以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。なお、以下の実施形態の説明に用いる全図においては、特に理由がない限り、同様箇所には同一符号を付す。また、以下の実施形態において、同様の構成・動作に関しては繰り返しの説明を省略する場合がある。
(第1の実施形態)
(構成)
まず、図面を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る検査装置について説明する。本実施形態の検査装置の検査対象は、リチウムイオン二次電池の導電層である活物質層(合剤層とも呼ぶ)の上に絶縁層が少なくともその活物質層の表面の一部を被覆するように層状に積層された構造を有する電極体である。本実施形態の検査装置は、導電層を被覆する絶縁層を検査する。
図1〜図3は、本実施形態の検査装置1に関する概念図である。なお、図1〜図3は、本実施形態の検査装置1を概念的に示すものであり、検査装置1の実際の形状や状態を示すものではない。
本実施形態の検査装置1は、探針11、荷重測定器12、電気抵抗測定器13および可動機構14を備える。なお、検査装置1を使用する際には、検査装置1を制御する制御装置が必要となるが、本実施形態においては制御装置に関する説明は省略する。図示しない制御装置は、検査装置1の本体に備えられていてもよいし、ネットワーク経由で検査装置1に接続されていてもよい。
検査装置1の検査対象である電極体20は、絶縁層21、活物質層22および集電体23を含む。活物質層22は、集電体23の主面上に形成される導電層である。絶縁層21は、集電体23の主面上に形成された活物質層22の表面の少なくとも一部を被覆する。
検査装置1によって電極体20を検査する際には、平坦な台18の上に電極体20を置く。台18は、探針11が電極体20を押している状態において変形しない程度の硬さを有する。また、電極体20を台18に固定できれば測定精度を向上できる。例えば、電極体20が、探針11の移動方向の延長線上の領域とは異なる箇所でテープや真空チャックによって台18に固定されていればよい。なお、台18は、探針11の先端が電極体20に接触して絶縁層21に突き刺さる際に、測定に支障が生じるほど大きな変形が生じないようであれば、必ずしも平坦である必要はない。
検査装置1は、探針11の先端と電気抵抗測定器13とを電気的に接続するための端子16(第1の端子ともよぶ)を含む。端子16は、探針11の先端と電気的に接続される。なお、探針11の先端と電気抵抗測定器13とを直接電気的に接続するのであれば、端子16を省略してもよい。
また、検査装置1は、検査対象である電極体20の活物質層22と電気抵抗測定器13とを電気的に接続するための端子17(第2の端子ともよぶ)を含む。図1〜図3においては、活物質層22と電気抵抗測定器13とを集電体23を介して電気的に接続する例を示す。例えば、活物質層22で被覆させていない集電体23の端部を端子17に接触させればよい。なお、端子17は、集電体23ではなく、測定対象である絶縁層21に少なくとも一部を被覆された活物質層22と電気的に接続される別の導電部品と接続されてもよい。
図1〜図3においては、電極体20の主面に対して略垂直に探針11を移動する例を示したが、探針11に向けて電極体20を移動させたり、探針11と電極体20とが互いに近づき合うように移動させたりしてもよい。
図1〜図3は、検査装置1の検査過程における状態を示す。図1は、探針11の先端部が電極体20の絶縁層21に接触する前の状態である。図2は、探針11の先端部が電極体20の絶縁層21に接触した時点の状態である。図3は、探針11の先端部が電極体20の絶縁層21を貫通して活物質層22に接触した時点の状態である。
電極体20の主面を被覆する絶縁層21の表面に探針11の先端部が到達する(図2)と、先端部は絶縁層21を突き破りながら電極体20の内部に向けて移動する。検査装置1は、荷重測定器12によって探針11が受ける荷重の変化を計測することで、探針11の先端部と絶縁層21との接触を検知する。
また、探針11の先端部が絶縁層21を貫通し活物質層22に到達する(図3)と、探針11の先端と活物質層22とが電気的に接続される。検査装置1は、電気抵抗測定器13によって探針11と集電体23との間の抵抗値の変化を計測することによって、絶縁層21が貫通されたことを検知する。
探針11は、一端に先端部を有し、他端が荷重測定器12に固定される。探針11の先端部は、絶縁層21を貫通するように尖っていることが好ましい。
探針11の先端部は、導電性を有し、端子16と電気的に接続される。例えば、探針11は、針状や棒状、板状の形状を有する。探針11は、絶縁層21を突き抜ける際に、探針11自体に大きな変形が生じない程度の強度を有する。なお、検査中に電極体20が変形すると絶縁層21の厚みを正確に測定できなくなる。そのため、探針11の先端部は、探針11が電極体20を突き抜ける際に電極体20に大きな変形を生じさせないように、細いあるいは薄い形状であることが好ましい。
例えば、探針11には、金属製の釘や針のように先端部が尖った棒状部材や、板状の先端部が尖った板状部材(刃物の刃のような形状)などを用いることができる。材質にもよるが、探針11の先端角は、10度〜60度の範囲内であり、尖っていることが好ましい。
例えば、探針11の先端角が10度よりも小さい場合、先端部分の強度が低下して測定中に先端が破損したり、先端部が変形したりする可能性がある。また、探針11の先端角が10度よりも小さい場合、先端部が活物質層22と接触した際に、接触抵抗が測定範囲外になり、抵抗値を測定できない可能性がある。一方、探針11の先端角が60度よりも大きい場合、探針11の先端部が絶縁層21を突き破る際に余分な力が電極体20に加わり、電極体20自体が変形する可能性がある。探針11の先端角が10度〜60度の範囲内であれば、先端の強度が十分に得られて変形しにくく、絶縁層21を容易に貫くことができるので、絶縁層21の厚みを正確に計測できる。
なお、探針11の先端部は、電気抵抗が比較的小さく、活物質層22と接触した際に電気抵抗測定器13によって電気抵抗が測定可能であればよい。
例えば、探針11の先端部の材質としては、鉄や銅、銀、金、亜鉛、チタン、アルミニウムなどの元素を含む金属が適している。なお、探針11の先端部は、上述のような特性を有する材質であれば、必ずしも金属である必要はない。例えば、カーボンや導電性プラスチック、導電性金属酸化物などの導電材料を探針11の先端部に適用できる。探針11の先端部と端子16との電気的な接続には、導線や配線パターンなどの任意の手法を用いることができる。
探針11は、検査対象である電極体20の主面に対して略垂直な方向に移動するように荷重測定器12に固定される。略垂直とは、探針11が電極体20の絶縁層21を突き刺す際に、絶縁層21に形成される孔径をできるだけ小さくするための条件である。電極体20の表面に垂直な軸に対する探針11の角度の好ましい範囲は、先端角によって異なり、例えば、探針11の先端角φ1の場合は、電極体20の表面に垂直な軸に対して(60−φ1)/2度以内にすることが好ましい。探針11の先端部の先端角φ1を電極体20の表面に垂直な軸に対して(60−φ1)/2度以内にすれば、探針11の先端部が絶縁層21を突き刺さりやすくなり、絶縁層21に開く孔部の周辺形状が変化しにくい。
荷重測定器12は、荷重を計測すると共に、探針11の一端(以下、先端部とよぶ)が絶縁層21に接触したことを検知する機能を有する接触検知器として構成されている。荷重測定器12は、探針11の他端を支持しており、探針11の先端部が絶縁層21に接触したことを検知すると、接触検知信号を生成する。荷重測定器12が出力する接触検知信号は、荷重測定器12が接触を検知した時刻(接触検知信号の生成時刻)や、測定された荷重に関する情報を含む。なお、接触検知信号の生成時刻における探針11の位置情報を接触検知信号に含めてもよい。接触検知信号の生成時刻における探針11の位置情報は、検査装置1の検査開始時における探針11の位置情報に基づいて荷重測定器12が計算してもよいし、接触検知信号の生成時刻において可動機構14から取得するようにしてもよい。また、接触検知信号の生成時刻における探針11の位置情報は、接触検知信号を取得する制御装置(図示しない)が計算するようにしてもよい。また、雑音や系の残留荷重などが原因で、荷重が増加し始めた時刻のデータをリアルタイムで検知できない可能性もある。そのため、荷重の時間依存性の測定データをグラフ化するように構成し、リアルタイムで検知できなかったデータを後から検出するようにしてもよい。
荷重測定器12は、探針11が受ける荷重を計測する。荷重測定器12は、探針11に加わる荷重を測定し、探針11に加わる荷重の変化に基づいて接触検知信号を生成して出力する。荷重測定器12によって荷重変化が計測され始めた時刻が、探針11が絶縁層21に接触した時刻に相当する。荷重測定器12は、絶縁層21への探針11の突き刺しに必要な荷重を検知でき、測定における歪みが少ないことが好ましい。
