(第1実施形態)
図1〜図7を用いて、本発明の第1実施形態を説明する。図1の全体構成図に示す本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10は、アイドリングストップ車両の車両用空調装置に適用されており、空調対象空間である車室内(室内空間)へ送風される送風空気を冷却する機能を果たす。従って、エジェクタ式冷凍サイクル10の冷却対象流体は、送風空気である。なお、アイドリングストップ車両とは、燃費向上および排ガス排出量の低減等のために、信号待ち等の車両停車時に一時的にエンジンを停止させる車両である。
このエジェクタ式冷凍サイクル10では、空調熱負荷に応じて、冷媒回路を切り替えることができる。より具体的には、通常運転時は、図1の黒塗矢印に示すように冷媒が流れる冷媒回路に切り替え、通常運転時よりもエジェクタ式冷凍サイクル10の熱負荷が低くなる低負荷運転時は、図1の白抜矢印に示すように冷媒が流れる冷媒回路に切り替えることができる。
さらに、エジェクタ式冷凍サイクル10では、冷媒としてHFC系冷媒(具体的には、R134a)を採用しており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成している。この冷媒には圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されており、冷凍機油の一部は冷媒とともにサイクルを循環している。
エジェクタ式冷凍サイクル10の構成機器のうち、圧縮機11は、冷媒を吸入して高圧冷媒となるまで昇圧して吐出するものである。圧縮機11は、車両走行用の駆動力を出力するエンジン(内燃機関)とともにエンジンルーム内に配置されている。さらに、圧縮機11は、プーリ、ベルト等を介してエンジンから出力される回転駆動力によって駆動されるエンジン駆動式の圧縮機である。
より具体的には、本実施形態では、圧縮機11として、吐出容量を変化させることによって冷媒吐出能力を調整可能に構成された斜板式の可変容量型圧縮機を採用している。この圧縮機11では、吐出容量を変化させるための図示しない吐出容量制御弁を有している。吐出容量制御弁は、後述する空調制御装置60から出力される制御電流によって、その作動が制御される。
圧縮機11の吐出口には、放熱器12の凝縮部12aの冷媒入口側が接続されている。放熱器12は、圧縮機11から吐出された高圧冷媒と冷却ファン12dから送風された車室外空気(外気)を熱交換させることによって、高圧冷媒を放熱させて冷却する放熱用熱交換器である。放熱器12は、エンジンルーム内の車両前方側に配置されている。
より具体的には、この放熱器12は、凝縮部12a、レシーバ部12b、および過冷却部12cを有する、いわゆるサブクール型の凝縮器として構成されている。
凝縮部12aは、圧縮機11から吐出された高圧気相冷媒と冷却ファン12dから送風された外気とを熱交換させ、高圧気相冷媒を放熱させて凝縮させる凝縮用の熱交換部である。レシーバ部12bは、凝縮部12aから流出した冷媒の気液を分離して余剰液相冷媒を蓄える冷媒容器である。過冷却部12cは、レシーバ部12bから流出した液相冷媒と冷却ファン12dから送風される外気とを熱交換させ、液相冷媒を過冷却する過冷却用の熱交換部である。
冷却ファン12dは、空調制御装置60から出力される制御電圧によって回転数(送風空気量)が制御される電動式送風機である。放熱器12の過冷却部12cの冷媒流出口には、統合差圧弁15の高圧冷媒流入口51aが接続されている。
統合差圧弁15は、その内部に形成された高圧冷媒通路50aと低圧冷媒通路50bとを連通させる迂回通路50cを開閉する機能を有するものである。さらに、本実施形態の統合差圧弁15では、迂回通路50c、迂回通路50cを開閉する第1、第2開閉機構、迂回通路50cを流通する冷媒を減圧させる減圧装置が一体的に構成されている。
より具体的には、統合差圧弁15は、図2に示すように、統合差圧弁15の外殻を形成するとともに、内部に第1弁体部52等を収容するバルブボデー51を有している。バルブボデー51は、金属製(本実施形態では、アルミニウム合金製)の略円筒状部材で形成されている。もちろん、バルブボデー51は、樹脂にて形成されていてもよい。
バルブボデー51には、高圧冷媒流入口51a、高圧冷媒流出口51b、低圧冷媒流入口51c、低圧冷媒流出口51dが形成されている。
高圧冷媒流入口51aは、放熱器12から流出した冷媒を流入させる冷媒流入口である。高圧冷媒流入口51aと高圧冷媒流出口51bは、バルブボデー51の内部に形成された高圧冷媒通路50aを介して接続されている。高圧冷媒流出口51bは、高圧冷媒通路50aを流通する冷媒を、後述するエジェクタ13の冷媒流入口31a側へ流出させる冷媒流出口である。
低圧冷媒流入口51cは、エジェクタ13の液相冷媒流出口31cから流出した冷媒を流入させる冷媒流入口である。低圧冷媒流入口51cと低圧冷媒流出口51dは、バルブボデー51の内部に形成された低圧冷媒通路50bを介して接続されている。低圧冷媒流出口51dは、低圧冷媒通路50bを流通する冷媒を、後述する蒸発器14の冷媒入口側へ流出させる冷媒流出口である。
さらに、バルブボデー51の内部には、高圧冷媒通路50aと低圧冷媒通路50bとを連通させる迂回通路50cが形成されている。従って、この迂回通路50cでは、放熱器12の冷媒流入口よりも下流側を流通する冷媒を、蒸発器14の冷媒流出口よりも上流側に導くことができる。
迂回通路50cは、略円柱状の空間で形成されている。迂回通路50cの内部には、迂回通路50cを開閉する第1開閉機構を構成する第1弁体部52が、迂回通路50cの中心軸方向に変位可能(摺動可能)に収容されている。さらに、第1弁体部52の内部には、迂回通路50cを開閉する第2開閉機構を構成するニードル型の第2弁体部54(以下、ニードル弁体部54と記載する。)が、迂回通路50cの中心軸方向に変位可能に収容されている。
第1弁体部52は、いずれも金属製(本実施形態では、アルミニウム合金製)で形成されたシール部521、収容部522、連結部523等を一体化させることによって構成されたものである。なお、バルブボデー51の軸方向両端側の開口部は、高圧側蓋部材511、および低圧側蓋部材512によって閉塞されている。
シール部521は、略円板状に形成されている。シール部521は、高圧冷媒通路50a内に配置されて、第1弁体部52が変位した際に迂回通路50cの高圧冷媒通路50a側の開口部を閉塞する部位である。従って、シール部521の迂回通路50c側の面であって、迂回通路50cの高圧冷媒通路50a側の開口部に当接する部位には、ゴムにて形成された円環状のシール部材としてのパッキン521aが配置されている。
収容部522は、略円筒状に形成されている。収容部522は、迂回通路50c内で中心軸方向に摺動可能に配置されている。より詳細には、収容部522の外径寸法と迂回通路50cの内径寸法は、隙間バメの寸法関係となっている。なお、収容部522の外周側と迂回通路50cとの間には、シール部材としてのO−リングが配置されており、これらの部材の隙間から冷媒が漏れることはない。
さらに、収容部522の中心部には、軸方向に延びて高圧冷媒通路50aと低圧冷媒通路50bとを連通させる貫通穴が形成されている。この貫通穴は、高圧冷媒通路50a、低圧冷媒通路50bおよび迂回通路50cに対して充分に細い径で形成されている。このため、貫通穴は、迂回通路50cを流通する冷媒を減圧させるオリフィス(減圧装置)50eとしての機能を果たす。
収容部522の内部であって、オリフィス50eの冷媒流れ下流側には、オリフィス50eと同軸上に配置された円柱状の空間が形成されている。この空間内には、金属製(本実施形態では、ステンレス製)の針状部材で形成されたニードル弁体部54、第1バネ54aおよび第2バネ54bが収容されている。
第1バネ54aは、通常のバネ鋼で形成されたコイルバネである。さらに、第1バネ54aは、ニードル弁体部54に対してオリフィス50eの出口部から離れる側に付勢する荷重、すなわち、ニードル弁体部54に対して迂回通路50cを開く側に付勢する荷重をかける弾性部材である。
第2バネ54bは、形状記憶合金で形成されたコイルバネである。さらに、第2バネ54bは、ニードル弁体部54に対してオリフィス50eの出口部へ近づく側へ付勢する荷重、すなわち、ニードル弁体部54に対して迂回通路50cを閉じる側に付勢する荷重をかける弾性部材である。
従って、ニードル弁体部54は、第1バネ54aから受ける荷重と第2バネ54bから受ける荷重が釣り合うように変位する。さらに、本実施形態では、第2バネ54bとして、図3に示すように、温度変化に伴ってバネ荷重が変化するSMA(Shape Memory Alloy)バネを採用している。
また、収容部522の筒状側面には、その内外を貫通する貫通穴が形成されており、収容部522の内部空間のうち、オリフィス50eの冷媒流れ下流側の円柱状の空間は、低圧冷媒通路50bに連通している。このため、第2バネ54bのバネ荷重は、低圧冷媒通路50b側の冷媒の温度に応じて変化する。
より具体的には、本実施形態の第2コイルバネでは、低圧冷媒通路50b側の冷媒(すなわち、オリフィス50eよりも下流側の冷媒)の温度の上昇に伴って、バネ荷重が増加する。このため、低圧冷媒通路50b側の冷媒の温度が予め定めた基準温度以上になると、ニードル弁体部54がオリフィス50eの出口部を閉塞する。
つまり、本実施形態の統合差圧弁15では、迂回通路50cを開閉する第2開閉機構(具体的には、ニードル弁体部54、第1バネ54a、第2バネ54b)が、機械的機構で構成されている。さらに、第2開閉機構は、オリフィス50e下流側冷媒の温度が予め定めた基準温度以上となった際に、迂回通路50cを閉じる。
そこで、本実施形態では、圧縮機11の冷媒吐出能力が低くなっていても圧縮機11が作動している際には、第2開閉機構が迂回通路50cを開くように設定された第2バネ54bを採用している。換言すると、本実施形態の第2開閉機構は、圧縮機11が停止して、低圧冷媒通路50bを流通する冷媒の温度が上昇した際に、迂回通路50cを閉じる。
連結部523は、シール部521と収容部522とを同軸上に連結する筒状部材である。連結部523の外径は、収容部522の外径およびシール部521の外径よりも小さく形成されている。従って、連結部523の外周側の空間は、迂回通路50cを流通する冷媒の流路を形成している。
また、バルブボデー51の内部には、第1弁体部52全体に対して、高圧冷媒通路50a側に変位するように付勢する、すなわち、第1弁体部52に対して、迂回通路50cを開く側に付勢する荷重をかける弾性部材としての弁体用バネ53が収容されている。弁体用バネ53は、通常のバネ鋼で形成されたコイルバネである。
このため、第1弁体部52は、高圧冷媒通路50aを流通する冷媒の圧力PHから低圧冷媒通路50bを流通する冷媒の圧力PLを減算した圧力差ΔP(PH−PL)が減少するに伴って、迂回通路50cを開く側に変位する。換言すると、第1弁体部52は、圧力差ΔP(PH−PL)が増加するに伴って、迂回通路50cを閉じる側に変位する。そこで、本実施形態では、圧力差ΔPが予め定めた基準圧力差KΔP以下となった際に、第1弁体部52が迂回通路50cを開くように、弁体用バネ53の荷重を設定している。
