JP6737157B2 - 銅ペースト組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、紙などの繊維基板上において、高湿度環境下においても、高い導電性を維持する銅配線を得ることができる銅ペースト組成物に関する。
従来から、電子材料の分野などにおいて、RFID(radio frequency identifier)タグの導電パターンの形成などの電気的導通確保の手段として、導電性金属を主成分とする導電性ペースト組成物を基板の樹脂フィルムなどへ印刷する方法が広く用いられている。
しかし、近年のRFIDタグの使い捨て使用が進む中で、RFIDタグの更なるコストダウンが求められており、PETなどの樹脂基板よりも安価な紙などの繊維基板上でのタグ作製が可能な導電性ペースト組成物が求められている。
繊維基板上に導電性ペースト組成物を印刷しRFIDタグを作製する場合に、導電性ペースト組成物にはその硬化膜が可とう性に優れることが求められる。たとえば紙などの、特に高湿度環境下で吸湿による膨潤によって寸法が大きく変化するような繊維基板においては、可とう性が低い硬化膜の場合、基板の寸法変化に硬化膜の変形が追随することができずに断線してしまい、導電性を維持することが困難となるからである。
導電性ペースト組成物は、金属粒子を含む流動性のある配合物であり、耐酸化性に優れ、体積固有抵抗が低いことから銀を使用した銀ペーストが一般に使用されてきた。しかし、原料となる銀は、希少金属として非常に高価であり、銀ペーストの価格もそれに比例して高価なものである。そこで近年では原料価格がより安価な銅を使用した銅ペーストの開発が盛んに行われている。
特許文献1は、バインダーとして熱硬化性樹脂であるレゾール型フェノール樹脂のみを使用している銅ペーストを開示している。銅ペーストは銅を原料としているため、形成する硬化物は、銀ペーストと比べて酸化しやすく、導電性が低下してしまうことから、硬化時の収縮により粒子同士の接触を促進し、かつ還元性を有するため導電性を確保しやすいフェノール樹脂などの熱硬化樹脂を使用している。
特許文献2は、バインダーとして架橋されていないゴムなどのエラストマーのみを使用する可とう性に優れた導電ペーストを開示している。
特開平11−224532 特開2014−236103
特許文献1に開示の銅ペーストを硬化させた硬化物は、バインダーが3次元架橋により強固なネットワークを形成するため可とう性に乏しく、上述の断線の懸念があり、繊維基板上でのRFIDタグ形成が困難となる。特許文献2に開示の導電ペーストにおいて、導電粒子として銅粒子を使用した銅ペーストは、その硬化物の可とう性は優れているものの、バインダーが還元性を有していないため、銅が酸化されやすくなり、良好な導電性を得ることが困難となる。
そこで本発明の課題は、硬化後の可とう性が良好であり、それによって吸湿により膨張しやすい紙などの繊維基板上における耐断線性に優れ、かつ高導電性を示す銅硬化膜が得られる銅ペースト組成物を提供することにある。
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の被覆剤を特定の被覆方法を用いて被覆した特定の銅粒子と、特定の成分とを配合することにより、銅硬化膜の上記耐断線性と高導電性を両立できる銅ペースト組成物を作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明によれば、表面被覆銅粒子(A)、レゾール型フェノール樹脂(B)、ビニルフェノール系ポリマー(C)、キレート化剤(D)、溶剤(E)、および可とう性付与剤(F)を含有し、前記表面被覆銅粒子(A)は、銅粒子の表面の銅と化学結合および/または物理結合によって結合している式(1)で表されるアミン化合物の第1被覆層と、該第1被覆層上に、前記アミン化合物と化学結合によって結合している炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層とを有し、前記表面被覆銅粒子(A)100質量部に対して、前記レゾール型フェノール樹脂(B)10〜25質量部、前記ビニルフェノール系ポリマー(C)0.5〜3.0質量部、前記キレート化剤(D)0.5〜3.0質量部、前記溶剤(E)10〜40質量部、および前記可とう性付与剤(F)0.5〜3.0質量部を含有する、銅ペースト組成物が提供される。

[式(1)中、mは0〜3の整数、nは0〜2の整数であり、n=0のとき、mは0〜3のいずれか、n=1またはn=2のとき、mは1〜3のいずれかである。]
前記ビニルフェノール系ポリマー(C)は、好ましくは、ビニルフェノールのホモポリマー、ならびにビニルフェノールと、スチレン、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、およびメタクリル酸2−ヒドロキシエチルから選択される1種以上のモノマーとのコポリマーからなる群から選択される少なくとも1種以上の重合体であり、前記重合体は式(2)で表される構造単位を有し、重量平均分子量が1,000〜20,000である。
前記キレート化剤(D)は、好ましくは、芳香族ジアミンおよびシッフ塩基から選択される少なくとも1種類以上の化合物である。
前記可とう性付与剤(F)は、好ましくは、リン酸エステル、フタル酸エステル、ポリエーテルエステル、およびアジピン酸エステルから選択される少なくとも1種類以上の化合物である。
前記可とう性付与剤(F)がポリエーテルエステルおよび/またはアジピン酸エステルの場合、式(3)で表される重量平均分子量450〜650のポリエーテルエステル、ならびに式(4)および/または(5)で表される重量平均分子量200〜3,000のアジピン酸エステルから選択される少なくとも1種類以上の化合物であることが好ましい。

[式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に、−(CH)−CH、又は−(CH−Cを表す。aは0〜7の整数であり、bは0〜4の整数である。Rは、−(CH)−を表す。cは2〜4の整数である。xは1〜6の整数である。]

[式(4)中、R及びRは、それぞれ独立に、−(CH)−(CR)−(CH−CHを表す。ここで、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子または−(CH)−CHを表す。また、dは0〜4の整数、eは0〜2の整数、fは0〜4の整数、gは0〜3の整数である。]