なお、探針11と電極体20との接触は、探針11が電極体20から受ける荷重ではなく、その他の手法を用いてもよい。例えば、光や磁気、静電気などを用いて接触を検知するセンサや接点スイッチによって、探針11の先端部と絶縁層21との接触を検知してもよい。
電気抵抗測定器13は、活物質層22と探針11の一端とに電気的に接続され、活物質層22と探針11との間の電気抵抗を計測すると共に、探針11の先端部が絶縁層21を貫通して活物質層22に接触したことを検知する機能を有する貫通検知器として構成されている。電気抵抗測定器13は、探針11の先端部が絶縁層21を貫通して活物質層22に接触したことを検知すると、貫通検知信号を生成する。電気抵抗測定器13が出力する貫通検知信号は、電気抵抗測定器13が貫通を検知した時刻(貫通検知信号の生成時刻)や、測定された電気抵抗値に関する情報を含む。なお、貫通検知信号の生成時刻における探針11の位置情報を貫通検知信号に含めてもよい。貫通検知信号の生成時刻における探針11の位置情報は、検査装置1の検査開始時における探針11の位置情報に基づいて電気抵抗測定器13が計算してもよいし、貫通検知信号の生成時点において可動機構14から取得するようにしてもよい。また、貫通検知信号の生成時刻における探針11の位置情報は、貫通検知信号を取得する制御装置(図示しない)が計算するようにしてもよい。
電気抵抗測定器13は、電極体20の活物質層22と探針11とが電気的に接触したことを検知するために、探針11の先端と電気的に接続される端子16と、集電体23(活物質層22)と電気的に接続される端子17との間の電気抵抗を測定する。電気抵抗測定器13は、活物質層22と探針11の先端部との間の電気抵抗を測定し、活物質層22と探針11の一端との間の電気抵抗の変化に基づいて貫通検知信号を生成して出力する。
なお、本実施形態では、探針11の先端部と活物質層22との接触を、端子16と端子17との間の電気抵抗を測定することによって検知する方式としたが、その他の手法で検知してもよい。例えば、探針11の先端部と活物質層22との間の電流や電圧の変化に基づいて、探針11の先端部と活物質層22との接触を検知してもよい。
探針11と活物質層22とが電気的に接触したことを検知するには、電圧源および電流源などが利用可能である。探針11と活物質層22との接触はできるだけ早く検知できる方が好ましいため、電気抵抗測定器13は、高抵抗値を測定できる測定器であることが好ましい。
可動機構14は、探針11および荷重測定器12を、電極体20の主面に対して略垂直な方向に前進および後進する。可動機構14の動作機構については特に限定を加えないが、可動機構14が発生させる移動量を精度よく制御できる構成や方法を用いることが好ましい。可動機構14は、検査装置1の検査開始時点からの探針11の先端部の移動距離に関する情報(位置情報)を荷重測定器12や電気抵抗測定器13に出力するように構成してもよい。また、可動機構14は、制御装置(図示しない)に探針11の先端部の位置情報を出力するように構成してもよい。制御装置(図示しない)は、接触検知信号および貫通検知信号の生成時刻における探針11の先端部の位置情報から移動距離を計算し、絶縁層21の膜厚を求められる。
例えば、可動機構14の動作機構には、ステッピングモーターを利用できる。可動機構14の移動量は、ステッピングモーターの駆動パルスの数によって把握できる。実際には、ステッピングモーターのようなモーターの回転機構と、ステッピングモーターの回転運動を上下運動に変換するための変換機構とを組み合わせることによって、可動機構14の上下運動を実現できる。回転運動を上下運動に変換するための変換機構としては、ベルトやワイヤ、チェーンなどを用いることができる。なお、可動機構14の動作機構には、ステッピングモーター以外のモーターや、ラック・アンド・ピニオン、カム機構、リンク機構などを用いてもよい。
なお、図1〜図3には、電極体20の主面に対して略垂直方向に探針11を動かす例を示しているが、さらに電極体20の主面に対して水平な方向にも探針11を動かせるように構成してもよい。電極体20の主面に対して水平な方向にも探針11を動かせれば、電極体20の表面の任意箇所の絶縁層の厚みを測定しやすくなる。また、台18上に水平方向に移動するステージを設け、そのステージ上に電極体20を載せて測定してもよい。
検査装置1は、可動機構14の動作によって移動する探針11の先端部の移動量を計算する。すなわち、検査装置1は、可動機構14の移動量から絶縁層21の厚みを計算する。
例えば、検査装置1は、探針11の先端部が絶縁層21に接触した時点の位置と、絶縁層21を貫通した時点の位置との差によって絶縁層21の厚みを計算できる。また、検査装置1は、探針11を移動させる際に探針11の移動速度を制御してもよい。例えば、検査装置1は、探針11の移動速度を変化させる場合、探針11の先端部が絶縁層21に接触した時点から絶縁層21を貫通した時点の間に該当する時間において、移動速度の瞬時値を時間積分することによって、絶縁層21の厚みを計算できる。また、例えば、検査装置1は、所定の移動速度で探針11を移動させる制御をし、探針11の先端部が絶縁層21に接触した時点から絶縁層21を貫通した時点の間に該当する時間に、所定の移動速度を掛けることによって、絶縁層21の厚みを計算できる。なお、絶縁層21の厚みに関しては、ここで挙げた方法以外の手法を用いてもよい。ここで、移動速度はあらかじめ決めた速度で移動するように構成してもよいし、探針11や荷重測定器12等にセンサ等を設けて測定した測定データを用いてもよい。
〔動作〕
次に、図4および図5のフローチャートを用いて、本実施形態の検査装置1の動作例について説明する。図4は、探針11の変位量を記録できる場合の動作に関する。図5は、探針11の移動速度を用いて変位量を計算する場合の動作に関する。以下の例においては、検査に先立って、図1のように電極体20を台18の上に載置しておくものとする。
まず、探針11の変位量を記録できる場合の動作について説明する。
図4において、検査装置1は、可動機構14を駆動させ、探針11の先端部を電極体20に向けて降下させる(ステップS11)。
図2の状態になると、検査装置1は、探針11の先端が絶縁層21に接触したことを検知し(ステップS12でYes)、その時刻t1から時間の計測を開始する(ステップS13)。なお、検査装置1は、探針11の先端と絶縁層21との接触を検知していない段階(ステップS12でNo)では、時間の計測を開始せずに探針11の降下を継続させる。
検査装置1は、ステップS12において探針11の先端と絶縁層21との接触を検知した際に、その時点における探針11の先端部の位置Z1を時刻t1に関連付けて記録する。例えば、検査装置1は、図1の探針11の先端部の位置を原点とし、その原点からの変位量をZ1として記録すればよい。なお、検査装置1は、可動機構14が発生させる変位や探針11の先端部以外の位置を基準として記録してもよい。
図3の状態になると、検査装置1は、探針11の先端部が活物質層22に接触し、絶縁層21を貫通したことを検知し(ステップS14でYes)、その時刻t2で時間の計測を停止する(ステップS15)。なお、検査装置1は、電気抵抗測定器13が絶縁層21の貫通を検知していない段階(ステップS14でNo)では時間の計測を停止せずに、探針11の降下を継続させる。
検査装置1は、ステップS14において探針11の先端と活物質層22との接触を検知すると、その時点における探針11の先端部の位置Z2を時刻t2に関連付けて記録する。例えば、検査装置1は、図1の探針11の先端部の位置を原点とし、その原点からの変位量をZ2として記録すればよい。なお、検査装置1は、可動機構14の変位や探針11の先端部以外の位置を基準として記録していた場合は、その基準の位置を記録する。
そして、検査装置1は、絶縁層21の膜厚dを計算する(ステップS17)。絶縁層21の膜厚dは、以下の式1によって算出できる。
d=Z2−Z1・・・(1)
以上が、探針11の変位量を記録できる場合の動作についての説明である。
次に、探針11の移動速度を用いて変位量を計算する場合の動作について説明する。
図5において、検査装置1は、可動機構14を駆動させ、探針11の先端部を電極体20に向けて降下させる(ステップS21)。
図2の状態になると、検査装置1は、探針11の先端が絶縁層21に接触したことを検知し(ステップS22でYes)、その時刻t1から時間の計測を開始する(ステップS23)。このとき、検査装置1は、探針11の先端が絶縁層21に接触した時刻t1を記録する。なお、検査装置1は、探針11の先端と絶縁層21との接触を検知していない段階(ステップS22でNo)では、時間の計測を開始せずに探針11の降下を継続させる。