つまり、本実施形態の統合差圧弁15では、迂回通路50cを開閉する第1開閉機構(具体的には、第1弁体部52のシール部521および弁体用バネ53)が、機械的機構で構成されている。さらに、第1開閉機構は、迂回通路50cの入口側の冷媒圧力PHから迂回通路50cの出口側の冷媒圧力PLを減算した圧力差ΔPが基準圧力差KΔP以下となった際に、迂回通路50cを開く。
また、統合差圧弁15は、迂回通路50cを開閉することで、エジェクタ式冷凍サイクル10の冷媒回路を切り替えることができる。従って、統合差圧弁15は、冷媒回路切替装置としての機能も担っている。なお、図2では、第1、第2開閉機構の双方が、迂回通路50cを開いた状態を図示している。統合差圧弁15の高圧冷媒流出口51bには、エジェクタ13の冷媒流入口31a側が接続されている。
エジェクタ13は、統合差圧弁15の高圧冷媒流出口51bから流出した高圧液相冷媒を減圧させて噴射し、高速度で噴射される噴射冷媒の吸引作用によって蒸発器14から流出した冷媒(すなわち、蒸発器14出口側冷媒)を吸引し、噴射冷媒と吸引冷媒とを混合させて昇圧させる機能を果たすものである。
さらに、本実施形態のエジェクタ13は、昇圧させた混合冷媒の気液を分離する気液分離機能を有している。つまり、本実施形態のエジェクタ13は、気液分離部を一体化(モジュール化)させた気液分離機能付きエジェクタ(エジェクタモジュール)として構成されている。また、本実施形態のエジェクタ13には、ノズル通路13aへ流入する冷媒の流量を調整する流量調整機構が一体的に構成されている。
エジェクタ13の具体的構成については、図4、図5を用いて説明する。なお、図4等における上下の各矢印は、エジェクタ式冷凍サイクル10を車両用空調装置に搭載した状態における上下の各方向を示している。また、図5は、エジェクタ13の各冷媒通路の機能を説明するための模式的な一部拡大断面図であって、図4と同一の機能を果たす部分には同一の符号を付している。
本実施形態のエジェクタ13は、図4に示すように、複数の構成部材を組み合わせることによって構成されたボデー30を備えている。
より具体的には、ボデー30は、エジェクタ13の外殻を形成するハウジングボデー31を有している。ボデー30は、金属製(本実施形態では、アルミニウム合金製)の柱状部材で形成されている。さらに、ハウジングボデー31の内部には、略円柱状の空間が形成されている。そして、この空間内にノズルボデー32、ディフューザボデー33が固定されている。なお、ハウジングボデー31は、樹脂にて形成されていてもよい。
ハウジングボデー31には、冷媒流入口31a、冷媒吸引口31b、液相冷媒流出口31c、気相冷媒流出口31dといった複数の冷媒流入出口が形成されている。
冷媒流入口31aは、放熱器12から流出した冷媒を流入させる冷媒流入口である。冷媒吸引口31bは、蒸発器14から流出した冷媒を吸引する冷媒流入口である。液相冷媒流出口31cは、ボデー30の内部に形成された気液分離空間30fにて分離された液相冷媒を蒸発器14の冷媒入口側へ流出させる冷媒流出口である。気相冷媒流出口31dは、気液分離空間30fにて分離された気相冷媒を圧縮機11の吸入口側へ流出させる冷媒流出口である。
ノズルボデー32は、図4に示すように、ハウジングボデー31の内部の上方側に配置されている。ノズルボデー32は、金属製(本実施形態では、ステンレス製)の円環状部材で形成されている。
より具体的には、ノズルボデー32は、旋回空間形成部32aおよびノズル形成部32bを有している。旋回空間形成部32aは、その外径がハウジングボデー31内に形成された略円柱状の空間の内径と同程度の寸法に形成された円環状部である。ノズル形成部32bは、旋回空間形成部32aよりも小径に形成された円環状部である。さらに、旋回空間形成部32aおよびノズル形成部32bは互いに同軸上に配置されている。
さらに、ノズルボデー32は、旋回空間形成部32aの外周側がハウジングボデー31の内部に圧入されることによって、ハウジングボデー31に固定されている。旋回空間形成部32aとハウジングボデー31との間には、シール部材としてのO−リングが配置されており、これらの部材の隙間から冷媒が漏れることはない。
旋回空間形成部32aの内部には、冷媒流入口31aから流入した冷媒を旋回させる旋回空間30aが形成されている。旋回空間形成部32aの上方側には、円板状の金属プレート32cが配置されており、この金属プレート32cによって、旋回空間30aの上方側の開口部が閉塞されている。
旋回空間30aは、略円柱状に形成されており、旋回空間30aの中心軸は、後述する通路形成部材35の中心軸CLと同軸上に配置されている。もちろん、旋回空間30aは、円錐台と円柱とを結合させた回転体形状等に形成されていてもよい。なお、回転体形状とは、平面図形を同一平面上の1つの直線(中心軸)周りに回転させた際に形成される立体形状である。
冷媒流入口31aと旋回空間30aとを接続する冷媒流入通路31eは、旋回空間30aの中心軸方向から見たときに旋回空間30aへ流入する冷媒を、旋回空間30aの内壁面に沿って流入させるように形成されている。このため、冷媒流入通路31eから旋回空間30aへ流入した冷媒は、旋回空間30aの中心軸周りに旋回する。
ここで、旋回空間30a内で旋回する冷媒には遠心力が作用するので、旋回空間30a内では中心軸側の冷媒圧力が外周側の冷媒圧力よりも低下する。そこで、本実施形態では、エジェクタ式冷凍サイクル10の通常運転時に、旋回空間30a内の中心軸側の冷媒圧力を、飽和液相冷媒となる圧力、あるいは、冷媒が減圧沸騰する(キャビテーションを生じる)圧力となるまで低下させるようにしている。
このような旋回空間30a内の中心軸側の冷媒圧力の調整は、旋回空間30a内で旋回する冷媒の旋回流速を調整することによって実現することができる。さらに、旋回流速の調整は、例えば、冷媒流入通路31eの通路断面積と旋回空間30aの軸方向垂直断面積との面積比を調整すること等によって行うことができる。なお、本実施形態の旋回流速とは、旋回空間30aの最外周部近傍における冷媒の旋回方向の流速を意味している。
また、ノズル形成部32bの内部には、旋回空間30aから流出した冷媒を減圧させて下流側へ流出させる減圧用空間30bが形成されている。減圧用空間30bは、2つの円錐台形状の空間の頂部側同士を結合させた回転体形状に形成されている。この減圧用空間30bの中心軸も、通路形成部材35の中心軸CLと同軸上に配置されている。
減圧用空間30bの内部には、通路形成部材35の頂部側が配置されている。通路形成部材35は、ボデー30の内部に冷媒通路を形成するとともに、中心軸CL方向に変位することによって、冷媒通路の通路断面積を変化させる機能を果たす。
より具体的には、通路形成部材35は、冷媒に対して耐性を有する樹脂製(本実施形態では、ナイロン6またはナイロン66製)の円錐状部材で形成されている。通路形成部材35の中心軸CLは、旋回空間30aや減圧用空間30bの中心軸と同軸上に配置されている。このため、通路形成部材35は、減圧用空間30bから離れるに伴って(すなわち、冷媒流れ下流側へ向かって)、外径が拡大する略円錐形状に形成されている。
さらに、ノズルボデー32の減圧用空間30bを形成する部位の内周面と通路形成部材35の頂部側(すなわち、鉛直方向上方側)の外周面との間に形成される冷媒通路としては、図5に示すように、先細部131および末広部132が形成される。
先細部131は、通路断面積が最も縮小した最小通路面積部30mよりも冷媒流れ上流側に形成されて、最小通路面積部30mに至るまでの通路断面積が徐々に縮小する冷媒通路である。末広部132は、最小通路面積部30mから冷媒流れ下流側に形成されて、通路断面積が徐々に拡大する冷媒通路である。
この末広部132では、径方向から見たときに減圧用空間30bと通路形成部材35が重合(オーバーラップ)しているので、冷媒通路の軸方向垂直断面の形状が円環状(すなわち、円形状から同軸上に配置された小径の円形状を除いたドーナツ形状)となる。さらに、末広部132における通路断面積は、冷媒流れ下流側に向かって徐々に拡大している。
本実施形態では、このような通路形状によって減圧用空間30bの内周面と通路形成部材35の頂部側の外周面との間に形成される冷媒通路をラバールノズルとして機能するノズル通路13aとしている。そして、このノズル通路13aにて、冷媒を減圧させるとともに、冷媒の流速を超音速となるように増速させて噴射している。
また、図4に示すように、ノズルボデー32のノズル形成部32bの外周側であって、かつ、底面側には、円環状の溝部32dが形成されている。溝部32dは、中心軸CLと同軸上に配置されている。溝部32dには、通路形成部材35を変位させる駆動機構37が収容されている。駆動機構37は、溝部32dと同程度の大きさの円環状に形成されている。駆動機構37の詳細構成については後述する。
次に、ディフューザボデー33は、略円筒状の金属部材で形成されている。ディフューザボデー33は、図4に示すように、ハウジングボデー31の内部であって、ノズルボデー32の下方側に配置されている。ディフューザボデー33の中心部には、表裏(上下)を貫通する貫通穴33aが形成されている。この貫通穴33aも回転体形状に形成されており、その中心軸が通路形成部材35の中心軸CLと同軸上に配置されている。
さらに、ディフューザボデー33は、その外周側がハウジングボデー31の内部に圧入されることによって、ハウジングボデー31に固定されている。なお、ディフューザボデー33とハウジングボデー31との間には、シール部材としてのO−リングが配置されており、これらの部材の隙間から冷媒が漏れることはない。
ディフューザボデー33の上面とこれに対向するノズルボデー32の旋回空間形成部32aの底面との間には、冷媒吸引口31bから吸引した冷媒を流入させる吸引空間30cが形成されている。本実施形態では、ノズルボデー32のノズル形成部32bの下方側先端部が、ディフューザボデー33の貫通穴33aの内部まで延びているため、吸引空間30cは、中心軸方向からみたときに、断面円環状に形成される。
さらに、貫通穴33aの内周面とノズル形成部32bの下方側先端部の外周面との間には、吸引空間30cと減圧用空間30bの冷媒流れ下流側とを連通させる吸引通路30dが形成されている。従って、本実施形態では、図5に示すように、吸引空間30cおよび吸引通路30dによって、冷媒吸引口31bから吸引された吸引冷媒(すなわち、蒸発器14から流出した冷媒)を流通させる断面円環状の吸引用通路13bが形成されている。
また、ディフューザボデー33の貫通穴33aのうち、吸引通路30dの冷媒流れ下流側には、冷媒流れ方向に向かって徐々に広がる略円錐台形状に形成された昇圧用空間30eが形成されている。昇圧用空間30eは、上述したノズル通路13aから噴射された噴射冷媒と吸引用通路13bから吸引された吸引冷媒とを流入させる空間である。
昇圧用空間30eの内部には、通路形成部材35の下方側が配置されている。さらに、ディフューザボデー33の昇圧用空間30eを形成する部位の内周面と通路形成部材35の下方側の外周面との間に形成される冷媒通路は、冷媒流れ下流側に向かって通路断面積を徐々に拡大させる形状に形成されている。これにより、この冷媒通路では、噴射冷媒と吸引冷媒との混合冷媒の速度エネルギを圧力エネルギに変換することができる。
そこで、本実施形態では、図5に示すように、昇圧用空間30eを形成するディフューザボデー33の内周面と通路形成部材35の下方側の外周面との間に形成される冷媒通路を、噴射冷媒および吸引冷媒を混合して昇圧させるディフューザ(昇圧部)として機能するディフューザ通路13cとしている。このディフューザ通路13cの中心軸に垂直な断面形状も円環状に形成されている。
