I.無細胞系でDNAを編集する方法
本発明は、無細胞系でDNAを編集する方法であって、以下の工程:
(1)無細胞系において、DNAの標的部位に欠失、置換、又は付加を導入する工程;及び
(2)工程(1)において欠失、置換、又は付加が導入されたDNAを、無細胞系において増幅させる工程、ここで当該DNAは、20℃~80℃の範囲の温度でインキュベートする温度条件下で増幅される;
を含む、前記方法(本明細書中、本発明の方法という場合がある。)を提供する。
本発明において、「無細胞系でDNAを編集する」とは、細胞を使用することなく、DNA中の標的部位を改変し、得られたDNAを増幅させることをいう。なお、本明細書中、改変される前のDNAを、鋳型DNAという場合がある。従来の細胞を使用する系では、細胞外で改変されたDNAを細胞内に導入するか、又は細胞内に存在するDNAを改変するために必要な酵素等を細胞内に導入する必要があり、細胞の培養等に高度な技術を要する上に、多大な時間及び労力を要するという問題があった。本発明においては、DNAを改変し増幅させる過程において細胞を全く使用しないため、改変されたDNAを効率よく作製することができる。
本発明において、鋳型DNAは、一本鎖又は二本鎖のいずれであってもよい。鋳型DNAが一本鎖である場合、本発明の方法の工程(1)又は(2)において、二本鎖が形成される。したがって、本発明の方法により、鋳型DNA中の標的部位が改変された二本鎖DNAを得ることができる。また鋳型DNAは、環状DNA又は直鎖状DNAであり得る。
欠失、置換、又は付加が導入されたDNAのサイズは、工程(1)及び(2)において使用される技術によって異なりうるが、例えば、1 kb(1000塩基長)以上、5 kb以上、8.8 kb以上、9.5 kb以上、10 kb以上、20 kb以上、30 kb以上、 40 kb以上、50 kb以上、60 kb以上、70 kb以上、80 kb以上、90 kb以上、100 kb以上、101 kb以上、183 kb以上、200 kb以上、205 kb以上、300 kb以上、500 kb以上、1000 kb以上、又は2000 kb以上であり得る。工程(2)において、後述するRCR法を用いた場合、従来のPCR法では増幅し得なかった、例えば50 kb以上、60 kb以上、70 kb以上、80 kb以上、90 kb以上、100 kb以上、101 kb以上、183 kb以上、200 kb以上、205 kb以上、300 kb以上、500 kb以上、1000 kb以上、又は2000 kb以上のサイズの改変されたDNAを得ることができる。一方で、欠失、置換、又は付加が導入されたDNAのサイズの上限は特に限定されないが、例えば、10000 kb程度とすることができる。
I-1.工程(1)
本発明の方法における工程(1)は、無細胞系においてDNAを改変する工程である。「無細胞系」とは、大腸菌等の細胞を直接使用せず、その代わりに大腸菌等の各細胞内に存在する酵素などを利用する系である。本発明において、DNAの「改変」とは、DNA鎖上のあるヌクレオチドが別のヌクレオチドに置換されること、DNA鎖上の1つ以上のヌクレオチドが欠失すること、DNA鎖上のヌクレオチド間に1つ以上のヌクレオチドが挿入されること、又はDNA鎖の末端に1つ以上のヌクレオチドが付加されることを意味する。本明細書中、ヌクレオチドの挿入及び付加をまとめて「付加」という。また、1つのDNA断片に別のDNA断片を連結することも、付加に含まれる。
欠失、置換又は付加されるヌクレオチドの数は、1個以上であれば任意の数であり得る。非限定的に、1ヌクレオチド以上、2ヌクレオチド以上、3ヌクレオチド以上、4ヌクレオチド以上、5ヌクレオチド以上、8ヌクレオチド以上、10ヌクレオチド以上、12ヌクレオチド以上、15ヌクレオチド以上、18ヌクレオチド以上、20ヌクレオチド以上が好ましい。また、欠失、置換又は付加されるヌクレオチドの数の上限は、鋳型DNAのサイズによって異なり得るが、例えば、5000ヌクレオチド以下、4000ヌクレオチド以下、3000ヌクレオチド以下、2000ヌクレオチド以下、1000ヌクレオチド以下、500ヌクレオチド以下、300ヌクレオチド以下、200ヌクレオチド以下、150ヌクレオチド以下、120ヌクレオチド以下、100ヌクレオチド以下、80ヌクレオチド以下、70ヌクレオチド以下、50ヌクレオチド以下、30ヌクレオチド以下であってもよい。本発明の方法によれば、例えば、鋳型DNAに対して1つ以上の遺伝子全体を欠失、置換又は付加することもできる。1つのDNA中の2箇所以上でヌクレオチドが同時に欠失、置換、又は付加されてもよい。
無細胞系においてDNAを改変するためには、特に制限はなく、当該技術分野において公知の部位特異的変異導入技術を利用することができる。また、RA法(特許文献4参照)などの複数のDNAを連結する技術を利用することもできる。RA法として具体的には、例えば、まず2種類以上のDNA断片と、RecAファミリー組換え酵素活性をもつ蛋白質とを含む反応溶液を調製する。次いで、前記反応溶液中で、前記2種類以上のDNA断片を塩基配列が相同である領域同士又は塩基配列が相補である領域同士において互いに連結させて直鎖状又は環状のDNAを得る。
部位特異的変異導入技術としては、例えば、所望の変異(例えば、置換、欠失、又は付加)を含むオリゴヌクレオチドなどの一本鎖DNAの存在下でDNAの複製反応を行うことにより、当該変異の導入された二本鎖DNAを作製する方法などが挙げられる。本発明において使用される一本鎖DNAは、例えば化学合成などの定法により製造することができる。また2つ以上の一本鎖DNAを用いて、1つのDNA中の2箇所以上に同時に変異を導入してもよい。なお、本明細書中、変異導入のために使用される変異を含む一本鎖DNAを、変異導入用一本鎖DNAともいう。
例えば、変異導入用一本鎖DNAの存在下でDNAの複製反応を行う方法では、鋳型DNAの複製反応において露出した一本鎖領域に、所望の変異を含むように設計した一本鎖DNAがアニーリングし、相補鎖中に取り込まれる。得られた二本鎖DNAを鋳型としてさらにDNA複製反応を行うことにより、両方の鎖に変異を含む二本鎖DNAが得られる。
DNA複製反応は、工程(2)の説明において挙げた、無細胞系においてDNAを増幅させるための技術を用いることができる。好ましい実施形態において、DNA複製反応を、後述の工程(2)における増幅反応と同じ反応とすることにより、工程(1)の変異導入と工程(2)のDNAの増幅とを共役させることもできる。無細胞系での変異導入とDNA増幅とを共役させることにより、DNAへの変異導入と増幅とを一反応で行うことができる。これまで、無細胞系でのDNA複製反応、特にRCR法において、変異を含む一本鎖DNAをDNAに取り込ませて部位特異的に変異を導入し得ることは知られていなかった。
従来のプライマーを用いるDNA増幅方法では、プライマーが増幅領域を規定しており、反応系に変異導入用一本鎖DNAを追加すると、それも疑似プライマーとして働き得る。その結果、変異を含む一本鎖DNAからもDNA鎖が合成され、このDNA鎖と本来のプライマーから変異を含む一本鎖DNAの手前まで進んできたDNA合成鎖との間には、ニックが存在し、全長の目的産物は得られない。ニックを繋げるためには、変異を含む一本鎖DNAの5’末端をリン酸化しておき、リガーゼを作用させる必要があり、工程が増えることとなる。したがって、本発明の方法において変異導入用一本鎖DNAを用いる場合、DNA複製反応は、RCR法などのプライマーを用いないDNA増幅技術を用いて行うことが好ましい。
部位特異的変異導入に使用する一本鎖DNAの長さは、DNA複製反応の条件下で当該一本鎖DNAが標的部位にハイブリダイズし得る限り、特に限定されない。DNA複製反応に使用する方法に応じて適宜設定すればよいが、例えば、10塩基以上、15塩基以上、20塩基以上、30塩基以上、40塩基以上、50塩基以上、又は60塩基以上、かつ5000塩基以下、4000塩基以下、3000塩基以下、2000塩基以下、1000塩基以下、500塩基以下、100塩基以下、80塩基以下、75塩基以下、70塩基以下、又は65塩基以下とすることができる。変異導入用一本鎖DNAの長さは、例えば、40塩基~75塩基、50塩基~70塩基、又は55塩基~65塩基とすることができる。なお、変異導入用一本鎖DNAが標的部位にハイブリダイズするという場合、変異導入用一本鎖DNAの配列と標的部位の配列とは完全には一致していないことから、変異導入用一本鎖DNAの少なくとも一部の領域が標的部位にハイブリダイズすればよい。変異導入用一本鎖DNAは、両末端が鋳型DNAの標的部位にアニーリングすることが好ましい。鋳型DNAにアニーリングする長さは、一本鎖DNAの長さによって異なり得るが、例えば、末端から5塩基以上、10塩基以上、20塩基以上、30塩基以上、40塩基以上、50塩基以上、60塩基以上、又は100塩基以上であり得る。
変異導入用一本鎖DNAの反応系内での濃度は、DNA複製反応が進行し得る限り、特に限定されない。DNA複製反応に使用する方法に応じて適宜設定すればよいが、例えば、DNA複製反応溶液の総容積に対して、0.1 μM(μmol/L)以上、0.15 μM以上、0.2 μM以上、0.25 μM以上、又は0.3 μM以上、かつ3 μM以下、2.5 μM以下、2.0 μM以下、1.5 μM以下、1.0 μM以下、又は0.6 μM以下とすることができる。DNA複製反応としてRCR法を用いる場合には、変異導入用一本鎖DNAの反応系内での濃度は、例えば、DNA複製反応溶液の総容積に対して、0.1 μM~1.5 μM、0.15 μM~1.0 μM、0.2 μM~0.6 μM、又は0.3 μM~0.6 μMとすることができる。
複数のDNAを連結する技術についても、当該技術分野においては種々の技術が知られている。本発明の一態様において、Recombination Assembly法(以下、RA法。特許文献4参照。)を利用して複数のDNAを連結することができる。
以下、RA法により複数のDNAを連結する実施形態について説明する。
<RA法>
RA法は、互いに塩基配列が相同である領域(以下、単に「相同領域」ということがある。)又は互いに塩基配列が相補である領域(以下、単に「相補領域」ということがある。)を有するDNA断片同士を、相同領域同士又は相補領域同士において互いに連結させることによって、直鎖状又は環状のDNAを産生する方法である。RA法は、RecAファミリー組換え酵素蛋白質の存在下で連結反応を行うため、非常に連結効率に優れている。
なお、本明細書において、「塩基配列が相同である」とは「塩基配列が同一である」を意味し、「塩基配列が相補である」とは「塩基配列が互いに相補的である」を意味する。
具体的には、RA法は、2種類以上のDNA断片と、RecAファミリー組換え酵素活性をもつ蛋白質(以下、「RecAファミリー組換え酵素蛋白質」ということがある。)と、を含む反応溶液を調製し、前記反応溶液中で、前記2種類以上のDNA断片を、塩基配列が相同である領域同士又は相補において互いに連結させる。当該方法により、直鎖状又は環状のDNAが得られる。なお、以降において、2個以上のDNA断片が連結された直鎖状又は環状のDNAを、「連結体」ということがある。
RA法においては、連結させるDNA断片は、直鎖状二本鎖DNA断片であってもよく、一本鎖DNA断片であってもよい。すなわち、直鎖状二本鎖DNA断片同士を連結してもよく、直鎖状二本鎖DNA断片と一本鎖DNA断片を連結してもよく、一本鎖DNA断片同士を連結してもよい。1種類以上の直鎖状二本鎖DNA断片と1種類以上の一本鎖DNA断片を連結することもできる。直鎖状二本鎖DNA断片同士又は直鎖状二本鎖DNA断片と一本鎖DNA断片を連結させる場合、両者は相同領域において互いに連結される。一本鎖DNA断片同士を連結させる場合、両者は相補領域において互いに連結される。
RA法において連結させるDNA断片の少なくとも1種類が直鎖状二本鎖DNA断片である場合には、前記反応溶液は、さらに、エキソヌクレアーゼを含む。
RA法により直鎖状二本鎖DNA断片同士を連結する場合、まず、相同領域を備える第1の直鎖状二本鎖DNA断片と第2の直鎖状二本鎖DNA断片に対して、3’→5’エキソヌクレアーゼが作用し、相同領域を一本鎖にする。この一本鎖となった相同領域に、RecAファミリー組換え酵素蛋白質が作用し、互いに相補的な相同領域同士が結合することによって、第1の直鎖状二本鎖DNA断片と第2の直鎖状二本鎖DNA断片は連結する。3’→5’エキソヌクレアーゼによるDNA鎖の削り込みは、第1の直鎖状二本鎖DNA断片と第2の直鎖状二本鎖DNA断片のいずれか一方のみに行われてもよい。例えば、一本鎖状態となった第1の直鎖状二本鎖DNA断片の相同領域が、RecAファミリー組換え酵素蛋白質の存在下、二本鎖状態の第2の直鎖状二本鎖DNA断片の相同領域に作用し、両者が連結する。
RA法において、直鎖状二本鎖DNA断片同士又は直鎖状二本鎖DNA断片と一本鎖DNA断片を連結させる場合、まず、二本鎖DNA断片をエキソヌクレアーゼにより削って相同領域を一本鎖化し、さらに、RecAファミリー組換え酵素蛋白質の存在下で連結反応を行うため、非常に連結効率に優れている。このため、RA法では、従来は困難であった多数の直鎖状二本鎖DNA断片を、一度の反応で連結することができる。
RA法において、一本鎖DNA断片同士を連結させる場合には、それぞれの一本鎖DNA断片上でRecAファミリー組換え酵素蛋白質が速やかにフィラメントを形成することによって、エキソヌクレアーゼによる消化が抑制される。その後、このRecAファミリー組換え酵素蛋白質の作用によって互いに相補的な相同領域同士が結合することによって、一本鎖DNA断片同士は連結する。
RA法で連結させるDNA断片の数は、2個(2断片)以上、例えば4個(4断片)以上、5個(5断片)以上、7個(7断片)以上、10個(10断片)以上、20個(20断片)以上であり得る。RA法で連結させるDNA断片の数の上限は特にないが、例えば、100個(100断片)以下の数を連結させることができる。RA法では、反応条件等を最適化することにより、例えば、50断片程度の直鎖状二本鎖DNA断片を連結させることもできる。なお、RA法において連結させるDNA断片は、全て別種のDNA断片同士を連結させることができ、同種のDNA断片を2断片以上含むように連結させることもできる。
RA法において連結させる2種類以上のDNA断片は、それぞれ、他のDNA断片のうちの少なくとも1種類と連結するための相同領域又は相補領域を含む。RA法において、直鎖状二本鎖DNA断片同士又は直鎖状二本鎖DNA断片と一本鎖DNA断片を連結させる場合、まず、エキソヌクレアーゼによって直鎖状二本鎖DNA断片のうちの一本鎖を削って相同領域を一本鎖状態とする。このため、相同領域は、直鎖状二本鎖DNA断片の末端に存在していることが好ましいが、末端の近傍であってもよい。例えば、相同領域の端部のうち直鎖状二本鎖DNA断片の末端側の塩基が、当該末端から300塩基以内にあることが好ましく、100塩基以内にあることがより好ましく、30塩基以内にあることがさらに好ましく、10塩基以内にあることがよりさらに好ましい。一方で、一本鎖DNA断片同士を連結させる場合には、RecAファミリー組換え酵素蛋白質のフィラメントによってエキソヌクレアーゼによる消化が抑制されているため、相補領域は一本鎖DNA断片のいずれに存在していてもよい。
相同領域又は相補領域の塩基配列は、連結させる全てのDNA断片において同一の塩基配列とすることもできるが、所望の順番に連結させるために、連結させるDNA断片の種類ごとにそれぞれ異なる塩基配列とすることが好ましい。例えば、二本鎖DNA断片Aと二本鎖DNA断片Bと二本鎖DNA断片Cをこの順に連結させるためには、二本鎖DNA断片Aの下流末端と二本鎖DNA断片Bの上流末端に相同領域aを設け、二本鎖DNA断片Bの下流末端と二本鎖DNA断片Cの上流末端に相同領域bを設けておく。これにより、二本鎖DNA断片Aと二本鎖DNA断片Bが相同領域aで連結し、二本鎖DNA断片Bと二本鎖DNA断片Cが相同領域bで連結して、二本鎖DNA断片Aと二本鎖DNA断片Bと二本鎖DNA断片Cがこの順番に連結した直鎖状のDNAを得ることができる。この場合に、さらに、二本鎖DNA断片Cの下流末端と二本鎖DNA断片Aの上流末端に相同領域cを設けておくことにより、二本鎖DNA断片Aと二本鎖DNA断片Bが相同領域aで連結し、二本鎖DNA断片Bと二本鎖DNA断片Cが相同領域bで連結し、二本鎖DNA断片Cと二本鎖DNA断片Aが相同領域cで連結して、二本鎖DNA断片Aと二本鎖DNA断片Bと二本鎖DNA断片Cがこの順番に連結した環状のDNAを得ることができる。
相同領域及び相補領域は、連結反応の反応溶液中で、一本鎖同士が特異的にハイブリダイズ可能な程度の塩基配列であればよく、塩基対長、GC率などは、一般的にプローブやプライマーの設計方法を参考に適宜決定することができる。一般的に、非特異的なハイブリダイズを抑制して目的の直鎖状二本鎖DNA断片同士を正確に連結するためには、相同領域の塩基長はある程度の長さが必要であるが、相同領域の塩基対長が長すぎると、連結効率が低下するおそれがある。RA法においては、相同領域又は相補領域の塩基対長としては、10塩基対(bp)以上が好ましく、15 bp以上がより好ましく、20 bp以上がさらに好ましく、60bp以上が特に好ましい。また、当該相同領域又は相補領域の塩基対長としては、500 bp以下が好ましく、300 bp以下がより好ましく、200 bp以下がさらに好ましい。
RA法において、互いに連結させるDNA断片の長さは、特に限定されるものではなく、例えば、直鎖状二本鎖DNA断片の場合には、50 bp以上が好ましく、100 bp以上がより好ましく、200 bp以上がさらに好ましい。一本鎖DNA断片の場合には、50 b以上が好ましく、100 b以上がより好ましく、200 b以上がさらに好ましい。RA法では、325 kbpの二本鎖DNA断片も連結させることができる。また、連結させるDNA断片の長さは、種類ごとに異なっていてもよい。
RA法において、互いに連結させる直鎖状二本鎖DNA断片は、相同領域の全領域又はその一部の領域が、二本の一本鎖DNAがハイブリダイズしている二本鎖構造であればよい。すなわち、当該直鎖状二本鎖DNA断片は、ギャップやニックのない完全な直鎖状二本鎖DNA断片であってもよく、1又は複数の箇所が一本鎖構造である直鎖状DNA断片であってもよい。例えば、連結させる直鎖状二本鎖DNA断片は、平滑末端であってもよく、粘着末端であってもよい。RA法により、平滑末端の直鎖状二本鎖DNA断片と、粘着末端の直鎖状二本鎖DNA断片を連結させることもできる。
反応溶液内に含ませる各DNA断片のモル比は、目的の連結体を構成する各DNA断片の分子数の比に揃えることが好ましい。連結反応開始時における反応系内のDNA断片の分子数を揃えておくことにより、連結反応をより効率よく行うことができる。例えば、全て別種のDNA断片同士を連結させる場合には、反応溶液に含ませる各DNA断片は、モル濃度が互いに等しいことが好ましい。
反応溶液内に含ませるDNA断片の総量は特に限定されるものではない。充分量の連結体が得られやすいことから、連結反応の開始時点における反応溶液内に含ませるDNA断片の総濃度は、反応溶液の総容積に対して、0.01 nM(nmol/L)以上が好ましく、0.1 nM以上がより好ましく、0.3 nM以上がさらに好ましく、5.09 nM以上が特に好ましく、6.7 nM以上が最も好ましい。より連結効率が高く、多断片の連結に適していることから、連結反応の開始時点における反応溶液内に含ませるDNA断片の総濃度は、100 nM以下が好ましく、96.027 nM以下がより好ましく、50 nM以下がさらに好ましく、25 nM以下が特に好ましく、20 nM以下が最も好ましい。
RA法において、連結反応により得られる連結体の大きさとしては、特に限定されるものではない。得られる連結体の大きさとしては、例えば、1 kb(1000塩基長)以上が好ましく、5 kb以上がより好ましく、10 kb以上がさらに好ましく、13 kb以上が特に好ましく、20 kb以上が最も好ましい。RA法により、183 kb以上、好ましくは208 kb以上、より好ましくは300 kb以上、さらに好ましくは500 kb以上、特に好ましくは2000 kb以上の長さの連結体を得ることもできる。一方で、連結反応により得られる連結体の大きさの上限は特に限定されないが、例えば、10000 kb程度とすることができる。
RA法において用いられるエキソヌクレアーゼは、直鎖状DNAの3’末端又は5’末端から逐次的に加水分解する酵素である。RA法において用いられるエキソヌクレアーゼとしては、直鎖状DNAの3’末端又は5’末端から逐次的に加水分解する酵素活性を有するものであれば、その種類や生物学的由来に特に制限はない。例えば、3’末端から逐次的に加水分解する酵素(3’→5’エキソヌクレアーゼ)としては、エキソヌクレアーゼIIIファミリー型のAP(apurinic/apyrimidinic)エンドヌクレアーゼ等の直鎖状二本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼと、DnaQスーパーファミリータンパク質等の一本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼが挙げられる。エキソヌクレアーゼIIIファミリー型のAPエンドヌクレアーゼとしては、例えば、エキソヌクレアーゼIII(大腸菌由来)、ExoA(エキソヌクレアーゼIIIの枯草菌ホモログ)、Mth212(エキソヌクレアーゼIIIの古細菌ホモログ)、APエンドヌクレアーゼ I(エキソヌクレアーゼIIIのヒトホモログ)が挙げられる。DnaQスーパーファミリータンパク質としては、例えば、エキソヌクレアーゼI (大腸菌由来)、エキソヌクレアーゼT(RNase T)、エキソヌクレアーゼX、DNAポリメラーゼIII イプシロンサブユニット(DNA polymerase III epsilon subunit)、DNAポリメラーゼI、DNAポリメラーゼII、T7DNAポリメラーゼ、T4DNAポリメラーゼ、クレノウDNAポリメラーゼ5、Phi29DNAポリメラーゼ、リボヌクレアーゼIII(RNase D)、オリゴリボヌクレアーゼ(ORN)等が挙げられる。5’末端から逐次的に加水分解する酵素(5’→3’エキソヌクレアーゼ)としては、λエキソヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼVIII、T5エキソヌクレアーゼ、T7エキソヌクレアーゼ、及びRecJエキソヌクレアーゼなどを用いることができる。
RA法において用いられるエキソヌクレアーゼとしては、直鎖状二本鎖DNA断片の削り込みのプロセシビティーとRecAファミリー組換え酵素蛋白質存在下での連結効率のバランスが良好である点から、3’→5’エキソヌクレアーゼが好ましい。なかでも、直鎖状二本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼがより好ましく、エキソヌクレアーゼIIIファミリー型のAPエンドヌクレアーゼがさらに好ましく、エキソヌクレアーゼIIIが特に好ましい。
RA法において反応溶液内に含ませるエキソヌクレアーゼとしては、直鎖状二本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼと一本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼの両方であることが好ましい。直鎖状二本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼに一本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼを組み合わせることにより、直鎖状二本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼを単独で用いた場合よりもさらに連結効率を改善させることができる。両3’→5’エキソヌクレアーゼを併用することにより連結効率が改善される理由は明らかではないが、直鎖状二本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼは3’突出末端を標的とし難い場合が多く、この3’突出末端が一本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼにより消化される結果、直鎖状二本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとRecAによる連結反応が促進されるためと推察される。また、連結させる直鎖状DNA断片が、平滑末端や5’突出末端の場合でも、一本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼの併用により連結効率が改善されるが、これは、直鎖状二本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼとRecAにより形成された連結体中に副次的に形成される3’突端が一本鎖DNA特異的3’エキソヌクレアーゼにより消化される結果、連結効率がより改善されると推察される。
RA法において連結反応を行う反応溶液中におけるエキソヌクレアーゼの濃度としては、連結反応の開始時点において、例えば、反応溶液の総容積に対して、1~1000 mU/μLが好ましく、5~1000 mU/μLがより好ましく、5~500 mU/μLがさらに好ましく、10~150 mU/μLが特に好ましく、80~150 mU/μLが最も好ましい。特に、エキソヌクレアーゼが直鎖状二本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼの場合には、連結反応の開始時点における反応溶液中の直鎖状二本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼの濃度は、例えば、反応溶液の総容積に対して、5 mU/μL~500 mU/μLが好ましく、5 mU/μL~250 mU/μLがより好ましく、5 mU/μL~150 mU/μLがさらに好ましく、10 mU/μL~150 mU/μLが特に好ましく、80~150 mU/μLが最も好ましい。また、エキソヌクレアーゼが直鎖状一本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼの場合には、連結反応の開始時点における反応溶液中の直鎖状一本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼの濃度は、反応溶液の総容積に対して、1 mU/μL~1000 mU/μLが好ましく、100 mU/μL~1000 mU/μLがより好ましく、200 mU/μL~1000 mU/μLがさらに好ましい。直鎖状二本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼと一本鎖DNA特異的3’→5’エキソヌクレアーゼを併用する場合、連結反応の開始時点における反応溶液中の各エキソヌクレアーゼの濃度は、それぞれ、前記の各エキソヌクレアーゼの好ましい濃度とすることができる。