[式(5)中、R及びRは、それぞれ独立に、−(CH)−(CR1112)−(CH−CHを表す。ここで、R11及びR12はそれぞれ独立に、水素原子または−(CH)−CHを表す。また、hは0〜4の整数、iは0〜2の整数、jは0〜4の整数、kは0〜3の整数である。R10は、−(CH)−を表す。lは2〜4の整数である。yは1〜4の整数、zは1〜4の整数である。]
本発明の銅ペースト組成物の成分である表面被覆銅粒子(A)は、上記特定の第1及び第2被覆層を有しているので、銅粒子表面が酸化されにくく、高温高湿環境下において、熱、水分などの外的要因に対する極めて優れた耐酸化性能を有する。従って、本発明の銅ペースト組成物を硬化して得られる銅硬化膜は高い導電性を維持することができる。
さらに、本発明の銅ペースト組成物は該表面被覆銅粒子(A)及び特定成分を特定の配合割合で含有しているので、可とう性が高い銅硬化膜を得ることができる。そのため、繊維基板上に銅硬化膜を形成した場合、高温高湿環境下において、繊維基板が吸湿して膨張した際においても、基板の変形に追随することができ、優れた耐断線性を示す。
すなわち、本発明の銅ペースト組成物は、耐断線性及び高導電性を高度に両立する銅硬化膜を得ることができるので、紙などの繊維基板を用いたRFIDタグを製造することができる。
本発明において銅硬化膜とは、銅のみからなる硬化膜ではなく、銅、高導電性維持に寄与する上記被覆層、および可とう性付与に寄与する銅ペースト組成物中の一部の成分が含まれている硬化膜を意味する。
実施例で使用した表面被覆銅粒子(A)の表面のIRスペクトル測定結果を表す図である。 エチレンジアミンのIRスペクトル測定結果を表す図である。 紙基板上の実施例1の銅硬化膜の高温高湿度環境曝露後の外観観察結果を表す図である。 紙基板上の比較例1の銅硬化膜の高温高湿度環境曝露後の外観観察結果を表す図である。
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。
<銅ペースト組成物の構成成分>
[表面被覆銅粒子(A);以後、単に(A)と称する場合がある]
(A)用の表面被覆前の銅粒子は、その平均粒子径D50が1〜10μmである。D50は、4μm以上、7μm以下が好ましい。平均粒子径が小さいほど、銅硬化膜の表面が滑らかとなり、特に高周波領域での表面効果を抑制することができる。しかしその一方で、粒子の比表面積が増大し、酸化により導電性のない酸化銅に粒子表面が覆われやすくなるため、形成する配線の導電性が低下するおそれがある。よって、D50が1μm未満であると、配線の導電性が低下するおそれがある。一方、D50が10μmを超えると、導電性は確保できるものの、銅硬化膜表面が粗くなり、高周波領域での表面効果がより大きくなり、アンテナ性能を低下させるおそれがある。
以後、特に断らない限り、銅粒子と称したときは原料である表面被覆前の銅粒子を指すものとする。
本明細書において、粒子径および平均粒子径D50は、レーザー回折式マイクロトラック粒子径分布測定装置によって測定した値を指すものとする。該測定装置としては、例えばマイクロトラック・ベル株式会社製のマイクロトラック粒度分布測定装置MT3000IIシリーズ(レーザー回折・散乱法)を例示できる。
本発明に用いる銅粒子としては、銅ペーストや銅インクに一般的に用いられる公知の銅粒子が挙げられる。その形状としては、球状、板状、樹枝状、棒状、繊維状いずれであってもよく、中空状、または多孔質状等の不定形であってもよい。さらに、シェルが銅でコアが銅以外の物質であるコアシェル形状であってもよい。特に、板状粒子を用いて作製した銅ペースト組成物の場合、基板上に配線を形成するために銅硬化膜を形成したときに、粒子形状に起因して該銅ペースト組成物の基板平面方向の硬化収縮が抑制されるため、変形が抑えられ、基板との密着性により優れることから、板状粒子を用いることが特に好ましい。本明細書では、板状粒子の定義は、銅粒子の上記平均粒子径D50と、粒子の平均厚みとの比「D50/平均厚み」の値が1.5〜20であることとする。本明細書では、粒子の厚みとは板状粒子の面的な広がりに対して垂直な方向の長さをいうものとする。また、粒子の平均厚みは、走査型電子顕微鏡写真(SEM)観察により得られた粒子の観察結果画像において、任意の100個の粒子を選択し、画像解析により算出した粒子の厚みの測定値の平均値とする。
また、(A)に用いる銅粒子は、1種類でも良いが、異なる形状の銅粒子を混合して用いても良い。
(A)は、銅粒子の表面の銅と化学結合または物理結合によって結合している式(1)で表されるアミン化合物の第1被覆層と、該第1被覆層上に、前記アミン化合物と化学結合によって結合している炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層とを有している。