図3の状態になると、検査装置1は、探針11の先端部が活物質層22に接触し、絶縁層21を貫通したことを検知し(ステップS24でYes)、その時刻t2で時間の計測を停止する(ステップS25)。このとき、検査装置1は、探針11の先端が絶縁層21を貫通した時刻t2を記録する。なお、検査装置1は、電気抵抗測定器13が絶縁層21の貫通を検知していない段階(ステップS24でNo)では時間の計測を停止せずに、探針11の降下を継続させる。
そして、検査装置1は、探針11の移動速度vを用いて、絶縁層21の膜厚dを計算する(ステップS27)。絶縁層21の膜厚dは、以下の式2によって算出できる。なお、式2は移動速度vが一定の場合に用いる式である。
d=v×(t2−t1)・・・(2)
以上が、探針11の移動速度を用いて変位量を計算する場合の動作についての説明である。図5の動作によれば、探針11の移動速度vさえ分かっていれば、探針11の先端部の位置Z1や位置Z2を測定できなくても絶縁層21の膜厚dを算出できる。
なお、本実施形態の検査装置1の動作として、絶縁層21の厚みを測定する方法を説明したが、電極体20全体及び集電体23の厚み、あるいは絶縁層21の表面から集電体23の表面までの厚みを測定できれば、活物質層22の厚みを算出することもできる。例えば、電極体20全体及び集電体23の厚み、あるいは絶縁層21の表面から集電体23の表面までの厚みは、SEM(Scanning Electron Microscope)などの破壊試験を用いて測定してもよいし、段差計などの非破壊試験を用いて測定してもよい。
本実施形態の手法によって測定された電極体の絶縁層21には孔が開く。よって、検査によって絶縁層21に孔が開いた電極体20は、その検査に用いた部分とその周辺が製品として利用されないようにすることが好ましいが、損傷が小さく電池特性や安全性等に影響しない場合はその限りではない。
本実施形態では、探針11の先端部と絶縁層21との接触を荷重の変化によって検知し、探針11の先端部が活物質層22に到達したことを電気抵抗値の変化によって検知する例を示した。しかし、本実施形態の手法は、探針11の先端部が電極体20の絶縁層21を物理的に通過し、その際に、絶縁層21の表面の位置と、絶縁層21と活物質層22の界面の位置とを把握できれば、図1〜図3の測定方法とは異なる形態にも適用できる。
〔適用例〕
例えば、本実施形態の手法は、図6のように、円筒状のローラー211を用いて電極体20を搬送する例にも適用できる。図6は、電極体20の製造工程において、インライン状態にある電極体20に本実施形態の手法を適用する例である。なお、探針11の先端部は、少なくとも電極体20の搬送が停止している間には図示しない配線によって電極体20の活物質層22と間の電気抵抗が測定できるように構成されているものとする。
図6の例においては、電極体20を搬送するためのローラー211の動作をアキュームレータなどによって一時的に停止させる。電極体20の搬送が停止している間に、ローラー211に密着している電極体20の絶縁層21の厚みを検証すればよい。
すなわち、本実施形態の手法は、電極体20に押し付けられた探針11が受ける荷重を計測でき、探針11と電極体20との間の電気的接触を得ることができれば、電極体20が若干動いても適用できる。
また、図7のように、本実施形態の検査装置1は、中空状のローラー212の内部に設置してもよい。図7の例では、中空状のローラー212の内部に検査装置1を設置する。ローラー212には、内部から外部まで貫通する孔を設け、その孔を通じて探針11を電極体20表面に押し当てる。なお、図6と同様に、探針11の先端部は、少なくとも電極体20の搬送が停止している間には図示しない配線によって電極体20の活物質層22と間の電気抵抗が測定できるようにされているものとする。
電極体20の製造工程において、本実施形態の検査装置1を図6のようにローラー211の外部に設置するとともに、図7のようにローラー212の内部に設置すれば、電極体20の両面に形成した絶縁層21の厚みを同じ工程で測定することもできる。
一般的な電極体20の検査においては、絶縁層21を形成するための合剤に含まれる溶媒を乾燥させ、加圧成形した後に測定することが望ましいが、絶縁層21を形成するための合剤に含まれる溶媒を乾燥させた後、加圧成形する前であっても電極体20を検査できる。
また、電極体20が複数枚積層されていたり、ロール状に巻かれていたりしても、原理上は絶縁層21の厚みを計測することは可能であるが、必要な測定精度が得られるように電極体20の荷重による物理的な変形量や移動量を小さくする必要がある。そのため、被測定対象である電極体20は1枚であることが望ましい。また、電極体20がロール状になっている場合には、例えばロール端部に位置する電極体20の一部を引き出すか、1枚で測定できるように複数の電極体20間に台などを挟めばよい。
以上のように、本実施形態の検査装置によれば、電極体を構成する導電層に積層された絶縁層の膜厚を簡易に評価できる。特に、本実施形態の手法によれば、導電層および絶縁層を逐次あるいは同時に塗布する製造工程のように、各層ごとの層構造を把握することが難しい場合においても、絶縁層の膜厚を簡易に評価できる。
本実施形態の検査装置は、活物質層上に絶縁層が形成された電極構造の製造工程において、二つの層を逐次または同時に形成する際の絶縁層の厚みを簡易に把握することができる。そのため、本実施形態の検査装置は、リチウムイオン二次電池の生産性向上に寄与する。
また、本実施形態の手法によれば、絶縁体と導電体とが層を成す構造において、それぞれの層の厚みや構造の差異の有無を簡易に検査できる。特に、本実施形態の手法によれば、同一の仕様を有する構造を作製した場合のロット間の違いを検査できる。さらに、本実施形態によれば、検査によって絶縁層に設けられる孔部が許容される範囲のものであれば、SEMなどによる検査に備えて製品を破壊することなく、絶縁層の厚みの面内分布を評価することもできる。さらに、本実施形態の手法は、絶縁層を精密に測定すべきか否かを判定するための予備検査として用いることもできる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る検査装置について図面を用いて説明する。図8は、本実施形態の検査装置2の構成について説明するための概念図である。本実施形態の検査装置2は、第1の実施形態の検査装置1(図1〜図3)に制御装置30を追加した構成を有する。
制御装置30は、図示しない測定開始指示信号に応じて、探針11を電極体20に向けて移動させるように可動機構14の駆動制御をする。測定開始指示信号は、検査装置2を利用するユーザの操作に応じて発生するようにしてもよいし、製造工程において自動的に生成されるようにしてもよい。測定開始指示信号をユーザの操作に応じて発生するように構成する場合は、測定開始指示信号を発生させるための開始ボタンを設ければよい。また、測定開始指示信号を自動的に生成させる場合は、電極体20の製造を管理する管理システムや検査装置2の上位システムにおいて、所定のタイミングで測定開始指示信号が生成されるように構成すればよい。
制御装置30は、接触検知信号および貫通検知信号を取得する。制御装置30は、取得した接触検知信号および貫通検知信号に基づいて探針11の変位に関する情報を生成する。
例えば、制御装置30は、荷重測定器12が荷重変化を計測し始めた時刻t1における探針11の先端部の位置Z1を記録する。時刻t1は、探針11の先端部が電極体20の絶縁層21に接触した時刻(接触検知時刻)である。また、制御装置30は、電気抵抗測定器13によって計測される電気抵抗値が低下し始めた時刻t2における探針11の先端部の位置Z2を記録する。時刻t2は、探針11の先端部が電極体20の絶縁層21を貫通して活物質層22に接触した時刻(貫通検知時刻)である。なお、探針11の移動速度が分かる場合、制御装置30は、時刻t1と時刻t2とを記録すればよい。
そして、制御装置30は、時刻t1における探針11の先端部の位置Z1と、時刻t2における探針11の先端部の位置Z2とを上述の式1に適用し、絶縁層21の膜厚dを算出する。なお、所定の移動速度vで探針11を移動させる場合は、時刻t1および時刻t2を式2に適用して絶縁層21の膜厚dを算出できる。
〔制御装置〕
ここで、本実施形態の検査装置2が備える制御装置30の構成について図面を用いて説明する。図9は、制御装置30の構成の一例を示すブロック図である。
図9のように、制御装置30は、入出力部31、駆動制御部32、接触検知部33、貫通検知部34、記憶部35、膜厚計算部36および測定結果出力部37を有する。なお、制御装置30の構成要素の機能は、回路で実現してもよいし、コンピュータ上で動作するソフトウェアを構成するモジュールで実現してもよい。
入出力部31は、検査装置2を構成する荷重測定器12、電気抵抗測定器13および可動機構14に接続され、各構成要素との間で信号を入出力するための入出力部である。なお、図9には入出力部31を一つしか図示していないが、荷重測定器12、電気抵抗測定器13および可動機構14のそれぞれに対応させて、複数の入出力部31を設けてもよい。また、入出力部31は、電極体20の絶縁層21の厚みを測定する指示を示す測定指示信号を外部から受信する。
