<DNAの産生方法>
本発明に係るDNAの産生方法は、互いに塩基配列が相同である領域(以下、単に「相同領域」ということがある。)又は互いに塩基配列が相補である領域(以下、単に「相補領域」ということがある。)を有するDNA断片同士を、相同領域同士又は相補領域同士において互いに連結させることによって、直鎖状又は環状のDNAを産生する方法である。本発明に係るDNAの産生方法は、RecAファミリー組換え酵素蛋白質の存在下で連結反応を行うため、非常に連結効率に優れている。
本発明及び本願明細書において、「塩基配列が相同である」とは「塩基配列が同一である」を意味し、「塩基配列が相補である」とは「塩基配列が互いに相補的である」を意味する。
具体的には、本発明に係るDNAの産生方法は、2種類以上のDNA断片と、RecAファミリー組換え酵素活性をもつ蛋白質(以下、「RecAファミリー組換え酵素蛋白質」ということがある。)と、を含む反応溶液を調製し、前記反応溶液中で、前記2種類以上のDNA断片を、塩基配列が相同である領域同士又は相補において互いに連結させる。当該方法により、直鎖状又は環状のDNAが得られる。以降において、2個以上のDNA断片が連結された直鎖状又は環状のDNAを、「連結体」ということがある。
本発明に係るDNAの産生方法においては、連結させるDNA断片は、直鎖状2本鎖DNA断片であってもよく、1本鎖DNA断片であってもよい。すなわち、直鎖状2本鎖DNA断片同士を連結してもよく、直鎖状2本鎖DNA断片と1本鎖DNA断片を連結してもよく、1本鎖DNA断片同士を連結してもよい。1種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片と1種類以上の1本鎖DNA断片を連結することもできる。直鎖状2本鎖DNA断片同士又は直鎖状2本鎖DNA断片と1本鎖DNA断片を連結させる場合、両者は相同領域において互いに連結される。1本鎖DNA断片同士を連結させる場合、両者は相補領域において互いに連結される。
本発明に係るDNAの産生方法において連結させるDNA断片の少なくとも1種類が直鎖状2本鎖DNA断片である場合には、前記反応溶液は、さらに、エキソヌクレアーゼを含む。
図1に本発明に係るDNAの産生方法の原理のうち、直鎖状2本鎖DNA断片同士を連結する態様を模式的に示す。まず、相同領域Hを備える直鎖状2本鎖DNA断片1aと直鎖状2本鎖DNA断片1bに対して、3’→5’エキソヌクレアーゼ2が作用し、相同領域Hを1本鎖にする。この1本鎖となった相同領域Hに、RecAファミリー組換え酵素蛋白質3が作用し、互いに相補的な相同領域H同士が結合することによって、直鎖状2本鎖DNA断片1aと直鎖状2本鎖DNA断片1bは連結する。図1の右図に示すように、3’→5’エキソヌクレアーゼ2によるDNA鎖の削り込みは、直鎖状2本鎖DNA断片1aと直鎖状2本鎖DNA断片1bのいずれか一方のみに行われてもよい。例えば、1本鎖状態となった直鎖状2本鎖DNA断片1aの相同領域Hが、RecAファミリー組換え酵素蛋白質3の存在下、2本鎖状態の直鎖状2本鎖DNA断片1bの相同領域Hに作用し、両者が連結する。
本発明に係るDNAの産生方法において、直鎖状2本鎖DNA断片同士又は直鎖状2本鎖DNA断片と1本鎖DNA断片を連結させる場合、まず、2本鎖DNA断片をエキソヌクレアーゼにより削って相同領域を1本鎖化し、さらに、RecAファミリー組換え酵素蛋白質の存在下で連結反応を行う。このため、本発明に係るDNAの産生方法は、非常に連結効率に優れており、従来は困難であった多数の直鎖状2本鎖DNA断片を、一度の反応で連結することができる。
本発明に係るDNAの産生方法において、1本鎖DNA断片同士を連結させる場合には、それぞれの1本鎖DNA断片上でRecAファミリー組換え酵素蛋白質が速やかにフィラメントを形成することによって、エキソヌクレアーゼによる消化が抑制される。その後、このRecAファミリー組換え酵素蛋白質の作用によって互いに相補的な相同領域H同士が結合することによって、1本鎖DNA断片同士は連結する。
本発明に係るDNAの産生方法で連結させるDNA断片の数としては、5個(5断片)以上が好ましく、7個(7断片)以上がより好ましく、10個(10断片)以上がさらに好ましく、20個(20断片)以上であってもよい。本発明に係るDNAの産生方法で連結させるDNA断片の数の上限は特にないが、例えば、100断片以下の数を連結させることができる。本発明に係るDNAの産生方法では、反応条件等を最適化することにより、例えば、50断片程度の直鎖状2本鎖DNA断片を連結させることもできる。本発明に係るDNAの産生方法において連結させるDNA断片は、全て別種のDNA断片同士を連結させることができ、同種のDNA断片を2断片以上含むように連結させることもできる。
本発明において連結させる2種類以上のDNA断片は、それぞれ、他のDNA断片のうちの少なくとも1種類と連結するための相同領域又は相補領域を含む。本発明に係るDNAの産生方法において、直鎖状2本鎖DNA断片同士又は直鎖状2本鎖DNA断片と1本鎖DNA断片を連結させる場合、まず、エキソヌクレアーゼによって直鎖状2本鎖DNA断片のうちの1本鎖を削って相同領域を1本鎖状態とする。このため、相同領域は、直鎖状2本鎖DNA断片の末端に存在していることが好ましいが、末端の近傍であってもよい。例えば、相同領域の端部のうち直鎖状2本鎖DNA断片の末端側の塩基が、当該末端から300塩基以内にあることが好ましく、100塩基以内にあることがより好ましく、30塩基以内にあることがさらに好ましく、10塩基以内にあることがよりさらに好ましい。一方で、1本鎖DNA断片同士を連結させる場合には、RecAファミリー組換え酵素蛋白質のフィラメントによってエキソヌクレアーゼによる消化が抑制されているため、相補領域は1本鎖DNA断片のいずれに存在していてもよい。
相同領域又は相補領域の塩基配列は、連結させる全てのDNA断片において同一の塩基配列とすることもできるが、所望の順番に連結させるために、連結させるDNA断片の種類ごとにそれぞれ異なる塩基配列とすることが好ましい。例えば、2本鎖DNA断片Aと2本鎖DNA断片Bと2本鎖DNA断片Cをこの順に連結させるためには、2本鎖DNA断片Aの下流末端と2本鎖DNA断片Bの上流末端に相同領域aを設け、2本鎖DNA断片Bの下流末端と2本鎖DNA断片Cの上流末端に相同領域bを設けておく。これにより、2本鎖DNA断片Aと2本鎖DNA断片Bが相同領域aで連結し、2本鎖DNA断片Bと2本鎖DNA断片Cが相同領域bで連結して、2本鎖DNA断片Aと2本鎖DNA断片Bと2本鎖DNA断片Cがこの順番に連結した直鎖状のDNAを得ることができる。この場合に、さらに、2本鎖DNA断片Cの下流末端と2本鎖DNA断片Aの上流末端に相同領域cを設けておくことにより、2本鎖DNA断片Aと2本鎖DNA断片Bが相同領域aで連結し、2本鎖DNA断片Bと2本鎖DNA断片Cが相同領域bで連結し、2本鎖DNA断片Cと2本鎖DNA断片Aが相同領域cで連結して、2本鎖DNA断片Aと2本鎖DNA断片Bと2本鎖DNA断片Cがこの順番に連結した環状のDNAを得ることができる。
相同領域及び相補領域は、連結反応の反応溶液中で、1本鎖同士が特異的にハイブリダイズ可能な程度の塩基配列であればよく、塩基対(bp)長、GC率などは、一般的にプローブやプライマーの設計方法を参考に適宜決定することができる。一般的に、非特異的なハイブリダイズを抑制して目的の直鎖状2本鎖DNA断片同士を正確に連結するためには、相同領域の塩基対長はある程度の長さが必要であるが、相同領域の塩基対長が長すぎると、連結効率が低下するおそれがある。本発明においては、相同領域又は相補領域の塩基対長としては、10塩基対(bp)以上が好ましく、15bp以上がより好ましく、20bp以上がさらに好ましい。また、当該相同領域又は相補領域の塩基対長としては、500bp以下が好ましく、300bp以下がより好ましく、200bp以下がさらに好ましい。
本発明に係るDNAの産生方法において、互いに連結させるDNA断片の長さは、特に限定されるものではなく、例えば、直鎖状2本鎖DNA断片の場合には、50bp以上が好ましく、100bp以上がより好ましく、200bp以上がさらに好ましい。1本鎖DNA断片の場合には、50塩基長(base)以上が好ましく、100塩基長以上がより好ましく、200塩基長以上がさらに好ましい。本発明に係るDNAの産生方法では、325kbpの2本鎖DNA断片も連結させることができる。また、連結させるDNA断片の長さは、種類ごとに異なっていてもよい。
本発明に係るDNAの産生方法において、互いに連結させる直鎖状2本鎖DNA断片は、相同領域の全領域又はその一部の領域が、2本の1本鎖DNAがハイブリダイズしている2本鎖構造であればよい。すなわち、当該直鎖状2本鎖DNA断片は、ギャップやニックのない完全な直鎖状2本鎖DNA断片であってもよく、1又は複数の箇所が1本鎖構造である直鎖状DNA断片であってもよい。例えば、連結させる直鎖状2本鎖DNA断片は、平滑末端であってもよく、粘着末端であってもよい。本発明に係るDNAの産生方法により、平滑末端の直鎖状2本鎖DNA断片と、粘着末端の直鎖状2本鎖DNA断片を連結させることもできる。
反応溶液内に含ませる各DNA断片のモル比は、目的の連結体を構成する各DNA断片の分子数の比に揃えることが好ましい。連結反応開始時点における反応系内のDNA断片の分子数を揃えておくことにより、連結反応をより効率よく行うことができる。例えば、全て別種のDNA断片同士を連結させる場合には、反応溶液に含ませる各DNA断片は、モル濃度が互いに等しいことが好ましい。
反応溶液内に含ませるDNA断片の総量は特に限定されるものではない。充分量の連結体が得られやすいことから、連結反応の開始時点における反応溶液内に含ませるDNA断片の総濃度は、0.01nM以上が好ましく、0.1nM以上がより好ましく、0.3nM以上がさらに好ましい。より連結効率が高く、多断片の連結に適していることから、連結反応の開始時点における反応溶液内に含ませるDNA断片の総濃度は、100nM以下が好ましく、50nM以下がより好ましく、25nM以下がさらに好ましく、20nM以下が特に好ましい。
本発明に係るDNAの産生方法において、連結反応により得られる連結体の大きさとしては、特に限定されるものではない。得られる連結体の大きさとしては、例えば、1000塩基長以上が好ましく、5000塩基長以上がより好ましく、10000塩基長以上がさらに好ましく、20000塩基長以上がよりさらに好ましい。本発明に係るDNAの産生方法により、300000塩基長以上、好ましくは500000塩基長以上、より好ましくは2000000塩基長以上の長さの連結体を得ることもできる。
本発明において用いられるエキソヌクレアーゼは、直鎖状DNAの3’末端又は5’末端から逐次的に加水分解する酵素である。本発明において用いられるエキソヌクレアーゼとしては、直鎖状DNAの3’末端又は5’末端から逐次的に加水分解する酵素活性を有するものであれば、その種類や生物学的由来に特に制限はない。例えば、3’末端から逐次的に加水分解する酵素(3’→5’エキソヌクレアーゼ)としては、エキソヌクレアーゼIIIファミリー型のAP(apurinic/apyrimidinic)エンドヌクレアーゼ等の直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼと、DnaQスーパーファミリータンパク質等の1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼが挙げられる。エキソヌクレアーゼIIIファミリー型のAPエンドヌクレアーゼとしては、例えば、エキソヌクレアーゼIII(大腸菌由来)、ExoA(エキソヌクレアーゼIIIの枯草菌ホモログ)、Mth212(エキソヌクレアーゼIIIの古細菌ホモログ)、APエンドヌクレアーゼ I(エキソヌクレアーゼIIIのヒトホモログ)が挙げられる。DnaQスーパーファミリータンパク質としては、例えば、エキソヌクレアーゼI (大腸菌由来)、エキソヌクレアーゼT(Exo T)(RNase Tとしても知られている)、エキソヌクレアーゼX、DNAポリメラーゼIII イプシロンサブユニット(DNA polymerase III epsilon subunit)、DNAポリメラーゼI、DNAポリメラーゼII、T7DNAポリメラーゼ、T4DNAポリメラーゼ、クレノウDNAポリメラーゼ5、Phi29DNAポリメラーゼ、リボヌクレアーゼIII(RNase D)、オリゴリボヌクレアーゼ(ORN)等が挙げられる。5’末端から逐次的に加水分解する酵素(5’→3’エキソヌクレアーゼ)としては、λエキソヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼVIII、T5エキソヌクレアーゼ、T7エキソヌクレアーゼ、及びRecJエキソヌクレアーゼなどを用いることができる。
本発明において用いられるエキソヌクレアーゼとしては、直鎖状2本鎖DNA断片の削り込みのプロセッシビティーとRecAファミリー組換え酵素蛋白質存在下での連結効率のバランスが良好である点から、3’→5’エキソヌクレアーゼが好ましい。なかでも、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼがより好ましく、エキソヌクレアーゼIIIファミリー型のAPエンドヌクレアーゼがさらに好ましく、エキソヌクレアーゼIIIが特に好ましい。
本発明において反応溶液内に含ませるエキソヌクレアーゼとしては、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼと1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼの両方であることが好ましい。直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼに1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼを組み合わせることにより、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼを単独で用いた場合よりもさらに連結効率を改善させることができる。両3’→5’エキソヌクレアーゼを併用することにより連結効率が改善される理由は明らかではない。直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼは3’突出末端を標的とし難い場合が多く、この3’突出末端が1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼにより消化される結果、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとRecAによる連結反応が促進されるためと推察される。また、連結させる直鎖状DNA断片が、平滑末端や5’突出末端の場合でも、1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼの併用により連結効率が改善される。これは、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとRecAにより形成された連結体中に副次的に形成される3’突端が1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼにより消化される結果、連結効率がより改善されると推察される。本発明において反応溶液内に含ませるエキソヌクレアーゼとしては、特に連結効率に優れることから、エキソヌクレアーゼIIIファミリー型のAPエンドヌクレアーゼと1種又は2種以上の1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとの組み合わせであることが好ましく、エキソヌクレアーゼIIIファミリー型のAPエンドヌクレアーゼと1種又は2種以上のDnaQスーパーファミリータンパク質との組み合わせであることがより好ましく、エキソヌクレアーゼIIIとエキソヌクレアーゼIとの組み合わせ、又はエキソヌクレアーゼIIIとエキソヌクレアーゼIとエキソヌクレアーゼTの組み合わせが特に好ましい。
本発明において連結反応を行う反応溶液中におけるエキソヌクレアーゼの濃度としては、連結反応の開始時点において、例えば、1〜1000mU/μLが好ましく、5〜1000mU/μLがより好ましく、5〜500mU/μLがさらに好ましく、10〜150mU/μLがよりさらに好ましい。特に、エキソヌクレアーゼが直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼの場合には、連結反応の開始時点における反応溶液中の直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼの濃度は、例えば、5〜500mU/μLが好ましく、5〜250mU/μLがより好ましく、5〜150mU/μLがさらに好ましく、10〜150mU/μLがよりさらに好ましい。また、エキソヌクレアーゼが1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼの場合には、連結反応の開始時点における反応溶液中の直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼの濃度は、1〜10000mU/μLが好ましく、100〜5000mU/μLがより好ましく、200〜2000mU/μLがさらに好ましい。直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼと1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼを併用する場合、連結反応の開始時点における反応溶液中の各エキソヌクレアーゼの濃度は、それぞれ、前記の各エキソヌクレアーゼの好ましい濃度とすることができる。
本発明及び本願明細書において、RecAファミリー組換え酵素蛋白質とは、1本鎖状態又は2本鎖状態のDNA上で重合してフィラメントを形成し、ATP(アデノシン三リン酸)等のヌクレオシド三リン酸に対する加水分解活性を有し、相同領域をサーチして相同組換えを行う機能(RecAファミリー組換え酵素活性)をもつ蛋白質を意味する。RecAファミリー組換え酵素蛋白質としては、原核生物RecAホモログ、バクテリオフォージRecAホモログ、古細菌RecAホモログ、真核生物RecAホモログ等が挙げられる。原核生物RecAホモログとしては、大腸菌RecA;Thermus thermophiles、Thermus aquaticus等のThermus属菌、Thermococcus属菌、Pyrococcus属菌、Thermotoga属菌等の高度好熱菌に由来するRecA;Deinococcus radiodurans等の放射線耐性菌に由来するRecA等が挙げられる。バクテリオフォージRecAホモログとしてはT4ファージUvsX等が挙げられ、古細菌RecAホモログとしてはRadA等が挙げられ、真核生物RecAホモログとしてはRad51及びそのパラログ、Dcm1等が挙げられる。これらのRecAホモログのアミノ酸配列は、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等のデータベースから入手できる。
