図面を参照して実施例のモータの駆動装置を説明する。以下、モータの駆動装置の一例として、ハイブリッド車のパワーコントロールユニット(以下「PCU」と称する)を例示して説明する。まず、ハイブリッド車2の構成を、図1を参照して説明する。図1に、ハイブリッド車2の駆動系のブロック図を示す。
ハイブリッド車2は、走行用の駆動源として、モータ8とエンジン6を備えている。モータ8の出力トルクとエンジン6の出力トルクは、ギアボックス7で適宜に合成されて出力される。ギアボックス7は、エンジン6の出力軸6a及びモータ8のモータ軸8aから夫々伝達されて入力される動力を適宜に合成してプロペラシャフト9に出力する。ギアボックス7の出力は、プロペラシャフト9を介して駆動輪(不図示)に伝達される。ギアボックス7は、エンジン6の出力をモータ8とプロペラシャフト9に分配する場合もある。その場合、ハイブリッド車2は、走行しながらモータ8で発電する。モータ8の発電で得た電力は、メインバッテリ3の充電に使われる。なお、図1では、本明細書の説明に要する部品だけを表しており、説明に関係のない部品は図示を省略していることに留意されたい。
モータ8を駆動するための電力はメインバッテリ3から供給される。メインバッテリ3の出力電圧は、例えば300ボルトである。なお、図示を省略しているが、ハイブリッド車2は、メインバッテリ3のほかに、カーナビゲーション装置やルームランプなど、メインバッテリ3の出力電圧よりも低い電圧で駆動するデバイス群(通称「補機」と呼ばれる)に電力を供給するための補機バッテリも備える。「メインバッテリ」との呼称は、「補機バッテリ」と区別するための便宜上のものである。
メインバッテリ3は、システムメインリレー4を介してPCU5に接続される。システムメインリレー4は、メインバッテリ3と車両の駆動系を接続したり切断したりするスイッチである。システムメインリレー4は、例えば、上位システムのHVコントローラ(不図示)により切り換えられる。
PCU5は、メインバッテリ3とモータ8の間に介在してモータ8を駆動する装置(モータの駆動装置)である。PCU5は、メインバッテリ3の電圧をモータ8の駆動に適した電圧(例えば600ボルト)まで昇圧する電圧コンバータ20、昇圧後の直流電力を交流電力に変換するインバータ30、及び、電圧コンバータ20とインバータ30を制御するパワーコントローラ50を含む。インバータ30の出力(交流電力)がモータ8への供給電力に相当する。
ハイブリッド車2は、エンジン6の駆動力、あるいは車両の減速エネルギ(即ち制動)を利用してモータ8で発電することもできる。このような発電は「回生」と呼ばれている。モータ8が発電する場合、インバータ30が交流を直流に変換し、さらに電圧コンバータ20がメインバッテリ3よりも僅かに高い電圧まで降圧し、メインバッテリ3へ供給する。
電圧コンバータ20は、リアクトル21とIGBTなどのスイッチング素子22、23とコンデンサ24を主とする回路である。このスイッチング素子22、23には、夫々、逆方向の電流をバイパスさせるためのダイオード(還流ダイオード)が逆並列に接続されている。本実施例では、これらのスイッチング素子22、23やその周辺回路は、パワーモジュールとしてパッケージ化されている。このようなパワーモジュールは、一般に、インテリジェントパワーモジュール(IPM)と称される。電圧コンバータ20の高電圧側には、インバータ30に入力される電流を平滑化するため、コンデンサ25が電圧コンバータ20と並列に接続されている。本実施例では、電圧コンバータ20の高電圧側には、電圧センサ71が並列に接続されている。電圧センサ71は、高電圧側の電圧(システム電圧VH)を計測する。
インバータ30は、モータ8のU、V、Wの各相に対応してスイッチング動作を行うスイッチング素子31、32、33、34、35、36(以下、これらの符号は「31−36」と総称する)を主とする回路である。これらのスイッチング素子31−36にも、夫々電流バイパス用のダイオードが逆並列に接続されている。本実施例では、これらのスイッチング素子31−36やその周辺回路も、スイッチング素子22、23と同様に、パワーモジュールとしてパッケージ化されている。
パワーコントローラ50は、マイクロコンピュータ、メモリや入出力インタフェースなどの電子部品で構成される情報処理装置である。このパワーコントローラ50には、電圧コンバータ20やインバータ30などが接続されている。また、パワーコントローラ50には、CAN(Control Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)等の車内ネットワークを介して、種々のセンサも接続されている。例えば、モータ8の回転数を計測する回転数センサ72、モータ8のコイルの温度を計測する温度センサ73、ハイブリッド車2の周囲空間の気圧を計測する気圧センサ74などが接続されている。また、図示を省略しているが、モータ8の駆動電流を計測する電流センサ、運転者による操作情報として、アクセル開度量やブレーキ踏力量を計測する夫々のセンサが接続されている。
