以下に、本発明に係る車両用ブレーキシステムの制御モジュール及び制御方法、並びに、車両用ブレーキシステムについて、図面を用いて説明する。
なお、以下では、本発明に係る車両用ブレーキシステムの制御モジュール及び制御方法、並びに、車両用ブレーキシステムが、四輪車に搭載されている場合について説明しているが、四輪車以外の他の車両(トラック、バス等)に搭載されていてもよい。また、以下では、本発明に係る車両用ブレーキシステムの制御モジュール及び制御方法、並びに、車両用ブレーキシステムの倍力装置が、電動式倍力装置である場合について説明しているが、電動式倍力装置以外の他の倍力装置(負圧式倍力装置等)であってもよい。また、以下で説明する構成、動作等は、一例であり、本発明に係る車両用ブレーキシステムの制御モジュール及び制御方法、並びに、車両用ブレーキシステムは、そのような構成、動作等である場合に限定されない。
また、以下では、同一の又は類似する説明を、適宜省略又は簡略化している。また、各図において、同一の部材又は部分については、同一の符号を付している。また、細かい構造については、適宜図示を簡略化又は省略している。
実施の形態1.
以下に、実施の形態1に係る車両用ブレーキシステムを説明する。
<車両用ブレーキシステムの全体>
実施の形態1に係る車両用ブレーキシステムの全体について説明する。
図1は、本発明の実施の形態1に係る車両用ブレーキシステムの、全体を説明するための図である。
図1に示されるように、車両用ブレーキシステム1は、車両100に搭載され、使用者によってブレーキ力が入力されるブレーキ操作機構10と、シリンダ11a内を往復動するピストン11bを内蔵しているマスタシリンダ11と、車両100の車輪に対応して設けられているホイールシリンダ12と、を含む。ホイールシリンダ12は、ブレーキキャリパ13に設けられている。ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が増加すると、ブレーキキャリパ13のブレーキパッド13aがロータ14に押し付けられて、車輪が制動される。
ブレーキ操作機構10は、使用者によってブレーキ力としての踏力が付与されるペダル10aと、その踏力によって直進するプッシュロッド10bと、を含む。プッシュロッド10bとピストン11bとの間には、後に詳述される倍力装置15が設けられている。倍力装置15は、ブレーキ操作機構10に入力されるブレーキ力をマスタシリンダ11に倍力して伝達する。
また、車両用ブレーキシステム1は、マスタシリンダ11のブレーキ液をホイールシリンダ12に流通させる主流路21と、ホイールシリンダ12のブレーキ液を逃がす副流路22と、マスタシリンダ11のブレーキ液を副流路22に供給する供給流路23と、を含む。副流路22の上流側端部は、主流路21の途中部21aに接続され、副流路22の下流側端部は、主流路21の途中部21bに接続されている。供給流路23のマスタシリンダ11側ではない側の端部は、副流路22の途中部22aに接続されている。
主流路21のうちの、途中部21bと途中部21aとの間の領域には、込め弁(EV)31が設けられている。副流路22のうちの、上流側端部と途中部22aとの間の領域には、弛め弁(AV)32が設けられている。副流路22のうちの、弛め弁32と途中部22aとの間の領域には、アキュムレータ33が設けられている。副流路22のうちの、途中部22aと下流側端部との間の領域には、ホイールシリンダ12のブレーキ液を主流路21の途中部21bに逃がすための、ポンプ34が設けられている。ポンプ34の吸込側は、途中部22aに連通し、ポンプ34の吐出側は、副流路22の下流側端部に連通する。込め弁31は、例えば、非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁である。弛め弁32は、例えば、非通電状態で閉じ、通電状態で開く電磁弁である。
主流路21のうちの、途中部21bを基準とするマスタシリンダ側の領域には、第1弁(USV)35が設けられている。供給流路23には、第2弁(HSV)36が設けられている。第1弁35は、例えば、非通電状態で開き、通電状態で閉じる電磁弁である。第2弁36は、例えば、非通電状態で閉じ、通電状態で開く電磁弁である。
また、車両用ブレーキシステム1は、少なくとも、マスタシリンダ11のブレーキ液圧を検知するマスタシリンダ液圧検知部37と、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧を検知するホイールシリンダ液圧検知部38と、を備えている。マスタシリンダ液圧検知部37は、マスタシリンダ11のブレーキ液圧に実質的に換算可能な他の物理量を検知するものであってもよい。つまり、本発明における「マスタシリンダ液圧検知部」は、マスタシリンダ11のブレーキ液圧自体を検知するものと、マスタシリンダ11のブレーキ液圧に実質的に換算可能な他の物理量を検知するものと、の上位概念として定義される。ホイールシリンダ液圧検知部38は、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧に実質的に換算可能な他の物理量を検知するものであってもよい。つまり、本発明における「ホイールシリンダ液圧取得部」は、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧自体を検知するものと、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧に実質的に換算可能な他の物理量を検知するものと、の上位概念として定義される。
込め弁31、弛め弁32、アキュムレータ33、ポンプ34、第1弁35、第2弁36、マスタシリンダ液圧検知部37、ホイールシリンダ液圧検知部38等と、それらが設けられ、内部に主流路21、副流路22、及び、供給流路23を構成する流路が形成されている基体39と、で、液圧装置20が構成される。つまり、液圧装置20は、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧を制御する装置である。
また、車両用ブレーキシステム1は、後に詳述される制御モジュール50を備えている。制御モジュール50は、マスタシリンダ液圧検知部37、ホイールシリンダ液圧検知部38等の各種検知部の検知結果に基づいて、倍力装置15及び液圧装置20を制御して、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧を制御する。つまり、制御モジュール50は、車両用ブレーキシステム1において、ブレーキ動作全般を司る役割を担う。
なお、制御モジュール50の一部は、例えば、マイコン、マイクロプロセッサユニット等で構成されてもよく、また、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
制御モジュール50は、倍力装置15の稼働が可能である場合に、通常モードを実行し、倍力装置15の不具合等が生じて倍力装置15の稼働が不可能になった場合に、後に詳述される非常モードを実行する。
