JP6698828B2 - 向上した力学的特性を有する熱可塑性組成物 - Google Patents

向上した力学的特性を有する熱可塑性組成物 Download PDF

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Description

発明の詳細な説明
〔発明の概要〕
本発明は、向上した力学的特性を有する熱可塑性組成物であって、該熱可塑性組成物が60重量部〜80重量部の芳香族ポリカーボネートと20重量部〜40重量部のアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体とを含有し、上記芳香族ポリカーボネートが線形構造を有し、上記芳香族ポリカーボネートの分子量が、20,000g/mol〜35,000g/molの範囲にあり、上記アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体が、スチレンとアクリロニトリルとの重合体でグラフトされた60重量%以上のゴムと、40重量%以下であるスチレンとアクリロニトリルとの重合体とを含有することを特徴とする熱可塑性組成物に関する。
〔技術分野〕
本発明は、上記熱可塑性組成物に関わる化学分野のものである。
〔背景技術〕
ポリカーボネートは、高耐熱性、透明性、不燃性、高い寸法安定性、高光沢および高いガラス転移点などの多くの優れた特性を有するため、現在、車産業、電気器具産業および電子産業などの、多くの産業において幅広く用いられてきている熱可塑性物質の1種である。しかし、液抵抗および耐薬品性、耐候性、並びに、高い溶融粘度などのポリカーボネートの特性の一部が、一部用途を制限してしまっている。それゆえ、射出プロセス中にポリカーボネートの粘度を低減するために、該射出プロセスを高温で実施させる。そのため、ポリカーボネートを他のポリマーと共にポリマーブレンドまたはポリマー合金として混合することにより上記問題を克服しようとする試みがいくつか行われてきた。
まず、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン重合体(ABS)をポリカーボネートと混合することにより、上記問題を克服し、ポリカーボネートの衝撃強度特性を向上できることが知られている。しかし、一般的に、ポリカーボネート/アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(PC/ABS)は、屋外用途に用いられて紫外線に晒されると、ブタジエン中の二重結合の劣化により、耐候性を低下させてしまう。これは、ポリカーボネート/アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンの衝撃強度を低下させ、材質の色を変化させてしまう。したがって、ポリカーボネートの他の良好な特性を維持しつつ上記問題を解決しようとする試みがいくつか行われてきた。
今までに、ポリカーボネートブレンドにおいて、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン重合体の代わりにアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体(ASA)を使用することでポリカーボネートの特性を向上できたことが開示された。また、これにより、ポリカーボネートの耐候性も向上する。これは、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体がアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン重合体よりも紫外線に対して安定であるためである。しかし、ポリカーボネートと比べて屈折率が低いことがアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体の限界である。これにより、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体がポリカーボネートと混合される際に非融和性を生じる。
US3891719には、20重量%〜50重量%のポリカーボネートと80重量%〜20重量%のアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体とを含有する熱可塑性組成物が開示された。しかし、得られた組成物の衝撃強度は約300J/mと低いことが分かった。これにより、高い強度特性が必要な一部の用途での上記組成物の使用は制限されてしまう。
US4839426には、25重量%〜87重量%のポリカーボネートと10重量%〜75重量%のアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体を含有する熱可塑性組成物であって、ポリカーボネートとアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体との融和性のために炭酸ポリスルホン共重合体の添加を必要とする熱可塑性組成物が開示された。
US7563846には、50重量%〜98重量%のポリカーボネートおよび1重量%〜30重量%のアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体、並びに、低光沢添加剤を含有する熱可塑性組成物が開示された。結果として得られた組成物は、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体の比率が相対的に低いため、高い衝撃強度を有していた。しかし、上記特許の組成物の低光沢は、自動車部品、電気器具のハウジング、および自動車の外装装飾用品など、高光沢特性を求める用途での該組成物の使用を制限し得る。
