以下に説明する実施形態のうち、第1実施形態が特許請求の範囲に記載した発明の実施形態であり、第2実施形態は、参考例として示す形態である。
(第1実施形態)
図1〜図4を用いて、本発明の第1実施形態を説明する。本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10は、車両用空調装置に適用されており、空調対象空間である車室内に送風される送風空気を冷却する機能を果たす。従って、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10の冷却対象流体は、送風空気である。
エジェクタ式冷凍サイクル10では、冷媒としてHFC系冷媒(具体的には、R134a)を採用しており、サイクルの高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成している。さらに、冷媒には圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されている。冷凍機油の一部は、冷媒とともにサイクルを循環している。
図1の全体構成図に示すエジェクタ式冷凍サイクル10において、圧縮機11は、冷媒を吸入し、圧縮して吐出するものである。より具体的には、本実施形態の圧縮機11は、1つのハウジング内に固定容量型の圧縮機構、および圧縮機構を駆動する電動モータを収容して構成された電動圧縮機である。
この圧縮機構としては、スクロール型圧縮機構、ベーン型圧縮機構等の各種圧縮機構を採用することができる。また、電動モータは、空調制御装置から出力される制御信号によって、回転数(すなわち、冷媒吐出能力)が制御されるもので、交流モータ、直流モータのいずれの形式のものを採用してもよい。
圧縮機11の吐出口には、放熱器12の冷媒入口側が接続されている。放熱器12は、圧縮機11から吐出された高圧冷媒と冷却ファン12aにより送風される車室外空気(外気)を熱交換させて、高圧冷媒を放熱させて冷却する放熱用熱交換器である。冷却ファン12aは、空調制御装置から出力される制御電圧によって回転数(送風空気量)が制御される電動式送風機である。
放熱器12の冷媒出口には、分岐部13の流入口側が接続されている。分岐部13は、放熱器12から流出した冷媒の流れを分岐するものである。本実施形態では、分岐部13として、遠心分離方式の気液分離器構造のものを採用している。そして、旋回中心側の比較的乾き度の高い冷媒をエジェクタ15のノズル部15a側へ流出させ、外周側の比較的乾き度の低い冷媒を吸引側減圧装置16側へ流出させている。
エジェクタ15は、分岐部13にて分岐された一方の冷媒を減圧させて噴射するノズル部15aを有し、冷媒減圧装置としての機能を果たす。さらに、エジェクタ15は、ノズル部15aから噴射された噴射冷媒の吸引作用によって、外部から冷媒を吸引して循環させる冷媒循環装置としての機能を果たす。
これに加えて、エジェクタ15は、ノズル部15aから噴射された噴射冷媒と冷媒吸引口15cから吸引された吸引冷媒との混合冷媒の運動エネルギを圧力エネルギに変換し、混合冷媒を昇圧させるエネルギ変換装置としての機能を果たす。
より具体的には、エジェクタ15は、ノズル部15a、およびボデー部15bを有している。ノズル部15aは、冷媒の流れ方向に向かって徐々に先細る略円筒状の金属(本実施形態では、ステンレス合金)等で形成されている。ノズル部15aは、内部に形成された冷媒通路にて冷媒を等エントロピ的に減圧膨張させるものである。
ノズル部15aの内部に形成された冷媒通路には、通路断面積を最も縮小させる喉部、および喉部から冷媒を噴射する冷媒噴射口へ向かうに伴って通路断面積が徐々に拡大する末広部が形成されている。つまり、本実施形態のノズル部15aは、ラバールノズルとして構成されている。
さらに、本実施形態では、ノズル部15aとして、サイクルの通常運転時に冷媒噴射口から噴射される噴射冷媒の流速が音速以上となるように設定されたものが採用されている。もちろん、ノズル部15aを先細ノズルで構成してもよい。
ボデー部15bは、略円筒状の金属(本実施形態では、アルミニウム)で形成されている。ボデー部15bは、内部にノズル部15aを支持固定する固定部材として機能するとともに、エジェクタ15の外殻を形成するものである。より具体的には、ノズル部15aは、ボデー部15bの長手方向一端側の内部に収容されるように圧入にて固定されている。ボデー部15bは、樹脂にて形成されていてもよい。
ボデー部15bの外周面のうち、ノズル部15aの外周側に対応する部位には、その内外を貫通してノズル部15aの冷媒噴射口と連通するように設けられた冷媒吸引口15cが形成されている。冷媒吸引口15cは、ノズル部15aから噴射される噴射冷媒の吸引作用によって、後述する吸引側蒸発器17から流出した冷媒をエジェクタ15の内部へ吸引する貫通穴である。
