本発明の詳細な説明
本発明は、in vivoで高い親和性でAβ1−42の可溶性オリゴマー種に選択的および特異的に結合し、そのニューロンおよびアミロイド斑への結合をin vivoで遮断する抗体を使用して、アミロイドβ1−42(Aβ1−42)の可溶性オリゴマー種の神経毒性作用により引き起こされる、それからもたらされる、またはそれに関連する疾患の治療に関する。本発明の方法は、急性の行動的利益(投与から1、2または3ヶ月以内)および慢性的な疾患の調整を提供するために使用され得る。さらに、本明細書における方法に従い、抗体は、単独の治療法として使用することができ、または、他のAβ−および/もしくはタウ標的化治療と組み合わせて使用され得る。
本発明の抗体は、アルツハイマー病(AD)と対照ヒト脳抽出物との間を区別することができる、AD脳スライスにおける内因性オリゴマーを特定することができる、ならびに溶液中の内因性および合成ADDLを中和することができる、追加的利点を有する。本発明の抗体は、ADDLの1つ以上の多次元構造に特異的に結合し、Aβ1−42のオリゴマー化から得られた特定のADDLに結合すると共に、アミロイドベータ1−42モノマー、アミロイドベータ1−40モノマー、斑およびアミロイドベータ線維を含むAβ種に対する有意に低い親和性を有する、または親和性を実質的に有さない。
本発明は、特に、優先的にADDLに結合し、ADDLに対するその特異性および選択性に関して特性決定されている、抗体17.1、14.2、13.1、19.3、7.2、9.2、11.4、およびそれらの誘導体の使用に関する。重要なことには、本発明の抗体の特異性および選択性は、それらが結合するAβの直線状エピトープからは予測不可能であり、またこの活性は、ウェスタンブロット分析によりADDLを検出するそれらの能力から、またはニューロンに結合する免疫染色ADDLを検出するそれらの能力からは予測不可能であった。さらに、ADDLを中和し、初代海馬ニューロンへの結合を遮断する本発明の抗ADDL抗体の差別的能力は、本発明の抗体が、より関連した立体構造エピトープへの結合を介して作用し、これによってAβ1−42の可溶性オリゴマー種がニューロンおよびアミロイド斑に結合するのが防止されるという考えを支持している。本発明の一実施形態において、抗体19.3は、初代ニューロンへのADDLの結合を遮断しただけではなく、海馬脊椎形態へのADDL誘導性変化を弱め、ADDL−神経結合の障害が有意な生理学的結果、例えば、ニューロンの生存、ニューロンの接続性およびシグナル伝達を有することを示した。抗体19.3はまた、in vitroおよびin vivoモデルの両方において評価した場合、以前に知られていた抗ADDL抗体、3B3と比較して、改善された薬物動態(PK)プロファイルを有していた。さらに、ヒト形態のアミロイド前駆体タンパク質(hAPP)を過剰発現する形質転換マウスに投与された場合、抗体19.3は、血液脳関門を貫通し、脳内に濃縮し、アミロイド斑へのADDLの組み込みを遮断することが示された。ADDLは、脳内に局在化し、そこで神経機能に悪影響を及ぼすように作用するため、当業者には、脳内の抗体の貫通および濃縮が、免疫治療に有益であることが理解および認識される。総合すると、これらのデータは、抗体19.3等の選択的抗ADDL抗体が、学習および記憶に極めて関与するADDLの海馬ニューロンへの結合を遮断することができることを示している。
本明細書における治療の方法は、アミロイド斑自体ではなくADDLが、この疾患に関連する認知低下において根本的な役割を果たすことを示す証拠に基づいている(Walsh & Selkoe (2004) Protein Pept. Lett. 11:213-228)。ADDLは、AD脳において高く、げっ歯類に中枢投与されると、行動学的および電気生理学的評価項目における障害を誘導する(Walsh, et al. (2002) Nature 416:535-539;Cleary, et al. (2004) Nat. Neurosci. 8:79-84;Klyubin, et al. (2005) Nat. Med. 11:556-561;Balducci, et al. (2010) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 107:2295-2300)。学習および記憶における障害はまた、増加したADDLレベルに関連する機能不全の発症と共に、hAPP発現マウスモデルにおいても観察されている(Westerman, et al. (2002) J. Neurosci. 22:1858-1867;Ashe (2005) Biochem. Soc. Trans. 33:591-594;Lee, et al. (2005) J. Biol. Chem. 281:4292-4299;Lesne, et al. (2006) Nature 440:352-357)。認知に対するこれらの影響を媒介する細胞および下位細胞イベントは、完全には理解されていないが、ADDLが海馬ニューロンの樹状突起上に局在化するシナプス末端に結合すること(Lacore, et al. (2004) J. Neurosci. 24:10191-1022)、また樹状突起棘の形態および数を改変することは明らかである(Lacor, et al. (2007) J. Neurosci. 27:796-807;Shankar, et al. (2007) J. Neurosci. 27:2866-2875;Shughrue, et al. (2010) Neurobiol. Aging 31:189-202)。海馬において、ADDLが学習および記憶に極めて関与するニューロンであるGABA性およびグルタミン酸ニューロンの両方に結合し(Shughrue, et al. (2010)上記参照)、これがAMPA受容体の内在化をもたらす(Zhao, et al. (2010) J. Biol. Chem. 285:7619-7632)という知見は、ADDLがこれらの神経伝達物質系を直接的または間接的に調整するという示唆をさらに支持している(例えば、Venkitaramani, et al. (2007) J. Neurosci. 27:11832-11837を参照されたい)。
本明細書に記載のように、抗ADDL抗体3B3(米国特許第7,780,963号および米国特許第7,811,563号)から得られた抗ADDL抗体のパネルが、初代海馬ニューロンへのADDL結合を遮断するその能力に関して評価された。次いで、選択されたモノクローナル抗体がヒト化され、さらなる特性決定のために親和性成熟化された。ADDLに結合する能力に関して選択されたリード抗体が、モノマーAβ、ADDLおよび線維Aβへの抗体結合を決定するために、三方向ELISAを使用して単一濃度でさらに評価された。図1に示されるように、7つの親和性成熟抗ADDL抗体のうちの6つ、具体的には抗体14.2、7.2、11.4、13.1、17.1、および19.3が、モノマーAβおよび線維Aβと比較してADDL優先的であった。
その後、11点滴定曲線およびELISAを使用して、広範な濃度にわたり抗ADDL抗体のADDLおよびモノマーAβ(Aβ1−40)への結合親和性を確認した。図2に示されるように、抗ADDL抗体3B3および19.3は、極めてADDL選択的であった。さらに、細胞ベース結合アッセイにおいて抗体を比較し、ニューロンへのADDL結合を遮断する抗体の能力を決定した。図3に示されるように、増加する濃度の抗ADDL抗体3B3および19.3でプレインキュベートされたADDLを初代海馬ニューロンに添加し、滴定曲線を使用してニューロンへのADDL結合を遮断する抗体の能力を定量的に示した。総合すると、これらの結果は、抗ADDL抗体が細胞ベース形式で神経結合を大きく減衰させることを示している。
アミノ酸配列の評価を行って、脱アミドの潜在的部位を特定した。治療抗体のCDR内に存在するアスパラギンおよびアスパラギン酸残基は、脱アミドおよびイソアスパラギン酸塩形成を生じ得(Valsak & Ionescu (2008) Curr. Pharm. Biotech. 9:468-481;Aswad, et al. (2000) J. Pharm. Biomed. Anal. 21:1129-1136)、その形成は、抗体の結合能を改変し、それが治療剤としての使用のための抗体の有効性を低減し得る。したがって、当業者には、19.3抗体のCDR内のアスパラギンまたはアスパラギン酸の存在が望ましくないことが認識される。したがって、軽鎖CDR1の33位におけるアスパラギン残基は、抗ADDL抗体19.3の安定性を最適化するために改変された。19.3抗体の誘導体は、CDR1における33位のアスパラギンのセリン(配列番号42)、トレオニン(配列番号43)、またはグルタミン酸(配列番号45)による置換により生成された。33位としてのアスパラギンのアスパラギン酸(配列番号46)による置換もまた、対照として生成された。これらの変更は、CDR1内の33位におけるアスパラギンの脱アミドの可能性を取り除く。19.3誘導体は、例に記載のように生成および特性決定された。それぞれ図4Bおよび4Cに示されるように、2つの代表的誘導体、19.3S33(配列番号42)および19.3T33(配列番号43)は、様々な温度での1ヶ月のインキュベーション後に結合安定性を向上させた。軽鎖CDR1内の33位および35位におけるアスパラギンの他のアミノ酸置換(配列番号47〜50)、ならびに軽鎖CDR2内の58位におけるアスパラギンの他のアミノ酸置換(配列番号52〜55)は、さらなる評価のためにそれぞれ表7および8に列挙される。
本発明の親和性成熟抗ADDL抗体の薬物動態を決定するために、一連のin vitroおよびin vivo試験を行った。pH6.0において(Zalevsky, et al. (2010) Nat. Biotech. 28 (2): 157-159)、およびpH7.3において(米国仮特許第61/307,182号)、FcRn受容体に対する抗体の結合が、ヒトにおける抗体半減期を予測することが示されている。本発明の抗ADDL抗体の固定化ヒトFcRnへの結合および解離が、BIACORE(商標) Life Sciences、BIACORE (商標)T−100(GE Healthcare、Piscataway、NJ)により提供されているもの等の無標識相互作用分析により評価された。pH6.0における最初の結合、次いで180秒からのpH7.3における抗体の解離を示すために、調節されたセンサグラムが使用されている。pH6.0での結合の終了から5秒後に報告点(安定性)が挿入され、「結合%」は、U安定性/RU結合(%)として計算された。図5に示されるように、ヒト化3B3に対するオフ速度は、抗体19.3および3つのコンパレータ抗体を含む本発明の7つの抗ADDL抗体よりも顕著に遅かった。遅いオフ速度は、低いin vivo PKを示すものであると考えられることから、形質転換FcRnマウス(ヘテロ接合276ヒトFcRnマウス、Jackson Laboratories, Bar Harbor, ME)において、追加のin vivo試験を行った。形質転換FcRnマウスに10mg/kgの抗ADDL抗体3B3または19.3を静脈内(IV)投与した場合、薬物動態における有意な差が特定された。図10に示されるように、抗ADDL抗体3B3の半減期(t1/2)は比較的短く(29±9時間)、これはin vitro BIACORE(商標)データからの予測と一致し、一方、抗ADDL抗体19.3の半減期は、有意により長かった(77±6時間)。より望ましいPKを考慮して、19.3は、そのバイオアベイラビリティにより治療剤として役立つ。
霊長類における予測される抗ADDL抗体19.3の半減期を確認するために、大槽ポートアカゲザルのコホートにおける抗体に対して、霊長類薬物動態試験を行った。動物に、抗ADDL抗体19.3(5mg/kg)の単回静脈内(IV)ボーラスまたは皮下(SC)注射を施し、抗体投与後に血液試料を採取した。同時に、時間間隔を置いて大槽ポートからCSF試料を採取し、抗ヒトIgG ELISAアッセイにより、血清およびCSF中の抗ADDL抗体19.3の濃度を決定した。単回IVボーラス注射により抗ADDL抗体19.3を動物に投与すると、254±28時間のt1/2が観察され(図11)、一方、皮下投与の場合、204±49時間のt1/2が観察された。さらに、抗ADDL抗体19.3は、霊長類CSF内に横断することができ、最初の48時間の間に濃度が増加し、投与された抗体の約0.1%でピークを迎えることが判明した(図12)。
AD患者の脳内に存在するAβオリゴマー種の量を確認するために、年齢適合(図8A)および若年(図8B)対照と比較して、AD脳においてAβオリゴマー種を測定した。観察されたAβオリゴマーの絶対レベルは、ADにおいて約2pg/mL、対照CSF試料において0.2pg/mLであった。Aβオリゴマー種のレベルを、血液脳関門を横断する抗体の量と比較するために、抗ADDL抗体19.3および2つのコンパレータ抗体(Comp1およびComp2)を125I標識化し、ADのげっ歯類モデルであるhAPPを過剰発現する老齢(12ヶ月齢)マウスに投与した。IV投薬から2時間後、約0.02%の抗体19.3がCSF内に見られ(図13A)、一方約0.19%の抗体19.3が脳内に見られた(図13B)。2つのコンパレータ抗体に対して、同様のレベルが見られた(図13Aおよび13B)。投薬したマウスの脳切片に対して免疫細胞化学分析を行い、抗ADDL抗体19.3の局在化を測定すると(図13C中の矢印)、Aβの斑内への堆積に関連した抗体の濃縮が観察された(図13D)。最近、外因性ADDLは、hAPPを過剰発現するマウスに投与された場合、斑内に堆積することが示された(Gaspar, et al. (2010) Exp. Neurol. 223:394-400)。したがって、本明細書における知見は、局在化した抗ADDL抗体19.3が斑に関連した循環ADDLに結合することを確証している。全体的に、この分析は、脳内に存在するAβの可溶性オリゴマー種に結合するのに十分なレベルで、抗ADDL抗体19.3がCSFおよび脳内に貫通することを示した。さらに、動物モデル試験では、脳内の抗体19.3:ADDL複合体を有意に上昇させるための最小有効用量が、10mg/kgであることが示された(図15)。
本発明の抗体のin vivo有効性をさらに評価するために、成長する斑へのADDLの堆積をブロックする抗体19.3の能力を、既存の斑を標識化するために12ヶ月齢マウスの海馬にビオチニル化ADDL(bADDL)を週1回で4回注入した後のhAPP形質転換マウスにおいて評価した(図14A)。次いで動物は、抗体19.3の週1回で4回の静脈内注入を受けた(図14A)。成長する斑への新たな物質(ADDL)の堆積を、免疫細胞化学分析により評価した。図14Bおよび14Cに見られるように、抗ADDL抗体19.3は、ビヒクルのみで治療されたマウス(図14B)と比較して、既存の斑の周縁部へのADDLの堆積を有意に低減した(図14C)が、血管斑に結合した。総合すると、これらの結果は、抗ADDL抗体、具体的には19.3抗体が、血液脳関門を横断し、ADDLに結合し、成長する斑への新たな物質の堆積を遮断することができることを示している。
ADDL結合はまた、ニューロンに対する長期的な効果を有し得る。最近の研究では、海馬ニューロンへのADDL結合が、タウのリン酸化をもたらすシグナル伝達カスケードを開始し得ることが示されている(De Felice, et al. (2006) Neurobiol. Aging 29:394-400)。このシグナル伝達カスケードの1つの成分であるGSK−3βはまた、in vivoおよびin vitroでADDL結合により調整されることが示されている(Ma, et al. (2006) J. Neurosci. Res. 83:374-384)。この研究において、ADDLを低減する抗体によるhAPPマウスの受動免疫化が、GSK−3βレベルおよび皮質内のタウのリン酸化も低減することが観察された。この知見は、Aβとリン酸化タウとの間の関連を裏付けており、ADDL結合がタウの細胞内凝集をもたらすイベントを誘引し得ることを示唆している。さらに、データは、ニューロンへのADDLの結合および関連したシナプス突起の損失を防止する抗体、例えば本発明の抗体が、アルツハイマー病および関連疾患に関連した認知および/または病理学的転帰を改善することを示している。これに関して、抗ADDL抗体は、マウス海馬スライスにおいて急性ADDL機能不全を逆転し得ること(図16)、およびADのTg2576マウスモデルにおいて自発運動の増加を復帰させることにより、運動の活動を改変し得ること(図17)が示された。
したがって、本発明は、ADDLの蓄積に関連する、それから引き起こされる、またはそれからもたらされる疾患(例えば、アルツハイマー病または同様の記憶関連疾患)を予防または治療するための、抗ADDL抗体または抗体断片の使用を含む。当該技術分野における証拠は、必ずしも凝集した斑ではなく、増加したAβのレベルが、アルツハイマー病関連認知症およびその後のタウ異常を引き起こすことを示している。Aβ誘導拡散性リガンドは、アルツハイマー病に関連した神経毒性に直接関与する。当該技術分野において、ADDLは、形質転換マウスおよびアルツハイマー病患者において増加し、動物モデルにおける記憶補助プロセスに関連した機能活性を調整することが示されている。したがって、この形態のAβを除去することにより、アルツハイマー病に関連した神経毒性の軽減が提供される。したがって、中枢神経系ADDL負荷を低減する本発明の抗体による治療は、アルツハイマー病の治療に有効であることが証明され得る。
治療に適した患者は、疾患のリスクを有するが症状を示していない個人、および現在症状を示している患者を含む。アルツハイマー病の場合、十分長生きする者であれば実質的に誰でもアルツハイマー病に罹患するリスクを有する。したがって、本発明の抗体または抗体断片は、対象患者のリスクのいかなる評価も必要なく、一般集団に予防的に投与され得る。本発明の方法は、特に、アルツハイマー病の既知の遺伝的リスクを有する個人に特に有用である。そのような個人は、疾患が診断されている血縁者を有する者、および遺伝子マーカーまたは生化学的マーカーの分析によりリスクが決定された者を含む。アルツハイマー病のリスクの遺伝子マーカーは、APP遺伝子の突然変異、特に、それぞれHardy変異およびSwedish変異と呼ばれる、717位ならびに670および671位における突然変異を含む。リスクの他のマーカーは、プレセニリン遺伝子、PS1およびPS2、ならびにApoE4、アルツハイマー病、高コレステロール血またはアテローム性動脈硬化の家族歴である。現在アルツハイマー病に罹患している個人は、特徴的な認知症、および上述のリスク因子の存在から認識され得る。さらに、アルツハイマー病を有する個人を特定するための多くの診断試験が利用可能である。これらには、CSFタウおよびAβ1−42レベルの測定が含まれる。アルツハイマー病に罹患している個人はまた、ADRDA基準または本明細書に開示される方法により診断され得る。
無症状患者においては、治療は任意の年齢(例えば、10、20、30歳)から開始することができる。しかしながら、通常、患者が40、50、60または70歳に達するまで治療を開始する必要はない。治療は、典型的には、ある期間にわたる複数の投薬を伴う。治療は、経時的にADDLの存在について分析することにより監視され得る。