入出力部31は、探針11の先端部が絶縁層21に接触したことを示す接触検知信号を接触検知器である荷重測定器12から入力される。また、入出力部31は、探針11の先端部が絶縁層21を貫いたことを検知したことを示す貫通検知信号を、貫通検知器である電気抵抗測定器13から入力する。また、入出力部31は、可動機構14の位置や変位量を入力するとともに、可動機構14に制御信号を出力する。
駆動制御部32は、可動機構14を駆動制御する。駆動制御部32は、外部から受信された測定指示信号に応じて、電極体20に対して略垂直な方向に探針11の先端部を電極体20の表面(絶縁層21)に向けて移動させるように可動機構14を制御する。駆動制御部32は、探針11を移動させる際に探針11の移動速度を制御してもよい。例えば、駆動制御部32は、探針11の移動速度を変化させるように可動機構14を制御できる。また、例えば、駆動制御部32は、所定の移動速度で探針11を移動させるように制御できる。また、駆動制御部32は、貫通検知部34からの停止指示信号に応じて、可動機構14を停止させるよう制御する。
接触検知部33は、荷重測定器12から荷重の測定値が入力され、荷重変化が検知された時刻t1と、時刻t1における探針11の先端部の位置Z1とを関連付けて記憶部35に記憶させる。接触検知部33によって荷重変化が検知されることは、探針11の先端部が絶縁層21に接触したことを示す。
貫通検知部34は、電気抵抗測定器13から電気抵抗値の測定値が入力され、電気抵抗値が低下した時刻t2と、時刻t2における探針11の先端の位置Z2とを関連付けて記憶部35に記憶させる。貫通検知部34によって電気抵抗の低下が検知されることは、探針11の先端部が絶縁層21を貫通し、活物質層22に接触したことを示す。
また、貫通検知部34は、電気抵抗が低下した時刻t2において、可動機構14を停止させる指示を示す停止指示信号を駆動制御部32に出力する。なお、貫通検知部34は、電気抵抗が低下した時刻t2において、膜厚dの計算を指示する計算指示信号を膜厚計算部36に出力するように構成してもよい。
記憶部35は、探針11の先端部が絶縁層21に接触した時刻t1と、時刻t1における探針11の先端部の位置Z1とを関連付けて記憶する。また、記憶部35は、探針11の先端部が活物質層22に接触した時刻t2と、時刻t2における探針11の先端部の位置Z2とを関連付けて記憶する。
膜厚計算部36は、時刻t2および位置Z2が記憶部35に記憶されると共に、絶縁層21の膜厚dの計算を開始する。なお、貫通検知部34から膜厚計算部36に計算指示信号を送信するように構成する場合、膜厚計算部36は、計算指示信号に応じて絶縁層21の膜厚dの計算を開始すればよい。
膜厚計算部36は、探針11の先端部と絶縁層21との接触が検知された時刻t1における先端部の位置Z1と、探針11の先端部と活物質層22との接触が検知された時刻t2における先端部の位置Z2とを用いて、絶縁層21の膜厚dを算出する。膜厚計算部36は、第1の実施形態で示した式1や式2を用いて、絶縁層21の膜厚dを算出する。例えば、膜厚計算部36は、探針11の移動速度を変化させる場合、探針11の先端部が絶縁層21に接触した時刻t1から絶縁層21を貫通した時刻t2の間に相当する時間において、移動速度の瞬時値を時間積分することによって、絶縁層21の膜厚dを計算できる。また、例えば、膜厚計算部36は、所定の移動速度で探針11を移動させる制御をし、探針11の先端部が絶縁層21に接触した時刻t1から絶縁層21を貫通した時刻t2の間に相当する時間に、所定の移動速度を掛けることによって、絶縁層21の膜厚dを計算できる。すなわち、膜厚計算部36は、接触検知信号が生成されてから貫通検知信号が生成されるまでの時間と、探針11の移動速度とを用いて探針11の変位量を算出できる。
膜厚計算部36は、算出した絶縁層21の膜厚dを測定結果出力部37に出力する。
測定結果出力部37は、膜厚計算部36から入力された絶縁層の膜厚dを測定結果として出力する。例えば、測定結果出力部37は、外部の管理システムや表示装置に測定結果を出力する。
以上が、制御装置30の機能構成についての説明である。なお、図9の構成は一例であって、本発明の範囲を限定するものではない。
以上のように、本実施形態に係る検査装置は、測定指示信号に応じて可動機構の動作を制御し、検査対象である電極体の絶縁層の厚みを計測する制御装置を備える。すなわち、本実施形態に係る検査装置によれば、電極体を構成する導電層に積層された絶縁層の膜厚を簡易に評価できる。
〔ハードウェア〕
ここで、図10を用いて、本実施形態に係る検査装置2の制御装置30を実現するためのハードウェア40について説明する。なお、ハードウェア40は、本実施形態の検査装置2を実現するための一例であって、本発明の範囲を限定するものではない。
図10のように、ハードウェア40は、プロセッサ41、主記憶装置42、補助記憶装置43、入出力インターフェース45およびネットワークアダプター46を備える。プロセッサ41、主記憶装置42、補助記憶装置43、入出力インターフェース45およびネットワークアダプター46は、バス49を介して互いに接続される。また、プロセッサ41、主記憶装置42、補助記憶装置43および入出力インターフェース45は、ネットワークアダプター46を介して、イントラネットやインターネットなどのネットワークに接続される。また、ハードウェア40は、ネットワークを介して、別のシステムや装置に接続される。なお、ハードウェア40の構成要素のそれぞれは、単一であってもよいし、複数であってもよい。
プロセッサ41は、補助記憶装置43等に格納されたプログラムを主記憶装置42に展開し、展開されたプログラムを実行する中央演算装置である。本実施形態においては、ハードウェア40にインストールされたソフトウェアプログラムを用いる構成とすればよい。プロセッサ41は、種々の演算処理や制御処理を実行する。
主記憶装置42は、プログラムが展開される領域を有する。主記憶装置42は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリとすればよい。また、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)などの不揮発性メモリを主記憶装置42として構成・追加してもよい。
補助記憶装置43は、種々のデータを記憶させるための記憶装置である。補助記憶装置43は、ハードディスクやフラッシュメモリなどのローカルディスクとして構成される。なお、主記憶装置42にデータを記憶させる構成とし、補助記憶装置43を省略してもよい。
入出力インターフェース45は、ハードウェア40と周辺機器とを接続規格に基づいて接続するインターフェース(I/F:Interface)である。例えば、図1などに図示した荷重測定器12や電気抵抗測定器13、可動機構14は、入出力インターフェース45を介して検査装置1と信号をやり取りする。
ハードウェア40には、必要に応じて、キーボードやマウス、タッチパネルなどの入力機器を接続してもよい。それらの入力機器は、情報や設定の入力に使用される。なお、タッチパネルを入力機器として用いる場合は、表示機器の表示画面が入力機器のインターフェースを兼ねるタッチパネルディスプレイとすればよい。プロセッサ41と入力機器との間のデータ授受は、入出力インターフェース45に仲介させればよい。
ネットワークアダプター46は、規格や仕様に基づいて、インターネットやイントラネットなどのネットワークに接続するためのインターフェースである。入出力インターフェース45およびネットワークアダプター46は、外部機器と接続するインターフェースとして共通化してもよい。
また、ハードウェア40には、必要に応じて、リーダライタを備え付けてもよい。リーダライタは、バス49に接続され、プロセッサ41と図示しない記録媒体(プログラム記録媒体)との間で、記録媒体からのデータ・プログラムの読み出し、ハードウェア40の処理結果の記録媒体への書き込みなどを仲介する。記録媒体は、例えばSD(Secure Digital)カードやUSB(Universal Serial Bus)メモリなどの半導体記録媒体などで実現できる。また、記録媒体は、フレキシブルディスクなどの磁気記録媒体、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光学記録媒体やその他の記録媒体によって実現してもよい。
以上が、本発明の実施形態に係る検査装置2の制御装置30を可能とするためのハードウェア構成の一例である。なお、図10のハードウェア構成は、本実施形態の制御装置30を可能とするためのハードウェア構成の一例であって、本発明の範囲を限定するものではない。また、本実施形態の制御装置30による処理をコンピュータに実行させる処理プログラムも本発明の範囲に含まれる。さらに、本発明の実施形態に係る処理プログラムを記録したプログラム記録媒体も本発明の範囲に含まれる。
