以下の実施形態は、多層プリント配線板の製造方法及びこの製造方法で製造された多層プリント配線板に関し、特にプリント配線板上に感光性樹脂組成物の硬化膜を作製する多層プリント配線板の製造方法及びこの製造方法で製造された多層プリント配線板に関する。
以下、本発明の一実施形態について説明する。なお、以下の説明において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」と「メタクリル」のうち少なくとも一方を意味する。例えば、(メタ)アクリレートは、アクリレートとメタクリレートとのうち少なくとも一方を意味する。
本実施形態に係る多層プリント配線板20の製造方法(図1Aから図1E参照)では、プリント配線板1上に感光性樹脂組成物から皮膜4を作製する。感光性樹脂組成物は、カルボキシル基含有樹脂(A)、エチレン性不飽和結合を一分子中に少なくとも一つ有する不飽和化合物(B)、光重合開始剤(C)、及びエポキシ化合物(D)を含有する。この皮膜4を光硬化させることで硬化膜11を作製する。この硬化膜11をアルカリ性溶液で処理してから、硬化膜11に接する導体層8を作製する。導体層8を作製する直前での、硬化膜11における導体層8と接する面の、JIS B0601−2001で規定される算術平均粗さRaは、150nm未満である。
本実施形態では、硬化膜11の算術平均粗さRaが150nm未満であるため、この硬化膜11に接する導体層8を作製しても、多層プリント配線板20の高周波特性の悪化を抑制し、多層プリント配線板20の高速信号の伝送特性を良好に維持できる。
さらに、硬化膜11をアルカリ性溶液で処理することで、硬化膜11からなる層間絶縁層7と導体層8との間の密着性を向上できる。その理由は十分には解明されていないが、硬化膜11をアルカリ溶液で処理すると、硬化膜11の表面は大きくは荒らされないものの、微細な凹凸が生じると考えられ、これが層間絶縁層7と導体層8との間の密着性向上の一因であると推察される。
したがって、層間絶縁層7を粗化せずあるいは粗化の程度が小さくても、層間絶縁層7と導体層8との間の高い密着性を達成できる。
本実施形態で用いる感光性樹脂組成物について、詳しく説明する。
上述のとおり、感光性樹脂組成物は、カルボキシル基含有樹脂(A)、エチレン性不飽和結合を一分子中に少なくとも一つ有する不飽和化合物(B)、光重合開始剤(C)、及びエポキシ化合物(D)を含有する。
カルボキシル基含有樹脂(A)は、エチレン性不飽和基を有するカルボキシル基含有樹脂を含有することが好ましい。この場合、カルボキシル基含有樹脂(A)は、光反応性を有することができる。このため、カルボキシル基含有樹脂(A)は感光性樹脂組成物に感光性、具体的には紫外線硬化性、を付与できる。
カルボキシル基含有樹脂(A)は、芳香環を有するカルボキシル基含有樹脂を含有することが好ましい。この場合、感光性樹脂組成物の硬化物に高い耐熱性及び絶縁信頼性を付与できる。
カルボキシル基含有樹脂(A)は、ビフェニル骨格、ナフタレン骨格、フルオレン骨格、及びアントラセン骨格のうちいずれかの多環芳香環を有するカルボキシル基含有樹脂を含むことがより好ましい。この場合、感光性樹脂組成物の硬化物に、より高い耐熱性及び絶縁信頼性を付与できる。
カルボキシル基含有樹脂(A)は、ビスフェノールフルオレン骨格を有するカルボキシル基含有樹脂(A1)を含有することが好ましい。この場合、カルボキシル基含有樹脂(A)を含有する感光性樹脂組成物の硬化物に、更に高い耐熱性及び絶縁信頼性を付与できる。
カルボキシル基含有樹脂(A1)は、例えばエポキシ化合物(a1)と不飽和基含有カルボン酸(a2)との反応物である中間体と、酸二無水物(a3)及び酸一無水物(a4)と、の反応物である。エポキシ化合物(a1)は、ビスフェノールフルオレン骨格を有する。ビスフェノールフルオレン骨格は、下記式(1)で示され、式(1)中、R1〜R8は各々独立に水素、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲンである。
式(1)におけるR1〜R8の各々は、水素でもよいが、炭素数1〜5のアルキル基又はハロゲンでもよい。なぜなら、芳香環における水素が低分子量のアルキル基又はハロゲンで置換されても、カルボキシル基含有樹脂(A1)の物性に悪影響はなく、むしろカルボキシル基含有樹脂(A1)を含む感光性樹脂組成物の硬化物の耐熱性あるいは難燃性が向上する場合もあるからである。
カルボキシル基含有樹脂(A1)がエポキシ化合物(a1)に由来するビスフェノールフルオレン骨格を有していると、カルボキシル基含有樹脂(A1)を含有する感光性樹脂組成物の硬化物に高い耐熱性及び絶縁信頼性を付与できる。
カルボキシル基含有樹脂(A1)について、より具体的に説明する。カルボキシル基含有樹脂(A1)を合成するためには、まず式(1)で示されるビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ化合物(a1)におけるエポキシ基の少なくとも一部と、不飽和基含有カルボン酸(a2−1)を含むカルボン酸(a2)とを反応させることで、中間体を合成する。中間体の合成は、第一反応と規定される。中間体は、エポキシ基と不飽和基含有カルボン酸(a2−1)を含むカルボン酸(a2)との開環付加反応により生じた二級の水酸基を有する。次に、中間体中の二級の水酸基と、酸無水物(a3)とを反応させる。これにより、カルボキシル基含有樹脂(A1)を合成できる。中間体と酸無水物(a3)との反応は、第二反応と規定される。酸無水物(a3)は、酸一無水物及び酸二無水物を含みうる。酸一無水物とは、一分子内における二つのカルボキシル基が脱水縮合した、酸無水物基を一つ有する化合物である。酸二無水物とは、一分子内における四つのカルボキシル基が脱水縮合した、酸無水物基を二つ有する化合物である。
カルボキシル基含有樹脂(A1)は、中間体中の未反応の成分を含んでいてもよい。また、酸無水物(a3)が酸一無水物及び酸二無水物を含む場合は、カルボキシル基含有樹脂(A1)は、中間体中の成分と酸一無水物中の成分と酸二無水物中の成分との反応物のほか、中間体中の成分と酸一無水物中の成分との反応物、及び中間体中の成分と酸二無水物中の成分の反応物のうち、いずれか一方又は両方を含有してもよい。すなわち、カルボキシル基含有樹脂(A1)は、これらのような構造の異なる複数の化合物を含む混合物であってよい。
カルボキシル基含有樹脂(A1)は、不飽和基含有カルボン酸(a2−1)に由来するエチレン性不飽和基を有することで光反応性を有する。このため、カルボキシル基含有樹脂(A1)は感光性樹脂組成物に感光性、具体的には紫外線硬化性、を付与できる。また、カルボキシル基含有樹脂(A1)は、酸無水物(a3)に由来するカルボキシル基を有することで、感光性樹脂組成物に、アルカリ金属塩及びアルカリ金属水酸化物のうち少なくとも一方を含有するアルカリ性水溶液による現像性を付与できる。
カルボキシル基含有樹脂(A1)の重量平均分子量は700以上10000以下の範囲内であることが好ましい。重量平均分子量が700以上であると、感光性樹脂組成物の硬化物の絶縁性を向上できるとともに、誘電正接を低減できる。また、重量平均分子量が10000以下であると、感光性樹脂組成物のアルカリ性水溶液による現像性が特に向上する。重量平均分子量は、900以上であることが更に好ましく、1000以上であることが特に好ましい。また、重量平均分子量は、8000以下の範囲内であることが更に好ましく、5000以下の範囲内であることが特に好ましい。
カルボキシル基含有樹脂(A1)の多分散度が1.0以上4.8以下の範囲内であることが好ましい。この場合、感光性樹脂組成物から形成される硬化物の良好な絶縁性を確保しながら、感光性樹脂組成物に優れた現像性を付与できる。カルボキシル基含有樹脂(A1)の多分散度が1.1以上4.0以下であることがより好ましく、1.2以上2.8以下であることが更に好ましい。
上記のようなカルボキシル基含有樹脂(A1)の数平均分子量及び分子量分布は、カルボキシル基含有樹脂(A1)が、中間体中の未反応の成分、中間体中の成分と酸一無水物中の成分と酸二無水物中の成分との反応物、中間体中の成分と酸一無水物中の成分との反応物、中間体中の成分と酸二無水物中の成分の反応物といった、多様な成分を適度に含有する混合物であることで、達成できる。より具体的には、例えばエポキシ化合物(a1)の平均分子量、エポキシ化合物(a1)に対する酸一無水物の量、エポキシ化合物(a1)に対する酸二無水物の量といったパラメータを制御することで、達成できる。
なお、多分散度は、カルボキシル基含有樹脂(A1)の数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比の値(Mw/Mn)である。
カルボキシル基含有樹脂(A1)の固形分酸価は60mgKOH/g以上140mgKOH/g以下の範囲内であることが好ましい。この場合、感光性樹脂組成物の現像性が特に向上する。酸価が80mgKOH/g以上135mgKOH/g以下の範囲内であればより好ましく、酸価が90mgKOH/g以上130mgKOH/g以下の範囲内であれば更に好ましい。
カルボキシル基含有樹脂(A1)の分子量は、酸二無水物の架橋によって調整されうる。この場合、酸価と分子量とが調整されたカルボキシル基含有樹脂(A1)が得られる。すなわち、酸無水物(a3)中に含まれる酸二無水物の量を制御することで、カルボキシル基含有樹脂(A1)の分子量及び酸価を容易に調整できる。なお、カルボキシル基含有樹脂(A1)の分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィによる次の条件での測定結果から算出される。
GPC装置:昭和電工社製 SHODEX SYSTEM 11、
カラム:SHODEX KF−800P,KF−005,KF−003,KF−001の4本直列、
移動相:THF、
流量:1ml/分、
カラム温度:45℃、
検出器:RI、
換算:ポリスチレン。
カルボキシル基含有樹脂(A1)の原料、並びにカルボキシル基含有樹脂(A1)の合成時の反応条件について詳しく説明する。
エポキシ化合物(a1)は、例えば下記式(2)に示す構造を有する。式(2)中のnは、例えば0〜20の範囲内の整数である。カルボキシル基含有樹脂(A1)の分子量を適切に制御するためには、nの平均は0〜1の範囲内であることが特に好ましい。nの平均が0〜1の範囲内であれば、酸無水物(a3)が酸二無水物を含有する場合でも、過剰な分子量の増大が抑制されやすくなる。
カルボン酸(a2)は、不飽和基含有カルボン酸(a2−1)を含む。カルボン酸(a2)は、不飽和基含有カルボン酸(a2−1)のみを含んでいてもよい。あるいは、カルボン酸(a2)は、不飽和基含有カルボン酸(a2−1)と、不飽和基含有カルボン酸(a2−1)以外のカルボン酸を含んでいてもよい。
不飽和基含有カルボン酸(a2−1)は、例えばエチレン性不飽和基を1個のみ有する化合物を含有できる。より具体的には、不飽和基含有カルボン酸(a2−1)は、例えばアクリル酸、メタクリル酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレート、クロトン酸、桂皮酸、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸、2−アクリロイルオキシプロピルフタル酸、2−メタクリロイルオキシプロピルフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2−メタクリロイルオキシエチルマレイン酸、β−カルボキシエチルアクリレート、2−アクリロイルオキシエチルテトラヒドロフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルテトラヒドロフタル酸、2−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸、及び2−メタクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸からなる群から選択される一種以上の化合物を含有できる。好ましくは、不飽和基含有カルボン酸(a2−1)がアクリル酸を含有する。
カルボン酸(a2)は、多塩基酸(a2−2)を含んでもよい。多塩基酸(a2−2)は、1分子内において2つ以上の水素原子が金属原子と置換可能な酸である。多塩基酸(a2−2)は、カルボキシル基を2つ以上有することが好ましい。この場合、エポキシ化合物(a1)は、不飽和基含有カルボン酸(a2−1)及び多塩基酸(a2−2)の両方と反応する。エポキシ化合物(a1)の2つの分子中に存在するエポキシ基を多塩基酸(a2−1)が架橋することで、分子量の増大が得られる。それにより、感光性樹脂組成物の硬化物の絶縁性を向上できると共に、誘電正接を低減できる。
多塩基酸(a2−2)は、ジカルボン酸を含むことが好ましい。多塩基酸(a2−2)は、例えば、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸からなる群から選択される一種以上の化合物を含有できる。好ましくは、多塩基酸(a2−2)が4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸を含有する。