本明細書において、RecAファミリー組換え酵素蛋白質とは、一本鎖状態又は二本鎖状態のDNA上で重合してフィラメントを形成し、ATP(アデノシン三リン酸)等のヌクレオシド三リン酸に対する加水分解活性を有し、相同領域をサーチして相同組換えを行う機能(RecAファミリー組換え酵素活性)をもつ蛋白質を意味する。RecAファミリー組換え酵素蛋白質としては、原核生物RecAホモログ、バクテリオファージRecAホモログ、古細菌RecAホモログ、真核生物RecAホモログ等が挙げられる。原核生物RecAホモログとしては、大腸菌RecA;Thermus thermophiles、Thermus aquaticus等のThermus属菌、Thermococcus属菌、Pyrococcus属菌、Thermotoga属菌等の高度好熱菌に由来するRecA;Deinococcus radiodurans等の放射線耐性菌に由来するRecA等が挙げられる。バクテリオファージRecAホモログとしてはT4ファージUvsX等が挙げられ、古細菌RecAホモログとしてはRadA等が挙げられ、真核生物RecAホモログとしてはRad51及びそのパラログ、Dcm1等が挙げられる。なお、これらのRecAホモログのアミノ酸配列は、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等のデータベースから入手できる。
RA法において用いられるRecAファミリー組換え酵素蛋白質としては、野生型蛋白質であってもよく、野生型蛋白質に、1~30個のアミノ酸を欠失、付加又は置換する変異を導入した、RecAファミリー組換え酵素活性を保持する改変体であってもよい。当該改変体としては、野生型蛋白質中の相同領域をサーチする機能を亢進させるアミノ酸置換変異を導入した改変体、野生型蛋白質のN末端又はC末端に各種タグが付加された改変体、耐熱性を向上させた改変体(国際公開第2016/013592号)等が挙げられる。当該タグとしては、例えば、Hisタグ、HA(hemagglutinin)タグ、Mycタグ、及びFlagタグ等の組換え蛋白質の発現又は精製において汎用されているタグを用いることができる。なお、野生型のRecAファミリー組換え酵素蛋白質とは、自然界より分離された生物に保持されているRecAファミリー組換え酵素蛋白質のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列からなる蛋白質を意味する。
RA法において用いられるRecAファミリー組換え酵素蛋白質としては、RecAファミリー組換え酵素活性を保持する改変体が好ましい。当該改変体としては、例えば、大腸菌RecAの203番目のアミノ酸残基フェニルアラニンをトリプトファンに置換したF203W変異体や、各種RecAホモログのうち、大腸菌RecAの203番目のフェニルアラニンに相当するフェニルアラニンをトリプトファンに置換した変異体が挙げられる。
RA法において連結反応を行う反応溶液中におけるRecAファミリー組換え酵素蛋白質の量は、特に限定されるものではない。RA法において連結反応を行う反応溶液中におけるRecAファミリー組換え酵素蛋白質の濃度としては、連結反応の開始時点において、例えば、反応溶液の総容積に対して、0.01 μM~100 μM(μmol/L)が好ましく、0.1 μM~100 μMがより好ましく、0.1 μM~50 μMがさらに好ましく、0.5 μM~10 μMがよりさらに好ましく、1.0 μM~5.0 μMが特に好ましい。
RecAファミリー組換え酵素蛋白質がRecAファミリー組換え酵素活性を発揮するためには、ヌクレオシド三リン酸又はデオキシヌクレオチド三リン酸が必要である。このため、本発明において連結反応を行う反応溶液は、ヌクレオシド三リン酸及びデオキシヌクレオチド三リン酸の少なくとも一方を含む。RA法において連結反応の反応溶液に含有させるヌクレオシド三リン酸としては、ATP、GTP(グアノシン三リン酸)、CTP(シチジン三リン酸)、UTP(ウリジン三リン酸)、m5UTP(5-メチルウリジン三リン酸)からなる群より選択される1種以上を用いることが好ましく、ATPを用いることが特に好ましい。RA法において連結反応の反応溶液に含有させるデオキシヌクレオチド三リン酸としては、dATP(デオキシアデノシン三リン酸)、dGTP(デオキシグアノシン三リン酸)、dCTP(デオキシシチジン三リン酸)、及びdTTP(デオキシチミジン三リン酸)からなる群より選択される1種以上を用いることが好ましく、dATPを用いることが特に好ましい。反応溶液に含まれるヌクレオシド三リン酸及びデオキシヌクレオチド三リン酸の総量は、RecAファミリー組換え酵素蛋白質がRecAファミリー組換え酵素活性を発揮するために充分な量であれば特に限定されるものではない。RA法において連結反応を行う反応溶液中におけるヌクレオシド三リン酸濃度又はデオキシヌクレオチド三リン酸濃度としては、連結反応の開始時点において、例えば、反応溶液の総容積に対して、1 μM(μmol/L)以上が好ましく、10 μM以上がより好ましく、30 μM以上がさらに好ましく、100 μM以上が特に好ましい。一方で、反応溶液のヌクレオシド三リン酸濃度が高すぎる場合には、多断片の連結効率はかえって低下すおそれがある。このため、連結反応の開始時点における反応溶液のヌクレオシド三リン酸濃度又はデオキシヌクレオチド三リン酸濃度としては、反応溶液の総容積に対して、1000 μM以下が好ましく、500 μM以下がより好ましく、300 μM以下がさらに好ましい。
RecAファミリー組換え酵素蛋白質がRecAファミリー組換え酵素活性を発揮するため、及びエキソヌクレアーゼがエキソヌクレアーゼ活性を発揮するためには、マグネシウムイオン(Mg2+)が必要である。このため、RA法において連結反応を行う反応溶液は、マグネシウムイオン源を含む。マグネシウムイオン源は、反応溶液中にマグネシウムイオンを与える物質である。例えば、酢酸マグネシウム[Mg(OAc)2]、塩化マグネシウム[MgCl2]、硫酸マグネシウム[MgSO4]等のマグネシウム塩が挙げられる。好ましいマグネシウムイオン源は、酢酸マグネシウムである。
RA法において連結反応を行う反応溶液のマグネシウムイオン源濃度は、RecAファミリー組換え酵素蛋白質がRecAファミリー組換え酵素活性を発揮でき、かつエキソヌクレアーゼがエキソヌクレアーゼ活性を発揮できる濃度であればよく、特に限定されるものではない。連結反応の開始時点における反応溶液のマグネシウムイオン源濃度としては、例えば、反応溶液の総容積に対して、0.5 mM(mmol/L)以上が好ましく、1 mM以上がより好ましい。一方で、反応溶液のマグネシウムイオン源濃度が高すぎる場合には、エキソヌクレアーゼ活性が強くなりすぎ、多断片の連結効率はかえって低下すおそれがある。このため、連結反応の開始時点における反応溶液のマグネシウムイオン源濃度としては、例えば、反応溶液の総容積に対して、20 mM以下が好ましく、15 mM以下がより好ましく、12 mM以下がさらに好ましく、10 mM以下がよりさらに好ましい。
RA法において連結反応を行う反応溶液は、例えば、緩衝液に、DNA断片と、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と、エキソヌクレアーゼと、ヌクレオシド三リン酸及びデオキシヌクレオチド三リン酸の少なくとも一方と、マグネシウムイオン源とを添加することにより調製される。当該緩衝液としては、pH7~9、好ましくはpH8、において用いるのに適した緩衝液であれば特に制限はない。例えば、Tris-HCl、Tris-酢酸(Tris-OAc)、Hepes-KOH、リン酸緩衝液、MOPS-NaOH、Tricine-HCl等が挙げられる。好ましい緩衝液はTris-HCl又はTris-OAcである。緩衝液の濃度は、当業者が適宜選択することができ、特に限定されないが、Tris-HCl又はTris-OAcの場合、例えば、反応溶液の総容積に対して、10 mM(mmol/L)~100 mM、好ましくは10 mM~50 mM、より好ましくは20 mMの濃度を選択できる。
RA法において連結反応を行う反応溶液には、DNA断片と、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と、エキソヌクレアーゼと、ヌクレオシド三リン酸及びデオキシヌクレオチド三リン酸の少なくとも一方と、マグネシウムイオン源との他に、さらに、ヌクレオシド三リン酸又はデオキシヌクレオチド三リン酸の再生酵素とその基質を含むことが好ましい。反応溶液中でヌクレオシド三リン酸又はデオキシヌクレオチド三リン酸を再生できることにより、多数のDNA断片をより効率よく連結させることができる。ヌクレオシド三リン酸又はデオキシヌクレオチド三リン酸を再生するための再生酵素とその基質との組み合わせとしては、クレアチンキナーゼとクレアチンホスフェートの組み合わせ、ピルビン酸キナーゼとホスホエノールピルビン酸の組み合わせ、アセテートキナーゼとアセチルリン酸の組み合わせ、ポリリン酸キナーゼとポリリン酸の組み合わせ、ヌクレオシドジフォスフェートキナーゼとヌクレオシド三リン酸の組み合わせ、が挙げられる。ヌクレオシドジフォスフェートキナーゼの基質(リン酸供給源)となるヌクレオシド三リン酸は、ATP、GTP、CTP、UTPのいずれであってもよい。その他にも、再生酵素としては、ミオキナーゼが挙げられる。
RA法において連結反応を行う反応溶液中のヌクレオシド三リン酸再生酵素及びその基質の濃度は、当該反応溶液中で連結反応時にヌクレオシド三リン酸の再生が可能になる充分な濃度であれば特に限定されるものではない。例えば、クレアチンキナーゼとクレアチンホスフェートを用いる場合、本発明において連結反応を行う反応溶液に含有させるクレアチンキナーゼの濃度を、反応溶液の総容積に対して、好ましくは1 ng/μL~1000 ng/μL、より好ましくは5 ng/μL~1000 ng/μL、さらに好ましくは5 ng/μL~500 ng/μL、特に好ましくは5 ng/μL~250 ng/μL、最も好ましくは20 ng/μL~250 ng/μLとし、クレアチンホスフェートの濃度を、反応溶液の総容積に対して、好ましくは0.4 mM~20 mM(mmol/L)、より好ましくは0.4 mM~10 mM、さらに好ましくは1 mM~7 mM、特に好ましくは4 mM~7 mMとすることができる。
多断片を目的の順番で連結させる場合、相同領域又は相補領域の塩基配列は、連結するDNA断片の組み合わせごとに異なることが好ましい。しかし、同一の温度条件下では、G(グアニン塩基)とC(シトシン塩基)の含有率が高い相同領域は、一本鎖で二次構造を形成しやすく、一方でA(アデニン塩基)とT(チミン塩基)の含有率が高い相同領域ではハイブリダイゼーションの効率が低くなり、このため、連結効率も低くなってしまうおそれがある。一本鎖DNAの二次構造形成を抑えて特異的ハイブリダイズを促すことにより、DNA断片の連結を促進することができる。
そこで、RA法において連結反応を行う反応溶液には、一本鎖DNAの二次構造形成を抑えて特異的ハイブリダイズを促す物質を添加することが好ましい。当該物質としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)が挙げられる。DMSOは、GCに富んだ塩基対の二次構造形成を抑える作用がある。TMACは、特異的ハイブリダイズを促す作用がある。RA法において、連結反応を行う反応溶液に一本鎖DNAの二次構造形成を抑えて特異的ハイブリダイズを促す物質を含有させる場合、当該物質の濃度は、当該物質によるDNA断片の連結促進効果が得られる濃度であれば特に限定されるものではない。例えば、当該物質としてDMSOを用いる場合、RA法において連結反応を行う反応溶液に含有させるDMSOの濃度としては、反応溶液の総容積に対して、5容量(v/v)%~30容量(v/v)%が好ましく、8容量%~25容量%がより好ましく、8容量~20容量%がさらに好ましい。当該物質としてTMACを用いる場合、RA法において連結反応を行う反応溶液に含有させるTMACの濃度としては、反応溶液の総容積に対して、60 mM~300 mMが好ましく、100 mM~250 mMがより好ましく、100 mM~200 mMがさらに好ましく、150 mMが特に好ましい。
RA法において連結反応を行う反応溶液には、さらに、高分子混み合い効果を有する物質を添加することが好ましい。高分子混み合い効果はDNA分子同士の相互作用を増強し、DNA断片の連結を促進することができる。当該物質としては、ポリエチレングリコール(PEG)200~20000、ポリビニルアルコール(PVA)200~20000、デキストラン40~70、フィコール70、ウシ血清アルブミン(BSA)が挙げられる。RA法において、連結反応を行う反応溶液に高分子混み合い効果を有する物質を含有させる場合、当該物質の濃度は、当該物質によるDNA断片の連結促進効果が得られる濃度であれば特に限定されるものではない。例えば、当該物質としてPEG8000を用いる場合、RA法において連結反応を行う反応溶液に含有させるPEG8000の濃度としては、反応溶液の総質量に対して、2質量(w/w)%~20質量(w/w)%が好ましく、2質量%~10質量%がより好ましく、4質量%~6質量%がさらに好ましい。
RA法において連結反応を行う反応溶液には、さらに、アルカリ金属イオン源を含有させてもよい。アルカリ金属イオン源は、反応溶液中にアルカリ金属イオンを与える物質である。RA法において連結反応を行う反応溶液に含有させるアルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン(Na+)又はカリウムイオン(K+)が好ましい。アルカリ金属イオン源としては、例えば、グルタミン酸カリウム[KGlu]、アスパラギン酸カリウム、塩化カリウム、酢酸カリウム[KOAc]、グルタミン酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、及び酢酸ナトリウムが挙げられる。RA法において連結反応を行う反応溶液に含有させるアルカリ金属イオン源としては、グルタミン酸カリウム又は酢酸カリウムが好ましく、特に多断片の連結効率が改善されることからグルタミン酸カリウムが好ましい。連結反応の開始時点における反応溶液のアルカリ金属イオン源濃度としては、特に限定されるものではなく、例えば、反応溶液中にアルカリ金属イオンを反応溶液の総容積に対して、好ましくは10 mM(mmol/L)以上、より好ましくは30 mM~300 mMの範囲内、さらに好ましくは50 mM~150 mMの範囲内で与える濃度に調整することができる。
RA法において連結反応を行う反応溶液には、さらに、還元剤を含有させてもよい。還元剤としては、例えば、ジチオスレイトール(DTT)、β-メルカプトエタノール(2-メルカプトエタノール)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、及びグルタチオンが挙げられる。好ましい還元剤はDTTである。還元剤は、反応溶液中に反応溶液の総容積に対して、1.0 mM(mmol/L)~15.0 mM(mmol/L)、好ましくは2.0 mM~10.0 mM、より好ましくは4.0 mM~10.0 mM含まれていてもよい。
RA法において、連結反応は、緩衝液に、2種類以上のDNA断片と、RecAファミリー組換え酵素蛋白質と、ヌクレオシド三リン酸と、マグネシウムイオン源と、必要に応じて、エキソヌクレアーゼと、ヌクレオシド三リン酸再生酵素及びその基質のセット、一本鎖DNAの二次構造形成を抑えて特異的ハイブリダイズを促す物質、高分子混み合い効果を有する物質、アルカリ金属イオン源、及び還元剤からなる群より選択される1種以上と、を含有させて調製した反応溶液を、当該反応溶液中のRecAファミリー組換え酵素蛋白質及びエキソヌクレアーゼがそれぞれの酵素活性を発揮し得る温度の等温条件下で、所定時間インキュベートすることにより行う。連結反応の反応温度としては、25℃~48℃の温度範囲内であることが好ましく、27℃~45℃の温度範囲内であることがより好ましい。特に、相同領域又は相補領域の長さが50塩基以上の場合には、連結反応の反応温度は、30℃~45℃の温度範囲内であることが好ましく、37℃~45℃の温度範囲内であることがより好ましく、40℃~43℃の温度範囲内であることがさらに好ましく、42℃が特に好ましい。一方で、相同領域又は相補領域の長さが50塩基以下の場合には、連結反応の反応温度は、27℃~43℃の温度範囲内であることが好ましく、27℃~37℃の温度範囲内であることがより好ましく、27℃~33℃の温度範囲内であることがさらに好ましい。なお、RA法に関して「等温条件下」とは、反応中に設定した温度に対して±3℃又は±1℃の温度範囲内に保つことを意味する。連結反応の反応時間は、特に限定されるものではなく、例えば、15分間~6時間、好ましくは15分間~3時間、より好ましくは1時間~3時間とすることができる。
連結反応により得られた連結体(直鎖状又は環状のDNA)には、ギャップやニックが存在する。ギャップは、二本鎖DNAにおいて1個又は複数個の連続したヌクレオチドが欠けた状態であり、ニックは、二本鎖DNAにおいて隣り合ったヌクレオチド間のリン酸ジエステル結合が切断された状態である。そこで、RA法においては、連結反応後、得られた連結体中のギャップ及びニックをギャップリペア酵素群とdNTPにより修復することが好ましい。ギャップ及びニックを修復することにより、連結体を、完全な二本鎖DNAとすることができる。
具体的には、連結反応後の反応溶液に、ギャップリペア酵素群とdNTPを添加し、ギャップリペア酵素群が酵素活性を発揮し得る温度の等温条件下で、所定時間インキュベートすることにより、連結体のギャップ及びニックを修復することができる。ギャップリペア酵素群を構成する酵素は、二本鎖DNAのギャップ及びニックを修復できる酵素群であれば、その種類や生物学的由来に特に制限はない。ギャップリペア酵素群としては、例えば、DNAポリメラーゼ活性を有する酵素とDNAリガーゼ活性を有する酵素を組合せて使用できる。DNAリガーゼとして大腸菌由来のDNAリガーゼを用いる場合、その補因子であるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が反応溶液中に反応溶液の総容積に対して、0.01 mM~1.0 mM(mmol/L)、好ましくは0.25 mMの範囲で含まれる。ギャップリペア酵素群による処理は、例えば、25℃~40℃、好ましくは30℃で、5分間~120分間、好ましくは10分間~60分間、より好ましくは30分間、行ってもよい。
dNTPは、dATP、dGTP、dCTP、及びdTTPの総称である。修復反応の反応開始時に反応溶液中に含まれるdNTPの濃度は、例えば、反応溶液の総容積に対して、0.01 mM(mmol/L)~1 mM(mmol/L)の範囲であってよく、好ましくは0.05 mM~1 mMの範囲であってよく、より好ましくは0.25 mM~1 mMの範囲であってよい。
RA法に供するDNA断片の調製には、制限酵素、人工DNA切断酵素などの配列特異的なDNA切断酵素を使用することができる。鋳型DNAが長くなり、適切な制限酵素を選択することが困難な場合でも、人工DNA切断酵素を利用すれば、DNAを所望の標的部位において特異的に切断することができる。
本明細書中、人工DNA切断酵素とは、所望の配列を特異的に認識してDNAを切断する、人工的に作製された酵素であり、人工ヌクレアーゼ及びRNA誘導型ヌクレアーゼが含まれる。人工ヌクレアーゼは、DNAと特異的に結合するドメインとDNAを切断するドメインとを連結した人工酵素であり、例えばジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、TALEヌクレアーゼ(TALEN)などが知られている。またRNA誘導型ヌクレアーゼは、標的配列を認識するガイドRNA(gRNA)と呼ばれる短いRNA及びDNAを切断する酵素の複合体であり、CRISPR-Cas9などが知られている。本発明においては、いずれの人工DNA切断酵素を利用してもよいが、人工ヌクレアーゼ又はRNA誘導型ヌクレアーゼを利用することが好ましく、CRISPR-Cas9を利用することがより好ましい。
RA法において人工DNA切断酵素を使用する一実施形態では、工程(1)は、例えば、以下の工程:
(1-1)人工DNA切断酵素をDNAに作用させることにより、当該DNAを標的部位で切断し、少なくとも一つの直鎖DNAを調製する工程;
(1-2)工程(1-1)で調製された直鎖DNA、1種類以上のDNA断片、及びRecAファミリー組換え酵素活性をもつ蛋白質を含む反応溶液を調製する工程;及び
(1-3)当該直鎖DNAと当該1種類以上のDNA断片とを、塩基配列が相同である領域同士又は塩基配列が相補的である領域同士において互いに連結させ、鋳型DNAの標的部位に当該1種類以上のDNA断片が挿入されたDNAを形成させる工程;
を含み得る。
工程(1-1)における人工DNA切断酵素によって処理されるDNA(すなわち鋳型DNA)は、直鎖状であっても環状であってもよい。人工DNA切断酵素を利用することにより、所望の標的部位で鋳型DNAを切断することが可能である。工程(1-2)の1種類以上のDNA断片は、工程(1-1)で調製された直鎖DNAと人工DNA切断酵素による切断部位で連結させるための相同領域又は相補領域を含む。相同領域又は相補領域同士が連結されることにより、工程(1-3)で得られる連結後のDNAは、鋳型DNAに対して切断部位に他のDNA配列が挿入された形となる。工程(1-2)及び(1-3)については、上記の通常のRA法と同様に行えばよい。
別の実施形態において、本発明の工程(1)は、In fusion法により複数のDNAを連結する工程であり得る。
In fusion法は、各二本鎖DNA断片の末端15塩基の相同配列を認識して融合させる機能を備えるIn fusion酵素を用いて連結反応を行う方法である。具体的には、まず、PCRを利用して、連結させる目的の二本鎖DNA断片の末端に同一の塩基配列からなる相同領域を付加する。両末端に15塩基の相同領域を付加した2個の二本鎖DNA断片同士をIn fusion酵素と混合してインキュベートすることにより連結させる。In fusion法の原理は、例えばNucleic Acids Research, 2007, Vol.35, No. 1 143-151に説明されている。タカラバイオ株式会社などから市販されている試薬を用いて行うこともできる。
また別の実施形態において、本発明の工程(1)は、Gibson Assembly法により複数のDNAを連結する工程であり得る。
Gibson Assembly法は、第1のDNA分子の遠位領域と第2のDNA分子の近位領域をエキソヌクレアーゼ活性を有する酵素で消化して、それぞれの相同領域(相互に特異的にハイブリダイズするのに十分な長さの配列同一性の領域)を一本鎖状態とした後、両者を特異的にアニーリングさせて連結させた後、ギャップやニックを修復することにより、完全な二本鎖DNAの連結体を得る方法である。すなわち、Gibson Assembly法は、エキソヌクレアーゼによる一本鎖3’オーバーハングの形成と断片間のアニーリング、DNAポリメラーゼによるアニーリングした断片の間のギャップの修復、及びDNAリガーゼによるニックのつなぎ合わせから構成される。New England Biolabs社などから市販されている試薬を用いて行うこともできる。
I-2.工程(2)
本発明の方法における工程(2)は、工程(1)において改変されたDNAを無細胞系において増幅させる工程であり、当該DNAは、20℃~80℃の範囲の温度でインキュベートする温度条件下で増幅される。中でも、当該DNAは、等温でインキュベートするか、又は65℃以下の2つの温度でのインキュベーションを繰り返す温度サイクル下でインキュベートする温度条件下で増幅されることが好ましく、20℃~80℃の範囲に含まれる一定の温度でインキュベートするか、又は65℃以下の2つの温度でのインキュベーションを繰り返す温度サイクル下でインキュベートする温度条件下で増幅されることがより好ましい。
無細胞系においてDNAを増幅させるためには、当該技術分野において公知の技術を利用することができる。当該技術分野においては、等温でDNAを増幅させる種々の技術が知られている(例えば、J. Li and J. Macdonald, Biosensors and Bioelectronics, Vol. 64, p. 196-211 (2015)参照)。一態様において、Replication Cycle Reaction法(以下、RCR法。特許文献5~7参照)を利用して、DNAを増幅させることができる。工程(2)をRCR法により行う場合には、鋳型DNAは環状DNAである。
