JP6731152B2 - 非水電解液二次電池の製造方法 - Google Patents
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Description
一方で、かかるSEI被膜を形成するには、電解液中の電荷担体であるリチウムイオンを消費する必要がある。近年では、かかるリチウムイオンの消費を抑制するために、非水電解液よりも低い電位で分解されてSEI被膜の材料となるオキサラト錯体リチウム塩(リチウムビスオキサレートボレート:LiBOB)を非水電解液に添加することが行われている(例えば特許文献1、2)。
しかし、フッ素化溶媒は、カーボネート系溶媒に比べてLiBOBが溶解されにくいため、フッ素化溶媒の飽和溶解量のLiBOBを添加するのみでは、LiBOB由来のSEI被膜を十分な厚みで形成することができない可能性があった。
このため、フッ素化溶媒の飽和溶解量を超えた量(過剰量)のLiBOBを添加することが試みられているが、このように過剰量のLiBOBを添加すると、形成後のSEI被膜の厚みにばらつきが生じ、充放電反応が負極の特定の箇所で集中して生じることによる電池性能の劣化が生じることがあった。
かかる製造方法は、セパレータの表面にリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を付与する工程;当該セパレータのLiBOBが付与された面が負極と対向するように、セパレータと負極と正極とを積層して電極体を作製する工程;電池ケース内に電極体と電解液とを収容して電池組立体を構築する工程;および、電池組立体を充電することにより、該電池組立体をLiBOBの分解電位以上かつフッ素化溶媒の分解電位未満の電位にて保持するエージング工程;を包含する。
すなわち、LiBOBをセパレータの表面に付与することによってLiBOBをセパレータの表面に保持することができるため、LiBOBが非水電解液中で沈殿することを防止し、形成後のSEI被膜の厚みにばらつきが生じることを防止できる。
そして、かかるLiBOBが付与されたセパレータを負極と対向させ、LiBOBの供給源と負極とを近接させることによって、LiBOBを負極の表面に好適に供給することができるため、十分な厚みのSEI被膜を形成することができる。
ここで開示される製造方法は、上記の知見に基づいてなされたものであり、セパレータの表面にLiBOBを付与した後、当該LiBOBが付与された面が負極と対向するようにセパレータと負極と正極とを積層する。これによって、LiBOB由来のSEI被膜を十分な厚みで均一に形成することができるため、LiBOBが溶解し難いフッ素化溶媒を含む電解液を用いた場合であっても、容量維持率の低下を適切に抑制することができる。
ここで開示される非水電解液二次電池の製造方法は、(1)LiBOB付与工程と、(2)電極体作製工程と、(3)組立体構築工程と、(4)エージング工程とを包含する。以下、各工程について順に説明する。
なお、以下の説明では、ここで開示される非水電解液二次電池の製造方法の一例として、リチウムイオン二次電池の製造方法を説明するが、かかる説明は本発明の適用対象を限定する意図ではない。
LiBOB付与工程では、セパレータ40の表面にLiBOBを付与してLiBOB層42を形成する(図1参照)。
セパレータ40には、後述する正極10と負極20とを絶縁することができ、かつ、正極10と負極20との間を移動する電荷担体(例えばリチウムイオン)を通過させることができる微小な孔を複数有する絶縁シートが用いられる。かかるセパレータ40としては、例えば、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成された単層構造のシート材或いは積層構造のシート材を用いることができる。また、かかるシート材の表面には、絶縁性を有する粒子の層をさらに形成してもよい。この絶縁性を有する粒子としては、絶縁性を有する無機フィラー(例えば、金属酸化物、金属水酸化物などのフィラー)、或いは、絶縁性を有する樹脂粒子(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの粒子)などが挙げられる。
LiBOBは、オキサラト錯体リチウム塩の一種であり、シュウ酸イオン(C2O4 2−)が、中心元素であるホウ素(B)と配位結合して形成される錯体化合物である。かかるLiBOBは、後述するエージング工程において負極表面へのリチウム供給源となって負極表面にLiBOB由来のSEI被膜を形成するSEI被膜形成用添加剤である。