次に、駆動機構37について説明する。駆動機構37は、通路形成部材35を変位させることによって、ノズル通路13aの最小通路面積部30m等の冷媒通路断面積を変化させるものである。従って、本実施形態の駆動機構37および通路形成部材35は、ノズル通路13aへ流入する冷媒の流量を調整する流量調整機構を構成している。さらに、通路形成部材35は、流量調整機構の弁体としての機能を果たす。
駆動機構37は、図5に示すように、ダイヤフラム371、アッパーキャップ372、ロワーキャップ373、作動棒374、プレート375等を有している。ダイヤフラム371、アッパーキャップ372、ロワーキャップ373は、中心軸CL方向から見たときに、いずれもノズルボデー32に形成された溝部32dと重合する程度の大きさの円環状に形成されている。
アッパーキャップ372は、ダイヤフラム371とともに、封入空間37aを形成する封入空間形成部材である。より具体的には、アッパーキャップ372は、金属(本実施形態ではアルミニウム合金)で形成された平板円環状部材である。さらに、アッパーキャップ372のダイヤフラム371側の面には、円環状の凹み部が形成されている。そして、この凹み部の内部に封入空間37aが形成されている。このため、封入空間37aは、中心軸CL周りに円環状に形成されている。
封入空間37aは、温度変化に伴って圧力変化する感温媒体が封入された空間である。より詳細には、封入空間37aは、エジェクタ式冷凍サイクル10を循環する冷媒と同等の組成の感温媒体が予め定めた封入密度となるように封入された空間である。
従って、本実施形態の感温媒体としては、R134aを主成分とする媒体(例えば、R134aとヘリウムとの混合媒体)を採用することができる。さらに、感温媒体の封入密度は、後述するようにサイクルの通常作動時に通路形成部材35を適切に変位させることができるように設定されている。
ロワーキャップ373は、金属で形成されており、ダイヤフラム371とともに、導入空間37bを形成する導入空間形成部材である。より具体的には、ロワーキャップ373は、平板円環状の金属部材のダイヤフラム371側(図6では、上側)の面に円環状の凹み部を形成したものである。そして、凹み部の内部に導入空間37bが形成されている。従って、導入空間37bは、中心軸CL周りに円環状に形成されている。
導入空間37bは、吸引冷媒(具体的には、後述する蒸発器14から流出した冷媒)を導入させる空間である。
さらに、ロワーキャップ373は、内部にアッパーキャップ372およびダイヤフラム371を嵌め込むことによって、アッパーキャップ372とともにダイヤフラム371の外周側縁部および内周側縁部を挟み込むように保持固定する固定用部材としての機能も果たしている。
ダイヤフラム371は、封入空間37aの内圧と吸引用通路13b(具体的には、吸引空間30c)を流通する吸引冷媒の圧力との圧力差に応じて変位する圧力応動部材である。従って、ダイヤフラム371は弾性に富み、かつ耐圧性および気密性に優れる材質で形成されていることが望ましい。
このようなダイヤフラム371としては、例えば、基布(ポリエステル)入りのEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)やHNBR(水素添加ニトリルゴム)等のゴム製の基材で形成されたものを採用することができる。
ダイヤフラム371の下方側には、図5に示すように、ダイヤフラム371の変位を通路形成部材35へ伝達する伝達部材としてのプレート375および複数の作動棒374が配置されている。プレート375は、平板円環状の金属部材で形成されている。プレート375は、ダイヤフラム371の下方側の面の全周に亘って接触するように配置されている。
複数の作動棒374は、中心軸CL方向に延びる円柱状の金属部材で形成されている。複数の作動棒374は、ロワーキャップ373およびディフューザボデー33に形成されて中心軸CL方向に延びる貫通穴に挿入されている。作動棒374とディフューザボデー33に形成された貫通穴との隙間には、シール部材としてのO−リングが配置されており、作動棒374と貫通穴との隙間から冷媒が漏れることはない。
複数の作動棒374は、ダイヤフラム371の変位を通路形成部材35へ適切に伝達するために、中心軸CL周りに等角度間隔で配置されていることが望ましい。本実施形態の図1、図4、図5等では、図示の明確化のため、2本の作動棒374を中心軸CL周りに180°間隔で配置した例を図示しているが、3本の作動棒374を中心軸CL周りに120°間隔で配置してもよい。
また、本実施形態では、図4に示すように、ダイヤフラム371を挟み込んだ状態のアッパーキャップ372およびロワーキャップ373を、ノズルボデー32の溝部32d内に、圧入して固定している。この際、本実施形態では、駆動機構37のアッパーキャップ372の上面と溝部32dの底面(上側面)との間に、吸引冷媒を流入させる隙間空間30gを形成している。
このため、駆動機構37の封入空間37aに封入された感温媒体には、吸引冷媒の有する熱が、主にアッパーキャップ372およびダイヤフラム371を介して伝達される。
また、図4、図5に示すように、通路形成部材35の底面は、後述する支持部材41に支持されたコイルバネ40の荷重を受けている。コイルバネ40は、通路形成部材35に対して、上方側(通路形成部材35が最小通路面積部30mにおける通路断面積を縮小する側)に付勢する荷重を加える弾性部材である。従って、通路形成部材35は、作動棒374から受ける荷重とコイルバネ40から受ける荷重が釣り合うように変位する。
より具体的には、蒸発器14出口側冷媒の温度(過熱度SH)が上昇すると、封入空間37aに封入された感温媒体の飽和圧力が上昇し、封入空間37a内の内圧から導入空間37b内の内圧を差し引いた圧力差が大きくなる。これにより、ダイヤフラム371が吸引空間30c側へ変位して、通路形成部材35が作動棒374から受ける荷重が増加する。
従って、蒸発器14出口側冷媒の温度(過熱度SH)が上昇すると、通路形成部材35は、最小通路面積部30mにおける通路断面積を拡大させる方向(図4では、下方側)に変位する。
一方、蒸発器14出口側冷媒の温度(過熱度SH)が低下すると、封入空間37aに封入された感温媒体の飽和圧力が低下し、封入空間37a内の内圧から導入空間37b内の内圧を差し引いた圧力差が小さくなる。これにより、ダイヤフラム371が封入空間37a側へ変位して、通路形成部材35が作動棒374から受ける荷重が減少する。
従って、蒸発器14出口側冷媒の温度(過熱度SH)が低下すると、通路形成部材35は、最小通路面積部30mにおける通路断面積を縮小させる方向(図4では、上方側)に変位する。
つまり、本実施形態の駆動機構37は、機械的機構で構成されており、蒸発器14出口側冷媒の過熱度SHに応じて、ダイヤフラム371が通路形成部材35を変位させる。そして、蒸発器14出口側冷媒の過熱度SHが予め定めた基準過熱度KSHに近づくように、最小通路面積部30mにおける通路断面積を調整している。
この基準過熱度KSHは、コイルバネ40の荷重を調整することによって変更することもできる。従って、コイルバネ40は、駆動機構37および通路形成部材35とともに、流量調整機構を構成している。
さらに、本実施形態の駆動機構37では、蒸発器14出口側冷媒が飽和気相冷媒あるいは気液二相冷媒となった際に、ノズル通路13aの最小通路面積部30mを閉塞させるように、通路形成部材35を変位させる。これにより、冷媒回路を切り替えることができる。従って、この流量調整機構(具体的には、駆動機構37、通路形成部材35、およびコイルバネ40)は、統合差圧弁15とともに、冷媒回路切替装置としての機能も担っている。
次に、ハウジングボデー31の内部に形成された空間のうち、通路形成部材35の下方側には、図4に示すように、ディフューザ通路13cから流出した冷媒の気液を分離する気液分離部として機能する気液分離空間30fが形成されている。この気液分離空間30fは、略円柱状の回転体形状の空間として形成されており、気液分離空間30fの中心軸も、通路形成部材35の中心軸CLと同軸上に配置されている。
さらに、気液分離空間30fでは、ディフューザ通路13cから流出した冷媒を中心軸CL周りに旋回させて、遠心力の作用によって冷媒の気液を分離する。また、この気液分離空間30fの内容積は、サイクルに負荷変動が生じてサイクルを循環する冷媒循環流量が変動しても、実質的に余剰冷媒を溜めることができない程度の容積になっている。
気液分離空間30fの中心部には、気液分離空間30fに対して同軸上に配置されて、上方側へ向かって延びる円筒状のパイプ31fが設けられている。そして、気液分離空間30fにて分離された液相冷媒は、パイプ31fの外周側に一時的に滞留して、液相冷媒流出口31cから流出する。
パイプ31fの内部には、気液分離空間30fにて分離された気相冷媒をハウジングボデー31の気相冷媒流出口31dへ導く気相冷媒流出通路31gが形成されている。さらに、パイプ31fの内周側には、前述したコイルバネ40を支持する支持部材41が配置されている。
このコイルバネ40は、冷媒が減圧される際の圧力脈動に起因する通路形成部材35の振動を減衰させる振動緩衝部材としての機能も果たしている。さらに、支持部材41は、支持部材41を中心軸方向(上下方向)に変位させる調整ねじ41aに連結されている。従って、調整ねじ41aにて、コイルバネ40が通路形成部材35に付勢する荷重を調整することで、狙いの基準過熱度KSHを変更することができる。
次に、エジェクタ13の液相冷媒流出口31cには、図1に示すように、逆止弁16を介して、統合差圧弁15の低圧冷媒流入口51cが接続されている。逆止弁16は、エジェクタ13の液相冷媒流出口31cから流出した冷媒が統合差圧弁15側へ流れることのみを許容するものである。
また、統合差圧弁15の低圧冷媒流出口51dには、蒸発器14の冷媒入口側が接続されている。つまり、エジェクタ13の液相冷媒流出口31cには、統合差圧弁15を介して、蒸発器14の冷媒入口側が接続されている。従って、逆止弁16は、冷媒が蒸発器14の冷媒入口側からエジェクタ13の気液分離空間30f側へ流れることを抑制あるいは禁止する抑制機構である。
蒸発器14は、エジェクタ13にて減圧された低圧冷媒と送風ファン14aから車室内へ送風される送風空気とを熱交換させることによって、低圧冷媒を蒸発させて吸熱作用を発揮させる吸熱用熱交換器である。
送風ファン14aは、空調制御装置60から出力される制御電圧によって回転数(送風空気量)が制御される電動式送風機である。蒸発器14の出口側には、エジェクタ13の冷媒吸引口31bが接続されている。さらに、エジェクタ13の気相冷媒流出口31dには圧縮機11の吸入口側が接続されている。
次に、本実施形態の電気制御部について説明する。空調制御装置60は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成される。空調制御装置60は、そのROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行う。そして、上述の各種電気式のアクチュエータ11、12d、14a等の作動を制御する。