本発明において用いられるRecAファミリー組換え酵素蛋白質としては、野生型蛋白質であってもよく、野生型蛋白質に、1〜30個のアミノ酸を欠失、付加又は置換する変異を導入した、RecAファミリー組換え酵素活性を保持する改変体であってもよい。当該改変体としては、野生型蛋白質中の相同領域をサーチする機能を亢進させるアミノ酸置換変異を導入した改変体、野生型蛋白質のN末端又はC末端に各種タグが付加された改変体、耐熱性を向上させた改変体(国際公開第2016/013592号)等が挙げられる。当該タグとしては、例えば、Hisタグ、HA(hemagglutinin)タグ、Mycタグ、及びFlagタグ等の組換え蛋白質の発現又は精製において汎用されているタグを用いることができる。野生型のRecAファミリー組換え酵素蛋白質とは、自然界より分離された生物に保持されているRecAファミリー組換え酵素蛋白質のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列からなる蛋白質を意味する。
本発明において用いられるRecAファミリー組換え酵素蛋白質としては、RecAファミリー組換え酵素活性を保持する改変体が好ましい。当該改変体としては、例えば、大腸菌RecAの203番目のアミノ酸残基フェニルアラニンをトリプトファンに置換したF203W変異体や、各種RecAホモログのうち、大腸菌RecAの203番目のフェニルアラニンに相当するフェニルアラニンをトリプトファンに置換した変異体が挙げられる。
本発明において連結反応を行う反応溶液中におけるRecAファミリー組換え酵素蛋白質の量は、特に限定されるものではない。本発明において連結反応を行う反応溶液中におけるRecAファミリー組換え酵素蛋白質の濃度としては、連結反応の開始時点において、例えば、0.01〜100μMが好ましく、0.1〜100μMがより好ましく、0.1〜50μMがさらに好ましく、0.5〜10μMがよりさらに好ましく、1.0〜5.0μMが特に好ましい。
RecAファミリー組換え酵素蛋白質がRecAファミリー組換え酵素活性を発揮するためには、ヌクレオシド三リン酸又はデオキシヌクレオチド三リン酸が必要である。このため、本発明において連結反応を行う反応溶液は、ヌクレオシド三リン酸及びデオキシヌクレオチド三リン酸の少なくとも一方を含む。本発明において連結反応の反応溶液に含有させるヌクレオシド三リン酸としては、ATP、GTP(グアノシン三リン酸)、CTP(シチジン三リン酸)、UTP(ウリジン三リン酸)、m5UTP(5−メチルウリジン三リン酸)からなる群より選択される1種以上を用いることが好ましく、ATPを用いることが特に好ましい。本発明において連結反応の反応溶液に含有させるデオキシヌクレオチド三リン酸としては、dATP(デオキシアデノシン三リン酸)、dGTP(デオキシグアノシン三リン酸)、dCTP(デオキシシチジン三リン酸)、及びdTTP(デオキシチミジン三リン酸)からなる群より選択される1種以上を用いることが好ましく、dATPを用いることが特に好ましい。反応溶液に含まれるヌクレオシド三リン酸及びデオキシヌクレオチド三リン酸の総量は、RecAファミリー組換え酵素蛋白質がRecAファミリー組換え酵素活性を発揮するために充分な量であれば特に限定されるものではない。本発明において連結反応を行う反応溶液中におけるヌクレオシド三リン酸濃度又はデオキシヌクレオチド三リン酸濃度としては、連結反応の開始時点において、例えば、1μM以上が好ましく、10μM以上がより好ましく、30μM以上がさらに好ましい。一方で、反応溶液のヌクレオシド三リン酸濃度が高すぎる場合には、多断片の連結効率はかえって低下するおそれがある。このため、連結反応の開始時点における反応溶液のヌクレオシド三リン酸濃度又はデオキシヌクレオチド三リン酸濃度としては、1000μM以下が好ましく、500μM以下がより好ましく、300μM以下がさらに好ましい。
RecAファミリー組換え酵素蛋白質がRecAファミリー組換え酵素活性を発揮するため、及びエキソヌクレアーゼがエキソヌクレアーゼ活性を発揮するためには、マグネシウムイオン(Mg2+)が必要である。このため、本発明において連結反応を行う反応溶液は、マグネシウムイオン源を含む。マグネシウムイオン源は、反応溶液中にマグネシウムイオンを与える物質である。例えば、酢酸マグネシウム[Mg(OAc)2]、塩化マグネシウム[MgCl2]、硫酸マグネシウム[MgSO4]等のマグネシウム塩が挙げられる。好ましいマグネシウムイオン源は、酢酸マグネシウムである。
本発明において連結反応を行う反応溶液のマグネシウムイオン源濃度は、RecAファミリー組換え酵素蛋白質がRecAファミリー組換え酵素活性を発揮でき、かつエキソヌクレアーゼがエキソヌクレアーゼ活性を発揮できる濃度であればよく、特に限定されるものではない。連結反応の開始時点における反応溶液のマグネシウムイオン源濃度としては、例えば、0.5mM以上が好ましく、1mM以上がより好ましい。一方で、反応溶液のマグネシウムイオン濃度が高すぎる場合には、エキソヌクレアーゼ活性が強くなりすぎ、多断片の連結効率はかえって低下するおそれがある。このため、連結反応の開始時点における反応溶液のマグネシウムイオン源濃度としては、例えば、20mM以下が好ましく、15mM以下がより好ましく、12mM以下がさらに好ましく、10mM以下がよりさらに好ましい。
本発明において連結反応を行う反応溶液は、例えば、緩衝液に、DNA断片と、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と、エキソヌクレアーゼと、ヌクレオシド三リン酸及びデオキシヌクレオチド三リン酸の少なくとも一方と、マグネシウムイオン源とを添加することにより調製される。当該緩衝液としては、pH7〜9、好ましくはpH8、において用いるのに適した緩衝液であれば特に制限はない。例えば、Tris−HCl、Tris−OAc、Hepes−KOH、リン酸緩衝液、MOPS−NaOH、Tricine−HCl等が挙げられる。好ましい緩衝液はTris−HCl又はTris−OAcである。緩衝液の濃度は、当業者が適宜選択することができ、特に限定されないが、Tris−HCl又はTris−OAcの場合、例えば、10mM〜100mM、好ましくは10mM〜50mM、より好ましくは20mMの濃度を選択できる。
本発明においてRecAファミリー組換え酵素蛋白質としてUvsXを用いる場合には、連結反応を行う反応溶液には、さらに、T4ファージUvsYを含有させることが好ましい。UvsYは、T4ファージにおける相同組換えのメディエーターである。T4ファージにおいては、まず、1本鎖DNAはまずgp32(1本鎖DNA結合蛋白質)と結合して1本鎖DNA−gp32複合体が形成される。次いで、当該複合体中のgp32がuvsXに置換されるようにして1本鎖DNAとuvsXが結合して相同組換えが行われる。UvsYは、1本鎖DNA−gp32の相互作用を不安定化させ、1本鎖DNA−uvsXの相互作用を安定化させることにより、1本鎖DNAとuvsXの結合を促進し、ひいては相同組換え反応を促進する(Bleuit et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2001, vol.98(15), p.8298-8305)。本発明においても、UvsXにUvsYを併用することにより、連結効率がより促進される。
本発明において連結反応を行う反応溶液には、DNA断片と、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と、エキソヌクレアーゼと、ヌクレオシド三リン酸及びデオキシヌクレオチド三リン酸の少なくとも一方と、マグネシウムイオン源との他に、さらに、ヌクレオシド三リン酸又はデオキシヌクレオチド三リン酸の再生酵素とその基質を含むことが好ましい。反応溶液中でヌクレオシド三リン酸又はデオキシヌクレオチド三リン酸を再生できることにより、多数のDNA断片をより効率よく連結させることができる。ヌクレオシド三リン酸又はデオキシヌクレオチド三リン酸を再生するための再生酵素とその基質との組み合わせとしては、クレアチンキナーゼとクレアチンホスフェートの組み合わせ、ピルビン酸キナーゼとホスホエノールピルビン酸の組み合わせ、アセテートキナーゼとアセチルリン酸の組み合わせ、ポリリン酸キナーゼとポリリン酸の組み合わせ、ヌクレオシドジフォスフェートキナーゼとヌクレオシド三リン酸の組み合わせ、が挙げられる。ヌクレオシドジフォスフェートキナーゼの基質(リン酸供給源)となるヌクレオシド三リン酸は、ATP、GTP、CTP、UTPのいずれであってもよい。その他にも、再生酵素としては、ミオキナーゼが挙げられる。
本発明において連結反応を行う反応溶液中のヌクレオシド三リン酸再生酵素及びその基質の濃度は、当該反応溶液中で連結反応時にヌクレオシド三リン酸の再生が可能になる充分な濃度であれば特に限定されるものではない。例えば、クレアチンキナーゼとクレアチンホスフェートを用いる場合、本発明において連結反応を行う反応溶液に含有させるクレアチンキナーゼの濃度を、好ましくは1〜1000ng/μL、より好ましくは5〜1000ng/μL、さらに好ましくは5〜500ng/μL、よりさらに好ましくは5〜250ng/μLとし、クレアチンホスフェートの濃度を、好ましくは0.4〜20mM、より好ましくは0.4〜10mM、さらに好ましくは1〜7mMとすることができる。
多断片を目的の順番で連結させる場合、相同領域又は相補領域の塩基配列は、連結するDNA断片の組み合わせごとに異なることが好ましい。しかし、同一の温度条件下では、G(グアニン塩基)とC(シトシン塩基)の含有率が高い相同領域は、1本鎖で二次構造を形成しやすい。一方でA(アデニン塩基)とT(チミン塩基)の含有率が高い相同領域ではハイブリダイゼーションの効率が低くなる。これらの傾向により、連結効率も低くなってしまうおそれがある。1本鎖DNAの二次構造形成を抑えて特異的ハイブリダイズを促すことにより、DNA断片の連結を促進することができる。
そこで、本発明において連結反応を行う反応溶液には、1本鎖DNAの二次構造形成を抑えて特異的ハイブリダイズを促す物質を添加することが好ましい。当該物質としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)が挙げられる。DMSOは、GCに富んだ塩基対の二次構造形成を抑える作用がある。TMACは、特異的ハイブリダイズを促す作用がある。本発明において、連結反応を行う反応溶液に1本鎖DNAの二次構造形成を抑えて特異的ハイブリダイズを促す物質を含有させる場合、当該物質の濃度は、当該物質によるDNA断片の連結促進効果が得られる濃度であれば特に限定されるものではない。例えば、当該物質としてDMSOを用いる場合、本発明において連結反応を行う反応溶液に含有させるDMSOの濃度としては、5〜30容量%が好ましく、8〜25容量%がより好ましく、8〜20容量%がさらに好ましい。当該物質としてTMACを用いる場合、本発明において連結反応を行う反応溶液に含有させるTMACの濃度としては、60〜300mMが好ましく、100〜250mMがより好ましく、100〜200mMがさらに好ましい。
本発明において連結反応を行う反応溶液には、さらに、高分子混み合い効果を有する物質を添加することが好ましい。高分子混み合い効果はDNA分子同士の相互作用を増強し、DNA断片の連結を促進することができる。当該物質としては、ポリエチレングリコール(PEG)200〜20000、ポリビニルアルコール(PVA)200〜20000、デキストラン40〜70、フィコール70、ウシ血清アルブミン(BSA)が挙げられる。本発明において、連結反応を行う反応溶液に高分子混み合い効果を有する物質を含有させる場合、当該物質の濃度は、当該物質によるDNA断片の連結促進効果が得られる濃度であれば特に限定されるものではない。例えば、当該物質としてPEG8000を用いる場合、本発明において連結反応を行う反応溶液に含有させるPEG8000の濃度としては、2〜20質量%が好ましく、2〜10質量%がより好ましく、4〜6質量%がさらに好ましい。
本発明において連結反応を行う反応溶液には、さらに、アルカリ金属イオン源を含有させてもよい。アルカリ金属イオン源は、反応溶液中にアルカリ金属イオンを与える物質である。本発明において連結反応を行う反応溶液に含有させるアルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン(Na+)又はカリウムイオン(K+)が好ましい。アルカリ金属イオン源としては、例えば、グルタミン酸カリウム[KGlu]、アスパラギン酸カリウム、塩化カリウム、酢酸カリウム[KOAc]、グルタミン酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、及び酢酸ナトリウムが挙げられる。本発明において連結反応を行う反応溶液に含有させるアルカリ金属イオン源としては、グルタミン酸カリウム又は酢酸カリウムが好ましく、特に多断片の連結効率が改善されることからグルタミン酸カリウムが好ましい。連結反応の開始時点における反応溶液のアルカリ金属イオン源濃度としては、特に限定されるものではなく、例えば、反応溶液中にアルカリ金属イオンを好ましくは10mM以上、より好ましくは30〜300mMの範囲内、さらに好ましくは50〜150mMの範囲内で与える濃度に調整することができる。
本発明において連結反応を行う反応溶液には、さらに、還元剤を含有させてもよい。還元剤としては、例えば、ジチオスレイトール(DTT)、β−メルカプトエタノール(2−メルカプトエタノール)、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、及びグルタチオンが挙げられる。好ましい還元剤はDTTである。還元剤は、反応溶液中に1.0〜15.0mM、好ましくは2.0〜10.0mM含まれていてもよい。
本発明に係るDNAの産生方法において、連結反応は、緩衝液に、2種類以上のDNA断片と、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と、ヌクレオシド三リン酸と、マグネシウムイオン源と、必要に応じて、エキソヌクレアーゼと、ヌクレオシド三リン酸再生酵素及びその基質のセット、1本鎖DNAの二次構造形成を抑えて特異的ハイブリダイズを促す物質、高分子混み合い効果を有する物質、アルカリ金属イオン源、及び還元剤からなる群より選択される1種以上と、を含有させて調製した反応溶液を、当該反応溶液中のRecAファミリー組換え酵素蛋白質及びエキソヌクレアーゼがそれぞれの酵素活性を発揮し得る温度の等温条件下で、所定時間インキュベートすることにより行う。連結反応の反応温度としては、25〜48℃の温度範囲内であることが好ましく、27〜45℃の温度範囲内であることがより好ましい。特に、相同領域又は相補領域の長さが50塩基以上の場合には、連結反応の反応温度は、30〜45℃の温度範囲内であることが好ましく、37〜45℃の温度範囲内であることがより好ましく、40〜43℃の温度範囲内であることがさらに好ましい。一方で、相同領域又は相補領域の長さが50塩基以下の場合には、連結反応の反応温度は、27〜43℃の温度範囲内であることが好ましく、27〜37の温度範囲内であることがより好ましく、27〜33の温度範囲内であることがさらに好ましい。本願明細書において、「等温条件下」とは、反応中に設定した温度に対して±3℃又は±1℃の温度範囲内に保つことを意味する。連結反応の反応時間は、特に限定されるものではなく、例えば、15分間〜6時間、好ましくは15分間〜2時間とすることができる。
連結反応により得られた連結体(直鎖状又は環状のDNA)には、図1に示すように、ギャップやニックが存在する。ギャップは、2本鎖DNAにおいて1個又は複数個の連続したヌクレオチドが欠けた状態であり、ニックは、2本鎖DNAにおいて隣り合ったヌクレオチド間のリン酸ジエステル結合が切断された状態である。そこで、本発明に係るDNAの産生方法においては、連結反応後、得られた連結体中のギャップ及びニックをギャップリペア酵素群とdNTPにより修復することが好ましい。ギャップ及びニックを修復することにより、連結体を、完全な2本鎖DNAとすることができる。
具体的には、連結反応後の反応溶液に、ギャップリペア酵素群とdNTPを添加し、ギャップリペア酵素群が酵素活性を発揮し得る温度の等温条件下で、所定時間インキュベートすることにより、連結体のギャップ及びニックを修復することができる。ギャップリペア酵素群を構成する酵素は、2本鎖DNAのギャップ及びニックを修復できる酵素群であれば、その種類や生物学的由来に特に制限はない。ギャップリペア酵素群としては、例えば、DNAポリメラーゼ活性を有する酵素とDNAリガーゼ活性を有する酵素を組合せて使用できる。DNAリガーゼとして大腸菌由来のDNAリガーゼを用いる場合、その補因子であるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が反応液中に0.01〜1.0mMの範囲で含まれる。ギャップリペア酵素群による処理は、例えば、25〜40℃で、5〜120分間、好ましくは10〜60分間、行ってもよい。
dNTPは、dATP、dGTP、dCTP、及びdTTPの総称である。修復反応の反応開始時点に反応溶液中に含まれるdNTPの濃度は、例えば0.01〜1mMの範囲であってよく、好ましくは0.05〜1mMの範囲であってよい。
ギャップ及びニックが修復された連結体(直鎖状又は環状のDNA)は、さらに増幅することも好ましい。ギャップ及びニックが修復された連結体を増幅する方法としては、特に限定されるものではなく、一般的に直鎖状又は環状のDNAを鋳型として増幅する方法で増幅することができる。
本発明に係るDNAの産生方法において、連結反応後さらにギャップ及びニックの修復反応を行うことにより得られた連結体が直鎖状の場合、当該連結体は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅することが好ましい。PCRは、常法により行うことができる。
本発明に係るDNAの産生方法において、連結反応後さらにギャップ及びニックの修復反応を行うことにより得られた連結体が環状である場合は、当該連結体は、ローリングサークル増幅法(RCA)により増幅することが好ましい。RCAは、常法により行うことができる。
本発明に係るDNAの産生方法において、連結反応により得られた連結体が環状であり、かつDnaA活性を有する酵素と結合可能な複製開始配列(origin of chromosome(oriC))を含む場合、当該連結体は、複製サイクル反応(RCR)増幅法により増幅することが好ましい。連結反応により得られた連結体をそのまま直接、すなわち、ギャップ及びニックの修復反応を行わずに、鋳型としてRCR増幅を行うことにより、ギャップ及びニックのない完全な2本鎖DNAの環状の連結体を増幅産物として得ることができる。
複製開始配列としては、例えば、大腸菌、枯草菌等の細菌に存在する公知の複製開始配列を、NCBI等の公的なデータベースから入手することができる。また、DnaA活性を有する酵素と結合可能なDNA断片をクローニングし、その塩基配列を解析することによって、複製開始配列を得ることもできる。
RCR増幅法は、具体的には、鋳型とする連結反応により得られた環状の連結体と、環状DNAの複製を触媒する第一の酵素群と、岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する第二の酵素群と、2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する第三の酵素群と、dNTPと、を含む反応混合物を形成し、形成された反応混合物をインキュベートすることにより行うことができる。カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAとは、DNA複製反応によって合成された2つの環状DNAがつながった状態にあるものをいう。
