本発明の実施の一形態について、図面に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本明細書において、数値範囲をa〜bと表記した場合、その数値範囲に下限aおよび上限bの値は含まれるものとする。また、本発明は、以下の内容に限定されるものではない。
(プロジェクタについて)
図1は、本実施形態のプロジェクタ10の概略の構成を示す説明図である。プロジェクタ10は、光源1と、照明光学系2と、プリズムユニット3と、DMD(デジタルマイクロミラーデバイス)4と、投影レンズ5とを有している。DMD4は、赤(R)、緑(G)、青(B)の各色に対応するDMD4R、DMD4G、DMD4B(図3参照)で構成されている。
光源1は、各DMD4を照明する光(照明光)を出射するものであり、発光部11と、リフレクタ12とで構成されている。発光部11は、例えば白色光を発光する放電ランプで構成されている。リフレクタ12は、発光部11から出射される光を反射させて照明光学系2に導く反射板であり、回転楕円面の反射面を有している。上記の発光部11は、リフレクタ12の一方の焦点位置に配置されている。
照明光学系2は、光源1からの光を各DMD4に導くための光学系であり、ロッドインテグレータ21と、照明リレー系22と、ミラー23とを有している。ロッドインテグレータ21は、光源1からの光の光量分布を均一化して出射する。照明リレー系22は、ロッドインテグレータ21の光出射面の像をリレーして各DMD4に投影することにより、各DMD4を均一に照明する。この照明リレー系22は、複数のレンズで構成されている。複数のレンズによってロッドインテグレータ21からの光を集光することにより、上記光の利用効率を向上させることができる。ミラー23は、照明リレー系22から出射される光を反射させてプリズムユニット3に導く。
図2は、プリズムユニット3を拡大して示す説明図である。プリズムユニット3は、TIRプリズム31と、色合成プリズム32とを有している。TIRプリズム31は、照明光学系2から入射する照明光を全反射させる一方、各DMD4からの画像光(投影光)を透過させる全反射プリズム(臨界角プリズム)であり、2つのプリズム31a・31bを、空気層を介して貼り合わせて構成されている。TIRプリズム31によって照明光の光路を折り曲げることにより、プロジェクタ10をコンパクトに構成することができる。なお、図2では、例として、DMD4Gに入射する照明光およびDMD4Gから出射される投影光の光路のみを示している。
色合成プリズム32は、TIRプリズム31からの光を、RGB各色光に分離して各DMD4に導くとともに、各DMD4からの反射光(投影光)を同一光路に合成する。なお、色合成プリズム32の詳細については後述する。TIRプリズム31および色合成プリズム32は、図示しない固定部材に接着剤を介して固定され、一体的に保持されている。
各色に対応するDMD4は、入射光を変調して画像を表示する画像表示素子である。より詳しくは、DMD4は、各画素に対応する複数の微小ミラーをマトリクス状に有しており、画像データに応じて各微小ミラーを回動させることにより、画像データONに対応する投影光を投影レンズ5に向かう方向に反射させ、画像データOFFに対応する光を、投影レンズ5に向かう方向から逸れるように反射させる。
上記の構成において、光源1から出射された光は、照明光学系2を介してプリズムユニット3のTIRプリズム31に入射し、TIRプリズム31のプリズム31aの内部で全反射された後、色合成プリズム32に入射し、そこでRGBの各色光に分解される。各色光は、対応するDMD4に入射し、そこで画像データに応じて変調される。各DMD4から出射される投影光(画像データONに対応する光)は、色合成プリズム32に入射し、そこで合成された後、TIRプリズム31(プリズム31a・31b)を透過し、投影レンズ5を介して被投影面(例えばスクリーン)に導かれる。これにより、各DMD4に表示された各色の画像が合成され、被投影面上に拡大投影される。なお、被投影面は、壁であってもよい。
(色合成プリズムの詳細)
次に、上記の色合成プリズム32の詳細について説明する。図3は、色合成プリズム32の詳細な構成を示す断面図である。色合成プリズム32は、いわゆるフィリップスタイプの色合成プリズムであり、第1プリズム61、第2プリズム62および第3プリズム63を有している。第1プリズム61、第2プリズム62および第3プリズム63は、いずれもガラスからなるプリズム基体であり、例えばSchott社のBK7(屈折率1.52)で構成されている。