セパレータ40の表面にLiBOB層42を形成する方法は特に限定されないが、例えば、LiBOBとバインダと溶媒とを混合させたLiBOBスラリーを調製し、かかるLiBOBスラリーをセパレータの表面に塗布した後に乾燥処理を行うという方法が挙げられる。かかるLiBOBスラリーに添加するバインダとしては、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などが挙げられる。また、溶媒としては、N−メチルピロリドン(NMP)などを用いることができる。
具体的なLiBOBの合計量(X1+X2)は、上記したフッ素化溶媒の飽和溶解量Yよりも大きければよく(すなわち(X1+X2)>Y)特に制限されないが、飽和溶解量Yの凡そ25倍以上(すなわち25≦(X1+X2)/Y)にすることが適当であり、好ましくは50倍以上(50≦(X1+X2)/Y)である。
但し、本実施形態においては、電解液に溶解しなかったLiBOBの沈殿が生じないように、フッ素化溶媒へのLiBOBの添加量X2を電解液の飽和溶解量Y以下(X2≦Y)に設定する必要がある。
なお、ここでいう「フッ素化溶媒の飽和溶解量Y」とは、添加時の温度(典型的には常温)においてフッ素化溶媒に可溶なLiBOBの最大溶解量をいう。
図1は本実施形態に係る製造方法の電極体作製工程を模式的に説明する斜視図である。本実施形態に係る製造方法では、図1に示すように、LiBOBが付与された面(LiBOB層42)が負極20と対向するように、セパレータ40と負極20と正極10とを積層して電極体を作製する電極体作製工程を実施する。
なお、本実施形態に係る製造方法では、電極体として捲回電極体と積層電極体の何れを作製してもよい。図1においては、セパレータ40のLiBOB層42と負極20とが対向するように、セパレータ40と負極20と正極10とが一枚ずつ積層された積層体を作製しているが、かかる積層体を捲回することによって捲回電極体を作製することができる。また、当該図1に示される積層体を、セパレータを介してさらに複数組積層させることによって積層電極体を作製することができる。
図1に示すように、正極10は、正極集電体12上に正極活物質を含む正極活物質層14が保持された構成を有する。正極集電体12としては、従来と同様に、導電性の良好な金属からなる導電性部材(例えばアルミニウム箔)が好ましく用いられる。
負極20は、負極集電体22上に負極活物質を含む負極活物質層24が保持された構成を有する。負極集電体22としては、従来と同様に、導電性の良好な金属からなる導電性部材(例えば銅箔)が好ましく用いられる。
負極活物質層24に含まれる負極活物質には、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定なく用いることができ、例えば、グラファイトカーボン(黒鉛)、アモルファスカーボン等のカーボン材料が用いられる。
また、負極活物質層24は、上記した負極活物質の他に、必要に応じてバインダ等の添加材を含有し得る。バインダとしては、上記した正極活物質層14のバインダと同種の物質を用いることができる。
図2は本実施形態に係る非水電解液二次電池の製造方法の組立体構築工程で構築される電池組立体の模式断面図である。図2に示すように、組立体構築工程では、上記の工程で作製した電極体80を、非水電解液(図示省略)と共に、電池ケース50内に収容することによって電池組立体100を構築する。
電池ケース50は、アルミニウム等の金属材料、ポリフェニレンサルファイド等の樹脂材料であり得る。図2に示す電池ケース50は、上端が開放された扁平な直方体形状の電池ケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備えている。なお、電池ケース50の形状は、図2に示すような直方体形状に限定されず、円筒形状等であってもよい。
非水電解液は、有機溶媒(非水溶媒)に支持塩を含有させることによって形成される。そして、本実施形態においては、上記した非水溶媒としてフッ素化溶媒が用いられている。かかるフッ素化溶媒は、耐酸化性の高い(すなわち酸化分解電位の高い)溶媒であるため、高電位正極活物質を用いて正極の電位が高くなった場合でも、正極における非水電解液の酸化分解を抑制することができる。