治療用途においては、本発明の抗体または抗体断片を含有する薬学的組成物または医薬品は、ADDLの蓄積に関連するそのような疾患が疑われる、またはすでにそれに罹患している患者に、疾患の発症におけるその合併症および中間的な病理学的表現型を含む疾患の症状(生化学的、組織学的および/または行動的)を治癒する、または少なくとも部分的に停止させるのに十分な量で投与される。予防用途においては、本発明の抗体または抗体断片を含有する薬学的組成物または医薬品は、ADDLの蓄積に関連する疾患が疑われる、または別様にそのリスクを有する患者に、患者における受動免疫を達成し、それにより、疾患、その合併症および疾患の発症の間に存在する中間的な病理学的表現型の生化学的、組織学的および/または行動的症状を含む、疾患のリスクを排除もしくは低減する、その重症度を低下させる、またはその発症を遅延させるのに十分な量で投与される。いくつかの方法において、薬剤の投与は、特徴的なアルツハイマー病状をまだ発症していない患者における筋認識機能障害を低減または排除する。具体的実施形態において、本発明の抗体または抗体断片の効果的な量は、長期増強/記憶形成の機能不全が減少するように、治療が行われない場合のADDLの結合と比較して、患者におけるADDLのニューロンへの結合の少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または97%の減少を達成する量である。
上述の状態の治療のための本発明の組成物の効果的な用量は、投与手段、患者の生理学的状態、患者がヒトか動物か、投与される他の薬物、および治療が予防的か治療的かを含む多くの異なる因子に依存して変動する。通常、患者はヒトであるが、イヌまたは形質転換哺乳動物等の非ヒト哺乳動物もまた治療され得る。
治療用量は、一般に安全性および有効性を最適化するように滴定される。抗体または抗体断片による受動免疫化の場合、用量は、約0.0001から100mg/kg宿主体重の範囲であり、より一般的には0.01から20mg/kg宿主体重が好適である。例えば、用量は、0.5mg/kg体重もしくは10mg/kg体重であってもよく、または0.5〜10mg/kgの範囲内が特に企図される。一実施形態において、用量は、10mg/kg、または約10mg/kg(すなわち、±5mg/kg)である。別の実施形態において、用量は、1mg/kg、または約1mg/kg(すなわち、±0.5mg/kg)である。いくつかの方法において、異なる結合特異性を有する本発明の2つ以上の抗体が同時に投与され、その場合、投与される各抗体の用量は、示される範囲内に含まれる。抗体は、通常、複数回にわたり投与され、1回の投薬の間の間隔は、1週間、1ヶ月または1年であってもよい。例示的な治療計画は、2週間に1回または毎月1回の皮下投薬を伴う。間隔は、患者におけるADDLに対する抗体の血中レベルを測定することにより示されるように、不規則であってもよい。いくつかの方法において、用量は、1〜1000μg/mL、いくつかの方法においては25〜300μg/mLの血漿抗体濃度を達成するように調節される。代替として、抗体または抗体断片は、徐放製剤として投与されてもよく、その場合、より少ない頻度の投与が必要とされる。
用量および頻度は、患者における抗体の半減期に依存して変動する。一般に、ヒトおよびヒト化抗体は、キメラ抗体および非ヒト抗体よりも長い半減期を有する。上述のように、用量および投与頻度は、治療が予防的か治療的かに依存して変動し得る。予防用途においては、長期間にわたる比較的低頻度の間隔で、比較的低い用量が投与される。一部の患者は、生涯治療を受け続ける。治療用途においては、疾患の進行が低減または停止されるまで、好ましくは患者が疾患の症状の部分的または完全な改善を示すまで、比較的短い間隔で比較的高い用量が必要となることがある。その後、患者に予防計画が施されてもよい。
本発明の抗体および抗体断片は、薬学的組成物または医薬品の成分として投与されてもよい。薬学的組成物または医薬品は、一般に、活性治療薬剤および様々な他の薬学的に許容される成分を含有する。Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Alfonso R. Gennaro, editor, 20th ed. Lippincott Williams & Wilkins: Philadelphia, PA, 2000を参照されたい。好ましい形態は、意図される投与形態および治療用途に依存する。薬学的組成物は、所望の製剤に依存して、動物またはヒトへの投与用に薬学的組成物を製剤化するために一般に使用されるビヒクルとして定義される、薬学的に許容される非毒性担体または希釈剤を含有してもよい。希釈剤は、組み合わせの生物活性に影響を与えないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、およびハンクス液である。
薬学的組成物はまた、大型の徐々に代謝される巨大分子、例えばタンパク質、多糖類、例えばキトサン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸およびコポリマー(例えばラテックス官能化SEPHAROSE(商標)、アガロース、セルロース等)、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマー、ならびに脂質凝集体(例えば油滴またはリポソーム)を含有してもよい。
本発明の薬学的組成物または医薬品の投与は、これらに限定されないが、経口、局所、肺内、直腸内、皮下、皮内、鼻腔内、頭蓋内、筋肉内、眼内、またはくも膜下もしくは関節内等を含む、様々な経路で行うことができる。最も典型的な投与経路は、静脈内投与に続く皮下投与であるが、他の経路も同等に効果的となり得る。
腕または脚の筋肉に筋肉内注射が行われてもよいが、いくつかの方法において、薬剤は、例えば頭蓋内またはくも膜下への注射等、堆積物が蓄積した特定の組織内に直接注射される。いくつかの実施形態において、抗体または抗体断片は、頭蓋内またはCDF中に直接注射される。他の実施形態において、抗体または抗体断片は、徐放性組成物、またはMEDIPAD(商標)デバイス等のデバイスとして投与される。
非経口投与の場合、本発明の抗体または抗体断片は、水、油、生理食塩水、グリセロールまたはエタノール等の無菌液体であってもよい薬学的担体と共に、生理学的に許容される希釈剤中の物質の溶液または懸濁液の注射可能な用量として投与され得る。さらに、例えば湿潤剤または乳化剤、界面活性剤、pH緩衝物質等の補助物質が、組成物中に存在してもよい。薬学的組成物の他の成分は、石油、動物、植物、または合成起源のもの、例えば落花生油、大豆油、および鉱物油である。一般に、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコール等のグリコールが、特に注射溶液に好適な液体担体である。抗体は、活性成分の徐放を可能とするような様式で製剤化され得る蓄積注射またはインプラント調製物の形態で投与されてもよい。
例示的な組成物は、等張緩衝生理食塩水(10mMヒスチジン、150mM塩化ナトリウム、0.01%(w/v)POLYSORBATE 80、pH6.0)中少なくとも10mg/mlの濃度の無菌透明液体として製剤化された、単離された本発明の抗体、またはその抗体断片を含有する。例示的な抗体製剤は、単回投与として、バイアル当たり0.3mlの溶液が充填された0.6mlのガラスバイアルに充填される。各バイアルは、TEFLON(登録商標)コーティングされた栓で塞がれ、アルミニウムキャップで封止される。
典型的には、組成物は、溶液または懸濁液の形態の注射剤として調製されるが、注射前に液体ビヒクル中に溶解または懸濁させるのに好適な固体形態が調製されてもよい。また、調製物は、送達の向上ために、乳化されても、またはポリラクチド、ポリグリコリド、もしくはコポリマー等のリポソームもしくはマイクロ粒子内にカプセル化されてもよい。
坐剤の場合、結合剤および担体は、例えば、ポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドを含み、そのような坐剤は、0.5%から10%、より望ましくは1%〜2%の範囲内で活性成分を含有する混合物から形成され得る。
経口製剤は、薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、および炭酸マグネシウム等の賦形剤を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸薬、カプセル剤、徐放製剤または粉末の形態をとり、10%〜95%、またはより好適には25%〜70%の活性成分を含有する。
局所適用は、経皮または皮内送達をもたらすことができる。局所投与は、コレラ毒素またはその解毒された誘導体もしくはサブユニット、あるいは他の同様の細菌毒素との薬剤の同時投与により促進され得る(Glenn, et al. (1998) Nature 391:851を参照されたい)。同時投与は、混合物として、または、化学的架橋もしくは融合タンパク質としての発現により得られる結合分子として成分を使用することにより達成され得る。
代替として、経皮送達は、皮膚パッチを使用して、またはトランスフェロソームを使用して達成され得る(Paul, et al. (1995) Eur. J. Immunol. 25:3521-3524; Cevc, et al. (1998) Biochem. Biophys. Acta 1368:201-215)。
AD等の疾患の予防的または治療的治療を提供するために、Aβ誘導拡散性リガンド、すなわちADDLの多次元構造を差別的に認識するモノクローナル抗体が生成された。これらの抗体はヒト化され、いくつかの実施形態において親和性成熟化された。抗体は、アルツハイマー病と対照ヒト脳抽出物との間を有利に区別し、アルツハイマー病脳スライスおよび培養海馬細胞において内因性Aβ1−42オリゴマーを特定する。さらに、本発明の抗体は、溶液中の内因性および合成ADDLを中和する。いわゆる「合成」ADDLは、精製されたAβ1−42を、ADDLを生成する条件下で混合することにより、in vitroで生成される。米国特許第6,218,506号を参照されたい。本明細書において開示される抗体は、ADDLに対する高度の選択性を示し、モノマーAβ種の検出は最小限である。さらに、これらの抗体は、海馬ニューロンおよび固定化神経芽腫細胞株の初代培養物に結合するADDL含有調製物の能力を差別的に遮断すると共に、アミロイド斑へのADDL組み込みを遮断する。これらの知見は、これらの抗体が、同様の直線配列認識および親和性にもかかわらず、ADDLの多次元構造を認識する差別的能力を有することを示している。ADDLは、ニューロンのサブセットに関連し、正常な神経機能を妨害することが知られているため、本発明の抗体は、ニューロンへのADDL結合および斑へのADDLの集合の防止における使用が見出され、一方で、アルツハイマー病を含むADDL関連疾患の治療に使用され得る。
したがって、本発明の一実施形態は、ADDLの1つ以上の多次元構造を差別的に認識する単離された抗体である。本発明の「単離された」抗体は、他の抗体を実質的に含まない抗体を指す。しかしながら、分子は、抗体の基本的特徴(例えば、結合特異性、中和活性等)に悪影響を及ぼさないいくつかの追加的薬剤または部分を含んでもよい。
ADDLの1つ以上の多次元構造に特異的および選択的に結合することができる抗体は、Aβ1−42のオリゴマー化から得られる特定のADDLに結合するが、本明細書において開示されるようなウェスタンブロット分析により決定されるように、他のAβペプチド、すなわちモノマーAβ1−12、Aβ1−28、Aβ1−40、およびAβ12−28と交差反応せず、溶液中でADDLに優先的に結合する。2つの実体の間の特異的結合は、少なくとも106、107、108、109、または1010M−1の親和性を指す。特異的結合を達成するには、108M−1を超える親和性が望ましい。
具体的実施形態において、1つ以上のADDLの多次元構造に特異的に結合することができる抗体はまた、ADDLの多次元構造に対して産生され、すなわち、動物は、それにより免疫化される。他の実施形態において、1つ以上のADDLの多次元構造に特異的に結合することができる抗体は、Aβ1−42[Nle35−Dpro37]等の低n量体形成ペプチドに対して産生される。
「エピトープ」という用語は、Bおよび/もしくはT細胞が反応する抗原上の部位、または、それに対して抗体が生成および/もしくは抗体が結合する分子上の部位を指す。例えば、エピトープは、エピトープを定義する抗体により認識され得る。
直線状エピトープは、アミノ酸一次配列が認識されるエピトープを含むエピトープである。直線状エピトープは、典型的には、唯一の配列内に少なくとも3、より一般的には少なくとも5、例えば約6から約10のアミノ酸を含む。
立体構造エピトープは、直線状エピトープとは対照的に、エピトープを含むアミノ酸の一次配列が認識されるエピトープの唯一の定義成分ではないエピトープ(例えば、アミノ酸の一次配列が、エピトープを定義する抗体により認識されるとは限らないエピトープ)である。典型的には、立体構造エピトープは、直線状エピトープに比べて増加した数のアミノ酸を包含する。立体構造エピトープの認識に関して、抗体は、ペプチドまたはタンパク質の3次元構造を認識する。例えば、タンパク質分子が折り畳まれて3次元構造を形成する場合、立体構造エピトープを形成するある特定のアミノ酸および/またはポリペプチド骨格が並べて配置され、それにより抗体はエピトープを認識することができる。
エピトープの立体構造を決定する方法は、これらに限定されないが、例えば、X線結晶学、2次元核磁気共鳴分光法、および部位特異的スピン標識化、および電子常磁性共鳴分光法を含む。例えば、Methods in Molecular Biology (1996) Vol. 66, Morris (Ed.)におけるエピトープマッピングプロトコルを参照されたい。
「Aβ1−40 モノマー」または「Aβ1−42 モノマー」という用語は、本明細書において使用される場合、酵素切断、すなわち、無細胞または細胞環境におけるアミロイドタンパク質前駆体(APP)上のβ−セクレターゼおよびγ−セクレターゼによるアスパラギン酸プロテアーゼ活性の直接的産物を指す。β−セクレターゼによるAPPの切断は、Asp1(切断後のAβペプチド配列に関する付番)で始まるAβ種を生成し、一方、γ−セクレターゼは、AβのC末端、主に残基40または42のいずれかを解放する。
アミロイドβ誘導拡散性リガンドまたはADDLは、望ましくはAβ1−42ペプチドの凝集体(例えば、8つから9つのAβ1−42ペプチド)で構成され、アルツハイマー病と関連することが見出されている神経毒性可溶性球状非線維オリゴマー構造を指す。米国特許第6,218,506号および国際公開第WO01/10900号を参照されたい。これは、ミセルのストリングを形成して線維形成をもたらす高分子量凝集中間体とは対照的である。「Aβ線維」または「線維」または「線維アミロイド」という用語は、本明細書において使用される場合、チオフラビンS等の染料によるその複屈折性のためにヒトおよび形質転換マウス脳組織内で検出されるAβの不溶性種を指す。Aβモノマーで構成される繊維状構造を形成するAβ種は、βシートを含む。これらの種は、AD脳において見られる細胞外アミロイド斑構造の直接中間体であると考えられる。
本明細書において例示されるように、本発明の抗体は、ADDLの少なくとも1つの多次元構造に特異的に結合または認識する。具体的実施形態において、抗体は、ADDLの少なくとも2つ、少なくとも3つ、または少なくとも4つの多次元構造に結合する。ADDLの多次元構造は、SDS−PAGEでの分析により定義されるような二量体、三量体、四量体、五量体、六量体、七量体、八量体、九量体、十量体等を包含することが意図される。三量体、四量体等の指定は、使用されるアッセイ方法により様々であるため(例えば、Bitan, et al. (2005) Amyloid 12:88-95を参照されたい)、三量体、四量体等の定義は、本明細書において使用される場合、SDS−PAGE分析に従う。本明細書における抗体の差別的結合能力を例示すると、ある特定の抗体は、1つの多次元構造、例えばADDLの四量体(米国特許第7,780,963号、マウス抗体2D6および4E2)を認識し、一方他の抗体は、いくつかの多次元構造、例えばADDLの三量体および四量体(米国特許第7,780,963号、マウス抗体2A10、2B4、5F10、および20C2ならびにヒト化抗体20C2)を認識することが判明している。したがって、本発明の抗体は、オリゴマー特異的特性を有する。具体的実施形態において、ADDLの多次元構造は、本発明の抗体により認識される立体構造エピトープをもたらす特定のポリペプチド構造に関連する。他の実施形態において、本発明の抗体は、50kDaを超える分子量を有するほぼ三量体から四量体のサイズ範囲を有する多次元構造ADDLに特異的に結合する。
好ましくは、本発明の抗体は、Aβオリゴマーに対して選択性であり、すなわち、抗体は、Aβ1−42モノマー、Aβ1−40モノマー、斑および/またはアミロイドベータ線維に対する親和性よりも高い、Aβ1−42オリゴマーまたはADDLに対する親和性を有する。本明細書において示されるように、選択性は、これらに限定されないが、競合結合アッセイ、例えば片側ELISA、サンドイッチELISAまたは競合ELISAアッセイ等を含む、様々な方法を使用して評価され得る。この分析に基づき、本発明の抗体は、従来のアッセイ、例えばBIACORE、KINEXAまたは片側ELISAにおいて評価された際に、Aβ1−42モノマー、Aβ1−40モノマー、斑またはアミロイドベータ線維の1つ以上と比較してAβオリゴマーに対して少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍高い親和性を示す場合、Aβオリゴマーに特異的であると定義される。具体的実施形態において、競合結合アッセイにおけるAβ1−40 モノマーと比較したAβ1−42オリゴマーに対する捕捉抗体の親和性は、少なくとも500:1である。他の実施形態において、サンドイッチELISAアッセイにおけるアミロイドベータ1−42モノマーと比較したアミロイドベータ1−42オリゴマーに対する抗体の親和性は、少なくとも500:1、少なくとも600:1、少なくとも700:1、少なくとも800:1、少なくとも900:1、または、より好ましくは少なくとも1000:1である。
本発明の抗体は、同様の直線状エピトープを有し得るが、当業者に周知であるように、直線状エピトープは抗原のエピトープの一部に対応し得るのみであるため、そのような直線状エピトープは、これらの抗体の結合特性、すなわち、ニューロンへのADDL結合を遮断し、タウリン酸化を防止し、斑へのADDL組み込みを阻害する能力を完全に示してはいない(例えば、Breitling and Duebel (1999) Recombinant Antibodies, John Wiley & Sons, Inc., NY, pg. 115を参照されたい)。本発明の抗体は、多次元ADDLを差別的に認識することができる、したがってニューロンへのADDL結合を差別的に遮断し、タウリン酸化を差別的に防止し、アミロイド斑へのADDLの組み込みを差別的に阻害することができるものとして、当該技術のものから区別され得る。