第1プリズム61の第2プリズム62側の面には、ダイクロイック膜64Bが形成されており、ダイクロイック膜64Bと第2プリズム62との間には空気層が設けられている。また、第2プリズム62の第3プリズム63側の面には、ダイクロイック膜64Rが形成されており、ダイクロイック膜64Bと第3プリズム63との間には空気層が設けられている。ダイクロイック膜64Bは、B光を反射させ、R光およびG光を透過させる特性を有し、ダイクロイック膜64Rは、R光を反射させ、B光およびG光を透過させる特性を有している。つまり、いずれのダイクロイック膜64B・64Rにおいても、反射帯域と透過帯域とを有している。なお、以下では、B光を反射するダイクロイック膜のことを、B反射(青反射)ダイクロイック膜とも称し、R光を反射するダイクロイック膜のことを、R反射(赤反射)ダイクロイック膜とも称する。
上記構成の色合成プリズム32における正規光の光路について説明する。色合成プリズム32に入射した照明光(白色光)は、第1プリズム61を介してダイクロイック膜64Bに入射する。このうち、B光は、ダイクロイック膜64Bで反射され、第1プリズム61の内部で全反射された後、DMD4Bに導かれる。DMD4Bで反射された、画像データONに対応する光(投影光)は、第1プリズム61の内部で全反射された後、ダイクロイック膜64Bに入射し、そこで投影レンズ5に向かう方向に反射される。
上記照明光のうち、R光およびG光は、ダイクロイック膜64Bを透過し、第2プリズム62を介してダイクロイック膜64Rに入射する。このうち、R光は、ダイクロイック膜64Rで反射され、第2プリズム62の内部で全反射された後、DMD4Rに導かれる。DMD4Rで反射された、画像データONに対応する光(投影光)は、第2プリズム62の内部で全反射された後、ダイクロイック膜64Rに入射し、そこで投影レンズ5に向かう方向に反射される。
一方、G光は、ダイクロイック膜64Rを透過し、第3プリズム63を介してDMD4Gに導かれる。DMD4Gで反射された、画像データONに対応する光(投影光)は、第3プリズム63、ダイクロイック膜64R、および第2プリズム62を介してダイクロイック膜64Bに入射し、そこでB光およびR光と合成される。そして、合成された各色の投影光は、第1プリズム61を介して投影レンズ5に向かう方向に導かれる。
ここで、ダイクロイック膜64B・64Rに対する照明光および投影光の各入射角度は、図14の構成で示した従来の色合成プリズム100におけるダイクロイック膜104B・104Rに対する照明光および投影光の各入射角度と同じである。具体的には、ダイクロイック膜64Bに対する照明光の入射角度は、プリズム基体(BK7)側からの入射で32.1°(空気層側からの入射では53.8°)であり、投影光の入射角度は、プリズム基体(BK7)側からの入射で28.5°(空気層側からの入射では46.4°)である。また、ダイクロイック膜64Bに対する照明光の入射角度は、プリズム基体(BK7)側からの入射で19.1°(空気層側からの入射では29.8°)であり、投影光の入射角度は、プリズム基体(BK7)側からの入射で11.3°(空気層側からの入射では17.2°である。
このように、照明光と投影光とでダイクロイック膜64B・64Rに対する入射角度が異なるため、ダイクロイック膜64B・64Rは、前述した角度依存性を有しており、その結果、図14で示したような迷光となる非正規光が生じる。つまり、照明光の入射角度では反射されず、投影光の入射角度では反射される光L1や、照明光の入射角度では反射されるが、投影光の入射角度では反射されない光L2が生じる。しかし、本実施形態では、以下に示すようなダイクロイック膜64B・64Rの膜構成を採用することにより、ダイクロイック膜64B・64Rの角度依存性を低減し、これによって、迷光となる非正規光を減らして投影画像の画質劣化を回避している。
以下、ダイクロイック膜64Bの詳細について、実施例1として説明し、ダイクロイック膜64Rの詳細について、実施例2として説明する。なお、実施例1および2との比較のため、比較例についても併せて説明する。
(実施例1)