また、空調制御装置60には、内気温センサ、外気温センサ、日射センサ、蒸発器温度センサ、出口側温度センサ、出口側圧力センサ等の複数の空調制御用のセンサ群が接続され、これらのセンサ群の検出値が入力される。
より具体的には、内気温センサは、車室内温度を検出する内気温検出装置である。外気温センサは、外気温を検出する外気温検出装置である。日射センサは、車室内の日射量を検出する日射量検出装置である。蒸発器温度センサは、蒸発器14の吹出空気温度(蒸発器温度)を検出する蒸発器温度検出装置である。出口側温度センサは、放熱器12出口側冷媒の温度を検出する出口側温度検出装置である。出口側圧力センサは、放熱器12出口側冷媒の圧力を検出する出口側圧力検出装置である。
さらに、空調制御装置60の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された図示しない操作パネルが接続され、この操作パネルに設けられた各種操作スイッチからの操作信号が空調制御装置60へ入力される。操作パネルに設けられた各種操作スイッチとしては、車室内空調を行うことを要求する空調作動スイッチ、車室内温度を設定する車室内温度設定スイッチ等が設けられている。
なお、本実施形態の空調制御装置60は、その出力側に接続された各種の制御対象機器の作動を制御する制御部が一体的に構成されたものであるが、空調制御装置60のうち、各制御対象機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が各制御対象機器の制御部を構成している。
例えば、本実施形態では、圧縮機11の吐出容量制御弁の作動を制御することによって、圧縮機11の冷媒吐出能力を制御する構成が吐出能力制御部60aを構成している。もちろん、吐出能力制御部60aを空調制御装置60に対して、別体の制御装置で構成してもよい。
なお、図1等では、空調制御装置60と各種電気式のアクチュエータとを接続する信号線および電力線は図示しているが、図示の明確化のため、センサ群および空調制御装置60とセンサ群とを接続する信号線の図示を省略している。
次に、上記構成における本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10の作動について説明する。前述の如く、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10では、通常運転時の冷媒回路と低負荷運転時の冷媒回路とを切り替えることができる。
まず、通常運転時の作動について説明する。本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10では、操作パネルの作動スイッチが投入(ON)されると、空調制御装置60が、予め記憶された空調制御プログラムを実行して、圧縮機11の電動モータ、冷却ファン12d、送風ファン14a等の作動を制御する。
通常運転時には、圧縮機11の吸入圧縮作用によって、放熱器12出口側冷媒の圧力と蒸発器14出口側冷媒の圧力差が拡大し、高圧冷媒通路50aを流通する冷媒の圧力PHと低圧冷媒通路50bを流通する冷媒の圧力PLとの圧力差ΔPが、基準圧力差KΔPより大きくなる。
従って、統合差圧弁15では、第1開閉機構の第1弁体部52が迂回通路50cを閉じる。このため、第2開閉機構の開閉状態によらず、迂回通路50cが閉塞される。
ここで、通常運転時には、圧縮機11の吸入圧縮作用によって、蒸発器14入口側冷媒の圧力が低下し、統合差圧弁15の低圧冷媒通路50b内の冷媒の温度が低下する。このため、第2開閉機構の第2バネ54bのバネ荷重が低下し、ニードル弁体部54がオリフィス50eの出口部を開口させる。もちろん、オリフィス50eの出口部が開口していても、第1弁体部52が迂回通路50cを閉じている際には、高圧冷媒通路50aを流通する冷媒が、迂回通路50c側へ流入することはない。
その結果、通常運転時のエジェクタ式冷凍サイクル10では、図1の黒塗矢印に示すように冷媒が流れる。
そして、図6のモリエル線図に示すように、圧縮機11から吐出された高温高圧冷媒(図6のa点)は、放熱器12の凝縮部12aへ流入する。凝縮部12aへ流入した冷媒は、冷却ファン12dから送風された外気と熱交換し、放熱して凝縮する。凝縮部12aにて凝縮した冷媒は、レシーバ部12bにて気液分離される。レシーバ部12bにて気液分離された液相冷媒は、過冷却部12cにて冷却ファン12dから送風された外気と熱交換し、さらに放熱して過冷却液相冷媒となる(図6のa点→b点)。
放熱器12の過冷却部12cから流出した過冷却液相冷媒は、統合差圧弁15の高圧冷媒流入口51aから高圧冷媒通路50aへ流入する。通常運転時の統合差圧弁15では、第1弁体部52が迂回通路50cを閉じているので、高圧冷媒通路50aへ流入した冷媒は高圧冷媒流出口51bから流出して、エジェクタ13の冷媒流入口31aへ流入する。
エジェクタ13の冷媒流入口31aへ流入した過冷却液相冷媒は、エジェクタ13の減圧用空間30bの内周面と通路形成部材35の外周面との間に形成されるノズル通路13aにて等エントロピ的に減圧されて噴射される(図6のb点→c点)。この際、最小通路面積部30mにおける通路断面積は、駆動機構37によって蒸発器14出口側冷媒(図6のh点)の過熱度SHが基準過熱度KSHに近づくように調整される。
そして、ノズル通路13aから噴射された噴射冷媒の吸引作用によって、蒸発器14から流出した冷媒(図6のh点)が、冷媒吸引口31bおよび吸引用通路13b(すなわち、吸引空間30cおよび吸引通路30d)を介して吸引される。ノズル通路13aから噴射された噴射冷媒および吸引用通路13b等を介して吸引された吸引冷媒は、ディフューザ通路13cへ流入して合流する(図6のc点→d点、h1点→d点)。
ここで、本実施形態の吸引用通路13bは、冷媒流れ方向に向かって通路断面積が徐々に縮小する形状に形成されている。このため、吸引用通路13bを通過する吸引冷媒は、その圧力を低下させながら(図6のh点→h1点)、流速を増加させる。これにより、吸引冷媒と噴射冷媒との速度差を縮小し、ディフューザ通路13cにて吸引冷媒と噴射冷媒が混合する際のエネルギ損失(混合損失)を減少させている。
ディフューザ通路13cでは冷媒通路断面積の拡大により、冷媒の運動エネルギが圧力エネルギに変換される。これにより、噴射冷媒と吸引冷媒が混合されながら混合冷媒の圧力が上昇する(図6のd点→e点)。ディフューザ通路13cから流出した冷媒は気液分離空間30fにて気液分離される(図6のe点→f点、e点→g点)。
気液分離空間30fにて分離された液相冷媒は、逆止弁16および統合差圧弁15の低圧冷媒通路50bを介して、蒸発器14へ流入する。液相冷媒が逆止弁16を通過する際には、圧力損失が生じる(図6のg点→g1点)。蒸発器14へ流入した冷媒は、送風ファン14aによって送風された送風空気から吸熱して蒸発する(図6のg1点→h点)。これにより、送風空気が冷却される。
一方、気液分離空間30fにて分離された気相冷媒は気相冷媒流出口31dから流出して、圧縮機11へ吸入され再び圧縮される(図6のf点→a点)。
通常運転時のエジェクタ式冷凍サイクル10は、以上の如く作動して、車室内へ送風される送風空気を冷却することができる。
さらに、通常運転時のエジェクタ式冷凍サイクル10では、ディフューザ通路13cにて昇圧された冷媒を圧縮機11へ吸入させることができる。従って、エジェクタ式冷凍サイクル10によれば、蒸発器における冷媒蒸発圧力と圧縮機吸入冷媒の圧力が略同等となる通常の冷凍サイクル装置よりも、圧縮機11の消費動力を低減させて、サイクルの成績係数(COP)を向上させることができる。
また、本実施形態のエジェクタ13によれば、旋回空間30aにて冷媒を旋回させることで、旋回空間30a内の旋回中心側の冷媒圧力を、飽和液相冷媒となる圧力、あるいは、冷媒が減圧沸騰する(キャビテーションを生じる)圧力まで低下させることができる。これにより、旋回中心軸の外周側よりも内周側に気相冷媒が多く存在するようにして、旋回空間30a内の旋回中心線近傍はガス単相、その周りは液単相の二相分離状態とすることができる。
このように二相分離状態となった冷媒がノズル通路13aへ流入することで、ノズル通路13aの先細部131では、円環状の冷媒通路の外周側壁面から冷媒が剥離する際に生じる壁面沸騰および円環状の冷媒通路の中心軸側の冷媒のキャビテーションによって生じた沸騰核による界面沸騰によって冷媒の沸騰が促進される。これにより、ノズル通路13aの最小通路面積部30mへ流入する冷媒が、気相と液相が均質に混合した気液混合状態となる。
そして、最小通路面積部30mの近傍で気液混合状態の冷媒の流れに閉塞(チョーキング)が生じ、このチョーキングによって音速に到達した気液混合状態の冷媒が末広部132にて加速されて噴射される。このように、壁面沸騰および界面沸騰の双方による沸騰促進によって、気液混合状態の冷媒を音速となるまで効率よく加速できることで、ノズル通路13aにおけるエネルギ変換効率を向上させることができる。
また、本実施形態のエジェクタ13では、駆動機構37を備えているので、エジェクタ式冷凍サイクル10の負荷変動に応じて通路形成部材35を変位させて、ノズル通路13aの通路断面積(最小通路面積部30mにおける通路断面積)、およびディフューザ通路13cの通路断面積を調整することができる。従って、蒸発器14出口側冷媒の過熱度SHが所望の値(基準過熱度KSH)に近づくように、ノズル通路13aへ流入する冷媒の流量を適切に制御することができる。
ここで、通常運転時におけるエジェクタ13の吸引昇圧作用(いわゆる、ポンプ作用)は、ノズル通路13aから噴射される高速度の噴射冷媒の吸引作用および速度エネルギによって生じる。
このため、サイクルを循環する冷媒流量が低下する低負荷運転時には、噴射冷媒の流速が低下してポンプ作用も小さくなってしまう。さらに、ポンプ作用が小さくなってしまうと、蒸発器14へ冷媒を流入させることができなくなってしまい、エジェクタ式冷凍サイクル10が冷凍能力を発揮できなくなってしまうおそれがある。
そこで、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10では、低負荷運転時には、エジェクタ13のノズル通路13aを迂回させて冷媒を流す冷媒回路に切り替えて冷凍能力を確実に発揮できるようにしている。
つまり、低負荷運転時には、空調制御装置60の吐出能力制御部60aが圧縮機11の冷媒吐出能力を低下させるので、圧力差ΔPが基準圧力差KΔP以下となる。従って、第1開閉機構の第1弁体部52が迂回通路50cを開く。さらに、第2開閉機構の第2バネ54bは、圧縮機11の作動時には、圧縮機11の冷媒吐出能力が低くなっていても、第2開閉機構のニードル弁体部54が迂回通路50cを開くように設定されている。
その結果、低負荷運転時のエジェクタ式冷凍サイクル10では、図1の白抜矢印に示すように冷媒が流れる。
より具体的には、図7のモリエル線図に示すように、圧縮機11から吐出された高温高圧冷媒(図7のa点)は、通常運転時と同様に放熱器12にて過冷却液相冷媒となる(図7のa点→b点)。放熱器12の過冷却部12cから流出した過冷却液相冷媒は、統合差圧弁15の高圧冷媒通路50aへ流入する。
低負荷運転時の統合差圧弁15では、第1弁体部52およびニードル弁体部54が迂回通路50cを開いているので、高圧冷媒通路50aへ流入した冷媒は迂回通路50cへ流入する。迂回通路50cへ流入した冷媒は、第1弁体部52の収容部522に設けられたオリフィス50eにて等エンタルピ的に減圧されて(図7のb点→g点)、低圧冷媒通路50bへ流入する。