本発明に従って使用されるような抗体は、限定されないが、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体、およびそのキメラ、ヒト(例えば、B細胞から単離された)、ヒト化、中和、二重特異性または一本鎖抗体を含む。一実施形態において、本発明の抗体は、モノクローナル抗体である。抗体の生成のために、ヤギ、ウサギ、ニワトリ、ラット、マウス、ヒト、およびその他を含む様々な宿主を、合成または天然ADDLの注射により免疫化することができる。抗体を生成するための方法は、当技術分野において周知である。例えば、Kohler & Milstein (1975) Nature 256:495-497;Harlow & Lane (1988) Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New Yorkを参照されたい。
宿主種に依存して、様々なアジュバントを使用して免疫反応を増加させることができる。本発明に従い使用されるアジュバントは、望ましくは、反応の定性的形態に影響する免疫原に構造的変化をもたらすことなく、ADDLに対する固有反応を増強する。特に好適なアジュバントは、3デ−O−アシル化モノホスホリル脂質A(MPL(商標);RIBI ImmunoChem Research Inc., Hamilton、MT;GB2220211を参照されたい)、および随意にモノホスホリル脂質A等の免疫刺激剤と組み合わせた水中油エマルション、例えばスクアレンまたは落花生油(Stoute, et al. (1997) N. Engl. J. Med. 336:86-91を参照されたい)、ムラミルペプチド(例えば、N−アセチルムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)エチルアミン(E−PE)、N−アセチルグルコサミニル−N−アセチルムラミル−L−Al−D−イソグル−L−Ala−ジパルミトキシプロピルアミド(DTP−DPP))、または他の細菌細胞壁成分を含む。水中油エマルションの具体例は、Model HOYマイクロフルダイザー(Microfluidics, Newton, MA)等のマイクロフルダイザーを使用してサブミクロン粒子に製剤化された、5%スクアレン、0.5% TWEEN(商標)80、および0.5% SPAN 85(随意に様々な量のMTP−PEを含有する)を含有するMF59(国際公開第WO90/14837号);サブミクロンエマルションにマイクロ流体化された、またはより大きな粒径のエマルションを生成するようにボルテックスされた、10%スクアレン、0.4% TWEEN(商標)80、5% PLURONIC(登録商標)遮断ポリマーL121、およびthr−MDPを含有するSAF;ならびに、2%スクアレン、0.2% TWEEN(商標)80、および1種以上の細菌細胞壁成分、例えばモノホスホリル脂質A、トレハロースジミコール酸(TDM)および細胞壁骨格(CWS)を含有するRIBI(商標)アジュバント系(RAS)(Ribi ImmunoChem, Hamilton, MT)を含む。
別のクラスのアジュバントは、サポニンアジュバント、例えばSTIMULON(商標)(QS-21, Aquila, Framingham, MA)またはそれから生成された粒子、例えばISCOM(免疫刺激複合体)、およびISCOMATRIX(登録商標)(CSL Ltd., Parkville, Australia)である。他の好適なアジュバントは、完全フロイントアジュバント(CFA)、不完全フロイントアジュバント(IFA)、鉱物ゲル、例えば水酸化アルミニウム、および表面活性物質、例えばリゾレシチン、PLURONIC(登録商標)ポリオール、ポリアニオン、ペプチド、CpG(国際公開第WO98/40100号)、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、およびサイトカイン、例えばインターロイキン(IL−1、IL−2、およびIL−12)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、ならびに腫瘍壊死因子(TNF)を含む。ヒトにおいて使用されるアジュバントのうち、BCG(カルメット−ゲラン桿菌)およびコリネバクテリウムパルヴムが、特に好適である。
多次元構造ADDLに対する抗体は、動物をADDLで免疫化することにより生成される。一般に、ADDLは、合成的に、または組み換え断片発現および精製により生成され得る。合成ADDLは、本明細書において開示されるように、または米国特許第6,218,506号および米国特許第7,811,563号において開示される方法に従って調製され得る。さらに、ADDLは、キーホールリンペットヘモシアニン等の別のタンパク質と融合させて、キメラ分子に対する抗体を生成することができる。ADDLは、本明細書に記載のように有用なエピトープを形成するように立体配座的に制限されてもよく、またさらに、本発明の抗体により認識される立体配座の生成を可能とするような様式で、表面と関連する、例えば表面に物理的に付着また化学的に結合してもよい。
ADDLの多次元構造に対するモノクローナル抗体は、培養中の連続細胞株による抗体分子の生成を提供する任意の技術を使用して調製され得る。これらには、ハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術、およびEBV−ハイブリドーマ技術(Kohler, et al. (1975) Nature 256:495-497;Kozbor, et al. (1985) J. Immunol. Methods 81:31-42;Cote, et al. (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80:2026-2030;Cole, et al. (1984) Mol. Cell Biol. 62:109-120)が含まれるが、これらに限定されない。
具体的実施形態において、本発明の抗体は、ヒト化される。ヒト化またはキメラ抗体は、マウス抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子にスプライスして、適切な抗原特異性および生物活性を有する分子を得ることにより生成され得る(Morrison, et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855;Neuberger, et al. (1984) Nature 312:604-608;Takeda, et al. (1985) Nature 314:452-454;Queen, et al. (1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:10029-10033;国際公開第WO90/07861号を参照されたい)。例えば、マウス抗体は、ファージ選択ベクターにおいてFvまたはFab断片として発現される。軽鎖の遺伝子(および並行実験において重鎖の遺伝子)は、ヒト抗体遺伝子のライブラリと交換される。次いで、まだ抗原に結合するファージ抗体が特定される。チェーンシャフリングとして一般に知られるこの方法は、その元となるマウス抗体と同じエピトープに結合するはずのヒト化抗体を提供した(Jespers, et al. (1994) Biotechnology NY 12:899-903)。代替として、チェーンシャフリングは、タンパク質レベルで実行されてもよい(Figini, et al. (1994) J. Mol. Biol. 239:68-78を参照されたい)。
ヒト抗体はまた、ファージ提示法を使用して得ることができる。例えば、国際公開第WO91/17271号および国際公開第WO92/01047号を参照されたい。これらの方法において、ファージのライブラリが生成され、メンバーはその外側表面上に異なる抗体を提示する。抗体は、通常、FvまたはFab断片として提示される。所望の特異性を有するファージ提示抗体は、ADDLへの親和性濃縮により選択される。ADDLに対するヒト抗体はまた、少なくともヒト免疫グロブリン遺伝子座および不活性化内因性免疫グロブリン遺伝子座の断片をコードする導入遺伝子を有する、非ヒト形質転換哺乳動物から生成され得る。例えば、国際公開第WO93/12227号および国際公開第WO91/10741号を参照されたい。ヒト抗体は、特定のマウス抗体と同じエピトープ特性を有するように、競合結合実験により、または別様に選択され得る。そのような抗体は、一般に、マウス抗体の有用な機能的特性を保持する。ヒトポリクローナル抗体もまた、免疫原で免疫化されたヒトからの血清の形態で提供され得る。随意に、そのようなポリクローナル抗体は、親和性試薬としてADDLを使用した親和性精製により濃縮され得る。
本明細書において例示されるように、ヒト化抗体はまた、マウス抗体の張り合わせ(veneering)または表面再構成(resurfacing)により生成され得る。張り合わせは、マウス重鎖および軽鎖可変領域における表面固定領域アミノ酸のみを、相同ヒト抗体配列のそれらのアミノ酸と置き換えることを含む。マウス表面アミノ酸の相同ヒト配列からの同じ位置におけるヒト残基との置き換えは、マウス抗体の免疫原性を低減しながら、そのリガンド結合を保存することが示されている。外側残基の置き換えは、一般に、内部ドメインに対し、またはドメイン間接触部に対し、影響がほとんど、または全くない。例えば、米国特許第6,797,492号を参照されたい。
ヒトまたはヒト化抗体は、IgG、IgD、IgA、IgMまたはIgE定常領域、ならびにIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含む任意のアイソタイプを有するように設計され得る。具体的実施形態において、本発明の抗体は、IgGもしくはIgM、またはそれらの組み合わせである。1つの具体的実施形態において、本発明の抗体は、IgG2である。当業者には、本明細書において他のアイソフォームが使用されてもよいことが理解される。これらのアイソフォームの例示的配列は、配列番号56〜58に示される。本発明の他の実施形態は、ヒトIgG4配列の標準ヒトIgG2定常領域内への選択的組み込みにより形成される定常領域を包含する。例示的な突然変異IgG2 Fcは、本明細書において配列番号59として記載されるIgG2m4である。抗体は、2つの軽鎖および重鎖を含有する四量体として、別個の重鎖および軽鎖として、または重鎖および軽鎖可変ドメインがスペーサを介して連結した一本鎖抗体として発現され得る。一本鎖抗体の生成のための技術は、当該技術分野において周知である。
CDR移植および張り合わせにより生成される例示的ヒト化抗体は、米国特許第7,780,963号、米国特許第7,731,962号および米国特許第7,811,563号において開示されている。
ジアボディもまた企図される。ジアボディは、結合抗体の結合ドメイン(重鎖および軽鎖の両方)を分離し、同じポリペプチド鎖上の重鎖および軽鎖を結合する、または作用可能に連結する連結部分を供給し、それにより結合機能を保存することにより調製される、改変抗体コンストラクトを指す(Holliger, et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444: Poljak (1994) Structure 2:1121-1123を参照されたい)。これは、本質的に、抗原への結合に必要な可変ドメインのみを有する、極めて短縮された抗体を形成する。同じ鎖上の2つのドメインの間で対を形成させるには短過ぎるリンカーを使用することにより、ドメインは、別の鎖の相補的ドメインと強制的に対形成し、2つの抗原結合部位を形成する。これらの二量体抗体断片、またはジアボディは、二価および二重特異性である。当業者には、ジアボディを生成する任意の方法が使用され得ることが理解される。好適な方法は、Holliger, et al. (1993)上記参照;Poljak (1994)上記参照;Zhu, et al. (1996) Biotechnology 14:192-196および米国特許第6,492,123号により説明されている。
本発明の単離された抗体の断片もまた、明示的に本発明に包含される。断片は、Fab断片、F(ab’)2断片、F(ab’)断片、二重特異性scFv断片、Fv断片、単一ドメイン抗体およびFab発現ライブラリにより生成された断片、ならびにペプチドアプタマーを含むことが意図される。例えば、F(ab’)2断片は、本発明の抗体分子のペプシン消化により生成され、一方Fab断片は、F(ab’)2断片のジスルフィド架橋を還元することにより生成される。代替として、Fab発現ライブラリを構築して、所望の特異性を有するモノクローナルFab断片の迅速で容易な特定を可能とすることができる(Huse, et al. (1989) Science 254:1275-1281を参照されたい)。具体的実施形態において、本発明の抗体断片は、その可変領域結合部位を保持する中和抗体の断片、すなわち、抗原結合断片である。その例は、F(ab’)2断片、F(ab’)断片、およびFab断片である。一般に、Immunology: Basic Processes (1985) 2nd edition, J. Bellanti (Ed.) pp. 95-97を参照されたい。
単一ドメイン抗体またはナノボディもまた、本発明に包含される。ナノボディは、一般的なヒトまたはマウスIgGからの二量体可変ドメインをモノマーに分割し、いくつかの主要な残基をラクダ化することにより調製される。例えば、Davies & Riechmann (1994) FEBS Lett. 339:285-290およびReichman & Muyldermans (1999) J. Immunol. Meth. 231:25-38を参照されたい。
ADDLの多次元構造を差別的に認識するペプチドアプタマーは、アプタマーのライブラリ(例えば、Aptanomics SA, Lyon, Franceにより提供される)において合理的に設計またはスクリーニングされ得る。一般に、ペプチドアプタマーは、その設計が抗体の構造に基づく合成認識分子である。ペプチドアプタマーは、タンパク質骨格に両端で結合する可変ペプチドループで構成される。この二重の構造的制約は、ペプチドアプタマーの結合親和性を、抗体の結合親和性に匹敵するレベルまで大きく増加させる(ナノモル範囲)。
本発明の抗体および抗体断片の生成における使用のための、軽鎖および重鎖可変領域をコードする例示的核酸配列は、本明細書において、それぞれ配列番号60および 61に開示される。当業者により理解されるように、本明細書において開示される重鎖可変領域、例えば配列番号61に示されるものは、本明細書において開示される軽鎖可変領域のいずれか1つと組み合わせて使用され、修正された親和性、解離、エピトープ等を有する抗体を生成し得る。
本発明の抗体または抗体断片は、それに結合した追加的部分を有してもよい。例えば、米国特許第4,493,825号に記載のように、ミクロスフェアまたはマイクロ粒子が抗体または抗体断片に結合してもよい。
さらに、具体的実施形態は、増加した抗原親和性、中和活性(すなわち、神経細胞へのADDLの結合を遮断する能力、またはアミロイド斑へのADDL集合もしくは組み込みを遮断する能力)、あるいは修正された解離定数のために突然変異および選択された抗体または抗体断片を包含する。大腸菌の突然変異誘発株(Low, et al. (1996) J. Mol. Biol. 260:359-368)、チェーンシャフリング(Figini, et al. (1994)上記参照)、およびPCR突然変異生成が、抗体をコードする核酸分子の突然変異のための確立された方法である。例示として、抗体が結合のために競合するように、大量のファージ抗体を少量のビオチニル化抗原と接触させることにより、増加した親和性が選択され得る。この場合、抗原分子の数は、ファージ抗体の数を上回るべきであるが、抗原の濃度は、解離定数を若干下回るべきである。したがって、親和性が増加した主に突然変異したファージ抗体が、ビオチニル化抗原に結合し、一方、より弱い親和性のファージ抗体の大部分は未結合のままとなる。次いで、ストレプトアビジンが、混合物からのより高い親和性の突然変異抗体の濃縮を補助し得る(Schier, et al. (1996) J. Mol. Biol. 255:28-43)。
本発明の具体的実施形態において、抗体h3B3の変異体(すなわち、14.2、7.2、11.4、13.1、17.1、19.3)または抗体19.3の変異体(すなわち、19.3 N33S、19.3 N33T、19.3 N33A、19.3 N33E、19.3 N33D、19.3 N33S−N35Q、19.3 N33S−N35S、19.3 N33S−N35T、19.3 N33S−N35A、19.3 N58Q、19.3 N58S、19.3 N58T、19.3N35A)が、本発明の方法において使用される。したがって、いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、配列Arg−Ser−Ser−Gln−Ser−Ile−Val−His−Ser−Xaa1−Gly−Xaa2−Thr−Thy−Leu−Glu(配列番号1)(式中、Xaa1は、Asn、Ser、Thr、Ala、AspまたはGluであり、Xaa2は、Asn、His、Gin、Ser、Thr、Ala、またはAspである)を有するCDR1、配列Lys−Ala−Ser−Xaa1−Arg−Phe−Ser(配列番号2)(式中、Xaa1は、Asn、Gly、Ser、Thr、またはAlaである)を有するCDR2、および配列Phe−Gln−Gly−Ser−Xaa1−Xaa2−Xaa3−Xaa4−Xaa5(配列番号3)(式中、Xaa1は、Arg、LysまたはTyrであり、Xaa2は、Val、Ala、またはLeuであり、Xaa3は、Pro、His、またはGlyであり、Xaa4は、Ala、Pro、またはValであり、Xaa5は、Ser、Gly、ArgまたはPheである)を有するCDR3を有する軽鎖可変領域と、配列Gly−Phe−Thr−Phe−Ser−Ser−Phe−Gly−Met−His(配列番号4)を有するCDR1、配列Tyr−Ile−Ser−Arg−Gly−Ser−Ser−Thr−Ile−Tyr−Tyr−Ala−Asp−Thr−Val−Lys−Gly(配列番号5)を有するCDR2、および配列Gly−Ile−Thr−Thr−Ala−Leu−Asp−Tyr(配列番号6)を有するCDR3を有する重鎖可変領域とを有する。したがって、いくつかの実施形態において、本発明の抗体は、配列Arg−Ser−Ser−Gln−Ser−Ile−Val−His−Ser−Xaa1−Gly−Xaa2−Thr−Thy−Leu−Glu(配列番号1)(式中、Xaa1は、Thr、Ala、AspもしくはGluであり、Xaa2は、Asn、His、Gin、Ser、Thr、Ala、もしくはAspであり、または、Xaa1は、Asn、Ser、Thr、Ala、AspもしくはGluであり、Xaa2は、Thrである)を有するCDR1、配列Lys−Ala−Ser−Xaa1−Arg−Phe−Ser(配列番号2)(式中、Xaa1は、Thrである)を有するCDR2、および配列Phe−Gln−Gly−Ser−Xaa1−Xaa2−Xaa3−Xaa4−Xaa5(配列番号3)(式中、Xaa1は、Arg、LysまたはTyrであり、Xaa2は、Val、Ala、またはLeuであり、Xaa3は、Pro、His、またはGlyであり、Xaa4は、Ala、Pro、またはValであり、Xaa5は、Ser、Gly、ArgまたはPheである)を有するCDR3を有する軽鎖可変領域と、配列Gly−Phe−Thr−Phe−Ser−Ser−Phe−Gly−Met−His(配列番号4)を有するCDR1、配列Tyr−Ile−Ser−Arg−Gly−Ser−Ser−Thr−Ile−Tyr−Tyr−Ala−Asp−Thr−Val−Lys−Gly(配列番号5)を有するCDR2、および配列Gly−Ile−Thr−Thr−Ala−Leu−Asp−Tyr(配列番号6)を有するCDR3を有する重鎖可変領域とを有する。