ボデー部15bの内部には、冷媒吸引口15cから吸引された吸引冷媒をノズル部15aの冷媒噴射口側へ導く吸引通路、および、吸引冷媒と噴射冷媒とを混合させて昇圧させる昇圧部としてのディフューザ部15dが形成されている。
吸引通路は、ノズル部15aの先細り形状の先端部周辺の外周側とボデー部15bの内周側との間の空間に形成されており、吸引通路の冷媒通路面積は、冷媒流れ方向に向かって徐々に縮小している。これにより、吸引通路を流通する吸引冷媒の流速を徐々に増加させて、ディフューザ部15dにて吸引冷媒と噴射冷媒が混合する際のエネルギ損失(すなわち、混合損失)を減少させている。
ディフューザ部15dは、吸引通路の出口に連続するように配置された円錐台状の冷媒通路である。ディフューザ部15dでは、通路断面積が冷媒流れ下流側に向かって徐々に拡大する。ディフューザ部15dは、このような通路形状によって、混合冷媒の運動エネルギを圧力エネルギに変換する。
より具体的には、本実施形態のディフューザ部15dを形成するボデー部15bの内周壁面の断面形状は、複数の曲線を組み合わせて形成されている。そして、ディフューザ部15dの冷媒通路断面積の広がり度合が冷媒流れ方向に向かって徐々に大きくなった後に再び小さくなっていることで、冷媒を等エントロピ的に昇圧させることができる。
ディフューザ部15dの出口には、流出側蒸発器18の冷媒入口側が接続されている。流出側蒸発器18は、ディフューザ部15dから流出した冷媒と送風機18aから車室内へ向けて送風された送風空気とを熱交換させ、冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させることによって送風空気を冷却する吸熱用熱交換器である。
送風機18aは、空調制御装置から出力される制御電圧によって回転数(すなわち、送風空気量)が制御される電動式送風機である。さらに、流出側蒸発器18の冷媒出口側には、圧縮機11の吸入口側が接続されている。
次に、吸引側減圧装置16は、分岐部13にて分岐された他方の冷媒であって、後述する吸引側蒸発器17へ流入する冷媒を減圧させる機能を果たす可変絞り機構である。さらに、吸引側減圧装置16は、吸引側蒸発器17へ流入する冷媒の流量を調整する流量調整装置としての機能を果たす。
より具体的には、吸引側減圧装置16は、弁体部16a、感温部16b等を有している。弁体部16aは、分岐部13にて分岐された他方の冷媒を減圧させる絞り通路の通路断面積を変化させる金属製の弁体である。感温部16bは、弁体部16aを変位させるものである。
感温部16bは、ケース16cおよびダイヤフラム16dを有している。ケース16cは、杯状(換言すると、カップ状)の金属部材で形成されている。ケース16cは、内部に感温媒体が封入される封入空間を形成する封入空間形成部材である。感温媒体は、吸引側蒸発器17から流出した冷媒の温度に応じて圧力変化する媒体である。
ダイヤフラム16dは、円形薄板状の金属部材で形成されており、ケース16cとともに封入空間を形成している。ダイヤフラム16dは、感温媒体の圧力と吸引側蒸発器17から流出した冷媒の圧力(すなわち、吸引側蒸発器17出口側冷媒の圧力)との圧力差に応じて変形する変形部材である。
ダイヤフラム16dは、作動棒等を介して弁体部16aに連結されている。従って、弁体部16aは、ダイヤフラム16dの変形に伴って変位する。ダイヤフラム16dは、吸引側減圧装置16において、封入空間の反対側の面が吸引側蒸発器17から流出した冷媒と接触可能に配置されている。このため、封入空間内の感温媒体の圧力は、吸引側蒸発器17から流出した冷媒の温度に応じて変化する。
より具体的には、吸引側蒸発器17から流出した冷媒の温度(過熱度)が上昇すると、封入空間内の圧力が増加する。これにより、感温媒体の圧力から吸引側蒸発器17出口側冷媒の圧力を減算した圧力差が増加して、ダイヤフラム16dが封入空間の体積を増加させる側に変形する。この変形に伴って、弁体部16aは、絞り通路の通路断面積を拡大させる側に変位する。
一方、吸引側蒸発器17から流出した冷媒の温度(過熱度)が低下すると、封入空間内の圧力が減少する。これにより、感温媒体の圧力から吸引側蒸発器17出口側冷媒の圧力を減算した圧力差が減少して、ダイヤフラム16dが封入空間の体積を減少させる側に変形する。この変形に伴って、弁体部16aは、絞り通路の通路断面積を縮小させる側に変位する。