例えば、制御モジュール50は、通常モードにおいて、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧を制御する必要がない場合に、込め弁31を開き、弛め弁32を閉じ、第1弁35を開き、第2弁36を閉じる。その状態で、使用者によってブレーキ操作機構10にブレーキ力が入力されると、倍力装置15によってマスタシリンダ11のピストン11bが押し込まれて、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が増加して、車両100が制動される。
例えば、制御モジュール50は、通常モードにおいて、車輪にロック又はロックの可能性が生じた場合に、その車輪に対応する、込め弁31を閉じ、弛め弁32を開き、第1弁35を開き、第2弁36を閉じる。そして、その状態で、制御モジュール50によって、ポンプ34が駆動されると、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が減少して、車輪のロックが解除又は回避される。
例えば、制御モジュール50は、通常モードにおいて、特定の車輪の制動を強める必要が生じた場合に、その車輪に対応する、込め弁31を開き、弛め弁32を閉じ、第1弁35を閉じ、第2弁36を開く。そして、その状態で、制御モジュール50によって、ポンプ34が駆動されると、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が増加して、車輪の制動が強められる。
ポンプ34は、減圧装置としての機能と増圧装置としての機能を併せ持ち、込め弁31が開放され、弛め弁32が閉鎖され、第1弁35が閉鎖され、第2弁36が開放されている状態で駆動される場合に、増圧装置として機能する。つまり、その場合のポンプ34は、本発明における「増圧装置」に相当する。
<倍力装置の詳細>
実施の形態1に係る車両用ブレーキシステムの倍力装置の詳細について説明する。
図2は、本発明の実施の形態1に係る車両用ブレーキシステムの、倍力装置の詳細を説明するための図である。
図2に示されるように、倍力装置15は、筐体41と、ブレーキ操作機構10のプッシュロッド10bに連結されている入力部42と、マスタシリンダ11のピストン11bに連結されている出力部43と、入力部42と出力部43との間に隙間を形成しつつ介在するリアクションディスク44と、ブレーキ操作機構10へのブレーキ力の入力に伴う入力部42の直進運動に追従して直進する追従部45と、追従部45を直進駆動するアクチュエータ46と、を含む。リアクションディスク44は、例えば、ゴムである。
リアクションディスク44及び出力部43は、追従部45によって直進される。筐体41と追従部45との間に、第1弾性体47が介在しており、追従部45は、第1弾性体47によって、ブレーキ操作機構10へのブレーキ力の入力に伴う入力部42の直進運動の反対に向かって付勢されている。追従部45と入力部42との間に、第2弾性体48が介在しており、入力部42は、第2弾性体48によって、ブレーキ操作機構10へのブレーキ力の入力に伴う入力部42の直進運動の反対に向かって付勢されている。第1弾性体47及び第2弾性体48は、例えば、バネである。第1弾性体47の弾性係数は、第2弾性体48の弾性係数と比較して、大きい。
入力部42と追従部45との相対位置が、入力状態検知部49によって検知される。入力状態検知部49は、入力部42と追従部45との相対位置に実質的に換算可能な他の物理量を検知するものであってもよい。つまり、本発明における「入力状態検知部」は、入力部42と追従部45との相対位置自体を検知するものと、入力部42と追従部45との相対位置に実質的に換算可能な他の物理量を検知するものと、の上位概念として定義される。入力状態検知部49は、例えば、入力部42に設けられている磁石49aと、追従部45に設けられている磁気センサ49bと、を含む。
使用者によってブレーキ操作機構10にブレーキ力が入力された際に、第2弾性体48の付勢力に抗して入力部42が直進すると、制御モジュール50は、入力状態検知部49で検知される入力部42と追従部45との相対位置の変化が打ち消されるようにアクチュエータ46を駆動させて、追従部45を直進させる。ブレーキ操作機構10へのブレーキ力の入力が解除されると、第1弾性体47の付勢力によって、追従部45及び入力部42が押し戻されて、ブレーキ操作機構10のペダル10aが戻される。
特に、追従部45が、リアクションディスク44及び出力部43を直進させる第1部材45aと、アクチュエータ46によって直進駆動される第2部材45bと、に別体化されているとよい。そのように構成されることで、倍力装置15の不具合等が生じて倍力装置15の稼働が不可能になった場合に実行される非常モードにおいて、使用者によってブレーキ操作機構10に大きなブレーキ力が入力された場合に、アクチュエータ46の負荷が除かれた状態で、第1部材45a、リアクションディスク44、及び、出力部43を、第1弾性体47の付勢力に抗して一体的に直進させて、マスタシリンダ11のブレーキ液圧を増加させることが可能となる。
<制御モジュールの詳細>
実施の形態1に係る車両用ブレーキシステムの制御モジュールの詳細について説明する。
(制御モジュールの構成)
実施の形態1に係る車両用ブレーキシステムの制御モジュールの構成について説明する。
図3は、本発明の実施の形態1に係る車両用ブレーキシステムの、制御モジュールの構成を説明するための図である。
図3に示されるように、制御モジュール50は、倍力装置15の動作を司る第1制御装置60と、液圧装置20の動作を司る第2制御装置70と、第1制御装置60及び第2制御装置70を相互に通信させる第1通信系81と、を含む。第1通信系81は、例えば、CAN(Controller Area network)である。第1制御装置60は、倍力装置15の状態情報を、第1通信系81を介して第2制御装置70に出力する。
第1制御装置60は、倍力装置15のアクチュエータ46の動作を制御する倍力動作実行部61と、入力状態検知部49で検知される入力部42及び追従部45の相対位置の変化に基づいて、倍力装置15におけるアクチュエータ46の動作パラメータを設定する倍力動作パラメータ設定部62と、を含む。
第2制御装置70は、液圧装置20の込め弁31、弛め弁32、ポンプ34、第1弁35、第2弁36等の動作を制御する液圧調整動作実行部71と、倍力装置15の稼働の可能性を判定する稼働可能性判定部72と、入力状態検知部49で検知される入力部42及び追従部45の相対位置の変化に基づいて、ブレーキ操作機構10へのブレーキ力の入力の有無を判定する入力有無判定部73と、マスタシリンダ液圧検知部37、ホイールシリンダ液圧検知部38等の各種検知部の検知結果に基づいて、液圧装置20のポンプ34、第1弁35等の動作パラメータを設定する液圧調整動作パラメータ設定部74と、を含む。
倍力動作パラメータ設定部62は、倍力装置15におけるアクチュエータ46の動作パラメータの設定に伴って、入力部42及び追従部45の相対位置の変化の有無を識別するためのフラグ情報を生成する。また、倍力動作パラメータ設定部62は、そのフラグ情報を、第1通信系81と異なる第2通信系82を介して第2制御装置70に出力する。つまり、第2制御装置70は、入力状態検知部49の検知結果を、第1通信系81と異なる第2通信系82を介して取得する。
(非常モード実行時の動作フロー)