低圧冷媒通路50bへ流入した冷媒は、低圧冷媒流入口51c側に配置された逆止弁16の機能により、低圧冷媒流出口51d側から流出する。低圧冷媒流出口51dから流出した冷媒は、蒸発器14へ流入する。蒸発器14へ流入した冷媒は、送風ファン14aによって送風された送風空気から吸熱して蒸発する(図7のg点→h点)。これにより、送風空気が冷却される。蒸発器14から流出した冷媒は、エジェクタ13の冷媒吸引口31bへ流入する。
ここで、本実施形態のオリフィス50eの流量特性は、低負荷運転時となった際に、蒸発器14から流出した冷媒(すなわち、蒸発器14出口側冷媒)が飽和気相冷媒あるいは気液二相冷媒となるように設定されている。このため、エジェクタ13の駆動機構37は、低負荷運転時になると、ノズル通路13aの最小通路面積部30mにおける通路断面積を縮小させる方向に通路形成部材35を変位させて、ノズル通路13aを閉塞させる。
従って、統合差圧弁15の高圧冷媒通路50aへ流入した冷媒は、エジェクタ13の冷媒流入口31aへ流入することはない。なお、図7では、蒸発器14出口側冷媒が飽和気相冷媒となっている際のモリエル線図を示している。
エジェクタ13の冷媒吸引口31bへ流入した冷媒は、吸引用通路13bおよびディフューザ通路13cを流通して、気液分離空間30fへ流入する。気液分離空間30fにて分離された気相冷媒は気相冷媒流出口31dから流出して、圧縮機11へ吸入され再び圧縮される(図7のh点→a点)。
低負荷運転時のエジェクタ式冷凍サイクル10は、以上の如く作動して、車室内へ送風される送風空気を冷却することができる。
本実施形態では、流量調整機構として、蒸発器14出口側冷媒の過熱度SHに応じて、ノズル通路13aの最小通路面積部30mにおける通路断面積を調整する機械的機構を採用している。そして、その駆動原理を有効に活用して、低負荷運転時にノズル通路13aを閉塞させている。
従って、通常運転時の冷媒回路と低負荷運転時の冷媒回路とを確実に切り替えることができるとともに、低負荷運転時に、統合差圧弁15の高圧冷媒通路50aへ流入した冷媒の全流量を蒸発器14へ流入させることができる。従って、低負荷運転時に蒸発器14へ供給される冷媒が不足してしまうことを抑制することができる。
次に、低負荷運転時の冷媒回路に切り替わっている際に、エジェクタ式冷凍サイクル10の熱負荷が増加すると、空調制御装置60の吐出能力制御部60aが圧縮機11の冷媒吐出能力を上昇させる。
これにより、圧力差ΔPが基準圧力差KΔPより大きくなり、第1弁体部52が迂回通路50cを閉じる。従って、オリフィス50eにて減圧された冷媒が、蒸発器14へ供給されなくなる。その結果、蒸発器14出口側冷媒の過熱度が上昇し、駆動機構37がノズル通路13aを開く。すなわち、通常運転時の冷媒回路に切り替わる。その後の作動は、上述した通常運転時の作動で説明した通りである。
つまり、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10によれば、エジェクタ式冷凍サイクル10の熱負荷に応じて、通常運転時の冷媒回路と低負荷運転時の冷媒回路とを機械的に、かつ、自動的に切り替えることができる。
また、低負荷運転時、あるいは通常運転時に圧縮機11が停止すると、統合差圧弁15の低圧冷媒通路50b内の冷媒の温度が上昇し、第2開閉機構のニードル弁体部54が迂回通路50cを閉じる。このため、第1開閉機構の開閉状態によらず、迂回通路50cが閉塞される。さらに、圧縮機11の停止によってエジェクタ13の吸引空間30c内の吸引冷媒の圧力が上昇すると、エジェクタ13のノズル通路13aが閉塞される。
従って、圧縮機11の停止時には、放熱器12から流出した冷媒が、エジェクタ13のノズル通路13a側へ流入することも、迂回通路50cのオリフィス50e側へ流入することも抑制される。その結果、圧縮機11の停止時には、サイクルの高圧側冷媒圧力と低圧側冷媒圧力との均圧化を抑制することができる。
ここで、高圧側冷媒圧力とは、圧縮機11の吐出口から減圧装置(本実施形態では、エジェクタ13のノズル通路13aおよびオリフィス50e)の入口側へ至る冷媒流路内の冷媒圧力である。また、低圧側冷媒圧力とは、減圧装置(本実施形態では、エジェクタ13のノズル通路13aおよびオリフィス50e)の出口側から圧縮機11の吸入口へ至る冷媒流路内の冷媒圧力である。
さらに、圧縮機11の停止時に、高圧側冷媒圧力と低圧側冷媒圧力が均圧化してしまうと、蒸発器14の温度が上昇しやすくなる。このため、高圧側冷媒圧力と低圧側冷媒圧力が均圧化してしまうと、圧縮機11を再起動させた際に、送風空気を所望の温度まで低下させるために必要な時間が長くなってしまう。これに加えて、蒸発器14における冷媒蒸発温度を低下させるために圧縮機11が消費する消費動力も多くなってしまう。
これに対して、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクルによれば、圧縮機11の停止時に、高圧側冷媒圧力と低圧側冷媒圧力が均圧化してしまうことを抑制できる。従って、圧縮機11の再起動時に、速やかに送風空気を冷却することができるとともに、圧縮機11の消費動力の増加を抑制することができる。
このことは、信号待ち等の比較的短時間の車両停止時に一時的にエンジンを停止させるアイドリングストップ車両に適用されて、内燃機関(エンジン)から駆動力を得る圧縮機11を備えるエジェクタ式冷凍サイクル10において、極めて有効である。
また、本実施形態では、第1開閉機構を、圧力差ΔPの増加に伴って迂回通路50cを閉じる側に変位する第1弁体部52、第1弁体部52が迂回通路50cを開く側に付勢する荷重をかける弁体用バネ53等によって構成している。従って、極めて簡素な構成で、機械的機構で作動する第1開閉機構を実現することができる。
また、本実施形態では、第2開閉機構を、ニードル弁体部54、形状記憶合金で形成された第2バネ54b等によって構成し、オリフィス50e下流側冷媒の温度が基準温度以上となった際に、圧縮機11が停止したものとして迂回通路50cを閉じるようにしている。従って、極めて簡素な構成で、機械的機構で作動する第2開閉機構を実現することができる。
さらに、統合差圧弁15では、迂回通路50c、第1開閉機構としての第1弁体部52および弁体用バネ53、第2開閉機構としてのニードル弁体部54、第1バネ54a、第2バネ54b、並びに、減圧装置としてのオリフィス50eを一体的に構成している。従って、エジェクタ式冷凍サイクル10全体としての大型化を抑制することができる。
また、本実施形態では、流量調整機構を、封入空間37a内の圧力に応じて変位するダイヤフラム371を有しる駆動機構37、弁体としての通路形成部材35、コイルバネ40等によって構成している。従って、極めて簡素な構成で、機械的機構で作動する流量調整機構を実現することができる。
さらに、通路形成部材35がノズルボデー32の冷媒通路(すなわち、減圧用空間30b)内に配置されていることによって、流量調整機構がエジェクタ13に一体的に構成されている。従って、エジェクタ式冷凍サイクル10全体としての大型化を抑制することができる。
(第2実施形態)
本実施形態では、図8の全体構成図に示すエジェクタ式冷凍サイクル10aについて説明する。エジェクタ式冷凍サイクル10aでは、第1実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10に対し、エジェクタ13に代えて、膨張弁22、エジェクタ23、アキュムレータ24を採用した例を説明する。
なお、図8では、第1実施形態と同一もしくは均等部分に同一の符号を付している。このことは、以下の図面でも同様である。また、図8では、第1実施形態で説明した統合差圧弁15を破線で示し、その内部に第1開閉機構としての第1弁体部52、迂回通路50c、オリフィス50e、および第2開閉機構としてのニードル弁体部54等を模式的に図示している。
膨張弁22は、いわゆる外部均圧式の温度式膨張弁であって、本実施形態の流量調整機構である。より具体的には、膨張弁22は、第1実施形態と同様の封入空間と導入空間が形成されたパワーエレメントを有している。そして、封入空間内の感温媒体には、蒸発器14出口側冷媒の温度が伝達され、導入空間内には、蒸発器14出口側冷媒の圧力が導かれる。
従って、パワーエレメントのうち、封入空間を形成する部位は封入空間形成部材を構成し、導入空間を形成する部位は導入空間形成部材を構成している。さらに、パワーエレメントの内部には、第1実施形態と同様に、封入空間内の内圧および導入空間内の内圧に応じて変位する圧力応動部材であるダイヤフラムが配置されている。
また、膨張弁22の内部には、放熱器12から流出した高圧冷媒を減圧させる絞り通路が形成されている。絞り通路の入口側には、統合差圧弁15の高圧冷媒流出口51b側が接続されており、絞り通路の出口側には、エジェクタ23のノズル部23aの入口側が接続されている。そして、ダイヤフラムの変位を作動棒を介して、絞り通路内に配置された弁体に伝達することによって、絞り通路の通路断面積を変化させる。
より詳細には、この膨張弁22では、統合差圧弁15の第1開閉機構が迂回通路50cを閉じる通常運転時には、第1実施形態と同様に、蒸発器14出口側冷媒の過熱度SHが予め定めた基準過熱度KSHに近づくように、絞り通路の通路断面積を調整する。つまり、通常運転時には、膨張弁22は、蒸発器14出口側冷媒の温度(過熱度SH)の低下に伴って、絞り通路の通路断面積を縮小させる。
また、統合差圧弁15の第1開閉機構および第2開閉機構の双方が迂回通路50cを開く低負荷運転時には、蒸発器14出口側冷媒の過熱度SHの低下により、第1実施形態と同様に絞り通路を閉塞する。さらに、統合差圧弁15の第2開閉機構が迂回通路50cを閉じる圧縮機11の停止時には、駆動機構37の導入空間37bの内圧の上昇により、第1実施形態と同様に、絞り通路を閉塞する。
エジェクタ23は、ノズル部23aおよびボデー部23bを有している。ノズル部23aは、冷媒の流れ方向に向かって徐々に先細る形状の金属製(本実施形態では、ステンレス製)の略円筒状部材で形成されている。そして、内部に形成された冷媒通路にて冷媒を等エントロピ的に減圧膨張させるものである。
ノズル部23aの内部に形成された冷媒通路には、通路断面積が最も縮小した喉部(最小通路面積部)が形成され、さらに、この喉部から冷媒を噴射する冷媒噴射口へ向かって冷媒通路面積が徐々に拡大する末広部が形成されている。つまり、ノズル部23aは、ラバールノズルとして構成されている。
さらに、本実施形態では、ノズル部23aとして、エジェクタ式冷凍サイクル10aの通常作動時に、冷媒噴射口から噴射される噴射冷媒の流速が音速以上となるように設定されたものが採用されている。もちろん、ノズル部23aを先細ノズルで構成してもよい。
ボデー部23bは、金属製(本実施形態では、アルミニウム合金製)の円筒状部材で形成されており、内部にノズル部23aを支持固定する固定部材として機能するとともに、エジェクタ23の外殻を形成するものである。より具体的には、ノズル部23aは、ボデー部23bの長手方向一端側の内部に収容されるように圧入にて固定されている。従って、ノズル部23aとボデー部23bとの固定部(圧入部)から冷媒が漏れることはない。