RCR以外に本発明において用い得る技術としては、例えば、Helicase-dependent amplification(HDA)(Vincent, M., Xu, Y., Kong, H., 2004. EMBO Rep. 5 (8), 795-800)、Recombinase polymerase amplification(RPA)(Piepenburg, O., Williams,C.H., Stemple, D.L., Armes, N.A., 2006. PLoS. Biol. 4 (7), e204)、Rolling circle amplification(RCA)(Fire, A., Xu, S.Q., 1995. Proc. Natl. Acad. Sci. 92 (10), 4641-4645)、Ramification amplification(RAM)(Zhang, D.Y., Brandwein,M., Hsuih, T., Li, H.B., 2001. Mol. Diagn. 6 (2), 141-150)、Multiple displacement amplifcation(MDA)(Dean, F.B., Nelson, J.R., Giesler, T.L., Lasken, R.S.,2001. Genome Res. 11 (6), 1095-1099、及びSpits, C., Le Caignec, C., De Rycke,M., Van Haute, L., Van Steirteghem, A., Liebaers, I., Sermon, K., 2006. Nat. Protoc. 1 (4), 1965-1970)、Loop-mediated isothermal amplification(LAMP)(Notomi, T., Okayama, H., Masubuchi, H., Yonekawa, T., Watanabe, K., Amino, N., Hase, T., 2000. Nucleic Acids Res. 28 (12), E63)などが挙げられる。いずれの方法も、定法により行うことができる。いずれの方法を用いるかは、増幅させるDNAの形状(直鎖状又は環状)などに応じて適宜選択することができる。
工程(2)において、欠失、置換、又は付加が導入されたDNAを等温でインキュベートする温度条件下で増幅させる場合、等温条件としては、DNA増幅反応又はDNA複製反応が進行することのできるものであれば特に制限はないが、例えば、DNAポリメラーゼの至適温度に含まれる一定の温度である。等温条件としては、例えば、20℃以上、25℃以上、又は30℃以上の一定の温度、及び80℃以下、65℃以下、60℃以下、50℃以下、45℃以下、40℃以下、35℃以下、又は33℃以下の一定の温度が挙げられる。また等温条件は、例えば20℃~80℃の範囲に含まれる一定の温度、20℃~65℃の範囲に含まれる一定の温度、25℃~50℃の範囲に含まれる一定の温度、25℃~40℃の範囲に含まれる一定の温度、30℃~33℃の範囲に含まれる一定の温度、又は30℃程度であり得る。本明細書において「等温でインキュベートする」、「等温条件下で保温する」、「等温で反応させる」などの用語は、反応中に設定した温度に対して±7℃、±5℃、±3℃、又は±1℃の温度範囲内に保つことを意味する。保温時間は、目的とする環状DNAの増幅産物の量に応じて適宜設定することができるが、例えば1時間~24時間、好ましくは18時間~21時間とすることができる。
工程(2)において、欠失、置換、又は付加が導入されたDNAを65℃以下の2つの温度でのインキュベーションを繰り返す温度サイクル下でインキュベートする温度条件下で増幅させる場合、第一の温度は、環状DNAの複製開始が可能な温度であり、第二の温度は、複製開始が抑制され、DNAの伸張反応が進行する温度である。第一の温度は、30℃以上、例えば30℃~80℃、30℃~50℃、30℃~40℃、又は37℃であり得る。第一の温度でのインキュベーションは、特に限定されないが、1サイクルあたり10秒~10分間であってもよく、1分間が好ましい。第二の温度は、27℃以下、例えば10℃~27℃、16℃~25℃、又は24℃であり得る。第二の温度でのインキュベーションは、特に限定されないが、増幅する環状DNAの長さに合わせて設定することが好ましく、例えば1サイクルにつき、1000塩基あたり1秒間~10秒間であってもよい。温度サイクルのサイクル数は特に限定されないが、10サイクル~50サイクル、20サイクル~45サイクル、25サイクル~45サイクル、40サイクルであってもよい。
本発明の方法においては、工程(1)の後に、人工DNA切断酵素により、欠失、置換、又は付加が導入されていないDNAを特異的に切断する工程を含めてもよい。欠失、置換、又は付加が導入されていないDNAが切断されると、上記のDNA増幅技術では当該DNAは増幅されないため、欠失、置換、又は付加が導入されたDNAの収率を大幅に改善することができる。一実施形態において、異なる配列を切断する2種類以上の人工DNA切断酵素を使用してもよい。例えば、工程(1)において2種類以上の鋳型DNAを用いた場合、各鋳型DNAを特異的に切断する2種類以上の人工DNA切断酵素を使用することができる。あるいは、工程(1)において1種類の鋳型DNAを用い、2箇所以上の変異を導入した場合、各変異導入部位について変異が導入されていない配列を特異的に切断する2種類以上の人工DNA切断酵素を使用することができる。
ここで、「欠失、置換、又は付加が導入されていないDNAを特異的に切断する」とは、欠失、置換、又は付加が導入されていないDNAを切断するが、欠失、置換、又は付加が導入されたDNAを切断しないことを意味する。そのような人工DNA切断酵素は、定法により調製することができる。例えば人工DNA切断酵素としてCRISPR-Cas9を用いる場合、欠失、置換、又は付加前の配列を含む領域に結合するようにガイドRNAを設計することで、欠失、置換、又は付加が導入されていないDNAを特異的に切断することができる。
このような人工DNA切断酵素による欠失、置換、又は付加が導入されていないDNAの特異的切断は、工程(1)の後、かつ工程(2)の前に行ってもよい。
また人工DNA切断酵素は、通常、熱処理によって失活しやすく、PCR反応のような94℃以上の高温でのインキュベーションを必要とするDNA増幅反応系では機能しない場合がある。本発明の方法における工程(2)は、94℃以上の高温でのインキュベーションを含まないため、DNA増幅反応と同時に人工DNA切断酵素による処理を行うことができる。したがって、好ましい実施形態において、工程(2)を、欠失、置換、又は付加が導入されていないDNAを特異的に切断する人工DNA切断酵素の存在下で行ってもよい。この場合、反応工程を増やすことなく、欠失、置換、又は付加が導入されたDNAの収率を大幅に改善することができる。
以下、本発明の一態様として、RCR法によりDNAを増幅させる実施形態について説明する。
<RCR法>
一実施形態において、本発明の方法の工程(2)はRCR法により行うことができる。RCR法は、以下の工程を含む環状DNAの増幅方法である:
(2-1)(a)環状DNAの複製を触媒する第一の酵素群、(b)岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する第二の酵素群、及び(c)2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する第三の酵素群を含む反応溶液と、工程(1)において欠失、置換、又は付加が導入された環状DNAとの反応混合物を調製する工程;
(2-2)工程(2-1)において調製した反応混合物を、等温、すなわち、20℃~80℃の範囲に含まれる一定の温度でインキュベートするか、又は65℃以下の2つの温度でのインキュベーションを繰り返す温度サイクル下でインキュベートする工程。
1.環状DNA
RCR法において鋳型として用いる環状DNAは、二本鎖であることが好ましい。鋳型として用いる環状DNAとしては、微生物の環状染色体等の天然の環状DNA、天然の環状DNAを酵素処理等によって切断したもの等に別のDNA断片を連結し、それを環状化した環状DNA、天然において直鎖状で存在するDNAを環状化処理した環状DNA、すべて人工的に合成した環状DNA等を例示することができる。環状DNAは、複製開始タンパク質が結合可能な複製開始配列を含んでも、含まなくてもよいが、複製開始タンパク質が結合可能な複製開始配列を含むことが好ましく、DnaA活性を有する酵素と結合可能な複製開始配列(oriC)を含むことがより好ましい。
複製開始配列とそれに結合可能な複製開始タンパク質の組み合わせは、当該技術分野において公知であり(例えば、Cell, Volume 54, Issue 7, Pages 915-918 (1988)参照)、本発明においては、それらのいずれを用いてもよい。そのような組み合わせの例としては、oriCとDnaA活性を有する酵素(例えば、大腸菌、枯草菌などの細菌に存在する複製開始配列とDnaAタンパク質)、pSC101の複製開始配列とpSC101 repA、P1の複製開始配列とP1 repA、Fの複製開始配列とEタンパク質、R1の複製開始配列とR1 repA、R6K oriγとπタンパク質、λの複製開始配列とλOタンパク質、φ82の複製開始配列とφ82Oタンパク質、φ80の複製開始配列とφ80Oタンパク質、RK2の複製開始配列とRK2 trfAタンパク質、P4の複製開始配列とαタンパク質、などが挙げられる。
複製開始タンパク質及び複製開始配列は、NCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等の公的なデータベースに登録されている配列情報に基づいて入手することができる。また複製開始配列は、複製開始タンパク質と結合可能なDNA断片をクローニングし、その塩基配列を解析することによって得ることもできる。
本発明において鋳型として用いる環状DNAは、もともと複製開始配列を含む環状DNAであってもよいし、もともとは複製開始配列を含まない環状DNAに複製開始配列を導入したものであってもよい。
鋳型として用いる環状DNAが複製開始タンパク質が結合可能な複製開始配列を含まない場合、DNA組換え中間体(D-loop)の形成又は転写中間体(R-loop)の形成を介してDNAの複製が開始される。
本発明において鋳型として用いる環状DNAは、目的に応じて、カナマイシン、アンピシリン、テトラサイクリン等の薬剤耐性マーカー遺伝子配列を含むものであってよい。
本発明において鋳型として用いる環状DNAは、精製されたものであってもよいが、環状DNAを含む菌体抽出物等の懸濁液の形態であってもよい。また、1種類の環状DNAを鋳型として用いてもよいが、例えばDNAライブラリーのような複数種類の環状DNAの混合物を1つの試験管内で鋳型として用いてもよい。
1反応あたりに用いる鋳型DNAの量に特に制限はなく、1反応あたり1分子の環状DNAを鋳型として用いることもできる。
本発明において鋳型として用いる環状DNAの長さに制限はないが、例えば1 kb(1000塩基長)以上、5 kb(5000塩基長)以上、8 kb(8,000塩基長)以上、8.8 kb(8,800塩基長)以上、9.5 kb(9,500塩基長)以上、10 kb(10,000塩基長)以上、50 kb(50,000塩基長)以上、100 kb(100,000塩基長)以上、101 kb(101,000塩基長)以上、183 kb(183,000塩基長)以上、200 kb(200,000塩基長)以上、205 kb(205,000塩基長)以上、500 kb(500,000塩基長)以上、1000 kb(1,000,000塩基長)以上、又は2000 kb(2,000,000塩基長)以上の長さとすることができる。一方で、環状DNAの長さの上限は特に限定されないが、例えば、10000 kb程度とすることができる。
本発明では、上記の環状DNAを鋳型として用いて、それを少なくとも10倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1000倍、2000倍、3000倍、4000倍、5000倍、又は10000倍に増幅させることができる。
2.第一、第二及び第三の酵素群
2-1.第一の酵素群
本明細書において第一の酵素群とは、環状DNAの複製を触媒する酵素群を意味する。
2-1-1.環状DNAが複製開始配列を含む場合
環状DNAの複製を触媒する第一の酵素群としては、例えばKaguni JM & Kornberg A. Cell. 1984, 38:183-90に記載された酵素群を用いることができる。具体的には、第一の酵素群として、以下:複製開始タンパク質(例えばDnaA活性を有する酵素)、1種以上の核様体タンパク質、DNAジャイレース活性を有する酵素又は酵素群、一本鎖DNA結合タンパク質(single-strand binding protein(SSB))、DNAヘリカーゼ活性を有する酵素(例えばDnaB型ヘリカーゼ活性を有する酵素)、DNAヘリカーゼローダー活性を有する酵素、DNAプライマーゼ活性を有する酵素、DNAクランプ活性を有する酵素、及びDNAポリメラーゼIII*活性(DNAポリメラーゼIIIホロ酵素からクランプを除いたもの)を有する酵素又は酵素群、からなる群より選択される酵素又は酵素群の1つ以上、あるいは当該酵素又は酵素群のすべての組み合わせ、を例示することができる。
複製開始タンパク質は、環状DNAに存在する複製開始配列に対してイニシエーター活性を有するタンパク質であれば、その生物学的由来に特に制限はない。またDnaA活性を有する酵素は、大腸菌のイニシエータータンパク質であるDnaAと同様のイニシエーター活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のDnaAを好適に用いることができる。複製開始タンパク質は単量体として、反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、1 nM(nmol/L)~10 μM(μmol/L)の範囲で含まれていてもよく、好ましくは1 nM~5 μM、1 nM~3 μM、1 nM~1.5 μM、1 nM~1.0 μM、1 nM~500 nM、50 nM~200 nM、50 nM~150 nMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは100 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。
核様体タンパク質は、核様体に含まれるタンパク質をいう。本発明に用いる1種以上の核様体タンパク質は、大腸菌の核様体タンパク質と同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のIHF、すなわちIhfA及びIhfBからなる群より選ばれる1種以上の複合体(ヘテロ二量体又はホモ二量体)や、大腸菌由来のHU、すなわちhupA及びhupBの複合体を好適に用いることができる。大腸菌由来のIHFはヘテロ/ホモ2量体として反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、5 nM(nmol/L)~400 nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5 nM~200 nM、5 nM~100 nM、5 nM~50 nM、10 nM~50 nM、10 nM~40 nM、10 nM~30 nM、の範囲で含まれていてもよく、より好ましくは20 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。大腸菌由来のHUは反応溶液中、1 nM~50 nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5 nM~50 nM、5 nM~25 nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
DNAジャイレース活性を有する酵素又は酵素群としては、大腸菌のDNAジャイレースと同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のGyrA及びGyrBからなる複合体を好適に用いることができる。大腸菌由来のGyrA及びGyrBからなる複合体はヘテロ4量体として反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、20 nM(nmol/L)~500 nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは20 nM~400 nM、20 nM~300 nM、20 nM~200 nM、50 nM~200 nM、50 nM~100 nMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは50 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。
一本鎖DNA結合タンパク質(single-strand binding protein(SSB))としては、大腸菌の一本鎖DNA結合タンパク質と同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のSSBを好適に用いることができる。大腸菌由来のSSBはホモ4量体として、反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、20 nM(nmol/L)~1000 nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは20 nM~500 nM、20 nM~300 nM、20 nM~200 nM、50 nM~500 nM、50 nM~400 nM、50 nM~300 nM、50 nM~200 nM、50 nM~150 nM、100 nM~500 nM、100 nM~400 nM、の範囲で含まれていてもよく、より好ましくは400 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。
DnaB型ヘリカーゼ活性を有する酵素としては、大腸菌のDnaBと同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のDnaBを好適に用いることができる。大腸菌由来のDnaBはホモ6量体として反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、5 nM(nmol/L)~200 nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5 nM~100 nM、5 nM~50 nM、5 nM~30 nMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは20 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。
DNAヘリカーゼローダー活性を有する酵素としては、大腸菌のDnaCと同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のDnaCを好適に用いることができる。大腸菌由来のDnaCはホモ6量体として反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、5 nM(nmol/L)~200 nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは5 nM~100 nM、5 nM~50 nM、5 nM~30 nMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは20 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。
DNAプライマーゼ活性を有する酵素としては、大腸菌のDnaGと同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のDnaGを好適に用いることができる。大腸菌由来のDnaGは単量体として、反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、20 nM(nmol/L)~1000 nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは20 nM~800 nM、50 nM~800 nM、100 nM~800 nM、200 nM~800 nM、250 nM~800 nM、250 nM~500 nM、300 nM~500 nMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは400 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。
DNAクランプ活性を有する酵素としては、大腸菌のDnaNと同様の活性を有する酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のDnaNを好適に用いることができる。大腸菌由来のDnaNはホモ2量体として反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、10 nM(nmol/L)~1000 nMの範囲で含まれていてもよく、好ましくは10 nM~800 nM、10 nM~500 nM、20 nM~500 nM、20 nM~200 nM、30 nM~200 nM、30 nM~100 nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
DNAポリメラーゼIII*活性を有する酵素又は酵素群としては、大腸菌のDNAポリメラーゼIII*複合体と同様の活性を有する酵素又は酵素群であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のDnaX、HolA、HolB、HolC、HolD、DnaE、DnaQ、及びHolEのいずれかを含む酵素群、好ましくは大腸菌由来のDnaX、HolA、HolB、及びDnaEの複合体を含む酵素群、さらに好ましくは大腸菌由来のDnaX、HolA、HolB、HolC、HolD、DnaE、DnaQ、及びHolEの複合体を含む酵素群を好適に用いることができる。大腸菌由来のDNAポリメラーゼIII*複合体はヘテロ多量体として反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、2 nM(nmol/L)~50 nM(nmol/L)の範囲で含まれていてもよく、好ましくは2 nM~40 nM、2 nM~30 nM、2 nM~20 nM、5 nM~40 nM、5 nM~30 nM、5 nM~20 nMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは5 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。
2-1-2.環状DNAが複製開始配列を含まない場合
環状DNAが複製開始配列を含まず、複製開始にD-loopを利用する場合、第一の酵素群としては、例えば組換え酵素(例えばRecA又はそのホモログ(例えばT4ファージのUvsX))、組換え酵素のDNAへの導入に機能する酵素(例えばRecO及びRecR又はそれらのホモログ(例えばUvsXに対してはUvsY)、D-loopへのヘリカーゼ導入に機能するプライモソームタンパク質群(例えば、PriA、PriB、PriC、及びDnaT)を用いることができる。
環状DNAが複製開始配列を含まず、複製開始にR-loopを利用する場合、第一の酵素群としては、例えばRNAポリメラーゼ、R-loopへのヘリカーゼ導入に機能するプライモソームタンパク質群(例えばPriA、PriB、PriC、及びDnaT)を用いることができる。
2-2.第二の酵素群
本明細書において第二の酵素群とは、岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する酵素群を意味する。
本発明において、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAとは、DNA複製反応によって合成された2つの環状DNAがつながった状態にあるものをいう。
岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する第二の酵素群としては、例えばDNAポリメラーゼI活性を有する酵素、DNAリガーゼ活性を有する酵素、及びRNaseH活性を有する酵素、からなる群より選択される1つ以上の酵素又は当該酵素の組み合わせを例示することができる。
DNAポリメラーゼI活性を有する酵素としては、大腸菌のDNAポリメラーゼIと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のDNAポリメラーゼIを好適に用いることができる。大腸菌由来のDNAポリメラーゼIは単量体として反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、10 nM(nmol/L)~200 nM(nmol/L)の範囲で含まれていてもよく、好ましくは20 nM~200 nM、20 nM~150 nM、20 nM~100 nM、40 nM~150 nM、40 nM~100 nM、40 nM~80 nMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは50 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。
DNAリガーゼ活性を有する酵素としては、大腸菌のDNAリガーゼと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のDNAリガーゼ又はT4ファージのDNAリガーゼを好適に用いることができる。大腸菌由来のDNAリガーゼは単量体として反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、10 nM(nmol/L)~200 nM(nmol/L)の範囲で含まれていてもよく、好ましくは15 nM~200 nM、20 nM~200 nM、20 nM~150 nM、20 nM~100 nM、20 nM~80 nMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは50 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。