環状DNAの複製を触媒する第一の酵素群としては、例えばKaguni JM & Kornberg A. Cell. 1984, 38:183-90に記載された酵素群を用いることができる。具体的には、第一の酵素群として、以下:DnaA活性を有する酵素、1種以上の核様体蛋白質、DNAジャイレース活性を有する酵素又は酵素群、1本鎖DNA結合蛋白質(single-strand binding protein(SSB))、DnaB型ヘリカーゼ活性を有する酵素、DNAヘリカーゼローダー活性を有する酵素、DNAプライマーゼ活性を有する酵素、DNAクランプ活性を有する酵素、及びDNAポリメラーゼIII活性を有する酵素又は酵素群、からなる群より選択される酵素又は酵素群の1つ以上、又は当該酵素又は酵素群のすべての組み合わせ、を例示することができる。
DnaA活性を有する酵素としては、大腸菌のイニシエーター蛋白質であるDnaAと同様のイニシエーター活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のDnaAを好適に用いることができる。大腸菌由来のDnaAは単量体として、反応混合物中、1nM〜10μMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは1nM〜5μM、1nM〜3μM、1nM〜1.5μM、1nM〜1.0μM、1〜500nM、50〜200nM、50〜150nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
核様体蛋白質は、核様体に含まれる蛋白質をいう。本発明に用いる1種以上の核様体蛋白質は、大腸菌の核様体蛋白質と同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のIHF、すなわちIhfA及び/又はIhfBの複合体(ヘテロ2量体又はホモ2量体)や、大腸菌由来のHU、すなわちhupA及びhupBの複合体を好適に用いることができる。大腸菌由来のIHFはヘテロ/ホモ2量体として反応混合物中、5〜400nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5〜200nM、5〜100nM、5〜50nM、10〜50nM、10〜40nM、10〜30nM、の範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。大腸菌由来のHUは反応混合物中、1〜50nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5〜50nM、5〜25nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
DNAジャイレース活性を有する酵素又は酵素群としては、大腸菌のDNAジャイレースと同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のGyrA及びGyrBからなる複合体を好適に用いることができる。大腸菌由来のGyrA及びGyrBからなる複合体はヘテロ4量体として反応混合物中、20〜500nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは20〜400nM、20〜300nM、20〜200nM、50〜200nM、100〜200nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
SSBとしては、大腸菌の1本鎖DNA結合蛋白質と同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のSSBを好適に用いることができる。大腸菌由来のSSBはホモ4量体として、反応混合物中、20〜1000nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは20〜500nM、20〜300nM、20〜200nM、50〜500nM、50〜400nM、50〜300nM、50〜200nM、50〜150nM、100〜500nM、100〜400nM、の範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
DnaB型ヘリカーゼ活性を有する酵素としては、大腸菌のDnaBと同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のDnaBを好適に用いることができる。大腸菌由来のDnaBはホモ6量体として反応混合物中、5〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5〜100nM、5〜50nM、5〜30nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
DNAヘリカーゼローダー活性を有する酵素としては、大腸菌のDnaCと同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のDnaCを好適に用いることができる。大腸菌由来のDnaCはホモ6量体として反応混合物中、5〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5〜100nM、5〜50nM、5〜30nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
DNAプライマーゼ活性を有する酵素としては、大腸菌のDnaGと同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のDnaGを好適に用いることができる。大腸菌由来のDnaGは単量体として、反応混合物中、20〜1000nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは20〜800nM、50〜800nM、100〜800nM、200〜800nM、250〜800nM、250〜500nM、300〜500nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
DNAクランプ活性を有する酵素としては、大腸菌のDnaNと同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のDnaNを好適に用いることができる。大腸菌由来のDnaNはホモ2量体として反応混合物中、10〜1000nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは10〜800nM、10〜500nM、20〜500nM、20〜200nM、30〜200nM、30〜100nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
DNAポリメラーゼIII*活性を有する酵素又は酵素群としては、大腸菌のDNAポリメラーゼIII*複合体と同様の活性を有する酵素又は酵素群であれば、その生物学的由来に特に制限はない。例えば大腸菌由来のDnaX、HolA、HolB、HolC、HolD、DnaE、DnaQ、及びHolEのいずれかを含む酵素群、好ましくは大腸菌由来のDnaX、HolA、HolB、及びDnaEの複合体を含む酵素群、さらに好ましくは大腸菌由来のDnaX、HolA、HolB、HolC、HolD、DnaE、DnaQ、及びHolEの複合体を含む酵素群を好適に用いることができる。大腸菌由来のDNAポリメラーゼIII*複合体はヘテロ多量体として反応混合物中、2〜50nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは2〜40nM、2〜30nM、2〜20nM、5〜40nM、5〜30nM、5〜20nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する第二の酵素群としては、例えばDNAポリメラーゼI活性を有する酵素、DNAリガーゼ活性を有する酵素、及びRNaseH活性を有する酵素からなる群より選択される1つ以上の酵素又は当該酵素の組み合わせを例示することができる。
DNAポリメラーゼI活性を有する酵素としては、大腸菌のDNAポリメラーゼIと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のDNAポリメラーゼIを好適に用いることができる。大腸菌由来のDNAポリメラーゼIは単量体として反応混合物中、10〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは20〜200nM、20〜150nM、20〜100nM、40〜150nM、40〜100nM、40〜80nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
DNAリガーゼ活性を有する酵素としては、大腸菌のDNAリガーゼと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のDNAリガーゼ又はT4ファージのDNAリガーゼを好適に用いることができる。大腸菌由来のDNAリガーゼは単量体として反応混合物中、10〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは15〜200nM、20〜200nM、20〜150nM、20〜100nM、20〜80nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
RNaseH活性を有する酵素としては、RNA:DNAハイブリッドのRNA鎖を分解する活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のRNaseHを好適に用いることができる。大腸菌由来のRNaseHは単量体として反応混合物中、0.2〜200nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは0.2〜200nM、0.2〜100nM、0.2〜50nM、1〜200nM、1〜100nM、1〜50nM、10〜50nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する第三の酵素群としては、例えばPeng H & Marians KJ. PNAS. 1993, 90: 8571-8575に記載された酵素群を用いることができる。具体的には、第三の酵素群として、以下:トポイソメラーゼIV活性を有する酵素、トポイソメラーゼIII活性を有する酵素、及びRecQ型ヘリカーゼ活性を有する酵素、からなる群より選択される1つ以上の酵素又は当該酵素の組み合わせを例示することができる。
トポイソメラーゼIII活性を有する酵素としては、大腸菌のトポイソメラーゼIIIと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のトポイソメラーゼIIIを好適に用いることができる。大腸菌由来のトポイソメラーゼIIIは単量体として反応混合物中、20〜500nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは20〜400nM、20〜300nM、20〜200nM、20〜100nM、30〜80nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
RecQ型ヘリカーゼ活性を有する酵素としては、大腸菌のRecQと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のRecQを好適に用いることができる。大腸菌由来のRecQは単量体として反応混合物中、20〜500nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは20〜400nM、20〜300nM、20〜200nM、20〜100nM、30〜80nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
トポイソメラーゼIV活性を有する酵素としては、大腸菌のトポイソメラーゼIVと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はない。例えばParCとParEの複合体である大腸菌由来のトポイソメラーゼIVを好適に用いることができる。大腸菌由来のトポイソメラーゼIVはヘテロ4量体として反応混合物中、0.1〜50nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは0.1〜40nM、0.1〜30nM、0.1〜20nM、1〜40nM、1〜30nM、1〜20nM、1〜10nM、1〜5nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
前記の第一、第二及び第三の酵素群は、市販されているものを用いてもよいし、微生物等から抽出し、必要に応じて精製したものを用いてもよい。微生物からの酵素の抽出及び精製は、当業者に利用可能な手法を用いて適宜実施することができる。
前記第一、第二及び第三の酵素群として、上記に示す大腸菌由来の酵素以外を用いる場合は、上記大腸菌由来の酵素について特定された濃度範囲に対して、酵素活性単位として相当する濃度範囲で用いることができる。
RCR増幅法において反応混合物に含有させるdNTPは、本発明に係るDNAの産生方法で使用されるものとして挙げられたものと同様のものを用いることができる。
RCR増幅法において調製される反応混合物には、必要に応じて、さらにマグネシウムイオン源、アルカリ金属イオン源、ATPを含有させる。
RCR増幅法において、反応開始時点における反応混合物に含まれるATPの濃度は、例えば0.1〜3mMの範囲であってよく、好ましくは0.1〜2mM、0.1〜1.5mM、0.5〜1.5mMの範囲であってよい。
RCR増幅法において反応混合物に含有させるマグネシウムイオン源は、本発明に係るDNAの産生方法で使用されるものとして挙げられたものと同様のものを用いることができる。RCR増幅法において、反応開始時点における反応混合物に含まれるマグネシウムイオン源の濃度は、例えば、マグネシウムイオンを5〜50mMの範囲で与える濃度であってよい。
RCR増幅法において反応混合物に含有させるアルカリ金属イオン源は、本発明に係るDNAの産生方法で使用されるものとして挙げられたものと同様のものを用いることができる。RCR増幅法において、反応開始時点における反応混合物に含まれるアルカリ金属イオン源の濃度は、例えば、アルカリ金属イオンを100mM以上、好ましくは100〜300mMの範囲で与える濃度であってよいが、これに限定されない。
RCR増幅法において反応混合物に含有させる連結体の量は特に制限はない。例えば、反応開始時点において、連結体を、10ng/μL以下、5ng/μL以下、1ng/μL以下、0.8ng/μL以下、0.5ng/μL以下、0.3ng/μL以下の濃度で反応混合物中に存在させてもよい。
調製された反応混合物を、所定の温度の等温条件下でインキュベートすることにより、DnaA活性を有する酵素と結合可能な複製開始配列を含む環状DNAのみが増幅される。RCR増幅における反応温度は、DNA複製反応が進行することのできるものであれば特に制限はないが、たとえばDNAポリメラーゼの至適温度である20〜80℃、25〜50℃、又は25〜40℃の範囲であることができる。RCR増幅における反応時間は、目的とする環状連結体の増幅産物の量に応じて適宜設定することができるが、例えば30分間〜24時間とすることができる。
RCR増幅は、調製された反応混合物を、30℃以上でのインキュベーション及び27℃以下でのインキュベーションを繰り返す温度サイクル下で、インキュベートすることによっても行うことができる。30℃以上でのインキュベーションは、oriCを含む環状DNAの複製開始が可能な温度範囲であれば特に限定はなく、例えば、30〜80℃、30〜50℃、30〜40℃、37℃であってよい。30℃以上でのインキュベーションは、特に限定されないが、1サイクルあたり10秒〜10分間であってもよい。27℃以下でのインキュベーションは、複製開始が抑制され、DNAの伸張反応が進行する温度であれば特に限定はなく、例えば、10〜27℃、16〜25℃、24℃、であってよい。27℃以下でのインキュベーションは、特に限定されないが、増幅する環状DNAの長さに合わせて設定することが好ましく、例えば1サイクルにつき、1000塩基あたり1〜10秒間であってもよい。温度サイクルのサイクル数は特に限定されないが、10〜50サイクル、20〜40サイクル、25〜35サイクル、30サイクルであってもよい。
連結反応により得られた連結体は、ギャップ及びニックの修復反応や、RCR増幅の鋳型として供される前に、50〜70℃でインキュベートする熱処理、及びその後急冷を行うことが好ましい。熱処理の処理時間は特に限定されるものではなく、例えば、1〜15分間、好ましくは2〜10分間とすることができる。急冷の温度は特に限定されるものではなく、例えば、10℃以下、好ましくは4℃以下にまで冷却する。急冷時の冷却速度としては、50℃/min以上が好ましく、70℃/min以上がより好ましく、85℃/min以上がさらに好ましい。例えば、熱処理後の反応混合物が入った容器を、直接、氷上に静置する又は4℃以下に調節された金属ブロックに接触させることにより、急冷することができる。
連結反応の終了直後の反応溶液中には、非特異的な連結により得られた連結体が含まれている。当該反応溶液を熱処理・急冷することにより、非特異的な連結を解消することができる。このため、熱処理・急冷後の連結体を鋳型としてギャップ及びニックの修復反応やRCR増幅反応を行うことにより、非特異的な産物産生が抑制され、目的の連結体の完全な2本鎖DNAを効率よく得ることができる。
本発明に係るDNAの産生方法において連結反応により得られた直鎖状又は環状の連結体の増幅は、連結体を微生物に導入することによって、当該微生物内で当該微生物がもつ酵素等を利用して行うことができる。微生物に導入する連結体は、ギャップ及びニックの修復反応を行う前の連結体であってもよく、修復反応後の連結体であってもよい。ギャップ及びニックをもつ連結体をそのまま微生物に導入した場合でも、ギャップ及びニックのない完全な2本鎖DNAの状態の連結体を増幅産物として得ることができる。連結体を導入する微生物としては、例えば、大腸菌、枯草菌、放線菌、古細菌、酵母、糸状菌等が挙げられる。微生物への連結体の導入は、エレクトロポレーション法等の常法により行うことができる。増幅された連結体の微生物からの回収も常法により行うことができる。
<DNA断片連結用キット>
本発明に係るDNA断片連結用キットは、2種類以上のDNA断片を塩基配列が相同である領域同士において互いに連結させて直鎖状又は環状のDNAを得るためのキットであって、RecAファミリー組換え酵素蛋白質を含む。直鎖状2本鎖DNA断片を連結するために用いられる場合には、当該キットはさらにエキソヌクレアーゼを含むことが好ましい。当該キットに備えられているRecAファミリー組換え酵素蛋白質とエキソヌクレアーゼとを、連結する目的の2種類以上のDNA断片を含む溶液に添加する。これにより、本発明に係るDNAの産生方法をより簡便に行うことができ、目的の連結体を容易に得ることができる。当該キットに含まれるRecAファミリー組換え酵素蛋白質及びエキソヌクレアーゼは、本発明に係るDNAの産生方法で使用されるものをそのまま用いることができる。当該キットに含まれるエキソヌクレアーゼとしては、3’→5’エキソヌクレアーゼが好ましく、少なくとも直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼを含むことがより好ましく、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼと1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼの両方を含むことがさらに好ましい。