エポキシ化合物(a1)とカルボン酸(a2)とを反応させるに当たっては、公知の方法が採用されうる。例えばエポキシ化合物(a1)の溶剤溶液にカルボン酸(a2)を加え、更に必要に応じて熱重合禁止剤及び触媒を加えて攪拌混合することで、反応性溶液を得る。この反応性溶液を常法により好ましくは60℃以上150℃以下、特に好ましくは80℃以上120℃以下の温度で反応させることで、中間体が得られる。溶剤は、例えばメチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、及びトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、及び酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類、及びジアルキルグリコールエーテル類からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。熱重合禁止剤は例えばハイドロキノン及びハイドロキノンモノメチルエーテルのうち少なくとも一方を含有する。触媒は例えばベンジルジメチルアミン、トリエチルアミン等の第3級アミン類、トリメチルベンジルアンモニウムクロライド、メチルトリエチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩類、トリフェニルフォスフィン、及びトリフェニルスチビンからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
触媒が特にトリフェニルフォスフィンを含有することが好ましい。すなわち、トリフェニルフォスフィンの存在下で、エポキシ化合物(a1)とカルボン酸(a2)とを反応させることが好ましい。この場合、エポキシ化合物(a1)におけるエポキシ基とカルボン酸(a2)との開環付加反応が特に促進され、95%以上、あるいは97%以上、あるいはほぼ100%の反応率(転化率)を達成することが可能である。また、感光性樹脂組成物の硬化物を含む層におけるイオンマイグレーションの発生が抑制され、硬化物を含む層の絶縁性が向上する。
エポキシ化合物(a1)とカルボン酸(a2)とを反応させる際のエポキシ化合物(a1)のエポキシ基1モルに対するカルボン酸(a2)の量は0.5モル以上1.2モル以下の範囲内であることが好ましい。この場合、感光性樹脂組成物の優れた感光性と安定性が得られる。同様の観点から、エポキシ化合物(a1)のエポキシ基1モルに対する不飽和基含有カルボン酸(a2−1)の量が0.5モル以上1.2モル以下の範囲内であることが好ましい。あるいは、カルボン酸(a2)が、不飽和基含有カルボン酸(a2−1)以外のカルボン酸を含む場合には、エポキシ化合物(a1)のエポキシ基1モルに対する不飽和基含有カルボン酸(a2−1)の量が0.5モル以上0.95モル以下の範囲内であってもよい。また、カルボン酸(a2)が、多塩基酸(a2−2)を含む場合、エポキシ化合物(a1)のエポキシ基1モルに対する多塩基酸(a2−2)の量は0.025モル以上0.25モル以下の範囲内であることが好ましい。この場合、感光性樹脂組成物の優れた感光性と安定性が得られる。
エポキシ化合物(a1)とカルボン酸(a2)とを、エアバブリング下で反応させることも好ましい。この場合、不飽和基の付加重合反応を抑制して、中間体の分子量の増大及び中間体の溶液のゲル化を抑制できる。また、最終生成物であるカルボキシル基含有樹脂(A1)の過度な着色を抑制できる。
このようにして得られる中間体は、エポキシ化合物(a1)におけるエポキシ基とカルボン酸(a2)におけるカルボキシル基とが反応することで生成した水酸基を備える。
酸無水物(a3)は酸一無水物を含むことが好ましい。酸一無水物は、酸無水物基を一つ有する化合物である。
酸一無水物は、ジカルボン酸の無水物を含有できる。酸一無水物は、例えば1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、フタル酸無水物、コハク酸無水物、メチルコハク酸無水物、マレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、グルタル酸無水物、イタコン酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルナジック酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物、及びメチルヘキサヒドロフタル酸無水物からなる群から選択される一種以上の化合物を含有できる。特に酸一無水物が1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸を含有することが好ましい。この場合、感光性樹脂組成物の良好な現像性を確保しながら、感光性樹脂組成物の硬化物の絶縁性を向上できる。酸一無水物全体に対して、1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸は20モル%以上100モル%以下の範囲内であることが好ましく、40モル%以上100モル%以下の範囲内であることがより好ましいが、これに限られない。
酸無水物(a3)は酸二無水物を含むことが好ましい。酸二無水物は、酸無水物基を二つ有する化合物である。酸二無水物は、テトラカルボン酸の無水物を含有できる。酸二無水物は、例えば1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、9,9´−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、グリセリンビスアンヒドロトリメリテートモノアセテート、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、3,3´,4,4´−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、1,3,3a,4,5,9b−ヘキサヒドロ−5(テトラヒドロ−2,5−ジオキソ−3−フラニル)ナフト〔1,2−c〕フラン−1,3−ジオン、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物及び3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。酸二無水物は、芳香環を有する酸二無水物を含有することが好ましい。特に酸二無水物が3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含有することが好ましい。この場合、感光性樹脂組成物の良好な現像性を確保しながら、感光性樹脂組成物の硬化物の絶縁性を向上できる。また、感光性樹脂組成物の透明性が向上し、それに伴い解像性が向上する。酸二無水物全体に対して、3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は20モル%以上100モル%以下の範囲内であることが好ましく、40モル%以上100モル%以下の範囲内であることがより好ましいが、これに限られない。
中間体と酸無水物(a3)とを反応させるに当たっては、公知の方法が採用されうる。例えば中間体の溶剤溶液に酸無水物(a3)を加え、更に必要に応じて熱重合禁止剤及び触媒を加えて攪拌混合することで、反応性溶液を得る。この反応性溶液を常法により好ましくは60℃以上150℃以下、特に好ましくは80℃以上120℃以下の温度で反応させることで、カルボキシル基含有樹脂(A1)が得られる。溶剤、触媒及び重合禁止剤としては、適宜のものが使用でき、中間体の合成時に使用した溶剤、触媒及び重合禁止剤をそのまま使用することもできる。
触媒が特にトリフェニルフォスフィンを含有することが好ましい。すなわち、トリフェニルフォスフィンの存在下で、中間体と、酸無水物(a3)とを反応させることが好ましい。この場合、中間体における二級の水酸基と酸無水物(a3)との反応が特に促進され、90%以上、95%以上、97%以上、あるいはほぼ100%の反応率(転化率)を達成することが可能である。また、感光性樹脂組成物の硬化物を含む層におけるイオンマイグレーションの発生が抑制され、硬化物を含む層の絶縁性が更に向上する。
中間体と、酸無水物(a3)とを、エアバブリング下で反応させることも好ましい。この場合、生成されるカルボキシル基含有樹脂(A1)の過度な分子量増大が抑制されることで、感光性樹脂組成物のアルカリ性水溶液による現像性が特に向上する。
カルボキシル基含有樹脂(A)は、芳香環を有し、光重合性を有さないカルボキシル基含有樹脂を含んでもよい。芳香環を有し、光重合性を有さないカルボキシル基含有樹脂は、例えばカルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物を含むエチレン性不飽和単量体の重合体を含有する。カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物は、アクリル酸、メタクリル酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート等の化合物を含有できる。カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物は、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート等と二塩基酸無水物との反応物も含有できる。エチレン性不飽和単量体は、直鎖又は分岐の脂肪族あるいは脂環族(但し、環中に一部不飽和結合を有してもよい)の(メタ)アクリル酸エステル等の、カルボキシル基を有さないエチレン性不飽和化合物を更に含有してもよい。
カルボキシル基含有樹脂(A)は、カルボキシル基含有樹脂(A1)以外の樹脂、すなわちビスフェノールフルオレン骨格を有さないカルボキシル基含有樹脂(以下、カルボキシル基含有樹脂(A2)ともいう)を含有してもよい。
カルボキシル基含有樹脂(A2)は、例えば、カルボキシル基を有し光重合性を有さない化合物(以下、(A2−1)成分という)を含有できる。(A2−1)成分は、例えばカルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物を含むエチレン性不飽和単量体の重合体を含有する。カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物は、アクリル酸、メタクリル酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレート等の化合物を含有できる。カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物は、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート等と二塩基酸無水物との反応物も含有できる。エチレン性不飽和単量体は、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート、直鎖又は分岐の脂肪族あるいは脂環族(但し、環中に一部不飽和結合を有してもよい)の(メタ)アクリル酸エステル等の、カルボキシル基を有さないエチレン性不飽和化合物を更に含有してもよい。
カルボキシル基含有樹脂(A2)は、カルボキシル基及びエチレン性不飽和基を有する化合物(以下、(A2−2)成分という)を含有してもよい。またカルボキシル基含有樹脂(A2)は、(A2−2)成分のみを含有してもよい。(A2−2)成分は、例えば一分子中に二個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物(x1)とエチレン性不飽和化合物(x2)との反応物である中間体と、多価カルボン酸及びその無水物の群から選択される少なくとも一種の化合物(x3)との反応物である樹脂(第一の樹脂(x)という)を含有する。第一の樹脂(x)は、例えばエポキシ化合物(x1)中のエポキシ基と、エチレン性不飽和化合物(x2)中のカルボキシル基とを反応させて得られた中間体に化合物(x3)を付加させて得られる。エポキシ化合物(x1)は、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、ビフェニルノボラック型エポキシ化合物等の適宜のエポキシ化合物を含有できる。特にエポキシ化合物(x1)はビフェニルノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物の群から選択される少なくとも1種の化合物を含有することが好ましい。エポキシ化合物(x1)は、ビフェニルノボラック型エポキシ化合物のみを含有してもよく、あるいはクレゾールノボラック型エポキシ化合物のみを含有してもよい。この場合、エポキシ化合物(x1)の主鎖に芳香族環が含まれるので、感光性樹脂組成物の硬化物が、例えば過マンガン酸カリウムなどを含有する酸化剤により、著しく腐食される程度を低減できる。エポキシ化合物(x1)は、エチレン性不飽和化合物(z)の重合体を含有してもよい。エチレン性不飽和化合物(z)は、例えばグリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する化合物(z1)を含有し、あるいは更に2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート等のエポキシ基を有さない化合物(z2)を含有する。エチレン性不飽和化合物(x2)は、アクリル酸及びメタクリル酸のうち少なくとも一方を含有することが好ましい。化合物(x3)は、例えばフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸等の多価カルボン酸と、これらの多価カルボン酸の無水物とからなる群から選択される一種以上の化合物を含有する。特に化合物(x3)はフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸の群から選択される少なくとも1種の多価カルボン酸を含有することが好ましい。