RNaseH活性を有する酵素としては、RNA:DNAハイブリッドのRNA鎖を分解する活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のRNaseHを好適に用いることができる。大腸菌由来のRNaseHは単量体として反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.2 nM(nmol/L)~200 nM(nmol/L)の範囲で含まれていてもよく、好ましくは0.2 nM~200 nM、0.2 nM~100 nM、0.2 nM~50 nM、1 nM~200 nM、1 nM~100 nM、1 nM~50 nM、10 nM~50 nMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは10 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。
2-3.第三の酵素群
本明細書において第三の酵素群とは、2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する酵素群を意味する。
2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する第三の酵素群としては、例えばPeng H & Marians KJ. PNAS. 1993, 90: 8571-8575に記載された酵素群を用いることができる。具体的には、第三の酵素群として、以下:トポイソメラーゼIV活性を有する酵素、トポイソメラーゼIII活性を有する酵素、及びRecQ型ヘリカーゼ活性を有する酵素、から成る群より選択される1つ以上の酵素又は当該酵素の組み合わせを例示することができる。
トポイソメラーゼIII活性を有する酵素としては、大腸菌のトポイソメラーゼIIIと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のトポイソメラーゼIIIを好適に用いることができる。大腸菌由来のトポイソメラーゼIIIは単量体として反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、20 nM(nmol/L)~500 nM(nmol/L)の範囲で含まれていてもよく、好ましくは20 nM~400 nM、20 nM~300 nM、20 nM~200 nM、20 nM~100 nM、30 nM~80 nMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは50 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。
RecQ型ヘリカーゼ活性を有する酵素としては、大腸菌のRecQと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のRecQを好適に用いることができる。大腸菌由来のRecQは単量体として反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、20 nM(nmol/L)~500 nM(nmol/L)の範囲で含まれていてもよく、好ましくは20 nM~400 nM、20 nM~300 nM、20 nM~200 nM、20 nM~100 nM、30 nM~80 nMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは50 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。
トポイソメラーゼIV活性を有する酵素としては、大腸菌のトポイソメラーゼIVと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えばParCとParEの複合体である大腸菌由来のトポイソメラーゼIVを好適に用いることができる。大腸菌由来のトポイソメラーゼIVはヘテロ4量体として反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.1 nM(nmol/L)~50 nM(nmol/L)の範囲で含まれていてもよく、好ましくは0.1 nM~40 nM、0.1 nM~30 nM、0.1 nM~20 nM、1 nM~40 nM、1 nM~30 nM、1 nM~20 nM、1 nM~10 nM、1 nM~5 nMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは5 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。
上記の第一、第二及び第三の酵素群は、市販されているものを用いてもよいし、微生物等から抽出し、必要に応じて精製したものを用いてもよい。微生物からの酵素の抽出及び精製は、当業者に利用可能な手法を用いて適宜実施することができる。
上記第一、第二及び第三の酵素群として、上記に示す大腸菌由来の酵素以外を用いる場合は、上記大腸菌由来の酵素について特定された濃度範囲に対して、酵素活性単位として相当する濃度範囲で用いることができる。
上記酵素の無細胞タンパク質発現系を含む反応溶液を、そのまま鋳型となる環状DNAと混合して、環状DNAの複製又は増幅のための反応混合液を形成してもよい。無細胞タンパク質発現系は、上記酵素をコードする遺伝子の塩基配列に相補的な配列からなるRNAを含む総RNA(total RNA)、mRNA、又はin vitro転写産物などを鋳型RNAとする無細胞翻訳系であってもよいし、各酵素をコードする遺伝子又は各酵素をコードする遺伝子を含む発現ベクターなどを鋳型DNAとする無細胞転写翻訳系であってもよい。
以下に、RCR法I~Vとして、RCR法により環状DNAを増幅させる実施形態を説明する。なお、RCR法I~Vにおいて、「DnaA活性を有する酵素と結合可能な複製開始配列」及び「oriC」は「複製開始配列」に、「DnaA活性を有する酵素」は「複製開始配列に結合可能な複製開始タンパク質」に、それぞれ読み替えることができる。
<RCR法I>
一実施形態において、本発明におけるRCR法は、上記第一から第三の酵素群を含む反応溶液と、鋳型となる環状DNAとの反応混合物を形成する工程を含む(特許文献5参照)。
第一から第三の酵素群を含む反応溶液の組成は、DNA複製反応が進行することのできるものであれば特に制限はないが、例えば、トリス塩酸緩衝液等の緩衝液に、rNTP、dNTP、マグネシウムイオン源、ATP源等を添加した溶液に、第一から第三の酵素群を添加したもの等を用いることができる。また、上記反応溶液は、副次的産物の生成を抑制する成分等の追加の成分をさらに含むものであってよい。具体的な反応溶液としては、後述する実施例に記載されたものが例示できる。
RCR法Iは、上記反応混合物を等温条件下で保温する工程をさらに含む。等温条件としては、DNA複製反応が進行することのできるものであれば特に制限はないが、例えばDNAポリメラーゼの至適温度である20~80℃の範囲に含まれる一定の温度とすることができ、25℃~50℃の範囲に含まれる一定の温度とすることができ、30℃~33℃程度とすることができる。保温時間は、目的とする環状DNAの増幅産物の量に応じて適宜設定することができるが、例えば1時間~24時間とすることができ、16時間~21時間とすることができる。
RCR法Iは、上記反応混合物を等温条件下で保温する工程の後に、目的に応じて、環状DNAの増幅産物を精製する工程を含んでもよい。環状DNAの精製は、当業者に利用可能な手法を用いて適宜実施することができる。
RCR法Iを用いて増幅した環状DNAは、反応後の反応混合物をそのまま、あるいは適宜精製したものを、形質転換等のその後の目的に用いることができる。
<RCR法II>
一実施形態において、本発明におけるRCR法は、以下の工程:
(II-1)鋳型となる環状DNAと、以下:
環状DNAの複製を触媒する第一の酵素群;
岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する第二の酵素群;
2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する第三の酵素群;
緩衝液;
ATP;
GTP、CTP及びUTP;
dNTP;
マグネシウムイオン源;及び
アルカリ金属イオン源;
を含む反応溶液との反応混合物を形成する工程、を含み、
ここで当該環状DNAはDnaA活性を有する酵素と結合可能な複製開始配列(origin of chromosome(oriC))を含む(特許文献6参照)。
本実施形態において、本発明の方法は、上記工程(II-1)の前に、反応溶液をプレインキュベーションする工程をさらに含んでいてもよい。すなわち、本発明の方法は、以下の工程:
(II-1-1)以下:
環状DNAの複製を触媒する第一の酵素群;
岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する第二の酵素群;
2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する第三の酵素群;
緩衝液;
ATP;
GTP、CTP及びUTP;
dNTP;
マグネシウムイオン源;及び
アルカリ金属イオン源;
を含む反応溶液をプレインキュベーションする工程;及び
(II-1-2)当該反応溶液と鋳型となる環状DNAとの反応混合物を形成する工程、ここで当該環状DNAはDnaA活性を有する酵素と結合可能な複製開始配列(origin of chromosome(oriC))を含む;
を含み得る。
プレインキュベーションは、例えば、0℃~40℃、10℃~40℃、15℃~37℃、又は16℃~30℃の範囲で、5分間~60分間、5分間~45分間、5分間~30分間、15分間~60分間、15分間~45分間、15分間~30分間の間、保温することにより行ってもよい。プレインキュベーションは、反応溶液の温度が上記の温度範囲内に保たれればプレインキュベーション中に若干変動してもよい。
理論により制限されるものではないが、RCR法IIでは、複製サイクルが繰り返され、環状DNAが指数的に増幅する。本発明の方法では、上述した環状DNAを鋳型として用いて、それを少なくとも10倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1000倍、2000倍、3000倍、4000倍、5000倍、又は10000倍に増幅することができる。
反応溶液と混合する環状DNAについては、上記「1.環状DNA」の項目に記載した通りである。1反応あたりに用いる鋳型DNAの量に特に制限はなく、例えば、反応開始時に反応溶液の総容積に対して、10 ng/μL以下、5 ng/μL以下、1 ng/μL以下、0.8 ng/μL以下、0.5 ng/μL以下、0.3 ng/μL以下の濃度で反応溶液中に存在させてもよい。一方、1反応あたりに用いる鋳型DNAの量の下限は特に限定されないが、例えば、7.5 fg/μL、0.67 pg/μL、1 pg/μL、10 pg/μL、14 pg/μL、50 pg/μL、又は75 pg/μLとすることができる。さらには、反応開始時に、1反応あたり1分子の環状DNAを鋳型として存在させて増幅に用いることもできる。
反応溶液に含まれる緩衝液は、pH7~9、好ましくはpH8、において用いるのに適した緩衝液であれば特に制限はない。例えば、Tris-HCl、Tris-OAc、Hepes-KOH、リン酸緩衝液、MOPS-NaOH、Tricine-HClなどが挙げられる。好ましい緩衝液はTris-HCl又はTris-OAcである。緩衝液の濃度は、当業者が適宜選択することができ、特に限定されないが、Tris-HCl又はTris-OAcの場合、例えば反応溶液の総容積に対して、10 mM(mmol/L)~100mM(mmol/L)、10mM~50mM、20mMの濃度を選択できる。
ATPは、アデノシン三リン酸を意味する。反応開始時に反応溶液中に含まれるATPの濃度は、例えば反応溶液の総容積に対して、0.1 mM(mmol/L)~3 mM(mmol/L)の範囲であってよく、好ましくは0.1 mM~2 mM、0.1 mM~1.5 mM、0.5 mM~1.5 mMの範囲であってよく、より好ましくは1 mMであってもよい。
GTP、CTP及びUTPは、それぞれグアノシン三リン酸、シチジン三リン酸、及びウリジン三リン酸を意味する。反応開始時に反応溶液中に含まれるGTP、CTP及びUTPの濃度は、それぞれ独立して、例えば反応溶液の総容積に対して、0.1 mM(mmol/L)~3.0 mM(mmol/L)の範囲であってよく、好ましくは0.5 mM~3.0 mM、0.5 mM~2.0 mMの範囲であってよい。
dNTPは、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)、及びデオキシチミジン三リン酸(dTTP)の総称である。反応開始時に反応溶液中に含まれるdNTPの濃度は、例えば反応溶液の総容積に対して、0.01 mM(mmol/L)~1 mM(mmol/L)の範囲であってよく、好ましくは0.05 mM~1 mM、0.1 mM~1 mMの範囲であってよく、より好ましくは0.25 mM~1 mMの範囲であってよい。
マグネシウムイオン源は、反応溶液中にマグネシウムイオン(Mg2+)を与える物質である。例えば、Mg(OAc)2、MgCl2、MgSO4、などが挙げられる。好ましいマグネシウムイオン源はMg(OAc)2である。反応開始時に反応溶液中に含まれるマグネシウムイオン源の濃度は、例えば、反応溶液中にマグネシウムイオンを反応溶液の総容積に対して、5 mM(mmol/L)~50 mM(mmol/L)の範囲で与える濃度であってよく、1 mMが好ましい。
アルカリ金属イオン源は、反応溶液中にアルカリ金属イオンを与える物質である。アルカリ金属イオンとしては、例えばナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)が挙げられる。アルカリ金属イオン源の例として、グルタミン酸カリウム、アスパラギン酸カリウム、塩化カリウム、酢酸カリウム、グルタミン酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、及び酢酸ナトリウム、が挙げられる。好ましいアルカリ金属イオン源はグルタミン酸カリウム又は酢酸カリウムである。反応開始時に反応溶液中に含まれるアルカリ金属イオン源の濃度は、反応溶液中にアルカリ金属イオンを反応溶液の総容積に対して、100 mM(mmol/L)以上、好ましくは100 mM~300 mMの範囲で与える濃度であってよく、より好ましくは50 mMで与える濃度であってよいが、これに限定されない。先行する出願との兼ね合いにおいては、上記のアルカリ金属イオン源の濃度から150 mMが除かれてもよい。
RCR法IIに用いる反応溶液はさらに、タンパク質の非特異吸着抑制剤又は核酸の非特異吸着抑制剤を含んでいてもよい。好ましくは、反応溶液はさらに、タンパク質の非特異吸着抑制剤及び核酸の非特異吸着抑制剤を含んでいてもよい。タンパク質の非特異吸着抑制剤及び核酸の非特異吸着抑制剤からなる群より選ばれる1種以上の非特異吸着抑制剤が反応溶液中に存在することで、反応効率が向上する。タンパク質の非特異吸着抑制剤及び核酸の非特異吸着抑制剤からなる群より選ばれる1種以上の非特異吸着抑制剤が、タンパク質同士及びタンパク質と環状DNAからなる群より選ばれる1種以上の非特異吸着や、タンパク質及び環状DNAの容器表面への付着を抑制することで反応効率が向上すると考えられる。
タンパク質の非特異吸着抑制剤とは、本発明の方法における増幅反応とは無関係なタンパク質である。そのようなタンパク質としては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、リゾチーム、ゼラチン、ヘパリン、及びカゼインなどが挙げられる。タンパク質の非特異吸着抑制剤は反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.02 mg/mL~2.0 mg/mLの範囲、好ましくは0.1 mg/mL~2.0 mg/mL、0.2 mg/mL~2.0 mg/mL、0.5 mg/mL~2.0 mg/mLの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは0.5 mg/mLで含まれていてもよいが、これに限定されない。
核酸の非特異吸着抑制剤とは、本発明の方法における増幅反応とは無関係な核酸分子又は核酸類似因子である。そのような核酸分子又は核酸類似因子としては、例えば、tRNA(トランスファーRNA)、rRNA(リボソーマルRNA)、mRNA(メッセンジャーRNA)、グリコーゲン、ヘパリン、オリゴDNA、poly(I-C)(ポリイノシン-ポリシチジン)、poly(dI-dC)(ポリデオキシイノシン-ポリデオキシシチジン)、poly(A)(ポリアデニン)、及びpoly(dA)(ポリデオキシアデニン)などが挙げられる。核酸の非特異吸着抑制剤は反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、1 ng/μL~500 ng/μLの範囲、好ましくは10 ng/μL~500 ng/μL、10 ng/μL~200 ng/μL、10 ng/μL~100 ng/μLの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは50 ng/μLで含まれていてもよいが、これに限定されない。先行する出願との兼ね合いにおいては、核酸の非特異吸着抑制剤としてtRNAを選択する場合、tRNAの濃度から50 ng/μLが除かれてもよい。
本発明の方法に用いる反応溶液はさらに、DNAの安定化因子を含んでいてもよい。DNAの安定化因子が反応溶液中に存在することで、DNAの切断が抑制され、鋳型DNA及び増幅産物を保護することができると考えられる。DNAの安定化因子の添加により、目的産物の収率向上につながる。特に、鋳型DNAが長鎖環状DNAである場合は、鋳型DNA及び増幅産物が分解されやすいため、DNAの安定化因子の添加は有益である。DNAの安定化因子は、特に限定されないが、例えば、グルコース、スクロース、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ウシ血清アルブミン(BSA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、バソクプロインジスルホン酸二ナトリウム(BDA)、ペニシラミン、タイロン(Tiron, 1,2-ジヒドロキシベンゼン-3,5-スルホネート)、ジエチレレントリアミン五酢酸(DTPA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、及びDpsタンパク質(大腸菌由来)、メタロチオネインタンパク質(ヒト由来)からなる群より選択されるものであってもよい。この中で、DTPA、Tiron、BDA、Dpsタンパク質及びBSAは、環状DNA増幅反応を効率化作用をも有するので、特に好ましい。DTPA又はTironは反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.01 mM(mmol/mL)~0.3 mM(mmol/mL)、好ましくは0.05mM~0.25 mMの範囲で含まれていてもよく、より好ましは0.25 mM含まれていてもよいが、これに限定されない。BDAは、反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.01 mM(mmol/mL)~0.5 mM(mmol/mL)、好ましくは0.05 mM~0.3 mMの範囲で含まれていてもよいがこれに限定されない。Dpsタンパク質は反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.3 μM(μmol/mL)~3.0 μM(μmol/mL)、好ましくは0.3 μM~1.5 μMの範囲で含まれていてもよいがこれに限定されない。BSAは反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.02 mg/mL~2.0 mg/mLの範囲、好ましくは0.1 mg/mL~2.0 mg/mL、0.2 mg/mL~2.0 mg/mL、0.5 mg/mL~2.0 mg/mLの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは0.5 mg/mLで含まれていてもよいが、これに限定されない。
RCR法IIに用いる反応溶液はさらに、直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼ又はRecG型ヘリカーゼを含んでいてもよい。好ましくは、反応溶液はさらに、直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼ及びRecG型ヘリカーゼを含んでいてもよい。直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼ及びRecG型ヘリカーゼからなる群より選ばれる1種以上が反応溶液中に存在することで、増幅反応中に二重鎖切断などによって生じる直鎖状DNAの量を低減し、目的のスーパーコイル産物の収率を向上させる効果がある。
RCR法IIに用いる反応溶液はさらに、RecG型ヘリカーゼ又は一本鎖DNA特異的エキソヌクレアーゼを含んでいてもよい。好ましくは、反応溶液はさらに、RecG型ヘリカーゼ及び一本鎖DNA特異的エキソヌクレアーゼを含んでいてもよい。RecG型ヘリカーゼ及び一本鎖DNA特異的エキソヌクレアーゼからなる群より選ばれる1種以上が反応溶液中に存在することで、増幅反応中に生じる低分子の副次的な増幅産物の量を低減し、目的のスーパーコイル産物の収率を向上させる効果がある。
RCR法IIに用いる反応溶液はさらに、直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼ又は一本鎖DNA特異的エキソヌクレアーゼを含んでいてもよい。好ましくは、反応溶液はさらに直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼ及び一本鎖DNA特異的エキソヌクレアーゼを含んでいてもよい。直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼ及び一本鎖DNA特異的エキソヌクレアーゼからなる群より選ばれる1種以上が反応溶液中に存在することで、増幅反応中に二重鎖切断などによって生じる直鎖状DNAの量を低減し、目的のスーパーコイル産物の収率を向上させる効果がある。
直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼは、直鎖状DNAの5’末端若しくは3’末端から逐次的に加水分解する酵素である。直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼは、直鎖状DNAの5’末端若しくは3’末端から逐次的に加水分解する活性を有するものであれば、その種類や生物学的由来に特に制限はない。例えば、RecBCD、λエキソヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼIII、エキソヌクレアーゼVIII、T5エキソヌクレアーゼ、T7エキソヌクレアーゼ、及びPlasmid-SafeTM ATP-Dependent DNase (epicentre)などを用いることができる。好ましい直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼはRecBCDである。直鎖状DNAエキソヌクレアーゼは反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.001 U/μL~1.0 U/μL、好ましくは0.005 U/μL~1.0 U/μL、0.01 U/μL~1.0 U/μL、0.05 U/μL~1.0 U/μL、0.08 U/μL~1.0 U/μL、又は0.1 U/μL~1.0 U/μLの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。直鎖状DNAエキソヌクレアーゼについての酵素活性単位(U)は、37℃、30分の反応において、直鎖状DNAの1nmolのデオキシリボヌクレオチドを酸可溶性とするのに必要な酵素量を1Uとした単位である。
RecG型ヘリカーゼは、伸張反応の終結時に複製フォーク同士が衝突してできる副次的なDNA構造を解消するヘリカーゼと考えられている酵素である。RecG型ヘリカーゼは、大腸菌由来のRecGと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のRecGを好適に用いることができる。大腸菌由来のRecGは単量体として反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、100 nM(nmol/L)~800 nM(nmol/L)の範囲、好ましくは100 nM~500 nM、100 nM~400 nM、100 nM~300 nMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは60 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。RecG型ヘリカーゼは、上記大腸菌由来のRecGについて特定された濃度範囲に酵素活性単位として相当する濃度範囲で用いることができる。
一本鎖DNA特異的エキソヌクレアーゼは、一本鎖DNAの5’末端若しくは3’末端のヌクレオチドを逐次的に加水分解する酵素である。一本鎖DNA特異的エキソヌクレアーゼは、一本鎖DNAの5’末端又は3’末端のヌクレオチドを逐次的に加水分解する活性を有するものであれば、その種類や生物学的由来に特に制限はない。例えばエキソヌクレアーゼI(exo I)、RecJ、エキソヌクレアーゼT、などを用いることができる。好ましい一本鎖DNA特異的エキソヌクレアーゼはexo Iである。一本鎖DNA特異的エキソヌクレアーゼは反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.1 U/μL~1.0 U/μLの範囲、好ましくは0.15 U/μL~1.0 U/μL、0.2 U/μL~1.0 U/μL、又は0.2 U/μL~0.5 U/μLの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。exo Iについての酵素活性単位(U)は、37℃、30分の反応において、一本鎖DNAの10nmolのデオキシリボヌクレオチドを酸可溶性とするのに必要な酵素量を1Uとした単位である。RecJについての酵素活性単位(U)は、37℃、30分の反応において、一本鎖DNAの0.05nmolのデオキシリボヌクレオチドを酸可溶性とするのに必要な酵素量を1Uとした単位である。