本実施形態では、探針11の先端部が絶縁層21に接触したことを検知する機能を荷重測定器12に有する接触検知器として構成したが、接触検知器からの出力は荷重データとその時刻情報を含んで制御装置30の入出力部31に入力され、制御装置30の接触検知部33にて接触検知を判断するように構成することもできる。
また、本実施形態では、探針11の先端部が絶縁層21を貫通して活物質層22に接触したことを検知する機能を電気抵抗測定器13に有する貫通検知器として構成したが、貫通検知器からの出力は電気抵抗データとその時刻情報を含んで制御装置30の入出力部31に入力され、制御装置30の貫通検知部34にて貫通検知を判断することもできる。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る検査装置について説明する。
図11は、本実施形態の検査装置が備える制御装置30−2の機能構成を示すブロック図である。本実施形態の制御装置30−2は、第2の実施形態の制御装置30に補正部38を追加した構成である。なお、図11の入出力部31、駆動制御部32、接触検知部33、貫通検知部34、記憶部35、膜厚計算部36および測定結果出力部37の機能は、図9と同様であるために説明は省略する。
補正部38は、膜厚計算部36が算出した絶縁層21の厚みを補正する。補正部38は、予め準備しておいた相関式を用いて、膜厚計算部36の計算結果を補正する。補正部38が用いる相関式は、予め記憶部35に記憶させておけばよい。また、補正部38は、探針11が絶縁層21に接触した時と、接触検知器が接触を検知する時までに発生するタイムラグによる位置の差を移動速度等から補正することもできる。
補正部38は、補正した絶縁層21の厚みを測定結果出力部37に出力する。
検査対象である電極体20の絶縁層21の厚みは、数十μm以下になることが多い。そのため、絶縁層21の厚みを精度よく算出するために、測定結果を補正する必要が生じる場合がある。測定結果の補正が必要となるのには、以下のような要因が挙げられる。
第1に、探針11の先端が絶縁層21に突き刺さる際に、探針11の先端が絶縁層21を貫通するための荷重が電極体20にかかるため、電極体20の構成要素である活物質層22や集電体23にも荷重がかかる。電極体20にかかる荷重が、絶縁層21だけではなく、活物質層22および集電体23にも及ぶことにより活物質層22や集電体23の厚みが変化したり位置がずれたりすれば、絶縁層21の厚みの測定値に影響が及ぶ。
第2に、探針11の先端が絶縁層21に突き刺さる際に、探針11や荷重測定器12、荷重測定器12に歪みやずれが生じた場合も測定値に影響が及ぶ。
絶縁層21の厚みの測定値を安定した精度で補正するためには、測定時に電極体20にかかる荷重に対して、電極体20の圧縮や荷重測定器12の歪みなどが原因で起こるずれが生じたとしてもそのずれ量の再現性がよいことが求められる。電極体20の圧縮や荷重測定器12の歪みは、探針11の先端が絶縁層21を通過するために必要な荷重に依存すると考えられる。そのため、荷重測定器12によって計測される荷重が小さければ、その分だけ補正量も少なくなり、絶縁層21の厚みの測定精度が向上する。
絶縁層21の厚みの測定値を補正するためには、本発明の各実施形態の手法とは異なる手法(参照手法)で測定された測定結果(参照測定結果)を準備しておく必要がある。例えば、参照手法としては、SEMなどによる断面観察などが挙げられる。参照測定で用いる参照試料は、検査対象である電極体20と同じ組成・構造の絶縁層21および活物質層22を有することが好ましい。また、検査対象である電極体20が加圧成形されている場合には、同じ圧力で加圧成形された参照試料を用いることが好ましい。
絶縁層21の厚みが異なる複数の参照試料について、参照測定結果を準備しておくことが好ましい。可能であれば、3種類以上の厚さの参照試料について参照測定結果を求めておくことが好ましい。さらに、本実施形態の検査装置の検査対象である電極体20の絶縁層21の厚みの測定上限値よりも大きい参照試料と、測定下限値よりも小さい厚みの参照試料とについて参照測定結果を求めておくことが好ましい。
次に、これらの参照試料の膜厚を本実施形態の手法で測定し、実際の絶縁層の厚みと、本実施形態の手法で測定された厚みとの組を生成し、これらの組に関する相関式を導出する。なお、相関式は、設計が異なる電極体20ごとに用意しておくことが好ましい。なぜならば、電極体20の設計が異なると、参照測定結果と、本実施形態の測定結果との関係が異なる場合があるためである。なお、未知試料の測定の際には、その未知試料の設計仕様や加圧成形履歴が近い参照試料から得た相関式を用いて補正すればよい。
以上のように、本実施形態においては、測定精度の高い別の手法で得られた相関式を用いて測定値を補正する。そのため、本実施形態によれば、客観性の高い測定値を求めることができる。
(電極体)
ここで、本発明の各実施形態において検査対象である電極体20の具体的な構成について詳細に説明する。電極体20は、絶縁層21と、活物質層22と、集電体23とを含む。電極体20は、リチウムイオン二次電池を構成する負極または正極である。
以下において、元素を元素記号で表記する場合がある。例えば、リチウムをLi、ホウ素をB、アルミニウムをAl、珪素をSi、チタンをTi、マンガンをMn、鉄をFe、コバルトをCo、ニッケルをNi、リンをP、酸素をOと記載する場合がある。同様に、鉛をPb、錫をSn、インジウムをIn、ビスマスをBi、銀をAg、バリウムをBa、カルシウムをCa、水銀をHg、パラジウムをPd、白金をPt、テルルをTe、亜鉛をZn、ランタンをLa、ジルコニウムをZrと表記する場合がある。なお、その他の元素や物質について、元素記号や化学式で表記する場合がある。
〔負極〕
検査対象の電極体の一つである負極は、金属箔で形成される負極集電体の両面に負極活物質を塗工した構造を有する。負極活物質は、負極用結着材によって負極集電体を覆うように結着させる。負極集電体には、負極端子と接続する延長部を設け、この延長部には負極活物質を塗工せず、集電体の一部を露出させる。
例えば、Liイオンを吸蔵・放出し得る炭素材料や金属酸化物、Liと合金化できる金属などを負極活物質として用いることができる。
負極活物質には、例えば、黒鉛、非晶質炭素やダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブなどの炭素材料を用いることができる。また、これらの炭素材料の複合物等を負極活物質に用いてもよい。結晶性の高い黒鉛は、電気伝導性が高いため、銅などの金属からなる負極集電体との接着性や電圧平坦性が優れているという長所がある。一方、結晶性の低い非晶質炭素は、体積膨張が比較的小さいため、負極全体の体積膨張を緩和する効果が高く、かつ結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する劣化が起こりにくいという長所がある。
金属や金属酸化物を含有する負極は、エネルギー密度を向上でき、電池の単位重量あたり、あるいは単位体積あたりの容量を増やすことができる。
負極に用いる金属としては、例えば、Al、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、Laなどが挙げられる。また、これらの金属を二種以上含む合金を負極に用いてもよい。また、これらの金属または合金は、一種以上の非金属元素を含んでもよい。
負極に用いる金属酸化物としては、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化リチウムなどが挙げられる。また、これらの金属酸化物の複合物を負極に用いてもよい。なお、負極活物質は、酸化スズまたは酸化シリコンを含むことが好ましい。特に、負極活物質は、酸化シリコンを含むことが好ましい。なぜならば、酸化シリコンは、比較的安定であり、他の化合物と反応しにくいからである。また、負極に用いる金属酸化物は、その全部または一部がアモルファス構造を有することが好ましい。なぜならば、アモルファス構造は、結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する要素が比較的少ないためである。
なお、金属酸化物の全部または一部がアモルファス構造を有することは、一般的なX線回折法によって確認できる。X線回折法においては、金属酸化物の全部または一部がアモルファス構造を有する場合、金属酸化物の固有ピークがブロードになって観測される。
なお、炭素材料や金属、金属酸化物を単独で用いずに、混合して用いてもよい。例えば、黒鉛と非晶質炭素のように同種の材料同士を混合してもよいし、黒鉛とシリコンのように異種の材料を混合してもよい。