従って、吸引側減圧装置16では、吸引側蒸発器17出口側冷媒の過熱度に応じて、弁体部16aを変位させることができる。そこで、本実施形態の吸引側減圧装置16では、吸引側蒸発器17出口側冷媒の過熱度が予め定めた基準過熱度(具体的には、0℃)に近づくように、弁体部16aを変位させる。
さらに、吸引側減圧装置16は、図示しない弾性部材であるコイルバネを有している。コイルバネは、弁体部16aに対して、絞り通路の通路断面積を縮小させる側の荷重をかけるものである。従って、上述した基準過熱度は、コイルバネによる荷重を変更することによって調整することができる。
また、吸引側減圧装置16では、感温媒体として、図2に示すように、予め定めた基準温度KTよりも低い温度帯での圧力がサイクルを循環する冷媒の飽和圧力よりも高くなり、基準温度KTよりも高い温度帯での圧力が冷媒の飽和圧力よりも低くなるものを採用している。
つまり、本実施形態の吸引側減圧装置16は、いわゆるクロスチャージ方式の温度式膨張弁である。このような特性を有する感温媒体としては、サイクルを循環する冷媒とは異なる成分の冷媒に不活性ガス(具体的には窒素)を混合させたもの等を採用することができる。
このため、吸引側減圧装置16では、吸引側蒸発器17出口側冷媒の温度が基準温度KTより低くなっている際には、感温媒体としてサイクルを循環する冷媒を採用するものよりも、絞り通路の通路断面積を拡大させることができる。従って、本実施形態の吸引側減圧装置16では、吸引側蒸発器17出口側冷媒の温度が基準温度KTより低くなっている際には、吸引側蒸発器17出口側冷媒が気液二相冷媒とすることができる。
一方、吸引側減圧装置16では、吸引側蒸発器17出口側冷媒の温度が基準温度KTより高くなっている際には、感温媒体としてサイクルを循環する冷媒を採用するものよりも、絞り通路の通路断面積を縮小させることができる。従って、本実施形態の吸引側減圧装置16では、吸引側蒸発器17出口側冷媒の温度が基準温度KTより高くなっている際には、吸引側蒸発器17出口側冷媒が気相冷媒とすることができる。
ここで、図2では、サイクルを循環する冷媒(本実施形態では、R134a)の温度−圧力特性(すなわち、飽和曲線)を太破線で示し、本実施形態の感温媒体の温度−圧力特性を、太実線で示している。
さらに、本実施形態では、サイクルの熱負荷が予め定めた基準負荷となっている際の吸引側蒸発器17における冷媒蒸発温度を、基準温度KTとしている。基準負荷は、サイクルの熱負荷が基準負荷よりも低くなっている際には、低負荷運転時となっており、サイクルの熱負荷が基準負荷よりも高くなっている際には、通常運転時あるいは高負荷運転時となっているものと判定するための基準値である。
このため、吸引側減圧装置16は、基本的には、吸引側蒸発器17出口側冷媒の過熱度が0℃に近づくように(すなわち、吸引側蒸発器17出口側冷媒が飽和気相冷媒に近づくように)、弁体部16aを変位させる。
そして、サイクルの熱負荷が基準負荷よりも低くなり、吸引側蒸発器17出口側冷媒の温度が基準温度KTより低くなった際には、吸引側蒸発器17出口側冷媒が気液二相状態となる範囲で、その過熱度が0℃に近づくように、弁体部16aを変位させる。このため、サイクルの熱負荷が基準負荷よりも低くなっている際には、吸引側蒸発器17から流出する冷媒が比較的乾き度の高い気液二相冷媒となる。
また、サイクルの熱負荷が基準負荷よりも高くなり、吸引側蒸発器17出口側冷媒の温度が基準温度KTより高くなった際には、吸引側蒸発器17出口側冷媒が気相状態となる範囲で、その過熱度が0℃に近づくように、弁体部16aを変位させる。このため、サイクルの熱負荷が基準負荷よりも高くなっている際には、吸引側蒸発器17から流出する冷媒が比較的低い過熱度を有する気相冷媒となる。
吸引側減圧装置16の出口には、吸引側蒸発器17の冷媒入口側が接続されている。吸引側蒸発器17は、流出側蒸発器18を通過した送風空気と吸引側減圧装置16にて減圧された低圧冷媒とを熱交換させ、この低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させることによって送風空気を冷却する吸熱用熱交換器である。
吸引側蒸発器17の冷媒出口には、吸引側減圧装置16に形成された感温部16bと連通する冷媒通路を介して、エジェクタ15の冷媒吸引口15c側が接続されている。
また、本実施形態の吸引側蒸発器17および流出側蒸発器18は、一体的に構成されている。具体的には、吸引側蒸発器17および流出側蒸発器18は、いずれも冷媒を流通させる複数本のチューブと、この複数のチューブの両端側に配置されてチューブを流通する冷媒の集合あるいは分配を行う一対の集合分配用タンクとを有する、いわゆるタンクアンドチューブ型の熱交換器で構成されている。