RCR法IIに用いる反応溶液はさらに、アンモニウム塩を含んでいてもよい。アンモニウム塩の例としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、及び酢酸アンモニウムが挙げられる。特に好ましいアンモニウム塩は硫酸アンモニウム又は酢酸アンモニウムである。アンモニウム塩は反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.1 mM(mmol/L)~100 mM(mmol/L)の範囲、好ましくは0.1 mM~50 mM、1 mM~50 mM、1 mM~20 mMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは4 mM含まれていてもよいが、これに限定されない。
第二の酵素群の一つとして、DNAリガーゼ活性を有する酵素として大腸菌由来のDNAリガーゼを用いる場合、その補因子であるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が反応溶液中に含まれる。NADは反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.01 mM(mmol/L)~1.0 mM(mmol/L)の範囲、好ましくは0.1 mM~1.0 mM、0.1 mM~0.5 mMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは0.25 mM含まれていてもよいが、これに限定されない。
RCR法IIに用いる反応溶液はさらに、還元剤を含んでいてもよい。好ましい還元剤の例としては、DTT、β-メルカプトエタノール(2-メルカプトエタノール)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)及びグルタチオンが挙げられる。好ましい還元剤はDTTである。還元剤は、反応溶液中に反応溶液の総容積に対して、1.0 mM(mmol/L)~15.0 mM(mmol/L)の濃度で、好ましくは2.0 mM~10.0 mM、4.0 mM~8.0 mMの濃度で含まれていてもよい。
RCR法IIに用いる反応溶液はまた、ATPを再生するための酵素及び基質を含んでいてもよい。ATP再生系の酵素と基質の組み合わせとしては、クレアチンキナーゼとクレアチンホスフェート、及びピルビン酸キナーゼとホスホエノールピルビン酸が挙げられる。ATP再生系の酵素としてはミオキナーゼが挙げられる。好ましいATP再生系の酵素と基質の組み合わせはクレアチンキナーゼ及びクレアチンホスフェート、である。
反応溶液中に含まれる第一、第二、及び第三の酵素群については、上記「2.第一、第二及び第三の酵素群」の項目に記載した通りである。
ある態様において、RCR法IIに用いる第一の酵素群は、DnaA活性を有する酵素、1種以上の核様体タンパク質、DNAジャイレース活性を有する酵素又は酵素群、一本鎖DNA結合タンパク質(single-strand binding protein(SSB))、DnaB型ヘリカーゼ活性を有する酵素、DNAヘリカーゼローダー活性を有する酵素、DNAプライマーゼ活性を有する酵素、DNAクランプ活性を有する酵素、及びDNAポリメラーゼIII*活性を有する酵素又は酵素群、の組み合わせ含んでいてよい。ここにおいて、1種以上の核様体タンパク質はIHF又はHUであってよく、DNAジャイレース活性を有する酵素又は酵素群は、GyrA及びGyrBからなる複合体であってよく、DnaB型ヘリカーゼ活性を有する酵素はDnaBヘリカーゼであってよく、DNAヘリカーゼローダー活性を有する酵素はDnaCヘリカーゼローダーであってよく、DNAプライマーゼ活性を有する酵素はDnaGプライマーゼであってよく、DNAクランプ活性を有する酵素はDnaNクランプであってよく、そして、DNAポリメラーゼIII*活性を有する酵素又は酵素群は、DnaX、HolA、HolB、HolC、HolD、DnaE、DnaQ、及びHolEのいずれかを含む酵素又は酵素群であってよい。
別の態様において、RCR法IIに用いる第二の酵素群は、DNAポリメラーゼI活性を有する酵素及びDNAリガーゼ活性を有する酵素の組み合わせを含んでいてよい。あるいは、第二の酵素群は、DNAポリメラーゼI活性を有する酵素、DNAリガーゼ活性を有する酵素、及びRNaseH活性を有する酵素の組み合わせを含んでいてよい。
また別の態様において、RCR法IIに用いる第三の酵素群は、トポイソメラーゼIII活性を有する酵素及びトポイソメラーゼIV活性を有する酵素からなる群より選ばれる1種以上の酵素を含んでいてよい。あるいは、第三の酵素群は、トポイソメラーゼIII活性を有する酵素及びRecQ型ヘリカーゼ活性を有する酵素の組み合わせを含んでいてよい。あるいはまた、第三の酵素群は、トポイソメラーゼIII活性を有する酵素、RecQ型ヘリカーゼ活性を有する酵素、及びトポイソメラーゼIV活性を有する酵素の組み合わせであってもよい。
ある態様において、工程(II-2)は、油中水滴型エマルジョン内で行ってもよい。油中水滴型エマルジョンは、工程(II-1)で形成した反応混合物にミネラルオイル及び界面活性剤を添加して混合することにより調製することができる。ミネラルオイル及び界面活性剤の種類及び量は、当業者が適宜選択することができる。
RCR法IIは、工程(II-2)の後に、第一から第三の酵素群を含まない反応溶液で五倍以上に希釈した後、再保温する工程をさらに含んでいてもよい。酵素群の希釈により新たな複製開始が抑えられる一方で、進行途中の複製伸長、カテナン形成、分離反応は残留酵素の効果で継続して進行する。また、反応中にニックなどが入って生じた副生成物も、この過程で残留ライゲースなどの効果によって修復可能である。よって、増幅中間体や副生成物からの最終産物への移行が特異的に導かれ、目的のスーパーコイル構造の環状DNAの収率向上が期待できる。
RCR法IIは、工程(II-2)の後に、直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼ及び一本鎖DNA特異的エキソヌクレアーゼからなる群より選ばれる1種以上のエキソヌクレアーゼで処理する工程をさらに含んでいてもよい。直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼ及び一本鎖DNA特異的エキソヌクレアーゼからなる群より選ばれる1種以上のエキソヌクレアーゼで処理することで、増幅反応中に生じた副産物である直鎖状DNAを分解して除去することができる。直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼ及び一本鎖DNA特異的エキソヌクレアーゼからなる群より選ばれる1種以上のエキソヌクレアーゼの種類及び用いる量は、上述のとおりであってもよい。直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼ及び一本鎖DNA特異的エキソヌクレアーゼからなる群より選ばれる1種以上のエキソヌクレアーゼによる処理は、例えば、25℃~40℃で、30分間~3時間行ってもよい。
RCR法IIは、工程(II-2)の後に、ギャップリペア酵素で処理する工程をさらに含んでいてもよい。ギャップリペア酵素は、二本鎖DNAにおいて1個又は複数の連続したヌクレオチドが欠けた状態であるギャップ、又は二本鎖DNAにおいて隣り合ったヌクレオチド間のリン酸ジエステル結合が切断された状態のニックを修復し、完全な二本鎖スーパーコイルDNAとする酵素群である。ギャップリペア酵素で処理することで、増幅反応中に副産物として生じていたギャップ又はニックの入ったDNAを修復し、目的のスーパーコイル産物の収率を向上させる効果がある。
ギャップリペア酵素は、二本鎖DNAのギャップ又はニックを修復できる酵素群であれば、その種類や生物学的由来に特に制限はない。例えば、エキソヌクレアーゼIII、DNAポリメラーゼI、DNAリガーゼ、DNAジャイレース活性を有する酵素又は酵素群、の組合せを使用できる。エキソヌクレアーゼIII活性を有する酵素は5 mU/μL~100 mU/μLの濃度で用いてもよいが、これに限定されない。エキソヌクレアーゼIIIについての酵素活性単位(U)は、37℃、30分の反応において、二本鎖DNAの1 nmolのデオキシリボヌクレオチドを酸可溶性とするのに必要な酵素量を1 Uとした単位である。DNAポリメラーゼI、DNAリガーゼ、DNAジャイレース活性を有する酵素又は酵素群は、それぞれ前述の第一又は第二の酵素群において定めた濃度で用いて良いが、これに限定されない。ギャップリペア酵素による処理は、例えば、25℃~40℃で、5分間~120分間、好ましくは10分間~60分間、行ってもよい。
RCR法IIは、工程(II-2)の後に、目的に応じて、環状DNAの増幅産物を精製する工程を含んでもよい。環状DNAの精製は、当業者に利用可能な手法を用いて適宜実施することができる。
RCR法IIを用いて増幅した環状DNAは、反応後の反応混合物をそのまま、あるいは適宜精製したものを、形質転換等のその後の目的に用いることができる。
<RCR法III>
一実施形態において、本発明の方法は、以下の工程:
(III-1)鋳型となる環状DNAと、以下:
環状DNAの複製を触媒する第一の酵素群、
岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する第二の酵素群、及び
2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する第三の酵素群、
を含む反応溶液との反応混合物を形成する工程;及び
(III-2)工程(III-1)において形成した反応混合物を反応させる工程;
を含み、
ここで当該環状DNAは、DnaA活性を有する酵素と結合可能な複製開始配列(origin of chromosome(oriC))を含み、そして、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列、及び、XerCDが認識する塩基配列からなる群より選ばれる1種以上の配列、をさらに含み、
ここで当該環状DNAがter配列を有する場合、前記工程(III-1)の反応溶液はさらにter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質を含み、そして当該環状DNAがXerCDが認識する塩基配列を有する場合、前記工程(III-1)の反応溶液はさらにXerCDタンパク質を含む(特許文献7参照)。
RCR法IIIは、環状DNAを複製又は増幅する。本明細書において、環状DNAを複製するとは、鋳型となる環状DNAと同一の分子を生じることを意味する。環状DNAの複製は、反応後の反応物中の環状DNA量が、反応開始時の鋳型となる環状DNA量に対して増加していることで確認できる。好ましくは、環状DNAの複製は、反応開始時の環状DNA量に対して、反応物中の環状DNA量が少なくとも2倍、3倍、5倍、7倍、9倍に増大することをいう。環状DNAを増幅するとは、環状DNAの複製が進み、反応物中の環状DNAの量が反応開始時の鋳型となる環状DNA量に対して指数的に増大することを意味する。したがって、環状DNAの増幅は、環状DNAの複製の一態様である。本明細書において環状DNAの増幅は、反応開始時の鋳型となる環状DNA量に対して、反応物中の環状DNA量が少なくとも10倍、50倍、100倍、200倍、500倍、1000倍、2000倍、3000倍、4000倍、5000倍、又は10000倍に増大することをいう。
反応溶液と混合する環状DNAについては、上記「1.環状DNA」の項目に記載した通りである。1反応あたりに用いる鋳型DNAの量に特に制限はなく、例えば、反応開始時に反応溶液の総容積に対して、10 ng/μL以下、5 ng/μL以下、1 ng/μL以下、0.8 ng/μL以下、0.5 ng/μL以下、0.1 ng/μL以下、75 pg/μL以下、50 pg/μL以下、14 pg/μL以下、5 pg/μL以下、1 pg/μL以下、0.67 pg/μL以下、0.5pg/μL以下、50 fg/μL以下、7.5 fg/μL以下、5 fg/μL以下、0.5 fg/μL以下の濃度で反応溶液中に存在させてもよい。さらには、反応開始時に、1反応あたり1分子の環状DNAを鋳型として存在させて複製又は増幅に用いることもできる。
RCR法IIIに用いる鋳型となる環状DNAは、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列、及び、XerCDが認識する塩基配列からなる群より選ばれる1種以上の配列、を含む。当該環状DNAがter配列を有する場合、工程(III-1)の反応溶液はさらにter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質を含み、そして当該環状DNAがXerCDが認識する塩基配列を有する場合、工程(III-1)の反応溶液はさらにXerCDタンパク質を含む。
ter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質及びXerCDからなる群より選ばれる1種以上のタンパク質は市販されているものを用いてもよいし、微生物等から抽出し、必要に応じて精製したものを用いてもよい。微生物からの酵素の抽出及び精製は、当業者に利用可能な手法を用いて適宜実施することができる。
DNA上のter配列及びter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質の組合せは、複製終結を行う機構である。この機構は、複数種の細菌において見出されており、例えば、大腸菌においてはTus-terシステム(Hiasa, H., and Marians, K. J., J. Biol. Chem., 1994, 269: 26959-26968;Neylon, C., et al., Microbiol. Mol. Biol. Rev., September 2005, p.501-526)、バチルス属細菌ではRTP-terシステム(Vivian, et al., J. Mol. Biol., 2007, 370: 481-491)として知られている。RCR法IIIにおいては、この機構を利用することにより、副産物であるDNAマルチマーの生成を抑制することが可能である。DNA上のter配列及びter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質の組合せについて、その生物学的由来に特に制限はない。
好ましい態様においてRCR法IIIは、ter配列及びTusタンパク質の組合せを用いる。Tusタンパク質との組合せで用いるter配列は、5’-GN[A/G][T/A]GTTGTAAC[T/G]A-3’(配列番号23)、より好ましくは5’-G[T/G]A[T/A]GTTGTAAC[T/G]A-3’(配列番号24)、5’-GTATGTTGTAACTA-3’(配列番号25)、5’-AGTATGTTGTAACTAAAG-3’(配列番号26)、5’-GGATGTTGTAACTA-3’(配列番号27)、5’-GTATGTTGTAACGA-3’(配列番号28)、5’-GGATGTTGTAACTA-3’(配列番号29)、5’-GGAAGTTGTAACGA-3’(配列番号30)、又は5’-GTAAGTTGTAACGA-3’(配列番号31)、を含む配列であってよい。Tusタンパク質の由来は特に限定されないが、好ましくは大腸菌由来のTusタンパク質である。Tusタンパク質は、反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、1 nM(nmol/L)~200 nM(nmol/L)の範囲で含まれていてもよく、好ましくは2 nM~200 nM、2 nM~100 nM、5 nM~200 nM、5 nM~100 nM、10 nM~100 nM、20 nM~100 nM、20 nM~80 nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
別の好ましい態様においてRCR法IIIは、ter配列及びRTPタンパク質の組合せを用いる。RTPタンパク質との組合せで用いるter配列は、5’-AC[T/A][A/G]ANNNNN[C/T]NATGTACNAAAT-3’(配列番号32)、好ましくは5’-ACTAATT[A/G]A[A/T]C[T/C]ATGTACTAAAT-3’(配列番号33)、5’-ACTAATT[A/G]A[A/T]C[T/C]ATGTACTAAATTTTCA-3’(配列番号34)、5’-GAACTAATTAAACTATGTACTAAATTTTCA-3’(配列番号35)、又は5’-ATACTAATTGATCCATGTACTAAATTTTCA-3’(配列番号36)を含む、23~30塩基の長さの配列である。ter配列として配列番号10~12の配列を含み、23~30塩基の長さを有する配列を選択する場合、当該配列は、配列番号13又は14に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%の配列同一性を有するものであってもよい。RTPタンパク質の由来は特に限定されないが、好ましくはバチルス属細菌由来のRTPタンパク質、より好ましくは枯草菌(Bacillus subtilis)由来のRTPタンパク質である。Tusタンパク質は、反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、1 nM(nmol/L)~200 nM(nmol/L)の範囲で含まれていてもよく、好ましくは2 nM~200 nM、2 nM~100 nM、5 nM~200 nM、5 nM~100 nM、10 nM~100 nM、20 nM~100 nM、20 nM~80 nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
ter配列について「oriCに対して外向きに挿入する」とは、ter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質の組合せの作用により、oriCより外側に向かう方向の複製に対しては複製を許容する一方、oriCに向かって入ってくる方向の複製に対しては複製を許容せず停止する方向でter配列を挿入することを意味する。したがって、ter配列について「oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対の」とは、一方がoriCの5’側に配列番号1~14に示される配列のいずれか1つを含む配列が挿入され、他方がoriCの3’側に配列番号1~14に示される配列の相補配列を含む配列が挿入された状態を意味する。
ter配列は、oriCに対してそれぞれ外向きに1対挿入されている限り、いずれの位置に存在していてもよい。例えば、1対のter配列は、oriCに対して対極となる領域に存在していてもよく、oriCの両側の近傍又は隣接した領域に存在していてもよい。oriCの両側の近傍又は隣接した領域に存在する場合は、oriCと1対のter配列を機能性カセットとして調製できるため、oriC及び1対のter配列のDNAへの導入が簡便になり、鋳型となる環状DNAの調製コストが低減されるという利点がある。
DNA上のXerCDが認識する配列及びXerCDタンパク質の組合せは、DNAマルチマーの分離を行う機構において機能する(Ip, S. C. Y., et al., EMBO J., 2003, 22: 6399-6407)。XerCDタンパク質は、XerCとXerDの複合体である。XerCDタンパク質が認識する配列としてはdif配列、cer配列、psi配列が知られている(Colloms, et al., EMBO J., 1996, 15(5):1172-1181;Arciszewska, L. K., et al., J. Mol. Biol., 2000, 299:391-403)。本実施形態の方法においては、この機構を利用することにより、副産物であるDNAマルチマーの生成を抑制することが可能である。DNA上のXerCDが認識する配列及びXerCDタンパク質の組合せについて、その生物学的由来に特に制限はない。また、XerCDにはその促進因子が知られており、例えばdifにおける機能はFtsKタンパク質によって促進される(Ip, S. C.Y., et al., EMBO J., 2003, 22:6399-6407)。一態様において、RCR法IIIにおける反応溶液中にFtsKタンパク質を含めてもよい。
XerCDが認識する配列は、5’-GGTGCG[C/T][A/G][T/C]AANNNNNNTTATG[T/G]TAAA[T/C]-3’(配列番号37)、5’-GGTGCG[C/T]A[T/C]AANNNNNNTTATG[T/G]TAAAT-3’(配列番号38)、5’-GGTGCGC[A/G][T/C]AANNNNNNTTATGTTAAA[T/C]-3’(配列番号39)、5’-GGTGCG[C/T][A/G]CAANNNNNNTTATG[T/G]TAAA[T/C]-3’(配列番号40)、5’-GGTGCGCATAANNNNNNTTATGTTAAAT-3’(配列番号41)、5’-GGTGCGTACAANNNNNNTTATGGTAAAT-3’(配列番号42)、5’-GGTGCGCGCAANNNNNNTTATGTTAAAC-3’(配列番号43)、5’-GGTGCGCATAATGTATATTATGTTAAAT-3’(配列番号44/dif配列)、5’-GGTGCGTACAAGGGATGTTATGGTAAAT-3’(配列番号45/cer配列)、若しくは5’-GGTGCGCGCAAGATCCATTATGTTAAAC-3’(配列番号46/psi配列)、又はそれらいずれかの相補配列を含む配列であってよい。配列番号15~24の1~11番目の塩基部分はXerC結合部位であり、配列番号15~24の18~28番目の塩基部分はXerD結合部位である。配列番号15~21の12~17番目の塩基部分(NNNNNNで示される6塩基部分)は、XerC又はXerDの結合領域ではないため、配列は特に限定されない。好ましくは、配列番号15~21の12~17番目の塩基(NNNNNNで示される6塩基部分)の配列は、配列番号22~24の12~17番目の塩基の配列に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%の配列同一性を有するものであってもよい。
XerCDタンパク質は、好ましくは大腸菌由来のXerCDタンパク質である。XerCDタンパク質は、反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、1 nM(nmol/L)~200 nM(nmol/L)の範囲で含まれていてもよく、好ましくは5 nM~200 nM、5 nM~150 nM、10 nM~200 nM、10 nM~150 nM、20 nM~200 nM、20 nM~150 nM、20 nM~100 nMの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。
XerCDが認識する配列は、環状DNA上のいずれの位置に存在していてもよい。例えば、XerCDが認識する配列は、oriCに対して対極となる領域に存在していてもよく、oriCの近傍又は隣接した領域に存在していてもよい。oriCの近傍又は隣接した領域に存在する場合は、oriCとXerCDが認識する配列を機能性カセットとして調製できるため、oriC及びXerCDが認識する配列のDNAへの導入が簡便になり、鋳型となる環状DNAの調製コストが低減されるという利点がある。
本明細書において、2つの塩基配列の同一性%は、視覚的検査及び数学的計算によって決定することができる。また、コンピュータープログラムを用いて同一性%を決定することもできる。そのような配列比較コンピュータープログラムとしては、例えば、米国国立医学ライブラリーのウェブサイト:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/bls.htmlから利用できるBLASTNプログラム(Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215: 403-10):バージョン2.2.7、又はWU-BLAST2.0アルゴリズム等があげられる。WU-BLAST2.0についての標準的なデフォルトパラメーターの設定は、以下のインターネットサイト:http://blast.wustl.eduに記載されているものを用いることができる。
反応溶液中に含まれる第一、第二、及び第三の酵素群については、上記「2.第一、第二及び第三の酵素群」の項目に記載した通りである。
ある態様において、RCR法IIIに用いる第一の酵素群は、DnaA活性を有する酵素、1種以上の核様体タンパク質、DNAジャイレース活性を有する酵素又は酵素群、一本鎖DNA結合タンパク質(single-strand binding protein(SSB))、DnaB型ヘリカーゼ活性を有する酵素、DNAヘリカーゼローダー活性を有する酵素、DNAプライマーゼ活性を有する酵素、DNAクランプ活性を有する酵素、及びDNAポリメラーゼIII*活性を有する酵素又は酵素群、の組み合わせを含んでいてよい。ここにおいて、1種以上の核様体タンパク質はIHF又はHUであってよく、DNAジャイレース活性を有する酵素又は酵素群は、GyrA及びGyrBからなる複合体であってよく、DnaB型ヘリカーゼ活性を有する酵素はDnaBヘリカーゼであってよく、DNAヘリカーゼローダー活性を有する酵素はDnaCヘリカーゼローダーであってよく、DNAプライマーゼ活性を有する酵素はDnaGプライマーゼであってよく、DNAクランプ活性を有する酵素はDnaNクランプであってよく、そして、DNAポリメラーゼIII*活性を有する酵素又は酵素群は、DnaX、HolA、HolB、HolC、HolD、DnaE、DnaQ、及びHolEのいずれかを含む酵素又は酵素群であってよい。