かかるフッ素化溶媒としては、カーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等のフッ素化物(フッ素含有非水溶媒)が挙げられ、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)等のフッ素化環状カーボネートや、メチル(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート(MTFEC)等のフッ素化鎖状カーボネートなどを好適に用いることができる。なお、フッ素化溶媒は、上記した各種の材料を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
また、支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、0.7mol/L〜1.3mol/Lが好ましい。なお、非水電解液は、上記したフッ素化溶媒と支持塩以外に、ガス発生剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
エージング工程では、電池組立体を充電することにより、該電池組立体をLiBOBの分解電位以上かつフッ素化溶媒の分解電位未満の電位にて保持する。図3は本実施形態に係る非水電解液二次電池の製造方法のエージング工程を模式的に説明する図である。
典型的には、図2に示す電池組立体100の正極端子70と負極端子72に外部電源を接続し、LiBOBの分解電位以上かつフッ素化溶媒の分解電位未満となるように定電流で充電した後、その電位を保つように定電圧充電する。
これによって、図3に示すように、セパレータ40表面のLiBOB層42に含まれるLiBOBが電気的に分解される。分解されたLiBOBは、セパレータ40と負極20との間に充填された非水電解液に溶解した後に、負極20の表面に析出してSEI被膜30を形成する。
また、本実施形態に係る製造方法では、LiBOB層42と負極20とが対向するように配置されているため、LiBOB供給源と負極20とを近接させることができる。これによって、LiBOB供給源から負極20までの距離を短くなり、SEI被膜30を形成する際の反応性を向上させることができるため、LiBOB由来のSEI被膜30を十分な厚みで形成することができる。
以上のように、本実施形態によれば、LiBOB由来のSEI被膜を十分な厚みで均一に形成することができるため、LiBOBが溶解し難いフッ素化溶媒を含む非水電解液を用いた場合であっても、容量維持率の低下を適切に抑制することができる。
次に、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
(1)試験例1
試験例1では、正極を次のようにして作製した。まず、正極活物質としてのスピネル構造リチウムニッケルマンガン複合酸化物粉末(LiNi0.5Mn1.5O4、平均粒径10μm)と、導電材としてのABと、バインダとしてのPVdFとを、正極活物質:導電材:バインダの質量比が87:10:3となるようにN−メチルピロリドン中で混合して正極スラリーを調製した。そして、この正極スラリーを長尺シート状のアルミニウム箔(正極集電体)の片面に塗布して乾燥することにより正極を作製した。
そして、LiBOBとSBRとCMCとを、LiBOB:SBR:CMCの質量比が98:1:1となるようにN−メチルピロリドンに分散させてLiBOBスラリーを調製した。そして、かかるLiBOBスラリーを、0.05MのLiBOBがセパレータの表面に存在するようにセパレータの表面に塗布した後に乾燥処理を行うことによって、セパレータの表面にLiBOB層を形成した。
また、試験例1では、非水電解液に0.15MのLiBOBを添加した。
そして、構築した電池組立体に対し、1/5Cの定電流にて電圧が4.5Vに到達するまで充電し、その後、60℃の温度環境下で定電圧充電を20時間行うエージング処理(活性化処理)を行った。
試験例2では、LiBOB層に含まれるLiBOB量を0.1Mとし、非水電解液に添加するLiBOB量を0.1Mとしたことを除いて、試験例1と同じ条件で電池組立体を構築し、エージング処理を行った。
試験例3では、LiBOB層に含まれるLiBOB量を0.2Mにし、非水電解液にLiBOBを添加しなかったことを除いて、試験例1と同じ条件で電池組立体を構築し、エージング処理を行った。
試験例4では、セパレータの表面にLiBOB層を形成せずに、0.2MのLiBOBを非水電解液に添加したことを除いて、試験例1と同じ条件で電池組立体を構築し、エージング処理を行った。
試験例5では、正極とLiBOB層とが対向するように、正極と負極とセパレータとを積層させて電池組立体を構築したことを除いて、試験例3と同じ条件で電池組立体を構築し、エージング処理を行った。
(1)SEI被膜の均一性の評価