そして、吸引側蒸発器17および流出側蒸発器18の集合分配用タンクを同一部材にて形成することによって、吸引側蒸発器17および流出側蒸発器18を一体化させている。この際、本実施形態では、流出側蒸発器18が吸引側蒸発器17に対して送風空気流れ上流側に配置されるように、吸引側蒸発器17および流出側蒸発器18を送風空気流れに対して直列に配置している。従って、送風空気は図1の二点鎖線で描いた矢印で示すように流れる。
次に、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10の電気制御部について説明する。図示しない空調制御装置は、CPU、ROM、RAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種制御対象機器11、12a、18a等の作動を制御する。
また、空調制御装置には、車室内温度を検出する内気温センサ、外気温を検出する外気温センサ、車室内の日射量を検出する日射センサ、吸引側蒸発器17から吹き出される吹出空気温度(蒸発器温度)を検出する蒸発器温度センサ等のセンサ群が接続され、これらの空調用センサ群の検出値が入力される。
さらに、空調制御装置の入力側には、図示しない操作パネルが接続され、この操作パネルに設けられた各種操作スイッチからの操作信号が空調制御装置へ入力される。操作パネルに設けられた各種操作スイッチとしては、空調を行うことを要求する空調作動スイッチ、車室内温度を設定する車室内温度設定スイッチ等が設けられている。
なお、本実施形態の空調制御装置は、その出力側に接続された各種の制御対象機器の作動を制御する制御部が一体に構成されたものであるが、空調制御装置のうち、各制御対象機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が各制御対象機器の制御部を構成している。例えば、圧縮機11の作動を制御する構成が、吐出能力制御手段を構成している。
次に、上記構成における本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10の作動について説明する。操作パネルの空調作動スイッチが投入(ON)されると、空調制御装置が、圧縮機11、冷却ファン12a、送風機18a等を作動させる。
これにより、圧縮機11が冷媒を吸入し、圧縮して吐出する。圧縮機11から吐出された高温高圧冷媒は、放熱器12へ流入する。放熱器12へ流入した冷媒は、冷却ファン12aから送風された外気と熱交換し、冷却されて凝縮する。放熱器12から流出した冷媒の流れは、分岐部13にて分岐される。
分岐部13にて分岐された一方の冷媒は、エジェクタ15のノズル部15aへ流入して等エントロピ的に減圧されて噴射される。そして、噴射冷媒の吸引作用によって、吸引側蒸発器17から流出した冷媒が、冷媒吸引口15cから吸引される。
ノズル部15aから噴射された噴射冷媒および冷媒吸引口15cから吸引された吸引冷媒は、ディフューザ部15dへ流入する。ディフューザ部15dでは、冷媒通路面積の拡大により、冷媒の速度エネルギが圧力エネルギに変換される。これにより、噴射冷媒と吸引冷媒との混合冷媒の圧力が上昇する。ディフューザ部15dにて昇圧された冷媒は、流出側蒸発器18へ流入する。
流出側蒸発器18へ流入した冷媒は、送風機18aによって送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、送風機18aによって送風された送風空気が冷却される。流出側蒸発器18から流出した冷媒は、圧縮機11へ吸入されて再び圧縮される。
一方、分岐部13にて分岐された他方の冷媒は、吸引側減圧装置16へ流入して等エンタルピ的に減圧される。この際、吸引側減圧装置16では、前述の如く、吸引側蒸発器17出口側冷媒の過熱度が0℃に近づくように、絞り開度が調整される。吸引側減圧装置16にて減圧された冷媒は、吸引側蒸発器17へ流入する。
吸引側蒸発器17へ流入した冷媒は、流出側蒸発器18通過後の送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、流出側蒸発器18通過後の送風空気がさらに冷却される。吸引側蒸発器17から流出した冷媒は、冷媒吸引口15cから吸引される。
以上の如く、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10によれば、吸引側蒸発器17および流出側蒸発器18にて、車室内へ送風される送風空気を冷却することができる。