いくつかの実施形態において、本発明の方法の抗体は、抗体h3B3の変異体(すなわち、14.2、7.2、11.4、13.1、17.1、19.3)である。この実施形態によれば、抗体は、配列Arg−Ser−Ser−Gln−Ser−Ile−Val−His−Ser−Asn−Gly−Asn−Thr−Tyr−Leu−Glu(配列番号41)を有するCDR1、配列Lys−Ala−Ser−Asn−Arg−Phe−Ser(配列番号51)を有するCDR2、およびPhe−Gln−Gly−Ser−Xaa1−Xaa2−Xaa3−Xaa4−Xaa5(配列番号3)(式中、Xaa1は、Arg、LysまたはTyrであり、Xaa2は、Val、Ala、またはLeuであり、Xaa3は、Pro、His、またはGlyであり、Xaa4は、Ala、Pro、またはValであり、Xaa5は、Ser、Gly、ArgまたはPheである)のCDR3を有する軽鎖可変領域と、配列番号4のCDR1、配列番号5のCDR2、および配列番号6のCDR3を有する重鎖可変領域とを有する。
他の実施形態において、本発明の方法の抗体は、抗体19.3の変異体であり、軽鎖可変領域のCDR1が突然変異されている(すなわち、19.3 N33S、19.3 N33T、19.3 N33A、19.3 N33E、19.3 N33D、19.3 N33S−N35Q、19.3 N33S−N35S、19.3 N33S−N35T、19.3 N33S−N35A)。この実施形態によれば、抗体は、配列番号1のCDR1、配列番号2のCDR2、および配列Phe−Gln−Gly−Ser−Arg−Leu−Gly−Pro−Ser(配列番号18)を有するCDR3を有する軽鎖可変領域と、配列番号4のCDR1、配列番号5のCDR2、および配列番号6のCDR3を有する重鎖可変領域とを有する。
さらに他の実施形態において、本発明の方法の抗体は、抗体19.3の変異体であり、軽鎖可変領域のCDR2が突然変異されている(すなわち、19.3 N58Q、19.3 N58S、19.3 N58T、19.3N35A)。この実施形態によれば、抗体は、配列番号41のCDR1、配列番号2のCDR2、配列番号17のCDR3を有する軽鎖可変領域と、配列番号4のCDR1、配列番号5のCDR2、および配列番号6のCDR3を有する重鎖可変領域とを有する。
ある特定の実施形態において、抗体の軽鎖可変領域のCDR1は、配列Arg−Ser−Ser−Gln−Ser−Ile−Val−His−Ser−Xaa1−Gly−Xaa2−Thr−Thy−Leu−Glu(配列番号1)(式中、Xaa1は、Thr、Ala、AspまたはGluであり、Xaa2は、Thrである)を有する。他の実施形態において、抗体の軽鎖可変領域のCDR2は、配列Lys−Ala−Ser−Xaa1−Arg−Phe−Ser(配列番号2)(式中、Xaa1は、Thrである)を有する。
本発明における使用の例示的抗体は、配列番号7にあるような重鎖可変領域配列(すなわち、それぞれ配列番号4、5および6のCDR1、CDR2、およびCDR3)と、配列番号9にあるような軽鎖可変領域配列(すなわち、配列番号41、51、18のCDR1、CDR2、およびCDR3)とを有する抗体19.3である。図6を参照されたい。ある特定の実施形態において、本発明の方法において使用される抗体は、3B3ではない。
本発明の方法における抗体の生成を促進し、その保存および使用を向上させるために、ある特定の実施形態は、Aβオリゴマーを用いたELISAベースアッセイにおいて、40℃で1ヶ月保存された場合、EC50の10倍未満の減少を示す抗体の使用を含む。より好ましくは、抗体は、40℃で1ヶ月保存された場合、EC50の6倍、5倍、4倍、3倍、または2倍未満の減少を示す。抗体安定性は、本明細書の例において説明されるように評価され得る。高い温度でそのような安定性を有する抗体は、例7に記載される。
いくつかの治療用途において、抗原からの抗体の解離を低減することが望ましくなり得る。これを達成するためには、ファージ抗体をビオチニル化抗原に結合させ、過剰のビオチニル化抗原を追加する。ある期間の後、主により低い解離定数を有するファージ抗体が、ストレプトアビジンにより回収され得る(Hawkins, et al. (1992) J. Mol. Biol. 226: 889-96)。
本明細書において開示されるものを含む様々な免疫測定法が、ADDLの多次元構造に対して所望の特異性を有する抗体またはその断片を特定するためのスクリーニングに使用され得る。競合結合の様々なプロトコル(例えばELISA)、ラテックス凝集アッセイ、免疫放射定量アッセイ、ポリクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体、またはそれらの断片を使用した反応速度(例えばBIACORE(商標)分析)が、当該技術分野において周知である。そのような免疫測定法は、典型的には、特異的抗体とその同種抗原との間の複合体形成の測定を含む。2つの非干渉エピトープに反応するモノクローナル抗体を使用した二部位モノクローナルベース免疫測定法が好適であるが、競合結合アッセイもまた使用され得る。そのようなアッセイはまた、試料中のADDLの多次元構造の検出に使用され得る。
抗体または抗体断片はまた、中和または薬理活性、および予防剤または治療剤としての潜在的有効性を評価するために、ニューロンもしくは培養海馬細胞へのADDL結合の移動、またはADDL集合もしくはアミロイド斑へのADDL組み込みの遮断等の他の生物活性アッセイに供され得る。そのようなアッセイは、本明細書において説明されており、当該技術分野において周知である。
抗体および抗体の断片は、ハイブリドーマとして生成および維持され得るか、または、代替として、これらに限定されないが、大腸菌、酵母(例えば、サッカロミセス種およびピキア種)、バキュロウイルス、哺乳動物細胞(例えば、骨髄腫、CHO、COS)、植物、または形質転換動物を含む、十分に確立された任意の発現系において組み換えにより生成され得る(Breitling & Duebel (1999) Recombinant Antibodies, John Wiley & Sons, Inc., NY, pp. 119-132)。抗体および抗体の断片は、これらに限定されないが、親和性クロマトグラフィー、免疫グロブリン結合分子(例えば、タンパク質A、L、GまたはH)、抗体または抗体断片に作用可能に連結したタグ(例えば、His−タグ、FLAG(登録商標)−タグ、Strepタグ、c−mycタグ)等を含む、任意の適切な方法を使用して単離され得る。Breitling & Duebel (1999)上記参照を参照されたい。
ADDLに関連した疾患の予防または治療を評価するために、本発明の抗体および抗体断片の活性が、神経細胞へのADDLの結合を遮断もしくは阻害する、より高次のオリゴマーの集合を阻害する、アミロイド斑へのADDL組み込みを遮断する、および/またはSer202/Thr205におけるタウタンパク質のリン酸化を防止する能力に関して分析され得る。
神経細胞へのADDLの結合を遮断または阻害する抗体または抗体断片の能力は、ADDLが抗体または抗体断片の存在下でニューロンに結合するかどうかを測定することにより決定される。抗体がニューロンへのADDLの結合を遮断することができる程度は、本明細書に記載の方法、すなわち、免疫細胞化学、または細胞ベースアルカリホスファターゼアッセイ、または任意の他の好適なアッセイに従って決定され得る。具体的実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、抗体または抗体断片の非存在下でのADDLの結合と比較して、ADDLの結合の少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、または97%の減少を達成する。
ADDLの集合を遮断または阻害する抗体または抗体断片の能力は、Aβ1−42のより大きなオリゴマー種、例えば八量体または十量体の集合が、抗体または抗体断片の存在下で阻害されるかどうかを測定することにより決定され得る。抗体がADDLのより大きなオリゴマー種の集合を遮断することができる程度は、例えば、FRETまたは蛍光偏光または任意の他の好適なアッセイにより決定され得る。
Ser202/Thr205におけるタウタンパク質のリン酸化を防止する抗体または抗体断片の能力は、タウタンパク質が抗体または抗体断片の存在下でリン酸化されるかどうかを測定することにより決定され得る。抗体がSer202/Thr205におけるタウタンパク質のリン酸化を防止することができる程度は、本明細書において開示される方法または任意の他の好適なアッセイに従い決定され得る。
ニューロンへのADDLの結合の遮断もしくは減少、ADDLのより大きなオリゴマー種の集合の阻害、および/またはSer202/Thr205におけるタウタンパク質のリン酸化の防止は、ADDLの蓄積に関連する疾患が、予防的または治療的に治療されていることの指標として使用され得る。
本明細書における方法によれば、本発明の抗体または抗体断片は、アミロイド生成疾患の治療に少なくとも部分的に効果的な他の薬剤と随意に組み合わせて投与され得る。例えば、本発明の抗体は、アルツハイマー病に対する既存の緩和治療、例えばアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、例えばARICEPT(商標)(ドネペジル塩酸塩)、EXELON(商標)(リバスチグミン酒石酸塩)、およびREMIYL(商標)(ガランタミン臭化水素酸塩)、ならびにNMDA拮抗剤、NAMENDA(商標)(メマンチンHCl)と共に投与され得る。これらの既知の治療に加えて、具体的実施形態は、Aβ生成および凝集の阻害剤(例えば、β−セクレターゼ阻害剤、γ−セクレターゼ阻害剤、Aβ−モノマー凝集阻害剤、Pan−Aβ免疫治療剤、および/または線維もしくはアミロイド斑免疫治療剤)ならびに/あるいはタウ治療剤と組み合わせた本発明の1つ以上の抗体の使用を特徴とする。
セクレターゼ酵素調整。Aβのレベルを低減するための1つのアプローチは、Aβの生成を阻害するように、β−およびγ−セクレターゼ切断酵素の活性を調整することを含む。β−およびγ−セクレターゼ酵素は、APP をAβに変換するアスパルチルプロテアーゼであり、これらの2つの酵素の阻害を含む治療戦略は、脳のアミロイドのレベルを低減することを目的とする(Marlatt, et al. (2005) Curr. Med. Chem. 12 (10): 1137-47;Lundkvist & Naslund (2007) Curr. Opin. Pharmacol. 7 (1): 112-8)。β−セクレターゼ阻害剤CTS−21166(CoMentis, Inc.)、Posiphen(QR Pharma Inc.;Sabbagh (2009) Am. J. Geriatr. Pharmacother. 7:167-185;Neugroschl & Sano (2009) Curr. Neurol. Neurosci. Rep. 9:368-376)、ACI−91(AC Immune SA)、MK-8931(Merck & Co. Inc.)、LY2811376(Eli Lilly & Co.)、ΤΑΚ−070(Takeda Pharmaceutical Company Limited)、GSK188909(Hussain, et al. (2007) J Neurochem. 100:802-809)、KMI−429(Asai, et al. (2006) J. Neurochem. 96:533-40)、GRL−8234(Chang, et al. (2010) FASEB J. 25:775-784)、およびOM99−2、ならびにスタチン、フェニルノルスタチン、ヒドロキシエチルアミン、カルビナミン、アシルグアニジン、アミノイミダゾール、アミノヒダントイン、およびアミノキナゾリン系阻害剤(Ghosh, et al. (2012) J. Neurochem. 120:71-83)を含む、これらの酵素を標的化するいくつかの薬剤が知られている。ガンマ−セクレターゼ阻害剤は、これらに限定されないが、MK−0752(Merck & Co Inc.)、セマガセスタット(LY-450139; Eli Lilly & Co; NCT00762411およびNCT00594568)(Lundkvist & Naslund (2007)上記参照;Barten, et al. (2005) J. Pharmacol. Exp. Ther. 312.(2): 635-643;Wong, et al. (2004) J. Biol. Chem. 279 (13): 12876-82)、アバガセスタット(BMS-708163; Bristol-Myers Squib)、EVP−0962(EnVivo Pharmaceuticals)を含む。
ベータ−アミロイド凝集の調節。ベータ−アミロイド毒性を防止する亜鉛および銅イオノフォアであるPBT2(Prana Biotechnology Ltd.)、ならびにELND0005(scyllo−イノシトール;Elan Corporation, PLC)を含む、ベータ−アミロイド凝集のいくつかの阻害剤が開発されている。神経毒性ベータ−アミロイド種の形成を阻害するための追加的化合物は、国際公開第WO2009/008891号に記載されており、限定されないが、2−ヒドロキシ安息香酸[3−オキソ−3−(1−メチル−1H−ピラゾール−5−イル)−1−トリフルオロメチル−プロパ−(Z)−イリデン]−ヒドラジド、2−ヒドロキシ安息香酸[3−オキソ−3−チオフェン−2−イル−1−トリフルオロメチル−プロパ(Z)−イリデン]−ヒドラジド、2−ヒドロキシ安息香酸[3−オキソ−3フラン−2−イル−1−トリフルオロメチル−プロパ−(Z)−イリデン]−ヒドラジド、N−(2−メトキシ−フェニル)−2−オキソ−2−{N’−[3−オキソ−3−チオフェン−2−イル−1−トリフルオロメチル−プロパ−(Z)−イリデン]−ヒドラジノ}−アセトアミド、2{[1−(2−ヒドロキシ−3−メトキシ−フェニル)−メタ−(E)−イリデン−ヒドラジノオキサリル]−アミノ}−6−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロ−ベンゾ[b]チオフェン−3−カルボン酸エチルエステル、2−{[1−(2ヒドロキシナフタレン−1−イル)−メタ−(E)−イリデン−ヒドラジノオキサリル]−アミノ}−6−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロ−ベンゾ[b]チオフェン−3−カルボン酸エチルエステル、2−{[1−(2−ヒドロキシフェニル)−メタ(E)−イリデン−ヒドラジノオキサリル]−アミノ}−6−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロ−ベンゾ[b]チオフェン−3−カルボン酸エチルエステル2−(3−エチル−5−ヒドロキシ−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−N−(2−メトキシフェニル)−2−オキソアセトアミド、2−(5ヒドロキシ−3−プロピル−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−N−(2−メトキシフェニル)−2−オキソアセトアミド、2−(5ヒドロキシ−3−イソプロピル−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−N−(2−メトキシフェニル)−2−オキソアセトアミド、2−(5ヒドロキシ−3−イソブチル−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−N−(2−メトキシフェニル)−2−オキソアセトアミド、(5ヒドロキシ−3−プロピル−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)(2−ヒドロキシフェニル)メタノン、N−(4−ブロモフェニル)2−(3−エチル−5−ヒドロキシ−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−2−オキソアセトアミド、2−(5−ヒドロキシ−3−プロピル−5(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−2−オキソ−N−フェネチルアセトアミド、N−(4−ブロモフェニル)−2−(5−ヒドロキシ−3プロピル−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−2−オキソアセトアミド、2−(3−ブチル−5−ヒドロキシ−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−2−オキソ−N−フェネチルアセトアミド、2−(5−ヒドロキシ−3−イソブチル−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−2−オキソ−N−フェネチルアセトアミド、N−(4−ブロモフェニル)−2−(5−ヒドロキシ−3−ペンチル−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−2−オキソアセトアミド、2−(5−ヒドロキシ−3−ペンチル−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−2−オキソアセトアミド、2−(5−ヒドロキシ−3−イソペンチル−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−2−オキソ−N−フェネチルアセトアミド、2−(5−ヒドロキシ−3−イソペンチル−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−N−(4−メトキシフェニル)−2−オキソアセトアミド、2−(3−ヘキシル−5−ヒドロキシ−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−N−(4−メトキシフェニル)−2−オキソアセトアミド、2−(3−シクロヘキシル−5−ヒドロキシ−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−N−(4−メトキシフェニル)−2−オキソアセトアミド、(E)−2−ヒドロキシ−N’−((2−ヒドロキシナフタレン−1−イル)メチレン)ベンゾヒドラジド、(E)−2−ヒドロキシ−N’−((1−ヒドロキシナフタレン−2−イル)メチレン)ベンゾヒドラジド、(E)−N’−(3,5−ジブロモ−2−ヒドロキシベンジリデン)−2−ヒドロキシベンゾヒドラジド、または(E)−N’−(5−ブロモ−2−ヒドロキシベンジリデン)−2−ヒドロキシベンゾヒドラジドを含む。具体的実施形態において、アミロイドベータ凝集の阻害剤は、N−(2−メトキシ−フェニル)−2−オキソ−2−{N’−[3−オキソ−3−チオフェン−2−イル−1−トリフルオロメチル−プロパ−(Z)−イリデン]−ヒドラジノ}−アセトアミド、2−{[1−(2−ヒドロキシ−3−メトキシ−フェニル)−メタ−(E)−イリデン−ヒドラジノオキサリル]−アミノ}−6−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロ−ベンゾ[b]チオフェン−3−カルボン酸エチルエステル、2−{[1−(2−ヒドロキシナフタレン−1−イル)−メタ−(E)−イリデン−ヒドラジノオキサリル]−アミノ}−6−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロ−ベンゾ[b]チオフェン−3−カルボン酸エチルエステル、2−{[1−(2−ヒドロキシフェニル)−メタ−(E)−イリデン−ヒドラジノオキサリル]−アミノ}−6−メチル−4,5,6,7−テトラヒドロ−ベンゾlb]チオフェン−3−カルボン酸エチルエステル、2−(5−ヒドロキシ−3−イソブチル−5−(トリフルオロメチル)−4,5−ジヒドロ−1H−ピラゾール−1−イル)−N−(2−メトキシフェニル)−2−オキソアセトアミドまたは(E)−2−ヒドロキシ−N’−((1−ヒドロキシナフタレン−2−イル)メチレン)ベンゾヒドラジドである。