Ye Han 他(Polym. Bull.,2009,62,855-866)は、ポリカーボネート、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体、および、スチレン−アクリロニトリル共重合体(SAN)の熱可塑性組成物を開示した。この研究により、結果として得られた重合体の衝撃強度へのアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体の量の影響が明らかにされた。アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体の量が増えると、衝撃強度が高まることがわかった。20重量%のアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体により、600J/mの最高衝撃強度がもたらされた。しかし、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体の量が20重量%よりも多くなると、いくつかの特性、特に衝撃強度が、劇的に低下してしまうことが分かった。
WO0236688には、向上した衝撃強度を有する熱可塑性組成物が開示された。上記組成物は、5重量%〜95重量%のポリカーボネートおよび5重量%〜70重量%のアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体を含有し、さらに400,000〜1,500,000の範囲の高分子量を有するアクリル共重合体を2.5重量%〜5重量%の比率で含有した。上記高分子量アクリル共重合体は、上記熱可塑性組成物の衝撃強度を向上できたことが分かった。
US6476126には、20重量%〜40重量%のアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体、10重量%〜30重量%のスチレン−アクリロニトリル共重合体、および30重量%〜70重量%のポリカーボネートを含有する熱可塑性組成物が開示された。上記特許により、コアとしてポリスチレンを有し、シェルとしてアクリレートを有するコアシェル構造を含む、重合体でグラフトされたアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体が、光沢特性およびヘーズ特性を向上できたことが明らかにされた。
上記の理由から、本発明の目的は、組成物の用途、特に屋外用途を広げるために、向上した力学的特性、高光沢および高い耐候性を有する熱可塑性組成物を開発することである。
本発明は、向上した力学的特性を有する熱可塑性組成物であって、該熱可塑性組成物が60重量部〜80重量部の芳香族ポリカーボネートと20重量部〜40重量部のアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体とを含有し、上記芳香族ポリカーボネートが線形構造を有し、上記芳香族ポリカーボネートの分子量が、20,000g/mol〜35,000g/molの範囲にあり、上記アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体が、スチレンとアクリロニトリルとの重合体でグラフトされた60重量%以上のゴムと、40重量%以下であるスチレンとアクリロニトリルとの重合体とを含有することを特徴とする熱可塑性組成物に関する。
〔図面の簡単な説明〕
図1は、比較試料Aと本発明に係る試料1aとの間の力学的特性および熱的特性の比較を比較パーセントで示す図である。
図2は、比較試料Aと本発明に係る試料2aとの力学的特性および熱的特性の比較を比較パーセントで示す図である。
図3は、比較試料Bと本発明に係る試料1bとの間の力学的特性および熱的特性の比較を比較パーセントで示す図である。
図4は、比較試料Bと本発明に係る試料2bとの間の力学的特性および熱的特性の比較を比較パーセントで示す図である。
図5は、比較試料Cと本発明に係る試料1cとの間の力学的特性および熱的特性の比較を比較パーセントで示す図である。
図6は、比較試料Cと本発明に係る試料2cとの間の力学的特性および熱的特性の比較を比較パーセントで示す図である。
図7は、本発明に係る試料1a、2a、1b、2b、1c、および2cの耐候特性を示す図である。
図8は、本発明に係る試料1a、2b、および1cの光沢特性を示す図である。
〔本発明の詳細な説明〕
本発明は、以下の説明に説明される向上した力学的特性を有する熱可塑性組成物に関する。
特記しない限り、本明細書において言及されるいずれの特徴も、該特徴と他の特徴とを用いた適用例を含むことを意図する。
(定義)
本明細書中で用いられる技術用語または科学用語の定義は、特記しない限り、当業者によって理解される定義である。
ここで言及される工具、装置、方法、または化学物質のいずれも、本発明において特別に用いられる工具、装置、方法、または化学物質であるものと詳細に記載しない限り、当業者によって通常操作される、または、用いられる工具、装置、方法、または化学物質を意味する。
本請求項または本明細書において「含有する」とともに単数名詞または単数代名詞を使用する場合、「1」および「1以上」、「少なくとも1」、および「1または複数の」であることを指す。
本出願全体にわたって、用語「約」は、本願に提示または示される値のいずれも潜在的に変動し記載の値からずれる可能性があることを示すのに用いられる。このような値の変動またはずれは、装置または方法の誤り、または、装置または方法を実行する個々の作業者に起因する。
「phr」は、熱可塑性組成物100部あたりに添加される添加剤の比率を表す。特記しない限り、phrは、重量で計算される。
「力学的特性」は、組成物、物品、熱可塑性物質、または重合体の特性であって、張力、圧縮、剪断力、または繰り返し応力のような外力の作用がある場合に変化する特性を指す。本明細書において、力学的特性は、応力、歪み、柔軟性、強靱性、衝撃強度、引張係数、引張強度、曲げ弾性率、曲げ強度または耐候性を含むが、これらに限定されない。