実施の形態1に係る車両用ブレーキシステムの制御モジュールの非常モード実行時の動作フローについて説明する。
図4は、本発明の実施の形態1に係る車両用ブレーキシステムの、制御モジュールの非常モード実行時の動作フローを説明するための図である。
制御モジュール50は、稼働可能性判定部72で、倍力装置15の稼働が不可能であると判定されると、非常モードを実行する。稼働可能性判定部72は、例えば、第1通信系81を介して入力される倍力装置15の状態情報に基づいて、倍力装置15の稼働の可能性を判定してもよく、また、第1通信系81を介する第1制御装置60との通信の可否に基づいて、倍力装置15の稼働の可能性を判定してもよい。
図4に示されるように、ステップ101において、非常モードが開始されると、ステップ102(入力有無判定ステップ)において、入力有無判定部73は、ブレーキ操作機構10におけるブレーキ力の入力が有るか否かを判定する。入力有無判定部73は、倍力動作パラメータ設定部62から出力される、入力部42及び追従部45の相対位置の変化の有無を識別するためのフラグ情報を用いて、ブレーキ力の入力が有るか否かを判定する。Yesの場合には、ステップ103に進み、Noの場合には、ステップ102を繰り返す。
ステップ103(残圧状態判定ステップ)において、液圧調整動作パラメータ設定部74は、ホイールシリンダ液圧検知部38で検知されるホイールシリンダ12のブレーキ液圧が基準値を下回るか否かを判定する。つまり、液圧調整動作パラメータ設定部74は、ブレーキ操作機構10にブレーキ力が入力された際の、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧の初期値に対する残圧状態を判定する。例えば、車輪が制動されなくなる状態でのホイールシリンダ12のブレーキ液圧が、その基準値に設定される。また、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が基準値を下回るか否かが、後述される動作パラメータ設定ステップで設定されるホイールシリンダ12のブレーキ液圧の目標値に基づいて判定されてもよい。その場合の液圧調整動作パラメータ設定部74は、本発明の「ホイールシリンダ液圧取得部」に相当する。つまり、本発明の「ホイールシリンダ液圧取得部」は、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧を推定するために、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧の目標値を取得するものと、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧を推定するために、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧の目標値に実質的に換算可能な他の物理量を取得するものと、の上位概念として定義される。Yesの場合には、ステップ104に進み、Noの場合には、ステップ105に進む。
ステップ104(動作パラメータ設定ステップ)において、液圧調整動作パラメータ設定部74は、非常ブレーキ動作におけるホイールシリンダ12のブレーキ液圧の変化が規定状態となるように、その後の各時点におけるホイールシリンダ12のブレーキ液圧の目標値を設定する。その規定状態は、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が、時間の経過に伴って徐々に増加する状態である。例えば、その規定状態は、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が、時間の経過に伴って一定の勾配で増加する状態である。目標値が設定されると、ステップ106に進む。
なお、ステップ104及び後述される他の動作パラメータ設定ステップ(ステップ105、ステップ109、ステップ111、ステップ114)で設定されるホイールシリンダ12のブレーキ液圧の目標値は、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧自体を目標値としたものであってもよく、また、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧に実質的に換算可能な他の物理量を目標値としたものであってもよい。つまり、本発明の「ホイールシリンダのブレーキ液圧の目標値」は、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧自体を目標値としたものと、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧に実質的に換算可能な他の物理量を目標値としたものと、の上位概念として定義される。
ステップ105(動作パラメータ設定ステップ)において、液圧調整動作パラメータ設定部74は、非常ブレーキ動作におけるホイールシリンダ12のブレーキ液圧の変化が規定状態となるように、その後の各時点におけるホイールシリンダ12のブレーキ液圧の目標値を設定する。その規定状態は、ステップ104において目標値が設定される場合の規定状態と比較して、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が緩やかに増加する状態である。目標値が設定されると、ステップ106に進む。
ステップ106(液圧調整動作実行ステップ)において、液圧調整動作実行部71は、非常ブレーキ動作を実行する。非常ブレーキ動作では、込め弁31が開放され、弛め弁32が閉鎖され、第1弁35が閉鎖され、第2弁36が開放される。そして、その状態で、液圧調整動作実行部71は、液圧調整動作パラメータ設定部74で設定された各時点での目標値に応じた制御量で、ポンプ34を駆動させる。各時点での非常ブレーキ動作が実行される度に、ステップ107に進む。
ステップ107(入力解除判定ステップ)において、入力有無判定部73は、ブレーキ操作機構10におけるブレーキ力の入力の解除が有るか否かを判定する。入力有無判定部73は、倍力動作パラメータ設定部62から出力される、入力部42及び追従部45の相対位置の変化の有無を識別するためのフラグ情報を用いて、ブレーキ力の入力の解除が有るか否かを判定する。Noの場合には、ステップ108に進み、Yesの場合には、ステップ114に進む。
ステップ108(マスタシリンダ液圧判定ステップ)において、液圧調整動作パラメータ設定部74は、マスタシリンダ液圧検知部37の検知結果に基づいて、ブレーキ操作機構10へ入力されるブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液の増圧の有無を判定する。Yesの場合には、ステップ109に進み、Noの場合には、ステップ110に進む。
ステップ109(動作パラメータ設定ステップ)において、液圧調整動作パラメータ設定部74は、ブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加が検知される前の時点で用いられた目標値と、各時点においてマスタシリンダ液圧検知部37で検知されるマスタシリンダ11のブレーキ液圧と、に基づいて、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧の目標値を設定する。目標値が設定されると、ステップ106に進む。