[式(1)中、mは0〜3の整数、nは0〜2の整数であり、n=0のとき、mは0〜3のいずれか、n=1またはn=2のとき、mは1〜3のいずれかである。]
(A)の第1被覆層は、銅粒子表面の銅と化学的および/または物理的に結合して吸着しているアミン化合物の層である。耐酸化性の点では、銅粒子表面をアミン化合物が単分子膜状に均一に被覆していることが理想的であるが、実際上は、そのような理想状態となることは難しいので、一部銅表面にアミン化合物が吸着していない部分があってもよく、また、2分子以上が積層して吸着している部分があってもよい。
従って、本発明における第1被覆層とは、アミン化合物が銅表面を均一に被覆している層だけでなく、アミン化合物が未吸着の銅表面が一部存在する被覆層をも含むものとする。
なお、銅表面にアミン化合物が吸着して第1被覆層を形成していることは、後述する銅表面のIR測定により確認するものとする。
ここで、上記化学的な結合による吸着とは、アミン化合物が銅表面と静電的な相互作用により結合を形成し、銅表面に吸着していることを指す。ここでいう静電的な相互作用とは、水素結合、イオン間相互作用(イオン結合)などを指す。また、物理的な結合による吸着とは、ファンデルワールス力による物理吸着により銅表面に吸着していることを指す。特に、アミノ基は電子供与性が高く、アミノ基が銅への配位を形成することで結合を形成すると考えられるので、アミン化合物は主に、静電的な相互作用による化学結合によって銅表面に吸着し、第1被覆層を形成していると考えられる。しかし、物理的な結合による吸着が一部存在してもよい。
また、アミン化合物同士が、例えば水素結合等により結合して2分子以上積層している部分があってもよい。
(A)の第2被覆層は、第1被覆層上に積層されている層であり、第1被覆層のアミン化合物と化学結合によって結合している炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸の層である。
ここで、化学結合とは、脂肪族モノカルボン酸のカルボキシル基とアミン化合物のアミノ基とが静電的な相互作用により結合していることを意味する。ここでいう静電的な相互作用とは、水素結合、イオン間相互作用(イオン結合)などを指す。すなわち、第2被覆層とは、第1被覆層のアミン化合物と静電的な相互作用によって結合している脂肪族モノカルボン酸の層である。理想的には、第1被覆層のアミン化合物と脂肪族モノカルボン酸が1:1で反応して第2被覆層が形成されていることが好ましいが、実際上は、そのような理想状態となることは難しい。従って、一部脂肪族モノカルボン酸と結合していない第1被覆層のアミン化合物があってもよく、また、第2被覆層において、脂肪族モノカルボン酸が物理吸着等により2分子以上が積層して吸着している部分があってもよい。
従って、本発明における第2被覆層とは、第1被覆層と同様、脂肪族モノカルボン酸が第1被覆層を均一に被覆している層だけでなく、脂肪族モノカルボン酸がアミン化合物と結合していない部分が一部存在するように形成されている被覆層をも含むものとする。
なお、脂肪族モノカルボン酸が吸着して第2被覆層を形成していることは、第1被覆層と同様、後述する銅表面のIR測定により確認するものとする。
さらに、アミン化合物が結合していない銅表面が一部存在する場合は、当該銅表面に直接脂肪族モノカルボン酸が吸着している部分があってもよく、この様な表面被覆銅粒子も本発明の範囲内の(A)である。
上記第1被覆層を形成するアミン化合物は、上記式(1)で表されるアミン化合物である。具体的には、ヒドラジン、メチレンジアミン、エチレンジアミン、1、3−プロパンジアミン、ジメチレントリアミン、トリメチレンテトラアミン、テトラメチレンペンタアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラアミン、テトラプロピレンペンタアミンなどが挙げられる。第1被覆層は、これらのうち1種類のアミン化合物で形成してもよく、複数の種類を用いて形成してもよい。
式(1)中のmの値が4以上になると、化学的な結合と還元性に寄与しているアミノ基の銅粒子表面における単位面積あたりのアミノ基数が減少するため、所望の耐酸化性が不十分となり、銅の表面酸化が進行しやすくなるおそれがある。また、式(1)中のnが3以上になると、分子鎖が長くなりすぎ、被覆時に隣接するアミン化合物との立体障害が生じ、銅粒子表面を十分に被覆できず、やはり、所望の耐酸化性が不十分となり、銅の表面酸化が進行しやすくなるおそれがある。
本発明に用いる上記第2被覆層を形成する炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸は、炭素数8〜20の直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸、炭素数8〜20の直鎖不飽和脂肪族モノカルボン酸、炭素数8〜20の分岐飽和脂肪族モノカルボン酸、炭素数8〜20の分岐不飽和脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。炭素数8〜20の直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸としては、具体的には、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸が挙げられる。炭素数8〜20の直鎖不飽和脂肪族モノカルボン酸としては、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸等が挙げられる。炭素数8〜20の分岐飽和脂肪族モノカルボン酸としては、2−エチルヘキサン酸などが挙げられる。上記脂肪族モノカルボン酸は、1種類で用いても良く、複数の種類を混合して用いても良い。
炭素数が7以下であると、アルキル鎖長が短いため表面被覆銅粒子の分散性が低くなるおそれがある。また、炭素数21以上では、脂肪族モノカルボン酸の疎水性が高まるためにバインダーとの相溶性が高くなり、銅ペースト組成物とした際、第2被覆層から脂肪族モノカルボン酸が脱離してバインダー側に溶出しやすくなる。
(A)の銅ペースト組成物中での分散性をより高め、また、該銅ペースト組成物中での遊離の脂肪族モノカルボン酸量を低減するためには、炭素数10〜18の脂肪族モノカルボン酸が好ましい。さらに、直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸は、分岐鎖や不飽和を持つ脂肪族モノカルボン酸よりも細密充填構造がとりやすく、空隙の少ない被覆となるため炭素数10〜18の直鎖飽和脂肪族モノカルボン酸を被覆に用いるのがさらに好ましい。
(A)は、式(1)で表されるアミン化合物による第1被覆層、および炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層の2つの被覆層が、銅粒子表面上に形成されていることが特徴である。
アミン化合物は、アミノ基が還元性を有するため金属表面の酸化物の除去効果と酸化抑制効果がある。
また、アミン化合物は、脂肪族モノカルボン酸よりもアミノ基の窒素の孤立電子対の効果により金属に対する配位能が高く、脂肪族モノカルボン酸よりも強い結合で銅表面と結びつくため脂肪族モノカルボン酸よりも表面被覆率が高いと考えられる。また、アミン化合物は、脂肪族モノカルボン酸と静電的な相互作用による結合を形成しやすい。ここで静電的な相互作用とは、水素結合およびイオン間相互作用を指す。従って、表面被覆率が高いアミン化合物で銅表面を被覆した後、脂肪族モノカルボン酸でさらにその外側を被覆することで、脂肪族モノカルボン酸を銅粒子に直接被覆するよりも、高い表面被覆率で脂肪族モノカルボン酸を銅粒子に被覆することができる。そのため、本発明の表面被覆銅粒子は、アミン化合物の酸化抑制効果と脂肪族モノカルボン酸の高い被覆率により、脂肪族モノカルボン酸のみを被覆した銅粒子よりも高い耐酸化性を有している。
さらに、脂肪族モノカルボン酸は、上記したように、そのカルボキシル基がアミン化合物のアミノ基と静電的な相互作用により結合していると考えられる。すなわち、親水基のカルボキシル基をアミン化合物の第1被覆層側に、疎水基のアルキル基を外側に向けて第2被覆層を形成していると考えられる。従って、脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層を有する本発明の(A)は、アミン化合物のみで被覆した銅粒子よりも、銅粒子の凝集を抑制できるとともに、アミン化合物の脱離も抑制することができる。
(A)が、アミン化合物および脂肪族モノカルボン酸で被覆されていることの確認は、表面被覆銅粒子の赤外吸収(IR)スペクトルを測定することで可能である。
一例として、図1にエチレンジアミンおよびミリスチン酸により被覆された表面被覆銅粒子のIRスペクトルを示す(後述の実施例に使用した表面被覆銅粒子)。
被覆に用いたアミン化合物を単独で測定した場合は、N−H変角振動のピークが1598cm−1に出現する(図2)のに対して、表面被覆銅粒子に観測されるN−H変角振動のピークは1576cm−1と低波数側にシフトしており、アミン化合物が銅粒子表面に配位して存在していることを示している。また、図1において、脂肪族モノカルボン酸のC=O伸縮振動のピークが1700cm−1に観察されず、カルボン酸アニオン(−COO)のピークが1400cm−1付近に観測されており、カルボン酸がアミン化合物と静電的な相互作用により結合して存在していることを示している。
[レゾール型フェノール樹脂(B);以後、単に(B)と称する場合がある]
(B)はバインダーとして作用する成分であり、銅ペースト組成物中の(B)の含有量は、(A)100質量部に対して10〜25質量部が好ましく、15〜20質量部がより好ましい。(B)の含有量が10質量部以上であれば、銅硬化膜としたときの銅粒子同士の接着性が良好で、銅ペースト組成物の印刷時に十分な流動性を有する。また、25質量部以下であれば、(B)の有する還元性により低抵抗値の銅硬化膜が得られやすい。
(B)は、公知の方法に従って適宜製造可能であるが、市販品としても入手可能である。
レゾール型フェノール樹脂の市販品の例としては、レジトップ(RESITOP:登録商標)PL−5208、PL−2211、およびPL−6220(群栄化学工業株式会社製)を挙げることができる。
[ビニルフェノール系ポリマー(C);以後、単に(C)と称する場合がある]
(C)は(B)と共にバインダーとして作用する成分であり、銅ペースト組成物中の(C)の含有量は、(A)100質量部に対して0.5〜3.0質量部が好ましく、0.8〜2.0質量部がより好ましい。(C)の含有量が0.5質量部以上であれば、(B)と(C)とが各々の有する水酸基を基点として架橋するため、(B)のみで形成する銅硬化膜よりも直鎖状高分子の含有量が多くなり、架橋密度が低下すると考えられる。よって、可とう性に優れ、高湿度環境下において基板の繊維材料が水分を吸収し膨潤した際にも、基板の変形に追随できる耐断線性の高い銅硬化膜が得られる。しかし、3.0質量部を超えると、銅ペースト組成物中での(A)の分散性が低下して均一分散性が低下するおそれがあり、硬化後の銅硬化膜の導電性が低下する可能性がある。