本発明のいかなる範囲を限定することも目的とせずに、以下に発明の説明を示す。
本発明は、向上した力学的特性を有する熱可塑性組成物であって、該芳香族ポリカーボネートが60重量部〜80重量部の芳香族ポリカーボネートと20重量部〜40重量部のアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体とを含有し、
上記芳香族ポリカーボネートが線形構造を有し、上記芳香族ポリカーボネートの分子量が、20,000g/mol〜35,000g/molの範囲にあり、上記アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体が、スチレンとアクリロニトリルとの重合体でグラフトされた60重量%以上のゴムと、40重量%以下であるスチレンとアクリロニトリルとの重合体とを含有することを特徴とする熱可塑性組成物に関する。
一実施形態において、上記芳香族ポリカーボネートは、以下の構造を有する:
式中、nは75から140の整数である。
上記芳香族ポリカーボネートは、22,000g/mol〜27,000g/molの範囲の分子量を有することが好ましい。
本発明の一実施形態において、上記芳香族ポリカーボネートは、10g/10分〜23g/10分の範囲のメルト・フロー・インデックスを有する。
一実施形態において、上記芳香族ポリカーボネートは、エステル交換触媒の存在下で、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジアリールエステルとの溶融重合により作製される。本発明に係る上記芳香族ポリカーボネートは、非ホスゲン法により作製されることが好ましい。
上記ジヒドロキシ化合物は、ビスフェノール、2価フェノールエーテル、ジヒドロキシアリールスルホン、または、ジヒドロキシベンゼンであってもよい。上記ビスフェノールは、(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、および2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンから選択することができるが、これらに限定されない。上記2価フェノールエーテルは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、および、ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)エーテルから選択することができるが、これらに限定されない。上記ジヒドロキシアリールスルホンは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、および、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホンから選択することができるが、これらに限定されない。上記ジヒドロキシベンゼンは、1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジヒドロキシベンゼン、ハロ置換ジヒドロキシベンゼンおよびアルキル置換ジヒドロキシベンゼンから選択することができるが、これらに限定されない。上記ジヒドロキシ化合物は、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンまたは2価フェノールエーテルであることが好ましい。
上記アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体は、アクリレートまたはアクリレート共重合体を中に分散したスチレン−アクリロニトリルマトリックスを含有するスチレン共重合体である。アクリレート(共)重合体粒子は、上記スチレン−アクリロニトリルマトリックスにアクリレート(共)重合体粒子を良好に分散させるために、スチレン−アクリロニトリル鎖にグラフトされていてもよい。
一実施形態において、上記アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体を乳化重合により作製し、スチレン−アクリロニトリル重合体と再混合することによって、該アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体が望ましい特性を有するように改善してもよい。
上記アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体は、スチレンとアクリロニトリルとの重合体でグラフトされた約60重量%〜70重量%のゴムと、約30重量%〜40重量%のスチレンとアクリロニトリルとの重合体とを含有することが好ましい。
一実施形態において、上記アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体は、約100,000g/mol〜170,000g/molの範囲の分子量、好ましくは約120,000g/mol〜150,000g/molの範囲の分子量を有していてもよい。
一実施形態において、上記スチレンとアクリロニトリルとの重合体でグラフトされたゴムは、乳化重合により作製される。
一実施形態において、上記ゴムは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸−2−メチルプロピル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ヒドロキシエチル、および、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピルから選択される少なくとも1つのモノマーから作製されるアクリル酸ゴムである。上記ゴムは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、および、アクリル酸ヘキシルから選択される少なくとも1つのモノマーから作製されるアクリル酸ゴムであることが好ましい。