さらに、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10では、流出側蒸発器18下流側の冷媒、すなわちエジェクタ15のディフューザ部15dにて昇圧された冷媒を圧縮機11へ吸入させることができる。従って、エジェクタ式冷凍サイクル10では、蒸発器における冷媒蒸発圧力と吸入冷媒の圧力が同等となる通常の冷凍サイクル装置よりも、圧縮機11の消費動力を低減させて、サイクルの成績係数(COP)の向上させることができる。
また、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10では、流出側蒸発器18における冷媒蒸発圧力をディフューザ部15dにて昇圧された冷媒圧力とし、吸引側蒸発器17における冷媒蒸発圧力をノズル部15aにて減圧された直後の低い冷媒圧力とすることができる。従って、各蒸発器における冷媒蒸発温度と送風空気との温度差を確保して、送風空気を効率的に冷却することができる。
また、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10では、吸引側減圧装置16として、クロスチャージ方式の温度式膨張弁を採用して、吸引側蒸発器17出口側冷媒の過熱度が0℃に近づくように、吸引側減圧装置16の絞り開度を変化させている。
これによれば、吸引側減圧装置16の絞り開度を適切に変化させることが可能となり、吸引側蒸発器17にて冷却された送風空気の温度分布の拡大を抑制することができるとともに、エジェクタ15のディフューザ部15dにおける昇圧作用の低下を抑制することができる。ここで、温度分布は、吸引側蒸発器17にて冷却された送風空気の最高温度と最低温度との温度差ΔT等によって定義することができる。
このことを、図3、図4を用いてより詳細に説明する。まず、図3の太破線に示すように、吸引側蒸発器17出口側冷媒の過熱度が高くなるに伴って、吸引側蒸発器17にて冷却された送風空気の温度分布が拡大する(換言すると、温度差ΔTが拡大する)。温度分布が拡大してしまうと、送風空気の冷却能力Qが低下してしまうので、COPが低下しやすい。
ここで、送風空気の冷却能力Qは、吸引側蒸発器17の出口側冷媒のエンタルピから入口側冷媒のエンタルピを減算したエンタルピ差ΔHに、冷媒の質量流量Gを積算した値(Q=ΔH×G)によって定義することができる。
その一方で、吸引側蒸発器17出口側冷媒の過熱度が低くなるに伴って、冷媒吸引口から吸引される冷媒流量(質量流量)が増加するので、エジェクタの昇圧能力が低下してしまう。エジェクタの昇圧能力が低下してしまうと、圧縮機11の消費動力が増加してしまうので、COPが低下しやすい。
従って、吸引側蒸発器17にて冷却された送風空気の温度分布の拡大を招くことなく、COPを極大値に近づけるためには、図4に示すように、吸引側蒸発器17出口側冷媒の過熱度が0℃になっていることが望ましい。
ところが、実際に、エジェクタ式冷凍サイクル10の負荷変動によらず、吸引側蒸発器17出口側冷媒の過熱度を0℃とすること、すなわち吸引側蒸発器17出口側冷媒を飽和気相冷媒に維持することは難しい。
これに対して、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10では、サイクルの熱負荷が基準負荷よりも低くなる低負荷運転時には、吸引側蒸発器17から流出する冷媒を比較的乾き度の高い気液二相冷媒とすることができる。これによれば、吸引側蒸発器17における冷媒の温度変化を抑制することができ、吸引側蒸発器17にて冷却された送風空気の温度分布の拡大を抑制することができる。
さらに、低負荷運転時には、もともと吸引冷媒の流量も少なくなるので、冷媒吸引口15cから吸引される冷媒が比較的乾き度の高い気液二相冷媒となっていても、ディフューザ部15dにおける昇圧作用の低下度合は小さい。
一方、サイクルの熱負荷が基準負荷よりも高くなる通常運転時あるいは高負荷運転時には、吸引側蒸発器17から流出した冷媒を比較的過熱度の低い気相冷媒とすることができる。従って、冷媒吸引口15cから吸引される冷媒の流量(質量流量)が不必要に増加することを抑制して、ディフューザ部15dにおける昇圧作用が低下してしまうことを抑制することができる。
さらに、通常運転時あるいは高負荷運転時には、エジェクタ15に充分な吸引作用を発揮させて、吸引側蒸発器17へ充分な流量の冷媒を供給することができる。従って、吸引側蒸発器17出口側冷媒が気相冷媒になっていても、吸引側蒸発器17にて冷却される送風空気の温度分布の拡大を招きにくい。
すなわち、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10によれば、吸引側減圧装置16の絞り開度を適切に調整することができる。そして、吸引側蒸発器17にて冷却された送風空気の温度分布の拡大を抑制することができるとともに、エジェクタ15のディフューザ部15dにおける昇圧作用の低下を抑制することができる。