表3は、実施例1のダイクロイック膜64Bの層構成を示している。ダイクロイック膜64Bは、第1の交互層G1と、第2の交互層G2とを含んでいる。第1の交互層G1および第2の交互層G2は、プリズム基体側(第1プリズム61側)からこの順で積層されている。なお、表3中のM3は、後述するSubstance M3を指す。
第1の交互層G1は、高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に積層した、平均屈折率がn1の交互層であり、表3では、第1層〜第26層の領域に対応している。第1の交互層G1において、上記高屈折率材料としては、屈折率が2.36の酸化チタン(TiO2)を用いており、上記低屈折率材料としては、屈折率が1.63の酸化アルミニウム(Al2O3)を用いている。
第2の交互層G2は、高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に積層した、平均屈折率がn2の交互層であり、表3では、第27層〜第64層の領域に対応している。第2の交互層G2において、上記高屈折率材料としては、屈折率が2.36の酸化チタン(TiO2)を用いており、上記低屈折率材料としては、屈折率が1.84のSubstance M3(メルク社製)を用いている。なお、Substance M3は、酸化アルミニウム(Al2O3)と酸化ランタン(La2O3)との混合材料である。
表4は、第1の交互層G1および第2の交互層G2の各平均屈折率を示している。なお、本明細書において、「平均屈折率」とは、交互層を構成する各層の屈折率の単純平均ではなく、各層の膜厚(物理膜厚)を考慮した平均屈折率、つまり、屈折率の重み付き平均である。具体的には、平均屈折率は、以下の式によって算出される。なお、膜厚の単位はnmである。
平均屈折率={各層の光学膜厚(=物理膜厚×屈折率)の総和}/{各層の全膜厚(物理膜厚)}
表4に示すように、第1の交互層G1の平均屈折率n1は、1.91であり、第2の交互層G2の平均屈折率n2は、2.17である。つまり、第2の交互層G2の平均屈折率n2は、第1の交互層G1の平均屈折率n1よりも大きい。
図4は、表3で示した層構成のダイクロイック膜64Bの光学特性(入射光の波長と透過率との関係)を示している。ダイクロイック膜64Bは、屈折率が2.36の高屈折率材料(TiO2)と、屈折率が1.84でやや高めの低屈折率材料(Substance M3)とを交互に積層した第2の交互層G2を含んでいる。このため、図15で示した従来のB反射ダイクロイック膜の光学特性と比較すると、破線と実線との間の波長域(反射帯域と透過帯域との間の遷移帯)が狭まっており、角度依存性が低減されていることがわかる。
しかも、ダイクロイック膜64Bが、第2の交互層G2に加えて、第2の交互層G2よりも平均屈折率が低い第1の交互層G1を含んでおり、第1の交互層G1が第2の交互層G2よりもプリズム基体側(第1プリズム61)側に位置しているため、プリズム基体側から入射する光を、第2の交互層G2よりも先に第1の交互層G1によって反射させてDMD4Bに導くことができる。これにより、平均屈折率が高いことによって反射帯域が狭まるという第2の交互層G2の影響(デメリット)を低減しながら、平均屈折率の低い第1の交互層G1によって必要な(広い)反射帯域を確保することが可能となる。このことは、図4における波長400〜420nmあたりの光学特性が、図15における同じ帯域の光学特性よりも改善されていることからも容易に理解できる。
また、図5は、実施例1のダイクロイック膜64Bに対して投影光の光路で入射する光(第1プリズム61側から入射する光)についての透過率および反射率を示しており、図6は、実施例1のダイクロイック膜64Bに対して空気側(第1プリズム61とは反対側)から入射する光についての反射率を示している。表5は、図5および図6の光学特性を有する実施例1のダイクロイック膜64Bの反射帯域(例えば波長420〜480nm)の平均反射率を示している。
実施例1のダイクロイック膜64Bが上述した層構成(プリズム基体上に第1の交互層G1および第2の交互層G2をこの順で積層した構成)を備えている結果、表5に示すように、ダイクロイック膜64Bは、プリズム基体(第1プリズム61)側からダイクロイック膜64Bに入射する光についての反射帯域の平均反射率が、プリズム基体(第1プリズム61)とは反対側(空気側)からダイクロイック膜64Bに入射する光についての反射帯域の平均反射率よりも高い特性となっている。これは、以下の理由によるものと考えられる。