一実施形態において、上記スチレンとアクリロニトリルとの重合体は、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、3−メチルスチレン、および、これらの混合物から選択されるスチレンを含有する。上記スチレンとアクリロニトリルとの重合体は、スチレン、α−メチルスチレン、および、これらの混合物から選択される上記スチレンを含有することが好ましい。
一実施形態において、上記熱可塑性組成物は、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、および、これらの混合物から選択される添加剤をさらに含有していてもよい。
一実施形態において、上記酸化防止剤は、有機リン酸エステルおよびヒンダードフェノールから選択されてもよく、ヒンダードフェノールであることが好ましい。
上記酸化防止剤は、チオプロピオン酸ジステアリル、チオプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジトリデシル、プロピオン酸オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)、および、プロピオン酸ペンタエリトリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)]から選択されるヒンダードフェノールであることが最も好ましい。
一実施形態において、上記酸化防止剤は、0.3phr〜0.7phrの範囲で用いられてもよい。
一実施形態において、上記熱可塑性組成物の衝撃強度は、550J/mより大きく、550J/m〜750J/mの範囲であることが好ましい。
本発明の別の態様において、本発明は、本発明に係る上記熱可塑性組成物から作製される物品に関連し、該物品の加工方法は、上記熱可塑性組成物の一般的な加工方法であり、限定はされないが、押し出し成形、圧縮成形、射出成形、および注型成形から選択してもよい。
以下の実施例は、本発明のいかなる範囲を限定することも目的とせずに、本発明をさらに説明するために提示される。
(化学物質)
Chi Mei Corporation より販売された、分子量が約25,000g/molの芳香族ポリカーボネートPC110が本発明に係る試料の作製に用いられた。
Chi Mei Corporation より販売された、分子量が約145,000g/molのアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体 KIBILAC 997が本発明に係る試料の作製に用いられた。上記アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体 KIBILAC 997は、スチレン−アクリロニトリル重合体でグラフトされた約60重量%〜70重量%のアクリル酸ゴムと、約30重量%〜40重量%のスチレン−アクリロニトリル重合体とを含有していた。
Chi Mei Corporation より販売された、分子量が約125,000g/molのアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体 KIBILAC 978が本発明に係る試料の作製に用いられた。上記アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体 KIBILAC 978は、スチレン−アクリロニトリル重合体でグラフトされた約60重量%〜70重量%のアクリル酸ゴムと、約30重量%〜40重量%のスチレン−アクリロニトリル重合体とを含有していた。
Adeka Fine Chemical より販売された酸化防止剤 ADK STAB AO 50 が本発明に係る試料の作製に用いられた。
DIC Corporation より販売されたカーボンブラックが、本発明に係る試料の作製に用いられた。
Samsung SDI Chemicalにより販売された、密度が1.16g/cmであり、ポリカーボネートとアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体との重量比が約80:20であるWR7350が比較試料Aとして用いられた。
Sabic により販売された、密度が1.15g/cmであり、ポリカーボネートとアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体との重量比が約70:30であるGeloy XTPM 307が比較試料Bとして用いられた。
LG Chem により販売された、密度が1.14g/cmであり、ポリカーボネートとアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体との重量比が約60:40であるLupoy EU5008が比較試料Cとして用いられた。
(本発明に係る試料の作製)
本発明は、以下の方法で作製できる、向上した力学的特性を有する熱可塑性組成物を示す。
使用前に、上記芳香族ポリカーボネートを約110℃の温度で4時間、真空オーブン内で乾燥させ、上記アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体を約90℃の温度で4時間、真空オーブン内で乾燥させた。その後、直径が約24mmのスクリュを有する2軸押出機(Thermo Haake RheoMex PTW24-MC)を用いて、表1に示す様々な組成および比率を有する熱可塑性組成物を、溶融混合法により混合して作製した。上記2軸押出機の全領域の温度は、約210℃〜240℃に制御された。その後、得られた混合物は、水中で冷却され、ペレッタイザーでペレット化された。上記ペレット化された熱可塑性組成物を約90℃の温度で4時間、真空オーブン内で乾燥させた。その後、特性を試験するための試料を作製するために、上記ペレット化された試料は、約240℃〜250℃の温度で、射出成形機(Toshiba EC100II2A)で成形された。