また、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10では、吸引側減圧装置16として、クロスチャージ方式の温度式膨張弁を採用している。
従って、複雑な制御等を要することなく、低負荷運転時には、吸引側蒸発器17出口側冷媒が気液二相状態となる範囲で過熱度が0℃に近づくように(すなわち、飽和気相冷媒に近づくように)絞り開度を変化させ、通常運転時あるいは高負荷運転時には、吸引側蒸発器17出口側冷媒が気相状態となる範囲で過熱度が0℃に近づくように(すなわち、飽和気相冷媒に近づくように)絞り開度を変化させることができる。
また、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10のように、吸引側蒸発器17を流出側蒸発器18の空気流れ下流側に配置する構成では、吸引側蒸発器17にて冷却された送風空気の温度分布を抑制することで、エジェクタ式冷凍サイクル10全体として、送風空気の温度分布を抑制できる。
さらに、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10のように、ノズル部15aよりも冷媒流れ上流側で冷媒の流れを分岐し、分岐された一方の冷媒をノズル部15aへ流入させ、分岐された他方の冷媒を蒸発器等(本実施形態では吸引側蒸発器17)を介してエジェクタ15に吸引させるサイクル構成では、吸引側蒸発器17へ供給される冷媒の流量がエジェクタ15の吸引能力によって変動しやすい。従って、低負荷運転時に吸引側蒸発器17へ確実に冷媒を供給して、送風空気の温度分布を抑制できることは有効である。
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対して、図5の全体構成図に示すように、ノズル側減圧装置14を追加した例を説明する。ノズル側減圧装置14は、分岐部13で分岐された冷媒をノズル部15aの上流側で減圧させる機能を果たす可変絞り機構である。さらに、ノズル側減圧装置14は、ノズル部15aへ流入する冷媒の流量を調整する流量調整装置としての機能を果たす。
ノズル側減圧装置14の基本的構成は、第1実施形態で説明した吸引側減圧装置16と同様の温度式膨張弁である。従って、ノズル側減圧装置14は、吸引側減圧装置16と同様の弁体部14a、感温部14b等を有している。ノズル側減圧装置14では、流出側蒸発器18出口側冷媒(すなわち、圧縮機11吸入冷媒)の過熱度が予め定めたノズル側基準過熱度(具体的には、1℃)に近づくように、弁体部14aを変位させる。
ノズル側減圧装置14は、クロスチャージ方式の温度式膨張弁に限定されることなく、感温媒体の温度−圧力特性の描く曲線がサイクルを循環する冷媒の飽和曲線と略平行となる、いわゆるノーマルチャージ方式の温度式膨張弁であってもよい。
さらに、本実施形態の吸引側減圧装置16は、吸引側蒸発器17から流出した冷媒の温度が封入空間内の感温媒体に伝達されることを抑制する熱伝達抑制部材16eを有している。より具体的には、熱伝達抑制部材16eは、冷媒から感温媒体への熱伝達経路に配置された樹脂部材あるいはゴム部材である。
これにより、本実施形態では、ノズル側減圧装置14が絞り開度を基準量変化させる際に要するノズル側応答時間RTnと、吸引側減圧装置16が絞り開度を基準量変化させる際に要する吸引側応答時間RTsが異なる値となるように設定している。より具体的には、ノズル側応答時間RTnが、吸引側応答時間RTsよりも短くなるように設定している。
ここで、本実施形態における基準量としては、それぞれの減圧装置の開度を0%(すなわち、全閉)から100%(すなわち、全開)とする開度変化量を採用している。従って、ノズル側応答時間RTnは、ノズル側減圧装置14が全閉状態から全開状態となるまでに要する時間であり、吸引側応答時間RTsは、吸引側減圧装置16が全閉状態から全開状態となるまでに要する時間である。
その他のエジェクタ式冷凍サイクル10の構成および作動は、第1実施形態と同様である。従って、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10によれば、第1実施形態と同様に、吸引側蒸発器17にて冷却された送風空気の温度分布の拡大を抑制することができるとともに、エジェクタ15のディフューザ部15dにおける昇圧作用の低下を抑制して、サイクルのCOPを向上させることができる。
さらに、ノズル側減圧装置14が、圧縮機11吸入冷媒の過熱度がノズル側基準過熱度に近づくように弁体部14aを変位させるので、圧縮機11の液圧縮を確実に抑制することができる。