交互層の平均屈折率が大きくなると、膜厚の増大によって交互層での光の吸収損失も大きくなる。したがって、第1の交互層G1よりも先に、平均屈折率の大きい第2の交互層G2に入射する光(プリズム基体とは反対側から入射する光)については、第2の交互層G2による光の吸収損失が大きくなり、入射光の波長に応じて反射率の低下が起こる(図6の反射帯域参照)。その結果、反射帯域の平均反射率が低下する(表5参照)。しかし、投影光の光路で入射する光については、第2の交互層G2よりも先に第1の交互層G1に入射するため、第2の交互層G2での光の吸収損失が抑えられ、結果として、反射帯域の平均反射率の低下が抑えられる(図5、表5参照)。
なお、図6で示すように、実施例1のダイクロイック膜64Bが、空気側から入射する光について反射帯域(B光)での平均反射率が低下する特性であっても、空気側からダイクロイック膜64Bに入射する光(例えばR光やG光)は、ダイクロイック膜64Bを透過して投影レンズ5に向かう方向に導かれ、上記反射帯域は利用されないため、問題となることはない。
以上より、実施例1のダイクロイック膜64Bは、以下のように表現することができ、これによって以下の効果を奏すると言うことができる。すなわち、実施例1のダイクロイック膜64Bは、プリズム基体からダイクロイック膜64Bに入射する光についての反射帯域の平均反射率が、プリズム基体とは反対側からダイクロイック膜64Bに入射する光についての反射帯域の平均反射率よりも高い特性を有している(図5、図6の破線のグラフ参照)。これにより、上述したように、ダイクロイック膜64Bにおいて、表側(プリズム基体側)では、反射帯域を広く確保する層構成を採用し、裏側では、角度依存性を低減する層構成を採用して、全体として光の利用効率を向上させることができる。
より詳しくは、ダイクロイック膜64Bの裏側の層構成によって角度依存性を低減することにより、反射帯域と透過帯域との間の遷移帯の波長域が狭まるため、透過率が50%となるカットオフ波長付近の光の利用効率を向上させることができる。つまり、遷移帯が狭まることによって、図14で示したような迷光(非正規光)、すなわち、投影光の入射角度では反射されるが、照明光の入射角度では反射されない光L1を低減できるため、光の利用効率を向上させることができる。また、迷光の低減により、投影画像の画質劣化を回避することもできる。
また、ダイクロイック膜64Bの表側の層構成によって反射帯域を広く確保することにより、ダイクロイック膜64Bでの反射で使用する光の利用効率を上げることができる。したがって、プロジェクタ10の実使用状態において、角度依存性の低減および反射帯域の広幅化を両立させて、光の利用効率を向上させることができる。しかも、図5、図6の破線で示した特性により、平均屈折率の高い第2の交互層G2による光の吸収損失を抑えることができるため、この点でも、光の利用効率を向上させることができる。
(比較例1)
次に、実施例1との比較のため、比較例1のB反射ダイクロイック膜について説明する。比較例1のB反射ダイクロイック膜では、第1の交互層G1および第2の交互層G2の構成材料(高屈折率材料および低屈折率材料)は実施例1のダイクロイック膜64Bと同じであるが、第1の交互層G1および第2の交互層G2の配置が実施例1のダイクロイック膜64Bと異なっている。すなわち、比較例1のB反射ダイクロイック膜は、プリズム基体(第1プリズム61)側から、第2の交互層G2および第1の交互層G1をこの順で積層して構成されている。ただし、第2の交互層G2および第1の交互層G1を構成する各層の膜厚は最適化している。
表6は、比較例1のB反射ダイクロイック膜の層構成を示しており、表7は、比較例1のB反射ダイクロイック膜の第1の交互層G1および第2の交互層G2の各平均屈折率を示している。
また、図7は、比較例1のB反射ダイクロイック膜に対して投影光の光路で入射する光(第1プリズム61側から入射する光)についての透過率および反射率を示しており、図8は、比較例1のB反射ダイクロイック膜に対して空気側(第1プリズム61とは反対側)から入射する光についての反射率を示している。また、表8は、図7および図8の光学特性を有する比較例1のB反射ダイクロイック膜の反射帯域(例えば波長420〜480nm)の平均反射率を示している。