また、ボデー部23bの外周面のうち、ノズル部23aの外周側に対応する部位には、その内外を貫通してノズル部23aの冷媒噴射口と連通するように設けられた冷媒吸引口23cが形成されている。この冷媒吸引口23cは、ノズル部23aから噴射される噴射冷媒の吸引作用によって、蒸発器14から流出した冷媒をエジェクタ23の内部へ吸引する貫通穴である。
さらに、ボデー部23bの内部には、冷媒吸引口23cから吸引された吸引冷媒をノズル部23aの冷媒噴射口側へ導く吸引通路23e、および吸引通路23eを介してエジェクタ23の内部へ流入した吸引冷媒と噴射冷媒とを混合させて昇圧させる昇圧部であるディフューザ部23dが形成されている。
吸引通路23eは、ノズル部23aの先細り形状の先端部周辺の外周側とボデー部23bの内周側との間の空間に形成されており、吸引通路23eの冷媒通路面積は、冷媒流れ方向に向かって徐々に縮小している。これにより、吸引通路23eを流通する吸引冷媒の流速を徐々に増加させて、ディフューザ部23dにて吸引冷媒と噴射冷媒が混合する際のエネルギ損失(混合損失)を低減させている。
ディフューザ部23dは、吸引通路23eの出口に連続するように配置されて、冷媒通路面積が徐々に拡大するように形成されている。これにより、噴射冷媒と吸引冷媒とを混合させながら、その流速を減速させて噴射冷媒と吸引冷媒との混合冷媒の圧力を上昇させる機能、すなわち、混合冷媒の速度エネルギを圧力エネルギに変換する機能を果たす。ディフューザ部23dの冷媒流出口には、アキュムレータ24の入口側が接続されている。
アキュムレータ24は、エジェクタ23から流出した冷媒の気液を分離する気液分離部である。アキュムレータ24の気相冷媒流出口には、圧縮機11の吸入口側が接続されており、液相冷媒流出口には、第1実施形態と同様の逆止弁16を介して、統合差圧弁15の低圧冷媒流入口51c側が接続されている。
その他のエジェクタ式冷凍サイクル10aの構成および作動は、第1実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10と同様である。つまり、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10aでは、第1実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10のエジェクタ13に対して、流量調整機構としての膨張弁22、エジェクタ23、気液分離部としてのアキュムレータ24が、互いに別の構成部材として構成されている。
従って、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10aを作動させると、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10aによれば、圧縮機11の作動時には、負荷変動に応じて冷媒回路を適切に切り替えることができ、さらに、圧縮機11の停止時には、サイクル内の冷媒の均圧化を抑制することができる。
(第3実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対して、図9の全体構成図に示すように、統合差圧弁15、およびエジェクタ13の構成を変更したエジェクタ式冷凍サイクル10bについて説明する。
まず、図10により、本実施形態の統合差圧弁15の具体的構成について説明する。この統合差圧弁15のバルブボデー51には、圧力導出穴51eが形成されている。圧力導出穴51eは、迂回通路50c内のうち、オリフィス50eよりも高圧冷媒通路50a側の通路と外部とを連通させる連通穴である。従って、圧力導出穴51eからは、第1開閉機構の出口側かつオリフィス50eの上流側の冷媒の出口側圧力Poが導出される。
より詳細には、通常運転時のように、第1開閉機構(具体的には、第1弁体部52のシール部521)が迂回通路50cを閉じ、第2開閉機構(具体的には、ニードル弁体部54)が迂回通路50cを開いている際には、出口側圧力Poは、迂回通路50cの出口側の冷媒圧力PLとなる。
一方、低負荷運転時のように、第1開閉機構が迂回通路50cを開き、第2開閉機構が迂回通路50cを開いている際には、出口側圧力Poは、迂回通路50cの入口側の冷媒圧力PHとなる。
さらに、圧縮機11の停止時には、圧力差ΔPの減少により第1開閉機構が迂回通路50cを開き、第2開閉機構が迂回通路50cを閉じる。従って、出口側圧力Poは迂回通路50cの入口側の冷媒圧力PHとなる。なお、図10では、第1、第2開閉機構の双方が、迂回通路50cを開いた状態を図示している。
次に、本実施形態のエジェクタ13の具体的構成について説明する。このエジェクタ13のハウジングボデー31には、図11に示すように、圧力導入穴31hが形成されている。圧力導入穴31hは、駆動機構37の導入空間37bに連通しており、統合差圧弁15の圧力導出穴51e側に接続されている。
さらに、本実施形態のエジェクタ13では、ノズルボデー32の溝部32dが廃止され、ディフューザボデー33の上面側であって、かつ、吸引通路30dの外周側に、円環状の溝部33bが形成されている。そして、この溝部33bに、駆動機構37が形成されている。
本実施形態の駆動機構37は、第1実施形態と同様のダイヤフラム371、アッパーキャップ372、作動棒374、プレート375等を有している。アッパーキャップ372は、圧入あるいはかしめ等の手段によって、溝部33bの上方側(すなわち、吸引空間30c側)の開口部を閉塞するようにディフューザボデー33の上面側に固定されている。
さらに、アッパーキャップ372が固定されることによって、ダイヤフラム371の外周側縁部と内周側縁部が、アッパーキャップ372および溝部33b内に設けられた段差部によって挟み込まれる。これにより、ダイヤフラム371が溝部33b内に固定されている。
従って、本実施形態の導入空間37bは、溝部33bの内部空間のうち、ダイヤフラム371の下方側に形成される。つまり、本実施形態では、ディフューザボデー33のうち溝部33bを形成する部位が、導入空間形成部材としての機能を果たしている。もちろん、導入空間形成部材を、ディフューザボデー33に対して別体として形成してもよい。
導入空間37bは、ハウジングボデー31に形成された圧力導入穴31hに連通している。圧力導入穴31hには、統合差圧弁15の圧力導出穴51e側が接続されている。このため、導入空間37b内の冷媒圧力は、迂回通路50cのうち、第1開閉機構(具体的には、第1弁体部52のシール部521)の出口側かつ減圧装置(具体的には、オリフィス50e)の上流側の冷媒の出口側圧力Poと同等となる。
ここで、統合差圧弁15の圧力導出穴51eとエジェクタ13の圧力導入穴31hは、比較的径の細い冷媒配管で接続されており、この冷媒配管では殆ど冷媒が流通しない。このため、封入空間37aに封入された感温媒体には、主にアッパーキャップ372を介して、吸引空間30c内を流通する吸引冷媒(すなわち、蒸発器14出口側冷媒)の有する熱が伝達される。
さらに、本実施形態のアッパーキャップ372には、吸引空間30c内に向かって突出する感温筒372aが形成されている。感温筒372aは有底筒状に形成されており、その内部に封入空間37aに連通する空間が形成されている。このような感温筒372aを設けることで、吸引冷媒と感温媒体との熱交換面積を拡大させて、感温媒体の温度を精度良く吸引冷媒の温度に近づけることができる。
従って、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10bでは、通常運転時には、統合差圧弁15の第1開閉機構が迂回通路50cを閉じ、第2開閉機構がオリフィスの出口部を開くので、出口側圧力Po(すなわち、導入空間37b内の内圧)が、迂回通路50cの出口側の冷媒圧力PLと同等となる。
さらに、迂回通路50cの出口側の冷媒圧力PLは、蒸発器14入口側冷媒の圧力であるから、導入空間37b内の内圧と吸引冷媒(すなわち、蒸発器14出口側冷媒)の圧力との圧力差は、蒸発器14における圧力損失程度の差しか生じない。
このため、通常運転時に、蒸発器14出口側冷媒の温度(過熱度SH)が上昇すると、封入空間37aに封入された感温媒体の飽和圧力が上昇し、封入空間37aの内圧から導入空間37bの圧力を差し引いた圧力差が大きくなる。これにより、ダイヤフラム371が吸引空間30c側へ変位して、通路形成部材35が作動棒374から受ける荷重が増加する。
従って、通常運転時に、蒸発器14出口側冷媒の温度(過熱度SH)が上昇すると、通路形成部材35は、最小通路面積部30mにおける通路断面積を拡大させる方向(図11では、下方側)に変位する。
一方、通常運転時に、蒸発器14出口側冷媒の温度(過熱度SH)が低下すると、封入空間37aに封入された感温媒体の飽和圧力が低下し、封入空間37a内の内圧から導入空間37b内の内圧を差し引いた圧力差が小さくなる。これにより、ダイヤフラム371が封入空間37a側へ変位して、通路形成部材35が作動棒374から受ける荷重が減少する。
従って、通常運転時に、蒸発器14出口側冷媒の温度(過熱度SH)が低下すると、通路形成部材35は、最小通路面積部30mにおける通路断面積を縮小させる方向(図11では、上方側)に変位する。
つまり、本実施形態の駆動機構37は、通常運転時には、第1実施形態と同様に、蒸発器14出口側冷媒の過熱度SHに応じて、ダイヤフラム371が通路形成部材35を変位させる。そして、蒸発器14出口側冷媒の過熱度SHが予め定めた基準過熱度KSHに近づくように、最小通路面積部30mにおける通路断面積を調整している。
また、低負荷運転時には、第1開閉機構が迂回通路50cを開き、第2開閉機構がオリフィス50eの出口部を開くので、出口側圧力Poは、迂回通路50cの入口側の冷媒圧力PHと同等となる。
さらに、迂回通路50cの入口側の冷媒圧力PHは、圧縮機11から吐出された高圧冷媒と同程度の高圧なので、封入空間37a内の内圧から導入空間37b内の内圧を差し引いた圧力差が小さくなる。より具体的には、圧力差が負の値となる。
これにより、ダイヤフラム371が封入空間37a側へ変位して、通路形成部材35が作動棒374から受ける荷重が減少する。従って、低負荷運転時には、蒸発器14出口側冷媒の温度(過熱度SH)によらず、通路形成部材35は、最小通路面積部30mにおける通路断面積を縮小させる方向(図3では、上方側)に変位する。そして、エジェクタ13のノズル通路13aを閉塞させる。
つまり、本実施形態の駆動機構37では、出口側圧力Po(すなわち、導入空間37b内の内圧)が上昇した際に、ノズル通路13aの最小通路面積部30mを閉塞させるように、通路形成部材35を変位させる。
また、圧縮機の停止時には、第1開閉機構が迂回通路50cを開き、第2開閉機構がオリフィスの出口部を閉じるので、導入空間37b内の内圧は、迂回通路50cの入口側の冷媒圧力PHと同等となる。従って、低負荷運転時と同様に、通路形成部材35がエジェクタ13のノズル通路13aを閉塞させる。その他のエジェクタ式冷凍サイクル10bの構成は、第1実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10と同様である。
従って、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10bを作動させると、通常運転時には、第1開閉機構が迂回通路50cを閉じる。その結果、図9の黒塗矢印に示すように冷媒が流れる冷媒回路に切り替えられ、第1実施形態と全く同様に作動する。