本発明に係るDNA断片連結用キットは、さらに、ヌクレオシド三リン酸又はデオキシヌクレオチド三リン酸の再生酵素、及びその基質を含むことが好ましい。また、本発明に係るDNA断片連結用キットは、ヌクレオシド三リン酸、デオキシヌクレオチド三リン酸、マグネシウムイオン源、アルカリ金属イオン源、ジメチルスルホキシド、塩化テトラメチルアンモニウム、ポリエチレングリコール、ジチオスレイトール、及び緩衝液からなる群より選択される1種以上を含むこともできる。これらは、いずれも、本発明に係るDNAの産生方法で使用されるものをそのまま用いることができる。
本発明に係るDNA断片連結用キットは、さらに、当該キットを用いて本発明に係るDNAの産生方法を行うためのプロトコールが記載された書面を含むことも好ましい。当該プロトコールは、当該キットを収容した容器の表面に記載されていてもよい。
次に、実施例等により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
[実施例1]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、反応溶液中のマグネシウムイオン源濃度とATP濃度の影響を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、591bpの直鎖状2本鎖DNA断片であるDCW1〜DCW7(配列番号1〜配列番号7)を用いた。各直鎖状2本鎖DNA断片の末端から60塩基までの領域は相同領域である。すなわち、DCW1の532番目から591番目までの60塩基はDCW2との連結のための相同領域であり、DCW2の1番目から60番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。DCW2の532番目から591番目までの60塩基はDCW3との連結のための相同領域であり、DCW3の1番目から60番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。DCW3の532番目から591番目までの60塩基はDCW4との連結のための相同領域であり、DCW4の1番目から60番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。DCW4の532番目から591番目までの60塩基はDCW5との連結のための相同領域であり、DCW5の1番目から60番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。DCW6の532番目から591番目までの60塩基はDCW7との連結のための相同領域であり、DCW7の1番目から60番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。
RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAの野生型(配列番号61)を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。
具体的には、まず、各1nMのDCW1〜DCW7、1μMのRecA、40mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mM又は10mMの酢酸マグネシウム、30μM、100μM、300μM、又は1000μMのATP、4mMのクレアチンリン酸、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、50mMのグルタミン酸カリウム、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、10容量%のDMSOからなる反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、42℃で2時間インキュベートして連結反応を行った。反応終了後の反応溶液1μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR(登録商標) Green染色した。
染色結果を図2に示す。図中、「500bp」は、500bpから5kbpまでを500bp間隔のバンド(合計10本)からなるDNAラダーマーカーを泳動したレーンを示し、「Input」は、各1nMのDCW1〜DCW7を含有する溶液1μLを泳動したレーンを示す。また、図中、「7frag」は、DCW1〜DCW7の7断片全てが連結された連結体のバンドを示す。
酢酸マグネシウムが1mMの反応溶液では、ATP濃度が30μMの反応溶液ではほとんど連結体が観察されなかったが、ATP濃度が100μM、300μM、1000μMの反応溶液では、2断片の連結体から7断片の連結体までの計6種の連結体のバンドが観察された。ATP濃度が100μM、300μM、1000μMの反応溶液の結果を比較すると、ATP濃度が100μMの反応溶液が最も7断片全てが連結した連結体の量が多く、また未連結の断片のバンドが検出されなかった。これに対して、ATP濃度が1000μMの反応溶液では、7断片の連結体のバンドは非常に薄く、未連結の断片も多く残存していた。一方で、酢酸マグネシウムが10mMの反応溶液では、ATP濃度が30μMと100μMの反応溶液では、2断片の連結体から7断片の連結体までの計6種の連結体のバンドが観察された。一方でATP濃度が300μMと1000μMの反応溶液では、2断片の連結体から4断片の連結体のバンドまでは確認できたものの、5断片以上の連結体のバンドは確認できず、未連結の断片も多く残存していた。全てのサンプルのうち、7断片連結体の産生量が最も多かったのは、酢酸マグネシウムが1mM、ATPが100μMの反応溶液であった。これらの結果から、多断片を連結するためには、反応溶液のマグネシウムイオン濃度とATP濃度のバランスが重要であること、ATP濃度が高すぎるとかえって連結反応が阻害される場合があること、がわかった。
[実施例2]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、反応溶液中のPEG8000濃度と、ATP再生系の影響を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、3100bp又は2650bpの直鎖状2本鎖DNA断片であるLter1〜Lter5(配列番号54〜配列番号58)を用いた。各直鎖状2本鎖DNA断片の末端から60塩基までの領域は相同領域である。すなわち、Lter1の3041番目から3100番目までの60塩基はLter2との連結のための相同領域であり、Lter2の1番目から60番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。Lter2の3041番目から3100番目までの60塩基はLter3との連結のための相同領域であり、Lter3の1番目から60番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。Lter3の3041番目から3100番目までの60塩基はLter4との連結のための相同領域であり、Lter4の1番目から60番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。Lter4の3041番目から3100番目までの60塩基はLter5との連結のための相同領域であり、Lter5の1番目から60番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。
RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAのF203W変異体を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。ATP再生酵素としてクレアチンキナーゼを、その基質としてクレアチンリン酸を、それぞれ用いた。
具体的には、まず、各0.03nMのLter1〜Lter5、1μMのRecAのF203W変異体、40mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、10mMの酢酸マグネシウム、100μMのATP、4mMのクレアチンリン酸、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、150mMの酢酸カリウム、0質量%、2質量%、5質量%、又は10質量%のPEG8000からなる反応溶液を調製した。これとは別に、クレアチンリン酸とクレアチンキナーゼを含まない以外は同様にして反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、30℃で30分間インキュベートして連結反応を行った。反応終了後の反応溶液4μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図3に示す。図中、「5frag」は、Lter1〜Lter5の5断片全てが連結された連結体のバンドを示す。クレアチンリン酸とクレアチンキナーゼを含有していない反応溶液では、PEG8000濃度0質量%の反応溶液では2断片連結体と3断片連結体のバンドは確認できたものの、4断片以上の連結体のバンドは確認できなかった。これに対して、PEG8000濃度を高くすると4断片と5断片の連結体のバンドも確認できた。一方で、クレアチンリン酸とクレアチンキナーゼを含有させた反応溶液では、PEG8000濃度0質量%の反応溶液では2断片連結体と3断片連結体と4断片連結体のバンドは確認できたものの、5断片の連結体のバンドは確認できなかった。これに対して、PEG濃度を高くすると、5断片の連結体のバンドも確認できた。PEG8000濃度0質量%の反応溶液を比較した結果から、ATP再生系を含む反応溶液のほうが、より多断片の連結体が得られやすいことがわかった。また、クレアチンリン酸とクレアチンキナーゼを含有していない反応溶液と両者を含有している反応溶液のいずれでも、PEG無添加の反応溶液よりもPEGを添加した反応溶液のほうが、5断片連結体の産生量が多くなっていた。このことから、PEGにより連結が促進されることがわかった。全てのサンプルにおいて、未連結の断片が少なく、かつ5断片連結体の量が最も多かったのは、クレアチンリン酸とクレアチンキナーゼを含有しており、かつPEG8000が5質量%の反応溶液であった。
[実施例3]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、反応溶液中のDMSO濃度の影響を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW1〜DCW5(配列番号1〜配列番号5)を用いた。また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAのF203W変異体を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。
具体的には、まず、各1nMのDCW1〜DCW5、1μMのRecAのF203W変異体、40mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、10mMの酢酸マグネシウム、100μMのATP、150mMの酢酸カリウム、5質量%のPEG8000、及び0容量%、1容量%、3容量%、又は10容量%のDMSOからなる反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、30℃で30分間インキュベートして連結反応を行った。反応終了後の反応溶液2μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図4(a)に示す。図中、「MK3」はDNAラダーマーカーを泳動したレーンを示し、「Input」は、各1nMのDCW1〜DCW5を含有する溶液2μLを泳動したレーンを示す。この結果、連結反応を行った全てのサンプルにおいて、5断片全部が連結した連結体のバンドが確認されたが、DMSO濃度が10容量%の反応溶液ではその他の反応溶液よりも明らかに5断片連結体の量が多かった。
次いで、DMSO濃度を、0容量%、10容量%、20容量%、又は40容量%とした以外は同様にして反応溶液を調製し、これらの反応溶液を、30℃で30分間インキュベートして連結反応を行った。反応終了後の反応溶液2μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図4(b)に示す。図中、「500bp ladder」は実施例1で用いたDNAラダーマーカーを泳動したレーンを示し、「Input」は図4(a)と同じである。この結果、DMSO濃度が10容量%又は20容量%の反応溶液では、DMSOを添加していない反応溶液よりも5断片全部が連結した連結体の産生量が明らかに増大していたが、DNSO濃度が40容量%の反応溶液では、連結体のバンドは確認できず、連結が阻害されていた。これらの結果から、DMSOを5容量%以上含有させることにより、連結反応が促進されるが、DMSO濃度が高すぎると逆に連結反応が阻害されることがわかった。
[実施例4]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、反応溶液中のTMAC濃度の影響を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW1〜DCW7(配列番号1〜配列番号7)を用いた。また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAのF203W変異体を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。
具体的には、まず、各1nMのDCW1〜DCW7、1μMのRecAのF203W変異体、40mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、10mMの酢酸マグネシウム、100μMのATP、4mMのクレアチンリン酸、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、150mMのグルタミン酸カリウム、5質量%のPEG8000、10容量%のDMSO、及び0mM、15mM、30mM、60mM、又は100mMのTMACからなる反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、37℃で2時間インキュベートして連結反応を行った。反応終了後の反応溶液1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図5(a)に示す。図中、「500bp ladder」は実施例1で用いたDNAラダーマーカーを泳動したレーンを示し、「Input」は、各1nMのDCW1〜DCW7を含有する溶液1μLを泳動したレーンを示す。この結果、連結反応を行った全てのサンプルにおいて、7断片全部が連結した連結体のバンドが確認された。特に、TMAC濃度が100mMの反応溶液では、その他の反応溶液よりも明らかに7断片連結体の量が多かった。
次いで、TMACの濃度を60mM、100mM、150mM、200mM、又は250mMとし、かつグルタミン酸カリウムの濃度を50mMとした以外は同様にして反応溶液を調製し、これらの反応溶液を、42℃で2時間インキュベートして連結反応を行った。反応終了後の反応溶液1.9μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図5(b)に示す。この結果、TMAC濃度が100mM〜200mMの反応溶液では、TMAC濃度が60mMの反応溶液よりも明らかに7断片連結体の量が多く、連結効率が改善されていた。7断片連結体の量が最も多かったのは、TMAC濃度が150mMの反応溶液であった。一方で、TMAC濃度が250mMの反応溶液では、7断片連結体の量はTMAC濃度が60mMの反応溶液よりも少なく、また、未連結の断片の残存量が多かった。これらの結果から、TMACを100〜200mM含有させることにより、連結反応が促進できることがわかった。
[実施例5]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、反応溶液中のアルカリ金属イオン源の影響を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW1〜DCW7又はDCW1〜DCW5を用いた。また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAのF203W変異体を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。
具体的には、まず、各1nMのDCW1〜DCW5、1μMのRecAのF203W変異体、40mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、10mMの酢酸マグネシウム、100μMのATP、4mMのクレアチンリン酸、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、0mM、50mM、75mM、100mM、125mM、又は150mMの酢酸カリウム、5質量%のPEG8000、及び10容量%のDMSOからなる反応溶液を調製した。また、酢酸カリウムに代えて150mMのグルタミン酸カリウムを含有させた以外は同様にして反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、30℃で2時間インキュベートして連結反応を行った。反応終了後の反応溶液2μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図6に示す。アルカリ金属イオン源を含有させなかった反応溶液では、5断片全ての連結体のバンドは確認できなかったが、酢酸カリウム又はグルタミン酸カリウムを含有させた反応溶液では、全て、5断片全ての連結体のバンドが確認できた。特に、グルタミン酸カリウムを含有させた反応溶液では、酢酸カリウムを含有させた反応溶液よりも、未連結の断片のバンドが薄かったことから、酢酸カリウムよりもグルタミン酸カリウムのほうが、連結効率を改善する効果がより高いのではないかと推察された。
次いで、連結する直鎖状2本鎖DNA断片としてDCW1〜DCW7を用い、各1nMのDCW1〜DCW7を配合し、アルカリ金属イオン源としてグルタミン酸カリウムを用い、グルタミン酸カリウムの濃度を50mM又は150mMとした以外は同様にして反応溶液を調製した。これらの反応溶液を、37℃、42℃、又は45℃で1時間インキュベートして連結反応を行った。反応終了後の反応溶液1μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図7に示す。図中、「500bp ladder」は実施例1で用いたDNAラダーマーカーを泳動したレーンを示し、「Input」は、各1nMのDCW1〜DCW7を含有する溶液1μLを泳動したレーンを示す。この結果、反応温度37℃と42℃のいずれにおいても、グルタミン酸カリウム濃度が50mMの反応溶液のほうが150mMの反応溶液よりも、連結効率が高く、7断片全ての連結体のバンドが確認できた。これらの結果から、グルタミン酸カリウム濃度が高すぎると、かえって連結反応が阻害される場合があることがわかった。また、45℃でインキュベートした反応溶液では、グルタミン酸カリウム濃度が50mMであっても、7断片連結体のバンドは確認できなかった。7断片連結体の量が最も多かったのは、グルタミン酸カリウム濃度が50mMであって、42℃でインキュベートした反応溶液であった。