比較例1のB反射ダイクロイック膜は、第1プリズム61側からB反射ダイクロイック膜に入射する光についての反射帯域の平均反射率が、空気側からB反射ダイクロイック膜に入射する光についての反射帯域の平均反射率よりも低い特性となっている。これは、投影光の光路で入射する光(第1プリズム61側から入射する光)については、第1の交互層G1よりも先に、平均屈折率の高い第2の交互層G2に入射するため、第2の交互層G2での光の吸収損失によって、入射光の波長に応じた反射率の低下が起こり(図7参照)、その結果、反射帯域の平均反射率が低下することによると考えられる(表8参照)。
以上の実施例1および比較例1の結果から、以下の結論が得られる。すなわち、B反射ダイクロイック膜において、角度依存性の低減および反射帯域の広幅化を実現すべく、2種の交互層(第1の交互層G1、第2の交互層G2)を採用するにあたって、これらの交互層の配置を適切に設定しないと(比較例1のように、プリズム基体側から第2の交互層G2および第1の交互層G1をこの順で積層したのでは)、第2の交互層G2での光の吸収損失によって反射帯域の平均反射率が低下し、光の利用効率が低下する。したがって、2種の交互層を用いてB反射ダイクロイック膜を構成し、光の利用効率を向上させるためには、実施例1のように、プリズム基体側から第1の交互層G1および第2の交互層G2をこの順で積層することが必要である。
(実施例2)
次に、ダイクロイック膜64Rの詳細について説明する。表9は、実施例2のダイクロイック膜64Rの層構成を示している。ダイクロイック膜64Rは、第1の交互層G1と、第2の交互層G2とを含んでいる。第1の交互層G1および第2の交互層G2は、プリズム基体側(第2プリズム62側)からこの順で積層されている。なお、表9中のM3は、Substance M3を指す。
第1の交互層G1は、高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に積層した、平均屈折率がn1の交互層であり、表9では、第1層〜第26層の領域に対応している。第1の交互層G1において、上記高屈折率材料としては、屈折率が2.34の酸化ニオブ(Nb2O5)を用いており、上記低屈折率材料としては、屈折率が1.63の酸化アルミニウム(Al2O3)を用いている。
第2の交互層G2は、高屈折率材料と低屈折率材料とを交互に積層した、平均屈折率がn2の交互層であり、表9では、第27層〜第52層の領域に対応している。第2の交互層G2において、上記高屈折率材料としては、屈折率が2.34の酸化ニオブ(Nb2O5)を用いており、上記低屈折率材料としては、屈折率が1.84のSubstance M3(メルク社製)を用いている。
また、表10は、第1の交互層G1および第2の交互層G2の各平均屈折率を示している。
表10に示すように、第1の交互層G1の平均屈折率n1は、1.97であり、第2の交互層G2の平均屈折率n2は、2.09である。つまり、第2の交互層G2の平均屈折率n2は、第1の交互層G1の平均屈折率n1よりも大きい。
図9は、表9で示した層構成のダイクロイック膜64Rの光学特性(入射光の波長と透過率との関係)を示している。ダイクロイック膜64Rは、屈折率が2.34の高屈折率材料(Nb2O5)と、屈折率が1.84でやや高めの低屈折率材料(Substance M3)とを交互に積層した第2の交互層G2を含んでいる。このため、図16で示した従来のR反射ダイクロイック膜の光学特性と比較すると、破線と実線との間の波長域(反射帯域と透過帯域との間の遷移帯)が狭まっており、角度依存性が低減されていることがわかる。
しかも、ダイクロイック膜64Rが、第2の交互層G2に加えて、第2の交互層G2よりも平均屈折率が低い第1の交互層G1を含んでおり、第1の交互層G1が第2の交互層G2よりもプリズム基体側(第2プリズム62)側に位置しているため、プリズム基体側から入射する光を、第2の交互層G2よりも先に第1の交互層G1によって反射させてDMD4Rに導くことができる。これにより、平均屈折率が高いことによって反射帯域が狭まるという第2の交互層G2の影響(デメリット)を低減しながら、平均屈折率の低い第1の交互層G1によって必要な(広い)反射帯域を確保することが可能となる。