負極用結着剤としては、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミドなどを用いることができる。また、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴムなどの共重合体を負極用結着剤として用いてもよい。
ところで、負極活物質の量に対する負極用結着剤の量の比率が大きいほど、十分な結着力が得られるが、エネルギー密度は小さくなる。一方、負極用結着剤の量と比べて負極活物質の量の比率が大きいほど、大きなエネルギー密度が得られるが、結着力は小さくなる。すなわち、負極活物質と負極用結着剤の量に関しては、「十分な結着力」と「高エネルギー化」との間にトレードオフの関係がある。負極活物質および負極用結着剤の量に関するトレードオフを考慮すると、負極活物質100質量部に対して、負極用結着剤0.5〜25質量部にすることが好ましい。
負極集電体の材質には、電気化学的な安定性から、アルミニウムやニッケル、ステンレス、クロム、銅、銀、およびそれらの合金を用いることができる。負極集電体の形状は、箔状や平板状、メッシュ状などにすればよい。
〔正極〕
検査対象の電極体の一つである正極は、金属箔で形成される正極集電体の両面に正極活物質を塗工した構造を有する。正極活物質は、正極用結着剤によって正極集電体を覆うように結着させる。正極集電体には、正極端子と接続する延長部を設け、この延長部には正極活物質は塗工せず、集電体の一部を露出させる。
正極活物質としては、リチウムを吸蔵・放出し得る材料を用いることができる。正極活物質は、求める性能に応じて選択すればよい。
高エネルギー密度化の観点からは、高容量の化合物が好ましい。高容量の化合物としては、ニッケル酸リチウム(LiNiO2とも表記)を用いることができる。また、ニッケル酸リチウムに含まれるNiの一部を他の金属元素で置換したリチウムニッケル複合酸化物を用いてもよい。なお、高容量の化合物として用いるリチウムニッケル複合酸化物としては、以下の式3で表される層状リチウムニッケル複合酸化物が好ましい。ただし、式3においては、0≦x<1、0<y≦1.2である。また、式3において、Mはコバルト、アルミニウム、マンガン、鉄、チタンおよびホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である。
LiyNi(1-x)MxO2・・・(3)
高容量を求める場合、リチウムニッケル複合酸化物のNiの含有量は高い方が好ましい。すなわち、式3において、xが0.5未満であることが好ましく、さらにはxが0.4以下であることが好ましい。例えば、LiαNiβCoγMnδO2(0≦α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)、LiαNiβCoγAlδO2(0≦α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6好ましくはβ≧0.7、γ≦0.2)などが挙げられ、特に、LiNiβCoγMnδO2(0.75≦β≦0.85、0.05≦γ≦0.15、0.10≦δ≦0.20)が挙げられる。より具体的には、例えば、LiNi0.8Co0.05Mn0.15O2、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2、LiNi0.8Co0.1Al0.1O2などを用いることができる。
また、熱安定性を求める場合、リチウムニッケル複合酸化物のNiの含有量が0.5を超えないこと、すなわち、式3において、xが0.5以上であることが好ましい。また、リチウムニッケル複合酸化物に含まれる特定の遷移金属が半数を超えないことも好ましい。このような化合物として、LiαNiβCoγMnδO2(0≦α≦1.2好ましくは1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、0.2≦β≦0.5、0.1≦γ≦0.4、0.1≦δ≦0.4)が挙げられる。より具体的には、LiNi0.4Co0.3Mn0.3O2、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、LiNi0.5Co0.3Mn0.2O2などが挙げられる。ただし、これらの化合物には、それぞれの遷移金属の含有量が10%程度変動したものも含む。これ以降、LiNi0.4Co0.3Mn0.3O2をNCM433、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2をNCM523、LiNi0.5Co0.3Mn0.2O2をNCM532と略記する。
また、式3で表される化合物を二種以上混合して使用してもよい。例えば、NCM532およびNCM523のいずれかと、NCM433とを9:1〜1:9の範囲で混合して使用することも好ましい。さらに、式3において、Niの含有量が高い材料(xが0.4以下)と、Niの含有量が0.5を超えない材料(xが0.5以上)とを混合することによって、高容量で熱安定性の高い電池を構成できる。例えば、Niの含有量が0.5を超えない材料としてはNCM433を挙げられる。
上記以外にも、例えば、層状構造またはスピネル構造を有するマンガン酸リチウムやコバルト酸リチウムなどのリチウム遷移金属酸化物を正極活物質として用いることができる。例えば、LiMnO2、LixMn2O4(0<x<2)、Li2MnO3、LixMn1.5Ni0.5O4(0<x<2)などのマンガン酸リチウムや、LiCoO2のようなコバルト酸リチウムを正極活物質として用いることができる。また、これらのリチウム遷移金属酸化物の遷移金属の一部を他の金属で置き換えたものや、化学量論組成よりもLiを過剰にしたものを正極活物質として用いることができる。さらに、LiFePO4などのオリビン構造を有するものも正極活物質として用いることができる。さらに、これらの金属酸化物の一部をAl、Fe、P、Ti、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、Laなどによって置換した材料も使用することができる。上記の正極活物質は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、ラジカル材料を正極活物質として用いることも可能である。
正極用結着剤としては、負極用結着剤と同様のものを用いることができる。
ところで、正極活物質の量に対する正極用結着剤の量の比率が大きいほど、十分な結着力が得られるが、エネルギー密度が小さくなる。一方、正極用結着剤の量と比べて正極活物質の量の比率が大きいほど、大きなエネルギー密度が得られるが、結着力が小さくなる。すなわち、正極活物質と正極用結着剤の量に関しては、「十分な結着力」と「高エネルギー化」との間にトレードオフの関係がある。正極活物質および正極用結着剤の量に関するトレードオフを考慮すると、正極活物質100質量部に対して、正極用結着剤2〜15質量部にすることが好ましい。
正極活物質の塗工層には、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助材を添加してもよい。導電補助材としては、例えば、グラファイトやカーボンブラック、アセチレンブラックなどの炭素質微粒子が挙げられる。
正極集電体の材質には、例えば、アルミニウム、ニッケル、銀、およびそれらの合金を用いることができる。正極集電体の形状は、箔状や平板状、メッシュ状などにすればよい。例えば、正極集電体としては、アルミニウム箔が好適である。
〔絶縁層〕
検査対象の電極体に用いられる絶縁層は、例えば、正極または負極の活物質層を被覆するように絶縁層用スラリー組成物を塗布し、溶媒を乾燥除去することにより形成できる。絶縁層は、電極体の片面のみに形成してもよいが、電極体の両面に形成してもよい。電極体の両面に絶縁層を形成すると、電極の反りを低減できる。特に、電極体の両面に絶縁層を対称構造で形成すると、電極の反りをより低減できる。
絶縁層用スラリー組成物は、電極体の絶縁層を形成するためのスラリー組成物である。絶縁層用スラリー組成物は、非導電性粒子と特定組成のバインダとを含む。絶縁層用スラリー組成物は、非導電性粒子、バインダおよび任意の成分を固形分として溶媒に均一に分散したものである。
非導電性粒子は、リチウムイオン二次電池の使用環境下で安定に存在し、電気化学的にも安定なものが適している。例えば、各種の無機粒子や有機粒子、その他の粒子を非導電性粒子として使用できる。中でも、無機酸化物粒子または有機粒子が非導電性粒子として好ましい。特に、粒子の熱安定性の高さから、無機酸化物粒子を非導電性粒子として使用することがより好ましい。また、非導電性粒子として、二種以上の上記粒子を組み合わせてもよい。
また、金属粉末などの導電性金属、導電性を有する化合物や酸化物の微粉末の表面を非電気伝導性の物質で表面処理することによって絶縁性をもたせた粒子を非導電性粒子として用いてもよい。例えば、カーボンブラックやグラファイト、酸化第二スズ(SnO2)などの導電性粒子の表面に絶縁性をもたせた粒子を非導電性粒子として用いることができる。