本実施例では、パワーコントローラ50には、電圧コンバータ20やインバータ30を構成するスイッチング素子22、23、31−36の制御端子が接続されており、これらはパワーコントローラ50により制御される。すなわち、電圧コンバータ20やインバータ30は、パワーコントローラ50により生成されて供給されるPWM信号によって、昇圧したり、交流に変換したりするためのスイッチング動作を行う。各スイッチング素子の動作は、アクセル開度センサから入力されるアクセル開度量や電流センサから入力されるモータ8の駆動電流などに応じた制御情報に従って行われる。
モータ8は、例えば、図2及び図3に示すように構成されている。図2に、モータ8を構成するU、V、Wの各相のコイルの回路図を示す。また、図3に、モータ8を構成するステータの一部とそれに巻回されている各コイルの説明図を示す。
モータ8は、主に、ステータ81とロータ(不図示)により構成される、三相交流電動機である。ロータは、モータ軸8aを中心に円筒形状に構成されるロータ本体と、このロータ本体の外周面の近傍に沿ってその端面の平面視が「ハ」字状になるようにジグザグに配置される平角棒形状のマグネットと、からなる多極の永久磁石ロータである。ステータ81は、このロータを包囲するように円環形状に形成される電磁鋼板を多数積層したものである。ステータ81は、円環状の本体の内周面から円環の中心に向けて延びる複数のティース83を備えており、これらのティース83にU相コイル8u、V相コイル8v及びW相コイル8wが巻回されている。
本実施例では、U相コイル8uは、複数のコイルUa、Ub、Uc−Unに分割されてステータ81のティース83に巻かれている。具体的には、例えば、8個や16個などに分割されて、夫々が複数のティース83に跨がるように巻回されている。V相コイル8vやW相コイル8wも同様に、複数のコイルVa、Vb、Vc−VnやコイルWa、Wb、Wc−Wnに分割されて夫々、ティース83に巻かれている。本実施例では、ステータ81の外周から内周に向かって、コイルUa〜Un、コイルVa〜Vn、コイルWa〜Wnの順番に、ロータに近づくように配置されている。なお、図3では、分割されて巻回されている各コイルを便宜的に灰色に着色している。また、各コイルの始端Tu、Tv、Tw、これらの終端を夫々接続した中性点Tnや、分割したコイル同士を接続する渡り配線などの図示を省略していることに留意されたい。
このように構成されるモータ8は、例えば、次に説明する複数の制御モードから選択される特定の制御モードにより制御される。本実施例では、PCU5は、電力変換装置10による電力変換を3つの制御モード(正弦波PWM制御モード、矩形波電圧制御モード、過変調PWM制御モード)を切り換えて行う。図4に、モータ8の回転数と出力トルクの関係から選択されるモータ8の制御モードの例を表した説明図を示す。
正弦波PWM制御モードは、一般的なPWM制御として用いられる。インバータ30を構成する各スイッチング素子31−36のオンオフ動作(スイッチング動作)を、正弦波状の電圧指令とキャリア(典型的には三角波)との電圧比較により得られる制御信号で制御する。高電位側のスイッチング素子(上側アームと称する場合もある)31、33、35のオン期間に対応するハイレベル期間と、低電位側のスイッチング素子(下側アームと称する場合もある)32、34、36のオン期間に対応するローレベル期間との総合計について、一定期間内でその基本波成分が正弦波となるようにデューティ比が制御される。
パワーコントローラ50からインバータ30に出力される電圧指令の相関波形が正弦波になる正弦波PWM制御モードでは、基本波成分振幅をインバータ入力電圧の約0.66倍程度、つまり変調率を約0.66程度まで高めることが可能になる。
矩形波電圧制御モードでは、上記の一定期間内において、ハイレベル期間及びローレベル期間の比が1:1になる矩形波の1周期分をモータ8に印加する。これにより、変調率を約0.78程度まで高めることが可能になる。
また、過変調PWM制御モードは、上記の電圧指令の振幅を歪ませたうえで、正弦波PWM制御と同様のPWM制御を行う。過変調PWM制御モードでは、基本波成分を歪ませることができるため、変調率を、正弦波PWM制御モードでの最高値(約0.66程度)から約0.68程度までの範囲内で高めることが可能になる。
