて降坂変速比制御を行うことができる。さらに、実施形態に係る制御装置1によれば、任意の走行状況の目標減速度(学習値)よりも学習への反映度合いを小さくした値を用いて他の走行状況における学習マップの目標減速度を更新することにより、実際に学習を行っていない走行状況で降坂路走行するときに、車両に発生するエンジンブレーキの変化を抑えることができる。
実施形態に係る制御装置1によれば、任意の降坂路を走行中に目標減速度の学習値を設定した場合、当該設定した目標減速度の学習値を任意の降坂路の次の降坂路の走行から降坂変速比制御手段での使用を許可することにより、降坂路走行中の減速度(エンジンブレーキ)の変化を回避でき、運転者が違和感を受けない。さらに、実施形態に係る制御装置1によれば、目標減速度の学習値を設定した後に登坂路走行と平坦路走行と停車のうちの少なくとも一つを所定時間以上行った後に目標減速度の学習値の使用を許可することにより、学習を行った降坂路が終了したか否かを精度良く判定でき、次回の降坂路走行時から目標減速度(学習値)を確実に反映させることができる。
実施形態に係る制御装置1によれば、降坂変速比制御では降坂路走行中に1度選択した学習マップ(ひいては、その学習マップから抽出した目標減速度)を変更しないので、同じ降坂路では減速度(エンジンブレーキ)が変化せず、運転者が違和感を受けない。
実施形態に係る制御装置1によれば、新たに目標減速度(学習値)を設定する際の加算量及び減算量に制限を設けることにより、学習回数が増えるごとに運転者の好みの目標減速度(エンジンブレーキ)に徐々に変わり、1回の学習後に車両挙動が大きく変化するようなことがない。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、チェーン式のCVT3に適用したが、ベルト式、トロイダル式などの他のCVTにも適用可能である。
上記実施形態では走行状況のパラメータとして前方車両の有無、ワインディング路か否か、道路勾配、車速の4つのパラメータを用いて学習マップを構成したが、一般道/高速道、天候関連情報(外気温、雨滴、ワイパの作動など)、路面摩擦係数、車線幅などの他のパラメータを用いて学習マップを構成してもよいし、また、3つ以下のパラメータを用いて学習マップを構成してもよいし、5つ以上のパラメータを用いて学習マップを構成してもよい。
上記実施形態ではエンジンブレーキ不足判定部10cではブレーキスイッチ81のオン操作、ブレーキ液圧及び減速度の変化を用いて判定したが、ブレーキスイッチ81のオン操作だけを用いて判定してもよいし、ブレーキスイッチ81のオン操作とブレーキ液圧だけを用いて判定してもよいし、ブレーキスイッチ81のオン操作と減速度の変化を用いて判定してもよい。また、上記実施形態ではエンジンブレーキ不足判定部10cではマイナスパドルスイッチ53の操作と減速度の変化を用いて判定したが、マイナスパドルスイッチ53の操作だけを用いて判定してもよい。
上記実施形態ではエンジンブレーキ過剰判定部10dではアクセル開度を用いて判定したが、アクセル開速度や減速度の変化なども用いて判定してもよいし、また、プラスパドルスイッチ54の操作を用いて判定してもよい。
上記実施形態では無段変速機3における降坂変速比制御における目標減速度の学習に適用したが、この同様の学習を有段の自動変速機における降坂路でのダウンシフト制御のダウンシフトを行う車速の学習などにも適用可能である。