(A2−2)成分は、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物を含有するエチレン性不飽和単量体の重合体とエポキシ基を有するエチレン性不飽和化合物との反応物である樹脂(第二の樹脂(y)という)を含有してもよい。エチレン性不飽和単量体はカルボキシル基を有さないエチレン性不飽和化合物を更に含有してもよい。第二の樹脂(y)は、重合体におけるカルボキシル基の一部にエポキシ基を有するエチレン性不飽和化合物を反応させることで得られる。エチレン性不飽和単量体は、カルボキシル基を有さないエチレン性不飽和化合物を更に含有してもよい。カルボキシル基を有するエチレン性不飽和化合物は、例えばアクリル酸、メタクリル酸、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトン(n≒2)モノアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート等の化合物を含有する。カルボキシル基を有さないエチレン性不飽和化合物は、例えば2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート、直鎖又は分岐の脂肪族あるいは脂環族(但し、環中に一部不飽和結合を有してもよい)の(メタ)アクリル酸エステル等の化合物を含有する。エポキシ基を有するエチレン性不飽和化合物は、グリシジル(メタ)アクリレートを含有することが好ましい。
カルボキシル基含有樹脂(A)は、カルボキシル基含有樹脂(A1)のみ、カルボキシル基含有樹脂(A2)のみ、又はカルボキシル基含有樹脂(A1)とカルボキシル基含有樹脂(A2)とを含有する。感光性樹脂組成物の高い透明性を得るため、及び感光性樹脂組成物の硬化物の誘電正接を低減するためには、カルボキシル基含有樹脂(A)は、カルボキシル基含有樹脂(A1)を30質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、100質量%含むことが更に好ましい。
カルボキシル基含有樹脂(A)の含有量は、感光性樹脂組成物の固形分量に対して5質量%以上85質量%以下の範囲内であることが好ましく、10質量%以上75質量%以下の範囲内であることがより好ましく、26質量%以上60質量%以下の範囲内であることが更に好ましく、30質量%以上45質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。なお、固形分量とは、感光性樹脂組成物から溶剤などの揮発性成分を除いた、全成分の合計量のことである。
カルボキシル基含有樹脂(A)の固形分酸価は、40mgKOH/g以上160mgKOH/g以下の範囲内であることが好ましい。この場合、感光性樹脂組成物の安定性が特に向上する。酸価が60mgKOH/g以上140mgKOH/g以下の範囲内であればより好ましく、酸価が80mgKOH/g以上135mgKOH/g以下の範囲内であれば更に好ましく、酸価が90mgKOH/g以上130mgKOH/g以下の範囲内であれば特に好ましい。
不飽和化合物(B)は、感光性樹脂組成物に光硬化性を付与できる。不飽和化合物(B)は、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート;並びにジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン変性ペンタエリストールヘキサアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。
特に不飽和化合物(B)は、三官能の化合物、すなわち一分子中に不飽和結合を3つ有する化合物を含有することが好ましい。この場合、感光性樹脂組成物から形成される皮膜4を露光・現像する場合の解像性が向上すると共に、感光性樹脂組成物のアルカリ性水溶液による現像性が特に向上する。三官能の化合物は、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート及びε−カプロラクトン変性トリス−(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート及びエトキシ化グリセリントリ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。
不飽和化合物(B)は、リン含有化合物(リン含有不飽和化合物)を含有することも好ましい。この場合、感光性樹脂組成物の硬化物の難燃性が向上する。リン含有不飽和化合物は、例えば2−メタクリロイロキシエチルアシッドフォスフェート(具体例として共栄社化学株式会社製の品番ライトエステルP−1M、及びライトエステルP−2M)、2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート(具体例として共栄社化学株式会社製の品番ライトアクリレートP−1A)、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルフォスフェート(具体例として大八工業株式会社製の品番MR−260)、並びに昭和高分子株式会社製のHFAシリーズ(具体例としてジペンタエリストールヘキサアクリレートとHCA(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキサイド)との付加反応物である品番HFA−6003、及びHFA−6007、カプロラクトン変性ジペンタエリストールヘキサアクリレートとHCA(9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−フォスファフェナントレン−10−オキサイド)との付加反応物である品番HFA−3003、及びHFA−6127等)からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。
不飽和化合物(B)は、プレポリマーを含有してもよい。プレポリマーは、例えばエチレン性不飽和結合を有するモノマーを重合させてからエチレン性不飽和基を付加して得られるプレポリマー、並びにオリゴ(メタ)アクリレートプレポリマー類からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。オリゴ(メタ)アクリレートプレポリマー類は、例えばエポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、アルキド樹脂(メタ)アクリレート、シリコーン樹脂(メタ)アクリレート、及びスピラン樹脂(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
光重合開始剤(C)は、例えばアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含有する。すなわち、感光性樹脂組成物は例えばアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤を含有する。この場合、感光性樹脂組成物を紫外線で露光する場合に、感光性樹脂組成物に高い感光性を付与できる。また、感光性樹脂組成物の硬化物を含む層におけるイオンマイグレーションの発生が抑制され、同層の絶縁信頼性が更に向上する。
また、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤は硬化物の電気絶縁性を阻害しにくい。このため、感光性樹脂組成物を露光硬化することで、電気的絶縁性に優れた硬化物が得られ、この硬化物は、層間絶縁層7として好適である。
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤は、例えば2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−エチル−フェニル−フォスフィネート等のモノアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、並びにビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のビスアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。特にアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤が2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドを含有することが好ましく、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤が2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイドのみを含有することも好ましい。
光重合開始剤(C)はアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤に加えてヒドロキシケトン系光重合開始剤を含有することが好ましい。すなわち感光性樹脂組成物はヒドロキシケトン系光重合開始剤を含有することが好ましい。この場合、ヒドロキシケトン系光重合開始剤を含有しない場合と比べて、感光性樹脂組成物に更に高い感光性を付与できる。これにより、感光性樹脂組成物から形成される塗膜に紫外線を照射して硬化させる場合、塗膜をその表面から深部に亘って十分に硬化させることが可能となる。ヒドロキシケトン系光重合開始剤としては、例えば1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、フェニルグリオキシックアシッドメチルエステル、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン及び2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オンが挙げられる。
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤とヒドロキシケトン系光重合開始剤との質量比は、1:0.01〜1:10の範囲内であることが好ましい。この場合、感光性樹脂組成物から形成される塗膜の表面付近における硬化性と深部における硬化性とを、バランス良く向上させうる。ここで、感光性樹脂組成物が有機フィラー(E)を含有することにより、有機フィラー(E)が、露光時に、感光性樹脂組成物内で光散乱を生じさせる場合がある。この場合、感光性樹脂組成物で良好な現像性が得られない問題が生じる可能性がある。このような観点から、解像性を向上させて良好な現像性を感光性樹脂組成物で得るために、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤とヒドロキシケトン系光重合開始剤との質量比は、1:0.01〜1:1の範囲内であることが特に好ましい。
光重合開始剤(C)は、ベンゾフェノン骨格を有する光重合開始剤を含有することも好ましい。すなわち、感光性樹脂組成物がアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤及びベンゾフェノン骨格を有する光重合開始剤を含有し、あるいはアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤、ヒドロキシケトン系光重合開始剤及びベンゾフェノン骨格を有する光重合開始剤を含有することも好ましい。この場合、感光性樹脂組成物から形成される塗膜を部分的に露光してから現像する場合、露光されない部分の硬化が抑制されるから、解像性が特に高くなる。このため、非常に微細なパターンの感光性樹脂組成物の硬化物を形成できる。特に、感光性樹脂組成物から多層プリント配線板20の層間絶縁層7を作製すると共にこの層間絶縁層7にビア10のための小径の穴6をフォトリソグラフィー法で設ける場合(図1C及び図1D参照)、小径の穴6を精密且つ容易に形成できる。ベンゾフェノン骨格を有する光重合開始剤としては、例えば、ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンが挙げられる。
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤に対するベンゾフェノン骨格を有する光重合開始剤の量は、0.5質量%以上20質量%以下の範囲内であることが好ましい。アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤に対するベンゾフェノン骨格を有する光重合開始剤の量が0.5質量%以上であると、解像性が特に高くなる。また、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤に対するベンゾフェノン骨格を有する光重合開始剤の量が20質量%以下であると、感光性樹脂組成物の硬化物の電気絶縁性を、ベンゾフェノン骨格を有する光重合開始剤が阻害しにくい。同様の観点から、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤に対するビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンの量は、0.5質量%以上20質量%以下の範囲内であることが好ましい。ここで、感光性樹脂組成物が有機フィラー(E)を含有することにより、有機フィラー(E)が、露光時に、感光性樹脂組成物内で光散乱を生じさせる場合がある。この場合、感光性樹脂組成物で良好な現像性が得られない問題が生じる可能性がある。このような観点から、良好な解像性を感光性樹脂組成物で得るために、ベンゾフェノン骨格を有する光重合開始剤の量は、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤に対して1質量%以上18質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。同様の観点から、ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノンの量は、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤に対して1質量%以上18質量%以下の範囲内であることが特に好ましい。