図4に示すように、モータ8の回転数が低い低回転数域では、トルク変動を小さくする必要から、正弦波PWM制御モードが選択される。これに対して、低回転数域よりもモータ8の回転数が高い中回転数域では、過変調PWM制御モードが選択される。また、中回転数域よりもさらに回転数が高い高回転数域では、矩形波電圧制御モードが選択される。過変調PWM制御モード及び矩形波電圧制御モードは、モータ8の出力が向上する。
ところで、このような正弦波PWM制御、過変調PWM制御や矩形波電圧制御におけるインバータ30のスイッチング時に、サージ電圧(サージ電流)に起因してモータ8のU相コイル8uなどで部分放電が発生し得る。例えば、スイッチング素子31−36がオフ状態からオン状態に移行した直後(U相コイル8uなどに印加された電圧の立ち上がり直後)に、U相コイル8uとV相コイル8vの間で部分放電が発生することがある。また、スイッチング素子31−36がオン状態からオフ状態に移行した直後(U相コイル8uなどに印加された電圧の立ち下がり直後)に、U相コイル8uとV相コイル8vの間で部分放電が発生することがある。
これらの部分放電は、同じ相で分割したコイルUa〜Un(コイルVa〜VnやコイルWa〜Wn)間で発生したり、異なる相のコイルUxとコイルVx(コイルVxとコイルWxやコイルUxとコイルWx)間で発生したりする(xは、a−nのいずれか)。また特定の相と接地電位(ハイブリッド車2のボディ電位)との間でも発生し得る。部分放電のたびにコイルの絶縁被膜がダメージを受ける。同じ部位で部分放電の回数が増すにつれて絶縁被膜が浸食され、絶縁性が劣化し、絶縁被膜に至る可能性が高まる。
本願の発明者は、実験やコンピュータシミュレーションの結果から、部分放電は常に同じ部位で発生するのではなく、モータ8の動作環境の違いによって異なる部位で発生することを見出した。すなわち、モータ8において、サージ電圧(又はサージ電流)に起因して部分放電が生じて絶縁性の劣化が進行する部位は、モータ8の動作環境の条件グループ毎に異なる。条件グループとは、複数の動作環境パラメータ(条件)の夫々について範囲を特定し、モータ8の動作環境を規定するものである。ここでは、条件グループAから条件グループDの4つの条件グループを設定する。図5−図8に、夫々の条件グループにおけるモータ8の動作環境を示す。なお、図5(A)、図6(A)、図7(A)及び図8(A)は、図4に対応するものである。また、図5(B)、図6(B)、図7(B)及び図8(B)に表されている破線は耐電圧の設計値であり、実線は発生し得るサージ電圧の最大値である。次に、各条件グループに属する条件(動作環境パラメータの範囲)を具体的に説明する。
(条件グループA)
絶縁性劣化の想定部位(部分放電が発生し易い部位):U相コイル8uの始端Tu(コイルUa)とV相コイル8vのほぼ真ん中に位置するコイルVxとの間
システム電圧VH:350V以上であること。
モータ8のコイル温度:140℃以上であること。
ハイブリッド車2の周囲空間の気圧:50kPa以下であること(図5(B)参照)。
モータ8の出力トルク:100Nm以上であること(図5(A)参照)。
モータ8の回転数:4000rmp以下であること(図5(A)参照)。
制御モード:正弦波PWMであること。
キャリア周波数:3〜5kHzであること。
(条件グループB)
絶縁性劣化の想定部位:U相コイル8uの始端Tu(コイルUa)とV相コイル8vの始端Tv(コイルVa)との間
システム電圧VH:350V以上であること。
モータ8のコイル温度:150℃以上であること。
ハイブリッド車2の周囲空間の気圧:60kPa以下であること(図6(B)参照)。
モータ8の出力トルク:50〜100Nmであること(図6(A)参照)。
モータ8の回転数:1500rmp以下であること(図6(A)参照)。
制御モード:正弦波PWMであること。
キャリア周波数:5kHzであること。
(条件グループC)
絶縁性劣化の想定部位:U相コイル8uの始端Tu(コイルUa)とU相コイル8uのほぼ真ん中に位置するコイルUxとの間
システム電圧VH:550V以上であること。
モータ8のコイル温度:160℃以上であること。
ハイブリッド車2の周囲空間の気圧:80〜90kPaであること(図7(B)参照)。
変調率:0.66〜0.68であること(図7(A)参照)。
制御モード:過変調PWMであること。
キャリア周波数:2kHzであること。
(条件グループD)
絶縁性劣化の想定部位:U相コイル8uの真ん中よりも中性点Tn側に位置するコイルUxと接地電位との間