ステップ110(マスタシリンダ液圧判定ステップ)において、液圧調整動作パラメータ設定部74は、ステップ108においてNoと判定されることが、前の時点から連続しているか否かを判定する。Yesの場合には、ステップ106に進み、Noの場合には、ステップ111に進む。
ステップ111(動作パラメータ設定ステップ)において、液圧調整動作パラメータ設定部74は、非常ブレーキ緩和動作におけるホイールシリンダ12のブレーキ液圧の変化が規定状態となるように、その後の各時点におけるホイールシリンダ12のブレーキ液圧の目標値を設定する。その規定状態は、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が、時間の経過に伴って徐々に減少する状態である。例えば、その規定状態は、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が、時間の経過に伴って一定の勾配で減少する状態である。また、ステップ103でNoと判定されてステップ111に至る場合における規定状態は、ステップ103でYesと判定されてステップ111に至る場合における規定状態と比較して、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が緩やかに減少する状態である。また、ステップ103でYesと判定されてステップ111に至る場合における規定状態は、ステップ104において目標値が設定される場合の規定状態と比較して、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が急に変化する状態である。また、ステップ103でNoと判定されてステップ111に至る場合における規定状態は、ステップ105において目標値が設定される場合の規定状態と比較して、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が急に変化する状態である。目標値が設定されると、ステップ112に進む。
ステップ112(液圧調整動作実行ステップ)において、液圧調整動作実行部71は、非常ブレーキ緩和動作を実行する。非常ブレーキ緩和動作では、込め弁31が開放され、弛め弁32が閉鎖され、第1弁35が開放され、第2弁36が開放される。その際、液圧調整動作実行部71は、液圧調整動作パラメータ設定部74で設定された各時点での目標値に応じた制御量で、第1弁35を開放させる。つまり、例えば、第1弁35が電磁弁である場合には、液圧調整動作実行部71は、印加する電流値を制御して、第1弁35を目標値に応じた開度にする。ポンプ34は、停止されてもよく、また、低出力で駆動されてもよい。ポンプ34が低出力で駆動される場合には、非常ブレーキ緩和動作から非常ブレーキ動作に移行する必要が生じた場合に、その移行の瞬間において使用者がブレーキ操作機構10の操作が重いと感じてしまうことが抑制される。各時点での非常ブレーキ緩和動作が実行される度に、ステップ113に進む。
ステップ113(入力解除判定ステップ)において、入力有無判定部73は、ブレーキ操作機構10におけるブレーキ力の入力の解除が有るか否かを判定する。入力有無判定部73は、倍力動作パラメータ設定部62から出力される、入力部42及び追従部45の相対位置の変化の有無を識別するためのフラグ情報を用いて、ブレーキ力の入力の解除が有るか否かを判定する。Noの場合には、ステップ112に戻り、Yesの場合には、ステップ114に進む。
ステップ114(動作パラメータ設定ステップ)において、液圧調整動作パラメータ設定部74は、非常ブレーキ緩和動作におけるホイールシリンダ12のブレーキ液圧の変化が規定状態となるように、その後の各時点におけるホイールシリンダ12のブレーキ液圧の目標値を設定する。その規定状態は、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が、時間の経過に伴って徐々に減少する状態である。例えば、その規定状態は、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が、時間の経過に伴って一定の勾配で減少する状態である。また、ステップ103でNoと判定されてステップ114に至る場合における規定状態は、ステップ103でYesと判定されてステップ114に至る場合における規定状態と比較して、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が緩やかに減少する状態である。また、ステップ103でYesと判定されてステップ114に至る場合における規定状態は、ステップ104において目標値が設定される場合の規定状態と比較して、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が急に変化する状態である。また、ステップ103でNoと判定されてステップ114に至る場合における規定状態は、ステップ105において目標値が設定される場合の規定状態と比較して、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が急に変化する状態である。また、ステップ110でNoと判定されてステップ114に至る場合における規定状態は、ステップ111において目標値が設定される場合の規定状態と比較して、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が急に減少する状態である。目標値が設定されると、ステップ115に進む。
ステップ115(液圧調整動作実行ステップ)において、液圧調整動作実行部71は、非常ブレーキ緩和動作を実行する。非常ブレーキ緩和動作では、込め弁31が開放され、弛め弁32が閉鎖され、第1弁35が開放され、第2弁36が開放される。その際、液圧調整動作実行部71は、液圧調整動作パラメータ設定部74で設定された各時点での目標値に応じた制御量で、第1弁35を開放させる。つまり、例えば、第1弁35が電磁弁である場合には、液圧調整動作実行部71は、印加する電流値を制御して、第1弁35を目標値に応じた開度にする。ポンプ34は、停止されてもよく、また、低出力で駆動されてもよい。ポンプ34が低出力で駆動される場合には、非常ブレーキ緩和動作から非常ブレーキ動作に移行する必要が生じた場合に、その移行の瞬間において使用者がブレーキ操作機構10の操作が重いと感じてしまうことが抑制される。各時点での非常ブレーキ緩和動作が実行される度に、ステップ116に進む。
ステップ116(入力有無判定ステップ)において、入力有無判定部73は、ブレーキ操作機構10におけるブレーキ力の入力が有るか否かを判定する。入力有無判定部73は、倍力動作パラメータ設定部62から出力される、入力部42及び追従部45の相対位置の変化の有無を識別するためのフラグ情報を用いて、ブレーキ力の入力が有るか否かを判定する。Yesの場合には、ステップ103に進み、Noの場合には、ステップ115に戻る。
(非常モード実行時の作用)
実施の形態1に係る車両用ブレーキシステムの制御モジュールの非常モード実行時の作用の例について説明する。