光重合開始剤(C)は、上記の好ましい例には制限されず、公知の化合物から適宜選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
感光性樹脂組成物は、公知の光重合促進剤、増感剤等を更に含有してもよい。例えば感光性樹脂組成物は、ベンゾインとそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、ベンジルジメチルケタール等のアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン類;ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4´−メチルジフェニルスルフィド等のベンゾフェノン類;2,4−ジイソプロピルキサントン等のキサントン類;並びに2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン等のα−ヒドロキシケトン類;2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン等の窒素原子を含む化合物からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。感光性樹脂組成物は、光重合開始剤(C)と共に、p−ジメチル安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、2−ジメチルアミノエチルベンゾエート等の第三級アミン系等の公知の光重合促進剤や増感剤等を含有してもよい。感光性樹脂組成物は、必要に応じて、可視光露光用の光重合開始剤及び近赤外線露光用の光重合開始剤のうちの少なくとも一種を含有してもよい。感光性樹脂組成物は、光重合開始剤(C)と共に、レーザ露光法用増感剤である7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン等のクマリン誘導体、カルボシアニン色素系、キサンテン色素系等を含有してもよい。
エポキシ化合物(D)は、感光性樹脂組成物に熱硬化性を付与できる。エポキシ化合物(D)は、1分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有することが好ましい。エポキシ化合物(D)は、溶剤難溶性エポキシ化合物であってもよく、汎用の溶剤可溶性エポキシ化合物であってもよい。エポキシ化合物(D)はフェノールノボラック型エポキシ樹脂(具体例としてDIC株式会社製の品番EPICLON N−775)、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(具体例としてDIC株式会社製の品番EPICLON N−695)、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂(具体例としてDIC株式会社製の品番EPICLON N−865)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(具体例として三菱化学株式会社製の品番jER1001)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(具体例として三菱化学株式会社製の品番jER4004P)、ビスフェノールS型エポキシ樹脂(具体例としてDIC株式会社製の品番EPICLON EXA−1514)、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂(具体例として三菱化学株式会社製の品番YX4000)、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂(具体例として日本化薬株式会社製の品番NC−3000)、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(具体例として新日鉄住金化学株式会社製の品番ST−4000D)、ナフタレン型エポキシ樹脂(具体例としてDIC株式会社製の品番EPICLON HP−4032、EPICLON HP−4700、EPICLON HP−4770)、ハイドロキノン型エポキシ樹脂(具体例として新日鉄住金化学社製の品番YDC−1312)、ターシャリーブチルカテコール型エポキシ樹脂(具体例としてDIC株式会社製の品番EPICLON HP−820)、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂(具体例としてDIC製の品番EPICLON HP−7200)、アダマンタン型エポキシ樹脂(具体例として出光興産株式会社製の品番ADAMANTATE X−E−201)、ビスフェノール型エポキシ樹脂(具体例として新日鉄住金化学製の品番YSLV−80XY)、ビフェニルエーテル型エポキシ樹脂(具体例として新日鉄住金化学株式会社製の品番YSLV−80DE))、テトラキスフェノールエタン型エポキシ樹脂(具体例として日本化薬株式会社製の品番GTR−1800)ビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ樹脂(具体例として構造(S7)を有するエポキシ樹脂)、ゴム状コアシェルポリマー変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂(具体例として株式会社カネカ製の品番MX−156)、ゴム状コアシェルポリマー変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂(具体例として株式会社カネカ製の品番MX−136)、並びに特殊二官能型エポキシ樹脂(具体例として、三菱化学株式会社製の品番YL7175−500、及びYL7175−1000;DIC株式会社製の品番EPICLON TSR−960、EPICLON TER−601、EPICLON TSR−250−80BX、EPICLON 1650−75MPX、EPICLON EXA−4850、EPICLON EXA−4816、EPICLON EXA−4822、及びEPICLON EXA−9726;新日鉄住金化学株式会社製の品番YSLV−120TE)からなる群から選択される一種以上の成分を含有することが好ましい。
エポキシ化合物(D)は、結晶性エポキシ樹脂を含有することが好ましい。この場合、感光性樹脂組成物の現像性を向上させうる。なお、結晶性エポキシ樹脂とは、融点を有するエポキシ樹脂のことである。結晶性エポキシ樹脂は、例えば、トリグリシジルイソシアヌレート(1,3,5−トリス(2,3−エポキシプロピル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン)、ハイドロキノン型結晶性エポキシ樹脂(具体例として新日鉄住金化学株式会社製の品名YDC−1312)、ビフェニル型結晶性エポキシ樹脂(具体例として三菱化学株式会社製の品番YX−4000)、ジフェニルエーテル型結晶性エポキシ樹脂(具体例として新日鉄住金化学株式会社製の品番YSLV−80DE)、ビスフェノール型結晶性エポキシ樹脂(具体例として新日鉄住金化学株式会社製の品番YSLV−80XY)、テトラキスフェノールエタン型結晶性エポキシ樹脂(具体例として日本化薬株式会社製の品番GTR−1800)、ビスフェノールフルオレン型結晶性エポキシ樹脂(具体例として構造(S7)を有するエポキシ樹脂)からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
エポキシ化合物(D)に対する結晶性エポキシ樹脂の量は、10質量%以上100質量%以下の範囲内であることが好ましく、30質量%以上100質量%以下の範囲内であることがより好ましく、35質量%以上100質量%以下の範囲内であることが更に好ましい。この場合、感光性樹脂組成物の熱硬化前までの工程においてカルボキシル基含有樹脂とエポキシ樹脂の熱硬化反応が抑制され、現像性を向上させうる。
特に結晶性エポキシ樹脂は、融点110℃以下の結晶性エポキシ樹脂を含有することが好ましい。すなわち、エポキシ化合物(D)は、融点110℃以下の結晶性エポキシ樹脂を含有することが好ましい。この場合、感光性樹脂組成物のアルカリ性水溶液による現像性が特に向上する。融点110℃以下の結晶性エポキシ樹脂は、例えばビフェニル型エポキシ樹脂(具体例として三菱化学株式会社製の品番YX4000)、ビフェニルエーテル型エポキシ樹脂(具体例として新日鉄住金化学株式会社製の品番YSLV−80DE)、及びビスフェノール型エポキシ樹脂(具体例として新日鉄住金化学製の品番YSLV−80XY)からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
エポキシ化合物(D)はトリグリシジルイソシアヌレートを含有してもよい。トリグリシジルイソシアヌレートは、特にS−トリアジン環骨格面に対し3個のエポキシ基が同一方向に結合した構造をもつβ体であることが好ましく、あるいはこのβ体と、S−トリアジン環骨格面に対し1個のエポキシ基が他の2個のエポキシ基と異なる方向に結合した構造をもつα体との混合物であることが好ましい。
結晶性エポキシ樹脂は、融点100℃未満の結晶性エポキシ樹脂を含有することも好ましい。すなわち、エポキシ化合物(D)は、融点100℃未満の結晶性エポキシ樹脂を含有することも好ましい。この場合、感光性樹脂組成物の現像性を更に向上させうる。また、融点が100℃未満の結晶性エポキシ樹脂は、感光性樹脂組成物中のエポキシ樹脂(D)以外の成分や溶媒等との相溶性が高いため、感光性樹脂組成物中で分散されて、均一化されやすい。さらに、感光性樹脂組成物が融点100℃未満の結晶性エポキシ樹脂を含有すると、低温でも結晶化が生じにくい。このため、感光性樹脂組成物に高い保存安定性を付与できる。さらに、低温では感光性樹脂組成物中のカルボキシル基とエポキシ基の架橋反応が抑制されるため、感光性樹脂組成物の良好な現像性を維持しつつ、感光性樹脂組成物に高い保存安定性を付与できる。
融点100℃未満の結晶性エポキシ樹脂は、例えばビフェニルエーテル型エポキシ樹脂(具体例として新日鉄住金化学株式会社製の品番YSLV−80DE)、及びビスフェノール型エポキシ樹脂(具体例として新日鉄住金化学製の品番YSLV−80XY)、ビスフェノールフルオレン骨格を有するエポキシ樹脂(具体例として構造(S7)を有するエポキシ樹脂)からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。
エポキシ化合物(D)が融点100℃未満の結晶性エポキシ樹脂を含有する場合、融点100℃未満の結晶性エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基の当量は、カルボキシル基含有樹脂(A)に含まれるカルボキシル基1当量に対して、0.2以上2.0以下の範囲内であれば好ましく、0.25以上1.7以下の範囲内であればより好ましく、0.3以上1.5以下の範囲内であれば更に好ましい。
エポキシ化合物(D)はリン含有エポキシ樹脂を含有してもよい。この場合、感光性樹脂組成物の硬化物の難燃性が向上する。リン含有エポキシ樹脂は、例えば、リン酸変性ビスフェノールF型エポキシ樹脂(具体例としてDIC株式会社製の品番EPICLON EXA−9726、及びEPICLON EXA−9710)、新日鉄住金化学株式会社製の品番エポトートFX−305等である。
感光性樹脂組成物は、有機フィラー(E)を更に含有することが好ましい。この場合、層間絶縁層7と導体層8との間の密着性が更に向上する。有機フィラー(E)は、感光性樹脂組成物のチクソ性を高め、安定性(特に保存安定性)を向上させることもできる。
有機フィラー(E)は、極性基を有することが好ましい。この場合、層間絶縁層7と導体層8との間の密着性が特に向上する。極性基は、特にカルボキシル基、アミノ基及び水酸基からなる群から選択される少なくとも一種の基を含むことが好ましい。この場合、密着性が特に向上する。
極性基が特にカルボキシル基を含む場合、感光性樹脂組成物の硬化物の現像性を向上させるとともに、感光性樹脂組成物が結晶性エポキシ化合物を含む場合には、結晶性エポキシ化合物の感光性樹脂組成物中での溶解性を向上させて結晶化を防ぐことができる。
極性基が特に水酸基を含む場合、感光性樹脂組成物における有機フィラー(E)の分散性が向上する。
極性基が特にアミノ基を含む場合、カルボキシル基含有樹脂(A)とエポキシ化合物(D)の反応性を高めることができ、それにより硬化膜の耐酸性及び耐アルカリ性を向上できる。
有機フィラー(E)の極性基がカルボキシル基を含む場合、有機フィラー(E)の酸価が、1mgKOH/g以上60mgKOH/g以下の範囲内であることが好ましい。酸価が1mgKOH/gより小さいと感光性樹脂組成物の安定性及び硬化物の現像性が低下するおそれがある。酸価が60mgKOH/gより大きいと硬化物の耐湿信頼性が低下するおそれがある。有機フィラー(E)の酸価は3mgKOH/g以上であることがより好ましく、40mgKOH/g以下であることもより好ましい。