また、図10は、実施例2のダイクロイック膜64Rに対して投影光の光路で入射する光(第2プリズム62側から入射する光)についての透過率および反射率を示しており、図11は、実施例2のダイクロイック膜64Rに対して空気側(第2プリズム62とは反対側)から入射する光についての反射率を示している。表11は、図10および図11の光学特性を有する実施例2のダイクロイック膜64Rの反射帯域(例えば波長600〜680nm)の平均反射率を示している。
実施例2のダイクロイック膜64Rが上述した層構成(プリズム基体上に第1の交互層G1および第2の交互層G2をこの順で積層した構成)を備えている結果、表11に示すように、ダイクロイック膜64Rは、プリズム基体(第2プリズム62)側からダイクロイック膜64Rに入射する光についての反射帯域の平均反射率が、プリズム基体(第2プリズム62)とは反対側(空気側)からダイクロイック膜64Rに入射する光についての反射帯域の平均反射率よりも高い特性となっている。空気側からダイクロイック膜64Rに入射する光について反射帯域の平均反射率が相対的に低いのは、上記光は、第1の交互層G1よりも先に、(平均屈折率が大きく、膜厚が厚いことによって)光の吸収損失が大きい第2の交互層G2に入射するためと考えられる。実施例2では、投影光の光路で入射する光については、第2の交互層G2よりも先に第1の交互層G1に入射するため、第2の交互層G2による光の吸収損失が抑えられ、結果として、反射帯域での平均反射率の低下が抑えられていると考えられる(図10、図11、表11参照)。
なお、図11で示すように、実施例2のダイクロイック膜64Rが、空気側から入射する光について反射帯域(R光)での平均反射率が低下する特性であっても、空気側からダイクロイック膜64Rに入射する光(例えばG光)は、ダイクロイック膜64Rを透過して投影レンズ5に向かう方向に導かれ、上記反射帯域は利用されないため、問題となることはない。
以上より、実施例2のダイクロイック膜64Rは、以下のように表現することができ、これによって以下の効果を奏すると言うことができる。すなわち、実施例2のダイクロイック膜64Rは、プリズム基体からダイクロイック膜64Rに入射する光についての反射帯域の平均反射率が、プリズム基体とは反対側からダイクロイック膜64Rに入射する光についての反射帯域の平均反射率よりも高い特性を有している。これにより、上述したように、ダイクロイック膜64Rにおいて、表側(プリズム基体側)では、反射帯域を広く確保する層構成を採用し、裏側では、角度依存性を低減する層構成を採用して、全体として光の利用効率を向上させることができる。
より詳しくは、ダイクロイック膜64Rの裏側の層構成によって角度依存性を低減することにより、反射帯域と透過帯域との間の遷移帯の波長域が狭まるため、カットオフ波長付近の光の利用効率を向上させることができる。つまり、遷移帯が狭まることによって、図14で示したような迷光(非正規光)、すなわち、照明光の入射角度では反射されるが、投影光の入射角度では反射されない光L2を低減できるため、光の利用効率を向上させることができる。また、迷光の低減により、投影画像の画質劣化を回避することもできる。
また、ダイクロイック膜64Rの表側の層構成によって反射帯域を広く確保することにより、ダイクロイック膜64Rでの反射で使用する光の利用効率を上げることができる。したがって、プロジェクタ10の実使用状態において、角度依存性の低減および反射帯域の広幅化を両立させて、光の利用効率を向上させることができる。しかも、図10、図11の破線で示した特性により、平均屈折率の高い第2の交互層G2による光の吸収損失を抑えることができるため、この点でも、光の利用効率を向上させることができる。
(比較例2)
次に、実施例2との比較のため、比較例2のR反射ダイクロイック膜について説明する。比較例2のR反射ダイクロイック膜では、第1の交互層G1および第2の交互層G2の構成材料(高屈折率材料および低屈折率材料)は実施例2のダイクロイック膜64Rと同じであるが、第1の交互層G1および第2の交互層G2の配置が実施例2のダイクロイック膜64Rと異なっている。すなわち、比較例2のR反射ダイクロイック膜は、プリズム基体(第2プリズム62)側から、第2の交互層G2および第1の交互層G1をこの順で積層して構成されている。ただし、第2の交互層G2および第1の交互層G1を構成する各層の膜厚は最適化している。