図5〜図7は、本発明の実施の形態1に係る車両用ブレーキシステムの、制御モジュールの非常モード実行時の作用の例を説明するための図である。
なお、図5〜図7において、F_inputは、使用者によってブレーキ操作機構10に入力されるブレーキ力を意味し、DISP_flugは、入力部42及び追従部45の相対位置の変化の有無を識別するためのフラグ情報を意味し、MC_Pは、マスタシリンダ11のブレーキ液圧の実際値を意味し、MC_P_flugは、使用者によってブレーキ操作機構10に入力されるブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加の有無を識別するためのフラグ情報を意味し、WC_P_targetは、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧の目標値を意味する。
図5は、時点T11で開始された非常ブレーキ動作が、時点T12における、ブレーキ操作機構10に入力されるブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加の検知の後も、引き続き実行され、時点T13において、そのマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加が検知されなくなって、非常ブレーキ緩和動作が実行される場合を示している。
つまり、図5は、図4に示されるフローチャートにおいて、時点T11まで、ステップ102でNoと判定され、時点T11から時点T12までの間に、ステップ103でYes、ステップ107でNo、ステップ108でNo、ステップ110でYesと判定され、時点T12から時点T13までの間に、ステップ108でYes、ステップ107でNoと判定され、時点T13から時点T14までの間に、ステップ108でNo、ステップ110でNo、ステップ113でNoと判定され、時点T14以降に、ステップ113でYes、ステップ116でNoと判定される場合を示している。
図5に示されるように、液圧調整動作実行部71は、入力有無判定部73が時点T11においてブレーキ操作機構10におけるブレーキ力の入力が有ると判定すると、時点T11から時点T12までのマスタシリンダ増圧前期間TE1において、ステップ104で設定される目標値WC_P_targetに応じた制御量でポンプ34を駆動させて、非常ブレーキ動作を実行する。ステップ104で設定される目標値WC_P_targetは、マスタシリンダ増圧前期間TE1が始まってから終わるまでの全期間に亘って、一定の勾配で増加し続けるような目標値WC_P_targetである。
液圧調整動作実行部71は、時点T12において、マスタシリンダ液圧検知部37で、ブレーキ操作機構10へ入力されるブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液の増圧が検知されると、時点T12から時点T13までのマスタシリンダ増圧期間TE2において、ステップ109で設定される目標値WC_P_targetに応じた制御量でポンプ34を駆動させて、非常ブレーキ動作を実行する。ステップ109では、時点T12の直前に用いられた目標値WC_P_target_T12と、マスタシリンダ液圧検知部37で検知されるマスタシリンダ11のブレーキ液圧から換算される各時点での目標値WC_P_target_sensorと、の和が、マスタシリンダ増圧期間TE2の各時点における目標値WC_P_targetに設定される。
液圧調整動作実行部71は、時点T13において、マスタシリンダ液圧検知部37で、ブレーキ操作機構10へ入力されるブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液の増圧が検知されなくなると、時点T13から時点T14までのマスタシリンダ増圧後期間TE3において、ステップ111で設定される目標値WC_P_targetに応じた制御量で第1弁35を開放させて、非常ブレーキ緩和動作を実行する。ステップ111で設定される目標値WC_P_targetは、マスタシリンダ増圧後期間TE3が始まってから目標値WC_P_targetが初期値になるまで、一定の勾配で減少し続けるような目標値WC_P_targetである。その変化は、マスタシリンダ増圧前期間TE1における目標値WC_P_targetの変化と比較して、急である。
液圧調整動作実行部71は、入力有無判定部73が時点T14においてブレーキ操作機構10におけるブレーキ力の入力が無くなったと判定すると、時点T14以降のブレーキ解除期間TE4において、ステップ114で設定される目標値WC_P_targetに応じた制御量で第1弁35を開放させて、非常ブレーキ緩和動作を実行する。ステップ114で設定される目標値WC_P_targetは、マスタシリンダ増圧後期間TE3が終わってから目標値WC_P_targetが初期値になるまで、一定の勾配で減少し続けるような目標値WC_P_targetである。その減少は、マスタシリンダ増圧後期間TE3における目標値WC_P_targetの減少と比較して、急である。
図6は、時点T21で非常ブレーキ動作が開始された後、ブレーキ操作機構10に入力されるブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加が検知される前の時点T22において、ブレーキ操作機構10へのブレーキ力の入力が解除されて、非常ブレーキ緩和動作が実行され、その後、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が初期値になった後の時点T23において、非常ブレーキ動作が実行され、その後、ブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加の検知の前の時点T24において、非常ブレーキ緩和動作が実行される場合を示している。
つまり、図6は、図4に示されるフローチャートにおいて、時点T21まで、ステップ102でNoと判定され、時点T21から時点T22までの間に、ステップ103でYes、ステップ107でNo、ステップ108でNo、ステップ110でYesと判定され、時点T22から時点T23までの間に、ステップ107でYes、ステップ116でNoと判定され、時点T23から時点T24までの間に、ステップ116でYes、ステップ103でYes、ステップ107でNo、ステップ108でNo、ステップ110でYesと判定され、時点T24以降に、ステップ107でYes、ステップ116でNoと判定される場合を示している。
図6に示されるように、液圧調整動作実行部71は、入力有無判定部73が時点T21においてブレーキ操作機構10におけるブレーキ力の入力が有ると判定すると、時点T21から時点T22までのマスタシリンダ増圧前期間TE1において、ステップ104で設定される目標値WC_P_targetに応じた制御量でポンプ34を駆動させて、非常ブレーキ動作を実行する。また、液圧調整動作実行部71は、入力有無判定部73が時点T22においてブレーキ操作機構10におけるブレーキ力の入力が無くなったと判定すると、時点T22から時点T23までのブレーキ解除期間TE4において、ステップ114で設定される目標値WC_P_targetに応じた制御量で第1弁35を開放させて、非常ブレーキ緩和動作を実行する。