タウベース治療。治療的介入のための標的を提供するAD病状の別の重要な側面は、高リン酸化形態の微小管結合タンパク質タウである。タウ高リン酸化および神経原線維変化における凝集形態のこのタンパク質の存在は、ADに罹患した患者における認知低下に関連する(Castellani, et al. (2006) Acta Neuropathol. 111:503-509;Nunomura, et al. (2006) Sci. Aging Knowledge Environ. 2006:e10)。したがって、高リン酸化タウタンパク質を標的とする治療戦略は、ADの治療に適切である可能性がある。
凝集した高リン酸化タウの破壊的作用はまた、ユビキチンプロテオソーム系またはマクロオートファジーを介したタンパク質の細胞内分解の上方制御により排除され得る(Brunden, et al. (2009) Nat. Rev. Drug Discov. 8:783-93)。ユビキチンプロテオソーム分解経路において、標的化されたタンパク質は、ユビキチンによりタグ化され、その後プロテオソーム複合体により認識および分解される(Ravikumar, et al. (2003) Clin. Neurosci. Res. 3:141-148)。ユビキチンプロテオソーム系は、標的タンパク質がプロテオソームの狭い開口部に通されることを必要とするため、この系の活性化は、非線維リン酸化タウのみを分解する。それにもかかわらず、Hsp90阻害剤は、より小さい非線維リン酸化タウの分解を媒介した。Hsp90は、主に変性タンパク質のATP駆動リフォールディングを担うため、このタンパク質の阻害は、このシャペロンがリン酸化タウを保存しようとするのを効果的に停止し、それによりタウ分解を促進する(Dickey, et al. (2007) J. Clin. Invest. 117:648-658)。例えば、ヒトタウ発現Tgマウスに7日間投与されたHsp90阻害剤EC−102は、脳内の高リン酸化タウのレベルを低減した(Dickey, et al. (2007)上記参照;Luo, et al. (2007) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104:9511-16)。さらに、EC−102は、ADに罹患した患者の脳からの皮質ホモジネートにおけるHsp90/非線維リン酸化タウ複合体の形成を、対照ホモジネートの濃度よりも1000倍低い濃度で効果的に阻害し(Dickey, et al. (2007)上記参照)、したがって、EC−102の臨床的に安全な用量が可能である。
タウを標的化する追加的な薬剤は、ダブネチド(AL−108;NAPVSIPQ、配列番号62;Allon Therapeutics)、メチルチオニニウムクロリド(REMBER;TauRx Pharmaceuticals Ltd.)、およびグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3阻害剤であるチデグルシブ(NYPTA/ZENTYLOR;Noscira)を含む。本発明のさらに別の実施形態は、ADDLに結合する単離された抗ADDL抗体、またはその抗原結合断片を含む、ADDLを検出するためのキットである。
そのような併用治療に従い、本発明はまた、Aβ生成および凝集の阻害剤、ならびに/またはタウ治療剤と組み合わせて、Aβ1−42の可溶性オリゴマーに選択的および特異的に結合する1つ以上の抗体を含むキットを含む。そのようなキットは、すでにある用量の個々の活性成分を含有する様々な容器を、投与形態に関する指示を有する単一パッケージ(キット)内に含有し得る。
治療に加えて、本発明の抗体および抗体断片はまた、ニューロン(例えば、海馬細胞)へのADDLの結合を防止する治療薬剤の特定における用途が見出され、それによりADDLに起因する下流側のイベントを防止する。そのようなアッセイは、薬剤の存在下でニューロンをADDLと接触させ、本発明の抗体または抗体断片を使用して、その薬剤の存在下でニューロンに対するADDLの結合を決定することにより行われる。当業者に理解されるように、ニューロンへのADDLの結合を遮断する薬剤は、薬剤と接触されていないニューロンと比較して、ニューロンに結合したADDLの量を減少させ、その量は、本発明の抗体または抗体断片を使用した免疫測定法において検出可能である。ニューロン結合ADDLを検出するための好適な免疫測定法は、本明細書において開示される。
本明細書において提供される方法を使用してスクリーニングされ得る薬剤は、多くの化学的クラスを包含するが、典型的には、それらは有機分子、好ましくは100ダルトンを超え約2,500ダルトン未満の分子量を有する有機小分子化合物である。薬剤は、タンパク質との構造的相互作用、特に水素結合に必要な官能基を包含し、典型的には、少なくともアミン、カルボニル、ヒドロキシルまたはカルボキシル基、好ましくは官能性化学基の少なくとも2つを含む。薬剤は、多くの場合、上記官能基の1つ以上で置換された、環状炭素もしくはヘテロ環式構造、および/または芳香族もしくは多環芳香族構造を含有する。薬剤はまた、ペプチド、抗体、サッカリド、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造類似体またはそれらの組み合わせを含む生体分子の中にも見出すことができる。薬剤は、天然または合成化合物のライブラリを含む広範な源から得られる。
塩および中性タンパク質等の様々な他の試薬が、スクリーニングアッセイに含まれ得る。また、例えばプロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、抗菌剤等の、アッセイの効率を別様に改善する試薬が使用されてもよい。成分の混合物が、必要な結合を提供する任意の順番で添加されてもよい。
本発明のスクリーニングアッセイにより特定された薬剤は、アミロイド生成疾患および/またはタウオパチーの治療のために有益となる。さらに、これらの概念を例示するために使用された実験システムは、タウリン酸化のアミロイドベータ誘導に関連する新規薬物標的の評価、特定およびスクリーニングのための研究手段を表すことが企図される。
本明細書において引用される全ての参考文献は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。本発明は、以下の限定されない例によって、より詳細に説明される。
例1:材料および方法
ADDL選択的モノクローナル抗体の生成。本明細書においてその種が「合成」ADDLと呼ばれる可溶性Aβオリゴマーを、完全フロイントアジュバント(第1および第2のワクチン接種)、または不完全フロイントアジュバント(後続の全てのワクチン接種)と1:1で混合し、皮下(最初の2回のワクチン接種)または腹腔内注射により、3匹のマウスに1mL/マウスの総量で投与した。各注射は、194±25μg全タンパク質に相当する精製ADDLを含んでいた。ほぼ3週間毎にマウスに注射した。6回の注射後、1匹のマウスが死亡し、その脾臓を凍結した。次いで、最も高い力価の血清を有するマウスからの脾臓を、ポリエチレングリコールの存在下でSP2/0骨髄腫細胞と融合し、6つの96ウェルプレートに播種した。細胞を、37℃で、5%CO2と共に10日間、200μLのヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)選択培地中で培養したが、この培地は、10%ウシ胎仔血清(FBS)、1μg/mL HYBRI−MAX(登録商標)(アザセリン−ヒポキサンチン;Sigma−Aldrich、MO)、およびSP2/0細胞培養から回収された30%調整培地が添加されたイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)等の濃縮合成培地で構成される。10日目に、10%FBSが添加されたIMDM(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を一度培養物に加え、14日目に培養上清を除去して、ELISAにおいて陽性ウェルについてスクリーニングした。ウェル当たり0.3細胞の確率で限界希釈法により陽性培養物をさらにクローニングした。陽性クローンをELISAにおいて確認し、さらに増殖させた。次いで、モノクローナル抗体を生成し、使用のために精製した(QED Bioscience, San Diego, CA)。
ADDLおよびbADDLの調製。以前に説明された方法(Hepler, et al. (2006) Biochemistry 45:15157-15167;Shughrue, et al. (2010) Neurobiol. Aging 31:189-202)を使用して、ADDLを調製した。簡潔に説明すると、合成Aβ1−42ペプチド(American Peptide, Sunnyvale, CA)を、ヘキサフルオロ−2−プロパノール(HFIP)に10mg/mlの濃度で溶解し、室温(RT)で1時間インキュベートした。ペプチド溶液を、ポリプロピレン製1.5ml微小遠心管内の50μlアリコートに分注した。SPEEDVAC(登録商標)(Thermo-Fisher Scientific, Waltham, MA)を使用してHFIPを除去し、得られたペプチド膜を必要となるまで−70℃で乾燥保存した。0.5mgの乾燥HFIP膜を、22μlの無水ジメチルスルホキシド(DMSO)に、ボルテックスミキサー上で10分間撹拌しながら溶解した。その後、フェノールレッドを含まない1mlの低温ハムF12培地(United Biosource, San Francisco, CA)をDMSO/ペプチド混合物に速やかに添加した。管に蓋をし、反転して確実に完全混合させ、4℃で一晩インキュベートした。翌朝、2〜8℃で作動させたBeckman微小遠心分離機(Beckman Coulter, Brea, CA)で、試料を12,000×gで10分間遠心分離した。上清を回収し、YM50(50,000kDa分子カットオフ)CENTRICON(登録商標)遠心分離フィルタ(Millipore, Billerica, MA)を通して濾過して、オリゴマー種を濃縮した。同じ方法を使用してビオチニル化ADDL(bADDL)を調製したが、N末端ビオチニル化Aβ1−42ペプチド(American Peptide, Sunnyvale, CA)で開始した。bADDLのそのような調製物は、免疫細胞化学分析により、ADDLと同様の様式でラット海馬ニューロンの成熟シナプスに結合することが示されている(Shughrue, et al. (2010)上記参照)。
モノマーおよび線維調製物。モノマー調製物を生成するために、室温Aβ1−40またはAβ1−42ペプチド膜を、ペプチドのmg当たり2mLの25mMホウ酸塩緩衝液(pH8.5)に溶解し、アリコートに分割し、使用まで−70℃で凍結した。Aβ1−42ペプチド膜のmg当たり2mLの10mM塩酸を添加することにより、線維調製物を作製した。ボルテックスミキサー上で可能な限り低速で5分から10分間溶液を混合し、得られた調製物を、使用まで37℃で18時間から24時間保存した。
初代ニューロン。BrainBits(Springfield, IL)から購入したラット海馬および/または皮質組織から、初代ニューロン培養物を調製した。解離後、細胞を、35,000細胞/ウェルで、ラミニンおよびポリ−D−リシンでプレコーティングされた96ウェルプレート(Corning Life Sciences, Lowell, MA)に播種した。細胞を、37℃で、5%CO2と共に、培地(2%B27、1% L−グルタミン、および1%pen/strepを添加したNeurobasal培地;Invitrogen, Carlsbad, CA)中で2〜3週間維持し、次いで結合試験に使用した。
細胞ベースADDL結合アッセイ。ADDL結合の遮断に関する抗ADDL抗体の効果を測定するために、1.8nMから450nMの範囲の最終抗体濃度で抗ADDL抗体を500nM bADDLと混合した。対照として、同じ濃度の熱変性抗体(98℃で30分間)をbADDLと混合した。抗体−bADDL混合物を、シリコン処理微小遠心管(Fischer Scientific, Pittsburgh, PA)内で37℃で1時間、低速での一定の全体回転と共にインキュベートした。次いで、混合物を初代海馬および/または皮質培養物に適用し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベーションは、培養培地を除去することにより停止した。細胞を、既知の方法を使用して固定化および固定化後処理に供した。次いで、細胞を、アルカリホスフェート(AP)と複合化したストレプトアビジンと共に4℃で一晩インキュベートし、PBSで5回洗浄し、TROPIX(登録商標)CDP(登録商標)−Star化学発光基質(LIFE TECHNOLOGIES(商標), Carlsbad, CA)と室温で30分間反応させた。ENVISION(登録商標)マイクロプレートリーダー(PerkinElmer, Waltham, MA)により、bADDL結合強度を測定および記録した。
ELISA。ビオチニル化ADDL(bADDLs)またはモノマーAβ1−40もしくはAβ1−42を、ウェル当たり100μlのPBS中1μΜのコーティング試薬と共に大容量ストレプトアビジンコーティングプレート(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)に加え、室温で2時間インキュベートした。プレートを、0.05%のTWEENを含むPBSで(6回)、次いでPBS単独で(3回)洗浄してから、PBS中5%の無脂肪乾燥乳で、ウェルを室温で1時間遮断した。次いで、ウェルを洗浄し、抗体試料の連続希釈物をプレートに添加し、室温で2時間結合させた。インキュベーションおよび洗浄の後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)に複合化された(1:1000;室温で1時間)ヤギ抗ヒトIgG−Fc二次抗体で抗体結合を検出した。HRP標識を、基質としてテトラメチルベンジジン(Virolabs、Chantilly、VA)を用いて可視化し、マイクロプレートリーダー上で450nmで読み出した。
例2:抗−ADDL抗体の選択
ヒト化抗体ライブラリのパニング。ヒト化抗ADDL抗体、h3B3の親和性成熟ライブラリ(米国特許出願公開第2006/0228349号および米国特許出願公開第2008/0175835号を参照されたい)を構築し、軽鎖CDR3アミノ酸配列の一部をランダム突然変異生成に供した。全CDR3領域を網羅するため、2つのサブライブラリを構築した。一方のライブラリは、親重鎖可変領域、および軽鎖CDR3の左半分の突然変異アミノ酸で構成され、他方は、軽鎖CDR3の右半分で構成された。重鎖CDRランダム突然変異生成に対しては、3つのサブライブラリを用いて同様の戦略を使用した。
ヒト化3B3(h3B3)を、当該技術分野において知られている方法を使用して親和性成熟に供した。h3B3可変領域をFabディスプレイベクター(pFab3D)においてクローニングした。このベクターにおいて、重鎖および軽鎖の可変領域は、それぞれ定常領域のCHIドメインおよびカッパ定常領域に適合するようにインフレーム挿入された。Fab3Dにおいて、mycエピトープおよび6つの連続ヒスチジンアミノ酸はCHI配列に従い、次いでこれがディスプレイのためにファージpIIIタンパク質に連結される。重鎖および軽鎖CDR3における全ての位置が、PCRプライマー中に構築された縮重オリゴヌクレオチド配列を使用してランダムに突然変異された。物理的サイズに対応するために、サブライブラリを、それぞれ5〜6アミノ酸に集中するように構築した。ヒト3B3(h3B3)のベクターDNAをテンプレートDNAとして使用して、突然変異PCRプライマーにより重鎖および軽鎖の両方を増幅した(表1)。PCR増幅の後、合成されたDNA断片を1.3%アガロースゲル上で分離し、プライマーを除去し、軽鎖可変クローニングのクローニング部位に対しては制限酵素BsiWIおよびXbaIを用い、重鎖可変クローニングに対してはXhoIおよびApaIを用いて可変断片を分解させた。
pFab3Dファージディスプレイベクターにおいて親和性成熟化ライブラリを構築するために、pFab3D−3B3 DNAを制限酵素の同じ対で分解し、精製し、重鎖または軽鎖可変領域のPCR断片を、16℃で一晩、T4リガーゼ(Invitrogen)でライゲーションした。次いで、ライゲーション生成物を大腸菌TGIエレクトロポレーションコンピテント細胞(Stratagene, Agilent Technologies, Santa Clara, CA)内にトランスフェクトし、細菌培養物のアリコートを、LB寒天−カルベニシリン(50μg/mL)プレート上に播種して、ライブラリサイズを滴定した。残りの培養物を、カルベニシリンを含む大型プレート上に播種して、大腸菌ライブラリストックのために30℃で一晩インキュベートするか、または、室温および37℃で10分間インキュベートすることにより、ヘルパーファージM13K07(Invitrogen, Carlsbad, CA、1011pfu/mL)に感染させた。次いで、カルベニシリン(50μg/mL)を含む2YT培地を添加し、振盪しながら37℃で1時間インキュベートした。次いで、カナマイシン(70μg/mL)を添加し、培養物を振盪しながら30℃で一晩成長させた。ファージ培養上清を濾過し、20%(v/v)PEG(ポリエチレングリコール/NaCl、PBS中に再懸濁、0.22μmフィルタで滅菌、およびファージライブラリパニング用にアリコートを作製)での沈殿により濃縮した。
次いで、ファージライブラリパニングを、表2に要約されるように行った。