表12は、比較例2のR反射ダイクロイック膜の層構成を示しており、表13は、比較例2のR反射ダイクロイック膜の第1の交互層G1および第2の交互層G2の各平均屈折率を示している。
また、図12は、比較例2のR反射ダイクロイック膜に対して投影光の光路で入射する光(第2プリズム62側から入射する光)についての透過率および反射率を示しており、図13は、比較例2のR反射ダイクロイック膜に対して空気側(第2プリズム62とは反対側)から入射する光についての反射率を示している。また、表14は、図12および図13の光学特性を有する比較例2のR反射ダイクロイック膜の反射帯域(例えば波長600〜680nm)の平均反射率を示している。
比較例2のR反射ダイクロイック膜は、第2プリズム62側からR反射ダイクロイック膜に入射する光についての反射帯域の平均反射率が、空気側からR反射ダイクロイック膜に入射する光についての反射帯域の平均反射率よりも低い特性となっている。これは、投影光の光路で入射する光(第2プリズム62側から入射する光)については、第1の交互層G1よりも先に、平均屈折率の高い第2の交互層G2に入射するため、第2の交互層G2での光の吸収損失によって反射帯域での平均反射率が低下することによると考えられる(図12、表14参照)。
以上の実施例2および比較例2の結果から、以下の結論が得られる。すなわち、R反射ダイクロイック膜において、角度依存性の低減および反射帯域の広幅化を実現すべく、2種の交互層(第1の交互層G1、第2の交互層G2)を採用するにあたって、これらの交互層の配置を適切に設定しないと(比較例2のように、プリズム基体側から第2の交互層G2および第1の交互層G1をこの順で積層したのでは)、第2の交互層G2での光の吸収損失によって反射帯域での平均反射率が低下し、光の利用効率が低下する。したがって、2種の交互層を用いてR反射ダイクロイック膜を構成し、光の利用効率を向上させるためには、実施例2のように、プリズム基体側から第1の交互層G1および第2の交互層G2をこの順で積層することが必要である。
(補足事項)
実施例1および2のダイクロイック膜64B・64Rにおいて、第1の交互層G1の高屈折率材料の屈折率をnH1、低屈折材料の屈折率をnL1とし、第2の交互層G2の高屈折率材料の屈折率をnH2、低屈折材料の屈折率をnL2としたとき、実施例1では、nH1=nH2=2.36、nL1=1.63、nL2=1.84であり、実施例2では、nH1=nH2=2.34、nL1=1.63、nL2=1.84である。したがって、実施例1および2では、それぞれ、以下の条件式を満足している。
(nH1−nL1)/nH1>(nH2−nL2)/nH2
上記の条件式を満足する場合、高屈折率材料に対する低屈折率材料の屈折率比(nL1/nH1、またはnL2/nH2)が、第1の交互層G1よりも第2の交互層G2のほうが大きくなり、平均屈折率は、第1の交互層G1よりも第2の交互層G2のほうが大きくなる。これにより、平均屈折率の相対的に小さい第1の交互層G1によって反射帯域を広く確保し、平均屈折率の相対的に大きい第2の交互層G2によって角度依存性を低減する実施例1および2の構成を確実に実現することが可能となる。
特に、実施例1では、nH1=nH2であり、実施例2でも、nH1=nH2である。このように、第1の交互層G1と第2の交互層G2とで、高屈折率材料を同じ屈折率とする(同一材料とする)ことにより、設計的に現実的な膜厚で第1の交互層G1および第2の交互層G2の各層を構成でき、色合成プリズム32の生産性を向上させることができる。
また、実施例1のダイクロイック膜64Bは、B光の反射帯域(例えば400〜480nm)を有しており、ダイクロイック膜64Bを構成する第1の交互層G1および第2の交互層G2の高屈折率材料が、TiO2である。プロジェクタ用のダイクロイック膜において、カットオフ波長が照明光と投影光とでシフトする遷移帯は、B光とG光との間、およびG光とR光との間にある。TiO2は実用上最も屈折率が高く、特に短波長側での屈折率が高い材料であり、B光とG光との間の遷移帯の角度依存性を低減する効果が高い。このため、ダイクロイック膜64Bを構成する高屈折率材料として、TiO2は非常に有効である。なお、B光の波長領域では、吸収や散乱による損失が大きいが、光が材料を通過する部分の厚みが透過の場合よりも少ない反射とすることで、上記損失を抑えることができる。