極性基がカルボキシル基を含む場合、有機フィラー(E)は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の重合性不飽和二重結合を有するカルボン酸モノマーを重合あるいは架橋させることで得られる。
有機フィラー(E)は、例えば分散液の状態で感光性樹脂組成物に配合されるが、これに限定されない。
有機フィラー(E)は、極性基を有するゴム成分を含有することが好ましい。この場合、極性基は、例えばカルボキシル基を含み、あるいはカルボキシル基と水酸基とを含む。ゴム成分は、感光性樹脂組成物の硬化物に柔軟性を付与できる。
ゴム成分は、樹脂により構成されうる。ゴム成分は、架橋アクリルゴム、架橋NBR、架橋MBS及び架橋SBRからなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体を含むことが好ましい。この場合、感光性樹脂組成物は高い透明性を有することができ、解像性を向上させうる。また、ゴム成分により効果的に感光性樹脂組成物の硬化物に柔軟性を付与できる。NBRは、ブタジエンとアクリロニトリルの共重合体であり、ニトリルゴムに分類される。MBSはメチルメタアクリレート、ブタジエン、スチレンの3成分で構成される共重合体であり、ブタジエン系ゴムに分類される。SBRはスチレンとブタジエンとの共重合体であり、スチレンゴムに分類される。
分散液として提供される有機フィラー(E)の具体例は、JSR株式会社製の品番XER−91−MEK(平均一次粒子径0.07μmのカルボキシル基を有する架橋ゴム(NBR)の濃度15重量%のメチルエチルケトン分散液、酸価10.0mgKOH/g)、JSR株式会社製の品番XER−32及びXER−92、並びにJSR株式会社製の品番XSK−500(カルボキシル基及び水酸基を有する架橋ゴム(SBR)の分散液)を含む。
有機フィラー(E)は、ゴム成分以外の成分を含有してもよい。ゴム成分以外の成分は、カルボキシル基を有するアクリル樹脂粒子及びカルボキシル基を有するセルロース粒子からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有できる。カルボキシル基を有するアクリル樹脂微粒子は、非架橋スチレン・アクリル樹脂微粒子及び架橋スチレン・アクリル樹脂微粒子からなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有できる。非架橋スチレン・アクリル樹脂微粒子の具体例は、日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製の品番FS−201(平均一次粒子径0.5μm)を含む。架橋スチレン・アクリル樹脂微粒子の具体例は、日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製の、品番MG−351(平均一次粒子径1.0μm)、及び品番BGK−001(平均一次粒子径1.0μm)を含む。
有機フィラー(E)は、極性基がアミノ基を含む場合は、例えば、メラミン、ジシアンジアミド、イミダゾール系化合物、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、メラミンーフェノールーホルマリン樹脂、トリアジン化合物、エチルジアミノ−Sートリアジン、2,4−ジアミノ−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−キシリルーSートリアジン等のトリアジン誘導体類、チアゾール系化合物、及びトリアゾール系化合物からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。極性基がアミノ基を含む場合、有機フィラー(E)はメラミン粒子を含有することが好ましい。有機フィラー(E)がメラミン粒子を含有すると、層間絶縁層7と導体層8との間の密着性が特に向上する。
有機フィラー(E)は、上記説明した成分からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。また、有機フィラー(E)は、上記説明した成分以外の、極性基を有する成分を含有することもできる。
有機フィラー(E)の平均一次粒子径は、1μm以下であることが好ましい。この場合、感光性樹脂組成物のチクソ性が効率よく高まる。そのため、感光性樹脂組成物の安定性が更に向上する。また、有機フィラー(E)の平均一次粒子径は、例えば、0.001μm以上である。有機フィラー(E)の平均一次粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定されるメジアン径(D50)である。有機フィラー(E)の平均一次粒子径は、0.1μm以下であることが好ましい。この場合、感光性樹脂組成物の安定性が更に向上すると共に、露光時の散乱が抑えられるため解像性が更に向上する。
感光性樹脂組成物中での有機フィラー(E)の粒子径は、10μm以下であることが好ましい。有機フィラー(E)は、感光性樹脂組成物中では、凝集することで形成された二次粒子を含有することがある。その場合、感光性樹脂組成物中での有機フィラー(E)の粒子径は、二次粒子を含む粒子の粒子径を意味する。感光性樹脂組成物中での有機フィラー(E)の粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置、あるいは光学顕微鏡を用いて測定できる。感光性樹脂組成物中での有機フィラー(E)の粒子径が10μm以下であると、有機フィラー(E)は感光性樹脂組成物中及び層間絶縁層7中で良好に分散でき、それにより、層間絶縁層7と導体層8との密着性が特に向上する。また、感光性樹脂組成物の安定性が更に向上するとともに、露光時の散乱が抑えられるため解像性が更に向上する。感光性樹脂組成物中での有機フィラー(E)の粒子径が5μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることが更に好ましく、0.5μm以下であることが特に好ましい。また、粒子径は例えば0.01μm以上である。
感光性樹脂組成物は、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤は、感光性樹脂組成物の液状化又はワニス化、粘度調整、塗布性の調整、造膜性の調整などの目的で使用される。
有機溶剤は、例えばエタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ヘキサノール、エチレングリコール等の直鎖、分岐、2級あるいは多価のアルコール類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;スワゾールシリーズ(丸善石油化学社製)、ソルベッソシリーズ(エクソン・ケミカル社製)等の石油系芳香族系混合溶剤;セロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;カルビトール、ブチルカルビトール等のカルビトール類;プロピレングリコールメチルエーテル等のプロピレングリコールアルキルエーテル類;ジプロピレングリコールメチルエーテル等のポリプロピレングリコールアルキルエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類;並びにジアルキルグリコールエーテル類からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含有できる。
感光性樹脂組成物中の成分の量は、感光性樹脂組成物が光硬化性を有しアルカリ性溶液で現像可能であるように、適宜調整される。
感光性樹脂組成物の固形分量に対するカルボキシル基含有樹脂(A)の量は、5質量%以上85質量%以下の範囲内であれば好ましく、10質量%以上75質量%以下の範囲内であればより好ましく、30質量%以上60質量%以下の範囲内であれば更に好ましい。また、感光性樹脂組成物の固形分量に対するカルボキシル基含有樹脂(A1)の量は、5質量%以上85質量%以下の範囲内であれば好ましく、10質量%以上75質量%以下の範囲内であればより好ましく、30質量%以上60質量%以下の範囲内であれば更に好ましい。
カルボキシル基含有樹脂(A)に対する不飽和化合物(B)の量は、1質量%以上50質量%以下の範囲内であれば好ましく、10質量%以上45質量%以下の範囲内であればより好ましく、21質量%以上40質量%以下の範囲内であれば更に好ましい。
カルボキシル基含有樹脂(A)に対する光重合開始剤(C)の量は、0.1質量%以上30質量%以下の範囲内であることが好ましく、1質量%以上25質量%以下の範囲内であれば更に好ましい。
エポキシ化合物(D)の量に関しては、エポキシ化合物(D)に含まれるエポキシ基の当量の合計が、カルボキシル基含有樹脂(A)に含まれるカルボキシル基1当量に対して0.7以上2.5以下の範囲内であることが好ましく、0.7以上2.3以下の範囲内であることがより好ましく、0.7以上2.0以下の範囲内であれば更に好ましい。また、結晶性エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基の当量の合計が、カルボキシル基含有樹脂(A)に含まれるカルボキシル基1当量に対して0.1以上2.0以下の範囲内であることが好ましく、0.2以上1.9以下の範囲内であればより好ましく、0.3以上1.5以下の範囲内であれば更に好ましい。あるいは、結晶性エポキシ樹脂に含まれるエポキシ基の当量の合計が、カルボキシル基含有樹脂(A)に含まれるカルボキシル基1当量に対して0.7以上2.5以下の範囲内になってもよい。
有機フィラー(E)の量は、カルボキシル基含有樹脂(A)100質量部に対して、1質量部以上50質量部以下の範囲内であることが好ましい。有機フィラー(E)の量が1質量部以上であることで、層間絶縁層7と導体層8との間の密着性が特に高くなり、また、感光性樹脂組成物の硬化物の良好な銅めっき密着性が得られる。また、有機フィラー(E)の量が50質量部以下であることで、感光性樹脂組成物の優れた解像性が得られる。また、有機フィラー(E)の含有量が上記の範囲内となることで、感光性樹脂組成物のチクソ性が高まり、安定性が向上する。有機フィラー(E)の量が5質量部以上であることがより好ましく、10質量部以上であれば更に好ましい。また、有機フィラー(E)の量が30質量部以下であればより好ましく、20質量部以下であれば更に好ましい。
感光性樹脂組成物が有機溶剤を含有する場合、有機溶剤の量は、感光性樹脂組成物から形成される塗膜を乾燥させる際に速やかに有機溶剤が揮散して無くなるように、すなわち有機溶剤が乾燥膜に残存しないように、調整されることが好ましい。特に、感光性樹脂組成物全体に対する有機溶剤の量は、0質量%以上99.5質量%以下の範囲内であることが好ましく、15質量%以上60質量%以下の範囲内であれば更に好ましい。なお、有機溶剤の好適な割合は、塗布方法などにより異なるので、塗布方法に応じて割合が適宜調節されることが好ましい。
なお、固形分量とは、感光性樹脂組成物から溶剤などの揮発性成分を除いた、全成分の合計量のことである。
本実施形態の効果を阻害しない限りにおいて、感光性樹脂組成物は、上記成分以外の成分を更に含有してもよい。
感光性樹脂組成物は、無機フィラーを含有してもよい。この場合、感光性樹脂組成物から形成される膜の硬化収縮が低減する。無機フィラーは、例えば硫酸バリウム、結晶性シリカ、ナノシリカ、カーボンナノチューブ、タルク、ベントナイト、ハイドロタルサイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び酸化チタンからなる群から選択される一種以上の材料を含有できる。無機フィラーが酸化チタン、酸化亜鉛等の白色材料を含有する場合、感光性樹脂組成物及びその硬化物を前記白色材料で白色化できる。感光性樹脂組成物が無機フィラーを含有する場合、カルボキシル基含有樹脂(A)に対する無機フィラーの量は0質量%より多く300質量%以下の範囲内であることが好ましい。
感光性樹脂組成物は、カプロラクタム、オキシム、マロン酸エステル等でブロックされたトリレンジイソシアネート系、モルホリンジイソシアネート系、イソホロンジイソシアネート系及びヘキサメチレンジイソシアネート系のブロックドイソシアネート;メラミン樹脂、n−ブチル化メラミン樹脂、イソブチル化メラミン樹脂、ブチル化尿素樹脂、ブチル化メラミン尿素共縮合樹脂、ベンゾグアナミン系共縮合樹脂等のアミノ樹脂;前記以外の各種熱硬化性樹脂;紫外線硬化性エポキシ(メタ)アクリレート;ビスフェノールA型、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型、脂環型等のエポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を付加して得られる樹脂;並びにジアリルフタレート樹脂、フェノキシ樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等の高分子化合物からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂を含有してもよい。