[実施例6]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、反応溶液中の各直鎖状2本鎖DNA断片のモル比の影響を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW1〜DCW7を用いた。また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAのF203W変異体を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。
具体的には、まず、各1nMのDCW1〜DCW7、1μMのRecAのF203W変異体、40mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、10mMの酢酸マグネシウム、100μMのATP、4mMのクレアチンリン酸、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、50mMのグルタミン酸カリウム、5質量%のPEG8000、及び10容量%のDMSOからなる反応溶液を調製した。また、DCW3のみ2nMとなるように含有させた以外は同様にして反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、42℃で2時間インキュベートして連結反応を行った。反応終了後の反応溶液1μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図8に示す。図中、「500bp ladder」は実施例1で用いたDNAラダーマーカーを泳動したレーンを示し、「Input」は、各1nMのDCW1〜DCW7を含有する溶液1μLを泳動したレーンを示す。また、「Equal」はDCW1〜DCW7を全て1nMずつ含有させた反応溶液を泳動したレーンを示す。「2−fold excess 3rd fragment」はDCW1〜7のうち、DCW3のみを2nM、その他は全て1nMずつ含有させた反応溶液を泳動したレーンを示す。この結果、いずれの反応溶液でも7断片の連結体は確認されたが、DCW3のみを2倍量(モル)含有させた反応溶液では、7断片の連結体の量が減少し、3断片の連結体と5断片の連結体の量が増大した。これは、過剰なDCW3により、DCW1〜DCW3が連結した連結体と、DCW3〜DCW7が連結した連結体が増加したためと推察される。これらの結果から、連結される各断片のモル比は等量となるように反応溶液を調製することにより、より多断片の連結効率が改善されることがわかった。
[実施例7]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、反応溶液中の3’→5’エキソヌクレアーゼの濃度と反応時間の影響を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW1〜DCW7を用いた。また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAの野生型を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。
具体的には、まず、各1nMのDCW1〜DCW7、1μMの大腸菌RecAの野生型、20mU/μL、40mU/μL、80mU/μL、120mU/μL、又は160mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、100μMのATP、4mMのクレアチンリン酸、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、50mMのグルタミン酸カリウム、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、及び10容量%のDMSOからなる反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、42℃で15分間、30分間、又は60分間インキュベートして連結反応を行った。反応終了後の反応溶液1μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図9に示す。図中、「500bp ladder」は実施例1で用いたDNAラダーマーカーを泳動したレーンを示し、「Input」は、各1nMのDCW1〜DCW7を含有する溶液1μLを泳動したレーンを示す。この結果、エキソヌクレアーゼIII濃度が20mU/μLの反応溶液では、インキュベーション時間が60分間であっても連結体はほとんど形成されていなかった。これに対して、エキソヌクレアーゼIII濃度が40mU/μLの反応溶液では、インキュベーション時間が30分間では連結体はほとんど形成されていなかったが、インキュベーション時間が60分間では7断片全部の連結体が形成されていた。また、エキソヌクレアーゼIII濃度が80〜160mU/μLの反応溶液では、インキュベーション時間が15分間でも、7断片全部の連結体が形成されていた。7断片連結体の量が最も多く、多断片の連結効率が最も良好であったのは、エキソヌクレアーゼIII濃度が80mU/μLであり、30分間インキュベートした反応溶液であった。
[実施例8]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、反応溶液中の直鎖状2本鎖DNA断片の濃度の影響を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW1〜DCW49(配列番号1〜配列番号49)を用いた。DCW1〜DCW7と同様に、DCW8〜DCW49のそれぞれの末端から60塩基までの領域は相同領域である。また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAの野生型を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。
具体的には、まず、各1nM又は各0.5nMの直鎖状2本鎖DNA断片、1μMの大腸菌RecAの野生型、80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、100μMのATP、4mMのクレアチンリン酸、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、50mMのグルタミン酸カリウム、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、及び10容量%のDMSOからなる反応溶液を調製した。各1nMのDCW1〜DCW20を含有させた反応溶液は、直鎖状2本鎖DNA断片の総量が20nM(7.8ng/μL)であった。各1nMのDCW1〜DCW25を含有させた反応溶液は、直鎖状2本鎖DNA断片の総量が25nM(9.8ng/μL)であった。各1nMのDCW1〜DCW30を含有させた反応溶液は、直鎖状2本鎖DNA断片の総量が30nM(11.7ng/μL)であった。各1nMのDCW1〜DCW40を含有させた反応溶液は、直鎖状2本鎖DNA断片の総量が40nM(15.6ng/μL)であった。各1nMのDCW1〜DCW49を含有させた反応溶液は、直鎖状2本鎖DNA断片の総量が49nM(19.1ng/μL)であった。各0.5nMのDCW1〜DCW49を含有させた反応溶液は、直鎖状2本鎖DNA断片の総量が24.5nM(9.6ng/μL)であった。次いで、これらの反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った。反応終了後の反応溶液について次の容量をアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。各1nMのDCW1〜DCW20を用いた反応溶液は1.25μL、各1nMのDCW1〜DCW25を用いた反応溶液は1μL、各1nMのDCW1〜DCW30を用いた反応溶液は0.83μL、各1nMのDCW1〜DCW40を用いた反応溶液は0.63μL、各1nMのDCW1〜DCW49を用いた反応溶液は0.51μL、各0.5nMのDCW1〜DCW49を用いた反応溶液は1.02μLであった。
染色結果を図10に示す。それぞれの直鎖状2本鎖DNA断片を1nMずつ含有させた反応溶液では、含有させた断片数が多くなるほど、すなわち、反応溶液中の直鎖状2本鎖DNA断片の総量が多くなるほど、多断片の連結体が形成され難くなっていた。また、DCW1〜DCW49を含有させた反応溶液同士を比較したところ、1nMずつ含有させた反応溶液よりも0.5nMずつ含有させた反応溶液のほうが、より多断片の連結体が得られていた。これらの結果から、反応溶液中の直鎖状2本鎖DNA断片の総量が多くなりすぎると連結効率が阻害される恐れがあることが示唆された。
[実施例9]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、RecAファミリー組換え酵素蛋白質の種類の影響を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW1〜DCW25(配列番号1〜配列番号25)を用いた。また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAの野生型又はF203W変異体を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。
具体的には、まず、各1nMのDCW1〜DCW25、0.5μM、0.75μM、1μM、1.25μM、又は1.5μMの大腸菌RecAの野生型又はF203W変異体、80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、100μMのATP、4mMのクレアチンリン酸、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、50mMのグルタミン酸カリウム、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、及び10容量%のDMSOからなる反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った後、65℃で20分間インキュベートした。65℃でのインキュベート終了後、氷上で急冷した反応溶液1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図11に示す。図中、「500bp ladder」は実施例1で用いたDNAラダーマーカーを泳動したレーンを示し、「Input」は、各1nMのDCW1〜DCW25を含有する溶液1.5μLを泳動したレーンを示す。この結果、野生型とF203W変異体のいずれであっても、RecAの含有量依存的に多断片の連結体の産生量が多くなっていた。また、野生型のRecAを含有させた反応溶液よりも、F203W変異体を含有させた反応溶液のほうが、多断片の連結体の産生量が多く、連結効率が高かった。
[実施例10]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結して環状の連結体を形成し、これをRCR増幅した。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片としては、まず、DCW1〜DCW20(配列番号1〜配列番号20)と、oriC及びoriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列を含むCm−oriC(DCW20)(配列番号50)のセットを用いた。ter配列は、方向特異的に複製を停止させる機能をもつ蛋白質Tusが結合する配列である。ter配列について「oriCに対して外向きに挿入する」とは、ter配列に結合して複製を阻害する活性を有する蛋白質の組合せの作用により、oriCより外側に向かう方向の複製に対しては複製を許容する一方、oriCに向かって入ってくる方向の複製に対しては複製を許容せず停止する方向でter配列を挿入することを意味する。Cm−oriC(DCW20)は、1298bpの直鎖状2本鎖DNA断片であり、1番目から60番目までの60塩基はDCW20との連結のための相同領域であり、DCW20の532番目から591番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。また、Cm−oriC(DCW20)の1239番目から1298番目までの60塩基はDCW1との連結のための相同領域であり、DCW1の1番目から60番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。つまり、DCW1〜DCW20及びCm−oriC(DCW20)の21断片が全て連結すると環状DNAが得られる。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片としては、その他に、DCW1〜DCW25(配列番号1〜配列番号25)と、oriCを含むCm−oriC(DCW25)(配列番号51)のセットを用いた。Cm−oriC(DCW25)は、1298bpの直鎖状2本鎖DNA断片であり、1番目から60番目までの60塩基はDCW25との連結のための相同領域であり、DCW25の532番目から591番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。また、Cm−oriC(DCW25)の1239番目から1298番目までの60塩基はDCW1との連結のための相同領域であり、DCW1の1番目から60番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。つまり、DCW1〜DCW25及びCm−oriC(DCW25)の26断片が全て連結すると環状DNAが得られる。
RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAのF203W変異体を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。さらに、RCR増幅反応液として、表1に示す組成の反応用混合物に60nMのTusを含む混合液を用いた。Tusは、Tusの大腸菌発現株から、アフィニティーカラムクロマトグラフィー及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
表1中、SSBは大腸菌由来SSB、IHFは大腸菌由来IhfA及びIhfBの複合体、DnaGは大腸菌由来DnaG、DnaNは大腸菌由来DnaN、Pol III*は大腸菌由来DnaX、HolA、HolB、HolC、HolD、DnaE、DnaQ、及びHolEからなる複合体であるDNAポリメラーゼIII*複合体、DnaBは大腸菌由来DnaB、DnaCは大腸菌由来DnaC、DnaAは大腸菌由来DnaA、RNaseHは大腸菌由来RNaseH、Ligaseは大腸菌由来DNAリガーゼ、Pol Iは大腸菌由来DNAポリメラーゼI、GyrAは大腸菌由来GyrA、GyrBは大腸菌由来GyrB、Topo IVは大腸菌由来ParC及びParEの複合体、Topo IIIは大腸菌由来トポイソメラーゼIII、RecQは大腸菌由来RecQを表す。
SSBは、SSBの大腸菌発現株から、硫安沈殿及びイオン交換カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
IHFは、IhfA及びIhfBの大腸菌共発現株から、硫安沈殿及びアフィニティーカラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
DnaGは、DnaGの大腸菌発現株から、硫安沈殿、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
DnaNは、DnaNの大腸菌発現株から、硫安沈殿及び陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
Pol III*は、DnaX、HolA、HolB、HolC、HolD、DnaE、DnaQ及びHolEの大腸菌共発現株から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
DnaB及びDnaCは、DnaB及びDnaCの大腸菌共発現株から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
DnaAは、DnaAの大腸菌発現株から、硫安沈殿、透析沈殿、及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
GyrA及びGyrBは、GyrAの大腸菌発現株とGyrBの大腸菌発現株の混合物から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
Topo IVは、ParCの大腸菌発現株とParEの大腸菌発現株の混合物から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
Topo IIIは、Topo IIIの大腸菌発現株から、硫安沈殿及びアフィニティーカラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
RecQは、RecQの大腸菌発現株から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
RNaseH、Ligase、Pol Iは、市販の大腸菌由来の酵素を用いた(タカラバイオ社製)。
具体的には、まず、2.5nM又は5nMの直鎖状2本鎖DNA断片セット、1μMのRecAのF203W変異体、80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、100μMのATP、4mMのクレアチンリン酸、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、50mMのグルタミン酸カリウム、5質量%のPEG8000、及び10容量%のDMSOからなる反応溶液を調製した。直鎖状2本鎖DNA断片セットとしては、前記のDCW1〜DCW20及びCm−oriC(DCW20)を全て等モルずつ含有するセット、又はDCW1〜DCW25及びCm−oriC(DCW25)を全て等モルずつ含有するセットを用いた。次いで、これらの反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った後、65℃で20分間インキュベートして熱処理し、さらにその後氷上で急冷した。熱処理・急冷後の反応溶液について、2.5nMの直鎖状2本鎖DNA断片セットを含むものは1μL、5nMの直鎖状2本鎖DNA断片セットを含むものは0.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図12(a)に示す。図中、「1−20」はDCW1〜DCW20及びCm−oriC(DCW20)を全て等モルずつ含有する直鎖状2本鎖DNA断片セットを含有する反応溶液を泳動したレーンを示す。「1−25」はDCW1〜DCW25及びCm−oriC(DCW25)を全て等モルずつ含有する直鎖状2本鎖DNA断片セットを含有する反応溶液を泳動したレーンを示す。この結果、いずれの反応溶液中にも、様々な大きさの連結体が含まれていることが確認された。