システム電圧VH:350V以上であること。
モータ8のコイル温度:170℃以上であること。
ハイブリッド車2の周囲空間の気圧:55kPa以下であること(図8(B)参照)。
モータ8の出力トルク:30Nm以上であること(図8(A)参照)。
モータ8の回転数:500rmp以下であること(図8(A)参照)。
制御モード:正弦波PWMであること。
キャリア周波数:5kHzであること。
条件グループAの動作環境下、例えば、ハイブリッド車2が標高の高い山道の登坂路を低速で走行している場合には、気圧が低く、モータ8が低速回転かつ高トルクになり得る。このとき、U相コイル8uの始端Tu(コイルUa)とU相コイル8uのほぼ真ん中に位置するコイルUxとの間に部分放電が生じ易くなる。条件グループAの動作環境下でのスイッチング回数が閾値を超えた場合、それ以上、条件グループAの動作環境下でモータ8に最大出力を許容すると、部分放電の回数が増す結果、上記の部位で絶縁性が著しく劣化するおそれがある。そこで、パワーコントローラ50は、例えば、インバータ30のスイッチング動作の速度(スイッチングスピード)を低下させる制御(モータ保護制御X)を行う。スイッチングスピードを下げることにより、モータ8に誘起されるサージ電圧値が低下することから、部分放電の発生を抑えることが可能になる。即ち、上記部位での絶縁性劣化の進行を抑止することができる。
条件グループBの動作環境下、例えば、ハイブリッド車2が標高の高い山道の登坂路を中速で走行している場合には、気圧が低く、モータ8が低速回転かつ中トルクになり得る。このとき、U相コイル8uの始端Tu(コイルUa)とV相コイル8vの始端Tv(コイルVa)との間に部分放電が生じ易くなる。条件グループBの動作環境下でのスイッチング回数が閾値を超えた場合、それ以上、条件グループBの動作環境下でモータ8に最大出力を許容すると、上記の部位で絶縁性が著しく劣化するおそれがある。そこで、パワーコントローラ50は、例えば、インバータ30のスイッチング制御のキャリア周波数を低下させる制御(モータ保護制御Y)を行う。これによっても、スイッチング素子31−36のスイッチング回数が減るため、部分放電の発生を低減させることが可能になる。即ち、上記部位での絶縁性の劣化の進行を抑制することができる。
条件グループCの動作環境下、例えば、モータ8の制御モードが正弦波PWMから矩形波電圧に切り替わる境界付近における過変調PWMであり、ハイブリッド車2が標高の低い道路で走行している場合には、気圧が低く、モータ8が中速回転かつ中トルクになり得る。この場合、U相コイル8uの始端Tu(コイルUa)とU相コイル8uのほぼ真ん中に位置するコイルUxとの間に部分放電が生じ易くなる。部分放電は、一般的に、制御モードが正弦波PWMであるときよりも矩形波電圧であるときの方が生じ難い。この場合には、パワーコントローラ50は、モータ8の制御モードを矩形波電圧に変更する制御(モータ保護制御Z)を行う。これにより、部分放電の発生を低減させることが可能になる。なお、モータ保護制御Zは、図4で示したトルク/回転数マップで「正弦波PWM制御モード」の領域と、「過変調PWM制御モード」の領域を、「矩形波電圧制御モード」に置き換えることに相当する。もともと「矩形波電圧制御モード」の領域は変更がない。
条件グループDの動作環境下、例えば、ハイブリッド車2が標高の高い山道の平坦路を低速で走行している場合には、気圧が低く、モータ8が低速回転かつ低トルクになり得る。このとき、U相コイル8uの真ん中よりも中性点Tn側に位置するコイルUxと接地電位との間に部分放電が生じ易くなる。モータ8が低速回転・低トルクの場合には、低速回転・高トルクの場合に比べてモータ8は低出力でよく、システム電圧VH、つまり電圧コンバータ20の昇圧電圧を下げたとしてもハイブリッド車2の動力性能に影響し難い。このような場合には、パワーコントローラ50は、システム電圧VHを低下させる制御(モータ保護制御W)を行う。これによっても、部分放電の発生を低減させることが可能になる。
次にパワーコントローラ50によるモータ保護制御処理について説明する。図9に、パワーコントローラ50によるモータ保護制御処理のフローチャートを示す。図10に、モータ保護制御処理を構成する各サブルーチン(モータ保護制御X、Y、Z、W)のフローチャートを示す。本実施例では、ハイブリッド車2のモータ8の駆動中に、図9に示すモータ保護制御処理を所定周期で繰り返し行う。