また、低負荷運転時には、第1開閉機構が迂回通路50cを開き、第2開閉機構が迂回通路50cを開く。これにより、駆動機構37の導入空間37b内の内圧が上昇して、駆動機構37が、ノズル通路13aを閉塞させるように通路形成部材35を変位させる。その結果、図9の白抜矢印に示すように冷媒が流れる冷媒回路に切り替えられ、第1実施形態と全く同様に作動する。
この際、本実施形態では、出口側圧力Poの上昇によって、封入空間37a内の内圧と導入空間37b内の内圧との圧力差に応じて作動する機械的機構で構成された駆動機構37が、ノズル通路13aを閉塞させるように通路形成部材35を速やかに変位させる。従って、放熱器12から流出した冷媒をエジェクタ13のノズル通路13aへ流入させない冷媒回路に、機械的に、かつ、自動的に、さらに速やかに切り替えることができる。
さらに、圧縮機11の停止時には、第2開閉機構が迂回通路50cを閉じるとともに、低負荷運転時と同様に、駆動機構37が、ノズル通路13aを閉塞させる。その結果、圧縮機11の停止時には、放熱器12から流出した冷媒が、エジェクタ13のノズル通路13a側へ流入することも、迂回通路50cのオリフィス50e側へ流入することも抑制される。
従って、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10bによれば、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、圧縮機11の作動時には、負荷変動に応じて冷媒回路を適切に切り替えることができ、さらに、圧縮機11の停止時には、サイクル内の冷媒の均圧化を抑制することができる。
(第4実施形態)
本実施形態では、図12の全体構成図に示すエジェクタ式冷凍サイクル10cについて説明する。エジェクタ式冷凍サイクル10cでは、第3実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10bに対し、エジェクタ13に代えて、膨張弁22a、エジェクタ23、アキュムレータ24を採用した例を説明する。
本実施形態の膨張弁22aは、いわゆる内部均圧式の温度式膨張弁であって、本実施形態の流量調整機構である。より具体的には、膨張弁22aは、第2実施形態と同様の封入空間と導入空間が形成されたパワーエレメントを有している。そして、封入空間内の感温媒体には、蒸発器14出口側冷媒の温度が伝達され、導入空間内には、第1開閉機構の出口側かつオリフィス50eの上流側の冷媒の出口側圧力Poが導かれる。
さらに、パワーエレメントの内部には、第2実施形態と同様に、封入空間内の内圧および導入空間内の内圧に応じて変位するダイヤフラムが配置されている。
また、膨張弁22aの内部には、放熱器12から流出した高圧冷媒を減圧させる絞り通路が形成されている。絞り通路の入口側には、統合差圧弁15の高圧冷媒流出口51b側が接続されており、絞り通路の出口側には、エジェクタ23のノズル部23aの入口側が接続されている。そして、ダイヤフラムの変位を作動棒を介して、絞り通路内に配置された弁体に伝達することによって、絞り通路の通路断面積を変化させる。
より詳細には、膨張弁22aでは、統合差圧弁15の第1開閉機構が迂回通路50cを閉じる通常運転時には、第3実施形態と同様に、蒸発器14出口側冷媒の過熱度SHが予め定めた基準過熱度KSHに近づくように、絞り通路の通路断面積を調整する。つまり、通常運転時には、膨張弁22は、蒸発器14出口側冷媒の温度(過熱度SH)の低下に伴って、絞り通路の通路断面積を縮小させる。
また、統合差圧弁15の第1開閉機構および第2開閉機構の双方が迂回通路50cを開く低負荷運転時には、駆動機構37の導入空間37bの内圧の上昇により、第1実施形態と同様に絞り通路を閉塞する。さらに、統合差圧弁15の第2開閉機構が迂回通路50cを閉じる圧縮機11の停止時には、駆動機構37の導入空間37bの内圧の上昇により、第1実施形態と同様に、絞り通路を閉塞する。
エジェクタ23、アキュムレータ24は、第2実施形態で説明した通りである。その他のエジェクタ式冷凍サイクル10cの構成および作動は、第3実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10bと同様である。つまり、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10cでは、第3実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10bに対して、流量調整機構としての膨張弁22a、エジェクタ23、気液分離部としてのアキュムレータ24が、互いに別の構成部材として構成されている。
従って、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10cを作動させると、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10cによれば、圧縮機11の作動時には、負荷変動に応じて冷媒回路を適切に切り替えることができ、さらに、圧縮機11の停止時には、サイクル内の冷媒の均圧化を抑制することができる。
(第5実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対して、図13の模式的な断面図に示すように、統合差圧弁の構成を変更した例を説明する。
より具体的には、本実施形態の統合差圧弁15aでは、第2開閉機構(具体的には、ニードル弁体部54、第1バネ54a、第2バネ54b)を廃止している。さらに、統合差圧弁15aは、第2バネ54bと同様の形状記憶合金で形成された形状記憶バネ55を有している。
形状記憶バネ55は、第1開閉機構を構成する第1弁体部52に対して、迂回通路50cを閉じる側に付勢する荷重をかける弾性部材である。さらに、形状記憶バネ55は、低圧冷媒通路50b側に配置されており、低圧冷媒通路50b内の冷媒の温度上昇に伴って、バネ荷重が増加する特性を有している。
形状記憶バネ55は、通常運転時に想定される低圧冷媒通路50b内の冷媒温度では、弁体用バネ53と同程度のバネ荷重となる。弁体用バネ53および形状記憶バネ55は、圧力差ΔPが概ね基準圧力差KΔP以下となった際に、迂回通路50cを開く程度のバネ荷重となるものが採用されている。
さらに、形状記憶バネ55は、圧縮機11が停止して、低圧冷媒通路50b内の冷媒の温度(すなわち、オリフィス50e下流側冷媒の温度)が上昇するに伴って、バネ荷重を増加させる。そして、低圧冷媒通路50b内の冷媒の温度が基準温度以上となった際に、迂回通路50cを閉じるバネ荷重となるものが採用されている。
従って、本実施形態の統合差圧弁15aを採用しても、通常運転時には、圧力差ΔPが増加することによって、第1弁体部52が迂回通路50cを閉塞する。従って、第1実施形態と同様に、放熱器12から流出した冷媒をエジェクタ13のノズル通路13aへ冷媒を流入させる冷媒回路に切り替えることができる。
また、低負荷運転時には、基準圧力差KΔP以下となり、第1弁体部52が迂回通路50cを開くので、第1実施形態と同様に、放熱器12から流出した冷媒をオリフィス50e側へ流入させる冷媒回路に切り替えることができる。
さらに、圧縮機11が停止した際には、低圧冷媒通路50b内の冷媒の温度が上昇して形状記憶バネ55のバネ荷重が増大する。これにより、第1弁体部52が迂回通路50cを閉塞するので、第1実施形態と同様に、サイクル内の冷媒の均圧化を抑制することができる。
また、本実施形態では、開閉機構を、第1弁体部52、形状記憶合金で形成された形状記憶バネ55等によって構成し、オリフィス50e下流側冷媒の温度が基準温度以上となった際に、圧縮機11が停止したものとして迂回通路50cを閉じるようにしている。従って、1つの弁体部で、開閉機構を実現することができる。
(第6実施形態)
本実施形態では、第1実施形態に対して、図14の模式的な断面図に示すように、統合差圧弁の構成を変更した例を説明する。
具体的には、本実施形態の統合差圧弁15bでは、第5実施形態と同様に第2開閉機構を廃止している。さらに、統合差圧弁15bは、低圧冷媒通路50b内の冷媒の圧力(すなわち、オリフィス50e下流側冷媒の圧力)に応じて第1弁体部52を変位させるパワーエレメント56を有している。
パワーエレメント56は、金属製のカップ状部材で形成されている。パワーエレメント56は、バルブボデー51の低圧冷媒通路50b側に配置されている。パワーエレメント56の内部には、薄板金属製(本実施形態では、SUS304製)のダイヤフラム561が配置されている。ダイヤフラム561は、パワーエレメント56の内部空間を、第1弁体部52の変位方向(図14の上下方向)に2つに仕切っている。
ダイヤフラム561によって仕切られた2つの空間のうち、低圧冷媒通路50b側に配置された一方の空間は、導入空間56bである。導入空間56bは、低圧冷媒通路50bに連通している。ダイヤフラム561によって仕切られた2つの空間のうち、他方の空間は、封入空間56aである。封入空間56aには、不活性ガス(本実施形態では、ヘリウム)が封入されている。
このような封入空間56aでは、封入された不活性ガスに温度変化が生じても、不活性ガスが封入空間56a内で凝縮あるいは蒸発することによって、封入空間56a内の内圧を概ねを一定に保つことができる。
また、ダイヤフラム561は、導入空間56b内の圧力と封入空間56a内の圧力との圧力差に応じて変位する圧力応動部材である。ダイヤフラム561は、第1弁体部52に連結されており、ダイヤフラム561の変位は、第1弁体部52に伝達される。
さらに、本実施形態では、圧力差ΔPが基準圧力差KΔP以下となった際に第1弁体部52が迂回通路50cを開き、かつ、圧縮機11の停止時に低圧冷媒通路50b内の冷媒の圧力が上昇した際、第1弁体部52が迂回通路50cを閉じるように、弁体用バネ53のバネ荷重を設定している。
従って、本実施形態の統合差圧弁15bを採用しても、通常運転時には、圧力差ΔPが増加することによって、第1弁体部52が迂回通路50cを閉塞する。従って、第1実施形態と同様に、放熱器12から流出した冷媒をエジェクタ13のノズル通路13aへ冷媒を流入させる冷媒回路に切り替えることができる。
また、低負荷運転時には、基準圧力差KΔP以下となり、第1弁体部52が迂回通路50cを開くので、第1実施形態と同様に、放熱器12から流出した冷媒をオリフィス50e側へ流入させる冷媒回路に切り替えることができる。
さらに、圧縮機11が停止した際には、低圧冷媒通路50b内の冷媒の圧力が上昇してダイヤフラム561を導入空間56b側へ変位させる。これにより、第1弁体部52が迂回通路50cを閉塞するので、第1実施形態と同様に、サイクル内の冷媒の均圧化を抑制することができる。
また、本実施形態では、開閉機構を、第1弁体部52、圧力応動部材であるダイヤフラム561等によって構成し、オリフィス50e下流側冷媒の圧力が基準圧力以上となった際に、圧縮機11が停止したものとして迂回通路50cを閉じるようにしている。従って、1つの弁体部で、開閉機構を実現することができる。
(第7実施形態)
第2実施形態では、機械的機構で構成された統合差圧弁15を備えるエジェクタ式冷凍サイクル10aについて説明したが、本実施形態では、図15の全体構成図に示すように、迂回通路17に配置された開閉弁18および固定絞り19を備えるエジェクタ式冷凍サイクル10dについて説明する。