感光性樹脂組成物は、エポキシ化合物(D)を硬化させるための硬化剤を含有してもよい。硬化剤は、例えば、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、4−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−(2−シアノエチル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール誘導体;ジシアンジアミド、ベンジルジメチルアミン、4−(ジメチルアミノ)−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メトキシ−N,N−ジメチルベンジルアミン、4−メチル−N,N−ジメチルベンジルアミン等のアミン化合物;アジピン酸ヒドラジド、セバシン酸ヒドラジド等のヒドラジン化合物;トリフェニルフォスフィン等のリン化合物;酸無水物;フェノール;メルカプタン;ルイス酸アミン錯体;及びオニウム塩からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有できる。これらの成分の市販品は、例えば、四国化成株式会社製の2MZ−A、2MZ−OK、2PHZ、2P4BHZ、2P4MHZ(いずれもイミダゾール系化合物の商品名)、サンアプロ株式会社製のU−CAT3503N、U−CAT3502T(いずれもジメチルアミンのブロックイソシアネート化合物の商品名)、DBU、DBN、U−CATSA102、U−CAT5002(いずれも二環式アミジン化合物及びその塩)である。
感光性樹脂組成物は、密着性付与剤を含有してもよい。密着性付与剤としては、例えばグアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、並びに2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−S−トリアジン、2−ビニル−4,6−ジアミノ−S−トリアジン、2−ビニル−4,6−ジアミノ−S−トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2,4−ジアミノ−6−メタクリロイルオキシエチル−S−トリアジン・イソシアヌル酸付加物等のS−トリアジン誘導体が、挙げられる。
感光性樹脂組成物は、レオロジーコントロール剤を含有してもよい。レオロジーコントロール剤により、感光性樹脂組成物の粘性が好適化しやすくなる。レオロジーコントロール剤としては、例えば、ウレア変性中極性ポリアマイド(ビッグケミー・ジャパン株式会社製の品番BYK−430、BYK−431)、ポリヒドロキシカルボン酸アミド(ビッグケミー・ジャパン株式会社製の品番BYK−405)、変性ウレア(ビッグケミー・ジャパン株式会社製の品番BYK−410、BYK−411、BYK−420)、高分子ウレア誘導体(ビッグケミー・ジャパン株式会社製の品番BYK−415)、ウレア変性ウレタン(ビッグケミー・ジャパン株式会社製の品番BYK−425)、ポリウレタン(ビッグケミー・ジャパン株式会社製の品番BYK−428)、ひまし油ワックス、ポリエチレンワックス、ポリアマイドワックス、ベントナイト、シリカ、シリカゲル、カオリン、クレーが挙げられる。
感光性樹脂組成物は、硬化促進剤;着色剤;シリコーン、アクリレート等の共重合体;レベリング剤;シランカップリング剤等の密着性付与剤;チクソトロピー剤;重合禁止剤;ハレーション防止剤;難燃剤;消泡剤;酸化防止剤;界面活性剤;並びに高分子分散剤からなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有してもよい。
感光性樹脂組成物は、例えば液状である。感光性樹脂組成物が液状である場合、例えば上記のような感光性樹脂組成物の原料が配合され、例えば三本ロール、ボールミル、サンドミル等を用いる公知の混練方法によって混練されることにより、感光性樹脂組成物が調製され得る。感光性樹脂組成物の原料に液状の成分、粘度の低い成分等が含まれる場合には、原料のうち液状の成分、粘度の低い成分等を除く部分をまず混練し、得られた混合物に、液状の成分、粘度の低い成分等を加えて混合することで、感光性樹脂組成物を調製してもよい。また、例えばいずれの原料も溶媒中に分散されている場合には、原料を混合して混練することなく攪拌することにより、感光性樹脂組成物が調製されうる。
保存安定性等を考慮して、感光性樹脂組成物の成分の一部を混合することで第一剤を調製し、成分の残部を混合することで第二剤を調製してもよい。すなわち、感光性樹脂組成物は、第一剤と第二剤とを備えてもよい。この場合、例えば、感光性樹脂組成物の成分のうち、不飽和化合物(B)、有機溶剤の一部、及び熱硬化性成分を予め混合して分散させることで第一剤を調製し、感光性樹脂組成物の成分のうち、残部を混合して分散させることで第二剤を調製してもよい。この場合、適時必要量の第一剤と第二剤とを混合して混合液を調製し、この混合液を硬化させて硬化物が得られる。
感光性樹脂組成物は、ドライフィルムであってもよい。ドライフィルムは、例えば上記の液状の感光性樹脂組成物と同じ液状の組成物を、ポリエステル製などの適宜の支持体上に塗布してから乾燥することで、作製できる。これにより、ドライフィルムと、ドライフィルムを支持する支持体とを備える積層体(支持体付きドライフィルム)が得られる。
感光性樹脂組成物は、厚み25μmの皮膜4であっても炭酸ナトリウム水溶液で現像可能であるような性質を有することが好ましい。この場合、十分に厚い層間絶縁層7を感光性樹脂組成物からフォトリソグラフィー法で作製することが可能である。勿論、感光性樹脂組成物から厚み25μmより薄い層間絶縁層7を作製することも可能である。
厚み25μmの皮膜4が炭酸ナトリウム水溶液で現像可能であるかどうかは、次の方法で確認できる。適当な基材上に感光性樹脂組成物を塗布することで湿潤塗膜を形成し、この湿潤塗膜を80℃で40分加熱することで、厚み25μmの皮膜4を形成する。この皮膜4に紫外線を透過させる透過部と紫外線を遮蔽する遮蔽部とを有するネガマスクを直接当てた状態で、皮膜4に500mJ/cm2の条件で紫外線を照射して露光を行う。露光後に、皮膜4に30℃の1%Na2CO3水溶液を0.2MPaの噴射圧で90秒間噴射してから、純水を0.2MPaの噴射圧で90秒間噴射する処理を行う。この処理後に皮膜4を観察した結果、皮膜4における遮蔽部に対応する部分が除去されて残渣が認められない場合に、厚み25μmの皮膜4が炭酸ナトリウム水溶液で現像可能であると判断できる。
以下に、感光性樹脂組成物から作製された層間絶縁層7を備える多層プリント配線板20を製造する方法の一例を、図1Aから図1Eを参照して説明する。
本方法では、感光性樹脂組成物をプリント配線板1上に配置し、感光性樹脂組成物を光硬化させることで硬化膜11を作製する。続いて、硬化膜11をアルカリ性溶液で処理してから、硬化膜11に接する導体層8を作製する。
具体的には、まず、図1Aに示すようにプリント配線板1を用意する。プリント配線板1は、例えば絶縁層2と、その上にある導体配線3とを、少なくとも備える。
図1Bに示すように、感光性樹脂組成物をプリント配線板1上に、導体配線3を覆うように配置することで、皮膜4を作製する。
皮膜4を作製するにあたり、感光性樹脂組成物が液状である場合は、例えばプリント配線板1上に感光性樹脂組成物を塗布して湿潤塗膜を形成する。感光性樹脂組成物の塗布方法は、公知の方法、例えば浸漬法、スプレー法、スピンコート法、ロールコート法、カーテンコート法又はスクリーン印刷法である。続いて、感光性樹脂組成物中の有機溶剤を揮発させるために、例えば60℃以上120℃以下の範囲内の温度で湿潤塗膜を乾燥させる。これによって、皮膜4を作製できる。
皮膜4を作製するにあたり、感光性樹脂組成物がドライフィルムである場合は、例えばドライフィルムを支持体に支持された状態でプリント配線板1に重ねる。この状態で、ドライフィルムとプリント配線板1に圧力をかけ、続いて支持体をドライフィルムから剥離することで、ドライフィルムを支持体上からプリント配線板1上へ転写する。これにより、プリント配線板1上に、ドライフィルムからなる皮膜4が設けられる。
次に、皮膜4を光硬化させて硬化膜11を作製する。そのために、例えば皮膜4を露光することで図1Cに示すように皮膜4を部分的に硬化させる。そのために、例えばネガマスクを皮膜4に当ててから、皮膜4に紫外線を照射する。ネガマスクは、紫外線を透過させる透過部と紫外線を遮蔽する遮蔽部とを備え、遮蔽部はビア10の位置と合致する位置に設けられる。ネガマスクは、例えばマスクフィルム、乾板等のフォトツールである。紫外線の光源は、例えばケミカルランプ、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、メタルハライドランプ、LED、g線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)、並びにg線、h線及びi線のうちの二種以上の組み合わせからなる群から選択される。
露光方法は、ネガマスクを用いる方法以外の方法であってもよい。例えば光源から発せられる紫外線を皮膜4の露光すべき部分のみに照射する直接描画法で皮膜4を露光してもよい。直接描画法に適用される光源は、例えば高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、LED、g線(436nm)、h線(405nm)、i線(365nm)、並びにg線、h線及びi線のうちの二種以上の組み合わせからなる群から選択される。
感光性樹脂組成物がドライフィルムである場合には、積層体におけるドライフィルムをプリント配線板1に重ねてから、支持体を剥離することなく、支持体を通して紫外線をドライフィルムからなる皮膜4に照射することで皮膜4を露光し、続いて現像処理前に皮膜4から支持体を剥離してもよい。
なお、多層プリント配線板20にビア10を設けない場合などには、皮膜4を部分的に光硬化させるのではなく、皮膜4の全体を光硬化させて硬化膜11を作製してもよい。
続いて、硬化膜11をアルカリ性溶液で処理する。硬化膜11に、導体層8を作製する前に加熱処理を施す場合には、加熱処理の前に硬化膜11をアルカリ性溶液で処理することが好ましい。
アルカリ性溶液は、例えばアルカリ金属塩及びアルカリ金属水酸化物のうちいずれか一方又は両方を含有するアルカリ性水溶液である。アルカリ性水溶液は、より具体的には例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム及び水酸化リチウムからなる群から選択される少なくとも一種の成分を含有する。アルカリ性水溶液中の溶媒は、水のみであってもよく、水と低級アルコール類等の親水性有機溶媒との混合物であってもよい。アルカリ性溶液のpHは、8.5以上14以下であることが好ましい。アルカリ性溶液のpHは9以上であればより好ましく、9.5以上であれば更に好ましく、10以上であれば特に好ましい。また、アルカリ溶液のpHは13.5以下であればより好ましく、13以下であれば更に好ましく、12.5以下であれば特に好ましい。
皮膜4を部分的に光硬化させている場合は、アルカリ性溶液で硬化膜11を処理すると同時に、このアルカリ性溶液でプリント配線板1上から皮膜4の露光されなかった部分5を除去できる。すなわち、アルカリ性溶液で硬化膜11を処理すると同時に、このアルカリ性溶液で現像処理を行える。これにより、図1Dに示すようにビア10が形成される位置に穴6を設けることができる。
アルカリ性溶液による処理は、皮膜4を基準とするエポキシ基の反応率が50%以下である状態で行うことが好ましい。このエポキシ基の反応率は、露光前の皮膜4中のエポキシ基の量を基準とする。アルカリ性溶液による処理は、エポキシ基の反応率が40%以下である状態で行うことがより好ましく、30%以下である状態で行なうことが更に好ましく、20%以下である状態で行なうことが特に好ましい。なお、エポキシ基の反応率は、皮膜4及び硬化膜11の赤外線分光分析を行うことで得られるIRスペクトルにおける910cm-1のエポキシ基由来のピークの強度から算出される。詳しくは、エポキシ基の反応率は、皮膜4の赤外線分光分析で得られるIRスペクトルにおける910cm-1のピークの面積の規格化値(S0)と、アルカリ性溶液による処理後の硬化膜11の赤外線分光分析で得られるIRスペクトルにおける910cm-1のピークの面積の規格化値(S1)とから、(S0−S1)÷S0×100(%)の式で算出される。なお、規格化値(S0)と規格化値(S1)の値は、IRスペクトルにおける、皮膜4を露光しても変化しないピーク、例えば750cm-1のピーク、の面積を基準にした相対値である。すなわち、規格化値(S0)、皮膜4の赤外線分光分析で得られるIRスペクトルにおける910cm-1のピークの面積の実測値(P0)、及び750cm-1のピークの面積の実測値(R0)は、S0=P0/R0の関係にある。また、規格化値(S1)、硬化膜11の赤外線分光分析で得られるIRスペクトルにおける910cm-1のピークの面積の実測値(P1)、及び750cm-1のピークの面積の実測値(R1)は、S1=P1/R1の関係にある。
アルカリ性溶液による処理の後、導体層8を作製する前に、硬化膜11に、公知の薬液を用いてクリーナー処理を施してもよい。クリーナー処理は、硬化膜11を粗化させない処理であることが好ましい。クリーナー処理では、例えばクリーナー液(アトテックジャパン株式会社製のクリーナーセキュリガント902を40ml/Lの濃度で、クリーナーアディティブ902を3ml/Lの濃度で、NaOHを20g/Lの濃度で含有する液)で硬化物11をクリーニングする。続いて、硬化膜11を、過硫酸ナトリウムを100g/Lの濃度で、硫酸を10ml/Lの濃度で含有する水溶液に浸漬し、続いて水洗する。
続いて、硬化膜11に接する導体層8を作製する。導体層8は、例えば銅などの金属製の導体配線である。上述のとおり、導体層8を作製する直前での、硬化膜11における導体層8と接する面の、JIS B0601−2001で規定される算術平均粗さRaは、150nm未満である。このことは、通常の方法、例えば既に説明した方法で、感光性樹脂組成物から硬化膜11を作製すれば、容易に達成可能である。