次いで、熱処理・急冷後の反応溶液0.5μLを、RCR増幅反応液4.5μLに添加して反応混合物を調製した。当該反応混合物を、30℃で13時間インキュベートすることによりRCR増幅反応を行った。反応終了後の反応混合物1μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図12(b)に示す。図中、「1−20」と「1−25」は図12(a)と同じである。この結果、DCW1〜DCW20及びCm−oriC(DCW20)のセットを連結させた反応溶液のRCR増幅物のレーンには、21断片の環状連結体のスーパーコイルのバンド(図中、「21 frag supercoil」)が観察された。DCW1〜DCW25及びCm−oriC(DCW25)のセットを連結させた反応溶液のRCR増幅物のレーンには、26断片の環状連結体のスーパーコイルのバンド(図中、「26 frag supercoil」)が観察された。また、連結反応後の反応溶液(図12(a))では多数のバンドが検出されたのに対して、RCR増幅後の反応混合物(図12(b))では数本のバンドしか検出されなかったことから、環状の連結体のみがRCR増幅により増幅されたことが確認できた。
[実施例11]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結して環状の連結体を形成し、これをRCR増幅する方法において、RCR増幅前の熱処理・急冷の影響を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片としては、実施例10で用いた「DCW1〜DCW25及びCm−oriC(DCW25)を全て等モルずつ含有する直鎖状2本鎖DNA断片セット」(20nMの直鎖状2本鎖DNA断片セット)を用いた。RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAのF203W変異体を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。さらに、RCR増幅反応液として表1に示す組成の反応用混合物に60nMのTusを含む混合液を用いた。
具体的には、まず、20nMの直鎖状2本鎖DNA断片セット、1.5μMのRecAのF203W変異体、80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、100μMのATP、4mMのクレアチンリン酸、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、50mMのグルタミン酸カリウム、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、及び10容量%のDMSOからなる反応溶液を調製した。次いで、この反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った後、50℃又は65℃で2分間インキュベートして熱処理し、さらにその後氷上で急冷した。急冷後の反応溶液1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図13(a)に示す。図中、「500bp ladder」は実施例1で用いたDNAラダーマーカーを泳動したレーンを示し、「Input」は、20nMの直鎖状2本鎖DNA断片セットを含有する溶液1.5μLを泳動したレーンを示す。また、「−」は連結反応後の熱処理を行わなかった反応溶液を泳動したレーンを示す。「50℃」は50℃で2分間インキュベートして熱処理した反応溶液を泳動したレーンを示す。「65℃」は65℃で2分間インキュベートして熱処理した反応溶液を泳動したレーンを示す。図13(a)に示す通り、熱処理を行わなかった反応溶液では、泳動されずにスメアーなバンドとなっていたのに対して、熱処理後の反応溶液では、スメアーバンドの大部分が解消されていた。
次いで、熱処理・急冷後の反応溶液0.5μLを、RCR増幅反応液4.5μLに添加して反応混合物を調製した。当該反応混合物を、30℃で13時間インキュベートすることによりRCR増幅反応を行った。対照として、65℃の熱処理・急冷後の反応溶液0.5μLを、10mMのTris−HCl(pH8.0)、1mMのEDTAからなるTE溶液4.5μLに添加して増幅前溶液とした。増幅前溶液及び反応終了後の反応混合物1μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図13(b)に示す。図中、「MK3」はDNAラダーマーカーを泳動したレーンを示す。この結果、連結反応により環状連結体が形成された反応溶液をRCR増幅した反応混合物では、26断片の環状連結体のスーパーコイルのバンド(図中、「25 frag scDNA」)が観察された(図13(b)中、「−」、「50℃」、「65℃」)。増幅前溶液(図13(b)中、「Input」)ではバンドは観察されなかった。熱処理を行わなかった反応混合物(「−」)では、26断片の環状連結体のスーパーコイルのバンドよりも泳動距離が長い箇所に2本のブロードのバンドが観察されたが、50℃で熱処理した反応混合物(「50℃」)ではこれらのバンドは薄くなっており、65℃で熱処理した反応混合物(「65℃」)ではこれらのバンドは検出されなかった。これらの結果から、26断片の環状連結体のスーパーコイルのバンドよりも泳動距離が長いバンドは、非特異的な連結により生じた環状連結体の増幅産物であり、RCR増幅前に熱処理・急冷を行うことによってこのような非特異的な増幅産物を抑制できることがわかった。
[実施例12]
26種類又は36種類の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結して環状の連結体を形成し、これをRCR増幅した。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片としては、DCW1〜DCW25(配列番号1〜配列番号25)と、oriCを含むKm−oriC(DCW25)(配列番号52)のセットを用いた。Km−oriC(DCW25)は、1509bpの直鎖状2本鎖DNA断片であり、1番目から60番目までの60塩基はDCW25との連結のための相同領域であり、DCW25の532番目から591番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。また、Km−oriC(DCW25)の1450番目から1509番目までの60塩基はDCW1との連結のための相同領域であり、DCW1の1番目から60番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。つまり、DCW1〜DCW25及びKm−oriC(DCW25)の26断片が全て連結すると環状DNAが得られる。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片としては、その他に、DCW1〜DCW35(配列番号1〜配列番号35)と、oriC及びoriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列を含むKm−oriC(DCW35)(配列番号53)のセットを用いた。Km−oriC(DCW35)は、1509bpの直鎖状2本鎖DNA断片であり、1番目から60番目までの60塩基はDCW35との連結のための相同領域であり、DCW35の532番目から591番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。また、Km−oriC(DCW35)の1450番目から1509番目までの60塩基はDCW1との連結のための相同領域であり、DCW1の1番目から60番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。つまり、DCW1〜DCW35及びKm−oriC(DCW35)の36断片が全て連結すると環状DNAが得られる。
RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAのF203W変異体を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。さらに、RCR増幅反応液として表1に示す組成の反応用混合物に60nMのTusを含む混合液を用いた。
具体的には、まず、20nMの直鎖状2本鎖DNA断片セット、1.5μMのRecAのF203W変異体、80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、100μMのATP、4mMのクレアチンリン酸、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、50mMのグルタミン酸カリウム、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、及び10容量%のDMSOからなる反応溶液を調製した。直鎖状2本鎖DNA断片セットとしては、前記のDCW1〜DCW25及びKm−oriC(DCW25)を全て等モルずつ含有するセット、又はDCW1〜DCW35及びKm−oriC(DCW35)を全て等モルずつ含有するセットを用いた。次いで、この反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った後、65℃で5分間インキュベートして熱処理し、さらにその後氷上で急冷した。急冷後の反応溶液1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図14(a)に示す。図中、「Input」は、20nMの直鎖状2本鎖DNA断片セットを含有する溶液1.5μLを泳動したレーンを示す。また、「DCW1−25 Km−oriC」は、前記のDCW1〜DCW25及びKm−oriC(DCW25)を全て等モルずつ含有するセットを含有させた反応溶液を泳動したレーンを示す。「DCW1−35 Km−oriC」は、前記のDCW1〜DCW35及びKm−oriC(DCW35)を全て等モルずつ含有するセットを含有させた反応溶液を泳動したレーンを示す。図14(a)に示す通り、いずれの直鎖状2本鎖DNA断片セットを用いた場合にも、連結反応により多断片の連結体が得られた。
次いで、熱処理・急冷後の反応溶液0.5μLを、RCR増幅反応液4.5μLに添加して反応混合物を調製した。当該反応混合物を、30℃で16時間インキュベートすることによりRCR増幅反応を行った。続いて、各RCR増幅反応物0.5μLをそれぞれ、表1に示す反応用混合物から酵素群のみを除いたもの(反応バッファー)4.5μLに希釈した後、30℃で30分間再インキュベートを行った。希釈後の再インキュベート処理は、産物中の増幅中間体の複製伸長や分離反応を促し、最終産物であるスーパーコイルDNAの産生量を高める効果がある。対照として、DCW1〜DCW25を用いて連結反応及び熱処理・急冷後を行った反応溶液0.5μLを、10mMのTris−HCl(pH8.0)、1mMのEDTAからなるTE溶液4.5μLに添加して増幅前溶液を調製した。増幅前溶液及び再インキュベート終了後の反応混合物2.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図14(b)に示す。この結果、26断片の直鎖状2本鎖DNA断片セットを連結後にRCR増幅した反応混合物では、26断片の環状連結体のスーパーコイルのバンド(図中、「26断片scDNA」)が観察された(図13(b)中、「DCW1−25 Km−oriC」)。36断片の直鎖状2本鎖DNA断片セットを連結後にRCR増幅した反応混合物では、36断片の環状連結体のスーパーコイルのバンド(図中、「36断片scDNA」)が観察された(図13(b)中、「DCW1−35 Km−oriC」)。増幅前溶液(図14(b)中、「Input」)ではバンドは観察されなかった。これらの結果から、本発明により、36断片という多断片の環状連結体を得られること、この環状連結体はRCR増幅により増幅できること、が確認された。ただし、36断片の連結反応物のほうが、26断片の連結反応物よりも、RCR増幅による非特異的増幅産物が多かった。
[実施例13]
Gibson Assembly法(特許文献3)を利用して複数の2本鎖DNA断片を連結する方法に用いるキット「NEBuilder HiFi DNAアッセンブリー」(NEB社製)が市販されている。当該キットでは、末端に15〜20塩基の相同領域がある2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、5’→3’エキソヌクレアーゼ、DNAポリメラーゼ、及びDNAリガーゼを含む当該キットに添付の混合溶液(Master mix)に添加し、50℃で15〜60分間インキュベートする方法(NEB法)により連結する。
RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結反応を行う本発明に係るDNAの産生方法と、NEB法との連結効率を比較した。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片としては、実施例12で用いたDCW1〜DCW25及びKm−oriC(DCW25)を全て等モルずつ含有するセットを用いた。RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAのF203W変異体を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。さらに、RCR増幅反応液として表1に示す組成の反応用混合物に60nMのTusを含む混合液を用いた。
具体的には、まず、本発明に係る方法(RA法)として、20nM又は60nMの直鎖状2本鎖DNA断片セット、1.5μMのRecAのF203W変異体、80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、100μMのATP、4mMのクレアチンリン酸、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、50mMのグルタミン酸カリウム、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、及び10容量%のDMSOからなる反応溶液を調製した。次いで、この反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った後、65℃で5分間インキュベートして熱処理し、さらにその後氷上で急冷した。急冷後の反応溶液1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
また、NEB法として、前記キットに添付の2×Master mixを2倍希釈した溶液に20nM又は60nMの直鎖状2本鎖DNA断片セットを混合した反応溶液を調製し、当該反応溶液を、50℃で60分間インキュベートして連結反応を行った。連結反応後の反応溶液1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図15(a)に示す。図中、「Input」は、20nMの直鎖状2本鎖DNA断片セットを含有する溶液1.5μLを泳動したレーンを示す。また、「RA」は、本発明に係る方法(RA法)で調製された反応溶液を泳動したレーンを示し、「NEB」はNEB法で調製した反応溶液を泳動したレーンを示す。図15(a)に示す通り、直鎖状2本鎖DNA断片セットの含有量が20nMと60nMのいずれの場合であっても、RA法で連結反応を行った反応溶液では、かなり多数の断片が連結した連結体が得られた。これに対して、NEB法で連結反応を行った反応溶液では、2〜3断片の連結体しか得られなかった。
次いで、各反応溶液0.5μLを、RCR増幅反応液4.5μLに添加して反応混合物を調製した。当該反応混合物を、30℃で16時間インキュベートすることによりRCR増幅反応を行った。続いて、各RCR増幅反応物0.5μLをそれぞれ、表1に示す反応用混合物から酵素群のみを除いたもの(反応バッファー)4.5μLに希釈した後、30℃で30分間再インキュベートを行った。再インキュベート終了後の反応混合物2.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図15(b)に示す。この結果、本発明に係る方法(RA法)で連結反応を行った反応溶液をRCR増幅した反応混合物(図中、「RA」)には、26断片が全て連結した環状の連結体の増幅産物のバンドが検出された(図中、「25 frag Supercoil」)。一方で、NEB法で連結反応を行った反応溶液をRCR増幅した反応混合物(図中、「NEB」)には、26断片の環状連結体の増幅産物のバンドは検出されず、NEB法では26断片を連結させることができなかった。また、いずれの反応混合物においても、非特異的なローリングサークル型複製の進行によりコンカテマーとなった産物や、複製後に未分離のまま残った環状DNA多量体産物(カテナン)が、アガロースゲル電気泳動の分離限界の位置に検出された(図中、「Multimer」)。
[実施例14]
長鎖ゲノムの断片同士を連結し、環状連結体を形成し、その後RCR増幅で増幅させた。
長鎖ゲノムの断片として、大腸菌株(DGF−298WΔ100::revΔ234::SC)のゲノムDNAのXba I消化物(15断片、DGF−298/XbaI)を用い、このうち、325kbpのゲノム断片(325kゲノム断片)と220kbpのゲノム断片(220kゲノム断片)を、それぞれ、oriCを含む連結用断片(Cm−oriC断片)と連結させて環状とした。325kゲノム断片を環化する連結用断片としては、oriCを含み、かつ、上流末端に325kゲノム断片の下流末端との相同領域があり(すなわち、上流末端の60塩基が、325kゲノム断片の下流末端の60塩基と同一の塩基配列からなり)、下流末端に325kゲノム断片の上流末端との相同領域がある(すなわち、下流末端の60塩基が、325kゲノム断片の上流末端の60塩基と同一の塩基配列からなる)、1298bpの直鎖状2本鎖DNA断片(Cm−oriC/325k断片、配列番号59)を用いた。220kゲノム断片を環化する連結用断片としては、oriCを含み、かつ、上流末端に220kゲノム断片の下流末端との相同領域があり(すなわち、上流末端の60塩基が、220kゲノム断片の下流末端の60塩基と同一の塩基配列からなり)、下流末端に220kゲノム断片の上流末端との相同領域がある(すなわち、下流末端の60塩基が、220kゲノム断片の上流末端の60塩基と同一の塩基配列からなる)、1298bpの直鎖状2本鎖DNA断片(Cm−oriC/220k断片、配列番号60)を用いた。さらに、RCR増幅反応液として表1に示す組成の反応用混合物を用いた。