(C)は、好ましくは、ビニルフェノールのホモポリマー、ならびにビニルフェノールと、スチレン、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、およびメタクリル酸2−ヒドロキシエチルから選択される1種以上のモノマーとのコポリマーからなる群から選択される少なくとも1種以上の重合体であり、該重合体は式(2)で表される構造単位を有し、重量平均分子量が1,000〜20,000であることが好ましい。重量平均分子量は8,000〜15,000であることがより好ましい。重量平均分子量がこの範囲であると、得られる銅硬化膜の耐断線性に優れる。
(C)として、コポリマーを用いる場合、ビニルフェノールの含有量が、50mol%以上100mol%未満であることが好ましい。コポリマー中、ビニルフェノールの含有量が50mol%未満の場合、(B)レゾール型フェノール樹脂との相溶性が低下し、(A)表面被覆銅粒子が不均一な分散となる可能性があり、導電経路を確保することが困難となる場合があり、硬化膜としての導電性が低下するおそれがある。
(C)として、ビニルフェノールのホモポリマーを用いることが、導電性および可とう性の観点から特に好ましい。
(C)の好ましい態様であるビニルフェノールのホモポリマー、および上記コポリマーは、公知の方法に従い製造することができるが、市販品としても入手可能である。
かかる市販品の例としては、マルカリンカー(MARUKA LYNCUR:登録商標)S−1(ビニルフェノールのホモポリマー、重量平均分子量2,000)、マルカリンカーS−4P(ビニルフェノールのホモポリマー、重量平均分子量9,500)、マルカリンカーCBA(ビニルフェノール55mol%とアクリル酸ブチル45mol%のコポリマー、重量平均分子量12,500)、マルカリンカーCMM(ビニルフェノール55mol%とメタクリル酸メチル45mol%のコポリマー、重量平均分子量10,000)、およびマルカリンカーCHM(ビニルフェノール55mol%とメタクリル酸2−ヒドロキシエチル45mol%のコポリマー、重量平均分子量10,000)(以上丸善石油化学株式会社製)を挙げることができる。
(C)としてこれら市販品を用いる場合、マルカリンカーS−4Pが特に好ましい。
また、(C)の他の市販品例としては、NISSO(登録商標) VP−Polymer VP−8000(ビニルフェノールのホモポリマー、重量平均分子量12,000)、NISSO VP−Polymer VP−15000(ビニルフェノールのホモポリマー、重量平均分子量19,000)(以上日本曹達株式会社製)を挙げることができる。
(C)として上記市販品を用いる場合、上記いずれか1種類を用いてもよく、2種類以上を混合して用いても良い。
[キレート化剤(D);以後、単に(D)と称する場合がある]
銅ペースト組成物中の(D)の含有量は、(A)100質量部に対して0.5〜3.0質量部が好ましく、1.0〜2.0質量部がより好ましい。(D)の含有量が0.5質量部以上であれば、良好な酸化防止性能が発揮され、高導電性の銅硬化膜が得られやすくなる。しかし、3.0質量部を超えると、ペースト組成物の貯蔵安定性が低下する可能性がある。
(D)は、好ましくは、芳香族ジアミンおよびシッフ塩基から選択される少なくとも1種類以上の化合物である。
芳香族ジアミンとしては、1,2−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、1,4−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、2,3,5,6−テトラメチル1,4−フェニレンジアミン、N,N−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N,N’N’−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−1,4−フェニレンジアミン等が挙げられる。特に、1,2−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、1,4−フェニレンジアミンから1種類以上選択して用いることが導電性の観点から好ましく、1,4−フェニレンジアミンがより好ましい。
シッフ塩基としては、N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,2−プロパンジアミン、N,N’−ビス(サリチリデン) −1,3−プロパンジアミン、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,2−フェニレンジアミン等が挙げられる。特に、N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,2−プロパンジアミンから1種類以上選択して用いることが導電性の観点から好ましく、N,N’−ビス(サリチリデン)−1,2−プロパンジアミンがより好ましい。
(D)としては、これらのいずれか1種類を用いてもよく、2種類以上を混合して用いても良い。
[溶剤(E);以後、単に(E)と称する場合がある]
銅ペースト組成物中の(E)の含有量は、(A)100質量部に対して10〜40質量部が好ましく、10〜20質量部がより好ましい。
本発明の銅ペースト組成物は、光または熱を加えることで、溶剤の揮発やバインダーの硬化に伴い収縮が生じ、この収縮により銅粒子同士が接近し導電性を発現する。よって、導電性発現のためには溶剤はできるだけ少ないほうが良いが、基板への塗布性に好適な粘度とする点において、上記範囲とすることが好ましい。
(E)としては、(B)、(C)、(D)及び後述の(F)を溶解するものであれば特に限定されず、例えば、エーテル系アルコール類、非エーテル系アルコール類、エステル類、ケトン類、テルペン類、その他炭化水素類等が挙げられる。
エーテル系アルコール類としては、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−イソプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、およびプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
バインダーとして作用する成分(B)及び(C)の溶解性に優れ、溶剤揮発性が適度であるために、スクリーン印刷法等による連続印刷に対する適性及び熱硬化後の銅硬化膜の導電性が良好であるという観点で、ジエチレングリコールモノエチルエーテルおよびジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートが好ましい。
非エーテル系アルコール類としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、およびトリエチレングリコール等が挙げられる。バインダーとして作用する成分(B)及び(C)の溶解性に優れ、溶剤揮発性が適度であるために、スクリーン印刷法等による連続印刷に対する適性及び熱硬化後の銅硬化膜の導電性が良好であるという観点で、1,4−ブタンジオールが好ましい。
エステル類としては、乳酸エチル、乳酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネート、エチルエトキシプロピオネート、シュウ酸ジエチル、およびマロン酸ジエチル等が挙げられる。バインダーとして作用する成分(B)及び(C)の溶解性に優れ、溶剤揮発性が適度であるために、スクリーン印刷法等による連続印刷に対する適性及び熱硬化後の銅硬化膜の導電性が良好であるという観点で、酢酸ブチルが好ましい。
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノン等が挙げられる。バインダーとして作用する成分(B)及び(C)の溶解性に優れ、溶剤揮発性が適度であるために、スクリーン印刷法等による連続印刷に対する適性及び熱硬化後の銅硬化膜の導電性が良好であるという観点で、シクロヘキサノンが好ましい。
テルペン類としては、テレピン油、テレピネオール、ボルネオール、およびα−ピネン等が挙げられる。バインダーとして作用する成分(B)及び(C)の溶解性に優れ、溶剤揮発性が適度であるために、スクリーン印刷法等による連続印刷に対する適性及び熱硬化後の銅硬化膜の導電性が良好であるという観点で、テレピネオールが好ましい。
その他炭化水素類等としては、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ジアセトンアルコール、および炭酸プロピレン等が挙げられる。バインダーとして作用する成分(B)及び(C)の溶解性に優れ、溶剤揮発性が適度であるために、スクリーン印刷法等による連続印刷に対する適性及び熱硬化後の銅硬化膜の導電性が良好であるという観点で、オクタンが好ましい。
(E)としては、これらのいずれか1種類を用いてもよく、2種類以上を混合して用いても良い。特に、エーテル系アルコール類、エステル類またはテルペン類から1種類以上選択して用いることが好ましい。
[可とう性付与剤(F);以後、単に(F)と称する場合がある]
銅ペースト組成物中の(F)の含有量は、(A)100質量部に対して0.5〜3.0質量部が好ましく、1.0〜2.0質量部がより好ましい。(F)の含有量が0.5質量部以上であれば、形成される銅硬化膜中の(B)および(C)による架橋反応物に可とう性を付与し、耐断線性の高い銅硬化膜が得られやすくなる。しかし、3.0質量部を超えると、非導電性成分の増加によって銅硬化膜の導電性が低下する可能性がある。
(F)は、好ましくは、リン酸エステル、フタル酸エステル、ポリエーテルエステル、アジピン酸エステルから選択される少なくとも1種類以上の化合物であり、リン酸エステルがより好ましい。
リン酸エステルとしては、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸モノ(2−エチルヘキシル)、リン酸ビス(2−エチルヘキシル)、リン酸トリス(2−エチルヘキシル)等が挙げられ、特に、リン酸トリス(2−エチルヘキシル)が好ましい。
フタル酸エステルとしては、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル等が挙げられ、特に、フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)が好ましい。
ポリエーテルエステルとしては、下記式(3)で表される重量平均分子量450〜650の重合体が好ましい。