上記した試験例3〜試験例5の電池について、エージング処理を行った後に、負極表面に形成されたSEI被膜の均一性を評価した。具体的には、エージング処理後の電池組み立体を分解し、負極端子72の接続箇所の近傍(図2中の測定開始点X)の負極表面におけるホウ素(B)の存在量をICP発光分光分析によって測定した。そして、かかる測定開始点Xから重力方向Yの下方に向かって5cmと10cmの位置において同様にホウ素(B)の存在量を測定した。結果を図4に示す。
また、本試験例では、下記の(a)および(b)に記載する手順で「初期容量」と「サイクル試験後の電池容量」とを測定し、これらの測定結果に基づいて容量維持率を求めた。
各例のラミネートセルにつき、温度25℃で、以下の手順1、2にしたがって初期容量を測定した。
(手順1)1/5Cの定電流充電によって4.9Vに到達後、電流が1/50Cとなるまで定電圧充電し、満充電状態とした。
(手順2)1/5Cの定電流放電によって、3.5Vに到達するまで定電圧放電した。
そして、手順2における放電容量を初期容量とした。
各例のラミネートセルのそれぞれに対し、60℃において、2Cの定電流で4.9Vに到達するまで充電した後、2Cの定電流で3.5Vに到達するまで放電を行う充放電サイクルを1000回連続して繰り返す高温サイクル試験を行った。
そして、上記した初期容量と、高温サイクル試験後に測定した電池容量とから容量維持率を算出した。ここで、容量維持率は、「サイクル試験後の電池容量/サイクル試験前の電池容量(初期容量)」×100により求めた。結果を表1に示す。
(1)SEI被膜の均一性
図4に示すように、試験例3の電池の負極表面には、重力方向Yにおいて均一な量のホウ素(B)が存在していた。この結果より、試験例3のように、負極と対向するセパレータの面にLiBOBを付与することによって、LiBOB由来のSEI被膜を均一に形成できると解される。
一方、非水電解液に過剰量のLiBOBを添加した試験例4では、重力方向Yの下方に向かうに従ってホウ素(B)の量が増加していた。これは、溶解しなかったLiBOBが沈殿し、重力方向Yの下方の負極に多量のLiBOBが供給された結果、不均一なSEI被膜が形成されたためと解される。
また、試験例5の電池の負極表面には、重力方向Yにおいて均一な量のホウ素(B)が存在していたが、かかるホウ素の存在量が他の試験例よりも少なかった。これは、LiBOB層と正極とを対向させると、負極とLiBOB層との距離が長くなり、十分な厚みのSEI被膜を負極表面に形成できなくなるためと解される。
表1に示すように、容量維持率の評価を行った結果、試験例1〜試験例3のリチウムイオン二次電池では、90%を超える高い容量維持率を有していることが確認できた。このことからも、負極と対向するセパレータの表面にLiBOBを付与することによって、LiBOB由来のSEI被膜を負極表面に均一な厚みで十分に形成することができ、かかるSEI被膜によって容量維持率の低下を好適に抑制できることが分かる。
12 正極集電体
14 正極活物質層
20 負極
22 負極集電体
24 負極活物質層
30 SEI被膜
40 セパレータ
42 LiBOB層
50 電池ケース
52 ケース本体
54 蓋体
70 正極端子
72 負極端子
80 電極体
100 非水電解液二次電池
X 測定開始点
Y 重力方向
Claims (1)
- セパレータを介して正極と負極とが積層されている電極体と、フッ素化溶媒を含む電解液とが電池ケース内に収容された非水電解液二次電池の製造方法であって、
前記セパレータの表面にリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を付与する工程;
当該セパレータのLiBOBが付与された面が前記負極と対向するように、前記セパレータと前記負極と前記正極とを積層して前記電極体を作製する工程;
前記電池ケース内に、前記電極体と前記電解液とを収容して電池組立体を構築する工程;および、
前記電池組立体を充電することにより、該電池組立体を前記LiBOBの分解電位以上かつ前記フッ素化溶媒の分解電位未満の電位にて保持するエージング工程;
を包含し、
前記フッ素化溶媒を含む電解液にLiBOBが添加されており、
前記セパレータの表面における前記LiBOBの添加量X1と、前記電解液における前記LiBOBの添加量X2と、前記フッ素化溶媒のLiBOBの飽和溶解量Yとの関係が下記の式(1)および式(2)を満たす、非水電解液二次電池の製造方法。
X2≦Y (1)
(X1+X2)/Y≧25 (2)
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