液圧調整動作実行部71は、ホイールシリンダ液圧検知部38で検知されるホイールシリンダ12のブレーキ液圧が基準値を下回る状態で、入力有無判定部73が再度時点T23においてブレーキ操作機構10におけるブレーキ力の入力が有ると判定すると、時点T23から時点T24までのマスタシリンダ増圧前期間TE1において、ステップ104で設定される目標値WC_P_targetに応じた制御量でポンプ34を駆動させて、非常ブレーキ動作を実行する。また、液圧調整動作実行部71は、入力有無判定部73が時点T24においてブレーキ操作機構10におけるブレーキ力の入力が無くなったと判定すると、時点T24以降のブレーキ解除期間TE4において、ステップ114で設定される目標値WC_P_targetに応じた制御量で第1弁35を開放させて、非常ブレーキ緩和動作を実行する。
図7は、時点T31で非常ブレーキ動作が開始された後、ブレーキ操作機構10に入力されるブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加が検知される前の時点T32において、ブレーキ操作機構10へのブレーキ力の入力が解除されて、非常ブレーキ緩和動作が実行され、その後、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が初期値になる前の時点T33において、非常ブレーキ動作が実行され、その後、ブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加の検知の前の時点T34において、非常ブレーキ緩和動作が実行される場合を示している。
つまり、図7は、図4に示されるフローチャートにおいて、時点T31まで、ステップ102でNoと判定され、時点T31から時点T32までの間に、ステップ103でYes、ステップ107でNo、ステップ108でNo、ステップ110でYesと判定され、時点T32から時点T33までの間に、ステップ107でYes、ステップ116でNoと判定され、時点T33から時点T34までの間に、ステップ116でYes、ステップ103でNo、ステップ107でNo、ステップ108でNo、ステップ110でYesと判定され、時点T34以降に、ステップ107でYes、ステップ116でNoと判定される場合を示している。
図7に示されるように、液圧調整動作実行部71は、ホイールシリンダ液圧検知部38で検知されるホイールシリンダ12のブレーキ液圧が基準値を下回らない状態で、入力有無判定部73が再度時点T33においてブレーキ操作機構10におけるブレーキ力の入力が有ると判定すると、時点T33から時点T34までのマスタシリンダ増圧前期間TE1において、ステップ105で設定される目標値WC_P_targetに応じた制御量でポンプ34を駆動させて、非常ブレーキ動作を実行する。ステップ105で設定される目標値WC_P_targetは、マスタシリンダ増圧前期間TE1が始まってから終わるまでの全期間に亘って、一定の勾配で増加し続けるような目標値WC_P_targetである。その増加は、ステップ104で設定される目標値WC_P_targetの増加と比較して、緩やかである。
液圧調整動作実行部71は、入力有無判定部73が時点T34においてブレーキ操作機構10におけるブレーキ力の入力が無くなったと判定すると、時点T34以降のブレーキ解除期間TE4において、ステップ114で設定される目標値WC_P_targetに応じた制御量で第1弁35を開放させて、非常ブレーキ緩和動作を実行する。ここで設定される目標値WC_P_targetは、ブレーキ解除期間TE4が始まってから目標値WC_P_targetが初期値になるまで、一定の勾配で減少し続けるような目標値WC_P_targetである。また、その減少は、ホイールシリンダ液圧検知部38で検知されるホイールシリンダ12のブレーキ液圧が基準値を下回る状態で、入力有無判定部73が再度時点T23においてブレーキ操作機構10におけるブレーキ力の入力が有ると判定する場合の減少と比較して、緩やかである。
<車両用ブレーキシステムの効果>
実施の形態1に係る車両用ブレーキシステムの効果について説明する。
車両用ブレーキシステム1では、液圧調整動作実行部71が、倍力装置15の稼働が不可能である場合に実行される非常モードにおいて、入力状態検知部49でブレーキ力の入力が検知されてから、ブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加が生じるまでの期間であるマスタシリンダ増圧前期間TE1に、ポンプ34を駆動させる非常ブレーキ動作を実行する。そのため、使用者が車両100を制動しようとしてブレーキ操作機構10にブレーキ力を入力してから、その入力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加が生じるまでの間にポンプ34が駆動されないことに起因してブレーキ操作機構10の操作が重くなることが抑制されて、車両100の制動に要する使用者の負担が低減される。
好ましくは、車両用ブレーキシステム1では、液圧調整動作実行部71が、マスタシリンダ増圧前期間TE1における非常ブレーキ動作において、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧を徐々に増加させる。そのため、使用者は、車両100の制動力を、ブレーキ操作機構10に入力するブレーキ力の大きさではなく、ブレーキ操作機構10にブレーキ力を入力する時間で、調整することができるため、倍力装置15の稼働が不可能であることに起因して、車両100の制動力の調整に要する使用者の負担が増加することが抑制される。
特に、車両用ブレーキシステム1では、液圧調整動作実行部71が、マスタシリンダ増圧前期間TE1における非常ブレーキ動作において、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧を一定の勾配で増加させる。そのため、車両100の制動力の調整における使用者の予測性が向上して、操作性が向上する。ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が、マスタシリンダ増圧前期間TE1の全期間に亘って一定の勾配で増加する場合には、操作性が更に向上する。
好ましくは、車両用ブレーキシステム1では、液圧調整動作実行部71が、非常ブレーキ動作中に入力状態検知部49でブレーキ力の入力の解除が検知された場合に、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧を徐々に減少させる非常ブレーキ緩和動作に移行する。そのため、使用者による車両100の制動力の調整の自由度が向上して、操作性が向上する。