式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に、−(CH)−CH、又は−(CH−Cを表す。aは0〜7の整数であり、bは0〜4の整数である。Rは、−(CH)−を表す。cは2〜4の整数である。xは1〜6の整数である。
、Rとしては、それぞれ−(CH)−CHであることが好ましく、それぞれaが2〜4であることが好ましく、2であることがより好ましい。また、cは2〜3であることが好ましく、2であることがより好ましい。
ポリエーテルエステルは、公知の方法に従い製造することができるが、市販品としても入手可能である。
かかる市販品の例としては、アデカサイザー(ADK−CIZER:登録商標)RS−966(重量平均分子量470)、アデカサイザーRS−700(重量平均分子量550)、およびアデカサイザーRS−1000(重量平均分子量550)(以上株式会社ADEKA製)を挙げることができる。
アジピン酸エステルとしては、下記式(4)または(5)で表される重量平均分子量200〜3,000の化合物が好ましく、いずれか一方を用いても、両者を併用してもよい。

式(4)中、R及びRは、それぞれ独立に、−(CH)−(CR)−(CH−CHを表す。ここで、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子または−(CH)−CHを表す。また、dは0〜4の整数、eは0〜2の整数、fは0〜4の整数、gは0〜3の整数である。
は−(CH)−CHであり、Rは水素原子であることが好ましい。また、dは1〜3であり、eは0〜1であり、fは1〜3であり、gは1〜2であることが好ましい。さらに、dは1であり、eは1であり、fは3であり、gは1であることがより好ましい。

式(5)中、R及びRは、それぞれ独立に、−(CH)−(CR1112)−(CH−CHを表す。ここで、R11及びR12はそれぞれ独立に、水素原子または−(CH)−CHを表す。またhは0〜4の整数、iは0〜2の整数、jは0〜4の整数、kは0〜3の整数である。R10は、−(CH)−を表す。lは2〜4の整数である。yは1〜4の整数、zは1〜4の整数である。
11は−(CH)−CHであり、R12は水素原子であることが好ましい。また、hは1〜3であり、iは0〜1であり、jは1〜3であり、kは1〜2であることが好ましい。また、lは2〜3であることが好ましい。さらに、hは1であり、iは1であり、jは3であり、kは1であり、lは2であることがより好ましい。
アジピン酸エステルは、公知の方法に従い製造することができるが、市販品としても入手可能である。
かかる市販品の例としては、アデカサイザーRS−107(重量平均分子量434)、アデカサイザーP−200(重量平均分子量2000)(以上株式会社ADEKA製)を挙げることができる。
本発明の銅ペースト組成物は、本質的に(A)〜(F)からなることが好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて(A)〜(F)以外に、レベリング剤、粘度調整剤、分散剤、硬化剤、発泡剤等の公知の各種添加剤を適宜含有することができる。また、原料成分および製造過程の装置等から不可避的に混入し得る不純物を含むものも本発明の範囲内である。
<表面被覆銅粒子(A)の製造方法>
次に、本発明の(A)の製造方法について説明する。
(A)は、下記の工程1〜工程5を有する方法により製造することができる。好ましくは、工程1の前に、以下に説明する前処理工程を実施する。銅粒子は、その製造に由来する銅塩、分散剤、酸化銅等の不純物を表面に付着させている場合があるため、工程1の前にこれらの不純物を除去することが好ましい。それによって、水等の高極性溶媒への銅粒子の分散性の向上や、銅粒子表面のアミン化合物および脂肪族モノカルボン酸の被覆率を向上させることができるからである。
[前処理工程]
上記不純物を銅粒子表面から除去できれば特にその方法に限定はないが、例えば、有機溶剤または酸を用いた洗浄方法がある。有機溶剤としては、種類は特に制限されないが、銅粒子表面への濡れ性がよく、洗浄処理後に除去しやすいものがよく、単独もしくは混合して用いることができる。具体的にはアルコール類、ケトン類、炭化水素類、エーテル類、ニトリル類、イソブチロニトリル類、水ならびに1−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。酸としては、有機酸、無機酸を好適に用いることができる。有機酸としては、酢酸、グリシン、アラニン、クエン酸、リンゴ酸、マレイン酸、マロン酸等が挙げられる。無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸、臭化水素、リン酸などが挙げられる。酸の濃度としては、0.1〜50質量%が好ましく、反応熱を抑制するため、0.1〜10質量%がより好ましい。0.1質量%未満であると不純物の除去が不十分となるおそれがあり、50質量%を超えても効果に差はなく、不純物除去コストが高くなるおそれがある。
なお、酸による洗浄処理を実施した場合は、銅粒子表面への酸の残留を防止するため、酸洗浄後に水や有機溶剤でさらに洗浄することが好ましい。
[工程1]
工程1は、銅粒子表面に式(1)で表されるアミン化合物を被覆する工程である。