算術平均粗さRaが150nm未満であると、多層プリント配線板20は良好な高周波特性を有することができる。算術平均粗さRaは、100nm未満であることが好ましく、80nm未満であることが更に好ましく、30nm未満であることが特に好ましい。また、この算術平均粗さRaは、例えば5nm以上である。
硬化膜11に穴6が形成されている場合には、穴6の内側にホールめっき9を形成することで、ビア10を作製する。なお、図1Eにおいて、ホールめっき9は穴6の内面を覆う筒状の形状を有するが、穴6の内側全体にホールめっき9が充填されていてもよい。
導体層8及びホールめっき9は、アディティブ法といった公知の方法で作製できる。
導体層8を作製してから、硬化膜11に加熱処理を施すことが好ましい。この場合、硬化膜11からなる層間絶縁層7と導体層8との間の密着性を更に向上できる。加熱処理の条件は、例えば加熱温度120℃以上200℃以下の範囲内、加熱時間30分以上120分以下の範囲内である。
硬化膜11に無電解めっき処理と電解めっき処理とをこの順に施すことで導体層8を作製することもできる。この場合は、無電解めっき処理と電解めっき処理との間に加熱処理を施し、更に電解めっき処理の後に加熱処理を施すことが、好ましい。この場合も、硬化膜11からなる層間絶縁層7と導体層8との間の密着性を更に向上できる。
硬化膜11を作製してから、導体層8を作製するまでの間は、硬化膜11に、加熱処理を施さず、あるいは加熱温度が200℃以下であることと加熱時間が150分以下であることのうちいずれか一方又は両方を満たす加熱処理を施すことが好ましい。すなわち、硬化膜11を作製してから、導体層8を作製するまでの間、硬化膜11に加熱処理を施さないことが好ましく、加熱処理を施す場合であっても、その条件は加熱温度が200℃以下であることと加熱時間が150分以下であることのうちいずれか一方又は両方を満たすことが好ましい。加熱温度は180℃以下であることがより好ましく、160℃以下であることが更に好ましく、140℃以下であることが特に好ましい。加熱時間は120分以下であることがより好ましく、90分以下であることが更に好ましく、60分以下であることが特に好ましい。
また、加熱処理は、加熱処理後の硬化膜11における、皮膜4を基準とするエポキシ基の反応率が95%未満になるよう施すことが好ましい。このエポキシ基の反応率は、露光前の皮膜4中のエポキシ基の量を基準とする。加熱処理は、エポキシ基の反応率が90%未満になるよう施すことがより好ましく、85%未満になるように施すことが更に好ましく、80%未満になるように施すことが特に好ましい。なお、エポキシ基の反応率は、皮膜4及び加熱処理後の硬化膜11の赤外線分光分析を行うことで得られるIRスペクトルにおける910cm-1のエポキシ基由来のピークの強度から算出される。詳しくは、エポキシ基の反応率は、皮膜4の赤外線分光分析で得られるIRスペクトルにおける910cm-1のピークの面積の規格化値(S0)と、加熱処理後の硬化膜11の赤外線分光分析で得られるIRスペクトルにおける910cm-1のピークの面積の規格化値(S2)とから、(S0−S2)÷S0×100(%)の式で算出される。なお、規格化値(S0)と規格化値(S2)の値は、IRスペクトルにおける、皮膜4を露光しても変化しないピーク、例えば750cm-1のピーク、の面積を基準にした相対値である。すなわち、規格化値(S0)、皮膜4の赤外線分光分析で得られるIRスペクトルにおける910cm-1のピークの面積の実測値(P0)、及び750cm-1のピークの面積の実測値(R0)は、S0=P0/R0の関係にある。また、規格化値(S2)、硬化膜11の赤外線分光分析で得られるIRスペクトルにおける910cm-1のピークの面積の実測値(P2)、及び750cm-1のピークの面積の実測値(R2)は、S2=P2/R2の関係にある。
この場合、層間絶縁層7と導体層8との間の密着性を特に向上できる。その理由は十分には解明されていないが、加熱処理を施さず、施す場合でもその条件が上記の範囲内であれば、そうでない場合と比較して、硬化膜11の表面には感光性樹脂組成物中の成分に由来する官能基が多く存在し、この官能基と導体層8との相互作用が密着性向上に寄与すると、推察される。
硬化膜11を作製してから、導体層8を作製するまでの間、硬化膜11に酸化剤による処理を施さないことが好ましい。この場合、酸化剤によって硬化膜11が荒れることを防いで、硬化膜11の算術平均粗さRaが150nm未満であることを達成しやすくなる。酸化剤による処理を施す場合であっても、上記の硬化膜11の算術平均粗さRaが150nm未満であることを達成できる程度の処理であることが好ましい。
なお、硬化膜11に穴6を設ける場合、導体層8を作製する前に硬化膜11に酸化剤を用いたデスミア処理を施すことは、穴6内のスミアを除去するために有用ではある。しかし、本実施形態では、感光性樹脂組成物は優れた現像性及び解像性を有しうるため、硬化膜11に穴6を設けてもスミアは残りにくい。そのため、酸化剤による処理を施さず、あるいは酸化剤による軽い処理を施す場合でも、スミアに起因する不具合は起こりにくい。
以上により、硬化膜11からなる層間絶縁層7と、層間絶縁層7に接する導体層8とを備える多層プリント配線板20を製造できる。層間絶縁層7の厚みは、例えば3μm以上50μm以下の範囲内である。この多層プリント配線板20では、上述のとおり、層間絶縁層7を粗化せずあるいは粗化の程度が小さくても、層間絶縁層7と導体層8との間の高い密着性を達成できる。
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、本発明は以下の実施例のみには制限されない。
[実施例、比較例及び参考例]
(1)カルボキシル基含有樹脂の合成
[合成例A−1]
還流冷却器、温度計、空気吹き込み管及び攪拌機を取り付けた四つ口フラスコ内に、式(2)で示され、式(2)中のR1〜R7がすべて水素であるビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂(エポキシ当量250g/eq)250質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート60質量部、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート140質量部、メチルハイドロキノン0.2質量部、アクリル酸72質量部、及びトリフェニルフォスフィン1.5質量部を加えて、混合物を調製した。この混合物を、フラスコ内で、エアバブリング下で攪拌しながら、115℃の温度で12時間加熱した。これにより、中間体の溶液を調製した。
続いて、フラスコ内の中間体の溶液に、3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物58.8質量部、テトラヒドロフタル酸無水物60.8質量部、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート38.7質量部を入れ、溶液をエアバブリング下で攪拌しながら、115℃で6時間加熱し、更に、80℃で1時間加熱した。これにより、カルボキシル基含有樹脂A−1の65質量%溶液を得た。カルボキシル基含有樹脂A−1の重量平均分子量は3096、酸価は105mgKOH/gであった。
[合成例A−2]
合成例A−2の芳香環を有するカルボキシル基含有樹脂は次のように調整した。還流冷却器、温度計、空気吹き込み管及び攪拌機を取り付けた四つ口フラスコ内に、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、品番NC−3000−H、エポキシ当量288g/eq)288質量部、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート155質量部、メチルハイドロキノン0.2質量部、アクリル酸72質量部、及びトリフェニルフォスフィン3質量部を加えて、混合物を調製した。この混合物を、フラスコ内で、エアバブリング下で攪拌しながら、115℃の温度で12時間加熱した。これにより、中間体の溶液を調製した。
続いて、フラスコ内の中間体の溶液に、テトラヒドロフタル酸無水物91.2質量部及びジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート90質量部を投入し、エアバブリング下で攪拌しながら、90℃で4時間加熱した。これにより、カルボキシル基含有樹脂A−2の65質量%溶液を得た。カルボキシル基含有樹脂A−2の重量平均分子量は8120、酸価は76mgKOH/gであった。
(2)感光性樹脂組成物の調製(組成例1〜9)
表1に示す成分をフラスコ内で配合し、35℃の温度で2時間撹拌混合することで、組成例1〜9の感光性樹脂組成物を得た(表参照)。組成例1〜9の感光性樹脂組成物を300メッシュのフィルターでろ過した後、穴径10μmのフィルターで更にろ過した。組成例1〜9の感光性樹脂組成物に含まれる有機フィラーの粒子径を、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置で確認したところ、いずれも最大粒子径は10μm以下であった。
なお、表1中の配合量は、表記成分の固形分量の質量部を示す。また、表中には記載していないが、感光性樹脂組成物に希釈剤としてメチルエチルケトンを配合している。
表1に示される成分の詳細は次のとおりである。
・極性基を有する有機フィラーA(分散液):平均一次粒子径0.07μmのカルボキシル基を有する架橋ゴム(NBR)を15重量%の割合で含むメチルエチルケトン分散液、JSR株式会社製、品番XER−91−MEK、酸価10.0mgKOH/g。
・極性基を有する有機フィラーB(分散液):平均一次粒子径0.07μmのカルボキシル基及び水酸基を有する架橋ゴム(SBR)を濃度15重量%の割合で含むメチルエチルケトン分散液、JSR株式会社製、品番XSK−500。
・極性基を有する有機フィラーC(分散液):日産化学工業株式会社製。微粉メラミン1.5質量部をトリシクロデカンジメタノールジアクリレート3.5質量部にビーズミルで分散させて調製された、微粉メラミンの分散ワニス。微粉メラミンの最大粒子径5μm以下。
・極性基を有さない有機フィラー(分散液):パウダー状で、平均一次粒子径0.3μmのグリシジル変性アクリロニトリルブタジエンゴム1.5質量部をトリシクロデカンジメタノールジアクリレート2.5質量部にビーズミルで分散させて調製された、グリシジル変性アクリロニトリルブタジエンゴムの分散ワニス。
・カップリング剤:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン。
・シリカ:日産化学工業株式会社製、品番MEK−EC−2130Y、メチルエチルケトン分散シリカゾル、エポキシ樹脂との相溶性を高めたグレード、固形分濃度30質量%、平均一次粒子径10nm以上15nm以下。
・不飽和化合物A:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(有機フィラーの分散液に由来するトリシクロデカンジメタノールジアクリレートを含む)。
・不飽和化合物B:トリメチロールプロパントリアクリレート。
・不飽和化合物C:ジペンタエリストールペンタアクリレート及びジペンタエリストールヘキサアクリレートの混合物、日本化薬株式会社製、品番KAYARAD DPHA。
・光重合開始剤A:2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、BASF社製、品番Irgacure TPO。
・光重合開始剤B:1−ヒドロキシ-シクロヘキシル−フェニル−ケトン、BASF社製、品番Irgacure 184。
・光重合開始剤C:4,4´−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン。
・エポキシ化合物:ビフェニル型結晶性エポキシ樹脂、三菱ケミカル株式会社製、品番YX4000、エポキシ当量186g/eq。
・酸化防止剤:ヒンダードフェノール系酸化防止剤、BASF社製、品番IRGANOX 1010。
・表面調整剤:DIC株式会社製、品番メガファックF−477。
(3)テストピースの作製(実施例1〜29、比較例1〜27、参考例1〜18)
組成例1〜9の感光性樹脂組成物を用い、下記のとおりテストピースを作製した。各実施例、比較例及び参考例の概要は表2〜10に示す。
(3−1)硬化膜の作製
組成例1〜9の感光性樹脂組成物を、ポリエチレンテレフタレート製のフィルム上にアプリケータで塗布してから、95℃で25分加熱することで乾燥させることにより、フィルム上に厚み30μmのドライフィルムを形成した。
厚み17.5μmの銅箔を備えるガラスエポキシ銅張積層板(FR−4タイプ)を用意した。このガラスエポキシ銅張積層板にサブトラクティブ法で導体配線としてライン幅/スペース幅が50μm/50μmであるくし型電極を形成し、これによりプリント配線板を得た。
プリント配線板の導体配線における厚み1μm程度の表層部分を、エッチング剤(メック株式会社製の有機酸系マイクロエッチング剤、品番CZ−8101)で溶解除去することにより、導体配線を粗化した。
プリント配線板の一面全面にドライフィルムを真空ラミネーターで加熱ラミネートした。加熱ラミネートの条件は、0.5MPa、80℃、1分間である。これにより、プリント配線板上にドライフィルムからなる膜厚30μmの皮膜を、導体配線を覆うように形成した。
この皮膜の赤外線分光分析を行い、IRスペクトルを得た。