ところで、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10のように、ノズル側減圧装置14および吸引側減圧装置16の2つの可変絞り機構を備えるサイクルでは、吸引側減圧装置16の絞り開度を適切に調整しようとしても、ノズル側減圧装置14の絞り開度が変化すると、吸引側減圧装置16の最適な絞り開度も変化してしまう。このため、双方の絞り開度が適切な値に収束し難くなる制御ハンチングの問題が生じやすい。
これに対して、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10では、ノズル側応答時間RTnと吸引側応答時間RTsが異なっているので、図6に示すように、ノズル側減圧装置14と吸引側減圧装置16との制御的干渉を抑制しやすい。従って、制御ハンチングの問題が生じにくい。
ここで、図6は、ノズル側減圧装置14および吸引側減圧装置16の応答性と制御ハンチングの関係を説明するためのグラフである。図6では、制御ハンチングの大きさを示すパラメータとして、圧縮機11へ吸入される吸入冷媒の圧力の振れ幅(すなわち、単位時間あたりの脈動幅)を採用している。
図6から明らかなように、吸引側応答時間RTsがノズル側応答時間RTnと一致している時に、吸入冷媒の圧力の脈動幅がピーク値(すなわち、極大値)となる。従って、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10のように、ノズル側応答時間RTnと吸引側応答時間RTsとを異なる値とすることで、制御ハンチングの問題が生じてしまうことを抑制することができる。
また、本実施形態では、ノズル側応答時間RTnが、吸引側応答時間RTsよりも短くなっている。従って、エジェクタ15のノズル部15aへ供給される冷媒の流量を速やかに変化させることができる。これによれば、エジェクタ15の吸引能力および昇圧能力を速やかに安定させることができ、エジェクタ式冷凍サイクル10全体としての送風空気の冷却能力を安定させることができる。
さらに、第1実施形態で説明したように、ノズル部15aよりも冷媒流れ上流側で冷媒の流れを分岐し、分岐された一方の冷媒をノズル部15aへ流入させ、分岐された他方の冷媒を絞り機構および蒸発器(本実施形態では吸引側蒸発器17)を介してエジェクタ15に吸引させるサイクル構成では、吸引側蒸発器17へ供給される冷媒の流量がエジェクタ15の吸引能力によって変動しやすい。
従って、エジェクタ15の吸引能力および昇圧能力を速やかに安定させることができることは、エジェクタ式冷凍サイクル10全体としての送風空気の冷却能力の安定化のために有効である。
また、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10では、ノズル側減圧装置14および吸引側減圧装置16として、基本的に同等の構成の温度式膨張弁を採用している。従って、吸引側減圧装置16に熱伝達抑制部材16eを設けることで、複雑な制御を要することなく、極めて容易にノズル側応答時間RTnと吸引側応答時間RTsとを異なる値とすることができる。
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
(1)上述の第1、2実施形態では、吸引側減圧装置16として、クロスチャージ方式の温度式膨張弁を採用した例を説明したが、吸引側減圧装置として空調制御装置から出力される制御信号によって作動制御される電気式膨張弁を採用してもよい。
この場合は、吸引側蒸発器17から流出した冷媒の温度を検出する温度検出部および圧力を検出する圧力検出部を追加すればよい。そして、これらの検出部の検出値に基づいて、第1実施形態と同様に、吸引側蒸発器17出口側冷媒が飽和気相冷媒に近づくように絞り開度を変化させるようにしてもよい。
ここで、吸引側蒸発器から流出した冷媒が、気液二相状態となる範囲では、吸引側蒸発器17から流出した冷媒の温度および圧力が一定となってしまう。そこで、吸引側蒸発器から流出した冷媒が気液二相状態となる範囲では、圧縮機11の冷媒吐出能力(第1実施形態では、回転数)等に基づいて、予め空調制御装置に記憶された制御マップを参照して、絞り開度を変化させるようにしてもよい。
上述の第2実施形態では、ノズル側減圧装置14として、温度式膨張弁を採用した例を説明したが、ノズル側減圧装置として空調制御装置から出力される制御信号によって作動制御される電気式膨張弁を採用してもよい。
この場合は、圧縮機11へ吸入される吸入冷媒の温度を検出する温度検出部および圧力を検出する圧力検出部を追加すればよい。そして、これらの検出部の検出値に基づいて、第2実施形態と同様に、吸引冷媒の過熱度がノズル側基準過熱度(具体的には、1℃)に近づくように絞り開度を変化させるようにしてもよい。