Fabディスプレイファージライブラリからの入力ファージ(100μl、約1011〜12pfu)を、900μlの遮断溶液(PBS3%の無脂肪乾燥乳)で遮断して、ファージ表面への非特異的結合を低減した。磁気分離機内で200μΤのビーズ懸濁液を回収し、上清を除去することにより、ストレプトアビジンコーティングビーズを調製した。次いでビーズを1mLの遮断溶液に懸濁させ、回転ミキサー上に30分間設置した。非特異的ストレプトアビジン結合ファージを除去するために、遮断されたファージライブラリを、遮断されたストレプトアビジンコーティングビーズと混合し、回転ミキサー上に30分間設置した。除外プロセスからのファージ懸濁液を、新たな管に移し、200μlの抗原、10% bADDLを添加し、抗体および抗原結合のために2時間インキュベートした。インキュベーション後、混合物を遮断されたストレプトアビジンコーティングビーズに添加し、回転ミキサー上で1時間インキュベートして、ストレプトアビジンビーズ上に抗体/抗原複合体を捕捉した。捕捉された10% bADDL/ファージ複合体を、PBS/0.05% TWEEN20で5回、次いでPBS単独で2回洗浄した。結合したファージを、bADDLから200μlの100mM TEA(Sigma Aldrich, St. Louis, MO)で溶出し、20分間インキュベートした。次いで、溶出されたファージを、50mL管に移し、100μlの1M Tris−HCl、pH7.5で中和し、0.6〜0.8の間のOD600nmを有する10mLの大腸菌TGI細胞に添加した。振盪しながら37℃で1時間インキュベートした後、培養物アリコートをLB寒天−カルベニシリン(50μg/mL)プレート上に播種して出力ファージ数を滴定し、残りの細菌を遠心分離して、500μlの2xYT培地(Teknova, Hollister, CA)で懸濁させ、100μg/mlのアンピシリンおよび1%グルコースを含有するバイオアッセイYT寒天プレート(Teknova, Hollister, CA)上に播種した。バイオアッセイプレートを30℃で一晩成長させた。各パニングラウンド後、単一のコロニーをランダムに選択して、96ウェルプレート内でファージを生成した。96ウェルプレート内でのファージ調製のための手順は、上述の手順と同様であるが、但しファージ沈殿ステップは使用しなかった。100μg/mlのアンピシリンおよび0.1%のグルコースを含む120μlの2xTY培地中で成長するコロニーを含有する培養プレートを、HIGRO(登録商標)振盪機(Genomic Solutions, Ann Arbor, MI)において、450rpmで振盪しながら30℃で一晩インキュベートした。ファージ上清(約100μl)を、上述のADDL結合ELISAにおける分析に直接使用した。1つの違いは、ADDLへのファージの結合が、HRPに複合化した抗Ml3抗体(Amersham Bioscience, GE Healthcare, Waukesha、WI)で検出されたことである。
例3:抗ADDL抗体の特定
軽鎖親和性成熟化研究から、7つのクローン(11.4、17.1、14.2、13.1、19.3、7.2および9.2)のパネルが、ファージ/Fab ELISAにおいて、h3B3と比較して、ADDLへの強い結合活性を示した。表3は、親抗体h3B3に対する、軽鎖親和性成熟化ライブラリから選択されるクローンのアミノ酸類似性を示す。
表4は、親抗体h3B3の軽鎖のCDR3と比較した、選択されたクローンの軽鎖(LC)のCDR3におけるアミノ酸配列を要約している。
表5は、選択されたクローンおよび親抗体h3B3の軽鎖可変領域(LCVR)の位置(21〜117位)の配列を示す。各クローンのCDR3は、太字で示されている。
例4:親和性成熟3B3抗体のIgG変換
7つのリードFabクローン(11.4、17.1、14.2、13.1、19.3、7.2および9.2)を、IgG変換のために選択した。変換されたIgGは、プラスミド系ベクターを使用して発現された。発現ベクターは、それらが可変領域を除く全ての必要な成分を含有するように構築された。基本ベクターにおいて、軽鎖および重鎖の両方の発現は、ヒトCMVプロモーターおよびウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナルにより駆動された。IgG変換に選択された7つのクローンにおいて、重鎖可変領域は、ヒトIgG2重鎖定常領域(配列番号33および34)とインフレーム融合され、一方軽鎖可変領域は、カッパ軽鎖定常領域(配列番号35および36)とインフレーム融合された。培養培地内への抗体の分泌を媒介する重鎖(配列番号37および38)ならびに軽鎖(配列番号39および40)リーダー配列はまた、それに従って可変領域とインフレーム融合された。重鎖発現ベクターの場合、定常領域は、異なるサブクラスアイソタイプ、例えば、IgG1またはIgG2から選択され得る。リーダー配列と定常領域との間で、遺伝子間配列は、IN−FUSIONクローニング戦略(Clontech, Mountain View, CA)を使用した、導入される可変領域と5’端でのリーダー配列および3’端での定常領域との継ぎ目のないインフレーム融合のためのクローニング配列を含有する。IN-FUSION Dry-Down PCR Cloning Kit(Clontech, Mountain View, CA)は、可変領域のPCR増幅に使用された。ドライダウンクローニングキットは、PCR反応に必要な全ての成分を含有していた。PCRプライマーおよびテンプレートDNAが追加された。発現ベクターは、EBVウイルスゲノムからのoriPを保有する。oriP/EBNA1対は、多くの場合、トランスフェクトされた細胞内の発現ベクターの存在を長期化するために使用され、また、293EBNA細胞、カナマイシン選択マーカーのための細菌配列、および大腸菌内の複製源における長期化された発現のための、発現期間の延長に広く使用される(Lindner, et al. (2007) Plasmid 58:1-12)。可変領域が挿入されると、IgGは哺乳動物細胞内で直接発現した。本明細書における全ての重鎖可変領域は、IgG1発現ベクター(pV1 JNSA−BF−HCG1)内にクローニングされ、軽鎖可変領域は、適合するカッパまたはラムダ発現ベクター(pV1 JNSA−GS−FB−LCK)内にクローニングされた。
例5:親和性熟成3B3抗体クローニングおよび発現
7つのリードクローン(11.4、17.1、14.2、13.1、19.3、7.2および9.2)を、モノクローナル抗体として生成し、さらなる特性決定のために精製した。得られた抗体発現ベクターに対するクローニング手順は、以下の通りであった。可変領域をPCR増幅したが、PCR反応は、高忠実度PCRマスターミックス、テンプレート(1μL)、ならびに順方向および逆方向プライマー(それぞれ1μL)を含有する25μLの体積で行われた。PCR条件:94℃、2分間を1サイクル;94℃、1.5分間を25サイクル;60℃、1.5分間;72℃、1.5分間および72℃、7分間;除去するまで4℃。次いで、PCR産物をDpnIで分解させ、QIAQUICKプレートキット(Qiagen, Venlo, The Netherlands)で精製した。100ナノグラムの対応する以前に線形化された重鎖または軽鎖ベクターを、IN−FUSION反応(IN-FUSION Dry-Down Cloning Kit, Clontech, Mountain View, CA)により、10ngのPCR断片にアニールした。反応混合物をXL2 Blue MRFコンピテント細胞に転換し、50μg/mLカナマイシンを含有する寒天プレート上に一晩播種した。軽鎖コンストラクトをHindIII+NotIで分解させ、重鎖コンストラクトをAspI+HindIIIで分解させて、制限分析により構造をチェックした。全てのクローンに対するDNA配列を、配列分析により確認した。
配列決定により、軽鎖および重鎖DNAが293 FREESTYLE細胞(Invitrogen, Carlsbad, CA)内にトランスフェクトされたことが確認された。293 FREESTYLE細胞は、293 Transfectin(Invitrogen, Carlsbad, CA)を使用してトランスフェクトされた。EBNA単層細胞は、ポリエチレンイミン系トランスフェクション試薬を使用してトランスフェクトされた。トランスフェクトされた細胞を、OPTI−MEM無血清培地(Invitrogen, Carlsbad, CA)中で、37℃/5%CO2で7日間インキュベートした。培地を回収し、遠心分離し、0.22μm濾過システム(Millipore, Billerica, MA)を通して濾過し、次いでCENTRICON遠心分離フィルタ(Millipore, Billerica, MA)により濃縮した。濃縮された培地を、結合緩衝液(Pierce, Thermo Fisher Scientific, Rockford, IL)と1:1で混合し、その後事前に平衡化されたタンパク質A/Gカラム(Pierce, Thermo Fisher Scientific, Rockford, IL)またはHI−TRAP rProtein A FF(GE Healthcare, Waukesha, WI)に投入した。投入されたカラムを結合緩衝液で洗浄し、溶出緩衝液(Pierce, Thermo Fisher Scientific, Rockford, IL)で溶出した。溶出された抗体を速やかに中和し、PBS緩衝液に対して一晩透析した。透析された抗体をAMICON遠心分離フィルタ(Pierce, Thermo Fisher Scientific, Rockford, IL)で濃縮し、タンパク質濃度をOD280nmで1.34mg/mLの吸光係数で測定した。精製された抗体を、SDS−PAGE(Invitrogen, Carlsbad, CA)、またはタンパク質LABCHIP(Caliper LifeSciences, Hopkinton, MA)を使用して分析した。SDS−PAGEは、非還元条件下で実行した。
例6:親和性成熟3B3抗体の特性決定
ELISA。選択された抗ADDL抗体、すなわち、親抗体h3B3から得られたものを、まず三方向AβELISAにおいて評価して、抗体のモノマーAβ、ADDL、および線維Aβへの結合を評価した。ポリクローナル抗ADDL IgG(M90/1;Bethyl Laboratories, Inc.、Montgomery, TX)を、IMMULON 3 REMOVAWELLストリップ(Dynatech Labs, Chantilly, VA)上で、0.25mg/ウェルで室温で2時間播種し、ウェルをTBS中2%BSAで遮断した。F12中1%BSAで希釈した試料(モノマーAβ、ADDL、または線維Aβ)をウェルに添加し、4℃で2時間結合させ、室温で3回、BSA/TBSで洗浄した。BSA/TBS中で希釈されたモノクローナル抗体を室温で90分間インキュベートし、マウスIgGに対するVECTASTAIN(登録商標)ABCキットで検出した。HRP標識をBIO-RADペルオキシダーゼ基質で可視化し、Dynex MRX-TCマイクロプレートリーダー上で405nmで読み出した。
図1に示されるように、抗体9.2を除き、抗ADDL抗体は全て、h3B3、選択的(Comp1および3:ADDLにのみ結合)、非選択的(Comp 2:評価した全ての形態のAβに結合)コンパレータ、ならびに対照(抗体なし)と比べて、ADDLへの優先的結合を示した。抗体9.2は、全ての形態のAβへの低い結合を示したが、これは、その結合親和性が、IgG変換および/または抗体生成の間悪影響を受けたことを示している。このアッセイにおける抗体のADDL:モノマーおよびADDL:線維結合の比の要約を、表6に示す。
細胞ベース結合アッセイ。いくつかの抗ADDL抗体は、ADDLへの優先的結合を有するが、初代海馬ニューロンへのADDL結合を防止することができないことが示されている(Shughrue, et al. (2010) Neurobiol. Aging 31:189-202)。ADDLへの優先的結合のみでは、有効性の正確な予測因子とはなり得ないことから、同時にニューロンへのADDL結合を遮断する抗ADDL抗体を特定することが望ましく、これは以下のように細胞ベース結合アッセイにおいて評価された。抗ADDL抗体を、500nM bADDLと混合し、最終抗体濃度を1.8nMから450nMの範囲とした。対照として、同じ濃度の熱変性抗体(98℃で30分間)をbADDLと混合した。抗体−bADDL混合物を、シリコン処理微小遠心管(Fischer Scientific, Pittsburgh, PA)内で37℃で1時間、低速での一定の全体回転と共にインキュベートした。次いで、混合物を初代海馬および/または皮質培養物に適用し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベーションは、培養培地を除去することにより停止した。細胞を固定化および固定化後処理に供した。次いで、細胞を、アルカリホスフェート(AP)と複合化したストレプトアビジンと共に4℃で一晩インキュベートし、PBSで5回洗浄し、TROPIX CDP-Star化学発光基質(Life Technologies, Carlsbad, CA)と室温で30分間反応させた。ENVISIONマイクロプレートリーダー(PerkinElmer, Waltham, MA)により、bADDL結合強度を測定および記録した。
本試験の結果は、本明細書における抗ADDL抗体、具体的には抗体19.3が、ニューロンへのADDL結合を劇的に低減することを示した(図3)。しかしながら、抗体が熱変性されると、このアッセイにおける抗体活性の顕著な低減が観察された(図3)。
同じ細胞ベースアッセイにおいて、過剰のAβモノマーがニューロンへのADDL結合を遮断する19.3抗体の能力を低減し得るかどうかを決定した。この分析では、過剰のAβモノマーが抗体19.3のin vitro有効性を低減しないことが示された。抗体19.3単独のIC50は15.4nMであり、一方過剰モノマーの存在下での抗体19.3のIC50は15.3nMであった。
EC50の停止。高タンパク質結合プレート(Costar, Corning, Lowell, MA)を、PBS中の標的リガンドで、4℃で一晩コーティングした。コーティングタンパク質の濃度は、Aβ40(American Peptide, Sunnyvale, CA)に対して100pmol/ウェル、ADDLに対して50pmol/ウェルであった。ADDLは、例1に記載のように生成した。翌日、プレートをPBS+0.05% TWEEN−20(Sigma Aldrich, St. Louis, MO)で5回洗浄し、カゼイン遮断緩衝液(Thermo Scientific, Waltham, MA)および0.05% TWEEN−20で一晩遮断した。例3に記載のように生成された3つの代表的抗体、19.3(図4A)、19.3S33(図4B)、および19.3T33(図4C)を、12点の3倍希釈系列で、15μg/mlから0g/mlで試験した。室温で2時間のインキュベーション後、プレートを洗浄し、アルカリホスファターゼ複合化抗ヒトIgG(ThermoScientific, Waltham, MA)を0.08μg/mlで添加した。室温で45分間のインキュベーション後、プレートを洗浄し、TROPIX(登録商標)CDP(登録商標)-Star化学発光基質(LIFE TECHNOLOGIES(商標), Carlsbad、CA)を添加した。30分後にENVISION(登録商標)マイクロプレートリーダー(PerkinElmer, Waltham, MA)上で発光を検出した。GRAPHPAD PRISM(GraphPad Software, Inc., San Diego, CA)ソフトウェアを使用して、曲線フィッティングを完了した。
例7:19.3変異体の調製
19.3抗体のアミノ酸配列の評価を行って、脱アミドの潜在的部位を特定した。治療抗体のCDR内に存在するアスパラギンおよびアスパラギン酸残基は、脱アミドおよびイソアスパラギン酸塩形成を生じ得(Valsak & Ionescu (2008) Curr. Pharm. Biotech. 9:468-481;Aswad, et al. (2000) J. Pharm. Biomed. Anal. 21:1129-1136)、その形成は、抗体の結合能を改変し、一方で治療剤としての使用のための抗体の有効性を低減し得る。したがって、抗体19.3の軽鎖CDR1の33位におけるアスパラギン残基が改変された。19.3抗体の変異体は、CDR1における33位のアスパラギンのセリン、トレオニン、またはグルタミン酸による置換により生成された(表7)。33位としてのアスパラギンのアスパラギン酸による置換もまた、対照として生成された。
抗体19.3の軽鎖CDR1の33位(N33)におけるアスパラギンの、N33S、N33T、N33E、またはN33Dへの突然変異生成を、QUIKCHANGE II XL Site-Directed Mutagenesis Kit(Agilent Technologies, La Jolla, CA)を使用して、pV1 JASN−GS−19.3−LCKの野生型発現ベクターからの部位特異的突然変異生成により行った。NのコドンAATは、19.3 N33SにおけるSのAGT、19.3 N33TにおけるTのACT、19.3 N33EにおけるEのGAA、または19.3 N33DにおけるDのGATに突然変異された。また、CDR1の35位(N35)におけるアスパラギンに追加的な突然変異を生成し、N33S突然変異と組み合わせた(表7)。さらに、抗体19.3のCDR2の58位におけるアスパラギンでの突然変異を調製した(表8)。新たなコドンは全て、DNA配列分析により確認した。これらの変異体の全長IgG抗体を生成するために、各軽鎖プラスミドを、293 FREESTYLE細胞(Invitrogen, Carlsbad, CA)における一時的トランスフェクションのための同種の重鎖プラスミド、pV1JNSA−19.3−HCG2と対形成させた。発現および精製方法は、上述されている。
表7は、親抗体19.3の軽鎖のCDR1と比較した、変異体の軽鎖のCDR1のアミノ酸配列を要約している。本発明は、軽鎖CDR1が以下の表7に示され、またCDR2およびCDR3軽鎖ならびに全ての重鎖が19.3自身に設定された、19.3の変異体を提供する。
表8は、親抗体19.3の軽鎖のCDR2と比較した、変異体の軽鎖のCDR2のアミノ酸配列を要約している。本発明は、軽鎖CDR2が以下の表8に示され、またCDR1およびCDR3軽鎖ならびに全ての重鎖が19.3自身に設定された、19.3の変異体を提供する。
その後、突然変異が抗体の安定性に対していかなる影響も有するかどうかを決定するために、19.3変異体を評価した。19.3親抗体と共に、精製された変異抗体のアリコートを、4℃、25℃または40℃で1ヶ月間の様々な条件下でインキュベートしてから、ELISA分析に供した。高タンパク質結合プレート(Costar, Corning, Lowell, MA)を、PBS中の標的リガンドで、4℃で一晩コーティングした。コーティングタンパク質の濃度は、ADDLに対して50pmol/ウェルであった。ADDLは、例1に記載のように生成した。翌日、プレートをPBS+0.05% TWEEN20(Sigma Aldrich, St. Louis, MO)で5回洗浄し、カゼイン遮断緩衝液(Thermo Scientific, Waltham, MA)および0.05% TWEEN20で一晩遮断した。3つの代表的抗体、19.3、19.3 N33S、および19.3 N33Tを、12点の3倍希釈シリーズで、15μg/mlから0μg/mlで試験した。室温で2時間のインキュベーション後、プレートを洗浄し、アルカリホスファターゼ複合化抗ヒトIgG(ThermoScientific, Waltham, MA)を0.08μg/mlで添加した。室温で45分間のインキュベーション後、プレートを洗浄し、TROPIX CDP-Star化学発光基質(LIFE TECHNOLOGIES, Carlsbad, CA)を添加した。30分後にENVISIONマイクロプレートリーダー(PerkinElmer, Waltham, MA)上で発光を検出した。GRAPHPAD PRISMソフトウェア(GraphPad Software, Inc., San Diego, CA)を使用して、曲線フィッティングを完了した。
図4Bおよび4Cに示されるように、抗体19.3 N33Sおよび19.3 N33Tは、様々な温度での1ヶ月間のインキュベーション後、19.3親(WT、図4A)と比較して向上した結合安定性を有していた。様々なインキュベーション温度におけるこれらの抗体のEC