[式(1)中、mは0〜3の整数、nは0〜2の整数であり、n=0のとき、mは0〜3のいずれか、n=1またはn=2のとき、mは1〜3のいずれかである。]
具体的には、アミン化合物を含むアミン化合物溶液に、前処理を行った銅粒子または前処理を行っていない銅粒子を投入して混合物aとし、当該混合物aを撹拌することによって、銅粒子表面にアミン化合物の第1被覆層を形成させる。撹拌方法は特に限定されず、銅粒子とアミン化合物が十分接触するように撹拌すればよく、パドル撹拌機、ラインミキサー等、公知の撹拌機を用いて一般的な撹拌方法を用いればよい。
理想的には、銅粒子表面をアミン化合物が単分子膜状に均一に被覆した第1被覆層が形成されることが望ましく、できるだけ理想に近い良好な第1被覆層が形成されることが好ましい。従って、工程1における銅粒子とアミン化合物との混合割合としては、この良好な第1被覆層を形成するために適する割合が好ましい。
具体的には、銅粒子の粒子径にもよるが、銅粒子100質量部に対して0.1〜200質量部が好ましい。遊離のアミン化合物が表面被覆銅粒子中に残存するのを抑制する点で、1〜100質量部がより好ましい。銅粒子の粒子径が小さいほど単位質量当たりの表面積が大きくなるので、小さい粒子径のものほどアミン化合物の混合量を多くすることが好ましい。
アミン化合物溶液を調製する際の溶媒は、アミン化合物が溶解し、銅粒子と濡れ性がよく、アミン化合物および脂肪族モノカルボン酸と反応しないものであれば特に限定されない。好ましくは、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ニトリル類、スルホキシド類、ピロリドン類、水から選ばれる1種類以上を含む溶剤である。具体的には、アルコール類は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、tert−アミルアルコール、エチレングリコール、ブトキシエタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。ケトン類は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。エーテル類は、ジエチルエーテル、ジブチルエーテルなどが挙げられる。ニトリル類は、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルおよびイソブチロニトリルなどが挙げられる。スルホキシド類では、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。ピロリドン類としては、1−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられる。
第1被覆層を形成させるに当たっての処理温度は、アミン化合物の被覆が進み、かつ溶液が固化しない温度以上であればよく、また、銅の酸化促進が少ない温度がよい。具体的には、−10〜120℃の範囲で行うことが好ましい。より被覆速度を高め、より酸化促進を抑えることができる点で、30〜100℃の範囲で行うことがより好ましい。
また、処理時間は特に限定はないが、5分間〜10時間が好ましい。また、製造コストの点で、5分間〜3時間がより好ましい。5分間未満であると、アミン化合物による被覆が不十分となるおそれがあり、10時間を超えると、アミン化合物が大気中から混入してくる二酸化炭素と塩を形成し、表面被覆銅粒子中に不純物として残留するおそれがある。
また、アミン化合物と大気中の二酸化炭素との塩形成や、銅の酸化の抑制が可能である点で、工程1は不活性ガス雰囲気で行うことが好ましく、例えば、不活性ガスのバブリング等を行うことが好ましい。不活性ガスとしては、具体的には窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。また、当該バブリングは撹拌を兼用するものであってもよく、すなわち、不活性ガスのバブリングのみで銅粒子とアミン化合物が十分接触可能であれば、特に撹拌は実施しなくてもよい。
[工程2]
工程2は、第1被覆層の形成に使用されなかった遊離のアミン化合物を含むアミン化合物溶液を上記混合物aから除去し、第1被覆層形成銅粒子を含有する中間体1を得る工程である。すなわち、過剰のアミン化合物溶液を除去する工程である。このとき、過剰のアミン化合物を完全に除去する必要はなく、自然沈降もしくは遠心分離による分離によって、または濾過によって上記中間体1を得ることができる。つまり、中間体1中には少量の遊離アミン化合物および溶媒が含まれているが、そのまま次の工程3に移行してよい。操作が簡便である点で、第1被覆層が形成された銅粒子を自然沈降によって沈降させた後、上澄みのアミン化合物溶液をデカンテーション、またはアスピレーターによる吸引によって除去する方法が好ましい。
また、当該分離後の沈殿物または濾過物を、アミン化合物および炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸の両者を溶解可能な溶媒で洗浄して中間体1としてもよい。当該洗浄により遊離アミン化合物の混入量を低減できるので好ましい。ただし、水洗は第1被覆層を形成したアミン化合物が脱離するおそれがあるため好ましくない。
なお、中間体1を乾燥させて含有溶媒(アミン化合物溶液の溶媒)を低減させてもよいが、この段階で乾燥させると銅表面が酸化されるおそれがあるので、乾燥、特に加熱乾燥は実施しない方が好ましい。
中間体1中に遊離アミン化合物量が多く残留すると、アミン化合物が大気中の二酸化炭素や脂肪族モノカルボン酸と塩を形成することにより生じる不純物が、銅ペースト組成物の導電性に悪影響を与えるため好ましくない。
従って、中間体1中のアミン化合物量は、第1被覆層を形成するアミン化合物と遊離アミン化合物の合計量として、銅粒子量の10質量%以下にするのが好ましい。脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層形成に影響を与えない点で、1.0質量%以下にするのがより好ましい。なお、中間体1中のアミン化合物量は、上澄み液等のアミン化合物量を測定し、工程1で使用したアミン化合物量との差から求めることができる。
[工程3]
工程3は、第1被覆層上に炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層を形成する工程である。
具体的には、上記中間体1に炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸を含む脂肪族モノカルボン酸溶液を加えて混合物bとし、当該混合物bを撹拌することによって、第1被覆層上に脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層を形成させる。なお、炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸を含む脂肪族モノカルボン酸溶液に、上記中間体1を投入して混合物bとしてもよい。撹拌方法は特に限定されず、第1被覆層が形成された銅粒子と脂肪族モノカルボン酸が十分接触するように撹拌すればよく、パドル撹拌機、ラインミキサー等、公知の撹拌機を用いて一般的な撹拌方法を用いればよい。
理想的には、第1被覆層のアミン化合物と脂肪族モノカルボン酸との結合によって、第1被覆層を脂肪族モノカルボン酸が単分子膜状に均一に被覆した第2被覆層が形成されることが望ましく、できるだけ理想に近い良好な第2被覆層が形成されることが好ましい。従って、工程3における銅粒子と脂肪族モノカルボン酸との混合割合としては、この良好な第2被覆層を形成するために適する割合が好ましい。
具体的には、銅粒子の粒子径にもよるが、銅粒子100質量部に対して0.1〜50質量部が好ましい。遊離の脂肪族モノカルボン酸が表面被覆銅粒子中に残存するのを抑制する点で、0.5〜10質量部がより好ましい。銅粒子の粒子径が小さいほど単位質量当たりの表面積が大きくなるので、小さい粒子径のものほど脂肪族モノカルボン酸の混合量を多くすることが好ましい。
炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸溶液を調製する際の溶媒は、脂肪族モノカルボン酸が溶解し、銅粒子および第1被覆層が形成された銅粒子と濡れ性がよく、アミン化合物および脂肪族モノカルボン酸と反応しないものであれば特に限定されない。後述する工程5の乾燥工程において容易に乾燥除去できる溶媒であれば好ましい。
好ましい溶媒は、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ニトリル類、スルホキシド類、ピロリドン類から選ばれる1種類以上を含む溶剤である。具体的には、アルコール類は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、tert−アミルアルコール、エチレングリコール、ブトキシエタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。ケトン類は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。エーテル類は、ジエチルエーテル、ジブチルエーテルなどが挙げられる。ニトリル類は、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルおよびイソブチロニトリルが挙げられる。スルホキシド類では、ジメチルスルホキシドが挙げられる。ピロリドン類としては、1−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられる。
第2被覆層を形成させるに当たっての処理温度は、脂肪族モノカルボン酸の被覆が進み、かつ溶液が固化しない温度以上であればよく、具体的には、−10〜80℃の範囲で行うことが好ましい。より被覆速度を高め、第2被覆層を形成した脂肪族モノカルボン酸が脱離するのを抑制する点で、10〜60℃の範囲で行うことがより好ましい。
また、処理時間は特に限定はないが、5分間〜10時間が好ましい。また、製造コストの点で、5分間〜3時間がより好ましい。5分間未満であると、脂肪族モノカルボン酸による被覆が不十分となるおそれがあり、10時間を超えると、銅−アミン化合物−脂肪酸の錯体として脱離した成分が表面被覆銅粒子中に残留するおそれがあり、銅ペースト組成物の導電性に悪影響を与える可能性があるため好ましくない。
また、第1被覆層のアミン化合物や少量混入している遊離アミン化合物と、大気中の二酸化炭素との塩形成や、銅の酸化の抑制が可能である点で、工程3も不活性ガス雰囲気で行うことが好ましく、例えば、不活性ガスのバブリング等を行うことが好ましい。不活性ガスとしては、具体的には窒素、アルゴン、ヘリウムなどが挙げられる。また、当該バブリングは撹拌を兼用するものであってもよく、すなわち、不活性ガスのバブリングのみで、第1被覆層が形成された銅粒子と脂肪族モノカルボン酸が十分接触可能であれば、特に撹拌は実施しなくてもよい。
[工程4]
工程4は、第2被覆層の形成に使用されなかった遊離の脂肪族モノカルボン酸を含む脂肪族モノカルボン酸溶液を上記混合物bから除去し、第1および第2被覆層形成銅粒子を含有する中間体2を得る工程である。具体的には、濾過によって中間体2を得ることができる。濾過方法としては、公知の方法を適用でき、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過等を例示できる。また、遊離の脂肪族モノカルボン酸および遊離のアミン化合物を可能な限り除去する点で、濾過物を、炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸およびアミン化合物の両者を溶解可能な溶媒で洗浄して中間体2とすることが好ましい。洗浄によって、遊離の脂肪族モノカルボン酸量を低減することにより、銅ペースト組成物としたときの該組成物の基板への密着性が良好となる。
[工程5]
工程5は、上記中間体2を乾燥させて本発明の表面被覆銅粒子(A)を得る工程である。
当該乾燥方法には特に限定はないが、例えば、減圧乾燥や凍結乾燥を例示できる。製造コストの点で減圧乾燥が好ましく、乾燥温度としては、20〜120℃が好ましい。20℃未満では乾燥時間が長くなるおそれがあり、120℃より高い温度では、銅が酸化されるおそれがある。減圧度、乾燥温度、および乾燥時間は、各々の条件の組み合わせおよび使用した溶媒の種類等によって適宜決定すればよく、乾燥後の表面被覆銅粒子中の溶媒量が1質量%以下になる程度まで乾燥させ得る条件であれば好ましい。
以上の製造方法により、表面被覆銅粒子(A)を製造することができる。
<銅ペースト組成物の製造方法>