別の態様において、RCR法IIIに用いる第二の酵素群は、DNAポリメラーゼI活性を有する酵素及びDNAリガーゼ活性を有する酵素の組み合わせを含んでいてよい。あるいは、第二の酵素群は、DNAポリメラーゼI活性を有する酵素、DNAリガーゼ活性を有する酵素、及びRNaseH活性を有する酵素の組み合わせを含んでいてよい。
また別の態様において、RCR法IIIに用いる第三の酵素群は、トポイソメラーゼIII活性を有する酵素及びトポイソメラーゼIV活性を有する酵素からなる群より選ばれる1種以上の酵素を含んでいてよい。あるいは、第三の酵素群は、トポイソメラーゼIII活性を有する酵素及びRecQ型ヘリカーゼ活性を有する酵素の組み合わせを含んでいてよい。あるいはまた、第三の酵素群は、トポイソメラーゼIII活性を有する酵素、RecQ型ヘリカーゼ活性を有する酵素、及びトポイソメラーゼIV活性を有する酵素の組み合わせであってもよい。
反応溶液は、緩衝液、ATP、GTP、CTP、UTP、dNTP、マグネシウムイオン源、及びアルカリ金属イオン源を含むものであってよい。
反応溶液に含まれる緩衝液は、pH7~9、好ましくはpH8、において用いるのに適した緩衝液であれば特に制限はない。例えば、Tris-HCl、Hepes-KOH、リン酸緩衝液、MOPS-NaOH、Tricine-HClなどが挙げられる。好ましい緩衝液はTris-HClである。緩衝液の濃度は、当業者が適宜選択することができ、特に限定されないが、Tris-HClの場合、例えば反応溶液の総容積に対して、10 mM(mmol/L)~100mM(mmol/L)、10mM~50mM、20mMの濃度を選択できる。
ATPは、アデノシン三リン酸を意味する。反応開始時に反応溶液中に含まれるATPの濃度は、例えば反応溶液の総容積に対して、0.1 mM(mmol/L)~3 mM(mmol/L)の範囲であってよく、好ましくは0.1 mM~2 mM、0.1 mM~1.5 mM、0.5 mM~1.5 mMの範囲であってよく、より好ましくは1 mMであってもよい。
GTP、CTP及びUTPは、それぞれグアノシン三リン酸、シチジン三リン酸、及びウリジン三リン酸を意味する。反応開始時に反応溶液中に含まれるGTP、CTP及びUTPの濃度は、それぞれ独立して、例えば反応溶液の総容積に対して、0.1 mM(mmol/L)~3.0 mM(mmol/L)の範囲であってよく、好ましくは0.5 mM~3.0 mM、0.5 mM~2.0 mMの範囲であってよい。
dNTPは、デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)、及びデオキシチミジン三リン酸(dTTP)の総称である。反応開始時に反応溶液中に含まれるdNTPの濃度は、例えば反応溶液の総容積に対して、0.01 mM(mmol/L)~1 mM(mmol/L)の範囲であってよく、好ましくは0.05 mM~1 mM、0.1 mM~1 mMの範囲であってよく、より好ましくは0.25 mM~1 mMの範囲であってよい。
マグネシウムイオン源は、反応溶液中にマグネシウムイオン(Mg2+)を与える物質である。例えば、Mg(OAc)2、MgCl2、MgSO4、などが挙げられる。好ましいマグネシウムイオン源はMg(OAc)2である。反応開始時に反応溶液中に含まれるマグネシウムイオン源の濃度は、例えば、反応溶液中にマグネシウムイオンを反応溶液の総容積に対して、5 mM(mmol/L)~50 mM(mmol/L)の範囲で与える濃度であってよく、1 mMが好ましい。
アルカリ金属イオン源は、反応溶液中にアルカリ金属イオンを与える物質である。アルカリ金属イオンとしては、例えばナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)が挙げられる。アルカリ金属イオン源の例として、グルタミン酸カリウム、アスパラギン酸カリウム、塩化カリウム、酢酸カリウム、グルタミン酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、及び酢酸ナトリウム、が挙げられる。好ましいアルカリ金属イオン源はグルタミン酸カリウム又は酢酸カリウムである。反応開始時に反応溶液中に含まれるアルカリ金属イオン源の濃度は、反応溶液中にアルカリ金属イオンを反応溶液の総容積に対して、100 mM(mmol/L)以上、好ましくは100 mM~300 mMの範囲で与える濃度であってよく、より好ましくは50 mMで与える濃度であってよいが、これに限定されない。先行する出願との兼ね合いにおいては、上記のアルカリ金属イオン源の濃度から150 mMが除かれてもよい。
反応溶液はさらに、タンパク質の非特異吸着抑制剤又は核酸の非特異吸着抑制剤を含んでいてもよい。好ましくは、反応溶液はさらに、タンパク質の非特異吸着抑制剤及び核酸の非特異吸着抑制剤を含んでいてもよい。タンパク質の非特異吸着抑制剤及び核酸の非特異吸着抑制剤からなる群より選ばれる1種以上の非特異吸着抑制剤が反応溶液中に存在することで、タンパク質同士及びタンパク質と環状DNAからなる群より選ばれる1種以上の非特異吸着や、タンパク質及び環状DNAの容器表面への付着を抑制することができ、反応効率の向上が期待できる。
タンパク質の非特異吸着抑制剤とは、本実施形態の方法における複製又は増幅反応とは無関係なタンパク質である。そのようなタンパク質としては、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、リゾチーム、ゼラチン、ヘパリン、及びカゼインなどが挙げられる。タンパク質の非特異吸着抑制剤は反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.02 mg/mL~2.0 mg/mLの範囲、好ましくは0.1 mg/mL~2.0 mg/mL、0.2 mg/mL~2.0 mg/mL、0.5 mg/mL~2.0 mg/mLの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは0.5 mg/mLで含まれていてもよいが、これに限定されない。
核酸の非特異吸着抑制剤とは、RCR法IIIにおける複製又は増幅反応とは無関係な核酸分子又は核酸類似因子である。そのような核酸分子又は核酸類似因子としては、例えば、tRNA(トランスファーRNA)、rRNA(リボソーマルRNA)、mRNA(メッセンジャーRNA)、グリコーゲン、ヘパリン、オリゴDNA、poly(I-C)(ポリイノシン-ポリシチジン)、poly(dI-dC)(ポリデオキシイノシン-ポリデオキシシチジン)、poly(A)(ポリアデニン)、及びpoly(dA)(ポリデオキシアデニン)などが挙げられる。
核酸の非特異吸着抑制剤は反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、1 ng/μL~500 ng/μLの範囲、好ましくは10 ng/μL~500 ng/μL、10 ng/μL~200 ng/μL、10 ng/μL~100 ng/μLの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは50 ng/μLで含まれていてもよいが、これに限定されない。先行する出願との兼ね合いにおいては、核酸の非特異吸着抑制剤としてtRNAを選択する場合、tRNAの濃度から50 ng/μLが除かれてもよい。
反応溶液はさらに、直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼ又はRecG型ヘリカーゼを含んでいてもよい。好ましくは、反応溶液はさらに、直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼ及びRecG型ヘリカーゼを含んでいてもよい。直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼ及びRecG型ヘリカーゼからなる群より選ばれる1種以上が反応溶液中に存在することで、複製又は増幅反応中に二重鎖切断などによって生じる直鎖状DNAの量を低減し、目的のスーパーコイル産物の収率向上が期待できる。
直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼは、直鎖状DNAの5’末端若しくは3’末端から逐次的に加水分解する酵素である。直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼは、直鎖状DNAの5’末端若しくは3’末端から逐次的に加水分解する活性を有する物であれば、その種類や生物学的由来に特に制限はない。例えば、RecBCD、λエキソヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼIII、エキソヌクレアーゼVIII、T5エキソヌクレアーゼ、T7エキソヌクレアーゼ、及びPlasmid-SafeTM ATP-Dependent DNase (epicentre)などを用いることができる。好ましい直鎖状DNA特異的エキソヌクレアーゼはRecBCDである。直鎖状DNAエキソヌクレアーゼは反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.01 U/μL~1.0 U/μLの範囲、好ましくは0.08 U/μL~1.0 U/μL、又は0.1 U/μL~1.0 U/μLの範囲で含まれていてもよいが、これに限定されない。直鎖状DNAエキソヌクレアーゼについての酵素活性単位(U)は、37℃、30分の反応において、直鎖状DNAの1nmolのデオキシリボヌクレオチドを酸可溶性とするのに必要な酵素量を1Uとした単位である。
RecG型ヘリカーゼは、伸張反応の終結時に複製フォーク同士が衝突してできる副次的なDNA構造を解消するヘリカーゼと考えられている酵素である。RecG型ヘリカーゼは、大腸菌由来のRecGと同様の活性を有するものであれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のRecGを好適に用いることができる。大腸菌由来のRecGは単量体として反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、100 nM(nmol/L)~800 nM(nmol/L)の範囲、好ましくは100 nM~500 nM、100 nM~400 nM、100 nM~300 nMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは60 nM含まれていてもよいが、これに限定されない。RecG型ヘリカーゼは、上記大腸菌由来のRecGについて特定された濃度範囲に酵素活性単位として相当する濃度範囲で用いることができる。
反応溶液はさらに、アンモニウム塩を含んでいてもよい。アンモニウム塩の例としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、及び酢酸アンモニウムが挙げられる。特に好ましいアンモニウム塩は硫酸アンモニウムである。アンモニウム塩は反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.1 mM(mmol/L)~100 mMの範囲、好ましくは0.1 mM~50 mM、1 mM~50 mM、1 mM~20 mMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは4 mM含まれていてもよいが、これに限定されない。
第二の酵素群の一つとして、DNAリガーゼ活性を有する酵素として大腸菌由来のDNAリガーゼを用いる場合、その補因子であるNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が反応溶液中に含まれる。NADは反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.01 mM(mmol/L)~1.0 mMの範囲、好ましくは0.1 mM~1.0 mM、0.1 mM~0.5 mMの範囲で含まれていてもよく、より好ましくは0.25 mM含まれていてもよいが、これに限定されない。
RCR法IIIに用いる反応溶液はさらに、還元剤を含んでいてもよい。好ましい還元剤の例としては、DTT、β-メルカプトエタノール、グルタチオンが挙げられる。好ましい還元剤はDTTである。
RCR法IIIに用いる反応溶液はまた、ATPを再生するための酵素及び基質を含んでいてもよい。ATP再生系の酵素と基質の組み合わせとしては、クレアチンキナーゼとクレアチンホスフェート、及びピルビン酸キナーゼとホスホエノールピルビン酸が挙げられる。ATP再生系の酵素としてはミオキナーゼが挙げられる。好ましいATP再生系の酵素と基質の組み合わせはクレアチンキナーゼ及びクレアチンホスフェート、である。
上記工程(III-2)は、工程(III-1)において形成した反応混合物を反応させる工程である。工程(III-2)は、例えば、15℃~80℃、15℃~50℃、15℃~40℃、の温度範囲で反応混合物を反応させる工程であってよい。好ましくは、工程(III-2)は、等温条件下で保温する工程であってもよい。等温条件としては、DNA複製反応が進行することのできるものであれば特に制限はないが、例えばDNAポリメラーゼの至適温度である20℃~80℃の範囲に含まれる一定の温度とすることができ、25℃~50℃の範囲に含まれる一定の温度とすることができ、25℃~40℃の範囲に含まれる一定の温度とすることができ、30℃~33℃程度とすることができる。本明細書において「等温条件下で保温する」、「等温で反応させる」の用語は、反応中に上記の温度範囲に保つことを意味する。保温時間は、目的とする環状DNAの複製産物又は増幅産物の量に応じて適宜設定することができるが、例えば1~24時間とすることができ、16~21時間とすることができる。
あるいは、上記工程(III-2)として、工程(III-1)において形成した反応混合物を、30℃以上でのインキュベーション及び27℃以下でのインキュベーションを繰り返す温度サイクル下で、インキュベートする工程を含んでいてもよい。30℃以上でのインキュベーションは、oriCを含む環状DNAの複製開始が可能な温度範囲であれば特に限定はなく、例えば、30℃~80℃、30℃~50℃、30℃~40℃、37℃であってよい。30℃以上でのインキュベーションは、特に限定されないが、1サイクルあたり10秒~10分間であってもよく、1分間であってもよい。27℃以下でのインキュベーションは、複製開始が抑制され、DNAの伸張反応が進行する温度であれば特に限定はなく、例えば、10℃~27℃、16℃~25℃、24℃、であってよい。27℃以下でのインキュベーションは、特に限定されないが、増幅する環状DNAの長さに合わせて設定することが好ましく、例えば1サイクルにつき、1000塩基あたり1秒間~10秒間であってもよい。温度サイクルのサイクル数は特に限定されないが、10サイクル~50サイクル、20サイクル~45サイクル、25サイクル~45サイクル、40サイクルであってもよい。
RCR法IIIは、上記反応混合物を等温条件下で保温する工程の後に、目的に応じて、環状DNAの複製産物又は増幅産物を精製する工程を含んでもよい。環状DNAの精製は、当業者に利用可能な手法を用いて適宜実施することができる。
RCR法IIIを用いて複製又は増幅した環状DNAは、反応後の反応混合物をそのまま、あるいは適宜精製したものを、形質転換等のその後の目的に用いることができる。
<RCR法IV>
XerCDとdifの組合せと同様に、Creとその認識配列loxPの組合せを用いてもDNAマルチマーの分離を導くことができることが知られている(Ip, S. C. Y., et al., EMBO J., 2003, 22:6399-6407)。本発明者らは、RCR法IIIにおけるXerCDとdifの組合せの代わりに、DNAマルチマー分離酵素及びその認識配列の組合せを用いても、副生成物であるDNAマルチマーの生成を抑制できることを見出した。
一実施形態において、本発明の方法は、以下の工程:
(IV-1)鋳型となる環状DNAと、以下:
環状DNAの複製を触媒する第一の酵素群、
岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する第二の酵素群、及び
2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する第三の酵素群、
を含む反応溶液との反応混合物を形成する工程;及び
(IV-2)工程(IV-1)において形成した反応混合物を反応させる工程;
を含み、
ここで当該環状DNAは、DnaA活性を有する酵素と結合可能な複製開始配列(origin of chromosome(oriC))を含み、そして、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列、及び、DNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列からなる群より選ばれる1種以上の配列、をさらに含み、
ここで当該環状DNAがter配列を有する場合、前記工程(IV-1)の反応溶液はさらにter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質を含み、そして当該環状DNAがDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列を有する場合、前記工程(IV-1)の反応溶液はさらにDNAマルチマー分離酵素を含む(特許文献7参照)。
すなわち、RCR法IVは、RCR法IIIにおける「XerCD」を「DNAマルチマー分離酵素」に、「XerCDが認識する塩基配列」を「DNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列」にそれぞれ拡張した範囲の方法である。したがって、RCR法IIIの各構成について<RCR法III>の項目において記載した説明は、RCR法IVに対しても適用される。
DNAマルチマー分離酵素は、遺伝子の組換えを生じさせることにより、DNAマルチマーの分離を導くことができる酵素である。特定の塩基配列を認識して、当該塩基配列の部位で遺伝子の組換えを生じさせることができる部位特異的組換え酵素は、DNAマルチマー分離酵素として利用できる。DNAマルチマー分離酵素により認識される特定の塩基配列を、「DNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列」と記載する。DNAマルチマー分離酵素及びDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列の組合せによる遺伝子の組み換えにより、DNAマルチマーの分離を導くことができる。RCR法IVにおいては、この機構を利用することにより、副産物であるDNAマルチマーの生成を抑制することが可能である。DNAマルチマー分離酵素は、市販されているものを用いてもよいし、微生物等から抽出し、必要に応じて生成したものを用いてもよい。微生物からの酵素の抽出及び精製は、当業者に利用可能な手法を用いて適宜実施することができる。
DNAマルチマー分離酵素と当該DNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列の組合せは、XerCDとdif配列、CreとloxP配列(Siegel, R. W., et al.., FEBS Lett., 2001, 499(1-2): 147-153; Araki, K., et al., Nucleic Acids Res.: 1997, 25(4): 868-872)、出芽酵母(Saccharomyces verevisiae)由来の組換え酵素FLPとFRT配列(Broach, J. R., et al., Cell, 1982, 29(1):227-234)、バクテリオファージD6由来の組換え酵素DreOとrox配列(Anastassiadis, K., et al., Dis. Model. Mech., 2009, 2: 508-515)、チゴサッカロマイセス・ロキシー(zygosacchromyces rouxii)由来の組換え酵素RとRS配列(Araki, H., et al., J. Mol. Biol., 1985, 182(2): 191-203)、セリン組換え酵素ファミリー(例えば、Gin、γδ、Tn3、及びHin)とそれらの認識配列(Smith, M. C., et al.,Mol. Microbiol., 2002, 44: 299)、が挙げられるがこれらに限定されない。
XerCDとdif配列については、<RCR法III>の項目において上述したとおりである。
Cre及びloxP配列の組合せについて、その生物学的由来に特に制限はない。Creは、好ましくはバクテリオファージP1由来のCreタンパク質である。Creは、反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、0.01 mU/μL~200 mU/μLの範囲で含まれていてもよく、好ましくは0.1 mU/μL~150 mU/μL、0.1 mU/μL~100 mU/μL、0.5 mU/μL~100 mU/μL、0.5 mU/μL~80 mU/μL、0.1 mU/μL~50 mU/μL、1 mU/μL~50 mU/μL、1 mU/μL~30 mU/μLの範囲で含まれていてもよいがこれに限定されない。
Creが認識するloxP配列は、loxPコンセンサスである5’-ATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTAT-3’(配列番号47)、若しくは変異loxP配列(小文字部分はコンセンサスに対する変異塩基)である5’-ATAACTTCGTATAGtATACATTATACGAAGTTAT-3’(配列番号48/lox511)、5’-ATAACTTCGTATAGgATACtTTATACGAAGTTAT-3’(配列番号49/lox2272)、5’-ATAACTTCGTATAtacctttcTATACGAAGTTAT-3’(配列番号50/loxFAS)、5’-ATAACTTCGTATAGCATACATTATACGAAcggta-3’(配列番号51/lox RE)、5’-taccgTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTAT-3’(配列番号52/lox LE)、又はそれらいずれかの相補配列を含む配列であってよい。
出芽酵母(Saccharomyces verevisiae)由来の組換え酵素FLPは、反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、1 nM(nmol/L)~200 nM(nmol/L)の範囲で含まれていてもよく、好ましくは5 nM~200 nM、5 nM~150 nM、10 nM~200 nM、10 nM~150 nM、20 nM~200 nM、20 nM~150 nM、20 nM~100 nMの範囲で含まれていてもよいがこれに限定されない。FLPが認識するFRT配列は、5’-GAAGTTCCTATTCTCTAGAAAGTATAGGAACTTC-3’(配列番号53)、又はその相補配列を含む配列であってもよい。
バクテリオファージD6由来の組換え酵素DreOは、反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、1 nM(nmol/L)~200 nM(nmol/L)の範囲で含まれていてもよく、好ましくは5 nM~200 nM、5 nM~150 nM、10 nM~200 nM、10 nM~150 nM、20 nM~200 nM、20 nM~150 nM、20 nM~100 nMの範囲で含まれていてもよいがこれに限定されない。DreOが認識するrox配列は、5’-TAACTTTAAATAATGCCAATTATTTAAAGTTA-3’(配列番号54)、又はその相補配列を含む配列であってもよい。
チゴサッカロマイセス・ロキシー(Zygosacchromycesrouxii)由来の組換え酵素Rは、反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、1 nM(nmol/L)~200 nM(nmol/L)の範囲で含まれていてもよく、好ましくは5 nM~200 nM、5 nM~150 nM、10 nM~200 nM、10 nM~150 nM、20 nM~200 nM、20 nM~150 nM、20 nM~100 nMの範囲で含まれていてもよいがこれに限定されない。酵素Rが認識するRS配列は、Araki, H.ら(J. Mol. Biol., 1985, 182(2): 191-203)が開示する配列、又はその相補配列を含む配列であってもよい。
セリン組換え酵素ファミリー(γδ、Tn3、Gin、及びHin)は、反応溶液中、反応溶液の総容積に対して、1 nM(nmol/L)~200 nM(nmol/L)の範囲で含まれていてもよく、好ましくは5 nM~200 nM、5 nM~150 nM、10 nM~200 nM、10 nM~150 nM、20 nM~200 nM、20 nM~150 nM、20 nM~100 nMの範囲で含まれていてもよいがこれに限定されない。γδ、Tn3とそれらの認識配列resは、Grindley N. D. F..ら(Cell, 1982, 30: 19-27)が開示する配列、又はその相補配列を含む配列であってもよい。Ginとその認識配列は、Kahmann. R.ら(Cell, 1985, 41: 771-780)が開示する配列、又はその相補配列を含む配列であってもよい。Hinとその認識配列は、Glasgow. A. C.ら(J. Biol. Chem., 1989, 264: 10072-10082)が開示する配列、又はその相補配列を含む配列であってもよい。
DNAマルチマー分離酵素が認識する配列は、環状DNA状のいずれの位置に存在していてもよい。例えば、DNAマルチマー分離酵素が認識する配列は、oriCの近傍又は隣接した領域に存在していてもよく、oriCに対して対極となる領域に存在していてもよい。
<RCR法V>
一実施形態において、本発明の方法は、以下の工程:
(V-1)oriCトランスポゾンとトランスポゼースを緩衝液中に添加してoriCトランスポゾームを形成する、ここでoriCトランスポゾンはDnaA活性を有する酵素と結合可能な複製開始配列(origin of chromosome(oriC))を含む線状DNAであってその両末端にOutside end (OE) 配列を含む線状DNAである;
oriCトランスポゾームとoriCを含まない環状DNAを緩衝液中で反応させて転移反応を行う;
ことにより、oriCを含む環状DNAを調製する工程;
(V-2)工程(V-1)で得られたoriCを含む環状DNAと、以下:
環状DNAの複製を触媒する第一の酵素群、
岡崎フラグメント連結反応を触媒して、カテナンを形成する2つの姉妹環状DNAを合成する第二の酵素群、及び
2つの姉妹環状DNAの分離反応を触媒する第三の酵素群、
を含む反応溶液との反応混合物を形成する工程;並びに
(V-3)工程(V-2)において形成した反応混合物を反応させる工程;
を含む(特許文献7参照)。
理論により制限されるものではないが、RCR法Vはトランスポゾンを利用してoriCを含まない環状DNAにoriCを導入することによりoriCを含む環状DNAを調製し、当該oriCを含む環状DNAを複製又は増幅するものである。環状DNAの複製及び増幅についての定義は、RCR法IIIについて上述したとおりである。
反応溶液と混合するoriCを含む環状DNAについては、上記「1.環状DNA」の項目に記載した通りである。1反応あたりに用いるoriCを含む環状DNAの量は、RCR法IIIにおける鋳型DNAの量について上述したとおりである。
また、反応溶液中に含まれる酵素群、反応溶液中に含まれてもよい他の成分についての説明は、RCR法IIIと同様である。さらに、上記工程(V-3)は、RCR法IIIにおける工程(V-2)と同様に行う。環状DNAの複製産物又は増幅産物を精製する工程をさらに含むこと、及びRCR法Vを用いて複製又は増幅した環状DNAの利用についても、RCR法IIIと同様である。
oriCトランスポゾンの両端のOE配列は、トランスポゼースが認識し、OE配列として利用可能であることが当業者に知られた配列であればいかなる配列であってもよい。好ましい態様において、OE配列は、配列番号55(5’-CTGTCTCTTATACACATCT-3’)で示される配列又はその相補配列を含み、工程(1)の線状DNAの5’末端に配列番号55で示される配列を含むOE配列が挿入されており、当該線状DNAの3’末端に配列番号55で示される配列の相補配列を含むOE配列が挿入されている。
上記工程(V-1)においてoriCトランスポゾーム形成に用いるoriCトランスポゾンの濃度は、反応溶液の総容積に対して、20 nM(nmol/L)~200 nM(nmol/L)であってもよく、好ましくは40 nM~160 nMであってもよい。
トランスポゼースは、OE配列を認識してトランスポゾームを形成し、環状DNA中にトランスポゾンDNAを転移させる酵素であれば、その生物学的由来に特に制限はないが、例えば大腸菌由来のトランスポゼースを好適に用いることができる。特に好ましいのは高活性Tn5変異(E54K、L372P)タンパク質である(Goryshin, I. Y., and Reznikoff, W. S., J. Biol. Chem., 1998, 273: 7367-7374)。トランスポゼースは、市販されているものを用いてもよいし、微生物等から抽出し、必要に応じて精製したものを用いてもよい。微生物からの酵素の抽出及び精製は、当業者に利用可能な手法を用いて適宜実施することができる。トランスポゼースとして高活性Tn5変異(E54K、L372P)タンパク質を用いる場合、上記工程(V-1)においてoriCトランスポゾーム形成に用いる濃度は、反応溶液の総容積に対して、50 nM(nmol/L)~200 nM(nmol/L)であってもよく、好ましくは80 nM~150 nMであってもよい。
工程(V-1)で用いる緩衝液は、pH6~9、好ましくはpH7.5、において用いるのに適した緩衝液であれば特に制限はない。例えば、Tris-酢酸(Tris-OAc)、Tris-HCl、Hepes-KOH、リン酸緩衝液、MOPS-NaOH、Tricine-HClなどが挙げられる。好ましい緩衝液はTris-OAc又はTris-HClである。緩衝液の濃度は、当業者が適宜選択することができ、特に限定されないが、Tris-OAc又はTris-HClの場合、例えば反応溶液の総容積に対して、10 mM(mmol/L)~100 mM(mmol/L)、10 mM~50 mM、20 mMの濃度を選択できる。
工程(V-1)においてoriCトランスポゾームを形成する工程は、30℃程度の温度で30分程度保温することにより行う。
工程(V-1)の転移反応は、トランスポゼースの至適温度、例えば37℃で行う。転移反応を行う時間は、当業者が適宜選択することができ、例えば15分程度であってもよい。また、工程(V-1)の転移反応において、tRNAを添加してもよい。工程(V-1)の転移反応においてtRNAを添加する濃度は、例えば、反応溶液の総容積に対して、10 ng/μL~200 ng/μL、30 ng/μL~100 ng/μL、50 ng/μLの濃度を選択できる。
一態様において、工程(V-2)のoriCを含む環状DNAは、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列、及び、XerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列からなる群より選ばれる1種以上の配列をさらに含んでいてもよい。この場合、当該環状DNAがter配列を有する場合、前記工程(V-2)の反応溶液はさらにter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質を含み、そして当該環状DNAがXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列を有する場合、前記工程(V-2)の反応溶液はさらにXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素を含む。
あるいは別の態様において、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列、及び、XerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列からなる群より選ばれる1種以上の配列を、oriCトランスポゾンの一部に含めるよう調製し、1対のter配列及びXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列からなる群より選ばれる1種以上の配列についてもトランスポゾンを利用して環状DNAに導入してもよい。すなわち、この態様は、工程(V-1)の線状DNAがoriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列、及び、XerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列からなる群より選ばれる1種以上の配列、をさらに含み、そして当該線状DNAがter配列を有する場合、前記工程(V-2)の反応溶液はさらにter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質を含み、そして当該環状DNAがXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列を有する場合、前記工程(V-2)の反応溶液はさらにXerCDタンパク質を含むものである。
ここで、oriCに対してそれぞれ外向きに挿入された1対のter配列及びXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素が認識する塩基配列からなる群より選ばれる1種以上の配列、並びにter配列に結合して複製を阻害する活性を有するタンパク質及びXerCDやCre等のDNAマルチマー分離酵素からなる群より選ばれる1種以上についての定義及び説明は、RCR法III又はRCR法IVについて上述したとおりである。
一態様において、RCR法Vはさらに、(V-4)工程(V-3)の反応物において複製又は増幅された環状DNAからoriCトランスポゾンを除去する工程、を含んでいてもよい。
oriCトランスポゾンを除去する工程は、反応溶液の総容積に対して、0.1 nM(nmol/L)~30 nM(nmol/L)、好ましくは1 nM~20 nM、より好ましくは3 nM~10 nMのトランスポゼースによる処理、及びExoIIIのような直鎖状二重鎖DNA依存性一本鎖DNAエキソヌクレアーゼによるDNA末端の一本鎖化の処理を含んでいてもよい。トランスポゼースによる処理に用いる緩衝液は、工程(V-1)で用いる緩衝液を用いてもよい。一本鎖DNAエキソヌクレアーゼによる処理に用いられる緩衝液は、一本鎖DNAエキソヌクレアーゼが作用する条件であればいかなる組成の緩衝液を用いてもよい。
また、oriCトランスポゾンを除去する工程は、さらに、oriCトランスポゾンの配列に含まれる制限酵素部位に対応する制限酵素による処理を含んでいてもよい。この処理は、oriCトランスポゾンを特異的に切断することを目的とする。よって、この場合、oriCトランスポゾンには含まれるが、複製・増幅された環状DNA中oriCトランスポゾン領域以外の領域には含まれない制限酵素部位に対応する制限酵素を選択する。oriCトランスポゾンに含まれる領域特異的な二重鎖切断には、制限酵素の代わりにCRISPR-Cas9を用いてもよい。この場合、ガイドRNAにはoriCトランスポゾンに含まれる領域特異的な配列を指定する。
別の実施形態において、本発明の工程(2)は、ローリングサークル増幅(以下、「RCA法」(Rolling Circle Amplification)ともいう)により行うことができる。
RCA法は、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼ並びに第一及び第二のプライマーを使用して環状DNAを増幅させる方法である。RCA法は、定法により行えばよく、例えば以下の手順に従って行うことができる。まず、第一のプライマーを環状DNAにハイブリダイズさせ、そこを開始点として鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼによる伸長反応を行う。鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼは、環状DNAのポリメラーゼ反応開始点に達しても、既に合成された鎖をはがしながら合成を進める。その結果、増幅産物として、元の環状DNAの一周分のDNA配列が反復して連結された一本鎖DNAが得られる。この一本鎖DNAに、第二のプライマーをハイブリダイズさせる。1つの一本鎖DNAには、複数の第二のプライマーがハイブリダイズし得る。複数の第二のプライマーから鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼによる伸長反応を行うと、上流にハイブリダイズした第二のプライマーから合成されたDNAが下流にハイブリダイズした第二のプライマーから合成されたDNAをはがしながら相補鎖の合成が進む。一本鎖となった第二のプライマーから合成されたDNAには、第一のプライマーがハイブリダイズし、新たな複製反応が起こる。こうして、元の環状DNAの配列が指数関数的に増幅され、元の環状DNAの配列が反復して連結されたDNA多量体が得られる。これを適当なDNA切断酵素により切断し、DNAリガーゼにより環状化させることにより、単量体の元の環状DNAの複製産物が得られる。単量体の元の環状DNA複製産物は、DNA多量体をCre-loxPなどの部位特異的組換えシステムを利用して環状化させることによっても得られる。
「第一のプライマー」は、対象とする環状DNAに結合するプライマーであり、「第二のプライマー」は、第一のプライマーが結合する環状DNAとは相補的な配列に結合するプライマーである。第一及び第二のプライマーとして、ランダムプライマーを用いてもよい。プライマーの長さは、通常、6塩基~9塩基程度であればよい。
鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼとしては、公知の酵素を使用することができ、例えばPhi29バクテリオファージDNAポリメラーゼ、Bst DNAポリメラーゼ、Csa DNAポリメラーゼ、96-7 DNAポリメラーゼなどが挙げられる。市販の酵素を用いてもよい。反応条件は、使用するDNAポリメラーゼに応じて適宜設定すればよい。
II.無細胞系でDNAを編集するためのキット
本発明は、無細胞系において、DNAの標的部位に欠失、置換、又は付加を導入するために必要な成分、及び欠失、置換、又は付加が導入されたDNAを無細胞系において増幅させるために必要な成分を含む、キットを提供する。
DNAの標的部位に欠失、置換、又は付加を導入するために必要な成分は、本発明の方法を実施するために使用される技術によって異なり得るが、例えば、所望の変異(例えば、置換、欠失、又は付加)を含む一本鎖DNA(例えば化学合成されたオリゴヌクレオチド)、DNAポリメラーゼなどが挙げられる。またRA法を使用する場合には、本発明のキットに含まれる成分としては、例えば、RecAファミリー組換え酵素蛋白質、エキソヌクレアーゼ、ヌクレオシド三リン酸又はデオキシヌクレオチド三リン酸の再生酵素及びその基質、ヌクレオシド三リン酸、デオキシヌクレオチド三リン酸、マグネシウムイオン源、アルカリ金属イオン源、ジメチルスルホキシド、塩化テトラメチルアンモニウム、ポリエチレングリコール、ジチオスレイトール、並びに緩衝液が挙げられる。
欠失、置換、又は付加が導入されたDNAを無細胞系において増幅させるために必要な成分は、本発明の方法を実施するために使用される技術によって異なり得る。例えば、RCR法を使用する場合には、本発明のキットに含まれる成分としては、例えば、複製開始タンパク質、1種以上の核様体タンパク質、DNAジャイレース活性を有する酵素又は酵素群、一本鎖DNA結合タンパク質(single-strand binding protein(SSB))、DNAヘリカーゼ活性を有する酵素(例えばDnaB型ヘリカーゼ活性を有する酵素)、DNAヘリカーゼローダー活性を有する酵素、DNAプライマーゼ活性を有する酵素、DNAクランプ活性を有する酵素、及びDNAポリメラーゼIII*活性を有する酵素又は酵素群、からなる群より選択される酵素又は酵素群の1つ以上が挙げられる。
本発明のキットは、本発明の方法を実施するために使用される技術に応じて、反応バッファー又はその濃縮物などの追加の構成品を含んでもよい。追加の構成品としては、例えば、上記RCR法I~Vを実施する上で必要な成分が挙げられる。
本発明のキットは、欠失、置換、又は付加が導入されていないDNAを特異的に切断するための人工DNA切断酵素をさらに含んでもよい。
本発明のキットはまた、当該キットを用いて本発明の方法を実施するためプロトコールが記載された書面を含んでもよい。当該プロトコールは、キットを収容した容器の表面に記載されていてもよい。
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例に記載の範囲に限定されるものではない。
[実施例1]CRISPR-Cas9の配列特異性の確認
9.5 kbのプラスミド(pOri8)又は205 kbのプラスミド(pMSR227)を用いて、CRISPR-Cas9による切断の配列特異性を確認した。pOri8(図2A)及びpMSR227(図3A)は、Su’etsugu et al, Nucleic Acids Res. 2017 Nov 16;45(20):11525-11534に記載されているプラスミドである。
10 ng/μLのpOri8又はpMSR227、100 nM gRNA_Km(IDT社Alt-R(登録商標) CRISPR-Cas9 Systemに従って調製したガイドRNA;認識配列:UGGUUAAUUGGUUGUAACAC(配列番号1)) 、20 nM Cas9(Alt-R(登録商標) S.p. HiFi Cas9 Nuclease 3NLS、IDT社)、0.8 U/μL RNase inhibitor murine(M0314、New England Biolabs社)、及びR8バッファー(混合物の合計が10μLとなるように添加)(組成は表2)を混合し、30℃で30分間インキュベートした。制限酵素SacI(pOri8の場合)又はXhoI(pMSR227の場合)を10 U加え、37℃で1時間インキュベートした。なお、反応液中の各成分の濃度は、反応溶液の総容積に対する濃度である。0.5%アガロースゲル電気泳動を行い、SYBR green I染色によりDNA断片を検出した。
図2Bに示すとおり、カナマイシン耐性遺伝子下流に認識配列を持つgRNA_Km依存的にpOri8のスーパーコイルDNAが切断され、直鎖化された。SacI処理の結果、予想通り、9.5 kbの断片の切断により5.6 kb及び3.8 kbの断片が生じた。
また図3Bに示すとおり、Cas9及びgRNA_Km依存的にpMSR227のスーパーコイルDNAが切断され、直鎖化された。XhoI処理の結果、7.6 kb断片が予想通り消失していた。XhoIによる7.6 kb断片の切断で生じる6.8 kb断片は、別のXhoI断片と重なっていたものの、バンドが太くなっていることが確認された。
[実施例2]CRISPR-RCR
RA反応後のDNAの増幅反応において、CRISPR-Cas9の存在下でRCRを行うことにより、改変されていない鋳型DNAの増幅を阻害し、目的とする連結産物を特異的に増幅させることができるか確認した(図4)。
まず鋳型DNA(pOri8又はpMSR227)を、以下の反応によりCas9で切断し、直鎖化した。10 ng/μL pOri8 (9.5 kb)又はpMSR227 (205 kb)、100 nM gRNA_Km、20 nM Cas9、0.8 U/μL RNase inhibitor murine、及びR8バッファー(混合物の合計が5μLとなるように添加)を混合し、30℃で30分間インキュベートした。なお、反応液中の各成分の濃度は、反応液の総容積に対する濃度である。
次に、以下のRA反応により、Cas9切断断片とlacZ断片(下記方法により調製)とを連結させた。Cas9切断断片5 ngを含む上記Cas9切断反応液(0.5 μL)、lacZ断片(pOri8の場合は1.7 ng、pMSR227の場合は0.09 ng)、50 ng/μL tRNA(R8759、Sigma-Aldrich社)、RA反応液(下記組成;混合物の合計が5 μLとなるように添加)を混合し、42℃で1時間、次いで65℃で2分間インキュベートしたのち、氷上に静置した。なお、反応液中の各成分の濃度は、反応液の総容積に対する濃度である。
lacZ断片の調製:pPKOZ(Su’etsugu et al, Nucleic Acids Res. 2017 Nov 16;45(20):11525-11534)を鋳型として、プライマーSUE1510及びSUE1511を用いてPCRを行い、lacZプレ断片を調製した。lacZプレ断片を鋳型として、プライマーSUE1638及びSUE1639を用いてPCRを行い、カナマイシン耐性遺伝子下流のCRISPR-Cas9切断末端の60塩基対(pOri8及びpMSR227で共通の配列)と相同的な末端を持つlacZ断片を調製した。
RA反応液の組成:1 μMの野生型RecA(RecAの大腸菌発現株から、ポリエチレンイミン沈殿、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。)、80 mU/μLのエキソヌクレアーゼIII (2170A、TAKARA Bio社)、1 U/μLのエキソヌクレアーゼI (M0293、New England Biolabs社)、20 mMのTris-HCl (pH 8.0)、4 mMのDTT、1 mMの酢酸マグネシウム、50 mMのグルタミン酸カリウム、100 μMのATP、150 mMの塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)、5質量%のPEG8000、10容量%のDMSO、20 ng/μLのクレアチンキナーゼ(10127566001、Sigma-Aldrich社)、4 mMのクレアチンリン酸。なお、RA反応液中の各成分の濃度は、RA反応液の総容積に対する濃度である。
RA反応産物について、以下のようにRCR増幅反応を行った。RCR反応液 ver.2(下記組成、なお、RCR反応液 ver.2中の各成分の濃度は、RCR反応液 ver.2の総容積に対する濃度である。;混合物の合計が4.5 μLとなるように添加)、100 nM gRNA_Km、及び1 nM Cas9を混合し、30℃で30分間プレインキューベートした。なお、反応液中のgRNA_Km及びCas9の濃度は、反応液の総容積に対する濃度である。CRISPR-Cas9の非存在下で反応を行う場合には、100 nM gRNA_Km及び1 nM Cas9を添加せず、その分RCR反応液 ver.2を加えた。次いで、RA反応産物0.5 μLを加え、37℃で1分間インキュベート及び24℃で30分間インキュベー トのサイクルを40回行い、R8バッファーで5倍希釈して30℃で30分間さらにインキュベートした。RCR産物1 μL分を0.5%アガロースゲル電気泳動に供し、SYBR Green I染色により検出した。
表中、SSBは大腸菌由来SSB、IHFは大腸菌由来IhfA及びIhfBの複合体、DnaGは大腸菌由来DnaG、Clampは(大腸菌由来DnaN)、PolIII*は大腸菌由来DnaX、HolA、HolB、HolC、HolD、DnaE、DnaQ、及びHolEのからなる複合体であるDNAポリメラーゼIII*複合体、Dna Bは大腸菌由来DnaB、DnaCは大腸菌由来DnaC、DnaAは大腸菌由来DnaA、RNaseHは大腸菌由来RNaseH、Ligaseは大腸菌由来DNAリガーゼ、PolIは大腸菌由来DNAポリメラーゼI、GyrAは大腸菌由来GyrA、GyrBは大腸菌由来GyrB、Topo IVは大腸菌由来ParC及びParEの複合体、Topo IIIは大腸菌由来トポイソメラーゼIII、RecQは大腸菌由来RecQ、RecGは(大腸菌由来RecG)、RecJは(大腸菌由来RecJ)、ExoIは(大腸菌由来ExoI)、ExoIIIは(大腸菌由来ExoIII)を表す。
SSBは、SSBの大腸菌発現株から、硫安沈殿及びイオン交換カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
IHFは、IhfA及びIhfBの大腸菌共発現株から、硫安沈殿及びアフィニティーカラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
DnaGは、DnaGの大腸菌発現株から、硫安沈殿、陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
Clampは、DnaN(Clamp)の大腸菌発現株から、硫安沈殿、陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
PolIII*は、DnaX、HolA、HolB、HolC、HolD、DnaE、DnaQ及びHolEの大腸菌共発現株から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
DnaB, DnaCは、DnaB及びDnaCの大腸菌共発現株から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
DnaAは、DnaAの大腸菌発現株から、硫安沈殿、透析沈殿、及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
GyrA, GyrBは、GyrAの大腸菌発現株とGyrBの大腸菌発現株の混合物から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
Topo IVは、ParCの大腸菌発現株とParEの大腸菌発現株の混合物から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
Topo IIIは、Topo IIIの大腸菌発現株から、硫安沈殿及びアフィニティーカラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
RecQは、RecQの大腸菌発現株から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィー、及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
RecGはRecGの大腸菌発現株から、硫安沈殿、アフィニティーカラムクロマトグラフィーを含む工程で精製し、調製した。
RecJは、市販の酵素を用いた(M0264、New England Biolabs社)。
ExoIは、市販の酵素を用いた(前記RA反応液の組成参照)。
ExoIIIは、市販の酵素を用いた(前記RA反応液の組成参照)。
RNaseH、Ligase、PolIは市販の大腸菌由来の酵素を用いた(タカラバイオ株式会社)。
また、RCR産物を大腸菌に形質転換し、コロニーの青白判定を行うことにより、RCR産物中のlacZ挿入産物の割合を調べた。pOri8については、RCR産物1 μLをTEバッファーで10倍希釈し、そのうち1 μLを用いて、ケミカル法により大腸菌DH5α株を形質転換した。pMSR227については、RCR産物1 μLをTEバッファーで10倍希釈し、そのうち2 μLを用いて、エレクトロポレーション法により大腸菌HST08株を形質転換した。形質転換後の大腸菌を、LBプレートの総容積に対して、50 μg/mL カナマイシン、0.1 mM(mmol/L) IPTG、40 μg/mL X-galを含むLBプレート上に播き、37℃で一晩培養した。全コロニー数に対する青コロニーの数の割合を計数した。
結果を図5に示す。pOri8の場合、目的のlacZ挿入産物である13kb スーパーコイルDNAがRA依存的にRCR増幅された。改変前の9.5kb スーパーコイルDNAの増幅は、gRNAとCas9の存在下で抑えられた。形質転換コロニーの青白判定の結果でも、gRNA+Cas9の非存在下で は6%未満であった青コロニーの割合(図中、「Blue colony」)が、gRNA+Cas9の存在下では95%にまで上昇した。なお、図中、「Input」は、RCR増幅を行なっていないサンプルを示す。