具体的には、大腸菌ゲノムDNAのXba I消化物(DGF−298/XbaI、4.8ng/μL)と、連結対象ゲノム断片である325kゲノム断片との相同領域を持つCm−oriC/325k断片(240pM)を、RA反応液[20mM Tris−HCl(pH8.0)、4mM DTT、150mM KOAc、10mM Mg(OAc)2、100μM ATP、5質量% PEG8000、40mU/μL エキソヌクレアーゼIII、1μM 大腸菌RecAのF203W変異体](5μL)に加え、30℃で60分間インキュベートして連結反応を行った。得られたRA産物0.5μLをRCR増幅反応液(4.5μL)に加え、温度サイクル(37℃で1分、次いで24℃で30分間を1サイクルとし、これを40サイクル繰り返した)を用いた増幅反応を行った。連結対象ゲノム断片を220kbpとし、Cm−oriC/325k断片に代えてCm−oriC/220k断片を用いて同様にして連結反応を行った後、RCR増幅を行った。対照として、200kbpの環状oriCプラスミドについて、同様にRCR増幅を行った。325kゲノム断片連結産物のRCR増幅反応液には、長鎖DNA安定化のために50μM ジエチレントリアミン五酢酸を添加した。
反応終了後の反応混合物1μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。染色結果を図16に示す。図中、「220kb」は連結対象ゲノム断片を220kbpとした反応で得られた増幅産物を泳動したレーンを示す。「325kb」は連結対象ゲノム断片を325kbpとした反応で得られた増幅産物を泳動したレーンを示す。「200kb(RCR Control)」は、200kbpの環状oriCプラスミドをそのまま増幅して得られた産物を泳動したレーンを示す。この結果、連結対象ゲノム断片を220kbpとした反応では、220kbpの環状連結体のスーパーコイルが、連結対象ゲノム断片を325kbpとした反応では、325kbpの環状連結体のスーパーコイルが、それぞれ検出された。これらの結果から、本発明に係るDNAの産生方法により、325kbpもの長鎖の2本鎖DNA断片を環化できることが確認された。
[実施例15]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、クレアチンキナーゼとクレアチンリン酸からなるATP再生経路を含む反応溶液中のクレアチンリン酸濃度の影響を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW1〜DCW10(配列番号1〜配列番号10)を用いた。また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAのF203W変異体を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。
具体的には、まず、各2nMのDCW1〜DCW10、1.5μMのRecAのF203W変異体、80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、50mMのグルタミン酸カリウム、100μMのATP、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、10容量%のDMSO、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、及び、0mM(無添加)、0.1mM、0.4mM、1mM、4mM、若しくは10mMのクレアチンリン酸からなる反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った後、65℃で2分間インキュベートして熱処理し、さらにその後氷上で急冷した。熱処理・急冷後の反応溶液のうち1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図17に示す。図中、「Input」は、各2nMのDCW1〜DCW10を含有する溶液2μLを泳動したレーンを示す。この結果、連結反応を行ったサンプルのうち、クレアチンリン酸濃度が0.4〜10mMのサンプルで10断片全部が連結した連結体のバンドが確認された。特に、クレアチンリン酸濃度が1mM又は4mMのサンプルは、10断片の連結体の量が多く、中でも4mMのサンプルは、2〜9断片の連結体の量も多く、連結効率に優れていることがわかった。
[実施例16]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、クレアチンキナーゼとクレアチンリン酸からなるATP再生経路を含む反応溶液中のクレアチンキナーゼ濃度の影響を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW1〜DCW10(配列番号1〜配列番号10)を用いた。また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAのF203W変異体を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。
具体的には、まず、各2nMのDCW1〜DCW10、1.5μMのRecAのF203W変異体、80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、50mMのグルタミン酸カリウム、100μMのATP、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、10容量%のDMSO、4mMのクレアチンリン酸、及び、0ng/μL(無添加)、5ng/μL、20ng/μL、50ng/μL、若しくは200ng/μLのクレアチンキナーゼからなる反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った後、65℃で2分間インキュベートして熱処理し、さらにその後氷上で急冷した。熱処理・急冷後の反応溶液のうち1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図18に示す。図中、「Input」は、各2nMのDCW1〜DCW10を含有する溶液2μLを泳動したレーンを示し、「Buffer」はクレアチンキナーゼ無添加(0ng/μL)のサンプルを泳動したレーンを示す。この結果、連結反応を行ったサンプルのうち、クレアチンキナーゼを添加した全てのサンプルにおいて、10断片全部が連結した連結体のバンドが確認された。
[実施例17]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、ピルビン酸キナーゼとホスホエノールピルビン酸からなるATP再生系の影響を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW1〜DCW35(配列番号1〜配列番号35)とoriC及びoriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列を含むKm−oriC(DCW35)(配列番号53)のセットを用いた。また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAのF203W変異体を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。
具体的には、まず、各0.6nMのDCW1〜DCW35及びKm−oriC(DCW35)、1.5μMのRecAのF203W変異体、80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、50mMのグルタミン酸カリウム、100μMのATP、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、10容量%のDMSO、2mMのホスホエノールピルビン酸、並びに、10ng/μL、32ng/μL、若しくは100ng/μLのピルビン酸キナーゼからなる反応溶液を調製した。また、比較対象として、2mMのホスホエノールピルビン酸に代えて2mMのクレアチンリン酸を、ピルビン酸キナーゼに代えて20ng/μLのクレアチンキナーゼを混合した以外は同様にして調製した反応溶液と、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼを含有しない以外は同様にして調製した反応溶液も得た。次いで、これらの反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った後、65℃で2分間インキュベートして熱処理し、さらにその後氷上で急冷した。熱処理・急冷後の反応溶液のうち1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図19に示す。図中、「Input」は、各0.6nMのDCW1〜DCW35及びKm−oriC(DCW35)を含有する溶液2μLを泳動したレーンを示す。「−ATP regeneration」は、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼを含有しないサンプルを泳動したレーンを示す。「CP 2mM,CK 20ng/μL」は、クレアチンリン酸とクレアチンキナーゼを含有するサンプルを泳動したレーンを示す。「PEP2mM」は、ホスホエノールピルビン酸と各濃度のピルビン酸キナーゼを含有するサンプルを泳動したレーンを示す。この結果、2mMのホスホエノールピルビン酸と100ng/μLのピルビン酸キナーゼからなるATP再生系を含むサンプルでは、クレアチンリン酸とクレアチンキナーゼからなるATP再生系を含むサンプルと同様に、多断片が連結した連結体のバンドが確認された。
[実施例18]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、ポリリン酸キナーゼとポリリン酸からなるATP再生系の影響を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW1〜DCW10(配列番号1〜配列番号10)を用いた。また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAのF203W変異体を用い、3’→5’エキソヌクレアーゼとして、エキソヌクレアーゼIIIを用いた。
具体的には、まず、各2nMのDCW1〜DCW10、1μMのRecAの野生型、80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、50mMのグルタミン酸カリウム、100μMのATP、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、10容量%のDMSO、及び、20ng/μLのポリリン酸キナーゼと、1mM、4mM、若しくは10mMのポリリン酸と、20ng/μL、60ng/μL、若しくは150ng/μLのポリリン酸キナーゼと、からなる反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った後、65℃で2分間インキュベートして熱処理し、さらにその後氷上で急冷した。熱処理・急冷後の反応溶液のうち1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図20に示す。図中、「Input」は、各2nMのDCW1〜DCW10を含有する溶液2μLを泳動したレーンを示す。この結果、連結反応を行ったサンプルのうち、60ng/μLのポリリン酸キナーゼと1mMのポリリン酸とを添加したサンプルにおいて、10断片全部が連結した連結体のバンドが確認された。
[実施例19]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼと1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼを併用する効果を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW1〜DCW10(配列番号1〜配列番号10)を用いた。また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAの野生型を用い、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとしてエキソヌクレアーゼIIIを、1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとしてエキソヌクレアーゼIを、それぞれ用いた。
具体的には、まず、各1nMのDCW1〜DCW10、1μMのRecAの野生型、80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、50mMのグルタミン酸カリウム、100μMのATP、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、10容量%のDMSO、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、4mMのクレアチンリン酸、及び、0U/μL(無添加)、0.1U/μL、0.3U/μL、若しくは1U/μLのエキソヌクレアーゼIからなる反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った後、65℃で2分間インキュベートして熱処理し、さらにその後氷上で急冷した。熱処理・急冷後の反応溶液のうち1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図21に示す。図中、「Input」は、各1nMのDCW1〜DCW10を含有する溶液2μLを泳動したレーンを示す。この結果、連結反応を行った全てのサンプルで10断片全部が連結した連結体のバンドが確認された。また、10断片全部が連結した連結体の量は、エキソヌクレアーゼIの添加量依存的に多くなっていた。これらの結果から、エキソヌクレアーゼIの添加により、エキソヌクレアーゼIIIとRecAによる連結反応が促進されることが判明した。
[実施例20]
36種類の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼと、1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結して環状の連結体を形成し、これをRCR増幅した。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW1〜DCW35(配列番号1〜配列番号35)とoriC及びoriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列を含むKm−oriC(DCW35)(配列番号53)のセットを用いた。また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAの野生型を用い、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとしてエキソヌクレアーゼIIIを、1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとしてエキソヌクレアーゼIを、それぞれ用いた。さらに、RCR増幅反応液として表1に示す組成の反応用混合物に60nMのTusを含む混合液を用いた。
具体的には、まず、各0.6nMのDCW1〜DCW35及びKm−oriC(DCW35)、1μMのRecAの野生型、80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、50mMのグルタミン酸カリウム、100μMのATP、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、10容量%のDMSO、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、4mMのクレアチンリン酸、及び、0U/μL(無添加)、0.3U/μL、若しくは1U/μLのエキソヌクレアーゼIからなる反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った後、65℃で2分間インキュベートして熱処理し、さらにその後氷上で急冷した。熱処理・急冷後の反応溶液のうち1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図22(a)に示す。図中、「Input」は、各0.6nMのDCW1〜DCW35及びKm−oriC(DCW35)を含有する溶液2μLを泳動したレーンを示す。図22(a)に示す通り、いずれのサンプルでも、多断片の連結体が確認された。また、エキソヌクレアーゼIの添加量が多いサンプルほど、より多数の断片の連結体の量が多かった。
次いで、熱処理・急冷後の反応溶液0.5μLを、RCR増幅反応液4.5μLに添加して反応混合物を調製した。当該反応混合物を、30℃で16時間インキュベートすることによりRCR増幅反応を行った。続いて、各RCR増幅反応物1μLをそれぞれ、表1に示す反応用混合物から酵素群のみを除いたもの(反応バッファー)4μLに希釈した後、30℃で30分間再インキュベートを行った。再インキュベート終了後の反応混合物2.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図22(b)に示す。この結果、エキソヌクレアーゼIを添加したサンプルでは、36断片の環状連結体のスーパーコイルのバンド(図中、「36断片scDNA」)が観察された(図13(b)中、「36 frag. Supercoil」)。一方で、エキソヌクレアーゼIを添加しなかったサンプルでは、このバンドは観察されなかった。この結果から、RecAとエキソヌクレアーゼIIIによる連結反応がエキソヌクレアーゼIの添加により連結効率が促進された結果、36断片全てが連結した環状連結体が得られたことがわかった。
[実施例21]
50種類の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼと、1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結して環状の連結体を形成し、これをRCR増幅した。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW1〜DCW49(配列番号1〜配列番号49)とoriC及びoriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列を含むKm−oriC(DCW49)(配列番号62)のセットを用いた。Km−oriC(DCW49)は、1509bpの直鎖状2本鎖DNA断片であり、1番目から60番目までの60塩基はDCW49との連結のための相同領域であり、DCW49の532番目から591番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。また、Km−oriC(DCW49)の1450番目から1509番目までの60塩基はDCW1との連結のための相同領域であり、DCW1の1番目から60番目までの60塩基と同一の塩基配列からなる。つまり、DCW1〜DCW49及びKm−oriC(DCW49)の50断片が全て連結すると環状DNAが得られる。
また、ポジティブコントロールとして、DCW1〜DCW35(配列番号1〜配列番号35)とoriC及びoriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列を含むKm−oriC(DCW35)のセットも用いた。また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAの野生型を用い、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとしてエキソヌクレアーゼIIIを、1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとしてエキソヌクレアーゼIを、それぞれ用いた。さらに、RCR増幅反応液として表1に示す組成の反応用混合物に60nMのTusを含む混合液を用いた。