(A)〜(F)、および所望によりその他の添加剤を混練(混合)装置によって混合することにより、本発明の銅ペースト組成物を製造することができる。混練装置としては、三本ロール混練機を用いることができる。混練温度は10〜60℃の範囲で、混練回数は粒子をペースト中に均一に分散することができる条件であればよい。(A)〜(F)の添加(混合)順は任意の順番でよく、一括添加して混練、混合してもよい。
<銅硬化膜の形成方法>
銅ペースト組成物を基板上にスクリーン印刷法により塗布し、100℃〜200℃で、10〜120分間の加熱をすることにより銅硬化膜を形成することができる。加熱は、乾燥オーブン、ホットプレート、IR焼成装置、光焼成装置などを用いて行うことができる。銅硬化膜において、十分に(B)および(C)が熱により架橋が進行して熱硬化し、溶剤(E)が乾燥除去される条件で、加熱を行う。
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明の実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
各実施例および比較例で用いた銅粒子、ならびに銅粒子の処理方法、測定方法、加工方法および評価方法を下記に示す。
<銅粒子>
銅粒子;1400YP(平均粒子径D50;5.8μm、粒子の平均厚み;1.1μm、D50/平均厚み;5.3、三井金属鉱業株式会社製)。
<銅粒子の前処理>
銅粒子の前処理を下記方法により行った。
銅粒子220gを、トルエン352gとイソプロパノール88gの混合液に投入し、攪拌して分散させながら70℃で30分間還流させた。還流後、減圧濾過により、銅粒子含有混合液からトルエンおよびイソプロパノールを除去した。濾別した銅粒子を3.5%塩酸水溶液440gに投入し、30℃で30分間攪拌した。撹拌後、減圧濾過により、銅粒子含有塩酸水溶液から塩酸水溶液を除去した。つづいて、濾別した銅粒子をイソプロパノール440gに投入し、30℃で15分間攪拌した。撹拌後、減圧濾過により、銅粒子含有イソプロパノールからイソプロパノールを除去し、濾別した銅粒子を25℃で12時間減圧乾燥して、前処理実施銅粒子を得た。
なお、減圧濾過は、5C濾紙の桐山ロートをダイヤフラムポンプで減圧することで実施した。また、減圧乾燥は、濾別した銅粒子を真空オーブン内に入れ、該オーブンをオイルポンプで減圧することで実施した。
<表面被覆銅粒子(A)の製造>
[工程1]
上記前処理実施銅粒子200gを、水600g中に投入し、25℃で攪拌しながら窒素バブリングを30分間行った。該銅粒子含有水を60℃まで昇温した後、当該銅粒子含有水に50質量%のエチレンジアミン水溶液400gを30mL/分で滴下し、60℃を保持して40分間攪拌を行った。撹拌は、メカニカルスターラーを使用し、回転数150rpmで実施した。以下、撹拌は同様の撹拌装置を使用して同じ回転数で行った。
[工程2]
撹拌を止めて5分間静置した後、上澄み液約800gを抜き取って除去した。つづいて、沈殿物に洗浄用溶媒としてイソプロパノール800gを添加し、30℃で3分間攪拌を行った。撹拌を止めて5分間静置した後、上澄み液約800gを抜き取って除去し、中間体1を得た。
[工程3]
中間体1に2質量%のミリスチン酸のイソプロパノール溶液1000gを添加した後、30℃で30分間攪拌を行った。
[工程4]
攪拌停止後、減圧ろ過によりミリスチン酸のイソプロパノール溶液を除去し、中間体2を得た。減圧濾過は、5C濾紙の桐山ロートをダイヤフラムポンプで減圧することで実施した。
[工程5]
中間体2を25℃で3時間減圧乾燥することにより表面被覆銅粒子(A)を得た。減圧乾燥は、中間体2を真空オーブン内に入れ、該オーブンをオイルポンプで減圧することで実施した。
<赤外吸収(IR)スペクトル分析>
測定器機種;日本分光(株)製 FT/IR−6100
測定方法:ATR法、分解;2cm−1、積算回数;80回
得られた(A)の表面のIRスペクトルを、上記測定器を用いて上記方法により測定した。(A)のIRスペクトル図を図1に示す。
被覆に用いたエチレンジアミンを単独で同様に測定した場合は、N−H変角振動のピークが1598cm−1に出現する(図2)のに対して、表面被覆銅粒子(A)に観測されるN−H変角振動のピークは1576cm−1と低波数側にシフトしており、エチレンジアミンが銅粒子表面に配位して存在していることを示している。また、図1において、ミリスチン酸のC=O伸縮振動のピークが1700cm−1に観察されず、カルボン酸アニオン(−COO)のピークが1400cm−1付近に観測されており、ミリスチン酸がアミン化合物と静電的な相互作用により結合して存在していることを示している。
IRスペクトルから、第1被覆層のエチレンジアミンおよび第2被覆層のミリスチン酸の両者とも化学結合により結合して各被覆層を形成していると判断できる。
<レゾール型フェノール樹脂(B)>
(B)として、(B)含有溶液のPL−5208[(B)の58.5質量%ジエチレングリコールモノエチルエーテル溶液、群栄化学工業(株)製]を使用した。溶媒のジエチレングリコールモノエチルエーテルは溶剤(E)の一部とした。
<ビニルフェノール系ポリマー(C)>
(C)として、下記3種類の(C1)〜(C3)含有溶液を使用した。いずれも溶媒のジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートは溶剤(E)の一部とした。
(C1):ビニルフェノールのホモポリマー(重量平均分子量9,500)[マルカリンカーS−4P;(C1)の50.0質量%ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液、丸善石油化学株式会社製]
(C2):ビニルフェノールのホモポリマー(重量平均分子量2,000)[マルカリンカーS−1;(C2)の50.0質量%ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液、丸善石油化学株式会社製]
(C3):ビニルフェノール55mol%とメタクリル酸メチル45mol%のコポリマー(重量平均分子量10,000)[マルカリンカーCMM;(C3)の50.0質量%ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液、丸善石油化学株式会社製]
<キレート化剤(D)>
(D)として下記2種類を使用した。
(D1):1,4−フェニレンジアミン
(D2):N,N’−ビス(サリチリデン)−1,2−プロパンジアミン
<溶剤(E)>
(E)として下記2種類を使用した。
(E1):ジエチレングリコールモノエチルエーテル[(B)の溶媒]
(E2):ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート[(C)の溶媒として使用されているものを含む。]
<可とう性付与剤(F)>
(F)として下記4種類を使用した。
(F1):リン酸トリス(2−エチルヘキシル)
(F2):フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)
(F3):アデカサイザーRS−1000(ポリエーテルエステル、重量平均分子量550、株式会社ADEKA製)
(F4):アデカサイザーP−200(アジピン酸ポリエステル、重量平均分子量2000、株式会社ADEKA製)
(実施例1)
<銅ペースト組成物の製造>
(A) 100g、(B)のジエチレングリコールモノエチルエーテル溶液 25.6g[(B);15.0g、(E1);10.6g]、(C1)のジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液 2.0g[(C1);1.0g、(E2);1.0g]、(D1) 1.0g、および(F1) 2.0gを混合した。次に、プラネタリーミキサー[ARV−310、(株)シンキー製]を用いて、室温下、回転数1500rpmで30秒間撹拌し、1次混練を行った。
次に、3本ロールミル[EXAKT−M80S、(株)永瀬スクリーン印刷研究所製]を用いて、室温、ロール間距離5μmの条件下で5回通すことで、2次混練を行った。
ついで、2次混練で得られた混練物に、(E2) 3.9gを加え、プラネタリーミキサーを用いて、室温、真空条件下、回転数1000rpmで90秒間撹拌し脱泡混練することにより銅ペースト組成物を製造した。
また、銅ペースト組成物中の各成分の配合割合を表1に示す。
<銅硬化膜の形成>
得られた銅ペースト組成物を紙基板上に、メタルマスクを用いて、幅×長さ×厚み=1.0mm×30mm×30μmのパターンを塗布した。銅ペースト組成物を塗布した紙基板を対流オーブンにて150℃で30分間加熱することにより銅硬化膜を作製した。
<導電性評価>
得られた銅硬化膜の導電性を下記の表面抵抗値測定により評価した。
銅硬化膜のパターンの両端に抵抗測定プローブを押し当て、デジタルマルチメータを用いて銅配線の表面抵抗値を測定した。表面抵抗値が低いほど、電流が流れやすい、つまり導電性が高いことになる。
測定器機種および測定条件を以下に示す。
測定器機種;デジタルマルチメータ PC7000[三和電気計器(株)製]
測定条件 ;2端子法
<耐断線性評価>
銅硬化膜の高温高湿度環境下での耐断線性を、該環境曝露前後の導電性(上記表面抵抗値)の変化および外観評価により行った。
(導電性変化の評価)
紙基板上の銅硬化膜サンプルを、環境試験機ENVIROS KCL−1000[東京理化器械(株)製]中で、85℃、85%RHの環境下で168時間保管することにより、高温高湿度環境曝露後の試料とした。該曝露後の表面抵抗値を上記と同様にして測定し、曝露前後での測定値の変化率を下記式(I)で求めた。
表面抵抗値変化率(%)
=[(高温高湿度環境曝露後の表面抵抗値)/(高温高湿度環境曝露前の表面抵抗値)]
×100 (I)
表面抵抗値変化率の値が小さいほど、高温高湿環境下において導電性の変化が少なく、耐断線性が高いことになる。結果を表1に示す。表1中、表面抵抗値1は高温高湿度環境曝露前の表面抵抗値、表面抵抗値2は高温高湿度環境曝露後の表面抵抗値を示す。
(外観評価)
高温高湿度環境曝露後の銅硬化膜の断線を外観観察にて評価した。評価の基準を以下に示す。評価結果を表1に示す。また、銅硬化膜の高温高湿度環境曝露後の外観観察結果を図3に示す。
○:クラックの発生が確認されなかった。
×:クラックの発生が確認された。
(実施例2〜9)、(比較例1〜4)
各成分の配合割合を表1に示す通りとした以外は、実施例1と同様にして銅ペースト組成物の製造、および銅硬化膜の形成を行った。
比較例2では、(C)の代わりに、次のフッ素エラストマー(X)を使用した。
(X):フッ素エラストマー(フッ化ビニリデンと6フッ化プロピレンの共重合体)[ダイエル(DAI_EL:登録商標)G−801;(X)の50.0質量%ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液、ダイキン工業株式会社製]
さらに、各銅硬化膜について、実施例1と同様にして導電性および耐断線性を評価した。結果を表1に示す。また、比較例1の銅硬化膜の高温高湿度環境曝露後の外観観察結果を図4に示す。
実施例1〜9は、銅硬化膜の高温高湿度環境曝露前の表面抵抗値が1.0Ω以下であり、かつ高温高湿度環境曝露前後の表面抵抗値の増加率が200%以下に抑えることができている。
一方、レゾール型フェノール樹脂(B)のみをバインダーに用いた銅ペースト組成物の比較例1の場合、銅硬化膜の高温高湿度環境曝露前の表面抵抗値は1.0Ω以下であるものの、高温高湿度環境曝露前後の表面抵抗値の変化率が400%以上と大きく、かつ外観評価においてクラックの発生が見られた。この原因としては、バインダーに用いたレゾール型フェノール樹脂は、硬化時の収縮により粒子同士の接触を促進し、かつ還元性を有するため導電性を確保しやすいが、これらの硬化物は、バインダーが3次元架橋により強固なネットワークを形成し、可とう性に乏しいため、紙基板の吸湿による寸法変化に銅硬化膜の変形が追随することができずにクラックが発生してしまい、導電性を維持できなかったためと考えられる。
また比較例2は、ポリビニルフェノール系ポリマー(C)の代わりにフッ素エラストマー(X)を使用して製造した銅ペースト組成物であるが、高温高湿度環境曝露前後の表面抵抗値の増加率は200%程度で耐断線性の点では比較的良好であった。しかし、銅硬化膜の高温高湿度環境曝露前の表面抵抗値が高く、導電性が劣っていた。この原因としては、フッ素エラストマーはポリビニルフェノールとは異なり水酸基を有しておらず、レゾール型フェノール樹脂と架橋点を持たないために、バインダー中で各成分が分離を起こし、銅硬化膜中の銅粒子の分散を阻害して導電パスを形成できなかったためと考えられる。しかし、可とう性の点において、エラストマー成分が効果を示し、断線の発生が抑制されたものと考えられる。
比較例3、4は各成分の配合量の上限または下限の範囲外の組成であるが、これらは銅硬化膜中の各成分の分散性が悪く、そのため良好な導電性及び耐断線性が得られなかったものと考えられる。