パワーコントローラ50は、まず、各センサ71−74から、所定の諸情報を取得する(S2)。本実施例では、電圧センサ71からシステム電圧VH(電圧コンバータ20の昇圧電圧)を取得し、回転数センサ72からモータ8の回転数を取得する。また、温度センサ73からモータ8のコイル温度を取得し、気圧センサ74から、ハイブリッド車2の周囲空間の気圧を取得する。また、パワーコントローラ50が、現在制御しているモータ8の制御情報(制御パラメータ)として取得しているものから、モータ8に対する要求トルク、制御モード、PWMのキャリア周波数及び変調率を参照する。
次にパワーコントローラ50は、前述したモータ保護制御Xが既に起動されているか否かについて、起動済みフラグFxを参照する(S3)。なお、起動済みフラグFxは、図9と図10の処理が記述されたプログラム中のメモリ領域であり、初期値に「0」が代入されており、後述する条件グループA処理の中のステップS16で「1」に変更される。すなわち、起動済みフラグFxが「0」の場合は、モータ保護制御Xは未だ起動されていないことを意味し、「1」の場合は、モータ保護制御Xが起動されて実行中であることを示す。後述するように、起動済みフラグには、Fxのほか、Fy、Fz、Fwがある。
パワーコントローラ50は、起動済みフラグFxが「0」の場合、即ち、モータ保護制御Xが未起動の場合(S3:NO)、条件グループA処理(S4)に進む。起動済みフラグFxが「1」の場合、即ち、モータ保護制御Xが起動済みの場合は(S3:YES)、ステップS5に進む。
なお、一旦、モータ保護制御Xが起動されると、メンテナンス時にモータの部品が交換されるまで、即ち、モータが初期状態に戻るまで、パワーコントローラ50は、モータ保護制御Xを実行し続ける。それゆえ、一旦モータ保護制御Xが起動されると、それ以降は、条件グループA処理を実行する必要がなくなるのである。
モータ保護制御Xが既に起動されている場合には(S3:YES)、条件グループA処理を実行する必要がないため、続いてモータ保護制御Yが起動済みか否かについて起動済みフラグFyを参照する(S5)。起動済みフラグFyも、起動済みフラグFxと同様に、モータ保護制御Yが起動されていない間は「0」が代入され、モータ保護制御Yが起動されると「1」が代入される。モータ保護制御Yが未だ起動されていない場合には(S5:NO)、条件グループB処理を実行する(S6)。
モータ保護制御Yが既に起動されている場合には(S5:YES)、条件グループB処理を実行する必要がないため、次にモータ保護制御Zが起動されたか否かについて起動済みフラグFzを参照する(S7)。起動済みフラグFzも、起動済みフラグFxと同様に、モータ保護制御Zが起動されていない間は「0」が代入され、モータ保護制御Zが起動されると「1」が代入される。モータ保護制御Zが未だ起動されていない場合には(S7:NO)、条件グループC処理を実行する(S8)。
モータ保護制御Zが既に起動されている場合には(S7:NO)、条件グループC処理を実行する必要がないため、次にモータ保護制御Wが起動されているか否かについて起動済みフラグFwを参照する(S9)。起動済みフラグFzも、起動済みフラグFxと同様に、モータ保護制御Wが起動されていない間は「0」が代入され、モータ保護制御Zが起動されると「1」が代入される。モータ保護制御Wが未だ起動されていない場合には(S9:NO)、条件グループD処理を実行する(S10)。モータ保護制御Wが既に起動されている場合には(S9:YES)、本モータ保護制御処理を終了する。
次に、図10を参照して条件グループA−Dの各処理を説明する。まず条件グループA処理から説明する。図10(A)に示すように、パワーコントローラ50は、モータ保護制御処理のステップS2により取得して参照が可能になっている、システム電圧VH(電圧コンバータ20の昇圧電圧)、モータ8の回転数、コイル温度、ハイブリッド車2の周囲空間の気圧、モータ8に対する要求トルク、制御モード、PWMのキャリア周波数及び変調率から、前述した条件グループAに含まれるすべての条件を満たすか否かを判定する(S11)。
すなわち、システム電圧VHが350V以上であり、モータ8のコイル温度が140℃以上であり、ハイブリッド車2の周囲空間の気圧が50kPa以下であり、モータ8の出力トルクが100Nm以上であり、モータ8の回転数が4000rmp以下であり、モータ8の制御モードが正弦波PWMであり、キャリア周波数が3〜5kHzである場合には、条件グループAのすべてを満たす。この場合には、想定部位である、U相コイル8uの始端Tu(コイルUa)とV相コイル8vのほぼ真ん中に位置するコイルVxとの間において、部分放電が生じ易くなっている(即ち、絶縁性の劣化が進行し易くなっている)。