具体的には、まず、各0.6nMのDCW1〜DCW49及びKm−oriC(DCW49)、1μMのRecAの野生型、80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、50mMのグルタミン酸カリウム、100μMのATP、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、10容量%のDMSO、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、4mMのクレアチンリン酸、及び、0.3U/μLのエキソヌクレアーゼIからなる反応溶液を調製した。また、各0.6nMのDCW1〜DCW49及びKm−oriC(DCW49)に代えて、各0.6nMのDCW1〜DCW35及びKm−oriC(DCW35)を混合した以外は同様にして調製した反応溶液も準備した。次いで、これらの反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った後、65℃で2分間インキュベートして熱処理し、さらにその後氷上で急冷した。熱処理・急冷後の反応溶液のうち1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図23(a)に示す。図中、「DCW1-35 Km-oriC 20 nM (8.8 ng/mL)」のうち、「Input」は、各0.6nMのDCW1〜DCW35及びKm−oriC(DCW35)を含有する溶液1.5μLを泳動したレーンを示し、「RA」は、各0.6nMのDCW1〜DCW35及びKm−oriC(DCW35)を含有させた反応溶液を泳動したレーンを示す。「DCW1-49 Km-oriC 30 nM (12.1 ng/mL)」のうち、「Input」は、各0.6nMのDCW1〜DCW49及びKm−oriC(DCW49)を含有する溶液1.5μLを泳動したレーンを示し、「RA」は、各0.6nMのDCW1〜DCW49及びKm−oriC(DCW49)を含有させた反応溶液を泳動したレーンを示す。この結果、DCW1〜DCW35及びKm−oriC(DCW35)を用いたサンプルとDCW1〜DCW49及びKm−oriC(DCW49)を用いたサンプルの両方とも、多断片の連結体が確認された。
次いで、熱処理・急冷後の反応溶液0.5μLを、RCR増幅反応液4.5μLに添加して反応混合物を調製した。当該反応混合物を、30℃で16時間インキュベートすることによりRCR増幅反応を行った。続いて、各RCR増幅反応物1μLをそれぞれ、表1に示す反応用混合物から酵素群のみを除いたもの(反応バッファー)4μLに希釈した後、30℃で30分間再インキュベートを行った。再インキュベート終了後の反応混合物2.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図23(b)に示す。図中、「MK3」はDNAラダーマーカーを泳動したレーンを示す。この結果、実施例20で確認されたように、DCW1〜DCW35及びKm−oriC(DCW35)を用いたサンプルでは、36断片が連結した環状連結体がえられ、この増幅産物が確認された。一方で、DCW1〜DCW49及びKm−oriC(DCW49)を用いたサンプルでは、50断片が連結した環状連結体のバンドが期待される位置に薄いバンドが確認された。
次いで、DCW1〜DCW49及びKm−oriC(DCW49)を含む反応溶液の連結反応及びその後のRCR増幅反応後の反応溶液に含まれるDNA(50断片が連結した環状連結体の増幅産物)を単離し、そのDNAの塩基配列構造を調べた。
具体的には、RCR反応後の溶液1μLに9μLのTEバッファー(10mMのTris−HCl(pH8.0)、1mMのEDTAを含む溶液)を添加し、得られた希釈液1μLを大腸菌コンピテントセル(E.coli HST08 Premium Electro−Cells、タカラバイオ社製)を含む溶液50μLに混合し、得られた混合液に対してエレクトロポレーション法を行い、形質転換を行った。得られた形質転換体のコロニー12個を50μg/mLのカナマイシンを含む20mLのLB液体培地で一晩培養し、それぞれの培養液で増殖した大腸菌の細胞内に保持されているプラスミドDNAを抽出した。得られたDNA抽出液の260nmの波長の吸光度を測定してDNA濃度の算出を行い、算出されたDNA濃度をもとに、15ng分の抽出DNAを0.5質量%のアガロースからなるゲルを用いて電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
この結果、12個のコロニーのうち、3個(No.6、8、10)では、50断片の連結体の増幅産物(ギャップやニックのない2本鎖環状DNA)のバンドが検出された。次いで、この3つのコロニーと、50断片の連結体の増幅産物のバンドが確認できなかったコロニー(No.12)について、15ng分の抽出DNAを1質量%のアガロースからなるゲルを用いて電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。染色結果を図24に示す。図中、「MK3」はDNAラダーマーカーを泳動したレーンを示し、「RCR」は、RCR反応後の溶液を泳動したレーンを示す。また、「genome」は大腸菌のゲノムDNAのバンドを指し、「*」は50断片の連結体の増幅産物のバンドを指す。図24に示すように、No.6、8、10のコロニーを構成する形質転換体では、大腸菌のゲノムDNAと50断片の連結体の増幅産物のバンドしか検出されなかった。
次いで、No.6、8、10のコロニーの形質転換体から得られた、50断片が連結した環状連結体と想定される標的DNAの配列構造について調べた。この50断片の環状連結体は、その塩基配列から、制限酵素PciIで消化すると、10,849bp、8,121bp、4,771bp、及び3,694bpの計4断片が得られ、制限酵素NcoIで消化すると、11,308bp、7,741bp、4,407bp、2,599bp、1,123bp、及び257bpの計6断片が得られる。そこで、各形質転換体から得られた環状連結体と想定される標的DNAをPciI又はNcoIで消化し、そのバンドパターンを調べた。
具体的には、0.03ng/μLの抽出DNA0.5μLを、RCR増幅反応液4.5μLに添加して反応溶液を調製した。当該反応溶液を、30℃で16時間インキュベートすることによりRCR増幅反応を行った。続いて、各RCR増幅反応物5μLをそれぞれ、RCR反応バッファー(表1の反応バッファー)20μLに希釈した後、30℃で30分間再インキュベートを行った。再インキュベート終了後の反応混合物25μLを、50mMのTris−HCl(pH8.0)、50mMのEDTA、0.2質量%のドデシル硫酸ナトリウム、100μg/mLのプロネースK、10質量%のグリセロール、0.2質量%のブロモフェノールブルーを含む溶液25μLに加えて、37℃で30分間インキュベートし、RCR反応タンパク質群を分解した。インキュベート後の溶液に等量のPCI溶液(TE飽和フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール=25:24:1)を加え、ボルテックスミキサーを用いて激しく混合した後、12000rpmで1分間遠心分離を行った。分離後の水層を、MF(商標)−Membrane Filters(Filter Type:0.05μm VMWP、メルク社製)を用いてTEバッファーで透析した。透析後のDNA溶液のDNA濃度を、当該DNA溶液の260nmの波長の吸光度に基づいて算出した。40ngの透析後DNA、1×のNEBuffer3、及び0.1質量%BSAを含む溶液4.5μLを調整し、その溶液に10U/μLの制限酵素PciI(タカラバイオ社製)、10U/μLの制限酵素NcoI(ニュー・イングランド・バイオラボ社製)、又は水を0.5μL加え、37℃で30分間インキュベートした。インキュベート後の反応溶液2.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図25に示す。図中、「MK3」及び「MK2」はそれぞれDNAラダーマーカーを泳動したレーンを示し、「RCR product」は、RCR反応後の溶液を泳動したレーンを示す。「6」、「8」、「10」は、それぞれ、No.6、8、10のコロニーの形質転換体の抽出DNAのRCR増幅反応物を泳動したレーンを示す。「−」は酵素処理なしのサンプルを泳動したレーンを示す。この結果、No.6、8、10の形質転換体に含まれている環状DNAは、PciIとNcoIの消化物のバンドパターンから、目的の50断片を連結した環境連結体であることが確認された。
[実施例22]
相同領域が、3’突出末端又はその近傍に存在するDNA断片を含む直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼと1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼを併用する効果を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、pUC4KSceIを制限酵素PI−Sce Iで消化した、末端が3’突出末端である直鎖状2本鎖DNA断片(pUC4KSceIフラグメント)と、この直鎖状2本鎖DNA断片と連結して環状の連結体を構成するように設計した直鎖状2本鎖DNA断片(Km−oriC PI−SceI)と、を用いた。pUC4KSceIは、pUC4Kプラスミドを鋳型に、プライマーペア(CTATGCGGCATCAGAGCAG(配列番号63)及びGTTAAGCCAGCCCCGACAC(配列番号64))を用いてPCR増幅した4kbpの断片と500bpのPI−SceI fragment(配列番号65)を、RAにより連結環状化して調製したプラスミドである。また、Km−oriC PI−SceIは、Km−oriC(DCW35)断片を鋳型にプライマーペア(tgcgtaagcggggcacatttcattacctctttctccgcacGCTCTGCCAGTGTTACAACC(配列番号66)及びtaatgtatactatacgaagttattatctatgtcgggtgcTAACGCGGTATGAAAATGGAT(配列番号67))を用いて増幅したPCR断片である。
また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAのF203W変異体を用い、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとしてエキソヌクレアーゼIIIを、1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとしてエキソヌクレアーゼIを、それぞれ用いた。
具体的には、まず、各1.28nMのpUC4KSceIフラグメント及びKm−oriC PI−SceI、1.5μMのRecAのF203W変異体、80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、50mMのグルタミン酸カリウム、100μMのATP、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、10容量%のDMSO、4mMのクレアチンリン酸、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、並びに、0U/μL(無添加)、0.3U/μL、0.6U/μL、若しくは1U/μLのエキソヌクレアーゼIからなる反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、42℃で60分間インキュベートして連結反応を行った後、65℃で5分間インキュベートして熱処理し、さらにその後氷上で急冷した。熱処理・急冷後の反応溶液のうち1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図26に示す。図中、「Input」は、各1.28nMのpUC4KSceIフラグメント及びKm−oriC PI−SceIを含有する溶液2μLを泳動したレーンを示す。図中、「pUC4KSceI」がpUC4KSceIフラグメントのバンド、「Km−oriC」がKm−oriC PI−SceIのバンド、「Assembly product」がpUC4KSceIフラグメントとKm−oriC PI−SceIが連結した連結体のバンドである。この結果、エキソヌクレアーゼIの添加量が多いサンプルほど、より多量の連結体が得られた。これは、エキソヌクレアーゼIIIは、3’突出末端を標的とし難いが、エキソヌクレアーゼIが3’突出末端を消化してエキソヌクレアーゼIIIが標的としやすい5’突出末端とするために、連結効率が高まるためと考えられる。
[実施例23]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼと2種類の1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとを併用する効果を調べた。
連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW34〜DCW43(配列番号34〜配列番号43)を用いた。また、RecAファミリー組換え酵素蛋白質として、大腸菌RecAの野生型を用い、直鎖状2本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとしてエキソヌクレアーゼIIIを、1本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとしてエキソヌクレアーゼI及びエキソヌクレアーゼTを、それぞれ用いた。
具体的には、まず、各1nMのDCW34〜DCW43、1μMのRecAの野生型、80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、1U/μLのエキソヌクレアーゼI、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、50mMのグルタミン酸カリウム、100μMのATP、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、10容量%のDMSO、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、4mMのクレアチンリン酸、及び、0U/μL(無添加)、0.05U/μL、0.15U/μL、若しくは0.5U/μLのエキソヌクレアーゼTからなる反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った後、65℃で2分間インキュベートして熱処理し、さらにその後氷上で急冷した。熱処理・急冷後の反応溶液のうち1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図27に示す。この結果、連結反応を行った全てのサンプルで10断片全部が連結した連結体のバンドが確認された。また、2〜9断片が連結した連結体の量は、エキソヌクレアーゼTの添加量依存的に少なくなっていた。これらの結果から、エキソヌクレアーゼI及びエキソヌクレアーゼTの添加により、多数の連結断片の連結反応が促進されることが判明した。
[実施例24]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、RecAファミリー組換え酵素蛋白質としてバクテリオフォージRecAホモログであるT4ファージUvsXを用いた。連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW34〜DCW43(配列番号34〜配列番号43)を用いた。
具体的には、まず、各1nMのDCW34〜DCW43、8、30、若しくは80mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、1U/μLのエキソヌクレアーゼI、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、50mMのグルタミン酸カリウム、100μMのATP、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、10容量%のDMSO、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、4mMのクレアチンリン酸、及び、0μM(無添加)、1μM、若しくは3μMのUvsX又は1μMのRecAの野生型(対照)からなる反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った後、65℃で2分間インキュベートして熱処理し、さらにその後氷上で急冷した。熱処理・急冷後の反応溶液のうち1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図28に示す。図中、「Input」は、各1nMのDCW34〜DCW43を含有する溶液2μLを泳動したレーンを示す。この結果、1μM又は3μMのUvsXと80mU/μLのエキソヌクレアーゼIIIとの存在下で連結反応を行ったサンプルでは、1μMのRecAの野生型と80mU/μLのエキソヌクレアーゼIIIとの存在下で連結反応を行ったサンプルと同様に、10断片全部が連結した連結体のバンドが確認された。これらの結果から、バクテリオフォージRecAホモログであるUvsXを用いた場合でも、RecAを用いた場合と同様に高い連結効率で連結反応が行えることが確認された。
[実施例25]
2種類以上の直鎖状2本鎖DNA断片を、UvsXと3’→5’エキソヌクレアーゼとを用いて連結する反応において、T4ファージUvsYを併用する効果を調べた。連結する直鎖状2本鎖DNA断片は、DCW34〜DCW43(配列番号34〜配列番号43)を用いた。
具体的には、まず、各1nMのDCW34〜DCW43、3μMのUvsX、60mU/μLのエキソヌクレアーゼIII、1U/μLのエキソヌクレアーゼI、20mMのTris−HCl(pH8.0)、4mMのDTT、1mMの酢酸マグネシウム、50mMのグルタミン酸カリウム、100μMのATP、150mMのTMAC、5質量%のPEG8000、10容量%のDMSO、20ng/μLのクレアチンキナーゼ、4mMのクレアチンリン酸、及び、0μM(無添加)、0.1μM、0.3μM、若しくは1μMのUvsYからなる反応溶液を調製した。次いで、これらの反応溶液を、42℃で30分間インキュベートして連結反応を行った後、65℃で2分間インキュベートして熱処理し、さらにその後氷上で急冷した。熱処理・急冷後の反応溶液のうち1.5μLをアガロース電気泳動し、分離したバンドをSYBR Green染色した。
染色結果を図29に示す。この結果、連結反応を行った全てのサンプルで10断片全部が連結した連結体のバンドが確認された。UvsYの添加量依存的に、10断片全部が連結した連結体の量が多くなり、2〜9断片が連結した連結体の量は少なくなっていた。これらの結果から、UvsXとUvsYを併用することにより、エキソヌクレアーゼIIIとUvsXによる連結反応が促進されることが判明した。