50の要約を、表9に示す。
19.3変異体のいくつかのEC
50を決定し、ELISAアッセイにおいて変異体がADDLに対する特異性を維持することが見出された(表10)。
例8:抗ADDL抗体のIn vitro FcRn結合
固定化ヒトFcRnに結合および解離する抗ADDL抗体の能力を特性決定するために、7つのh3B3変異抗ADDL抗体を、抗体PKを評価し、非ヒト霊長類における抗体の最終半減期(t1/2)を予測するために使用される代理システムであるBIACORE FcRn結合アッセイにおいて評価した。簡潔に説明すると、精製されたヒトFcRnタンパク質をBIACORE CM5バイオセンサチップ上に固定し、PBSP(50mM NaPO4、150mM NaClおよび0.05%(v/v) TWEEN20)、pH7.3を流通緩衝液として使用した。モノクローナル抗体をPBSP、pH6.0で100nMに希釈し、3分間FcRnに結合させて平衡に到達させ、pH7.3の流通緩衝液中で解離させた。モノクローナル抗体結合の終わりの5秒の時点で報告点(安定性)が挿入され、「結合%」は、RU安定性/RU結合(%)として計算された。この分析では、同一のFc配列を有するがFabドメインが異なるモノクローナル抗体(mAbs)が、著しい差異をもってFcRnに結合およびそれから解離し得ることが示された。さらに、中性pHにおける解離とin vivo薬物動態との間に明らかな相関が観察され、遅い解離の割合(すなわち、より高い「結合%」)を有するmAbsが、in vivoでより短いt1/2を示す傾向があった。この特徴は、抗体薬物動態のin vitroスクリーニングツールとして使用された。
FcRn結合アッセイにおける、h3B3変異抗ADDL抗体、ならびにh3B3、2つのADDL優先抗体(Comp1および3)、ならびに非選択的(Comp2:評価した全てのAβ形態に結合)コンパレータ。pH6.0における抗体の初期の結合、次いで180秒からのpH7.3における抗体の解離を示すセンサグラムが生成された(図5)。図5に示されるように、h3B3と評価された他の抗体との間に、認め得るほどの差があった。h3B3は、FcRnへの高い割合の結合を有したが、本発明の7つの抗ADDL抗体、および2つのコンパレータ抗体は、それより著しく低い結合を示した。
例9:抗ADDL抗体19.3の結合親和性
親和性成熟抗体19.3を、さらなる特性決定に選択した。軽鎖の可変領域に対する完全DNA配列および推定アミノ酸配列、それぞれ配列番号14および15を決定した。重鎖(配列番号17)および軽鎖(配列番号15)可変領域のアライメントを、最も近い生殖細胞系配列(配列番号47)と共に図6に示す。
BIACORE(商標)(GE Healthcare, Waukesha, WI)およびKINEXA(Sapidyne, Boise, ID)分析を行い、抗ADDL抗体19.3のADDLに対する結合親和性を確認し、モノマーAβと対比したADDLに対する19.3の選択性を決定した。BIACORE(商標)およびKINEXAベース技術は、抗体およびタンパク質標的等の巨大分子間の結合親和性の測定に広く使用される。
BIACORE(商標)。BIACORE(商標)が基づいている表面プラズモン共鳴(SPR)技術において、1つ以上の分子の間の結合相互作用の定量的測定は、センサチップ表面への標的分子の固定化に依存する。標的に対する結合相手は、それらがチップ上を通過する際に捕捉され得る。SPRは、屈折率の変化を測定することにより、センサチップ表面に近い水層における質量の変化を検出する。試験溶液中の分子が標的分子に結合すると、質量は増加し(ka)、それらが解離すると、質量は減少する(kd)。この単純な原理が、センサグラム、すなわち、相互作用する分子の結合および解離の連続的なリアルタイムの監視の基礎を成す。センサグラムは、結合の特異性、試料中の分子の活性濃度、反応速度および親和性に関する定量的情報をリアルタイムで提供する。
KINEXA。KINEXA技術(Sapidyne Instruments, Boise, Idaho)は、液相と固相との間の結合イベントではなく、液相中の生体分子結合イベントを特徴付ける結合定数を測定する。溶液中、結合相手は、十分なインキュベーション後に平衡に達する。未結合分子は滴定により定量されるが、これは相手に結合した分子の部分を反映する。KINEXA法は、試験中の分子の修飾を必要としない。KINEXAにより、測定されている反応は、溶液中の非修飾分子間で生じる。したがって、修飾がいかにして「天然の」結合反応を改変するかの懸念が排除される。KINEXA法は、10−13Mまでの厳密な結合定数のより広い範囲を可能にする。KINEXAソフトウェアはデータ分析を実行するが、これは擬似的な1次近似ではなく、古典的な結合方程式の厳密な解(Kd計算)に基づく。KINEXAは、任意のデータ操作または範囲選択を必要としない。
表11に示されるように、抗体19.3は、BIACORE(商標)アッセイにおいて、モノマーAβに対する150nMの親和性と比較して、ADDLに対する4.8nMの親和性を有していた。Aβモノマーを上回るADDLに対する抗体19.3の30倍の選択性は、Aβモノマーと対比してADDLに対し10倍の優先性しか示さなかった親抗体h3B3に対して見られるものよりも著しく良好であった。
同様に、KINEXAベース平衡定数測定において抗体19.3を評価した。表12に示されるように、抗体19.3は、2.7nMの平衡定数を有していたが、これは、Aβ40モノマー結合と対比してADDLオリゴマーに対する6倍を超える優先性を示している。
片側ELISAアッセイにおけるAβオリゴマーおよびAβ1−40に対する19.3のEC50。EC50は、全Aβオリゴマー結合の最大半量を表す。高タンパク質結合プレートを、PBS中、4℃で一晩、100pmol/ウェルのAβ1−40または50pmol/ウェルのAβオリゴマーでコーティングした。翌日、プレートをPBS+0.05% TWEEN20で5回洗浄し、カゼイン遮断緩衝液(Thermo Scientific, Waltham, MA)および0.05% TWEEN20で一晩遮断した。19.3抗体を、12点の3倍希釈シリーズで、0μg/mlから15μg/mlで試験した。室温で2時間のインキュベーション後、プレートを洗浄し、アルカリホスファターゼ複合化抗ヒトIgG(ThermoScientific, Waltham, MA)を0.08μg/mlで添加した。室温で45分間のインキュベーション後、プレートを洗浄し、TROPIX CDP-Star(Applied Biosystems, Foster City, CA)を添加した。30分後にENVISIONプレートリーダー(PerkinElmer, Waltham, MA)上で発光を検出した。GraphPad Prism(GraphPad Software, Inc., San Diego, CA)ソフトウェアを使用して、曲線フィッティングを完了した。この分析では、片側ELISAアッセイにおいて、19.3抗体(IgG2アイソタイプ)が、AβオリゴマーおよびAβ1−40モノマーに対してそれぞれ約1.7nMおよび4.3nMのEC50を有することが示された(図7A)。この形式では、19.3抗体は、Aβ40モノマーと比較してAβオリゴマーに対して約3倍大きい最大結合を示し、結合能は約3.7倍大きかった。
AβオリゴマーおよびAβモノマーによる競合結合アッセイ。プレート上に捕捉されたADDLおよびAβモノマーへの抗体19.3の結合を測定するELISAアッセイにおいて、ADDLおよびAβモノマーに対するED50値は、それぞれ1.7nMおよび4.3nMであった。値は、ADDL調製物中のAβ1−42のモノマー濃度に基づいて計算されるため、BIACOREおよびプレートベースELISAアッセイにより生成された数字は、19.3抗体の真の親和性および選択性の過小評価を表す。ADDL調製物は、二量体から24量体までの、およびおそらくはより大きな凝集体の範囲の様々なサイズの可溶性Aβオリゴマーの混合物を含有し、したがって、ADDLのエピトープ濃度は未知である。さらに、AβオリゴマーおよびAβモノマーの両方が存在するin vivoのCSF試料をより正確に表現するために、Aβ1−40モノマーの存在下でのAβオリゴマーに対する19.3の親和性を、競合ELISA形式で試験した。
まずウェル当たり50pmolのAβオリゴマーの調製物でコーティングし、次いで各ウェルに2nMの最終濃度の19.3抗体を添加することにより、ELISAプレートを調製した。19.3のこの濃度、すなわち2nMは、片側ELISAにおいて決定されるAβオリゴマー結合のEC50濃度を表す(図7A)。滴定曲線において、Aβ1−40モノマーを加えて、Aβオリゴマーコーティング表面から19.3を競合的に除去すると、5.5μΜのEC50が得られた。100pmol/ウェルを使用して、Aβ1−40モノマーコーティングプレートを同様に調製した。カゼイン遮断緩衝剤マトリックス中で19.3抗体を4nMで各ウェルに適用し、AβオリゴマーまたはAβ1−40と室温で30分間振盪しながら相互作用させた。AβオリゴマーまたはAβ1−40に対する、10μΜから開始する12点の3倍濃縮曲線を、抗体含有ウェルに適用した。Aβオリゴマーでコーティングされたプレートに対しては、Aβ1−40をウェルに添加し、Aβ1−40プレートに対しては、Aβオリゴマーをウェルに添加した。プレートを室温で1時間半インキュベートした。残りの抗体結合およびEC50計算の両方の検出は、片側ELISAアッセイの場合のように決定した。
この分析は、滴定曲線において、Aβ1−40モノマーを加えて、Aβオリゴマーコーティング表面から19.3を競合的に除去すると、5.5μΜのEC50が得られることを示していた(図7B)。ELISAプレートをコーティングするためにウェル当たり100pmolのAβ1−40モノマーが使用された場合、および抗体結合のために競合させるようにAβオリゴマーが使用された場合、EC50は8.7nMであった。これは、競合結合アッセイにおいて、19.3が、Aβ1−40モノマーと比較して約630:1のAβ1−42オリゴマーに対する親和性を有することを示していた。換言すれば、50%の19.3をAβオリゴマーから移動させるために必要なAβ1−40の濃度は、Aβ1−40への19.3の結合を移動させるために必要なAβオリゴマーの濃度よりも約600倍高い。Aβモノマーの1500pMと比較して、Aβオリゴマーの0.2pMまでの濃度が、AD患者からのCSFにおいて報告されている(Georganopoulou, et al. (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102:2273-2276)。したがって、Aβオリゴマーに対する19.3の感度および選択性は、Aβ1−42の可溶性オリゴマーの作用により媒介される疾患の治療におけるこの抗体の使用を示唆している。
Aβ1−42の可溶性オリゴマーと対比してモノマーAβ1−40に対する抗体19.3の計算された親和性を決定するために、ADDLの平均分子量を考慮した(Hepler, et al. (2006) Biochemistry 45:15157-15167)。ADDLに対し測定された9nMのEC50により、抗体19.3は、モノマーAβ1−40と比較して、ADDLに対する約600倍の選択性を示す。モノマーAβ1−42の分子量(4.5kDa)と比較して、ADDLの分子量(175kDa)を含めると、ADDLに対する抗体19.3のIC50値は0.28nMと計算され、モノマーに対する選択性は17,000超であった。
ALPHALISAアッセイ。ALPHALISA技術(PerkinElmer)は、生体試料中の検体の検出用に設計されたビーズベース免疫測定法である。この化学発光アッセイは、有利にも従来のELISAに匹敵する目覚しい感度、幅広いダイナミックレンジおよび確実な性能を示す。ALPHALISAにおいて、モノマーAβ(Aβ1−40)と対比したADDLに対する19.3抗体の選択性および感度を決定した。この分析は、ADDLの0.2pMでのシグナルがAβ1−40の1000pMにおけるシグナルよりも大きいことを示し、このアッセイにおける約5000のモノマーAβと対比したADDLの選択性を示した。
オリゴマー選択性。合成ADDLまたはTg2576マウス脳から抽出されたADDLを調製し、非修飾タンパク質の光誘導架橋(PICUP)法を使用して架橋させた(Bitan & Teplow (2004) Acc. Chem. Res. 37:357-64)。抗体19.3を添加し、抗体:ADDL複合体をアミン反応性架橋剤により架橋させ(CovalX技術;Bich & Zenobi (2009) Curr. Opin. Struct. Biol. 19:632-39)、次いでサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により分離した。抗体19.3とADDLとの架橋複合体は、二次抗Aβ抗体、82E1、および抗ヒトカッパ抗体を使用したELISAにより検出された。19.3:ADDL複合体は、可溶性Aβオリゴマーに対応する保持時間で溶出し、モノマーAβは、後の溶出分画中に溶出した。野生型マウス脳抽出物は、シグナルを示さなかった。これらの結果は、抗体19.3が合成および内因性ADDLに結合すること、ならびに合成および内因性ADDLが同様のサイズ分布を有することを示していた。この分析では、抗体19.3がSECによりAβモノマーから分離された一連の可溶性Aβオリゴマー種に対する親和性を有することが示された。
脳組織における抗体19.3のβ−アミロイドへの結合。抗体19.3がβ−アミロイド斑堆積物に結合するかどうかを評価するために、β−アミロイド凝集体が脳内に存在する8〜9ヶ月齢の雌Tg2576形質転換マウスに、2、20、または50mg/kgの抗体をIV注射し、脳切片を採取して顕微鏡で評価した。アミロイドマーカーチオフラビン−Sによる共局在化試験では、β−アミロイドの優先的染色が示された。この分析の結果は、抗体19.3が脳内に存在し、典型的には、50mg/kgのIV投薬から24時間後ではTg2576脳において斑と共局在化しないことを示していた。しかしながら、抗体19.3の線維斑との共局在化が時折見られた。これらの結果は、抗体19.3が、線維Aβ種に対して非常に低い非選択的親和性を有することを示している。さらに、これらの試験の全てにおいて、抗体19.3媒介性斑溶解または微小出血の証拠は見られなかった。
血管β−アミロイド斑堆積物に結合する抗体19.3の能力を、同じ試験において評価した。この分析の結果は、血管または血管に関連したβ−アミロイドの19.3抗体染色が見られないことを示していた。したがって、ADに罹患した患者の治療において本発明の抗体を使用して血管原性浮腫の可能性が低減される。
例10:抗ADDL抗体19.3の生物物理学的特性決定
抗体凝集体形成の可能性を評価するための生物物理学的特性決定を行って、本明細書における抗ADDL抗体がストレス条件下で安定であり、治療剤としての使用に好適であることを示した。抗ADDL抗体19.3を50mg/mL超まで濃縮し、5.0から8.0の範囲のpHでいくつかの製剤に入れた。試料の2つの組を、37℃および45℃で1週間インキュベートした。試料の第3の組を−70℃とし、5回の一連の凍結/解凍サイクルを開始した。サイズ排除クロマトグラフィー分析では、抗体調製物が、主に(>95%)モノマー状態であり、モノクローナル抗体調製物では典型的である二量体が少量であることが示された。二量体およびより高分子量のオリゴマーの量は、全ての緩衝液にわたり温度ストレス後に増加せず、断片化は観察されなかった。表13に要約されるように、近紫外濁度分析でもまた、凝集がないことが示された。
凍結/解凍ストレス試料は、濁度において緩衝液依存的増加を示し、これは、他のモノクローナル抗体に匹敵していた。50mg/mLにおける粘度は2センチポアズ未満であったが、20センチポアズのレベルが一般に皮下注射の実用限界であると考えられているため、これは許容され得る注射粘度を示す。示差走査熱量測定でもまた許容され得る熱安定性が明らかとなり、Fabは約72℃においてアンフォールディングであり、最も安定性の低いCH2ドメインは65℃超でアンフォールディングであった。総合すると、抗体19.3は、非常に良好な構造安定性を示し、生物物理学的特性は皮下送達に匹敵していた。
例11:ヒトCSFおよび脳におけるAβオリゴマー
いくつかの出版物(Mayeux, et al. (2003) Neurology 61:1185-1190;Mechta, et al. (2000) Arch. Neurol. 57:100-105;Fukumoto, et al. (2010) FASEB J. 24: 2716-2726;Karran, et al. (2011) Nature 10:698-712;Delacourte, et al. (2002) Neurology 59:398-407)に記載のデータを分析して、ADおよび健常対象の脳およびCSFに存在するAβの様々な種のレベルを決定した。この分析(表14)は、可溶性オリゴマーAβが、ADに罹患した対象の脳およびCSFにおいて最も少ないAβの種であることを示した。
抗体19.3および82E1(Immunobiological Laboratories(IBL), Inc., Minneapolis, MN)の組み合わせをAβオリゴマー選択的サンドイッチELISAにおいて使用して、ヒトCSF試料におけるAβオリゴマーの内因性レベルをさらに決定した(図8Aおよび8B)。2つの別個の試料コホートにおいて、Aβオリゴマーの存在により生成される蛍光シグナルは、若年または健常な年齢適合対照と比較して、AD(推定ADとしての25未満のMMSEスコアを使用して臨床診断された)のCSFにおいて有意に上昇した。観察されたAβオリゴマーの絶対レベルは、Precision Medicine(Solana Beach, CA)からのCSF試料において、t−検定、p<0.0004の両側マン−ホイットニースコアにより、AD(n=20)で2.1±0.61pg/mL、年齢適合対照(n=10)で0.53±0.26pg/mLであった(図8A)。観察されたAβオリゴマーの絶対レベルは、Bioreclamation(Hicksville、NY)からのCSF試料において、t−検定、p<0.0021の両側マン−ホイットニースコアにより、AD(n=10)で1.66±0.5pg/mL、対照(n=10)で0.24±0.05pg/mLであった(図8B)。2つのコホートを組み合わせると、診断されたADのCSF試料の90%が、0.42pg/mLのLLoRQより上であり、一方、年齢適合対照の20%または若年対照の10%のみが、この限度より上であった。全ての値は、0.04pg/mLのLoDより上であった。Aβ40およびAβ42モノマーレベルを、Bioreclamationから入手したCSF試料において測定すると(それぞれ図9Aおよび9B)、それらは、Aβ1−40に関してはADおよび対照のCSFの間で同等であり(図9A)、一方Aβ1−42に関してはAD試料において有意に低減した(図9B)。これは、以前に、AD CSFの特徴として報告されており(De Meyer, et al. (2010) Arch. Neurol. 67:949-956;Jack, et al. (2010) Lancet Neurol. 9:119-128)、これらの試料の正確な診断を確証した。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、AD CSF試料におけるAβ1−42のより低いレベルは、AD脳のアミロイド堆積物におけるAβ1−42の保持に起因すると考えられる。