またpMSR227の場合、gRNA+Cas9の存在下でのRCRにより、目的のlacZ挿入産物であると考えられる208 kb スーパーコイルDNAが増幅された。また形質転換コロニーの青白判定の結果、gRNA+Cas9の非存在下では0%であった青コロニーの割合が、13コロニー中12コロニーにまで上昇し、目的のlacZ挿入産物が高い効率で得られたことが確認された。
さらに、pMSR227(205kb)へのlacZ(3.3kb)を挿入改変を行なったサンプルから得られた青コロニーから、プラスミドを抽出し、制限酵素XhoI切断による構造確認を行なった(図6A)。予想通り、改変前に見られた7.6kbの断片が消失し、11kb付近のバンドが濃くなっており、lacZ挿入産物であることが確認された(図6B)。
[実施例3]長鎖DNAの無細胞合成
RCR増幅法及びRA連結法を用いて、2つの長鎖環状DNAを連結し、より長い環状DNAの増幅を行った(図7)。
まず、pOri80 (85 kb)とpOri93Cm (94 kb)を、以下の方法により、それぞれCRISPR-Cas9によって特定部位で切断し、直鎖化した。10 ng/μL pOri80 (85 kb)又はpOri93Cm (94 kb)、100 nM gRNA_Km (pOri80の場合) 又はgRNA_007 (pOri93Cmの場合;IDT社Alt-R(登録商標) CRISPR-Cas9 Systemに従って調製したガイドRNA;認識配列:CCUUUAGUUACAACAUACUC(配列番号2))、20 nM Cas9、0.8 U/μL RNase inhibitor murine、及びR8バッファー(混合物の合計が5μLとなるように添加)を混合し、30℃で30分間インキュベートした。なお、反応液中の各成分の濃度は、反応液の総容積に対する濃度である。
ここで、pOri93Cmは、以下の方法により調製した。大腸菌株(DGF-298WΔ100::revΔ234::SC)のゲノムDNAのXbaI消化物のうち、93 kbのゲノム断片を、oriC及びクロラムフェニコール耐性遺伝子を含む連結用断片(Cm-oriC断片、1.3 kb;配列番号11)とRAにより連結させて環状とした。Cm-oriC断片の両末端の60塩基対の配列は、それぞれ93 kbのゲノム断片の両末端と相同配列である。環状DNAをRCR増幅後、大腸菌形質転換し、得られた大腸菌コロニーから精製したスーパーコイルプラスミドをpOri93Cmとした。
得られた2つの長鎖DNA断片を、lacZアダプター(3.4 kb) 及びAmアダプター(1.1 kb)を用いて、以下のようにRA反応行い、連結した。pOri80 Cas9切断断片 5 ng (0.5 μL)、pOri93Cm Cas9切断断片 5 ng (0.5 μL)、lacZアダプター (3.4kb, 27 pg)、Amアダプター (1.1kb, 86 ng)、50 ng/μL tRNA、RA反応液(実施例2参照;混合物の合計が5 μLとなるように添加)を混合し、42℃で3時間、次いで65℃で2分間インキュベートしたのち、氷上に静置した。なお、反応液中の各成分の濃度は、反応液の総容積に対する濃度である。
ここで、各アダプターの両末端の60塩基対の配列は、2つの長鎖DNA断片の両末端と相同配列であり、RAにより4つの断片が連結環状化され、全長183 kbのDNAが形成される(図7)。
lacZアダプターは、pPKOZを鋳型にプライマーSUE175及びSUE1823を用いてPCRを行い調製した。
Amアダプターは、pUC4Kプラスミド(GE Healthcare)を鋳型にプライマーSUE1753とSUE1822を用いてPCRを行い調製した。
連結環状化ののち、以下のようにRCR増幅反応を行った。RCR反応液 ver.2(混合物の合計が4.5μLとなるように添加)、100 nM gRNA_Km、100 nM gRNA_007、及び2 nM Cas9を混合し、30℃で30分間プレインキューベートした。なお、反応液中のgRNA_Km、gRNA_007、及びCas9の濃度は、反応液の総容積に対する濃度である。CRISPR-Cas9の非存在下で反応を行う場合には、100 nM gRNA_Km、100 nM gRNA_007、及び2 nM Cas9を添加せず、その分RCR反応液 ver.2を加えた。次いで、RA反応産物 0.5 μLを加え、37℃で1分間インキュベート及び24℃で30分間インキュベートのサイクルを40回行い、R8バッファーで5倍希釈して30℃で30分間さらにインキュベートした。RCR産物1 μL分を0.5%アガロースゲル電気泳動に供し、SYBR Green I染色により検出した。
また、RCR産物を大腸菌に形質転換し、コロニーの青白判定を行うことにより、RCR産物中の目的連結産物の割合を調べた。RCR産物1 μLをTEバッファーで10倍希釈し、そのうち2 μLを用いて、エレクトロポレーション法により大腸菌HST08株を形質転換した。形質転換後の大腸菌を、LBプレートの総容積に対して、12.5 μg/mLクロラムフェニコール、0.1 mM IPTG、40 μg/mL X-galを含むLBプレート上に播き、37℃で一晩培養した。全コロニー数に対する青コロニーの数の割合を計数した(Blue colony)。
結果を図8に示す。gRNA及びCas9の非存在下でRCRを行った場合、改変前の94 kb及び85 kbのスーパーコイルDNAが主に増幅した。それに対し、gRNA及びCas9の存在下でRCRを行った場合、94 kb及び85 kbのDNA増幅は抑制され、コントロールとしてRCR増幅した205 kbスーパーコイルDNA(pMSR227)に近いサイズのDNA増幅が見られた。なお、図中、「Input」は、RCR増幅前のサンプルを示す。
この増幅産物を用いて大腸菌を形質転換し、クロラムフェニコール耐性コロニーのうちlacZ遺伝子を有するコロニーを青白判定により検出した結果、21コロニー全てが目的の青コロニーであった(図中、「Blue colony on Cm plate」)。
得られた青コロニーを8個選び、そこからプラスミドを抽出し、アガロースゲル電気泳動によりサイズを確認したところ、その全てが予想された205kbスーパーコイルDNAに近いサイズであった(図9)。
さらに、得られたプラスミドの1つ(pOri183と命名した)を、制限酵素SacIで切断し、パルスフィールドゲル電気泳動を行うことにより、その構造を確認した(図10)。塩基配列から予想された切断パターン(バンドの右に示したサイズ)とほぼ一致する結果が得られた。なお、サイズマーカーとして、Ladder markerだけでなく、構造が既知のpMSR227のスーパーコイル(SC)産物及びそのXhoI切断産物も、同時に泳動を行なった。
[実施例4]RCRと共役した塩基置換導入法の構築
まず、オリゴDNAを用いた塩基置換導入法をRCRに適用し得るかを調べた。
実験系を図11B及び12に示す。lacZ変異pPKOZ(pPKOZins及びpPKOZmis;図11A)は、pPKOZ(8.8 kb)を鋳型として、QuikChange PCR法により調製した。
pPKOZinsの調製には、SUE818及びSUE819をプライマーとして用いた。pPKOZinsは、lacZのコード領域に一塩基の挿入を有するプラスミドである(図12)。フレームシフト変異により野生型lacZが発現しないため、pPKOZinsで形質転換された大腸菌のコロニーは、青白判定において青色を呈しない(図11B)。
pPKOZmisの調製には、SUE1415及びSUE1416をプライマーとして用いた。pPKOZmisは、lacZのコード領域に一塩基の置換を有するプラスミドである(図12)。ナンセンス変異により野生型lacZが発現しないため、pPKOZmisで形質転換された大腸菌のコロニーは、青白判定において青色を呈しない(図11B)。
これらの変異型lacZを野生型に戻すためのオリゴDNAとして、SUE1354~SUE1357を用いた。
lacZフレームシフト変異を持つpPKOZinsを鋳型として、以下のように、20~60merの改変用オリゴDNAの存在下でRCR反応を行なった。RCR反応液 ver.1(下記組成、なお、RCR反応液 ver.1中の各成分の濃度は、RCR反応液 ver.1の総容積に対する濃度である。;混合物の合計が5 μLとなるように添加)、1又は3 μM改変用オリゴDNA(20~60 mer)、及び75 pg/μL pPKOZinsを混合し、30℃で18時間インキュベートした。なお、反応液中の各成分の濃度は、反応液の総容積に対する濃度である。RCR産物1 μL分を0.5%アガロースゲル電気泳動に供し、SYBR Green I染色により検出した。
RCR 反応液 ver.1の各成分は、RCR 反応液 ver.2のものと同じである。
また、RCR産物を大腸菌に形質転換し、コロニーの青白判定を行うことにより、RCR産物中のlacZ変異が野生型に改変されたものの割合を調べた。RCR産物0.25μLを用いて、ケミカル法により大腸菌DH5α株を形質転換した。形質転換後の大腸菌を、25 μg/mLカナマイシン、0.1 mM IPTG、40 μg/mL X-galを含むLBプレート上に播き、37℃で一晩培養した。全コロニー数に対する青コロニーの数を計数した。
結果を図13A及び図13Bに示す。40mer又は60merの改変用オリゴDNAを3 μM加えた場合を除き、十分な増幅が見られた(図13A)。図中、「Input」は、鋳型DNAを3.8 ng流した。
また大腸菌形質転換コロニーの青白判定を行なったところ、60merの改変用オリゴを1 μM加えたサンプルにおいて最も高い5.5%の効率で、lacZ変異が野生型に改変されたことが確認された(図13B)。
[実施例5]オリゴDNA 60merで濃度検討(ins/mis)
改変効率を改善するため、オリゴDNAの使用濃度の検討を行った。
以下の方法により、pPKOZins又はpPKOZmisを鋳型として、異なる濃度の60merの改変用オリゴDNAの存在下で、RCR反応を行なった。RCR反応液 ver.1(混合物の合計が5μLとなるように添加)、0~3 μM 60 mer 改変用オリゴDNA(SUE1357)、75 pg/μL pPKOZins又は14 pg/μL pPKOZmisを混合し、30℃で19時間インキュベートした。RCR産物1μL分を0.5%アガロースゲル電気泳動に供し、SYBR Green I染色により検出した。
また、RCR産物を大腸菌に形質転換し、コロニーの青白判定を行うことにより、RCR産物中のlacZ変異が野生型に改変されたものの割合を調べた。RCR産物0.25μLを用いて、ケミカル法により大腸菌DH5α株を形質転換した。形質転換後の大腸菌を、LBプレートの総容積に対して、25 μg/mLカナマイシン、0.1 mM IPTG、40 μg/mL X-galを含むLBプレート上に播き、37℃で一晩培養した。全コロニー数に対する青コロニーの数を計数した。
結果を図14A及び図14Bに示す。図14A中、「Input」は、pPKOZinsを3.8 ng、pPKOZmisを0.72 ng流した。大腸菌形質転換コロニーの青白判定の結果、pPKOZins又はpPKOZmisのどちらについても、0.3 μMの改変用オリゴDNAを加えたサンプルにおいて最も高い20%以上の効率で、lacZ変異が野生型に改変されたことが確認された(図14B)。
[実施例6]CRISPR-Cas9を用いたROGEの効率化
実施例5と同様の実験系において、CRISPR-Cas9の存在下でRCRを行うことにより、lacZ変異が野生型に改変される効率を高められるか検討した。
以下のように、pPKOZinsを鋳型として、0.3 μMの60 merの改変用オリゴDNAの存在下で、RCR反応を行なった。RCR反応液 ver.1(混合物の合計が5 μLとなるように添加)、0.3 μM 60 mer 改変用オリゴDNA(SUE1357)、0~20 nM Cas9、100 nM gRNA_Zins(IDT社Alt-R(登録商標) CRISPR-Cas9 Systemに従って調製したガイドRNA;認識配列:ACCAUGAUUACGGAUUCACU(配列番号20)、7.5 fg/μL pPKOZinsを混合し、30℃で21時間インキュベートした。なお、反応液中の各成分の濃度は、反応液の総容積に対する濃度である。R8バッファーで5倍希釈して30℃で30分間さらにインキュベートした。RCR産物2.5 μL分を0.5%アガロースゲル電気泳動に供し、SYBR Green I染色により検出した。
ここで、gRNA_Zinsは、改変前のlacZins配列を特異的に認識するガイドRNAである。
また、RCR産物を大腸菌に形質転換し、コロニーの青白判定を行うことにより、RCR産物中のlacZ変異が野生型に改変されたものの割合を調べた。RCR産物0.25μLを用いて、ケミカル法により大腸菌DH5α株を形質転換した。形質転換後の大腸菌を、LBプレートの総容積に対して、25 μg/mLカナマイシン、0.1 mM IPTG、40 μg/mL X-galを含むLBプレート上に播き、37℃で一晩培養した。全コロニー数に対する青コロニーの数を計数した。
結果を図15A及び図15Bに示す。改変用オリゴDNAの非存在下では、Cas9及びgRNA_Zinsの両方の添加によって、RCRによるスーパーコイルDNAの増幅が顕著に抑制された(図15A)。それに対し、改変用オリゴDNAの存在下では、CRISPR-Cas9を添加しても、増幅されるスーパーコイルDNA産物が検出された(図15A)。また形質転換コロニーの青白判定の結果、Cas9及びgRNA_Zinsの添加によって、改変用オリゴDNAの存在下では、ほぼ全ての増幅産物がlacZ野生型に改変されたことが確認された(図15B)。
[実施例7]長鎖DNA ROGE
実施例5と同様の実験系において、オリゴDNAを用いた塩基置換導入法を長鎖DNAのRCRに適用し得るか検討した。
以下のように、lacZins変異を持つ101 kbのoriC含有環状DNA(pOri93Zins)(図16A)を鋳型として、RCR反応を行った。RCR反応液 ver.1(混合物の合計が5μLとなるように添加)、0~3 μM 60 mer 改変用オリゴDNA(SUE1357)、3 ng/μL lambda DNA、0.67 pM pOri93Zinsを混合し、33℃で18時間インキュベートしたのち、R8バッファーで5倍希釈して30℃で30分間さらにインキュベートした。なお、反応液中の各成分の濃度は、反応液の総容積に対する濃度である。RCR産物2.5 μL分を0.5%アガロースゲル電気泳動に供し、SYBR Green I染色により検出した。
ここで、pOri93Zinsは、以下の方法により調製した。大腸菌株(DGF-298WΔ100::revΔ234::SC)のゲノムDNAのXbaI消化物のうち、93 kbのゲノム断片を、oriC、カナマイシン耐性遺伝子及びlacZins変異遺伝子を含む連結用断片(KOZins断片)とRAにより連結させて環状化した。KOZins断片(8.6 kb)は、pKOZinsを鋳型としてプライマーSUE1745とSUE1746を用いたPCRによって調製した。KOZins断片の両末端の配列は、それぞれ93 kbのゲノム断片の両末端と相同配列である。RA後の環状DNAをRCRにより増幅させた後、大腸菌に形質転換し、得られた大腸菌コロニーから精製したスーパーコイルプラスミドをpOri93Zinsとした。
また、RCR産物を大腸菌に形質転換し、コロニーの青白判定を行うことにより、RCR産物中のlacZ変異が野生型に改変されたものの割合を調べた。RCR産物0.2 μL分を用いて、エレクトロポレーション法により大腸菌HST08株を形質転換した。形質転換後の大腸菌を、LBプレートの総容積に対して、25 μg/mLカナマイシン、0.1 mM IPTG、40 μg/mL X-galを含むLBプレート上に播き、37℃で一晩培養した。全コロニー数に対する青コロニーの数を計数した。
結果を図16B及び図16Cに示す。改変用オリゴDNAの濃度が1 μM以上の場合、増幅反応の阻害が認められた(図16B)。なお、図16B中、「Input」は、鋳型DNA 0.02 ngを流した。
また形質転換コロニーの青白判定の結果、0.3 μMの改変用オリゴDNAの存在下で、増幅産物の5.4%においてlacZins変異がlacZ野生型に改変されたことが示された(図16C)。
[実施例8]CRISPR-Cas9を用いた長鎖DNA ROGEの効率化
実施例6と同様の実験系において、CRISPR-Cas9による改変効率の上昇が長鎖DNAのRCRに適用し得るか検討した。
不要な直鎖状DNAを除く処理をしたpOri93Zins環状DNAを鋳型として、以下のように、0.3 μMの60merの改変用オリゴDNAの存在下で、RCR反応を行なった。
RCR反応液 ver.1(混合物の合計が5μLとなるように添加)、0.3 μM 60 mer 改変用オリゴDNA(SUE1357)、3 ng/μL lambda DNA、10 nM Cas9、100 nM gRNA_Zins(IDT社Alt-R(登録商標) CRISPR-Cas9 Systemに従って調製したガイドRNA;認識配列:ACCAUGAUUACGGAUUCACU(配列番号20)、1 pM pOri93Zinsを混合した。なお、反応液中の各成分の濃度は、反応液の総容積に対する濃度である。次いで、37℃ 1分間→24℃ 30分間の温度サイクルで40サイクルインキュベートした後、R8バッファーで5倍希釈して30℃で30分間さらにインキュベートした。RCR産物2.5 μL分を0.5%アガロースゲル電気泳動に供し、SYBR Green I染色により検出した。
また、RCR産物を大腸菌に形質転換し、コロニーの青白判定を行うことにより、RCR産物中のlacZ変異が野生型に改変されたものの割合を調べた。RCR産物0.2 μL分を用いて、エレクトロポレーション法により大腸菌HST08株を形質転換した。形質転換後の大腸菌を、25 μg/mLカナマイシン、LBプレートの総容積に対して、0.1 mM IPTG、40 μg/mL X-galを含むLBプレート上に播き、37℃で一晩培養した。全コロニー数に対する青コロニーの数を計数した。
結果を図17A及び図17Bに示す。改変用オリゴDNAの非存在下では、Cas9及びgRNA_Zinsの両方の添加によって、RCRによるスーパーコイルDNAの増幅が顕著に抑制された(図17A)。それに対し、改変用オリゴDNAの存在下では、CRISPR-Cas9を添加しても、増幅されるスーパーコイルDNA産物が検出された(図17A)。
また形質転換コロニーの青白判定の結果、Cas9及びgRNA_Zinsの添加によって、改変用オリゴDNAの存在下では、ほぼ全ての増幅産物がlacZ野生型に改変されたことが確認された(図17B)。
[実施例9]複数塩基置換及び挿入
実施例5と同様の実験系において、改変用オリゴDNAを用いて、複数の塩基を置換又は挿入が可能か検討した。
複数塩基置換では、pPKOZinsを鋳型とし、3塩基置換により同義コドンとなる改変用オリゴDNAを用いた。pPKOZinsはlacZのコード領域への一塩基の挿入によりフレームシフト変異を持ち、大腸菌コロニーは白色を呈す。改変用オリゴの3塩基置換部位近傍には、この1塩基挿入を野生型の配列に戻す配列を含んでいる。改変によって野生型(青色大腸菌コロニー)となったプラスミドは、同時に3塩基置換が導入されていると予想される(図18A)。
一方で、複数塩基挿入では、pPKOZを鋳型とし、4塩基挿入によりEcoRI認識配列が生じる改変用オリゴを用いた(図18B)。4塩基挿入によりフレームシフト変異が導かれ、lacZ遺伝子が合成されないため、大腸菌のコロニーは、白色を呈すと予想される。なお、pPKOZはすでに1箇所のEcoRIサイトを持つため(図18F)、4塩基挿入によりプラスミドはEcoRIサイトを2箇所持つようになる(図18G)。
pPKOZins又はpPKOZを鋳型として、以下のように異なる濃度の改変用オリゴDNAの存在下でRCR反応を行なった。RCR反応液 ver.1(混合物の合計が5 μLとなるように添加)、0 μM~0.6 μM 60 mer改変用オリゴDNA(SUE4386又はSUE4387)、50 pg/μL pPKOZins又はpPKOZを混合した。なお、反応液中の各成分の濃度は、反応液の総容積に対する濃度である。次いで、反応液を33℃で18時間インキュベートした後、R8バッファーで5倍希釈して30℃で30分間さらにインキュベートした。RCR産物2.5 μL分を0.5%アガロースゲル電気泳動に供し、SYBR Green I染色により検出した。
また、RCR産物を大腸菌に形質転換し、コロニーの青白判定を行うことにより、pPKOZinsを用いた場合には青コロニーの割合、pPKOZを用いた場合には白コロニーの割合を調べた。RCR産物0.25 μLを用いて、ケミカル法により大腸菌DH5α株を形質転換した。形質転換後の大腸菌を、LBプレートの総容積に対して、25 μg/mLカナマイシン、0.1 mM IPTG、40 μg/mL X-galを含むLBプレート上に播き、37℃で一晩培養した。全コロニー数に対する青コロニー又は白コロニーの数を計数した。
結果を図18C、図18D及び図18Eに示す。大腸菌形質転換コロニーの青白判定の結果、pPKOZins又はpPKOZのどちらについても、0.3 μMの改変用オリゴDNAを加えたサンプルにおいて、最も高い効率(それぞれ7.3 %、3.6 %)で、lacZが改変されたことが確認された(図18D及び図18E)。
実際に目的の配列に改変されているか確認するために、pPKOZinsを鋳型とした改変実験における青コロニーから得られたプラスミド4つを、シークエンス解析を行ったところ、全てに目的の3塩基置換が導入されていた。
また、pPKOZを鋳型とした4塩基挿入実験における白コロニーから得られたプラスミド7つに対して以下のような制限酵素処理により4塩基挿入を確認した。10×H buffer(混合物の合計が20 μLとなるように添加)、0.75 U/μL EcoRI、プラスミドそれぞれ2 μLを混合し、37℃で1時間インキュベートした。未改変と想定される青コロニーから得られたプラスミドについても同様の制限酵素処理を行った。制限酵素処理産物4 μL分を0.5%アガロースゲル電気泳動に供し、SYBR Green I染色により検出した。
結果を図18Hに示す。制限酵素処理を行った7つの改変プラスミド全てにおいて、予想通り2箇所切断による2断片が検出され、目的の4塩基挿入配列に改変されていたことを確認した。未改変のプラスミド(wt)では、1箇所切断のみが検出された(図18H)。
[実施例10]複数箇所同時塩基置換
ビオラセインの生合成経路を利用して以下のような試験を行なった。ビオラセインは、5つの遺伝子産物(vioA、vioB、vioC、vioD、vioE)を利用してトリプトファンを元に生産される二次代謝産物である。大腸菌内で、5つの遺伝子が全ての機能が揃った場合にコロニーは紫色を呈する(図19B)。vioC欠損ではビオラセイン生合成中間産物までが産生されコロニーは黒褐色を呈する(図19B)。また、vioA欠損又はvioA, vioC二重欠損では色を呈する産物は合成されずコロニーは白色のままである(図19B)。このようなコロニー色の変化を利用し、vioA, vioC二重欠損変異プラスミドについて、vioA及びvioCの2箇所の離れた領域を同時塩基置換することにより、vioA, vioC野生型プラスミドへと戻せるかを、紫色コロニー出現を指標に検出を試みた。
使用するプラスミドpK3OV_insACは、vioA及びvioCのコード領域にそれぞれ一塩基の挿入を有する(図19A)。このpK3OV_insACは、pK3OVを鋳型とし、RCR反応と共役した1塩基挿入を2回連続して実施することにより調製した。1回目はオリゴDNA としてSUE4384(配列番号64)を用いてvioCに1塩基挿入を行い、生じた黒褐色コロニーからプラスミドpK3OV_insCを調製、続いて2回目は、pK3OV_insCを鋳型に、SUE4579(配列番号63)を用いてvioAに1塩基挿入を導入し、生じた白色コロニーからプラスミドpK3OV_insACを調製した。フレームシフト変異によりvioA及びvioCが発現しないため、pK3OV_insACで形質転換された大腸菌のコロニーは白色であり、色は呈しない。
pK3OVはpETM6-vioABECD(Jones et al., Sci. Rep. (2015)5,11301)のvioABECD遺伝子をコードするDNA領域を、配列番号67で示すoriC、カナマイシン耐性遺伝子、及びLacIを含む3.5 kbのDNA断片とRA反応によって連結環状化することによって調製した。
この変異型vioA及びvioCを野生型に戻すオリゴDNAとして、SUE4577(配列番号65)及びSUE4381(配列番号66)を用いた(図19C及び図19D)。
vioA及びvioCにフレームシフト変異を持つpK3OV_insACを鋳型として、以下のようにRCR反応を行なった。RCR反応液 ver.1(混合物の合計が5 μLとなるように添加)、0.15 μM 60 mer 改変用オリゴDNA(SUE4577及びSUE4381)、並びに50 pg/μL pK3OV_insACを混合し、33℃で6時間、12時間又は18時間インキュベートした。なお、反応液中の各成分の濃度は、反応液の総容積に対する濃度である。
その後、RCR産物を大腸菌に形質転換し、コロニーの色判定を行うことにより、RCR産物中のvioA及びvioC変異が野生型に改変されたものの割合を調べた。RCR産物1 μLを直接用いて、ケミカル法により大腸菌BL21 Star(DE3)株(Thermo Fisher Scientific社)を形質転換した。形質転換後の大腸菌を、LBプレートの総容積に対して、25 μg/mLカナマイシン、及び10 μM IPTGを含むLBプレート上に播き、30℃で一晩培養した。全コロニー数に対する紫コロニーの数を計数した。
結果を図19Eに示す。各時間でのRCR産物による大腸菌形質転換の結果、0.3%~0.7%ほどの効率で、紫色のコロニーが検出された。このことから、vioA変異及びvioC変異の2箇所が同時に野生型に改変されたことが確認された(図19E)。