パワーコントローラ50は、条件グループAのすべてを満たす場合には(S11:YES)、スイッチング素子31−36による現在のスイッチング動作の回数Sa(スイッチング回数)を算出する(S12)。スイッチング回数Saの算出は、例えば、現在のキャリア周波数と変調率に基づいて行われ、例えば、モータ保護制御処理の実行周期の1周期時間に行われるスイッチング動作の回数Saが求められる。条件グループAのいずれかを1つでも満たしていない場合には(S11:NO)、条件グループA処理を終了してモータ保護制御処理(図9)に戻る。
次に、パワーコントローラ50は、前回記憶したスイッチング動作の総回数Naに今回算出したスイッチング動作の回数Saを加算し、その結果を新たな総回数Naとしてメモリに記憶する(S13)。そして、予め設定されている所定の閾値Caと新たな総回数Naとを比較して、新たな総回数Naが所定の閾値Caを超えているか否かを判定する(S14)。所定の閾値Caは、モータ8の各相コイル8u、8v、8wの絶縁皮膜の材質や膜厚、最大許容印加電圧などに基づいて、実験やコンピュータシミュレーションの結果から決定される。また、出荷検査のデータなどに基づいて個別具体的に定めたり、補正値を加算したりしてもよい。
そして、新たな総回数Naが所定の閾値Caを超えている場合には(S14:YES)、モータ保護制御Xを起動し(S15)、新たな総回数Naが所定の閾値Caを超えていない場合には(S14:NO)、未だモータ保護制御Xを起動する必要がないことから、本条件グループA処理を終了して、モータ保護制御処理(図9)に戻る。モータ保護制御Xは、前述したように、例えば、インバータ30のスイッチング動作の速度(スイッチングスピード)を低下させる制御である。これにより、モータ8に誘起されるサージ電圧値が低下することから、想定部位での部分放電の発生が抑制される。
パワーコントローラ50は、モータ保護制御Xを起動すると(S15)、モータ保護制御Xに対応する起動済みフラグFxに「1」を代入して(S16)、本条件グループA処理を終了する。そして、モータ保護制御処理(図9)に戻る。
条件グループB処理〜条件グループD処理についても、条件グループA処理とほぼ同様に行われる。そのため、これらについては、相違する処理について詳細に説明し、共通する処理については説明を簡略にする。図10(B)に示すように、条件グループB処理では、パワーコントローラ50は、システム電圧VHなどから、前述した条件グループBに含まれるすべての条件を満たすか否かを判定する(S21)。
すなわち、システム電圧VHが350V以上であり、モータ8のコイル温度が150℃以上であり、ハイブリッド車2の周囲空間の気圧が60kPa以下であり、モータ8の出力トルクが50〜100Nmであり、モータ8の回転数が1500rmp以下であり、制御モードが正弦波PWMであり、キャリア周波数が5kHzである場合には、条件グループBのすべてを満たすため(S21:YES)、ステップS22以降の処理を実行する。ステップS22にて、パワーコントローラ50は、スイッチング素子31−36による現在のスイッチング動作の回数Sb(スイッチング回数)を算出する。この場合には、想定部位である、U相コイル8uの始端Tu(コイルUa)とV相コイル8vの始端Tv(コイルVa)との間において、部分放電が生じ易くなっている。これに対して、条件グループBのいずれかを1つでも満たしていない場合には(S21:NO)、本条件グループB処理を終了してモータ保護制御処理(図9)に戻る。
次に、パワーコントローラ50は、前回記憶したスイッチング動作の総回数Nbに今回算出したスイッチング動作の回数Sbを加算し、その結果を新たな総回数Nbとしてメモリに記憶する(S23)。そして、予め設定されている所定の閾値Cbと新たな総回数Nbとを比較して、新たな総回数Nbが所定の閾値Cbを超えているか否かを判定する(S24)。所定の閾値Cbは、後述する理由により、例えば、所定の閾値Caよりも小さい値に定められる(Cb<Ca)。
そして、新たな総回数Nbが所定の閾値Cbを超えている場合には(S24:YES)、モータ保護制御Yを起動し(S25)、新たな総回数Nbが所定の閾値Cbを超えていない場合には(S24:NO)、本条件グループB処理を終了して、モータ保護制御処理(図9)に戻る。モータ保護制御Yは、前述したように、例えば、インバータ30のスイッチング制御のキャリア周波数を低下させる制御である。これにより、モータ8のスイッチング回数が減るため、モータ8の劣化の到来時期を遅らせることになる。モータ保護制御Yは、モータ8の劣化を防ぐものではないことから、モータ保護制御X、Z、Wよりも早い時期に当該モータ保護制御Yを実行する方が望ましい。そのため、所定の閾値Cbは、所定の閾値Caよりも小さい値に設定することを推奨する。