この際、空調制御装置が吸引側応答時間RTsとノズル側応答時間RTnとを変化させるように、吸引側減圧装置16およびノズル側減圧装置14の作動を制御することで、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
(2)上述の第2実施形態では、ノズル側応答時間RTnが、吸引側応答時間RTsよりも短くなるように設定した例を説明したが、もちろん、吸引側応答時間RTsが、ノズル側応答時間RTnよりも短くなるように設定されていても、制御ハンチングの問題が生じてしまうことを抑制することができる。この場合は、ノズル側減圧装置14に、圧縮機11へ吸入される吸入冷媒の温度が封入空間内の感温媒体に伝達されることを抑制する熱伝達抑制部材を追加すればよい。
(3)本発明に係るエジェクタ式冷凍サイクルは、上述した実施形態で説明したサイクル構成のものに限定されない。
例えば、図7に示すように、エジェクタ式冷凍サイクル10に対して、放熱器12から流出した冷媒を中間圧冷媒となるまで減圧させる中間圧減圧装置19を追加してもよい。このような中間圧減圧装置19としては、圧縮機11吸入冷媒の過熱度が基準過熱度(具体的には、1℃)に近づくように絞り開度を変化させる温度式膨張弁を採用してもよいし、同様に絞り開度を変化させる電気式の膨張弁を採用してもよい。
これによれば、分岐部13へ中間圧減圧装置19にて減圧されて気相冷媒と液相冷媒が均質に混合した気液混合状態の冷媒を流入させることができる。従って、分岐部13へ気相冷媒と液相冷媒が偏在して不均質に混合した冷媒を流入させる場合に対して、分岐部13にて分岐される冷媒流量の流量比の変動を抑制することができる。
また、エジェクタ式冷凍サイクル10に対して、ディフューザ部15dから流出した冷媒の気液を分離して分離された余剰液相冷媒を蓄える低圧側気液分離器を備え、吸引側減圧装置16は、低圧側気液分離器から流出した液相冷媒を減圧させるものであり、低圧側気液分離器の気相冷媒出口には、圧縮機11の吸入側が接続されているサイクル構成になっていてもよい。
(4)エジェクタ式冷凍サイクル10を構成する各構成機器は、上述の実施形態に開示されたものに限定されない。
例えば、上述の実施形態では、圧縮機11として、電動圧縮機を採用した例を説明したが、圧縮機11として、プーリ、ベルト等を介して車両走行用エンジンから伝達される回転駆動力によって駆動されるエンジン駆動式の圧縮機を採用してもよい。さらに、エンジン駆動式の圧縮機としては、吐出容量の変化により冷媒吐出能力を調整可能な可変容量型圧縮機、あるいは電磁クラッチの断続により圧縮機の稼働率を変化させて冷媒吐出能力を調整可能な固定容量型圧縮機を採用することができる。
また、上述の実施形態では、放熱器12の詳細構成について言及していないが、放熱器12として、凝縮させた冷媒を蓄えるレシーバ部(換言すると、受液器)を有するレシーバ一体型の凝縮器を採用してもよい。さらに、レシーバ部から流出した液相冷媒を過冷却する過冷却部を有して構成される、いわゆるサブクール型の凝縮器を採用してもよい。
また、上述の実施形態では、分岐部13として気液分離構造のものを採用した例を説明したが、分岐部13はこれに限定されない。例えば、分岐部13として、3つの流入出口を有する三方継手構造のものを採用してもよい。そして、3つの流入出口のうち1つを冷媒流入口とし、残りの2つを冷媒流出口としてもよい。
また、上述の実施形態では、吸引側蒸発器17および流出側蒸発器18を一体的に構成した例を説明したが、吸引側蒸発器17および流出側蒸発器18を別体で構成されていてもよい。そして、吸引側蒸発器17および流出側蒸発器18にて、異なる冷媒対象流体を異なる温度帯で冷却するようにしてもよい。
また、上述の実施形態では、冷媒としてR134aを採用した例を説明したが、冷媒はこれに限定されない。例えば、R1234yf、R600a、R410A、R404A、R32、R407C、等を採用してもよい。または、これらの冷媒のうち複数種を混合させた混合冷媒等を採用してもよい。さらに、冷媒として二酸化炭素を採用して、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力以上となる超臨界冷凍サイクルを構成してもよい。
(5)上述の各実施形態では、本発明に係るエジェクタ式冷凍サイクル10を車両用空調装置に適用したが、エジェクタ式冷凍サイクル10の適用はこれに限定されない。例えば、据置型空調装置、冷温保存庫、その他の冷却加熱装置等に適用してもよい。