Claims (5)

  1. 表面被覆銅粒子(A)、レゾール型フェノール樹脂(B)、ビニルフェノール系ポリマー(C)、キレート化剤(D)、溶剤(E)、および可とう性付与剤(F)を含有し、
    前記表面被覆銅粒子(A)は、銅粒子の表面の銅と化学結合および/または物理結合によって結合している式(1)で表されるアミン化合物の第1被覆層と、該第1被覆層上に、前記アミン化合物と化学結合によって結合している炭素数8〜20の脂肪族モノカルボン酸の第2被覆層とを有し、
    前記表面被覆銅粒子(A)100質量部に対して、前記レゾール型フェノール樹脂(B)10〜25質量部、前記ビニルフェノール系ポリマー(C)0.5〜3.0質量部、前記キレート化剤(D)0.5〜3.0質量部、前記溶剤(E)10〜40質量部、および前記可とう性付与剤(F)0.5〜3.0質量部を含有する、
    銅ペースト組成物。

    [式(1)中、mは0〜3の整数、nは0〜2の整数であり、n=0のとき、mは0〜3のいずれか、n=1またはn=2のとき、mは1〜3のいずれかである。]
  2. 前記ビニルフェノール系ポリマー(C)は、ビニルフェノールのホモポリマー、ならびにビニルフェノールと、スチレン、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、およびメタクリル酸2−ヒドロキシエチルから選択される1種以上のモノマーとのコポリマーからなる群から選択される少なくとも1種以上の重合体であり、
    前記重合体は式(2)で表される構造単位を有し、重量平均分子量が1,000〜20,000である、
    請求項1に記載の銅ペースト組成物。
  3. 前記キレート化剤(D)は、芳香族ジアミンおよびシッフ塩基から選択される少なくとも1種類以上の化合物である、
    請求項1または2に記載の銅ペースト組成物。
  4. 前記可とう性付与剤(F)は、リン酸エステル、フタル酸エステル、ポリエーテルエステル、およびアジピン酸エステルから選択される少なくとも1種類以上の化合物である、
    請求項1〜3いずれか一項に記載の銅ペースト組成物。
  5. 前記可とう性付与剤(F)は、式(3)で表される重量平均分子量450〜650のポリエーテルエステル、ならびに式(4)および/または(5)で表される重量平均分子量200〜3,000のアジピン酸エステルから選択される少なくとも1種類以上の化合物である、
    請求項4に記載の銅ペースト組成物。

    [式(3)中、R及びRは、それぞれ独立に、−(CH)−CH、又は−(CH−Cを表す。aは0〜7の整数であり、bは0〜4の整数である。Rは、−(CH)−を表す。cは2〜4の整数である。xは1〜6の整数である。]

    [式(4)中、R及びRは、それぞれ独立に、−(CH)−(CR)−(CH−CHを表す。ここで、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子または−(CH)−CHを表す。またdは0〜4の整数、eは0〜2の整数、fは0〜4の整数、gは0〜3の整数である。]

    [式(5)中、R及びRは、それぞれ独立に、−(CH)−(CR1112)−(CH−CHを表す。ここで、R11及びR12はそれぞれ独立に、水素原子または−(CH)−CHを表す。またhは0〜4の整数、iは0〜2の整数、jは0〜4の整数、kは0〜3の整数である。R10は、−(CH)−を表す。lは2〜4の整数である。yは1〜4の整数、zは1〜4の整数である。]

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