パワーコントローラ50は、モータ保護制御Yの起動(S25)を終えると、モータ保護制御Yに対応する起動済みフラグFyに「1」を代入して(S26)、本条件グループB処理を終了する。そして、モータ保護制御処理(図9)に戻る。
図10(C)に示すように、条件グループC処理では、パワーコントローラ50は、システム電圧VHなどから、前述した条件グループCに含まれるすべての条件を満たすか否かを判定する(S31)。
すなわち、システム電圧VHが550V以上であり、モータ8のコイル温度が160℃以上であり、ハイブリッド車2の周囲空間の気圧が80〜90kPaであり、変調率が0.66〜0.68であり、制御モードが過変調PWMであり、キャリア周波数が2kHzである場合には、条件グループCのすべてを満たすため(S31:YES)、ステップS32以降の処理を実行する。ステップS32では、パワーコントローラ50は、スイッチング素子31−36による現在のスイッチング動作の回数Sc(スイッチング回数)を算出する。この場合には、想定部位である、U相コイル8uの始端Tu(コイルUa)とU相コイル8uのほぼ真ん中に位置するコイルUxとの間において、部分放電が生じ易くなっている。これに対して、条件グループCのいずれかを1つでも満たしていない場合には(S31:NO)、本条件グループC処理を終了してモータ保護制御処理(図9)に戻る。
次に、パワーコントローラ50は、前回記憶したスイッチング動作の総回数Ncに今回算出したスイッチング動作の回数Scを加算し、その結果を新たな総回数Ncとしてメモリに記憶する(S33)。そして、予め設定されている所定の閾値Ccと新たな総回数Ncとを比較して、新たな総回数Ncが所定の閾値Ccを超えているか否かを判定する(S34)。所定の閾値Ccは、後述する理由により、例えば、所定の閾値Caよりも小さい値、かつ、所定の閾値Cbよりも大きい値に定められる(Cb<Cc<Ca)。
そして、新たな総回数Ncが所定の閾値Ccを超えている場合には(S34:YES)、モータ保護制御Zを起動し(S35)、新たな総回数Ncが所定の閾値Ccを超えていない場合には(S34:NO)、本条件グループC処理を終了して、モータ保護制御処理(図9)に戻る。モータ保護制御Zは、前述したように、例えば、モータ8の制御モードを矩形波電圧に変更する制御である。これにより、部分放電が発生し難くなることから、部分放電に起因する絶縁性の劣化を抑えることができる。但し、標高の低い道路は、標高の高い山道などに比べると、ハイブリッド車2の走行頻度が高いことから、標高の高い山道を走行する場合に比べて早い時期に当該モータ保護制御Zを起動する方が望ましい。そのため、所定の閾値Ccは、所定の閾値Caよりも小さい値に設定することを推奨する。
パワーコントローラ50は、モータ保護制御Zの起動(S35)を終えると、モータ保護制御Zに対応する起動済みフラグFzに「1」を代入して(S36)、本条件グループC処理を終了する。そして、モータ保護制御処理(図9)に戻る。
図10(D)に示すように、条件グループD処理では、パワーコントローラ50は、システム電圧VHなどから、前述した条件グループDに含まれるすべての条件を満たすか否かを判定する(S41)。
すなわち、システム電圧VHが350V以上であり、モータ8のコイル温度が170℃以上であり、ハイブリッド車2の周囲空間の気圧が55kPa以下であり、モータ8の出力トルクが30Nm以上であり、モータ8の回転数が500rmp以下であり、制御モードが正弦波PWMであり、キャリア周波数が5kHzである場合には、条件グループDのすべてを満たす場合(S41:YES)、パワーコントローラ50は、ステップS42以降の処理を実行する。ステップS42において、パワーコントローラ50は、スイッチング素子31−36による現在のスイッチング動作の回数Sd(スイッチング回数)を算出する。この場合には、想定部位である、U相コイル8uの真ん中よりも中性点Tn側に位置するコイルUxと接地電位との間において、部分放電が生じ易くなっている。これに対して、条件グループDのいずれかを1つでも満たしていない場合には(S41:NO)、本条件グループD処理を終了してモータ保護制御処理(図9)に戻る。
次に、パワーコントローラ50は、前回記憶したスイッチング動作の総回数Ndに今回算出したスイッチング動作の回数Sdを加算し、その結果を新たな総回数Ndとしてメモリに記憶する(S43)。そして、予め設定されている所定の閾値Cdと新たな総回数Ndとを比較して、新たな総回数Ndが所定の閾値Cdを超えているか否かを判定する(S44)。所定の閾値Cdは、例えば、所定の閾値Caと同様に定められる。