以下に記載するのは、本発明に係る熱可塑性組成物から作製された試料の特性試験である。該特性試験で用いられる方法および装置は、通常用いられるものであり、本発明の範囲を限定することを意図していない。
(密度)
密度は、ASTM D 792-00に従って、水中置換法によって測定された。試験試料の寸法は、20mm×35mm×3mmであった。上記試験は、室温で行われた。
(メルト・フロー・インデックス)
メルト・フロー・インデックスは、ASTM D 1238に従って、メルト・フロー・インデックスサー(Davenport Lloyd Instrumentsのモデル10)によって、5kgの重量下、約260℃の温度で測定された。
(衝撃強度)
衝撃強度は、ASTM D 256に従って、切欠きアイゾット衝撃試験によりInstron InstrumentのCEAST モデル 9310を用いて測定された。上記試験試料の長さは約63mm、幅は約12.7mm、そして厚さは約3mmであった。各試料の中央に2mmの深さの切欠きが入れられた。
(引張係数および引張強度)
引張係数および引張強度は、ASTM D 638に従って、長さ3mmの犬の骨状に成形した試料を用いて、Instron Instumentのモデル 5567によって測定した。引張試験速度は約50mm/分であり、ゲージ長は約25mmであった。
(曲げ弾性率および曲げ強度)
曲げ弾性率および曲げ強度は、ASTM D 790に従って、圧縮率約1.3mm/分で、3.2mmの厚さの棒状に成形した試料を用いて、Instron Instumentのモデル 5567によって測定した。
(熱変形温度およびビカット軟化温度(VICAT軟化温度))
熱変形温度およびビカット軟化温度は、それぞれASTM D 648およびASTM D 1525に従って、3.2mmの厚さの棒状に成形した試料を用いて、CEAST HDTによって測定した。上記HDTは、約1.8MPaの応力下で試験し、ビカット軟化温度は、約5kgの荷重下で試験した。
(耐候性)
耐候性は、ASTM G 154に従って、QUVウェザロメーター モデル Q-Sprayを用いて、加速天気シミュレーションによって測定した。試験試料は、上記衝撃強度試験用と同じ形、かつ、同じサイズに成形した。その後、1試験サイクルにつき1週間まで、約8時間の光強度約0.48ワット/mのUVB照射と4時間の暗状態での水噴霧とを交互に行うQUVに上記試料を供した。その後、上記衝撃強度を測定するために、上記UVB光に晒された試料を各週に試験した。UVB露光していない初期衝撃強度に対する各回での衝撃強度の比率から、相対衝撃強度パーセントを算出した。
(光沢)
光沢は光沢計を用いて測定した。60の値を有する上記光沢計に対して試験試料の試験領域が面するように、上記試験試料を水平に配置した。その後、4つの角部と中央部との全5つの試験領域が上記光沢計に対して面するように位置を変更した。上記光沢結果は、上記5領域の平均値であった。その結果を図8に示す。
表1は、熱可塑性組成物資料の組成を示す。
表2は、熱可塑性組成物資料の特性を示す。
表2は、比較試料および本発明に係る試料の上記衝撃強度、メルト・フロー・インデックス、および密度の特性を示す。上記表より、それぞれ芳香族ポリカーボネートとアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体との組成の比率が同じである、上記比較試料Aを上記試料1aおよび2aと比較、上記比較試料Bを上記試料1bおよび2bと比較、並びに、上記比較試料Cを上記試料1cおよび2cと比較すると、本発明に係る上記試料の方が上記比較試料よりも高い衝撃強度を生じていたことが分かる。特に、80重量部の芳香族ポリカーボネートと20重量部のアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体とを含有する、本発明に係る上記試料2aの衝撃強度は、最大という結果になる。
さらに、本発明に係る上記試料1aと2aとの比較、上記試料1bと2bとの比較、および上記試料1cと2cとの比較をすると、分子量がより高いアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体を含有する上記試料2a、2b、および2cが、それぞれ上記試料1a、1b、および1cよりも高い衝撃強度を生じることが分かる。
図1および図2は、それぞれ、上記比較試料Aと本発明に係る上記試料1aおよび2aのそれぞれとの力学的特性および熱的特性の比較を表す。本発明に係る上記試料の引張強度、引張係数、曲げ弾性率、曲げ強度、衝撃強度、熱変形温度、およびビカット軟化温度の方が高いことから明らかなように、本発明に係る上記試料がより良好な力学的特性および熱的特性をもたらすことが観察できる。
図3および図4は、それぞれ、上記比較試料Bと本発明に係る上記試料1bおよび2bのそれぞれとの力学的特性および熱的特性の比較を表す。本発明に係る上記試料1bおよび2bが、上記力学的特性は高いままで、大幅に高くなったメルト・フロー・インデックスをもたらすことが明確に観察できる。
図5および図6は、それぞれ、上記比較試料Cと本発明に係る上記試料1cおよび2cのそれぞれとの力学的特性および熱的特性の比較を表す。本発明に係る上記試料1cおよび2cの方がより高いメルト・フロー・インデックス、および、衝撃強度と引張強度とに関してより高い力学的特性をもたらすことが観察できる。