続いて、皮膜に、ポリエチレンテレフタレート製のフィルム上から、直径30μm、45μm、及び60μmの円形形状の遮蔽部、及びライン幅/スペース幅が40μm/40μmであるストライプ状の遮蔽部を有するネガマスクを直接当てた状態で、ネガマスクを介して皮膜に300mJ/cm2の条件で紫外線を照射することで、皮膜の露光した部分を硬化させ、硬化膜を作製した。硬化膜からポリエチレンテレフタレート製のフィルムを剥離した。
続いて、各実施例並びに参考例1〜9においては、硬化膜をアルカリ性溶液で処理すると同時に、このアルカリ性溶液で皮膜の露光されなかった部分を除去した。処理に当たっては、硬化膜に30℃の1%Na2CO3水溶液(pH11)を0.2MPaの噴射圧で90秒間噴射した。続いて硬化膜に純水を0.2MPaの噴射圧で90秒間噴射することで洗浄した。これにより、硬化膜における、露光されなかった部分が除去された箇所に、開口部を形成した。一方、各比較例並びに参考例10〜18においては、硬化膜をアルカリ性溶液で処理しなかった。
(3−2)硬化膜の加熱処理
実施例1〜27、各比較例、及び各参考例においては、硬化膜を150℃で50分間加熱した。実施例28においては、硬化膜を160℃で120分間加熱した。実施例29においては、硬化膜を180℃で120分加熱した。
続いて、硬化膜の赤外線分光分析を行い、IRスペクトルを得た。
皮膜のIRスペクトルにおける910cm-1のピークの面積の規格化値(S0)と、硬化膜のIRスペクトルにおける910cm-1のピークの面積の規格化値(S2)とから、(S0−S2)÷S0×100(%)の式で、エポキシ基の反応率(百分比)を算出した。なお、規格化値(S0)は、皮膜のIRスペクトルにおける910cm-1のピークの面積の実測値(P0)、及び750cm−1のピークの面積の実測値(R0)から、S0=P0/R0の式で算出した値であり、規格化値(S2)は、硬化膜のIRスペクトルにおける910cm-1のピークの面積の実測値(P2)と750cm−1のピークの面積の実測値(R2)とから、S2=P2/R2の式で算出した値である。また、エポキシ基の反応率の算出結果の小数点第一位は四捨五入した。
この結果から、エポキシ基の反応率を下記のように分類した。
A:エポキシ基の反応率が85%未満。
B:エポキシ基の反応率が85%以上で、90%未満。
C:エポキシ基の反応率が90%以上で、95%未満。
D:エポキシ基の反応率が95%以上。
続いて、各実施例、各比較例、及び各参考例において、硬化膜に1000mJ/cm2の紫外線を、高圧水銀灯を用いて照射した。
(3−3)硬化膜の表面処理
(3−3−1)実施例1〜9、28〜29及び比較例1〜9の場合(無粗化)
硬化膜に、次の方法でクリーナー処理を施した。硬化膜をクリーナー液(アトテックジャパン株式会社製、クリーナーセキュリガント902を40ml/Lの濃度、クリーナーアディティブ902を3ml/Lの濃度、NaOHを20g/Lの濃度で含む液)に60℃で5分間浸漬した。続いて硬化膜を、SnCl2の濃度0.1g/Lの水溶液に3分間浸漬してから、水洗した。続いて、硬化膜を、過硫酸ナトリウムを100g/Lの濃度、硫酸を10ml/Lの濃度で含む液に25℃で1分間浸漬してから、水洗した。
(3−3−2)実施例10〜18及び比較例10〜18の場合(低粗化)
硬化膜を、50℃のデスミア用膨潤液(アトテックジャパン株式会社製、スウェリング・ディップ・セキュリガンスPを500mL/Lの濃度、NaOHを3g/Lの濃度で含む液)に15分間浸漬することで膨潤させてから、硬化膜を湯洗した。続いて、硬化膜を、50℃の過マンガン酸カリウムを含有するデスミア液(アトテックジャパン株式会社製、コンセントレート・コンパクトCPを580mL/Lの濃度、NaOHを40g/Lの濃度で含む液)に10分間浸漬することで硬化膜の表面を粗化してから、湯洗した。続いて、硬化膜を、40℃の中和液(アトテックジャパン株式会社製、リダクションソリューション・セキュリガントP500を70mL/Lの濃度、硫酸(98%)を50mL/Lの濃度で含む液)に5分間浸漬することで、硬化膜の表面におけるデスミア液の残渣を除去してから、水洗した。続いて、上記(4−1)項の場合と同じ方法で、硬化膜にクリーナー処理を施した。
(3−3−3)実施例19〜27及び比較例19〜27の場合(中粗化)
硬化膜の表面を、80℃のデスミア用膨潤液(アトテックジャパン株式会社製、スウェリング・ディップ・セキュリガンスPを500mL/Lの濃度、NaOHを3g/Lの濃度で含む液)に5分間浸漬することで膨潤させてから、硬化膜を湯洗した。続いて、硬化膜を、60℃の過マンガン酸カリウムを含有するデスミア液(アトテックジャパン株式会社製、コンセントレート・コンパクトCPを580mL/Lの濃度、NaOHを40g/Lの濃度で含む液)に5分間浸漬することで硬化膜の表面を粗化してから、湯洗した。続いて、硬化膜を、40℃の中和液(アトテックジャパン株式会社製、リダクションソリューション・セキュリガントP500を70mL/Lの濃度、硫酸(98%)を50mL/Lの濃度で含む液)に5分間浸漬することで、硬化膜の表面におけるデスミア液の残渣を除去してから、水洗した。続いて、上記(4−1)項の場合と同じ方法で、硬化膜にクリーナー処理を施した。
(3−3−4)参考例1〜18の場合(高粗化)
硬化膜の表面を、70℃のデスミア用膨潤液(アトテックジャパン株式会社製、スウェリング・ディップ・セキュリガンスPを500mL/Lの濃度、NaOHを3g/Ln濃度で含む液)に7.5分間浸漬することで膨潤させてから、硬化膜を湯洗した。続いて、硬化膜を、70℃の過マンガン酸カリウムを含有するデスミア液(アトテックジャパン株式会社製、コンセントレート・コンパクトCPを580mL/Lの濃度、NaOHを40g/Lの濃度で含む液)に7.5分間浸漬することで硬化膜の表面を粗化してから、湯洗した。続いて、硬化膜を、40℃の中和液(アトテックジャパン株式会社製、リダクションソリューション・セキュリガントP500を70mL/Lの濃度、硫酸(98%)を50mL/Lの濃度で含む液)に5分間浸漬することで、硬化膜の表面におけるデスミア液の残渣を除去してから、水洗した。続いて、上記(4−1)項の場合と同じ方法で、硬化膜にクリーナー処理を施した。
表面処理後のテストピースにおける硬化膜の表面粗さ(算術平均粗さ(Ra))をレーザー顕微鏡で測定した。その結果を次のように分類した。その結果を表に示す。
A:算術平均粗さ(Ra)が30nm未満。
B:算術平均粗さ(Ra)が30nm以上80nm未満。
C:算術平均粗さ(Ra)が80nm以上150nm未満。
D:算術平均粗さ(Ra)が150nm以上。
(4)評価試験
各実施例、比較例及び参考例のテストピースに対し、下記の試験を行った。その結果は表2〜10に示す。
(4−1)銅めっき密着性
硬化膜に無電解銅めっき処理(アトテックジャパン株式会社のMVプラス処理)を施してから、150℃で1時間加熱し、続いて2A/dm2の電流密度下で電解銅めっき処理を施すことで厚さ33μmの銅膜を形成し、続いてテストピースを180℃で30分間加熱した。これにより、硬化膜の上に銅めっき層を形成した。無電解銅めっき処理後の加熱時と、電解銅めっき処理後の加熱時のうち、少なくとも一方においてブリスターが発生した場合を除き、硬化膜に対する銅めっき層のピール強度を、JIS C6481に準拠して測定した。この結果から、銅めっき層の密着性を、次のように評価した。
A:銅めっき層のピール強度が0.2kN/m以上である。
B:銅めっき層のピール強度が0.1kN/m以上0.2kN/m未満である。
C:銅めっき層のピール強度が0.1kN/m未満である。
D:無電解銅めっき処理後の加熱時と電解銅めっき処理後の加熱時とのうち少なくとも一方でブリスターが発生した。
(4−2)電気的絶縁性
テストピースを150℃で1時間加熱し、更に180℃で30分加熱した後、テストピースにおける導体配線中のくし型電極間にDC30Vのバイアス電圧を印加しながら、テストピースを130℃、85%R.H.の試験環境下に100時間曝露した。この試験環境下におけるくし型電極間での硬化膜の電気抵抗値を常時測定し、その結果を次のように評価した。
A:試験開始時から100時間経過するまでの間、電気抵抗値が常に106Ω以上を維持した。
B:試験開始時から85時間経過するまでは電気抵抗値が常に106Ω以上を維持したが、試験開始時から100時間経過する前に電気抵抗値が106Ω未満となった。
C:試験開始時から70時間経過するまでは電気抵抗値が常に106Ω以上を維持したが、試験開始時から85時間経過する前に電気抵抗値が106Ω未満となった。
D:試験開始時から70時間経過する前に電気抵抗値が106Ω未満となった。
(4−3)開口性
各実施例、比較例及び参考例のテストピースにおける硬化膜の、ネガマスクの円形形状の遮蔽部に対応する円形状の開口部を観察し、次のように評価した。
A:直径30μm、45μm及び60μmの遮蔽部に対応する開口部が、いずれも形成されている。
B:直径30μmの遮蔽部に対応する開口部は形成されていないが、直径45μm及び60μmの遮蔽部に対応する開口部は形成されている。
C:直径30μm及び45μmの遮蔽部に対応する開口部は形成されていないが、直径60μmの遮蔽部に対応する開口部は形成されている。
D:直径30μm、45μm及び60μmの遮蔽部に対応する開口部が、いずれも形成されていない。
(4−4)解像性
各実施例、比較例及び参考例のテストピースにおける硬化膜の、ストライプ状の遮蔽部に対応するストライプ状の開口部を観察し、次のように評価した。
A:開口部の輪郭にガタツキがなく、明瞭でシャープな解像性を示す。
B:開口部の輪郭にガタツキは多少見られるが、明瞭な解像性を示す。
C:開口部の輪郭のガタツキが見られ、解像性が少し劣る。
D:開口部の輪郭のガタツキが大きく、解像性が劣る。
以上述べた実施形態から明らかなように、本発明に係る第1の態様の多層プリント配線板(20)の製造方法では、プリント配線板(1)上に感光性樹脂組成物から皮膜(4)を作製する。感光性樹脂組成物は、カルボキシル基含有樹脂(A)、エチレン性不飽和結合を一分子中に少なくとも一つ有する不飽和化合物(B)、光重合開始剤(C)、及びエポキシ化合物(D)を含有する。皮膜(4)を光硬化させることで硬化膜(11)を作製する。硬化膜(11)をアルカリ性溶液で処理してから、硬化膜(11)に接する導体層(8)を作製する。導体層(8)を作製する直前での、硬化膜(11)における導体層(8)が接する面の、JIS B0601−2001で規定される算術平均粗さRaは、150nm未満である。
第1の態様によれば、硬化膜(11)からなる層間絶縁層(7)を粗化せずあるいは粗化の程度が小さくても、層間絶縁層(7)と導体層(8)との間の高い密着性を達成できる多層プリント配線板(20)を得ることができる。
本発明に係る第2の態様の多層プリント配線板(20)の製造方法では、第1の態様において、算術平均粗さRaは、80nm未満である。
第2の態様によれば、多層プリント配線板(20)は良好な高周波特性を有することができる。
本発明に係る第3の態様の多層プリント配線板(20)の製造方法では、第1又は第2の態様において、硬化膜(11)を作製してから、導体層(8)を作製するまでの間、硬化膜(11)に、加熱処理を施さず、あるいは皮膜(4)を基準とするエポキシ基の反応率が95%未満になるように加熱処理を施す。
第3の態様によれば、硬化膜(11)からなる層間絶縁層(7)と導体層(8)との間の密着性を向上できる。
本発明に係る第4の態様の多層プリント配線板(20)の製造方法では、第1から第3のいずれか一つの態様において、感光性樹脂組成物は、ドライフィルムである。
第4の態様によれば、硬化膜(11)からなる層間絶縁層(7)を粗化せずあるいは粗化の程度が小さくても、層間絶縁層(7)と導体層(8)との間の高い密着性を達成できる多層プリント配線板(20)を得ることができる。
本発明に係る第5の態様の多層プリント配線板(20)の製造方法では、第1から第4のいずれか一つの態様において、感光性樹脂組成物は、有機フィラー(E)を更に含有する。
第5の態様によれば、硬化膜(11)からなる層間絶縁層(7)と導体層(8)との間の密着性が向上する。
本発明に係る第6の態様の多層プリント配線板(20)の製造方法では、第5の態様において、有機フィラー(E)は、極性基を有する。
第6の態様によれば、硬化膜(11)からなる層間絶縁層(7)と導体層(8)との間の密着性がより向上する。
本発明に係る第7の態様の多層プリント配線板(20)の製造方法では、第6の態様において、極性基は、カルボキシル基、アミノ基及び水酸基からなる群から選択される少なくとも一種の基を含む。
第7の態様によれば、硬化膜(11)からなる層間絶縁層(7)と導体層(8)との間の密着性が特に向上する。
本発明に係る第8の態様の多層プリント配線板(20)の製造方法では、第5から第7のいずれか一つの態様において、有機フィラー(E)の、感光性樹脂組成物中での粒子径は、10μm以下である。硬化膜(11)からなる層間絶縁層(7)と導体層(8)との間の密着性が特に向上する。
第8の態様によれば、硬化膜(11)からなる層間絶縁層(7)と導体層(8)との間の密着性が特に向上する。
本発明に係る第9の態様の多層プリント配線板(20)の製造方法では、第1から第8のいずれか一つの態様において、硬化膜(11)を作製してから、導体層(11)を作製するまでの間、硬化膜(11)に酸化剤による処理を施さない。
第9の態様によれば、酸化剤によって硬化膜(11)が荒れることを防いで、硬化膜(11)の算術平均粗さRaが150nm未満であることを達成しやすくなる。
本発明に係る第10の態様の多層プリント配線板(20)は、第1から第9のいずれか一つの態様の製造方法で製造される。
第10の態様によれば、層間絶縁層(7)と導体層(8)との間の高い密着性を有する多層プリント配線板(20)を得ることができる。