非導電性粒子として用いる無機粒子には、無機酸化物粒子や無機窒化物粒子、共有結合性結晶粒子、難溶性イオン結晶粒子、粘土微粒子などが挙げられる。例えば、酸化アルミニウムや酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化チタン、チタン酸バリウム(BaTiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO)、アルミナ−シリカ複合酸化物などの無機酸化物粒子を無機粒子の一例として挙げられる。また、窒化アルミニウムや窒化ホウ素などの無機窒化物粒子を無機粒子の一例として挙げられる。また、ダイヤモンドなどの共有結合性結晶粒子を無機粒子の一例として挙げられる。また、硫酸バリウムやフッ化カルシウム、フッ化バリウムなどの難溶性イオン結晶粒子を無機粒子の一例として挙げられる。また、タルクやモンモリロナイトなどの粘土微粒子を無機粒子の一例として挙げられる。
なお、非導電性粒子として用いる無機粒子は、必要に応じて元素置換や表面処理、固溶体化などの処理が施されていてもよい。また、無機粒子は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、無機粒子としては、電解液中での安定性や電位安定性の観点から無機酸化物粒子を用いることが好ましい。
非導電性粒子として用いる無機粒子の形状は、特に限定はされないが、針状や棒状、紡錘状、板状の形状のものを用いることができる。特に、針状物の貫通を有効に防止しうる観点から、無機粒子は板状であることが好ましい。
板状の無機粒子を用いる場合、絶縁層中において、無機粒子の平板面が絶縁層の面に略平行となるように配向させることが好ましい。このように無機粒子を配向させた絶縁層を用いると、電池の短絡が発生しにくくなる。上記のように無機粒子を配向させると、無機粒子の平板面の一部同士が重なるように配置される。そのため、絶縁層の貫通孔が直線ではなく曲折した形で形成され、曲路率が大きくなる。絶縁層の貫通孔の曲路率が大きくなると、リチウムデンドライトが絶縁層を貫通しにくくなり、短絡の発生が抑制される。
絶縁層の非導電性粒子に適用する無機粒子に好適な平均粒子径は、0.005〜10μm、好ましくは0.1〜5μm、より好ましくは0.3〜2μmの範囲である。無機粒子の平均粒子径は、SEM画像の視野内で50個の一次粒子を任意に選択し、画像解析を行うことによって得られる各粒子の周長円相当径や面積円相当径などの平均値として求められる。ただし、無機粒子の平均粒子の測定方法には、ここで挙げた限りではなく、任意の方法を用いることができる。
無機粒子の平均粒子径が上記範囲内であれば、絶縁層用スラリーの分散状態を制御しやすくなるために所定厚みの絶縁層を均質に製造しやすくなる。また、無機粒子の平均粒子径が上記範囲内であれば、バインダとの接着性が向上し、絶縁層を巻回した場合であっても無機粒子の剥落が防止されるため、絶縁層を薄膜化しても十分な安全性が得られる。また、無機粒子の平均粒子径が上記範囲内であれば、絶縁層中における非導電性粒子の充填率が低くなるため、絶縁層中のイオン伝導性の低下を抑制できるとともに、絶縁層の薄膜化が可能になる。
絶縁層の非導電性粒子として用いる無機粒子の平均粒子径分布(CV値)の好適な範囲は、0.5〜40%、好ましくは0.5〜30%、より好ましくは0.5〜20%である(CV:Coefficient of Variation)。無機粒子の粒子径分布(CV値)は、電子顕微鏡によって200個以上の無機粒子の粒子径を測定して平均粒子径および粒子径の標準偏差を求め、粒子径の標準偏差を平均粒子径で除することによって算出できる。CV値が大きいほど、粒子径のバラツキが大きいことを意味する。
絶縁層形成用スラリーが非水系の溶媒の場合には、非水系の溶媒に分散または溶解するポリマーをバインダとして用いることができる。そのようなポリマーの一例として、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリパーフルオロアルコキシフルオロエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミドなどが挙げられるが、ここで挙げた限りではない。
後述する絶縁層形成用スラリーが水系の溶媒(バインダの分散媒として水または水を主成分とする混合溶媒を用いた溶液)の場合には、水系の溶媒に分散または溶解するポリマーをバインダとして用いることができる。そのようなポリマーの一例として、アクリル系樹脂が挙げられる。アクリル系樹脂としては、アクリル酸やメタクリル酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリレートや2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルメタアクリレート、エチルヘキシルアクリレート、ブチルアクリレートなどのモノマーを一種類で重合した単独重合体が好ましく用いられる。また、二種以上の上記モノマーを重合した共重合体をアクリル系樹脂として用いてもよい。さらに、上述した単独重合体および共重合体を2種類以上混合したものをアクリル形樹脂として用いてもよい。また、上述したアクリル系樹脂の他に、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどをバインダとして用いることができる。これらのポリマーは、一種のみを単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、アクリル系樹脂をバインダとして用いることが好ましい。バインダの形態は、粒子状(粉末状)のものをそのまま用いてもよいし、溶液状あるいはエマルジョン状に調製したものを用いてもよく、特に制限されない。また、二種以上のバインダを、それぞれ異なる形態で用いてもよい。
絶縁層は、上述した非導電性粒子およびバインダ以外の材料を含有してもよい。例えば、後述する絶縁層形成用スラリーの増粘剤として機能し得る各種のポリマー材料を絶縁層に含有させてもよい。特に、水系溶媒を使用する場合、増粘剤として機能するポリマーを含有することが好ましい。増粘剤として機能するポリマーには、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロースを用いることができる。
絶縁層全体に占める非導電性粒子の割合は、およそ70質量%以上(例えば70質量%〜99質量%)が好適である。また、絶縁層全体に占める非導電性粒子の割合は、好ましくは80質量%以上(例えば80質量%〜99質量%)であり、より好ましくはおよそ90質量%〜99質量%である。
また、絶縁層中のバインダの割合は、およそ30質量%以下が好適であり、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下(例えばおよそ0.5質量%〜5質量%)である。また、非導電性粒子およびバインダ以外の絶縁層形成成分、例えば増粘剤を含有する場合は、該増粘剤の含有割合をおよそ5質量%以下とすることが好ましく、2質量%以下(例えば、0.5質量%〜1質量%)とすることがより好ましい。絶縁層中のバインダの割合が少なすぎると、絶縁層自体の強度(保形性)が低下し、絶縁層に亀裂や剥落などの不具合が生じうる。一方、絶縁層中のバインダの割合が多すぎると、絶縁層の粒子間の隙間が不足し、絶縁層のイオン透過性が低下する場合がある。
絶縁層の見かけ体積に対する空孔体積の割合(空孔率や空隙率とよぶ)は、イオンの伝導性を維持するために、好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上確保することが好適である。しかし、絶縁層の空孔率が大きすぎると、絶縁層の摩擦や衝撃などによる亀裂や剥落が生じやすくなる。そのため、絶縁層の空孔率は、80%以下が好ましく、70%以下であればさらに好ましい。なお、絶縁層の空孔率は、絶縁層を構成する材料の比率と真比重および塗工厚みから計算できる。
また、絶縁層の厚みは、1μm以上30μm以下であることが好ましく、3μm以上15μm以下であることがより好ましい。
〔絶縁層の形成〕
次に、絶縁層の形成方法について説明する。絶縁層を形成する材料としては、非導電性粒子、バインダおよび溶媒を混合分散したペースト状のものを用いることができる。また、絶縁層を形成する材料として、スラリー状またはインク状のものを用いてもよい。
絶縁層形成用スラリーに用いられる溶媒としては、水または水を主体とする混合溶媒が挙げられる。混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る低級アルコールや低級ケトンなどの有機溶媒を一種または二種以上適宜選択して用いることができる。あるいは、混合溶媒として、N−メチルピロリドンやピロリドン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの有機系溶媒を単独または組み合わせて用いてもよい。絶縁層形成用スラリーにおける溶媒の含有率は、特に限定されないが、スラリー全体の40〜90質量%が好ましく、50質量%程度がより好ましい。