特に、車両用ブレーキシステム1では、液圧調整動作実行部71が、非常ブレーキ緩和動作において、マスタシリンダ増圧前期間TE1における非常ブレーキ動作と比較して、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧の変化を急にする。倍力装置15の稼働が可能である場合に実行される通常モードにおいては、使用者が、車両100の制動力を、ブレーキ操作機構10に入力するブレーキ力を徐々に増加させることで調整する場合が多い。そして、車両100が所望の速度になると、使用者は、ブレーキ操作機構10に入力しているブレーキ力を一気に解除する。そのため、液圧調整動作実行部71が、非常ブレーキ緩和動作において、マスタシリンダ増圧前期間TE1における非常ブレーキ動作と比較して、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧の変化を急にすることで、通常モードでの車両100の制動力の調整と、非常モードでの車両100の制動力の調整と、の間で大きな差異が生じることが抑制されて、操作感が向上される。
好ましくは、車両用ブレーキシステム1では、液圧調整動作実行部71が、非常ブレーキ緩和動作中に入力状態検知部49でブレーキ力の入力が検知された場合に、非常ブレーキ動作に移行し、その非常ブレーキ動作を開始する際に、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が基準値を下回らない場合に、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が基準値を下回る場合と比較して、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧の変化を緩やかにする。そのため、使用者が車両100の制動力を維持したい場合等において、使用者がブレーキ操作機構10へのブレーキ力の入力と解除を頻繁に繰り返す必要が生じてしまうことが抑制されて、操作性が向上する。
好ましくは、車両用ブレーキシステム1では、液圧調整動作実行部71が、非常ブレーキ動作において、目標値WC_P_targetに基づいてポンプ34の駆動を制御し、マスタシリンダ増圧前期間TE1における非常ブレーキ動作中にブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加が検知された場合に、非常ブレーキ動作を引き続き実行し、その非常ブレーキ動作の各時点で用いられる目標値WC_P_targetが、各時点におけるマスタシリンダ11のブレーキ液圧を加味して設定される。そのため、使用者が車両100の制動力を強めたい場合等において、使用者がポンプ34の駆動が所望の状態になるのを待つ必要が生じてしまうことが抑制されて、操作性が向上される。
特に、車両用ブレーキシステム1では、その引き続き実行される非常ブレーキ動作の各時点で用いられる目標値WC_P_targetが、ブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加が検知される直前の時点T12で用いられた目標値WC_P_target_T12と、マスタシリンダ液圧検知部37で検知されるマスタシリンダ11のブレーキ液圧から換算される各時点での目標値WC_P_target_sensorと、に基づいて設定される。そのため、使用者がマスタシリンダ増圧期間TE2において車両100の制動力を調整する際に、図5に示されるように目標値WC_P_targetを変化させて、目標値WC_P_targetが使用者の意図に反して変動することを抑制することが可能である。
好ましくは、車両用ブレーキシステム1では、倍力装置15が、アクチュエータ46を含む電動式倍力装置である。電動式倍力装置では、複雑な機構、制御等が必要になる場合が多く、倍力装置15の稼働が不可能になる場合を想定する必要性が高い。つまり、非常モードで生じる、車両100の制動に要する使用者の負担を低減することは、倍力装置15が、アクチュエータ46を含む電動式倍力装置である場合に特に有用である。
特に、車両用ブレーキシステム1では、入力状態検知部49が、倍力装置15の入力部42と追従部45との相対位置に基づいて、ブレーキ力の入力状態を検知する。そのため、通常モードにおいて倍力装置15を駆動するための検知部を、非常モードにおいてポンプ34を駆動する非常ブレーキ動作を実行するための検知部として流用することが可能となって、コスト性が向上する。
好ましくは、車両用ブレーキシステム1では、制御モジュール50が、入力状態検知部49の検知結果に基づいて倍力装置15の駆動を制御する倍力動作実行部61を含む第1制御装置60と、液圧調整動作実行部71を含む第2制御装置70と、を備え、第1制御装置60及び第2制御装置70は、第1通信系81を介して相互に通信し、第2制御装置70は、入力状態検知部49の検知結果を、第1通信系81と異なる第2通信系82を介して取得する。そのため、第1通信系81の通信が不可能になる場合でも、マスタシリンダ増圧前期間TE1にポンプ34を駆動する非常ブレーキ動作を実行して車両100を制動することが可能である。
実施の形態2.
以下に、実施の形態2に係る車両用ブレーキシステムについて説明する。
なお、実施の形態1に係る車両用ブレーキシステムと同一又は類似する内容の説明は、適宜省略又は簡略化している。
<制御モジュールの詳細>
実施の形態2に係る車両用ブレーキシステムの制御モジュールの詳細について説明する。
(非常モード実行時の動作フロー)
実施の形態2に係る車両用ブレーキシステムの制御モジュールの非常モード実行時の動作フローについて説明する。
図4に示されるステップ104(動作パラメータ設定ステップ)において、液圧調整動作パラメータ設定部74は、非常ブレーキ動作におけるホイールシリンダ12のブレーキ液圧の変化が規定状態となるように、その後の各時点におけるホイールシリンダ12のブレーキ液圧の目標値を設定する。その規定状態は、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が、前段階において急に増加し、その後に続く後段階において緩やかに増加する状態である。例えば、その規定状態は、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧が、前段階及び後段階のそれぞれにおいて、一定の勾配で増加する状態である。目標値が設定されると、ステップ106に進む。
(非常モード実行時の作用)
実施の形態2に係る車両用ブレーキシステムの制御モジュールの非常モード実行時の作用の例について説明する。
図8は、本発明の実施の形態2に係る車両用ブレーキシステムの、制御モジュールの非常モード実行時の作用の例を説明するための図である。
図8は、時点T11で開始された非常ブレーキ動作が、時点T12における、ブレーキ操作機構10に入力されるブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加の検知の後も、引き続き実行され、時点T13において、そのマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加が検知されなくなって、非常ブレーキ緩和動作が実行される場合を示している。