開閉弁18は、空調制御装置60から出力される制御信号(制御パルス)によって、その作動が制御される電磁弁である。従って、本実施形態の空調制御装置60のうち、開閉弁18の作動を制御する構成が開閉弁制御部60bを構成している。この開閉弁18は、非通電時に冷媒通路を閉じる、いわゆるノーマルクローズ型の電磁弁である。
固定絞り19は、第1実施形態で説明したオリフィス50eと同様の機能を果たすものである。固定絞り19としては、具体的に、オリフィス、キャピラリチューブ、ノズル等を採用することができる。迂回通路17は、第1実施形態で説明した迂回通路50cと同様の機能を果たす冷媒配管である。その他のエジェクタ式冷凍サイクル10dの構成は、第2実施形態で説明したエジェクタ式冷凍サイクル10aと同様である。
次に、上記構成における本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10dの作動について説明する。本実施形態では、開閉弁制御部60bが、圧縮機11の吐出容量制御弁へ出力される制御信号から、圧縮機11の冷媒吐出能力を算定する。
さらに、開閉弁制御部60bは、圧縮機11の作動時に算定された冷媒吐出能力が予め定めた基準能力より高くなっている際には、通常運転時になっているものとして、開閉弁18を閉じる。これにより、迂回通路50cが閉塞される、従って、通常運転時には、図15の黒塗矢印に示すように冷媒が流れ、第2実施形態の通常運転時と同様に作動する。
また、開閉弁制御部60bは、圧縮機11の作動時に算定された冷媒吐出能力が基準能力以下となっている際には、低負荷運転時になっているものとして、開閉弁18を開く。これにより、蒸発器14出口側冷媒の過熱度SHが低下し、第2実施形態と同様に、膨張弁22が絞り通路を閉塞する。従って、低負荷運転時には、図15の白抜矢印に示すように冷媒が流れ、第2実施形態の低負荷運転時と同様に作動する。
また、圧縮機11の停止時には、すなわち冷媒吐出能力が0となっている際には、開閉弁制御部60bが、開閉弁18を閉じる。さらに、圧縮機11の停止時には、固定絞り19下流側冷媒の圧力が上昇するので、膨張弁22が絞り通路を閉塞する。従って、圧縮機11の停止時には、第2実施形態と同様に、サイクル内の冷媒の均圧化を抑制することができる。
従って、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10dを作動させると、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、本実施形態のエジェクタ式冷凍サイクル10aによれば、圧縮機11の作動時には、負荷変動に応じて冷媒回路を適切に切り替えることができ、さらに、圧縮機11の停止時には、サイクル内の冷媒の均圧化を抑制することができる。
さらに、本実施形態では、開閉弁18として、ノーマルクローズ型の電磁弁を採用しているので、エジェクタ式冷凍サイクル10dが作動していない時には開閉弁18が非通電状態となり、迂回通路17を確実に閉塞することができる。従って、確実にサイクル内の冷媒の均圧化を抑制することができる。
なお、本実施形態では、互いに別体で構成された開閉弁18および固定絞り19を採用した例を説明したが、開閉弁18および固定絞り19を一体化させてもよい。具体的には、開閉弁18および固定絞り19に代えて、絞り通路の開度を変化させる弁体と、この弁体を変位させる電動アクチュエータ(例えば、ステッピングモータ)とを有し、さらに、絞り通路を全閉とする全閉機能付きの可変絞り機構を採用してもよい。
そして、通常運転時および圧縮機の停止時には、絞り通路が全閉となるように、開閉弁制御部60bが可変絞り機構の作動を制御し、低負荷運転時に絞り通路が予め定めた絞り開度となるように、開閉弁制御部60bが可変絞り機構の作動を制御すればよい。
また、本実施形態では、流量調整機構として膨張弁22を採用した例を説明したが、膨張弁22に代えて、上記と同様の電気式の可変絞り機構を採用してもよい。そして、圧縮機11の作動時には、空調制御装置60の膨張弁制御部が、蒸発器14出口側冷媒の過熱度SHが基準過熱度KSHに近づくように可変絞り機構の作動を制御し、圧縮機11の停止時には、絞り開度が全閉となるように可変絞り機構の作動を制御すればよい。
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
(1)本発明に係るエジェクタ式冷凍サイクルのサイクル構成は、上述の実施形態に開示された構成に限定されない。図16の模式的な全体構成図に示すように、種々変形可能である。
なお、図16は、第2実施形態で説明したエジェクタ式冷凍サイクル10aに対応するサイクルの変形例を模式的に記載した全体構成図である。さらに、図16では、統合差圧弁15の開閉機構(弁体部等)52、53、迂回通路50c、および減圧装置(オリフィス)50eを、それぞれ別体で構成された構成部材として図示している。
また、図16では、迂回通路50cとして、放熱器12から流出した冷媒を蒸発器14の冷媒流入口側へ導くように接続された冷媒通路を採用しているが、迂回通路50cは、これに限定されない。つまり、放熱器12の少なくとも一部の熱交換領域で冷却された冷媒を蒸発器14の少なくとも一部の熱交換領域で蒸発させることができるように接続された冷媒通路であればよい。従って、放熱器12内を流通する冷媒を蒸発器14内に形成された冷媒流路の途中へ導くように接続された冷媒通路であってもよい。
また、図16に示すように、エジェクタ23のディフューザ部23dの冷媒流出口とアキュムレータ24の入口との間に、冷媒を蒸発させる補助蒸発器141を配置してもよい。
これによれば、通常運転時には、エジェクタ23の昇圧作用によって、補助蒸発器141における冷媒蒸発圧力(冷媒蒸発温度)を蒸発器14における冷媒蒸発圧力(冷媒蒸発温度)よりも上昇させることができる。従って、双方の蒸発器14、141において、異なる温度帯で冷媒を蒸発させることができる。さらに、低負荷運転時にも、蒸発器14および補助蒸発器141を直列的に接続して、双方の蒸発器14、141にて、冷凍能力を発揮することができる。
また、蒸発器14に対して並列的に接続された第2蒸発器142を追加してもよい。さらに、図16の二重線に示すように、放熱器12から流出した冷媒をアキュムレータ24側へ導く並列通路25を接続し、この並列通路25に、並列通路25を流通する冷媒を減圧させる減圧装置26、および減圧装置26にて減圧された冷媒を蒸発させる第3蒸発器143を配置してもよい。
これらの迂回通路50c、各蒸発器141〜143は、適用可能な範囲で、エジェクタ式冷凍サイクル10、10b〜10dに適用してもよい。
また、エジェクタ式冷凍サイクル10〜10dに、放熱器12から流出した高圧冷媒と、各蒸発器14、141〜143から流出した低圧冷媒あるいは圧縮機11へ吸入させる吸入冷媒とを熱交換させる内部熱交換器を追加してもよい。
(2)上述の実施形態では、統合差圧弁15〜15bとして、各開閉機構、迂回通路50c、および減圧装置を、一体的に構成した例を説明したが、さらに、統合差圧弁15〜15bに逆止弁16を一体的に構成してもよい。
また、第1開閉機構は、圧力差ΔPが基準圧力差KΔP以下となった際に、迂回通路50cを開くことができれば、形式は限定されない。例えば、放熱器12下流側冷媒の温度や蒸発器14入口側冷媒の温度を検知して、迂回通路50cを開閉するものであってもよい。
また、第2開閉機構は、圧縮機11が停止した際に、迂回通路50cを閉じることができれば、形式は限定されない。例えば、第6実施形態で説明したパワーエレメントによって、低圧冷媒通路50b内の冷媒(オリフィス50e下流側冷媒)の圧力を検知して、迂回通路50cを開閉するものであってもよい。
また、第5、第6実施形態で説明した統合差圧弁15a、15bに、第3実施形態で説明した統合差圧弁15と同様の圧力導出穴51eを形成し、第3、第4実施形態で説明したエジェクタ式冷凍サイクル10b、10cに適用してもよい。
(3)エジェクタ13、23は、上述の実施形態に開示されたものに限定されない。
例えば、第1、第3実施形態のエジェクタ13では、駆動機構37として、封入空間37a内の感温媒体の圧力と導入空間37b内の吸引冷媒の圧力との圧力差に応じて変位するダイヤフラム371を有する駆動機構37を採用した例を説明したが、駆動機構はこれに限定されない。
駆動機構37のダイヤフラムとして、金属(例えば、SUS304等)の薄板で形成されたものを採用してもよい。感温媒体として、温度によって体積変化するサーモワックスを採用してもよい。駆動機構として、形状記憶合金性の弾性部材を有して構成されたものを採用してもよい。
(4)エジェクタ式冷凍サイクル10、10aを構成する各構成機器は、上述の実施形態に開示されたものに限定されない。
例えば、上述の実施形態では、圧縮機11として、エンジン駆動式の可変容量型圧縮機を採用した例を説明したが、圧縮機11として、電磁クラッチの断続により圧縮機の稼働率を変化させて冷媒吐出能力を調整する固定容量型圧縮機を採用してもよい。さらに、固定容量型圧縮機構と電動モータとを備え、電力を供給されることによって作動する電動圧縮機を採用してもよい。電動圧縮機では、電動モータの回転数を調整することによって、冷媒吐出能力を制御することができる。
また、上述の実施形態では、放熱器12として、サブクール型の熱交換器を採用した例を説明したが、凝縮部12aのみからなる通常の放熱器を採用してもよい。さらに、通常の放熱器とともに、この放熱器にて放熱した冷媒の気液を分離して余剰液相冷媒を蓄える受液器(レシーバ)を一体化させたレシーバ一体型の凝縮器を採用してもよい。
また、上述の実施形態では、抑制機構として逆止弁16を採用した例を説明したが、抑制機構はこれに限定されない。すなわち、抑制機構は、冷媒が蒸発器14の冷媒入口側からエジェクタ13の気液分離空間30f側へ流れることを完全に禁止することができなくてもよい。従って、抑制機構として、オリフィス、キャピラリチューブ等の固定絞りを採用することもできる。
また、上述の実施形態では、冷媒としてR134aを採用した例を説明したが、冷媒はこれに限定されない。例えば、HFO系冷媒(R1234yf、HFO−1234ze、HFO−1234zd)、R600a、R410A、R404A、R32、R407C、等を採用することができる。または、これらの冷媒のうち複数種を混合させた混合冷媒等を採用してもよい。さらに、冷媒として二酸化炭素を採用して、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力以上となる超臨界冷凍サイクルを構成してもよい。
(5)上述の実施形態では、本発明に係るエジェクタ式冷凍サイクル10、10aを、車両用空調装置に適用した例を説明したが、エジェクタ式冷凍サイクル10、10aの適用はこれに限定されない。例えば、据置型空調装置、冷温保存庫、自動販売機用冷却加熱装置等に適用してもよい。
また、上述の実施形態では、本発明に係るエジェクタ13を備えるエジェクタ式冷凍サイクル10の放熱器12を冷媒と外気とを熱交換させる室外側熱交換器とし、蒸発器14を送風空気を冷却する利用側熱交換器としている。これに対して、蒸発器14を外気等の熱源から吸熱する室外側熱交換器として用い、放熱器12を空気あるいは水等の被加熱流体を加熱する利用側熱交換器として用いてもよい。