非導電性粒子およびバインダを溶媒に混合させる際には、ボールミルやホモディスパー、超音波分散機などの混練機を用いることができる。
絶縁層形成用スラリーを塗布する際には、一般的な塗布手段を使用できる。例えば、グラビアコーターやスリットコーター、ダイコーター、ディップコーターなどの塗布装置を使用し、所定量の絶縁層形成用スラリーを均一な厚さにコーティングすることによって、絶縁層形成用スラリーを塗布することができる。
絶縁層形成用スラリー中の溶媒は、一般的な乾燥装置で乾燥させることによって除去できる。例えば、絶縁層形成用スラリー中の溶媒は、セパレータの融点よりも低い温度(例えば、30〜80℃以下)で乾燥させることによって除去できる。
〔検査対象の電極作製方法〕
本発明の各実施形態における検査対象のリチウムイオン二次電池用の電極は、次のような方法に従って作製することができる。なお、以下の説明は一例であって、検査対象であるリチウムイオン二次電池用の電極の製造方法を限定するものではない。また、以下の説明における各要素の符号は、図1等の図面中の符号に対応する。
正極および負極は、集電体23である長尺な金属箔上に矩形領域の活物質層22を塗工することで形成できる。
次に、活物質層22を覆うように、矩形領域の絶縁層21を塗工する。なお、活物質層22の塗布される矩形領域は、絶縁層21の塗布される矩形領域よりも広くしてもよいし、狭くしてもよい。
そして、活物質層22および絶縁層21が塗布された電極体を乾燥させた後に加圧成形することによって電極体20が得られる。
なお、ここでは、活物質層22の塗工工程と絶縁層21の塗工工程とを逐次行う方法について開示したが、それらを同時に行うことも可能である。また、各層の塗工を別々に行い、乾燥、加圧成形を別々に行うことも可能である。
本発明の各実施形態の検査方法は、活物質層22の塗工工程と、絶縁層21の塗工工程とを逐次あるいは同時に行う方法で作製された電極体20の検査において大きな効果が得られる。当然のことながら、本発明の各実施形態の検査方法は、活物質層22の塗工工程と絶縁層21の塗工工程とを別々に行った電極体20についても適用できる。
(実施例)
ここで、本発明の第1の実施形態に係る実施例について説明する。なお、以下の説明における各要素の符号は、図1等の図面中の符号に対応する。
本実施例では、ステンレス製の先端角が20度の釘を探針11として用いた。探針11として用いた釘は、荷重測定器12に相当する荷重計の測定端子にネジで固定できる治具を通して固定した。荷重計は、電極体の主面に対して垂直な方向に1軸方向に移動し、移動距離が把握できる可動装置(可動機構14に相当)に固定した。
釘は、可動装置を用いて、電極体に向けて毎分1mmで移動させた。このとき、検査対象である電極体の集電体と釘との間の電気抵抗を測定した。具体的には、抵抗測定器を用いて、1kHzの交流抵抗を測定した。抵抗測定器の測定結果は、0.1秒間隔で取得した。
被測定物である電極体としては、次のような試料(試料1〜5)を準備した。
試料1および試料2は、活物質層(負極)と絶縁層とを別々に形成する例である。
試料1の活物質層は、黒鉛(負極活材料)、スチレン−ブタジエンゴム(バインダ)、カルボキシメチルセルロースおよび炭素を水(溶媒)と混合して集電体に塗布した後、温風乾燥することで活物質層を形成した。集電体の裏面にも同様に活物質層を形成した後、加圧成形した。試料1の絶縁層は、アルミナ(非導電性粒子)とポリフッ化ビニリデン(バインダ)をN−メチル−2−ピロリドン(溶媒)と混合した絶縁層形成用スラリーを活物質層上に塗布した後に温風乾燥させることで形成した。集電体の裏面にも同様に絶縁層を形成した後、加圧成形した。試料1の絶縁層の厚みをSEMで測定した結果、概ね30μmであった。
試料2は、試料1の絶縁層形成用スラリーの塗布量(単位面積当たりの重量)を減らし、絶縁層の厚みを薄くしたものである。試料2の絶縁層の厚みをSEMで測定した結果、概ね7μmであった。
試料3は、活物質層(負極)と絶縁層を逐次塗布する例である。
試料3の活物質層を形成するためのスラリーは、黒鉛(負極活材料)、ポリフッ化ビニリデン(バインダ)および炭素と、N−メチル−2−ピロリドン(溶媒)とを混合することで調製した。試料3の絶縁層を形成するためのスラリーは、アルミナ(非導電性粒子)とポリフッ化ビニリデン(バインダ)をN−メチル−2−ピロリドン(溶媒)と混合することで調製した。そして、これらのスラリーを逐次塗布し、同時に温風乾燥し活物質層と絶縁層を形成した。集電体の裏面にも同様に活物質層と絶縁層を形成した後、加圧成形することによって負極を形成した。試料3の絶縁層をSEMで測定した結果、概ね28〜34μmであった。
試料4および試料5は、活物質層(正極)と絶縁層とを別々に形成後、同時に加圧成形する例である。
試料4の活物質層は、Li(NiMnCo)O2(正極活材料)、ポリフッ化ビニリデン(バインダ)および炭素をN−メチル−2−ピロリドン(溶媒)と混合して集電体に塗布した後、温風乾燥することで形成させた。集電体の裏面にも同様に活物質層を形成させた。試料1の絶縁層は、アルミナ(非導電性粒子)とポリフッ化ビニリデン(バインダ)をN−メチル−2−ピロリドン(溶媒)と混合したスラリーを塗布し、温風乾燥することで形成させた。裏面にも同様に絶縁層を形成させた。その後、活物質層と絶縁層とを同時に加圧成形した。試料4の絶縁層をSEMで測定した結果、概ね8μmであった。
試料5は、試料4の絶縁層形成用スラリーの塗布量(単位面積当たりの重量)を減らし、絶縁層の厚みを薄くしたものである。試料5の絶縁層の厚みをSEMで測定した結果、概ね4.5μmであった。
以上の5種類の試料(試料1〜5)に関して、複数箇所の厚みを本発明の各実施形態の手法で測定した。
図12は、試料1に関して、本実施例の手法で測定した荷重と抵抗値の測定結果を示すグラフである。
本実施例においては、荷重が増加し始めた時間を0秒とし、抵抗値が下がり始めるまでの時間を取得する。図12の例では、荷重が増加し始めてから6.9秒後までの抵抗値はオーバーレンジを示していたが、7.0秒後に抵抗値が測定された。本実施例においては、0.1秒ごとに測定値を計測したため、6.9秒と7.0秒の中間値である6.95秒に針の先端が活物質層に到達したものとみなした。すなわち、6.95秒の間に針が移動した距離を絶縁層の厚みとみなした。本実施例においては、毎分1mmの移動速度で針を電極体表面に向けて下降させた。すなわち、本実施例においては、試料1の絶縁層の厚みは0.116mm(=6.95/60)と計算された。
同様に、試料1の表面に関して他の箇所を測定した結果、荷重が増加し始めてから電気抵抗値が測定されるまでの時間は6.7秒であった。このとき、試料1の絶縁層の厚みは、0.112mmと計算された。なお、試料1の厚みをSEMで測定した結果は、0.030mmであった。
図13は、試料2に関して、本実施例の手法で測定した荷重と抵抗値の測定結果を示すグラフである。図13から、試料2の絶縁層は2.3秒で貫通されて、絶縁層の厚みは0.038mmと計算された。なお、試料2の厚みをSEMで測定した結果は、0.007mmであった。
その他の試料(試料3〜5)についても、試料1および試料2と同様の手法で絶縁層の厚みを測定した。
図14は、試料1〜5に関して、本実施例の手法で測定した絶縁層の厚みの計算値(横軸)と、SEMによって測定した絶縁層の厚みの代表値(縦軸)とを関連させたグラフである。図14においては、試料1を黒く塗りつぶした円、試料2を白抜きの円、試料3を斜線で塗りつぶした円、試料4を黒く塗りつぶした三角、試料5を白抜きの三角で示す。図14の実線は、負極材料(試料1〜3)に関するプロットを関係付ける曲線である。図14の破線は、正極材料(試料4・5)に関するプロットを関係付ける曲線である。
図14のように、正極活材料(実線)と負極活材料(破線)とで、SEMによる実測値と本実施例の手法による測定値との対応関係に違いが見られる。SEMによる実測値と本実施例の手法による測定値との対応関係の違いは、正極活材料と負極活材料とで加圧成形時の圧力が異なることなどが原因と考えられる。よって、測定試料の形成条件ごとに補正曲線を独立して求めれば、本実施例の手法によって簡易に絶縁層の厚みを予測できる。
なお、本実施例の手法で求められた数値は、SEMの測定値と比較して大きいが、定性的な大小関係や再現性は良好であった。そのため、本実施例の手法によれば、適正な補正条件を設定すれば絶縁層の厚みを比較的精度よく測定できる。
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。