可溶性オリゴマーAβに対する本発明の抗体の特異性および選択性を考慮して、本発明の抗体は、一度本発明の抗ADDL抗体が脳に到達すると、より豊富なAβの種により希釈されない(表14)ため、比較的低い用量で治療上の利点を提供し得る。理論に束縛されることを望まないが、他の抗Aβ免疫治療の有効性の欠如は、その特異性の欠如に起因し得ると考えられる。特に、これらの他の抗体は極めて豊富なAβモノマーおよび/またはAβ斑種に結合する(表15)ことを考慮すると、有効な用量を得ることは困難となり得る。
例12:19.3の薬物動態分析およびADのモデルにおける有効性
ヒトFcRnマウスにおける薬物動態試験。ヒトFcRnマウス(ヘテロ接合 Tg2576)(Jackson Laboratories, Bar Harbor, ME)は、モノクローナル抗体薬物動態を評価するための貴重な代理システムであることが示されている。ヒトFcRnマウスにおける抗ADDL抗体19.3の薬物動態を特性決定するために、3匹の動物に、尾静脈を介して抗体19.3を10mg/kgで単回静脈内投与した。次いで、抗体19.3またはh3B3のIV投与後0、25、50、75、100、150、250および350時間の時点で10の一連の血液試料を採取し、検証された抗ヒトIgG免疫測定法を使用して、抗体の血中レベルを決定した。図10に示されるように、抗体19.3の血中レベルは二段階で低下し、見掛けのt1/2 は77±6時間であり、これは、親抗体h3B3の約29±9時間の半減期よりも著しく長かった。これらの半減期は、in vitro FcRn結合アッセイにより予測された差に一致していた(図5)、排除段階最終半減期は、非コンパートメントモデル(WINNONLIN(登録商標), Pharsight, Sunnyvale, CA)、および投薬後3日目と15日目との間のデータ点を使用して決定された。
ラットにおける抗体19.3の薬物動態。雄のラットに、2、10、または50mg/kgの抗体19.3をIV注射した。注射から24時間後に、血漿、CSF、および脳内レベルを測定した。3つ全てのコンパートメントにおいて、抗体レベルの線形の用量依存的増加が見られた。CSFおよび脳内レベルは、それぞれ血漿濃度のおよそ0.1%および0.03%であった。
イヌにおける抗体19.3の薬物動態。2匹の雄のビーグル犬に、10mg/kgの抗体19.3をIV注射した。注射から48時間後に、血清、CSF、および脳内レベルを測定した。注射によって、イヌの血清において抗体の著しい濃度が生成され、CSFおよび脳において測定可能な濃度が生成された(表16)。
CSFおよび脳内レベルは、48時間でそれぞれ血清濃度の0.15%および0.02%であった。
非ヒト霊長類における薬物動態試験。霊長類における19.3の予測されるt1/2を確認するために、大槽ポートアカゲザルのコホートにおいて抗ADDL抗体19.3の霊長類薬物動態試験を行った。6匹の動物(雄3匹/雌3匹)に、抗体19.3(5mg/kg)の単回静脈内ボーラスまたは皮下注射を施し、抗体投与後に血液試料を採取した。同時に、0、2、4、8、12、24、30、48、54および72時間の時点で大槽ポートからCSF試料を採取し、血清およびCSF中の抗体19.3の濃度を、抗ヒトIgG ELISAアッセイにより決定した。単回IVボーラス注射により抗体19.3を動物に投与すると、254±28時間のt1/2が観察され、一方、皮下投与後では、204±49時間のt1/2が見られた。さらに、抗体19.3は、霊長類CSF内に横断することができ、最初の48時間の間に濃度が増加し、投与された抗体の約0.1%でピークを迎えることが観察された(図12)。
第2の試験において、試験1日目および7日目に、20mg/kgの抗ADDL抗体19.3を6匹のアカゲザルにIV投与した。血漿およびCSFを投薬後複数の時点で採取した。投薬により、抗体の著しい血漿濃度がもたらされた。第1および第2の投薬に対して測定された値において、有意な差は見られなかった。したがって、2つの投薬の値を、定量分析のために組み合わせた。最終血漿半減期は10.8日日目で測定され、クリアランスは0.75mL/hr/kgであった。抗体投薬により、動物のCSFにおいて、血漿中と同様の経時変化を伴って測定可能なレベルがもたらされ、抗体のCSF濃度は、対応する血漿レベルの約0.05%であった。
追加的な反復投薬試験において、3匹の雄および3匹の雌のアカゲザルに、抗体19.3(100mg/kg)の週1回の投薬を3回行った。最後の投薬後に臨床的および血清学的評価項目を測定し、28日の回復期間後には、いずれの動物においても、死亡、身体的兆候、または体重もしくは食物消費の変化は見られなかった。さらに、関連した血液所見は見られなかった。したがって、アカゲザルにおける無毒性量(NOAEL)は、100mg/kgまでであった。意識のある動物における心臓血管呼吸機能および体温の遠隔測定では、2匹のサルにおいて、同時期の非補正QT間隔(−8%以下)の減少と共に、およびHR補正QT間隔(QTci間隔)に対する影響なしに、収縮期および拡張期血圧ならびに心拍数の増加が見られることが示された。さらに、体温の若干の増加が見られたが、心拍数および呼吸の深さに対する影響はなかった。
アカゲザルにおける抗体19.3の生体内分布。特定の試験において、コンピュータ断層撮影法(CT)と組み合わせたPETを使用して、アカゲザルにおける抗体3D6(バピネオズマブのマウス前駆体)と比較した抗体19.3のin vivo生体内分布が評価された。3匹の雄の成体サルが試験に使用された。抗体19.3および3D6を64Cuで放射性標識化した。血液および血漿カウントを測定し、48時間にわたり様々な時間間隔で全身PET/CTスキャンを得た。PET/CT画像化では、非排出器官/組織に対する抗体間の大きな標的外結合取り込みの差は示されなかった。最も高いシグナルが、血液プールを反映する心臓において観察された。肝臓および腎臓は、標識化された抗体およびより小さいタンパク質断片の排出器官とみなされた。PET画像の検査では、3D6と比較して、24時間および48時間の時点で19.3抗体に対する仙骨部におけるより高い取り込みが明らかとなった。肝臓における両方の抗体の曲線の同様の形状は、標的外結合を示さなかったが、2つの抗体間の非特異的肝クリアランス速度の差を示した。
マウス脳におけるI25I標識化抗ADDL抗体19.3の分布。脳に到達した抗体の濃度を決定するために、12ヶ月齢の雄Tg2576マウス(B6系統;SJL−TgN APPSWE)に、200μgの125I標識化19.3抗体(約8mg/kg)、または2つのコンパレータ抗体の1つを注射(尾静脈)し、2時間後に血液およびCSFを採取した。残留放射能は、脳を取り出す前に、PBSでの心かん流により、脳の血管から排出された。次いで、血液、CSFおよび全脳の試料を、ガンマカウンタ内に設置し、各試料中に存在する放射線標識化抗体の量を決定した。カウント後、脳を4%パラホルムアルデヒドで48時間固定し、次いで浮遊免疫細胞化学用に処理した。マウス脳における抗体19.3の局在化は、非ヒト二次抗体よび標準ABC検出法により検出された。次いで、この免疫反応性をチオフラビンS染色(斑を検出する染料)と組み合わせ、マウス脳における抗体の斑との共局在化を決定した。
図13Aおよび13Bに示されるように、放射線標識化抗体19.3は、マウスCSFおよび脳内に向けて血液脳関門を貫通することができた。さらに、データは、抗体19.3が、CSF中に見られるレベル(0.02%)と比較して、脳内で濃縮される(0.19%)ことを示した。この脳内濃度が抗体19.3とAβとの結合に起因するかどうかを決定するために、脳を固定化し、免疫細胞化学用に処理された。老齢Tg2576マウス脳における抗体分布の分析では、抗体19.3が脳においてチオフラビンS陽性アミロイド斑と結合することが示された(図13Cおよび13D)。これらのデータは、抗体19.3が形質転換マウス脳内に貫通し、関心のあるAβ種に結合することができるという最初の証拠を提供した。
斑堆積モデル。脳におけるアミロイド斑へのADDL堆積を弱める抗ADDL抗体19.3の能力をさらに評価するために、12ヶ月齢の雄Tg2576マウス(Taconic, NY)に、週1回一方向にカニューレ挿入し、海馬内に週1回4週間bADDL(50pmol/μl)を注入した(図14A)。最後のbADDL治療から1週間後、マウスの半数(n=5/治療)にPBSを週1回4週間投薬し(尾静脈)、残りの動物に200μgの抗ADDL抗体(約8mg/kg)を週1回投薬した。全ての動物は、最後の治療から1週間後に安楽死させ、その脳を免疫細胞化学用に処理した。bADDLおよび斑の検出のために、脳切片をストレプトアビジンALEXA FLUOR(登録商標)594(Invitrogen, Carlsbad, CA)でインキュベートし、スライドに載せ、斑をチオフラビンSで染色した。次いで、斑の蛍光画像を、ULTRAVIE ERSソフトウェアを備えるPERKINELMER Rapid Confocal Imagerで捕捉し、斑成長の差を定量した。このモデルの詳細は説明されている(Gaspar, et al. (2010) Exp. Neurol. 223:394-400)。1ヶ月の処置後、ビヒクルのみで処置された動物(図14B;表16)と比較して、抗体19.3で処置された動物において既存の斑への新たなADDLの堆積の大きな低減が観察された(図14C)。
第2の実験シリーズにおいて、動物を上述のようにbADDLで治療したが、最後のbADDL注射から1週間後に開始して、動物に抗ADDL抗体(3B3、抗体19.3のマウス前駆体)の週1回のIV注射を4回行った。3B3の効果を、抗体m266、Aβモノマー選択的抗体(Yamada, et al. (2009) J. Neurosci. 29:11393-8)、またはビヒクルの効果と比較した。抗体の最後の注射から1週間後に動物を安楽死させ、脳組織をβ−アミロイド斑に関して上述のように分析した。この試験の結果は、抗ADDL抗体が脳を貫通し、斑の周りのbADDL堆積を防止し、bADDLハローの周囲の新たなβ−アミロイド斑成長堆積物の蓄積を抑制することができ、一方で、Aβモノマー選択的抗体による治療は、β−アミロイド斑成長を抑制しなかったことを示している(表17)。
抗ADDL抗体治療なしでbADDL注入のみを受けているマウスにおいては、ビオチニル化Aβの存在を反映する陽性3B3シグナルは、4週目において既存の斑と関連していないチオフラビンS陽性高密度コア斑の周囲のハローとして、または別個のbADDL堆積物として出現した。8週目において、4週目のビオチニル化Aβコーティング高密度コア斑またはbADDL堆積斑の周りに、追加的なチオS陽性堆積が観察された。これらの結果は、1ヶ月のbADDL治療期間中のβ−アミロイド斑の成長のさらなる蓄積、および内生的に生成されたAβに起因するビオチニル化Aβ治療の停止後の継続的なβ−アミロイド斑の成長を示していた。抗ADDL抗体によるマウスの治療は、ビオチニル化Aβ陽性斑の周りのハローを有意に低減したが、これは、抗体治療がβ−アミロイド斑のさらなる成長を効果的に防止したことを示している。このデータは、抗ADDL抗体によるIV治療が、脳内のADDLの生物学的作用を低減する上で効果的であることを示している。
抗ADDL抗体3B3による1ヶ月間の処置は、ビヒクルのみ(表17)またはAβモノマー選択的抗体で治療された動物と比較して、β−アミロイド斑のさらなる成長を有意に低減した。これらの結果は、抗ADDL抗体が、脳内に貫通し、ADDLを隔離し、またβ−アミロイド斑のさらなる成長を弱めることができることを示している。
最小有効用量。最小有効用量を決定するために、Tg2576マウス(7ヶ月齢)に、抗体19.3の単回IV投与を行い、例11に記載のサンドイッチELISAアッセイを使用して、24時間後に脳内の抗体19.3:ADDL複合体の分析に供した。雄および雌マウスにおける抗体19.3の単回IV注射は、抗体19.3:ADDL複合体の脳内レベルの用量依存的増加(図15)、および標的結合の直接的証拠をもたらした。さらに、この試験は、10mg/kgを、脳内の抗体19.3:ADDL複合体を有意に増加させる最小有効用量(MED)として特定した。したがって、0.8mg/kg(体重70kgの個人に対して56mg)の用量が、相対成長率に基づくMEDのヒト等価用量(HED)である(マウスからヒトへの換算係数0.08;FDA Guidance Document UCM078932)。
この試験において使用された方法は、脳内のADDLのレベルを測定する機会を提供した。脳抽出物内の抗体19.3:ADDL複合体のレベルを、in vitroで形成されたそのような複合物に基づく標準曲線と比較した。7〜9ヶ月齢のTg2576マウスにおいて、約2nMの濃度のADDLが存在した。IVおよびSC注射により達成され得る抗体のレベルを考慮して、抗ADDL抗体の量は、脳内のADDLのレベルよりも約1桁高かった。したがって、本発明の抗体は、可溶性オリゴマーアミロイドベータ1−42の蓄積に関連する、またはそれからもたらされる疾患の治療において使用できる。
例13:海馬スライスにおける19.3抗体の活性
げっ歯類海馬スライス調製物において、ADDLのシナプス結合は、長期増強(LTP)の急速な遮断をもたらし(Rammes, et al. (2011) Neuropharmacol. 60:982-990)、様々な可溶性Aβオリゴマー調製物のげっ歯類脳への直接注射は、認知機能不全をもたらす(Reed, et al. (2011) Neurobiol. Aging 32:1784-1794)。したがって、このモデルにおいてマウス3B3がLTPのADDL機能不全を逆転し得るかどうかを決定した。19.3の親である抗体3B3は、ヒト化19.3のマウスバージョンであるため、これをこの分析に使用した。Rammes, et al.((2011)上記参照)により説明されるように、電気生理学的記録を行った。簡潔に説明すると、マウス海馬スライスを、オリゴマーAβ1−42(50nM)、3B3抗体(500pM)またはオリゴマーAβ1−42+3B3抗体でかん流した。かん流から20分後、高周波数刺激(100Hz/1s)を使用してLTPを誘導し、興奮性シナプス後場電位(fEPSP)勾配を記録した。この分析では、マウス3B3が、マウス海馬スライスにおけるLTPの急性ADDL機能不全を逆転させることが示された(図16)。
例14:ADのモデルにおける行動に対する抗体19.3の作用
動物における試験、および可溶性Aβオリゴマーの既知の機能に基づく理論的考察は、行動的利益が最初の治療から数日および数週間以内に測定可能な影響をもって急激に現れるはずであることを示している。ADのマウスモデルにおける抗体19.3の急性作用を分析するために、自発運動行動アッセイを使用してin vivo有効性を評価した。対照動物に対するTg2576マウスにおけるオープンフィールド自発運動の増加は、これらの動物におけるアルツハイマー病状の行動学的な読み取り情報として以前に説明されている(Gil-Bea, et al. (2007) Behavioral Neurosci. 121:340-4;King & Arendash (2002) Physiol. Behavior 75:627-42)。この試験において、Tg2576(8〜9ヶ月齢)および野生型マウスを、抗体19.3(30mg/kg)またはビヒクル対照の単回用量で治療し、自発運動(LMA)を、投薬前のベースラインで、ならびに投薬後7日目、14日目、および21日目に再び試験した。ビデオ追跡システムを使用して、自発運動(移動総距離)を、30分の期間にわたる10分の時間間隔の平均として測定した。IgGビヒクルで治療されたTg2576マウスは、30分の期間にわたり移動した距離により測定されるように、注射から14日後に自発運動の有意な増加を示した。この増加は、野生型マウスには観察されなかった。抗体19.3によるTg2576マウスの処理は、ビヒクル対照群に比べ注射後14日目および21日目にLMAを低減し、非形質転換対照動物において見られるレベルまで復帰させた。結果を図17に示す。行動学的試験のデータは、抗体19.3のIV投与が、Tg2576形質転換動物の行動を改変することができ、したがってADの治療に有用であるという証拠を提供する。
また、文脈的恐怖条件付けモデルを使用して行動を評価することができる。文脈的恐怖条件付けは、最も基本的な条件付け手順である。これは、動物(例えばTg2576マウス)を選択して、新規環境内に設置し、嫌悪刺激を提供し、次いでそれを取り除くことを含む。動物は、同じ環境に戻された時、一般に、それを思い出してその環境を嫌悪刺激と関連付けた場合に、静止反応を示す。静止は、恐怖に対する種特異的な反応であり、これは、「呼吸以外の運動の非存在」として定義されている。これは、嫌悪刺激の強さ、提示回数、および対照により達成される学習度に依存して、数秒から数分間持続し得る。Curzon, et al. (2009) Methods of Behavior Analysis in Neuroscience, 2nd Ed., Buccafusco (Ed.), Boca Raton: CRC Pressを参照されたい。
例15:ADの治療における抗体19.3の使用
無作為二重盲検プラセボ対象試験を、CSF中に検出可能なレベルのADDLを有する、軽度から中程度のAD(PETにより確認)に罹患した対象において行うことができる。試験集団は、McKhann基準(McKhann, et al. (2011) Alzheimers Dement. 7:263-9)を使用したアルツハイマー病の臨床基準を満たす45〜90歳の男性および女性で構成され得る。集団は、Aβ堆積;減少したAβ1−42を有するCSF、および検出可能なCSF可溶性Aβオリゴマーを示すフロルベタピルF18PET走査の必要性により、Aβ代謝に障害を有する人の割合を多くすることができる。試験全体にわたり、治療は、1ヶ月間隔で施される3回のIV注入を含み得る。試験における対象に、0.1、0.3、1.0、3.0または10mg/kgの用量を与え、ADの兆候および/または症状に関して監視した。特に、CSF試料を採取し、ADDL:抗体19.3複合体およびCSFバイオマーカー(例えば、Aβ1−40、Aβ1/42、タウ、およびホスホタウ)を測定した。さらに、認知試験、例えばCANTAB(すなわち、対連合学習、パターン認識記憶、空間作業記憶、遅延見本合わせ、反応時間および迅速視覚情報処理)、Cogstateコンピュータ試験、ADAS−Cog(アルツハイマー病評価尺度−認知下位尺度)、MMSE(ミニメンタルステート検査)、神経心理学的状態の評価のための反復バッテリー(RBANS)、ならびに/またはNPI(神経精神病学インベントリ)が行われる。優れた薬物動態学的および薬力学的な血液脳関門貫通、ならびに本明細書において示された安全特性を考慮して、人への投与の結果は、対象への急性対症的利点、および慢性的疾患改質を提供することが期待される。具体的には、シナプス活性のADDL媒介性妨害の逆転は、臨床的に改善された記憶および認知として現れる、改善された海馬活性を可能とすることが期待される。したがって、他の抗Aβモノクローナル抗体とは異なり、本発明の抗ADDL抗体は、短期間の治療の後に測定可能な症状改善をもたらすと予想され、したがって、可溶性オリゴマーアミロイドベータ1−42の蓄積に関連する、またはそれからもたらされる疾患の治療において有用である。