図8に示されるように、液圧調整動作実行部71は、入力有無判定部73が時点T11においてブレーキ操作機構10におけるブレーキ力の入力が有ると判定すると、時点T11から時点T12までのマスタシリンダ増圧前期間TE1において、ステップ104で設定される目標値WC_P_targetに応じた制御量でポンプ34を駆動させて、非常ブレーキ動作を実行する。ステップ104で設定される目標値WC_P_targetは、マスタシリンダ増圧前期間TE1が始まってから前段階TE1_Prが終わるまでの全期間に亘って、一定の勾配で増加し続け、それに続く後段階TE1_Poが始まってからマスタシリンダ増圧前期間TE1が終わるまでの全期間に亘って、前段階TE1_Prの勾配と比較して緩やかな一定の勾配で増加し続けるような目標値WC_P_targetである。
<車両用ブレーキシステムの効果>
実施の形態2に係る車両用ブレーキシステムの効果について説明する。
好ましくは、車両用ブレーキシステム1では、液圧調整動作実行部71が、マスタシリンダ増圧前期間TE1における非常ブレーキ動作において、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧を徐々に増加させる。そのため、使用者は、車両100の制動力を、ブレーキ操作機構10に入力するブレーキ力の大きさではなく、ブレーキ操作機構10にブレーキ力を入力する時間で、調整することができるため、倍力装置15の稼働が不可能であることに起因する、車両100の制動に要する使用者の負担の増加が抑制される。
特に、車両用ブレーキシステム1では、液圧調整動作実行部71が、マスタシリンダ増圧前期間TE1における非常ブレーキ動作において、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧の増加を、前段階TE1_Prで急に増加させ、前段階TE1_Prに続く後段階TE1_Poで緩やかに増加させる。倍力装置15の稼働が可能である場合に実行される通常モードにおいては、使用者がブレーキ操作機構10にブレーキ力を入力してそのブレーキ力を増加しても、倍力装置15の入力部42と出力部43との間に介在するリアクションディスク44が入力部42と出力部43との両方に当接するまで、制動力が生じない。そして、入力されているブレーキ力が所定値に達した段階で制動力が急に立ち上がり(ジャンプインし)、その後徐々に増加していく。液圧調整動作実行部71が、マスタシリンダ増圧前期間TE1における非常ブレーキ動作において、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧の増加を、前段階TE1_Prで急に増加させ、前段階TE1_Prに続く後段階TE1_Poで緩やかに増加させることで、通常モードでの車両100の制動力の生じ方と、非常モードでの車両100の制動力の生じ方と、の間で大きな差異が生じることが抑制されて、操作感が向上される。
実施の形態3.
以下に、実施の形態3に係る車両用ブレーキシステムについて説明する。
なお、実施の形態1に係る車両用ブレーキシステムと同一又は類似する内容の説明は、適宜省略又は簡略化している。
<制御モジュールの詳細>
実施の形態3に係る車両用ブレーキシステムの制御モジュールの詳細について説明する。
(非常モード実行時の動作フロー)
実施の形態3に係る車両用ブレーキシステムの制御モジュールの非常モード実行時の動作フローについて説明する。
図4に示されるステップ109(動作パラメータ設定ステップ)において、液圧調整動作パラメータ設定部74は、ブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加が検知されなかった場合に想定される各時点における目標値と、各時点においてマスタシリンダ液圧検知部37で検知されるマスタシリンダ11のブレーキ液圧と、に基づいて、ホイールシリンダ12のブレーキ液圧の目標値を設定する。目標値が設定されると、ステップ106に進む。
(非常モード実行時の作用)
実施の形態3に係る車両用ブレーキシステムの制御モジュールの非常モード実行時の作用の例について説明する。
図9は、本発明の実施の形態3に係る車両用ブレーキシステムの、制御モジュールの非常モード実行時の作用の例を説明するための図である。
図9は、時点T11で開始された非常ブレーキ動作が、時点T12における、ブレーキ操作機構10に入力されるブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加の検知の後も、引き続き実行され、時点T13において、そのマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加が検知されなくなって、非常ブレーキ緩和動作が実行される場合を示している。
図9に示されるように、液圧調整動作実行部71は、時点T12において、マスタシリンダ液圧検知部37で、ブレーキ操作機構10へ入力されるブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液の増圧が検知されると、時点T12から時点T13までのマスタシリンダ増圧期間TE2において、ステップ109で設定される目標値WC_P_targetに応じた制御量でポンプ34を駆動させて、非常ブレーキ動作を実行する。ステップ109では、マスタシリンダ増圧前期間TE1が時点T12以降も継続している場合に想定される目標値WC_P_targetと、マスタシリンダ液圧検知部37で検知されるマスタシリンダ11のブレーキ液圧から換算される各時点での目標値WC_P_target_sensorと、のうちの大きい方が、マスタシリンダ増圧期間TE2の各時点における目標値WC_P_targetに設定される。
<車両用ブレーキシステムの効果>
実施の形態3に係る車両用ブレーキシステムの効果について説明する。
好ましくは、車両用ブレーキシステム1では、液圧調整動作実行部71が、非常ブレーキ動作において、目標値WC_P_targetに基づいてポンプ34の駆動を制御し、マスタシリンダ増圧前期間TE1における非常ブレーキ動作中にブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加が検知された場合に、非常ブレーキ動作を引き続き実行し、その非常ブレーキ動作の各時点で用いられる目標値WC_P_targetが、各時点におけるマスタシリンダ11のブレーキ液圧を加味して設定される。そのため、使用者が車両100の制動力を強めたい場合等において、使用者がポンプ34の駆動が所望の状態になるのを待つ必要が生じてしまうことが抑制されて、操作性が向上される。
特に、車両用ブレーキシステム1では、その引き続き実行される非常ブレーキ動作の各時点で用いられる目標値WC_P_targetが、ブレーキ力の増加に伴うマスタシリンダ11のブレーキ液圧の増加が検知されなかった場合に想定される各時点における目標値WC_P_targetと、マスタシリンダ液圧検知部37で検知されるマスタシリンダ11のブレーキ液圧から換算される各時点での目標値WC_P_target_sensorと、に基づいて設定される。そのため、使用者がマスタシリンダ増圧期間TE2において車両100の制動力を調整する際に、図9に示されるように目標値WC_P_targetを変化させて、使用者が大きなブレーキ力を入力し続けなければならない期間を短縮することが可能である。
以上、実施の形態1〜実施の形態3について説明したが、本発明は各実施の形態の説明に限定されない。例えば、各実施の形態の全て又は一部が組み合わされてもよい。