図7は、1週〜3週の間の耐候性を表す。重量比が60:40の芳香族ポリカーボネートとアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体とを含有する本発明に係る上記試料1cが最も高い耐候性をもたらすことが分かる。これは、上記相対衝撃強度パーセントの減少率が最低であることから説明できる。
上述の結果について、本発明に係る上記熱可塑性組成物は、本発明の目的に示されるように高光沢および耐候性と共に良好な力学的特性をもたらすと要約できる。
〔発明の最良の形態〕
発明の最良の形態は、本発明の説明に記載されている。
比較試料Aと本発明に係る試料1aとの間の力学的特性および熱的特性の比較を比較パーセントで示す図である。 比較試料Aと本発明に係る試料2aとの力学的特性および熱的特性の比較を比較パーセントで示す図である。 比較試料Bと本発明に係る試料1bとの間の力学的特性および熱的特性の比較を比較パーセントで示す図である。 比較試料Bと本発明に係る試料2bとの間の力学的特性および熱的特性の比較を比較パーセントで示す図である。 比較試料Cと本発明に係る試料1cとの間の力学的特性および熱的特性の比較を比較パーセントで示す図である。 比較試料Cと本発明に係る試料2cとの間の力学的特性および熱的特性の比較を比較パーセントで示す図である。 本発明に係る試料1a、2a、1b、2b、1c、および2cの耐候特性を示す図である。 本発明に係る試料1a、2b、および1cの光沢特性を示す図である。

Claims (15)

  1. 60重量部〜80重量部の芳香族ポリカーボネートと20重量部〜40重量部のアクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体とを含有する、向上した力学的特性を有する熱可塑性組成物であって、
    上記芳香族ポリカーボネートが線形構造を有し、前記芳香族ポリカーボネートの分子量が、20,000〜35,000の範囲にあり、
    上記アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体が、スチレンとアクリロニトリルとの重合体でグラフトされた60重量%〜70重量%アクリルゴムと、30重量%〜40重量%のスチレンとアクリロニトリルとの重合体とを含有することを特徴とする熱可塑性組成物。
  2. 上記芳香族ポリカーボネートが以下の構造を有することを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性組成物;
    式中、nは75から140の整数である。
  3. 上記芳香族ポリカーボネートが、22,000〜27,000の範囲の分子量を有することを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性組成物。
  4. 上記芳香族ポリカーボネートが、10g/10分〜23g/10分の範囲のメルト・フロー・インデックスを有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性組成物。
  5. 上記芳香族ポリカーボネートが、非ホスゲン法を用いて溶融重合より作製されることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性組成物。
  6. 上記アクリロニトリル−スチレン−アクリレート重合体が、120,000〜150,000の範囲の分子量を有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性組成物。
  7. 上記スチレンとアクリロニトリルとの重合体でグラフトされたアクリルゴムが、乳化重合により作製されることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性組成物。
  8. 上記アクリルゴムが、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、およびアクリル酸ヘキシルから選択される少なくとも1つのモノマーから作製されるアクリル酸ゴムであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性組成物。
  9. 上記スチレンとアクリロニトリルとの重合体が、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、3−メチルスチレン、および、これらの混合物から選択されるスチレンを含有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性組成物。
  10. 上記スチレンとアクリロニトリルとの重合体が、スチレン、α−メチルスチレン、および、これらの混合物から選択される上記スチレンを含有することを特徴とする請求項に記載の熱可塑性組成物。
  11. 上記熱可塑性組成物が、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、および、これらの混合物から選択される添加剤を更に含有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性組成物。
  12. 上記酸化防止剤が、ヒンダードフェノールであることを特徴とする請求項11に記載の熱可塑性組成物。
  13. 上記酸化防止剤は、0.3phr〜0.7phrの範囲で用いられることを特徴とする請求項11に記載の熱可塑性組成物。
  14. 550J/m〜750J/mの範囲の衝撃強度を有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性組成物。
  15. 請求項1に記載の熱可塑性組成物から作製された物品。
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