そして、新たな総回数Ndが所定の閾値Cdを超えている場合には(S44:YES)、モータ保護制御Wを起動し(S45)、新たな総回数Ndが所定の閾値Cdを超えていない場合には(S44:NO)、本条件グループD処理を終了して、モータ保護制御処理(図9)に戻る。モータ保護制御Wは、前述したように、例えば、システム電圧VHを低下させる制御である。これにより、部分放電が発生し難くなることから、絶縁性の劣化の進行を抑えることができる。
パワーコントローラ50は、モータ保護制御Wの起動(S45)を終えると、モータ保護制御Wに対応する起動済みフラグFwに「1」を代入して(S46)、本条件グループD処理を終了する。そして、モータ保護制御処理(図9)に戻る。
なお、各モータ保護制御X、Y、Z、Wが起動されているか否かについての判定処理(S3、S5、S7、S9)と、それらに続く条件グループA、B、C、Dの各処理(S4、S6、S8、S10)は、直列に処理する必要はなく、例えば、夫々を並列に実行してもよい。
また、各モータ保護制御X、Y、Z、Wに対応する各起動済みフラグFx、Fy、Fz、Fwのすべてに「1」が代入された場合、すなわち各モータ保護制御X、Y、Z、Wがすべて起動された場合には、モータ8のU相コイル8u、V相コイル8v及びコイルWa−Wnが絶縁性が著しく低下しているおそれがある。そのため、各起動済みフラグFx、Fy、Fz、Fwの全てに「1」が代入されているか否かを判定する処理と、モータ8の各相コイル8u、8v、8wの絶縁性の低下情報をパワーコントローラ50から上位のコントローラに伝達する処理と、を図9に示すモータ保護制御処理に加えてもよい。これにより、例えば、モータ8の交換時期の到来を知らせるアラート情報を、ハイブリッド車2のインスツルメントパネルなどに表示することが可能になる。
実施例で説明した技術をまとめると、以下のとおりである。実施例のPCU5(モータの駆動装置)は、スイッチング素子31−36のスイッチング動作により直流電力を交流電力に変換し当該交流電力をモータ8に供給する電力変換装置10と、スイッチング動作を制御するパワーコントローラ50と、を備えている。そして、パワーコントローラ50は、モータ8の動作環境として、部分放電が発生する可能性の高いモータ8の部位毎に、その部位における絶縁性の劣化に関連性の高い動作条件グループを設定する。実施例では、モータ8の4つの部位に対して、条件グループA―Dを設定した。パワーコントローラ50は、複数の条件グループA−Dの夫々の動作環境下において、モータ8が動作しているときにスイッチング素子31−36のスイッチング回数Sa−Sdを条件グループ毎に積算する(S12、S22、S32、S42)。パワーコントローラ50は、条件グループA−D毎に積算されるスイッチング回数Sa−Sdが、複数の条件グループA−D毎に設定されている所定の閾値Ca−Cdを超えた場合(S14:NO、S24:NO、S34:NO、S44:NO)には、所定の閾値Ca−Cdを超えた条件グループA−Dについて予め決められている所定のモータ保護制御X、Y、Z、Wを行う。
これにより、条件グループA−D毎に設定されている所定の閾値Ca−Cdに過剰に大きなマージンを持たせる必要がなくなる。そのため、モータ8の絶縁性を確保しつつモータ8の動作条件を制限する時期を遅らせることが可能になる。すなわち、モータ8の性能を十分に活用することができる。また、条件グループA−D毎(モータ8の部位毎)に適した所定の保護制御X、Y、Z、Wを電力変換装置10に対して行うことが可能になる。またモータ8の各相コイル8u、8v、8wについて、最悪条件を考慮した過剰な耐電圧設計を行う必要がなくなるため、モータ8の部品コストを低減することができる。
実施例技術に関する留意点を述べる。PCU5がモータの駆動装置の一例に相当する。パワーコントローラ50がコントローラの一例に相当する。実施例では、ハイブリッド車の走行用モータの駆動装置を例に説明したが、本明細書が開示する技術は、ハイブリッド車のモータの駆動装置に限られない。本明細書が開示する技術は、自動車以外のモータの駆動装置に適用することも好適である。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書又は図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書又は図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。