また、実施例2のダイクロイック膜64Rは、R光の反射帯域(例えば600〜680nm)を有しており、ダイクロイック膜64Rを構成する第1の交互層G1および第2の交互層G2の高屈折率材料が、Nb2O5である。Nb2O5は、TiO2並みの高屈折率材料であり、G光とR光との間の遷移帯で角度依存性を小さくできる点で有効である。また、光の透過に対する吸収や散乱の損失が、TiO2を用いた場合よりも少なく、光の利用効率がよい。
また、実施例1および2では、第1の交互層G1の低屈折率材料が、Al2O3である。プロジェクタ用のダイクロイック膜の反射帯域を確保すべく、高屈折率材料との屈折率差を確保できる低屈折率材料の中で、Al2O3は高めの屈折率であり、吸収や散乱の損失が少ない。このため、Al2O3は、第1の交互層G1の低屈折率材料として非常に有効である。
また、実施例1および2では、第2の交互層G2の低屈折率材料が、Substance M3(酸化アルミニウムと酸化ランタンとの混合材料)である。角度依存性を小さくするために平均屈折率を高くする場合、酸化アルミニウムではかなり膜が薄くなる。酸化アルミニウムと酸化ランタンとの混合材料を用いると、比較的厚めの膜で平均屈折率の高い膜を構成することができるため、製造上の厚みコントロールがしやすく、安定した生産性を確保できる。
本実施形態のプロジェクタ10は、実施例1および2で説明したダイクロイック膜64B・64Rを有する色合成プリズム32を備えている。実施例1および2のダイクロイック膜64B・64Rにより、角度依存性が低減され、反射帯域も広く確保されるため、光利用効率がよく、明るい画像投影が可能なプロジェクタ10が得られる。特に、角度依存性の低減により、カットオフ波長付近の光で迷光となる非正規光を減らすことができるため、迷光によるゴーストやコントラストの低下を回避して、良好な投影品質を維持できる。また、迷光による周辺部品の温度上昇を抑えることもできる。さらに、ダイクロイック膜64B・64Rでの光の吸収を減らすことができるため、吸収によるプリズムの熱変形や屈折率分布の変化などに起因する投影画像の劣化を軽減することもできる。
また、本実施形態のプロジェクタ10は、光源1と、複数の色に対応するDMD4とをさらに備え、色合成プリズム32は、光源1から出射される照明光を各色に分解して各DMD4に導く一方、各DMD4から出射される投影光を合成して出射し、投影レンズ5に向かう方向に導く。色合成プリズム32および複数のDMD4を用いたプロジェクタ10では、上述したように、色合成プリズム32のダイクロイック膜64B・64Rに対して、光源1からの照明光の入射角度と、DMD4からの投影光の入射角度とが異なる。しかし、ダイクロイック膜64B・64Rの角度依存性が小さいため、色分解/色合成において光の利用効率を向上させることができ、明るい画像を投影することができる。
なお、ダイクロイック膜64Bの第1の交互層G1と第2の交互層G2とで、高屈折率材料および低屈折率材料は同じであってもよい。同様に、ダイクロイック膜64Rの第1の交互層G1と第2の交互層G2とで、高屈折率材料および低屈折率材料は同じであってもよい。この場合、第1の交互層G1の高屈折率材料の平均膜厚をdH1(nm)、低屈折材料の平均膜厚をdL1(nm)とし、第2の交互層G2の高屈折率材料の平均膜厚をdH2(nm)、低屈折材料の平均膜厚をdL2(nm)としたとき、
dH1<dH2、dL1>dL2
とすることが望ましい。
上記のように、高屈折率材料の膜厚を、第1の交互層G1よりも第2の交互層G2において相対的に厚くし、低屈折率材料の膜厚を、第1の交互層G1よりも第2の交互層G2において相対的に薄くすることによっても、第2の交互層G2の平均屈折率を第1の交互層G1の平均屈折率よりも大きくすることができる。したがって、このような構成によっても、第2の交互層G2によって角度依存性を低減することができる。また、第1の交互層G1と第2の交互層G2とで、高屈折率材料および低屈折率材料が同じである場合、ダイクロイック膜64B・64Rを構成する材料の種類が少ないため、取扱い性に優れており、成膜時(蒸着時)のドーム内で膜厚を均一にするためのコントロールがしやすいメリットもある。